説明

はんだこて

【課題】こて先の侵食を抑え、高寿命のはんだこてを提供する。
【解決手段】本発明に係るはんだこては、こて先表面に、炭素材が混入した複合めっき皮膜が形成されていることを特徴とする。炭素材としてCNTを好適に用いることができる。また、複合めっき皮膜としてNi−CNT複合めっき皮膜が好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ付けに使用されるはんだこてに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器実装では、大量生産に対応するため自動はんだ付け装置が多く使用されている。しかし、手作業によるはんだ付け(マニュアルソルダリング)も、修正や耐熱性のない部品のはんだ付けなどでは必須の技術である。マニュアルソルダリングに使用されるはんだこてのこて先は、高精度のはんだ付けを実現するために、良好な伝熱特性、はんだへのぬれ、耐熱性、耐侵食性といった特性が要求される。
【0003】
まず、はんだこてのこて先は、はんだを溶融させるために、熱源の熱を確実にはんだ付け部分に伝える必要がある。このため、伝熱特性を確保するために、一般的には銅を母材(芯材)とするものが多い。ただし、銅に直接はんだを接触させると、銅がはんだに侵食され、こて先形状が変わってしまい、はんだこてとしては使用できない。
【0004】
このため、耐侵食特性を確保するために、銅の母材にニッケルメッキや鉄メッキを施す例が多い。こて先の最表面に鉄めっきを使用する例は多いが、鉄めっきの場合、はんだとのぬれ性が悪くなることが知られている。この結果として、はんだ付け作業効率が悪くなることも知られている。特許文献1(特許公開2000−317629)は、はんだ付けの作業効率を上げることを目的とし、ぬれ性を確保するために、鉄―ニッケルめっきを施したこて先である。また、特許文献2(特許公開2005−125349)は、銅の母材の侵食を遅くするためにニッケルめっきを施すことを特徴としたこて先である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許公開2000−317629
【特許文献2】特許公開2005−125349
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、昨今の環境問題から、はんだ付け実装で使用するはんだは鉛フリーはんだが一般的になってきている。鉛フリーはんだを用いたはんだ付けに変わることで、はんだの融点が約30℃上昇し、はんだ付けを行う温度も上昇することになる。自動はんだ付け装置については、加熱方法の改善などで鉛フリーはんだを使用する場合の対応がほとんど終わっている。
しかし、マニュアルソルダリングについては、はんだこてのこて先の消耗の問題が解決していない。現状のままのこて先を使用し鉛フリーはんだではんだ付けを行う場合、こて先の侵食が大きいことが知られている。
【0007】
こて先の一般的な侵食のメカニズムは次のとおりである。
まず、こて先にはんだが供給されると、こて先最表面のめっき金属とはんだ中の錫が反応し、金属間化合物を作る。その後、はんだが電子基板に供給され、こて先からは、はんだが除去される。この際にも金属間化合物は一部除去されると考えられる。続いてはんだが供給される場合、はんだこてには、固体の冷たいはんだが供給され、はんだこての熱により、はんだが溶融する。この際の急激な温度変化により、熱的な膨張/収縮、溶融はんだの強制対流などが発生し、金属間化合物がはんだ中に拡散する。この後、金属間化合物が拡散したはんだが、電子基板に供給され、徐々にはんだこてを侵食する。このように、こて先の侵食が発生すると考えられる。
【0008】
