説明

アクリル系粘着テープもしくはシートの製造方法

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、アクリル系粘着テープもしくはシートの製造方法に関する。
(従来の技術)
アクリル系粘着テープもしくはシートは、粘着力、凝集力などの粘着性能及び耐候性、耐熱性などの耐老化性能に優れ、特に自動車、電気製品、建築物などの各種構造部材の永久接合材として利用され始めている。
この種の粘着テープもしくはシートとして、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするビニル系モノマーに、光重合開始剤を添加し、さらに充填剤としてガラスバルン或いは疎水性シリカを含有させた液状物に、紫外線を照射して上記ビニル系モノマーを重合させて製造したアクリル系粘着テープもしくはシートが知られている(例えば、特公昭57−17020号公報、特開昭62−34976号公報参照)。
この方法は、上記の如き充填剤を含有させることにより、粘弾性的な応力緩和性を付与し、剥離応力が端部に集中しても粘着テープもしくはシート全体の追従性により応力を分散させ、剥離強度を高めたものである。ところが、永久接合材としては剥離強度のみならず、剥離方向への定荷重での剥離保持強度が要求され、この剥離保持強度を高めるには、粘着テープもしくはシートを構成する上記ビニル系モノマーの重合体の高分子化を行ない、その凝集性を高める必要がある。
ところで、上記のような光重合法において、生成する重合体の分子量は、光重合開始剤の濃度と光強度との積の平方根の減少とともに大きくなることが理論的に知られている。そこで、この理論に基づいて重合体の分子量を、例えば重量平均分子量で60〜100万程度の好ましい高分子量に調節すると、重合反応のばらつきが大きく精密な調節はできず、剥離強度と定荷重での剥離保持強度とを改善し、その両方の強度のバランスを達成することは困難である。
(発明が解決しようとする課題)
本発明は、上記の問題点を解決するものであり、その目的とするところは、特に剥離強度と定荷重での剥離保持強度との両方を改善し、その両方の強度のバランスに優れ、永久接合材として好適に用いられ得るアクリル系粘着テープもしくはシートの製造方法を提供することにある。
(課題を解決するための手段)
本発明者は、剥離強度や剥離保持強度などの強度を高め、その強度のバランスの改善は、高分子量を達成し得る光重合開始剤の濃度と光強度で重合反応を行ない、精密な分子量の調整を適量の連鎖移動剤で行なうことにより可能であるとの知見を得た。本発明は、このような知見に基づいて完成された。
本発明のアクリル系粘着テープもしくはシートの製造方法は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするビニル系モノマーに光重合開始剤及び上記ビニル系モノマー1モルに対して連鎖移動剤0.2×10-4〜10×10-4モルを添加してなる液状物に、紫外線を照射して上記ビニル系モノマーを重合させることを特徴とし、そのことにより上記の目的が達成される。
本発明において(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするビニル系モノマーは、一般に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル100〜60重量%と、これと共重合可能な他のビニル系モノマー0〜40重量%とからなる。そして、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1〜14、好ましくは4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが用いられ、例えば、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニルなどが好適に用いられる。
また、上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他のビニル系モノマーとしては、一般に、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、N−置換アクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、N−ビニルピロリドン、マレイン酸、イタコン酸、N−メチロールアクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、エチレングリコールモノアクリレート、グリセリンモノアクリレートなどが用いられる。また、ガラス転移温度の低い重合体が得られる、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールアクリレートなどのビニル系モノマーも用いることができる。
本発明においては、例えば、アクリル酸2−エチルヘキシル99〜85重量%とアクリル酸1〜15重量%とからなるビニル系モノマーの組合わせが好適である。
光重合開始剤としては、波長300〜400nmの間に活性点があり、開始効率の高いものが好適に用いられる。その例としては、ベンジルジメチルケタール、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどがある。
これらの光重合開始剤は、前記ビニル系モノマー100重量部に対して、0.001〜5重量部の割合で添加されるのが好ましい。この添加量が0.001重量部を下まわるときには、光重合開始剤が光エネルギーにより反応初期に消費されるために、モノマーが残存しやすく、モノマーの臭いが残るだけでなく、凝集力が低下する。逆に、光重合開始剤の添加量が5重量部を上まわるときは、重合反応速度は速くなるが、光重合開始剤の分解臭が激しくなり、また性能のばらつきが大きくなる。本発明において、光重合開始剤として、例えばベンジルジメチルケタールを用いる場合、その濃度(重量%)と光強度(mw/cm2、波長360nm)との積の平方根が3以下となるようにするのが好ましい。
