説明

めっき方法

【課題】めっき装置のコンパクト化を図りつつ、袋状ワークの部位に応じてめっき被膜の厚さを容易に変えることが可能なめっき方法を提供する。
【解決手段】めっき方法は、第1〜第3工程を含む。第1工程では、回転装置30(回転手段)によりワークホルダ10を軸線L1回りに下側へ回転させ、ワーク保持具40に保持された袋ナット1の全体を第1液面S1に設定された液槽101のめっき液Mに浸漬する。第2工程では、ワークホルダ10を軸線L1回りに上側へ回転させ、ワーク保持具40に保持された袋ナット1を第1液面S1上に持ち上げた状態で、移動装置20(移動手段)により第1液面S1に比べて低い第2液面S2に設定された液槽101へ向けて移動させる。第3工程では、回転装置30によりワークホルダ10を軸線L1回りに下側へ回転させ、袋ナット1の一部を第2液面S2に設定された液槽101のめっき液Mに浸漬する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき方法に関し、特にめっきラインに用いられるめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のめっき方法は、めっきに必要な複数の処理工程に対応して配置された各液槽に複数の袋状ワークを順次移動させ各液槽に浸漬してめっき処理を進行させるものであり、袋状ワークとしての例えば袋ナットの表面に電解めっき等の処理を施すことが行われている。例えば下記特許文献1には、ボルトをその非ねじ部が下側となるように保持具により保持させ、昇降装置による保持具の上下位置に応じて、ボルトの全体がめっき液に浸漬される第1工程と、ボルトの非ねじ部のみがめっき液に浸漬される第2工程とを含むめっき方法が記載されている。また、この特許文献1には、保持具の高さを一定にしておき、液槽のめっき液の液面高さをポンプ等の液面調節装置により調節することで、ボルトの全体がめっき液に浸漬される第1工程と、ボルトの非ねじ部のみがめっき液に浸漬される第2工程とを含むめっき方法も記載されている。このようなめっき方法によれば、ねじ部に形成されるめっき被膜を薄くし、非ねじ部に形成されるめっき被膜を厚くすることができるので、ねじ部においては最低限の防水性を確保しつつ、めねじ部への円滑な螺合が可能となり、非ねじ部においては高い防水性と光沢性を確保することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2006−022371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたような昇降装置を使用しためっき方法では、保持具を昇降させるための昇降装置を保持具毎に設ける必要があるので、上記しためっき方法を実現するためのめっき装置の構成が複雑になるという問題があった。また、液面調節装置を使用しためっき方法では、液面高さを調節するための新たな調節時間が必要となるので、めっき処理時間が長くなり、また上記と同様、めっき装置の構成が複雑になるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解消するためになされたものであり、めっき装置のコンパクト化を図りつつ、袋状ワークの部位に応じてめっき被膜の厚さを容易に変えることが可能なめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のめっき方法は、めっきに必要な複数の処理工程に対応して配置された各液槽に複数の袋状ワークを順次移動させ該各液槽に浸漬してめっき処理を進行させるめっき方法において、袋状ワークの進行方向に対して横方向に延び出すように液槽の上方に配置され、液槽の一から他へ向けて移動可能、かつ横方向に延びる所定の軸線回りに回転可能に設けられて、軸線に対して外方へ延び出す先端部にて袋状ワークが横方向に整列配置した状態となるように該袋状ワークを保持する保持部を有するワークホルダを使用し、またワークホルダを液槽の一から他へ向けて移動させる移動手段と、ワークホルダを軸線回りに回転させる回転手段とを使用して、
