説明

アクリル共重合体の製造方法

【課題】製造時の重合速度が制御され、除熱が容易で、任意の分子量を有するアクリル共重合体を製造する方法であり、該アクリル共重合体は、そのままで、あるいはさらに高分子反応により変性しウレタン硬化性、ラジカル硬化性、エポキシ硬化性などを有する塗料、ハードコート、感光性樹脂、接着剤、粘着剤等に好適に使用することができる。
【解決手段】α−メチルスチレンダイマー


1.0モルに対して重合開始剤を0.100〜1.0モル使用し、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート等のアクリル単量体をラジカル共重合するアクリル共重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造時の除熱が容易で、暴走反応や爆発の危険が払拭されたアクリル共重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂はその原料となるアクリル単量体の種類が豊富で付着性、接着性、硬度、透明性、耐光性、耐候性、耐薬品性等の物理的性質、化学的性質を随意にコントロールできることから、ディスプレイ、レンズなどの光学用塗、光学フィルム用途、これらに使用する粘・接着剤用途、塗料、シーリング材、紙力増強剤、歯科材料、航空機や自動車部材の接着剤等、幅広く応用され、用いられている。
【0003】
アクリル樹脂は、一般に重合時の発熱が大きく、また重合が進むにつれ高粘度となるため、工業的には水や有機溶媒を媒体とする溶液重合や乳化重合、懸濁重合などの除熱が比較的容易な方法で製造されることが多い。また、鋳込み等特殊な用途で使用される場合には部分重合したシロップとして使用されることもある。
【0004】
アクリル単量体を無溶剤下に、熱によるラジカル重合の場合でも、反応系内の除熱を容易に制御できるアクリル部分重合体の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。無溶剤下にラジカル重合を行うといいながらも、特許文献1に提案されている技術は、アクリル単量体と相溶し、かつ重合阻害性の少ない、例えば、アルコール変性ジシクロペンタジエン樹脂の水素化物、テトラヒドロアビエチン酸型骨格を持つロジン成分を40重量%以上含有するロジン、当該ロジンの誘導体、粘着付与樹脂の存在下にアクリル単量体を重合するものであり、純粋なアクリル樹脂、部分重合アクリル樹脂を得るという目的にはふさわしくない技術である。したがって、製造されたアクリル樹脂も粘着剤等に用途が限定されてしまう。
【0005】
また、特許文献1では、アクリル単量体の種類は特に限定せずとしているが、実質上は前記粘着付与樹脂との相溶性で制約を受けるのは必至であり、かつ製造されるアクリル樹脂も物理的性質、化学的性質をよりレベルアップしていく段階では同様に粘着付与樹脂の存在がブレーキをかけることは容易に推察される。
【0006】
フラットパネルディスプレイ(FPD)用粘着剤、および周辺部材を含めたフラットパネルディスプレイ(FPD)用光学フィルタが提案されている(特許文献2参照)。特許文献2に提案されている粘着剤は部分重合アクリル樹脂であり、かつ提案されている部分重合アクリル樹脂は、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−ブチル等の柔軟な成分を主とするアクリル共重合体と未反応で残るこれらのアクリル単量体、反応性希釈剤としてのその他のアクリル単量体とを含む、アクリル共重合体そのものは少なくとも紫外線照射、加熱などの処理により化学反応、架橋反応を起こさないものである。特許文献2で提案されている技術は、アクリル共重合体の分子量を適切な大きさに設定すれば粘着作業を行った当初は間違いなく粘着性、リワーク粘着性は発揮されるものと推察される。一方で、粘着性を優先させるあまり、柔軟なアクリル単量体を主成分とし、かつアクリル共重合体を非架橋ポリマーとしているために、耐光性が劣悪であり、耐湿熱性、経時での粘着力保持性が実用に満たないことが同時に、容易に推察される。
【特許文献1】特開2003−128714号公報
【特許文献2】特開2007−94191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、製造時の重合速度が制御され、除熱が容易で、任意の分子量を有するアクリル共重合体を製造する方法である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記構造式のα−メチルスチレンダイマー
【0009】
【化1】

【0010】
1.0モルに対して重合開始剤を0.100〜1.0モル使用し、下記構造式のアクリル単量体
【0011】
【化2】

【0012】
