説明

アゴニスト剤及び医薬組成物

本発明は、脂肪蓄積、糖尿病、高脂血症などの脂質、糖質代謝異常を低減、予防可能な医薬品、組成物を提供することにある。本発明のペルオキシソーム増殖剤応答性受容体アゴニスト剤は、分子内にイソプレン骨格構造を有するモノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、若しくはそれらのエステル誘導体を有効成分とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アゴニスト剤、とくに、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体用アゴニスト剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)は、リガンドが不明ないわゆるオーファン受容体であった。しかし、そのリガンドが、薬理的な作用、特にフィブラート系薬剤のごとく中性脂肪低下作用などの脂質代謝、さらにはチアゾリジン誘導体のごとくインスリン抵抗性の改善による糖質代謝にまで広範で顕著な効果を示すことが判明以来、急速な進展が見られている。
【0003】
その結果、生活習慣病発症と関連する内分泌・代謝さらには血管機能や炎症などの循環器系や発がんの調節機構にも関わる多機能で主導的役割を有する重要な受容体として位置づけられるようになってきた。
【0004】
一方で、糖質代謝、脂質代謝の異常や体脂肪、内臓脂肪の過剰蓄積は、糖尿病、高脂血症、動脈硬化症、脂肪肝、心疾患等の性格習慣病の重要なリスクファクターであることが知られている。加えて、高齢化社会の到来により生活習慣病の予防、治療に有効な医薬品、飲食品の必要性が増加している。また、愛玩動物においても肥満、糖尿病が問題となっている。
【0005】
そして、近年の肥満研究の成果により、体脂肪の低下は、糖尿病や動脈硬化症の発症を低減させること、特に内臓脂肪蓄積型の肥満を改善すると生活習慣病の病態が顕著に改善し、また発症予防効果があることが明らかにされてきている。さらには、肝臓での脂質代謝を高めることにより効果的に高脂血症を改善できることが示されている。
【0006】
このような状況下、PPARαのリガンドとしてPPARαに対する親和性を有する化合物にはアラキドン酸の代謝物であるLTBの他にシトクロームP−450による酸化を介して生じるHETE(ヒドロキシエイコサテトラエン酸)群のエイコサノイド、特に8−HETE、8−HEPE等が知られている(Proc.Natl.Acad.Sci.,1997,94,312)。
【0007】
【非特許文献1】 Proc.Natl.Acad.Sci.,1997,94,312
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のHETE(ヒドロキシエイコサテトラエン酸)群のエイコサノイド、特に8−HETE、8−HEPE等の内因性の不飽和脂肪酸誘導体は代謝的にも化学的にも不安定であり、医薬として供することはできない。
【0009】
したがって、生活習慣病を低減、予防できる医薬品、飼料の開発が望まれていた。しかし、このような脂肪蓄積、糖尿病、高脂血症などの脂質、糖質代謝異常を低減、予防できる有効な生理活性物質、医薬品、及び組成物等はこれまで存在しない。
【0010】
そこで、本発明は、脂肪蓄積、糖尿病、高脂血症などの脂質、糖質代謝異常を低減、予防可能な医薬品、組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)に対する作用物質の薬理作用に着目し、特に、分子内にイソプレン骨格構造を有するカルボン酸及びアルコールについて検討した結果、本発明のアゴニスト剤、医薬組成物を見出すに至った。
【0012】
すなわち、本発明のペルオキシソーム増殖剤応答性受容体アゴニスト剤は、分子内にイソプレン骨格構造を有するモノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、若しくはそれらのエステル誘導体を有効成分とすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のペルオキシソーム増殖剤応答性受容体アゴニスト剤の好ましい実施態様において、前記モノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、又はそれらのエステル誘導体が、ビキシン、ノルビキシン、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール、又はそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の代謝改善用医薬組成物は、分子内にイソプレン骨格構造を有するモノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、若しくはそれらのエステル誘導体を有効成分とすることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の代謝改善用医薬組成物の好ましい実施態様において、前記モノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、又はそれらのエステル誘導体が、ビキシン、ノルビキシン、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール、又はそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の代謝改善用医薬組成物の好ましい実施態様において、代謝が、糖代謝、脂質代謝、エネルギー代謝からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の代謝改善用医薬組成物の好ましい実施態様において、代謝改善が、脂肪組織の脂質低下であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の代謝改善用医薬組成物の好ましい実施態様において、脂肪組織が、副精巣周囲、腎周囲、腸管膜、腹腔内(内臓)からなる群から選択される少なくとも1種由来のものであることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のペルオキシソーム増殖剤応答性受容体パーシャルアゴニスト剤は、分子内にイソプレン骨格構造を有するモノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、若しくはそれらのエステル誘導体を有効成分とすることを特徴とする。
【0020】
また、本発明のペルオキシソーム増殖剤応答性受容体パーシャルアゴニスト剤の好ましい実施態様において、前記モノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、又はそれらのエステル誘導体が、ビキシン、ノルビキシン、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール、又はそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のペルオキシソーム増殖剤応答性受容体アゴニスト剤(いわゆるパーシャルアゴニスト作用を有するアゴニスト剤をも含む。)は、分子内にイソプレン骨格構造を有するモノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、若しくはそれらのエステル誘導体を有効成分とする。分子内にイソプレン骨格を有することとしたのは、それが天然物由来、若しくはそれらの誘導体であるという観点からである。また、イソプレン骨格構造を有するものとしては、カルボン酸、若しくはアルコール、又はそれらの塩若しくはエステル誘導体を挙げることができる。これらとしたのは、それが天然物由来、若しくはそれらの誘導体であるという観点からである。
【0022】
なお、本発明のアゴニスト剤には、低濃度領域ではアゴニストとして作用し、高濃度領域ではアンタゴニストとして作用する、いわゆるパーシャルアゴニストをも含まれる。
【0023】
また、好ましい実施態様において、前記モノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、又はそれらのエステル誘導体が、ビキシン、ノルビキシン、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール、又はそれらの誘導体から選択される少なくとも1種を挙げることができる。ビキシン、ノルビキシン、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール、又はそれらの誘導体を挙げたのは、イソプレン骨格構造を有する化合物の中で、比較的強いPPARα及びγ活性が認められるという観点からである。特に、強いPPARα及びγ活性が認められるという観点から、ノルビキシン、ファルネソールピロリン酸、ゲラニルゲラニオールピロリン酸などを挙げることができる。特に、ファルネソールピロリン酸、ゲラニルゲラニオールピロリン酸は、それぞれのアルコール体よりも強力なアゴニスト活性を示すという観点から好ましい。
パーシャルアゴニスト作用が高いという観点から、パーシャルアゴニスト剤としては、ノルビキシンを挙げることができる。
【0024】
また、本発明の代謝改善用医薬組成物は、分子内にイソプレン骨格構造を有するモノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、若しくはそれらのエステル誘導体を有効成分とする。分子内にイソプレン骨格を有することとしたのは、それが天然物由来、若しくはそれらの誘導体であるという観点からである。また、イソプレン骨格構造を有するものとしては、カルボン酸、若しくはアルコール、又はそれらの塩若しくはエステル誘導体を挙げることができる。これらとしたのは、それが天然物由来、若しくはそれらの誘導体であるという観点からである。
【0025】
