説明

アスベスト含有材の除去方法

【課題】簡単な作業により作業時間の低減が図れ、しかも狭小な作業空間や基材形状が複雑な場合であってもアスベスト含有材を確実に除去することができる。
【解決手段】アスベスト含有材2に基材1に到達するメッシュ状の切れ目K1を設け、その後、手持ち可能な注射器10を用いて、アスベスト含有材2の基材1との付着面T付近に酸性液3を注入し、これにより、アスベスト含有材2を酸性液3に反応させて溶解させ、剥離させつつ自然に落下させ、その落下したアスベスト含有材2を除去するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に吹き付けられているアスベスト含有材の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吹付けアスベスト材やアスベスト含有吹付けロックウールなどのアスベスト含有材の除去方法として、ケレン棒等の工具による粗落し後、例えばブラシ等を用いてセメント成分を主体とした残留付着物を削ぎ落として磨き上げる作業が行われている。また、人力の場合に比べて作業効率を高めた除去方法として、除去装置等を使用するものが例えば特許文献1、2に開示されている。
【0003】
特許文献1は、マニピュレータの先端に設けたバケット内に適宜駆動するブラシやスクレーパが備えられており、バケットの開口をアスベスト表面に押し付けた状態で、その内部でブラシやスクレーパを作動し、剥離したアスベストをそのままバケット内に落下させて、バケットから処理容器等に移すことで処理する装置について記載したものである。
特許文献2には、アスベスト含有物を剥離するカットブラシ(剥離手段)と、剥離手段を包囲する内側フードと、さらに内側フードを取り囲む外側フードと、剥離したアスベスト含有物を内側フード内から処理タンクへ吸引する吸引手段とを備えたアスベスト除去装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−199832号公報
【特許文献2】特開2008−253857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のアスベスト除去方法では以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1、2に示すようなアスベスト除去装置を用いたアスベスト除去方法では、装置が設置できないような作業空間が狭小な場所であったり、また例えばH型鋼材等のように複雑な形状の基材に対してアスベスト含有材を被覆したものに対しては、アスベスト除去装置を使用することが困難となっていた。そのため、このような除去装置の適用が困難な条件にあっては、人力による除去方法に頼らざるを得ない現状があり、手間と作業時間がかかるという問題があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、簡単な作業により作業時間の低減が図れ、しかも狭小な作業空間や基材形状が複雑な場合であってもアスベスト含有材を確実に除去することができるアスベスト含有材の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るアスベスト含有材の除去方法では、基材の表面に被覆されているアスベスト含有材の除去方法であって、アスベスト含有材に基材に到達する切れ目を設ける工程と、注入冶具を用いて、アスベスト含有材の基材との付着面付近に酸性液を注入する工程とを有することを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係るアスベスト含有材の除去方法では、基材の表面に被覆されているアスベスト含有材の除去方法であって、アスベスト含有材に基材に到達する切れ目を設ける工程と、注入冶具を用いて、アスベスト含有材にその表面から圧力をかけて酸性液を浸透させる工程とを有することを特徴としている。
【0009】
本発明では、アスベスト含有材に切れ目を設けた後に、アスベスト含有材に酸性液を注入し浸透させることで、アスベスト含有材のセメント分と有機物とが酸により化学反応で分解して溶解するため、切れ目によって区画されたブロック状のアスベスト含有材が基材に対して剥離し、自然に落下させることができる。すなわち、アスベスト含有材に切れ目を入れることで、基材に被覆されるアスベスト含有材の平面方向の連続性がなくなり、一定の大きさ(領域)に区画されたブロック状となり、隣接するブロック同士の保持力もなくなる。そのため、各ブロックにおける付着面に酸性液を浸透させることで、確実な落下が可能となる。
【0010】
