説明

めっき膜を有するプラスチック部材の製造方法

【課題】連続生産プロセスに適した無電解めっき処理により、高い密着強度を有する無電解めっき膜を形成できる、めっき膜を有するプラスチック部材の製造方法を提供する。
【解決手段】高圧二酸化炭素を用いて、プラスチック部材1または成形前の溶融樹脂に対して金属錯体を与えて、上記金属錯体もしくはその変性物が分散したプラスチック部材1を得ることと、上記金属錯体もしくはその変性物が分散した上記プラスチック部材1を、アルコールを含有した無電解めっき液に常圧下で浸漬させることとを含むめっき膜2を有するプラスチック部材1の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき膜を有するプラスチック部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチック部材に対して無電解めっき処理を実施する前に、超臨界二酸化炭素を用いてプラスチック部材の表面を改質する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。また、従来、超臨界二酸化炭素を含む無電解めっき液を用いて無電解めっきを行う方法が開示されている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。この超臨界二酸化炭素を用いた無電解めっき方法では、高温高圧環境下で無電解めっき液と超臨界二酸化炭素とを界面活性剤を用いて相溶させ、攪拌によりエマルジョン(乳濁状態)を形成し、該エマルジョン中で無電解めっき反応を起こす。
【0003】
また、従来、超臨界二酸化炭素を用いない無電解めっきを行う方法も開示されている。たとえば特許文献3には、不導体素材表面を貴金属/第一錫塩のコロイドゾルを含有する活性化剤で活性化処理し、蟻酸或いはその塩類又はアルコール類から選択される1種を還元剤と触媒金属イオンとを含有する無電解めっき液に浸漬して導電性を付与し、無電解処理された不導体素材表面に対して所望の金属イオンを含有するめっき溶液中で無電解処理する方法が開示されている。この他にも特許文献4には、鎖状の飽和脂肪族、環状の飽和脂肪族又はエーテル結合を有する鎖状の飽和脂肪族のモノ、ジ又はトリアルコールの1種以上又はフェノールの1種以上を含有する無電解めっき浴が開示されている。なお、特許文献3のアルコール類は還元剤として使用されており、特許文献4のアルコール又はフェノールは浴を安定化させるために使用されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3696878号公報
【特許文献2】特許第3571627号公報
【特許文献3】特開2000−144439号公報
【特許文献4】特開2003−268558号公報
【非特許文献1】表面技術 Vol.56、No.2、第83頁(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した超臨界二酸化炭素を用いたプラスチック部材の表面改質方法と、上述した超臨界二酸化炭素を用いた無電解めっき方法とを組み合わせることにより、プラスチック部材に無電解めっき膜を形成できる。そして、発明者らの実験によれば、これらの方法を組み合わせて無電解めっき膜を形成することにより、超臨界二酸化炭素を用いない一般的な無電解めっき処理では容易に得られない高い密着強度の無電解めっき膜が得られた。
【0006】
しかしながら、上述した超臨界二酸化炭素を用いた無電解めっき方法において、超臨界二酸化炭素と無電解めっき液とを相溶させるためには、超臨界二酸化炭素、無電解めっき液およびプラスチック部材を、高温高圧環境下の使用に耐えられる密閉容器に収容させる必要があった。また、密閉容器の容量により一度に処理できるプラスチック部材の個数が制限されてしまうので、無電解めっき処理が必然的にバッチ処理になった。このように超臨界二酸化炭素を用いて無電解めっき処理を実施した場合には、無電解めっき処理が連続生産プロセスに適したものとはならず、高い量産性を見込むことが難しい。
【0007】
しかも、超臨界二酸化炭素を用いて無電解めっき処理を実施した場合には、密着強度が高い無電解めっき膜を得ることが可能であるが、その一方で無電解めっき膜の密着強度が低くなるときもあった。すなわち、密着強度がバッチ処理毎にばらつき、且つ1回のバッチ処理に係る複数の無電解めっき膜においてもばらついた。このように超臨界二酸化炭素を用いて無電解めっき処理を実施した場合、無電解めっき膜の密着強度のばらつきが大きかった。
【0008】
本発明は、連続生産プロセスに適した無電解めっき処理により、高い密着強度を有する無電解めっき膜を形成できる、めっき膜を有するプラスチック部材の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様では、高圧二酸化炭素を用いて、プラスチック部材または成形前の溶融樹脂に対して金属錯体を与えて、上記金属錯体もしくはその変性物が分散したプラスチック部材を得ることと、上記金属錯体もしくはその変性物が分散した上記プラスチック部材を、アルコールを含有した無電解めっき液に常圧下で浸漬させることとを含むめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法が提供される。
【0010】
本発明において、高圧二酸化炭素とは、超臨界状態の二酸化炭素のみならず、加圧されて高圧とされた液体二酸化炭素及び二酸化炭素ガスをいう。
【0011】
また、この態様において、高圧二酸化炭素を用いて、プラスチック部材または成形前の溶融樹脂に対して金属錯体を与えて、上記金属錯体もしくはその変性物が分散したプラスチック部材を得ることは、高圧二酸化炭素を用いた金属錯体の付与処理により、金属錯体もしくはその変性物が分散したプラスチック部材を得ることができれば如何なる方法でもよい。たとえば金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させ、この混合流体を成形前の溶融樹脂に供給し、さらに、この溶融樹脂を射出成形または押出成形することにより、金属錯体などが分散したプラスチック部材を得てもよい。この他にもたとえば、射出成形または押出成形により形成したプラスチック部材を高圧に耐える密閉容器に収容し、金属錯体を溶解した高圧二酸化炭素を密閉容器へ導入して接触させることにより、金属錯体などが分散したプラスチック部材を得てもよい。なお、このプラスチック部材とは、それ自体が最終的な形状の成形品であっても、後に加工されるシートなどの中間製品であってもよい。
【0012】
このように超臨界二酸化炭素などの高圧二酸化炭素を用いて金属錯体を与えることにより、金属錯体は高圧二酸化炭素に覆われて保護された状態でプラスチック部材あるいは溶融樹脂に浸透して、プラスチック部材の表面部分だけでなくプラスチック部材の内部にも浸透できる。その結果、金属錯体などが分散したプラスチック部材では、金属錯体もしくはその変性物がプラスチック部材の表面部分だけでなく内部にも分散する。
【0013】
また、この態様では、金属錯体などが分散したプラスチック部材を、常圧下で無電解めっき液に浸漬させてめっき膜を形成する。しかも、無電解めっき液にアルコールを含有させることで無電解めっき液の表面張力を低下させているので、常圧下の無電解めっき処理であっても、無電解めっき液がプラスチック部材の表面部分だけでなく内部まで浸透できる。さらに、アルコールは、めっき膜の成長を遅らせる還元剤として作用するので、プラスチック部材の表面部分に無電解めっき液が浸透し始めた時点で、表面部分の金属錯体などを触媒核として無電解めっき膜が成長し始めないようにできる。
【0014】
その結果、この製造方法により形成された無電解めっき膜は、プラスチック部材の内部の金属錯体もしくはその変性物を触媒核として成長し、高い密着強度を有する。無電解めっき膜の密着強度は、アルコールを含有しない無電解めっき液に常圧下で浸漬した場合の密着強度より高くなる。尚、常圧下とは、加圧していない雰囲気下という意味である。
【0015】
また、金属錯体もしくはその変性物が分散したプラスチック部材は、アルコールを含有した無電解めっき液に対して常圧下で浸漬される。このように超臨界二酸化炭素などの高圧二酸化炭素を用いないで常圧下で無電解めっき処理を実施することで、高圧二酸化炭素と無電解めっき液とを機械的に攪拌して強制的に相溶させた浴を用いた場合に比べて浴が安定する。そのため、安定していない浴を用いて無電解めっき膜を形成した場合には、プラスチック部材の各表面部分において浴がばらつき、その結果としてめっき膜の密着強度に大きなばらつきを生じていたが、そのようなめっき膜の密着強度のばらつきを抑えることができる。
【0016】
しかも、常圧下でプラスチック部材を無電解めっき液に浸漬するので、たとえばアルコールを含有した無電解めっき液を開放容器に収容して、その開放容器に金属錯体などが分散したプラスチック部材を浸漬することにより、無電解めっき処理を実施できる。したがって、高圧二酸化炭素を用いるために密閉容器を使用した場合のように無電解めっき処理がバッチ処理とならず、無電解めっき液に対して複数のプラスチック部材を途切れることなく順番に浸漬させることができる。このように、この態様での無電解めっき処理は、連続生産プロセスに適している。
【0017】
この態様では、さらに、上記アルコールを含有した無電解めっき液に常圧下で浸漬させる前に、上記金属錯体もしくはその変性物が分散した上記プラスチック部材を、還元剤を含有した溶液に常圧下で浸漬させることを含んでもよい。
