説明

アスベスト除去方法

【課題】超高層エレベータシャフト内の作業効率を向上できるアスベスト除去方法を提供すること。
【解決手段】アスベスト除去方法は、エレベータシャフト10に複数のフロアに亘る作業区画Pを設け、この作業区画Pの下端に作業床20を設ける工程と、作業床20上に、作業区画Pの上端まで延びる仮設足場30を設ける工程と、作業床20および仮設足場30を利用してアスベストを除去する工程と、を備える。この発明によれば、仮設足場30を組み立てる際に作業床20で水平養生できるので、資材や工具が仮設足場30上から落下した場合でも、この落下した資材や工具が作業床20より下に落下することはない。よって、作業の安全性を確保できるうえに、超高層エレベータシャフト内の作業効率を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト除去方法に関する。詳しくは、超高層エレベータシャフト内のアスベストを除去するアスベスト除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物内のエレベータシャフト内の梁や壁には、耐火被覆としてアスベストが吹き付けられている。しかしながら、近年、吹き付けたアスベストが劣化しているため、アスベスト粉塵の飛散を防止しつつ、劣化したアスベストを除去する作業が行われる。
【0003】
エレベータシャフト内のアスベストを除去する手法として、例えば、以下のような手法が提案されている。すなわち、エレベータシャフトを複数のフロアに亘る作業区画に分割し、1つの作業区画について、既設エレベータかごを用いてエレベータシャフト内に1フロアあるいは2フロア毎に作業床を設け、この作業床を利用してアスベストを除去する。この作業区画でのアスベスト除去作業が完了した後、直下の作業区画に移動して、同様の作業を繰り返す(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−84049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、以上のアスベスト除去方法では、1フロアあるいは2フロア毎に作業床を設けるため、多くの作業床を設ける必要がある。
しかしながら、作業床の組み立て作業では、作業床の直下がエレベータピットまでの吹き抜けとなるため、資材や工具の落下に注意して、特に慎重に作業する必要がある。そのため、実際には、作業床の組み立てや解体にかなりの作業手間がかかってしまい、作業効率が低い、という問題があった。
【0006】
本発明は、超高層エレベータシャフト内の作業効率を向上できるアスベスト除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載のアスベスト除去方法は、超高層エレベータシャフト内のアスベストを除去するアスベスト除去方法であって、前記エレベータシャフトに複数のフロアに亘る作業区画を設け、当該作業区画の下端に作業床を設ける工程と、前記作業床上に、前記作業区画の上端まで延びる仮設足場を設ける工程と、前記作業床および仮設足場を利用してアスベストを除去する工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、作業区画の下端にのみ作業床を設け、この作業床上に作業区画の上端までの延びる仮設足場を設けた。つまり、従来技術と異なり、作業床を設置する箇所をできる限り少なくした。したがって、仮設足場を組み立てる際に作業床で水平養生できるので、資材や工具が仮設足場上から落下した場合でも、この落下した資材や工具が作業床より下に落下することはない。よって、作業の安全性を確保できるうえに、超高層エレベータシャフト内の作業効率を向上できる。
また、作業区画同士を作業床で仕切ることにより、作業床の架設が完了した作業区画から順番にアスベストを除去できるので、複数の作業区画で同時に作業でき、工期を短縮できる。
【0009】
請求項2に記載のアスベスト除去方法は、前記作業区画の高さを、31m未満とすることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、作業区画の高さを31m未満としたので、仮設足場をそれほど高くまで架設する必要がないため、仮設足場の建地を補強する必要がなく、仮設材にかかるコストを低減できる。
また、狭隘なスペースでの複雑な足場架設作業がなくなるので、施工費用を低減できるうえに、工期を短縮できる。
【0011】