(ここで、R1は水素原子またはメチル基、R2は水素原子、炭素原子数2〜12個のアルキル基、または、アルキル基の炭素原子数2〜6個のヒドロキシアルキル基、または、アルキル基の炭素原子数2〜6個のメトキシアルキル基を表す。)
を含むアクリル単量体をラジカル共重合するアクリル共重合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、急激な重合反応の進行と暴走反応に至る過程の回避とこれの制御、攪拌、除熱を含む安全、防災上の課題を解決できる。
【0014】
本発明のアクリル共重合体の製造方法で製造されるアクリル共重合体は、そのままで、あるいはさらに高分子反応により変性しウレタン硬化性、ラジカル硬化性、エポキシ硬化性などを有する塗料、ハードコート、感光性樹脂、接着剤、粘着剤等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、下記構造式のα−メチルスチレンダイマー
【0016】
【化3】

【0017】
1.0モルに対して重合開始剤を0.100〜1.0モル使用し、下記構造式のアクリル単量体
【0018】
【化4】

【0019】
(ここで、R1は、水素原子またはメチル基、R2は、水素原子、炭素原子数2〜12個のアルキル基、または、アルキル基の炭素原子数2〜6個のヒドロキシアルキル基、または、アルキル基の炭素原子数2〜6個のメトキシアルキル基を表す。)
を含むアクリル単量体をラジカル共重合するアクリル共重合体の製造方法である。
【0020】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、 本発明は、下記構造式のα−メチルスチレンダイマー
【0021】
【化5】

【0022】
を使用する。
【0023】
α−メチルスチレンダイマー(=2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン)は、例えば、五井化成(株)、本州化学工業(株)、旭化成ファインケム(株)などで製造され、上市されているものを任意に選択し、使用することができる。
【0024】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、α−メチルスチレンダイマーは、本発明でラジカル共重合される下記構造式のアクリル単量体
【0025】
【化6】

【0026】
(ここで、R1は水素原子またはメチル基、R2は水素原子、炭素原子数2〜12個のアルキル基、または、アルキル基の炭素原子数2〜6個のヒドロキシアルキル基、または、アルキル基の炭素原子数2〜6個のメトキシアルキル基を表す。)
を含むアクリル単量体の合計量100重量部に対して、好ましくは、0.2〜30重量部、より好ましくは、0.5〜28重量部、さらに好ましくは、0.5〜25重量部使用されるのが望ましい。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、α−メチルスチレンダイマーの使用量が0.2〜30重量部のとき、アクリル共重合体の分子量調節、製造時の重合制御が容易となり推奨される。
【0027】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、α−メチルスチレンダイマーと重合開始剤は、α−メチルスチレンダイマーの使用量を1モルとしたとき、重合開始剤は、0.100〜1.0モル使用される。好ましくは、α−メチルスチレンダイマーの使用量を1モルとしたとき、重合開始剤は、0.102〜1.0モル使用され、より好ましくは、0.105〜1.0モル、さらにより好ましくは、0.2〜1.0モル、さらにより一層好ましくは、0.3〜0.8モル、使用されるのが望ましい。
【0028】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、α−メチルスチレンダイマーの使用量を1モルとしたとき、重合開始剤の使用量が0.1モル未満の場合には、ラジカル共重合されるアクリル単量体の重合率が上がりにくくなり、製造に長時間を有するため工業的には無理がある。α−メチルスチレンダイマーの使用量を1モルとしたとき、重合開始剤の使用量が1.0モルを超える場合には、製造時の除熱が困難となり、重合制御が困難となって暴走反応を起こしやすくなる。
【0029】
本発明で使用される重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−ベンゾエート等の有機過酸化物系重合開始剤(参考文献:「15308の化学商品」(化学日報社発行)、2008、p628〜p650)、2,2´−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等の有機アゾ系重合開始剤(参考文献:「Azo Polymerization Initiators」(和光純薬工業(株)化成品本部カタログ)等が例示される。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、これらの重合開始剤は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0030】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、重合開始剤は、好ましくは、有機アゾ系重合開始剤である。