このように、切れ目を設けるといった簡単な作業によりアスベスト含有材を基材に対してほぼ付着残しのない状態で除去することが可能であり、さらに従来のような大型の除去装置やマニピュレータを備えた除去ロボットが不要となり、またケレン棒で粗落としを行った後に磨き上げを行うといった手間のかかる作業も不要となる。そのため、狭小な作業空間においても、人力によって容易に、且つ短時間で除去作業を行うことができる。しかも、例えば基材がH型鋼材やボルトといった複雑な形状物から構成される場合であっても、アスベスト含有材の付着残しがほとんど無い状態で除去を行うことができる。
【0011】
また、本発明に係るアスベスト含有材の除去方法では、切れ目によって区画された領域の略中心部に酸性液を注入することが好ましい。
本発明では、切れ目によって区画されたブロック状のアスベスト含有材の略中心部の付着面に酸性液を注入することで、その酸性液が略中心部を中心にしてその周囲に均一に広がるので、ブロック状のアスベスト含有材をより確実に剥離、落下させることができる。
【0012】
また、本発明に係るアスベスト含有材の除去方法では、切れ目に注入冶具の注入先端を挿入し、注入先端から酸性液を噴射させることがより好ましい。
本発明では、注入冶具の注入先端を容易に基材に達する位置まで挿入して、その注入先端から酸性液を噴射することで、基材とアスベスト含有材との付着面に酸性液を確実に浸透させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアスベスト含有材の除去方法によれば、アスベスト含有材に切れ目を設けた後に注入冶具を用いて酸性液を注入するといった手間のかからない簡単な作業によりアスベスト含有材を基材との付着面で溶解させ、剥離させることが可能であり、基材が複雑な形状であってもほぼ付着残しがない状態で確実に除去することができ、作業時間の低減を図ることができる。また、大型の除去装置等を用いることがないので、狭小な作業空間であっても除去作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるアスベスト含有材の除去方法の概略構成を説明するための図である。
【図2】アスベスト含有材に形成される切れ目の状態を示す図であって、アスベスト含有材の表面を見た図である。
【図3】図1に示す注射器の拡大図である。
【図4】図2に示す注射針の先端部を示す図である。
【図5】第2の実施の形態によるアスベスト含有材の除去方法の概略構成を説明するための図である。
【図6】第1変形例による注入ガンの概略構成を示す側面図である。
【図7】第2変形例による噴射スクレーパの概略構成を示す図である。
【図8】図7に示す噴射スクレーパの側面図である。
【図9】第3変形例による注射器の構成を示す図である。
【図10】第3変形例の他の注出口の形状を示す図である。
【図11】第3変形例の他の注射針の形状を示す図である。
【図12】第4変形例による櫛形注入具の概略構成を示す図である。
【図13】第4変形例の他の櫛形注入具を示す図である。
【図14】第5変形例による二重釘形注入具の概略構成を示す図である。
【図15】第6変形例による膨張式注入具の概略構成を示す側断面図であって、(a)は注入前の状態を示す図、(b)は注入後の状態を示す図である。
【図16】図15に示す膨張式注入具の正面図である。
【図17】第7変形例による中空ドリル式注入具の概略構成を示す図である。
【図18】第8変形例によるカプセル式注入具の概略構成を示す側断面図である。
【図19】図18に示すカプセル式注入具による施工状態を示す図である。
【図20】第8変形例の他のキャップを示す側断面図である。
【図21】第9変形例によるTバー状注入具の概略構成を示す図である。
【図22】(a)、(b)は図21に示すTバー状注入具による施工状態を示す図である。
【図23】第10変形例によるロボットアームの概略構成を示す図である。
【図24】図23に示すロボットアームに防護シートを備えた図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態によるアスベスト含有材の除去方法について、図面に基づいて説明する。
【0016】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本第1の実施の形態によるアスベスト含有材の除去方法は、建物などの鉄筋コンクリート造のスラブやこのスラブを下方より支持するH型鋼材からなる基材1の表面1aに被覆されたアスベスト含有材2を除去する施工に適用されるものである。基材1は、例えば吹付け厚25〜60mm程度のアスベスト含有材2を吹き付けて施工されたものである。なお、アスベスト含有材2として、吹付けアスベスト材やアスベスト含有吹付けロックウール等が挙げられる。