回転手段によりワークホルダを軸線回りに下側へ回転させ、ワークホルダの保持部に保持された袋状ワークの全体を第1液面に設定された液槽のめっき液に浸漬する第1工程と、回転手段によりワークホルダを軸線回りに上側へ回転させ、ワークホルダの保持部に保持された袋状ワークを第1液面上に持ち上げた状態で、移動手段により第1液面に比べて低い第2液面に設定された液槽へ向けて移動させる第2工程と、回転手段によりワークホルダを軸線回りに下側へ回転させ、ワークホルダの保持部に保持された袋状ワークの一部を第2液面に設定された液槽のめっき液に浸漬する第3工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
本発明のめっき方法においては、袋状ワークが横方向に整列配置した状態となるように袋状ワークを保持する保持部を有するワークホルダを使用する。また、ワークホルダを一の液槽から他の液槽へ向けて移動させる移動手段と、ワークホルダを軸線回りに回転させる回転手段とを使用する。そして、第1工程では、回転手段によりワークホルダを軸線回りに下側へ回転させ、ワークホルダの保持部に保持された袋状ワークの全体を第1液面に設定された液槽のめっき液に浸漬する。第2工程では、回転手段によりワークホルダを軸線回りに上側へ回転させ、ワークホルダの保持部に保持された袋状ワークを第1液面上に持ち上げた状態で、移動手段により第1液面に比べて低い第2液面に設定された液槽へ向けて移動させる。第3工程では、回転手段によりワークホルダを軸線回りに下側へ回転させ、ワークホルダの保持部に保持された袋状ワークの一部を第2液面に設定された液槽のめっき液に浸漬する。
【0008】
袋状ワークをめっき液に浸漬する第1及び第3工程では、回転手段がワークホルダを軸線回りに下側へ回転させる。このため、ワークホルダの保持部を昇降させるための昇降装置が不要となり、上記しためっき方法を実現するためのめっき装置を簡易に構成することが可能である。また、ワークホルダは軸線回りに回転するものであり、その回転動作自体は浸漬する液槽の種類にかかわらず同じである。このため、第1及び第3工程で使用される液槽のめっき液の液面を、予め異なる液面高さに設定しておくだけで、袋状ワークの部位に応じてめっき被膜の厚さを容易に変えることができる。
【0009】
本発明の実施に際して、第1液面に設定された液槽のめっき液と、第2液面に設定された液槽のめっき液との種類が異なるようにしてもよい。これによれば、袋状ワークの部位に応じて、例えば防水性や光沢性などの機能を適切に付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。図1は、この実施形態で使用される袋状ワークとしての袋ナット1を示したものである。袋ナット1は、めねじ部4を有する本体2と、本体2におねじ部材の螺入側とは反対側の開口を塞ぐキャップ部3とを備え、めねじ部4とその奥部の空所(ボルト等のおねじ部材の先端部が進入する部分)とにより袋状の空間(閉鎖空間)5が形成される。本体2は、作業工具を係合させる六角形状の大径部2aと、円筒状の小径部2bと、大径部2aと小径部2b間にて側方にせり出したフランジ部2cとを有する。このような袋ナット1の一例として、ハブナットが挙げられる。このような袋ナット1が、鍛造加工さらに転造もしくは切削等によるねじ加工、キャップ部3の溶接及び必要に応じて熱処理の後、洗浄や防錆、めっき等のために所定の液槽に浸漬される。
【0011】
上記した袋ナット1は、例えば図2に示すような電解めっきライン100に供給されてめっき処理が施される。この電解めっきライン100では、めっきに必要な複数の処理工程に対応して複数の液槽101が長円状(競技用トラック状)に並んで配置されている。本発明で使用されるめっき装置は、電解めっきライン100において複数の袋ナット1を長円状の搬送路110に沿って各液槽101に順次移動させ、各液槽101に浸漬してめっき処理(例えばニッケルクロムメッキ等)を施すものであり、図3にて任意の液槽101を代表して示すように、ワークホルダ10と、ワークホルダ10を一の液槽101から他の液槽101へ向けて移動させる移動装置20と、ワークホルダ10を軸線L1回りに回転させる回転装置30とを含んで構成されている。
