説明

アクロレインポリマー、その製法、物質の保存法及び殺生物剤

【目的】 物理化学的データ:次の重量平均
【数1】


[式中、ni=モル数及びMi=分子量である]
Mw:2000〜6000Dカルボニル含分:0.5〜5モル/ポリマーkgを有するアクロレインホモポリマー。
【構成】 アクロレイン及び触媒を同時に、予め装入された反応媒体に、反応媒体の温度が25℃を上回らず、かつ反応媒体のpH値が10〜11であるように添加し、添加の終了後に後撹拌し、かつアクロレインポリマーを分離する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アクロレインポリマー、その製法、アクロレインポリマーの使用下での物質の保存法並びにアクロレインポリマーを含有する殺生物剤に関する。
【0002】
【従来の技術】モノマーのアクロレイン(2−プロペナール)を、非常に有効な殺生物剤(Biozid)として水道管中で、不所望な藻−及び植物成長に対して使用することは公知である。同様に、これは、石油探鉱の際の硫酸塩還元菌の防除のために使用することができる。
【0003】モノマーのアクロレインの殺生作用のための更なる使用範囲は、従来、その高い反応性の故に開発されていない。不適当な処理の際に自発的に及び場合により爆発的に重合するその傾向の故に、これは、特別な安全措置下でのみ取扱われ得る。これは、呼吸器及び目に対する強い刺激作用を有する。安定化された形でも、アクロレインは、制限的にのみ貯蔵可能である。
【0004】アクロレイン及びホルムアルデヒドをモル比1:1〜1:10で、塩基性触媒の存在下に縮合させることにより製造された、アクロレインとホルムアルデヒドとのコポリマーを、水性系用の殺生物剤として使用することは公知である(ドイツ特許(DE−B)第3205487号明細書)。公知のホルムアルデヒドを有するアクロレインのコポリマーは、約15%のホルムアルデヒドを含有するという欠点を有する。
【0005】アクロレインのホモポリマーを、殺生物剤として使用することは公知である(ヨーロッパ特許(EP−A)第0339044号明細書)。重合は、主としてラジカル的に又はイオン的に、水酸化ナトリウム溶液を用いて実施される。
【0006】アクロレインのラジカル的に生じたホモポリマーは、不利に、有機媒体中に又は水中に実際に溶けず、かつ水性懸濁液の形では非常に低い生物学的活性を示すのみである。ヨーロッパ特許(EP−A)第0339044号明細書の例1bに記載された陰イオン重合されたアクロレインも、水性懸濁液中で微生物に対し不充分な作用を示すのみである。
【0007】記載のメチルアルコールへの溶解は、毒物学的理由から、市場性のある製品の製造のためには不適当である。これは、中程度の殺生物効果を示すのみでもある。
【0008】ヨーロッパ特許(EP−A)第0339044号明細書に記載された、触媒をアクロレイン溶液に添加する方法は、これにより自発的に発生する強い発熱性反応の故に技術的に実施不可能である。
【0009】
【発明の構成】従って、毒物学的に問題が無く、かつ安全であり、かつ高い殺生物作用を有するアクロレインポリマーを製造する課題が存在する。
【0010】本発明の目的物は、次の物理化学的パラメーターを有するアクロレインポリマーである:重量平均
【0011】
【数2】


【0012】[式中、ni=モル数及びMi=分子量である]
Mw: 2000〜6000Dカルボニル含分: 0.5〜5モル/ポリマーkg。
【0013】本発明のもう1つの課題は、アクロレインポリマーの製法であり、これはアクロレイン及び触媒を、予め装入された反応媒体に同時に、反応媒体の温度が25℃を上回らず、かつ反応媒体のpH値は10〜11であるように添加し、添加の終了後に後撹拌し、かつアクロレインポリマーを分離することよりなる。
【0014】反応媒体として、本発明の有利な1実施形では、水を使用することができる。触媒として、0.01〜10モル/lの濃度を有する水酸化ナトリウム水溶液を使用することができる。反応媒体の温度は、有利に20〜25℃であってよい。アクロレインと触媒との比は、1:0.0001〜1:0.05であってよい。後撹拌時間は、1〜3時間、有利に、1〜2.5時間であってよい。