【0017】
アスベスト含有材2の除去方法は、アスベスト含有材2に基材1に到達する図2に示すメッシュ状の切れ目K1を設け、その後、図3に示す手持ち可能な注射器10(注入冶具)を用いて、その注射器10の注射針102を前記切れ目K1から挿入して、アスベスト含有材2の基材1との付着面T付近に酸性液3を注入し、これにより、アスベスト含有材2を酸性液3に反応させて溶解させ、剥離させつつ自然に落下させ、その落下したアスベスト含有材2を取り除く方法となっている。
【0018】
ここで、付着面T付近に注入される酸性液3として、塩酸等の鉱物酸、酢酸、クエン酸等の有機酸水溶液が挙げられる。この酸性液3は、アスベスト含有材2に反応させて溶解させる作用を有しており、前記付着面T付近に注入することで基材1に対して剥離を生じさせて分離させるためのものであり、アスベスト含有材2の材質、その吹付け厚さ寸法、基材1の材質などの条件に応じて例えばPH値を1〜4程度に調整して使用される。
【0019】
アスベスト含有材2に形成する切れ目K1は、例えば電動ノコギリ等の切込み形成冶具(図示省略)を用いて施工され、その切れ目K1の間隔(図2に示すメッシュ間隔D)は例えば50〜1000mm程度に設定される。このメッシュ間隔Dは、アスベスト含有材2の吹付け厚さ寸法や強度によって適宜設定され、付着面Tに注入される酸性液3の浸透により切れ目K1によって区画された領域のブロック状のアスベスト含有材2(図1、図2に示す符号2A)を自然落下させ得る大きさであることが好ましい。
また、図2においてメッシュ間隔Dは等間隔としているが、これに限定されることはなく、例えばボルトや鋼材等が設けられた箇所におけるアスベスト含有材2の表面が複雑な形状となる部分にあっては、メッシュ間隔Dを通常より小さくすることも可能である。
【0020】
酸性液3を付着面Tに注入するための図3に示す注射器10は、適宜量の酸性液3を吸引可能な本体101と、アスベスト含有材2に突き刺すことが可能な注射針102とからなる手持ち可能な周知の形態のものを採用することができる。
図4に示すように、注射針102は、少なくともアスベスト含有材2の基材1に対する被覆厚さ寸法よりも大きな長さ寸法を有しており、先端部102aには横穴をなす注出口103が設けられている。つまり、注射針102の針穴が横向きに開いているので、アスベスト含有材2に注射針102を挿入する際、アスベスト含有材2が注出口103に入り込んで目詰まりを起こし、酸性液3の注入が妨げられるといった不具合が抑えられるようになっている。
【0021】
次に、アスベスト含有材2の除去方法とその施工時におけるアスベスト含有材2の作用について、さらに具体的に説明する。
先ず、図1に示すように、除去するアスベスト含有材2の表面2aには、例えばアステクターS(登録商標)などの飛散抑制剤(図示省略)を散布しておく。その後、図2に示すように適宜なメッシュ間隔Dで切れ目K1を設ける。なお、この切れ目K1を設けただけの状態では、個々の区画領域2Aのブロックは基材1に対して付着しており、そのブロックが自然落下する状態にはなっていない。
【0022】
続いて、図1に示すように、酸性液3を吸引させた注射器10を使用し、注射針102の先端部102a(注出口103)が適宜な注入位置(付着面T付近)となるように、メッシュ状の切れ目K1に挿入され、この切れ目K1の奥部の付着面Tに酸性液3を注入する。
【0023】
酸性液3を付着面Tに注入することで、アスベスト含有材2の基材1側の付着部分におけるセメント分と有機物とが酸により化学反応で分解して溶解する。これにより切れ目K1によって区画されたブロック状のアスベスト含有材2Aが基材1に対して剥離し、自然落下することになる。
また、切れ目K1を入れることで、基材1に被覆されるアスベスト含有材2の平面方向の連続性がなくなり、一定の大きさ(領域)に区画されたブロック状となり、隣接するブロック同士の保持力もなくなる。そのため、各ブロック状のアスベスト含有材2Aにおける付着面Tに酸性液3を浸透させることで、確実な落下が可能となる。
【0024】
なお、アスベスト含有材2が落下した基材1の表面1a(アスベスト含有材2との付着面T)は、アスベスト含有材2が溶解により剥離しているので、アスベスト含有材2の残留付着物がほとんど残らない状態となっている。
また、落下したアスベスト含有材2は、適宜な回収手段により取り除くことができる。ここで、本実施の形態では、予めアスベスト含有材2の表面2aに飛散抑制剤を散布しておくため、アスベスト含有材2が剥離落下する際に生じるアスベストの飛散を抑制することができる。
【0025】
さらに、注射器10の注射梁102の注出口103を容易に基材1に達する位置まで挿入して、その注出口103から酸性液3を噴射することで、基材1とアスベスト含有材2との付着面Tに酸性液3を確実に浸透させることができる。
