まちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法。
【課題】まちづくり計画地の立地環境の的確な把握と緑化との相関性をより効果的に結合可能にし、資源エネルギーの有効利用を図ること。
【解決手段】まちづくり計画地1の立地環境把握と緑化方法として、計画地1の地理的環境を調査して地理的位置づけを確認する(第1工程)。次に、計画地1の地形的環境を調査して地形的な細部を把握する(第2工程)。次に、第1工程及び第2工程の調査結果に基づいて、計画地の立地環境を把握する(第3工程)。次に、計画地1の微気候をデザインして夏涼しく、冬暖かい室内気候を創造するために道路・宅地割り設計、植栽設計を行う(第4工程)。そして、それらの設計にしたがって計画地1に樹木等を植栽し緑化する。
【解決手段】まちづくり計画地1の立地環境把握と緑化方法として、計画地1の地理的環境を調査して地理的位置づけを確認する(第1工程)。次に、計画地1の地形的環境を調査して地形的な細部を把握する(第2工程)。次に、第1工程及び第2工程の調査結果に基づいて、計画地の立地環境を把握する(第3工程)。次に、計画地1の微気候をデザインして夏涼しく、冬暖かい室内気候を創造するために道路・宅地割り設計、植栽設計を行う(第4工程)。そして、それらの設計にしたがって計画地1に樹木等を植栽し緑化する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微気候を有効利用したまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かつて資源エネルギーを利用できなかった時代、人々は暑さ寒さを少しでも和らげ、気持ちよく過ごそうといろいろな工夫をしてきた。住まいは現在のように内外が明確に区切られていなかったため、周辺の自然環境と有機的に連続していた。そして、水や緑、風、太陽など自然エネルギーの恵みを借りて、住まいの周辺環境を冬は暖かく、夏は涼しく変化させる知恵があった。特に樹木には周辺の気候を緩和する微気候形成の機能があり、家のまわりにヒューマンスケールの気候を作り上げていた。
【0003】
しかし現代では、植栽が果たしてきた機能が住宅設備などに置き換えられるようになり、主に審美的な対象として据えられるようになった。見た目の美しさといった審美的機能にウエイトが偏り、微気候形成機能の役割が小さくなってしまった。その為、生活環境を向上させる上での重要な役割である、微気候にはほとんど配慮されていないのが現状である。
【0004】
例えば、近年の住宅団地開発は、計画地の自然環境や社会環境に配慮することは希で、販売や利益を優先させた事業計画が一般的であり、その結果として、時間の経過とともに良質な町並みが形成されることは皆無といっても良いような現状である。
【0005】
一方、全国各地に現存している伝統的なまちや集落は、地域の自然環境に寄り添うような、美しい佇まいを残す例が多く見受けられる。その建物周辺環境には、気候風土や立地環境を考慮した緑化など、蒸し暑い夏と厳しい冬に対して心地よく暮らせるよう、数々の工夫をかいま見ることができる。
【0006】
70年代のエネルギー危機、80年代の地球環境問題を経て、環境と共存した住まいづくり・まちづくりが求められるようになってきた。しかし、エコロジカルな時代に適合するような、自然環境や生態系に配慮し、健康的で住み手に愛着がわいてくるようなまちづくりはどのようにしたらよいのか、その開発手法はいまだ明確ではない。
【0007】
近年のまちづくりにおける計画素地は、伝統的なそれとは異なり条件が大きく変化している。埋め立て地や原野のように新たに居住環境と自然環境をつくる場合、地形や植生を破壊した造成宅地、里山や林地などの環境を活用したまちづくりなど、多岐にわたっている。
【0008】
このような問題は個々の住宅レベルで推進していくことよりも、周辺環境を含むまち全体として行うことが重要かつ効果的であり、それにより環境問題の改善を図れることが予想される。例えば、大規模なまちづくり計画地の造成を行う場合においては、計画地全体に微気候が効果的に形成されるように設計し造成する必要がある。従来においても、山林斜面の緑地を利用することや、その地に生えている自然林地帯の自然林を公園の緑として利用することなどが行われていた(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2002−220839
【0010】
しかしながら、上記従来例においては、樹木を調達して植栽するためのコスト削減および景観には配慮されていたが、微気候が効果的に形成される植栽方法については配慮されていなかった。また、人間は他の生物と同様に気候風土に合致するよう長い時間をかけて進化してきたが、最近における住宅内のあまりにも変化のない均質な人工環境調整は生物学的に不健康であるという指摘もされている。
【0011】
このような視点から、住宅の室内環境は空気調和など人工的な手法での環境調整を主体として考えるのではなく、その地域の気候風土の特性を活かした自然気候調節を主とし、それだけではカバーしきれない夏の暑さ、冬の寒さに対して人工的な手段で補う必要性がある。したがって、これからの計画地は資源エネルギーに依存しすぎることなく、樹木のもつ潜在的な微気候形成機能を活用した総合的な環境整備が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上の点を考慮した上での計画地の緑化に際しては、計画地の立地環境の的確な把握に基づいた緑化により微気候をデザインすることが重要なポイントとなる。それは、微気候を有効利用したまちづくり計画地の立地環境に配慮した緑化を行う必要があるからである。特に、計画地の立地環境の的確な把握と緑化との相関性をより効果的に結合することで、資源エネルギーの有効利用を図ることが可能になる。
【0013】
しかし、計画地の立地環境の把握は複雑で困難な場合が多い。なぜなら、計画地は地理的環境や地形的環境によって相関的に複雑に変化した気候特性(微気候)を示すからである。したがって、計画地の立地環境を容易にかつ的確に把握できれば、計画地の微気候をより効果的にデザインして、資源エネルギーの有効利用を図れる住み良いまちづくりを行うことが可能になる。
【0014】