【0012】
ワークホルダ10は、液槽101の上方に配置されて進行方向(図3の紙面表方向)に対して横方向(図3の左右方向)へ延び出す軸線L1を有する第1支持部材11と、第1支持部材11の内側端部に連結された枠状の第2支持部材12とを備えている。
【0013】
第1支持部材11の外側端には、軸線L1と同心のローラ軸線を有するローラ13が設けられ、第1支持部材11がローラ13を介して第1ローラ受けフレーム102に移動可能に支持されている。なお、第1ローラ受けフレーム102は、液槽101内にて液面よりも高い位置に配置されており、液槽101間に渡って平面視にて長円状に配置されている。また、第1支持部材11の内側端部は、断面円形状に形成されており、その内側端部が軸線L1と同心に形成された第2支持部材12の支持孔12aに挿通されることで、第1支持部材11が第2支持部材12に軸線L1回りに回転可能に支持されている。
【0014】
第1支持部材11には、その長手方向(横方向)に複数個(例えば5個)の支持ブロック14が等間隔で固定されている。各支持ブロック14には、図4A〜図4Cに示すように、一対のワーク保持具40,40が軸線L1と直角に外方へ延び出すように取り付けられている。各ワーク保持具40(保持部)は、金属などの導体によって形成された中央ピン41と、その中央ピンに対して対称に配置された一対の左右ピン42,42とを備え、これら左右ピン42,42の先端部にて袋ナット1が装着されるようになっている。
【0015】
左右ピン42,42は、互いの間隔が変わる程度に弾性変形可能とされ、各先端部が外側に向けて屈曲形成されている。袋ナット1を装着する場合は、左右ピン42,42に力を加えて互いの間隔を狭め、袋ナット10のめねじ部4に差し込み、力を緩める。これにより、左右ピン42,42にて外側へ弾性変形する力が袋ナット1の内面に加わって先端部が引っ掛かり、袋ナット1が左右ピン42,42から簡単に抜けなくなる。そして、各ワーク保持具40における左右ピン42,42の先端部に袋ナット1が装着されると、袋ナット1が第1支持部材11の長手方向に整列配置した状態となる。
【0016】
図3に戻って、第2支持部材12は、内向きに突出した係合片12bにて支持フレーム103に摺動可能に支持されている。なお、支持フレーム103は、各液槽101における内周壁側の上方に配置されており、平面視にて長円状に配置されている。第2支持部材12の上端部には、上向きに突出した係合突部12cが形成されている。第2支持部材12は、係合突部12cを介して移動装置20により支持フレーム103に沿って移動される。
【0017】
移動装置20(移動手段)は、第1支持部材11及び第2支持部材12を一の液槽101から他の液槽101へと移動させるものであり、図5にて模式的に示すように、搬送路110に沿って直線状の移動フレーム21,22と、円弧状の移動フレーム23,24とに分割して構成されている。移動フレーム21,22は、連結部材25を介して共用のエアシリンダ26(往復動装置)に連結されている。一方、移動フレーム23,24は、それぞれ専用のエアシリンダ27,28(往復動装置)に連結されている。
【0018】
移動フレーム21は、エアシリンダ26の伸長作動時に、連結部材25の回転中心O1回りの回転に応じて、図5の右方向へ往動する。これとは逆に、移動フレーム22は、図5の左方向へ往動する。一方、移動フレーム21は、エアシリンダ26の収縮作動時に、連結部材25の回転中心O1回りの回転に応じて、図5の左方向へ復動する。これとは逆に、移動フレーム22は、図5の右方向へ復動する。
【0019】
また、移動フレーム23は、エアシリンダ27の伸長作動時に、回転中心O2回りに図5にて時計回りに回転する(往動)。移動フレーム24は、エアシリンダ28の伸長作動時に、回転中心O3回りに図5にて時計回りに回転する(往動)。一方、移動フレーム23は、エアシリンダ27の収縮作動時に、回転中心O2回りに図5にて反時計回りに回転する(復動)。移動フレーム24は、エアシリンダ28の収縮作動時に、回転中心O3回りに図5にて反時計回りに回転する(復動)。