【0018】
このように常圧下でアルコールを含有した無電解めっき液に浸漬する前に、プラスチック部材を、還元剤を含有した溶液に浸漬させることで、膨潤化した状態のプラスチック部材に対して無電解めっき処理を実施できる。そのため、アルコールを含有して表面張力が低下した無電解めっき液は、膨潤化したプラスチック部材内へより深く浸透する。その結果、無電解めっき膜は、プラスチック部材のより深い部位の金属錯体等を触媒核として成長し、無電解めっき膜の密着強度は、高圧二酸化炭素と無電解めっき液とを機械的に強制攪拌して相溶させた浴にプラスチック部材を浸漬させる場合に得られる密着強度と同程度に高くなる。
【0019】
ところで、この態様においてプラスチック部材の樹脂材料は、特に限定されないが、アミド基を有する樹脂製でもよい。また、上記プラスチック部材は、常温常圧下における吸水率が0.1%以上でもよい。
【0020】
また、この態様においてアルコールは、40dyn/cm以下の表面張力でもよい。この表面張力は水の表面張力より低い。そのため、たとえば無電解めっき液の原液と混合される水の替わりにこの表面張力のアルコールを使用することで、無電解めっき液の表面張力を下げることができる。
【0021】
また、この態様においてアルコールは、分子量120以下でもよい。分子量が小さいほどプラスチック部材に浸透しやすいからである。
【0022】
また、この態様においてアルコールは、アルコールは、無電解めっき液に20vol%以上で含有され、且つ、無電解めっき液が分離しない濃度以下含有されてもよい。
【0023】
また、この態様においてアルコールは、40℃以上の引火点でもよい。特に、アルコールは、無電解めっき液のめっき処理温度よりも高い温度の引火点でもよい。アルコールの引火点が40℃以上あるいはめっき処理温度以上である場合、たとえば無電解めっき液をめっき反応温度に加熱しても、無電解めっき液からアルコールが抜けたり、アルコールに引火したりしないので安全であり、工業化に適している。
【0024】
これらの条件を満たすアルコールとしては、たとえばエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、1−メトキシー2−プロパノール、1−エトキシー2−プロパノール、1,3−ブタンジオール、tert−ブチルアルコール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、1−プロポキシ−2−プロパノール、2(2−メトキシプロポキシ)プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどがある。
【0025】
また、この態様において、無電解めっき液は、Ni−Pめっき液でもよい。
【0026】
また、この態様において、還元剤は、次亜燐酸、次亜燐酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、アルコール類、およびフェノール類の還元能力のある物質から選択された少なくとも1種類を含んでもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、連続生産プロセスに適した無電解めっき処理により、めっき膜を有するプラスチック部材に対して高い密着強度を有する無電解めっき膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法の実施例を説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0029】
本実施例では、図1に示す製造方法により、平板形状のプラスチック部材に無電解めっき膜を形成した。図1の製造方法では、まず、図示しない一般的な射出成形装置を用いて、縦70mm、横15mm、厚み1mmのプラスチック部材を成形した(成形工程S11)。また、このプラスチック部材1の表面には、後述する図3に示すように、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4からなる金属膜を形成した。
【0030】
このプラスチック部材の成形処理では、成形樹脂として、ガラス繊維等の添加物のないポリアミド66(PA66、三菱エンジアリングプラスチック製:3010SR)を用いた。この樹脂の吸水率は2.8%であった。吸水率は、ASTM(American Society for Testing and Materials)規格 D−570による試験方法で測定した。また、常温(23℃)且つ24Hrでの数値である。なお、以下に示す各吸水率は、全て同一試験方法による。
【0031】
なお、本実施例では成形樹脂としてポリアミド66を用いたが、本発明の製造方法で使用可能な成形樹脂はこれに限定されない。しかし、本発明で使用する成形樹脂は、アミド基を有する樹脂が好ましい。また、プラスチック部材は、後工程において無電解めっき液や還元剤を含んだ溶媒に浸漬されるので、これらの液体についてのプラスチック部材の内部への浸透し易さを考慮すると、吸水率が0.1%以上あることが好ましい。なお、成形樹脂は、ガラス繊維、炭素繊維、無機化合物、セラミック等のフィラーを含有してもよい。
【0032】
射出成形装置を用いたバッチ処理によりプラスチック部材を成形した後、超臨界二酸化炭素(高圧流体)を用いて有機金属錯体および還元剤をプラスチック部材に浸透させた(触媒付与工程)。
【0033】
触媒付与工程では、まず、還元剤をプラスチック部材に浸透させた。具体的には、還元剤を含む溶媒として、水95mlと次亜燐酸5mlを混合し、さらに水酸化ナトリウムを添加してPH7になるように調製した混合液を作成した。そして、この混合液を70℃に調温した状態で、混合液にプラスチック部材を60分間漬けて、プラスチック部材に還元剤を含む溶媒を浸透させた。その後、プラスチック部材を水で洗浄してプラスチック部材の最表面から次亜燐酸を除去し、常温で乾燥させた(還元剤付与工程S12)。
【0034】
なお、本実施例では還元剤として次亜燐酸を使用したが、還元剤の種類は任意である。たとえば、次亜燐酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、アルコール類、フェノール類などの還元能力のある物質を少なくとも1種類を含む還元剤であればよい。また、還元作用のあるヒドロキシル基を有するアルコールやポリアルキルグリコール、フェノール等を還元剤として用いることもできる。特に、エタノールは表面張力が低く樹脂内部に浸透しやすいので好適である。また、還元作用のあるヒドロキシル基を有するアルコールの種類は任意であるが、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール等を用いることができる。ポリエチレングリコールなどの高分子量のポリアルキルグリコールを用いることにより、樹脂最表面および樹脂内部から還元剤が抜けてしまうことを抑制できる。なお、還元剤は2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
また、本実施例では還元剤である次亜燐酸を5vol%で使用したが、還元剤の混合量はこれに限定されない。還元剤の最適濃度は、たとえば還元剤を浸透させる樹脂の種類に応じて異なる。また、本実施例では還元剤を含む溶媒の液温を70℃とし且つ浸透時間を60分としたが、液温および浸透時間もこれに限定されるものではない。液温および浸透時間は、たとえば還元剤の種類や樹脂の種類に応じて異なる。さらに、還元剤を含む溶媒にプラスチック部材を浸漬させるとともに、この溶液に超音波を印加してもよい。また、溶液の表面張力を低減して浸透力を高めるために、エタノールなどの表面張力の低い溶媒をさらに混合したり、ラウリル硫酸ナトリウムなどの添加剤をさらに溶解させたりしてもよい。いずれにしても、還元剤を含む溶媒に浸透させた後のプラスチック部材において、プラスチック部材の少なくとも内部(表面近傍の内部)に還元剤を含む溶媒が浸透すればよい。
【0036】
プラスチック部材に還元剤を浸透させた後、図2の高圧装置10を用いて、プラスチック部材に触媒を付与した(触媒付与工程S13)。
【0037】
図2の高圧装置10は、主に、液体の高圧二酸化炭素を収容する液体二酸化炭素ボンベ11と、液体二酸化炭素を昇圧するシリンジポンプ13と、プラスチック部材(樹脂成型体)1を収容する第一密閉容器20と、有機金属錯体を収容する第二密閉容器17と、超臨界二酸化炭素に溶解した有機金属錯体を分離回収する分離回収機25と、分離された有機金属錯体を回収する回収槽26とを含む。また、高圧装置10の各構成要素間には、高圧二酸化炭素の圧力や流動を制御するための複数のバルブ12,16,18,19,23、複数の圧力計14,22、逆止弁15、背圧弁24が適宜所定の箇所に設置されている。また、第一密閉容器20は、図示しないカトーリッジヒーターおよび冷却回路により温調可能であり、且つ、超臨界状態の二酸化炭素の高圧に耐える強度を有する。第二密閉容器17も、超臨界状態の二酸化炭素の高圧に耐える強度を有する。
【0038】
プラスチック部材1に触媒を付与する工程では、まず、乾燥後のプラスチック部材1を図2の第一密閉容器20に仕込んで第一密閉容器20を密閉するとともに、有機金属錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II))100mgを内容積が100mlの第二密閉容器17に仕込んで第二密閉容器17を密閉して、これらを50℃に温調した。引き続き、手動ニードルバルブ12を開いて、液体二酸化炭素ボンベ11からシリンジポンプ13へ液体二酸化炭素を供給し、シリンジポンプ13において液体二酸化炭素を15MPaに昇圧した。このシリンジポンプ13の圧力は圧力計14で確認した。
