説明

ひずみ測定方法およびひずみ測定装置

【課題】 被測定対象物のひずみを正確に推定することができるひずみ推定方法およびひずみ推定装置を提供する。
【解決手段】 解析モデル作成手段15は、被測定対象物2に歪みゲージ3が貼付けられた状態を模擬する第1解析モデル22を作成する。シミュレーション手段16は、第1解析モデル22を用いて、被測定対象物2に力を加えたときの被測定対象物2および歪みゲージ3のひずみを算出する。解析モデル作成手段15は、算出した歪みゲージ3のひずみと、実際に測定した歪みゲージ3のひずみとの差が許容誤差の範囲内になるように第1解析モデル22を補正する。解析モデル作成手段15は、補正した第1解析モデル22に基づいて、被測定対象物2のみを模擬する第2解析モデル23を作成する。シミュレーション手段16は、第2解析モデル23を用いて、被測定対象物2に力を加えたときの被測定対象物2のひずみを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定対象物のひずみを推定するひずみ推定方法およびひずみ推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定対象物のひずみを測定する方法として、歪みゲージを用いる方法がある。この方法では、被測定対象物の表面に歪みゲージが貼付けられる。貼付けられた歪みゲージは、被測定対象物の変形にともなって変形する。歪みゲージが変形すると、歪みゲージの抵抗値は、歪みゲージの変形量に応じて変化する。この歪みゲージの抵抗値の変化を測定することによって、歪みゲージのひずみを測定し、ひいては被測定対象物のひずみを測定することができる。
【0003】
また、被測定対象物のひずみを測定する方法として、光の干渉を利用した材料ひずみ計測方法がある。材料ひずみ計測方法では、被測定対象物の表面部に予め形成された2つの圧痕対にレーザ光を照射し、各圧痕によって反射された反射光によって形成される干渉縞の間隔に基づいて、圧痕の間隔を測定し、被測定対象物のひずみを測定している(たとえば特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−225120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の歪みゲージを用いて被測定対象物のひずみを測定する方法では、被測定対象物に歪みゲージを貼付けるので、歪みゲージが被測定対象物の補強材として働く。歪みゲージが補強材として働くと、被測定対象物の歪みゲージが貼付けられた位置付近が見かけ上局部的に固くなるので、歪みゲージが貼付けられた位置付近は、歪みゲージを貼付けない状態に比べて、力を加えたときのひずみが小さくなる。このように歪みゲージを被測定対象物に貼付けると、被測定対象物のヤング率およびポアソン比などの物性値が見かけ上変化するので、従来の方法では被測定対象物のひずみを正確に測定することができないという問題が生じる。
【0006】
光の干渉を利用してひずみを測定する方法では、圧痕に光を照射する光源を設けるスペース、光が進行するスペース、および反射光を受光する撮像手段を設けるスペースを確保する必要がある。したがって、このようなスペースを確保することができない小さなスペースにおいては、被測定対象物のひずみを測定することができないという問題が生じる。たとえば製品の小さなスペースに組み込まれた部品のひずみは、光の干渉を利用して測定することができない。また被測定対象物に圧痕を形成する必要があるので、被測定対象物のヤング率およびポアソン比などの物性値が変化し、被測定対象物のひずみを正確に測定することができないという問題が生じる。
【0007】
したがって本発明の目的は、被測定対象物のひずみを正確に推定することができるひずみ推定方法およびひずみ推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、歪みゲージが予め定める位置に貼付けられた被測定対象物に予め定める力を加えて、前記歪みゲージによって計測されたひずみを求め、
被測定対象物の前記予め定める位置に歪みゲージが貼付けられた状態を模擬する第1モデルを作成し、
第1モデルを用いて、被測定対象物に前記予め定める力を加えたときの被測定対象物のひずみと歪みゲージのひずみとを算出し、
前記算出して得られた歪みゲージのひずみが、前記計測によって求めた歪みゲージのひずみに近づくように、第1モデルを補正し、
補正された第1モデルに基づいて、被測定対象物を模擬する第2モデルを作成し、
第2モデルを用いて、被測定対象物に前記予め定める力を加えたときの被測定対象物のひずみを算出することによって被測定対象物のひずみを推定することを特徴とするひずみ推定方法である。
【0009】
また本発明は、前記歪みゲージのヤング率よりも低いヤング率を有する前記被測定対象物のひずみの推定に用いられることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、樹脂材料を含んで形成される被測定対象物のひずみの推定に用いられることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、歪みゲージが予め定める位置に貼付けられた被測定対象物に予め定める力を加えて、前記歪みゲージによって計測されたひずみを記憶する記憶手段と、
被測定対象物の前記予め定める位置に歪みゲージが貼付けられた状態を模擬する第1モデル、および被測定対象物を模擬する第2モデルを作成するモデル作成手段と、
第1モデルを用いて、被測定対象物に前記予め定める力を加えたときの被測定対象物のひずみと歪みゲージのひずみとを算出し、第2モデルを用いて、被測定対象物に前記予め定める力を加えたときの被測定対象物のひずみを算出することによって被測定対象物のひずみを推定する算出手段と、
