アイアンゴルフクラブヘッドおよびアイアンゴルフクラブ
【課題】振り抜けの良いアイアンゴルフクラブヘッドおよびアイアンゴルフクラブを提供する。
【解決手段】アイアンゴルフクラブヘッド10は、フェース部1と、フェース部1の後方に位置するバック部2と、フェース部1とバック部2とを接続するソール部3とを備えている。ソール部3の最下点3mを通りフェース部1に刻まれたスコアラインに対して垂直な断面における、ソール部3の最下点3mからフェース部1の平面部分1aの最下端縁1mまでの高さHに対するフェース部1からバック部2に向かう前後方向BFでのソール部3の前端3fからソール部3の最下点3mまでの水平距離Dの比が1.7以下であり、かつソール部3の前後方向BFの幅Wに対する前後方向BFでのソール部3の前端3fからソール部3の最下点3mまでの水平距離Dの比が0.6以下である。
【解決手段】アイアンゴルフクラブヘッド10は、フェース部1と、フェース部1の後方に位置するバック部2と、フェース部1とバック部2とを接続するソール部3とを備えている。ソール部3の最下点3mを通りフェース部1に刻まれたスコアラインに対して垂直な断面における、ソール部3の最下点3mからフェース部1の平面部分1aの最下端縁1mまでの高さHに対するフェース部1からバック部2に向かう前後方向BFでのソール部3の前端3fからソール部3の最下点3mまでの水平距離Dの比が1.7以下であり、かつソール部3の前後方向BFの幅Wに対する前後方向BFでのソール部3の前端3fからソール部3の最下点3mまでの水平距離Dの比が0.6以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイアンゴルフクラブヘッドおよびアイアンゴルフクラブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アイアンゴルフクラブでは、ゴルフボールの飛距離よりも、ゴルフボールをグリーンなどに正確に落下させる正確なショットが重視されている。正確なショットを実現するためには、ゴルフボールがグリーンなどに落下した後の転がり(ラン)を減らすことが求められる。ランを減らすためにはゴルフボールのバックスピン量を増やすことが有効である。
【0003】
たとえば、特開2005−211560号公報(特許文献1)には、従来に比べてより多くのバックスピン量をゴルフボールに与えることで正確な位置にゴルフボールを飛ばして止めることを目的とするゴルフクラブヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−211560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
正確なショットを実現するためには、上述のランを減らすことの他に、打球の方向性を安定させることが求められる。打球の方向性を安定させるためにはアイアンゴルフクラブヘッドの振り抜けを良くすることが有効である。
【0006】
しかしながら、上記公報に記載されたゴルフクラブヘッドでは、ゴルフボール打撃時にソール面の最下点が地面と接触してバウンスする時に生じるフェース部の回転によるギア効果によってバックスピン量が増やされる。この際、ゴルフクラブヘッドを振り抜く方向とは反対方向にフェース部が大きく回転する。このフェース部の回転のため、ゴルフクラブヘッドの振り抜けが悪くなる。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、振り抜けの良いアイアンゴルフクラブヘッドおよびアイアンゴルフクラブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアイアンゴルフクラブヘッドは、フェース部と、フェース部の後方に位置するバック部と、フェース部とバック部とを接続するソール部とを備えている。ソール部の最下点を通りフェース部に刻まれたスコアラインに対して垂直な断面における、ソール部の最下点からフェース部の平面部分の最下端縁までの高さに対するフェース部からバック部に向かう前後方向でのソール部の前端からソール部の最下点までの水平距離の比が1.7以下であり、かつソール部の前後方向の幅に対する前後方向でのソール部の前端からソール部の最下点までの水平距離の比が0.6以下である。
【0009】
ここで、ソール部の最下点とは、設定されているロフト角およびライ角をなすように水平面にアイアンゴルフクラブヘッドが設置された状態(以下、設置状態という。)でのソール部の最も下に位置する点を意味している。また、フェース部の平面部分の最下端縁とは、ソール部の最下点を通り、フェース上のスコアラインに対して垂直に切断した断面における、フェース部の平面部分の最下端を意味している。また、フェース部からバック部に向かう前後方向とは、設置状態での水平面に対して平行にフェース部からバック部に向かう方向を意味している。
【0010】
発明者等は、インパクト直前の2点間のアイアンゴルフクラブヘッドの速度(Speed in)に対するインパクト直後の2点間のアイアンゴルフクラブヘッドの速度(Speed out)の比(Speed ratio)の値が大きいと振り抜けが良いことを見出した。
【0011】
そして、発明者等が鋭意検討したところ、ソール部の最下点からフェース部の平面部分の最下端縁までの高さに対するフェース部からバック部に向かう前後方向でのソール部の前端からソール部の最下点までの水平距離の比が1.7以下であり、かつソール部の前後方向の幅に対する前後方向でのソール部の前端からソール部の最下点までの水平距離の比が0.6以下であることにより、Speed ratioの値が大きくなるという知見を得た。つまり、これにより、アイアンゴルフクラブヘッドの振り抜けを良くすることができる。
【0012】
上記のアイアンゴルフクラブヘッドでは、好ましくは、ソール部は、ソール部の前端からソール部の最下点までの水平距離の長さを短くするように設けられた面取部を含む。面取部がソール部の前端からソール部の最下点までの水平距離の長さを短くするように設けられているため、ソール部の底面と芝および地面との接触面積を抑制することができる。そのため、さらにアイアンゴルフクラブヘッドの振り抜けを良くすることができる。
【0013】
上記のアイアンゴルフクラブヘッドは、好ましくは、48°以上のロフト角を有する。本発明は、48°以上のロフト角を有するウェッジのアイアンゴルフクラブヘッドに特に有用である。
【0014】
本発明のアイアンゴルフクラブは、シャフトと、シャフトの一方端に取り付けられたグリップと、シャフトの前記グリップと反対側の他方端に取り付けられた上記のアイアンゴルフクラブヘッドとを備えている。これにより、振り抜けの良いアイアンゴルフクラブを得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明のアイアンゴルフクラブヘッドおよびアイアンゴルフクラブによれば、アイアンゴルフクラブヘッドおよびアイアンゴルフクラブの振り抜けを良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態におけるアイアンゴルフクラブヘッドの概略正面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う概略断面図である。
