説明

ねじ締め装置およびねじ締め方法

【課題】 可搬重量の小さいロボットによるねじ締め装置およびねじ締め方法を提供する。
【解決手段】
6軸を有する垂直多関節ロボット1と、垂直多関節ロボット1の先端回転軸となるロボット第6軸先端に取り付けるフランジ2と、ビットホルダ3を介してこのフランジ2に取り付けられるビット4と、を備え、ゲイン制御を行いながら先端回転軸を回転させることにより、ねじ締めを行なうようにした。
ねじ締め始め時においては、ビット押し付け力が大きいと、ねじがかじる不具合があるため、ねじ締め始め時はねじが進行していく程度の小さな押し付け力になるようにZ軸ゲインG1を調整する。一方、トルクアップ時においては、ビットの押し付け力が小さいと、ビットがねじ溝から外れてねじをなめてしまうため、ねじ締め始め時よりも大きな押し付け力になるようにZ軸ゲインG2を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ねじ締め装置およびねじ締め方法に関し、特に産業用ロボットの先端回転軸を利用したねじ締め装置およびねじ締め方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットは、工場の現場において、運搬、溶接、塗装、機械部品の組み立てなど各種の作業に使用されている。また、組み立て作業においては、一方の部品の指定位置に他の部品を設置する作業の他に、ねじの締結によって機械部品を他の装置に固定するねじ締め作業に産業用ロボットを利用したものがある。
産業用ロボットを使用したねじ締め作業は、特許文献1に記載のように、一般に電動ドライバあるいはエアードライバ等のドライバをロボットやその他の駆動機構に取り付けたねじ締め装置で行われている(例えば、段落0001参照)。
【0003】
また、特許文献2には、ねじ締付モータと、トルクセンサーと、ボールスプラインと、ビット(ドライバ)と、ねじを保持し得るジョーと、ねじ圧送手段と、押付けシリンダとからなる、ねじ締め操作をする機構を位置的に制御する手段として多関節ロボットに取り付けたねじ締め装置の記載がある(例えば、図3参照)。
【0004】
また、特許文献3には、自動組立に用いるロボットに装着されるRCC(Remote Center Compliance;リモート・センター・コンプライアンス)機構部内部にねじ締め用駆動モータ部を配置したロボットハンド装置の記載がある(例えば、段落0017参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−261723公報
【特許文献2】特開平8−336732号公報
【特許文献3】特開平8−052682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、特許文献2は、ねじ締付け装置のねじ締付け操作の位置制御する手段としてロボットを使用したもので、ねじ締め専用機構が大きく、省スペース化を図ることは困難であるという問題点があった。また、ねじ締め機構の重量が重いため、可搬重量の小さいロボットには適用できないという問題点もあった。
【0007】
また、特許文献3では、自動組立に用いるロボットに装着されるRCC機構部内部にねじ締め用駆動モータ部を配置しているので、RCC機構部外部にねじ締め用駆動モータ部を配置して各々を連結する場合よりも、ロボットハンド部の全長を短くすることができるという効果がある。しかしながら、特許文献3においては、ばねを用いたクッション機構によってビットの押し付け力を発生させているので、ビットの押し付け力の調整が困難であるという問題点があった。
【0008】
この発明は、かかる問題点を解決するためになされたもので、ねじ締め専用機構を取り付けることなく、ロボットの先端回転軸を使用してビットを回転させ、ねじ締めするようにしたことにより、可搬重量の小さいロボットによるねじ締め装置およびねじ締め方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るねじ締め装置は、先端回転軸を有するロボットと、この先端回転軸に取り付けるフランジと、ビットホルダを介してこのフランジに取り付けられるビットと、を備え、ゲイン制御を行いながら前記先端回転軸を回転させることにより、ねじ締めを行うようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ロボットの先端回転軸を使用してビットを回転させ、ねじ締めするようにしたことにより、可搬重量の小さいロボットによるねじ締めが可能となるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットの構成を示す図である。
【図2】実施の形態1に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットの直交座標系を示す図である。
【図3】実施の形態1に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットにおけるZ軸ゲインとビット押し付け力の関係を示す図である。
【図4】実施の形態1に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットを使用して、ねじ締め作業を実行するときの動作フローチャートである。
【図5】実施の形態2に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、この発明に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットを使用した、ねじ締め作業の好適な実施の形態を説明する。なお、これらの実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットの構成を示す図である。図において、1は6軸を有する垂直多関節ロボット、2は垂直多関節ロボット1の先端回転軸となるロボット第6軸先端に取り付けるフランジ、3はビットホルダである。また、4はビットホルダ3を介してフランジ2に取り付けられるビットで、図では吸着機構がなくとも、ねじの取出しが可能となる磁化ビットの例を示した。
【0014】
実施の形態1に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットは、6軸を有する垂直多関節ロボット1と、垂直多関節ロボット1の先端回転軸となるロボット第6軸先端に取り付けるフランジ2と、ビットホルダ3を介してこのフランジ2に取り付けられるビット4と、を備え、ゲイン制御を行いながら先端回転軸を回転させることにより、ねじ締めを行なうようにしたものである。