連鎖移動剤としては、チオール化合物やハロゲン化合物などの連鎖移動性の高いものが好適に用いられる。チオール化合物としては、n−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、β−メルカプトプロピオン酸、β−メルカプトプロピオン酸オクチル、β−メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、トリメチロールプロパントリス−(β−チオプロピオネート)、チオグリコール酸ブチル、プロパンチオール類、ブタンチオール類、チオホスファイト類などがある。ハロゲン化合物としては四塩化炭素などがある。
かかる連鎖移動剤は、光重合開始剤の濃度と光強度との積の平方根のレベルが低く、充分に高分子量の重合体が得られる条件下で、前記ビニル系モノマー1モルに対して、0.2×10-4〜10×10-4モルの範囲で添加することが必要である。この添加量が0.2×10-4モルを下まわると、重合体の分子量が大きすぎて、応力分散性が低下し、剥離保持力が低下する。逆に、連鎖移動剤の添加量が10×10-4モルを上まわると、重合体の分子量が小さすぎて、光架橋剤の添加により凝集力を高めても物性のバランスがとれず、特に架橋度の増加により応力分散性が低下し、剥離保持力が低下する。重合体の重量平均分子量は、30〜100万に調節するのが好ましく、特に60〜100万に調節するのがさらに好ましい。
本発明においては、前記の光重合開始剤及び連鎖移動剤とともに、不飽和多官能化合物からなる光架橋剤を添加するのが好ましい。かかる光架橋剤は、一般に前記ビニル系モノマー100重量部に対して、5重量部以下添加することにより光重合反応の過程で重合体分子間に架橋結合が生じ、高温でも凝集力が増加し、高温での剥離保持力が向上する。
このような光架橋剤としては、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエルスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエルスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエルスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、その他エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレートなどがある。
また、本発明においては、上記のような各種の配合剤を添加したビニル系モノマーの液状物に、増粘剤やチキソトロープ剤、増量剤や充填剤などの通常用いられる配合剤を添加してもよい。増粘剤としては、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴムなどがあり、チキソトロープ剤としは、コロイドシリカ、ポリビニルピロリドンなどがある。ビニル系モノマーの液状物を増粘する方法としては、上記の増粘剤やチキソトロープ剤によるほか、例えば紫外線を少量照射して、予めビニル系モノマーを一部重合させる方法も採用される。
また、増量剤としては、炭酸カルシウム、酸化チタン、クレーなどがあり、充填剤としては、ガラスバルン、アルミナバルン、セラミックバルンなどの無機中空体、ナイロンビーズ、アクリルビーズ、シリコンビーズなどの有機球状体、塩化ビニリデンバルン、アクリルバルンなどの有機中空体、ポリエステル、レーヨン、ナイロンなどの短繊維がある。上記のような充填剤は、一般に支持体となる基材のない粘着テープもしくはシートを製造する場合に補強のために添加される。
上記のように調製された(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするビニル系モノマーの液状物は、溶存する酸素を除去するために、窒素ガスなどのイナートガスでパージされる。また、イナートガスでパージせずに、フェニルジイソデシルホスファイト、トリイソデシルホスファイト、オクタン酸第一錫などの除酸素効果のある化合物を添加してもよい。そして、この液状物は、剥離紙、剥離型枠などの上に塗布又は注入されるか、或いはプラスチックフィルム、紙、セロハン、布、不織布、金属箔などの基材に塗布又は含浸される。前者の場合は基材のない粘着テープもしくはシートが得られる。
上記液状物の塗布又は含浸には、イナート化された塗布又は含浸装置、もしくは少なくとも塗布又は含浸ール間に保持される段階で酸素と接触しない様に工夫された装置が用いられる。塗布又は含浸後もイナート化されたボックス内を通され、紫外線の照射がこのボックスの石英ガラスやパイレックスガラスやホウ酸ガラスごしに行われる。また、イナート化されたボックスを用いずに、剥離性を有するポリエステルフィルムで表面を一時的にカバーし、空気(酸素)との接触を防止して紫外線の照射を行なってもよい。この場合は、前記液状物に、除酸素効果のある前記化合物を添加しておくのが好ましい。
照射に用いられる紫外線ランプとしては、波長300〜400nm(ナノメートル)領域にスペクトル分布を持つものが用いられ、その例としては、ケミカルランプ、ブラックライトランプ(東芝電材(株)の商品名)、低圧、高圧、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプなどがある。前二つのランプは、比較的低い光強度を得るために用いられ、後四つのランプは、比較的高い比強度を得るために用いられる。しかして、その強度は、被照射体までの距離や電圧の調節によって、一般に0.1〜100mw(ミリワット)/cm2の範囲で設定される。
