説明

アスベストを使用した構造物の解体、運搬方法

【課題】 アスベストを含有する建材を使用した建築物等を能率よく安価に、しかも人体に悪影響を及ぼすことなく安全に解体、撤去できるようにする。
【解決手段】
所定量のポリグルタミン酸架橋物と水と、又はポリグルタミン酸及びその架橋物と水とを混合した水溶液を被解体物に噴霧又は散布したあと、当該被解体物を解体、撤去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベストを含有する建材を用いた建築物やその一部など(以下、構造物と総称する)を、人体に悪影響を及ぼすことなく安全且つ経済的に解体、撤去若しくは搬出、運搬できるようにした技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所謂アスベスト(石綿)を使用した建材は、過去に大量に使用された経緯があり、これ等の建材が使用された建築物は、順次その耐用年数が経過して、解体の時期を迎えている。ところが、アスベスト特にその中でも青石綿や茶石綿は、所謂強い発がん性を有するものであるため、アスベスト含有建材を使用した構造物の解体時や解体後の建材等の運搬時に、人がアスベストの粉塵を吸い込まないよう対応する必要がある。
【0003】
そのため、通常は、イ.作業者に防塵マスクを装着させる方法及びロ.建物全体をシート状の防塵カバーで覆うと共に大量の水を散布して粉塵の飛散を防止する方法が採用されている。
【0004】
しかし、防塵マスクを使用する方法は、作業者の安全性は確保出来ても大気中に飛散したアスベスト防塵による悪影響は防止することができず、人の居住する環境下では到底採用できない工法である。
【0005】
また、建物全体をシート状のカバーで覆うと共に、大量の水を散布する方法は、アスベスト粉塵が大気中へ直接放散されるのを防止することは出来るもののイ カバー体の装着等の養生費が高騰したり、ロ 散布水が乾燥してしまうと再びアスベスト含有粉塵が飛散する危険があること、ハ 大量の汚染水が発生するため、処理に多くの費用と手数を要すると云う問題がある。何故なら、汚染水中に混入したアスベスト繊維が、水の乾燥により大気中へ飛散するからである。
【0006】
【特許文献1】特開2003−300037号公報
【特許文献2】特開2005−144340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従前のこの種アスベスト含有建材を使用した構造物の解体、撤去及び廃材の搬出、運搬等に於ける上述の如き問題、即ちカバー体で構造物を覆ったり、粉塵等の飛散を防止するために大量の水を散布する方法にあっては、養生費が増加したり、散布した汚染水の後処理に費用が掛かるうえ、水の乾燥により粉塵の再飛散が起こること等の問題を解決せんとするものであり、人体に全く無害な少量の水溶液の散布若しくは噴霧により、簡単且つ安価に、アスベスト繊維を含有する粉塵の飛散を長期に亘って有効に防止することができるようにした、アスベストを使用した構造物の解体、撤去方法を提供することを発明の主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、所定量のポリグルタミン酸架橋物と水、又はポリグルタミン酸及びその架橋物と水とを混合した水溶液を被解体物に噴霧又は散布したあと、当該被解体物を解体若しくは運搬することを発明の基本構成とするものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、水溶液を噴霧又は散布し乍ら被解体物を解体又は撤去するようにしたものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、ポリグルタミン酸架橋物の混合量を0.5〜2wt%とするようにしたものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1、請求項2又は請求項3の発明において、水溶液の噴霧又は散布量を、アスベストを含有する壁面又は床面若しくは屋根面の単位面積当たり0.5〜1lとしたものである。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1の発明において、水溶液を構造物のアスベスト含有建材を用いた部分の外表面のみへ集中的に散布するようにしたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、ポリグルタミン酸架橋物と水との混合物を被解体物の解体作業前又は解体作業前と解体作業中に亘って対象物へ散布若しくは噴霧するようにしているが、ポリグルタミン酸架橋物と水との混合物は、適宜の粘性を有するうえ、高い保水性と親水性を具備するものである。また、水に混入するポリグルタミン酸架橋物は、生分解性を備えた毒性の全く無いものであり、水の汚染を生ずる恐れが全く無い。
