説明

べっこう風味を有したノンシュガーハードキャンディ及びその製造方法

【課題】べっこう風味が付与されたノンシュガーハードキャンディ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】グアニル酸ナトリウム及びイノシン酸ナトリウムのうち一つもしくはこれらの混合物が固形重量で0.08〜1.5%含有された糖液を到達温度145〜190℃の範囲で濃縮する工程を有するべっこう風味を有したノンシュガーハードキャンディの製造方法、並びに該製造方法で得られる、べっこう風味を有したノンシュガーハードキャンディ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、べっこう風味が付与されたノンシュガーハードキャンディ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の食事に対する捉え方に、低脂質、低カロリーを重要視する傾向が見られ、飲料においてさえもそれらの必要性が挙げられてきている。菓子類において、特にカロリーに関しては、以前から糖アルコールを用いることでカロリー低下を実現してきたと言える。中でも砂糖を糖アルコールに置き換えた時に最も影響を受ける菓子類として、キャンディが容易に挙げられる。
【0003】
糖アルコール類をベースとしたノンシュガーハードキャンディは、砂糖本来の甘み、味の深み、コクが失われ、薄っぺらい味と無機質な食感がデメリットとなる。特に薄っぺらい味となる為、砂糖ベースに見られる多種多様な商品構成ができず、消費者の嗜好を必ずしも満足させているとは言えない。これらの問題を解決する為に幾つかの手段が取られている。
【0004】
その方法の一つにフレーバーが挙げられ、例えばキシリクリスタル(登録商標)ミントのど飴(キャドバリージャパン(株)社製)はミルクフレーバーによってミルク本来のコクはないもののミルク感を出している。またフルーツ味のキャンディ等は、酸味料、クエン酸やビタミンCの添加量を工夫することで果汁感を表現していると言える。しかしながら、これらの工夫でできる味には限りがあり、上記記載に見られるミルクキャンディといった呈味を有するキャンディにおいては、たんぱく質分解物、アミノ酸や動物性の油脂によって旨味、コク味を作り出している。
【0005】
先にも述べたが、砂糖ベースのキャンディと糖アルコールキャンディの最も大きな違いはやはり砂糖の有無であり、砂糖の甘さがない為、現状甘味料に頼らざるを得なくなっている。しかしながら、高甘味度甘味料は、砂糖に比して甘味の後引きがあり、この後引きの甘味の部分が好ましくないものとして認識される場合がある。また、高甘味度甘味料の中には、好ましくない後甘味とともに苦味を有する場合があり、この苦味も好ましくないものとして認識される。甘味料の改善方法としては、様々な方法が提案され、ペッパー抽出物を添加する方法(特許文献1)、甘味料のアスパルテームの分解生成物(特許文献2)、さとうきびのバガス抽出物(特許文献3)や酵母抽出物(特許文献4)等を利用した方法が挙げられ、非常に研究が盛んと言える。
【0006】
一方、砂糖を加熱することで独特の香り、味ができるべっこうは、糖類が全体の0.5重量%未満しか使用できないノンシュガーハードキャンディおいては、決してできることはない。このような場合においてフレーバーを用いても望ましい風味になることは困難であり、特に香りに伴う呈味については全く付かない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭64−63356号公報
【特許文献2】特公昭58−162260号公報
【特許文献3】特許第3934812号公報
【特許文献4】特許第3088709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、べっこう風味が付与されたノンシュガーハードキャンディ及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題解決のために鋭意研究を行った結果、様々な糖アルコールに核酸の一種であるイノシン酸ナトリウム及びグアニル酸ナトリウムのうち一つ又はこれらの混合物を添加し、特定の温度帯で濃縮させると、驚くべきことにべっこう味のノンシュガーハードキャンディが出来るという事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、
(1)グアニル酸ナトリウム及びイノシン酸ナトリウムのうち一つ又はこれら混合物が固形重量で0.08〜1.5%含有された糖液を到達温度145〜190℃の範囲でする工程を有するべっこう風味を有したノンシュガーハードキャンディの製造方法、
(2)前記(1)に記載の製造方法で得られる、べっこう風味を有したノンシュガーハードキャンディ