【図3】図2のP部の概略拡大図である。
【図4】本発明の一実施の形態におけるアイアンゴルフクラブの概略背面図である。
【図5】本発明の一実施の形態における変形例のアイアンゴルフクラブヘッドの概略拡大断面図であって、図3に対応する断面位置での概略拡大断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態における変形例のアイアンゴルフクラブの概略背面図である。
【図7】本発明例1〜2および比較例3〜7のSpeed ratioとD/Hとの関係を示す図である。
【図8】本発明例1〜2および比較例3〜7のSpeed ratioとD/Wとの関係を示す図である。
【図9】本発明例1〜2および比較例3〜7のSpeed ratioとバックスピン量との関係を示す図である。
【図10】本発明例11〜12および比較例13〜17のSpeed ratioとD/Hとの関係を示す図である。
【図11】本発明例11〜12および比較例13〜17のSpeed ratioとD/Wとの関係を示す図である。
【図12】本発明例11〜12および比較例13〜17のSpeed ratioとバックスピン量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
最初に本発明の一実施の形態のアイアンゴルフクラブヘッドの構成について説明する。
【0018】
図1は本実施の形態に係るアイアンゴルフクラブヘッドの正面図を、図2は図1におけるII−II断面図を、また、図3は図2中の符号Pで囲まれる領域を拡大した図をそれぞれ表わす。
【0019】
図1ないし図3を参照して、アイアンゴルフクラブヘッド10は、フェース部1と、バック部2と、ソール部3と、ホーゼル部4と、スコアライン部5と、リーディングエッジ部6と、トウ部7と、ヒール部8と、トップエッジ部9とを主に有している。
【0020】
フェース部1は平面部分1aを有している。平面部分1aが打球面を構成している。フェース部1の打球面に複数のスコアライン(溝)部5が形成されている。複数のスコアライン部5は、フェース部1の打球面を縦断する方向に略等間隔で形成されており、打球面を横断する方向に直線状に形成されている。フェース部1は、平面部分1aからリーディングエッジ部6に向かって湾曲する湾曲部分1bを有している。
【0021】
バック部2はフェース部1の後方(背面)に位置している。フェース部1の周囲にソール部3、ホーゼル部4、リーディングエッジ部6、トウ部7、ヒール部8、トップエッジ部9が位置している。ソール部3はフェース部1とバック部2とを接続するように設けられている。ソール部3は設置状態で側面視、及び正面視のいずれにおいても下方に凸状に形成されている。ソール部3はアイアンゴルフクラブヘッド10の底部を構成する部分である。
【0022】
ホーゼル部4はシャフト(図4)に接続される部分である。リーディングエッジ部6はフェース部1とソール部3とが接する部分である。トウ部7はホーゼル部4から離れた側のトップエッジ部9とソール部3とを接続する部分である。ヒール部8はホーゼル部4の下端からソール部3に至る部分である。トップエッジ部9はホーゼル部4からトウ部7に至るアイアンゴルフクラブヘッド10の上端縁部を構成する部分である。
【0023】
図2および図3を参照して、アイアンゴルフクラブヘッド10では、ソール部3の最下点3mからフェース部1の平面部分1aの最下端縁1mまでの高さHに対して、フェース部1からバック部2に向かう前後方向BFでのソール部3の前端3fからソール部3の最下点3mまでの水平距離Dの比(D/H)が1.7以下となるように構成されている。
【0024】
ここで、ソール部3の最下点3mは、設定されているロフト角LOおよびライ角LIをなすように水平面HPにアイアンゴルフクラブヘッドが設置された状態(設置状態)でのソール部3の最も下に位置する点である。また、フェース部1の平面部分1aの最下端縁1mは、ソール部3の最下点3mを通り、スコアライン部5に対して垂直に切断した断面(最下点断面CS1)における、フェース部1の平面部分1aの最下端である。ソール部3の前端3fはリーディングエッジ部6に位置している。
【0025】
高さHは、ソール部3の最下点3mと、フェース部1の平面部分1aの最下端縁1mとの垂直距離である。距離Dは、ソール部3の最下点3mと、最下点断面CS1でのリーディングエッジ部6の最突出部(ソール部3の前端)3fとの水平距離である。すなわち、最下点断面CS1において、ソール部3の最下点3mと、最突出部3fから水平面HPに垂直に立てた仮想直線が水平面HPと当接する点との水平距離である。
【0026】
アイアンゴルフクラブヘッド10では、ソール部3の前後方向BFの幅Wに対する前後方向BFでの最突出部(ソール部3の前端)3fからソール部3の最下点3mまでの水平距離Dの比(D/W)が0.6以下となるように構成されている。
【0027】
ここで、フェース部1からバック部2に向かう前後方向BFは、設置状態での水平面HPに対して平行にフェース部1からバック部2に向かう方向である。また、ソール部3の前後方向BFの幅Wは、最下点断面CS1でのリーディングエッジ部6の最突出部3fと、ソール部3の後端3b、すなわち、バック部2とソール部3との接続点となるトレーリングエッジ部との水平距離である。
【0028】
アイアンゴルフクラブヘッド10のロフト角LOは、通常のアイアンゴルフクラブヘッド10のロフト角LOであればよい。アイアンゴルフクラブヘッド10は、たとえば16°以上64°以下のロフト角LOを有するように設定されていてもよい。アイアンゴルフクラブヘッド10は、48℃以上のロフト角LOを有するように構成されていることが好ましい。
【0029】
アイアンゴルフクラブヘッド10は、たとえばJIS規格S25Cを含む素材を用いて作製することができる。また、アイアンゴルフクラブヘッド10の材料としては、ばね鋼、マレージング鋼、ステンレス鋼などが適用され得る。アイアンゴルフクラブヘッド10は、鍛造で製造されていてもよい。また、アイアンゴルフクラブヘッド10にはめっきが施されていてもよい。めっきは、たとえば、Ni(ニッケル)−Cr(クロム)めっきであってもよい。
【0030】
図4を参照して、アイアンゴルフクラブヘッド10にシャフト21およびグリップ22を組み合わせることでアイアンゴルフクラブ20が構成される。アイアンゴルフクラブ20は、シャフト21と、シャフト21の一方端に取り付けられたグリップ22と、シャフト21のグリップ22と反対側の他方端に取り付けられたアイアンゴルフクラブヘッド10とを有している。なお、シャフト21およびグリップ22は周知のものを採用可能である。また、アイアンゴルフクラブヘッド10のホーゼル部4に隣接するようにシャフト21にソケット23が取り付けられている。
【0031】
また、アイアンゴルフクラブヘッド10のバック部2はソール部3と連続する部分が面取りされていてもよい。
【0032】
図5および図6を参照して、本発明の一実施の形態の変形例1のアイアンゴルフクラブヘッド10は、ソール部3の後端3bを基準として、ソール部3と連続する部分に面取部(テーパ部)11を有している。面取部11はソール部3の距離Dの長さを短くするように設けられている。面取部11は、ソール部3のバック部2側の後端を除去するように構成されている。
【0033】
