説明

ろ過材の積層方法に特徴を有する上向きろ過装置

【課題】 格別に広いスペースを必要とせずに、濁質を効率よくかつ安価に除去でき、ろ過閉塞し難いろ過装置を提供する。
【解決手段】ろ過装置(1、1’)を圧力容器(2)と、砂利とろ砂とからなるろ過材(3)とから構成する。ろ過材(3)は、被ろ過水が流れる方向に、粒径が順次小さくなるように積層されているろ過部(9)と、該ろ過部(9)に続いて粒径が順次大きくなるように積層されているろ砂流出防止部(10)とから構成する。被ろ過水は0.05MPa以上で圧力容器(2)内に圧送する。最小の粒径の層(13)を粒径が1〜50μmの粒子から構成すると、クリプトスポリジウムを除去することができ、1mm以上の粒子から構成すると、比較的粒径の大きい濁質だけを除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川、湖沼等から取水された原水、汲み上げられた地下水等の被ろ過水をろ過して浄水や工業用水を得る、ろ過装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生活用水、飲用水等に利用される浄水、もしくは工場で利用される工業用水は、河川、湖沼、ダム等から取水された河川水、湖沼水、あるいは地下から汲み上げられた地下水等の原水を浄化処理して得られる。原水には、微生物やごみがコロイド状に浮遊する懸濁物質、いわゆる濁質が含まれおり、ろ過池、あるいはろ過装置によって濁質を除去する必要がある。ろ過池は、従来周知のように、ろ過された水を集水するろ床と、ろ床の上に下層から上層に向かって粒径が小さくなるように設けられているろ過材とから構成されている。ろ過池に原水、すなわち被ろ過水を導くと、被ろ過水がろ過材中を下向きに流れてろ過され、ろ過水がろ床にて集水され濁質は除去される。このようなろ過池として、緩速ろ過池と急速ろ過池が周知であり、それぞれ長所と短所がある。
【0003】
緩速ろ過池は、平均粒径0.3〜0.45mmのろ砂の層が設けられているろ過池であり、被ろ過水には殺菌用の次亜塩素酸ナトリウムは注入されない。従って、ろ砂の層にはいわゆる生物膜が形成されることになり、被ろ過水が生物膜を通るとき、水中の有機物が分解されて美味しい水を得ることができる。しかしながら、ろ過速度は最大でも8m/日程度にしかすることができない。一方、急速ろ過池は、平均粒径0.45〜0.7mmのろ砂の層が設けられたろ過池であり、次亜塩素酸ナトリウムが注入されて殺菌された被ろ過水がろ過される。従って、ろ砂には生物層はほとんど形成されず、被ろ過水中の有機物を分解することはできないが、ろ過速度を120〜150m/日にすることができる。急速ろ過池の場合には、凝集剤を注入して濁質を沈殿させる沈殿池や、他の設備を格別に設けなければならないので、単純に緩速ろ過池と効率を比較することはできないが、ろ過速度は高速であるので、比較的大量の浄水を得ることはできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平04−27882号公報
【0005】
特許文献1には、ろ砂を含んだろ過材中を上向きにろ過させて浄水を得る上向きろ過装置が記載されている。特許文献1に記載の上向きろ過装置のろ過材は、緩速ろ過池や急速ろ過池と同様に、ろ床の上に下層から上層に向かって粒径が小さくなるように積層されているが、被ろ過水は緩速ろ過池や急速ろ過池と反対方向にろ過される。つまり、被ろ過水は粒径の大きなろ過材の層から粒径の小さなろ過材の層に流れていくので、各層において粒径の異なる濁質が捕捉されることになる。
【0006】
緩速ろ過池、急速ろ過池、あるいは特許文献1に記載の上向きろ過装置においては、ろ過材は下層から上層に向かって粒径が小さくなるように積層されている。このような積層方法とは異なる方法で積層されたろ過材も周知であり、例えば、いわゆるK型配列、またはサンドイッチ式と呼ばれる積層方法で積層されたろ過材が周知である。図3のヒストグラフには、K型配列のろ過材を構成している各層について、その有効径が横軸に、各層の積層高さが縦軸に、それぞれ示されている。図から明らかなように、K型配列においては、ろ砂を支持している砂利からなる層、すなわち支持層の積層方法に特徴がある。すなわち、支持層は、最下層から上層に向かって粒径が小さくなり、その後、上層に向かって粒径が大きくなるように積層されている。