【0015】次いで、得られた約5〜約30%の含分を有する水性ポリアクロレイン分散液から、反応の間のpH値調節が必要な範囲にある場合に、容認し得る空時収率で固体が単離可能である。慣用の構成の遠心分離機を用いて、このポリマーは、良好に遠心分離でき、かつなお付着しているアクロレインを、水を用いての注意深い洗浄により除去できる。
【0016】遠心分離機から取り出された、約35%の水含分を有するなお湿っている生成物は、40〜50℃で、短時間内に多量の多価アルコール、例えば、プロピレングリコール、ブチレングリコール並びに一般式:HO(CH2CH2O)nHのグリコール中に良好に溶かすことができる。エチレン−及びプロピレングリコール、そのオリゴマー又はエーテルを使用するのが有利である。こうして製造された溶液は、ポリマー30重量%までの含分を有することができる。これは、澄明で無色であるか、又は淡黄色である。更に、この(HO(CH2CH2O)nH)中の溶液は無害で、ほとんど無臭で、かつ有効な殺生物剤である。
【0017】双極性の非プロトン性溶剤、例えばアセトン、ジメチルスルホキシド、メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、テトラメチル尿素は、同様に、このポリマー用の良好な溶剤であり得る。
【0018】多くの分野、例えば、染料分散液、膠、織物助剤、ろうエマルジョン、木材保護ラッカー等の保存のための使用の際に、この溶液は、撹拌下で均質に分配され得る。
【0019】湿っている遠心分離生成物の乾燥殺生物活性粉末への移行は、工業的に、有利に真空中で操作される円盤乾燥機の使用により可能である。個々の円盤上の比較的低い積載高さ及び撹拌棒による注意深い作動により、非常に微細な生成物を得ることができる。乾燥機を20〜50℃の温度で、1〜100ミリバールの圧力下で作動させる。
【0020】乾燥問題のもう1つの解決を、流動層乾燥機の使用により発見した。これは、高い空気流量及び個々の生成物粒子同士の激しい機械的摩擦に基づき、更なる粉砕を必要とせず直接詰めることのできる、非常に微細な粉末をもたらす。
【0021】流動層乾燥の際に、まず低温から開始し、かつこれを段階的に上昇させる温度プログラムを使用するのが有利である。室温で開始し、かつ乾燥温度を75℃まで上昇させるのが有利である。この乾燥法により得られたポリマーは、数マイクロメーターの一次粒径を有する淡黄色粉末として存在する。
【0022】保存剤又は殺生物剤としての本発明のアクロレインポリマーの使用は、直接添加により可能であるが、この場合も溶液を前記のタイプの多価アルコール中で使用するのが有利であり得る。この溶液の水性媒体中への注入は、ポリマーの沈殿を生ぜしめ、これは不充分な均質化の場合に、殺生物作用を減少させ得る。
【0023】意外にも、少量の無機又は有機塩基をアルコール溶液に添加することにより、ほんの僅かなチンダル−効果を有する水希釈可能な又は少なくとも微分散性の系が得られることが判明した。10重量%ポリマー溶液1kgに対して、塩基0.05〜0.1モルを使用することができる。通常、水溶液中の水酸化ナトリウムを使用するが、Na−アルキレートも使用することができる。付加的に改良された可溶性のために、殺菌作用の明らかな上昇が短時間試験で発見された。ヒドロキシルイオンによる溶液の活性化にも言及することができる。ポリアクロレインのこの特性は、意外なかつ予測され得ない程度に乾燥条件に依存している。室温又は≦60℃で乾燥され、かつ場合により粉砕された生成物は、塩基添加による可溶化の効果を示さない。強い空気流中、最終温度>60℃、有利に75℃で本発明の方法により乾燥された試料のみがアルカリ可溶性である。
【0024】本発明のもう1つの課題は、物質の保存法であり、これは、本発明のアクロレインポリマーを添加することよりなる。