【0015】
実施の形態1に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットは、ロボット先端にねじ締め用の回転軸を追加することなく、ロボット本体の構成要素である先端回転軸を用いて、磁化ビット4を取り付けた第6軸ロボット先端のフランジ2を回転させることにより、ねじ締めを行なうようにしたものである。
また、実施の形態1においては、第6軸ロボット先端フランジ2と磁化ビット4の間には電気配線およびエアー配管がない構成としたので、第6軸ロボット先端フランジ2は360度以上自由に回転可能となる。
【0016】
実施の形態1に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットは、ねじ締め専用機構を取り付けることなく、ロボットの先端回転軸を使用してビットを回転させ、ねじ締めするようにしたことにより、可搬重量の小さいロボットによるねじ締め装置が可能となる。
【0017】
なお、実施の形態1においては、垂直多関節ロボットを用いた例を説明したが、先端に回転軸を有するロボットであれば、垂直多関節ロボットでなくとも良い。
【0018】
図2は、実施の形態1に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットの直交座標系を示す図である。図において、2、3、4は、図1と同様であり、その説明を省略する。図では、ねじ回転軸方向であるロボット先端のフランジ鉛直下向きをZ軸方向とする。
【0019】
図3は、実施の形態1に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットにおけるZ軸ゲインとビット押し付け力の関係を示す図である。
図において、G1はねじ締め始め時のZ軸ゲイン、G2はトルクアップ時のZ軸ゲインである。ねじ締め始め時においては、ビット押し付け力が大きいと、ねじがかじる不具合があるため、ねじ締め始め時はねじが進行していく程度の小さな押し付け力になるようにZ軸ゲインG1を調整する。一方、トルクアップ時においては、ビットの押し付け力が小さいと、ビットがねじ溝から外れてねじをなめてしまうため、ねじ締め始め時よりも大きな押し付け力になるようにZ軸ゲインG2を調整する。
Z軸ゲインG1およびZ軸ゲインG2の値は、対象のねじの種類と長さ対応で予めオフライン作業によって実験的に最適値を求め、設定しておく。
【0020】
また、t1はタイマー設定値で、トルクアップ時のZ軸ゲインへの切り替えタイミングをねじ締め始めからの経過時間によって決定するものである。ねじの着座前にZ軸ゲインを切り替えるように、タイマーt1の値は、対象のねじの種類と長さ対応で予めオフライン作業によって実験的に最適値を求め、設定しておく。
【0021】
また、T1は先端回転軸となるロボット第6軸のトルク制限値である。ねじ締めトルクは先端回転軸の出力トルクで与えられるため、対象のねじ締めにおける規定ねじ締めトルクとなるように、対象のねじの種類と長さ対応で予めオフライン作業によって実験的に最適値を求め、設定しておく。
【0022】
図4は、実施の形態1に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットを使用して、ねじ締め作業を実行するときの動作フローチャートである。
【0023】
この発明に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットを使用した、ねじ締め作業について、図1〜図4により説明する。なお、後述の位置制御モードおよびゲイン制御モードなどの制御は、ロボットコントローラ(図示せず)によって行う。
【0024】
(1)位置制御モードにより、ねじを保持した磁化ビット4を、ねじ穴上空まで移動する。(ステップST1)
(2)位置制御モードからゲイン制御モードに移行する。(ステップST2)
(3)Z軸ゲインをねじ締め始め時のZ軸ゲインG1に設定する。(ステップST3)
実施の形態1に係るねじ締め方法においては、ゲイン制御モードによりZ軸ゲインを制御し、Z軸方向にバネ性を持たせてビットの押し付け力を制御する。
【0025】
(4)磁化ビット4をねじ穴まで移動する。(ステップST4)
(5)先端回転軸となるロボット第6軸のトルク制限値をT1に設定する。(ステップST5)
(6)先端回転軸となるロボット第6軸を回転する。(ステップST6)
【0026】
(7)先端回転軸となるロボット第6軸の回転開始後、タイマーのカウントを開始し(ステップST7)、タイマーのカウントがタイマー設定値t1になるまでカウントする。(ステップST8)
(8)タイマーのカウントがタイマー設定値t1に達した時点で、ビットの押し付け力を切り替えるために、Z軸ゲインをねじ締め始め時のZ軸ゲインG1からトルクアップ時のZ軸ゲインG2に切り替える。(ステップST9)
(9)先端回転軸となるロボット第6軸のトルクをチェックし(ステップST10)、トルク制限値T1に達するまでねじ締めを継続する。(ステップST11)
(10)先端回転軸となるロボット第6軸のトルクがトルク制限値T1に達した時点でねじ締めを終了する。(ステップST12)
(11)位置制御モードにより、磁化ビット4を、退避位置へ移動し(ステップST13)、ねじ締め作業を終了する。
【0027】
ねじ締め始め時のZ軸ゲインG1、トルクアップ時のZ軸ゲインG2、トルクアップ時のZ軸ゲインへの切り替えタイミングをねじ締め始めからの経過時間によって決定するタイマー設定値t1、規定ねじ締めトルクとしての先端回転軸となるロボット第6軸のトルク制限値T1などを、対象のねじの種類と長さ対応で予めオフライン作業によって実験的に最適値を求め、設定しておくようにしたので、ねじ締めを正確かつ確実に行うことができる。
【0028】
上記のように、ねじ締め専用機構を取り付けることなく、ロボットの先端回転軸を使用してビットを回転させ、ねじ締めするようにしたこと、さらに専用のクッション機構を使用せず、ロボットのゲイン制御によりビットの押し付け力を制御するようにしたので、ロボット先端に取り付ける部品点数は少なく、且つ軽量であるため可搬重量の小さい小型ロボットにも適用できる。
【0029】
また、上記では、対象のねじの種類と長さ対応で予めオフライン作業によって実験的に最適値を求め、設定しておく例を説明したが、締結対象物が替わる場合には、締結対象物対応で最適値を求め、設定しておくようにする。
【0030】
実施の形態2.