ろ砂からなる層は、この支持層の最上層の上に設けられ、さらにその上にアンスラサイトからなる層が設けられている。粒径に着目すると、支持層である砂利の層の配列がK字型を呈しているので、この積層方法に係る配列はK型配列と呼ばれている。K型配列に係るろ過材も下方向に被ろ過水がろ過されるようになっている。このようなK型配列は、緩速ろ過池、急速ろ過池において発生するある種の問題を解決するために、このような配列に構成されている。すなわち、緩速ろ過池や急速ろ過池においては、下層から上層に向かって粒径が小さくなるようにろ過材が積層されているので、最上層のろ砂が下層の粒径の大きい砂利層に落下してしまうと、ろ砂がろ床まで達して浄水に混入してしまうという問題がある。これに対してK型配列に係るろ過材においては、最上層のアンスラサイトやその下層のろ砂は、砂利層に落下することはあっても粒径の小さな砂利層で落下が止まることになる。従って、アンスラサイトやろ砂はろ床まで落下することはない。つまりK型配列に係るろ過材においては、上から下に被ろ過水をろ過するときに、浄水へのろ砂の混入を心配する必要がない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
緩速ろ過池や急速ろ過池によっても、被ろ過水中の濁質を効率よく除去することができるので優れてはいる。しかしながら問題は認められる。これらの池においてはろ過材は、ろ床の上に下層から上層に向かって粒径が小さくなるように設けられているので、最上層のろ砂が最も目が細かく、実質的にこの層でのみろ過していることになる。そうすると下層のろ過材にはろ過の作用は無いので、ろ過材全体としてろ過の効率は高くない。また、濁質は最上層の薄い層において集中して濾されるので、この層において早期にろ過閉塞してしまう。このため、浄水を下方から噴出してろ砂を洗浄する、いわゆる逆洗を頻繁に実施しなければならない。K型配列からなるろ過材を備えたろ過装置においても同様の問題が認められる。すなわちK型配列からなるろ過材においても、粒径の最も小さいアンスラサイトの層は最上層に設けられている。従って、濁質はこの最上層で濾し取られることになる。そうすると、ろ過材全体を使って効率よくろ過しているとは言えないし、最上層において目詰まりし易く、緩速ろ過池、急速ろ過池と同様に早期にろ過閉塞してしまう問題がある。
【0008】
これに対して特許文献1に記載の上向きろ過装置においては、被ろ過水は粒径の大きいろ過材の層でろ過された後に粒径の小さいろ過材の層でろ過されるようになっているので、濁質はその粒径の大きさに応じて、それぞれのろ過材の層で順次濾し取られる。従って、ろ過材全体が活用されているので比較的ろ過閉塞し難く優れてはいる。しかしながら、ろ過速度を高めることができないという問題が認められる。すなわち、下方から勢いよく被ろ過水を送ると、最上層の微細なろ砂は水中で舞い上がって乱れてしまいろ過できなくなる問題がある。またろ砂が舞い上がってしまうと、ろ砂が流出してしまう恐れもある。これらの問題を回避するには、低いろ過速度でろ過するしか無く、ろ過の効率を上げることができない。そうすると、浄水施設の用地の確保が難しく、大量の浄水を消費する大都市近郊においては、このようなろ過装置は採用することができない。
【0009】
浄水には、いわゆるクリプトスポリジウムの問題もある。クリプトスポリジウムは約5μmの大きさの原虫であり、塩素に対して耐性があり死滅しない。このクリプトスポリジウムが浄水に混入してしまうと、集団下痢の原因となるので近年問題になっている。緩速ろ過池においては、生物膜によってほとんどのクリプトスポリジウムは捕捉されるので危険は小さいと考えられるが、他のろ過池、ろ過装置においては、ろ砂の粒径に比してクリプトスポリジウムの大きさが小さいので浄水に混入してしまう危険がある。格別に膜ろ過装置やオゾン注入装置を設けて、クリプトスポリジウムを除去したり死滅させることもできるが、これらの装置は高価であり、浄水の処理費用が嵩むという問題がある。