【0014】
その結果、構造物の解体前に、構造物の外表面へ混合物を均等に散布(又は噴霧)することにより、アスベストを含有する建材の表面は粘性を有する親水性の混合物によって安全に覆われると共に、建材表面を覆う水皮膜は長期に亘って安定状態に保持されることになり、アスベスト繊維等の飛散が有効に防止されることになる。
【0015】
また、構造物の解体中に混合物を散布又は噴霧することにより、空気中へ飛散したアスベスト繊維粒子はほぼ完全に混合物の微粒子内に取り込まれ、解体された建材等の外表へ再付着してこれと一緒に外部へ搬出されることになる。
これにより、アスベスト繊維粒子の大気中への飛散が有効に防止できると共に、混合物微粒子内に捕集されたアスベスト繊維粒子が水の蒸発によって再度飛散するのが有効に防止される。尚、混合物の粘度は通常の水より大であるが、ポンプ送水に悪影響を及ぼすほどには高くなく、実用上の問題は殆ど生じない。
【0016】
更に、混入するポリグルタミン酸架橋物の量は0.2〜2.0wt%程度で十分であり、且つポリグルタミン酸架橋物自体は高価なものでないため、極めて経済的にアスベスト繊維の飛散を防止しつつ含有建材を用いた構造物を解体、撤去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明に係る混合物(水溶液)の製造装置の概要を示す説明図であり、図において1は水供給管、2はポリグルタミン酸架橋物供給管、3は攪拌機、4は攪拌タンク、5は水溶性ゲル取出口、6は送水ポンプ、7は噴出ノズル、Wは水、Gはポリグルタミン酸架橋物、Pは混合物(水溶液)である。
【0018】
水溶液Pの製造に際しては、先ず攪拌タンク4内へ所定量(本実施例の場合5t)の清浄水Wを注入する。次に、所定量(本実施例の場合0.2〜2.0wt%に相当する量)のポリグルタミン酸架橋物Gを水W内へ混入し、これを攪拌機3により攪拌(本実施例の場合約10分)する。その後、加圧ポンプ6を運転し、噴出ノズル7から水溶液Pを対象物へ向けて噴出する。
【0019】
前記ポリグルタミン酸架橋物Gは、図2の如き構造を有するγ−ポリグルタミン酸(PGA)と呼ばれるグルタミン酸が直鎖状に重合してできた分子量が数千から数百万の天然の高分子化合物の水溶液に、γ線照射等によりPGA分子間で架橋反応を起こし、より大きな分子量の高分子としたものであって、分子量が数千万の網目構造を持つ分子であると想定されている。尚、ポリグルタミン酸架橋物Gそのものは図3の如き構造を有している。また、ポリグルタミン酸の全てが架橋物に変換されているとは限らないので、この中には出発原料であるポリグルタミン酸が若干含まれている場合がある。
【0020】
また、当該ポリグルタミン酸架橋物は、PGAに比べて非常に高い保水性を持っていて、PGAが自分自身の重さの約0.5倍の水を保持することができるのに対して、架橋反応の条件にもよるが、ポリグルタミン酸架橋物は自身の重さの2000倍前後の水を保持する能力を持つものである。尚、前記図1に於いては、予め水とポリグルタミン酸架橋物とを混合させて、これを散布するようにしているが、エジェクター式の吸引装置を用い、水を噴射ノズルへ圧送しつつ粉末状のポリグルタミン酸架橋物を水内へ吸引混合するようにしてもよい。
【0021】
尚、前記PGAは、図2に示すように、グルタミン酸分子の2つのカルボキシル基の内のγ位のカルボキシル基とアミノ基がアミド結合によってつながってできたポリマーであり、グルタミン酸を原料として枯草菌(Bacillus subtilis)を初めとするBacillus属の微生物によって合成される。
【実施例1】
【0022】
先ず、0.8wt%ポリグルタミン酸架橋物の水溶液(ゲル)を形成し、当該水溶液5000lを噴出ノズル7を用いて、アスベスト含有建材を用いた本造建築物の室内側外表面及び室外側外表面へ、単位外表面積当り0.8lの割合で約40分をかけて均一に散布した。
その後、重機を用いて本造建築物(構造物)を解体すると共に、廃材(木材及び土砂、その他の混合物)を重機を用いて運搬車に乗せ、処理場へ搬送した。
【0023】
尚、実施例1では水溶液Pをノズル7から対象物へ向けて直接噴射散水するようにしたが、噴霧ノズルを用いて噴霧状態で散布するようにしてもよい。
【0024】
また、実施例1ではポリグルタミン酸架橋物の混合率を0.8wt%としているが、当該混合率は0.5〜2.0wt%位が最適である。混合率が0.5wt%以下では、水溶液のゲル化の程度が低いために対象物の外表面を完全に水皮膜で覆うことが困難となり、アスベスト繊維の飛散を十分に防止することが困難となる。
