説明

アクリル系単量体

【課題】ポップコーン重合を起こすことなく効率的に製造できる、品質、特に感さ性が改善された高品位のアクリル系単量体を提供する。
【解決手段】式[I]
【化1】


ホルミル誘導体、アセチル誘導体及びアクリル酸の含有量が、それぞれ1000ppm、3000ppm及び50ppm以下である、式[I](式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、RとRは、それぞれが他から独立して水素原子、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3の低級アルキル基から選択される基(但し、RとRが同時に水素原子である場合を除く。)を表すか、RとRは、それらを担持する窒素原子と一緒になって、酸素原子を含む飽和5〜7員環を形成してもよい。)で表されるアクリル系単量体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、品質、特に感さ性の改善された、ポップコーン重合を起こすことなく製造できる、高品位のアクリル系単量体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリル系単量体、特にアクリルアミド誘導体を工業的に生産する方法としては、
(1)アクリロニトリルと2級あるいは3級アルコールを濃硫酸中で反応させるリッター反応によりアクリルアミド誘導体を製造する方法(例えば、特許文献1)、
(2)α,β−不飽和カルボン酸エステルとシクロペンタジエンあるいはフランをディールズ・アルダー反応させて得られた化合物を脂肪族アミンと強塩基触媒を用いて反応させアミデーションを行った後、得られた中間体を気相熱分解しアクリルアミド誘導体を製造する方法(例えば特許文献2)、
(3)α,β−不飽和カルボン酸エステルと脂肪族アミンとからアルキルアミノプロパンアルキルアクリルアミドを合成し、これを酸性触媒の存在下、液相にて熱分解しアクリルアミド誘導体を製造する方法(例えば特許文献3)、
等が知られている。
【0003】
これら製造方法は、一般に、目的物の種類等により選択されるが、目的物を単離、精製するために蒸留する場合、目的物と蒸気圧が非常に近接している、あるいは、目的物と水素結合等の相互作用効果を有している不純物等の存在により、純度の高い製品を効率的に取得することが困難な場合があった。例えば、低い環流比を採用した場合、カットする部分を大量にしなければならず高純度の目的物の得率が低下し、一方、高い環流比を採用した場合、ポップコーン重合が発生する危険性が高く、充填塔や配管部の閉塞を招く、という欠点があった。
更に、得られた高純度の目的物についても、安全性指標の一つである感さ性評価において、陽性を示す結果が得られる場合があった。
【0004】

環境並びに安全性への意識の高まりから、より環境への負荷の少ない化合物、あるいはより安全性の高い化合物への転換が高まりつつある。この様な社会背景にあって、有害な不純物をより少なくした、皮膚への刺激性、腐食性がなく、感さ性のない、高品位のアクリル系単量体、特にアクリルアミド誘導体が望まれていた。
【特許文献1】USP2719176号公報
【特許文献2】特公昭54−9170号公報、同57−52329号公報
【特許文献3】USP2451436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の様な背景に鑑み、特に、感さ性が改善された、ポップコーン重合を起こすことなく効率的に生産できる、高品位のアクリル系単量体、特にアクリルアミド誘導体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる課題を解決するため鋭意検討の結果、特定の化合物の含有量を規定することにより、課題を解決できることを見いだし、本発明に到達した。
すなわち本発明は、
(1)式[I](式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、RとRは、それぞれが他から独立して水素原子、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3の低級アルキル基から選択される基(但し、RとRが同時に水素原子である場合を除く。)を表すか、RとRは、それらを担持する窒素原子と一緒になって、酸素原子を含む飽和5〜7員環を形成してもよい。)で表されるアクリル系単量体であって、該アクリル系単量体中の、式[II](式中、R、Rは前記と同じ。)で表される化合物(以下、「ホルミル誘導体」ともいう。)、式[III](式中、R、Rは前記と同じ。)で表される化合物(以下、「アセチル誘導体」ともいう。)及びアクリル酸の含有量が、それぞれ1000ppm、3000ppm及び50ppm以下である、式[I]で表されるアクリル系単量体、
を提供するものである。
【0007】
【化4】