【0031】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、これらの重合開始剤のなかでは、2,2´−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等の有機アゾ系重合開始剤が望ましく使用される。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、有機アゾ系重合開始剤が使用されるとき、アクリル単量体のラジカル重合効率が高く、また製造されたアクリル共重合体を高分子反応により変性し、高機能化する際有利である。
【0032】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、アクリル共重合体の重量平均分子量は、好ましくは2000〜20万、より好ましくは2000〜15万、さらに好ましくは2000〜12万であることが推奨される。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、アクリル共重合体の重量平均分子量が2000〜20万であるとき、攪拌、除熱、払出し、異常時の処置などの製造に係わる一連の作業が、工業的見地から簡便となり推奨される。さらにまた、製造されたアクリル共重合体を高分子反応により変性、修飾し、ウレタン硬化性、エポキシ硬化性、ラジカル硬化性等の高機能化をはかる際に、反応速度が十分に速く効率的に行える。
【0033】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、下記構造式のアクリル単量体
【0034】
【化7】

【0035】
(ここで、R1は、水素原子またはメチル基、R2は、水素原子、炭素原子数2〜12個のアルキル基、または、アルキル基の炭素原子数2〜6個のヒドロキシアルキル基、または、アルキル基の炭素原子数2〜6個のメトキシアルキル基を表す。)
としては、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ターシャリーブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ターシャリーブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸アルキル単量体、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基含有アクリル単量体、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル等の水酸基含有アクリル単量体、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸3−メトキシプロピル、アクリル酸4−メトキシブチル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸3−メトキシプロピル、メタクリル酸4−メトキシブチル等のアルコキシアルキル基含有アクリル単量体等が例示される。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、これらのアクリル単量体は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0036】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、これらのアクリル単量体のなかでは、下記構造式で示される
【0037】
【化8】

【0038】
(ここで、R3は、水素原子、炭素原子数2〜12個のアルキル基、または、アルキル基の炭素原子数2〜6個のヒドロキシアルキル基、または、アルキル基の炭素原子数2〜6個のメトキシアルキル基を表す。)
アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ターシャリーブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル等のアクリル酸アルキルエステル、アクリル酸等のカルボキシル基含有アクリル単量体、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル等の水酸基含有アクリル単量体、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸3−メトキシプロピル、アクリル酸4−メトキシブチル等のアルコキシアルキル基含有アクリル単量体が好ましく使用される。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、これらのアクリル単量体は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0039】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、これらのアクリル単量体が使用されるとき、製造時の攪拌、除熱が容易となるばかりでなく、製造されるアクリル共重合体が使用される例えば接着剤、粘着剤、塗料等の接着性、粘着性、付着性、均一性、硬化性などの諸性能が向上する傾向が見られる。
【0040】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、これらのアクリル単量体以外にも、好ましくは、アクリル酸メチル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸イソボルニル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート等のシクロペンタジエニル系(メタ)アクリル酸エステル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有アクリル単量体、アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有アクリル単量体、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等のアミド基含有アクリル単量体、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン基含有アクリル単量体等のアクリル単量体が使用されてもよい。これらのアクリル単量体は単独で使用しても、2種類以上の混合物で使用してもよい。
【0041】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、本発明で好ましく使用されるこれらのアクリル単量体の中では、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート等のシクロペンタジエニル系(メタ)アクリル酸エステル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有アクリル単量体が望ましく使用され、アクリル共重合体の凝集力を高めて接着性、粘着性、付着性などの性能を向上する傾向が見られる。特に、金属同士の接合時、金属−炭素繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック同士の接合時に界面でよく接合し、強い接着力を発揮する接着剤が得られる傾向が見られる。
【0042】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、アクリル共重合体は、好ましくは、塊状ラジカル共重合により製造される。
【0043】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、塊状ラジカル共重合とは、アクリル単量体やスチレンモノマー等のビニル基を有するモノマーのラジカル共重合を行う際に用いられる方法の一つである。溶媒を使用しないで、アクリル単量体やスチレンモノマー等のビニル基を有するモノマーだけをそのまま、あるいはアゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等の重合開始剤を加えて、加熱して重合を行う方法である。
【0044】
塊状ラジカル共重合の特徴は、重合速度が大きく、比較的純粋なポリマーが塊状で製造されることである。ところが周知の通り、製造スケールに係わらず、塊状ラジカル共重合では、重合熱を取り除くことが難しく(除熱が困難)、局部加熱が生じる(局部的に暴走反応が起こる)など重合温度の制御がはなはだ困難である。
【0045】
塊状ラジカル重合は、工業的には、ABS樹脂の連続塊状重合、ポリスチレンの連続塊状重合などが実施されている。いずれも、重合率を上げきることなく途中でラジカル重合反応を停止し、押出機を使用するペレタイズ工程で脱モノマー化が実施される。
【0046】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、塊状ラジカル共重合でアクリル共重合体を製造する場合には、好ましくは、重合系が不活性ガス置換された気相酸素濃度が、0.2vol%≦気相酸素濃度≦8.0vol%、より好ましくは、気相酸素濃度が、0.5vol%≦気相酸素濃度≦6.0vol%、さらに好ましくは、気相酸素濃度が、0.5vol%≦気相酸素濃度≦5.0vol%の雰囲気下に実施されるのが望ましい。
