説明

アスベスト封じ込め剤、吹き付けアスベストの処理方法、吹き付けアスベスト処理物

【課題】本発明は、吹き付けアスベストに対する浸透性に優れた新規なアスベスト封じ込め剤、このアスベスト封じ込め剤を用いた吹き付けアスベストの処理方法、及び吹き付けアスベスト処理物を提供することを目的とする。
【解決手段】アスベスト封じ込め剤として、A2O‐SiO2‐H2Oからなる三成分水溶液を主体とし、A2O成分に対するSiO2成分のモル比が2〜4、且つ、A2O成分及びSiO2成分の総重量に対するH2O成分の配合割合が5〜15倍となされ、更に、調整剤が添加されて、25℃における表面張力が35mN/m以下に調整されてなるものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト材を封じ込め処理するためのアスベスト封じ込め剤、吹き付けアスベストの処理方法、及び吹き付けアスベスト処理物に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベスト(石綿)は、耐火性、断熱性、遮音性、耐摩耗性及び耐候性などに優れる鉱物繊維であり、このアスベストを含有させたアスベスト材は、鉄筋構造物の耐火被覆材、建築物の断熱・防音材、温熱機器の保温被覆材或いは車両用ブレーキの摩擦材など、多岐に亘って利用されていた。
【0003】
しかしながら、アスベストは微細な繊維径を有する繊維の収束体であり、しかも個々の繊維の先端が鋭く尖った針状の形状を有することから、人体に吸引された際に肺粘膜や食道粘膜などに刺さったまま長期間にわたって体内に残存し、消化器官や呼吸器官などに中皮種や癌を発生させることが確認されている。そのため我国では既にアスベストの使用を禁止している。
【0004】
その一方でこれまで使用されてきたアスベスト材については剥離・撤去したり、ボード状の資材で囲い込んだり、封じ込め剤でコーティングするなどの対処策が採られている。最近ではアスベスト材を無害化する工法として、アスベスト材を水ガラス様水溶液で処理することにより、アスベスト材をガラス質皮膜でコーティングした後、加熱処理を施す手段も提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2008/041416
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法は、アスベスト材に対し水ガラス様水溶液を塗布した後、アスベスト材を撤去し、別の処理施設において加熱処理を施すことによって無害化するものであり、最終的にアスベスト材を無害化して廃棄する、又は無害化したものをリサイクル資材として再利用する観点において非常に優れるものであった。
【0007】
ところで、アスベスト材の処理作業は、作業者の安全衛生を確保し、周辺環境を汚染しないように行う必要があり、このような観点での管理・対策が非常に重要視されている。例えば、建材等にセメントと共に付着している吹き付けアスベストを撤去するためには、吹き付けアスベストを掻き落として建材から剥離する必要があるが、剥離作業時においてアスベスト繊維の飛散があれば、作業者の安全衛生を確保することができず、又、周辺環境を汚染する結果となる。
【0008】
しかしながら特許文献1に記載の方法において用いられる水ガラス様水溶液は、吹き付けアスベストに塗布された際、吹き付けアスベストの深層にまで浸透し得る浸透性を有するものではなかったため、剥離作業時におけるアスベスト繊維の飛散を完全になくし得るものではなかった。
【0009】
ここで、特許文献1に開示された水ガラス様水溶液の浸透性を向上させるにあたっては、まず、水ガラス様水溶液中の水の配合割合を多くし、その粘度を低下させる手段が考えられる。しかしながら、本発明者が実験したところ、水ガラス様水溶液中の水の配合割合を多くしても、吹き付けアスベストに対する浸透性は殆ど向上しないことが確認されている。又、水の配合割合が増えると十分な強度及び皮膜厚を有するガラス質を形成することができなくなる。更に、水ガラス様水溶液中の水の配合割合が多くなると、硬化に要する時間も長くなり、作業性を低下させる。
【0010】