【0008】
【化5】

【0009】
【化6】

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ホルミル誘導体及びアセチル誘導体の含有量が一定値以下のため、蒸留による精製においてポップコーン重合を起こすことなく、高品位のアクリル系単量体、特にアクリルアミド誘導体を効率的に生産できる。
また、ホルミル誘導体、アセチル誘導体及びアクリル酸の含有量が低減化されているため、特に皮膚に対する刺激性・腐食性がなく、且つ、感さ性を示すことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のアクリル系単量体は、上記式[I]で表される化合物で、式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、RとRは、それぞれが他から独立して水素原子、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3の低級アルキル基から選択される基(但し、RとRが同時に水素原子である場合を除く。)を表すか、RとRは、それらを担持する窒素原子と一緒になって、酸素原子を含む飽和5〜7員環を形成したもの、を表す。
これらアクリル系単量体、特にアクリルアミド誘導体のうち、好ましい化合物としては、具体的には、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミドを挙げることができる。
【0012】
アクリル系単量体は、上記式[II](式中、R、Rは前記と同じ)で表されるホルミル誘導体、上記式[III](式中、R、Rは前記と同じ)で表されるアセチル誘導体、及びアクリル酸の含有量が、それぞれ1000ppm、3000ppm及び50ppm以下、好ましくはそれぞれ500ppm、3000ppm及び10ppm以下、であるものである。
具体的に式[II]、式[III]で表される化合物は、例えば、アクリル系単量体がN,N−ジメチルアクリルアミドの場合、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドであり、アクリル系単量体がアクリロイルモルホリンの場合、ホルミルモルホリン、アセチルモルホリンであり、アクリル系単量体がN−イソプロピルアクリルアミドの場合、N−イソプロピルホルムアミド、N−イソプロピルアセトアミドであり、アクリル系単量体がN,N−ジエチルアクリルアミドの場合、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミドである。
【0013】
ホルミル誘導体及びアセチル誘導体の含有量がその範囲を越えると、蒸留時にポップコーン重合を起こしやすく、蒸留塔塔の閉塞を起こし、効率的に、高品位のアクリル系単量体を取得することができない。
また、ホルミル誘導体、アセチル誘導体及びアクリル酸の含有量がその範囲を越えると、人の皮膚に対する刺激性が生じたり、感さ性が生じるため、好ましくない。
【0014】
本発明の高品位のアクリル系単量体は、不純物を含むアクリル系単量体の粗生成物に、化[IV](式中、R、Rは前記と同じ)で表されるアミンを添加し、アクリル系単量体だけを式[V](式中、R、R、Rは前記と同じ)で表されるプロピオン酸誘導体に変換した後、これを熱分解することにより製造される。
【0015】
【化7】

【0016】
【化8】

【0017】
不純物を含むアクリル系単量体の粗生成物とアミンとの反応は、アクリル系単量体中にアミンを添加することにより、実施される。
反応は無溶媒で、等モルの粗生成物とアミンにより速やかに進行するが、アミンを過剰に用いることもできる。反応条件は、粗生成物の純度にもよるが、室温で、反応時間は30分から2時間程度で十分である。反応は発熱反応のため、冷却して反応を開始することもできる。
なお、用いられるアミンは、式[IV]のR及びRが、式[I]のR及びRと同一のものであることは当然である。
【0018】
反応終了後、減圧下、ポップコーン重合を発生させるホルミル誘導体、アセチル誘導体、あるいはアクリル酸を留去することにより、これらの含有量が低減された、高品位の式[V]で表されるプロピオン酸誘導体を、単離することができる。
留去する条件は、プロピオン酸誘導体と、ホルミル誘導体、アセチル誘導体及びアクリル酸とが分離できる条件であれば特に制限はないが、プロピオン酸誘導体は高沸点であるため、広い範囲の条件、例えば50〜150℃、1〜100hPa程度で容易に分離できる。
【0019】
式[V]の熱分解は公知の条件が適用され、目的物の単離も精留時の環流比を高くすることなく、ホルミル誘導体、アセチル誘導体及びアクリル酸が低減された高品位のアクリル系単量体を取得することができる。
また、熱分解時に生成する式[IV]で表されるアミンを回収し、再使用することもできる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
実施例1
コンデンサー及び蒸留塔を持った、1.5m撹拌翼付きSUS反応容器に、表1に示す不純物を含んだ粗N,N−ジメチルアクリルアミド759kg(7.66kmol)を投入し、重合禁止剤としてフェノチアジン500gを添加した後、水で冷却しながらN,N−ジメチルアクリルアミドの純分とほぼ等モル量のジメチルアミン342kg(7.58kmol)を添加した。
添加後速やかに系内のN,N−ジメチルアクリルアミドとジメチルアミンの結合が起こり、ジメチルアミン投入1時間後の反応容器内液を分析した結果、残存のジメチルアミンはガスクロマトグラフィーでは確認されず、N,N−ジメチルアクリルアミドがほぼ全量N,N−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピオン酸アミドに転換している事を確認した。このとき反応容器内の温度は80℃まで上昇していた。
反応終了後、60℃、10hPaで系内の低沸不純物を留去し、N,N−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピオン酸アミドは1039kg(7.20kmol)であった。
得られたN,N−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピオン酸アミドは硫酸触媒下にて熱分解し、ついで精留することにより、本発明のN,N−ジメチルアクリルアミド694kg(7.00kmol)を得た。
得られたN,N−ジメチルアクリルアミドのガスクロマトグラフィー分析結果を表1に示す。(注:表中の数字は、それぞれの化合物の含有量を%で表示したものである。以下同じ。)
【0021】
【表1】