本発明の課題は、計画地の立地環境の的確な把握と緑化との相関性をより効果的に結合することができ、これにより資源エネルギーの有効利用を図ることができる、微気候を有効利用したまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法の技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法は、計画地の地理的環境を調査して地理的位置づけを確認する第1工程と、計画地の地形的環境を調査して地形的な細部を把握する第2工程と、第1工程及び第2工程の調査結果に基づいて、計画地の立地環境を把握する第3工程と、計画地の気候特性を調整して夏涼しく、冬暖かい室内気候を創造するために道路・宅地割り設計、植栽設計を行う第4工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、計画地の地理的環境を調査して地理的位置づけを確認する第1工程と、計画地の地形的環境を調査して地形的な細部を把握する第2工程と、第1工程及び第2工程の調査結果に基づいて、計画地の立地環境を把握する第3工程とを採用しているので、計画地の立地環境を容易かつ的確に把握できる。そして、計画地の微気候をデザインして夏涼しく、冬暖かい室内気候を創造するために、道路・宅地割り設計、植栽設計を行うことで、計画地の立地環境の的確な把握と緑化との相関性をより効果的に結合することができる。これにより、計画地全体での資源エネルギーの使用を効率的に節減することが可能になる。
【0017】
本発明において、第1工程では、地理的環境を把握するために、縮尺が10万〜1/50万程度、好ましくは20万〜1/30万程度の県単位ほどの地図より、計画地が海に近いのか、平地か、盆地かを見極める工程を含むことが好ましい。このような第1工程を経ることで、計画地をマクロ的に見て立地環境特性を把握することができる。
【0018】
また、第2工程では、地形的環境を把握するために、縮尺が1/1万〜1/2.5万程度で、歩き回ってその詳細が確認できるほどの地形図を用い、少なくとも計画地の微地形や斜面方位、地盤や地下水の状況を推測し、さらに、周辺の建物形状や位置、周辺緑地の規模を調査することが好ましい。このような第2工程を経ることで、計画地をミクロ的に見て立地環境特性を把握することができる。
【0019】
本発明において、計画地が山頂または山頂付近の立地であり、年間を通して強風頻度の高い方位の防風植栽には、奥行きをもたせ樹高を順次高くする植栽とすることが好ましい。このように、防風植栽として、奥行きをもたせ樹高を順次高くした場合、風を上方に追いやる植栽とすることができる。
【0020】
本発明において、計画地が峠付近である場合には、計画地の外へ強風をやりすごす偏向植栽とすることが好ましい。峠付近では風道がはっきりしているので、強風をやり過ごす偏向植栽の方法は極めて有効となるからである。
【0021】
本発明において、計画地の周辺に小山等の小突起がある場合に、その小突起の方位や距離に対応させて、夏季の採涼活用、冬の季節風や台風などの防風効果をもたせるために必要な計画地の緑化計画に基づいた植栽を行うことが好ましい。このような植栽により、小山等の小突起を計画地の微気候デザインに有効利用することができる。
【0022】
本発明において、地形的環境の特性を把握するために、計画地が埋立地、原野、里山、林地、造成地の少なくとも一つを含む場合に、それぞれ対応する計画地について、微気候環境、地象環境、地下水環境、生物環境、地盤形状を調査確認する工程を行うことが好ましい。
【0023】
このような工程を経ることにより、計画地内に微気候を長期的かつ最大限に形成することが可能となり、計画地内を快適で健康的な生活環境とすることができる。また、樹木による自然エネルギーの利用が図られることで、建物内の冷暖房等の使用を減らすことができ、資源エネルギーの大幅な削減を図ることができる。これにより、温暖化現象などの地球環境問題に配慮された、環境と共生可能なまちづくりとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、地理的環境の把握のために、まちづくり計画地1が沿岸近、平野、盆地、山間/標高にある場合の例を示す説明図である。
【0025】
まちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法として、まず、図1〜図3に示すように、計画地1の地理的環境を調査して地理的位置づけを確認する(第1工程)。次に、図4〜図9に示すように、計画地1の地形的環境を調査して地形的な細部を把握する(第2工程)。次に、図10、図11に示すように、第1工程及び第2工程の調査結果に基づいて、計画地の立地環境を把握する(第3工程)。次に、計画地1の微気候をデザインして夏涼しく、冬暖かい室内気候を創造するために道路・宅地割り設計、植栽設計を行う(第4工程)。そして、それらの設計にしたがって計画地1に樹木等を植栽し緑化する。なお、緑化のための植栽については樹木に限らず地被類も含む。
【0026】
以下に、計画地の立地環境の的確な把握と緑化との相関性をより効果的に結合させる方法について順次説明する。
【0027】
<地理的環境:計画地をマクロ的にみて立地環境特性を把握>
まちづくりの立地環境を把握するためには、図1に示すように、まず始めに地理的な位置づけを確認し、次にその場所の地形的な細部を精査することが重要である。地理的環境を把握するには、縮尺が1/20万〜1/30万程度の県単位ほどの地図により、計画地が海に近いのか、平地か、それとも盆地なのかを見極めることが必要になる。地理的環境は気候特性とも密接にからみ、また緑化についても、計画地の生態系に適した樹種の選定などに大きく関わってくる。たとえば、地理的環境が同一の沿岸としても、計画地の海側に砂丘をひかえている場合や、または計画地周辺は山がちであるとか、ちょっとした地理的条件の違いでまちづくりや緑化については、設計にあたって大きな変化がでることになる。
【0028】
<川・湖や海岸付近の立地>
水は熱容量が大きいため水温の変化が少なく、湖や海岸近くは年間を通して昼と夜の気温差が少なく、温和な気候となる。しかし、水面上には風を遮る物がないため、防風への配慮が必要である。
【0029】
(海風/陸風)
海岸(湖)付近は海と陸の比熱の違いにより、昼間は海から陸へ向かって海風が吹き、夜は陸から海に向かって陸風が吹く。海と陸の温度差の少ない朝と夕方は風向きの変わる時で、その間無風になる。これを朝凪、夕凪といい、夏は身体から発汗しても風によって気化熱が奪われないため、とても蒸し暑いことが多い。街づくり計画地の位置関係によっては、水面からの太陽光の反射で生活環境が悪化するため、植樹などの対策も必要である。また、海岸沿いの計画地では、塩害対策も合わせて考える必要がある。
【0030】
<平野の立地>
平野はまちづくりにおいては、良好な条件を備えている場合が多い立地である。以下に微気候デザインの視点からそのポイントを整理する。
気温は日較差、年較差ともにあまり大きくはなく、沿岸地域ほど温暖ではないが、山間部ほどの較差はみられない。冬季、晴天の夜間は放射冷却によって冷え込む場合がある。計画地付近に市街地があると、風向によってはヒートアイランドの熱の影響を受け、気温が局地的に上昇する場合がある。市街地との間に公園や緑地があると、幾分緩和される。平野であるため、風環境については配慮が必要である。夏は季節風、海風・陸風状況を読み、まちの緑化を計画する。冬の季節風は、地域によってかなり異なるが、緑化による防風は落ち着いた生活環境づくりに有効である。地形が平坦で日射条件は良好であるため、夏季には日射遮蔽、冬季には日射取得に配慮して緑化する。夏季、道路や宅地内の地表温度が高温にならないよう、素材の選定には注意が必要である。