【0020】
移動フレーム21〜24の底壁には、図3及び図6にて移動フレーム21を代表して示し、図7にて移動フレーム23を代表して示すように、その長手方向に所定間隔で係合爪29が設けられている。各係合爪29は、ピン29a及びブラケット29bを介して移動フレーム21〜24に取り付けられており、ピン29aを回転中心として上下に回転可能とされている。
【0021】
これにより、移動フレーム21〜24は、エアシリンダ26〜28の伸長作動時には、係合爪29と、第2支持部材12の係合突部12cとの係合により、第2支持部材12を移動させる。一方、移動フレーム21〜24は、エアシリンダ26〜28の収縮作動時には、係合爪29と、第2支持部材12の係合突部12cとの係合解除により(図6の二点鎖線で示す状態)、第2支持部材12を停止状態とする。そして、エアシリンダ26〜28の伸長・収縮作動が所定のタイミングで繰り返されることにより、第2支持部材12が間欠的に移動するようになっている。
【0022】
図3に戻って、第1支持部材11の内側端には、L字状のレバー15が一体的に連結され、レバー15の先端にはローラ16が設けられている。ローラ16のローラ軸線L2は、第1支持部材11の軸線L1と平行に配置(オフセット配置)されている。レバー15は、ローラ16を介して回転装置30により軸線L1回りに回転駆動される。
【0023】
回転装置30(回転手段)は、ローラ16のための軌道部31aを有する第2ローラ受けフレーム31と、第2ローラ受けフレーム31を上下に昇降させるエアシリンダ32(昇降装置)とを備えている。エアシリンダ32の収縮状態では、第2ローラ受けフレーム31が、図6にて二点鎖線で示す下限位置にある。この状態では、ワーク保持具40が鉛直下向きに延び出しており、ワーク保持具40に装着された袋ナット1が液槽101の液内に浸漬される。
【0024】
エアシリンダ32の伸長作動時には、第2ローラ受けフレーム31の上昇に応じてレバー15が、軸線L1回りに図6にて反時計回りに回転し、レバー15の回転に伴ってワーク保持具40が上側へ移動する。エアシリンダ32の伸長状態では、第2ローラ受けフレーム31が図6にて実線で示す上限位置にある。この状態では、ワーク保持具40がワークホルダ10の進行方向を前側として前側斜め上向きに延び出しており、液槽101の仕切壁よりも上方に位置するようになる。ワーク保持具40の回転角度は、90度〜180度のうちの所定角度に設定されている。
【0025】
次に、上記のように構成しためっき装置を含んでなる電解めっきライン100の各工程の概略を図2に基づいて説明する。まず、ロードステーションで、未処理の袋ナット1がワーク保持具40に装着される。電解めっきの工程に先立ち、脱脂等の前工程が施される。主要なものは、脱脂槽101aにおける脱脂工程、陰極酸電解(アルカリ電界)槽101bにおける電解(スケール除去)工程、陽極電解脱脂槽101dにおける電解脱脂(活性化)工程、中和槽101hにおける中和工程である。また、水洗槽101c,101e,101g,101iにて洗浄される。前工程が終了すると、続いてめっき工程が実施される。めっき工程は、半光沢Ni槽101j、トリNi槽101k、光沢Ni槽101m、ジュールNi槽101n、クロム槽101qにて行われる。また水洗槽101p,101r及び湯洗槽101sにて洗浄され、乾燥槽101tにて乾燥される。その後、アンロードステーションで、めっき処理後の袋ナット1がワーク保持具40から取り外される。なお、ワーク保持具40は、治具脱脂層101uにて脱脂され、水洗槽101vにて洗浄される。
【0026】
半光沢Ni槽101j等のめっき槽には、めっき液Mが貯えられ、第1正電極104及び第2正電極105が設けられている(図3参照)。ワーク保持具40の先端部をめっき液Mに入れ、袋ナット1を第1正電極104と第2正電極105との間に位置させた状態で、第1正電極104及び第2正電極105に正電圧を引加し、袋ナット1と電気的に接続されたワーク保持具40の中央ピン41及び左右ピン442,42に負電圧を引加することで、袋ナット1の外面及び内面に電界めっき層を形成することができる。