請求項3に記載のアスベスト除去方法は、前記作業床を、前記エレベータシャフト内に露出した建物本体梁材同士の間に架設された複数の大引き材と、当該大引き材同士の間に架設されたデッキプレートと、当該デッキプレート上に設置された複数の根太材と、を含んで構成することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、作業床を、大引き材、デッキプレート、および根太材を含んで構成し、大引き材をエレベータシャフト内に露出した建物本体梁材に支持させたので、作業床をエレベータシャフト内で安全かつ確実に支持することができる。
【0013】
請求項4に記載のアスベスト除去方法は、前記仮設足場を利用して当該仮設足場の直上の作業床を架設することで、最下階から上階に向かって順番に前記作業床および前記仮設足場を架設することを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、仮設足場を利用してこの仮設足場の直上の作業床を架設したので、作業床を安全かつ確実に架設することができる。
【0015】
請求項5に記載のアスベスト除去方法は、前記仮設足場に2段毎に水平ネットを張って水平養生することを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、仮設足場に2段毎に水平ネットを張って水平養生したので、小さな資材や工具が仮設足場上から落下した場合でも、この落下した資材や工具が水平ネットに引っ掛かるため、作業の安全性を確保できる。
【0017】
請求項6に記載のアスベスト除去方法は、前記エレベータシャフトには、複数のエレベータが収容され、前記複数のエレベータが収容されるそれぞれの空間ごとに、前記エレベータシャフトを中間仮設壁で仕切ることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、複数のエレベータが収容されるそれぞれの空間ごとに、エレベータシャフトを中間仮設壁で仕切ったので、テナントビルのようにエレベータの稼働を完全に停止することが困難な建物であっても、最小限のエレベータ停止でアスベスト除去作業が可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、作業区画の下端にのみ作業床を設け、この作業床上に作業区画の上端までの延びる仮設足場を設けた。つまり、従来技術と異なり、作業床を設置する箇所をできる限り少なくした。したがって、仮設足場を組み立てる際に作業床で水平養生できるので、資材や工具が仮設足場上から落下した場合でも、この落下した資材や工具が作業床より下に落下することはない。よって、作業の安全性を確保できるうえに、超高層エレベータシャフト内の作業効率を向上できる。また、作業区画同士を作業床で仕切ることにより、作業床の架設が完了した作業区画から順番にアスベストを除去できるので、複数の作業区画で同時に作業でき、工期を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るアスベスト除去方法が適用された建物のエレベータシャフトの平面図である。
【図2】前記実施形態に係る建物のエレベータシャフトのA−A断面図である。
【図3】前記実施形態に係る建物のエレベータシャフトのB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るアスベスト除去方法が適用された超高層建物のエレベータシャフト10の平面図である。図2は、エレベータシャフト10のA−A断面図であり、図3は、エレベータシャフト10のB−B断面図である。
建物のエレベータシャフト10には、2基のエレベータが収容される。このエレベータシャフト10は、複数のフロアを鉛直方向に貫通しており、第1エレベータシャフト11と、第2エレベータシャフト12と、で構成される。
【0022】
エレベータシャフト10は、壁14に囲まれており、このエレベータシャフト10内には、各フロアレベルに設けられた700Hの鉄骨梁である梁13が露出している。
さらに、エレベータシャフト10には、第1エレベータシャフト11と第2エレベータシャフト12とを仕切るように、中間仮設壁15が設置されている。この中間仮設壁15は、LGS(軽量鉄骨)および石膏ボードを用いて、アスベスト除去作業を開始する前に設置される。これにより、エレベータシャフト11、12のうちの一方から他方にアスベストが飛散するのを防止できるから、2つのエレベータシャフト11、12のうちの一方では、エレベータを停止してアスベスト除去作業を行いつつ、他方のエレベータシャフトでは、エレベータを通常使用することが可能となる。
【0023】