また、好ましい実施態様において、前記モノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、又はそれらのエステル誘導体が、ビキシン、ノルビキシン、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール、又はそれらの誘導体から選択される少なくとも1種を挙げることができる。ビキシン、ノルビキシン、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール、又はそれらの誘導体を挙げたのは、イソプレン骨格構造を有する化合物の中で、比較的強いPPARα及びγ活性が認められるという観点からである。特に、強いPPARα及びγ活性が認められるという観点から、ノルビキシン、ファルネソールピロリン酸、ゲラニルゲラニオールピロリン酸などを挙げることができる。特に、ファルネソールピロリン酸、ゲラニルゲラニオールピロリン酸が、生体内成分であるという観点から好ましい。
【0026】
また、本発明の代謝改善用医薬組成物の好ましい実施態様において、代謝が、糖代謝、脂質代謝、エネルギー代謝からなる群から選択される少なくとも1種である。これは、本発明の医薬組成物が、実際に、培養細胞及び実験動物を用いた評価系において、優れた代謝改善作用を有することが判明したことによる。代謝改善としては、例えば、脂肪組織の脂質低下、血糖低下、血中脂質低下、アディポネクチン値上昇等を挙げることができる。また、好ましい実施態様において、脂肪組織が、副精巣周囲、腎周囲、腸管膜、腹腔内(内臓)からなる群から選択される少なくとも1種由来のものであることを特徴とする。
【0027】
有効量
本発明による組成物は、有効的な量及び適当な投与形態の形で調製される。
【0028】
本発明のアゴニスト剤又は医薬組成物の投与量は、投与対象患者の病態及びその重篤度、投薬形態、選択した投与経路及び1日当たりの投与回数等により変更することができる。
【0029】
本発明の組成物におけるアゴニスト剤又は医薬組成物の投与量は、ラットにおいては少なくとも200mg/kg/日となる量であり、ヒトにおいては感受性の相違等により、更に低い量であることが好ましい。
【0030】
また、投与形態は、経口剤(タブレット、カプセル、被膜タブレット、顆粒、溶液、シロップ)、直腸投与用坐剤、注射等を挙げることができる。投与対象患者は、慢性疾患の場合が多く、長期投与の必要性、連用の容易性という観点から、好ましくは、口経剤である。
【0031】
投与形態には、従来の他の成分、例えば、安定保存剤、甘味料、着色剤、芳香料などを含むことができる。
【0032】
急性毒性試験
本発明のアゴニスト剤、又は医薬組成物の致死量は、(annatto extractとして)500mg/kgまで全く異常は認められていない(Food and Chemical Toxicology,40,1595−1601(2002))。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定して解釈される意図ではない。
【実施例1】
【0034】
以下、本発明で開発したビキシン、ノルビキシン、ファルネソール及びゲラニルゲラにオールとそれらの誘導体での具体例を示す。
【0035】
財団法人ヒューマンサイエンス事業団より購入したCV−1(アフリカ緑ザル腎臓由来培養細胞)2×10個を24穴プレート中10%牛胎児血清含有DMEM培地で24時間培養し、予め調整保存したプラスミドPM−PPARαあるいはγとPPARのコアクチベーター、CREB結合たんぱく質(CBP)のプラスミド及び4×UASg−lusとを、リポフェクトアミン(Gibco社製)を用いて遺伝子導入した。また、遺伝子導入効率は、lucを同時に導入することにより補正した。一晩培養した後、リガンド候補物質をジメチルスルホキシドまたはエタノールに溶解したDMEM培地を交換した。また、陽性対照群は、すでにPPARα及びγの強力なアゴニストとして知られているWx14643(BIOMOL社製)及びTZD(三共株式会社製)をそれぞれ用いた。それぞれ培地交換1日後、培地を除き、細胞を洗浄後、細胞溶解液(プロメガ社製)で溶解し、発光基質(プロメガ社製)と反応させ、ルミノメーター(ベルトールド社製Lumat)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した(以下、これをPPARレポーターアッセイと略称する)。PPARレポーターアッセイに用いたリガンド候補分子は、分子内にイソプレン骨格構造を有するカルボン酸であるビキシン(ナカライテスク社製)およびノルビキシン(関東化学製)である。また、イソプレン骨格構造を有するアルコール及びリン酸エステルであるファルネソール(ナカライテスク社製)、そのピロリン酸エステル(和光純薬社製)及びゲラニルゲラニオール(BIOMOL社製)及びそのピロリン酸エステル(和光純薬)である。
【0036】
図1、図2にPPARα及びγレポーターアッセイの結果を示した。図1は、ビキシン、及びノルビキシンのPPARα及びγ活性を示し、図2は、ファルフネソール(FOH)及びそのピロリン酸塩(FOH−PP)、ゲラニルゲラニオール(GGOH)及びそのピロリン酸塩(GGOH−PP)のPPARα及びγ活性を示す。その結果、分子内にイソプレン骨格構造を有する炭素数15−26のカルボン酸のなかでビキシン及びノルビキシンに強いPPARα及びγ活性が認められた。なおノルビキシンはビキシンに比べより強い活性が両PPARにおいて認められた。また、イソプレン骨格構造を有するアルコールリン酸エステルであるファルネソールピロリン酸及びゲラニルゲラニオールピロリン酸にもPPARα及びγに対する強い活性が認められた。ファルネソールピロリン酸及びゲラニルゲラニオールピロリン酸の活性は、それぞれのアルコール体よりも強力なアゴニスト活性を示した。