【0027】
ここで、半光沢Ni槽101jは、例えば図8に示すように、第1液面S1に設定されためっき槽101j1と、第1液面S1に比べて低い第2液面S2に設定されためっき槽101j2との二つ以上の液槽で構成することができる。第1液面S1は、支持部材11が軸線L1回りに下側へ回転してワーク保持具40が鉛直下向きに延び出した状態になったとき、ワーク保持具40に装着された袋ナット1の全体、すなわち本体2及びキャップ3がめっき液Mに浸漬される程度の液面高さに設定されている。これに対して、第2液面S2は、支持部材11が軸線L1回りに下側へ回転してワーク保持具40が鉛直下向きに延び出した状態になったとき、ワーク保持具40に装着された袋ナット1の一部、すなわち大径部2a、フランジ部2c及びキャップ3がめっき液Mに浸漬される程度の液面高さに設定されている。
【0028】
次に、ワークホルダ10の動作について説明する。ワークホルダ10は、搬送路110に沿って一の液槽101から他の液槽101へと順次移動する。ワークホルダ10を移動させるときは、図6に示すように、エアシリンダ32を伸長させ、第2ローラ受けフレーム31を上限位置に位置させる。ワーク保持具40が前側斜め上向きに延び出した状態で、エアシリンダ26〜28を伸長させ、各移動フレーム21〜24を往動させる。係合爪29と、第2支持部材12の係合突部12cとの係合により、各移動フレーム21〜24の往動に伴って、ワークホルダ10が液槽101の仕切壁Wの上方を移動する(図8参照)。
【0029】
ここで、図8を用いて、例えばワークホルダ10が半光沢Ni槽101j1上に達した場合について説明する。この場合、めっき装置は、エアシリンダ26〜28の伸長作動を停止し、ワークホルダ10の停止状態で、エアシリンダ32を収縮させる。第2ローラ受けフレーム31の下降に伴ってレバー15及び第1支持部材11が軸線L1回りに下側へ回転する。第2ローラ受けフレーム31が下限位置に達すると、ワーク保持具40が鉛直下向きに延び出した状態となり、ワーク保持具40に装着された袋ナット1の全体が半光沢Ni槽101j1のめっき液M内に浸漬される(第1工程)。
【0030】
ワークホルダ10を次の半光沢Ni槽101j2へ移動させるときは、エアシリンダ26〜28を収縮させるとともに、エアシリンダ32を伸長させる。係合爪29と、一つ後ろの第2支持部材12の係合突部12cとの係合により、ワークホルダ10を再び移動させることが可能になる。また、第2ローラ受けフレーム31の上昇に伴ってレバー15及び第1支持部材11が軸線L1回りに上側へ回転する。第2ローラ受けフレーム31が上限位置に達すると、ワーク保持具40が前側斜め上向きに延び出した状態となり、ワーク保持具40に装着された袋ナット1を半光沢Ni槽101j1の第1液面S1上に持ち上げた状態で、移動フレーム21〜24を往動させることで、ワークホルダ10が次の半光沢Ni槽101j2に向けて移動する(第2工程)。
【0031】
ワークホルダ10が半光沢Ni槽101j2上に達すると、第1工程と同様、エアシリンダ26〜28の伸長作動を停止し、ワークホルダ10の停止状態で、エアシリンダ32を収縮させる。レバー15及び第1支持部材11が軸線L1回りに下側へ回転してワーク保持具40が鉛直下向きに延び出した状態となり、ワーク保持具40に装着された袋ナット1の一部が半光沢Ni槽101j2のめっき液M内に浸漬される(第3工程)。
【0032】
第1工程を経ることで、袋ナット1の全体には、図9にて模式的に示すように、半光沢Ni槽101j1のめっき液Mによるめっき被膜Pが形成される。その後、第3工程を経ることで、袋ナット1の一部には、めっき被膜Pの表面に重ねて半光沢Ni槽101j2のめっき液Mによるめっき被膜Pが形成されるようになる。なお、半光沢Ni槽101j以外のめっき槽101k,101m,101n,101qについても、それぞれ半光沢Ni槽101jと同様に構成して、袋ナット1の一部に形成されるめっき被膜を厚くすることでできる。
