アクティブ防音装置及びアクティブ防音方法
【課題】閉空間部内に伝播する騒音を消音するようなフィードバック制御を行うアクティブ防音装置において、簡単な構造で、広い周波数域において消音効果を向上させる。
【解決手段】閉空間部23を有する防音ボックス3と、閉空間部23の上側端部に配置され、閉空間部23内の音信号を集音する第1マイク5と、集音された音信号に基づいて、騒音を消音するような消音信号を生成するコントローラ11と、閉空間部23の上端から下端に向けて消音信号を出力するスピーカー9とを備えたアクティブ防音装置1である。閉空間部23内に発生する1次音圧モードの定在波の、閉空間部23の上側端部における位相と逆位相となる位置又はその近傍に配置される第2マイク7をさらに備えている。コントローラ11は、1次の共振を打ち消すように、第1マイク5によって集音された音信号と、第2マイク7によって集音された音信号とを回路上で合成して消音信号とする。
【解決手段】閉空間部23を有する防音ボックス3と、閉空間部23の上側端部に配置され、閉空間部23内の音信号を集音する第1マイク5と、集音された音信号に基づいて、騒音を消音するような消音信号を生成するコントローラ11と、閉空間部23の上端から下端に向けて消音信号を出力するスピーカー9とを備えたアクティブ防音装置1である。閉空間部23内に発生する1次音圧モードの定在波の、閉空間部23の上側端部における位相と逆位相となる位置又はその近傍に配置される第2マイク7をさらに備えている。コントローラ11は、1次の共振を打ち消すように、第1マイク5によって集音された音信号と、第2マイク7によって集音された音信号とを回路上で合成して消音信号とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部の騒音源から発生して防音ボックス内に伝播する騒音を消音するようなフィードバック制御を行うアクティブ防音装置及びアクティブ防音方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、走査型プローブ顕微鏡(SPM)や原子間力顕微鏡(AFM)等の振動を嫌う精密機器を、騒音による音響振動等から保護すべく、様々な試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、プローブ顕微鏡装置全体を防音カバーで覆おうことが開示されている。しかし、精密機器を防音カバーで覆うだけの構成では、防音としては不十分であり、また、カバー外部の騒音源から発生して防音カバー内に伝播した騒音を低減できないという問題がある。
【0004】
そこで、騒音による音響振動等から精密機器を保護すべく、フィードバック制御を用いて騒音を低減する技術が多数提案されている。例えば、特許文献2には、顕微鏡本体部に接近した位置にマイクロフォンを配置し、このマイクロフォンからの音響信号の逆位相の信号を制御回路で作成し、この制御回路から逆位相の信号が供給されるスピーカーからの音波により、顕微鏡本体部の所定位置における音を打ち消すように構成した顕微鏡の振動防止装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−282118号公報
【特許文献2】特開平10−148235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、防音効果を高めるべく、上記特許文献1に記載されるような防音カバー(防音ボックス)と、特許文献2に記載されるようなフィードバック制御とを組み合わせたアクティブ防音装置を用いることが考えられる。しかし、かかるアクティブ防音装置では、防音ボックスの閉空間部内に定在波が生じ、共振周波数において共振が発生することに起因して、以下のような問題が生じる。
【0007】
図9は、精密機器を外部の騒音から保護するためのアクティブ防音装置を模式的に示す図である。このアクティブ防音装置101は、走査型プローブ顕微鏡19を収容するための円柱状の閉空間部123を有する円筒形の防音ボックス103と、当該閉空間部123の筒軸方向一方側(上下方向上側)の端部に配置され、当該閉空間部123内の音信号を集音するマイク105と、当該マイク105によって集音された音信号に基づいて、外部の騒音源から発生して閉空間部123内に伝播する騒音を、消音するような消音信号を生成するコントローラ(フィルタ回路131、スピーカードライバー141、マイクプリアンプ151)111と、閉空間部123の筒軸方向一方側端に配置され、消音信号を閉空間部123内に出力するスピーカー109と、を備えている。なお、このアクティブ防音装置101では、閉空間部123の筒軸方向の長さは500(mm)に設定されている。
【0008】
図10は、このアクティブ防音装置101において、フィルタ回路131をOFFにした状態で、全周波数で同じ大きさの音をスピーカー109から閉空間部123に出力することにより、当該防音ボックス103のプラント特性(伝達率(ゲイン)及び位相)を測定した結果を示す図である。
【0009】
図10から、この防音ボックス103では、400(Hz)付近に1つの大きな共振と、1000(Hz)以上で複数の大きな共振とが生じることが分かる。ここで、位相交点でゲインが0(dB)を超えなければ、その制御系は安定となり、また、ゲインが0(dB)を超えても位相が0度を横切らなければ、制御系は安定となるところ、1000(Hz)以上の共振周波数では、位相交点でゲインが0(dB)を超えているので、フィードバックループを繰り返す中でゲインが無限大に増幅されて発振状態に陥ることになる。
【0010】
そこで、1000(Hz)以上の複数の共振を0(dB)以下に落とす必要があるが、個々の共振を、特定の周波数成分を減衰させるノッチフィルタで減衰させるのは、共振点の数が多いことから現実的ではない。このため、高い周波数成分を抑制する一方低い周波数成分を取り出すローパスフィルタ(以下、LPFともいう)を用いて、これらの共振を減衰させることが考えられる。
【0011】
図11は、フィルタ回路131をONにした状態で、具体的には、カットオフ周波数50(Hz)のLPFを追加して、防音ボックス103のプラント特性を測定した結果を示す図であり、図中の点線はLPFを追加する前のプラント特性を、図中の実線はLPFを追加した後のプラント特性を、また、図中の破線はLPFの特性をそれぞれ示す。図11から分かるように、LPFを用いたことにより、1000(Hz)以上の共振周波数では、位相交点でゲインが0(dB)より小さくなるので、発振状態に陥るおそれはないが、LPFを用いるとカットオフ周波数の前後で位相が90度遅れることから、今度は400(Hz)付近で位相が0度を横切ることになる。
【0012】
そこで、400(Hz)付近における共振に起因して発振状態に陥ることを抑えるために、ノッチフィルタを用いることも考えられるが、帯域の狭いノッチフィルタを共振周波数に合わせるのは困難である。また、図12(a)の点線で示すように、LPFのカットオフ周波数を50(Hz)よりも低くすることや、図12(a)の太線で示すように、LPFをもう一段追加することが考えられるが、図12(b)に示すように、いずれの場合にも、位相がさらに遅れてしまうことから、騒音を消音制御するために必要な周波数域が狭くなるという問題がある。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、閉空間部内に配置されるマイクによって集音された音信号に基づいて、閉空間部内に伝播する騒音を消音するようなフィードバック制御を行うアクティブ防音装置において、簡単な構造で、広い周波数域において消音効果を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明では、閉空間部内に設けられ、且つ、当該閉空間部内に発生する1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の節以外の領域に配置される主マイクの他に、副マイクを当該閉空間部内に設けるとともに、1次又は1次〜n次の共振において、副マイクと主マイクとによってそれぞれ集音される音信号の位相が反転するような位置に、かかる副マイクを配置するようにしている。
【0015】
具体的には、第1の発明は、機器を収容するための閉空間部を有する防音ボックスと、上記閉空間部内に配置され、当該閉空間部内の音信号を集音する主マイクと、上記主マイクによって集音された音信号に基づいて、外部の騒音源から発生して上記閉空間部内に伝播する騒音を、消音するような消音信号を生成するフィードバック制御手段と、上記消音信号を当該閉空間部内に出力するスピーカーと、を備えたアクティブ防音装置を対象とする。
【0016】
そして、上記主マイクは、上記消音信号により上記閉空間部内に発生する、上記1次又は1次〜n次(nは2以上の整数)音圧モードの定在波の節以外の領域に配置されており、上記1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の、上記主マイクの配置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に配置される副マイクをさらに備え、上記フィードバック制御手段は、1次又は1次〜n次の共振を打ち消すように、上記主マイクによって集音された音信号と、上記副マイクによって集音された音信号と、を回路上で合成して上記消音信号とするように構成されていることを特徴とするものである。
【0017】
なお、本発明において、「防音ボックス」とは、閉空間部を有する容器であればよく、略直方体状の閉空間部に限らず、例えば、円筒状や多角形筒状の閉空間部を有するものも含む。
【0018】
第1の発明によれば、外部の騒音源から発生した騒音が閉空間部内に伝播すると、主マイク及び副マイクがかかる騒音を集音するとともに、フィードバック制御手段が、主マイク及び副マイクによって集音された騒音の音信号に基づいて、閉空間部内に伝播する騒音を消音するような消音信号を生成する。そうして、スピーカーがかかる消音信号を閉空間部内に出力することによって、閉空間部内に伝播する騒音が消音される。
【0019】
もっとも、閉空間内で、音信号がスピーカーから常に一定方向に出力されると、かかる閉空間内には定在波が発生し、防音ボックスの特性で決まる共振周波数において共振が発生することになる。このように共振が生じると、共振点の付近では音信号の位相が大幅に遅れて、この音信号を帰還させるようにしたフィードバックループにおいて位相交点が現れることがある。そうして、かかる位相交点においてゲインが0(dB)を超えていると、フィードバックループを繰り返す中でゲインが無限大に増幅されて発振状態に陥るおそれがある。
【0020】
そこで、第1の発明のアクティブ防音装置では、消音信号により閉空間部内に発生する、1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の、主マイクの設置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に、副マイクを配置するようにしている。このように、副マイクを配置することにより、主マイクが例えばn次音圧モードの定在波の腹における音圧を集音すると、副マイクがこれとは逆位相の腹又はその近傍における音圧を集音することになる。故に、主マイクによって集音された音信号と、副マイクによって集音された音信号と、を回路上で合成すれば、n次の共振があたかも打ち消されるように減衰され、かかるn次の共振が減衰された消音信号がスピーカーから閉空間部内に出力されることになる。
【0021】
