説明

アクリル重合体及びその製造方法

【課題】高い生産性を実現する過酷な重合条件又は成形条件下においても良好な成形性を示し、耐着色性及び熱安定性に優れた成形品を得ることが可能なアクリル重合体を提供する。
【解決手段】フラン環構造物の濃度が0.2ppm以下であり、有機酸の濃度が1ppm以下であるアクリル重合体及びアクリル重合体を得るための単量体原料を連続的に部分重合させて得られる部分重合溶液を脱揮押出機に供給して重合を完結させると同時に揮発物を分離除去させる、フラン環構造物の濃度が0.2ppm以下であり、有機酸の濃度が1ppm以下であるアクリル重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリル重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂は優れた光学的性質及び耐候性並びに高い機械的性質を持ち合わせているため、自動車用部品、照明器具、OA機器部品等に広く用いられている。更に、近年に於いては、LED光源の発展に伴い、薄型TV前面パネル用導光板等の光学用途にも広く用いられている。
【0003】
上記の各種用途に使用されるメタクリル系樹脂製品は、例えば、メタクリル系樹脂のキャスト板や押し出し成形、射出成形等による成形品を使用して得られる。
【0004】
上記の押出し成形や射出成形においては、通常200〜280℃の成形加工温度で生産されている。
【0005】
また、近年、光学部品が大型化されていることから、光学部品の製造方法として射出成形法や押出し成形法によって生産される機会が多くなっている。また、成形サイクルを短くして生産性を上げるために、成形温度を高くして樹脂の流動性を向上させる傾向にある。
【0006】
このように、近年、光学部品を得るために使用されるメタクリル系樹脂は多くの熱履歴を受ける傾向が高くなっている。
【0007】
一方で、メタクリル系樹脂を得るための単量体原料の1つであるメタクリル酸メチルの製造方法としては、硫安の副生を伴うACH法、硫安の副生を伴わない改良ACH法、C2成分又はC4成分の酸化法、メタクロレインとメタノールから直接メタクリル酸メチルを得る方法等の種々の工業的な製造方法が挙げられるが、近年では、硫酸を用いるACH法よりもC2成分又はC4成分の酸化法が多く用いられるようになってきた。
【0008】
メタクリル酸メチル中に含まれる不純物の種類や含有量は製法によって異なるが、特に光学部材用途にメタクリル系樹脂製品を使用する場合には、メタクリル酸メチル中に含まれる不純物の存在は、これまで問題視されなかった極微量の不純物でも重合時又は成形加工時において不純物の分解又は副反応による着色原因となり、問題となる場合がある。
【0009】
特に、メタクリル系樹脂を連続塊状重合や連続溶液重合により製造する場合には、得られた重合体を回収する際の未反応単量体や溶剤を除去するための処理で多くの熱履歴を受け、キャスト重合による製造の場合よりも着色が顕著となる。
【0010】
このような状況において、例えば、特許文献1には、上記のメタクリル酸メチルの製造法において発生する不純物である2,5−ジメチルフランの含有量が少ない(メタ)アクリル酸エステルを得るための精製方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−122826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1で得られる(メタ)アクリル酸エステルではキャスト重合によるメタクリル系樹脂製品の製造においては効果的であるが、連続塊状重合や連続溶液重合等の熱履歴をより多く受ける方法によるメタクリル系樹脂製品の製造においては充分とはいえない。
【0013】
本発明は、高い生産性を実現する過酷な重合条件又は成形条件下においても良好な成形性を示し、耐着色性及び熱安定性に優れた成形品を得ることが可能なアクリル重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要旨とするところは、フラン環構造物の濃度が0.2ppm以下であり、有機酸の濃度が1ppm以下であるアクリル重合体(以下、「本重合体」という)を第1の発明とする。
【0015】
また、本発明の要旨とするところは、本重合体を得るための単量体原料を連続的に部分重合させて得られる部分重合溶液を脱揮押出機に供給して重合を完結させると同時に揮発物を分離除去させる、フラン環構造物の濃度が0.2ppm以下であり、有機酸の濃度が1ppm以下である本重合体の製造方法を第2の発明とする。ここで、「部分重合」とは、単量体原料の一部を重合することをいう。
【発明の効果】
【0016】
本重合体は、連続塊状重合や連続溶液重合等の熱履歴をより多く受ける方法等の高い生産性を実現する過酷な重合条件又は成形条件下においても良好な成形性を示し、耐着色性及び熱安定性に優れた成形品を得ることが可能であることから、自動車用部品、照明器具、OA機器部品、各種導光体、映像系レンズ、光ディスク、光ファイバー、液晶モニター画面やコンピューター画面や各種TV前面パネル用の導光板等の光学部品等の各種用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0017】