また、各エレベータシャフト11、12内には、図示しないエレベータかご、鉛直方向に延びてエレベータかごの移動を案内する一対の第1ガイドレール16、および、鉛直方向に延びてカウンターウエイトの移動を案内する一対の第2ガイドレール17が設けられる。さらに、図示しないが、各エレベータシャフト11、12内には、メインワイヤーなどの各種ワイヤー類が設けられている。
【0024】
以上のエレベータシャフト11内に、以下の手順で作業床20および仮設足場30を架設する。
まず、エレベータシャフト11を上下方向に複数の作業区画Pに分割する。ここで、各作業区画Pの高さが、複数のフロアに亘りかつ31m未満となるようにする。以下、1つの作業区画Pおよびエレベータシャフト11について説明するが、他の作業区画Pおよびエレベータシャフト12についても同様の構成・手順である。
【0025】
次に、作業床20を架設する。
具体的には、最下階(1階)の作業区画Pにて、エレベータシャフト11内に露出した建物本体の梁13のアスベストを先行除去し、その後、これら梁13同士の間に複数本の125Hの大引き材21を架設し、これら大引き材21同士の間にデッキプレート23を敷設し、複数本の100Hの根太材22を架設する。このデッキプレート23には、ガイドレール16、17や貫通ワイヤーのみを隙間なく貫通させて、デッキプレート23によりエレベータシャフト11内を塞いで水平養生する。
【0026】
次に、作業床20上に作業区画Pの上端まで延びる仮設足場30を組み立てる。
仮設足場30は、根太材22の上に配置された複数のベースジャッキ31と、これらベースジャッキ31の上に設けられた調整足場ユニット32と、この調整足場ユニット32の上に13段積層された足場ユニット33と、最上段の足場ユニット33の上に取り付けられた手摺34と、からなる。
【0027】
足場ユニット33は、一対の枠組足場41と、これら一対の枠組足場41間に設けられた階段部42と、一対の枠組足場41に支持された張出し足場43と、からなる。
【0028】
各枠組足場41は、互いに対向配置された一対の建枠411と、これら建枠411間に架設された鋼製布板412と、一対の建枠411同士を連結する図示しない交差筋交いと、からなる。
張出し足場43は、建枠411に取り付けられた複数のブラケット431と、これらブラケット431間に架設された足場板432と、からなる。
階段部42は、階段枠と、この階段枠に取り付けられる階段専用手摺と、からなる。
【0029】
次に、仮設足場30に、2段毎に水平ネット50を設けて、水平養生の後、中間仮設壁15を設置する。
また、作業区画Pの最下端および中間階のフロアのエレベータホールに、エレベータ入口に繋がるセキュリティルーム51を設ける。セキュリティルーム51は、エアシャワーや更衣室を備え、作業員がエレベータシャフト内に入退出しても、アスベスト粉塵が建物内に飛散しないようにするための設備である。
さらに、作業床20には、エレベータシャフト内を負圧に保ちつつアスベスト粉塵を集塵する図示しない負圧集塵装置を設ける。この負圧集塵装置のダクトを、セキュリティルームの真上を通してエレベータホール内まで延ばしておく。
【0030】
次に、仮設足場30を利用して、梁13のアスベストを先行除去した後、この仮設足場30の直上の作業床20を架設する。これにより、最下階から上階に向かって順番に作業床20および仮設足場30を架設する。
【0031】
作業床20および仮設足場30の架設が完了した後、これら作業床20および仮設足場30を利用してアスベストを除去し、次に、新規の耐火被覆を施工する。その後、仮設足場30を解体し、作業床20を解体する。なお、エレベータシャフト12の新規の耐火被覆の施工が完了したら、このエレベータシャフト12の仮設足場を解体する前に、中間仮設壁15を解体する。
なお、本実施形態では、2つのエレベータシャフト11、12のうちの一方では、エレベータを停止してアスベスト除去作業を行うとともに、他方のエレベータシャフトでは、エレベータを通常使用する。
【0032】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)作業区画Pの下端にのみ作業床20を設け、この作業床20上に作業区画Pの上端までの延びる仮設足場30を設けた。つまり、従来技術と異なり、作業床を設置する箇所をできる限り少なくした。したがって、仮設足場30を組み立てる際に作業床20で水平養生できるので、資材や工具が仮設足場30上から落下した場合でも、この落下した資材や工具が作業床20より下に落下することはない。よって、作業の安全性を確保できるうえに、超高層エレベータシャフト内の作業効率を向上できる。
また、作業区画P同士を作業床20で仕切ることにより、作業床20の架設が完了した作業区画Pから順番にアスベストを除去できるので、複数の作業区画Pで同時に作業でき、工期を短縮できる。