次に、本発明の一実施の形態の作用効果について説明する。
発明者等は、インパクト直前の2点間のアイアンゴルフクラブヘッド10の速度に対するインパクト直後の2点間のアイアンゴルフクラブヘッド10の速度の比(Speed ratio)の値が大きいと振り抜けが良いことを見出した。
【0034】
そして、発明者等が鋭意検討したところ、ソール部3の最下点3mからフェース部1の平面部分1aの最下端縁1mまでの高さHに対するフェース部1からバック部2に向かう前後方向BFでのソール部3の前端3fからソール部3の最下点3mまでの距離Dの比(D/H)が1.7以下であり、かつソール部3の前後方向BFの幅Wに対する前後方向BFでのソール部3の前端3fからソール部3の最下点3mまでの距離Dの比(D/W)が0.6以下であることにより、Speed ratioの値が大きくなるという知見を得た。つまり、これにより、アイアンゴルフクラブヘッド10の振り抜けを良くすることができる。したがって、アイアンゴルフクラブヘッド10の振り抜けを良くすることで正確なショットを実現することができる。
【0035】
また、発明者等が検討したところ、上述のように高さHに対する距離Dの比(D/H)が1.7以下であり、幅Wに対する距離Dの比(D/W)が0.6以下であることにより、バックスピン量を増やすことができるという知見を得た。バックスピン量を増やすことができる理由は次のように考えられる。アイアンゴルフクラブヘッド10の振り抜けを良くすることで、インパクト前後でのアイアンゴルフクラブヘッド10の速度の減速を抑制することができる。その結果、ゴルフボールとアイアンゴルフクラブヘッド10の接触面積を大きくすることができるので、バックスピン量を増やすことができる。
【0036】
このため、アイアンゴルフクラブヘッド10のスピン性能を向上することができる。したがって、アイアンゴルフクラブヘッド10によれば、バックスピン量を増やすことでランを減らすことができる。これによっても、正確なショットを実現することができる。
【0037】
本発明の一実施の形態のアイアンゴルフクラブヘッド10では、ソール部3は、距離Dの長さを短くするように、ソール部3の後端3bを基準として設けられた面取部11を含むことが好ましい。面取部11がソール部3の距離Dの長さを短くするように設けられているため、ソール部3の幅Wの長さを変えることなく最下点3mの位置を調整することができ、D/W、D/Hの値を任意に調整することが可能となる。また面取部11を設けることで、ソール部3の底面12と芝および地面との接触面積を抑制することができる。そのため、さらにアイアンゴルフクラブヘッド10の振り抜けを良くすることができる。
【0038】
本発明の一実施の形態のアイアンゴルフクラブヘッド10では、アイアンゴルフクラブヘッド10は48°以上のロフト角を有することが好ましい。本発明の一実施の形態のアイアンゴルフクラブヘッド10は、48°以上のロフト角を有するウェッジのアイアンゴルフクラブヘッドに特に有用(効果的)である。
【0039】
本発明の一実施の形態のアイアンゴルフクラブ20は、上記のアイアンゴルフクラブヘッド10とを備えている。これにより、振り抜けの良いアイアンゴルフクラブ20を得ることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、上記と同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰り返さない場合がある。
【0041】
表1において、本発明例1〜2は本発明の実施例である。比較例3〜7は本発明に対する比較例である。本発明例1〜2および比較例3〜7は表1に示されたスペックを備えたアイアンゴルフクラブ20である。本発明例1〜2および比較例3〜7のアイアンゴルフクラブ20は48°のロフト角を有するウェッジである。
【0042】
【表1】
【0043】
表1の符号D、W、Hは、図3における同一の符号を示している。表1の符号D/Hは、高さHに対する距離Dの比を示し、D/Wは幅Wに対する距離Dの比を示している。表1のD(mm)、W(mm)、H(mm)の値は、図3における同一の符号の寸法を示している。また、表1のSrの値はSpeed ratioの値を示し、BS(rpm)はバックスピン量(バックスピンの回転数毎分)を示している。
【0044】
Speed ratioの測定方法について説明する。
株式会社Photoron製FASTCAM−MAX120KCを用いて本発明例1〜2および比較例3〜7のアイアンゴルフクラブ20でゴルフボールを打つ際のインパクトの前後を撮影した。試打者の正面方向より前方1.6m程度から撮影した。解像度は1024×256ドットとした。1秒あたり8000コマ、シャッター速度1/24000秒で120フレームを記録した。
【0045】
撮影した写真からインパクト最直前のコマを目視にて確認した。シャフト露出部先端と、シャフト露出部先端から20mm上方とをデジタイズした。そして画面座標から実座標へ変換した。なおX座標軸は水平面と平行とした。Y座用軸は水平面に垂直とした。
【0046】
インパクト最直前のコマと、そのコマから15/8000秒前のコマとからインパクト直前の2点間のアイアンゴルフクラブヘッド10の速度(Speed in)を算出した。一方、インパクト後ボールが離れたコマとそのコマから40/8000秒後のコマとからインパクト直後の2点間のアイアンゴルフクラブヘッド10の速度(Speed out)を算出した。そしてインパクト直前の2点間のアイアンゴルフクラブヘッド10の速度(Speed in)に対するインパクト直後の2点間のアイアンゴルフクラブヘッド10の速度(Speed out)の比(Speed ratio)を算出した。
【0047】
バックスピン量の測定方法について説明する。
株式会社ミヤマエ製メカニカルゴルファーを用いて本発明例1〜2および比較例3〜7のアイアンゴルフクラブ20でゴルフボールを打ってバックスピンの回転数毎分を計測した。具体的には、ヘッドスピードを17.3m/秒に設定したときのバックスピンの回転数毎分を計測した。
【0048】
本発明例1〜2および比較例3〜7のアイアンゴルフクラブ20で、各5球ずつゴルフボールを打った。表1のBS(rpm)の欄には、各5球ずつ打ったゴルフボールのバックスピン回転数毎分の平均値を記載した。ゴルフボールは、Titlest Pro V1を使用した。打点の位置は、スコアラインセンター(フェース部1のスコアライン部5の長手方向の中央部)で、トップエッジ部9から2本目のスコアライン部5とソール部3から3本目のスコアライン部5との間とした。ゴルフボールのバックスピン回転数毎分は、Interactive Sports Games社製弾道測定器トラックマンで測定した。
【0049】
表1および図7を参照して、本発明例1および本発明例2のSpeed ratioの値は0.950以上0.953以下となった。それに対して、比較例3〜7のSpeed ratioの値は0.883以上0.922以下となった。これより、本発明例1および本発明例2のSpeed ratioの値は、比較例3〜7のSpeed ratioの値より大きくなることがわかった。
【0050】