なお、特許文献1には、水ガラス様水溶液に界面活性剤を添加することによって浸透性を向上させ得る旨が示唆されているが、界面活性剤の添加によっても、水ガラス用水溶液に対し、吹き付けアスベストの深層にまで浸透し得る浸透性を付与することはできなかった。これは、界面活性剤は分子量が大きく、水ガラス様水溶液と共に吹き付けアスベストに浸透していく際に、吹き付けアスベスト中に存する細孔に吸着されてしまうことが原因と考えられる。又、界面活性剤が添加された水ガラス様水溶液でコーティング処理された吹き付けアスベストを加熱処理に供すると、加熱処理中に多量の気泡が生じ、アスベスト繊維を被覆するガラス質が非常に脆弱なものとなる。
【0011】
本発明は、前記技術的課題を解決するために開発されたものであって、吹き付けアスベストに対する浸透性に優れた新規なアスベスト封じ込め剤、このアスベスト封じ込め剤を用いた吹き付けアスベストの処理方法、及び吹き付けアスベスト処理物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のアスベスト封じ込め剤(以下、本発明封じ込め剤と称する。)は、A2O‐SiO2‐H2Oからなる三成分水溶液を主体とし、A2O成分に対するSiO2成分のモル比が2〜4、且つ、A2O成分及びSiO2成分の総重量に対するH2O成分の配合割合が5〜15倍となされ、更に、下記一般式(1)で示す構造を有する調整剤が添加されて、25℃における表面張力が35mN/m以下に調整されてなることを特徴とする(Aはアルカリ金属、Rはエチル基又はプロピル基、n=2〜4を表す。)。
【0013】
[化1]
HO‐(RO)n‐H (1)
【0014】
本発明封じ込め剤は、A2O‐SiO2‐H2Oの三成分が特定の割合で配合されてなる三成分系水溶液を主体とする。三成分系水溶液中のA2O成分におけるAは、リチウム、ナトリウム或いはカリウムなどのアルカリ金属を表す。A2O‐SiO2‐H2Oからなる三成分水溶液は、例えば、固体のケイ酸塩を水中で加熱することによっても得られる。本発明においては、水ガラスなどと称されて市販されている液状のケイ酸ソーダを水で希釈することによって調整することが作業上の観点から好ましい。
【0015】
三成分水溶液中のA2O成分に対するSiO2成分のモル比が2未満となるとアルカリ成分が多くなりすぎて硬化に要する時間が長くなり、一方、モル比が4を超えると粘度が高くなる。従って、A2O成分に対するSiO2成分のモル比としては2〜4とすることが適当であり、2.5〜3.5とすることがより好ましい。
【0016】
又、A2O成分及びSiO2成分の総重量に対するH2O成分の配合割合が5倍未満となると粘度が高くなりすぎ、一方、15倍を超えると硬化に長時間が必要となる上、三成分水溶液中のA2O成分及びSiO2成分が少なくなりすぎて、硬化後のガラス質が脆弱なものとなる。従って、A2O成分及びSiO2成分の総重量に対するH2O成分の配合割合としては、5〜15倍とすることが適当であり、7〜12倍とすることがより好ましい。
【0017】
本発明封じ込め剤は、前記三成分水溶液に対し、前記一般式(1)で示す構造を有する調整剤が添加されることにより、25℃における表面張力が35mN/m以下に調整されたものである。なお、「表面張力」は、JIS K2241に基づき、ディニュイ表面張力計にて、本発明封じ込め剤の液面と白金環の張力を鋼線の張りを指度として読み取り、算出したものである。
【0018】
2O‐SiO2‐H2Oの三成分が特定の割合で配合されてなる前記三成分水溶液は、25℃における表面張力が70〜80mN/mと非常に高く、このままの状態で吹き付けアスベストに塗布しても、吹き付けアスベストの深層に浸透することができない。
【0019】
この点につき、本発明封じ込め剤は、前記三成分水溶液に対して、前記一般式(1)に示す構造を有する調整剤を添加することによってその表面張力を下げ、もって、吹き付けアスベストに対する浸透性を向上している。
【0020】
前記一般式(1)に示す構造を有する調整剤の具体例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール及びテトラプロピレングリコールなどを挙げることができる。本発明においては、これらの調整剤から選ばれた少なくとも一種以上を用いることができる。
【0021】
これらの調整剤は、界面活性剤と比較して分子量が非常に小さいことから、三成分水溶液と共に吹き付けアスベストに浸透していく際に、吹き付けアスベスト中に存する細孔に吸着されることが殆ど無い。又、これらの調整剤は、水と混和する性質を有するため、加熱処理時において気泡を生じ難い。