算出手段によって推定される被測定対象物のひずみを出力する出力手段とを含み、
前記モデル作成手段は、前記算出して得られた歪みゲージのひずみが、前記計測された歪みゲージのひずみに近づくように、第1モデルを補正し、補正された第1モデルに基づいて、前記第2モデルを作成することを特徴とするひずみ推定装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、歪みゲージが予め定める位置に貼付けられた被測定対象物に予め定める力を加えて、前記歪みゲージによって計測されたひずみを求める。つまり被測定対象物に貼付けられた歪みゲージのひずみを実際に測定する。また被測定対象物の前記予め定める位置に歪みゲージが貼付けられた状態を模擬する第1モデルを作成し、この第1モデルを用いて、被測定対象物に前記予め定める力を加えたときの被測定対象物のひずみと歪みゲージのひずみとを算出する。つまり実際のひずみの測定とは別に、被測定対象物と歪みゲージとのひずみを算出する。
【0013】
被測定対象物と歪みゲージとを完全に模擬する第1モデルを作成することは困難であるが、実際の測定結果と、算出して得られた結果との差を小さくするために、前記算出して得られた歪みゲージのひずみが、前記計測によって求めた歪みゲージのひずみに近づくように、第1モデルを補正する。つまり被測定対象物の予め定める位置に歪みゲージが貼付けられた状態をより正確に模擬するように第1モデルを補正する。
【0014】
被測定対象物を模擬する第2モデルは、被測定対象物と歪みゲージとを補正前の第1モデルに比べてより正確に模擬する補正された第1モデルに基づいて作成される。したがって、第2モデルは、被測定対象物を正確に模擬する。このように被測定対象物を正確に模擬する第2モデルを用いて、被測定対象物に前記予め定める力を加えたときの被測定対象物のひずみを算出するので、被測定対象物のひずみを精度良く推定することができる。
【0015】
また第2モデルは、歪みゲージを除いた被測定対象物のみを模擬するので、推定した歪みゲージのひずみには、歪みゲージの影響は表れない。つまり、たとえば歪みゲージが被測定対象物の補強材として作用するとしても、補強材としての効果を除いて被測定対象物のひずみを推定することができる。これによって、歪みゲージを貼付けていない状態の被測定対象物のひずみを正確に推定することができる。
【0016】
また歪みゲージを用いた測定に基づいて被測定対象物のひずみを推定するので、被測定対象物の表面に歪みゲージを貼付ける空間があればどのような空間においても被測定対象物のひずみを正確に推定することができる。
【0017】
また本発明によれば、歪みゲージのヤング率よりも低いヤング率を有する被測定対象物のひずみの推定を行う。被測定対象物に貼付けられた歪みゲージは、被測定対象物の補強材として働く。被測定対象物のヤング率が歪みゲージのヤング率よりも低い場合、いわゆる歪みゲージの方が被測定対象物よりも固い場合には、歪みゲージの方が被測定対象物よりも柔らかい場合に比べて、歪みゲージは、被測定対象物の補強材としてより有効に機能する。このように歪みゲージが被測定対象物の補強材として有効に機能する場合には、歪みゲージを用いたひずみの測定では、被測定対象物のひずみの測定結果に歪みゲージが影響し、被測定対象物のひずみを正確に測定することが困難である。本発明では、歪みゲージの影響を排除して被測定対象物のひずみを正確に推定することができる。したがって、歪みゲージのヤング率よりも低いヤング率を有する被測定対象物のひずみの推定に好適に適用することができる。
【0018】
また本発明によれば、樹脂材料を含んで形成される被測定対象物のひずみの推定を行う。樹脂材料を含んで形成される被測定対象物は、一般に歪みゲージのヤング率よりもヤング率が低いので、前述したように被測定対象物のひずみを正確に測定することは、困難である。このような被測定対象物であっても、本発明では、歪みゲージの影響を排除して被測定対象物のひずみを正確に推定することができる。したがって、樹脂材料を含んで形成される被測定対象物のひずみの推定に好適に適用することができる。
【0019】
また本発明によれば、記憶手段は、歪みゲージが予め定める位置に貼付けられた被測定対象物に予め定める力を加えて、前記歪みゲージによって計測されたひずみを記憶する。モデル作成手段は、被測定対象物の前記予め定める位置に歪みゲージが貼付けられた状態を模擬する第1モデルを作成し、算出手段は、この被測定対象物に前記予め定める力を加えたときの被測定対象物のひずみと歪みゲージのひずみとを算出する。つまり実際のひずみの測定とは別に、被測定対象物と歪みゲージとのひずみを算出する。
【0020】
被測定対象物と歪みゲージとを完全に模擬する第1モデルを作成することは困難であるが、実際の測定結果と算出して得られた結果との差を小さくするために、モデル作成手段は、前記算出して得られた歪みゲージのひずみが、前記計測された歪みゲージのひずみに近づくように、第1モデルを補正する。つまり被測定対象物の前記予め定める位置に歪みゲージが貼付けられた状態をより正確に模擬するように第1モデルを補正する。
【0021】
モデル作成手段は、被測定対象物と歪みゲージとを補正前の第1モデルに比べてより正確に模擬する補正された第1モデルに基づいて第2モデルを作成する。したがって、第2モデルは、被測定対象物を正確に模擬する。このように被測定対象物を正確に模擬する第2モデルを用いて、算出手段は、被測定対象物に前記予め定める力を加えたときの被測定対象物のひずみを算出するので、被測定対象物のひずみを精度良く推定することができる。出力手段は、精度良く推定された被測定対象物のひずみを出力する。
【0022】