【0026】
このような除去方法によると、切れ目K1の形成作業と注入作業による簡単な作業によりアスベスト含有材2を基材1に対してほぼ付着残しのない状態で除去することが可能であり、さらに従来のような大型の除去装置やマニピュレータを備えた除去ロボットが不要となり、またケレン棒で粗落としを行った後に磨き上げを行うといった手間のかかる作業も不要となる。そのため、狭小な作業空間においても、人力によって容易に、且つ短時間で除去作業を行うことができる。
【0027】
なお、メッシュ状の切れ目K1に注射器10の注射針102を挿入して酸性液3を注入する方法としているが、注射針102の挿入位置、すなわち注入位置はこれに限定されることはない。例えば、図2に示すように、切れ目K1よって区画されたブロック状のアスベスト含有材2Aの略中心部P0に挿入され、この位置(中心部P0)の付着面Tに酸性液3を注入するようにしてもかまわない。この場合、付着面Tに注入した酸性液3が略中心部P0を中心にしてその周囲に均一に広がるので、ブロック状のアスベスト含有材2をより確実に剥離、落下させることができる。
【0028】
上述のように本第1の実施の形態によるアスベスト含有材の除去方法では、アスベスト含有材2に切れ目K1を設けた後に注射器10を用いて酸性液3を注入するといった手間のかからない簡単な作業によりアスベスト含有材2を基材との付着面Tで溶解させ、剥離させることが可能であり、基材1が複雑な形状であってもほぼ付着残しがない状態で確実に除去することができ、作業時間の低減を図ることができる。また、大型の除去装置等を用いることがないので、狭小な作業空間であっても除去作業を行うことができる。
【0029】
次に、本発明のアスベスト含有材の除去方法による他の実施の形態および変形例について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1の実施の形態と異なる構成について説明する。
【0030】
(第2の実施の形態)
図5に示すように、第2の実施の形態によるアスベスト含有材の除去方法は、アスベスト含有材2に基材1に到達する切れ目K1を設け、加圧噴射ガン11(注入冶具)を用いて、アスベスト含有材2にその表面2aから圧力をかけて酸性液3を浸透させる方法である。すなわち、第2の実施の形態では、基材1とアスベスト含有材2との間の付着面Tに直接、酸性液3を注入する方法である第1の実施の形態とは異なっている。
なお、本第2の実施の形態による基材1は、H形鋼の鋼材であり、その表面1aにアスベスト含有材2が吹き付け等によって被覆されている。
また、切れ目K1については、上述した第1の実施の形態と同様に、電動ノコギリ等により所定のメッシュ間隔をもって施工されることから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0031】
加圧噴射ガン11は、手持ち可能なガン式であり、レバー方式の噴射操作部111と先端部に設けられた噴射ノズル112とを有するとともに、酸性液供給部12に接続されていてこの酸性液供給部12より加圧された酸性液3が供給されるようになっている。
酸性液供給部12は、酸性液3を貯留する薬品槽13と、薬品槽13と加圧噴射ガン11との間を連結する液送管14と、液送管14の途中に介在された圧送ポンプ15と、圧送ポンプ15の下流側に設けられ設定圧力で酸性液3を送出するためのリザーバー16とからなる。
【0032】
薬品槽13中の酸性液3は、圧送ポンプ15によって加圧されるとともに、リザーバー16によって設定された噴射圧力で加圧噴射ガン11に送り込まれている。このときの噴射圧力は、噴射によりアスベスト含有材2の表面2aから内部に圧力浸透させ得る圧力であり、例えば5〜1000kgf/cmとされる。
圧送ポンプ15は所定の圧力以上に昇圧することを防止する適宜な機構が設けられ、また液送管14は所定圧力に耐え得る材料が用いられている。
【0033】
加圧噴射ガン11は、その噴射ノズル112を切れ目K1を入れたアスベスト含有材2の表面2aに当接させ、或いは僅かに間隔を開けた位置で、噴射操作部111を押して加圧された酸性液3を噴射させ、その酸性液3をアスベスト含有材2の内部に圧力浸透させることができる。このとき加圧噴射ガン11より噴射される被圧した酸性液3は、連続的或いは断続的に噴射される。
なお、施工時において、加圧噴射ガン11による噴射を行う前に、予めアスベスト含有材2の表面2aを湿潤剤で湿らせておくことで、加圧による噴射時の飛散を防止することが可能である。
【0034】