【0022】
なお、分子量が小さく水と混和する性質を有する化合物としては、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等も該当する。確かにこれらの化合物を三成分水溶液に添加すれば表面張力は低下する。しかしながらこれらの化合物は極性が高いため、三成分水溶液に添加されると、三成分水溶液のゲル化を促進してポットライフを低下させる。ゲル化した三成分水溶液は、吹き付けアスベストの深層に浸透することはできない。
【0023】
一方、前記三成分水溶液に対し、前記一般式(1)で示す構造を有する調整剤を添加すれば、三成分水溶液のゲル化を促進することなく表面張力を下げることができる。前記三成分水溶液に対して調整剤を添加すると、水よりも吹き付けアスベストに対する浸透性が向上することが確認されている。
【0024】
調整剤の添加量としては、前記三成分水溶液100重量部に対して0.05重量部以上とすれば、35mN/m以下の表面張力となる。従って、調整剤の添加量は、前記三成分水溶液100重量部に対して0.05重量部以上とすることが好ましく、更に0.1重量部以上とすることがより好ましい。添加量の上限については、特に限定されるものではないが、1重量部を上限とすることが経済的な観点から好ましい。
【0025】
ところで、液体の浸透性は表面張力が最も重要な要因となるが、粘度及び密度も浸透性に影響を与える。ここで、本発明封じ込め剤の粘度は、25℃の温度条件下、1.5〜3cSt(より好ましくは1.5〜2cSt)程度となるように調整することが好ましい。一方、本発明封じ込め剤の密度は、A2O‐SiO2‐H2Oの三成分の配合割合によって決定されると言って差し支えない。本発明封じ込め剤の密度は、25℃の温度条件下、1.1〜1.5g/cm3となるようにすることが好ましい。本発明封じ込め剤の粘度及び密度は、A2O成分に対するSiO2成分のモル比、水の配合割合及び調整剤の添加によって調整することができる。なお、「粘度」は、JIS K5600‐2‐2に基づき、ガードナー形泡粘度計法によって測定したものである。又、「密度」は、JIS K5600‐2‐4に基づいて測定したものである。
【0026】
前記構成を有する本発明封じ込め剤は、吹き付けアスベストに対する浸透性を向上させたものである。本発明において、「吹き付けアスベスト」とは、アスベストと結合材(一般的にセメント)とに一定の割合の水を加えて混合し、吹き付け施工した狭義の吹き付けアスベストのみならず、ロックウールにアスベストを混ぜて結合材及び水と共に吹き付け施工した吹き付けロックウールや、パーミキュライトにアスベストを混ぜて結合材及び水と共に吹き付け施工した吹き付けパーミキュライトなども含む広義の吹き付けアスベストを意味する。
【0027】
なお、本発明封じ込め剤は、前記吹き付けアスベストを主たる処理対象物として想定しているが、前記吹き付けアスベスト以外のアスベスト材、例えば、アスベスト保温材、アスベスト保温材耐火被覆板、アスベスト成形板の処理などに用いることに制限を受けるものではない。更に、アスベストには、クロシドライト、アモサイト及びクリソタイルなど各種のものがあるが、本発明封じ込め剤は、アスベスト材に含まれるアスベストの種類によって、その使用が制限されるものでもない。
【0028】
本発明の吹き付けアスベスト処理方法(以下、本発明方法と称する。)は、前記本発明封じ込め剤を、吹き付けアスベストの表面から吸収されなくなるまで、吹き付けアスベストの表面に連続的に塗布し、乾燥・硬化させることによって、吹き付けアスベスト全体においてアスベスト‐ガラス質結束体を形成することを特徴とする。
【0029】
本発明封じ込め剤を吹き付けアスベストの表面に塗布すれば、塗布された本発明封じ込め剤は、毛細管現象によって多孔質構造を有する吹き付けアスベストの表面から速やかに吸収される。一般的な吹き付けアスベストは、空隙率65〜75%の多孔質構造を有しており、空隙全体の70〜80%以上が連続気孔である。本発明封じ込め剤を吹き付けアスベストの表面に連続的に塗布すれば、本発明封じ込め剤が吹き付けアスベストに存する連続気孔を満たすまで吸収が続く。本発明方法においては、前記本発明封じ込め剤を吹き付けアスベストの表面に連続的に塗布し、吹き付けアスベストの表面から吸収されなくなった時点で、本発明封じ込め剤が吹き付けアスベスト全体にわたって浸透したものと判断し、塗布作業を終了する。