また第2モデルは、歪みゲージを除いた被測定対象物のみを模擬するので、推定した歪みゲージのひずみには、歪みゲージの影響は表れない。つまり、たとえば歪みゲージが被測定対象物の補強材として作用する場合であっても、補強材としての効果を除いた場合の被測定対象物のひずみを推定することができる。したがって、歪みゲージを貼付けていない状態の被測定対象物のひずみを正確に推定することができる。
【0023】
また歪みゲージを用いた測定に基づいて被測定対象物のひずみを算出するので、被測定対象物の表面に歪みゲージを貼付ける空間があればどのような空間においても被測定対象物のひずみを正確に推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明の実施の一形態のひずみ推定装置1の機能的構成を示すブロック図である。図2は、ひずみ推定装置1のハード構成を示すブロック図である。図3は、被測定対象物2と、歪みゲージ3と、データロガー4と、ひずみ推定装置1との接続関係を模式的に示す図である。
【0025】
被測定対象物2は、本実施の形態においては、板状であって、略直方体をなす。被測定対象物2は、本実施の形態においては熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂にガラス繊維を混ぜ込んだガラス繊維強化樹脂および熱硬化性樹脂などの樹脂材料を含んで形成される。熱可塑性樹脂には、ポリプロピレン、ポリスチレンおよびアクリルニトリルブタジエンスチレンなどがある。熱硬化性樹脂には、エポキシおよびフェノールなどがある。熱可塑性樹脂のヤング率は、低く、1,000〜3,000MPa程度である。またガラス繊維強化樹脂および熱硬化性樹脂のヤング率は、熱可塑性樹脂のヤング率よりも高いが、最高でも10,000MPa程度であって、低い。
【0026】
歪みゲージ3は、ポリイミドおよびエポキシなどから成る樹脂シートと、この樹脂シートの表面上に形成される導電性を有するゲージとを含んで構成される。ゲージは、樹脂シートの表面上に白金、銅およびインコネルなどを蒸着した箔ゲージ、および樹脂シートの表面上に白金、銅およびインコネルなどから成る抵抗線を貼付けた線ゲージなどによって実現される。
【0027】
歪みゲージ3は、被測定対象物2の予め定める位置に接着剤によって貼付けられる。本実施の形態においては、歪みゲージ3は、被測定対象物2の厚み方向の一表面の中央部に、高分子の樹脂材料から構成されるいわゆる瞬間接着剤によって貼付けられる。接着剤の厚さは、マイクロメートル程度のオーダーであり、接着剤のヤング率は、歪みゲージ3よりも低い。
【0028】
歪みゲージ3は、被測定対象物2に貼付けられると、被測定対象物2の補強材として作用する。このような歪みゲージ3による被測定対象物2への影響を低減するために、歪みゲージ3のヤング率を小さくする試みがなされている。たとえば箔ゲージの厚さを100μm以下の薄さにしたり、線ゲージの直径を0.5mm以下の細さにしている。
【0029】
このようにヤング率を低減した歪みゲージ3であっても、ゲージのヤング率は、高く、100,000MPa〜250,000MPa程度である。被測定対象物2のヤング率が、ゲージのヤング率の数分の1を下回り、20,000MPa以下であれば、歪みゲージ3が補強材として有効に作用し、被測定対象物2のひずみの測定に大きな影響を与える。
【0030】
歪みゲージ3は、被測定対象物2の表面に貼付けられるので、被測定対象物2の変形に伴なって変形する。歪みゲージ3が変形すると、歪みゲージ3を構成するゲージも変形する。ゲージが伸縮すると、伸縮量に応じてゲージの電気抵抗が変化する。すなわち、被測定対象物2の変形に伴なって、ゲージの電気抵抗が変化する。この電気抵抗の変化を測定することによって、ゲージのひずみ、ひいては被測定対象物2のひずみを算出することができる。用語「ひずみ」は、物体が変形したときの単位長さ当りの変形量を表す。ひずみは、無次元量である。
【0031】
データロガー4は、前記ゲージと接続線5によって電気的に接続される。データロガー4とひずみ推定装置1とは、RS−232C(Recommended Standard 232 version C)およびUSB(Universal Serial Bus)などの通信規格に適合したケーブル6によって電気的に接続される。データロガー4は、前記ゲージの電気抵抗を測定し、測定した電気抵抗からゲージのひずみを算出し、算出したゲージのひずみを表す情報をひずみ推定装置1に与える。ゲージの電気抵抗は、たとえばゲージを一部に含むホイーストンブリッジ回路を用いて、1ゲージ法などによって測定することができる。データロガー4は、ゲージの電気抵抗から算出したゲージのひずみをひずみ推定装置1に与えるとしたけれども、ゲージの電気抵抗を直接ひずみ推定装置1に与えてもよい。この場合には、ひずみ測定装置1が、ゲージの電気抵抗からゲージのひずみを算出する。
【0032】
ひずみ推定装置1は、処理部7と、記憶部8と、入力部9と、出力部10と、接続部11とを含んで構成される。ひずみ推定装置1は、たとえばコンピュータによって実現される。
【0033】
処理部7は、記憶部8に記憶された制御プログラムを読込んで実行することによって、記憶部8、入力部9および接続部11を制御する。また、処理部7は、記憶部8に記憶されたシミュレーションプログラムを読込んで実行することによって、シミュレーションを実行する。処理部7は、中央処理装置(Central Processing Unit:略称CPU)を含んで実現される。
【0034】
記憶部8は、制御プログラムおよびシミュレーションプログラムなどを記憶する。また記憶部8は、処理部7の指令に基づいて、記憶部8に与えられる情報を記憶する、または処理部7の指令に基づいて、記憶した情報を処理部7に与える。記憶部8は、ROM