本第2の実施の形態によるアスベスト含有材の除去方法では、加圧噴射ガン11よりアスベスト含有材2内に圧力浸透する酸性液3は基盤1の表面1a(付着面T)まで到達し、さらにその付着面Tに沿って周囲に広がることになる。このように酸性液3を付着面Tに浸透させることで、アスベスト含有材2の基材1側の付着部分におけるセメント分と有機物とが酸により化学反応で分解して溶解する。これにより切れ目K1によって区画されたブロック状のアスベスト含有材2が基材1に対して剥離し、自然落下することになる。
そして、第2の実施の形態では、上述した第1の実施の形態のようにアスベスト含有材2に注射器10(図1参照)の注射針102を挿入する作業手間が無いうえ、挿入時の注入針102の破損なども無いので、作業効率の向上を図ることができる。
【0035】
なお、加圧噴射ガン11による噴射位置は、アスベスト含有材2の表面2aであれば何れの位置でもかまわないが、施工した切れ目K1がアスベスト含有材2の表面2aから基材1の表面1a(付着面T)まで連通しているので、この切れ目K1内に向けて加圧噴射ガン11から酸性液3を噴射することでより確実に付着面T全体に浸透させることができる。
【0036】
次に、第1変形例〜第10変形例について、具体的に説明する。
なお、下記の第1変形例〜第10変形例は、上述した第1の実施の形態の変形例であって、切れ目K1を利用して注入冶具より酸性液3を付着面Tに注入する場合と、切れ目K1を利用せずにアスベスト含有材2の表面2a(例えば、上述した第1の実施の形態の切れ目K1よって区画されたブロック状のアスベスト含有材2Aの略中心部P0を含む)から注入冶具を挿入して注入する場合とのいずれか一方を例示しているが、いずれの場合も可能である。
【0037】
(第1変形例)
第1変形例は、上述した第1の実施の形態の注射器10(図1参照)に代えて図6に示すコーキングガン式の注入ガン17(注入冶具)を用いてアスベスト含有材2を除去するものである。
すなわち、注入ガン17は、酸性液3が充填される筒状の薬液充填部171と、薬液充填部171の先端に連通する流路(図示省略)を有する注入ドリル172と、薬液充填部171を回転可能に支持するとともに薬液充填部171内の酸性液3を注入ドリル172の先端開口172aから噴射させるための注入操作グリップ173と、薬液充填部171の後端171a側に設けられ、注入ドリル172を備えた薬液充填部171を手動操作により回転させるための回転レバー174とを備えている。なお、回転レバー174は、薬液充填部171の後端171a側に対して着脱可能に設けられ、その後端171a側に係合させたときに回転レバー174の回転とともに薬液充填部171および注入ドリル172が回転する構成であってもよい。
【0038】
本第1変形例では、図2に示す切れ目K1によって区画されたアスベスト含有材2のブロックの中心部P0に注入ドリル172を回転により進入させ、そのドリル先端開口172aが基材1(付着面T)に達したときに、注入操作グリップ173を押して薬液充填部171内の酸性液3を付着面Tへ向けて注入することができる。また、切れ目K1に直接、注入ガン17の注入ドリル172を挿入して、付着面Tに酸性液3を注入する方法であってもよい。
【0039】
(第2変形例)
図7および図8に示す第2変形例は、上述した第1の実施の形態の注射器10(図1参照)に代えてスクレーパ形状の噴射スクレーパ18(注入冶具)を用いてアスベスト含有材2を除去するものである。
すなわち、噴射スクレーパ18は、把持部181aとブレード181bとを有するスクレーパ本体181の内部に酸性液3用の流路182が設けられ、その流路182が液送管14を介して薬品槽13に接続されている。噴射スクレーパ18と薬品槽13との間には圧送ポンプ15が設けられている。スクレーパ本体181の把持部181aには弁開閉釦183が設けられている。流路182は、ブレード181bで把持部181aから複数の流路に分岐され、それぞれがブレード先端の開口181cに繋がっている。
【0040】
本第2変形例では、図2に示す直線状の切れ目K1に噴射スクレーパ18のブレード181bを基材1に達するまで挿入し、弁開閉釦183を押して圧送ポンプ15を駆動させて、薬品槽13内の酸性液3を液送管14を介してスクレーパ本体181内の流路182を通過させて、ブレード先端の開口181cから酸性液3を付着面Tに向けて注入することができる。
【0041】
(第3変形例)
図9乃至図11に示す第3変形例は、上述した第1の実施の形態の注射器10(図4参照)の注射針102の構成を代えたものである。
図9に示す注射器10の注射針104は、その先端周面に複数の横穴からなる注出口105、105、…を備えた構成となっている。これにより、より広い範囲に酸性液3を注入することができ、また仮に何れかの注出口105が目詰まりしても他の注出口105より注入できる利点がある。
