説明

アゾベンゼン誘導体、蛍光性粒子およびその製造方法

【課題】長期にわたり安定な吸収スペクトルを維持するとともに安定な蛍光を発し得る新規材料を提供すること。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるアゾベンゼン誘導体。


[一般式(I)中、R1は、水素原子等を表し、Ar1およびAr2は、それぞれ独立に、置換基Rを有し得るアリーレン基または芳香族複素環を表し、Rは、ハロゲン原子等であり、アゾ基を介して結合するAr1およびAr2は、少なくとも2つのRを有し、複数存在するRはそれぞれ同じでも異なってもよく、Xは、ヘテロ原子を含んでもよいアルキレン基を表し、X1は、−NH−等を表し、Yは、水素原子等を表し、aは、0〜2の範囲の整数を表し、mおよびnは、それぞれ独立に1〜8の範囲の整数を表し、m、nが2以上の整数の場合に複数存在するAr1、Ar2はそれぞれ同じでも異なってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合体を形成することにより長期にわたり安定な蛍光を発光し得るアゾベンゼン誘導体、前記アゾベンゼン誘導体の集合体からなる蛍光性粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蛍光性材料として、多くの有機クロモフォアおよびポリマーが提案されている(非特許文献1〜3参照)。しかし、これら蛍光性材料は、希薄溶液中では強い蛍光を発するものの、固体状態(solid state)では、会合体形成などに起因して蛍光強度が低下するという問題があった。このような蛍光性材料では、薄膜化してデバイスを作製しても高強度の蛍光を得ることは困難である。
【0003】
それに対し、本願発明者らは、凝集前にはほとんど発光しないが、凝集して集合体を形成すると、凝集前よりはるかに高強度の蛍光を発光する新規アゾベンゼン誘導体を見出した(特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−160715号公報
【非特許文献1】R. H. Friend, et al. Nature 1999, 397, 121.
【非特許文献2】R. Jakubiak, et al. J. Phys. Chem. A 1999, 103, 2394.
【非特許文献3】H. Murata, et al. Appl. Phys. Lett. 2002, 80, 189.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のアゾベンゼン誘導体は、紫外光照射によりトランス体からシス体への異性化が生じた後に更に紫外光照射を続けると自己組織化により凝集し、強い蛍光を発光する集合体を形成する。
【0005】
上記アゾベンゼン誘導体からなる集合体は、紫外光照射をやめて集合体を暗所に室温で放置すると、集合体中でシス体からトランス体への異性化が起こり、これにより発光強度を更に高めることができるものである。しかし、用途によっては集合体形成後に安定な吸収スペクトルや一定強度の蛍光が維持されることが好ましい場合もある。
【0006】
かかる状況下、本発明は、長期にわたり安定な吸収スペクトルを維持するとともに安定な蛍光を発し得る新規材料を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する手段は、以下の通りである。
[1]下記一般式(I)で表されるアゾベンゼン誘導体。
【化1】

[一般式(I)中、
1は、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基、シアノ基、エステル基、ケトン基、−CA3、−(C=O)A、−(C=O)NA2、−BA、−OA、−SA、−NA2、−(P=O)A2(Aは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基もしくはアルキル基であり、1つの基に複数のAが含まれる場合のAはそれぞれ同じでも異なってもよい。)、または有機蛍光性基を表し、
Ar1およびAr2は、それぞれ独立に、置換基Rを有し得るアリーレン基または芳香族複素環を表し、
Rは、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基、シアノ基、エステル基、ケトン基、−CA”3、−(C=O)A”、−(C=O)NA”2、−BA”、−OA”、−SA”、−NA”2、−(P=O)A”2(A”は水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基もしくはアルキル基であり、1つの基に複数のA”が含まれる場合のA”はそれぞれ同じでも異なってもよい。)、または有機蛍光性基であり、アゾ基を介して結合するAr1およびAr2は、少なくとも2つのRを有し、複数存在するRはそれぞれ同じでも異なってもよく、
Xは、ヘテロ原子を含んでもよいアルキレン基を表し、
1は、−NH−、−O−、−S−、またはヘテロ原子もしくは連結基を含んでもよいアルキレン基を表し、
Yは、水素原子、−BA’、−CA’3、−OA’、−NA’2、−PA’2または−SA’(A’は水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基またはアルキル基であり、1つの基に複数のA’が含まれる場合のA’はそれぞれ同じでも異なってもよい。)を表し、
aは、0〜2の範囲の整数を表し、
mおよびnは、それぞれ独立に1〜8の範囲の整数を表し、m、nが2以上の整数の場合に複数存在するAr1、Ar2はそれぞれ同じでも異なってもよい。]
[2]下記一般式(II)で表される[1]に記載のアゾベンゼン誘導体。
【化2】

