説明

アスベスト含有材料の処理方法

【課題】アスベストを温和な条件で無害化するアスベストの処理方法を提供する。
【解決手段】アスベスト含有材料に含まれるアスベストとアルカリ金属以外の金属を水熱反応系に供給可能な金属源とを、アルカリ金属水酸化物と金属フッ化物との存在下に接触させて水熱反応を実施する水熱反応工程を実施することにより、アスベスト含有材料を処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト含有材料を無害化又は再利用する技術に関し、詳しくは、アスベスト含有材料の処理方法、アスベスト変成材料の製造方法、アスベスト含有材料の回収方法及びアスベスト含有材料の処理剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベストは、繊維状のケイ酸塩鉱物を解繊したものであって、柔軟性、耐熱性であるとともに化学的に不活性であるため、保温や耐火材料として多用されていたが、吸引によりある種のガンなどを引き起こすことがあるため、建築物において使用が禁止されている。また、近年、生活環境等に飛散可能に露出された状態で存在するアスベストの除去・回収が促進されている。回収されたアスベストはその飛散を防止するために、袋詰めの後、埋め立てないし溶融固化が行われているが、埋立て処分は用地的に制限があり、溶融固化は1000℃以上の高温が必要なためコスト的に困難であった。
【0003】
そこで、アスベストの処理方法が検討されている。例えば、アスベスト廃棄物をセメント中に混合して繊維強化セメントとして使用する方法(特許文献1)や、アーク溶融や熱プラズマで溶融固化するかガラス成分を添加して溶融固化してガラス化する方法(特許文献2,3)が検討されている。さらに、フロン分解物と混合して低温で加熱することで無害化することも試みられている(特許文献4)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−271561号
【特許文献2】特開平8−84969号
【特許文献3】特開2005−279589号
【特許文献4】特開2005−168632号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1はアスベストの処理を先送りしたに過ぎず、特許文献2〜4の方法は、アスベストを無害化することができるものの、特許文献2及び3では、1000℃程度必要であり、特許文献4の方法でも600℃程度の高温が必要であった。したがって、現在までのところ、より低温で、例えば400℃以下の低温でアスベストを無害化する方法は見出されていない。また、同時に再利用できる方法も見出されていない。さらに、アスベストは大量に発生することも多いため、その処理にあたっては、より温和な条件と効率性との双方が求められる。
【0006】
そこで、本発明は、400℃以下程度の低温でも効率よくアスベストを無害化できるアスベストの処理方法を提供することを一つの目的とする。また、本発明は、400℃以下の温度の処理でアスベストを無害化できるとともに再利用可能な材料に効率よく変換するアスベスト変成材料の製造方法を提供することを他の一つの目的とする。さらに、本発明は、温和な条件で効率的にアスベストを無害化又はリサイクル材料に変換するアスベスト処理剤を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鉱石化合物であるアスベストの組成に着目するとともに、水熱反応の利用に着目した。そして、アスベストに対して適当な金属源の存在下に水熱反応によりアスベストを変成させることで、温和な条件でアスベスト特有の針状構造を別の構造に変換して無害化できることを見出した。
【0008】
本発明者らは、水熱反応に際して、特定の組み合わせの溶解促進剤を用いることで予想外に効率的にアスベストを無害化処理できることを見出した。従来、アスベストの水熱反応に際して、金属フッ化物の存在が水熱反応を促進にどの程度関与しているかは明らかではなかった。特に、金属フッ化物を水熱反応において成分(a)であるアルカリ金属水酸化物と併用したときの効果については全く知られていなかった。本発明者らは、成分(a)を用いてアスベスト含有材料の水熱反応について検討していたところ、その反応効率に違いがある場合があることを見出し、その原因を探求したところ、反応効率が容器中に不純物として存在していたフッ化物の量に依存していることを見出した。これらの知見に基づき以下の手段が提供される。
【0009】
本発明によれば、アスベスト含有材料の処理方法であって、前記アスベスト含有材料に含まれるアスベストと、アルカリ金属以外の金属を水熱反応系に供給可能な金属源と、を接触させて水熱反応を実施する水熱反応工程を備え、前記水熱反応工程は、前記アスベストの溶解促進剤として以下の成分(a)及び(b):
(a)アルカリ金属水酸化物から選択される1種又は2種以上