【0010】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたろ過装置を提供することを目的としている。具体的には、ろ過材全体を効率よく利用して被ろ過水を効率よくろ過することができると共に、ろ過速度を高速にしても安定してろ過することができ、それによって安価に大量の浄水を得ることができ、そしてろ過材がろ過閉塞し難く、従ってろ過材の洗浄等のメンテナンスの頻度を少なくすることができ、さらには格別に広い設置スペースを必要としないろ過装置を提供することを目的としている。さらに本発明の他の目的として、クリプトスポリジウムや他の微細な濁質を確実かつ安価に除去できるろ過装置を提供することも目的としている。また本発明の他の目的として、単独で使用することもできるが、緩速ろ過池や急速ろ過池、上向きろ過装置、他のろ過装置と組み合わされて使用され、高濁度の被ろ過水からある程度の濁質を除去して、これら他のろ過装置におけるろ過閉塞を抑制することができるろ過装置を提供することも目的としている。このろ過装置においては、格別に薬品を必要とせずに処理することができ、従って処理費が安価で済むと共に薬品が添加されないので、美味しい浄水を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、砂利とろ砂とからなるろ過材を備えたろ過装置として構成し、このろ過材は、被ろ過水が流れる方向に、粒径が順次小さくなるように積層されているろ過部と、該ろ過部に続いて粒径が順次大きくなるように積層されているろ砂流出防止部とから構成する。つまり、被ろ過水を下方向に流すろ過装置の場合には、下層にはろ砂流出防止部を上層にはろ過部を設け、ろ過部は上方に向かって粒径が大きくなるように積層する。また被ろ過水を上方向に流す上向きろ過装置の場合には、上方に向かって粒径が小さくなるようにろ過部を積層し、そしてその上に粒径が大きくなるようにろ砂流出防止部を積層する。
【0012】
かくして、請求項1記載の発明は、上記目的を達成するために、砂利とろ砂とからなるろ過材が、被ろ過水が流れる方向に、粒径が順次小さくなるように積層されているろ過部と、該ろ過部に続いて粒径が順次大きくなるように積層されているろ砂流出防止部とから構成されていることを特徴とするろ過装置として構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のろ過装置は、圧力容器からなり、被ろ過水は0.05MPa以上の水圧で前記圧力容器内に供給され、前記ろ過材によってろ過されるように構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のろ過装置において、前記ろ過部中の最小の粒径の層は、粒径が1〜50μmの粒子から構成されるように構成される。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかの項に記載のろ過装置において、被ろ過水は前記ろ過材中を上向きにろ過するように構成される。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のろ過装置において、前記ろ過部の砂利層には、被ろ過水供給用の供給管と、被ろ過水排水用の排水管とが埋設された状態で設けられ、前記供給管を介して外部から被ろ過水を供給すると前記ろ過部でろ過されたろ過水が前記ろ砂流出防止部の上方から得られ、前記排水管に設けられている弁を開くと、前記ろ過部中の被ろ過水が前記排水管を介して外部に排水されるように構成される。
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれかの項に記載のろ過装置において、該ろ過装置には、塩素または次亜塩素酸が注入された被ろ過水が供給されるように構成される。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明においては、砂利とろ砂とからなるろ過材は、被ろ過水が流れる方向に、粒径が順次小さくなるように積層されているろ過部と、該ろ過部に続いて粒径が順次大きくなるように積層されているろ砂流出防止部とから構成されているので、被ろ過水がろ過部でろ過されるとき、最初に粒径が大きい層でろ過され、順次粒径が小さい層でろ過され、最後に粒径が最小の層でろ過されることになる。そうすると、被ろ過水に含まれている濁質は粒径の大きさに応じてそれぞれの層で濾し取られることになる。つまり被ろ過水はろ過部全体で効率的にろ過されることになり、ろ過部全体が利用されている。そして、濁質が濾し取られる層が集中しないので、ろ過材はろ過閉塞し難い。また、ろ過部に含まれている最小の粒径の層は、ろ砂流出防止部によって流出することが防止されている。つまり被ろ過水を下方にろ過するろ過装置の場合には、ろ砂が下方に落下することはないので安全である。上向きにろ過する上向きろ過装置の場合には、ろ砂がろ過水中に舞い上がることはないので、被ろ過水を下方から勢いよく供給してろ過させてもろ砂が乱れない。従って、ろ過速度を大きくすることができるので、ろ過装置が小型であっても被ろ過水を大量にかつ安価に処理することができる。