はんだが鉛フリーはんだに変わることで、はんだの融点が高くなるため、こて先の設定温度が高くなる。温度が高くなると、はんだ中の錫とこて先最表面のめっき金属との間に金属間化合物の成長速度が速くなり、結果として、こて先の侵食が速くなる。また、鉛フリーはんだは錫の含有量が従来の共晶はんだ(Sn-37Pb)よりも高いため、こて先のめっき金属とはんだ中の錫が反応しやすくなることになり、さらに、侵食が大きくなる。現状、この問題に対応するための方策としては、めっき厚さを厚くする対応しか実施しておらず、根本的な対策はされていない。なお、めっき厚さを厚くすると、こて先への熱伝導が悪くなり、はんだ付け作業効率が悪くなるという問題もある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、こて先の侵食を抑え、高寿命のはんだこてを提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るはんだこては、こて先表面に、炭素材が混入した複合めっき皮膜が形成されていることを特徴とする。
炭素材としてCNTを好適に用いることができる。
また、複合めっき皮膜としてNi−CNT複合めっき皮膜やFe−CNT複合めっき皮膜が好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、こて先の侵食が抑えられ、高寿命のはんだこてを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】Ni−CNTめっき液により、攪拌下、2A/dmの電流密度で電解めっきした場合のめっき皮膜表面のSEM写真を示す。
【図2】図1の拡大図である。
【図3】Fe−CNTめっき液により、攪拌下、1A/dmの電流密度で電解めっきした場合のめっき皮膜表面のSEM写真を示す。
【図4】めっき皮膜のはんだ濡れ試験結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
本実施の形態に係るはんだこては、上記のように、こて先表面に、炭素材が混入した複合めっき皮膜が形成されていることを特徴とする。
複合めっき皮膜における炭素材としては、カーボンナノチューブ(CNT)が好適であるが、CNTには限定されず、例えば合成ダイヤモンド粒、ピッチ系等よりなるカーボンファイバー、グラファイトなども好適である。特に、はんだこては350℃程度まで加熱されることから、耐熱性の点からは合成ダイヤモンド粒も好適である。
また、複合めっき金属としては、Fe、Fe−Ni、Ni、Co等が好適である。
【0014】
次に、炭素材としてCNT、めっき金属としてNiを用いた場合を説明する。
Ni−CNT複合めっき液の一例を以下に示す。
NiSO・6HO 1M
NiCl・6HO 0.2M
HBO 0.5M
PA5000 2×10−4M
CNT 2g/l
(なお、PA5000は、分子量5000のポリアクリル酸)
【0015】
上記めっき液を用いて、撹拌下、2A/dmの電流密度で電解めっきした場合のめっき皮膜表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真をそれぞれ図1(a)、(a´)、図1(b)、(b´)、図1(c)、(c´)に示す(なおa、b、cは500倍、a´、b´、c´は5000倍)。また図2は図1(c´)のさらなる拡大図である。
図1(a)、(a´)から明らかなように、Niめっき皮膜の表面は比較的荒れているが、図1(b)、(b´)に示されるように、ポリアクリル酸を添加することによって表面の平滑性が生じ、光沢めっき皮膜が得られた。ポリアクリル酸はCNTの分散剤として作用すると共に、光沢剤としても作用する。図1(c)、(c´)から明らかなように、CNTはNiめっき皮膜中に取り込まれ、一部がNiめっき皮膜表面から突出している。この突出部にNiめっき金属が粒状に付着している。特に図1(c´)、図2から明らかなように、Niめっき金属はCNT表面に粒状に成長し、CNTを覆い、やがて、粒状のめっき金属が連続し、CNTがNiめっき皮膜中に取り込まれる状態となるのである。
【0016】
次に、炭素材としてCNT、めっき金属としてFeを用いた場合を説明する。
Fe−CNT複合めっき液の一例を以下に示す。
FeCl・4HO 300 g/l
HCl 1.6ml
サッカリンナトリウム2水和物 2.4 g/l
PA5000 0.1 g/l
CNT(VGCF) 2g/l
(なお、PA5000は、分子量5000のポリアクリル酸)
【0017】
上記めっき液を用いて、温度55℃、撹拌下(水素によるバブリング)、1A/dmの電流密度で電解めっきした場合のめっき皮膜表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図3(a)(低倍率)および図3(b)(高倍率)に示す。なお、陽極に純鉄板を、陰極に銅板またはこて先(銅)を用いた。
