説明

ねじの操作方法及び操作装置

【課題】締付け力が均一でかつ高精度であるボルト等のねじ類の締付け方法、およびそれに用いる装置を提供すること。
【解決手段】ねじの締め付けにおける摩擦力の影響を減少させるために、振動による摩擦力低減効果を利用すること、振動の効果を高めるために振動の共振を利用すること、振動体の振動を妨げないために振動の節で支持することを特徴とするねじ類の締付け方法である。振動は、振動子1が発生させ、それにより振動体2を共振させる。ボルトまたはナットを、共振による振動振幅が極大となる位置12に置いて加振することによって、振動による摩擦低減効果を高めて締付けを行う。レンチを回転させる支持部4を、振動振幅が極小となる位置13にすることによって、振動への妨げを最小にして締付を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ類を締付け、緩める方法、そのための装置に関する。特に、精度良く締付ける方法、およびそれに用いられる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からボルト等のねじは、機械装置、電気装置、化学装置、建物、橋梁等の組み立て等、広い範囲にわたって使用されている。
【0003】
ねじの締付力は、通常はJIS B 1083の「ねじの締付け通則」に規定されている「トルク法」、すなわち締付けトルクで管理するのが一般的である。しかしながら、締付けトルクを一定にしても締付け力のばらつきが大きくなり、締付力管理の信頼性が十分とは言えなかった。その理由は、ねじと非締結物の表面あらさのばらつきのために、表面の付着物や酸化等の変質のために、あるいは締付時に摺動面の接触圧力が不均一となり、摺動面の局所的に接触圧力の高い部分において摺動面が互いに食い込みを生じたり癒着を生じたりして、ねじ頭と座面間の摩擦係数および雄ねじと雌ねじ間の摩擦係数が一本一本異なる値となることによる。
【0004】
ねじの締付け力が適切でないと、ねじに緩みを生じたり、あるいは金属疲労によってねじが折れたりねじ山が潰れたりすることがある。運輸分野や構造物においては、ねじの破損は人命にかかわる重要な問題である。従って、高精度な締付けが実現すれば、機械や構造物の安全性が向上する。また、高精度の締付力が実現すれば、設計において安全係数を低くすることが可能になり、軽量化や生産費用削減が実現できる。
【0005】
摩擦力の影響を減少させる手段として、振動による摩擦力低減効果(非特許文献1)が知られている。また、振動による各種効果を高める手段として、振動の共振を利用する方法(非特許文献1)、及び振動を伝える振動体の断面積を変化させる方法(非特許文献1)が知られている。
【0006】
振動において大きな振幅を得る方法として、振動の共振を利用する方法(非特許文献2)と、振動を伝える振動体において振動の入力端の断面積よりも出力端の断面積を小さくすることによって振動の振幅が拡大する効果を利用する方法(非特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−330342号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本塑性加工学会「超音波応用加工」森北出版、2004年5月20日発行
【非特許文献2】電子情報技術産業協会「超音波工学」コロナ社、1993年1月30日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するものであり、締付け力が均一でかつ高精度であるボルト等のねじ類の締付け若しくは緩めを行う方法、およびそれに用いる装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ねじの締め付けにおける摩擦力の影響を減少させるために、振動による摩擦力低減効果を利用すること、振動の効果を高めるために振動の共振を利用すること、振動体の振動を妨げないために振動の節で支持することを特徴とするねじ類の締付け、緩め方法である。
【0011】
振動は、振動子が発生させ、それにより振動体を共振させる。ボルトまたはナット等といった締結用ねじ部材、或いは、これらによって締結される被締結物を、共振による振動振幅が極大となる位置に置いて加振することによって、振動による摩擦低減効果を高めて締付けを行う。
【0012】
振動体を支持する支持部を、振動振幅が極小となる位置にすることによって、振動への妨げを最小にして締付を行う。
【0013】
ねじに対する振動の方向は、ねじの軸線方向、および軸線と直角方向がある。
【0014】
振動体に対する振動の方向は、振動体の軸線方向、および軸線と直角方向がある。