【実施例2】
【0037】
PPARクロスアゴニスト活性を有する組成物の糖質代謝、脂質代謝改善効果の動物実験
4週令の雄性KKAy遺伝性肥満、糖尿病発症マウス(日本クレア社製)を基礎精製高脂肪飼料(カゼイン、20%;αコーンスターチ、20.2%;シュクロース、20%;ラード、25%;コーン油、5%;セルロースパウダー、5%;ビタミン混合、1%ミネラル混合、3.5%。L−メチオニン0.3%)で3日間予備飼育後、1群7匹として3群に分け、下記精製飼料をペアフィーディングで3週間飼育した。
【0038】
1群(対照群):基礎精製高脂肪飼料
2群(0.5%飼料群):具体例1でPPARα及びγ活性を有することが明かなとなったノルビキシン(別名annatto extract;関東化学社製)0.5%を基礎精製高脂肪飼料のうちαコーンスターチの相当分で置き換え添加した飼料3群(1.0%群):ノルビキシン1.0%を基礎精製高脂肪飼料のうちαコーンスターチの相当分で置き換え添加した飼料
【0039】
試験期間中、週3回体重測定を行なうとともに、グルコース負荷試験を行なった。3週目に屠殺し、臓器重量及び血中パラメーターの測定を行なった。
【0040】
実験に用いたマウスの体重変化、血糖値、中性脂肪値、アディポネクチン(抗糖尿病・抗動脈硬化作用を有するホルモン)及び脂肪組織重量(精巣周囲、腎周囲、腸間膜脂肪、腹腔内脂肪(内臓脂肪))をそれぞれ図3〜5に示した。図3は、ノルビキシン摂取による遺伝性肥満、糖尿病発症マウス(KKAy)の体重変化に及ぼす影響(体重増加抑制効果)を示す。図4は、ノルビキシン摂取による遺伝性肥満、糖尿病発症マウス(KKAy)の血糖値、血清中性脂肪値、血清アディポネクチン値に及ぼす影響(糖・脂質代謝改善効果)を示す。図5は、ノルビキシン摂取による遺伝性肥満、糖尿病マウス(KKAy)の各脂肪組織(Epididymal;副精巣周辺、Perirenal;腎周辺、Mesentaric;腸間膜、Intraabdominal;腹腔内)の重量に及ぼす影響を示す。
また、グルコース負荷試験の結果を図6に示した。図6は、ノルビキシン摂取による遺伝性肥満、糖尿病マウス(KKAy)のグルコース負荷試験(糖尿病改善効果)を示す。その結果、ノルビキシン投与によりマウスにおいて、糖代謝改善、脂質代謝改善、体脂肪蓄積抑制効果、体脂肪蓄積低減効果、内臓脂肪蓄積抑制効果、内臓脂肪蓄積低減効果改善効果を示した。また、血糖値の低下及びインスリン低下性の改善が認められ、抗糖尿病効果も示された。
【実施例3】
【0041】
次に、本発明のアゴニスト剤について、パーシャルアゴニスト作用を有するかい中を調べた。
近年アゴニスト剤の中には、低濃度領域ではアゴニスト剤、高濃度領域ではアンタゴニスト剤として働く、いわゆるパーシャルアゴニスト作用を有する化合物が知られている。脂肪蓄積、糖尿病、高脂血症などの脂質、糖質代謝異常発症下では、ペルオキシソームが増加し、脂肪蓄積、糖尿病、高脂血症を増悪させることが知られている。したがって、内因性及び外因性アゴニストが増加する高脂肪食摂取時などにはアンタゴニスト剤として作用する効果を合わせ持つ化合物は、生活習慣病のリスクファクターを有効に軽減する機能を発揮すると考えられる。
【0042】
このような事情から、本発明のアゴニスト剤にかかる化合物に関して、パーシャルアゴニストとしての作用を有するか否かについても調べることとした。
図7にその結果を示す。図7は、ノルビキシンのPPARγパーシャルアゴニスト活性を示す。ピオグリタゾン(pioglitazone)は、合成PPARγアゴニスト*コントロールと比較し、統計的に有意差があることを示す。横軸は、濃度(μM)を示し、縦軸は相対ルシフェラーゼ活性(対照例%)を示す。
【0043】
図7から明らかなように、ノルビキシン(Norbixin)は20μMで合成PPARγアゴニストであるピオグリタゾン(pioglitazone)1μMのPPARγアゴニスト活性を有意に抑制すると共に、PPARのパーシャルアゴニストとしての容量依存性活性曲線を示した(図7)。
【0044】
また、分子軌道法を用いた既知合成PPARアゴニストとのシュミレーションによりノルビキシンのPPARパーシャルアゴニストとしての特性が強く裏付けられた(図8)。図8は、分子動力学法によるノルビキシンのヒトPPARγリガンド結合領域との結合シミュレーションを示す。P2サイトは、アゴニスト活性に関係する領域を、P6サイトは、パーシャルアゴニストに関係する領域を示す。図中のP2サイトとP6サイトにノルビキシンのカルボン酸が結合し安定化する。
【0045】
すなわち、PPARgタンパクのリガンド結合ドメインとリガンドとのコンピューター結合シミュレーション(動力学的解析法)により、本物質は既知のパーシャルアゴニスト化合物で判明しているパーシャルアゴニスト活性発現に必須の部位、P6サイトに結合することが明らかとなった。これにより、本発明に係る化合物が、パーシャルアゴニスト剤であることが立証された。
【0046】
以上の点から、本発明を構成する化合物群は、糖代謝改善、脂質代謝改善、体脂肪、内臓脂肪蓄積抑制効果を示す特徴ある組成物の開発を可能とした。
【0047】
