説明

アサリ育成土

【課題】一般的に採取される山砂を基に容易に調整することができ、細粒分(シルト及び粘度を含む日本統一土質分類基準による。以下同基準による)、粗砂の両者を勘案してアサリの育成土として好適なアサリ育成土を提供する。
【解決手段】本発明に係るアサリ育成土は、細粒分含有率2〜20%、残部粗粒分からなる。そして、この発明において、粗粒分のうち粒径0.85〜2.0mmの粗砂分は、全アサリ育成土に対する含有率20〜40%であるのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工干潟用土、干潟覆砂用土又はアサリの育成場の修復用覆砂用土等に用いられるアサリ育成土に係り、特に細粒分を所定量含むアサリ育成土に関する。
【背景技術】
【0002】
自然環境の破壊が社会問題化し、自然環境の保全、回復等が重要な課題になっている。この課題対策として、人工干潟の造成は重要な一つであり、各地で人工干潟の造成が行われ、アサリ、ゴカイ、藻類等の底生動植物の育成に適した土質の提案が種々行われている。また、アサリの国内需要に対し、自給率が低いことが問題になっており、アサリの育成により好ましいアサリ育成土が求められている。
【0003】
このような問題、要請に対し、例えば、特許文献1に、アサリの浮遊幼生の着底期、稚貝期、成貝期を通してアサリの育成に優れた干潟覆砂材料が提案されている。すなわち、粗砂を砂質土に混合することにより、混合後の粗砂分含有率20〜50%、かつ、粒径0.85mmの通過質量百分率50〜80%、かつ、粒径2mmの通過質量百分率70〜100%とした干潟覆砂材料が提案されている。そして、粗砂(粒径0.85〜2mm)100%の干潟覆砂材料がアサリの育成土として好適であり、細粒分含有率が40%以上ではアサリの生育不可能であると考えられることが開示されている。
【0004】
特許文献2に、埋め立てにより造成する人工干潟の前記埋め立てに使用する土壌であって、海底の浚渫により得られた砂質土と、海底の浚渫により得られたシルト・粘性土とを含み、前記シルト・粘性土は、4〜30重量%の割合で混合され、混合により得られた前記人工干潟用混合土壌の透水係数は、少なくとも1×10-4cm/秒である人工干潟用混合土壌が提案されている。そして、シルト・粘性土が4重量%未満では、単位土量当たりの細菌の現存量が少なくなり、かかる細菌が介在する海水の浄化能力が劣るのに対し、シルト・粘性土の含有量が30重量%以上では、海水浄化能力の高い二枚貝類の着定が悪く、併せてその生長にも影響するため、4重量%以上、30重量%未満が好ましいことが開示されている。
【0005】
また、特許文献3に、日本の干潟における代表的な生物の1つであるアサリの生息条件としては、粒径・泥分率等の底質条件の他に、水質、干出時間等の環境要因も考慮することが重要であるとして、通過質量百分率50%の粒径が0.09〜0.3mm、強熱減量が0.5〜6.0%に調製され、シルト・粘土分の質量割合を1.0〜40%としてなる人工干潟の被覆土が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2006-274690号公報
【特許文献2】特開2001-295240号公報
【特許文献3】特開2003-184046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アサリの浮遊幼生は粗砂を好むといわれており、特許文献1においてはこの粗砂に注目して、アサリの浮遊幼生の着底期、稚貝期、成貝期を通してアサリの育成に優れた干潟覆砂材料が提案されている。一方、特許文献2においては、人工干潟用混合土壌の透水性からシルト・粘土分に着目して細菌や二枚貝の育成に適した人工干潟用混合土壌が提案されている。さらに、特許文献3においては、粒径・泥分率等の底質条件の他に、水質、干出時間等の環境要因も考慮したアサリの生息条件に好適な人工干潟の被覆土が提案されている。
【0008】
しかし、このような種々の提案にあって、アサリの育成土の粗砂、シルト・粘土分をどのような割合にするのがよいのか明確でなく、アサリの育成土として好適な組成が必ずしも明確ではない。また、人工干潟、干潟覆砂用土又はアサリの育成場の修復用覆砂用土は大量に求められるものであるから、特許文献1〜3に提案されたような種々の調整をして得られるものでなく、可能な限り採取原材料に加工を加えないものであることが求められる。
【0009】