フラン環構造物

本発明において、フラン環構造物は本重合体中に含まれる不純物の1つであり、本重合体中に0.2ppm以下含まれ得るものである。
【0018】
フラン環構造物は主として本重合体を得るための単量体(以下、「本単量体」という)を製造する際又は本重合体を製造する際の副生物として生成される化合物の1つである。
【0019】
フラン環構造物としては、例えば、フラン、2−メチルフラン、3−メチルフラン、フルフラン、2,3−ジヒドロ−4−メチルフラン及び2,5−ジメチルフランが挙げられる。これらは本重合体中に単独で又は混合物の形で含まれ得る。本発明においては、本重合体中の2,5−ジメチルフランの濃度は0.2ppm以下である。

有機酸

本発明において、有機酸は本重合体中に含まれる不純物の1つであり、本重合体中にメタクリル酸として換算されたときの濃度として1ppm以下含まれ得るものである。
【0020】
尚、本発明においては、本重合体中の有機酸の濃度はメタクリル酸の濃度に換算されたときの濃度をいう。
【0021】
有機酸は主として本単量体を製造する際又は本重合体を製造する際の副生物として生成される化合物の1つである。
【0022】
有機酸としては、例えば、メタクリル酸、ギ酸、酢酸及びプロピオン酸が挙げられる。