本発明例1および本発明例2のD/Hの値は1.5以上1.7以下となった。それに対して、比較例3〜7のD/Hの値は1.7以上2.8以下となった。なお、比較例3のD/Hの値は1.7であるが、Speed ratioの値は0.901となり本発明例1および本発明例2より小さくなった。
【0051】
表1および図8を参照して、本発明例1および本発明例2のD/Wの値は0.500以上0.600以下となった。それに対して、比較例3〜7のD/Wの値は0.600以上0.862以下となった。なお、比較例4のD/Wの値は0.600であるがSpeed ratioの値は0.905となり本発明例1および本発明例2より小さくなった。
【0052】
以上より、D/Hの値が1.7以下であり、かつD/Wの値が0.6以下であることにより、Speed ratioの値が大きくなることがわかった。
【0053】
さらに、本願発明者等は、本発明例1〜2および比較例3〜7のアイアンゴルフクラブ20のそれぞれについて5名の被験者(被験者A〜E)による試打試験を行った。
【0054】
【表2】
【0055】
表2を参照して、表中の○は振り抜けが良いことを示し、△は振り抜けが普通であることを示し、×は振り抜けが悪いことを示している。表2に示すとおり、試打試験を行ったすべての被験者が本発明例1および本発明例2のアイアンゴルフクラブ20の振り抜けが良いと判定した。一方、比較例3〜7では、すべての被験者が振り抜けが良いと判定したものはなかった。
【0056】
そして、Speed ratioが高い本発明例2、本発明例1、及び比較例6の順に振り抜けの評価を見ていくと、Speed ratioの値が、少なくとも本発明例1のものよりも大きければ、振り抜けの評価が確実に高くなることが分かる。すなわちD/Hの値が1.7以下であり、かつD/Wの値が0.6以下とすることで、振り抜け評価が良好なSpeed ratioの値を得ることができる。
【0057】
また、表1および図9を参照して、本発明例1および本発明例2のバックスピン量の値は5180rpm以上5200rpm以下となった。それに対して、比較例3〜7のバックスピン量の値は4653rpm以上5024rpm以下となった。これより、本発明例1および本発明例2のバックスピン量の値は、比較例3〜7のバックスピン量の値より大きくなることがわかった。
【0058】
本発明例1〜2および比較例3〜7について、Speed ratioの値の大きさの順番とバックスピン量の値の大きさの順番とは一致する。したがって、Speed ratioの値の大きさとバックスピン量の値の大きさとは比例することがわかった。そのため、Speed ratioの値が大きいとバックスピン量の値が大きくなることがわかった。つまり、振り抜けが良くなるとバックスピン量の値が大きくなることがわかった。
【0059】
次に、5番アイアン(5I)について、上述のウェッジと同様に検討した。
なお、バックスピンの回転数毎分の計測に関しては、上述の株式会社ミヤマエ製メカニカルゴルファーにおいて、ヘッドスピードを23.2m/秒に設定している。
【0060】
本発明例11〜12は本発明の実施例である。比較例13〜17は本発明に対する比較例である。本発明例11〜12および比較例13〜17は表3に示されたスペックを備えたアイアンゴルフクラブ20である。本発明例11〜12および比較例13〜17のアイアンゴルフクラブ20は27°のロフト角を有する5番アイアン(5I)である。なお、表3の符号は表1の符号と同じである。
【0061】
【表3】
【0062】
表3および図10を参照して、本発明例11および本発明例12のSpeed ratioの値は0.967以上0.972以下となった。それに対して、比較例13〜17のSpeed ratioの値は0.852以上0.904以下となった。これより、本発明例11および本発明例12のSpeed ratioの値は、比較例13〜17のSpeed ratioの値より大きくなることがわかった。
【0063】
本発明例11および本発明例12のD/Hの値は1.5以上1.7以下となった。それに対して、比較例13〜17のD/Hの値は1.7以上2.6以下となった。なお、比較例16のD/Hの値は1.7であるが、Speed ratioの値は0.903となり本発明例1および本発明例2より小さくなった。
【0064】
表3および図11を参照して、本発明例11および本発明例12のD/Wの値は0.500以上0.600以下となった。それに対して、比較例13〜17のD/Wの値は0.600以上0.862以下となった。なお、比較例17のD/Wの値は0.600であるがSpeed ratioの値は0.904となり本発明例1および本発明例2より小さくなった。
【0065】
以上より、5Iについても上述のウェッジと同様に、D/Hの値が1.7以下であり、かつD/Wの値が0.6以下であることにより、Speed ratioの値が大きくなることがわかった。
【0066】
また、表1および図9を参照して、本発明例11および本発明例12のバックスピン量の値は5102rpm以上5305rpm以下となった。それに対して、比較例13〜17のバックスピン量の値は4874rpm以上5004rpm以下となった。これより、本発明例11および本発明例12のバックスピン量の値は、比較例13〜17のバックスピン量の値より大きくなることがわかった。
【0067】
本発明例1〜2および比較例3〜7について、Speed ratioの値が大きくなるとバックスピン量の値が大きくなる傾向がある。そのため、5番アイアン(5I)についてもSpeed ratioが大きくなるとバックスピン量が大きくなるといえる。
【0068】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、アイアンゴルフクラブヘッドおよびアイアンゴルフクラブに特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0070】
1 フェース部、1a 平面部分、1b 湾曲部分、1m フェース部の最下端縁、2 バック部、3 ソール部、3f ソール部の前端、3m ソール部の最下点、4 ホーゼル部、5 スコアライン部、6 リーディングエッジ部、7 トウ部、8 ヒール部、9 トップエッジ部、10 アイアンゴルフクラブヘッド、11 面取部、12 ソール部の底面、20 アイアンゴルフクラブ、21 シャフト、22 グリップ、23 ソケット。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイアンゴルフクラブヘッドおよびアイアンゴルフクラブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アイアンゴルフクラブでは、ゴルフボールの飛距離よりも、ゴルフボールをグリーンなどに正確に落下させる正確なショットが重視されている。正確なショットを実現するためには、ゴルフボールがグリーンなどに落下した後の転がり(ラン)を減らすことが求められる。ランを減らすためにはゴルフボールのバックスピン量を増やすことが有効である。
【0003】
たとえば、特開2005−211560号公報(特許文献1)には、従来に比べてより多くのバックスピン量をゴルフボールに与えることで正確な位置にゴルフボールを飛ばして止めることを目的とするゴルフクラブヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−211560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