本発明に係るアサリ育成土は、従来のかかる問題点、要請に鑑み、一般的に採取される山砂を基に容易に調整することができ、シルト・粘土分(細粒分)、粗砂の両者を勘案してアサリの育成土として好適なアサリ育成土を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るアサリ育成土は、細粒分含有率2〜20%、残部粗粒分からなる。そして、この発明において、粗粒分のうち粒径0.85〜2.0mmの粗砂分は、全アサリ育成土に対する含有率20〜40%であるのがよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るアサリ育成土は、アサリの育成土として好適であり、特にアサリの浮遊幼生の着底に好適である。また、本発明に係るアサリ育成土は、一般的に採取される山砂から容易に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るアサリ育成土の発明の実施の形態について説明する。本発明に係るアサリ育成土は、細粒分含有率2〜20%、残部粗粒分からなる。細粒分とは、日本統一土質分類による分類で粒径が0.075mm未満のシルト(粒径0.075〜0.005mm)、粘度(粒径0.005mm以下)を含む土質をいう。粗粒分とは、粒径が0.075mm以上の土質をいい、細砂(粒径0.075〜0.425mm)、粗砂(粒径0.425〜2.0mm)を含む砂質及びれき(粒径2.0〜75mm)等を含む土質をいう。
【0013】
本アサリ育成土は、細粒分含有率2〜20%である。細粒分含有率が2%未満であるとアサリの浮遊幼生の着底が少ない。また、細粒分含有率が20%を越えるとアサリの浮遊幼生の着底が少ない。すなわち、アサリ育成土として、細粒分含有率2〜20%であるのがよい。以下に、アサリの浮遊幼生の着底数と細粒分含有率との関係を説明する。
【0014】
図1は、アサリ育成土の細粒分含有率を種々変えてアサリの浮遊幼生の着底数を調べた試験結果を示すグラフである。図1において、横軸はアサリ育成土のうちの細粒分含有率、縦軸はアサリ育成土の面積6.6cm2当たりに着底したアサリの個数(着底数)を示す。図1の各棒グラフの頂部の棒線は、着底数の標準偏差を示す。なお、各試験条件における試験個数は、n=4である。
【0015】
図1によると、アサリの浮遊幼生の着底数は、アサリ育成土の細粒分含有率が5%の場合に面積6.6cm2当たり12個であり、細粒分含有率が1.6%及び20%の場合は4個である。また、図1によると、アサリ育成土の細粒分含有率が1.6%の場合は、細粒分含有率が20%の場合よりも標準偏差値が大きく、細粒分含有率が5%の場合の標準偏差値が最も大きいことが分かる。
【0016】
すなわち、着底数は、アサリ育成土の細粒分の割合に敏感に影響され、細粒分をわずかに添加することによって急速に増加することが分かり、細粒分が存在しないとアサリの浮遊幼生は着底しないか、または、極端に少ないものと推察される。また、細粒分含有率が1.6%から5%の範囲においては、細粒分含有率のわずかな差によって着底数が非常に異なることが分かり、細粒分含有率が20%近辺では着底数の細粒分割合による影響が比較的少ないことが推測される。したがって、安定した特性のアサリ育成土を求めるには細粒分含有率が1.6%よりは多い側、例えば2%の方が好ましく、細粒分含有率が20%前後においては細粒分含有率が20%を越える範囲であっても着底数の減少量は比較的に少ないことが推察される。また、細粒分含有率が40%以上ではアサリの生育不可能とされているが、その限界はさらに低い可能性も推察される。
【0017】
また、アサリの着底数は、アサリ育成土の細粒分含有率が1.6%〜20%の範囲内で最大になる場合があることが分かり、その最大値は細粒分含有率5%を含め、これに近い範囲であることが推察される。したがって、山砂からアサリ育成土を調整することを考慮すると、細粒分含有率は低いほど、例えば5%又はその前後が好ましい。
【0018】
以上、アサリの浮遊幼生の着底数と細粒分含有率との関係を説明した。このアサリ育成土は、図2に示す市販の山砂を用いて調整した。図2において、横軸は粒度、縦軸は各粒度における質量%(累積値)を示す。図2によると、この山砂は細粒分含有率が1.6%、残部が粗粒分からなり、粗粒分のうち粒径0.85〜2.0mmの粗砂分(以下粗砂分)含有率は約35%、細れき分含有率が約8%であることが分かる。この山砂を用いてアサリ育成土を調整した。すなわち、山砂を0.075mmの篩にかけ、これを通過した粒子を所定量山砂に加えて所定の細粒分含有率を有するアサリ育成土を作製した。図1に示す細粒分含有率が1.6%のアサリ育成土の場合、粗砂分含有率は35%である。細粒分含有率が5%のアサリ育成土の粗砂分含有率は34%、細粒分含有率が20%のアサリ育成土の粗砂分含有率は28%である。