図5は、実施の形態2に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットの構成を示す図である。図において、1、2、3、4は、図1と同様であり、その説明を省略する。
図において、21はエアー伝達用のロータリージョイント、22はエアーチャックである。実施の形態2に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットは、多関節ロボット1の第6軸ロボット先端に取り付けるフランジ2と、ビットホルダ3との間に、ロータリージョイント21とエアーチャック22を配置したものである。
【0031】
実施の形態2においては、ロータリージョイント21によってエアーチャック22のエアー配管は自在に回転可能となる。
また、エアーチャック22にビットホルダ3を把持させてねじ締めを行なうため、磁化ビット4を取り付けたビットホルダ3は着脱自在である。従って、エアーチャックによって他の部品を把持して搬送するなどねじ締め以外の作業をも行なうことができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明に係るねじ締め機能搭載の垂直多関節ロボットは、重量の重いねじ締め専用機構が不要となるため、可搬重量の小さなロボットでもねじ締めが可能となる。
【符号の説明】
【0033】
1 6軸を有する垂直多関節ロボット
2 多関節ロボット1の第6軸ロボット先端に取り付けるフランジ
3 ビットホルダ
4 磁化ビット
21 エアー伝達用のロータリージョイント
22 エアーチャック
T1 先端回転軸となるロボット第6軸のトルク制限値
G1 ねじ締め始め時のZ軸ゲイン
G2 トルクアップ時のZ軸ゲイン
t1 タイマー設定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端回転軸を有するロボットと、
この先端回転軸に取り付けるフランジと、
ビットホルダを介してこのフランジに取り付けられるビットと、を備え、
ゲイン制御を行いながら前記先端回転軸を回転させることにより、ねじ締めを行なうようにしたことを特徴とするねじ締め装置。
【請求項2】
前記フランジと前記ビットホルダとの間に、
エアー伝達用のロータリージョイントと、エアーチャックと、を備えたことを特徴とする請求項1記載のねじ締め装置。
【請求項3】
前記ゲイン制御は、ねじ締め始め時のゲインとトルクアップ時のゲインとを切り替えて制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のねじ締め装置。
【請求項4】
先端回転軸を有するロボットと、
この先端回転軸に取り付けるフランジと、
ビットホルダを介してこのフランジに取り付けられるビットと、を備え、
ねじを保持した前記ビットをねじ穴上空まで移動する段階と、
ゲイン制御モードにより、ねじ締め始め時のゲインに基づきZ軸ゲインを制御し、Z軸方向にバネ性を持たせて前記ビットの押し付け力を制御する段階と、
前記ビットをねじ穴まで移動する段階と、
前記先端回転軸を回転する段階と、
前記先端回転軸の回転開始後、タイマー設定値に達した時点で、前記Z軸ゲインをトルクアップ時のゲインに切り替える段階と、
前記先端回転軸のトルクがトルク制限値に達した時点で、ねじ締めを終了する段階と、
前記ビットを退避位置へ移動する段階と、
からなることを特徴とするねじ締め方法。
【請求項5】
前記ねじの締め始め時のゲイン、前記トルクアップ時のゲイン、前記タイマー設定値、前記先端回転軸のトルク制限値などを、対象のねじの種類と長さ対応で予めオフライン作業によって実験的に最適値を求め、設定しておくようにしたことを特徴とする請求項4記載のねじ締め方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−31900(P2013−31900A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168987(P2011−168987)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】