そうして、スピーカーから閉空間部内に出力された消音信号は、n次の共振が減衰していることを除けば、元の集音信号と同じ信号なので、外部の騒音源から発生して閉空間部内に伝播する騒音を効果的に消音することができる。また、消音信号を出力し続ける限り、閉空間部内には、1次〜n次の共振が常時発生していることになるが、上述の如く、各フィードバックループにおいてn次の共振が減衰されるので、フィードバックループを繰り返す中でゲインが無限大に増幅されて発振状態に陥ることを確実に抑制することができる。
【0022】
このように、第1の発明のアクティブ防音装置では、1次又は1次〜n次の共振が減衰されるので、例えば、1次及び2次の共振を減衰させた場合には、1次及び2次の共振周波数においてLPF等のフィルタを用いる必要がなくなる(必要に応じて3次以上の共振周波数においてのみフィルタを用いればよい)ことから、これらの周波数でフィルタに起因する位相遅れが生じなくなる。したがって、制御に必要な周波数域(以下、制御対象周波数域ともいう)が1次共振周波数よりも低い周波数域に設定されているような場合には、制御対象周波数域に位相遅れの影響が生じるのを確実に抑えて、制御対象周波数域を広げることが可能となる。
【0023】
以上により、第1の発明によれば、閉空間部内に配置されるマイクによって集音された音信号に基づいて、閉空間部内に伝播する騒音を消音するようなフィードバック制御を行うアクティブ防音装置において、簡単な構造で、広い周波数域において消音効果を向上させることが可能となる。
【0024】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記閉空間部は、少なくとも一対の対向する面によって区画され、上記主マイクは、上記一対の面が対向する対向方向の端部に配置され、上記スピーカーは、上記消音信号を、上記閉空間部の対向方向の一方側の端部から他方側の端部に向けて出力するように構成されていることを特徴とするものである。
【0025】
第2の発明では、スピーカーが消音信号を閉空間部の対向方向の一方側の端部から他方側の端部に向けて出力することから、かかる閉空間部には、対向方向の両端部が腹となる、1次〜n次音圧モードの定在波が発生する。そうして、主マイクは対向方向の端部に配置されることから、主マイクを容易に1次〜n次音圧モードの定在波の節以外の領域に配置することができる。
【0026】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、上記主マイク及び副マイクは、各音圧モードの定在波の、上記主マイクの配置位置における位相と同位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数と、上記主マイクの配置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数と、が同じになるように、上記閉空間部内に配置されることを特徴とするものである。
【0027】
第3の発明によれば、各音圧モードの定在波における、主マイクの設置位置(閉空間部の対向方向の端部)の位相と同位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数(主マイクを含む)と、これと逆位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数とが同じになるように、副マイクが配置されるので、換言すると、複数のマイクが、互いに打ち消し合うような音信号を対で集音するので、複雑な音信号の合成割合の調整を要することなく、n次の共振を減衰させることができる。
【0028】
第4の発明は、上記第1〜第3のいずれか1つの発明において、上記フィードバック制御手段は、各マイクで集音された音信号の音圧の合成割合を調整可能な加算器を有していて、1次又は1次〜n次の共振が減衰されるように、各信号の合成割合を調整することを特徴とするものである。
【0029】
第4の発明によれば、1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の主マイクの設置位置における位相と逆位相となる位置に副マイクを設置しなくても、逆位相となる位置の近傍に(位相が反転する位置に)副マイクを設置して、各信号の合成割合を調整することにより、1次又は1次〜n次の共振を確実に減衰させることができる。
【0030】
第5の発明は、上記第1〜第4のいずれか1つの発明において、上記防音ボックスには、上記閉空間部を区画する面に、吸音材が設けられていることを特徴とするものである。
【0031】
第5の発明によれば、第1〜第4の発明による消音効果と、吸音材による消音効果とが相俟って、制御対象周波数域における消音効果をより一層高めることができる。
【0032】
第6の発明は、機器を収容するための閉空間部を有する防音ボックスと、上記閉空間部内に配置され、当該閉空間部内の音信号を集音する主マイク及び少なくとも1つの副マイクと、上記主マイク及び副マイクによって集音された音信号に基づいて、外部の騒音源から発生して上記閉空間部内に伝播する騒音を、消音するような消音信号を生成するフィードバック制御手段と、上記消音信号を当該閉空間部内に出力するスピーカーと、を備えた装置を用意し、上記消音信号により上記閉空間部内に発生する、上記1次又は1次〜n次(nは2以上の整数)音圧モードの定在波の節以外の領域に上記主マイクを配置し、上記1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の、上記主マイクの配置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に上記副マイクを配置し、1次又は1次〜n次の共振を打ち消すように、上記主マイクによって集音された音信号と、上記副マイクによって集音された音信号と、を回路上で合成して上記消音信号とすることを特徴とするアクティブ防音方法である。
【0033】
第6の発明によれば、上記第1の発明と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係るアクティブ防音装置及びアクティブ防音方法によれば、1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の、主マイクの設置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に、副マイクを配置することから、これらの音信号を回路上で合成することによって、1次又は1次〜n次の共振を減衰させることができる。このように、各フィードバックループにおいて1次又は1次〜n次の共振が減衰されるので、フィードバックループを繰り返す中でゲインが無限大に増幅されて発振状態に陥ることを確実に抑制することができる。
【0035】
また、1次又は1次〜n次の共振が減衰されるので、1次又は1次〜n次の共振周波数においてフィルタを用いる必要がなくなることから、これらの周波数でフィルタに起因する位相遅れが生じなくなる。したがって、制御対象周波数域に位相遅れの影響が生じるのを確実に抑えて、制御対象周波数域を広げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施形態1に係るアクティブ防音装置を模式的に示す図である。
【図2】防音ボックス内に生じる1次音圧モードの定在波を模式的に示す図である。
【図3】防音ボックスのプラント特性を示す図であり、同図(a)はゲイン特性を示し、同図(b)は位相特性を示す図である。
【図4】防音ボックスのプラント特性を示す図であり、同図(a)はゲイン特性を示し、同図(b)は位相特性を示す図である。
【図5】アクティブ防音装置による消音効果を示す図である。
【図6】実施形態2に係るアクティブ防音装置を模式的に示す図である。
【図7】防音ボックス内に生じる2次音圧モードの定在波を模式的に示す図である。
【図8】防音ボックスのプラント特性を示す図であり、同図(a)はゲイン特性を示し、同図(b)は位相特性を示す図である。
【図9】従来のアクティブ防音装置を模式的に示す図である。
【図10】従来の防音ボックスのプラント特性を示す図であり、同図(a)はゲイン特性を示し、同図(b)は位相特性を示す図である。
【図11】従来の防音ボックスのプラント特性を示す図であり、同図(a)はゲイン特性を示し、同図(b)は位相特性を示す図である。
【図12】LPFの特性を示す図であり、同図(a)はゲイン特性を示し、同図(b)は位相特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0038】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係るアクティブ防音装置を模式的に示す図である。このアクティブ防音装置1は、振動を嫌う精密機器(本実施形態では走査型プローブ顕微鏡)19を、騒音による音響振動等から保護するためのものであり、走査型プローブ顕微鏡19を収容するための閉空間部23を有する防音ボックス3と、当該閉空間部23内の音信号を集音する第1マイク(主マイク)5及び第2マイク(副マイク)7と、当該閉空間部23内に伝播する騒音を消音するような消音信号を生成するコントローラ(フィードバック制御手段)11と、かかる消音信号を当該閉空間部23内に出力するスピーカー9と、を備えている。なお、本実施形態のアクティブ防音装置1では、制御対象周波数域が10(Hz)付近〜100(Hz)付近に想定されている。
【0039】
防音ボックス3は、図1に示すように、略円筒状に形成されており、有頂筒状に形成されたアクリル製の本体部13と、本体部13の下端部の内周面に取り付けられるアルミ製の底壁部33と、本体部13の上端部の内周面に取り付けられる、略円盤状のアルミ製の仕切壁部43と、を有している。このように、仕切壁部43を本体部13の上端部の内周面に取り付け、且つ、本体部13の解放端を底壁部33で閉じることにより、かかる防音ボックス3には、本体部13の内周面と、底壁部33の上面33a及び仕切壁部43の下面43a(一対の対向する面)とによって区画される閉空間部23が形成されている。なお、本実施形態では、底壁部33の上面33aと仕切壁部43の下面43aとの間隔、すなわち、閉空間部23の筒軸方向の長さは、500(mm)に設定されている。
【0040】
そうして、走査型プローブ顕微鏡19をこの閉空間部23に収容することで、本実施形態に係るアクティブ防音装置1では、当該走査型プローブ顕微鏡19を、外部の騒音による音響振動等からある程度保護することが可能となっている。なお、本実施形態では、底壁部33の上面33a及び仕切壁部43の下面43a(一対の面)が対向する対向方向(筒軸方向)と、上下方向が一致することから、以下、対向方向を上下方向として説明する。
【0041】
第1マイク5は、閉空間部23内で且つ当該閉空間部23における上下方向の上側の端部に配置されており、スピーカー9の近傍で当該閉空間部23内の音信号を集音するようになっている。そうして、この第1マイク5により集音された音信号は、コントローラ11内のマイクプリアンプ51に入力される。
【0042】
第2マイク7は、第1マイク5と同様に、閉空間部23内に配置されており、第1マイク5とは異なる位置で当該閉空間部23内の音信号を集音するようになっている。そうして、この第2マイク7により集音された音信号は、コントローラ11内のマイクプリアンプ61に入力される。
【0043】
スピーカー9は、閉空間部23内で且つ当該閉空間部23における上下方向の上端に、より具体的には、仕切壁部43の中央部に埋め込まれるように配置されている。このスピーカー9は、コントローラ11内のスピーカードライバー41から入力された電流に応じて、消音信号を当該閉空間部23内に上下方向上側端から下側端に向けて出力する。