【0039】
以上の準備の後、手動ニードルバルブ12を閉じるとともに手動ニードルバルブ16を開き、さらにシリンジポンプ13を定流量制御により作動させた。これにより、シリンジポンプ13から高圧の二酸化炭素が一定流量で押し出され、この一定流量の高圧二酸化炭素は逆止弁15を介して第二密閉容器17へ供給された。そして、第二密閉容器17の内圧は15MPaに昇圧され、第二密閉容器17において高圧二酸化炭素に有機金属錯体が溶解された。
【0040】
次に、手動ニードルバルブ18を開いた。第二密閉容器17において有機金属錯体が溶解された高圧二酸化炭素は、第一密閉容器20へ供給される。第一密閉容器20は所望の高温に調整されており、第一密閉容器20へ供給された高圧二酸化炭素は超臨界状態になる。そして、プラスチック部材1に超臨界二酸化炭素を60分間接触させた。これにより、高圧二酸化炭素に溶解していた有機金属錯体は、超臨界状態になった高圧二酸化炭素とともにプラスチック部材1の内部へ浸透した。
【0041】
なお、この第一密閉容器20における有機金属錯体の浸透処理では、攪拌機21を作動させて、第一密閉容器20内で超臨界二酸化炭素と有機金属錯体とを均一な相にするのが望ましい。そのため、本実施例では、攪拌機21により第一密閉容器20内の混合溶媒を常時攪拌した。
【0042】
また、第一密閉容器20の温度および圧力は、二酸化炭素の超臨界条件を満たし、かつ、有機金属錯体が熱還元しない温度であることが望ましい。このように二酸化炭素が超臨界状態であると混合溶媒の表面張力が下がり、有機金属錯体がプラスチック部材1へ浸透しやすくなる。そして、有機金属錯体がプラスチック部材1へ浸透しやすくなることで、プラスチック部材1の表面付近にのみ有機金属錯体が浸透して有機金属錯体等の濃度が高くなることを防ぐことができ、且つ、従来よりも深く有機金属錯体を浸透させることができる。これにより、後述するようにめっき膜2の密着力が向上する。また、第一密閉容器20の温度を有機金属錯体が熱還元しない温度とすることにより、プラスチック部材1に浸透せずに第一密閉容器20内に残留した有機金属錯体が第一密閉容器20内で分解しなくなり、その後に回収して再利用が可能となる。具体的には、二酸化炭素が超臨界状態となる温度および圧力は、31℃以上および7.1MPa以上である。なお、第一密閉容器20の図示外のシールによる密閉性を確保するためには、実用的な温度および圧力は200℃以下および30MPa以下とすればよい。
【0043】
また、高圧二酸化炭素に金属錯体を溶解させてプラスチック部材1に接触させる第一密閉容器20の内部温度は、金属錯体の熱分解温度をあらかじめ示差走査熱量計(DSC)により測定し、大気もしくは窒素雰囲気における金属錯体の熱分解開始温度よりも10℃以上低い温度に制御することが望ましい。また、金属錯体の耐熱温度が高い場合においても、あらかじめプラスチック部材1に浸透させた還元剤が変質、昇華、沸騰等しない温度雰囲気にて高圧処理することが望ましい。本実施例では、有機金属錯体にヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いており、且つ、この錯体の窒素雰囲気における熱分解開始温度が約73℃以上であるので、処理温度を63℃以下の50度とした。
【0044】
また、本実施例では、金属錯体として、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いたが、本発明で使用可能な有機金属錯体としては、高圧二酸化炭素にある程度の溶解度を有し、且つ、めっき用触媒となる金属元素Pd、Pt、Ni、Cu、Agをいずれかの少なくとも1種類は含有する材料であればよい。例えば、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジメチル(シクロオクタジエニル)プラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトヒドレート銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトプラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナト(トリメチルホスフィン)銀(I)、ジメチル(ヘプタフルオロオクタネジオネート)銀(AgFOD)等の材料を用いればよい。特に、フッソを配位子に有する金属錯体は高圧二酸化炭素に相溶しやすいので好適である。
【0045】
また、有機金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素をプラスチック部材1に接触させている時間は、有機金属錯体がプラスチック部材1に浸透する時間であればよく、有機金属錯体やプラスチック部材1の樹脂の種類、第一密閉容器20内の温度、圧力等に応じて最適な接触時間は変わる。
【0046】
有機金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素をプラスチック部材1に接触させた後、手動ニードルバルブ23を開き、更に背圧弁24を開いた。これにより、第一密閉容器20は、分離回収機25器を通して大気開放される。その後、第一密閉容器20からプラスチック部材1を取り出した。
【0047】
プラスチック部材1に触媒(有機金属錯体およびその変性物)を付与した後、プラスチック部材1に無電解めっき膜2を形成した(無電解めっき工程S14)。
【0048】
具体的には、まず、エタノール含有の無電解Ni−Pめっき液を開放容器に入れて且つめっきの反応温度(70℃〜85℃)である70℃にして、プラスチック部材1を浸漬した。これにより、プラスチック部材1の表面に膜厚0.5μmの無電解めっき膜2を形成した。なお、本実施例では、無電解めっき液の原液として、硫酸ニッケルの金属塩と還元剤や錯化剤が含まれる奥野製薬社製ニコロンDKを用いた。また、無電解めっき液に水とアルコール(50vol%)を混合させた。
【0049】
なお、無電解めっき液に混合させるアルコールの種類は任意であるが、プラスチック部材1に浸透させることを考慮すると、表面張力が低いアルコールが望ましい。具体的には、少なくとも水の表面張力(73dyn/cm)よりも小さいことが望ましく、更に40dyn/cm以下であることが好ましい。また、アルコールの分子量が大きいとプラスチック部材1に浸透し難くなるため、分子量150以下が好適であり、更に望ましくは120以下であることが好ましい。これらの条件を満たすアルコールとしては、例えば、エタノール(分子量:46.1、表面張力:22.3dyn/cm)、1−プロパノール(分子量:60.1、表面張力:23.8dyn/cm)、2−プロパノール(分子量:60.1、表面張力:21.7dyn/cm)、2−メトキシエタノール(分子量76.1:、表面張力:31.8dyn/cm)、2−エトキシエタノール(分子量:90.1、表面張力:28.2dyn/cm)、1−メトキシー2−プロパノール(分子量:90.1、表面張力:27.1dyn/cm)、1−エトキシー2−プロパノール(分子量:104.2、表面張力:25.9dyn/cm)、1,3−ブタンジオール(分子量90.1:、表面張力:37.8dyn/cm)、tert−ブチルアルコール(分子量:74.1、表面張力:19.5dyn/cm)、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール(分子量:134.2、表面張力:31.3dyn/cm)、1−プロポキシ−2−プロパノール(分子量:118.2、表面張力:25.9dyn/cm)、2(2−メトキシプロポキシ)プロパノール(分子量148.2:、表面張力:28.8dyn/cm)などがある。本実施例ではエタノールを用いた。
【0050】
ところで、本発明では、無電解めっき液にアルコールを混合させている。この理由は、無電解めっき液に対して水より表面張力の低いアルコールを混合させることで、水のみを混合させた従来の無電解めっき液よりも、樹脂(プラスチック部材1)の表面近傍の分子間を広げて、無電解めっき液を樹脂材料表面近傍に浸透し易くさせることができ、更にめっき反応速度を遅くできるからである。このような条件が揃うことで、最初に樹脂(プラスチック部材1)に浸透した無電解めっき液により樹脂(プラスチック部材1)の最表面においてめっき成長が起きず、樹脂(プラスチック部材1)の内部に存在する金属微粒子を触媒核としてめっき成長が起きるようになる。そして、最終的には、樹脂(プラスチック部材1)の表面をめっき膜2で覆いつくすことができる。すなわち、無電解めっき液にアルコールを混合させることで、樹脂(プラスチック部材1)内部の自由体積内でもめっき膜2が成長することとなり、めっき膜2は樹脂(プラスチック部材1)の内部に食い込んだ状態で高い密着性で形成できる。
【0051】
プラスチック部材1に最初の無電解めっき膜2を形成した後、さらにアルコールを含有しない無電解めっき液を用いて別の無電解めっき膜3を形成した。具体的には、前記のアルコール含有めっき液のアルコールを水に代替した無電解Ni−Pめっき液を使用して、最初の無電解めっき膜2の上に膜厚1μmの無電解めっき膜3を積層した。
【0052】
このようにアルコールを含有しない無電解めっき液を用いた無電解めっき膜3を、アルコールを含有した無電解めっき液を用いた無電解めっき膜2の上に形成することで、アルコールを含有した無電解めっき液を用いた無電解めっき膜2のみを形成した場合に比べて、無電解めっき膜の導通を改善できる。そして、無電解めっき膜の導通を改善することで、電解めっき処理が実施し易くなる。