【0042】
また、図10に示すように、注出口105の形状として、注射針104の外周面から内周面に向かうに従って漸次縮径するテーパー105aを形成したものであって、このようなテーパー105aを設けることで、注出口105の目詰まりの発生を抑制することができる。
【0043】
また、図11に示す注射針106は、針先端106aの外径寸法を大径とし、その針先端106a部分に設けられる注入口107Aの穴径を針軸部106bの注入口107Bよりも大径にして、付着面Tでより多くの酸性液3を注入できるようにしている。
【0044】
(第4変形例)
第4変形例は、上述した第1の実施の形態の注射器10(図1参照)に代えて図12及び図13に示す櫛形注入具19、20(注入冶具)を用いてアスベスト含有材2を除去するものであって、上述した第2変形例において噴射スクレーパ18(図7参照)を櫛形注入具19に代えたものである。図12に示す薬品槽13、液送管14、圧送ポンプ15は第2変形例と同様の構成であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0045】
図12に示す櫛形注入具19は、先端に噴射開口191aを有する複数の針191を備えた櫛状部192が把持部193に固定されており、把持部193の内部には液送管14に繋がる図示しない流路が設けられている。複数の針191は、複数の異なる長さ寸法をなしている。これら針191の長さ寸法の差は、例えば30〜50mm程度とされる。
この櫛形注入具19では、上述した第2変形例と同様に図2に示す切れ目K1に櫛状部192を基材1の表面1aに達するまで挿入した後、複数の針191の噴射開口191aから酸性液3を付着面Tへ向けて注入することができる。このとき、針191の長さが異なり、噴射開口191aの位置が異なるので、広い範囲への注入が可能となる。
【0046】
また、図13に示す櫛形注入具20のように、断面円形状とすることも可能である。この場合、断面中心部に位置する針201(201A)を最も長い寸法とし、径方向に外周に向かうにしたがって漸次短くなる構成とすることで、切れ目K1によって区画されるアスベスト含有材2のブロックの表面2aから挿入し、断面中心に位置する針201Aが基材1に達したときに各針201から酸性液3を注入することができる。
【0047】
(第5変形例)
図14に示す第5変形例は、上述した第1の実施の形態の注射器10(図1参照)に代えて二重釘形注入具21(注入冶具)を用いてアスベスト含有材2を除去するものである。なお、図14は注入時の作業手順を示した図であり、分かり易くするために手順毎の作業状態をすべて示した図となっている。
図14に示す二重釘形注入具21は、軸芯部211と、この軸芯部211が挿通可能で有底円筒形状の外管212とからなる。外管212の底部212aの中心であって外管212の先端には、注入開口213が設けられている。軸芯部211および外管212は、それぞれ金属或いは硬質樹脂などの部材からなる。軸芯部211の先端には、前記外管212の注入開口213に係合する突出部211aが設けられ、この二重釘形注入具21をアスベスト含有材2に打ち込んで挿入する際に、注入開口213に突出部211aを係合させておくことで、注入開口213が潰れたり目詰まりの無いように保持することができる。
【0048】
本第5変形例の二重釘形注入具21では、酸性液3をアスベスト含有材2に注入する際、先ず、外管212に軸芯部211を挿入した状態で、軸芯部211の後端211bをハンマ214で打ち込み、アスベスト含有材2に挿入する。そして、外管212の先端の注入開口213が基材1に到達したとき、打ち込みを止め、外管212をそのままアスベスト含有材2に残したまま軸芯部211を外管212から引き抜く。これにより、注入開口213に係合していた突出部212aも軸芯部211とともに抜き出され、その注入開口213と外管212の中空部とが連通した状態なる。次いで、外管212の中空部に図示しない適宜な方法により酸性液3を供給することで、注入開口213から付着面Tへ向けて酸性液3が注入されることになる。
なお、外管212の先端に注入開口213を中心として放射状に延びる切欠き(図示省略)を設けることで、注入開口213から噴射する酸性液3が放射方向に拡散させることも可能である。
【0049】
(第6変形例)
図15および図16に示す第6変形例は、上述した第1の実施の形態の注射器10(図1参照)に代えて膨張式注入具22(注入冶具)を用いてアスベスト含有材2を除去するものである。