【0030】
本発明封じ込め剤が吹き付けアスベスト全体にわたって浸透し、吹き付けアスベスト中のアスベスト繊維と接触した状態で乾燥・硬化すると、本発明封じ込め剤中のガラス質とアスベスト繊維とが強固に結束・同体化し、吹き付けアスベスト全体においてアスベスト‐ガラス質結束体が形成される。これは、本発明封じ込め剤中のSiO2成分が、ケイ酸塩鉱物たるアスベストと非常に馴染みやすく、クラスター構造若しくは配位構造を取りやすいからと予想される。
【0031】
なお、「吹き付けアスベスト全体においてアスベスト‐ガラス質結束体を形成する」とは、吹き付けアスベストに全体にわたって存在する連続気孔において、アスベスト‐ガラス質結束体を形成することを意味する。
【0032】
本発明の吹き付けアスベスト処理物は、前記本発明封じ込め剤を用いて封じ込め処理されたものであって、吹き付けアスベスト全体においてアスベスト‐ガラス質結束体が形成されてなることを特徴とする。
【0033】
本発明の吹き付けアスベスト処理物は、前記本発明封じ込め剤を吹き付けアスベストに塗布し、十分に浸透させることによって、吹き付けアスベスト中のアスベストの封じ込めがなされたものである。アスベスト‐ガラス質結束体が全体に形成された吹き付けアスベスト処理物からは、アスベスト繊維の飛散が殆ど確認されなくなる。
【0034】
アスベストの封じ込めがなされた吹き付けアスベスト処理物は、剥離・撤去することが好ましい。アスベスト‐ガラス質結束体が全体に形成された吹き付けアスベスト処理物は、剥離・撤去作業においても、アスベスト繊維の飛散が全くと言っていいほど無い。これより作業者の安全衛生が確保され、周辺環境も汚染されない。
【0035】
ところで、アスベストは、約700℃で結晶水が脱離し、約900℃で無害なフォレストライトに変性する。一方、本発明封じ込め剤が硬化したガラス質は、約800℃で流動化する。アスベスト‐ガラス質結束体が全体に形成された吹き付けアスベスト処理物を炉で焼成すると、まず、約700℃の熱でアスベストの結晶水が離脱し、結束力を喪失した粉状のアスベストとなる。更に、約800℃を超えた段階でガラス質が溶解を始めると、結束力を喪失したアスベストは粉状のまま溶融したガラス質と強固に結合して繊維状を喪失した固形状の加熱処理物となる。これより、アスベストの封じ込めがなされた吹き付けアスベスト処理物を剥離・撤去した後、800℃〜1200℃程度の比較的低温による加熱処理に供せば、アスベストを完全に無害化処理できる。
【発明の効果】
【0036】
本発明封じ込め剤は、吹き付けアスベストに対する浸透性に優れ、吹き付けアスベストに塗布されれば、吹き付けアスベストの深層に速やかに浸透することができる。本発明方法によれば、吹き付けアスベスト全体において、アスベスト-ガラス質結束体を形成することができる。アスベスト‐ガラス質結束体が全体に形成された本発明の吹き付けアスベスト処理物はアスベスト繊維の飛散が殆ど確認されなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、吹き付けアスベストの表面を撮影した走査電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は、本発明封じ込め剤によって封じ込め処理した後の吹き付けアスベスト処理物の破断面を撮影した走査電子顕微鏡写真である。
【図3】図3は、加熱処理後の吹き付けアスベスト処理物を撮影した走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を実施するための形態を説明するが、本発明はこの実施ケ形態に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
<本発明封じ込め剤の作成>
JIS K1408に基づくケイ酸ソーダ3号(Na2O:SiO2:H2O=9〜10:28〜30:60〜63(重量%))100重量部に対し、水300重量部を加えることによって、Na2O成分に対するSiO2成分のモル比が約3.2、且つ、Na2O成分及びSiO2成分の総重量に対するH2O成分の配合割合が約9.4倍の三成分水溶液(表面張力72.1mN/m)を得た。
【0040】
