説明

ろ過処理システム

【課題】連続使用に耐える安価なスレッド方式のろ過装置を使用して、高価な特殊ろ過装置に匹敵する除去確率を実現して、水道用に使用可能な浄水システムを提供すること。
【解決手段】本発明のろ過処理システムにおいては、原水を緩速ろ過方式、急速ろ過方式、もしくは糸巻フィルタによるろ過方式の何れかの方式で処理する処理手段と、前記処理手段から洗浄排水が排出された場合にその洗浄排水を糸巻フィルタでろ過処理して、クリプト等を除去したろ過水を前記原水に戻して再利用する洗浄排水処理手段を備えた。前記洗浄排水処理手段は、連続使用可能な糸巻フィルタを使用した。さらに、前記洗浄排水処理手段から排出される洗浄排水を、使い捨て方式の糸巻フィルタでろ過することによって、排水中から原虫を除去し得るように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料水等に供するための水のろ過処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上水道において水道水を造る方式は、従来から緩速ろ過、急速ろ過等の方式が用いられている。
前記緩速ろ過方式は、ろ過層を形成する砂粒子の表面の微生物により分解処理され、急速ろ過方式は凝集剤によって沈殿処理され、最終的には次亜塩素酸ソーダによって滅菌処理されて安全な飲料水となる。
しかし、平成9年にクリプトスポりジウム原虫(体長5〜8μm)の寄生虫によって大量感染するという事故が発生したので、厚生労働省はジアルジア原虫とともに暫定指針を発してその対策に当たっている。
【0003】
前記クリプトスポりジウム原虫とジアルジア原虫(以下「クリプト等」という。)は、硬い殻の中に生息していることから滅菌用の次亜塩素酸ソーダでは死滅しないため、前記集団感染事故を引き起こしたのである。
かかるクリプト等を除去する手段としては、
(1)クリプト等の大きさよりも目の細かい膜やフィルター等の濾材でろ過する手段、
(2)オゾン処理、紫外線照射、もしくは電気的な感電等の手段(以下、「紫外線等」という。)
等の手段を採用することが可能であり、これらの手段は既に実用化の段階になっている。
【0004】
ろ過装置は、ろ材で汚れ等を濾して除去するものであり、除去した汚れ等が堆積した場合には、システムを停止させて、通常のろ過とは異なる反対の方向から水や空気を逆に流すことによって前記除去した汚れ等を系外へ排除・排出して、目詰まり状態を解消している。
このような操作や工程を「逆洗」と云い、この操作を自動的(もしくは手動)かつ連続的に行うことによって、長期的にろ過を続けることができるのである。
なお、緩速ろ過方式、急速ろ過方式は、水道法によって水道水のろ過方式として認知されているが、この3方式以外にも糸巻フィルタによるろ過方式(糸巻ろ過)がある。
しかし、糸巻ろ過方式に使用する糸巻は、これまでは使い捨てフィルタによるものであり、維持管理費が高いことから、水道水のろ過方式として適当とは考えられていなかった。
【0005】
近年の特殊なろ過技術によれば、クリプト等の除去確率を、99.9999%(除去率は9の数を対数で表示して6ログという。)にでき、ほぼ100%に近いものがある。しかし、このような特殊なろ過装置の価格が緩速ろ過方式、急速ろ過方式の数十倍であるため、財政が逼迫している自治体では厚生労働省の補助金を得たとしても、その普及拡大は望むべくもない現状である。
厚生労働省は、飲料水の安全性を確保する上からも、ほぼ100%に近い除去確率の前記ろ過装置の設置を勧奨しているが、ろ過量が多い大型浄水場にとっては、数十億円もの出費を要することになる。そのため、自治体としては、クリプト等対策には有効であると認識しつつも、前記ろ過装置を採用することに躊躇している状況である。
【0006】
緩速ろ過方式、急速ろ過方式も、ろ過方式が理論通り行われている場合は、99.9%(除去率3ログ)のろ過能力があるとされている。