【0022】
実施例2
実施例1において、不純物を含んだ粗N,N−ジメチルアクリルアミドにかえて不純物を含んだ粗アクリロイルモルホリン(比較例3で得られた粗生成物)836kgを、ジメチルアミンにかえてモルホリン511kgを用いた以外は、実施例1に準じて実施し(低沸不純物の留去温度は120℃)、本発明のアクリロイルモルホリン760kgを得た。
ガスクロマトグラフィー分析結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
実施例3
実施例1において、不純物を含んだ粗N,N−ジメチルアクリルアミドにかえて不純物を含んだ粗N−イソプロピルアクリルアミド690kgを、ジメチルアミンにかえてイソプロピルアミン357kgを用いた以外は、実施例1に準じて実施し(低沸不純物の留去温度は110℃)、本発明のN−イソプロピルアクリルアミド622kgを得た。
ガスクロマトグラフィー分析結果を表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
実施例4
実施例1において、不純物を含んだ粗N,N−ジメチルアクリルアミドにかえて不純物を含んだ粗N,N−ジエチルアクリルアミド697kgを、ジメチルアミンにかえてジエチルアミン397kgを用いた以外は、実施例1に準じて実施し(低沸不純物の留去温度は120℃)、本発明のN,N−イソプロピルアクリルアミド620kgを得た。
ガスクロマトグラフィー分析結果を表4に示す。
【0027】
【表4】

【0028】
比較例1
特公昭54−9170号公報記載の方法に準じ、アクリル酸メチルとシクロペンタジエンをディールズ・アルダー反応させて得られた化合物をジメチルアミンと強塩基触媒を用いて反応させアミデーションを行った後、得られた中間体を気相熱分解しN,N−ジメチルアクリルアミドを得た。
得られたN,N−ジメチルアクリルアミドの組成を表5に示す。
【0029】
【表5】

【0030】
比較例2
特公昭57−52329号公報記載の方法に準じ、アクリル酸メチルとシクロペンタジエンをディールズ・アルダー反応させて得られた化合物をモルホリンと強塩基触媒を用いて反応させアミデーションを行った後、得られた中間体を気相熱分解しアクリロイルモルホリンを得た。
得られたアクリロイルモルホリンの組成を表6に示す。
【0031】
【表6】

【0032】
比較例3
USP2451436号公報記載の方法に準じ、アクリル酸メチルとモルホリンから中間体に変換し、これを酸性触媒の存在下、液相にて熱分解しアクリロイルモルホリンを得た。得られたアクリロイルモルホリンの組成は上記表2(出発物質の欄)の通りであった。
本粗生成物にフェノチアジンを添加した後、還流比20にて蒸留を実施したところ、蒸留塔内にポップコーンポリマーが発生し、アクリロイルモルホリンの留出が途中で停止した。得られたアクリロイルモルホリンの回収率は29%であった。なお、得られたアクリロイルモルホリンのガスクロマトグラフィーによる純度は98.22%であった。
【0033】
比較例4
USP2719176号公報記載の方法に準じ、アクリロニトリルとイソプロピルアルコールを濃硫酸中で反応させるリッター反応によりN−イソプロピルアクリルアミドを得た。
得られたN−イソプロピルアクリルアミドの組成を表7に示す。
【0034】
【表7】

【0035】
評価例
実施例2及び比較例2、3で得られたアクリロイルモルホリンを、OECDガイドライン429(Skin Sensitization:Local Lymph Node Assay)にて、感さ性の評価を行った。
その結果、実施例2で得られたアクリロイルモルホリンは感さ性は認められなかったが、比較例2で得られたアクリロイルモルホンには感さ性が、比較例3で得られたアクリロイルモルホリンにも比較例2のアクリロイルモルホリンほど強くはないが感さ性が、それぞれ認められた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明してきたように、本発明では、ポップコーン重合を起こすことなく効率的に製造できる、品質、特に感さ性が改善された高品位のアクリル系単量体が提供されるため、凝集剤、土壌改善剤、接着剤、希釈剤、消火剤等の原料モノマーとして、好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[I](式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、RとRは、それぞれが他から独立して水素原子、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3の低級アルキル基から選択される基(但し、RとRが同時に水素原子である場合を除く。)を表すか、RとRは、それらを担持する窒素原子と一緒になって、酸素原子を含む飽和5〜7員環を形成してもよい。)で表されるアクリル系単量体であって、該アクリル系単量体中の、式[II](式中、R、Rは前記と同じ。)で表される化合物、式[III](式中、R、Rは前記と同じ。)で表される化合物及びアクリル酸の含有量が、それぞれ1000ppm、3000ppm及び50ppm以下である、式[I]で表されるアクリル系単量体。
【化1】

【化2】

【化3】


【公開番号】特開2008−81452(P2008−81452A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264161(P2006−264161)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】