(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などを含んで実現される。
【0035】
入力部9は、マウスおよびキーボードを含んで実現される。利用者がマウスおよびキーボードを操作すると、入力部9は、利用者の操作に対応する情報を処理部7に与える。入力部9から処理部7に与えられる情報は、たとえば処理部7が記憶部8を制御することによって記憶部8に記憶される。
【0036】
出力部10は、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:略称LCD)およびプリンタを含んで実現される。出力部10は、処理部7の指令に基づいて、処理部7から与えられる情報を、可視表示したり、印字したりして出力する。
【0037】
接続部11は、RS−232CおよびUSBなどの通信規格に適合したコネクタを含んで実現される。接続部11は、処理部7の指令に基づいて、ケーブル6を介して接続されるデータロガー4と情報の受渡しを行う。
【0038】
ひずみ推定装置1は、入力手段12と、測定条件記憶手段13と、解析モデル記憶手段14と、解析モデル作成手段15と、算出手段であるシミュレーション手段16と、比較手段17と、表示手段18と、測定結果記憶手段19と、接続手段20とを含む。各手段は、処理部7が制御プログラムおよびシミュレーションプログラムを実行し、各部を制御することによって機能する。
【0039】
接続手段20は、データロガー4から与えられる歪みゲージ3のひずみを表す情報を、測定結果記憶手段19に与える。測定結果記憶手段19は、接続手段20から与えられる歪みゲージ3のひずみを表す情報を記憶する。
【0040】
入力手段12は、作業者がマウスおよびキーボードなどを操作することによって入力されるデータを測定条件記憶手段13および解析モデル記憶手段14に与える。
【0041】
測定条件記憶手段13は、入力手段12から与えられるデータに基づいて、測定条件を表す測定条件情報を記憶する。測定条件情報は、データロガー4および歪みゲージ3を用いて被測定対象物2のひずみを測定するときの測定条件を表す。測定条件情報は、被測定対象物2の形状を表す情報、被測定対象物2の物性値を表す情報、歪みゲージ3の形状を表す情報、歪みゲージ3の物性値を表す情報、歪みゲージ3が被測定対象物2に貼付けられる予め定める位置を表す情報、被測定対象物2に加える予め定める力に対応する情報、および被測定対象物2の拘束条件を表す情報などを含む。
【0042】
図4は、被測定対象物2と歪みゲージ3との形状をモデル化した斜視図である。被測定対象物2の形状を表す情報および歪みゲージ3の形状を表す情報は、たとえばCAD
(Computer Aided Design)データから成る。
【0043】
解析モデル作成手段15は、測定条件記憶手段13に記憶された測定条件を読込み、シミュレーションを行うための解析モデルを作成する。解析モデル作成手段15は、被測定対象物2の予め定める位置に歪みゲージ3が貼付けられた状態を模擬する第1モデルである第1解析モデル22、および被測定対象物2のみを模擬する第2モデルである第2解析モデル23を作成する。前述したように、歪みゲージ3を貼付ける接着剤の層厚は、マイクロメートル程度のオーダーであり、かつ接着剤のヤング率は、歪みゲージ3よりも低いので、接着剤が被測定対象物2および歪みゲージ3の剛性に与える影響は小さく、接着剤がシミュレーション結果に与える影響は小さい。したがって、シミュレーションにおいて接着剤の効果を省略することができ、解析モデル作成手段15は、接着剤の層を省略した第1解析モデル22を作成する。
【0044】
解析モデル作成手段15は、被測定対象物2に歪みゲージ3が貼付けられた状態を模擬する第1解析モデル22を作成する場合、まず被測定対象物2の形状を表す情報と、歪みゲージ3の形状を表す情報と、歪みゲージ3が被測定対象物2に貼付けられる予め定める位置を表す情報とに基づいて、被測定対象物2の形状と歪みゲージ3の形状とを有限の要素に分割し、被測定対象物2と歪みゲージ3とのメッシュモデル21を作成する。図5は、被測定対象物2と歪みゲージ3とのメッシュモデル21の斜視図である。
【0045】
次に解析モデル作成手段15は、各要素に対して、被測定対象物2または歪みゲージ3の物性値を関係付ける。具体的には、全ての要素に対して、それぞれ対応するヤング率およびポアソン比などの材料定数を付与する。また解析モデル作成手段15は、被測定対象物2に加える予め定める力に対応する情報に基づいて、各節点に加えられる力を関係付ける。具体的には、力が加えられる節点に対して、力の向きと大きさを表す情報を付与する。また解析モデル作成手段15は、拘束条件を各節点に関係付ける。具体的には固定されて移動しない部分に対応する節点に対して、移動を禁止する情報を付与する。解析モデル作成手段15は、このようにして作成した解析モデルを、解析モデル記憶手段14に与える。
【0046】
解析モデル記憶手段14は、解析モデル作成手段15から与えられる第1または第2解析モデル22,23、および作業者が解析モデルをキーボードおよびマウスなどを操作することによって入力し、入力手段12から与えられる第1または第2解析モデル22,23を記憶する。
【0047】