【0047】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、使用される不活性ガスは窒素ガス、ヘリウムガスなど市販されているもののなかから任意に選択することができる。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、重合系中の酸素濃度は「デジタル酸素濃度計 XO−326ALB」(新コスモス電機(株)の酸素濃度測定器)を使用し測定した。
【0048】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、重合系が不活性ガス置換された気相酸素濃度<0.2vol%であるとき、蒸気化したアクリル単量体が気相部分でラジカル重合を起こしやすくなり、重合容器天板、器壁、コンデンサー等にアクリルポリマーが析出する傾向が見られ、総括伝熱係数の悪化に伴う除熱の遅れ、コンデンサー閉塞による爆発など重大事故につながる可能性が懸念される。
【0049】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、重合系が不活性ガス置換された気相酸素濃度>8.0vol%であるとき、蒸気化したアクリル単量体が気相部分で爆発性混合気体を形成しやすくなり防災上望ましくない。また、気相酸素濃度>8.0vol%の場合には、重合反応が進行する液相にも悪影響が見られ、酸素による重合の禁止、テロメリゼーションのため重合反応が進行しない場合が見られる。
【0050】
また、本発明のアクリル共重合体の製造方法では、同様にアクリル単量体が気相部で重合を起こさないようにするため、気相部を、好ましくは、アクリル単量体がラジカル重合を起こさない温度、好ましくは、例えば、10〜80℃に冷却する方法も有効である。
【0051】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、塊状ラジカル共重合で製造する場合、例えば以下のように実施できる。
【0052】
不活性ガス導入管、還流冷却器、モノマー仕込み口、攪拌機を有する重合容器に容器内の雰囲気が酸素濃度≦8.0vol%になるまで窒素ガスを吹き込み、さらにアクリル単量体の塊状ラジカル共重合中は酸素濃度を3.0vol%に調節した窒素ガス/酸素混合気の吹き込みを継続する。
【0053】
重合容器にアクリル単量体、例えば、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸等の一部または全量とα−メチルスチレンダイマーの所定量を仕込み、所定の重合温度、例えば、50〜100℃に昇温を行う。
【0054】
このなかに、2,2´−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等の重合開始剤、および、アクリル単量体が残っていればアクリル単量体の残量を重合容器中に所定時間で添加し、アクリル共重合体の製造中はアクリル単量体のラジカル共重合反応により発熱が見られるので、適宜攪拌、除熱を行いながら設計の重合率になるまでアクリル単量体の塊状ラジカル共重合を行うことにより製造できる。
【0055】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、製造されたアクリル共重合体をさらに高分子反応により変性、修飾する場合、特に、アクリル共重合体分子側鎖にメタクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチルグリシジル等のエポキシ基含有アクリル単量体、または、メタクリル酸2−イソシアネートエチル、メタクリル酸3−イソシアネートプロピル等のイソシアネート基含有アクリル単量体等の活性アクリル単量体を付加反応し(メタ)アクリル性不飽和結合を導入することができる。活性アクリル単量体を付加反応し(メタ)アクリル性不飽和結合を導入する場合には、反応系の気相部酸素濃度を、好ましくは、8.0vol%≦気相部酸素濃度≦12.0vol%、より好ましくは、8.0vol%≦気相部酸素濃度≦11.0vol%、さらに好ましくは、8.0vol%≦気相部酸素濃度≦10.0vol%とすることが推奨される。本発明のアクリル共重合体の製造方法では、製造されたアクリル共重合体をさらに高分子反応により変性、修飾する場合、反応系の気相部酸素濃度を好ましくは8.0vol%≦気相部酸素濃度≦12.0vol%とすることにより、付加反応時のラジカル重合の開始にともなうゲル化、大きい発熱と暴走反応、爆発等の災害、事故を確実に防止できる。
【0056】