【0019】
そして、アサリの浮遊幼生の着底試験は以下のように行った。まず、浮遊幼生を以下のようにして取得した。すなわち、生殖腺が十分に発達した大型アサリを4℃の冷蔵庫内に一晩静直し、その後取り出して海水に入れ、海水温度を28℃まで上昇させ、放精/放卵を開始させた。つぎに、放精/放卵を開始した個体をすばやく放り出し、きれいな濾過海水中で放精/放卵を継続させ、受精卵を得た。つぎに、30Lのパンライト水槽に受精卵を含む海水を入れ、一日静直し、受精卵がトロコフォア幼生に変態したことを実体顕微鏡下で確かめ、浮遊幼生が沈降しないように攪拌翼をゆっくりと回した。そして、幼殻が完成してベリジャー幼生に変態したことを確認後、大きさ5μm前後の単細胞藻類(ハプト藻と珪藻)を餌料として与え、3〜4週間で幼生がフルグロウン期に達した。なお、この時期の浮遊幼生は発達した足部をもち、ときどき遊泳を停止してはその先端で底面などに触れ、また遊泳を始めるという行動を繰り返した。海水は一日一回全換水を行った。
【0020】
つぎに、上記で説明したアサリ育成土を、シャーレに入れ、30Lのパンライト水槽に沈めて並べた。そして、表層の海水中の浮遊幼生密度がほぼゼロとなり、着底を完了したことを確かめた後、シャーレを取り出し、土壌をチャック付ポリ袋に洗い込み、そのポリ袋に10%ホルマリン水溶液に少量のローズベンガルを加えた溶液を数ml入れ、アサリ着底稚貝を染色した。染色した着底稚貝数は、実体顕微鏡下で計数した。
【0021】
以上、本アサリ育成土の細粒分含有率について説明した。上述のように、アサリの浮遊幼生の着底にとって好ましいアサリ育成土は、細粒分含有率が2〜20%である。そして、そのようなアサリ育成土は、一般的に入手可能な山砂を用いて容易に調整することができ、図1に示す試験に用いたアサリ育成土は、粗砂分の含有率が28〜35%であった。
【0022】
アサリ育成土あるいは人工干潟用土等は、山砂から容易に調整できることが重要な点であるが、実際に海浜に存在する浜土を用いて容易に改質できることも重要である。また、特許文献1に開示されているようにアサリの育成土として粗砂(粗砂、粒径0.85〜2.0mmの粗砂に相当する地盤工学会基準による分類)が好ましく、上述の説明を考慮すると、細粒分が含まれている限り粗砂分含有率は高くてもよい。一方、アサリ育成土として好ましい細粒分含有率には上限があり、できれば細粒分含有率は5%前後が好ましい。そして、実際の浜土には、細粒と粗砂の間に区分される粒径0.075〜0.85mm(地盤工学会基準によると、細砂、中砂)分の含有率が比較的高く、粗砂が少なくアサリの育成土として適当でない浜土、例えば吉名干潟のような浜土がある。かかる観点から、アサリ育成土として好適なのは、細粒分含有率2〜20%とするとき、粗砂分(粒径0.85〜2.0mmの粗砂分)含有率20〜40%である。なお、アサリに好適な海浜の一つである地御前干潟の土質は粗砂分含有率が23%である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】アサリ育成土中の細粒分の含有率とアサリの浮遊幼生の着底数との関係を示すグラフである。
【図2】アサリ育成土の原材料とした山砂の土質を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細粒分含有率2〜20%、残部粗粒分であるアサリ育成土。
【請求項2】
粗粒分のうち粒径0.85〜2.0mmの粗砂分は、全アサリ育成土に対する含有率20〜40%であることを特徴とする請求項1に記載のアサリ育成土。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−228596(P2008−228596A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69641(P2007−69641)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】