正確なショットを実現するためには、上述のランを減らすことの他に、打球の方向性を安定させることが求められる。打球の方向性を安定させるためにはアイアンゴルフクラブヘッドの振り抜けを良くすることが有効である。
【0006】
しかしながら、上記公報に記載されたゴルフクラブヘッドでは、ゴルフボール打撃時にソール面の最下点が地面と接触してバウンスする時に生じるフェース部の回転によるギア効果によってバックスピン量が増やされる。この際、ゴルフクラブヘッドを振り抜く方向とは反対方向にフェース部が大きく回転する。このフェース部の回転のため、ゴルフクラブヘッドの振り抜けが悪くなる。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、振り抜けの良いアイアンゴルフクラブヘッドおよびアイアンゴルフクラブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアイアンゴルフクラブヘッドは、フェース部と、フェース部の後方に位置するバック部と、フェース部とバック部とを接続するソール部とを備えている。ソール部の最下点を通りフェース部に刻まれたスコアラインに対して垂直な断面における、ソール部の最下点からフェース部の平面部分の最下端縁までの高さに対するフェース部からバック部に向かう前後方向でのソール部の前端からソール部の最下点までの水平距離の比が1.7以下であり、かつソール部の前後方向の幅に対する前後方向でのソール部の前端からソール部の最下点までの水平距離の比が0.6以下である。
【0009】
ここで、ソール部の最下点とは、設定されているロフト角およびライ角をなすように水平面にアイアンゴルフクラブヘッドが設置された状態(以下、設置状態という。)でのソール部の最も下に位置する点を意味している。また、フェース部の平面部分の最下端縁とは、ソール部の最下点を通り、フェース上のスコアラインに対して垂直に切断した断面における、フェース部の平面部分の最下端を意味している。また、フェース部からバック部に向かう前後方向とは、設置状態での水平面に対して平行にフェース部からバック部に向かう方向を意味している。
【0010】
発明者等は、インパクト直前の2点間のアイアンゴルフクラブヘッドの速度(Speed in)に対するインパクト直後の2点間のアイアンゴルフクラブヘッドの速度(Speed out)の比(Speed ratio)の値が大きいと振り抜けが良いことを見出した。
【0011】
そして、発明者等が鋭意検討したところ、ソール部の最下点からフェース部の平面部分の最下端縁までの高さに対するフェース部からバック部に向かう前後方向でのソール部の前端からソール部の最下点までの水平距離の比が1.7以下であり、かつソール部の前後方向の幅に対する前後方向でのソール部の前端からソール部の最下点までの水平距離の比が0.6以下であることにより、Speed ratioの値が大きくなるという知見を得た。つまり、これにより、アイアンゴルフクラブヘッドの振り抜けを良くすることができる。
【0012】
上記のアイアンゴルフクラブヘッドでは、好ましくは、ソール部は、ソール部の前端からソール部の最下点までの水平距離の長さを短くするように設けられた面取部を含む。面取部がソール部の前端からソール部の最下点までの水平距離の長さを短くするように設けられているため、ソール部の底面と芝および地面との接触面積を抑制することができる。そのため、さらにアイアンゴルフクラブヘッドの振り抜けを良くすることができる。
【0013】
上記のアイアンゴルフクラブヘッドは、好ましくは、48°以上のロフト角を有する。本発明は、48°以上のロフト角を有するウェッジのアイアンゴルフクラブヘッドに特に有用である。
【0014】
本発明のアイアンゴルフクラブは、シャフトと、シャフトの一方端に取り付けられたグリップと、シャフトの前記グリップと反対側の他方端に取り付けられた上記のアイアンゴルフクラブヘッドとを備えている。これにより、振り抜けの良いアイアンゴルフクラブを得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明のアイアンゴルフクラブヘッドおよびアイアンゴルフクラブによれば、アイアンゴルフクラブヘッドおよびアイアンゴルフクラブの振り抜けを良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態におけるアイアンゴルフクラブヘッドの概略正面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う概略断面図である。
【図3】図2のP部の概略拡大図である。
【図4】本発明の一実施の形態におけるアイアンゴルフクラブの概略背面図である。
【図5】本発明の一実施の形態における変形例のアイアンゴルフクラブヘッドの概略拡大断面図であって、図3に対応する断面位置での概略拡大断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態における変形例のアイアンゴルフクラブの概略背面図である。
【図7】本発明例1〜2および比較例3〜7のSpeed ratioとD/Hとの関係を示す図である。
【図8】本発明例1〜2および比較例3〜7のSpeed ratioとD/Wとの関係を示す図である。
【図9】本発明例1〜2および比較例3〜7のSpeed ratioとバックスピン量との関係を示す図である。
【図10】本発明例11〜12および比較例13〜17のSpeed ratioとD/Hとの関係を示す図である。
【図11】本発明例11〜12および比較例13〜17のSpeed ratioとD/Wとの関係を示す図である。
【図12】本発明例11〜12および比較例13〜17のSpeed ratioとバックスピン量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
最初に本発明の一実施の形態のアイアンゴルフクラブヘッドの構成について説明する。
【0018】
図1は本実施の形態に係るアイアンゴルフクラブヘッドの正面図を、図2は図1におけるII−II断面図を、また、図3は図2中の符号Pで囲まれる領域を拡大した図をそれぞれ表わす。
【0019】
図1ないし図3を参照して、アイアンゴルフクラブヘッド10は、フェース部1と、バック部2と、ソール部3と、ホーゼル部4と、スコアライン部5と、リーディングエッジ部6と、トウ部7と、ヒール部8と、トップエッジ部9とを主に有している。
【0020】
フェース部1は平面部分1aを有している。平面部分1aが打球面を構成している。フェース部1の打球面に複数のスコアライン(溝)部5が形成されている。複数のスコアライン部5は、フェース部1の打球面を縦断する方向に略等間隔で形成されており、打球面を横断する方向に直線状に形成されている。フェース部1は、平面部分1aからリーディングエッジ部6に向かって湾曲する湾曲部分1bを有している。
【0021】
バック部2はフェース部1の後方(背面)に位置している。フェース部1の周囲にソール部3、ホーゼル部4、リーディングエッジ部6、トウ部7、ヒール部8、トップエッジ部9が位置している。ソール部3はフェース部1とバック部2とを接続するように設けられている。ソール部3は設置状態で側面視、及び正面視のいずれにおいても下方に凸状に形成されている。ソール部3はアイアンゴルフクラブヘッド10の底部を構成する部分である。