シミュレーション手段16は、解析モデル記憶手段14に記憶された第1または第2解析モデル22,23を用いて、シミュレーションを行う。シミュレーションは、各要素に関係付けられた物性値および各要素の形状に基づいて計算される仮想バネを各節点間に接続し、フックの法則にしたがって釣り合い計算を行うことによって実行される。第1解析モデル22を用いる場合には、シミュレーション手段16は、被測定対象物2に力が加えられたときの被測定対象物2および歪みゲージ3を構成する各節点の変位を算出し、この変位から被測定対象物2および歪みゲージ3のひずみを算出する。第2解析モデル23を用いる場合には、シミュレーション手段16は、被測定対象物2に力が加えられたときの被測定対象物2を構成する各節点の変位を算出し、この変位から被測定対象物2のひずみを算出する。シミュレーション手段16は、算出したひずみを表す情報をシミュレーション結果として比較手段17および表示手段18に与える。
【0048】
比較手段17は、測定結果記憶手段19に記憶された測定結果と、シミュレーション手段16から与えられるシミュレーション結果とを比較する。具体的には、比較手段17は、実際に測定された歪みゲージ3のひずみと、シミュレーションによって得られた歪みゲージのひずみとを比較し、両者のひずみの差が予め定める許容誤差の範囲内か否かを判断する。予め定める許容誤差の範囲とは、実際に測定された歪みゲージ3のひずみと、シミュレーションによって得られた歪みゲージ3のひずみとの差分の絶対値を、シミュレーションによって得られた歪みゲージ3のひずみで除した値に100を乗じた値が、たとえば10以下となる範囲である。比較手段17は、判断結果を表示手段18に与える。
【0049】
表示手段18は、シミュレーション手段16から与えられるシミュレーション結果、測定結果記憶手段19に記憶された測定結果および比較手段17から与えられる判断結果を、液晶表示ディスプレイに可視表示する、または印字する。
【0050】
図6は、ひずみ推定装置1がひずみを推定する手順を表すフローチャートである。被測定対象物2に、測定条件記憶手段13に記憶されえた予め定める力を加えたときの歪みゲージ3のひずみを測定し、データロガー4からひずみ推定装置1に測定結果を表す情報が与えられると、ステップa0からステップa1に移る。
【0051】
ステップa1では、接続手段20は、データロガー4から与えられる歪みゲージ3のひずみを表す情報を含む測定結果を取得し、測定結果を測定結果記憶手段19に与える。測定結果記憶手段19は、接続手段20から与えられる測定結果を記憶する。次にステップa2に移る。
【0052】
ステップa2では、解析モデル作成手段15は、測定条件記憶手段13に記憶された被測定対象物2の形状を表す情報、歪みゲージ3の形状を表す情報、および歪みゲージ3が被測定対象物2に貼付けられる予め定める位置を表す情報に基づいて、被測定対象物2の形状と歪みゲージ3の形状とを有限の要素に分割し、被測定対象物2および被測定対象物2に貼付けられた歪みゲージ3のメッシュモデル21を作成する。次にステップa3に移る。
【0053】
ステップa3では、解析モデル作成手段15は、被測定対象物2および被測定対象物2の予め定める位置に貼付けられた歪みゲージ3のシミュレーションを行うための第1解析モデル22を作成する。具体的には解析モデル作成手段15は、測定条件記憶手段13に記憶された被測定対象物2および歪みゲージ3の物性値を表す情報に基づいて、各要素に対して、対応するヤング率およびポアソン比などの材料定数を関係付ける。また解析モデル作成手段15は、被測定対象物2に加える予め定める力に対応する情報に基づいて、各節点に加えられる力を関係付ける。また解析モデル作成手段15は、拘束条件を各節点に関係付ける。解析モデル作成手段15は、作成した解析モデルを解析モデル記憶手段14に与え、ステップa4に移る。
【0054】
ステップa4では、解析モデル記憶手段14は、解析モデル作成手段15から与えられた解析モデルを記憶し、ステップa5に移る。
【0055】
ステップa5では、シミュレーション手段16は、解析モデル記憶手段14に記憶された第1解析モデル22に基づいて、有限要素法を用いてシミュレーションを行い、シミュレーション結果を比較手段17および表示手段18に与え、ステップa6に移る。
【0056】
ステップa6では、比較手段17は、シミュレーション手段16から与えられたシミュレーションによる歪みゲージ3のひずみと測定結果記憶手段19に記憶された実測による歪みゲージ3のひずみとを比較し、両者のひずみの差が予め定める許容誤差の範囲内か否かを判断し、判断結果を表示手段18に与えてステップa7に移る。
【0057】
ステップa7では、表示手段18は、シミュレーション手段16から与えられるシミュレーション結果および比較手段17から与えられる判断結果を液晶表示パネルに可視表示し、ステップa8に移る。
【0058】
ステップa8では、比較手段17がひずみの差が許容誤差の範囲外であると判断した場合には、ステップa9に移る。
【0059】
ステップa9では、入力手段12は、液晶表示パネルに表示されたシミュレーション結果および判断結果を見た作業者が、マウスおよびキーボードなど操作することによって入力される測定条件を補正する補正情報を、測定条件記憶手段13に与える。補正情報とは、解析モデルを作成するときに用いられる情報を補正する情報であり、具体的には、被測定対象物2のヤング率およびポアソン比などの物性値を表す情報、歪みゲージ3のヤング率およびポアソン比などの物性値を表す情報、および被測定対象物2に加えられる予め定める力に対応する情報などを補正する情報である。測定条件記憶手段13は、入力手段12から与えられる補正を表す情報に基づいて、測定条件情報を補正して記憶する。次にステップa3に移り、補正された測定条件情報に基づいて補正した第1解析モデル22を作成し、ステップa3〜ステップa8までの手順を繰返す。
【0060】
ステップa8において、比較手段17がひずみの差が許容誤差の範囲内であると判断した場合には、ステップa10に移る。
【0061】