本発明によれば、ノルビキシン投与によりマウスにおいて糖代謝改善、脂質代謝改善、体脂肪蓄積抑制効果、体脂肪蓄積低減効果内臓脂肪蓄積抑制効果、内臓脂肪蓄積低減効果改善効果等の有利な効果を奏する。
【0048】
また、血糖値の低下及びインスリン抵抗性の改善が認められ、抗糖尿病効果も示された。
【図面の簡単な説明】
【0049】
[図1]ビキシン、及びノルビキシンのPPARα及びγ活性を示す。*は、p<0.05を示す。
[図2]ファルフネソール(FOH)及びそのピロリン酸塩(FOH−PP)、ゲラニルゲラニオール(GGOH)及びそのピロリン酸塩(GGOH−PP)のPPARα及びγ活性を示す。
[図3]ノルビキシン(annatto)摂取による遺伝性肥満、糖尿病発症マウス(KKAy)の体重変化に及ぼす影響(体重増加抑制効果)を示す。Controlは対照例を示す。
[図4]ノルビキシン摂取による遺伝性肥満、糖尿病発症マウス(KKAy)の血糖値、血清中性脂肪値、血清アディポネクチン値に及ぼす影響(糖・脂質代謝改善効果)を示す。図において、n=7、*P<0.05、**P,0.01である。
[図5]ノルビキシン摂取による遺伝性肥満、糖尿病マウス(KKAy)の各脂肪組織(Epididymal;副精巣周辺、Perirenal;腎周辺、Mesentaric;腸間膜、Intraabdominal;腹腔内)の重量に及ぼす影響を示す。図において、n=7、*P<0.05である。
[図6]ノルビキシン摂取による遺伝性肥満、糖尿病マウス(KKAy)のグルコース負荷試験(糖尿病改善効果)を示す。図において、n=6、*<0.05である。
[図7]ノルビキシンのPPARγパーシャルアゴニスト活性を示す。
[図8]分子動力学法によるノルビキシンのヒトPPARγリガンド結合領域との結合シミュレーションを示す。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にイソプレン骨格構造を有するモノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、若しくはそれらのエステル誘導体を有効成分とするペルオキシソーム増殖剤応答性受容体アゴニスト剤。
【請求項2】
前記モノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、又はそれらのエステル誘導体が、ビキシン、ノルビキシン、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール、又はそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載のアゴニスト剤。
【請求項3】
分子内にイソプレン骨格構造を有するモノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、若しくはそれらのエステル誘導体を有効成分とする代謝改善用医薬組成物。
【請求項4】
前記モノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、又はそれらのエステル誘導体が、ビキシン、ノルビキシン、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール、又はそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
代謝が、糖代謝、脂質代謝、エネルギー代謝からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項6】
代謝改善が、脂肪組織の脂質低下である請求項3〜5項のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
脂肪組織が、副精巣周囲、腎周囲、腸管膜、腹腔内(内臓)からなる群から選択される少なくとも1種由来である請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
分子内にイソプレン骨格構造を有するモノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、若しくはそれらのエステル誘導体を有効成分とするペルオキシソーム増殖剤応答性受容体パーシャルアゴニスト剤。
【請求項9】
前記モノ若しくはジカルボン酸、又はそれらの塩若しくはそれらのエステル誘導体、又は前記構造を有するモノ、ジアルコール、又はそれらのエステル誘導体が、ビキシン、ノルビキシン、ファルネソール、ゲラニルゲラニオール、又はそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項8記載のパーシャルアゴニスト剤。

【国際公開番号】WO2004/110419
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【発行日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506899(P2005−506899)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007833
【国際出願日】平成16年6月4日(2004.6.4)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】