説明

びびり振動検出方法

【課題】びびり振動の検出を確実にできるびびり振動検出方法を提供する。
【解決手段】加工運転時に振動Wを測定し、測定した振動を、フーリエ解析により所望のn個の周波数における位相Φ01〜Φ0nとパワースペクトルP01〜P0nを演算する。所定の時間後に振動Wを測定し、同様に、n個の周波数における位相Φ11〜Φ1nとパワースペクトルP11〜P1nを演算する。所定の周波数Cにおける位相差Φ0C−Φ1Cとが許容値KΦ以下で、パワースペクトル比P1C/P0Cが許容値Kより大きいときに振動数Cのびびり振動が発生したと判定するびびり振動検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械を用いて工作物を加工するときに発生するびびり振動の検出に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有害なびびり振動を抑制するためにはびびり振動が発生したことと、びびり振動の周波数を知ることが重要である。びびり振動検出方法として、振動の周波数に基づきびびり振動の有無を判定する従来技術1(例えば、特許文献1参照)がある。
また、振動の大きさと一定時間内における振動の変化の度合いに基づきびびり振動の有無を判定する従来技術2(例えば、特許文献2参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−210840号公報
【特許文献2】特開2000−233368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術1ではあらかじめ記憶された基準振動と加工時に発生するびびり振動の各周波数を比較することでびびり振動を検出しているが、あらかじめ記憶された基準振動以外の周波数のびびり振動の検出はできない。
従来技術2では振動の大きさと一定時間内における振動の変化の度合いに基づきびびり振動を検出しているが、びびり振動が発生していない場合にも、加工条件や、工具の切味の変化により振動の大きさは変化するのでびびり振動の検出ができない恐れがある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、びびり振動の検出を確実にできるびびり振動検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するための請求項1に係る発明の特徴は、工作機械により工具を用いて工作物を加工するときに発生するびびり振動の発生を検知するびびり振動検出方法であって、
工作機械の振動を測定し時間領域の振動のフーリエ解析を行い周波数領域の周波数における位相とパワースペクトルを算出する第1工程と、
前記第1工程から所定時間後に、振動を測定し時間領域の振動のフーリエ解析を行い、周波数領域の周波数における位相とパワースペクトルを算出する第2工程と、
前記第1工程における所定周波数の振動と前記第2工程における前記所定周波数の振動の位相差を演算し、前記位相差が所定値以下であり、かつ、前記第1工程における前記所定周波数の振動のパワースペクトルより、前記第2工程における前記所定周波数の振動のパワースペクトルが大きいときに、びびり振動が発生したと判定する第3工程と、を備えることである。
【0006】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記第3工程の位相差の演算が、前記第1工程の前記所定周波数の振動の位相周期を前記所定時間だけ時間軸方向へ延伸した振動波形の位相と、前記第2工程における位相との位相差を演算することである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る発明によれば、振動の位相差と、振動のパワースペクトルの差の両方を用いてびびり振動か否かを判定して検出するので、振動の大きさのみで判定する従来手法より信頼性が高い。
【0008】
請求項2に係る発明によれば、位相差を第1工程と第2工程の測定時刻差を用いて正確な位相差を短時間に演算できるので、短時間に正確なびびり振動検出ができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態における工作機械とびびり振動検出装置を示す全体図である。
【図2】継続的な振動と、散発的な振動の概念を示す図である。
【図3】位相差演算の概念を示す図である。
【図4】びびり振動検出方法の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は加工中に発生した継続的な振動をびびり振動として検出するものであり、実施形態を図1〜図4に基づき説明する。