【0044】
コントローラ11は、第1及び第2マイク5,7によって集音された音信号を増幅するためのマイクプリアンプ51,61と、各マイク5,7で集音された音信号の音圧の合成割合を調整可能な加算器21と、加算合成された音信号にローパスフィルタ(LPF)をかけるか否かを選択可能であり且つLPFをかける際のカットオフ周波数を設定可能なフィルタ回路31と、電圧信号の形で入力される音信号を電流に変換してスピーカー9に出力するスピーカードライバー41とを、有している。そうして、このコントローラ11は、第1及び第2マイク5,7によって集音された音信号に基づいて、外部の騒音源(図示せず)から発生して閉空間部23内に伝播する騒音を、消音するような消音信号を生成するように構成されている。
【0045】
具体的には、コントローラ11は、第1及び第2マイク5,7によって集音された音信号をマイクプリアンプ51,61で増幅し、かかる増幅された音信号の音圧の合成割合を加算器21で調整して、加算合成された音信号に必要に応じてLPFをかけた後、スピーカードライバー41からスピーカー9に対して電流を出力することによって、閉空間部23内に伝播する騒音を消音するような、例えば、騒音と逆位相且つ同振幅の消音信号を出力するように構成されている。
【0046】
以上の構成により、本実施形態のアクティブ防音装置1によれば、走査型プローブ顕微鏡19を防音ボックス3の閉空間部23に収容するとともに、アクリル製の本体部13を通過して閉空間部23内に伝播する騒音を、コントローラ11で生成されスピーカー9から出力される消音信号によって減衰させることにより、騒音による音響振動等から走査型プローブ顕微鏡19を保護することができる。
【0047】
ところで、閉空間部23内には、消音信号が常に上側端から下側端に向けてスピーカー9から出力されることから、閉空間部23内にはかかる消音信号に起因して定在波が発生している。このため、当該閉空間部23内には、防音ボックス3の上下方向長さで決まる共振周波数において共振が発生することになる。
【0048】
ここで、本実施形態のアクティブ防音装置1では、閉空間部23の上下方向の長さが、上記図9に示した従来のアクティブ防音装置101と同様に500(mm)に設定されていることから、従来のアクティブ防音装置101と同様に第1マイク5しか用いない場合には、防音ボックス3内には、400(Hz)付近に1つの大きな共振と、1000(Hz)以上で複数の大きな共振とが生じることになる(図10参照)。そうして、1000(Hz)以上の共振周波数では、位相交点でゲインが0(dB)を超えているので、フィードバックループを繰り返す中でゲインが無限大に増幅されて発振状態に陥ることになる。
【0049】
このため、1000(Hz)以上の複数の共振を0(dB)以下に落とす必要があるが、LPFを用いてこれらの共振を減衰させると、上記図11に示すように、1000(Hz)以上の共振周波数では、位相交点でゲインが0(dB)以下となるものの、LPFのカットオフ周波数の前後で位相が90度遅れることから、今度は400(Hz)付近で位相が0度を横切ることになる。
【0050】
そこで、400(Hz)付近における共振に起因して発振状態に陥ることを抑えるために、ノッチフィルタを用いることやLPFを用いることが考えられるが、帯域の狭いノッチフィルタを共振周波数に合わせるのは困難であるし、また、LPFを用いると、位相がさらに遅れてしまうため、騒音を消音制御するために必要な周波数域である制御対象周波数域が狭くなるという問題がある。
【0051】
そこで、本実施形態のアクティブ防音装置1では、消音信号により閉空間部23内に発生する1次音圧モードの定在波の、第1マイク5の設置位置(対向方向の一方側の端部)における位相と逆位相となる位置又はその近傍に、第2マイク7を配置するとともに、1次の共振を打ち消す(減衰させる)ように、第1マイク5によって集音された音信号と、第2マイク7によって集音された音信号とを回路上で合成し、かかる加算合成された音信号を消音信号とするようにコントローラ11を構成している。
【0052】
具体的には、本実施形態のアクティブ防音装置1では、図2に示すように、閉空間部23内に1/2波長の1次音圧モードの定在波が存在しているところ、第1マイク5がかかる定在波における腹P1の近傍に設置されている一方、第2マイク7が腹P1と逆位相の腹P2の近傍に設置されている。このように、第2マイク7を設置することにより、第1マイク5が1次音圧モードの定在波における腹P1の近傍における音圧を集音すると、第2マイク7が腹P1とは逆位相の腹P2の近傍における音圧を集音することになる。これにより、第1マイク5によって集音された音信号と、第2マイク7によって集音された音信号と、を回路上で合成すれば、1次の共振があたかも打ち消されるように減衰され、かかる1次の共振が減衰された消音信号が、スピーカー9から閉空間部23内に出力される。
【0053】
このように、本実施形態のアクティブ防音装置1では、1次の共振が減衰されるので、1次の共振周波数においてLPFを用いる必要がなくなることから、換言すると、必要に応じて2次以上の共振周波数においてのみLPFを用いればよいことから、低い周波数域でフィルタに起因する位相遅れが生じなくなる。したがって、制御対象周波数域である10(Hz)付近〜100(Hz)付近で位相遅れの影響が生じるのを確実に抑えて、制御対象周波数域を広げることが可能となる。
【0054】
なお、第1及び第2マイク5,7を設置する際に設置誤差が生じることや、図2に示す模式図とは異なり、実際には閉空間部23内に走査型プローブ顕微鏡19が配置されていることから、第1マイク5の設置位置における位相と、第2マイク7の設置位置における位相とが、反転はしているものの逆位相とならない場合があるが、コントローラ11は、各マイクで集音された音信号の音圧の合成割合を調整可能な加算器21を有していて、1次又は1次〜n次の共振が減衰されるように、各信号の合成割合を調整することが可能なので、逆位相となる位置の近傍に第2マイク7を設置した場合にも、1次の共振を確実に減衰させることができる。
【0055】
そうして、スピーカー9から閉空間部23内に出力された消音信号は、1次の共振が減衰していることを除けば、元の集音信号と同じ信号なので、外部の騒音源から発生して閉空間部23内に伝播する騒音を効果的に消音することができる。また、消音信号を出力し続ける限り、閉空間部23内には、1次の共振が常時発生していることになるが、上述の如く、各フィードバックループにおいて1次の共振が減衰されるので、フィードバックループを繰り返す中でゲインが無限大に増幅されて発振状態に陥ることを確実に抑制することができる。
【0056】
次に、本実施形態のアクティブ防音装置1による効果を確認するために行ったシミュレーション実験の結果を説明する。
【0057】
先ず、図9に示す、マイクが1つの従来のアクティブ防音装置101と、図1に示す、マイクが2つの本実施形態のアクティブ防音装置1とを用意し、共にフィルタ回路31,131をOFFにした状態で、全周波数で同じ大きさの音をスピーカー9,109から閉空間部23,123に出力することにより、これらの防音ボックス3,103のプラント特性(ゲイン及び位相)を比較した。その結果を図3に示す。
【0058】
図3の点線は、マイクが1つの防音ボックス103のプラント特性を、図3の実線は、本実施形態に係るマイクが2つの防音ボックス3のプラント特性をそれぞれ示している。図3から、マイクが1つの防音ボックス103において400(Hz)付近に生じていた1次の共振が、本実施形態に係る防音ボックス3では消えている(減衰されている)ことが分かった。これにより、第1マイク5の設置位置における位相と逆位相となる位置(又はその近傍)に、第2マイク7を配置するとともに、これら第1及び第2マイク5,7によって集音された音信号を回路上で合成することにより、LPFを用いなくても1次の共振を減衰させることが可能であることが確認された。
【0059】
次に、図1に示す本実施形態のアクティブ防音装置1を用意し、フィルタ回路31をOFFにした状態と、フィルタ回路31をONにした状態とで、全周波数で同じ大きさの音をスピーカー9から閉空間部23に出力することにより、LPFの有無による防音ボックス3のプラント特性の違いを測定した。その結果を図4に示す。
【0060】
図4の点線は、フィルタ回路31をOFFにした場合の防音ボックス3のプラント特性を、図4の実線は、フィルタ回路31をONにしてLPFを追加した場合の防音ボックス3のプラント特性を、また、破線は、LPFの特性をそれぞれ示している。図4から、制御対象周波数域である10(Hz)付近〜100(Hz)付近に位相遅れの影響を与えることなく、カットオフ周波数を高い周波数に設定したLPFを用いて、1000(Hz)を超える高い周波数の共振を減衰させることが可能であることが分かった。また、LPFにより減衰された共振に対して、制御対象周波数域である10(Hz)付近〜100(Hz)付近のゲインが大きくなることも確認された。
【0061】
次に、図9に示す、マイクが1つの従来のアクティブ防音装置101と、図1に示す、マイクが2つの本実施形態のアクティブ防音装置1とを用意し、共にフィルタ回路31,131をONにした状態で、全周波数で同じ大きさの音をスピーカー9,109から閉空間部23,123に出力することにより、これらの防音ボックス3,103の消音効果を比較した。その結果を図5に示す。
【0062】
図5の点線は、マイクが1つの従来のフィードバック制御による消音効果を、図5の実線は、本実施形態に係るアクティブ防音装置1による消音効果をそれぞれ示している。なお、図5は、制御を行っていない状態を基準(0(dB))として、制御時の消音効果を示すものであり、マイナス側ほど消音効果が高いことを示している。図5から、マイクが1つの従来のフィードバック制御では、カットオフ周波数が低い周波数に設定されたLPFの影響により、8(Hz)〜60(Hz)でしか消音効果が得られていないことが分かった。これに対して、2つのマイク5,7によって1次の共振を減衰させることにより、LPFのカットオフ周波数を高い周波数に設定可能な本実施形態に係るアクティブ防音装置1では、8(Hz)〜130(Hz)という広い範囲で消音効果が得られることが分かった。これにより、2つのマイク5,7を用いて1次の共振を減衰させるだけでも、制御対象周波数域に位相遅れの影響が生じるのを確実に抑えて、制御対象周波数域を広げることが可能となることが確認された。
【0063】
−効果−
本実施形態によれば、1次音圧モードの定在波の、第1マイク5の設置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に、第2マイク7を配置することから、これら第1及び第2マイク5,7によって集音された音信号を回路上で合成することによって、1次の共振を減衰させることができる。このように、各フィードバックループにおいて1次の共振が減衰されるので、フィードバックループを繰り返す中でゲインが無限大に増幅されて発振状態に陥ることを確実に抑制することができる。
【0064】
また、1次の共振が減衰されるので、1次の共振周波数においてLPFを用いる必要がなくなることから、1次の共振周波数付近でLPFに起因する位相遅れが生じなくなる。したがって、制御対象周波数域に位相遅れの影響が生じるのを確実に抑えて、制御対象周波数域を広げることが可能となる。
【0065】
(実施形態2)
本実施形態は、第3マイク17を用いる点、及び、閉空間部23を区画する面に吸音材53を設けている点が実施形態1と異なるものである。以下、実施形態1と異なる点について説明する。
【0066】