【0053】
プラスチック部材1の表面に無電解めっき膜2、3を形成した後、さらに電解めっき膜4を形成した。具体的には、従来の電解めっき法により、膜厚40μmのニッケル膜4を積層した。このとき、2つの無電解めっき膜2、3が積層されることにより導電性が改善された金属膜を一方の電極として使用した(電解めっき工程S15)。
【0054】
以上の一連の工程により、図3に示すように、プラスチック部材1には、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4が形成された。プラスチック部材1の全表面は、これらのめっき膜2〜4からなる金属膜により覆われた。
【実施例2】
【0055】
本実施例では、図4に示す製造方法により、平板形状のプラスチック部材1に無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4を形成した。図4の製造方法では、実施例1の図1の製造方法と同様に、プラスチック部材1を形成し(成形工程S21)、還元剤を含む溶媒にプラスチック部材1を浸透し(還元剤付与工程S22)、高圧二酸化炭素を用いて有機金属錯体をプラスチック部材1に付与した(触媒付与工程S23)。
【0056】
有機金属錯体をプラスチック部材1に付与した後、還元剤を含む溶媒を用いてプラスチック部材1を膨潤させた(膨潤工程S24)。
【0057】
具体的には、まず、還元剤を含む溶媒として、水90mlと次亜燐酸10mlを混合し水酸化ナトリウムを添加してPH7になるように調製した混合液を準備した。そして、この混合液を70℃に温調して、有機金属錯体が付与されたプラスチック部材1を混合液に15分間浸漬した。これにより、有機金属錯体が付与されたプラスチック部材1の表面近傍が膨潤する。その後、混合液からプラスチック部材1を取り出し、プラスチック部材1の最表面から次亜燐酸を除去するために水で洗浄した。
【0058】
なお、本実施例では、還元剤として次亜燐酸を使用したが、還元剤の種類は任意である。たとえば、次亜燐酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、アルコール類、フェノール類などの還元能力のある物質を少なくとも1種類を還元剤として用いればよい。また、本実施例では、還元剤である次亜燐酸を混合液に10vol%で混合したが、これに限定されるものではない。たとえば還元剤の種類やプラスチック部材1の樹脂の種類、更にプラスチック部材1の表面近傍の有機金属錯体およびその変性物の浸透量など応じて、還元剤の最適濃度は異なる。また、本実施例では、還元剤を含む溶媒(混合液)の液温を70℃にして且つ浸透時間を15分にしたが、これに限定されるものではない。還元剤を含む溶媒がプラスチック部材1の少なくとも表面近傍に浸透すればよく、たとえば還元剤の種類やプラスチック部材1の樹脂の種類、更にプラスチック部材1の表面近傍の有機金属錯体およびその変性物の浸透量など応じて、還元剤を含む溶媒の最適液温および最適浸透時間は異なる。なお、還元剤を含む溶媒に超音波を印加してもよい。また、還元剤を含む溶媒の表面張力を低減して樹脂への浸透力を高めるために、エタノールなどの表面張力が低い溶媒をさらに混合させたり、ラウリル硫酸ナトリウムなどの添加剤をさらに溶解させたりしてもよい。
【0059】
還元剤を含む溶媒を用いてプラスチック部材1を膨潤させた後、実施例1の図1の製造方法と同様に、プラスチック部材1に無電解めっき膜2、3を形成し(工程S25)、さらに電解めっき膜4を形成した(工程S26)。
【0060】
これにより、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4が形成されたプラスチック部材1を得た。プラスチック部材1の全表面は、これらのめっき膜2〜4からなる金属膜により覆われた。
【0061】
ところで、本実施例では、アルコールを含有した無電解めっきを常圧下で実施する前に、金属錯体などを付与したプラスチック部材1を、還元剤を含む溶媒に浸漬して、還元剤を含む溶媒をプラスチック部材1の表面近傍に浸透させている。本発明者らの研究による限り、この処理により樹脂材料の表面近傍が膨潤すると考えており、これが後の無電解めっき処理において大きな効果を生じていると思われる。また、金属錯体などを付与したプラスチック部材1を、還元剤を含む溶媒に浸漬することで、めっき前処理で樹脂材料の表面近傍に浸透させた有機金属錯体およびその変性物を還元させて金属微粒子に変成させる効果もある。すなわち、この還元剤を含有した溶液に常圧下で浸漬させる工程を追加することによって、樹脂材料の表面近傍の分子間を広げ、無電解めっき液を内部に浸透し易くさせ、更に浸透した還元剤により有機金属錯体およびその変性物を還元させて金属微粒子にしている。
【0062】
また、実施例1でも記載したとおり、無電解めっき液に対して水より表面張力の低いアルコールを混合させることで、従来の水のみを混合した無電解めっき液よりも、無電解めっき液が樹脂材料の表面近傍に浸透し易くなり、且つ、めっき反応速度を遅くさせることができる。したがって、上述した還元剤を含有した溶液に常圧下でプラスチック部材1を浸漬させる工程を追加することにより、最初に樹脂材料の最表面でめっき成長をさせずに、その内部に存在する金属微粒子を触媒核としてめっき膜2を成長させ、最終的に樹脂材料の表面をめっき膜2で覆いつくすことができる。すなわち、この例のめっき膜の形成方法では、樹脂材料の内部の自由体積内にもめっき膜2が成長することとなり、めっき膜2は樹脂材料の内部に食い込んだ状態で高い密着性で形成される。
【0063】
そのため、この例のように還元剤を含む溶媒にプラスチック部材1を浸透させてから、アルコールを含有した無電解めっき液にプラスチック部材1を浸透させることで、実施例1のようにアルコールを含有した無電解めっきのみにプラスチック部材1を浸透させた場合より、更に高い密着性のめっき膜2を得ることができる。
【実施例3】
【0064】
本実施例では、図5に示す製造方法により、無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4からなる金属膜を有するプラスチック部材1を製造した。図5の製造方法では、まず、高圧二酸化炭素を用いて、成形前の溶融樹脂に有機金属錯体(触媒)を供給した。これにより、有機金属錯体は、成形前の溶融樹脂に分散して混合される(触媒付与成形工程S31)。
【0065】
図6〜図13に、成形前の溶融樹脂に有機金属錯体を供給して、有機金属錯体などが分散したプラスチック部材1を製造するまでの工程を示す。これら一連の工程では、プラスチック射出成形装置30を使用した。なお、本発明に用いることのできるプラスチック材料の種類は任意であるが、本実施例においては、ポリアミド66(PA66、三菱エンジアリングプラスチック製:3010SR)を用いた。また、本発明において高圧流体の種類は任意であるが、本実施例では超臨界二酸化炭素を用いた。また、本発明において溶融樹脂に供給する超臨界流体は単独でも複数でもよく、しかも、各超臨界流体に機能性材料を溶解もしくは分散させてもよいが、本実施例においては、金属錯体を溶解させた1つの超臨界二酸化炭素を使用した。
【0066】
図6に図示されたプラスチック射出成形装置30は、主に、固定金型32および可動金型31からなる金型33と、樹脂を可塑化溶融して金型33へ射出する可塑化シリンダー37と、可塑化シリンダー37内の溶融樹脂へ金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素を供給するガス導入機構41とを含む。
【0067】
ガス導入機構41は、主に、高圧の液体二酸化炭素を収容するボンベ42と、公知の2台のシリンジポンプからなる連続フローシステム(ISCO社製E−260)43と、金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)が仕込まれた溶解槽44と、ガス導入機構41から可塑化シリンダー37への導入口40に配設されたシールピストン49とを含む。シールピストン49は、ガス導入機構41内部の超臨界二酸化炭素の圧力P1と、可塑化シリンダー37の溶融樹脂の内圧P2との圧力差(P1−P2)が5MPa以下であるときに、バネ力および樹脂圧力によって図中上部に位置して導入口40を塞ぐ。
【0068】
固定金型32は固定プラテン36に取り付けられ、可動金型31は可動プラテン35に取り付けられる。可動プラテン35は、図示しない電動トグル型締め機構に連動して図の左右方向へ移動可能である。そして、可動金型31を固定金型32に突き当てることにより、中心にスプールを有する円盤形状のキャビティ34を形成した。
【0069】
金型33でキャビティ34を形成した状態で、一般的な射出成形装置30と同様に樹脂材料を可塑化した。具体的には、図示しない乾燥機にて乾燥脱水されたペレットが図示しないホッパーから可塑化シリンダー37へ供給される。また、可塑化シリンダー37はバンドヒーター38により300℃に昇温されている。可塑化シリンダー37へ供給された樹脂ペレットは、スクリュー39の回転によりスクリュー39の溝内部を通ってスクリュー39の前方方向(図6の左側)へ押し出される間に可塑化溶融される。そして、可塑化シリンダー37のノズル先端はシャットオフピン51によってエアー駆動ピストンの力により樹脂漏れがないように閉鎖されているので、可塑化溶融樹脂がスクリュー39の前方に押し出されることにより、スクリュー39の前方の樹脂の圧力が上昇してスクリュー39が後退する。これにより、計量が開始される。なお、本実施例の射出成形装置30においては、図示外の樹脂圧力センサーによって、樹脂導入直下の樹脂内圧を計測できる。