図1に示すように、工作機械1はベッド6上に、運動可能に支持された主軸3と、固定された工作物4を備えている。主軸3は工具2を回転保持しており、主軸3の回転、送りなどの運動制御はNC装置7により制御される。工具2と工作物4を相対運動させて所望の加工を行う。主軸3には振動を検出する振動センサ5を備え、振動センサ5の出力はびびり振動検出装置8に出力される。びびり振動検出装置8の内部には、フーリエ解析を行うFFT演算装置81、びびり振動の発生の有無を判定するびびり判定装置82を備えている。びびり判定装置82の機能的構成として位相差を演算する位相差演算部821とパワースペクトル比演算部822を備えている。
【0011】
工作機械1を用いた切削加工中のびびり振動検出方法について説明する。
はじめに、加工中に発生する振動の形態について図2に基づき説明する。
加工中には各種の周波数の振動が同時に発生しているが、同一周波数の振動でもその発生原因により継続して振動する場合と、断続的にランダムに発生する場合がある。図2中aは振動Wが継続する振動であり、図2中bは振動W、W、Wが断続的に発生している振動である。継続する振動はその原因が継続しているので継続し、断続する振動はその原因が断続するので断続し、振動振幅もばらつく。継続する振動には、工具2のアンバランスに基づく振動、転がり軸受を用いた主軸3の場合は軸受の玉数に基づく振動、工具2の刃数と工具回転速度で決まる切れ刃の作用周期に基づく振動、再生型びびり振動などがある。断続する振動としては、工作物4の硬度変化、冷却液の供給変動、切屑排出の変動、外部からの外乱振動などがある。
びびり振動は、継続する振動のなかから、工作機械1の可動部が運動中でかつ加工をしていない時にも発生している振動を、除いた振動である可能性が高い。
【0012】
継続して振動する振動か否かの判定方法について図2、図3に基づき説明する。
図2において、継続する振動Wの場合は、振動測定開始時の振動の位相が分かれば、時間t後の位相は振動周期を用いて推定可能である。この推定した位相と、時間t後に実測した位相は同じになる。しかし、断続する振動では振動WとWは互いに独立し関連はないため、振動Wの位相から推定した時間t後の位相は、時間t後に実測した位相Wの位相とは異なる可能性が高い。この特性を利用して継続する振動か否かの判定を行う。
【0013】
図3に基づき具体的な判定方法を説明する。測定開始時の振動Wの位相をΦとし、時間t後に測定した振動の位相をΦとし、振動周期をTする。ここで、位相差を2π以内で表すとすると、継続する振動の場合は、t後の位相はΦ+ΩとなりΩは2πに(t/T)の小数部分を乗じた値となる。t後に測定された振動の位相ΦがΦ+Ωと同じであればその振動は継続振動と見なし、所定の差Φsを持つ場合は断続振動であると見なす。
【0014】
再生型びびり振動は発生初期から一定期間はその振幅が大きくなる特性を備えているので、継続振動のなかで時間の経過につれ振幅が大きくなるものは再生型のびびり振動である可能性が高い。
【0015】
実際の測定では各種の周波数が合成された振動として測定されるので、フーリエ解析により振動の周波数別に位相と、振幅に相当するパワースペクトルを演算することで、所望の範囲の周波数の振動について上記の振動の位相差判定と振幅(パワースペクトル)比較が可能となる。
【0016】
以下、図4のフローチャートに基づき、周波数が1〜nまでのn個の振動について、加工時に所定時間間隔で位相差とパワースペクトル比を比較しびびり振動か否かの判定を行う、びびり振動検出方法について説明する。
加工時に振動測定センサ5により振動Wを測定する(S1)。FFT演算装置81において、フーリエ解析により所望のn個の周波数毎の位相とパワースペクトルを演算する(S2)。n個の周波数に対応する位相をΦ01〜Φ0nとし、パワースペクトルをP01〜Ponとしてびびり判定装置82に記録する(S3)。振動Wの測定開始時から所定の待機時間tだけ待機する(S4)。振動測定センサ5により振動Wを測定する(S5)。FFT演算装置81において、フーリエ解析によりn個の周波数毎の位相とパワースペクトルを演算する(S6)。n個の周波数に対応する位相をΦ11〜Φ1nとし、パワースペクトルをP11〜P1nとしてびびり判定装置82に記録する(S7)。カウンタCの値を1とする(S8)。位相差演算部821において、周波数Cの振動の位相差が許容値KΦより大きいか否か(|Φ0C−Φ1C|≧KΦ?)を判定する。|Φ0C−Φ1C|≧KΦであれば周波数Cのびびり振動は発生していないと判定しS12へ移動し、そうでなければS10へ移動する(S9)。パワースペクトル比演算部822において、周波数Cの振動のパワースペクトル比が許容値Kより大きいか否か(P1C/P0C≧K?)を判定する。P1C/P0C≧KであればS11へ移動し、そうでなければ周波数Cのびびり振動は発生していないと判定しS12へ移動する(S10)。びびり判定装置82からNC装置6へ「周波数Cのびびり振動が発生している」と出力する(S11)。カウンタCに1を加算する(S12)。n個の周波数の判定が終わったか判定する。C=n+1なら終了、そうでないならS9へ移動する(S13)。