図6は、本実施形態に係るアクティブ防音装置を模式的に示す図である。このアクティブ防音装置1は、上記防音ボックス3、第1及び第2マイク5,7、コントローラ11並びにスピーカー9に加えて、閉空間部23内の音信号を集音する第3マイク(副マイク)17と、底壁部33の上面33a及び仕切壁部43の下面43a以外の、閉空間部23を区画する面、すなわち、アクリル製の本体部13の内周面に取り付けられる吸音材53と、をさらに備えている。
【0067】
吸音材53は、例えば、アルミ不織布やグラスウール、燒結金属などの多孔質材料または穴あき板であり、これを本体部13の内周面に配設することによって、騒音の振動エネルギーを効果的に吸収して、共振の影響を減少させることができる。
【0068】
第3マイク17は、閉空間部23内で且つ当該閉空間部23における上下方向の中央に配置されていて、第1マイク5と第2マイク7との間で、閉空間部23内の音信号を集音するようになっている。そうして、第3マイク17により集音された音信号は、コントローラ11内のマイクプリアンプ71に入力される。
【0069】
コントローラ11は、第1〜第3マイク5,7,17によって集音された音信号をマイクプリアンプ51,61,71で増幅し、かかる増幅された音信号の音圧の合成割合を加算器21で調整して、加算合成された音信号に必要に応じてLPFをかけた後、スピーカードライバー41からスピーカー9に対して電流を出力するようになっている。
【0070】
そうして、本実施形態のアクティブ防音装置1では、消音信号により閉空間部23内に発生する2次音圧モードの定在波の、第1マイク5の設置位置(対向方向の一方側の端部)における位相と逆位相となる位置又はその近傍に、第3マイク17を配置するとともに、1次及び2次の共振を打ち消す(減衰させる)ように、第1マイク5によって集音された音信号と、第2及び第3マイク7,17によって集音された音信号とを回路上で合成し、かかる加算合成された音信号を消音信号とするようにコントローラ11を構成している。
【0071】
具体的には、本実施形態のアクティブ防音装置1では、図7に示すように、閉空間部23内に1波長(1/2波長の2倍の波長)の2次音圧モードの定在波が存在しているところ、第1マイク5がかかる定在波における腹P1の近傍に設置されている一方、第3マイク17がこれと逆位相の腹P3の近傍に設置されている。このように、第3マイク17を設置することにより、第1マイク5が2次音圧モードの定在波における腹P1の近傍における音圧を集音すると、第3マイク17が腹P1とは逆位相の腹P3の近傍における音圧を集音することになる。これにより、第1マイク5によって集音された音信号と、第3マイク17によって集音された音信号と、を回路上で合成すれば、2次の共振があたかも打ち消されるように減衰される。したがって、第1〜第3マイク5,7,17を用いることにより、1次及び2次の共振が減衰された消音信号が、スピーカー9から閉空間部23内に出力されることになる。
【0072】
このように、本実施形態のアクティブ防音装置1では、1次のみならず2次の共振が減衰されるので、1次及び2次の共振周波数においてLPFを用いる必要がなくなることから、LPFのカットオフ周波数をさらに高い周波数に設定することが可能となり、制御対象周波数域をさらに広げることができる。また、このことと、吸音材53による消音効果とが相俟って、制御対象周波数域における消音効果をより一層高めることができる。
【0073】
ここで、1次音圧モードの定在波については、第1マイク5が腹P1の近傍における音圧を、また、第2マイク7が腹P1とは逆位相の腹P2の近傍における音圧を、それぞれ集音する一方、第3マイク17は、1次音圧モードの定在波の節における音圧を集音するので、1次の共振を減衰させる際にかかる第3マイク17による影響はほとんどない。
【0074】
これに対し、2次音圧モードの定在波については、図7に示すように、第1マイク5が腹P1の近傍における音圧を、また、第3マイク17が腹P1とは逆位相の腹P3の近傍における音圧を、それぞれ集音する一方、第2マイク7は、腹P1と同位相の腹P2’の近傍における音圧を集音することになるので、2次の共振を減衰させる際に第2マイク7による影響が生じることになる。しかしながら、コントローラ11は、加算器21によって各信号の合成割合を調整することが可能なので、例えば、第3マイク17により集音された音信号を大きく増幅させることにより、2次の共振を減衰させる際の第2マイク7による影響を小さくして、1次及び2次の共振を減衰させることが可能となっている。
【0075】
次に、本実施形態のアクティブ防音装置1による効果を確認するために行ったシミュレーション実験の結果を説明する。実験は、図6に示す本実施形態のアクティブ防音装置1を用意し、フィルタ回路31をOFFにした状態で、全周波数で同じ大きさの音をスピーカー9から閉空間部23に出力することにより、防音ボックス3のプラント特性を測定した。その結果を図8に示す。
【0076】
図8から、本実施形態のアクティブ防音装置1では、1次のみならず2次の共振が減衰されたことと、吸音材53による消音効果とが相俟って、LPFを用いることなく、400(Hz)付近に生じる共振及び1000(Hz)を超える高い周波数の共振を減衰させることが可能であることが分かった。
【0077】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0078】
上記各実施形態では、断面円形状の閉空間部23を有する略円筒状の防音ボックス3を用いたが、これに限らず、例えば断面矩形状や断面多角形状の閉空間部を有する防音ボックスや直方体状の防音ボックスを用いてもよい。
【0079】
また、上記各実施形態では、一対の対向する面の間(底壁部33の上面33aと仕切壁部43の下面43aとの間)に定在波を発生させるようにしたが、これに限らず、どのような方向に定在波を発生させてもよい。加えて、閉空間部は、定在波が発生するような形状であればよく、少なくとも一対の対向する面によって区画されていなくてもよい。
【0080】
さらに、上記各実施形態では、定在波の方向(定在波の振幅方向と直角方向)と、スピーカー9の出力方向とを一致させたが、これに限らず、定在波の方向に対して、スピーカー9の出力方向を傾けるようにしてもよい。
【0081】
また、上記各実施形態では、防音ボックス3を走査型プローブ顕微鏡19を保護するために用いたが、これに限らず、例えば防音ボックス3を1辺が1m程度の略立方体とし、原子間力顕微鏡(AFM)等の比較的大型の精密機器を保護するために用いてもよい。
【0082】
さらに、上記実施形態2では、3つのマイクを用いることによって、1次及び2次の共振を減衰させるようにしたが、これに限らず、例えば、3次以上の共振を、4つ以上のマイクを用いることによって減衰させてもよい。
【0083】
また、上記実施形態2では、吸音材53として、アルミ不織布やグラスウール、燒結金属などの多孔質材料または穴あき板を例示したが、吸音材53は他の材質でもよい。
【0084】
さらに、上記各実施形態では、各音圧モードの定在波に対して用いるマイクを一対としたが、各音圧モードの定在波の、第1マイク5の配置位置における位相と同位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数と、第1マイク5の配置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数とが同じである限り、マイクを2対以上設けてもよい。
【0085】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、本発明は、閉空間部内に伝播する騒音を消音するようなフィードバック制御を行うアクティブ防音装置等について有用である。
【符号の説明】
【0087】
1 アクティブ防音装置
3 防音ボックス
5 第1マイク(主マイク)
7 第2マイク(副マイク)
9 スピーカー
11 コントローラ(フィードバック制御手段)
17 第3マイク(副マイク)
19 走査型プローブ顕微鏡(機器)
21 加算器
23 閉空間部
33a 底壁部の上面(対向する面)
43a 仕切壁部の下面(対向する面)
53 吸音材
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部の騒音源から発生して防音ボックス内に伝播する騒音を消音するようなフィードバック制御を行うアクティブ防音装置及びアクティブ防音方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、走査型プローブ顕微鏡(SPM)や原子間力顕微鏡(AFM)等の振動を嫌う精密機器を、騒音による音響振動等から保護すべく、様々な試みがなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、プローブ顕微鏡装置全体を防音カバーで覆おうことが開示されている。しかし、精密機器を防音カバーで覆うだけの構成では、防音としては不十分であり、また、カバー外部の騒音源から発生して防音カバー内に伝播した騒音を低減できないという問題がある。
【0004】
そこで、騒音による音響振動等から精密機器を保護すべく、フィードバック制御を用いて騒音を低減する技術が多数提案されている。例えば、特許文献2には、顕微鏡本体部に接近した位置にマイクロフォンを配置し、このマイクロフォンからの音響信号の逆位相の信号を制御回路で作成し、この制御回路から逆位相の信号が供給されるスピーカーからの音波により、顕微鏡本体部の所定位置における音を打ち消すように構成した顕微鏡の振動防止装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−282118号公報
【特許文献2】特開平10−148235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、防音効果を高めるべく、上記特許文献1に記載されるような防音カバー(防音ボックス)と、特許文献2に記載されるようなフィードバック制御とを組み合わせたアクティブ防音装置を用いることが考えられる。しかし、かかるアクティブ防音装置では、防音ボックスの閉空間部内に定在波が生じ、共振周波数において共振が発生することに起因して、以下のような問題が生じる。
【0007】
図9は、精密機器を外部の騒音から保護するためのアクティブ防音装置を模式的に示す図である。このアクティブ防音装置101は、走査型プローブ顕微鏡19を収容するための円柱状の閉空間部123を有する円筒形の防音ボックス103と、当該閉空間部123の筒軸方向一方側(上下方向上側)の端部に配置され、当該閉空間部123内の音信号を集音するマイク105と、当該マイク105によって集音された音信号に基づいて、外部の騒音源から発生して閉空間部123内に伝播する騒音を、消音するような消音信号を生成するコントローラ(フィルタ回路131、スピーカードライバー141、マイクプリアンプ151)111と、閉空間部123の筒軸方向一方側端に配置され、消音信号を閉空間部123内に出力するスピーカー109と、を備えている。なお、このアクティブ防音装置101では、閉空間部123の筒軸方向の長さは500(mm)に設定されている。
【0008】
図10は、このアクティブ防音装置101において、フィルタ回路131をOFFにした状態で、全周波数で同じ大きさの音をスピーカー109から閉空間部123に出力することにより、当該防音ボックス103のプラント特性(伝達率(ゲイン)及び位相)を測定した結果を示す図である。
【0009】