図3から明らかなように、CNTはFeめっき皮膜中に取り込まれ、一部がFeめっき皮膜表面から突出している。この突出部にFeめっき金属が粒状に付着している。Feめっき金属はCNT表面に粒状に成長し、CNTを覆い、やがて、粒状のめっき金属が連続し、CNTがFeめっき皮膜中に取り込まれる状態となるのである。
【0018】
図4ははんだ濡れ試験の結果を示す。
Niめっきを施したサンプルと、Ni−CNT複合めっき、Feめっきを施したサンプルと、Fe−CNT複合めっきを施したサンプルとを3組用意し、各組のサンプルをそれぞれ250℃、300℃、350℃に加熱し(ホットプレート上に載置)、フラックス入りはんだ(0.3g)を各サンプル表面に供給し、溶融させて、30秒後、はんだの濡れ拡がりを観察した。
図4から明らかなように、各温度とも、Feめっき板よりもNiめっき板の方が、はんだの広がりが小さく、FeおよびNi−CNT複合めっき板におけるはんだの濡れ性はほとんど変わらず、FeやNiめっき板よりもはんだの広がりが低いことがわかる。
【0019】
はんだこてとして、適宜なはんだの濡れ性が必要である。はんだの濡れ性が極めて大きいと、はんだがこて先に広く付着し、はんだ付け対象物への移行がしにくくなる。また、こて先に広く付着することから、広い面積で金属間化合物が生成しやすくなり、それだけこて先が侵食されやすくなるといえる。
一方、あまりにもはんだの濡れ性が低いと、はんだがこて先に付着しにくかったり、こて先から脱落するおそれがある。
【0020】
CNTそのものがはんだとの濡れ性が低いことから、Fe−CNT複合めっき皮膜およびNi−CNT複合めっき皮膜とした場合に、Feめっき皮膜およびNiめっき皮膜と比較すると、当然にはんだとの濡れ性が低くなる。図4からわかるように、Fe−CNT複合めっき皮膜およびNi−CNT複合めっき皮膜上にはんだを盛った場合に、周辺がはじかれる状態となり、濡れ面積が小さくなる。これにより、はんだこてとした場合に、こて先の浸食の度合いを低く抑えることができる。また、はんだが半球状に盛り上がることから、はんだのはんだ付け対象物への移行は容易である。
はんだの濡れ性は、めっき金属の選択やめっき金属へのCNTの混入量等により調整できる。めっき金属へのCNTの混入量は、めっき液へのCNTの添加量、めっき条件等によって調整可能である。めっき金属へのCNTの混入量が多くなるほど、はんだの濡れ性は低くなる。
【0021】
次に、こて先にNiめっきのみを施したはんだこてと、Ni−CNT複合めっきを施したはんだこてとの、こて先の侵食試験を行った。
こて先のめっき:Ni(100μm)、Ni−CNT(100μm)
こて先の下地:Cu
こて先温度:350℃
1回あたりのフラックス入りはんだ供給量:3mm
使用フラックス入りはんだ:エコソルダーRMA02 SUPER M705 φ0.6
フラックス入りはんだ供給回数:100ショット
1回のサイクル時間(はんだ供給→エアブロー):2sec
結果:Ni−CNT複合めっきを施したこて先の侵食量は、Niめっきを施したこて先の侵食量の50%以下となり、侵食特性が改善した。
こて先侵食量:Niめっき;25.4μm/100ショット、Ni−CNT複合めっき;11.0μm/100ショット。
【0022】
また、こて先にFeめっきのみを施したはんだこてと、Fe−CNT複合めっきを施したはんだこてとの、こて先の侵食試験を行った。
こて先のめっき:Fe(100μm)、Fe−CNT(100μm)
こて先の下地:Cu
こて先温度:350℃
1回あたりのフラックス入りはんだ供給量:3mm
使用フラックス入りはんだ:エコソルダーRMA02 SUPER M705 φ0.6
フラックス入りはんだ供給回数:2000ショット
1回のサイクル時間(はんだ供給→エアブロー):2sec
結果:Fe−CNT複合めっきを施したこて先の侵食量は、Feめっきを施したこて先の侵食量の50%以下となり、侵食特性が改善した。
こて先侵食量:Feめっき;1.91μm/100ショット、Fe−CNT複合めっき;0.72μm/100ショット。
【0023】