本発明のアクリル共重合体の製造方法では、攪拌、除熱が容易であることから、アクリル共重合体の重合率をできるだけ高くすることが望ましい。高分子反応によりアクリル共重合体を変性、修飾しラジカル重合硬化性等の機能ポリマーへと導くためには、重合率は好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは98%以上に高めておくことが推奨される。
【実施例】
【0057】
以下に本発明の一例を実施例で説明する。
【0058】
なお、実施例中、試験、評価方法等は以下にしたがい実施した。
【0059】
1)酸素濃度(vol%)
デジタル酸素濃度計XO−326ALB(新コスモス電機(株)の測定装置)を使用して測定した。
【0060】
2)重量平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)HLC−8220GPC(東ソー(株)の試験装置)を使用して測定した。
【0061】
3)重合率(%)
JIS K 5407:1997にしたがって加熱残分(%)を測定し、これを重合率(%)とした。ただし、測定温度は140℃、測定時間は60分とした。
【0062】
4)酸価(mgKOH)
JIS K 5407:1997にしたがって測定した。
【0063】
また、実施例中、特にことわりがない限り、組成比は重量比とした。
【0064】
実施例1
窒素ガス導入管、還流冷却器、撹拌装置、アクリル単量体仕込み口を有する2L四つ口フラスコに、窒素ガスをフラスコ内の酸素濃度が5vol%以下になるまで吹き込み、重合中は酸素濃度2〜5vol%に調節した窒素ガス/酸素ガス混合気の吹き込みを継続した。
【0065】
アクリル酸n−ブチル770g、アクリル酸2−メトキシエチル100g、アクリル酸4−ヒドロキシブチル120g、メタクリル酸10g(=アクリル酸n−ブチル/アクリル酸2−メトキシエチル/アクリル酸4−ヒドロキシブチル/メタクリル酸=77/10/12/1)の20%(200g)、α−メチルスチレンダイマー80g(0.339モル)(アクリル単量体総量を100重量部としたとき8重量部)をフラスコに仕込み、90℃に昇温した。
【0066】
アクリル単量体の残り80%(800g)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)27.8g(0.1695モル)(α−メチルスチレンダイマーを1モルとしたとき、0.5モル)の混合溶液を定流量ポンプを使用してフラスコ内に3時間で添加した。
【0067】
この後、さらに4時間、90℃で重合反応を継続し、アクリル共重合体(1)を製造した。製造中、制御困難な急激な発熱は見られず、攪拌も容易であった。
【0068】
アクリル共重合体(1)は、重合率98.2%、重量平均分子量4.8万、酸価6.5mgKOHであった。
【0069】
実施例2
窒素ガス導入管、還流冷却器、撹拌装置、アクリル単量体仕込み口を有する2L四つ口フラスコに、窒素ガスをフラスコ内の酸素濃度が5vol%以下になるまで吹き込み、重合中は酸素濃度2〜5vol%に調節した窒素ガス/酸素ガス混合気の吹き込みを継続した。
【0070】
アクリル酸n−ブチル770g、アクリル酸2−メトキシエチル100g、アクリル酸4−ヒドロキシブチル120g、メタクリル酸10g(=アクリル酸n−ブチル/アクリル酸2−メトキシエチル/アクリル酸4−ヒドロキシブチル/メタクリル酸=77/10/12/1)の40%(200g)、α−メチルスチレンダイマー120g(0.508モル)(アクリル単量体総量を100重量部としたとき12重量部)をフラスコに仕込み、90℃に昇温した。
【0071】
アクリル単量体の残り80%(800g)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)33.3g(0.203モル)(α−メチルスチレンダイマーを1モルとしたとき、0.4モル)の混合溶液を定流量ポンプを使用してフラスコ内に3時間で添加した。
【0072】
この後、さらに4時間、90℃で重合反応を継続し、アクリル共重合体(2)を製造した。製造中、制御困難な急激な発熱は見られず、攪拌も容易であった。
【0073】
アクリル共重合体(2)は、重合率98.2%、重量平均分子量3.2万、酸価6.5mgKOHであった。
【0074】
実施例3
窒素ガス導入管、還流冷却器、撹拌装置、アクリル単量体仕込み口を有する2L四つ口フラスコに、窒素ガスをフラスコ内の酸素濃度が5vol%以下になるまで吹き込み、重合中は酸素濃度2〜5vol%に調節した窒素ガス/酸素ガス混合気の吹き込みを継続した。
【0075】
アクリル酸n−ブチル770g、アクリル酸2−メトキシエチル100g、アクリル酸4−ヒドロキシブチル120g、メタクリル酸10g(=アクリル酸n−ブチル/アクリル酸2−メトキシエチル/アクリル酸4−ヒドロキシブチル/メタクリル酸=77/10/12/1)の20%(200g)、α−メチルスチレンダイマー60g(0.254モル)(アクリル単量体総量を100重量部としたとき6重量部)をフラスコに仕込み、90℃に昇温した。