【0015】
振動は、レンチからボルトの頭を経てねじ摺動部分に伝えられる方式、あるいは、レンチからナットを経てねじ摺動部分に伝えられる方法、あるいは、被締結部材を経てねじ摺動部分に伝えられる方法がある。
【0016】
本発明はまた、
(1)レンチに振動を付与する手段(振動子、振動体)、
(2)支持手段(支持部)、
(3)およびヘッドで締結用ねじ部材に振動を与えつつ、ねじ等を締め付けるため回転可能なレンチとからなるねじの操作装置である。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、振動体の共振及び振動の節で振動体を支持することによって、超音波振動の摩擦低減効果をより高めて、ねじの締付に利用することができる。それによって、ねじの締付における摩擦の影響を大幅に低減することができる。ねじの締付における摩擦の影響を大幅に低減することによって、ねじの締付における摩擦係数のばらつきの影響を大幅に低減することができる。ねじの締付における摩擦係数のばらつきの影響を大幅に低減することによって、摩擦係数のばらつきの影響で軸力のばらつきが生じやすいトルク法締付における軸力のばらつきを大幅に低減することができる。
【0018】
ねじの軸力のばらつきを大幅に低減することによって、ボルト軸力の不均一による被締結物のゆがみを防ぐことができる。また、ボルト軸力を高い値に均一化することが可能になり、ねじの緩みを防いで信頼性を増すことができる。また、より少ない数のボルトで締付を行うことが可能になり、軽量化や生産費用削減が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明に係わるねじの操作装置の一実施形態である、ボルト軸直角方向に振動を加えながら締め付けを行う装置の断面図。
【図2】図1に示した装置の外観図。
【図3】図1に示した装置の詳細な構成図。
【図4】振動体が共振状態にあるときの振動の振幅の分布と、六角レンチの位置、および支持部の位置の関係を示す図。
【図5】この発明に係わるねじの操作装置の一実施形態である、ボルト軸方向に振動を加えながら手動で締め付けを行う装置の構成図。
【図6】この発明に係わるねじの操作装置の一実施形態である、ボルト軸方向に振動を加えながら動力によって締め付けを行う装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
図1〜3は、この発明の一実施形態であるボルト軸直角方向振動を利用したねじ締結レンチの構成図である。ナット3は六角レンチ8に保持されてボルト軸まわりに回転させられる。このとき、振動子1によって発生させた振動を振動体2に伝えて、振動体2を振動させる。このとき、振動体2の長さは予め振動の半波長の整数倍に調整しておき、これによって振動体2を共振させる。振動子1と振動体2は振動子取付ねじ10によって結合される。このとき、摩擦は、おねじとめねじの接触面、およびボルトまたはナットの座面と被締結物の間に生じるので、振動をボルト、ナット、被締結物のいずれに加えても摩擦低減効果が得られる。締め付けトルクはハンドル11から振動体の支持部4を介して振動体2に伝えられ、さらに振動体2に取り付けられている六角レンチ8からナット3へ伝えられてナット3とボルト7が締結される。本実施形態では、支持部4はハンドル11の先端から二股状に分岐して設けられ、振動体2における六角レンチ8等の締付作用部の振動方向(回転軸線と直交する方向)の両側に接続されている。これにより、振動体2を安定かつ高い強度で支持することができる。また、本実施形態では支持部4が締付応力を伝達する経路の一部を構成しているので、両側から締付作用部に締付応力を集中させやすくなるという利点もある。
【0022】
図4は振動体2が共振状態になったときの振動の振幅の分布の例である。共振状態の振動体2には振幅が極大になる振動の腹12と振幅が0になる振動の節13が、振動子取付部5から振動の波長の1/4の距離ごとに交互に現れる。支持部4の位置は振動の節13に合わせることにより、振動を妨げることなく振動体2を支持して締結のためのトルクを加えることができる。六角レンチ取付部6の位置(締付作用部の位置)を振動の腹12に合わせることにより、ナットそれらに加える振動の振幅を最大にすることができるため、振動による接触面の摩擦低減効果を大幅に高めることができる。本実施形態では上述のように一対の支持部4が設けられているので、これらの支持部4の位置は、締付作用部の両側にある振動の節13にそれぞれ設定されている。
【0023】