【0033】
以上の説明からも明らかなように、この実施形態においては、袋ナット1を半光沢Ni槽101j1,101j2等の液槽101のめっき液M等に浸漬する第1及び第3工程では、回転装置30がワークホルダ10を軸線L1回りに下側へ回転させる。これにより、ワークホルダ10のワーク保持具40を昇降させるための昇降装置が不要となって、上記した第1工程、第2工程及び第3工程を含むめっき方法を実現するためのめっき装置を簡易に構成することが可能である。また、ワークホルダ10は軸線L1回りに回転するものであり、その回転動作自体は浸漬する液槽101の種類にかかわらず同じである。これにより、第1及び第3工程で使用される半光沢Ni槽101j1,101j2等の液槽101のめっき液M等の液面を、予め異なる液面高さS1,S2に設定しておくだけで、袋ナット1の部位に応じてめっき被膜の厚さを容易に変えることができる。
【0034】
(変形実施形態)
上記実施形態では、めっき被膜P,Pが同じめっき液Mである場合のめっき方法について説明したが、これに加えて又は代えて、例えば図10に示すように、袋ナット1の全体を半光沢Ni槽101jのめっき液M1に浸漬し、その後、袋ナット1の一部のみをトリNi槽101k、光沢Ni槽101m、ジュールNi槽101n、クロム槽101qなど、それぞれ種類が異なるめっき液M2,M3等に順次浸漬するようにしてもよい。なお、図10では半光沢Ni槽101j、トリNi槽101k及び光沢Ni槽101mのみを表示し、ジュールNi槽101n及びクロム槽101qは省略してある。
【0035】
この場合、めっき液M1の液面高さが第1液面S1に設定され、めっき液M2,M3等の液面高さが第2液面S2に設定されている。第1工程を経ることで、袋ナット1の全体には、図11にて模式的に示すように、半光沢Ni槽101j1のめっき液M1によるめっき被膜P1が形成される。その後、第3工程を経ることで、袋ナット1の一部には、めっき被膜P1の表面に重ねてトリNi槽101kのめっき液M2によるめっき被膜P2が形成され、更にめっき被膜P2の表面に重ねて光沢Ni槽101mのめっき液M3によるめっき被膜P3が形成されるようになる。
【0036】
この変形実施形態によれば、袋ナット1全体としての防水性を確保しつつ、袋ナット1の一部のみの防水性や光沢性の機能を良好に高めることができる。
【0037】
なお、上記実施形態及びその変形実施形態では、第2ローラ受けフレーム31の軌道部31aが連続した長円状に形成されており、エアシリンダ32によるローラ受けフレーム31の昇降に応じて全てのワークホルダ10が一斉に各軸線L1回りに回転するように構成した。しかし、これに限らず、例えば図12に示すように、ローラ受けフレーム31の軌道部31aを分割形成するとともに、所定のめっき槽上に所定間隔の隙間Dが形成されるように軌道部31aを配置して、軌道部31a間にローラ16の通過を許容する着脱可能な橋渡し部材32をローラ受けフレーム31に設けるようにしてもよい。これによれば、橋渡し部材32を取り除くことで、隙間Dに達したローラ16を有するワークホルダ10のみが軸線L1回りに回転して下側へ回転するようになるので、所定の液槽101に対してのみ第1工程又は第3工程を適用することができる。
【0038】
また、上記実施形態等では、2種類の液面高さを設定したが、袋状ワークの形態に応じて、3種類以上の液面高さを設定するようにしてもよい。
【0039】
また、上記実施形態等では、移動装置20の構成要素としてエアシリンダを用いたが、これに代えて、例えばチェーン、モータ等を用いてもよい。また、回転装置30の構成要素としてエアシリンダを用いたが、これに代えて、例えばモータ等を用いてもよい。
【0040】
また、上記実施形態等では、ワーク保持具40に装着された袋ナット1が各液槽101の液に浸漬された状態では、移動装置30によりワークホルダ10が停止されるように構成したが、ワーク保持部40の上側への移動時に液槽101の仕切壁Wと干渉しない位置を限度として、ワークホルダ10を移動させるようにしてもよい。