【0076】
アクリル単量体の残り80%(800g)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)27.8g(0.1695モル)(α−メチルスチレンダイマーを1モルとしたとき、0.667モル)の混合溶液を定流量ポンプを使用してフラスコ内に3時間で添加した。
【0077】
この後、さらに4時間、90℃で重合反応を継続しアクリル共重合体(3)を製造した。製造中、制御困難な急激な発熱は見られず、攪拌も容易であった。
【0078】
アクリル共重合体(3)は、重合率98.9%、重量平均分子量7.8万、酸価6.5mgKOHであった。
【0079】
実施例4
窒素ガス導入管、還流冷却器、撹拌装置、アクリル単量体仕込み口を有する2L四つ口フラスコに、窒素ガスをフラスコ内の酸素濃度が5vol%以下になるまで吹き込み、重合中は酸素濃度2〜5vol%に調節した窒素ガス/酸素ガス混合気の吹き込みを継続した。
【0080】
アクリル酸n−ブチル770g、アクリル酸2−メトキシエチル100g、アクリル酸4−ヒドロキシブチル120g、メタクリル酸10g(=アクリル酸n−ブチル/アクリル酸2−メトキシエチル/アクリル酸4−ヒドロキシブチル/メタクリル酸=77/10/12/1)、α−メチルスチレンダイマー80g(0.339モル)(アクリル単量体総量を100重量部としたとき8重量部)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)27.8g(0.1695モル)(α−メチルスチレンダイマーを1モルとしたとき、0.5モル)をフラスコに仕込み、120分かけて90℃に昇温した。
【0081】
この後、さらに4時間、90℃で重合反応を継続しアクリル共重合体(4)を製造した。製造中、制御困難な急激な発熱は見られず、攪拌も容易であった。
【0082】
アクリル共重合体(4)は、重合率98.8%、重量平均分子量5.2万、酸価6.5mgKOHであった。
【0083】
本発明のアクリル共重合体の製造方法によれば、重合初期に原料の全部を仕込むバッチ式塊状重合でも、重合制御に何らの問題なくアクリル共重合体が製造可能であった。
【0084】
実施例5
実施例1の製造に引き続き、アクリル共重合体の変性を行った。継続して、フラスコ内温を105℃に昇温して60分間、攪拌しながら保持した。
【0085】
80℃まで冷却した後、フラスコ内の酸素濃度が8〜12vol%となるように酸素濃度8vol%に調節した窒素ガス/酸素ガス混合気の吹き込みをおこなった。また、反応中は酸素濃度8vol%に調節した窒素ガス/酸素ガス混合気の吹き込みを継続した。
【0086】
フラスコ内に、p−メトキシフェノール(重合禁止剤)1.1g(アクリル共重合体(1)とアクリル酸2−イソシアネートエチルの合計量に対し1000ppm)、ジブチルチンジラウレート(付加反応触媒)2.2g(アクリル共重合体(1)とアクリル酸2−イソシアネートエチルの合計量に対し0.2%)を仕込んだ。
【0087】
メタクリル酸2−イソシアネートエチル102.6g(アクリル酸4−ヒドロキシブチルの80モル当量)を60分間で滴下した。付加反応中は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)で2300cm−1近傍のNCO基をトレースし、NCO基の吸光がなくなった時点を付加反応の終点とした。付加反応時間は約2時間であった。
【0088】
製造されたアクリル共重合体(5)は加熱残分99.6%、重量平均分子量6.2万、酸価6.2mgKOHであった。
【0089】
アクリル共重合体(5)を使用し、接着剤の試験を行った。
【0090】
アクリル共重合体(5)20g、「NKエステル BPE−200」(新中村化学工業製のエチレンオキサイド付加エポキシジメタクリレート)20g、「FANCRYL FA−512M」(日立化成工業製のジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート)51g、メタクリル酸1g、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル8gを均一になるまで混合し、さらにナフテン酸マンガン(マンガン濃度6%)1gを加えて、「マゼルスター」(クラボウ製の攪拌・混合・脱泡装置)で気泡がなくなるまで混合、脱泡を行った。これに、「パークミルH−80」(日油製の有機過酸化物、クメンハイドロパーオキサイド)を2g添加し、よく混合して接着剤を製造した。
【0091】
接着剤の接着強さを評価するため、JIS K 6850:1999にしたがい、接着剤の厚みを200μmとして23℃と80℃で引張剪断強度を測定した。被着体としてはアルミニウム合金(JIS A−2017P:1999)を使用した。接着剤の硬化は、40℃で30分間とした。