上記のように加熱したこて先に一定量のヤニ(フラックス)入りはんだを供給し、めっき皮膜上ではんだを溶融させ、その後、エアーブローではんだを離脱させる。めっき皮膜上のはんだが接触した場所では、極微量であるがはんだ中にめっき成分が溶け出し、侵食が発生する。はんだの供給、離脱が繰り返されることで、侵食が進行する。めっきの種類によって侵食量が異なるので、一定回数(100回)はんだを供給し、その後、断面観察によって、侵食量を計測した。侵食試験を実施したこて先の断面についてSEM観察を実施した。観察の結果、こて先先端に比較的厚い(100μm)めっき皮膜が形成されていた。 侵食が起こっていない部位については、先端以外の3点の厚さの平均を初期厚さとし、初期厚さから侵食部分の厚さを引いたものを侵食量とした。
【0024】
表1に、Niめっき皮膜、Ni−CNT複合めっき皮膜、Feめっき皮膜、Fe−CNT複合めっき皮膜の、室温時、高温時における摩擦摩耗試験結果を示す。通常、高温時の動摩擦係数は室温時のそれよりも大きくなるが、Ni−CNT複合めっき皮膜、Fe−CNT複合めっき皮膜の場合、単体のめっき皮膜の場合に比べて、高温時における動摩擦係数が、室温時のものに比してそれほど大きくならず、はんだ付けの高温時においても耐摩耗性に優れていることがわかる。また、摺動性もよいので、操作性もよい。
【0025】
【表1】

【0026】
本実施の形態における最大の特徴は、こて先の侵食を抑えるために、従来こて先の最表面に使用していためっき(鉄やニッケルの合金)方法を変更し、複合めっきによりカーボンナノチューブを固定化したことである。カーボンナノチューブは、熱伝導性が高く、耐摩耗性も優れることが知られている。これを複合めっきによって、こて先表面に固定する。これによって、良好な熱伝導特性、耐摩耗性が発揮される。
【0027】
そして、本実施の形態においては、こて先にはんだが供給された場合の金属間化合物成長の際に、CNTが存在するため、金属間化合物の成長が抑制されると考えられる。また、通常のめっきの場合は、はんだ除去の際に金属間化合物も除去されるが、CNTが存在する場合、金属間化合物とCNTが絡み合うことから、金属間化合物の除去が抑制されることが期待され、結果として、こて先の侵食が少なくなることが期待される。この結果、こて先の最表面に侵食されにくい複合めっきを使用することで、侵食を抑えることが可能である。
【0028】
また、こて先は、はんだ供給時に温度が下がるが、その温度低下が少ない方が望ましい。この観点からもCNT複合めっきの場合、めっき単体よりも熱伝導性が良好になり、はんだ付け時の温度低下が少なくなる。
さらに、めっき金属を変えることで様々な特性を持つこて先を実現することができる。すなわち、ぬれ性を改善するためには、たとえば、CuやNiをめっき金属とし、また、耐摩耗性を改善する場合は、たとえば、Feをめっき金属とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
はんだこてにおいて、
こて先表面に、炭素材が混入した複合めっき皮膜が形成されていることを特徴とするはんだこて。
【請求項2】
炭素材がCNTであることを特徴とする請求項1記載のはんだこて。
【請求項3】
複合めっき皮膜がNi−CNT複合めっき皮膜であることを特徴とする請求項2記載のはんだこて。
【請求項4】
複合めっき皮膜がFe−CNT複合めっき皮膜であることを特徴とする請求項2記載のはんだこて。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−101898(P2011−101898A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50380(P2010−50380)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年2月2日 社団法人溶接学会発行の「第16回エレクトロニクスにおけるマイクロ接合・実装技術シンポジウム論文集,vol.16,2010」に発表
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(591020663)長野沖電気株式会社 (9)