紫外線の照射により、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするビニル系モノマーが重合し、高分子量の重合体が生成する。紫外線の照射は、一定の光強度で行なってもよいが、初めに波長300〜400nmで光強度が0.1〜3mw/cm2の紫外線を照射して上記ビニル系モノマーの少なくとも90重量%を重合反応させ、その後波長300〜400nmで光強度が上記の照射よりも高い紫外線、好ましくは初めの光強度の二倍以上高い光強度の紫外線を照射して残存する上記ビニル系モノマーの重合反応を実質的に完結させるようにするのが好ましい。このように、二段階に分けて紫外線を照射すると、重合反応が速やかに完結し、生産性が高くなる。
(作用)
本発明方法によれば、特定量の連鎖移動剤の添加により、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするビニル系モノマーの重合反応のばらつきが抑えられ、重合体の分子量が精密に調製される。そして、そのことにより、得られるアクリル系粘着テープもしはシートは、剥離力、剥離保持力、剪断力、剪断保持力などの各物性、とりわけ剥離力と剥離保持力において高レベルでバランスのとれたものとなる。
(実施例)
以下、本発明の実施例及び比較例を含む実験例を示す。
実験1〜42−エルヘキシルアクリレート90g及びアクリル酸10gに、増粘剤としてコロイドシリカ(アエロジルA−300、日本アエロジル社)3gを添加し、高速攪拌機(ホモディスパー)で攪拌して均一に混合増粘し、さらに光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール0.1g、光架橋剤としてヘキサンジオールジアクリレート0.05g、連鎖移動剤としてドデシルメルカプタンを、それぞれ0g、0.02(ビニル系モノマー1モルに対して1.325×10-4モルに相当する。)、0.05g(ビニル系モノマー1モルに対して3.313×10-4モルに相当する。)、0.20g(ビニル系モノマー1モルに対して、13.25×10-4モルに相当する。)を添加して均一に混合し、これを窒素ガスでパージして溶存する酸素を除去して液状物を調製した。
この液状物を、雰囲気酸素濃度が0.1%以下のイナートのボックス内で剥離紙の上に0.8mmの厚さに塗布しその表面を、剥離処理したポリエステルフィルムでカバーし、これにケミカルランプを用いて光強度4mw/cm2(波長360nm)で15分間照射して上記ビニル系モノマーを重合させ、アクリル系粘着シートを製造した。この粘着シートの残存モノマーは0.1重量%であつた。
実験5〜7連鎖移動剤としてドデシルメルカプタンを0.05g添加し、光架橋剤としてヘキサンジオールジアクリレートをそれぞれ0g、0.01g、0.1g添加したこと以外は、実験1〜4と同様に行なって、アクリル系粘着シートを得た。
実験8連鎖移動剤としてドデシルメルカプタンを0.03g添加し、架橋剤としてヘキサンジオールジアクリレートを0.05g添加し、さらに充填剤としてガラスバルン5g(総液量に対して30容量%)を添加したこと以外は、実験1〜4と同様に行なって、アクリル系粘着シートを得た。
以上の実験1〜8で得られたアクリル系粘着シートについて、次の測定方法により、剪断力、剪断保持力、剥離力、剥離保持力を測定した。その結果を第1表にまとめて示す。
(1)剪断力厚さ1.5mmのスチール板に、剥離紙及びポリエステルフィルムから剥離した幅25mm×長さ25mmの粘着シートを貼り付け、その上に厚さ100μmのアルミ箔を2kgのローラーで圧着した。その後アルミ箔の端部を引張試験機で10mm/分の速度で引張り、その最大抵抗値を剪断力とした。
(2)剪断保持力上記(1)と同様にして作成した試験片のアルミ箔の端部に1kgの重りを吊し、100℃の雰囲気温度でアルミ箔とともに重りが落下するまでの時間を測定し、剪断保持力とした。なお、この測定は最大1週間(168時間)とした。
(3)剥離力厚さ100μmの二枚のアルミ箔の間に、剥離紙及びポリエテステルフィルムから剥離した幅25mm×長さ25mmの粘着シートを引張試験機で10mm/分の速度で90度角剥離方向に引張り、その最大抵抗値を剥離力とした。
(4)剥離保持力厚さ1.5mmの二枚のスチール板の間に、剥離紙及びポリエステルフィルムから剥離した幅20mm×長さ50mmの粘着シートを2kgのローラーで圧着した。その後スチール板の端部に1kgの重りを90度角剥離方向に吊し、100℃の雰囲気温度でスチール板とともに重りが落下するまでの時間を測定し、剥離保持力とした。なお、この測定は最大1週間(168時間)とした。


(発明の効果)
上述の通り、本発明方法は、(メタ)アクリル酸アルキルエステを主成分とするビニル系モノマーに光重合開始剤及び特定量の連鎖移動剤を添加した液状物を、基材に塗布又は含浸し、これに紫外線を照射して上記ビニル系モノマーを重合させるものであって、それより、特に剥離強度と定荷重での剥離保持強度との両方が改善され、その両方の強度のバランスに優れたアクリル系粘着テープもしくはシートを得ることができる。
したがって、本発明方法により得られる粘着テープもしくはシートは、従来、接着剤、ビス、ナット、溶接などで接合されていた各種構造部材の永久接合材として使用に耐え得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするビニル系モノマーに光重合開始剤及び上記ビニル系モノマー1モルに対して連鎖移動剤0.2×10-4〜10×10-4モルを添加してなる液状物に、紫外線を照射して上記ビニル系モノマーを重合させることを特徴とするアクリル系粘着テープもしくはシートの製造方法。

【公告番号】特公平7−78202
【公告日】平成7年(1995)8月23日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−262583
【出願日】昭和63年(1988)10月18日
【公開番号】特開平2−110180
【公開日】平成2年(1990)4月23日
【出願人】(999999999)積水化学工業株式会社
【参考文献】
【文献】特開昭62−34976(JP,A)