図10から、この防音ボックス103では、400(Hz)付近に1つの大きな共振と、1000(Hz)以上で複数の大きな共振とが生じることが分かる。ここで、位相交点でゲインが0(dB)を超えなければ、その制御系は安定となり、また、ゲインが0(dB)を超えても位相が0度を横切らなければ、制御系は安定となるところ、1000(Hz)以上の共振周波数では、位相交点でゲインが0(dB)を超えているので、フィードバックループを繰り返す中でゲインが無限大に増幅されて発振状態に陥ることになる。
【0010】
そこで、1000(Hz)以上の複数の共振を0(dB)以下に落とす必要があるが、個々の共振を、特定の周波数成分を減衰させるノッチフィルタで減衰させるのは、共振点の数が多いことから現実的ではない。このため、高い周波数成分を抑制する一方低い周波数成分を取り出すローパスフィルタ(以下、LPFともいう)を用いて、これらの共振を減衰させることが考えられる。
【0011】
図11は、フィルタ回路131をONにした状態で、具体的には、カットオフ周波数50(Hz)のLPFを追加して、防音ボックス103のプラント特性を測定した結果を示す図であり、図中の点線はLPFを追加する前のプラント特性を、図中の実線はLPFを追加した後のプラント特性を、また、図中の破線はLPFの特性をそれぞれ示す。図11から分かるように、LPFを用いたことにより、1000(Hz)以上の共振周波数では、位相交点でゲインが0(dB)より小さくなるので、発振状態に陥るおそれはないが、LPFを用いるとカットオフ周波数の前後で位相が90度遅れることから、今度は400(Hz)付近で位相が0度を横切ることになる。
【0012】
そこで、400(Hz)付近における共振に起因して発振状態に陥ることを抑えるために、ノッチフィルタを用いることも考えられるが、帯域の狭いノッチフィルタを共振周波数に合わせるのは困難である。また、図12(a)の点線で示すように、LPFのカットオフ周波数を50(Hz)よりも低くすることや、図12(a)の太線で示すように、LPFをもう一段追加することが考えられるが、図12(b)に示すように、いずれの場合にも、位相がさらに遅れてしまうことから、騒音を消音制御するために必要な周波数域が狭くなるという問題がある。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、閉空間部内に配置されるマイクによって集音された音信号に基づいて、閉空間部内に伝播する騒音を消音するようなフィードバック制御を行うアクティブ防音装置において、簡単な構造で、広い周波数域において消音効果を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明では、閉空間部内に設けられ、且つ、当該閉空間部内に発生する1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の節以外の領域に配置される主マイクの他に、副マイクを当該閉空間部内に設けるとともに、1次又は1次〜n次の共振において、副マイクと主マイクとによってそれぞれ集音される音信号の位相が反転するような位置に、かかる副マイクを配置するようにしている。
【0015】
具体的には、第1の発明は、機器を収容するための閉空間部を有する防音ボックスと、上記閉空間部内に配置され、当該閉空間部内の音信号を集音する主マイクと、上記主マイクによって集音された音信号に基づいて、外部の騒音源から発生して上記閉空間部内に伝播する騒音を、消音するような消音信号を生成するフィードバック制御手段と、上記消音信号を当該閉空間部内に出力するスピーカーと、を備えたアクティブ防音装置を対象とする。
【0016】
そして、上記主マイクは、上記消音信号により上記閉空間部内に発生する、上記1次又は1次〜n次(nは2以上の整数)音圧モードの定在波の節以外の領域に配置されており、上記1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の、上記主マイクの配置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に配置される副マイクをさらに備え、上記フィードバック制御手段は、1次又は1次〜n次の共振を打ち消すように、上記主マイクによって集音された音信号と、上記副マイクによって集音された音信号と、を回路上で合成して上記消音信号とするように構成されていることを特徴とするものである。
【0017】
なお、本発明において、「防音ボックス」とは、閉空間部を有する容器であればよく、略直方体状の閉空間部に限らず、例えば、円筒状や多角形筒状の閉空間部を有するものも含む。
【0018】
第1の発明によれば、外部の騒音源から発生した騒音が閉空間部内に伝播すると、主マイク及び副マイクがかかる騒音を集音するとともに、フィードバック制御手段が、主マイク及び副マイクによって集音された騒音の音信号に基づいて、閉空間部内に伝播する騒音を消音するような消音信号を生成する。そうして、スピーカーがかかる消音信号を閉空間部内に出力することによって、閉空間部内に伝播する騒音が消音される。
【0019】
もっとも、閉空間内で、音信号がスピーカーから常に一定方向に出力されると、かかる閉空間内には定在波が発生し、防音ボックスの特性で決まる共振周波数において共振が発生することになる。このように共振が生じると、共振点の付近では音信号の位相が大幅に遅れて、この音信号を帰還させるようにしたフィードバックループにおいて位相交点が現れることがある。そうして、かかる位相交点においてゲインが0(dB)を超えていると、フィードバックループを繰り返す中でゲインが無限大に増幅されて発振状態に陥るおそれがある。
【0020】
そこで、第1の発明のアクティブ防音装置では、消音信号により閉空間部内に発生する、1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の、主マイクの設置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に、副マイクを配置するようにしている。このように、副マイクを配置することにより、主マイクが例えばn次音圧モードの定在波の腹における音圧を集音すると、副マイクがこれとは逆位相の腹又はその近傍における音圧を集音することになる。故に、主マイクによって集音された音信号と、副マイクによって集音された音信号と、を回路上で合成すれば、n次の共振があたかも打ち消されるように減衰され、かかるn次の共振が減衰された消音信号がスピーカーから閉空間部内に出力されることになる。
【0021】
そうして、スピーカーから閉空間部内に出力された消音信号は、n次の共振が減衰していることを除けば、元の集音信号と同じ信号なので、外部の騒音源から発生して閉空間部内に伝播する騒音を効果的に消音することができる。また、消音信号を出力し続ける限り、閉空間部内には、1次〜n次の共振が常時発生していることになるが、上述の如く、各フィードバックループにおいてn次の共振が減衰されるので、フィードバックループを繰り返す中でゲインが無限大に増幅されて発振状態に陥ることを確実に抑制することができる。
【0022】
このように、第1の発明のアクティブ防音装置では、1次又は1次〜n次の共振が減衰されるので、例えば、1次及び2次の共振を減衰させた場合には、1次及び2次の共振周波数においてLPF等のフィルタを用いる必要がなくなる(必要に応じて3次以上の共振周波数においてのみフィルタを用いればよい)ことから、これらの周波数でフィルタに起因する位相遅れが生じなくなる。したがって、制御に必要な周波数域(以下、制御対象周波数域ともいう)が1次共振周波数よりも低い周波数域に設定されているような場合には、制御対象周波数域に位相遅れの影響が生じるのを確実に抑えて、制御対象周波数域を広げることが可能となる。
【0023】
以上により、第1の発明によれば、閉空間部内に配置されるマイクによって集音された音信号に基づいて、閉空間部内に伝播する騒音を消音するようなフィードバック制御を行うアクティブ防音装置において、簡単な構造で、広い周波数域において消音効果を向上させることが可能となる。
【0024】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記閉空間部は、少なくとも一対の対向する面によって区画され、上記主マイクは、上記一対の面が対向する対向方向の端部に配置され、上記スピーカーは、上記消音信号を、上記閉空間部の対向方向の一方側の端部から他方側の端部に向けて出力するように構成されていることを特徴とするものである。
【0025】
第2の発明では、スピーカーが消音信号を閉空間部の対向方向の一方側の端部から他方側の端部に向けて出力することから、かかる閉空間部には、対向方向の両端部が腹となる、1次〜n次音圧モードの定在波が発生する。そうして、主マイクは対向方向の端部に配置されることから、主マイクを容易に1次〜n次音圧モードの定在波の節以外の領域に配置することができる。
【0026】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、上記主マイク及び副マイクは、各音圧モードの定在波の、上記主マイクの配置位置における位相と同位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数と、上記主マイクの配置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数と、が同じになるように、上記閉空間部内に配置されることを特徴とするものである。
【0027】
第3の発明によれば、各音圧モードの定在波における、主マイクの設置位置(閉空間部の対向方向の端部)の位相と同位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数(主マイクを含む)と、これと逆位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数とが同じになるように、副マイクが配置されるので、換言すると、複数のマイクが、互いに打ち消し合うような音信号を対で集音するので、複雑な音信号の合成割合の調整を要することなく、n次の共振を減衰させることができる。
【0028】
第4の発明は、上記第1〜第3のいずれか1つの発明において、上記フィードバック制御手段は、各マイクで集音された音信号の音圧の合成割合を調整可能な加算器を有していて、1次又は1次〜n次の共振が減衰されるように、各信号の合成割合を調整することを特徴とするものである。
【0029】
第4の発明によれば、1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の主マイクの設置位置における位相と逆位相となる位置に副マイクを設置しなくても、逆位相となる位置の近傍に(位相が反転する位置に)副マイクを設置して、各信号の合成割合を調整することにより、1次又は1次〜n次の共振を確実に減衰させることができる。
【0030】
第5の発明は、上記第1〜第4のいずれか1つの発明において、上記防音ボックスには、上記閉空間部を区画する面に、吸音材が設けられていることを特徴とするものである。
【0031】
第5の発明によれば、第1〜第4の発明による消音効果と、吸音材による消音効果とが相俟って、制御対象周波数域における消音効果をより一層高めることができる。
【0032】
