説明

ひずみゲージ及びひずみゲージ取付方法

【課題】 長期にわたって性能を維持することができるひずみゲージ及びひずみゲージ取付方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 ひずみゲージ1を、ひずみゲージ本体2と、ひずみゲージ本体2が収納される略中空円柱形状のシース3と、シース3の長手方向に沿って側方に張り出して設けられた溶接しろ4と、シース3の表面のうち、少なくとも溶接しろ4の近傍部分を覆う保護材5とを有する構成とする。保護材5を、耐熱性を有する絶縁体によって構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひずみゲージ及び測定対象物に対するひずみゲージの取付方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ひずみゲージは、後記の特許文献1に記載のように、銅ニッケル合金等の金属抵抗箔または金属抵抗線からなるひずみゲージコア(ひずみゲージ本体)を有しており、ひずみゲージコアを測定対象物の表面に取付けて使用されるものである。
測定対象物の表面にひずみゲージを取付けると、ひずみゲージのひずみゲージ本体には測定対象物に生じたひずみが伝達され、これにより、金属抵抗箔(または金属抵抗線)に、このひずみの大きさに比例した電気抵抗の変化が生じる。ひずみゲージは、この現象を利用して測定対象物に生じたひずみを検出するものであって、ひずみゲージの金属抵抗箔(または金属抵抗線)に電圧を供給し、この電圧の変化に基づいて、測定対象物に生じたひずみを検出する。
【0003】
【特許文献1】特開平11−118623号公報(段落[0002]〜[0003],及び図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ひずみゲージとしては、ひずみゲージ本体が収納されるシースと、このシースの側方に張り出すように設けられた溶接しろとを有し、溶接しろを測定対象物に対して溶接することによって測定対象物に取付けられるものがある。
しかし、このように溶接によって測定対象物に取付けられるひずみゲージは、測定対象物への取付後しばらくすると、次第に測定値にドリフトが生じる場合があった。このため、従来は、この種のひずみゲージによって高精度のひずみ計測を長期にわたって行うことが困難であった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、長期にわたって性能を維持することができるひずみゲージ及びひずみゲージ取付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、試験等に基づいて、測定対象物に溶接したひずみゲージに生じる測定値のドリフトの発生原因を調査した。その結果、以下に詳細に述べるように、ひずみゲージを測定対象物に溶接する際にはシースが損傷しやすく、このようにシースが損傷することによって、測定値のドリフトが生じるという新規な知見を得た。
【0007】
ひずみゲージを溶接によって測定対象物に取付ける場合、溶接位置がシースに近ければ近いほど、測定対象物に生じたひずみがシースに伝わりやすくなり、ひずみゲージの測定精度が高くなる。このため、一般的に、ひずみゲージは、溶接しろにおいてシースとの接続部近傍で測定対象物に溶接される。
しかし、このように溶接しろのシースとの接続部近傍部分を溶接する際には、溶接時に発生する熱等によってシースが損傷しやすい。本発明者らは、このようにシースが損傷することで、シース内に湿分を含む周辺空気や水分が浸入してひずみゲージ本体の金属抵抗箔または金属抵抗線の酸化が始まり、時間の経過とともに金属抵抗箔(または金属抵抗線)の酸化が進行して抵抗が次第に増加してゆくことで、測定値のドリフトが生じるということを発見した。
本発明は、上記の新規な知見に基づいてなされたものであって、以下の手段を提供する。
【0008】
すなわち、本発明は、ひずみゲージ本体と、該ひずみゲージ本体が収納されるシースと、該シースの側方に張り出して設けられて前記測定対象物に溶接される溶接しろと、前記シースの表面のうち、少なくとも前記溶接しろの近傍部分を覆う保護材とを有するひずみゲージを提供する。
【0009】
このように構成されるひずみゲージでは、シースの表面のうち、少なくとも溶接しろの近傍部分が保護材によって覆われているので、溶接しろを測定対象物に溶接する際に、シースに損傷が生じにくい。
ここで、保護材は、溶接の熱に耐えられる程度の耐熱性材料によって構成することが好ましいが、それ以外の材料であっても、例えば溶接の際にシースを十分に保護できる厚みとすれば、保護材として用いることができる。
また、保護材は、塗装によってシース表面に形成してもよく、接着や係合等、少なくとも溶接時に脱落が生じない任意の手段によってシースに設けることができる。
【0010】
また、上記ひずみゲージにおいて、前記保護材が絶縁体であってもよい。
この場合には、溶接しろを測定対象物に電気溶接する際に、シースに火花が飛ばなくなり、シースの損傷をより一層生じにくくすることができる。
【0011】
また、上記ひずみゲージにおいて、前記保護材が、軸線方向に沿った切り込みを有するチューブ状をなしており、前記切り込みを通じて前記シースを内部に収納した状態で前記シースに嵌合していてもよい。
【0012】
この場合には、従来のひずみゲージのシースに、前記切込みを有するチューブ状の保護材を嵌合させることによって、シースに保護材を容易に装着して、本発明のひずみゲージとすることができる。すなわち、この場合には、本発明にかかるひずみゲージの製造が容易である。