(b)アルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類金属フッ化物から選択される1種又は2種以上、を用いて前記水熱反応を実施する、処理方法が提供される。
【0010】
前記成分(a)として少なくとも水酸化ナトリウムを用いる、前記方法も提供される。また、前記成分(b)として少なくともアルカリ金属フッ化物を用いる、前記方法も提供される。前記アルカリ金属フッ化物はフッ化ナトリウムを含むことができる。
【0011】
また、前記水熱反応工程は、前記溶解促進剤は、前記成分(a)及び前記成分(b)を溶質として水性媒体中に含有する水性液剤として前記水熱反応に供給する工程である、前記方法も提供される。前記溶解促進剤は、前記成分(a)として水酸化ナトリウムと前記成分(b)成分としてフッ化ナトリウムとを溶質として水性媒体に含有する水性液剤とすることもできる。
【0012】
前記水熱反応工程に先だって、使用済みの前記アスベスト含有材料を前記成分(a)と前記成分(b)とを溶質として水性媒体中に含有する水性液剤を用いて回収する回収工程を備える、前記方法も提供される。この方法においては、前記成分(a)を5M以上20M以下含有し、前記成分(b)をフッ素換算で0.02M以上1.0M以下含有することができる。より好ましくは、前記成分(b)をフッ素換算で0.02M以上0.2M以下含有することができる。
【0013】
前記水熱反応工程は、155℃以上250℃以下で前記水熱反応を実施する工程とする、前記方法も提供される。
【0014】
本発明によれば、アスベスト変成材料の製造方法であって、アスベスト含有材料に含まれるアスベストとアルカリ金属以外の金属を水熱反応系に供給可能な金属源とを、以下の成分(a)及び(b):
(a)アルカリ金属水酸化物から選択される1種又は2種以上
(b)アルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類金属フッ化物から選択される1種又は2種以上、
を含有する溶解促進剤の存在下に接触させて水熱反応を実施する水熱反応工程と、
前記水熱反応の反応液から反応生成物として前記アスベスト変成材料を回収する回収工程と、
を備える、製造方法が提供される。
【0015】
本発明によれば、アスベスト含有材料の回収方法であって、
使用済みの前記アスベスト含有材料を、
以下の成分(a)及び/又は(b):
(a)アルカリ金属水酸化物から選択される1種又は2種以上
(b)アルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類金属フッ化物から選択される1種又は2種以、
を溶質として水性媒体中に含有する水性液剤を用いて回収する工程、
を備える、回収方法が提供される。
【0016】
本発明によれば、アスベスト処理剤であって、
以下の成分(a)及び(b):
(a)アルカリ金属水酸化物から選択される1種又は2種以上
(b)アルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類金属フッ化物から選択される1種又は2種以上、
を含有する、処理剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のアスベスト含有材料の処理方法は、アスベスト含有材料とアルカリ金属以外の金属を水熱反応系に供給可能な金属源とを接触させて水熱反応を実施する水熱反応工程を備えている。このため、本処理方法によれば、アスベスト含有材料に含まれるアスベストを新たな金属源を用いて水熱合成して変成(組成変化及び/又は結晶構造変化)させることでその有害な針状構造を消失させることができ、無害化することができる。また、本処理方法によれば、アスベストの組成をそのまま利用するとともに新たな金属源を用いてアスベストを変成させるため、温和な条件でアスベストを無害化できる。
【0018】
さらに、本発明の処理方法では、水熱反応工程を、アスベストの溶解促進剤として、(a)アルカリ金属水酸化物から選択される1種又は2種以上と(b)アルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類金属フッ化物から選択される1種又は2種以上を用いて実施することで、溶解促進剤を使用しない場合及び上記(a)のみを用いる場合に比較して水熱反応を促進することができる。このため、アスベスト含有材料を400℃以下でかつ温和な圧力条件及びアルカリ条件で短時間に処理することができる。大量のアスベスト含有材料や高濃度にアスベストを含有するアスベスト含有材料を効率的に処理することができる。
【0019】
また、こうした水熱反応工程を利用することで、変成後の組成の調整が可能であるほか適当な細孔径調節剤(鋳型剤)を利用することで細孔径調整も可能となる。したがって、本処理方法によれば、アスベストを簡易にかつ有効に再利用することができる。以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