【0031】
<盆地及び標高差のある立地>
(標高による気温差)
一般的に、図2に示すように、標高が100m上がる毎に気温は約0.6℃下がるので、市街地から高い所に位置する街づくりでは、冬の凍結など配慮が必要になる。低地などから150〜200m上がった高台は夏涼しくて、冬暖かい。これは冬期逆転層ができ、低地より2℃前後高い場合があるからです。
【0032】
逆転層:高いところへ上がれば気温が低くなるのが普通であるが、夜間の放射冷却で地表面がひどく冷えたときなど、上層の気温の方が高い場合がある。このことを気温の逆転といい、その層のことを逆転層という。縄文時代の遺跡は大地や山腹に集落が造られる場合が多く見うけられる。これは当時の人々が逆転層のことを体験的に知っていて、より気持ちのよい場所を求めていたことの表れだと考えられる。
盆地:一年を通じて地形の影響で気温の差が大きくあり、盆地には水脈が集まりやすく、夏は高温多湿で蒸し暑く、風が少ない場所である。冬は冷気が停滞して底冷えになりやすいのも特徴である。
【0033】
<山間の立地>
図3に示すように、山の上は強風が吹き抜け、峠の地形は気流が収束して強風が吹く日数が多くなる。誰でも知っているような冬の季節風、冬から春にかけての温帯低気圧の発達に伴う強風、また夏から秋にかけての台風による風がある。地域の気候特性を理解して、計画段階からの対応がまちづくりの正否に大きく絡んでくる。山頂2など、強風が吹き抜ける立地にまちづくりをする場合、植栽3による防風や減風対策は効果が大きく、落ち着いた居住環境づくりに緑化は欠かせない。山頂は四方から風を受けやすい地形で、年間を通して強風頻度の高い方位の防風植栽には、奥行きを持たせ樹高順次高くし、風を上方に追いやる工夫が効果的である。峠は風道4がはっきりするので、強風をやりすごす偏向植栽の方法は有効である。また、強風が居住環境に直接吹き込まないよう、まちへの進入道路の付け方は注意が必要である。
【0034】
<地形的環境の把握>
地形的環境:計画地をミクロ的に見て立地環境特性を把握
立地環境をマクロ的に調べた後、次に計画地とその周辺の地形的な特徴について、細部にわたって精査する。地形的環境を把握するには、縮尺が1/1万〜1/2.5万程度で、歩きまわってその詳細が確認できるほどの地形図を用いることが望ましい。事前に机上で計画地およびその周辺地形の大枠をつかみ、現地調査に望むことが大切である。調査にあたっては、図4に示すように、計画地1の微地形や斜面方位、沿岸の方位、地盤や地下水の状況を推測し、まちづくりのコンセプト立案に必要な項目を確認する。また、調査時には必ず、図9に示すように周辺の建物5の形状や位置、周辺緑地6の規模などについても忘れなく調べることが必要である。
【0035】
<丘陵地 東・西向斜面>
丘陵地などの傾斜地もまちづくり用地として開発されることが多くなってきたが、斜面の方向、尾根や谷筋、山腹、山麗などでは、気候条件が極端に異なる。
東向き斜面:環境はほぼ良好といえる(図5参照)。冬期の夕方は早くから冷え込むが、ほかの斜面と比較すると外気温が高いため、問題になるほどではない。
西向き斜面:冬期には受光時間が長く有利であるが、朝方の気温上昇はゆっくりしている。夏は気温が上昇している午後に西日を正面から受けるため、耐え難い環境になる。
斜面の向きによって日照条件が悪くなる場合あり、四季の太陽高度を考慮した植栽が必要である。斜面地は冬季の夜間に冷気が吹き降りることがあり、常緑樹植栽による冷気止め対策は有効である。
季節によって強風が斜面を吹き上げる場合があり、植栽による防風や減風は効果がある。
【0036】
<丘陵地 南・北向斜面>
南向き斜面:冬は日射を十分に受け温暖になり、また北風も避けられるため最適であり、夏は涼しい(図6参照)。春秋には夏の7割前後の日射を受け、日中は気持ちのよい微気候が形成される。戦前に開発された国内でも名の通った住宅地は南向き斜面が多く利用されている。北半球において南に10度傾斜している場所では、緯度で約6度南よりの平地で得られるのと同等の日射量があり、これはほぼ東京と奄美大島の緯度の差に相当し、北斜面では函館との差に相当する。
北向き斜面:勾配のある斜面ほど冬期は日射量が減少し、年間を通してみると夏冬の温度差が大きくなるため、街づくりの立地としては平坦に近い緩勾配を選定するのが望ましい。南・北斜面は、共に日射条件や風環境に対応した緑化への配慮が有効である。
【0037】
<微地形>
わが国は山がちであり、平野の真ん中でない限り、計画地周辺が広範囲に平坦であることはまれである。図7に示すように多かれ少なかれ地形には微細な変化があり、まちづくりにあたっては周辺の微地形がとのような性格のものであるのか調査が必要である。
(段丘) 河川の浸食によって形成されるケースと、地震による地殻変動でできる場合が考えられる。計画地1を含む周辺の地質や水環境などについて綿密に調べることがひつようである。
(窪地・谷地) かつて河川や沼、低湿地であった可能性が高く、地盤や地下水位についての調査が必要である。
(小突起) 計画地1のどの方位に小突起や小山7が存在するかで、微気候デザインは変化する。夏季の採涼に活用できるのか、または冬の季節風や台風などの防風効果が期待できるかによって、計画地の緑化計画にもからんでくる。
(河川・池・沼) 熱容量の大きい水が計画地1の近くにあるため、気温などは安定する傾向にある。地盤や常水面の高さによっては、植栽にも影響がでてくる。
【0038】
<沿岸部の海/陸風の方位>
沿岸部にまちづくりをする場合、図8に示すように、計画地1の南方に海8がある場合と、北にそれが位置するのでは、夏と冬の微気候デザインは大きく異なる。
(南側に海がある場合) 夏の季節風は気温よりも低く気持ちのよいものになるが、潮風の影響があるため、緑化には注意を要する。冬の季節風は乾燥している場合が多く、宅地内に寒風が吹き抜けないように配慮したい。また、夏の日中は海から風が吹き、夜間は北よりの陸風が吹くので、通風計画はこの風をうまく室内に取り込むことがポイントである。
(北側に海がある場合) 緩候期には南からの熱いフェーン風が吹く地域もある。冬の季節風は北側海域の広さや海水温度によっても異なるが、湿気を帯びたり雲天が続き、降雨や降雪のある地域も存在する。冬の季節風は北側海域の広さや海水温度によっても異なる。夏の日中は北側の海より風が吹き、夜間は南よりの陸風が吹くケースが多くなる。地域によっては朝凪、夕凪が発生するため、体感温度はかなり暑くなる。
【0039】
<周辺の建物、緑地>
図9に示すように、計画地1の周辺にある高い建物5や緑地6は、まちづくりの微気候デザインに大きく影響を与える。季節によって、そればプラスの要素になるのか、それともマイナスの要素になるのか、見極めることがポイントである。
(付近の高い建物) 冬季の冷たい季節風や台風などの強風が防げるような位置にある場合は、大いに活用したものである。夏季の通風の妨げになる場合や、ビルに蓄熱した熱が計画地1に流入する場合には対応が必要である。