[一般式(II)中、R2〜R9は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基、シアノ基、エステル基、ケトン基、−CA”3、−(C=O)A”、−(C=O)NA”2、−BA”、−OA”、−SA”、−NA”2、−(P=O)A”2(A”は水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基もしくはアルキル基であり、1つの基に複数のA”が含まれる場合のA”はそれぞれ同じでも異なってもよい。)、または有機蛍光性基であり、アゾ基を介して結合する2つのフェニレン環におけるR2〜R9の少なくとも2つは水素原子以外の置換基であり、R1、X、m、nは、それぞれ一般式(I)における定義と同義であり、m、nが2以上の整数の場合の複数存在するR2〜R9はそれぞれ同じでも異なってもよい。]
[3]一般式(II)中、アゾ基を介して結合する2つのフェニレン環において、少なくともR4およびR5またはR6およびR7は水素原子以外の置換基である[2]に記載のアゾベンゼン誘導体。
[4]一般式(II)中、アゾ基を介して結合する2つのフェニレン環におけるR4およびR5は、それぞれ独立に、炭素数1〜28のアルキル基またはアルコキシ基である[3]に記載のアゾベンゼン誘導体。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載のアゾベンゼン誘導体の集合体からなる蛍光性粒子。
[6][1]〜[4]のいずれかに記載のアゾベンゼン誘導体と有機溶媒を含む溶液に紫外光を照射することにより、前記アゾベンゼン誘導体の集合体を形成することを特徴とする[5]に記載の蛍光性粒子の製造方法。
[7]予め定められた波長を有する励起光を照射することによって所望の蛍光を発光する蛍光性粒子を製造する方法であって、
[1]〜[4]のいずれかに記載のアゾベンゼン誘導体であって前記蛍光性粒子を得るために使用するアゾベンゼン誘導体の候補となる候補誘導体を決定し、
候補誘導体と有機溶媒を含む溶液に紫外光を照射することにより、候補誘導体の集合体を形成し、
形成された集合体に前記波長の励起光を照射し、
上記励起光照射により発光された蛍光が、
(1)所望の蛍光である場合、候補誘導体を、前記蛍光性粒子を製造するために使用するアゾベンゼン誘導体として決定し、
(2)所望の蛍光より短波長光である場合、[1]〜[4]のいずれかに記載のアゾベンゼン誘導体であって、候補誘導体のいずれか1つ以上の置換基に代えて該置換基より電子供与能の高い置換基を有するか、候補誘導体に1つ以上の電子供与性基を導入した構造を有するか、および/または、候補誘導体の環状構造に含まれる原子を該原子より電子供与能の高い原子に代えた構造を有するアゾベンゼン誘導体を、前記蛍光性粒子を製造するために使用するアゾベンゼン誘導体として決定し、
(3)所望の蛍光より長波長光である場合、[1]〜[4]のいずれかに記載のアゾベンゼン誘導体であって、候補誘導体のいずれか1つ以上の置換基に代えて該置換基より電子吸引能の高い置換基を有するか、候補誘導体に1つ以上の電子吸引性基を導入した構造を有するか、および/または、候補誘導体の環状構造に含まれる原子を該原子より電子吸引能の高い原子に代えた構造を有するアゾベンゼン誘導体を、前記蛍光性粒子を製造するために使用するアゾベンゼン誘導体として決定し、
決定されたアゾベンゼン誘導体と有機溶媒を含む溶液に紫外光を照射することにより、前記アゾベンゼン誘導体の集合体を形成することを特徴とする、前記製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、長期にわたり安定な吸収スペクトルを維持するとともに安定な蛍光を発光する蛍光性粒子を提供することができる。
更に本発明のアゾベンゼン誘導体は、電子吸引性基を導入すると該誘導体から形成された蛍光性粒子の蛍光波長が短波長シフトし、電子供与性基を導入すると蛍光波長が長波長シフトするという性質を有する。この性質を利用することにより、分子構造とその官能基から所望の蛍光を発光する蛍光体を容易に設計することが可能となる。
その上、本発明の蛍光性粒子は、励起波長を複数有するという性質を有する。更に、励起光波長を変えることにより異なる波長の蛍光を発光するという性質を有するものもある。この性質を利用することにより1種の蛍光性粒子により異なる色の蛍光を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[アゾベンゼン誘導体]
本発明のアゾベンゼン誘導体は、下記一般式(I)で表される。
【化3】