(アスベスト含有材料の処理方法)
本発明のアスベスト含有材料の処理方法は、アスベスト含有材料について水熱反応を実施する水熱反応工程を備えている。以下、本水熱反応工程について説明する。
【0021】
(アスベスト含有材料)
本発明の出発原料であるアスベスト含有材料は、アスベストのみから構成されていてもよいし、アスベスト以外の成分を含有していてもよい。アスベストとしては、蛇紋岩から産出される繊維状含水ケイ酸塩鉱物であるクリソタイルのほか、クロシドライト、アモサイト、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトの各種鉱物が挙げられる。
【0022】
また、アスベスト以外の成分としては、蛇紋石鉱物のクリソタイル以外の主要構成鉱物であるリザルダイト、アンチゴライトなどのほか、ブルーサイト、フォルステライト、エンスタタイト、カルサイト、クロマイトなどの不純物としての鉱物が挙げられる。さらに、他のアスベスト以外の成分としては、アスベストと同時に使用されあるいは同時に回収された他の成分であって、例えば、セメントなど、アスベストを利用した各種の建築材料のアスベスト以外の成分が挙げられる。
【0023】
本発明のアスベスト含有材料としては、アスベストを含有する鉱石を利用することもできるが、使用済みのアスベスト含有材料を用いることができる。使用済みアスベスト含有材料としては、アスベストを用いたスレート板、瓦、耐火被覆材、保温材などの建築材料又はこれらの産業廃棄物が挙げられる。典型的な使用済みアスベスト含有材料は、耐火被覆層等としてセメント等ともに吹き付けられた吹き付けアスベストが挙げられる。こうした使用済みアスベスト含有材料を本処理方法のアスベスト含有材料として用いることにより、アスベストの生活環境等への露出を抑制し人体のアスベストによる暴露を抑制できるとともに効率的なリサイクルが可能となる。
【0024】
(金属源)
本発明では、アルカリ金属以外の金属を水熱反応系に供給可能な金属源を用いる。供給する金属としては、具体的には、アスベスト含有材料中に含まれる各種アスベスト鉱物の構成金属と水熱反応により新たな水熱反応組成物を生成可能な成分であればよい。したがって、供給される金属は、アスベスト鉱石構成金属以外の金属であってもよいし、アスベスト鉱石構成金属であってもよい。こうした金属種としては、例えば、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム及びシリコンが挙げられ、これら各種の金属種を単独であるいは2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、水熱反応により得ようとする鉱物の組成に合わせて、使用する金属種を選択するとともにその配合も適宜調整することができる。例えば、ゼオライトを得ようとする場合には、典型的には、アルミニウムと鋳型剤としてテトラプロピルアンモニウムなどを用いることができる。
【0025】
こうした各種の金属種を水熱反応系に供給する金属源としては、特に限定しないで水熱反応系において溶解可能な金属化合物を用いればよい。例えば、各種金属の水酸化物、各種金属酸化物の水和物、金属アルコキシドなどの各種加水分解性有機あるいはハロゲン化金属化合物、アルミニウム源としては、無定形水酸化アルミニウムゲルなどの水酸化アルミニウム、ベーマイトのようなアルミナ1水和物、バイアライト、ギブサイトなどのアルミナ3水和物などの各種アルミナ水和物、アルミン酸ナトリウム、各種のアルミニウムアルコキシドが挙げられる。また、シリコン源としては、ケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカ、各種のアルコキシド等が挙げられる。また、各種の金属種のケイ酸塩は、当該金属種の金属源としてだけでなく、当該金属種とシリコンとの金属源として用いることができる。さらに、金属源としては、こうした化合物だけでなく、2種類以上の金属種を含む各種の粘土鉱物を含む粘土などを用いてもよい。例えば、パイロフィライト、カオリナイト、モンモリナイトなどが挙げられる。
【0026】
こうした各種の金属源は、本発明の出発原料であるアスベスト含有材料に含まれている場合もある。例えば、人工スレートや耐火材料のマトリックスに用いられるセメント中の鉱物やケイ酸塩等が上記金属源に該当する場合があるからである。したがって、本発明の処理方法によれば、アスベストの処理にあたって、アスベストとともに混在する廃棄物由来材料も処理に利用できる。また、こうしたセメント等も水熱処理により変成させることもできる。
【0027】
(溶解促進剤)