【0022】
ホーゼル部4はシャフト(図4)に接続される部分である。リーディングエッジ部6はフェース部1とソール部3とが接する部分である。トウ部7はホーゼル部4から離れた側のトップエッジ部9とソール部3とを接続する部分である。ヒール部8はホーゼル部4の下端からソール部3に至る部分である。トップエッジ部9はホーゼル部4からトウ部7に至るアイアンゴルフクラブヘッド10の上端縁部を構成する部分である。
【0023】
図2および図3を参照して、アイアンゴルフクラブヘッド10では、ソール部3の最下点3mからフェース部1の平面部分1aの最下端縁1mまでの高さHに対して、フェース部1からバック部2に向かう前後方向BFでのソール部3の前端3fからソール部3の最下点3mまでの水平距離Dの比(D/H)が1.7以下となるように構成されている。
【0024】
ここで、ソール部3の最下点3mは、設定されているロフト角LOおよびライ角LIをなすように水平面HPにアイアンゴルフクラブヘッドが設置された状態(設置状態)でのソール部3の最も下に位置する点である。また、フェース部1の平面部分1aの最下端縁1mは、ソール部3の最下点3mを通り、スコアライン部5に対して垂直に切断した断面(最下点断面CS1)における、フェース部1の平面部分1aの最下端である。ソール部3の前端3fはリーディングエッジ部6に位置している。
【0025】
高さHは、ソール部3の最下点3mと、フェース部1の平面部分1aの最下端縁1mとの垂直距離である。距離Dは、ソール部3の最下点3mと、最下点断面CS1でのリーディングエッジ部6の最突出部(ソール部3の前端)3fとの水平距離である。すなわち、最下点断面CS1において、ソール部3の最下点3mと、最突出部3fから水平面HPに垂直に立てた仮想直線が水平面HPと当接する点との水平距離である。
【0026】
アイアンゴルフクラブヘッド10では、ソール部3の前後方向BFの幅Wに対する前後方向BFでの最突出部(ソール部3の前端)3fからソール部3の最下点3mまでの水平距離Dの比(D/W)が0.6以下となるように構成されている。
【0027】
ここで、フェース部1からバック部2に向かう前後方向BFは、設置状態での水平面HPに対して平行にフェース部1からバック部2に向かう方向である。また、ソール部3の前後方向BFの幅Wは、最下点断面CS1でのリーディングエッジ部6の最突出部3fと、ソール部3の後端3b、すなわち、バック部2とソール部3との接続点となるトレーリングエッジ部との水平距離である。
【0028】
アイアンゴルフクラブヘッド10のロフト角LOは、通常のアイアンゴルフクラブヘッド10のロフト角LOであればよい。アイアンゴルフクラブヘッド10は、たとえば16°以上64°以下のロフト角LOを有するように設定されていてもよい。アイアンゴルフクラブヘッド10は、48℃以上のロフト角LOを有するように構成されていることが好ましい。
【0029】
アイアンゴルフクラブヘッド10は、たとえばJIS規格S25Cを含む素材を用いて作製することができる。また、アイアンゴルフクラブヘッド10の材料としては、ばね鋼、マレージング鋼、ステンレス鋼などが適用され得る。アイアンゴルフクラブヘッド10は、鍛造で製造されていてもよい。また、アイアンゴルフクラブヘッド10にはめっきが施されていてもよい。めっきは、たとえば、Ni(ニッケル)−Cr(クロム)めっきであってもよい。
【0030】
図4を参照して、アイアンゴルフクラブヘッド10にシャフト21およびグリップ22を組み合わせることでアイアンゴルフクラブ20が構成される。アイアンゴルフクラブ20は、シャフト21と、シャフト21の一方端に取り付けられたグリップ22と、シャフト21のグリップ22と反対側の他方端に取り付けられたアイアンゴルフクラブヘッド10とを有している。なお、シャフト21およびグリップ22は周知のものを採用可能である。また、アイアンゴルフクラブヘッド10のホーゼル部4に隣接するようにシャフト21にソケット23が取り付けられている。
【0031】
また、アイアンゴルフクラブヘッド10のバック部2はソール部3と連続する部分が面取りされていてもよい。
【0032】
図5および図6を参照して、本発明の一実施の形態の変形例1のアイアンゴルフクラブヘッド10は、ソール部3の後端3bを基準として、ソール部3と連続する部分に面取部(テーパ部)11を有している。面取部11はソール部3の距離Dの長さを短くするように設けられている。面取部11は、ソール部3のバック部2側の後端を除去するように構成されている。
【0033】
次に、本発明の一実施の形態の作用効果について説明する。
発明者等は、インパクト直前の2点間のアイアンゴルフクラブヘッド10の速度に対するインパクト直後の2点間のアイアンゴルフクラブヘッド10の速度の比(Speed ratio)の値が大きいと振り抜けが良いことを見出した。
【0034】
そして、発明者等が鋭意検討したところ、ソール部3の最下点3mからフェース部1の平面部分1aの最下端縁1mまでの高さHに対するフェース部1からバック部2に向かう前後方向BFでのソール部3の前端3fからソール部3の最下点3mまでの距離Dの比(D/H)が1.7以下であり、かつソール部3の前後方向BFの幅Wに対する前後方向BFでのソール部3の前端3fからソール部3の最下点3mまでの距離Dの比(D/W)が0.6以下であることにより、Speed ratioの値が大きくなるという知見を得た。つまり、これにより、アイアンゴルフクラブヘッド10の振り抜けを良くすることができる。したがって、アイアンゴルフクラブヘッド10の振り抜けを良くすることで正確なショットを実現することができる。
【0035】
また、発明者等が検討したところ、上述のように高さHに対する距離Dの比(D/H)が1.7以下であり、幅Wに対する距離Dの比(D/W)が0.6以下であることにより、バックスピン量を増やすことができるという知見を得た。バックスピン量を増やすことができる理由は次のように考えられる。アイアンゴルフクラブヘッド10の振り抜けを良くすることで、インパクト前後でのアイアンゴルフクラブヘッド10の速度の減速を抑制することができる。その結果、ゴルフボールとアイアンゴルフクラブヘッド10の接触面積を大きくすることができるので、バックスピン量を増やすことができる。
【0036】
このため、アイアンゴルフクラブヘッド10のスピン性能を向上することができる。したがって、アイアンゴルフクラブヘッド10によれば、バックスピン量を増やすことでランを減らすことができる。これによっても、正確なショットを実現することができる。
【0037】
本発明の一実施の形態のアイアンゴルフクラブヘッド10では、ソール部3は、距離Dの長さを短くするように、ソール部3の後端3bを基準として設けられた面取部11を含むことが好ましい。面取部11がソール部3の距離Dの長さを短くするように設けられているため、ソール部3の幅Wの長さを変えることなく最下点3mの位置を調整することができ、D/W、D/Hの値を任意に調整することが可能となる。また面取部11を設けることで、ソール部3の底面12と芝および地面との接触面積を抑制することができる。そのため、さらにアイアンゴルフクラブヘッド10の振り抜けを良くすることができる。
