説明

ばね式ちょう架装置

【課題】 構造が簡単で、製造コストを低減したばね式ちょう架装置を提供する。
【解決手段】 ばね式ちょう架装置において、板または棒状のちょう架本体1を備え、このちょう架本体1の外側に膨出部としての円弧状部2を形成して、この円弧状部2にばね弾性を持たせることにより、ちょう架点における硬点の解消を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気鉄道の架空電車線においてトロリ線又は補助ちょう架線をちょう架するばね式ちょう架装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大都市圏において、設備の簡素化、メンテナンス性の向上を目指して、き電線とちょう架線を兼ねたいわゆるき電ちょう架式電車線を採用する例が増えている。
【0003】
図6は従来のき電ちょう架式電車線を有する電気鉄道の軌道を示す図面代用の写真、図7は従来の電気鉄道のトロリ線をちょう架するちょう架装置(ハンガ)を示す図面代用の写真である。
【0004】
これらの図において、100はトロリ線をちょう架するちょう架装置(ハンガ)、101はちょう架本体、102はちょう架線、103は保護カバー、104はちょう架されるトロリ線、105はトロリ線の把持部材である。なお、これらの図においては、ちょう架線は2本で構成されているが、1本で構成される場合もある。以下の図においてはちょう架線を1本で示す。
【0005】
かかるき電ちょう架式電車線では、パンタグラフの離線に伴うトロリ線の局部摩耗が問題となる場合が多い。原因の一つとして、ちょう架線の機械インピーダンスがトロリ線のそれに比べて大きいため、ハンガ取付点によるトロリ線波動の反射係数が高く、いわゆる硬点度合が大きいことが挙げられる。
【0006】
このようなき電ちょう架式電車線のハンガ取付点における硬点の解消を図るため、ハンガに弾性を有するゴム弾性体を有する防振型トロリ線ハンガ(下記特許文献1参照)が提案されている。
【特許文献1】特許第3332815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した防振型トロリ線ハンガは、ハンガバーの湾曲部に別体のゴム弾性体を取り付けるようにしている。したがって、構成部品が増加するとともに、その製造コストも高く、全てのハンガに採用するには工事経費が増大するといった問題があった。
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みて、構造が簡単で、製造コストを低減したばね式ちょう架装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕ばね式ちょう架装置において、板または棒状のちょう架本体を備え、このちょう架本体の外側に膨出部を形成して、この膨出部にばね弾性を持たせることにより、ちょう架点における硬点の解消を図ることを特徴とする。
【0010】
〔2〕上記〔1〕記載のばね式ちょう架装置において、前記膨出部が円弧状部であることを特徴とする。
【0011】
〔3〕上記〔1〕記載のばね式ちょう架装置において、前記膨出部が三角形状部であることを特徴とする。
【0012】
〔4〕上記〔3〕記載のばね式ちょう架装置において、前記膨出部が複数個連なる波形状部からなることを特徴とする。
【0013】
〔5〕上記〔1〕から〔4〕の何れか一項記載のばね式ちょう架装置において、前記ちょう架本体に制振部材を付加することにより、ちょう架装置自体の振動またはちょう架される線の波動の低減を図ることを特徴とする。
【0014】
〔6〕上記〔5〕記載のばね式ちょう架装置において、前記ちょう架される線がトロリ線又は補助ちょう架線であることを特徴とする。
【0015】
ここで、ちょう架装置とは、トロリ線又は補助ちょう架線をちょう架するハンガやドロッパと呼ばれるものをも含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、構造が簡単で、製造コストを低減したばね式ちょう架装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のばね式ちょう架装置は、板または棒状のちょう架本体を備え、このちょう架本体の外側に膨出部を形成して、この膨出部にばね弾性を持たせることにより、ちょう架点における硬点の解消を図る。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は本発明の第1実施例を示すばね式ちょう架装置の構成図であり、図1(a)はその正面図、図1(b)はその側面図である。
【0020】