すなわち、膨張式注入具22は、酸性液3用の流路220を配した平板状のプレート221と、プレート221の一方面221aに所定間隔をもって設けられるとともに流路220に連通した複数の注入針222と、プレート221の他方面221bに全面にわたって設けられた膨縮部材223とを備えて概略構成されている。注入針222の先端には、注出口(図示省略)が設けられている。そして、この膨張式注入具22は、とくに図示しないが、上述した第4変形例と同様の図12に示す薬品槽13、液送管14、圧送ポンプ15が設けられ、その液送管14と前記流路220とが接続されている。
【0050】
次に、本第6変形例による膨張式注入具22を用いた酸性液3の注入方法について説明する。
図15(a)に示すように、アスベスト含有材2が被覆される基材1はH形鋼であり、これに一定の間隔を開けて既存壁4が設けられている。この場合、基材1のH形鋼のウェブ1bとプレート221とが互いの面を平行にするとともに、注入針222を前記ウェブ1bのアスベスト含有材2に向けた状態で膨張式注入具22を配置する。このとき、縮減状態の膨張部材223と既存壁4とが所定の間隔をもって対向した状態となっている。
【0051】
そして、図15(b)に示すように、膨張部材223に図示しない膨張手段によってエア等を供給して膨張させると、膨張部材223が既存壁4に当接し、この既存壁4を反力にしてプレート221とともに複数の注入針222をアスベスト含有材2に圧入することになる。これにより、複数の注入針222の先端が基材1(ウェブ1b)に達したときに、流路220に酸性液3を供給して注入針222の先端から付着面Tに酸性液3を注入することができる。
【0052】
(第7変形例)
第7変形例は、上述した第1の実施の形態の注射器10(図1参照)に代えて図17に示す中空ドリル式注入具23(注入冶具)を用いてアスベスト含有材2を除去するものである。
すなわち、中空ドリル式注入具23は、中空ドリル231と、中空ドリル231の先端に取り付けた中空ドリルビット232と、中空ドリルビット232の先端に設けられたボールプランジャー233と、中空ドリル231、中空ドリルビット232およびボールプランジャー233のそれぞれの中空部に連通して設けられる酸性液3用の注入パイプ234とを備えている。通常の状態、つまりボールプランジャー233の先端233aが押圧されていない状態では、注入パイプ234内の酸性液3が流出するのが防止されている。
本中空ドリル注入具23では、中空ドリル231、中空ドリルビット232を回転させることで基板1に達するまでアスベスト含有材2を削孔する。そして、ボールプランジャー233が基板1に達して先端233aが押圧されると、この先端233aから酸性液3が付着面T(図1参照)に向けて注入されることになる。
【0053】
(第8変形例)
第8変形例は、上述した第1の実施の形態の注射器10(図1参照)に代えて図18に示すカプセル式注入具24(注入冶具)を用いてアスベスト含有材2を除去するものである。
すなわち、カプセル式注入具24は、酸性液3を加圧状態で収容した円筒状の容器本体241の先端にニードル状の開栓器を有する針状の酸性液カプセルである。つまり、容器本体241の先端には凹部241aが形成されており、この凹部241aの底部、すなわち容器本体241の先端側の隔壁241bを有している。凹部241aには、キャップ242に一体的に設けられたニードル243が嵌合された状態となっている。このキャップ242は、凹部241aに係合した状態で容器本体241の中心軸線に沿ってキャップ先端242aから隔壁241bまでを連通する流路244が設けられている。そして、ニードル243の刃先部243aが隔壁241bに向けて配置されている。
【0054】
図19に示すように、このカプセル式注入具24を圧縮空気などを使用した打ち込み手段によりアスベスト含有材2内に打ち込んで挿入すると、カプセル先端が基材1の表面1aに達し、その位置で停止する。このとき、キャップ242が容器本体241側に向けて押圧され、その際、キャップ242と一体となっているニードル243の刃先部243aが容器本体241の隔壁241bを突き破り、容器本体241が開栓される。具体的にキャップ242は、その後端242b(容器本体241側の端部)が容器本体241の先端面241cに当接した位置で停止する。
これにより、容器本体241の内部に圧入されていた酸性液3が流路244を通ってキャップ先端242aから噴出し、その酸性液3がアスベスト含有材2と基材1との間の付着面Tに浸透して周囲に広がることになる。
【0055】
なお、キャップ242内の流路244の形状は、図18に示すように中心軸線に沿うもの、つまり流路244の下流の酸性液3の噴出口がキャップ先端242aであることに限定されることはない。例えば、図20に示すように、キャップ242の側面に酸性液3の噴出口242bが設けられた構成であってもよい。