【0070】
樹脂を可塑化溶融した後、金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素を可塑化シリンダー37内に導入した。超臨界二酸化炭素を可塑化シリンダー37内に導入する前では、図7に示すように、ガス導入機構41のシールピストン49は、ガス導入機構41の超臨界流体と可塑化シリンダー37内の溶融樹脂との界面を遮断している。
【0071】
この金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素を可塑化シリンダー37内に導入する工程では、まず、二酸化炭素ボンベ42に備えられた5〜7MPaの液化二酸化炭素は、フィルター42を通過して連続フローシステム43に導入され、2台のシリンジポンプの少なくとも1台において20MPaに昇圧される。そして、20MPaに昇圧されたシリンジポンプから二酸化炭素を送り出した。
【0072】
シリンジポンプから送り出された二酸化炭素は、40℃に昇温された溶解槽44へ供給される。溶解槽44には、金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)金属錯体が過飽和になるように仕込まれているため、溶解槽44において高圧二酸化炭素には金属錯体が飽和溶解する。このときの溶解槽44の圧力計45は、20MPaの表示となる。
【0073】
また、溶解槽44において金属錯体が飽和した高圧二酸化炭素は、溶解槽44から送り出されて、可塑化シリンダー37の導入口40へ向けて供給される。導入口40は、シールピストン49により塞がれている。そして、ガス導入機構41内部の超臨界二酸化炭素の圧力が可塑化シリンダー37の樹脂内圧よりも十分に高くなり、P1−P2≧5MPaとなったときにシールピストン49が下降して、導入口40が開く。このようにして金属錯体が溶解して且つ高い圧力の超臨界二酸化炭素を、可塑化シリンダー37内で溶融した樹脂へ供給した。
【0074】
図7は、射出が完了して、スクリュー39が最前進位置(a)まで到達した状態を示す導入口40付近の部分断面図である。スクリュー39は、可塑化溶融樹脂を計量しながら、最前進位置(a)から図8の計量完了位置(b)まで回転しながら後退する。
【0075】
可塑化計量した後、図9のサックバック位置(c)まで、スクリュー39をさらにサックバックさせた。本実施例においては、(a)の射出完了位置が所定の基準位置から1±0.5mmの位置であり、(b)の計量完了位置が20mmである。また、(c)のサックバック位置は25mmである。このサックバック動作により、可塑化シリンダー37内で計量された溶融樹脂の圧力は、樹脂圧力センサーの読みで18MPaから13MPaまで減圧された。
【0076】
また、計量完了に基づく所定のトリガ信号により、図6中のガス導入機構41の自動バルブ46が開放されると、溶解槽44から可塑化シリンダー37の導入口40へ向けて、金属錯体が飽和した高圧二酸化炭素が供給される。上述したように高圧二酸化炭素の圧力は20MPaである。これにより、圧力計48が20MPaに昇圧された。なお、導入口40の圧力が過度に上昇しないように、安全弁47は20MPaで作動するように調整されている。
【0077】
このようにサックバックにより可塑化シリンダー37内を減圧した状態で、高圧の二酸化炭素が導入口40へ供給されることにより、図9に示すようにシールピストン49が下降し、可塑化シリンダー37内に、金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素が導入される。
【0078】
その後、図10に示すように、樹脂圧センサーのモニター値が23MPaになるようにスクリュー39を背圧制御するモーターをフィードバック制御して、スクリュー39を前進させた。その際の最前進位置(d)は19.5±0.2mmであり、その位置を射出開始位置とした。樹脂圧センサーのモニター値は23MPa±0.5MPとなった。樹脂圧のフィードバック制御は1分間行った。
【0079】
なお、この1分間の樹脂圧の制御により、図11に示すように、可塑化シリンダー37内では、金型33寄りの部位に、金属錯体(機能性材料)および超臨界二酸化炭素の多くが浸透した溶融樹脂61が存在し、且つ、スクリュー39寄りの部位に、金属錯体(機能性材料)および超臨界二酸化炭素がほとんど浸透していない溶融樹脂62が存在するようになると推定される。
【0080】
また、本実施例では、金型33寄りの部位の樹脂(フローフロントの樹脂)61に多くの金属錯体および超臨界二酸化炭素を滞留させるため、導入口40をシャットオフピン51(シャットオフノズル)の近傍に設けた。また、本実施例において超臨界流体に溶解させた改質材料は、熱的に不安定で150℃にて完全分解する金属錯体を用いたので、溶融樹脂61内にて自己分解して金属微粒子に変成していると予想される。
【0081】
このように可塑化計量した溶融樹脂61、62に金属錯体および超臨界二酸化炭素を浸透させた後、図示外のエアー駆動ピストンの駆動力によってシャットオフピン51を開き、同時に、スクリュー39をストローク制御によって前進させて、一次充填を行った。これにより、図12に示すように、フローフロントの樹脂61が金型33内に射出された。また、図13に、一次充填完了時におけるキャビティ34の様子を模式的に示す。
【0082】
図13に示すように、キャビティ34内では、超臨界流体および金属微粒子を浸透させたフローフロント部の樹脂61によりスキン層が形成され、且つ、その内側に残りの樹脂62が射出される。この理由は以下の通りであると考えられる。すなわち、第一に、キャビティ34内への充填開始時には、超臨界流体および金属微粒子を浸透させたフローフロント部の樹脂61は、超臨界流体の一部をガス化して放出しながら流動し、且つ、ファウンテンフロー効果により金型33表面に引き伸ばされながら充填される。その一方で、第二に、その後に射出されて且つ超臨界流体がほとんど溶解していない溶融樹脂は、先に射出された樹脂を押し広げるように充填される。このため、図13に示すように、成形品の表面には超臨界流体や金属微粒子が浸透および分散した樹脂61の固化層が支配的になり、表面改質された成形品(プラスチック部材1)が射出成形できた。
【0083】
また、充填後に保圧して、樹脂のヒケを補完した。これにより、発泡のない透明な成形体(プラスチック部材1)を射出成形により得ることができた。
【0084】
なお、フローフロントの樹脂61から放出されるガスが成形品表面を悪化させる場合には、予めカウンタープレッシャーとして低圧の二酸化炭素等をキャビティ34内に充填させておき、射出と同時に排気させる方法を採用するとよい。
【0085】
以上のように、金属錯体が変成してなる金属微粒子を分散させたプラスチック部材1を形成した後、実施例1の図1の製造方法と同様に、プラスチック部材1に無電解めっき膜2、3を形成し(無電解めっき工程S32)、さらに電解めっき膜4を形成した(電解めっき工程S33)。
【0086】
これにより、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4が形成されたプラスチック部材1を得た。プラスチック部材1の全表面は、これらのめっき膜2〜4からなる金属膜により覆われた。
【実施例4】
【0087】
本実施例では、図14に示す製造方法により、平板形状のプラスチック部材1に無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4を形成した。図14の製造方法では、実施例3の図5の製造方法と同様に、射出成形により、少なくとも表面近傍に金属錯体若しくはその変性物せある金属微粒子を分散させたプラスチック部材1を成形した(成形工程S41)。その後、実施例2と同様に、還元剤を含む溶媒を用いてプラスチック部材1を膨潤させ(膨潤工程S42)、プラスチック部材1に無電解めっき膜2、3を形成し(無電解めっき工程S43)、更に電解めっき膜4をを形成した(電解めっき工程S44)。
【0088】
これにより、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4が形成されたプラスチック部材1を得た。プラスチック部材1の全表面は、これらのめっき膜2〜4からなる金属膜により覆われた。
【実施例5】
【0089】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりに1,3−ブタンジオール(分子量90.12、表面張力37.8dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例6】
【0090】
本実施例では、実施例2と同様に図4に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S25において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりに1,3−ブタンジオール(分子量90.12、表面張力37.8dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例7】