この三成分水溶液100重量部に対し、調整剤としてのジエチレングリコールを0.5重量部添加することによって実施例1に係る本発明封じ込め剤を作成した。調整剤を添加する前の三成分水溶液、及び調整剤添加後の本発明封じ込め剤の、25℃における表面張力、粘度、密度及びpHを下記表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
<試験体の作成>
試験体は、ロックウール(JIS A9504に規定するもの)、ポルトランドセメント(JIS R5210に規定するもの)及び水を、35:50:15(質量比)で混合したものを、型枠(560×560mm)に厚さ40mmとなるように吹き付けることによって作成したものを用いた。なお、型枠は、厚さ12mmの日本農林規格に定める合板(コンクリート型枠用合板1類)の底板と4×3×471mmの木材を釘打ちした木枠を用いた。
【0043】
<浸透性の評価>
前記実施例1に係る本発明封じ込め剤、調整剤が添加されていない三成分水溶液、及び参考としての水をそれぞれ前記試験体に塗布することによってそれぞれの浸透性を評価した。
【0044】
具体的には、本発明封じ込め剤が天井面に施工された吹き付けアスベストに適用された場合を想定し、実施例1に係る本発明封じ込め剤、三成分水溶液、及び水を、それぞれ試験体の下面(以下、表面と称する)からエアレススプレーを用いて吹き付け(塗布量約5kg/m2)、試験体に浸透した溶液が試験体の上面(以下、裏面と称する)全面を濡らすまでに要する時間を測定した。その結果を下記表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表4に示す結果より、実施例1に係る本発明封じ込め剤は、速やかに試験体の表面から吸収されて、3分以内に試験体の裏面に到達することが認められた。又、実施例1に係る本発明封じ込め剤は、水と比較しても試験体に対する浸透性が高いことが認められた。一方、調整剤が添加されていない三成分水溶液は、試験体の裏面に到達することができなかった。
【0047】
これより、本発明封じ込め剤は、試験体の如き吹き付け材に対する高い浸透性を有することが認められた。なお、実施例1に係る本発明封じ込め剤は、試験体に浸透した後、60分以内に硬化していることが確認された。
【0048】
<付着強度試験>
前記浸透性の評価の後、実施例1に係る本発明封じ込め剤、及び三成分水溶液にて処理してなる試験体を、平成18年度国土交通省告示第1168号に基づいた付着強度試験に供した。
【0049】
ここで、付着強度試験とは、下記(1)及び(2)の工程に基づき、試験体の表面にアタッチメントを接着固定し、鉛直方向に引っ張ることによって最大荷重を測定し、その値を付着強度として評価するものである。
【0050】
(1) 試験体の中央に10×10mmのアルミ製アタッチメントを二液型エポキシ樹脂で接着し、質量1kgの重りをのせて24時間静置することによってアタッチメントを固定する。
(2) 試験体におけるアタッチメントが固定された周辺に沿って深さ20mmの切り込みを入れ、試験体を固定した上でアタッチメントを鉛直方向に1mm/分の速度で引っ張り、試験体を破断させることによって最大荷重を求める。この際、破断した試験体の破断深さも評価する。
【0051】
この付着強度試験の結果を下記表3に示す。表中の数値は、付着強度試験をそれぞれ5回ずつ行い、その平均値を算出したものである。なお、下記表3中、「参考(未処理)」とは、本発明封じ込め剤や三成分水溶液で処理していない試験体、即ち、試験体そのものを付着強度試験に供したものである(後述する衝撃試験において同じ)。
【0052】
【表3】

【0053】
表3に示す結果より、実施例1に係る本発明封じ込め剤によって処理された試験体は、付着強度が高く、又、破断深さも、切り込みの深さ20mmより深くなっていた。一方、三成分水溶液によって処理された試験体は、付着強度及び破断深さにつき、参考(未処理)に対して付着強度試験を行った場合と殆ど変わりが無い数値となった。これより、本発明封じ込め剤が試験体の深層にまで浸透し、強固に付着していることが確認された。
【0054】
<エアーエロージョン試験>
実施例1に係る本発明封じ込め剤にて処理してなる試験体を、平成18年度国土交通省告示第1168号に基づいたエアーエロージョン試験に供した。
【0055】
ここで、エアーエロージョン試験とは、下記(1)及び(2)の工程に基づき、密閉された箱の中で試験体の表面に風を当てて、飛散したロックウール繊維をフィルタ上に捕集してその本数を計測し、空気1リットル当たりの本数に換算して評価するものである。