また、紫外線等によるクリプト等の不活性化の確率は99.9%であることが確認されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、緩速ろ過方式、急速ろ過方式、または紫外線等方式では、原水にクリプト等が1,000個ある場合にはろ過しても1個だけはろ過されずにろ過水に残存することになる。
特に、紫外線による不活性化は、紫外線が汚濁物質により乱反射や吸収されて弱まる等の問題や、蛍光灯等の光により再活性化の可能性があるため、紫外線照射の前過程での汚濁物質の除去が必要不可欠となる。
なお、紫外線等による不活性化については、光による再活性化や耐性原虫の発生をもたらしたり、環境を破壊するおそれがあるとの指摘があり、不安視する向きもある。
【0008】
近年になって、連続使用が可能な糸巻フィルタが開発され、製造コストも安価になり、維持管理費も安いスレッド方式とよばれるろ過装置が使用できるようになってきた。
ここでいうスレッド方式とは、使い捨てフィルタではなく、連続使用が可能な糸巻フィルタを用いて、製造コストも安価で維持管理費も安いろ過方式によるろ過装置を指している。このスレッド方式によるクリプト等の不活性化の確率は99.9%であることが確認されている。
そこで、本発明は、連続使用に耐える安価なスレッド方式のろ過装置を使用して、高価な特殊ろ過装置に匹敵する除去確率を実現して、水道用に使用可能な浄水システムの提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる請求項1のろ過処理システムにおいては、
原水を緩速ろ過方式、急速ろ過方式、もしくは糸巻フィルタによるろ過方式の何れかの方式で処理する処理手段と、
前記処理手段から洗浄排水が排出された場合にその洗浄排水を糸巻フィルタでろ過処理してろ過水を前記原水に戻して再利用する洗浄排水処理手段と
を備えていることを特徴としている。
請求項2では、前記洗浄排水処理手段は、連続使用可能な糸巻フィルタを使用している。
請求項3では、前記洗浄排水処理手段から排出される洗浄排水を、使い捨て方式の糸巻フィルタでろ過することによって、排水中から原虫を除去し得るように構成された放流水ろ過手段を備えている。
請求項4では、前記処理手段は、
原水を緩速ろ過方式、急速ろ過方式、もしくは糸巻フィルタによるろ過方式の何れかの方式で処理する第1ろ過処理手段と、
該第1ろ過処理手段からのろ過水を、糸巻フィルタによるろ過方式、紫外線照射処理、もしくはオゾン処理の何れかの方式で処理する第2ろ過処理手段と、
から構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、原水に仮にクリプト等が含まれていても、2段階のろ過処理により、極めて高いクリプト等に対する除去率を得ることができる。
また、ろ過処理から排出される洗浄排水を、洗浄可能で連続使用可能な糸巻フィルタを用いたスレッド方式のろ過手段でろ過して、ろ過水を原水に戻して再利用することによって、高い回収率を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明にかかるろ過処理システムを、その実施の形態を示した図面に基づいて詳細に説明する。
図1において、
10はろ過処理システムであり、原水1は、第1段階処理2において緩速ろ過方式、急速ろ過方式、あるいはスレッド方式でろ過処理される。
第1段階処理2において、緩速ろ過方式、急速ろ過方式、あるいはスレッド方式で処理された場合には、第2段階処理3おいて、スレッド方式でろ過処理される。
なお、第1段階処理2において充分な除去率が得られる場合には、第2段階処理3は省略できる。
以上の処理の後、次亜塩素酸ソーダによる滅菌処理4が施されて、ろ過水5が得られる。
【0012】
一方、前記第1段階処理、第2段階処理の逆洗処理において排出される洗浄排水Aは、連続使用可能な糸巻フィルタを採用したスレッド方式による洗浄排水ろ過処理6によってろ過されて、原水として再利用可能なろ過水を取り出して、前記原水1に戻す。前記スレッド方式の洗浄排水ろ過処理6における洗浄排水Bは糸巻フィルタによる放流ろ過処理7によってクリプト等がろ過されて河川等へ放流される。