【0025】殊に、本発明のアクロレインポリマーを、次の物質に添加することができる:プラスチック分散液、木材、ファサード及び壁のカビを予防するための消毒液、壁塗料、染料糊及びペースト、封止剤、膠着色剤、木材防腐ラッカー、接着剤エマルジョン、皮革膠、骨膠、澱粉膠、カゼイン膠、デキストリン接着剤、塩皮、酸洗液、乾燥皮、皮なめし用タンニン液、湿潤クロム塩なめし皮、処理皮、紡糸浴、ろうエマルジョン、洗剤原料、織物仕上げ剤(抗菌)、織物光沢剤、紙/ボール紙(抗菌)、PVC−被覆剤(抗菌)、旋盤−及び切削油(希釈)、旋盤−及び切削油(濃縮)、木材貯蔵剤、セルロース繊維(防腐)、接着セメント、船用塗料、液体清浄剤。
【0026】この場合、本発明のアクロレインポリマーを、0.01〜0.3重量%の量で物質に添加する。
【0027】本発明のもう1つの課題は、本発明のアクロレインポリマーを含有する殺生物剤である。この場合、殺生物剤は、多価アルコール、例えばエチレングリコール中に溶けている(例えば、10%溶液)本発明のアクロレインポリマーを含有していてもよい。付加的に、この殺生物剤は、酸化剤、例えばH22又は過酢酸及び場合によりアルカリ金属水酸化物、例えばNaOHを含有することができる。
【0028】本発明のもう1つの実施形では、この殺生物剤は、無機又は有機塩基、例えば、NaOH又はナトリウムアルキレート(例えば、ナトリウムメチレート)を含有してもよい。この殺生物剤は、本発明のアクロレインポリマーを水中の20%分散液で含有することができる。
【0029】主として水性系及び添加の間の不充分な混合の場合に、溶かされたポリマーは粗大粒子として沈殿し、かつ減ぜられた殺生物作用の原因となる。
【0030】ところで、グリコール含有ポリマー溶液は、僅かな量の酸化剤、例えば過酸化水素又は過酢酸を用いる処理により、場合によりいくらかの水酸化ナトリウムの後の添加により、沈殿により起こり得る欠点を有さない水中に可溶な又は微分散性の系を生ずるように変性することができることが判明した。酸化剤の添加量は、固体ポリマー100gを含有する10重量%ポリマー溶液に対して、純粋な酸化剤0.1モル〜0.4モル、有利に0.2モル〜0.3モルである。場合により添加されるアルカリは、有利に0.05〜0.1モル(NaOHとして)の量で使用される。
【0031】
【実施例】
例 1(比較例)
ヨーロッパ特許(EP−A)第0339044号明細書に記載の例1bをまねて操作し、かつ得られた乾燥ポリアクロレインをメタノール中に溶かす(作用物質含分10%)。溶液の1部を蒸発濃縮させ、かつ再びメタノール中に入れる(ヨーロッパ特許(EP−A)第0339044号明細書例1a参照):このヨーロッパ特許(EP−A)第0339044号明細書に記載の方法は、工業的製造のための安全理由を欠いている。他方、触媒、一般に、水性無機塩基又は塩基性アミンを予め装入し、かつ著しい外部冷却下で、アクロレインを反応器中の温度が25℃を上回らないように添加する場合に、その結果、本発明の溶剤中に難溶性であるか又は完全には溶けない無色から淡黄色の沈殿物が得られる。高められた温度(80℃)でも、不溶のポリマー分が残留する。更に、高い温度負荷は、この溶液の不所望な変色をもたらす。
【0032】例 2(本発明による)
水330ml及び1N−NaOH2.0mlを予め装入し、かつ5〜20℃の冷却下でアクロレイン120ml及び水60mlを用いて希釈された1N−NaOH6.8mlを、約30分かけて均等に配量導入する。室温で1時間後撹拌し、固体ポリマーを分離し、これを水を用いて注意深く洗浄し、かつこのポリマーを撹拌下で45〜50℃まで加熱されたエチレングリコール700g中に入れる。約30〜60分で、10%の作用物質含分を有する澄明な淡黄色ポリマー溶液が得られる。この溶液を水に注入すると、著しい沈殿を生ずる。
【0033】分離後に室温、真空中で乾燥されたポリマーは、0.7モル/kgのカルボニル含分及びMw=3500Dの重量平均を有する。
【0034】例 3例2により製造されたポリアクロレイン溶液100gに、20〜25℃で、30重量%H22溶液4.5mlを添加し、かつ70〜75℃に加熱する。溶液をこの温度で1〜2時間放置する。この溶液を水へ注入すると、ほんの僅かな混濁が認められる。H22を用いての後酸化は、水性系への改良された可溶性をもたらす。