【0056】
(1) 6±3℃、相対湿度95±5%の環境下において試験体を16時間放置する工程と、60±3℃の環境下にて8時間乾燥する工程とを10回繰り返す(以下、乾湿繰り返し処理と称する。)。
(2) エアーエロージョン試験装置内に試験体を静置し、装置のノズルから圧力差98kPaの空気を吹き出し、この空気を約15cm離れた位置から試験体に均一に当て、装置内の空気を径25mmのメンブランフィルターで、毎分1.5Lずつ、60分間以上採取し、採取された空気中の繊維の本数を位相差顕微鏡を用いて測定する(JIS K3850‐1(空気中の繊維状粒子測定方法‐第一部:位相差顕微鏡法及び走査電子顕微鏡法)に基づく)。
【0057】
このエアーエロージョン試験の結果を表4に示す。表中の数値は、エアーエロージョン試験を3回ずつ行い、その平均値を算出したものである。
【0058】
【表4】

【0059】
表4に示す結果より、実施例1に係る本発明封じ込め剤によって処理された試験体からは、繊維の飛散が殆ど確認されなかった。なお、本発明封じ込め剤や三成分水溶液で処理していない試験体、即ち、試験体そのものについてエアーエロージョン試験を行った場合、繊維の飛散は10〜20f/L程度になるとされている。これより、本発明封じ込め剤における繊維の封じ込め効果が確認された。
【0060】
<衝撃試験>
実施例1に係る本発明封じ込め剤にて処理してなる試験体を、平成18年度国土交通省告示第1168号に基づいた衝撃試験に供した。
【0061】
ここで、衝撃試験とは、試験体の表面に高さ1mから鋼球(直径50.8mm、質量530g)を落下させ、表面に生じた窪み及び脱落を外観により評価するものである。
【0062】
この衝撃試験の結果を表5に示す。表中の数値は、衝撃試験を3回ずつ行い、その平均値を算出したものである。
【0063】
【表5】

【0064】
表5に示す結果より、実施例1に係る本発明封じ込め剤によって処理された試験体は、鋼球との衝突によって表面に窪みが生じていることが確認された。但し、この窪みの深さ(9mm)は、未処理の試験体において生じた窪みの深さ(13mm)と比較して約70%程度であった。これより、本発明封じ込め剤で処理されることによって試験体の耐衝撃性が著しく向上していることが認められた。
【0065】
<本発明方法の実施>
吹き付けアスベストの表面を走査型電子顕微鏡にて撮影したところ、吹き付けアスベスト表面に存するアスベスト10は、繊維形状を有していることが認められた(図1参照)。
【0066】
この吹き付けアスベスト(厚さ40mm、空隙率70%)に対し、実施例1に係る本発明封じ込め剤をエアレススプレーにて連続的に塗布し、吹き付けアスベストの表面から本発明封じ込め剤が吸収されなくなるまで塗布した(塗布量4.1kg/m2)。
【0067】
本発明封じ込め剤の硬化後、吹き付けアスベスト処理物を剥離・撤去し、その破断面を走査電子顕微鏡にて撮影したところ、破断面全体にわたり、ガラス質とアスベストとが強固に結束・同体化したアスベスト-ガラス質結束体1が形成されていることが認められた(図2参照)。
【0068】
この吹き付けアスベスト処理物を、加熱処理(900℃)に供し、加熱処理後の表面を走査電子顕微鏡にて撮影したところ、ガラス質と強固に結合した状態で繊維形状を完全に喪失した無害な加熱処理物2に変性していることが認められた(図3参照)。
【0069】
一方、吹き付けアスベストに対し、前記三成分水溶液をエアレススプレーにて連続的に塗布し、吹き付けアスベストの表面から三成分水溶液が吸収されなくなるまで塗布し続けたところ最終的な塗布量は2.7kg/m2となった。
【0070】
三成分水溶液の硬化後、剥離・撤去し、その破断面を走査電子顕微鏡にて撮影したところ、剥き出しのアスベスト繊維が多数存在していることが認められた。
【0071】
[実施例2〜9]
JIS K1408に基づくケイ酸ソーダ3号(Na2O:SiO2:H2O=9〜10:28〜30:60〜63(重量%))100重量部に対し、水300重量部を加えることによって、Na2O成分に対するSiO2成分のモル比が約3.2、且つ、Na2O成分及びSiO2成分の総重量に対するH2O成分の配合割合が約9.4倍の三成分水溶液を得た。
【0072】