【0091】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりに2−メトキシエタノール(分子量76.1、表面張力31.8dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例8】
【0092】
本実施例では、実施例2と同様に図4に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S25において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりに2−メトキシエタノール(分子量76.1、表面張力31.8dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例9】
【0093】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりに2−エトキシエタノール(分子量90.1、表面張力28.2dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例10】
【0094】
本実施例では、実施例2と同様に図4に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S25において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりに2−エトキシエタノール(分子量90.1、表面張力28.2dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例11】
【0095】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりに1−メトキシ−2−プロパノール(分子量90.1、表面張力27.1dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例12】
【0096】
本実施例では、実施例2と同様に図4に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S25において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりに1−メトキシ−2−プロパノール(分子量90.1、表面張力27.1dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例13】
【0097】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりに2−メチル−2,4−ペンタンジオール(分子量118.2、表面張力27.0dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例14】
【0098】
本実施例では、実施例2と同様に図4に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S25において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりに2−メチル−2,4−ペンタンジオール(分子量118.2、表面張力27.0dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例15】
【0099】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりに2−(2−エトキシエトキシ)エタノール(分子量134.2、表面張力31.3dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例16】
【0100】
本実施例では、実施例2と同様に図4に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S25において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりに2−(2−エトキシエトキシ)エタノール(分子量134.2、表面張力31.3dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例17】
【0101】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりにエチレングリコール(分子量62.07、表面張力46.5dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例18】
【0102】
本実施例では、実施例2と同様に図4に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S25において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりにエチレングリコール(分子量62.07、表面張力46.5dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例19】
【0103】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりにジエチレングリコール(分子量106.12、表面張力48.5dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例20】
【0104】
本実施例では、実施例2と同様に図4に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S25において、アルコールを含有した無電解めっき液として、エタノールの替わりにジエチレングリコール(分子量106.12、表面張力48.5dyn/cm)を混合した無電解めっき液を使用した。
【実施例21】
【0105】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、成形工程S11において、ポリアミド66(PA66)の替わりに、ガラス繊維等の添加物のないポリアミド6(PA6)を用いてプラスチック部材1を成形した。本樹脂の吸水率は3.5%であった。
【実施例22】
【0106】
本実施例では、実施例2と同様に図4に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、成形工程S21において、ポリアミド66(PA66)の替わりに、ガラス繊維等の添加物のないポリアミド6(PA6)を用いてプラスチック部材1を成形した。本樹脂の吸水率は3.5%であった。
【実施例23】
【0107】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、成形工程S11において、ポリアミド66(PA66)の替わりに、ガラス繊維が65%添加されたポリフタルアミド(PPA、ソルベイアドバンストポリマーズ製、AS−1566)を用いてプラスチック部材1を成形した。本樹脂の吸水率は0.1%であった。
【実施例24】
【0108】
本実施例では、実施例2と同様に図4に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、成形工程S21において、ポリアミド66(PA66)の替わりに、ガラス繊維が65%添加されたポリフタルアミド(PPA、ソルベイアドバンストポリマーズ製、AS−1566)を用いてプラスチック部材1を成形した。本樹脂の吸水率は0.1%であった。
【実施例25】
【0109】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、成形工程S11において、ポリアミド66(PA66)の替わりに、ガラス繊維等の添加物のないポリフェニレンサルファイド(PPS、DIC製、FZ−2100)を用いてプラスチック部材1を成形した。本樹脂の吸水率は0.02%であった。
【実施例26】
【0110】
本実施例では、実施例2と同様に図4に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、成形工程S21において、ポリアミド66(PA66)の替わりに、ガラス繊維等の添加物のないポリフェニレンサルファイド(PPS、DIC製、FZ−2100)を用いてプラスチック部材1を成形した。本樹脂の吸水率は0.02%であった。
【実施例27】
【0111】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、成形工程S11において、ポリアミド66(PA66)の替わりに、ポリプロピレン(PP、日本ポリプロ製、MA3)を用いてプラスチック部材1を成形した。本樹脂の吸水率は0.01%であった。
【実施例28】
【0112】
本実施例では、実施例2と同様に図4に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、成形工程S21において、ポリアミド66(PA66)の替わりに、ポリプロピレン(PP、日本ポリプロ製、MA3)を用いてプラスチック部材1を成形した。本樹脂の吸水率は0.01%であった。
【実施例29】
【0113】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、無電解めっき液と混合するエタノールの混合量を50vol%ではなく40vol%とした。
【実施例30】
【0114】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、無電解めっき液と混合するエタノールの混合量を50vol%ではなく30vol%とした。