【0041】
また、回転装置30がワーク保持具40を後側斜め上向きに延び出す位置に回転させる構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】(a)は袋ナットの正面図。(b)は(a)の縦断面図。
【図2】本発明のめっき方法で使用される電解めっきラインでの液槽の平面図。
【図3】図2のA−A断面図。
【図4A】図3の部分拡大正面図。
【図4B】図4Aの側面図。
【図4C】図4Aの平面図。
【図5】移動装置の模式図。
【図6】図2のB矢視図。
【図7】図5の部分斜視図。
【図8】第1工程、第2工程及び第3工程を示す説明図。
【図9】図8の工程によりめっき処理が施された袋ナットの模式図。
【図10】変形実施形態に係る第1工程、第2工程及び第3工程を示す説明図。
【図11】図10の工程によりめっき処理が施された袋ナットの模式図。
【図12】ローラ受けフレームの変形例を示す側面図。
【符号の説明】
【0043】
1 袋ナット(袋状ワーク)
10 ワークホルダ
11 第1支持部材
12 第2支持部材
12c 係合突部
13 ローラ
14 支持ブロック
15 レバー
16 ローラ
L1 軸線
20 移動装置(移動手段)
21〜24 移動フレーム
25 連結部材
26〜28 エアシリンダ
29 係合爪
30 回転装置(回転手段)
31 第2ローラ受けフレーム
31a 軌道部
32 エアシリンダ
40 ワーク保持具(保持部)
41 中央ピン
42 左右ピン
100 電解めっきライン
101 液槽
102 第1ローラ受けフレーム
110 搬送路
M,M1,M2,M3 めっき液
P,P1,P2、P3 めっき被膜
S1 第1液面
S2 第2液面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっきに必要な複数の処理工程に対応して配置された各液槽に複数の袋状ワークを順次移動させ該各液槽に浸漬してめっき処理を進行させるめっき方法において、
前記袋状ワークの進行方向に対して横方向に延び出すように前記液槽の上方に配置され、前記液槽の一から他へ向けて移動可能、かつ横方向に延びる所定の軸線回りに回転可能に設けられて、前記軸線に対して外方へ延び出す先端部にて前記袋状ワークが横方向に整列配置した状態となるように該袋状ワークを保持する保持部を有するワークホルダを使用し、また前記ワークホルダを前記液槽の一から他へ向けて移動させる移動手段と、前記ワークホルダを前記軸線回りに回転させる回転手段とを使用して、
前記回転手段により前記ワークホルダを前記軸線回りに下側へ回転させ、前記ワークホルダの保持部に保持された袋状ワークの全体を第1液面に設定された液槽のめっき液に浸漬する第1工程と、
前記回転手段により前記ワークホルダを前記軸線回りに上側へ回転させ、前記ワークホルダの保持部に保持された袋状ワークを前記第1液面上に持ち上げた状態で、前記移動手段により前記第1液面に比べて低い第2液面に設定された液槽へ向けて移動させる第2工程と、
前記回転手段により前記ワークホルダを前記軸線回りに下側へ回転させ、前記ワークホルダの保持部に保持された袋状ワークの一部を前記第2液面に設定された液槽のめっき液に浸漬する第3工程とを含むことを特徴とするめっき方法。
【請求項2】
前記第1液面に設定された液槽のめっき液と、前記第2液面に設定された液槽のめっき液との種類が異なる請求項1に記載のめっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−7156(P2010−7156A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170517(P2008−170517)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(592190486)木田精工株式会社 (26)
【出願人】(000147109)株式会社杉浦製作所 (11)