この三成分水溶液100重量部に対し、調整剤を0.05重量部、又は1重量%となるように添加することによって実施例2〜9に係る本発明封じ込め剤を得た。
【0073】
実施例2〜9に係る本発明封じ込め剤の表面張力を測定した。その結果を表6に示す。
【0074】
【表6】

【0075】
表6に示す結果より、三成分水溶液100重量部に対し、調整剤を0.05重量部以上添加することによって表面張力が低下することが確認された。なお、実施例2〜9にて得られた本発明封じ込め剤の粘度は、25℃の温度条件下、1.5〜3cStの範囲内にあり、密度は、25℃の温度条件下、1.1〜1.5g/cm3の範囲内にあった。
【0076】
‐実施例10及び11-
JIS K1408に基づくケイ酸ソーダ3号100重量部に対し、水200〜500重量部を加えることによって三成分水溶液を得、この三成分水溶液100重量部に対し、調整剤としてのジエチレングリコールを0.5重量部添加することによって表7に示す実施例10及び11に係る本発明封じ込め剤を得た。
【0077】
【表7】

【0078】
表7に示す結果より、Na2O成分及びSiO2成分の総重量に対するH2O成分の配合割合が5〜15倍となされた三成分水溶液に対し調整剤を添加すれば、表面張力35mN/m以下となることが確認された。
【0079】
なお、前記実施例1〜11は、すべてケイ酸ソーダ3号を用いて行ったが、ケイ酸ソーダ1号(Na2O成分に対するSiO2成分のモル比2.1)、ケイ酸ソーダ2号(Na2O成分に対するSiO2成分のモル比2.5)、ケイ酸ソーダ4号(Na2O成分に対するSiO2成分のモル比3.4)、又は、ケイ酸ソーダ5号(Na2O成分に対するSiO2成分のモル比3.8)を用いても、Na2O成分及びSiO2成分の総重量に対するH2O成分の配合割合が5〜15倍の範囲内で三成分水溶液を調製し、この三成分水溶液100重量部に対し調整剤を0.05重量部以上添加すれば、25℃の温度条件下における表面張力を35mN/m以下(20〜35mN/m)、粘度1.5〜3cSt、密度1.1〜1.5g/cm3の範囲内に調製することができることが確認されている。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、特に、吹き付けアスベスト、吹き付けロックウール及び吹き付けパーミキュライとなどの吹き付けアスベストの封じ込め処理に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 アスベスト-ガラス質結束体
2 加熱処理物
10 アスベスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2O‐SiO2‐H2Oからなる三成分水溶液を主体とし、
2O成分に対するSiO2成分のモル比が2〜4、
且つ、A2O成分及びSiO2成分の総重量に対するH2O成分の配合割合が5〜15倍となされ、
更に、下記一般式(1)で示す構造を有する調整剤が添加されて、
25℃における表面張力が35mN/m以下に調整されてなることを特徴とするアスベスト封じ込め剤(Aはアルカリ金属、Rはエチル基又はプロピル基、n=2〜4を表す。)。
[化2]
HO‐(RO)n‐H (1)
【請求項2】
請求項1に記載のアスベスト封じ込め剤において、
調整剤の添加量が、三成分水溶液100重量部に対して0.05重量部以上となされたアスベスト封じ込め剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアスベスト封じ込め剤を、吹き付けアスベストの表面から吸収されなくなるまで、吹き付けアスベストの表面に連続的に塗布し、乾燥・硬化させることによって、吹き付けアスベスト全体においてアスベスト‐ガラス質結束体を形成することを特徴とする吹き付けアスベストの処理方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のアスベスト封じ込め剤を用いて封じ込め処理された吹き付けアスベスト処理物であって、
吹き付けアスベスト全体においてアスベスト-ガラス質結束体が形成されてなることを特徴とする吹き付けアスベスト処理物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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