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のノンシュガーハードキャンディは、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムを用いることで砂糖を焦がしたようなおいしいべっこう風味が付与されており、従来のノンシュガーハードキャンディで表現することが難しかった味を表現することができる。このため、カロリーを意識している人に、べっこうのおいしさをノンシュガーハードキャンディとして提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で使用できるイノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムは、純度が高ければ化学合成品、発酵製品、天然物からの抽出品が使用できる。またそれらの形状は粉末又は溶液であっても良く、特に制限はない。
【0013】
本発明において、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムもしくはそれら混合物は、濃縮前の糖液中に固形重量で0.08〜1.5重量%となるように添加される。前記含有量が0.08重量%未満ではべっこう風味が弱く、1.5重量%より多くなるとイノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムが元来持つ旨味、香りが強くなり、本来の目的であるべっこう風味が付与されたおいしいノンシュガーハードキャンディではなくなる。前記含有量は、好ましくは0.13〜0.8重量%である。
【0014】
前記糖液で使用できる糖質としては、還元麦芽糖水飴、還元水飴、還元パラチノース、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、マンニトール、ソルビトール等が挙げられる。また、ノンシュガーハードキャンディの固形分全体の0.5重量%未満であれば、ブドウ糖、果糖等の単糖類、砂糖、乳糖、麦芽糖等の二糖類、オリゴ糖類、水飴類等の混合糖類を原料として用いてよく、またこれらの糖類を含有する果汁や乳製品に関しても、固形分全体の0.5重量%未満の範囲内であれば使用することができる。また、前記糖液には、副原料として澱粉、小麦粉、油脂、香料、酸味料、調味料、甘味料(前記糖質や糖類を除く)等を任意に添加することができる。
【0015】
本発明では、前記成分を混合し、前記糖質を加水して加熱溶解して糖液を調製する。糖液を調製する場合、良好なべっこう風味を出す観点から、イノシン酸ナトリウム及び/又はグアニル酸ナトリウムを添加する際の温度を145℃未満にしておくことが好ましい。
なお、前記副原料は、後述のように濃縮後の段階で添加すればよい。
【0016】
本発明における加熱条件としては、開放系もしくは閉鎖系のどちらでも良く、熱源についても特に規定はない。
【0017】
得られた糖液の水分値としては、特に限定はないが、取り扱い易さの観点から、20重量%以下であることが好ましい。
【0018】
次いで、得られた糖液を到達温度145〜190℃の範囲で濃縮する。到達温度は、糖液自体の温度をいう。
本発明における濃縮時の到達温度としては、145℃〜190℃の範囲に調整する点に特徴がある。この範囲に調整することでべっこう風味がありながら、甘さを保持し、苦さを抑えることが容易となる。前記到達温度が145℃未満では、べっこう風味が弱く、190℃より高くなってくると、少し苦みが現れ、得られた甘さが失われることになる。またべっこう臭よりも炭臭が強くなり、舐めて食するキャンディにとってはデメリットとなり、人によっては不快感を抱くようになる。前記到達温度は、好ましくは160℃〜175℃である。
なお、前記濃縮は、常圧で行えばよい。
【0019】
前記到達温度は、濃縮物の水分値に応じて適宜決定すればよい。濃縮物の水分値としては、ハードキャンディの条件を満たす水分値であればよいが、例えば、3重量%以下が好ましい。
【0020】
また、作業時間を短くできる観点から、前記濃縮を減圧乾燥下で行うことが好ましい。
【0021】
次いで、得られた濃縮物に必要であれば副原料を添加して成形し、この成形物を冷却することでノンシュガーハードキャンディを得ることができる。
濃縮物の成形方法としては、一般的なキャンディの成形手段と同じにすればよい。例えば、所望の型に前記濃縮物を充填する手法、スタンピング成型法等が挙げられる。成形物はさらに所望の形状に切り分けてもよい。
前記のようにして得られる成形物の冷却は、室温以下で行えばよく、温度には特に限定はない。
以上のようにして得られたノンシュガーハードキャンディには、オイリングなどの処理を施したり、包装してもよい。
【0022】
本発明で製造されたノンシュガーハードキャンディは、任意に他のキャンディと組み合わせることが可能である。他のキャンディの種類としては、本発明により得られるノンシュガーハードキャンディ以外のハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディが含まれるが、耐久面等に問題がなく、品質を落とさないのであれば、これに限定されるわけではない。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