本発明の処理方法の水熱反応工程においては、アスベスト含有材料と金属源の他にアスベスト含有材料中のアスベストの溶解促進剤を用いることができる。溶解促進剤は、原料の溶解度を増加させるほか、結晶の生成温度を低下させることができる場合もある。水熱反応時において溶解促進剤を用いることで一層温和な条件でアスベストを変成することが可能となる。
【0028】
溶解促進剤としては、以下の成分(a)及び(b)を用いることができる。溶解促進剤として成分(a)及び成分(B)を用いることで、一方のみを用いる場合に比較して予想を超えて水熱反応を促進して効率的にアスベストを変成・無害化することができる。
(a)アルカリ金属水酸化物から選択される1種又は2種以上
(b)アルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類金属フッ化物から選択される1種又は2種以上
【0029】
成分(a)としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物を用いることができる。水ガラスなどに代表されるようにシリカ成分はアルカリ金属水酸化物に溶融することが知られており、この傾向は水熱反応下でも同様であるからである。また、アルカリ金属水酸化物は中和によって簡易に排出が可能となる点で好ましい。なお、溶解促進剤としてアルカリ金属を含む場合には、水熱反応生成物に当該アルカリ金属が含有される場合もある。成分(a)として用いるアルカリ金属の水酸化物の種類は、溶解促進性やその反応生成物の組成等も考慮して決定することができるが、廃棄処理の際、塩酸で中和すると塩化ナトリウムを生成させることができる点から、水酸化ナトリウムを用いることが好ましく、より好ましくは成分(a)として水酸化ナトリウムのみを用いる。また、成分(b)としてフッ化ナトリウムを用いる場合には、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0030】
成分(b)のアルカリ金属フッ化物としては、リチウム、カリウム及びナトリウムのフッ化物が挙げられる。また、成分(b)のアルカリ土類金属フッ化物としては、カルシウム、マグネシウム等のフッ化物が挙げられる。成分(b)として用いるアルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類金属フッ化物の種類は、成分(a)と同様、特に限定されないが、溶解促進性や成分(a)との組み合わせによる効果等を考慮して決定することができるが、アルカリ土類フッ化物は溶解度が低く、溶液中に均一分散させるのに時間を要するため、そのような不都合のないアルカリ金属フッ化物を用いることが好ましい。より好ましくは、すでに説明したように廃棄処理の簡便さの観点から成分(b)として、フッ化ナトリウム、さらに好ましくはフッ化ナトリウムのみを用いる。
【0031】
成分(a)と成分(b)とは、それぞれ一定濃度範囲で水熱反応液中に存在することが好ましい。例えば、成分(a)は、総量で1M以上30M以下の範囲で存在することが好ましく、より好ましくは、5M以上20M以下であり、さらに好ましくは5M以上15M以下である。より好ましくは10M以上15M以下である。
【0032】
また、成分(b)は総量でフッ素換算(以下、成分(b)の濃度に関してはフッ素換算とする。)で0.01M以上1.0M以下であることが好ましく、より好ましくは0.02M以上1.0M以下であり、さらに好ましくは0.02M以上0.5M以下である。一層好ましくは、0.02M以上0.2M以下である。
【0033】
また、成分(b)の総モル濃度は、成分(a)の総モル濃度の総量の1000分の1以上10分の1以下であることが好ましい。1000分の1未満では、成分(b)を添加する相乗効果が得られにくく、10分の1よりも多くても相乗効果が得られにくいからである。より好ましくは700分の1以上20分の1以下である。700分の1未満であると不完全な分解物が残存する場合もあり、20分の1以下であれば十分に相乗効果が得られるからである。より好ましくは、100分の1以上50分の1以下である。成分(b)は、成分(a)に対して相対的に相当少ない量又は微量で反応促進効果を発揮することができる。このため、新たなコスト等の発生を回避又は抑制して極めて効果的に水熱反応を実施できる。
【0034】
特に、成分(a)として水酸化ナトリウムを用いたときには、水酸化ナトリウムを5M以上15M以下、より好ましくは、10M以上15M以下とし、成分(b)を0.02M以上0.2M以下用いることが好ましい。特に成分(b)としてフッ化ナトリウムを用いる場合には、0.1M以上0.2M以下とすることが好ましい。また、フッ化カリウム又はフッ化カルシウムを用いる場合には、0.02M以上0.2M以下とすることが好ましい。
【0035】