第6の発明は、機器を収容するための閉空間部を有する防音ボックスと、上記閉空間部内に配置され、当該閉空間部内の音信号を集音する主マイク及び少なくとも1つの副マイクと、上記主マイク及び副マイクによって集音された音信号に基づいて、外部の騒音源から発生して上記閉空間部内に伝播する騒音を、消音するような消音信号を生成するフィードバック制御手段と、上記消音信号を当該閉空間部内に出力するスピーカーと、を備えた装置を用意し、上記消音信号により上記閉空間部内に発生する、上記1次又は1次〜n次(nは2以上の整数)音圧モードの定在波の節以外の領域に上記主マイクを配置し、上記1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の、上記主マイクの配置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に上記副マイクを配置し、1次又は1次〜n次の共振を打ち消すように、上記主マイクによって集音された音信号と、上記副マイクによって集音された音信号と、を回路上で合成して上記消音信号とすることを特徴とするアクティブ防音方法である。
【0033】
第6の発明によれば、上記第1の発明と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係るアクティブ防音装置及びアクティブ防音方法によれば、1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の、主マイクの設置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に、副マイクを配置することから、これらの音信号を回路上で合成することによって、1次又は1次〜n次の共振を減衰させることができる。このように、各フィードバックループにおいて1次又は1次〜n次の共振が減衰されるので、フィードバックループを繰り返す中でゲインが無限大に増幅されて発振状態に陥ることを確実に抑制することができる。
【0035】
また、1次又は1次〜n次の共振が減衰されるので、1次又は1次〜n次の共振周波数においてフィルタを用いる必要がなくなることから、これらの周波数でフィルタに起因する位相遅れが生じなくなる。したがって、制御対象周波数域に位相遅れの影響が生じるのを確実に抑えて、制御対象周波数域を広げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施形態1に係るアクティブ防音装置を模式的に示す図である。
【図2】防音ボックス内に生じる1次音圧モードの定在波を模式的に示す図である。
【図3】防音ボックスのプラント特性を示す図であり、同図(a)はゲイン特性を示し、同図(b)は位相特性を示す図である。
【図4】防音ボックスのプラント特性を示す図であり、同図(a)はゲイン特性を示し、同図(b)は位相特性を示す図である。
【図5】アクティブ防音装置による消音効果を示す図である。
【図6】実施形態2に係るアクティブ防音装置を模式的に示す図である。
【図7】防音ボックス内に生じる2次音圧モードの定在波を模式的に示す図である。
【図8】防音ボックスのプラント特性を示す図であり、同図(a)はゲイン特性を示し、同図(b)は位相特性を示す図である。
【図9】従来のアクティブ防音装置を模式的に示す図である。
【図10】従来の防音ボックスのプラント特性を示す図であり、同図(a)はゲイン特性を示し、同図(b)は位相特性を示す図である。
【図11】従来の防音ボックスのプラント特性を示す図であり、同図(a)はゲイン特性を示し、同図(b)は位相特性を示す図である。
【図12】LPFの特性を示す図であり、同図(a)はゲイン特性を示し、同図(b)は位相特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0038】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係るアクティブ防音装置を模式的に示す図である。このアクティブ防音装置1は、振動を嫌う精密機器(本実施形態では走査型プローブ顕微鏡)19を、騒音による音響振動等から保護するためのものであり、走査型プローブ顕微鏡19を収容するための閉空間部23を有する防音ボックス3と、当該閉空間部23内の音信号を集音する第1マイク(主マイク)5及び第2マイク(副マイク)7と、当該閉空間部23内に伝播する騒音を消音するような消音信号を生成するコントローラ(フィードバック制御手段)11と、かかる消音信号を当該閉空間部23内に出力するスピーカー9と、を備えている。なお、本実施形態のアクティブ防音装置1では、制御対象周波数域が10(Hz)付近〜100(Hz)付近に想定されている。
【0039】
防音ボックス3は、図1に示すように、略円筒状に形成されており、有頂筒状に形成されたアクリル製の本体部13と、本体部13の下端部の内周面に取り付けられるアルミ製の底壁部33と、本体部13の上端部の内周面に取り付けられる、略円盤状のアルミ製の仕切壁部43と、を有している。このように、仕切壁部43を本体部13の上端部の内周面に取り付け、且つ、本体部13の解放端を底壁部33で閉じることにより、かかる防音ボックス3には、本体部13の内周面と、底壁部33の上面33a及び仕切壁部43の下面43a(一対の対向する面)とによって区画される閉空間部23が形成されている。なお、本実施形態では、底壁部33の上面33aと仕切壁部43の下面43aとの間隔、すなわち、閉空間部23の筒軸方向の長さは、500(mm)に設定されている。
【0040】
そうして、走査型プローブ顕微鏡19をこの閉空間部23に収容することで、本実施形態に係るアクティブ防音装置1では、当該走査型プローブ顕微鏡19を、外部の騒音による音響振動等からある程度保護することが可能となっている。なお、本実施形態では、底壁部33の上面33a及び仕切壁部43の下面43a(一対の面)が対向する対向方向(筒軸方向)と、上下方向が一致することから、以下、対向方向を上下方向として説明する。
【0041】
第1マイク5は、閉空間部23内で且つ当該閉空間部23における上下方向の上側の端部に配置されており、スピーカー9の近傍で当該閉空間部23内の音信号を集音するようになっている。そうして、この第1マイク5により集音された音信号は、コントローラ11内のマイクプリアンプ51に入力される。
【0042】
第2マイク7は、第1マイク5と同様に、閉空間部23内に配置されており、第1マイク5とは異なる位置で当該閉空間部23内の音信号を集音するようになっている。そうして、この第2マイク7により集音された音信号は、コントローラ11内のマイクプリアンプ61に入力される。
【0043】
スピーカー9は、閉空間部23内で且つ当該閉空間部23における上下方向の上端に、より具体的には、仕切壁部43の中央部に埋め込まれるように配置されている。このスピーカー9は、コントローラ11内のスピーカードライバー41から入力された電流に応じて、消音信号を当該閉空間部23内に上下方向上側端から下側端に向けて出力する。
【0044】
コントローラ11は、第1及び第2マイク5,7によって集音された音信号を増幅するためのマイクプリアンプ51,61と、各マイク5,7で集音された音信号の音圧の合成割合を調整可能な加算器21と、加算合成された音信号にローパスフィルタ(LPF)をかけるか否かを選択可能であり且つLPFをかける際のカットオフ周波数を設定可能なフィルタ回路31と、電圧信号の形で入力される音信号を電流に変換してスピーカー9に出力するスピーカードライバー41とを、有している。そうして、このコントローラ11は、第1及び第2マイク5,7によって集音された音信号に基づいて、外部の騒音源(図示せず)から発生して閉空間部23内に伝播する騒音を、消音するような消音信号を生成するように構成されている。
【0045】
具体的には、コントローラ11は、第1及び第2マイク5,7によって集音された音信号をマイクプリアンプ51,61で増幅し、かかる増幅された音信号の音圧の合成割合を加算器21で調整して、加算合成された音信号に必要に応じてLPFをかけた後、スピーカードライバー41からスピーカー9に対して電流を出力することによって、閉空間部23内に伝播する騒音を消音するような、例えば、騒音と逆位相且つ同振幅の消音信号を出力するように構成されている。
【0046】
以上の構成により、本実施形態のアクティブ防音装置1によれば、走査型プローブ顕微鏡19を防音ボックス3の閉空間部23に収容するとともに、アクリル製の本体部13を通過して閉空間部23内に伝播する騒音を、コントローラ11で生成されスピーカー9から出力される消音信号によって減衰させることにより、騒音による音響振動等から走査型プローブ顕微鏡19を保護することができる。
【0047】
ところで、閉空間部23内には、消音信号が常に上側端から下側端に向けてスピーカー9から出力されることから、閉空間部23内にはかかる消音信号に起因して定在波が発生している。このため、当該閉空間部23内には、防音ボックス3の上下方向長さで決まる共振周波数において共振が発生することになる。
【0048】
ここで、本実施形態のアクティブ防音装置1では、閉空間部23の上下方向の長さが、上記図9に示した従来のアクティブ防音装置101と同様に500(mm)に設定されていることから、従来のアクティブ防音装置101と同様に第1マイク5しか用いない場合には、防音ボックス3内には、400(Hz)付近に1つの大きな共振と、1000(Hz)以上で複数の大きな共振とが生じることになる(図10参照)。そうして、1000(Hz)以上の共振周波数では、位相交点でゲインが0(dB)を超えているので、フィードバックループを繰り返す中でゲインが無限大に増幅されて発振状態に陥ることになる。
【0049】
このため、1000(Hz)以上の複数の共振を0(dB)以下に落とす必要があるが、LPFを用いてこれらの共振を減衰させると、上記図11に示すように、1000(Hz)以上の共振周波数では、位相交点でゲインが0(dB)以下となるものの、LPFのカットオフ周波数の前後で位相が90度遅れることから、今度は400(Hz)付近で位相が0度を横切ることになる。
【0050】
そこで、400(Hz)付近における共振に起因して発振状態に陥ることを抑えるために、ノッチフィルタを用いることやLPFを用いることが考えられるが、帯域の狭いノッチフィルタを共振周波数に合わせるのは困難であるし、また、LPFを用いると、位相がさらに遅れてしまうため、騒音を消音制御するために必要な周波数域である制御対象周波数域が狭くなるという問題がある。
【0051】
そこで、本実施形態のアクティブ防音装置1では、消音信号により閉空間部23内に発生する1次音圧モードの定在波の、第1マイク5の設置位置(対向方向の一方側の端部)における位相と逆位相となる位置又はその近傍に、第2マイク7を配置するとともに、1次の共振を打ち消す(減衰させる)ように、第1マイク5によって集音された音信号と、第2マイク7によって集音された音信号とを回路上で合成し、かかる加算合成された音信号を消音信号とするようにコントローラ11を構成している。
【0052】
具体的には、本実施形態のアクティブ防音装置1では、図2に示すように、閉空間部23内に1/2波長の1次音圧モードの定在波が存在しているところ、第1マイク5がかかる定在波における腹P1の近傍に設置されている一方、第2マイク7が腹P1と逆位相の腹P2の近傍に設置されている。このように、第2マイク7を設置することにより、第1マイク5が1次音圧モードの定在波における腹P1の近傍における音圧を集音すると、第2マイク7が腹P1とは逆位相の腹P2の近傍における音圧を集音することになる。これにより、第1マイク5によって集音された音信号と、第2マイク7によって集音された音信号と、を回路上で合成すれば、1次の共振があたかも打ち消されるように減衰され、かかる1次の共振が減衰された消音信号が、スピーカー9から閉空間部23内に出力される。
【0053】