【0014】
他の発明によると、ろ過装置は圧力容器からなり、被ろ過水は0.05MPa以上の水圧で圧力容器内に供給されるように構成されているので、ろ過材を構成しているろ砂の粒径が小さくても高速にろ過することができるし、濁質がろ過材中に蓄積されてきても、目詰まりすることなくろ過することが可能になる。また、他の発明によると、ろ過部中の最小の粒径の層は、粒径が1〜50μmの粒子から構成されているので、クリプトスポリジウムを完全にろ過することができ安全な浄水を得ることができる。さらには微小な濁質も除去することができるので、工業用に利用される高度精製水を得ることもできる。また他の発明によると、ろ過装置は被ろ過水を上向きにろ過するろ過装置として構成されている。上向きにろ過する場合、濁質はろ過材の下方に蓄積されるが、濁質は一般的に水よりも比重が大きいので、被ろ過水の供給を停止して逆向きに浄水を流すと濁質は容易に下方に押し流されることになる。従ってろ過材の洗浄も容易になる効果が得られる。そして、他の発明によると上向きのろ過装置において、ろ過部の砂利層には、被ろ過水供給用の供給管と、被ろ過水排水用の排水管とが埋設された状態で設けられ、供給管を介して外部から被ろ過水を供給するとろ過部でろ過されたろ過水がろ砂流出防止部の上方から得られ、排水管に設けられている弁を開くと、ろ過部中の被ろ過水が前記排水管を介して外部に排水されるように構成されている。従って、濁質によってろ過材が目詰まりしてろ過閉塞してしまっても、排水管から濁質を含んだ被ろ過水を配水して、ろ過材の目詰まりを容易に解消することができるし、ろ過装置を運転中であってもろ過材の洗浄を平行して実施することもできる。さらには、ろ過材を洗浄するために格別に浄水を必要としないのでメンテナンス費用も安価である。そして、排水管から排出された濁質を含んだ被ろ過水には格別に薬品が注入されていないので、産業廃棄物として処理する必要がなく、そのまま河川に戻すことも可能であり安価に処理することができる。また、他の発明によると、ろ過装置には、塩素または次亜塩素酸が注入された被ろ過水が供給されるように構成されているので、ろ過材中には生物膜が形成されず、さらにろ過閉塞し難くなる効果が得られる。
【0015】
本発明のろ過装置は、ろ過閉塞し難いという特徴を備えているので、原水が高濁度の時だけ使用して、粒径の大きい濁質だけを除去する高濁度水処理装置として利用することもできる。具体的には、ろ砂の粒径を比較的大きめに選定する。そうすると、ろ過の抵抗をかなり低下させることができ、ろ過速度を非常に大きして効率よく原水をろ過することができる。ろ過されるろ過水の濁度は、例えば10度前後にはなってしまうが、粒径の大きい濁質のみ濾し取るので、ろ過材はろ過閉塞し難く、安定的に長時間運転することができる。このようにして効率よく処理したろ過水を、緩速ろ過池や急速ろ過池、または従来周知の他のろ過装置に導くようにする。そうすると、濁質の大部分は除去されているので、緩速ろ過池や急速ろ過池、または他のろ過装置はろ過閉塞し難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係るろ過装置を模式的に示す図であり、その(ア)は被ろ過水を上向きに流す上向きろ過装置、その(イ)は被ろ過水を下向きに流すろ過装置をそれぞれ示す側面断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るろ過池を模式的に示す図であり、その(ア)は被ろ過水を上向きに流す上向きろ過池、その(イ)は被ろ過水を下向きに流すろ過池をそれぞれ示す側面断面図である。