ステップa10では、解析モデル作成手段15は、被測定対象物2のみを模擬する第2解析モデル23を作成する。具体的には、解析モデル作成手段15は、ステップa3において作成した解析モデルから、歪みゲージ3を表す要素を除く。すなわち解析モデル作成手段15は、ひずみの差が許容誤差の範囲内となる第1解析モデル22から、歪みゲージ3を表す要素を除いた被測定対象物2のみを模擬する第2解析モデル23を作成する。解析モデル作成手段15は、作成した第2解析モデル23を解析モデル記憶手段14に与え、ステップa11に移る。
【0062】
ステップa11では、解析モデル記憶手段14は、解析モデル作成手段15から与えられた解析モデルを記憶し、ステップa12に移る。
【0063】
ステップa12では、シミュレーション手段16は、解析モデル記憶手段14に記憶された被測定対象物2のみを模擬する第2解析モデル23に基づいて、有限要素法を用いてシミュレーションを行い、シミュレーション結果を表示手段18に与え、ステップa13に移る。
【0064】
ステップa13では、表示手段18は、シミュレーション結果を液晶表示ディスプレイに可視表示し、ステップa14に移る。ステップa14では、処理を終了する。
【0065】
ステップa6においてシミュレーションによる歪みゲージ3のひずみと実測における歪みゲージ3のひずみとの比較を行っているが、両者のひずみは、一般的には一致しない。両者のひずみが一致しないのは、ステップa3において解析モデル作成手段15が作成した第1解析モデル22が、実際の歪みゲージ3、被測定対象物2、および被測定対象物2に加えられる予め定める力を正確に模擬していないからである。第1解析モデル22が被測定対象物2などを正確に模擬していないのは、たとえば被測定対象物2などの微細な形状を省略してメッシュモデル21を作成し、このメッシュモデル21を用いて第1解析モデル22を作成するからである。また被測定対象物2に加えられる予め定める力に対応する力を、正確に見積ることができていないので、各節点に加えられる力が、実際に被測定対象物2に加えられる力を正確に模擬していないからである。また被測定対象物2および歪みゲージ3の物性値が、カタログに掲載されている値と異なる場合があり、各要素に付与された被測定対象物2および歪みゲージ3の物性値が、実際の物性値と正確に対応していない場合があるからである。特に、物性値は、被測定対象物2の形成方法および形成条件に依存するので、被測定対象物2の部位によって、カタログの値と異なる値となる。したがって、カタログに掲載されている物性値を用いたのでは、被測定対象物2および歪みゲージ3の実際の物性値を正確に表すことができない。以上述べたような原因から、初めてステップa3において第1解析モデル22を作成する場合には、実際の歪みゲージ3、被測定対象物2、および被測定対象物2に加えられる予め定める力を正確に模擬する第1解析モデル22を作成することはできない。
【0066】
ステップa9では、第1解析モデル22を再度作成するときに用いられる測定条件情報を補正する。この補正は、第1解析モデル22が再度作成されたとしたならば、再度作成された第1解析モデル22が歪みゲージ3、被測定対象物2、および被測定対象物2に加えられる予め定める力をより正確に模擬するように行われる。つまり、ステップa9における補正に基づいて再度作成された第1解析モデル22を用いて、再度ステップa6においてシミュレーションを行ったときに、シミュレーションによる歪みゲージ3のひずみと測定結果記憶手段19に記憶された実測による歪みゲージ3のひずみとの差が小さくなるように、測定条件情報を補正する。この補正された測定条件情報に基づいて再度第1解析モデル22を作成し直し、シミュレーションによる歪みゲージ3のひずみと実測における歪みゲージ3のひずみとの差が許容範囲内になるまで、ステップa3〜ステップa9を繰返す。この補正によって、実際の歪みゲージ3、被測定対象物2、および被測定対象物2に加えられる予め定める力を正確に模擬する第1解析モデル22を作成することができる。
【0067】
ステップa10では、解析モデル作成手段15は、ひずみの差が許容誤差の範囲内となる第1解析モデル22に基づいて、歪みゲージ3を表す要素を除いた被測定対象物2のみを模擬する第2解析モデル23を作成する。したがって、ステップa10において作成された第2解析モデル23は、被測定対象物2を正確に模擬する。このように被測定対象物2を正確に模擬する第2解析モデル23を用いて、被測定対象物2に予め定める力を加えたときの被測定対象物2のひずみをシミュレートするので、精度の高いシミュレーション結果が得られる。
【0068】
またステップa10において作成される第2解析モデル23は、歪みゲージ3を除いた被測定対象物2のみを模擬するので、シミュレーション結果には、歪みゲージ3の影響は表れない。したがって、歪みゲージ3を貼付けていない状態の被測定対象物2のひずみを正確に推定することができる。
【0069】
また、歪みゲージ3を用いた測定に基づいて被測定対象物2のひずみを算出するので、被測定対象物2の表面に歪みゲージ3を貼付ける空間があればどのような空間においても被測定対象物2のひずみを推定することができる。
【0070】
図7は、第1解析モデル22を用いてシミュレーションを行ったときの被測定対象物2と歪みゲージ3とを表す断面図である。被測定対象物2の長手方向の両端部24を固定し、被測定対象物2の歪みゲージ3が貼付けられた表面と反対側の表面の全面に一様な圧力を加えたときのシミュレーションを行った。図7は、変形量を見易くするために、シミュレーションによって得られた変形量よりも、変形量を大きくして表している。シミュレーション結果から、歪みゲージ3が貼付けられた位置付近の領域Aは、他の領域に比べて被測定対象物2のひずみが小さいことがわかる。これは歪みゲージ3が被測定対象物2の補強材として働いていることを表す。被測定対象物2の歪みゲージ3から離れた部分は、歪みゲージ3が補強材として働かないので、歪みゲージ3が貼付けられた位置付近よりも大きくひずむ。