溶解促進剤を構成する成分(a)及び成分(b)は、それぞれ別個に水熱反応系に供給してもよいし同時に供給してもよい。また、成分(a)及び成分(b)は、それぞれ別個に粉末であってもよいし溶液として供給してもよいが、好ましくは、これらの成分の一方又は双方を溶質として水性媒体中に含有する水性液剤として供給する。溶解促進剤を水性液剤として供給することで、飛散する可能性のあるアスベスト含有材料に水分を供給して飛散を抑制するとともに、水熱反応を促進する溶解促進剤を供給できる。
【0036】
溶解促進剤は、成分(a)及び成分(b)をそれぞれ溶質として含有する2種類の溶解促進剤のセットであってもよいし、成分(a)及び成分(b)を溶質として含有する溶解促進剤であってもよい。単一の溶解促進剤とすることが使用性の観点から好ましい。
【0037】
溶解促進剤を水性液剤として用いる場合の水性媒体は、成分(a)及び成分(b)を溶解できる範囲で特に限定しない。水性媒体としては、水及び水と有機溶媒等の混合液であってもよい。好ましくは水を用いる。
【0038】
こうした溶解促進剤は、そのままの状態で希釈することなく使用することもできるし、使用時にあるいは必要に応じて希釈できる濃度で成分(a)及び/又は成分(b)を含有することができる。水性液剤は、用時における希釈倍率を考慮して成分(a)及び/又は(b)を含有するが、上記したような成分(a)及び成分(b)の濃度比率となるように組み合わされていることが好ましい。
【0039】
溶解促進剤は、水性液剤として供給するのに限定するものではなく、水熱反応液に対して粉末などの固体としても供給してもよい。また、溶解促進剤は、水熱反応液に供給する際(用時)に溶解するように成分(a)及び成分(b)を適当な濃度比率で含んだ粉末状等の組成物又は適当な濃度比率となるように調整されて組み合わされた別個の単剤のセットであってもよい。こうした組成物又はセットには、必要量の水等の水性媒体が予めセットされていてもよい。
【0040】
水性液剤としての溶解促進剤は、好ましくは、成分(a)として水酸化ナトリウムと成分(b)としてフッ化ナトリウムとを溶質として水性媒体に含有する。
【0041】
溶解促進剤としては、そのほか、各種第4級アンモニウム化合物などアンモニウム化合物を用いることもできる。第4級アンモニウム化合物などのアンモニウム化合物は、反応処理後において肥料成分にも使用可能であることから好ましく用いることができる。
また、本発明の処理方法においては、界面活性剤などの鋳型剤を用いることができる。本発明の処理方法では、アスベスト由来の成分と金属源により供給される金属との間での新たな水熱反応生成物が生成される。この際、鋳型剤を供給することで、たとえば、孔径が2〜50nm程度のメソポア材料を合成することもできる。こうした鋳型剤としては、従来メソポア材料の合成に用いられてきたのと同様の各種の界面活性剤を用いることができる。界面活性剤は細孔径の大きさや反応種の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0042】
(水熱反応工程)
水熱反応とは、高温高圧水の存在下で物質合成又は結晶形成する反応である。本発明はこうした水熱反応を利用するものであって、アスベスト含有材料を湿式でかつ密閉容器内で反応させるものであるため、処理時の飛散の影響を効果的に回避又は抑制できる。また、本発明の処理方法によれば、250℃以下の温度、30気圧以下でも容易にアスベストの変成・無毒化が可能である。このため、600℃程度以上を要していた従来のアスベストの処理方法に比較して、本発明の処理方法は安全でかつ低コストにアスベストを処理することができる。
【0043】
また、溶解促進剤として成分(a)及び成分(b)を用いる場合には、より低い温度及び/又はより低い圧力下で、例えば、200℃以下で15気圧以下という温和な条件でも、アスベストの分解速度を早めることができるため、より短時間又はより大量(高濃度)のアスベスト含有材料の無害化処理又は再利用処理が可能となっている。また、こうした溶解促進剤を用いることで溶解促進剤自体を低濃度で使用しても十分に水熱反応を進行させることができる。
【0044】
また、成分(a)及び成分(b)の溶解促進剤を用いることで、さらに温和な条件、155℃以上200℃以下での効率的な温度条件での水熱反応の実施が可能である。より好ましくは、175℃以上である。なお、この温度条件では、圧力条件は5気圧以上15気圧以下でも効率的な水熱反応が可能である。好ましくは10気圧以下である。こうした温和な水熱反応条件であれば、低コストかつ簡易にアスベストを処理できるほか、アスベスト含有材料の回収現場において容易に処理が可能である。このため、回収時の作業時の飛散による二次的被害を効果的に回避又は抑制できる。
【0045】
水熱反応時におけるアスベストの濃度は特に限定しないが、3kg/L以下とすることができる。好ましくは1kg/L以下である。また、金属源の濃度も特に限定しないが、1.6kg/L以下とすることができる。金属源の濃度は、また、アスベスト濃度を考慮して決定される。さらに、溶解促進剤や鋳型剤の濃度は、意図する効果が得られるように適宜設定すればよい。