【図3】従来例に係るK型配列に係るろ過材を模式的に示すヒストグラフであり、横軸にはろ過材を構成している粒子の粒径が、縦軸にはろ過材の積層高さが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1の(ア)によって、本実施の形態に係る上向きろ過装置1を説明する。本実施の形態に係る上向きろ過装置1は、被ろ過水を上向きにろ過するろ過装置であり、所定の形状の中空の圧力容器2、この圧力容器2内に設けられているろ過材3等から構成されている。圧力容器2は、所定の肉厚の鋼板からなり、円筒状の胴部5と、この胴部5の上部に液密的に取り付けられているドーム状を呈するヘッド部6と、同様に胴部5の下部に液密的に取り付けられているドーム状のボトム部7とから構成されている。このような形状に形成されているので、圧力容器2は内圧に対して高い耐性を備えている。また圧力容器2は容易に分解することができるので、ろ過材3をメンテナンスしたり、内部の部材を交換することができる。このような圧力容器2のヘッド部6には、エア抜き弁8が設けられている。これによって圧力容器2内にエアが溜まらないようになっている。
【0018】
本発明の実施の形態に係る上向きろ過装置1は、ろ過材3の積層方法に特徴があり、この特徴によってろ過閉塞し難くなると共に、被ろ過水に所定の水圧をかけてもろ過材が流出しないようになっている。ろ過材3を構成している最小の粒子の径を微小にするとクリプトスポリジウムを除去できるクリプトスポリジウム除去装置として使用することができるし、最小の粒子の径を大きくすると、粒径の大きな濁質だけを除去する高濁度水処理装置として使用することができる。最初にクリプトスポリジウムを除去する装置として使用する場合について説明する。このような装置として使用する場合、上向きろ過装置1でろ過する被ろ過水は、急速ろ過池等の他のろ過池にて処理された水、あるいは所定のろ過装置で濾過された水、または地下水等の比較的濁質が少ない水が対象となる。
【0019】
クリプトスポリジウム除去装置として使用される場合、ろ過材3は、砂利ろ砂だけでなく、非常に目の細かい粒子からも構成される。ろ過材3をその機能面から見ると、被処理水をろ過するようになっている下方のろ過部9と、このろ過部9の上に積層されていて、ろ過部の粒子が水中に舞わないように押さえているろ砂流出防止部10とに区分することができる。最初にろ過部3から説明する。ろ過部3は、粒径が下層から上層に向かって小さくなるように積層された複数の層から構成されており、最下層が砂利からなるろ過部砂利層11、中間層がろ砂からなるろ過部ろ砂層12、最上層が粒径の小さな粒子からなる粒子層13になっている。より詳細に説明するとろ過部砂利層11は、例えば、最下層が粒径が5mm以上の第1の砂利層、この第1の砂利層の上に、粒径が3〜5mmの第2の砂利の層、その上に粒径が2〜3mmの第3の砂利の層、等のように積層され、ろ過部ろ砂層12は最下層が粒径が1.0〜1.1mmの第1のろ過砂層、その上に粒径0.55〜0.65mmの第2のろ過砂層、さらにその上に粒径0.20〜0.30mmの第3のろ過砂層、等のように積層されている。これらは下方から上方に向かって粒径が小さくなるように積層されていればよく、各層の粒径については適宜選定することができる。
【0020】
クリプトスポリジウム除去装置として使用される場合、粒子層13は、従来ろ過材としては使用されていなかった粒径の小さな粒子、具体的には粒径が1〜50μmの粒子から構成される。このような粒子はろ過部ろ砂層12の上に直接積層されていてもよいが、例えば最下層に、粒径が50〜100μmの粒子からなる第1の粒子層を設け、その上に粒径が1〜50μmの粒子からなる第2の粒子層を積層するようにすると、粒子がろ過部ろ砂層12やろ過部砂利層11に落下しない。このような粒子としては、従来周知のけい砂を粉砕して得ることもできるし、ガラスや陶器、磁器等のセラミックスを粉砕して得ることもできる。セラミックス粉の場合には、例えば有限会社竹折砿業所の商品セラミックサンドを利用することもできる。さらには、チタン、不銹鋼等の金属からなる金属粉を適用することもできる。粒子の層13は、10mm程度の厚さに形成されていれば、クリプトスポリジウムを完全に捕捉できるだけでなく、微細な濁質も濾し取ることができる。
【0021】