(周囲の高い建物) 計画地1の周囲に高いビルがある場合、ビルの高さやボリューム、間隔にもよるが、ビル風があることを認識し、植栽などで対応することが必要である。また、ビルの形状や高さによっても異なるが、乱流や吹き下ろし、ビル風上の圧力風など、複雑な風環境が形成される。
(緑地) 計画地1の付近や隣接した緑地は夏の冷熱源や冬の温熱源、防風林として有効活用できる。
【0040】
<地形的環境特性(埋立地、原野、里山、林地、造成地)>
最近のまちづくり開発の計画地素地には、次のようなケースが多くなっている。埋立地や原野のように樹木が一本もなく、新たに居住環境と自然環境を造る場合、もともとあった地形や植生を破壊して造成した宅地、里山や林地などの環境を活用したまちづくり、など、大きく分けて3通りある。
まちづくりの初期の素地は異なっても、最終的に周辺自然環境に同化し、良好な微気候の形成を考慮して緑化された街並みを開発するために、地形的な環境特性をどのように把握したらよいか、それぞれの地形について把握しなければならないポイントについて整理してみると、図10のようになる。なお、把握すべき環境特性は微気候環境、地象環境、地下水環境、生物環境、地盤形状が挙げられる。
【0041】
<地形的環境特性(夏/冬の微気候配慮)>
埋立地…付近に熱容量の大きい水が多量にあるため、図11に示すように、気温の日較差は少なく内陸部より温暖である。水面をわたってくる風はさえぎるものがなく、強風対策が必要である。地盤は強くなく、また常水面も高いため緑化には工夫が必要である。水鳥類の野鳥はかなり生息している場合が多い。まちづくりにあたっては、緑化を積極的に実施すると、樹林性の野鳥が増加する。
原野…従来未利用であった原野は、基本的には気候条件や地盤状態は良好でないケースがある。地形や地質の影響で、水はけが悪いことが多い。生物環境としては、植生によって灌木を好む野鳥が生息している。
里山…かって生活に必要な薪炭や堆肥などのために人為的に開発された丘陵地であり、集落に近いため気候条件は良好である。地盤・地質ともに悪い条件は少ない。また地下水の状況も地形から判断しやすい。生物環境は豊かである。
林地…木材利用のために植林され、集落の周辺が多く、杉、檜などの針葉樹が多い。近年は枝払いや草刈りなどの手入れの状態が悪いケースが多く、微気候環境、生物環境ともに好ましくないこともある。まちづくりにあたっては、風や日射環境を考慮して部分的に活用するとよい。
造成地…ここ30年ほどの期間につくられた造成地は、大規模な土木工事によって地形を変え、生態系を破壊してつくられてきたものが大半である。良好な微気候を形成するためには、緑化を積極的に行うとよい。それによって徐々にではあるが生態系がつくられ、年々野鳥も増加する。
【0042】
この図11においては、地形的環境特性と夏/冬の微気候配慮のための整理項目として、左欄に、埋立地、原野、里山、造成地を挙げ、上欄に夏と冬それぞれについて。プラス要素、マイナス要素を挙げて整理し、緑化との相関性を効果的に結合できるように、図表として例示してある。したがって、この図表を参照することで、緑化対策を的確に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態に係るもので、まちづくり計画地が沿岸近、平野、盆地、山間/標高にある場合の例を示す説明図。
【図2】計画地が盆地および標高差のある立地にある場合の例を示す説明図。
【図3】計画地が山間の立地にある場合の例を示す説明図。
【図4】計画地の地形的環境を把握するための例を示す説明図。
【図5】計画地の地形的環境を把握するための例を示す説明図。
【図6】計画地の地形的環境を把握するための例を示す説明図。
【図7】計画地の地形的環境(微地形)を把握するための例を示す説明図。
【図8】計画地の地形的環境を把握するための例を示す説明図。
【図9】計画地の地形的環境を把握するための例を示す説明図。
【図10】計画地の地形的環境特性を把握するための例(図表)を示す説明図。
【図11】計画地の地形的環境特性と夏/冬の微気候配慮について把握するための例(図表)を示す説明図。
【符号の説明】
【0044】
1 計画地
2 山頂
3 植栽
4 風道
5 建物(ビル)
6 緑地
7 小突起(小山)
8 海
【技術分野】
【0001】
本発明は、微気候を有効利用したまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かつて資源エネルギーを利用できなかった時代、人々は暑さ寒さを少しでも和らげ、気持ちよく過ごそうといろいろな工夫をしてきた。住まいは現在のように内外が明確に区切られていなかったため、周辺の自然環境と有機的に連続していた。そして、水や緑、風、太陽など自然エネルギーの恵みを借りて、住まいの周辺環境を冬は暖かく、夏は涼しく変化させる知恵があった。特に樹木には周辺の気候を緩和する微気候形成の機能があり、家のまわりにヒューマンスケールの気候を作り上げていた。
【0003】
しかし現代では、植栽が果たしてきた機能が住宅設備などに置き換えられるようになり、主に審美的な対象として据えられるようになった。見た目の美しさといった審美的機能にウエイトが偏り、微気候形成機能の役割が小さくなってしまった。その為、生活環境を向上させる上での重要な役割である、微気候にはほとんど配慮されていないのが現状である。
【0004】
例えば、近年の住宅団地開発は、計画地の自然環境や社会環境に配慮することは希で、販売や利益を優先させた事業計画が一般的であり、その結果として、時間の経過とともに良質な町並みが形成されることは皆無といっても良いような現状である。
【0005】
一方、全国各地に現存している伝統的なまちや集落は、地域の自然環境に寄り添うような、美しい佇まいを残す例が多く見受けられる。その建物周辺環境には、気候風土や立地環境を考慮した緑化など、蒸し暑い夏と厳しい冬に対して心地よく暮らせるよう、数々の工夫をかいま見ることができる。
【0006】
70年代のエネルギー危機、80年代の地球環境問題を経て、環境と共存した住まいづくり・まちづくりが求められるようになってきた。しかし、エコロジカルな時代に適合するような、自然環境や生態系に配慮し、健康的で住み手に愛着がわいてくるようなまちづくりはどのようにしたらよいのか、その開発手法はいまだ明確ではない。
【0007】
近年のまちづくりにおける計画素地は、伝統的なそれとは異なり条件が大きく変化している。埋め立て地や原野のように新たに居住環境と自然環境をつくる場合、地形や植生を破壊した造成宅地、里山や林地などの環境を活用したまちづくりなど、多岐にわたっている。
【0008】
このような問題は個々の住宅レベルで推進していくことよりも、周辺環境を含むまち全体として行うことが重要かつ効果的であり、それにより環境問題の改善を図れることが予想される。例えば、大規模なまちづくり計画地の造成を行う場合においては、計画地全体に微気候が効果的に形成されるように設計し造成する必要がある。従来においても、山林斜面の緑地を利用することや、その地に生えている自然林地帯の自然林を公園の緑として利用することなどが行われていた(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2002−220839