図5〜6はこの発明の一実施形態であるボルト軸方向振動を利用したねじ締結レンチの構成図である。ナット3、ボルト7、被締結物9は図3と同じものである。ナット3は六角レンチ8に保持されてボルト軸まわりに回転させられる。このとき、振動子1によって発生させた振動を振動体2に伝えて、振動体2を振動させる。このとき、振動体2の長さは予め振動の半波長の整数倍に調整しておき、これによって振動体2を共振させる。このとき、図4と同様に振動体2の端を振動の腹に合わせることにより、ナットに加える振動の振幅を最大にすることができるため、振動による接触面の摩擦低減効果を大幅に高めることができる。
【0024】
図5はボルト軸方向振動を利用したねじ締結レンチのうち、ハンドル11を手で持って締付トルクを加える場合の構成図である。締め付けトルクはハンドル11から振動体の支持部4を介して振動体2に伝えられ、さらに振動体2に取り付けられている六角レンチ8へ伝えられてナット3とボルト7が締結される。支持部4の位置は振動の節に合わせることにより、振動を妨げることなく振動体2を支持して締結のためのトルクを加えることができる。本実施形態では、支持部4はハンドル11の先端から二股状に分岐して設けられ、振動体2における六角レンチ8等の締付作用部の回転軸線の方向に離間した二箇所に接続されている。これにより、振動体2を安定かつ高い強度で支持することができる。また、本実施形態では支持部4が締付時の回転軸線に沿って配列されているので、回転軸線の方向を締結用ねじ部材に整合させやすくなり、また、整合させた回転軸線を保持しやすくなる。
【0025】
図6はボルト軸方向振動を利用したねじ締結レンチのうち、モーター16などの動力によって締付トルクを加える場合の構成図である。支持部4は軸受14等によって支持され、振動体2が軸方向及び軸直角方向に移動しないようにしながら、振動体2をボルト軸まわりに回転可能な状態にする。締め付けトルクはモーター16から軸継手15を介して振動子1に伝えられ、それに取り付けられている振動体2から六角レンチ8へ伝えられてナットとボルトが締結される。本実施形態の場合、支持部4は軸受14を介して図示しないハウジングやハンドルに対して軸支され、これらのハウジングやハンドルを保持することで締付作業を行うことができる。本実施形態では、支持部4は振動体2における六角レンチ8等の締付作用部の回転軸線の方向に離間した二箇所に接続されている。これにより、振動体2を安定かつ高い強度で支持することができる。また、本実施形態では支持部4が締付時の回転軸線に沿って配列されているので、回転軸線の方向を締結用ねじ部材に整合させやすくなり、また、整合させた回転軸線を保持しやすくなる。
【0026】
尚、本発明の方法及び装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記各実施形態はいずれも振動方向に二箇所の支持部4を設けて支持安定性、工具強度、作業容易性などを向上させているが、支持部4の数は特に限定されず、1又は3以上であってもよく、また、複数の支持部の配列方向は振動方向と交差する方向であってもよい。また、上記実施形態ではねじを締結する方法及び装置について説明したが、本発明はねじを緩める場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1:振動子、2:振動体、3:ナット、4:(振動体の)支持部、5:(振動体の)振動子取付部、6:(振動体の)六角レンチ取付部、7:ボルト、8:六角レンチ、9:被締結物、10:振動子取付ねじ、11:ハンドル、12:振動の腹、13:振動の節、14:軸受、15:軸継手、16:モーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結用ねじ部材と被締結物のいずれかを、振動子により振動する振動体の共振による振動振幅が極大となる位置に接触させて加振しながら、締付け若しくは緩めを行うねじの操作方法であって、前記振動体を振動振幅が極小となる位置で支持した状態で締付け若しくは緩めを行うことを特徴とするねじの操作方法。
【請求項2】
締結用ねじ部材と被締結物のいずれかを、振動子により振動する振動体の共振による振動振幅が極大となる位置に接触させて加振しながら、締付けが可能な構造を備え、前記振動体を支持する支持部を、振動振幅が極小となる位置に設けることを特徴とするねじの操作装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−206177(P2012−206177A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71327(P2011−71327)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】