ろ砂流出防止部10は、ろ過部9の上に積層された複数層から構成されているが、積層方法がろ過部9とは異なっている。具体的には、粒径が下層から上層に向かって大きくなるように積層されている。ろ砂流出防止部10の最下層で、ろ過部9の粒子層13の上に積層されている層は、ろ砂からなるろ砂流出防止部ろ砂層15になっている。そして、ろ砂流出防止部ろ砂層15の上に砂利からなるろ砂流出防止部砂利層16が積層されている。ろ砂流出防止部ろ砂層15も、ろ砂流出防止部砂利層16も、詳しくは説明しないが、それぞれ粒径の異なる複数の層から構成されている。本実施のろ過材3はこのように積層方法に特徴があるので、粒子層13の粒子が流出することが防止されている。本実施の形態においては、ろ砂流出防止部10は、圧力容器2のヘッド部6の天井に達している。つまりろ過材3はヘッド部6に達するように充填されている。従って、被ろ過水を上方に流してろ過するときに、粒子層13は強制的に下方に押さえられることになり、粒子層13の水圧による浮き上がりは比較的抑制される。なお、ろ過材3をこのように充填しなくても、例えば、ろ過材3を上方から強制的に下に押し付ける押さえ部材を設けたり、重量の大きいおもりをろ過材3の上に設けるようにすれば、同様の効果を得ることができる。
【0022】
本実施の形態においては、ろ過部9のろ過部砂利層11には、被ろ過水を供給する供給管18が、圧力容器2の外部から引き入れられて所定の長さだけ埋められている。供給管18の埋められた部分には多数の孔19、19、…が明けられている。図1の(ア)においては孔19、19、…は供給管18の上側に明けられているように示されているが、下側、あるいは側方に明けられていてもよい。この供給管18には送水ポンプ21が介装されており、被処理水を圧力容器2内に圧送できるようになっている。ろ過部9のろ過部砂利層11には、供給管18に隣接して排水管22も埋められている。排水管22にも、多数の孔23、23、…が明けられおり、ろ過材3内の水を排水できるようになっている。排水管22には、圧力容器2の外部に位置する部分に弁24が設けられている。
【0023】
このような圧力容器2の上部には、ろ過材3のろ砂流出防止部10の上方に開口する送水管30が設けられ、ろ過材3でろ過された水が外部に送水されるようになっている。送水管30は、例えば配水池、浄水池等に接続されている。
【0024】
本実施の形態に係る上向きろ過装置1の作用を説明する。従来のろ過池でろ過したろ過水、あるいは地下水にはクリプトスポリジウムが混入している可能性がある。本実施の形態に係る上向きろ過装置1は、このような水をろ過する。送水ポンプ21を駆動して、ろ過池でろ過したろ過水、あるいは地下水を被ろ過水として、供給管18から圧力容器2内に供給する。被処理水には0.05MPa以上、好ましくは0.1MPa以上の水圧をかける。供給された被ろ過水はろ過材3中を上向きにろ過される。より詳しく説明すると、ろ過材3のろ過部9をろ過されるが、ろ過部9は下層から上層に向かって粒径が小さくなるように複数層に積層されているので、粒径の異なる懸濁物質やクリプトスポリジウムが、所定の層において捕捉される。粒子層13には微細な隙間しか空いていないが、被ろ過水には水圧がかけられているので、高いろ過速度で被処理水はろ過される。このとき粒子層13の上にはろ砂流出防止部10が設けられ、粒子層13は下方に押し付けられているので、粒子が水圧によって上方に舞い上がることはない。ろ過材3でろ過されたろ過水は、ろ砂流出防止部10の上部に溜まり、送水管30から外部に送水される。処理された水は家庭、工場、学校等に配水される。なお、被ろ過水には塩素、あるいは次亜塩素酸ナトリウムが注入されていてもよい。そうするとろ過材3中に生物膜が形成されにくいので、長期間ろ過閉塞することなく上向きろ過装置1を使用することが可能になる。
【0025】
上向きろ過装置1を長期間使用したら、ろ過材3中に懸濁物質が蓄積する。排水管22の弁24を開くと、ろ過材3中の被ろ過水が排水管22から排出される。懸濁物質も周囲の被ろ過水と一緒に排水管22から外部に排出される。所定時間排水をしたら弁24を閉じる。このような排水は、供給管18から被ろ過水を供給しながら実施すると、ろ過材3中の懸濁物質を容易に排出することができる。
【0026】
このような方法でろ過材3中の濁質を排出しても、十分に濁質を排出できない場合もある。その場合には、送水ポンプ21を停止して被ろ過水の供給を停止し、排水管22の弁24を開く。そして洗浄管25から浄水を噴出する。そうすると浄水管25から噴出した浄水によって濁質が下方に押し流され、排水管22から濁質を含んだ水が排水される。洗浄管25からではなく、送水管30から浄水を送り込んでもよい。このようにしても、浄水によって濁質が下方に押し流され、排水管22から濁質を含んだ水が排水される。ろ過材3の洗浄が完了したら浄水の供給を停止して弁24を閉じる。
【0027】