【0010】
しかしながら、上記従来例においては、樹木を調達して植栽するためのコスト削減および景観には配慮されていたが、微気候が効果的に形成される植栽方法については配慮されていなかった。また、人間は他の生物と同様に気候風土に合致するよう長い時間をかけて進化してきたが、最近における住宅内のあまりにも変化のない均質な人工環境調整は生物学的に不健康であるという指摘もされている。
【0011】
このような視点から、住宅の室内環境は空気調和など人工的な手法での環境調整を主体として考えるのではなく、その地域の気候風土の特性を活かした自然気候調節を主とし、それだけではカバーしきれない夏の暑さ、冬の寒さに対して人工的な手段で補う必要性がある。したがって、これからの計画地は資源エネルギーに依存しすぎることなく、樹木のもつ潜在的な微気候形成機能を活用した総合的な環境整備が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上の点を考慮した上での計画地の緑化に際しては、計画地の立地環境の的確な把握に基づいた緑化により微気候をデザインすることが重要なポイントとなる。それは、微気候を有効利用したまちづくり計画地の立地環境に配慮した緑化を行う必要があるからである。特に、計画地の立地環境の的確な把握と緑化との相関性をより効果的に結合することで、資源エネルギーの有効利用を図ることが可能になる。
【0013】
しかし、計画地の立地環境の把握は複雑で困難な場合が多い。なぜなら、計画地は地理的環境や地形的環境によって相関的に複雑に変化した気候特性(微気候)を示すからである。したがって、計画地の立地環境を容易にかつ的確に把握できれば、計画地の微気候をより効果的にデザインして、資源エネルギーの有効利用を図れる住み良いまちづくりを行うことが可能になる。
【0014】
本発明の課題は、計画地の立地環境の的確な把握と緑化との相関性をより効果的に結合することができ、これにより資源エネルギーの有効利用を図ることができる、微気候を有効利用したまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法の技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法は、計画地の地理的環境を調査して地理的位置づけを確認する第1工程と、計画地の地形的環境を調査して地形的な細部を把握する第2工程と、第1工程及び第2工程の調査結果に基づいて、計画地の立地環境を把握する第3工程と、計画地の気候特性を調整して夏涼しく、冬暖かい室内気候を創造するために道路・宅地割り設計、植栽設計を行う第4工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、計画地の地理的環境を調査して地理的位置づけを確認する第1工程と、計画地の地形的環境を調査して地形的な細部を把握する第2工程と、第1工程及び第2工程の調査結果に基づいて、計画地の立地環境を把握する第3工程とを採用しているので、計画地の立地環境を容易かつ的確に把握できる。そして、計画地の微気候をデザインして夏涼しく、冬暖かい室内気候を創造するために、道路・宅地割り設計、植栽設計を行うことで、計画地の立地環境の的確な把握と緑化との相関性をより効果的に結合することができる。これにより、計画地全体での資源エネルギーの使用を効率的に節減することが可能になる。
【0017】
本発明において、第1工程では、地理的環境を把握するために、縮尺が10万〜1/50万程度、好ましくは20万〜1/30万程度の県単位ほどの地図より、計画地が海に近いのか、平地か、盆地かを見極める工程を含むことが好ましい。このような第1工程を経ることで、計画地をマクロ的に見て立地環境特性を把握することができる。
【0018】
また、第2工程では、地形的環境を把握するために、縮尺が1/1万〜1/2.5万程度で、歩き回ってその詳細が確認できるほどの地形図を用い、少なくとも計画地の微地形や斜面方位、地盤や地下水の状況を推測し、さらに、周辺の建物形状や位置、周辺緑地の規模を調査することが好ましい。このような第2工程を経ることで、計画地をミクロ的に見て立地環境特性を把握することができる。
【0019】
本発明において、計画地が山頂または山頂付近の立地であり、年間を通して強風頻度の高い方位の防風植栽には、奥行きをもたせ樹高を順次高くする植栽とすることが好ましい。このように、防風植栽として、奥行きをもたせ樹高を順次高くした場合、風を上方に追いやる植栽とすることができる。
【0020】
本発明において、計画地が峠付近である場合には、計画地の外へ強風をやりすごす偏向植栽とすることが好ましい。峠付近では風道がはっきりしているので、強風をやり過ごす偏向植栽の方法は極めて有効となるからである。
【0021】
本発明において、計画地の周辺に小山等の小突起がある場合に、その小突起の方位や距離に対応させて、夏季の採涼活用、冬の季節風や台風などの防風効果をもたせるために必要な計画地の緑化計画に基づいた植栽を行うことが好ましい。このような植栽により、小山等の小突起を計画地の微気候デザインに有効利用することができる。
【0022】
本発明において、地形的環境の特性を把握するために、計画地が埋立地、原野、里山、林地、造成地の少なくとも一つを含む場合に、それぞれ対応する計画地について、微気候環境、地象環境、地下水環境、生物環境、地盤形状を調査確認する工程を行うことが好ましい。
【0023】
このような工程を経ることにより、計画地内に微気候を長期的かつ最大限に形成することが可能となり、計画地内を快適で健康的な生活環境とすることができる。また、樹木による自然エネルギーの利用が図られることで、建物内の冷暖房等の使用を減らすことができ、資源エネルギーの大幅な削減を図ることができる。これにより、温暖化現象などの地球環境問題に配慮された、環境と共生可能なまちづくりとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、地理的環境の把握のために、まちづくり計画地1が沿岸近、平野、盆地、山間/標高にある場合の例を示す説明図である。
【0025】
まちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法として、まず、図1〜図3に示すように、計画地1の地理的環境を調査して地理的位置づけを確認する(第1工程)。次に、図4〜図9に示すように、計画地1の地形的環境を調査して地形的な細部を把握する(第2工程)。次に、図10、図11に示すように、第1工程及び第2工程の調査結果に基づいて、計画地の立地環境を把握する(第3工程)。次に、計画地1の微気候をデザインして夏涼しく、冬暖かい室内気候を創造するために道路・宅地割り設計、植栽設計を行う(第4工程)。そして、それらの設計にしたがって計画地1に樹木等を植栽し緑化する。なお、緑化のための植栽については樹木に限らず地被類も含む。