【0038】
本発明の一実施の形態のアイアンゴルフクラブヘッド10では、アイアンゴルフクラブヘッド10は48°以上のロフト角を有することが好ましい。本発明の一実施の形態のアイアンゴルフクラブヘッド10は、48°以上のロフト角を有するウェッジのアイアンゴルフクラブヘッドに特に有用(効果的)である。
【0039】
本発明の一実施の形態のアイアンゴルフクラブ20は、上記のアイアンゴルフクラブヘッド10とを備えている。これにより、振り抜けの良いアイアンゴルフクラブ20を得ることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、上記と同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰り返さない場合がある。
【0041】
表1において、本発明例1〜2は本発明の実施例である。比較例3〜7は本発明に対する比較例である。本発明例1〜2および比較例3〜7は表1に示されたスペックを備えたアイアンゴルフクラブ20である。本発明例1〜2および比較例3〜7のアイアンゴルフクラブ20は48°のロフト角を有するウェッジである。
【0042】
【表1】
【0043】
表1の符号D、W、Hは、図3における同一の符号を示している。表1の符号D/Hは、高さHに対する距離Dの比を示し、D/Wは幅Wに対する距離Dの比を示している。表1のD(mm)、W(mm)、H(mm)の値は、図3における同一の符号の寸法を示している。また、表1のSrの値はSpeed ratioの値を示し、BS(rpm)はバックスピン量(バックスピンの回転数毎分)を示している。
【0044】
Speed ratioの測定方法について説明する。
株式会社Photoron製FASTCAM−MAX120KCを用いて本発明例1〜2および比較例3〜7のアイアンゴルフクラブ20でゴルフボールを打つ際のインパクトの前後を撮影した。試打者の正面方向より前方1.6m程度から撮影した。解像度は1024×256ドットとした。1秒あたり8000コマ、シャッター速度1/24000秒で120フレームを記録した。
【0045】
撮影した写真からインパクト最直前のコマを目視にて確認した。シャフト露出部先端と、シャフト露出部先端から20mm上方とをデジタイズした。そして画面座標から実座標へ変換した。なおX座標軸は水平面と平行とした。Y座用軸は水平面に垂直とした。
【0046】
インパクト最直前のコマと、そのコマから15/8000秒前のコマとからインパクト直前の2点間のアイアンゴルフクラブヘッド10の速度(Speed in)を算出した。一方、インパクト後ボールが離れたコマとそのコマから40/8000秒後のコマとからインパクト直後の2点間のアイアンゴルフクラブヘッド10の速度(Speed out)を算出した。そしてインパクト直前の2点間のアイアンゴルフクラブヘッド10の速度(Speed in)に対するインパクト直後の2点間のアイアンゴルフクラブヘッド10の速度(Speed out)の比(Speed ratio)を算出した。
【0047】
バックスピン量の測定方法について説明する。
株式会社ミヤマエ製メカニカルゴルファーを用いて本発明例1〜2および比較例3〜7のアイアンゴルフクラブ20でゴルフボールを打ってバックスピンの回転数毎分を計測した。具体的には、ヘッドスピードを17.3m/秒に設定したときのバックスピンの回転数毎分を計測した。
【0048】
本発明例1〜2および比較例3〜7のアイアンゴルフクラブ20で、各5球ずつゴルフボールを打った。表1のBS(rpm)の欄には、各5球ずつ打ったゴルフボールのバックスピン回転数毎分の平均値を記載した。ゴルフボールは、Titlest Pro V1を使用した。打点の位置は、スコアラインセンター(フェース部1のスコアライン部5の長手方向の中央部)で、トップエッジ部9から2本目のスコアライン部5とソール部3から3本目のスコアライン部5との間とした。ゴルフボールのバックスピン回転数毎分は、Interactive Sports Games社製弾道測定器トラックマンで測定した。
【0049】
表1および図7を参照して、本発明例1および本発明例2のSpeed ratioの値は0.950以上0.953以下となった。それに対して、比較例3〜7のSpeed ratioの値は0.883以上0.922以下となった。これより、本発明例1および本発明例2のSpeed ratioの値は、比較例3〜7のSpeed ratioの値より大きくなることがわかった。
【0050】
本発明例1および本発明例2のD/Hの値は1.5以上1.7以下となった。それに対して、比較例3〜7のD/Hの値は1.7以上2.8以下となった。なお、比較例3のD/Hの値は1.7であるが、Speed ratioの値は0.901となり本発明例1および本発明例2より小さくなった。
【0051】
表1および図8を参照して、本発明例1および本発明例2のD/Wの値は0.500以上0.600以下となった。それに対して、比較例3〜7のD/Wの値は0.600以上0.862以下となった。なお、比較例4のD/Wの値は0.600であるがSpeed ratioの値は0.905となり本発明例1および本発明例2より小さくなった。
【0052】
以上より、D/Hの値が1.7以下であり、かつD/Wの値が0.6以下であることにより、Speed ratioの値が大きくなることがわかった。
【0053】
さらに、本願発明者等は、本発明例1〜2および比較例3〜7のアイアンゴルフクラブ20のそれぞれについて5名の被験者(被験者A〜E)による試打試験を行った。
【0054】
【表2】
【0055】
表2を参照して、表中の○は振り抜けが良いことを示し、△は振り抜けが普通であることを示し、×は振り抜けが悪いことを示している。表2に示すとおり、試打試験を行ったすべての被験者が本発明例1および本発明例2のアイアンゴルフクラブ20の振り抜けが良いと判定した。一方、比較例3〜7では、すべての被験者が振り抜けが良いと判定したものはなかった。
【0056】
そして、Speed ratioが高い本発明例2、本発明例1、及び比較例6の順に振り抜けの評価を見ていくと、Speed ratioの値が、少なくとも本発明例1のものよりも大きければ、振り抜けの評価が確実に高くなることが分かる。すなわちD/Hの値が1.7以下であり、かつD/Wの値が0.6以下とすることで、振り抜け評価が良好なSpeed ratioの値を得ることができる。
【0057】
また、表1および図9を参照して、本発明例1および本発明例2のバックスピン量の値は5180rpm以上5200rpm以下となった。それに対して、比較例3〜7のバックスピン量の値は4653rpm以上5024rpm以下となった。これより、本発明例1および本発明例2のバックスピン量の値は、比較例3〜7のバックスピン量の値より大きくなることがわかった。
【0058】
本発明例1〜2および比較例3〜7について、Speed ratioの値の大きさの順番とバックスピン量の値の大きさの順番とは一致する。したがって、Speed ratioの値の大きさとバックスピン量の値の大きさとは比例することがわかった。そのため、Speed ratioの値が大きいとバックスピン量の値が大きくなることがわかった。つまり、振り抜けが良くなるとバックスピン量の値が大きくなることがわかった。