【0071】
図8は、第2解析モデル23を用いてシミュレーションを行ったときの被測定対象物2を表す断面図である。シミュレーションの条件は、図7に示すシミュレーション結果を得たときのシミュレーションの条件と同じである。図8は、変形量を見易くするために、シミュレーションによって得られた変形量よりも、変形量を大きくして表している。第2解析モデル23は、第1解析モデル22から歪みゲージ3を除いたモデルであるので、第2解析モデル23を用いて、歪みゲージ3の補強材としての効果を除いたシミュレーションを行うことができる。シミュレーション結果から、被測定対象物2は、全体として変形することがわかる。すなわち歪みゲージ3が貼付けられた位置付近の領域Aも、被測定対象物2の歪みゲージ3から離れた部分と同様に変形する。このように、歪みゲージ3を貼付けていない状態の被測定対象物2のひずみを正確に推定することができる。
【0072】
被測定対象物2は、樹脂材料を含んで形成され、被測定対象物2のヤング率は、ゲージのヤング率の数分の1以下であり、20,000MPa以下である。ヤング率が20,000MPa以下の柔らかい被測定対象物2に固い歪みゲージ3を貼付けて、被測定対象物2のひずみを測定すると、歪みゲージ3の補強材としての作用が測定結果に顕在化するが、本発明では、歪みゲージ3を貼付けていない状態の被測定対象物2のひずみを正確に推定することができる。したがって、樹脂材料から成る柔らかい被測定対象物2であっても、正確にひずみの推定を行うことができる。
【0073】
また歪みゲージ3を用いた測定に基づいて被測定対象物2のひずみを算出するので、被測定対象物2の表面に歪みゲージ3を貼付ける空間があればどのような空間においても被測定対象物2のひずみを正確に推定することができる。たとえば筐体に組み込まれた部品であれば、まず部品のひずみを歪みゲージ3を用いて測定する。この測定結果を用いて歪みゲージ3が貼付けていない状態の部品のひずみを推定するためには、シミュレーションを行う必要があるので、部品にかかる力の向きと大きさとを得る必要がある。部品にかかる力の方向は、筐体に固定される部品の固定方法から推定することができる。また部品にかかる力の大きさは、実際に測定した歪みゲージ3のひずみと、シミュレーションによって得られる歪みゲージ3のひずみとが等しくなるように固定される。これによって、部品にかかる力の向きと大きさとを得ることができ、歪みゲージ3が貼付けていない状態の部品のひずみを正確に推定することができる。部品の固定方法から部品にかかる力の向きを推定することができない場合には、部品の表面に複数枚の歪みゲージ3を貼付けて、部品の複数の方向のひずみを測定することによって、部品にかかる力の向きを推定することができる。部品のひずみを正確に推定することができるので、筐体および筐体に組み込まれる部品の機構設計の効率化を図ることができる。
【0074】
被測定対象物2は、実施の一例として、樹脂材料を含んで形成されるとしたけれども、どのような材料から形成される物であっても、本発明を適用することができ、歪みゲージ3を貼付けていない状態の被測定対象物2のひずみを正確に推定することができる。
【0075】
またシミュレーションは、実施の一例として有限要素法を用いて行うとしたけれども、境界要素法および差分法などを用いて行ってもよい。
【0076】
本発明の実施の他の形態のひずみ推定装置1では、被測定対象物2のひずみの推定をより精度良く行うために、測定条件を変えて、前述したステップa1〜ステップa9までの手順を複数回繰返して行い、被測定対象物2のひずみの推定を行う。たとえば被測定対象物2に加えられる予め定める力を変更したり、歪みゲージ3を貼付ける位置を変更したり、歪みゲージ3を貼付ける方向を変更したりして、測定条件を変更し、測定条件を変更する毎に、被測定対象物2のひずみを測定し、各測定毎に、測定結果に基づいて前述したステップa1〜ステップa9までの処理を行う。
【0077】
図9は、ひずみ推定装置1および作業者がひずみを推定する手順を示すフローチャートである。作業者がマウスおよびキーボードを操作することによって、変更した測定条件をひずみ推定装置1に入力すると、ステップb0からステップb1に移る。変更した測定条件とは、たとえば歪みゲージ3が貼付けられる予め定める位置および被測定対象物2に加えられる予め定める力に対応する力などである。
【0078】
ステップb1では、入力手段12は、入力された変更した測定条件を測定条件記憶手段13に与える。測定条件記憶手段13は、変更された測定条件を記憶してステップb2に移る。
【0079】
ステップb2では、ひずみ推定装置1は、前述したステップa1〜ステップa9までの処理を行い、第1解析モデル22の補正を行う。次にステップb3に移る。
【0080】
ステップb3では、作業者がさらに第1解析モデル22の補正を行うか否かを判断し、さらに第1解析モデル22の補正を行うと判断した場合には、ステップb1に移る。作業者が、第1解析モデル22の補正を行わないと判断した場合には、ステップb4に移る。
【0081】
ステップb4では、解析モデル作成手段15は、被測定対象物2のみを模擬する第2解析モデル23を作成する。具体的には、解析モデル作成手段15は、ひずみの差が許容誤差の範囲内となる第1解析モデル22から、歪みゲージ3を表す要素を除いた被測定対象物2のみを模擬する第2解析モデル23を作成する。解析モデル作成手段15は、作成した第2解析モデル23を解析モデル記憶手段14に与え、次にステップb5に移る。
【0082】
ステップb5では、解析モデル記憶手段14は、解析モデル作成手段15から与えられた解析モデルを記憶し、ステップb6に移る。