本重合体

本重合体は0.2ppm以下のフラン構造物及び1ppm以下の有機酸を含み得るものである。
【0023】
本重合体としては、例えば、メタクリル酸アルキルの単独重合体及びメタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルの共重合体が挙げられる。
【0024】
メタクリル酸アルキルとしては、例えば、メタクリル酸メチルが挙げられる。
【0025】
メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルの共重合体を得るための原料として使用されるアクリル酸アルキルとしては、例えば、炭素数が1〜8のアクリル酸アルキルが挙げられる。
【0026】
炭素数が1〜8のアクリル酸アルキルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル及びアクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0027】
本発明においては、本重合体として、本重合体の耐熱性、耐薬品性及び流動性の点で、メタクリル酸メチル単位90〜100質量%及び炭素数が1〜8のアクリル酸アルキル単位0〜10質量%を含有する重合体が好ましい。
【0028】
本重合体の製造方法としては公知のラジカル重合方法が挙げられる。
【0029】
本重合体をラジカル重合により製造する際には、本単量体中に重合開始剤や連鎖移動剤を含有することができる。
【0030】
重合開始剤としては、例えば、金属錯体からなる触媒及びラジカル重合開始剤が挙げられる。
【0031】
上記の化合物の中で、本重合体中に金属原子が残存することによる着色防止の点で、ラジカル重合開始剤が好ましい。
【0032】
ラジカル重合開始剤の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;及びtert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサネート、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサネート等の有機過酸化物が挙げられる。
【0033】
連鎖移動剤としては、例えば、アルキルメルカプタンが挙げられる。
【0034】
アルキルメルカプタンの具体例としては、n−プロピルメルカプタン、イソブチルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ヘプチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン及びtert−ドデシルメルカプタンが挙げられる。
【0035】
本発明においては、アルキルメルカプタンとしては、脱揮性及び臭気の点で、炭素数3〜9のアルキルメルカプタンが好ましく、脱揮性及び価格の点で、n−ブチルメルカプタン及びn−オクチルメルカプタンがより好ましい。
【0036】
本単量体中の連鎖移動剤の含有量としては、本単量体100質量部に対して0.05〜1.0質量部が好ましい。
【0037】
連鎖移動剤の含有量を0.05質量部以上、好ましくは0.1質量部以上とすることにより、本重合体を成形材料として使用することができる適度な分子量とすることができる傾向にある。また、連鎖移動剤の含有量を1.0質量部以下、好ましくは0.5質量部以下とすることで、硫黄停止末端量の増加による本重合体の耐熱分解性の向上と共に、本重合体中の硫黄系化合物の総量を抑制し、本重合体の分子量の低下を抑制して良好な強度を維持できる傾向にある。
【0038】
ラジカル重合開始剤及び連鎖移動剤を用いて本重合体を得る際には、ラジカル重合開始剤及び連鎖移動剤の使用量を調整すると共に、重合温度及び重合時間をコントロールすることが好ましい。
【0039】
上記の条件としては、開始剤量を少なくし連鎖移動剤を多くして、100〜150℃程度で1〜3時間重合する条件が好ましい。
【0040】
本発明においては、ラジカル重合法による本重合体の製造方法の具体例としては、連続塊状重合法、連続溶液重合法及びバッグ重合法が挙げられる。
【0041】
連続溶液重合法で本重合体を得る場合、得られた重合溶液から本重合体を回収する方法としては、例えば、溶媒再沈法が挙げられる。
【0042】
溶媒再沈法による本重合体の回収方法の具体例としては、重合体溶液をメタノール、ヘキサン等の貧溶媒中に添加して再沈、回収した後に乾燥する方法が挙げられる。
【0043】
連続塊状重合法による本重合体の回収方法の具体例としては、塊状重合後の液状物をペレット化して回収する方法が挙げられる。
【0044】
上記方法の中で、本重合体の耐熱分解性、製造操作性及び生産性の点で、例えば、特開昭58−88701号公報や特開2000−26507号公報に記載された連続塊状重合法での製造法が好ましい。
【0045】
連続塊状重合法による本重合体の製造方法の具体例としては、アクリル重合体を得るための単量体原料を連続的に部分重合させて得られる部分重合溶液を脱揮押出機に供給して重合を完結させると同時に脱揮により揮発物を分離除去させる方法が挙げられる。
【0046】
上記の連続塊状重合法による本重合体の製造方法における脱揮の方法としては、例えば、薄膜式脱揮法及び脱揮押出機による脱揮法が挙げられる。これらの中で、本重合体への熱履歴や生産性の点で、脱揮押出機による脱揮法が好ましい。
【0047】
本発明においては、本単量体を効率的に使用するために、揮発物を分離除去して集められた揮発物含有回収物をリサイクル原料として単量体原料中に投入することができる。
【0048】
本発明においては、本重合体中に、必要に応じて、離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染顔料等の各種添加剤を含有することができる。
【0049】
添加剤の添加方法としては、例えば、単量体原料に溶解する方法及び本重合体をペレット化する前に本重合体とブレンドする方法が挙げられる。

単量体原料

本発明において、単量体原料は本単量体並びに必要に応じて重合開始剤及び連鎖移動剤を含有する。
【0050】
本発明においては、例えば、連続塊状重合法等の連続重合法でメタクリル酸メチルを含有する単量体原料を重合する場合には、本単量体として使用されるメタクリル酸メチルに含まれる2,5−ジメチルフランの濃度としては30ppm以下が好ましい。
【0051】
また、連続塊状重合法でメタクリル酸メチルを含有する単量体原料を重合する場合には、空気酸化によりギ酸やホルムアルデヒドが生成されることから、本単量体を窒素置換等で脱酸素したものを使用することが好ましい。また、この方法における重合温度としては100〜180℃が好ましい。

部分重合溶液

本発明において、部分重合溶液は本重合体が本重合体を得るための単量体原料中に溶解した状態のシラップ状物である。
【0052】
部分重合溶液の重合率としては、脱揮効率及び生産効率の点で、40〜70%が好ましい。