これらの図において、1はステンレスバーからなり、このステンレスバーを対称になるように折り返して対向させてなるちょう架本体、2はこのちょう架本体1に形成された膨出部としての円弧状部(円環状部)である。3はちょう架装置自体の振動またはちょう架される線の波動の低減を図る制振部材としての防振ゴム具、4はちょう架線、5はちょう架線4の保護カバー、6はちょう架される線としてのトロリ線、7はトロリ線6の把持部材である。
【0021】
このように、ステンレスバーからなり、このステンレスバーを対称になるように折り返して対向させてなるちょう架本体1の中間に膨出部としての円弧状部2を形成し、軸力方向の作用力の大きさに対して、円弧状部2が変位することによりばね弾性を付与する。
【0022】
円弧状部2の上下に力が作用した場合の力と変形量との比、すなわち等価ばね定数は、円環と仮定した場合k=EI/(0.149×r3 )で与えられる。ただし、EIはちょう架本体の曲げ剛性、rは円環半径である。
【0023】
通常使用される2×15mmのステンレスバーを考えると、r=0.1mの場合、k=13.4kN/mとなり、従来の防振型トロリ線ハンガ程度のばね定数を得ることができる。
【0024】
この方式であれば、従来のステンレスバーを用いて、中間に円弧状部を設ける曲げ加工を加えるだけであるので、従来品と同様の価格でちょう架装置を提供することができる。所望のばね定数は、円弧状部(円環状部)2の半径を調整することにより得られる。
【0025】
また、防振ゴム具3をちょう架本体に接着または装着することにより、ちょう架装置自体の振動またはトロリ線6の波動の低減を図ることができる。
【0026】
次に、本発明のばね式ちょう架装置の特性について説明する。
【0027】
図2は本発明のばね式ちょう架装置の特性を示す図であり、図2(a)は軸力と変位の特性図、図2(b)ばね定数と変位の特性図である。
【0028】
ここでは、半径0.09mの円環状ばね式ちょう架装置の特性測定試験を行った。軸力をF(N),変位をx(m)とした時、ばね定数k(N/m)は、F/xの接線で表すことができる。
【0029】
図3は本発明の第2実施例を示すばね式ちょう架装置の構成図であり、図3(a)はその正面図、図3(b)はその側面図である。
【0030】
これらの図において、11はステンレスバーからなり、このステンレスバーを対称になるように折り返して対向させてなるちょう架本体、12はこのちょう架本体11に形成された膨出部としての円弧状部(円環状部)、13はちょう架装置自体の振動またはちょう架される線の波動の低減を図る、制振部材として防振ゴムを加硫接着したものであり、円弧状部12の内側に取り付けられている。14はちょう架線、15はちょう架線14の保護カバー、16はちょう架される線としてのトロリ線、17はトロリ線16の把持部材である。
【0031】
この第2実施例では、制振機能を増強するために、円弧状部(円環状部)12の内側に防振ゴム13を設けるようにした。
【0032】
図4は本発明の第3実施例を示すばね式ちょう架装置の構成図であり、図4(a)はその正面図、図4(b)はその側面図である。
【0033】
これらの図において、21はステンレスバーからなり、このステンレスバーを対称になるように折り返して対向させてなるちょう架本体、22はこのちょう架本体21に形成された膨出部としての三角形状部、23はちょう架装置自体の振動またはちょう架される線の波動の低減を図る、制振部材としての防振ゴム具、24はちょう架線、25はちょう架線24の保護カバー、26はちょう架される線としてのトロリ線、27はトロリ線26の把持部材である。
【0034】
この第3実施例では、制振機能を増強するために、ちょう架本体に防振ゴム具23を設けるようにした。
【0035】
図5は本発明の第4実施例を示すばね式ちょう架装置の構成図であり、図5(a)はその正面図、図5(b)はその側面図である。
【0036】
これらの図において、31はステンレスバーからなり、このステンレスバーを対称になるように折り返して対向させてなるちょう架本体、32はちょう架本体31に形成された膨出部としての複数の波形状部、33はちょう架装置自体の振動またはちょう架される線の波動の低減を図る、制振部材としての防振ゴム具、34はちょう架線、35はちょう架線34の保護カバー、36はちょう架される線としてのトロリ線、37はトロリ線36の把持部材である。
【0037】
また、制振機能を増強するために、ちょう架本体に防振ゴム具33を設けるようにした。
【0038】
なお、上記各実施例では、制振機能を増強するために、防振ゴム具や防振ゴムを加硫接着したが、これに代わり、ちょう架本体を制振鋼板とするようにしてもよい。
【0039】
本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0040】