【0026】
以下に、計画地の立地環境の的確な把握と緑化との相関性をより効果的に結合させる方法について順次説明する。
【0027】
<地理的環境:計画地をマクロ的にみて立地環境特性を把握>
まちづくりの立地環境を把握するためには、図1に示すように、まず始めに地理的な位置づけを確認し、次にその場所の地形的な細部を精査することが重要である。地理的環境を把握するには、縮尺が1/20万〜1/30万程度の県単位ほどの地図により、計画地が海に近いのか、平地か、それとも盆地なのかを見極めることが必要になる。地理的環境は気候特性とも密接にからみ、また緑化についても、計画地の生態系に適した樹種の選定などに大きく関わってくる。たとえば、地理的環境が同一の沿岸としても、計画地の海側に砂丘をひかえている場合や、または計画地周辺は山がちであるとか、ちょっとした地理的条件の違いでまちづくりや緑化については、設計にあたって大きな変化がでることになる。
【0028】
<川・湖や海岸付近の立地>
水は熱容量が大きいため水温の変化が少なく、湖や海岸近くは年間を通して昼と夜の気温差が少なく、温和な気候となる。しかし、水面上には風を遮る物がないため、防風への配慮が必要である。
【0029】
(海風/陸風)
海岸(湖)付近は海と陸の比熱の違いにより、昼間は海から陸へ向かって海風が吹き、夜は陸から海に向かって陸風が吹く。海と陸の温度差の少ない朝と夕方は風向きの変わる時で、その間無風になる。これを朝凪、夕凪といい、夏は身体から発汗しても風によって気化熱が奪われないため、とても蒸し暑いことが多い。街づくり計画地の位置関係によっては、水面からの太陽光の反射で生活環境が悪化するため、植樹などの対策も必要である。また、海岸沿いの計画地では、塩害対策も合わせて考える必要がある。
【0030】
<平野の立地>
平野はまちづくりにおいては、良好な条件を備えている場合が多い立地である。以下に微気候デザインの視点からそのポイントを整理する。
気温は日較差、年較差ともにあまり大きくはなく、沿岸地域ほど温暖ではないが、山間部ほどの較差はみられない。冬季、晴天の夜間は放射冷却によって冷え込む場合がある。計画地付近に市街地があると、風向によってはヒートアイランドの熱の影響を受け、気温が局地的に上昇する場合がある。市街地との間に公園や緑地があると、幾分緩和される。平野であるため、風環境については配慮が必要である。夏は季節風、海風・陸風状況を読み、まちの緑化を計画する。冬の季節風は、地域によってかなり異なるが、緑化による防風は落ち着いた生活環境づくりに有効である。地形が平坦で日射条件は良好であるため、夏季には日射遮蔽、冬季には日射取得に配慮して緑化する。夏季、道路や宅地内の地表温度が高温にならないよう、素材の選定には注意が必要である。
【0031】
<盆地及び標高差のある立地>
(標高による気温差)
一般的に、図2に示すように、標高が100m上がる毎に気温は約0.6℃下がるので、市街地から高い所に位置する街づくりでは、冬の凍結など配慮が必要になる。低地などから150〜200m上がった高台は夏涼しくて、冬暖かい。これは冬期逆転層ができ、低地より2℃前後高い場合があるからです。
【0032】
逆転層:高いところへ上がれば気温が低くなるのが普通であるが、夜間の放射冷却で地表面がひどく冷えたときなど、上層の気温の方が高い場合がある。このことを気温の逆転といい、その層のことを逆転層という。縄文時代の遺跡は大地や山腹に集落が造られる場合が多く見うけられる。これは当時の人々が逆転層のことを体験的に知っていて、より気持ちのよい場所を求めていたことの表れだと考えられる。
盆地:一年を通じて地形の影響で気温の差が大きくあり、盆地には水脈が集まりやすく、夏は高温多湿で蒸し暑く、風が少ない場所である。冬は冷気が停滞して底冷えになりやすいのも特徴である。
【0033】
<山間の立地>
図3に示すように、山の上は強風が吹き抜け、峠の地形は気流が収束して強風が吹く日数が多くなる。誰でも知っているような冬の季節風、冬から春にかけての温帯低気圧の発達に伴う強風、また夏から秋にかけての台風による風がある。地域の気候特性を理解して、計画段階からの対応がまちづくりの正否に大きく絡んでくる。山頂2など、強風が吹き抜ける立地にまちづくりをする場合、植栽3による防風や減風対策は効果が大きく、落ち着いた居住環境づくりに緑化は欠かせない。山頂は四方から風を受けやすい地形で、年間を通して強風頻度の高い方位の防風植栽には、奥行きを持たせ樹高順次高くし、風を上方に追いやる工夫が効果的である。峠は風道4がはっきりするので、強風をやりすごす偏向植栽の方法は有効である。また、強風が居住環境に直接吹き込まないよう、まちへの進入道路の付け方は注意が必要である。
【0034】
<地形的環境の把握>
地形的環境:計画地をミクロ的に見て立地環境特性を把握
立地環境をマクロ的に調べた後、次に計画地とその周辺の地形的な特徴について、細部にわたって精査する。地形的環境を把握するには、縮尺が1/1万〜1/2.5万程度で、歩きまわってその詳細が確認できるほどの地形図を用いることが望ましい。事前に机上で計画地およびその周辺地形の大枠をつかみ、現地調査に望むことが大切である。調査にあたっては、図4に示すように、計画地1の微地形や斜面方位、沿岸の方位、地盤や地下水の状況を推測し、まちづくりのコンセプト立案に必要な項目を確認する。また、調査時には必ず、図9に示すように周辺の建物5の形状や位置、周辺緑地6の規模などについても忘れなく調べることが必要である。
【0035】
<丘陵地 東・西向斜面>
丘陵地などの傾斜地もまちづくり用地として開発されることが多くなってきたが、斜面の方向、尾根や谷筋、山腹、山麗などでは、気候条件が極端に異なる。
東向き斜面:環境はほぼ良好といえる(図5参照)。冬期の夕方は早くから冷え込むが、ほかの斜面と比較すると外気温が高いため、問題になるほどではない。
西向き斜面:冬期には受光時間が長く有利であるが、朝方の気温上昇はゆっくりしている。夏は気温が上昇している午後に西日を正面から受けるため、耐え難い環境になる。
斜面の向きによって日照条件が悪くなる場合あり、四季の太陽高度を考慮した植栽が必要である。斜面地は冬季の夜間に冷気が吹き降りることがあり、常緑樹植栽による冷気止め対策は有効である。
季節によって強風が斜面を吹き上げる場合があり、植栽による防風や減風は効果がある。
【0036】
<丘陵地 南・北向斜面>
南向き斜面:冬は日射を十分に受け温暖になり、また北風も避けられるため最適であり、夏は涼しい(図6参照)。春秋には夏の7割前後の日射を受け、日中は気持ちのよい微気候が形成される。戦前に開発された国内でも名の通った住宅地は南向き斜面が多く利用されている。北半球において南に10度傾斜している場所では、緯度で約6度南よりの平地で得られるのと同等の日射量があり、これはほぼ東京と奄美大島の緯度の差に相当し、北斜面では函館との差に相当する。