脱揮押出機

本発明で使用される脱揮押出機としては、例えば、脱揮のためのベント部を有するスクリュー式押出機が挙げられる。
【0053】
脱揮押出機における脱揮部の温度としては重合温度と同等かそれ以上が好ましい。
【0054】
尚、脱揮部とは、脱揮押出機の上流に位置し、部分重合溶液であるシラップ状物から本重合体を効率良く分離するための部分を指す。
【0055】
本発明においては、脱揮押出機における脱揮部の温度としては190〜300℃が好ましく、190〜260℃がより好ましい。脱揮部の温度を190℃以上とすることにより、効率的な脱揮を実施できる部分重合体溶液の流動性が得られる傾向にある。また、脱揮部の温度を300℃以下とすることにより、本重合体の分解を抑制でき、また効率的な脱揮を実施できる部分重合体溶液の粘度を維持できる傾向にある。
【0056】
本発明においては、脱揮押出機における脱揮部の減圧度としては10〜80torrが好ましい。脱揮部の減圧度を10torr以上とすることにより本重合体中の不純物の除去率を良好とすることができる傾向にある。

揮発物含有回収物

本発明において、揮発物含有回収物は、単量体原料を連続的に部分重合させて得られる部分重合溶液を脱揮押出機に供給して重合を完結させる際に、部分重合溶液中の揮発成分が分離除去されて脱揮押出機の系外に集められたものである。
【0057】
揮発物含有回収物は、リサイクル原料として単量体原料中に投入される場合には、例えば、得られる本重合体中のフラン環構造物及び有機酸の濃度を低減するために、吸着樹脂、イオン交換樹脂又はアミン成分で処理されることが好ましい。
【0058】
連続的な本重合体の生産を行う場合、回収された揮発物含有回収物を貯槽に一時保管し、前記回収物を含まない単量体と混合して使用する。連続重合法により本重合体を製造する場合の揮発物含有回収物の使用回数としては、前記貯槽に回収した前記回収物の満液に相当する液量が連続塊状重合容器から脱揮押出機における脱揮部までの全工程を通過した場合を1回とする。本重合体の連続的な生産を行う場合、前記回収物中の未反応の本単量体と、新たに投入される前記回収物を含まない本単量体との比率、及び前記使用回数は、重合体原料の重合反応器内又は脱揮押出機内における熱履歴等により調整する。原料単量体中の前記回収物の含有率は、10〜40質量%の範囲とすることが好ましい。
【0059】
上記の揮発物を分離除去して集められた揮発物含有回収物を複数回使用した連続塊状重合による生産を実施する場合、本重合体を使用した成形品の黄帯色の抑制の点で、単量体原料中の2,5−ジメチルフランの濃度(ppm×10−6)、押出機における脱揮部の絶対温度(K)及び連続重合期間(日数)の各数値の乗数(以下、「連続運転乗数」という)を2以下とすることが好ましく、1以下とすることがより好ましい。すなわち、単量体原料中の2,5−ジメチルフランの濃度、押出機における脱揮部の絶対温度、及び連続重合期間の内の少なくとも一つを小さくして連続運転乗数を2以下とすることにより、黄帯色を抑えることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を説明する。尚、実施例及び比較例中の「部」及び「%」は夫々「質量部」及び「質量%」を示す。また、以下の実施例及び比較例における単量体又はアクリル重合体中の2,5−ジメチルフランの濃度及び有機酸の濃度並びに本重合体を使用して得られる成形品の黄色度(YI値)の評価は以下の方法により実施した。