このように、本実施形態のアクティブ防音装置1では、1次の共振が減衰されるので、1次の共振周波数においてLPFを用いる必要がなくなることから、換言すると、必要に応じて2次以上の共振周波数においてのみLPFを用いればよいことから、低い周波数域でフィルタに起因する位相遅れが生じなくなる。したがって、制御対象周波数域である10(Hz)付近〜100(Hz)付近で位相遅れの影響が生じるのを確実に抑えて、制御対象周波数域を広げることが可能となる。
【0054】
なお、第1及び第2マイク5,7を設置する際に設置誤差が生じることや、図2に示す模式図とは異なり、実際には閉空間部23内に走査型プローブ顕微鏡19が配置されていることから、第1マイク5の設置位置における位相と、第2マイク7の設置位置における位相とが、反転はしているものの逆位相とならない場合があるが、コントローラ11は、各マイクで集音された音信号の音圧の合成割合を調整可能な加算器21を有していて、1次又は1次〜n次の共振が減衰されるように、各信号の合成割合を調整することが可能なので、逆位相となる位置の近傍に第2マイク7を設置した場合にも、1次の共振を確実に減衰させることができる。
【0055】
そうして、スピーカー9から閉空間部23内に出力された消音信号は、1次の共振が減衰していることを除けば、元の集音信号と同じ信号なので、外部の騒音源から発生して閉空間部23内に伝播する騒音を効果的に消音することができる。また、消音信号を出力し続ける限り、閉空間部23内には、1次の共振が常時発生していることになるが、上述の如く、各フィードバックループにおいて1次の共振が減衰されるので、フィードバックループを繰り返す中でゲインが無限大に増幅されて発振状態に陥ることを確実に抑制することができる。
【0056】
次に、本実施形態のアクティブ防音装置1による効果を確認するために行ったシミュレーション実験の結果を説明する。
【0057】
先ず、図9に示す、マイクが1つの従来のアクティブ防音装置101と、図1に示す、マイクが2つの本実施形態のアクティブ防音装置1とを用意し、共にフィルタ回路31,131をOFFにした状態で、全周波数で同じ大きさの音をスピーカー9,109から閉空間部23,123に出力することにより、これらの防音ボックス3,103のプラント特性(ゲイン及び位相)を比較した。その結果を図3に示す。
【0058】
図3の点線は、マイクが1つの防音ボックス103のプラント特性を、図3の実線は、本実施形態に係るマイクが2つの防音ボックス3のプラント特性をそれぞれ示している。図3から、マイクが1つの防音ボックス103において400(Hz)付近に生じていた1次の共振が、本実施形態に係る防音ボックス3では消えている(減衰されている)ことが分かった。これにより、第1マイク5の設置位置における位相と逆位相となる位置(又はその近傍)に、第2マイク7を配置するとともに、これら第1及び第2マイク5,7によって集音された音信号を回路上で合成することにより、LPFを用いなくても1次の共振を減衰させることが可能であることが確認された。
【0059】
次に、図1に示す本実施形態のアクティブ防音装置1を用意し、フィルタ回路31をOFFにした状態と、フィルタ回路31をONにした状態とで、全周波数で同じ大きさの音をスピーカー9から閉空間部23に出力することにより、LPFの有無による防音ボックス3のプラント特性の違いを測定した。その結果を図4に示す。
【0060】
図4の点線は、フィルタ回路31をOFFにした場合の防音ボックス3のプラント特性を、図4の実線は、フィルタ回路31をONにしてLPFを追加した場合の防音ボックス3のプラント特性を、また、破線は、LPFの特性をそれぞれ示している。図4から、制御対象周波数域である10(Hz)付近〜100(Hz)付近に位相遅れの影響を与えることなく、カットオフ周波数を高い周波数に設定したLPFを用いて、1000(Hz)を超える高い周波数の共振を減衰させることが可能であることが分かった。また、LPFにより減衰された共振に対して、制御対象周波数域である10(Hz)付近〜100(Hz)付近のゲインが大きくなることも確認された。
【0061】
次に、図9に示す、マイクが1つの従来のアクティブ防音装置101と、図1に示す、マイクが2つの本実施形態のアクティブ防音装置1とを用意し、共にフィルタ回路31,131をONにした状態で、全周波数で同じ大きさの音をスピーカー9,109から閉空間部23,123に出力することにより、これらの防音ボックス3,103の消音効果を比較した。その結果を図5に示す。
【0062】
図5の点線は、マイクが1つの従来のフィードバック制御による消音効果を、図5の実線は、本実施形態に係るアクティブ防音装置1による消音効果をそれぞれ示している。なお、図5は、制御を行っていない状態を基準(0(dB))として、制御時の消音効果を示すものであり、マイナス側ほど消音効果が高いことを示している。図5から、マイクが1つの従来のフィードバック制御では、カットオフ周波数が低い周波数に設定されたLPFの影響により、8(Hz)〜60(Hz)でしか消音効果が得られていないことが分かった。これに対して、2つのマイク5,7によって1次の共振を減衰させることにより、LPFのカットオフ周波数を高い周波数に設定可能な本実施形態に係るアクティブ防音装置1では、8(Hz)〜130(Hz)という広い範囲で消音効果が得られることが分かった。これにより、2つのマイク5,7を用いて1次の共振を減衰させるだけでも、制御対象周波数域に位相遅れの影響が生じるのを確実に抑えて、制御対象周波数域を広げることが可能となることが確認された。
【0063】
−効果−
本実施形態によれば、1次音圧モードの定在波の、第1マイク5の設置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に、第2マイク7を配置することから、これら第1及び第2マイク5,7によって集音された音信号を回路上で合成することによって、1次の共振を減衰させることができる。このように、各フィードバックループにおいて1次の共振が減衰されるので、フィードバックループを繰り返す中でゲインが無限大に増幅されて発振状態に陥ることを確実に抑制することができる。
【0064】
また、1次の共振が減衰されるので、1次の共振周波数においてLPFを用いる必要がなくなることから、1次の共振周波数付近でLPFに起因する位相遅れが生じなくなる。したがって、制御対象周波数域に位相遅れの影響が生じるのを確実に抑えて、制御対象周波数域を広げることが可能となる。
【0065】
(実施形態2)
本実施形態は、第3マイク17を用いる点、及び、閉空間部23を区画する面に吸音材53を設けている点が実施形態1と異なるものである。以下、実施形態1と異なる点について説明する。
【0066】
図6は、本実施形態に係るアクティブ防音装置を模式的に示す図である。このアクティブ防音装置1は、上記防音ボックス3、第1及び第2マイク5,7、コントローラ11並びにスピーカー9に加えて、閉空間部23内の音信号を集音する第3マイク(副マイク)17と、底壁部33の上面33a及び仕切壁部43の下面43a以外の、閉空間部23を区画する面、すなわち、アクリル製の本体部13の内周面に取り付けられる吸音材53と、をさらに備えている。
【0067】
吸音材53は、例えば、アルミ不織布やグラスウール、燒結金属などの多孔質材料または穴あき板であり、これを本体部13の内周面に配設することによって、騒音の振動エネルギーを効果的に吸収して、共振の影響を減少させることができる。
【0068】
第3マイク17は、閉空間部23内で且つ当該閉空間部23における上下方向の中央に配置されていて、第1マイク5と第2マイク7との間で、閉空間部23内の音信号を集音するようになっている。そうして、第3マイク17により集音された音信号は、コントローラ11内のマイクプリアンプ71に入力される。
【0069】
コントローラ11は、第1〜第3マイク5,7,17によって集音された音信号をマイクプリアンプ51,61,71で増幅し、かかる増幅された音信号の音圧の合成割合を加算器21で調整して、加算合成された音信号に必要に応じてLPFをかけた後、スピーカードライバー41からスピーカー9に対して電流を出力するようになっている。
【0070】
そうして、本実施形態のアクティブ防音装置1では、消音信号により閉空間部23内に発生する2次音圧モードの定在波の、第1マイク5の設置位置(対向方向の一方側の端部)における位相と逆位相となる位置又はその近傍に、第3マイク17を配置するとともに、1次及び2次の共振を打ち消す(減衰させる)ように、第1マイク5によって集音された音信号と、第2及び第3マイク7,17によって集音された音信号とを回路上で合成し、かかる加算合成された音信号を消音信号とするようにコントローラ11を構成している。
【0071】
具体的には、本実施形態のアクティブ防音装置1では、図7に示すように、閉空間部23内に1波長(1/2波長の2倍の波長)の2次音圧モードの定在波が存在しているところ、第1マイク5がかかる定在波における腹P1の近傍に設置されている一方、第3マイク17がこれと逆位相の腹P3の近傍に設置されている。このように、第3マイク17を設置することにより、第1マイク5が2次音圧モードの定在波における腹P1の近傍における音圧を集音すると、第3マイク17が腹P1とは逆位相の腹P3の近傍における音圧を集音することになる。これにより、第1マイク5によって集音された音信号と、第3マイク17によって集音された音信号と、を回路上で合成すれば、2次の共振があたかも打ち消されるように減衰される。したがって、第1〜第3マイク5,7,17を用いることにより、1次及び2次の共振が減衰された消音信号が、スピーカー9から閉空間部23内に出力されることになる。
【0072】
このように、本実施形態のアクティブ防音装置1では、1次のみならず2次の共振が減衰されるので、1次及び2次の共振周波数においてLPFを用いる必要がなくなることから、LPFのカットオフ周波数をさらに高い周波数に設定することが可能となり、制御対象周波数域をさらに広げることができる。また、このことと、吸音材53による消音効果とが相俟って、制御対象周波数域における消音効果をより一層高めることができる。
【0073】
ここで、1次音圧モードの定在波については、第1マイク5が腹P1の近傍における音圧を、また、第2マイク7が腹P1とは逆位相の腹P2の近傍における音圧を、それぞれ集音する一方、第3マイク17は、1次音圧モードの定在波の節における音圧を集音するので、1次の共振を減衰させる際にかかる第3マイク17による影響はほとんどない。
【0074】
これに対し、2次音圧モードの定在波については、図7に示すように、第1マイク5が腹P1の近傍における音圧を、また、第3マイク17が腹P1とは逆位相の腹P3の近傍における音圧を、それぞれ集音する一方、第2マイク7は、腹P1と同位相の腹P2’の近傍における音圧を集音することになるので、2次の共振を減衰させる際に第2マイク7による影響が生じることになる。しかしながら、コントローラ11は、加算器21によって各信号の合成割合を調整することが可能なので、例えば、第3マイク17により集音された音信号を大きく増幅させることにより、2次の共振を減衰させる際の第2マイク7による影響を小さくして、1次及び2次の共振を減衰させることが可能となっている。
【0075】
次に、本実施形態のアクティブ防音装置1による効果を確認するために行ったシミュレーション実験の結果を説明する。実験は、図6に示す本実施形態のアクティブ防音装置1を用意し、フィルタ回路31をOFFにした状態で、全周波数で同じ大きさの音をスピーカー9から閉空間部23に出力することにより、防音ボックス3のプラント特性を測定した。その結果を図8に示す。
【0076】
図8から、本実施形態のアクティブ防音装置1では、1次のみならず2次の共振が減衰されたことと、吸音材53による消音効果とが相俟って、LPFを用いることなく、400(Hz)付近に生じる共振及び1000(Hz)を超える高い周波数の共振を減衰させることが可能であることが分かった。