また、ひずみゲージを測定対象物に取付けたのちは、シースから保護材を容易に取り除いて、従来のひずみゲージとほぼ同じ条件下で使用することができる。
【0013】
本発明は、ひずみゲージ本体と、該ひずみゲージ本体が収納されるシースと、該シースと前記測定対象物との溶接に用いられる溶接しろとを有するひずみゲージに、前記シースの表面のうち少なくとも前記溶接しろの近傍部分を保護材によって覆い、この状態で前記溶接しろを前記測定対象物に溶接するひずみゲージ取付方法を提供する。
【0014】
このひずみゲージ取付方法では、シースのうち、少なくとも溶接しろの近傍部分を保護材で保護した状態で測定対象物に溶接するので、シースに損傷が生じにくい。
これにより、高度な溶接技術を有する者でなくとも、ひずみゲージの性能を損なわずに溶接しろのシースとの接続部近傍を測定対象物に溶接して、ひずみゲージの測定精度を確保することができる。
なお、ひずみゲージを測定対象物に取付けたのちは、シースから保護材を取り除いてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかるひずみゲージ及びひずみゲージ取付方法によれば、溶接しろを測定対象物に溶接する際に、シースに損傷が生じにくいので、測定値のドリフトを防止して、長期にわたって高精度のひずみ計測を行うことができる。
また、高度な溶接技術を有する者でなくとも、ひずみゲージの性能を損なわずに溶接しろのシースとの接続部近傍を測定対象物に溶接することができ、ひずみゲージの測定精度を容易に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本発明にかかるひずみゲージ1は、測定対象物Wの表面に取り付けられるものであって、図2に示すように、ひずみゲージ本体2と、ひずみゲージ本体2が収納される略中空円柱形状のシース3と、シース3の長手方向に沿って側方(接線方向)に張り出して設けられた板状の溶接しろ4と、シース3の表面のうち、少なくとも溶接しろ4の近傍部分を覆う保護材5とを有している。
【0017】
本実施形態では、ひずみゲージ本体2は、銅ニッケル合金等の金属抵抗線2aによって構成されている。また、金属抵抗線2aは、シース3に対して絶縁された状態で固定されており、被覆ケーブル2bを介して、シース3外に設置された図示せぬ制御装置と接続されている。
制御装置は、金属抵抗線2aに電圧を供給し、この電圧の変動に基づいて、測定対象物Wに生じたひずみを検出するものである。
【0018】
シース3は、ニッケル基の耐熱合金(例えばwt%でNi(ニッケル)が76.0%。Cr(クロム)が15.5%、Fe(鉄)が8.0%含まれるもの)やSUS321等の金属からなる略中空円柱形状をなしており、板状の溶接しろ4の片面側に設けられている。シース3の内部は、金属抵抗線2aが挿入された状態で、気密、液密に封止されている。また、シース3内には、酸化マグネシアからなる絶縁粉体が圧入されており、これによってシース3a内で金属抵抗線2aが固定されている。
溶接しろ4は、シース3が位置する側とは反対側の面が平坦面とされていて、この面で測定対象物Wの表面を受けるようになっている。
【0019】
保護材5は、好ましくは非導電性合成樹脂等の絶縁体、例えば、ポリミード系樹脂、ゴム系樹脂、フッ素系樹脂等によって構成される。また、保護材5は、溶接の熱に耐えられる程度の耐熱性を有していることが好ましい。
本実施形態では、保護材5は、図3に示すように、軸線方向に沿った切り込み6を有するチューブとされており、図4に示すように、切り込み6を通じてシース3を内部に収納した状態で(すなわちシース3において溶接しろ4上に露出されている周面全体を覆った状態で)、切り込み6を閉じようとする復元力によってシース3に嵌合させられている。また、このチューブは、溶接の熱に耐えられる程度の耐熱性を有する絶縁体によって構成されている。
【0020】
このように構成されるひずみゲージ1は、図4に示すように、従来のひずみゲージと同様、測定対象物Wに対して、溶接しろ4をスポット溶接することによって取付けられる。
ここで、溶接位置Pがシース3に近ければ近いほど、測定対象物Wに生じたひずみがシース3に伝わりやすくなり、ひずみゲージ1の測定精度が高くなるので、ひずみゲージ1は、溶接しろ4においてシース3の接続部近傍で測定対象物Wに溶接することが好ましい。
【0021】
このひずみゲージ1では、シース3の表面が保護材5によって覆われていて、溶接の際に発生する熱から保護されているので、溶接位置Pがシース3の近傍であっても、シース3に損傷が生じにくい。このため、シース3内に周辺雰囲気や水分が浸入しにくく、金属抵抗線2aに酸化が生じにくい。
また、本実施形態では、保護材5は絶縁体であるので、溶接しろ4を測定対象物Wに溶接する際に、溶接棒Rとシース3との間に火花が飛ばなくなり、シース3の損傷をより一層生じにくくすることができる。
【0022】
このように、本実施形態にかかるひずみゲージ1では、金属抵抗線2aに酸化が生じにくく、測定対象物Wへの取付け後の測定値のドリフトが防止されるので、高精度のひずみ計測を長期間にわたって行うことができる。
【0023】
また、本実施形態では、保護材5が、軸線方向に沿った切り込み6を有するチューブ状をなしており、切り込み6を通じてシース3を内部に収納した状態でその復元力によってシース3に嵌合している。