【実施例31】
【0115】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、無電解めっき液と混合するエタノールの混合量を50vol%ではなく20vol%とした。
【実施例32】
【0116】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、無電解めっき液と混合するエタノールの混合量を50vol%ではなく15vol%とした。
【実施例33】
【0117】
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、無電解めっき液と混合するエタノールの混合量を50vol%ではなく10vol%とした。
【実施例34】
【0118】
本実施例では、実施例2と同様に図4に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、膨潤工程S24において、還元剤を含む溶媒として、次亜リン酸の替わりに1−メトキシ−2−プロパノール50mlを水50mlと混合し、さらに水酸化ナトリウムを添加してPH7になるように調製した混合液を、使用した。
【0119】
[比較例1]
本比較例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、従来のアルコールを含有しない無電解めっき液を使用した。
【0120】
[比較例2]
本比較例では、実施例2と同様に図4に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S25において、従来のアルコールを含有しない無電解めっき液を使用した。
【0121】
[比較例3]
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、従来のアルコールを含有しない無電解めっき液を使用し、成形工程S11において、ポリアミド66(PA66)の替わりに、ガラス繊維等の添加のないポリアミド6(PA6)を用いてプラスチック部材1を成形した。本樹脂の吸水率は3.5%であった。
【0122】
[比較例4]
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、従来のアルコールを含有しない無電解めっき液を使用し、成形工程S11において、ポリアミド66(PA66)の替わりに、ガラス繊維が65%添加されたポリフタルアミド(PPA、ソルベイアドバンストポリマーズ製、AS−1566)を用いてプラスチック部材1を成形した。本樹脂の吸水率は0.1%であった。
【0123】
[比較例5]
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、従来のアルコールを含有しない無電解めっき液を使用し、成形工程S11において、ポリアミド66(PA66)の替わりに、ガラス繊維等の添加物のないポリフェニレンサルファイド(PPS、DIC製、FZ−2100)を用いてプラスチック部材1を成形した。本樹脂の吸水率は0.02%であった。
【0124】
[比較例6]
本実施例では、実施例1と同様に図1に示す製造方法により、2つの無電解めっき膜2、3および電解めっき膜4で覆われたプラスチック部材1を製造した。ただし、無電解めっき工程S14において、従来のアルコールを含有しない無電解めっき液を使用し、成形工程S11において、ポリアミド66(PA66)の替わりに、ポリプロピレン(PP、日本ポリプロ製、MA3)を用いてプラスチック部材1を成形した。本樹脂の吸水率は0.01%であった。
【0125】
【表1】

【0126】
【表2】

【0127】
上記表1および表2に、上述した実施例1〜34および比較例1〜6のそれぞれの製造条件と、それぞれのめっき膜2〜4の評価結果とをまとめた。なお、各実施例または各比較例の評価結果は、それぞれの実施例または比較例の製造方法で製造した10枚の製造物についての評価結果である。密着強度は、10枚の測定値の平均値である。なお、従来のエッチング法を用いたABS樹脂を用いためっき膜の密着強度の目標値は10N/cm以上である。表面性は、○:メッキが問題なく形成され外観上問題がない、△:メッキが問題なく形成されているが一部膜剥離や膜膨れ等が発生している、×:メッキが形成されていない箇所がある、あるいは全く形成されていない、の3段階に目視で評価した。また、ヒートサイクル試験結果は、ポリプロピレンを用いた実施例27、28および比較例6では−40℃と70℃の間で、その他の実施例および比較例では−40℃と100℃との間で温度を切り替える試験を50サイクル行ったヒートサイクル試験後、○:外観上問題がない、△:一部膜剥離や膜膨れ等が発生している、×:全て膜剥離や膜膨れ等が発生している、の3段階に目視で評価した。
【0128】
実施例1〜34の評価結果と比較例1〜6の評価結果を比較すると、実施例1〜34の本発明で作製しためっき膜2〜4の方が、密着性、表面性およびヒートサイクル試験結果が優れており、本発明の優位性が確認できる。比較例1〜6の結果から、アルコールを含有しない従来の無電解めっきを行うと、プラスチック部材1に金属錯体等を分散させたとしても高い密着性等が得られないことがわかった。また、実施例3および4より、プラスチック部材1に金属錯体等を分散させる方法は、プラスチック部材1を成形した後に触媒を付与する方式(バッチ式)であっても、射出成形前の溶融樹脂に触媒を付与する方式(射出式)であってもよいことが確認できた。
【0129】
特に、アルコールを含有した無電解めっきを行う前に、めっき前処理後の樹脂材料の表面近傍に還元剤を含む溶媒を浸透させている膨潤工程S24またはS42を追加した実施例2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28および34の結果から、本工程の追加により更に密着力等が高くなることが確認できた。一方、比較例2の結果から、無電解めっき工程の前にめっき前処理後の樹脂材料の表面近傍に還元剤を含む溶媒を浸透させている膨潤工程S24を追加しても、アルコールを含有しない従来の無電解めっきを行うと高い密着力等は得られず、本発明の優位性が確認できた。
【0130】
ところで、工業化を考慮した場合、消防法上、アルコールの引火点が40℃以上であることが重要となってくる。しかしながら、引火点が高いアルコールは一般的に分子量が大きくて樹脂内へ浸透し難くなるので、アルコールを含有した無電解めっき処理を実施するだけでは、高い密着性が得られない場合がある。これは、樹脂内へ浸透し難いアルコールを無電解めっき液に混合した場合には、めっき膜2が樹脂の最表面から成長してしまうためであると考えられる。
【0131】
そして、このような場合には、アルコールを含有した無電解めっき処理を実施する前に、プラスチック部材1に還元剤を浸透させる膨潤工程S24を実施するとよい。これにより、分子量が大きい高引火点アルコールを無電解めっき液と混合したとしても、高い密着強度のめっき膜2が得られる。これは、事前に還元剤を付与することで、無電解めっき液がプラスチック部材1の内部へ浸透し易くなり、めっき膜2が内部に存在する金属微粒子を触媒核として成長し始め、最終的に樹脂材料表面をめっき膜2が覆いつくすように反応が進み、めっき膜2が樹脂内部に食い込んだ状態で形成されるためであると考えられる。
【0132】
引火点が40℃以上のアルコールを用いた実施例として、実施例5、7、9、13、15、17および19がある。これらの実施例に、還元剤を浸透させる膨潤工程S24を追加した実施例が、それぞれ実施例6、8、10、14、16、18および20である。膨潤工程S24を設けない実施例(実施例5等)と膨潤工程S24を設けた実施例(実施例6等)を比較すると、膨潤工程S24を設けた実施例(実施例6等)の方が密着強度が向上していることが確認できる。
【0133】
図15に、樹脂材料の吸水率とめっき膜2〜4の密着強度との関係を示す。図15には、実施例1、2および21〜28の結果がプロットされている。また、図15には、これらのプロット点の分布に基づく特性曲線を示す。図15から、膨潤工程S24を設けない実施例と比較して、膨潤工程S24を設けた実施例の方が密着強度が高いことが確認できる。また、密着強度を10N/cm(目標値)以上にするためには、吸水率が0.1%以上の樹脂材料を使用する必要があることが解る。
【0134】
図16に、無電解めっき液の原液に混合させるアルコールの表面張力とめっき膜2〜4の密着強度との関係を示す。図16には、実施例1、2および5〜20の結果がプロットされている。図16からも、膨潤工程S24を設けない実施例と比較して、膨潤工程S24を設けた実施例の方が密着強度が高いことが確認できる。また、表面張力が低いほどめっき膜の密着強度が大きい傾向にあることがわかる。密着強度を10N/cm(目標値)以上にするためには、少なくとも表面張力が40dyn/cm以下のアルコールを用いることが望ましい。
【0135】
図17に、無電解めっき液の原液に混合させるアルコールの分子量とめっき膜2〜4の密着強度との関係を示す。図17には、実施例1、2および5〜20の結果がプロットされている。図17からも、膨潤工程S24を設けない実施例と比較して、膨潤工程S24を設けた実施例の方が密着強度が高いことが確認できる。また、アルコール分子量が低いほどめっき膜の密着強度が大きい傾向にあることがわかる。密着強度を10N/cm(目標値)以上にするためには、少なくとも分子量120以下のアルコールを用いることが望ましい。