前記混合率が2.0wt%を越えると、水溶液のゲル化の程度が大となり、水溶液を噴霧状で放出し難くなる。そのため、混合率としては、0.5〜2.0wt%位の間を選択するのが望ましい。
【0025】
更に、実施例1では、建物の内・外表面へ約0.8l/m2の割合で水溶液を散布するようにしているが、散布割合は0.5〜1l/m2位に設定するのが望ましい。
【0026】
また、実施例1では約0.8l/m2の割合で構造物の全外表面へ平均的に水溶液Pを散布するようにしているが、アスベスト含有建材の使用部分が特定されている場合には、その使用部分のみへ水溶液Pを重点的(若しくは)集中的に散布するようにしてもよいことは勿論である。
【実施例2】
【0027】
実施例1において、水溶液Pの散布が完了したあと、建築物の解体及び廃材の搬出を行うに際して、解体中及び廃材の搬出中(運搬車への積み込み)に、一定の時間間隔を置いて水溶液Pを噴霧状で対象物の上方から噴霧した。噴霧量は50〜100l/minで、1回当り15分間、延4回(総量6000l)とした。
【0028】
上記実施例2においては、解体中及び搬出中における粉塵の舞い上がり(飛散)をほぼ完全に防止することができ、目視により飛散状態を認めることが出来なかったことは勿論である。
【実施例3】
【0029】
屋根材のみにアスベスト含有建材を用いた構造物(鉄骨造建築物)を対象にして解体着手前に、外部から屋根部分の外表面及び天井裏から屋根部分の裏面側へ水溶液Pを散布した。
【0030】
そして、屋根材のみを先に解体、撤去すると共に、その後に構造物の残りの部分を通年の水を散布し乍ら解体、撤去した。
この実施例3の場合においても、大気中へのアスベスト繊維粒子の飛散はほぼ無視できる程度に押えることができ、安全な作業環境を確保することが出来た。
【0031】
尚、前記実施例1、実施例2及び実施例3において、構造物の解体により生じた廃材や土砂類を撤去したあと、水溶液Pを含侵した土壌(構造物床面の直下の土壌部分)を、一定の深さに亘ってすき取り除去するのが望ましいことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は建築及び土木関係業は勿論のこと、鉱業関係等においても利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明で使用する水溶液の製造装置の一例を示す説明図である。
【図2】本発明で使用するポリグルタミン酸架橋物の原料であるγ−ポリグルタミン酸(PGA)の分子構造図である。
【図3】ポリグルタミン酸架橋物の分子構造図の一例である。
【符号の説明】
【0034】
Wは水、
Gはポリグルタミン酸架橋物
Pは水溶液(水溶性ゲル)
1は水供給管
2はポリグルタミン酸架橋物供給管
3は攪拌機
4は攪拌タンク
5は水溶液取出口
6は加圧ポンプ
7は噴射ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量のポリグルタミン酸架橋物と水、又はポリグルタミン酸及びその架橋物と水とを混合した水溶液を被解体物に噴霧又は散布したあと、当該被解体物を解体若しくは運搬することを特徴とするアスベストを使用した構造物の解体、撤去方法。
【請求項2】
水溶液を噴霧又は散布し乍ら被解体物を解体又は撤去するようにした請求項1に記載のアスベストを使用した構造物の解体、撤去方法。
【請求項3】
ポリグルタミン酸架橋物の混合量を0.5〜2wt%とするようにした請求項1又は請求項2に記載のアスベストを使用した構造物の解体、撤去方法。
【請求項4】
水溶液の噴霧又は散布量を、アスベストを含有する壁面又は床面若しくは屋根面の単位面積当たり0.5〜1lとした請求項1、請求項2又は請求項3に記載のアスベストを使用した構造物の解体、撤去方法。
【請求項5】
水溶液を、構造物のアスベスト含有建材を用いた部分の外表面のみへ集中的に散布するようにした請求項1に記載の構造物の解体、撤去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−63780(P2007−63780A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−248211(P2005−248211)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(502426452)日本ポリグル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】