北向き斜面:勾配のある斜面ほど冬期は日射量が減少し、年間を通してみると夏冬の温度差が大きくなるため、街づくりの立地としては平坦に近い緩勾配を選定するのが望ましい。南・北斜面は、共に日射条件や風環境に対応した緑化への配慮が有効である。
【0037】
<微地形>
わが国は山がちであり、平野の真ん中でない限り、計画地周辺が広範囲に平坦であることはまれである。図7に示すように多かれ少なかれ地形には微細な変化があり、まちづくりにあたっては周辺の微地形がとのような性格のものであるのか調査が必要である。
(段丘) 河川の浸食によって形成されるケースと、地震による地殻変動でできる場合が考えられる。計画地1を含む周辺の地質や水環境などについて綿密に調べることがひつようである。
(窪地・谷地) かつて河川や沼、低湿地であった可能性が高く、地盤や地下水位についての調査が必要である。
(小突起) 計画地1のどの方位に小突起や小山7が存在するかで、微気候デザインは変化する。夏季の採涼に活用できるのか、または冬の季節風や台風などの防風効果が期待できるかによって、計画地の緑化計画にもからんでくる。
(河川・池・沼) 熱容量の大きい水が計画地1の近くにあるため、気温などは安定する傾向にある。地盤や常水面の高さによっては、植栽にも影響がでてくる。
【0038】
<沿岸部の海/陸風の方位>
沿岸部にまちづくりをする場合、図8に示すように、計画地1の南方に海8がある場合と、北にそれが位置するのでは、夏と冬の微気候デザインは大きく異なる。
(南側に海がある場合) 夏の季節風は気温よりも低く気持ちのよいものになるが、潮風の影響があるため、緑化には注意を要する。冬の季節風は乾燥している場合が多く、宅地内に寒風が吹き抜けないように配慮したい。また、夏の日中は海から風が吹き、夜間は北よりの陸風が吹くので、通風計画はこの風をうまく室内に取り込むことがポイントである。
(北側に海がある場合) 緩候期には南からの熱いフェーン風が吹く地域もある。冬の季節風は北側海域の広さや海水温度によっても異なるが、湿気を帯びたり雲天が続き、降雨や降雪のある地域も存在する。冬の季節風は北側海域の広さや海水温度によっても異なる。夏の日中は北側の海より風が吹き、夜間は南よりの陸風が吹くケースが多くなる。地域によっては朝凪、夕凪が発生するため、体感温度はかなり暑くなる。
【0039】
<周辺の建物、緑地>
図9に示すように、計画地1の周辺にある高い建物5や緑地6は、まちづくりの微気候デザインに大きく影響を与える。季節によって、そればプラスの要素になるのか、それともマイナスの要素になるのか、見極めることがポイントである。
(付近の高い建物) 冬季の冷たい季節風や台風などの強風が防げるような位置にある場合は、大いに活用したものである。夏季の通風の妨げになる場合や、ビルに蓄熱した熱が計画地1に流入する場合には対応が必要である。
(周囲の高い建物) 計画地1の周囲に高いビルがある場合、ビルの高さやボリューム、間隔にもよるが、ビル風があることを認識し、植栽などで対応することが必要である。また、ビルの形状や高さによっても異なるが、乱流や吹き下ろし、ビル風上の圧力風など、複雑な風環境が形成される。
(緑地) 計画地1の付近や隣接した緑地は夏の冷熱源や冬の温熱源、防風林として有効活用できる。
【0040】
<地形的環境特性(埋立地、原野、里山、林地、造成地)>
最近のまちづくり開発の計画地素地には、次のようなケースが多くなっている。埋立地や原野のように樹木が一本もなく、新たに居住環境と自然環境を造る場合、もともとあった地形や植生を破壊して造成した宅地、里山や林地などの環境を活用したまちづくり、など、大きく分けて3通りある。
まちづくりの初期の素地は異なっても、最終的に周辺自然環境に同化し、良好な微気候の形成を考慮して緑化された街並みを開発するために、地形的な環境特性をどのように把握したらよいか、それぞれの地形について把握しなければならないポイントについて整理してみると、図10のようになる。なお、把握すべき環境特性は微気候環境、地象環境、地下水環境、生物環境、地盤形状が挙げられる。
【0041】
<地形的環境特性(夏/冬の微気候配慮)>
埋立地…付近に熱容量の大きい水が多量にあるため、図11に示すように、気温の日較差は少なく内陸部より温暖である。水面をわたってくる風はさえぎるものがなく、強風対策が必要である。地盤は強くなく、また常水面も高いため緑化には工夫が必要である。水鳥類の野鳥はかなり生息している場合が多い。まちづくりにあたっては、緑化を積極的に実施すると、樹林性の野鳥が増加する。
原野…従来未利用であった原野は、基本的には気候条件や地盤状態は良好でないケースがある。地形や地質の影響で、水はけが悪いことが多い。生物環境としては、植生によって灌木を好む野鳥が生息している。
里山…かって生活に必要な薪炭や堆肥などのために人為的に開発された丘陵地であり、集落に近いため気候条件は良好である。地盤・地質ともに悪い条件は少ない。また地下水の状況も地形から判断しやすい。生物環境は豊かである。
林地…木材利用のために植林され、集落の周辺が多く、杉、檜などの針葉樹が多い。近年は枝払いや草刈りなどの手入れの状態が悪いケースが多く、微気候環境、生物環境ともに好ましくないこともある。まちづくりにあたっては、風や日射環境を考慮して部分的に活用するとよい。
造成地…ここ30年ほどの期間につくられた造成地は、大規模な土木工事によって地形を変え、生態系を破壊してつくられてきたものが大半である。良好な微気候を形成するためには、緑化を積極的に行うとよい。それによって徐々にではあるが生態系がつくられ、年々野鳥も増加する。
【0042】
この図11においては、地形的環境特性と夏/冬の微気候配慮のための整理項目として、左欄に、埋立地、原野、里山、造成地を挙げ、上欄に夏と冬それぞれについて。プラス要素、マイナス要素を挙げて整理し、緑化との相関性を効果的に結合できるように、図表として例示してある。したがって、この図表を参照することで、緑化対策を的確に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態に係るもので、まちづくり計画地が沿岸近、平野、盆地、山間/標高にある場合の例を示す説明図。
【図2】計画地が盆地および標高差のある立地にある場合の例を示す説明図。
【図3】計画地が山間の立地にある場合の例を示す説明図。
【図4】計画地の地形的環境を把握するための例を示す説明図。
【図5】計画地の地形的環境を把握するための例を示す説明図。
【図6】計画地の地形的環境を把握するための例を示す説明図。
【図7】計画地の地形的環境(微地形)を把握するための例を示す説明図。
【図8】計画地の地形的環境を把握するための例を示す説明図。
【図9】計画地の地形的環境を把握するための例を示す説明図。
【図10】計画地の地形的環境特性を把握するための例(図表)を示す説明図。
【図11】計画地の地形的環境特性と夏/冬の微気候配慮について把握するための例(図表)を示す説明図。
【符号の説明】
【0044】
1 計画地
2 山頂
3 植栽