【0136】
図16および図17において、無電解めっき液の原液に混合させるアルコールの表面張力および分子量とめっき膜の密着強度の関係は、一定の傾向が見られるものの、ばらつきがある。これは、めっき膜の密着強度が、アルコール表面張力および分子量の両方に影響を受けるためである。例えば、アルコールの分子量が小さければ表面張力が大きくてもアルコールがプラスチック部材1に浸透しやすくなりめっき膜の密着強度があがり、また表面張力が小さければ分子量が大きくてもプラスチック部材1に浸透しやすくなり同様にめっき膜の密着強度があがる。したがって、密着強度を10N/cm(目標値)以上にするためには、無電解めっき液の原液に混合させるアルコールには、表面張力が40dyn/cm以下で、かつ分子量120以下のアルコールを用いることが望ましい。
【0137】
図18に、無電解めっき液の原液に混合させるアルコールの濃度とめっき膜2〜4の密着強度との関係を示す。図18には、実施例1および29〜33の結果がプロットされている。また、図18には、これらのプロット点の分布に基づく特性曲線を示す。図18から、密着強度を10N/cm(目標値)以上にするためには、アルコールの濃度を20vol%以上とする必要があることが解る。
【0138】
なお、実際には、アルコールの濃度を上げていくとめっき液が分解し始めるので、アルコールの濃度はその分解し始める濃度以下にする必要がある。そして、この分解し始める濃度は、アルコールの種類により応じて異なるが、例えば、エタノールなら50vol%以下、1,3−ブタンジオールなら55vol%以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明のプラスチック部材の製造方法では、高い密着性を有する無電解めっき膜を有するプラスチック基材を得ることができる。しかも、常圧下で無電解めっき処理を実施することができるので、連続生産プロセスに適している。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】図1は、本発明の実施例1のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法の工程図である。
【図2】図2は、図1の触媒付与工程(還元剤付与工程S12および触媒付与工程S13)で使用する高圧装置の概略構成図である。
【図3】図3は、図1の製造方法により製造された、めっき膜を有するプラスチック部材の模式的な断面図である。
【図4】図4は、実施例2のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法の工程図である。
【図5】図5は、実施例3のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法の工程図である。
【図6】図6は、図5の触媒付与成形工程S31で使用するプラスチック射出成形装置の要部概略構成図である。
【図7】図7は、図6の射出成形装置の可塑化シリンダーの先端部の断面図である(樹脂の可塑化溶融時)。
【図8】図8は、図6の射出成形装置の可塑化シリンダーの先端部の断面図である(樹脂の計量完了時)。
【図9】図9は、図6の射出成形装置の可塑化シリンダーの先端部の断面図である(サックバック時)。
【図10】図10は、図6の射出成形装置の可塑化シリンダーの先端部の断面図である(射出開始時)。
【図11】図11は、図6の射出成形装置の可塑化シリンダーおよび金型の断面図である(樹脂圧力制御時)。
【図12】図12は、図6の射出成形装置の可塑化シリンダーおよび金型の断面図である(射出中)。
【図13】図13は、図6の射出成形装置の可塑化シリンダーおよび金型の断面図である(射出完了時)。
【図14】図14は、実施例4のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法の工程図である。
【図15】図15は、樹脂材料の吸水率とめっき膜の密着強度との実験結果を示す特性図である。
【図16】図16は、無電解めっき液の原液に混合させるアルコールの表面張力とめっき膜の密着強度との実験結果を示す特性図である。
【図17】図17は、無電解めっき液の原液に混合させるアルコールの分子量とめっき膜の密着強度との実験結果を示す特性図である。
【図18】図18は、無電解めっき液の原液に混合させるアルコールの濃度とめっき膜の密着強度との実験結果を示す特性図である。
【符号の説明】
【0141】
1 プラスチック部材
2、3 無電解めっき膜
4 電解めっき膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧二酸化炭素を用いて、プラスチック部材または成形前の溶融樹脂に対して金属錯体を与えて、上記金属錯体もしくはその変性物が分散したプラスチック部材を得ることと、
上記金属錯体もしくはその変性物が分散した上記プラスチック部材を、アルコールを含有した無電解めっき液に常圧下で浸漬させることとを含むめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法。
【請求項2】
さらに、上記アルコールを含有した無電解めっき液に常圧下で浸漬させる前に、上記金属錯体もしくはその変性物が分散した上記プラスチック部材を、還元剤を含有した溶液に常圧下で浸漬させることを含む請求項1記載のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法。
【請求項3】
上記金属錯体もしくはその変性物が分散した上記プラスチック部材を、上記アルコールを含有した上記無電解めっき液に常圧下で浸漬させることが、
上記アルコールを含有した上記無電解めっき液を収容した開放容器に、上記金属錯体もしくはその変性物が分散した上記プラスチック部材を浸漬することとを含む請求項1または2記載のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法。
【請求項4】
上記プラスチック部材は、アミド基を有する樹脂製である請求項1から3のいずれか一項記載のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法。
【請求項5】
上記プラスチック部材は、常温常圧下における吸水率が0.1%以上である請求項1〜4記載のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法。
【請求項6】
上記アルコールは、40dyn/cm以下の表面張力である請求項1〜5記載のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法。
【請求項7】
上記アルコールは、120以下の分子量である請求項1〜6記載のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法。
【請求項8】
上記アルコールは、上記無電解めっき液に20vol%以上で含有され、且つ、上記無電解めっき液が分離しない濃度以下で含有されている請求項1〜7記載のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法。
【請求項9】
上記アルコールは、40℃以上の引火点である請求項1〜8記載のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法。
【請求項10】
上記アルコールは、上記無電解めっき液のめっき処理温度よりも高い温度の引火点である請求項1〜9記載のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法。
【請求項11】
上記アルコールは、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、1−メトキシー2−プロパノール、1−エトキシー2−プロパノール、1,3−ブタンジオール、tert−ブチルアルコール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、1−プロポキシ−2−プロパノール、2(2−メトキシプロポキシ)プロパノール、エチレングリコール、およびジエチレングリコールから選択された少なくとも1種類を含む請求項1〜10記載のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法。
【請求項12】
上記無電解めっき液は、Ni−Pめっき液である請求項1〜11記載のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法。
【請求項13】
上記還元剤は、次亜燐酸、次亜燐酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、アルコール類、およびフェノール類の還元能力のある物質から選択された少なくとも1種類を含む請求項2〜12記載のめっき膜を有するプラスチック部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−132976(P2010−132976A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310520(P2008−310520)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人中小企業基盤整備機構、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】