【0035】例 4水125lを予め装入し、かつ1%NaOH−溶液5lを添加する。この溶液を+5℃まで冷却する。アクロレイン25l及び1%NaOH−溶液5lを、内部温度が+25℃を上回らないように添加する。反応混合物を更に2時間撹拌し、かつ引き続き遠心分離する。固体を遠心分離機上で洗浄し、かつ冷却させた。
【0036】湿ったポリマー24kgが得られ、これを2つに分けて次のプログラムにより、流動層乾燥機中で乾燥させる:1時間 25℃1時間 35℃3時間 75℃2.2モル/kgのカルボニル含分及びMw=4000Dの重量平均を有する乾燥されたポリマー合計15kgが得られる。
【0037】例 5例4により製造されたポリマーを加熱下にエチレングリコール中に溶かし、かつこの10%溶液100gに、NaOH200mg(少量の水に溶解)又は固体NaOCH3300mgを添加する。水中への注入の際にアルカリ処理されていない溶液が、ポリマーアクロレインの著しい析出を示すのに対し、OH~を用いて処理された溶液は、僅かな混濁を示すのみである。このことは、水中への可溶性が、OH~−イオンの添加により改良されることを意味する。
【0038】製造された試料の殺微生物作用を、いわゆる時間−殺生−試験(Time-Kill-Test;TKT)で測定する。このアメリカ石油協会の推奨(APIRP38 2nd ed.,Dec.1965)により実施される試験では、高濃度細菌懸濁液(細菌数106〜108)に所望の量の殺生物剤を添加し、かつ25℃で24時間培養する。引き続き、失活化させ、かつ6までの幾何学的希釈列(geometrische Verduennungsreihe)を実施する;それぞれ1mlを、プレート上の栄養寒天10mlと混合し、かつ37℃で48時間培養する。コロニー数を数えることにより死亡率を計算する。
【0039】この際、評価を次のように実施した:2つの価(2重測定)から数学平均値をだす。評価数と称される、TKT(24h)での1定時間当りの細菌減少数KRtを、次式を用いて計算する:KRt=logKBE(対照)−logKBE(D)
KBE(対照)=試料の作用のないKBE数/ml(0−試料)
KBE(D)=試料の作用後のKBE数/ml良好な作用のためには、少なくとも5log−段階の減少を達すべきである。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 アクロレインポリマーにおいて、次の物理化学的パラメータ:重量平均
【数1】


[式中、ni=モル数及びMi=分子量である]
Mw: 2000〜6000Dカルボニル含分: 0.5〜5モル/ポリマーkgを有することを特徴とする、アクロレインポリマー。
【請求項2】 アクロレイン及び触媒を同時に、予め装入された反応媒体に反応媒体の温度が25℃を上回らず、かつ反応媒体のpH値は10〜11であるように添加し、添加の終了後に後撹拌し、かつアクロレインポリマーを分離することを特徴とする、請求項1に記載のアクロレインポリマーの製法。
【請求項3】 物質に請求項1に記載のアクロレインポリマーを添加することを特徴とする、物質の保存法。
【請求項4】 アクロレインポリマーを次の物質:プラスチック分散液、木材、ファサード及び壁のカビを予防するための消毒液、壁塗料、染料糊及びペースト、封止剤、膠着色剤、木材防腐ラッカー、接着剤エマルジョン、皮革膠、骨膠、澱粉膠、カゼイン膠、デキストリン接着剤、塩皮、酸洗液、乾燥皮、皮なめし用タンニン液、湿潤クロム塩なめし皮、処理皮、紡糸浴、ろうエマルジョン、洗剤原料、織物仕上げ剤(抗菌)、織物光沢剤、紙/ボール紙(抗菌)、PVC−被覆剤(抗菌)、旋盤−及び切削油(希釈)、旋盤−及び切削油(濃縮)、木材貯蔵剤、セルロース繊維(防腐)、接着セメント、船用塗料、液体清浄剤に添加することを特徴とする、請求項3に記載の保存法。
【請求項5】 請求項1に記載のアクロレインポリマーを含有する、殺生物剤。
【請求項6】 アクロレインポリマーが、多価アルコール中に溶解している、請求項5に記載の殺生物剤。
【請求項7】 酸化剤及び水酸化ナトリウムを含有してもよい、請求項5又は6に記載の殺生物剤。
【請求項8】 有機又は無機塩基を含有する、請求項5又は6に記載の殺生物剤。