4 風道
5 建物(ビル)
6 緑地
7 小突起(小山)
8 海
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微気候を有効利用したまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法であって、
前記計画地の地理的環境を調査して地理的位置づけを確認する第1工程と、
前記計画地の地形的環境を調査して地形的な細部を把握する第2工程と、
前記第1工程及び第2工程の調査結果に基づいて、前記計画地の立地環境を把握する第3工程と、
前記計画地の微気候をデザインして夏涼しく、冬暖かい室内気候を創造するために道路・宅地割り設計、植栽設計を行う第4工程と、を含むことを特徴とする、まちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法。
【請求項2】
前記第1工程では、地理的環境を把握するために、縮尺が10万〜1/50万程度、好ましくは20万〜1/30万程度の県単位ほどの地図より、計画地が海に近いのか、平地か、盆地かを見極める工程を含むことを特徴とする、請求項1記載のまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法。
【請求項3】
前記第2工程では、地形的環境を把握するために、縮尺が1/1万〜1/2.5万程度で、歩き回ってその詳細が確認できるほどの地形図を用い、少なくとも計画地の微地形や斜面方位、地盤や地下水の状況を推測し、さらに、周辺の建物形状や位置、周辺緑地の規模を調査することを特徴とする、請求項1記載のまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法。
【請求項4】
前記計画地が山頂または山頂付近の立地であり、年間を通して強風頻度の高い方位の暴風植栽には、奥行きをもたせ樹高を順次高くする植栽とすることを特徴とする、請求項1記載のまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法。
【請求項5】
前記計画地が峠付近である場合には、計画地の外へ強風をやりすごす偏向植栽とすることを特徴とする、請求項1記載のまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法。
【請求項6】
前記計画地の周辺に小山等の小突起がある場合に、その小突起の方位や距離に対応させて、夏季の採涼活用、冬の季節風や台風などの防風効果をもたせるために必要な計画地の緑化計画に基づいた植栽を行うことを特徴とする、まちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法。
【請求項7】
前記地形的環境の特性を把握するために、計画地が埋立地、原野、里山、林地、造成地の少なくとも一つを含む場合に、それぞれ対応する計画地について、微気候環境、地象環境、地下水環境、生物環境、地盤形状を調査確認する工程を行うことを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法。
【請求項1】
微気候を有効利用したまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法であって、
前記計画地の地理的環境を調査して地理的位置づけを確認する第1工程と、
前記計画地の地形的環境を調査して地形的な細部を把握する第2工程と、
前記第1工程及び第2工程の調査結果に基づいて、前記計画地の立地環境を把握する第3工程と、
前記計画地の微気候をデザインして夏涼しく、冬暖かい室内気候を創造するために道路・宅地割り設計、植栽設計を行う第4工程と、を含むことを特徴とする、まちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法。
【請求項2】
前記第1工程では、地理的環境を把握するために、縮尺が10万〜1/50万程度、好ましくは20万〜1/30万程度の県単位ほどの地図より、計画地が海に近いのか、平地か、盆地かを見極める工程を含むことを特徴とする、請求項1記載のまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法。
【請求項3】
前記第2工程では、地形的環境を把握するために、縮尺が1/1万〜1/2.5万程度で、歩き回ってその詳細が確認できるほどの地形図を用い、少なくとも計画地の微地形や斜面方位、地盤や地下水の状況を推測し、さらに、周辺の建物形状や位置、周辺緑地の規模を調査することを特徴とする、請求項1記載のまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法。
【請求項4】
前記計画地が山頂または山頂付近の立地であり、年間を通して強風頻度の高い方位の暴風植栽には、奥行きをもたせ樹高を順次高くする植栽とすることを特徴とする、請求項1記載のまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法。
【請求項5】
前記計画地が峠付近である場合には、計画地の外へ強風をやりすごす偏向植栽とすることを特徴とする、請求項1記載のまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法。
【請求項6】
前記計画地の周辺に小山等の小突起がある場合に、その小突起の方位や距離に対応させて、夏季の採涼活用、冬の季節風や台風などの防風効果をもたせるために必要な計画地の緑化計画に基づいた植栽を行うことを特徴とする、まちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法。
【請求項7】
前記地形的環境の特性を把握するために、計画地が埋立地、原野、里山、林地、造成地の少なくとも一つを含む場合に、それぞれ対応する計画地について、微気候環境、地象環境、地下水環境、生物環境、地盤形状を調査確認する工程を行うことを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載のまちづくり計画地の立地環境把握と緑化方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−129746(P2006−129746A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−320537(P2004−320537)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000114086)ミサワホーム株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000114086)ミサワホーム株式会社 (288)
【Fターム(参考)】
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