(1)2,5−ジメチルフランの濃度
単量体又はアクリル重合体のペレットの一定量をアセトンに溶解した溶液を試料として、2,5−ジメチルフランの濃度をアジレント・テクノロジー(株)製ガスクロマトグラフィー質量分析計(商品名:HP−6890/HP−5973)を用いて測定した。
【0061】
測定に際しては、内部標準物質の強度に対する2,5-ジメチルフランの強度を基に予め作成した検量線を使用して2,5−ジメチルフランの濃度を求めた。
(2)有機酸の濃度
単量体又はアクリル重合体のペレットの一定量をアセトンに溶解した後にメタノールを少量加えた溶液を試料として、平沼産業(株)製自動滴定装置(商品名:COM550)を用い、窒素雰囲気における中和滴定法によりメタクリル酸としての有機酸の濃度を求めた。
(3)YI値
東芝(株)製射出成形機(商品名:IS80FPA3)を用いて、200mm×30mm×10mmの金型を取り付け、シリンダー温度250℃、金型温度50℃及び成形サイクル100秒の条件で射出成形を行い、成形品を得た。
【0062】
(株)日立製作所製分光光度計(商品名:U−4100型)を用いて上記成形品の長手方向における波長範囲250〜800nmの光の透過率を測定し、YI値を算出した。
(4)リサイクル単量体の処理
リサイクル単量体に含有する2,5−ジメチルフランは、例えば特開2001−122826号公報に準じ、架橋型吸着樹脂(オルガノ社製XAD−2000)を充填した固定相を用いて通液処理し低減された。また有機酸は、例えば特開2004−123896号公報に準じ、スチレン系弱塩基性陰イオン交換樹脂(Rohm and Haas製Amberlite IRA96SB)を充填した固定相を用いて通液処理し低減された。
[実施例1]
2,5−ジメチルフランの濃度が0.1ppm未満であり、有機酸の濃度が1ppm未満のメタクリル酸メチル(MMA)95%及びアクリル酸メチル(MA)5%の単量体混合物100部に1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.005部及びn−オクチルメルカプタン0.25部を添加した単量体原料の溶液を窒素置換法により脱酸素した。
【0063】
次いで、脱酸素された単量体原料の溶液を、平均滞留時間2時間の速度で連続的に重合反応器に供給し、重合温度135℃で重合し、部分重合溶液を得た。部分重合溶液の重合率は50%であった。
【0064】
得られた部分重合溶液を、脱揮部の温度を240℃に設定し、脱揮部の減圧度を10〜80torrに設定し、押出し温度を240℃に設定したφ30mmの脱揮押出機((株)日本製鋼所製)中に供給し、揮発物を脱揮させながら得られた重合体をペレット化した。ペレット中の2,5−ジメチルフラン(DMFu)の濃度は0.1ppm未満であり、有機酸の濃度は1ppm未満であった。また、上記ペレットを使用して得られる成形品のYI値は2.8であった。
【0065】
尚、脱揮により回収された揮発物含有回収物はリサイクル原料として使用しなかった。
【0066】
【表1】