【0033】
(2)作業区画Pの高さを31m未満としたので、仮設足場30をそれほど高くまで架設する必要がないため、仮設足場30の建地を補強する必要がなく、仮設材にかかるコストを低減できる。
また、狭隘なスペースでの複雑な足場架設作業がなくなるので、施工費用を低減できるうえに、工期を短縮できる。
【0034】
(3)作業床20を、大引き材21、デッキプレート23、および根太材22を含んで構成し、大引き材21をエレベータシャフト11、12内に露出した建物本体の梁13に支持させたので、作業床20をエレベータシャフト11、12内で安全かつ確実に支持することができる。
【0035】
(4)仮設足場30を利用してこの仮設足場30の直上の作業床20を架設したので、作業床20を安全かつ確実に架設することができる。
【0036】
(5)仮設足場30に2段毎に水平ネット50を張って水平養生したので、小さな資材や工具が仮設足場30上から落下した場合でも、この落下した資材や工具が水平ネット50に引っ掛かるため、作業の安全性を確保できる。
【0037】
(5)エレベータシャフト10に中間仮設壁15を設置したので、テナントビルのようにエレベータの稼働を完全に停止することが困難な建物であっても、最小限のエレベータ停止でアスベスト除去作業が可能となる。
【0038】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上述の実施形態では、エレベータを2基としたが、これに限らず、エレベータが3基以上の場合でも、本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0039】
10…エレベータシャフト
11…第1エレベータシャフト
12…第2エレベータシャフト
13…梁
14…壁
15…中間仮設壁
16…第1ガイドレール(かごレール)
17…第2ガイドレール(ウエイトレール)
20…作業床
21…大引き材
22…根太材
23…デッキプレート
30…仮設足場
31…ベースジャッキ
32…調整足場ユニット
33…足場ユニット
34…手摺
41…枠組足場
42…階段部
43…張出し足場
50…水平ネット
51…セキュリティルーム
411…建枠
412…鋼製布板
431…ブラケット
432…足場板
P…作業区画

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高層エレベータシャフト内のアスベストを除去するアスベスト除去方法であって、
前記エレベータシャフトに複数のフロアに亘る作業区画を設け、当該作業区画の下端に作業床を設ける工程と、
前記作業床上に、前記作業区画の上端まで延びる仮設足場を設ける工程と、
前記作業床および仮設足場を利用してアスベストを除去する工程と、を備えることを特徴とするアスベスト除去方法。
【請求項2】
前記作業区画の高さを、31m未満とすることを特徴とする請求項1に記載のアスベスト除去方法。
【請求項3】
前記作業床を、前記エレベータシャフト内に露出した建物本体梁材同士の間に架設された複数の大引き材と、当該大引き材同士の間に架設されたデッキプレートと、当該デッキプレート上に設置された複数の根太材と、を含んで構成することを特徴とする請求項1または2に記載のアスベスト除去方法。
【請求項4】
前記仮設足場を利用して当該仮設足場の直上の作業床を架設することで、最下階から上階に向かって順番に前記作業床および前記仮設足場を架設することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のアスベスト除去方法。
【請求項5】
前記仮設足場に2段毎に水平ネットを張って水平養生することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のアスベスト除去方法。
【請求項6】
前記エレベータシャフトには、複数のエレベータが収容され、
前記複数のエレベータが収容されるそれぞれの空間ごとに、前記エレベータシャフトを中間仮設壁で仕切ることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のアスベスト除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−201613(P2011−201613A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67831(P2010−67831)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】