【0046】
また、水熱反応に供されるアスベスト含有材料においてアスベスト自体は、解繊状態となっているため、アスベスト自体の無毒化のためには特にさらに細分化する必要はない。セメントなどが同時に回収されている場合には、セメント等の分離や変成を考慮して適宜セメント等の他の材料は細分してもよい。
【0047】
こうした水熱反応は、アスベストが無毒化ないし毒性が低下する範囲で実施することができる。例えば、反応処理物においてX線回折によるアスベスト由来のピークが観察されなくなるまで実施することが好ましい。こうした反応条件、反応時間の設定は予め行うことができる。
【0048】
こうした水熱反応は、水熱反応装置を用いることにより容易に実施することができる。例えば、各種工業的に用いられる高温高圧装置のほか、一般的なオートクレーブによっても可能である。水熱反応の終了後には、適当な固液分離処理を行って、固形物としてのアスベスト変成材料(水熱反応生成物)を得る。そして、必要に応じて、洗浄、乾燥、粉砕、成形等のいずれかあるいは2種以上の処理を行うことができる。
【0049】
(回収工程)
なお、水熱反応工程に先だって、アスベスト含有材料を成分(a)及び/又は成分(b)を溶質として水性媒体中に含有する水性液剤を用いて回収する回収工程を実施してもよい。こうした回収工程を実施することで、飛散可能性のあるアスベスト含有材料の飛散を抑制して回収するとともに、水熱反応工程で用いる溶解促進剤の少なくとも一部が供給されるため、水熱反応工程を容易に実施できる。好ましくは、成分(a)及び成分(b)の双方を含有する水性液剤でアスベスト含有材料を回収し、より好ましくは、水熱反応工程で使用する成分(a)及び成分(b)の全てを含む水性液剤を用いる。なお、成分(a)及び成分(b)には、既に説明した各種の態様をそのまま適用できる。
【0050】
回収工程で、後段の水熱反応工程で用いる成分(a)及び成分(b)の一部を既にアスベスト含有材料に供給した場合には、水熱反応工程では、残余の成分(a)及び/又は成分(b)を供給すれば足りる。また、回収工程で水熱反応工程で用いる成分(a)及び(b)の全部をアスベスト含有材料に供給した場合には、水熱反応工程では、成分(a)及び(b)を供給することを省略できる。
【0051】
(水熱反応生成物)
本発明の処理方法によって得られる水熱反応生成物、すなわち、アスベスト変成材料は、アスベスト特有の針状構造を有さず、また、アスベストの主たる鉱石結晶を含有しないものとなっている。このため、本処理方法で得られるアスベスト変成材料は無毒化されているといえる。さらに、本発明によるアスベスト処理物は、新たな金属種を供給して水熱反応により従来にない組成および構造の結晶を有するようにすることができるため、再利用に適したものとなっている。また、水熱反応により多孔材料となっている場合には、各種の触媒や土壌改良剤などにも用いることができる。さらに、鋳型剤などを含有する場合には、メソポアを有する細孔材料を得られる、大きな成分の吸脱着や各種の用途に用いることができる。例えば、新たな金属種として、アルミニウムを供給するときには、水熱反応生成物としてゼオライトを得ることができる。
【0052】
(アスベスト処理剤)
本発明のアスベスト処理剤は、(a)アルカリ金属水酸化物から選択される1種又は2種以上と(b)アルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類金属フッ化物から選択される1種又は2種以上とを含有することができる。
【0053】
本発明のアスベスト処理剤は、アスベスト含有材料を水熱反応のために使用する溶解促進剤としてのほか、当該水熱反応を実施するためにアスベスト含有材料を回収するのに用いることもできる。すなわち、アスベスト含有材料の処理剤(回収剤)として使用することもできる。アスベスト処理剤は、少なくとも回収時に水性液剤として使用可能であれば、回収時においてアスベスト含有材料の飛散を防止して、水熱反応を効率的に実施するのに都合がよい。
【0054】
(アスベスト含有材料の回収方法)
本発明のアスベスト回収方法は、使用済みの前記アスベスト含有材料を、上記成分(a)及び/又は上記成分(b)を溶質として水性媒体中に含有する水性液剤を用いて回収する工程を備えることができる。この回収方法によれば、吹き付けアスベストなどの使用済みアスベスト含有材料に対して、上記水性液剤を供給することで水分を供給してその飛散を抑制するとともに、本発明の処理方法又は本発明のアスベスト変成材料の製造方法における水熱反応工程のための前処理も同時に実施できる。好ましくは、成分(a)及び成分(b)の双方を含有する水性液剤でアスベスト含有材料を回収し、より好ましくは、水熱反応工程で使用する成分(a)及び成分(b)の全てを含む水性液剤を用いる。なお、成分(a)及び成分(b)には、既に説明した各種の態様をそのまま適用できる。
【0055】