【0077】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0078】
上記各実施形態では、断面円形状の閉空間部23を有する略円筒状の防音ボックス3を用いたが、これに限らず、例えば断面矩形状や断面多角形状の閉空間部を有する防音ボックスや直方体状の防音ボックスを用いてもよい。
【0079】
また、上記各実施形態では、一対の対向する面の間(底壁部33の上面33aと仕切壁部43の下面43aとの間)に定在波を発生させるようにしたが、これに限らず、どのような方向に定在波を発生させてもよい。加えて、閉空間部は、定在波が発生するような形状であればよく、少なくとも一対の対向する面によって区画されていなくてもよい。
【0080】
さらに、上記各実施形態では、定在波の方向(定在波の振幅方向と直角方向)と、スピーカー9の出力方向とを一致させたが、これに限らず、定在波の方向に対して、スピーカー9の出力方向を傾けるようにしてもよい。
【0081】
また、上記各実施形態では、防音ボックス3を走査型プローブ顕微鏡19を保護するために用いたが、これに限らず、例えば防音ボックス3を1辺が1m程度の略立方体とし、原子間力顕微鏡(AFM)等の比較的大型の精密機器を保護するために用いてもよい。
【0082】
さらに、上記実施形態2では、3つのマイクを用いることによって、1次及び2次の共振を減衰させるようにしたが、これに限らず、例えば、3次以上の共振を、4つ以上のマイクを用いることによって減衰させてもよい。
【0083】
また、上記実施形態2では、吸音材53として、アルミ不織布やグラスウール、燒結金属などの多孔質材料または穴あき板を例示したが、吸音材53は他の材質でもよい。
【0084】
さらに、上記各実施形態では、各音圧モードの定在波に対して用いるマイクを一対としたが、各音圧モードの定在波の、第1マイク5の配置位置における位相と同位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数と、第1マイク5の配置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数とが同じである限り、マイクを2対以上設けてもよい。
【0085】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、本発明は、閉空間部内に伝播する騒音を消音するようなフィードバック制御を行うアクティブ防音装置等について有用である。
【符号の説明】
【0087】
1 アクティブ防音装置
3 防音ボックス
5 第1マイク(主マイク)
7 第2マイク(副マイク)
9 スピーカー
11 コントローラ(フィードバック制御手段)
17 第3マイク(副マイク)
19 走査型プローブ顕微鏡(機器)
21 加算器
23 閉空間部
33a 底壁部の上面(対向する面)
43a 仕切壁部の下面(対向する面)
53 吸音材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器を収容するための閉空間部を有する防音ボックスと、
上記閉空間部内に配置され、当該閉空間部内の音信号を集音する主マイクと、
上記主マイクによって集音された音信号に基づいて、外部の騒音源から発生して上記閉空間部内に伝播する騒音を、消音するような消音信号を生成するフィードバック制御手段と、
上記消音信号を当該閉空間部内に出力するスピーカーと、を備えたアクティブ防音装置であって、
上記主マイクは、上記消音信号により上記閉空間部内に発生する、上記1次又は1次〜n次(nは2以上の整数)音圧モードの定在波の節以外の領域に配置されており、
上記1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の、上記主マイクの配置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に配置される副マイクをさらに備え、
上記フィードバック制御手段は、1次又は1次〜n次の共振を打ち消すように、上記主マイクによって集音された音信号と、上記副マイクによって集音された音信号と、を回路上で合成して上記消音信号とするように構成されていることを特徴とするアクティブ防音装置。
【請求項2】
請求項1記載のアクティブ防音装置において、
上記閉空間部は、少なくとも一対の対向する面によって区画され、
上記主マイクは、上記一対の面が対向する対向方向の端部に配置され、
上記スピーカーは、上記消音信号を、上記閉空間部の対向方向の一方側の端部から他方側の端部に向けて出力するように構成されていることを特徴とするアクティブ防音装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のアクティブ防音装置において、
上記主マイク及び副マイクは、各音圧モードの定在波の、上記主マイクの配置位置における位相と同位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数と、上記主マイクの配置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数と、が同じになるように、上記閉空間部内に配置されることを特徴とするアクティブ防音装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のアクティブ防音装置において、
上記フィードバック制御手段は、各マイクで集音された音信号の音圧の合成割合を調整可能な加算器を有していて、1次又は1次〜n次の共振が減衰されるように、各信号の合成割合を調整することを特徴とするアクティブ防音装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のアクティブ防音装置において、
上記防音ボックスには、上記閉空間部を区画する面に、吸音材が設けられていることを特徴とするアクティブ防音装置。
【請求項6】
機器を収容するための閉空間部を有する防音ボックスと、
上記閉空間部内に配置され、当該閉空間部内の音信号を集音する主マイク及び少なくとも1つの副マイクと、
上記主マイク及び副マイクによって集音された音信号に基づいて、外部の騒音源から発生して上記閉空間部内に伝播する騒音を、消音するような消音信号を生成するフィードバック制御手段と、
上記消音信号を当該閉空間部内に出力するスピーカーと、を備えた装置を用意し、
上記消音信号により上記閉空間部内に発生する、上記1次又は1次〜n次(nは2以上の整数)音圧モードの定在波の節以外の領域に上記主マイクを配置し、
上記1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の、上記主マイクの配置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に上記副マイクを配置し、
1次又は1次〜n次の共振を打ち消すように、上記主マイクによって集音された音信号と、上記副マイクによって集音された音信号と、を回路上で合成して上記消音信号とすることを特徴とするアクティブ防音方法。
【請求項1】
機器を収容するための閉空間部を有する防音ボックスと、
上記閉空間部内に配置され、当該閉空間部内の音信号を集音する主マイクと、
上記主マイクによって集音された音信号に基づいて、外部の騒音源から発生して上記閉空間部内に伝播する騒音を、消音するような消音信号を生成するフィードバック制御手段と、
上記消音信号を当該閉空間部内に出力するスピーカーと、を備えたアクティブ防音装置であって、
上記主マイクは、上記消音信号により上記閉空間部内に発生する、上記1次又は1次〜n次(nは2以上の整数)音圧モードの定在波の節以外の領域に配置されており、
上記1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の、上記主マイクの配置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に配置される副マイクをさらに備え、
上記フィードバック制御手段は、1次又は1次〜n次の共振を打ち消すように、上記主マイクによって集音された音信号と、上記副マイクによって集音された音信号と、を回路上で合成して上記消音信号とするように構成されていることを特徴とするアクティブ防音装置。
【請求項2】
請求項1記載のアクティブ防音装置において、
上記閉空間部は、少なくとも一対の対向する面によって区画され、
上記主マイクは、上記一対の面が対向する対向方向の端部に配置され、
上記スピーカーは、上記消音信号を、上記閉空間部の対向方向の一方側の端部から他方側の端部に向けて出力するように構成されていることを特徴とするアクティブ防音装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のアクティブ防音装置において、
上記主マイク及び副マイクは、各音圧モードの定在波の、上記主マイクの配置位置における位相と同位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数と、上記主マイクの配置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に配置されるマイクの数と、が同じになるように、上記閉空間部内に配置されることを特徴とするアクティブ防音装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のアクティブ防音装置において、
上記フィードバック制御手段は、各マイクで集音された音信号の音圧の合成割合を調整可能な加算器を有していて、1次又は1次〜n次の共振が減衰されるように、各信号の合成割合を調整することを特徴とするアクティブ防音装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のアクティブ防音装置において、
上記防音ボックスには、上記閉空間部を区画する面に、吸音材が設けられていることを特徴とするアクティブ防音装置。
【請求項6】
機器を収容するための閉空間部を有する防音ボックスと、
上記閉空間部内に配置され、当該閉空間部内の音信号を集音する主マイク及び少なくとも1つの副マイクと、
上記主マイク及び副マイクによって集音された音信号に基づいて、外部の騒音源から発生して上記閉空間部内に伝播する騒音を、消音するような消音信号を生成するフィードバック制御手段と、
上記消音信号を当該閉空間部内に出力するスピーカーと、を備えた装置を用意し、
上記消音信号により上記閉空間部内に発生する、上記1次又は1次〜n次(nは2以上の整数)音圧モードの定在波の節以外の領域に上記主マイクを配置し、
上記1次又は1次〜n次音圧モードの定在波の、上記主マイクの配置位置における位相と逆位相となる位置又はその近傍に上記副マイクを配置し、
1次又は1次〜n次の共振を打ち消すように、上記主マイクによって集音された音信号と、上記副マイクによって集音された音信号と、を回路上で合成して上記消音信号とすることを特徴とするアクティブ防音方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−118135(P2012−118135A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265590(P2010−265590)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】
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