【0059】
次に、5番アイアン(5I)について、上述のウェッジと同様に検討した。
なお、バックスピンの回転数毎分の計測に関しては、上述の株式会社ミヤマエ製メカニカルゴルファーにおいて、ヘッドスピードを23.2m/秒に設定している。
【0060】
本発明例11〜12は本発明の実施例である。比較例13〜17は本発明に対する比較例である。本発明例11〜12および比較例13〜17は表3に示されたスペックを備えたアイアンゴルフクラブ20である。本発明例11〜12および比較例13〜17のアイアンゴルフクラブ20は27°のロフト角を有する5番アイアン(5I)である。なお、表3の符号は表1の符号と同じである。
【0061】
【表3】
【0062】
表3および図10を参照して、本発明例11および本発明例12のSpeed ratioの値は0.967以上0.972以下となった。それに対して、比較例13〜17のSpeed ratioの値は0.852以上0.904以下となった。これより、本発明例11および本発明例12のSpeed ratioの値は、比較例13〜17のSpeed ratioの値より大きくなることがわかった。
【0063】
本発明例11および本発明例12のD/Hの値は1.5以上1.7以下となった。それに対して、比較例13〜17のD/Hの値は1.7以上2.6以下となった。なお、比較例16のD/Hの値は1.7であるが、Speed ratioの値は0.903となり本発明例1および本発明例2より小さくなった。
【0064】
表3および図11を参照して、本発明例11および本発明例12のD/Wの値は0.500以上0.600以下となった。それに対して、比較例13〜17のD/Wの値は0.600以上0.862以下となった。なお、比較例17のD/Wの値は0.600であるがSpeed ratioの値は0.904となり本発明例1および本発明例2より小さくなった。
【0065】
以上より、5Iについても上述のウェッジと同様に、D/Hの値が1.7以下であり、かつD/Wの値が0.6以下であることにより、Speed ratioの値が大きくなることがわかった。
【0066】
また、表1および図9を参照して、本発明例11および本発明例12のバックスピン量の値は5102rpm以上5305rpm以下となった。それに対して、比較例13〜17のバックスピン量の値は4874rpm以上5004rpm以下となった。これより、本発明例11および本発明例12のバックスピン量の値は、比較例13〜17のバックスピン量の値より大きくなることがわかった。
【0067】
本発明例1〜2および比較例3〜7について、Speed ratioの値が大きくなるとバックスピン量の値が大きくなる傾向がある。そのため、5番アイアン(5I)についてもSpeed ratioが大きくなるとバックスピン量が大きくなるといえる。
【0068】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、アイアンゴルフクラブヘッドおよびアイアンゴルフクラブに特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0070】
1 フェース部、1a 平面部分、1b 湾曲部分、1m フェース部の最下端縁、2 バック部、3 ソール部、3f ソール部の前端、3m ソール部の最下点、4 ホーゼル部、5 スコアライン部、6 リーディングエッジ部、7 トウ部、8 ヒール部、9 トップエッジ部、10 アイアンゴルフクラブヘッド、11 面取部、12 ソール部の底面、20 アイアンゴルフクラブ、21 シャフト、22 グリップ、23 ソケット。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェース部と、
前記フェース部の後方に位置するバック部と、
前記フェース部と前記バック部とを接続するソール部とを備え、
前記ソール部の最下点を通り前記フェース部に刻まれたスコアラインに対して垂直な断面における、
前記ソール部の最下点から前記フェース部の平面部分の最下端縁までの高さに対する前記フェース部から前記バック部に向かう前後方向での前記ソール部の前端から前記ソール部の最下点までの水平距離の比が1.7以下であり、かつ
前記ソール部の前記前後方向の幅に対する前記前後方向での前記ソール部の前端から前記ソール部の最下点までの水平距離の比が0.6以下である、アイアンゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記ソール部は、前記ソール部の前端から前記ソール部の最下点までの水平距離の長さを短くするように設けられた面取部を含む、請求項1に記載のアイアンゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
48°以上のロフト角を有する、請求項1または2に記載のアイアンゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
シャフトと、
前記シャフトの一方端に取り付けられたグリップと、
前記シャフトの前記グリップと反対側の他方端に取り付けられた請求項1〜3のいずれかに記載のアイアンゴルフクラブヘッドとを備えた、アイアンゴルフクラブ。
【請求項1】
フェース部と、
前記フェース部の後方に位置するバック部と、
前記フェース部と前記バック部とを接続するソール部とを備え、
前記ソール部の最下点を通り前記フェース部に刻まれたスコアラインに対して垂直な断面における、
前記ソール部の最下点から前記フェース部の平面部分の最下端縁までの高さに対する前記フェース部から前記バック部に向かう前後方向での前記ソール部の前端から前記ソール部の最下点までの水平距離の比が1.7以下であり、かつ
前記ソール部の前記前後方向の幅に対する前記前後方向での前記ソール部の前端から前記ソール部の最下点までの水平距離の比が0.6以下である、アイアンゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記ソール部は、前記ソール部の前端から前記ソール部の最下点までの水平距離の長さを短くするように設けられた面取部を含む、請求項1に記載のアイアンゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
48°以上のロフト角を有する、請求項1または2に記載のアイアンゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
シャフトと、
前記シャフトの一方端に取り付けられたグリップと、
前記シャフトの前記グリップと反対側の他方端に取り付けられた請求項1〜3のいずれかに記載のアイアンゴルフクラブヘッドとを備えた、アイアンゴルフクラブ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−161(P2013−161A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131040(P2011−131040)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】
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