(アスベスト変成材料の製造方法)
本発明のアスベスト変成材料の製造方法は、アスベスト含有材料に含まれるアスベストとアルカリ金属以外の金属を水熱反応系に供給可能な金属源とを上記成分(a)及び上記成分(b)を含有する溶解促進剤の存在下に接触させて水熱反応を実施する水熱反応工程と、前記水熱反応の反応液から反応生成物として前記アスベスト変成材料を回収する回収工程と、を備えることができる。本発明の製造方法によれば、水熱反応とアスベストの組成を利用して緩和かつ安全、しかも簡易にアスベストを無毒化できるため、低コストかつ安全にアスベスト由来で有用な鉱物系材料を提供することができる。なお、この方法に用いるアスベスト含有材料は、吹付けアスベスト等の使用済みアスベスト含有材料であることが好ましい。この製造方法においては、アスベスト含有材料の処理方法及びアスベスト含有材料の回収方法で採用される回収工程を水熱反応工程に先だって実施してもよい。成分(a)及び成分(b)には、既に説明した各種の態様をそのまま適用できる。
【0056】
以下、発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定するものではない。
【実施例】
【0057】
(試験例1)
本実施例では、水熱処理装置として内容積150mlのテフロン(登録商標)製内筒容器つき圧力容器を用いた。クリソタイル粉末0.5gと以下の4種の組成の溶解促進剤50mlを内筒容器中にいれ、圧力容器中に封じた。この容器を恒温層中に静置し、175℃、9気圧下、24時間の処理を行った。処理後、内筒容器中の反応物をろ過、洗浄、乾燥して反応生成物を得た。実施例1〜3及び比較例の反応生成物につきX線回折スペクトルを測定した。図1にX回折スペクトルを示す。
【表1】

【0058】
(試験例2)
また、フッ化ナトリウムに替えて塩化ナトリウムを溶解促進剤として併用した場合の水熱反応促進効果について評価した。すなわち、表2に示す組成の溶解促進剤50mlを準備し、上記と同様の容器を用い、クリソタイル粉末0.5gと、準備した溶解促進剤50mlとを内筒容器中にいれ、圧力容器中に封じた。この容器を恒温層中に静置し、175℃、9気圧下、12時間の処理を行った。比較例2及び3の反応生成物につきX線回折スペクトルを測定した。図2にX回折スペクトルを示す。
【表2】

【0059】
図1に示すように、実施例1〜3の処理物と比較例の処理物とを比較したところ、フッ化ナトリウムを組み合わせて用いることでアスベストのクリソタイルの結晶を効率的に(短時間で)減少できることがわかった。また、フッ化ナトリウムの濃度が、0.1N及び0.2Nのときに最も効果的にクリソタイルを消失させることができることがわかった。特に、この濃度比率範囲において0.2Nのときに最大の効果が得られていた。以上の結果から、併用するフッ化物は極めて微量であっても反応促進効果が得られることがわかった。
【0060】
また、NaOHの濃度に対するNaF濃度が、100分の1から50分の1程度において最も効果的にクリソタイルを消失させることができることがわかった。実施例の反応生成物についての電子顕微鏡による観察結果から、アスベスト特有の針状構造が消失していることも観察された。
【0061】
また、図2に示すように、高濃度の塩化ナトリウムを水酸化ナトリウムと併用しても、水熱反応の促進効果は得られなかった。このことから、金属フッ化物の併用によって水熱反応促進効果が得られていることがわかった。
【0062】
以上の結果から、温和な温度条件にも関わらず、アルカリ金属の水酸化物と金属フッ化物とを組み合わせた溶解促進剤を用いることで極めて効率的にアスベストを無害化できることがわかった。
【0063】
(試験例3)
本試験例では、フッ化カリウムとフッ化カルシウムを溶解促進剤として併用した場合の水熱反応促進効果について評価した。クリソタイル粉末0.5gと表3に示す3種類の組成の溶解促進剤50mlを内筒容器中にいれ、圧力容器中に封じた。この容器を恒温層中に静置し、175℃、9気圧下、24時間の処理を行った。処理後、内筒容器中の反応物をろ過、洗浄、乾燥して反応生成物を得た。実施例4,5及び比較例4の反応生成物につきX線回折スペクトルを測定した。図3にX回折スペクトルを示す。
【表3】

【0064】
図3に示すように、実施例4、5の反応生成物と比較例4の反応生成物とを比較すると、フッ化カリウム又はフッ化カルシウムをアルカリ金属水酸化物に組み合わせて用いることで、効率的に(短時間で)クリソタイル結晶を減少できることがわかった。しかも、いずれも微量(0.02N、水酸化ナトリウム濃度の700分の1)で反応促進効果があることがわかった。
【0065】
(まとめ)