なお、前記洗浄排水Aを、そのまま糸巻フィルタによってクリプト等をろ過して河川等へ放流する場合もある。
【0013】
以上の処理システムにおいて、第1段階処理に、緩速ろ過方式、急速ろ過方式、あるいはスレッド方式を採用し、第2段階処理にスレッド方式を採用した場合には、1段階での除去率は99.9%であるので、2段階重ねることによって、除去率は99.9%×99.9%として99.999%(5ログ)となり、低コストで高価な特殊ろ過方式に匹敵するろ過精度が得られる。
また、第1段階処理にスレッド方式を採用し、第2段階に紫外線照射方式、オゾン処理方式を採用することによって、同様に99.999%(5ログ)のろ過精度を得ることができる。
紫外線等のみによる処理では安全性が確保できないし、耐性原虫等による環境破壊についての危険性を指摘する意見に対しても十分対応できる。
【0014】
スレッド方式によるろ過が行われても、第1段階、第2段階からはスレッドから汚れを除去することによる洗浄排水が排水されるが、この排水中には相当のクリプト等が残存している可能性がある。
通常では、原水の4〜7%程度が洗浄排水になると想定され、原水の93〜96%がろ過水として利用される。
大規模装置になれば、前記原水の4〜7%程度の洗浄排水量が多くなるので、これを前記スレッド方式の洗浄排水処理6によってろ過して、前記洗浄排水となる水の96%程度を回収し、原水として再利用すれば、原水からの回収率は最終的に99%以上に達することになる。
つまり、原水1,000m3/日の浄水処理の場合、第1段階処理のろ過により96%がろ過水として得られ、洗浄排水の4%(40m3/日)の96%を原水に戻せば、原水1,000m3/日のうち僅か1.6m3/日しか河川には放流されないことになり、実に99.84%の高回収率になる。
【0015】
洗浄排水ろ過処理6によって濃縮された洗浄排水にはクリプト等が多数残存している可能性が高いので、これをさらに安価な使い捨て式の糸巻フィルタの放流ろ過処理7によってろ過することにより、クリプト等を糸巻フィルタに付着させることができる。
したがって、前記糸巻フィルタを一定時間使用した後に取り出して交換し、使用済みの糸巻フィルタは原虫ごと焼却処理することによって確実に消滅させることが可能になる。このように、図1に示したシステムによれば、クリプト等を手軽に且つ確実に完璧に処理することが可能となるのである。
なお、前記洗浄排水Aから回収せずに、そのまま糸巻フィルタによってクリプト等をろ過して河川等へ放流する場合もある。
【0016】
以上のようなスレッド方式の特徴は以下の通りである。
<1> スレッド方式のろ過装置は、クリプトスポリジウム原虫の除去性能に関して膜ろ
過方式による6ログより劣るが99.9%の除去率は確保出来る性能を有している。
<2> スレッド方式を組み合わせることによって、スレッド方式+スレッド方式、スレッド方式+紫外線照射装置、スレッド装置+オゾン装置とすることによって高度な除去確率を確保出来るし、直列に設置しても比較的に装置が安価でメンテも簡単、ランニングコストも安い。特に、スレッド方式+スレッド方式は、物理的に濾過するので紫外線やオゾンなどのように副生物の不安や心配が全くない。
<3> スレッド方式は、高濁度の原水に対応するのは困難であるが、低濁度であれば濁度の改善が可能である。
次に、ろ過方式を利用したシステムとして、スレッド方式でろ過した場合でもフィルターに詰まった夾雑物を除去する必要があるが、この中にクリプトが存在している可能性があり、排水として河川に放流された場合には下流の住民に不安を与える恐れがある。そこで、スレッド方式等のの排水の過程で、1〜2μmの使い捨ての糸巻きフィルターを使用してクリプトを塞き止め、定期的にこれを焼却処理することによってクリプトを排除することが可能になる。
【実施例1】
【0017】
図2に要部を示した実施例1の処理システム20は、第1段階処理21に緩速ろ過方式または急速ろ過方式を採用し、第2段階処理22にスレッド方式を採用したものである。