【0083】
ステップb6では、シミュレーション手段16は、解析モデル記憶手段14に記憶された第2解析モデル23に基づいて、有限要素法を用いてシミュレーションを行い、シミュレーション結果を表示手段18に与え、ステップb7に移る。
【0084】
ステップb7では、表示手段18は、シミュレーション結果を液晶表示ディスプレイに可視表示し、ステップb8に移る。ステップb8では、処理を終了する。
【0085】
第1解析モデル22を補正するために補正する測定条件情報は、たとえば被測定対象物2のヤング率およびポアソン比など複数の情報を含む。したがって、1回のひずみの測定結果から得られるひずみから、これら複数の条件の補正を行うことは困難である。本実施の形態においては、ステップb1およびステップb2の処理を複数回繰返すことによって、被測定対象物2に加える力などの測定条件を変えて、各測定結果に合うように第1解析モデル22を補正する。このように複数回のひずみの測定結果に基づいて第1解析モデル22を補正するので、1回のひずみの測定に基づいて第1解析モデル22を補正する場合に比べて、被測定対象物2に歪みゲージ3が貼付けられた状態をより正確に模擬する第1解析モデル22を作成することができる。この第1解析モデル22に基づいて、被測定対象物2を模擬する第2解析モデル23を作成するので、第2解析モデル23は、被測定対象物2をより正確に模擬する。被測定対象物2をより正確に模擬する第2モデルを用いて、シミュレーションを行うので、より正確に被測定対象物2のひずみを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施の一形態のひずみ推定装置1の機能的構成を示すブロック図である。
【図2】ひずみ推定装置1のハード構成を示すブロック図である。
【図3】被測定対象物2と、歪みゲージ3と、データロガー4と、ひずみ推定装置1との接続関係を模式的に示す図である。
【図4】被測定対象物2と歪みゲージ3との形状をモデル化した斜視図である。
【図5】被測定対象物2と歪みゲージ3とのメッシュモデル21の斜視図である。
【図6】ひずみ推定装置1がひずみを推定する手順を表すフローチャートである。
【図7】第1解析モデル22を用いてシミュレーションを行ったときの被測定対象物2と歪みゲージ3とを表す断面図である。
【図8】第2解析モデル23を用いてシミュレーションを行ったときの被測定対象物2を表す断面図である。
【図9】ひずみ推定装置1および作業者がひずみを推定する手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0087】
1 ひずみ推定装置
2 被測定対象物
3 歪みゲージ
7 処理部
8 記憶部
9 入力部
10 出力部
11 接続部
12 入力手段
13 測定条件記憶手段
14 解析モデル記憶手段
15 解析モデル作成手段
16 シミュレーション手段
17 比較手段
18 表示手段
19 測定結果記憶手段
20 接続手段
21 メッシュモデル
22 第1解析モデル
23 第2解析モデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歪みゲージが予め定める位置に貼付けられた被測定対象物に予め定める力を加えて、前記歪みゲージによって計測されたひずみを求め、
被測定対象物の前記予め定める位置に歪みゲージが貼付けられた状態を模擬する第1モデルを作成し、
第1モデルを用いて、被測定対象物に前記予め定める力を加えたときの被測定対象物のひずみと歪みゲージのひずみとを算出し、
前記算出して得られた歪みゲージのひずみが、前記計測によって求めた歪みゲージのひずみに近づくように、第1モデルを補正し、
補正された第1モデルに基づいて、被測定対象物を模擬する第2モデルを作成し、
第2モデルを用いて、被測定対象物に前記予め定める力を加えたときの被測定対象物のひずみを算出することによって被測定対象物のひずみを推定することを特徴とするひずみ推定方法。
【請求項2】
前記歪みゲージのヤング率よりも低いヤング率を有する前記被測定対象物のひずみの推定に用いられることを特徴とする請求項1記載のひずみ推定方法。
【請求項3】
樹脂材料を含んで形成される被測定対象物のひずみの推定に用いられることを特徴とする請求項2記載のひずみ推定方法。
【請求項4】
歪みゲージが予め定める位置に貼付けられた被測定対象物に予め定める力を加えて、前記歪みゲージによって計測されたひずみを記憶する記憶手段と、
被測定対象物の前記予め定める位置に歪みゲージが貼付けられた状態を模擬する第1モデル、および被測定対象物を模擬する第2モデルを作成するモデル作成手段と、
第1モデルを用いて、被測定対象物に前記予め定める力を加えたときの被測定対象物のひずみと歪みゲージのひずみとを算出し、第2モデルを用いて、被測定対象物に前記予め定める力を加えたときの被測定対象物のひずみを算出することによって被測定対象物のひずみを推定する算出手段と、
算出手段によって推定される被測定対象物のひずみを出力する出力手段とを含み、
前記モデル作成手段は、前記算出して得られた歪みゲージのひずみが、前記計測された歪みゲージのひずみに近づくように、第1モデルを補正し、補正された第1モデルに基づいて、前記第2モデルを作成することを特徴とするひずみ推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−114061(P2007−114061A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306171(P2005−306171)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】