以上のことから、フッ化ナトリウム及びフッ化カリウムなどのアルカリ金属フッ化物及びフッ化カルシウムなどのアルカリ土類金属フッ化物をアルカリ金属水酸化物に併用して溶解促進剤として用いることで、水熱反応を極めて効果的に促進できることがわかった。すなわち、短時間で大量のアスベストの無害化処理に有効な溶解促進剤を提供できることがわかった。併用する金属フッ化物は微量でよく、全体としてのアルカリ濃度を大きく変えないため、アスベスト処理の材料コストや容器コストにもほとんど影響を与えることがないことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】試験例1の水熱反応後の各種反応生成物のX線回折スペクトルを示す図である。
【図2】試験例2の水熱反応後の各種反応生成物のX線回折スペクトルを示す図である。
【図3】試験例3の水熱反応後の各種反応生成物のX線回折スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベスト含有材料の処理方法であって、
前記アスベスト含有材料に含まれるアスベストと、アルカリ金属以外の金属を水熱反応系に供給可能な金属源と、を接触させて水熱反応を実施する水熱反応工程を備え、
前記水熱反応工程は、前記アスベストの溶解促進剤として以下の成分(a)及び(b):
(a)アルカリ金属水酸化物から選択される1種又は2種以上、
(b)アルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類金属フッ化物から選択される1種又は2種以上、
を用いて前記水熱反応を実施する、処理方法。
【請求項2】
前記成分(a)として少なくとも水酸化ナトリウムを用いる、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記成分(b)として少なくともアルカリ金属フッ化物を用いる、請求項1又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記アルカリ金属フッ化物はフッ化ナトリウムを含む、請求項2に記載の処理方法。
【請求項5】
前記水熱反応工程は、前記溶解促進剤を、前記成分(a)と前記成分(b)とを溶質として水性媒体中に含有する水性液剤として前記水熱反応に供給する工程である、請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
【請求項6】
前記溶解促進剤は、前記成分(a)として水酸化ナトリウムと前記成分(b)成分としてフッ化ナトリウムとを溶質として水性媒体に含有する水性液剤である、請求項5に記載の処理方法。
【請求項7】
前記成分(a)を5M以上20M以下含有し、前記成分(b)をフッ素換算で0.02M以上1.0M以下含有する、請求項1〜6のいずれかに記載の処理方法。
【請求項8】
前記水熱反応工程は、155℃以上250℃以下で前記水熱反応を実施する工程である、請求項1〜7のいずれかに記載の処理方法。
【請求項9】
前記水熱反応工程に先だって、前記アスベスト含有材料を、前記成分(a)及び/又は前記成分(b)を溶質として水性媒体中に含有する水性液剤を用いて回収する回収工程を備える、請求項1〜8のいずれかに記載の処理方法。
【請求項10】
アスベスト変成材料の製造方法であって、
アスベスト含有材料に含まれるアスベストとアルカリ金属以外の金属を水熱反応系に供給可能な金属源とを
以下の成分(a)及び(b):
(a)アルカリ金属水酸化物から選択される1種又は2種以上
(b)アルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類金属フッ化物から選択される1種又は2種以上、
を含有する溶解促進剤の存在下に接触させて水熱反応を実施する水熱反応工程と、
前記水熱反応の反応液から反応生成物として前記アスベスト変成材料を回収する回収工程と、
を備える、製造方法。
【請求項11】
アスベスト含有材料の回収方法であって、
使用済みの前記アスベスト含有材料を、
以下の成分(a)及び/又は(b):
(a)アルカリ金属水酸化物から選択される1種又は2種以上
(b)アルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類金属フッ化物から選択される1種又は2種以上、
を溶質として水性媒体中に含有する水性液剤を用いて回収する工程、
を備える、回収方法。
【請求項12】
アスベスト処理剤であって、
以下の成分(a)及び(b):
(a)アルカリ金属水酸化物から選択される1種又は2種以上
(b)アルカリ金属フッ化物及びアルカリ土類金属フッ化物から選択される1種又は2種以上、
を含有する、処理剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−112899(P2009−112899A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286356(P2007−286356)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】