連続使用可能な糸巻フィルタを採用したスレッド方式による洗浄排水ろ過処理6と、糸巻フィルタによる放流ろ過処理7に関する説明は、図1に関する説明とほぼ同じであるので省略する。なお、急速ろ過方式の洗浄排水には凝集剤等が含まれており、再ろ過には適さない。
【実施例2】
【0018】
図3に要部を示した実施例2の処理システム30は、第1段階処理31にスレッド方式を採用し、第2段階処理32に紫外線等による処理方式を採用したものである。
連続使用可能な糸巻フィルタを採用したスレッド方式による洗浄排水ろ過処理6と、糸巻フィルタによる放流ろ過処理7に関する説明は、図1に関する説明とほぼ同じであるので省略するが、スレッド方式からの洗浄排水Aしか再利用しない。なお、洗浄排水Aを、そのまま糸巻フィルタによってクリプト等をろ過して河川等へ放流する場合もある。
【実施例3】
【0019】
図4に要部を示した実施例3の処理システム40は、第1段階処理41にスレッド方式を採用し、第2段階処理42にも同種のスレッド方式を採用したものであり、紫外線等の処理による耐性原虫の心配は皆無になる。
連続使用可能な糸巻フィルタを採用したスレッド方式による洗浄排水ろ過処理6と、糸巻フィルタによる放流ろ過処理7に関する説明は、図1に関する説明とほぼ同じであるので省略する。
【0020】
なお、本発明におけるスレッド方式に使用可能な糸巻フィルタの例として、イスラエル国のフィルトレーション社のフィルターカセット等があげられる。これは、3μmの粒子に対して99.9%の精度で除去可能である。このようなフィルタカセットを多数組み合わせて使用する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかるろ過処理システムの実施の形態の構成を示した構成図である。
【図2】実施例1の構成図である。
【図3】実施例2の構成図である。
【図4】実施例3の構成図である。
【符号の説明】
【0022】
10 ろ過処理システム
1 原水
2 第1段階処理
3 第2段階処理
4 滅菌処理
5 ろ過水
6 スレッド方式の洗浄排水ろ過処理
7 放流ろ過処理
A 洗浄排水
B 洗浄排水
20、30、40 ろ過処理システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を緩速ろ過方式、急速ろ過方式、もしくは糸巻フィルタによるろ過方式の何れかの方式で処理する処理手段と、
前記処理手段から洗浄排水が排出された場合にその洗浄排水を糸巻フィルタでろ過処理してろ過水を前記原水に戻して再利用する洗浄排水処理手段と
を備えていることを特徴とするろ過処理システム。
【請求項2】
前記洗浄排水処理手段は、連続使用可能な糸巻フィルタを使用したことを特徴とする請求項1に記載のろ過処理システム。
【請求項3】
さらに、前記洗浄排水処理手段から排出される洗浄排水を、使い捨て方式の糸巻フィルタでろ過することによって、排水中から原虫を除去し得るように構成された放流水ろ過手段を備えたことを特徴とする請求項1、2の何れか1項に記載のろ過処理システム。
【請求項4】
前記処理手段は、
原水を緩速ろ過方式、急速ろ過方式、もしくは糸巻フィルタによるろ過方式の何れかの方式で処理する第1ろ過処理手段と、
該第1ろ過処理手段からのろ過水を、糸巻フィルタによるろ過方式、紫外線照射処理、もしくはオゾン処理の何れかの方式で処理する第2ろ過処理手段と、
から構成されていることを特徴とする請求項1、2、3の何れか1項に記載のろ過処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−281153(P2006−281153A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107285(P2005−107285)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【出願人】(505124340)
【Fターム(参考)】