本実施の形態に係る上向きろ過装置1は、比較的粒径の大きな濁質だけを除去する高濁度水処理装置として使用することもできる。具体的には、ろ過材3における最小の粒径の層13を、例えば粒径が0.3〜0.5mm程度のろ砂から構成する。もしくは1.0mm以上の粒径のろ砂から構成する。そうすると、比較的粒径の大きな濁質しか濾し取ることはできないが、ろ過閉塞し難くなる効果が得られ、さらにはろ過材3の洗浄も容易に実施できることになる。このような上向きろ過装置1を使用して、降雨時等に河川から取水される原水をろ過する。このような原水には濁質が大量に含まれているが、上向きろ過装置1によってある程度の濁度を除去した後に、従来周知の緩速ろ過池、急速ろ過池でろ過するようにする。このようにすると、格別に凝集剤等を使用することなく濁質の大部分を除去することができ、緩速ろ過池、急速ろ過池が早期にろ過閉塞することを防止することができる。
【0028】
図1の(イ)には、被ろ過水を下向きにろ過する本実施の形態に係るろ過装置1’が示されている。前実施の形態に係る上向きろ過装置1と同様の部材、同様の作用を奏する部材には同じ参照番号を付して説明を省略する。本実施の形態に係るろ過装置1’においては、ろ過材3は、圧力容器2のヘッド部6に達するように充填されてはいない。被ろ過水を下方に流すので、粒子層13は下方に押し付けられるだけであり、浮き上がることはないからである。本実施の形態においては、供給管18は圧力容器2の上部に設けられ、送水管30はろ砂流出防止部砂利層16内に埋められている。そして送水管30には、小径の孔31、31が多数明けられている。本実施の形態に係るろ過装置1’において送水ポンプ21を駆動して被ろ過水を供給管18から供給する。そうすると被ろ過水はろ過材3を下方に流れてろ過される。ろ過部9は上方から下方に向かって粒径が小さくなるように積層されているので、被ろ過水中の濁質は粒径の大きさに応じて、異なる層において濾し取られることになる。ろ過されたろ過水は孔31、31から送水管30に入り、外部に供給される。このようなろ過装置1’においてろ過材3中に濁質が蓄積してきたら、送水管30から浄水を圧力容器2内に供給する。そうするとろ過材3中の濁質が浄水と共に上方に押し出される。濁質を含んだ水は、図には示されていない排水管等によって外部に排出する。
【0029】
ろ過速度を高速にするには供給する被ろ過水に高圧の水圧をかける必要がありこの場合にはろ過装置は圧力容器から構成する必要がある。しかしながら本発明に係るろ過装置は、必ずしも圧力容器から構成する必要はない。例えば、比較的容量の大きな、いわゆるろ過池として構成すれば、ろ過速度をそれほど高速にしなくても大量の被ろ過水をろ過することができる。このようなろ過池もろ過装置の一種と考えることができ、図2の(ア)には上向きに被ろ過水をろ過する、本発明の実施の形態に係る上向きろ過池40が、図2の(イ)には下向きに被ろ過水をろ過する本発明の実施の形態に係るろ過池40’が、それぞれ示されている。前実施の形態と同様の作用を奏する部材には同じ参照番号を付して説明を省略する。上向きろ過池40においても、ろ過池40’においても、格別に高圧に耐えられる設備は設けられていない。従来のろ過池と同様に、底面と所定の高さの壁部とからなる槽構造体41から構成されている。上向きろ過池40においては槽構造体41には天井部が設けられているが、この天井部は外部からごみが上向きろ過池40内に侵入しないようにするためのものであり、格別に内圧に耐えるような構造のものではない。いずれのろ過池40、40’においてもこのような槽構造体41内にろ過材3が入れられており、ろ過池40’においてはろ床42の上にろ過材3が設けられている。本実施の形態においては、いずれのろ過池40、40’においても、ろ過材3中の最小の粒径の層は、例えば、0.2〜0.7mm程度のろ砂から構成されている。従って、被ろ過水はそれほど加圧しなくても十分にろ過されることになる。当業者であれば容易に理解されるように、供給管18から被ろ過水を供給すると、上向きろ過装置40の場合には上向きに、ろ過装置40’の場合には下向きに被ろ過水がろ過され、ろ過された水が送水管30から外部に送水されることになる。また、逆向きに浄水を供給すると、ろ過材3中に貯まった濁質を外部に排出することができる。
【実施例1】
【0030】
被ろ過水は粒径1〜50μmの粒子層13を確実にろ過されること、およびクリプトスポリジウムは確実に除去されることを確認するために、本実施の形態に係る上向きろ過装置1によって下記のテストをした。