【0017】
以上のように、本発明のびびり振動検出方法によれば所望周波数の振動について、加工時に所定時間間隔で測定する振動の位相差とパワースペクトル比を演算し、位相差が所定の許容値KΦより小さく、かつ、パワースペクトル比が所定の許容値Kより大きいときにその周波数のびびり振動が発生したと判定する。
【0018】
従来のびびり振動検出方法では、特定の周波数領域をあらかじめ定め、その周波数の振動の大きさ変動によるびびり振動判定であるため、偶発的に発生する断続振動による振動の増大をびびり振動と誤判定する。また、あらかじめ定めた特定の狭い周波数領域の検出方法であるため、特定周波数以外のびびり振動は検出できず、汎用性に乏しい。
これに対して、本発明のびびり振動検出方法では、びびり振動の発生する可能性のある全周波数の振動について、継続する振動で、時間とともにパワースペクトルが増大する周波数の振動のみをびびり振動と判定できる。このため、ノイズに妨げられることなく振動が小さな段階のびびり振動を漏れなく検出することが可能で、びびり振動の周波数も特定できる。よって、本発明のびびり振動検出方法を利用することで、早期に適正なびびり振動防止対策を実施することができる。
【0019】
上記の実施形態では、図4における第1工程で測定した位相を2π・t/Tだけ時間軸方向へ延伸した位相と第2工程で測定した位相の位相差によりびびり振動の有無を判定したが、特定周波数のびびり振動を判定するときは、特定周波数の振動周期をTとするとt=n・T(nは整数)の測定間隔で測定し、第1工程で測定した位相と第2工程で測定した位相をそのまま使用して、その位相差によりびびり振動を判定してもよい。
振動の測定を工具を回転させる主軸に設置した振動センサにより測定したが、工作物側に振動センサを設置してもよい。また、振動センサに代えてマイクロホンなどの音センサを用いて振動に起因する音波を測定しても良い、この場合は測定場所の制約が少なくなり、容易にびびり振動検出方法を実施できる。
判定周波数の最小値を1Hzとし、1Hz間隔とした事例で説明したが、所望の周波数範囲と所望の間隔で判定すればよく、20〜2000Hz程度の範囲で、5Hz程度の間隔で判定してもよい。
また、モータ回転などに起因する継続する振動の周波数は、びびり振動と判定しないようにあらかじめ除いておいてもよい。
【符号の説明】
【0020】
1:工作機械 2:工具 3:主軸 4:工作物 5:振動センサ 6:NC装置 8:びびり振動検出装置 81:FFT演算装置 82:びびり判定装置 821:位相差演算部 822:パワースペクトル比演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械により工具を用いて工作物を加工するときに発生するびびり振動の発生を検知するびびり振動検出方法であって、
工作機械の振動を測定し時間領域の振動のフーリエ解析を行い周波数領域の周波数における位相とパワースペクトルを算出する第1工程と、
前記第1工程から所定時間後に、振動を測定し時間領域の振動のフーリエ解析を行い、周波数領域の周波数における位相とパワースペクトルを算出する第2工程と、
前記第1工程における所定周波数の振動と前記第2工程における前記所定周波数の振動の位相差を演算し、前記位相差が所定値以下であり、かつ、前記第1工程における前記所定周波数の振動のパワースペクトルより、前記第2工程における前記所定周波数の振動のパワースペクトルが大きいときに、びびり振動が発生したと判定する第3工程と、を備えるびびり振動検出方法。
【請求項2】
前記第3工程の位相差の演算が、前記第1工程の前記所定周波数の振動の位相周期を前記所定時間だけ時間軸方向へ延伸した振動波形の位相と、前記第2工程における位相との位相差を演算する請求項1に記載のびびり振動検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−7647(P2013−7647A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140499(P2011−140499)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】