(1)き電ちょう架式電車線のちょう架点における硬点を解消し、パンタグラフの離線を防ぎ、これに伴うトロリ線の局部摩耗を軽減することができる。しかも、材料費が安価であるため、鉄道事業者の負担も少なく、また、構造も簡単であるため、メンテナンスの負担も少ない。これにより、設備の長寿命化、保守の効率化を図ることができる。
【0041】
(2)ちょう架本体自体に弾性を付与したことにより、ちょう架装置取付位置の誤差によるトロリ線高さの不整を緩和する機能があり、設備精度の向上を図ることができる。
【0042】
(3)従来から使用されているステンレスバーをちょう架本体として用いているため、従来からの付属具(ハンガカバー、イヤー等)をそのまま使用することができ、鉄道事業者の負担が少ない。また、ちょう架本体の膨出部の変形程度によりちょう架本体の曲率を従来の曲率よりも大きくしているので,疲労損傷の面からも特別な保守・点検を必要としない。
【0043】
(4)ちょう架本体の膨出部の変形程度によりちょう架装置に作用する軸力を大まかに把握することができる。例えば、図1、図3又は図4に示すように、円弧状部(円環状部)が正円であれば正規の力が作用し、円弧状部(円環状部)が縦方向に楕円の場合には正規以上の力が、円弧状部(円環状部)が横方向に楕円の場合には正規以下の力が作用していることになる。これは現場巡視の際の架線状態の把握に有効である。
【0044】
なお、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、ちょう架本体自体に膨出部を形成させ弾性を持たせることができればよく、種々の変形を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のばね式ちょう架装置は、構造が簡単で、製造コストを低減したばね式ちょう架装置として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1実施例を示すばね式ちょう架装置の構成図である。
【図2】本発明のばね式ちょう架装置の特性を示す図である。
【図3】本発明の第2実施例を示すばね式ちょう架装置の構成図である。
【図4】本発明の第3実施例を示すばね式ちょう架装置の構成図である。
【図5】本発明の第4実施例を示すばね式ちょう架装置の構成図である。
【図6】従来のき電ちょう架式電車線を有する電気鉄道の軌道を示す図面代用の写真である。
【図7】従来の電気鉄道のトロリ線をちょう架するちょう架装置(ハンガ)装置を示す図面代用の写真である。
【符号の説明】
【0047】
1,11,21,31 ちょう架本体
2,12 円弧状部(膨出部)(円環状部)
3,23,33 防振ゴム具(制振部材)
4,14,24,34 ちょう架線
5,15,25,35 保護カバー
6,16,26,36 トロリ線
7,17,27,37 トロリ線の把持部材
13 防振ゴム(制振部材)
22 三角形状部
32 複数の波形状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板または棒状のちょう架本体を備え、該ちょう架本体の外側に膨出部を形成して、該膨出部にばね弾性を持たせることにより、ちょう架点における硬点の解消を図ることを特徴とするばね式ちょう架装置。
【請求項2】
請求項1記載のばね式ちょう架装置において、前記膨出部が円弧状部であることを特徴とするばね式ちょう架装置。
【請求項3】
請求項1記載のばね式ちょう架装置において、前記膨出部が三角形状部であることを特徴とするばね式ちょう架装置。
【請求項4】
請求項3記載のばね式ちょう架装置において、前記膨出部が複数個連なる波形状部からなることを特徴とするばね式ちょう架装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項記載のばね式ちょう架装置において、前記ちょう架本体に制振部材を付加することにより、ちょう架装置自体の振動またはちょう架される線の波動の低減を図ることを特徴とするばね式ちょう架装置。
【請求項6】
請求項5記載のばね式ちょう架装置において、前記ちょう架される線がトロリ線又は補助ちょう架線であることを特徴とするばね式ちょう架装置。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−241690(P2009−241690A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89253(P2008−89253)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000151036)株式会社電業 (6)
【出願人】(501284767)株式会社ジェイアール総研電気システム (17)