A.条件:
(ア)圧力容器2の形状:半径4cmの円形
断面積:半径4cm×4cm×3.14=50.24cm
(イ)粒子層13:厚さ10mm:粒径1〜50μmのセラミックス粒子
なお、セラミックス粒子には、有限会社竹折砿業所の商品セラミックサンドを使用した。
(ウ)被処理水の水圧:0.1MPa
B.実験:
実験用の水槽に水道水を入れ、クリプトスポリジウムの疑似粒子を所定量添加して十分に攪拌した。次いで、水槽の水をポンプにより加圧して上向きろ過装置1に圧送し、ろ過した。クリプトスポリジウムの疑似粒子には、日本光研工業株式会社および財団法人水道技術研究センターの商品「クリプトレーサー」(登録商標)を使用した。
C.結果:
(ア)ろ過された水を調べたところ、クリプトスポリジウムの疑似粒子は発見されなかった。クリプトスポリジウムを完全に除去できることが確認できた。
(イ)このとき、6分間で7,573cmろ過された。ろ過速度は7,573cm/50.24cm/6分=25cm/分であった。従って、ろ過速度は次のようになる。
25cm/分=15m/h=360m/日
【実施例2】
【0031】
被処理水の水圧を0.05MPaにして、他は実施例1と同じ条件でテストした。
C.結果:
(ア)クリプトスポリジウムの疑似粒子は発見されなかった。
(イ)毎時間当たり、あるいは毎日当たりのろ過速度は次の通りであった。
168m/日
【0032】
本実施の形態に係るろ過装置は色々な変形が可能である。例えば、クリプトスポリジウムを除去するろ過装置の場合、被ろ過水には次亜塩素酸が注入されているように説明されているが、次亜塩素酸を注入しなくてもよい。また、上向きろ過装置においては、圧力容器2には、排水管、洗浄管等が配管されているが、これらの管は設けられていなくても問題はない。
【符号の説明】
【0033】
1 上向きろ過装置 1’ ろ過装置
2 圧力容器 3 ろ過材
9 ろ過部 10 ろ砂流出防止部
13 粒子層 18 供給管
21 送水ポンプ 22 排水管
25 洗浄管 30 送水管
40 上向きろ過池 40’ ろ過池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂利とろ砂とからなるろ過材が、被ろ過水が流れる方向に、粒径が順次小さくなるように積層されているろ過部と、該ろ過部に続いて粒径が順次大きくなるように積層されているろ砂流出防止部とから構成されていることを特徴とするろ過装置。
【請求項2】
請求項1に記載のろ過装置は、圧力容器からなり、被ろ過水は0.05MPa以上の水圧で前記圧力容器内に供給され、前記ろ過材によってろ過されるようになっていることを特徴とするろ過装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のろ過装置において、前記ろ過部中の最小の粒径の層は、粒径が1〜50μmの粒子から構成されていることを特徴とするろ過装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの項に記載のろ過装置において、被ろ過水は前記ろ過材中を上向きにろ過するようになっていることを特徴とするろ過装置。
【請求項5】
請求項4に記載のろ過装置において、前記ろ過部の砂利層には、被ろ過水供給用の供給管と、被ろ過水排水用の排水管とが埋設された状態で設けられ、前記供給管を介して外部から被ろ過水を供給すると前記ろ過部でろ過されたろ過水が前記ろ砂流出防止部の上方から得られ、前記排水管に設けられている弁を開くと、前記ろ過部中の被ろ過水が前記排水管を介して外部に排水されるようになっていることを特徴とするろ過装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの項に記載のろ過装置において、該ろ過装置には、塩素または次亜塩素酸が注入された被ろ過水が供給されるようになっていることを特徴とするろ過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−136323(P2011−136323A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127627(P2010−127627)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(509071127)
【Fターム(参考)】