【0056】
(第9変形例)
図21に示す第9変形例は、上述した第1の実施の形態の注射器10(図1参照)に代えてTバー状注入具25(注入冶具)を用いてアスベスト含有材2を除去するものであって、上述した第2変形例において噴射スクレーパ18(図7参照)をTバー状注入具25に代えたものである。図21に示す薬品槽13、液送管14、圧送ポンプ15は第2変形例と同様の構成であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
すなわち、Tバー状注入具25は、ドリル本体251と、ドリル本体251に回転可能に取り付けられるTバー252とを備えている。Tバー252は、回転軸253と、回転軸253の先端でその回転軸方向に直交する方向に延びると共に酸性液3を噴射させる複数の開口254aを有する先端バー254とからなる。
【0057】
図21および図22(a)に示すように、Tバー状注入具25を用いたアスベスト含有材の除去方法は、切れ目K1に合わせてTバー252の先端バー254を基材1の表面1aに達するまで挿入した後、先端バー254の開口254aから酸性液3を付着面Tへ向けて噴射する。このとき、図22(b)に示すように、回転軸253とともに先端バー254を付着面Tに沿って回転させながら酸性液3を噴射させることも可能であり、これにより効果的に且つ広い範囲への酸性液3の注入が可能となる。
【0058】
(第10変形例)
図23に示す第10変形例は、先端に注入冶具261を備えたロボットアーム26によってアスベスト含有材2を除去するものである。
このロボットアーム26の注入冶具261には、6軸のフォース/トルクセンサー262が設けられており、コンプライアンス制御を行うことができる構造となっている。
なお、このロボットアーム26には、図24に示すように、注入治具261を除く部分のすべてを覆う防護シート27を設けるようにしてもよい。
【0059】
以上、本発明によるアスベスト含有材の除去方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態ではアスベスト含有材2に設ける切れ目K1をメッシュ状としているが、これに限定されることはなく、平行、或いは格子状をなす切れ目であってもかまわない。
また、酸性液3の、種類、注入量、注入位置、注入間隔等は、上述したようにアスベスト含有材の材質、その吹付け材の厚さ寸法、基材の材質等の条件に応じて適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 基材
1a 表面1a
2 アスベスト含有材
2a 表面
3 酸性液
10 注射器(注入冶具)
11 加圧噴射ガン
13 薬品槽
14 液送管
15 圧送ポンプ
17 注入ガン(注入冶具)
18 噴射スクレーパ(注入冶具)
19、20 櫛形注入具(注入冶具)
21 二重釘形注入具(注入冶具)
22 膨張式注入具(注入冶具)
23 中空ドリル式注入具(注入冶具)
24 カプセル式注入具(注入冶具)
25 Tバー状注入具(注入冶具)
26 ロボットアーム
27 防護シート
K1 切れ目
T 付着面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に被覆されているアスベスト含有材の除去方法であって、
前記アスベスト含有材に前記基材に到達する切れ目を設ける工程と、
注入冶具を用いて、前記アスベスト含有材の前記基材との付着面付近に酸性液を注入する工程と、
を有することを特徴とするアスベスト含有材の除去方法。
【請求項2】
前記切れ目によって区画された領域の平面視略中心部に前記酸性液を注入することを特徴とする請求項1に記載のアスベスト含有材の除去方法。
【請求項3】
前記切れ目に前記注入冶具の注入先端を挿入し、該注入先端から前記酸性液を噴射させることを特徴とする請求項1に記載のアスベスト含有材の除去方法。
【請求項4】
基材の表面に被覆されているアスベスト含有材の除去方法であって、
前記アスベスト含有材に前記基材に到達する切れ目を設ける工程と、
注入冶具を用いて、前記アスベスト含有材にその表面から圧力をかけて酸性液を浸透させる工程と、
を有することを特徴とするアスベスト含有材の除去方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−17607(P2012−17607A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155893(P2010−155893)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】