このため、このひずみゲージ1は、従来のひずみゲージのシースに大掛かりな変更を加えることなく、切り込み6を有するチューブ状の保護材5を嵌合させることによって得ることができ、製造が容易である。
また、このひずみゲージ1は、測定対象物Wに取付けたのちは、シース3から保護材5を容易に取り除いて、従来のひずみゲージとほぼ同じ条件下で使用することができる。
【0024】
ここで、本実施形態にかかるひずみゲージ1の性能を検証するために、本実施形態にかかるひずみゲージ1(以下「実施例」とする)と、ひずみゲージ1とは保護材5を有していないこと以外は同一の構成とされたひずみゲージ(以下、それぞれ「比較例1,2,3」とする)について、それぞれ測定対象物Wへの取付け直後から測定対象物Wのひずみ量を一定とした状態での測定値εの時間変化を数週間にわたって計測した。この試験結果を、図5のグラフに示す。
なお、この試験では、実施例、比較例1,2,3のそれぞれについて、同一構成のひずみゲージを二つ用いて測定値を校正する2ゲージ法を用いて、測定対象物Wのひずみ量を測定した。
【0025】
図5に示すように、比較例1では、時間が経過するにつれて次第に測定値が増加している。これは、比較例1では、溶接時にシース3が損傷し、時間が経過するにつれて金属抵抗線2aの酸化が進行して、金属抵抗線2aの抵抗値が増加しているためと思われる。
比較例2では、時間が経過するにつれて次第に測定値が減少している。これは、比較例2では、溶接時にシース3が損傷し、時間が経過するにつれて一方のひずみゲージの金属抵抗線2aの酸化が進行して少しずつ断線してゆき、他方のひずみゲージとの出力のバランスが崩れてしまったためと思われる。
比較例3では、時間が経過するにつれて急激に測定値が増加し、ある程度増加した時点で急降下している。これは、比較例3では、溶接時にシース3が損傷し、時間が経過するにつれて一方のひずみゲージの金属抵抗線2aの酸化が急速に進行して金属抵抗線2aの抵抗値が急激に増加し、ついには金属抵抗線2aが完全に断線して、他方のひずみゲージとの出力のバランスが大きく崩れたため、測定値が急激に低下したものと思われる。
【0026】
これら比較例1,2,3に対して、実施例では、試験開始から二週間経過後も測定値の増減がほとんどない。これは、実施例では、溶接時にシース3に損傷が生じなかったため、時間が経過しても金属抵抗線2aの酸化が進行しなかったためと思われる。
このことからわかるように、本実施形態にかかるひずみゲージ1によれば、高度な溶接技術を有する者でなくとも、ひずみゲージ1の性能を損なわずに、溶接しろ4のシース3との接続部近傍を測定対象物Wに溶接して、ひずみゲージ1の測定精度を容易に高めることができる。
【0027】
ここで、上記実施の形態では、保護材5は、溶接の熱に耐えられるよう、耐熱性材料によって構成したが、これに限られることなく、例えば耐熱性の劣る材料であっても、溶接の際にシース3を十分に保護できる厚みとすれば、保護材5として用いることができる。
また、上記実施の形態では、保護材5を、切り込み6が設けられたチューブをシース3に嵌合させることによって構成した例を示したが、これに限られることなく、保護材5は、前記した材料をシース3の表面に塗装することによって形成したり、シート状またはテープ状の保護材5をシース3に貼り付けるなど、少なくとも溶接時に脱落が生じない任意の手段によってシース3に設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態にかかるひずみゲージを示す斜視図である。
【図2】図1の拡大図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかるひずみゲージの保護材を示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかるひずみゲージの取付方法を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかるひずみゲージと比較例のひずみゲージの測定値の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
1 ひずみゲージ
2 ひずみゲージ本体
3 シース
4 溶接しろ
5 保護材
6 切り込み
W 測定対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひずみゲージ本体と、
該ひずみゲージ本体が収納されるシースと、
該シースの側方に張り出して設けられて前記測定対象物に溶接される溶接しろと、
前記シースの表面のうち、少なくとも前記溶接しろの近傍部分を覆う保護材とを有するひずみゲージ。
【請求項2】
前記保護材が絶縁体である請求項1記載のひずみゲージ。
【請求項3】
前記保護材が、軸線方向に沿った切り込みを有するチューブ状をなしており、前記切り込みを通じて前記シースを内部に収納した状態で前記シースに嵌合している請求項1または2に記載のひずみゲージ。
【請求項4】
ひずみゲージ本体と、該ひずみゲージ本体が収納されるシースと、該シースと前記測定対象物との溶接に用いられる溶接しろとを有するひずみゲージに、
前記シースの表面のうち少なくとも前記溶接しろの近傍部分を保護材によって覆い、この状態で前記溶接しろを前記測定対象物に溶接するひずみゲージ取付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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