【0092】
接着強さ試験の結果、23℃では、23MPa、80℃では、16MPaと、構造接着剤として良好な結果が得られた。
【0093】
比較例1
窒素ガス導入管、還流冷却器、撹拌装置、アクリル単量体仕込み口を有する2L四つ口フラスコに、窒素ガスをフラスコ内の酸素濃度が5vol%以下になるまで吹き込み、重合中は酸素濃度3〜5vol%に調節した窒素ガス/酸素ガス混合気の吹き込みを継続した。
【0094】
アクリル酸n−ブチル770g、アクリル酸2−メトキシエチル100g、アクリル酸4−ヒドロキシブチル120g、メタクリル酸10g(=アクリル酸n−ブチル/アクリル酸2−メトキシエチル/アクリル酸4−ヒドロキシブチル/メタクリル酸=77/10/12/1)の20%(200g)、α−メチルスチレンダイマー80g(アクリル単量体総量を100重量部としたとき8重量部)をフラスコに仕込んだ。
【0095】
アクリル単量体の残り80%(800g)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)83.4g(α−メチルスチレンダイマーを1モルとしたとき、1.50モル)の混合溶液を定流量ポンプを使用してフラスコ内に3時間で添加した。
【0096】
混合溶液の滴下中から頻繁に急激な発熱が見られ、滴下終了直後に重合温度制御不能となって重合温度が130℃以上まで上昇し暴走反応となった。
【0097】
比較例2
窒素ガス導入管、還流冷却器、撹拌装置、アクリル単量体仕込み口を有する2L四つ口フラスコに、窒素ガスをフラスコ内の酸素濃度が5vol%以下になるまで吹き込み、重合中は酸素濃度3〜5vol%に調節した窒素ガス/酸素ガス混合気の吹き込みを継続した。
【0098】
アクリル酸n−ブチル770g、アクリル酸2−メトキシエチル100g、アクリル酸4−ヒドロキシブチル120g、メタクリル酸10g(=アクリル酸n−ブチル/アクリル酸2−メトキシエチル/アクリル酸4−ヒドロキシブチル/メタクリル酸=77/10/12/1)の20%(200g)、α−メチルスチレンダイマー80g(アクリル単量体総量を100重量部としたとき8重量部)をフラスコに仕込んだ。
【0099】
アクリル単量体の残り80%(800g)、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)2.8g(α−メチルスチレンダイマーを1モルとしたとき、0.05モル)の混合溶液を定流量ポンプを使用してフラスコ内に3時間で添加した。
この後、さらに4時間、90℃で重合反応を継続しアクリル共重合体(6)を製造した。製造中、制御困難な急激な発熱は見られず、攪拌も容易であった。
【0100】
アクリル共重合体(6)は、重合率10.3%、Mw2.2万であり、ほとんど重合の進行が見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式のα−メチルスチレンダイマー
【化1】

1.0モルに対して重合開始剤を0.100〜1.0モル使用し、下記構造式のアクリル単量体
【化2】

(ここで、R1は、水素原子またはメチル基、R2は、水素原子、炭素原子数2〜12個のアルキル基、または、アルキル基の炭素原子数2〜6個のヒドロキシアルキル基、または、アルキル基の炭素原子数2〜6個のメトキシアルキル基を表す。)
を含むアクリル単量体をラジカル共重合するアクリル共重合体の製造方法。
【請求項2】
重合開始剤が、有機アゾ系重合開始剤である請求項1に記載のアクリル共重合体の製造方法。
【請求項3】
アクリル単量体が、下記構造式のアクリル単量体である
【化3】

(ここで、R3は、水素原子、炭素原子数2〜12個のアルキル基、または、アルキル基の炭素原子数2〜6個のヒドロキシアルキル基、または、アルキル基の炭素原子数2〜6個のメトキシアルキル基を表す。)
請求項1または2のいずれかに記載のアクリル共重合体の製造方法。
【請求項4】
不活性ガス置換された気相部酸素濃度が、0.2vol%≦気相部酸素濃度≦8.0vol%の雰囲気下で、アクリル単量体の塊状ラジカル共重合を行う請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル共重合体の製造方法。
【請求項5】
アクリル共重合体の重量平均分子量が、2000〜20万である請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2009−209291(P2009−209291A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55031(P2008−55031)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】