表1中の略号は以下の化合物を示す。
MMA:メタクリル酸メチル
MA:アクリル酸メチル
DMFu:2,5−ジメチルフラン
[実施例2〜4、7及び比較例1〜3]
表1に示す濃度のDMFu及び有機酸を含有するMMAを使用する以外は実施例1と同様にしてアクリル重合体とその成形品を得た。得られたアクリル重合体中のDMFu及び有機酸の濃度及び成形品のYI値の評価結果を表1に示す。
[実施例5]
実施例1と同様にして連続重合及び脱揮押出しを30日間連続して実施した。
【0067】
脱揮押出機から脱揮されて連続的に回収される揮発物含有回収物を、不純物の除去のために、オルガノ(株)製架橋型吸着樹脂(商品名:XAD−2000)を充填した固定相中に空間速度(SV)5/時間にて通液した。続いてRohm and Haas社製スチレン系弱塩基性陰イオン交換樹脂(商品名:Amberlite IRA96SB)を充填した固定相中に空間速度SV=10/時間で通液した後に、脱酸素された単量体混合物の溶液中に連続投入し、重合及びペレット化を実施した。
【0068】
揮発物含有回収物が連続投入された単量体混合物中のDMFuの濃度は25ppm(MMA中の濃度26.3ppm)であり、有機酸の濃度は5ppm(MMA中の濃度5.3ppm)であった。このときの連続運転乗数は1であった。計算式は以下の通りである。
【0069】
25(ppm)×10−6×(273+240)(K)×30(日)=0.38
また、連続運転30日目に得られたアクリル重合体中のDMFu及び有機酸の濃度及び成形品のYI値の評価結果を表1に示す。
[実施例6]
脱揮押出機における脱揮部の温度を290℃とする以外は実施例5と同様にしてアクリル重合体とその成形品を得た。このときの連続運転乗数は1であった。
【0070】
また、連続運転30日目に得られたアクリル重合体中のDMFu及び有機酸の濃度及び成形品のYI値の評価結果を表1に示す。
[比較例4]
脱揮押出機から脱揮されて連続的に回収される揮発物含有回収物について架橋型吸着樹脂とスチレン系弱塩基性陰イオン交換樹脂による処理を実施しなかった。それ以外は実施例5と同様にしてアクリル重合体とその成形品を得た。このときの連続運転乗数は77であった。また、単量体原料におけるMMA中のDMFu及び有機酸の濃度を表1に示す。
【0071】
また、連続運転30日目に得られたアクリル重合体中のDMFu及び有機酸の濃度及び成形品のYI値の評価結果を表1に示す。
[比較例5]
脱揮押出機における脱揮部の温度を310℃とする以外は比較例4と同様にしてアクリル重合体とその成形品を得た。このときの連続運転乗数は77であった。また、単量体原料におけるMMA中のDMFu及び有機酸の濃度を表1に示す。
【0072】
また、連続運転30日目に得られたアクリル重合体中のDMFu及び有機酸の濃度及び成形品のYI値の評価結果を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明により得られるアクリル重合体は、良好な成形性を示し、耐着色性及び熱安定性に優れた成形品を得ることができ、各種用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラン環構造物の濃度が0.2ppm以下であり、有機酸の濃度が1ppm以下であるアクリル重合体。
【請求項2】
フラン環構造物が2,5-ジメチルフランを主成分とするものである請求項1に記載のアクリル重合体。
【請求項3】
アクリル重合体がメタクリル酸メチル単位90〜100質量%及び炭素数が1〜8のアクリル酸アルキル単位0〜10質量%を含有する重合体である請求項1又は2に記載のアクリル重合体。
【請求項4】
アクリル重合体を得るための単量体原料を連続的に部分重合させて得られる部分重合溶液を脱揮押出機に供給して重合を完結させると同時に揮発物を分離除去させる、フラン環構造物の濃度が0.2ppm以下であり、有機酸の濃度が1ppm以下であるアクリル重合体の製造方法。
【請求項5】
揮発物を分離除去して集められた揮発物含有回収物をリサイクル原料として単量体原料中に投入する請求項4に記載のアクリル重合体の製造方法。
【請求項6】
フラン環構造物が2,5-ジメチルフランを主成分とするものである請求項4に記載のアクリル重合体の製造方法。
【請求項7】
アクリル重合体を得るための単量体として2,5−ジメチルフランの濃度が30ppm以下であるメタクリル酸メチルを使用する請求項6に記載のアクリル重合体の製造方法。
【請求項8】
アクリル重合体がメタクリル酸メチル単位90〜100質量%及び炭素数が1〜8のアクリル酸アルキル単位0〜10質量%を含有する重合体である請求項4〜7のいずれかに記載のアクリル重合体の製造方法。
【請求項9】
単量体原料中の2,5−ジメチルフランの濃度(ppm×10−6)、脱揮押出機における脱揮部の絶対温度(K)及び連続重合期間(日数)の各数値の乗数が2以下である請求項5に記載のアクリル重合体の製造方法。
【請求項10】
脱揮押出機における脱揮部の温度が190〜300℃である請求項4〜9のいずれかに記載のアクリル重合体の製造方法。
【請求項11】
重合温度が100〜180℃である請求項4〜10のいずれかに記載のアクリル重合体の製造方法。
【請求項12】
脱揮押出機における減圧度が10〜80torrである請求項8〜11のいずれかに記載のアクリル重合体の製造方法。

【公開番号】特開2012−251064(P2012−251064A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124108(P2011−124108)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】