(実施例1〜4及び比較例1、2)
固形重量で100部である75%還元麦芽糖水飴に表1に示したグアニル酸ナトリウム及びイノシン酸ナトリウムの各粉末を加え、75℃で加熱溶解した後、常圧下で到達温度175℃まで濃縮した。なお、グアニル酸ナトリウム及びイノシン酸ナトリウムの添加量に関しては、表1に示した。
次いで、濃縮物を25℃で冷却し、得られた冷却物をスタンピングにより成型し、この成型物を再度10℃で冷却して水分値1%のノンシュガーハードキャンディを得た。
【0025】
【表1】

【0026】
できあがったノンシュガーハードキャンディを20〜40代までの男女計40名に舐めてもらい、べっこう感、甘さ及び不快感について調査した。結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2における記号は以下の内容を示している。
べっこう感(べっこう風味)について、
「+」べっこう感を感じる。
「++」べっこう感を強く感じる。
「+++」べっこう感をとても強く感じる。
「−」べっこう感を全く感じない。
不快感について、
「+」不快感が若干ある。
「++」不快感がある。
「+++」不快感が強く感じる。
「−」不快感が全く感じない。
甘さについて、
「+」還元麦芽糖水飴のキャンディ対し、甘さが若干ある。
「++」還元麦芽糖水飴のキャンディ対し、甘さがある。
「+++」還元麦芽糖水飴のキャンディ対し、甘さが強くある。
「−」還元麦芽糖水飴のキャンディ対し、同等の甘さがある。
【0029】
表2の結果から、実施例1〜4で得られたノンシュガーハードキャンディは、いずれもべっこう感を有し、甘さもありかつ苦味などの不快感を感じない又は感じ難いものであった。
具体的には、実施例3に関しては、最もべっこう感を感じるものの若干の不快な味を感じるとされるが、商品力を落とす程度ではないと判断できた。一方、比較例2に関しては、べっこう感は強いと思われるが、不快な味が強すぎ、商品力を落とす程だと判断された。また実施例1に関しては、弱いながらもべっこう感があると評価されたが、比較例1に関しては、べっこう風味が非常に弱く、元来のノンシュガーハードキャンディとの差別化ができていないと判断された。また甘みについては、実施例4が最も高く、実施例2、3及び比較例2はある程度甘く、実施例1は比較例1に比べれば少し甘いといった結果が得られた。
【0030】
(実施例5〜7及び比較例3、4)
固形重量で100部である75%還元麦芽糖水飴にイノシン酸ナトリウム粉末を1重量%で添加し、常圧下で表3に示される炊き上げ到達温度の条件にて濃縮を行った。濃縮後は、実施例1と同様にしてノンシュガーハードキャンディを得て、べっこう感、不快感、甘さについて評価した。その結果を表4に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
表4の結果から、実施例5〜7で得られたノンシュガーハードキャンディは、いずれもべっこう感を有し、甘さもありかつ苦味などの不快感を感じない又は感じ難いものであった。
具体的には、実施例7においては、べっこう感が強く感じるものの若干の苦みを伴う不快感があるとされるが、商品力を落とす程ではないと判断された。一方、比較例4に関しては、苦み不快臭が強く商品力が低下していると判断された。また実施例5では弱いながらもべっこう風味を感じることができるのに対し、比較例3ではべっこう風味が弱く、核酸特有の香りが強く感じられるとされた。また甘さについては実施例6が最も強く、実施例6及び比較例4に見られるように焦げ感が増すにつれ、甘さが減少することとなった。
【0034】
(比較例5、6)
実施例2の条件のうち、イノシン酸のかわりに、同量の魚由来のDNA(デオキシリボ核酸)Na(ナトリウム)(比較例5)又はビール酵母由来のRNA(リボ核酸)(比較例6)を用いた以外は、実施例2と同様にしてノンシュガーハードキャンディを製造した。それぞれ、魚もしくは酵母臭が強くて、不快感があり、べっこう風味が隠れてしまっていた(マスキングされていた)。結果を表5に示す。
【0035】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グアニル酸ナトリウム及びイノシン酸ナトリウムのうち一つもしくはこれらの混合物が固形重量で0.08〜1.5%含有された糖液を到達温度145〜190℃の範囲で濃縮する工程を有するべっこう風味を有したノンシュガーハードキャンディの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で得られる、べっこう風味を有したノンシュガーハードキャンディ。

【公開番号】特開2012−10610(P2012−10610A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147830(P2010−147830)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】