以下に、一般式(I)の詳細を説明する。
【0010】
一般式(I)中、R1は、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基、シアノ基、エステル基、ケトン基、−CA3、−(C=O)A、−(C=O)NA2、−BA、−OA、−SA、−NA2、−(P=O)A2(Aは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基もしくはアルキル基であり、1つの基に複数のAが含まれる場合のAはそれぞれ同じでも異なってもよい。)、または有機蛍光性基を表す。
【0011】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、ヨウ素を挙げることができる。
【0012】
アルコキシ基は、炭素数1〜28のアルコキシ基であることができ、その具体例としては、CH3O−基、CH3CH2O−基等を挙げることができる。
【0013】
アルキル基は、例えば炭素数1〜28の直鎖または分岐のアルキル基、具体的にはCH3−基、CH3CH2−基、CH3CH2CH2CH2CH2CH2-基、CH3CH2(CH3)CH−(sec-butyl)基等であることができる。
【0014】
シクロアルキル基は、例えば、炭素数5または6のシクロアルキル基、即ちシキロペンチル基、シクロヘキシル基であることができる。
【0015】
アリール基は、例えば単環であるフェニル基であることができ、またナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フェナレン、トリフェナレン、ピレン等の縮合環由来のアリール基であることもできる。
【0016】
複素環基としては、例えば窒素原子を含む複素環基(例えばピリジル基)を挙げることができる。エステル基は、R’OCO−基(R’は水素原子またはアルキル基を示す)であることができ、R’は、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基である。
【0017】
−CA3、−(C=O)A、−(C=O)NA2、−BA、−OA、−SA、−NA2、−(P=O)A2で表される基において、Aは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基もしくはアルキル基であり、1つの基に複数のAが含まれる場合のAはそれぞれ同じでも異なってもよい。これらの基に含まれ得るアルコキシ基、アルキル基については先に記載した通りである。なお、上記基においてCは炭素原子、Oは酸素原子、Nは窒素原子、Bはホウ素原子、Sは硫黄原子、Pはリン原子を表す。上記基の具体例としては、−CF3、−(C=O)H、−(C=O)CH3、−CONHCH3、−B(CH32、−(P=O)(OCH2CH32、−OH、−NH(CH3)、−SH、を挙げることができる。
【0018】
有機蛍光性基としては、一般的に知られている有機蛍光体であるチオフェン誘導体、p-フェニレンエチニレン誘導体、カルバゾール誘導体、ピレン誘導体等を挙げることができる。有機蛍光性基としてアゾベンゼン誘導体の凝集により形成される蛍光性粒子と異なる波長の励起光によって蛍光を発光する基を導入すれば、1種の粒子によって異なる色の蛍光を得ることができる。なお後述するように本発明のアゾベンゼン誘導体の集合体である蛍光性粒子は、有機蛍光性基をもたない場合も異なる励起光によって異なる波長(異なる色)の蛍光を発光し得る。
【0019】
1は、原料の入手の容易さ等を考慮すると、水素原子、ハロゲン原子、アリール基、アミド基、アルデヒド基、複素環基、エステル基、ケトン基、炭素数1〜28のアルキル基もしくはアルコキシ基、またはシアノ基であることが好ましい。
【0020】
Ar1およびAr2は、それぞれ独立に、置換基Rを有し得るアリーレン基または芳香族複素環を表す。アリーレン基は、単環であっても、ナフタレンアントラセン、フェナントレン、フェナレン、トリフェナレン、ピレン等の縮合環由来のものであってもよく、フェニレン基であることが好ましい。
芳香族複素環としては、上記アリーレン基の1つ以上の炭素原子がヘテロ原子によって置換された環構造を挙げることができ、具体的には、フェニレン基の1つの炭素原子が窒素原子に置換されたピリジニレン基を挙げることができる。
【0021】
Ar1およびAr2が有し得る置換基Rは、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基、シアノ基、エステル基、ケトン基、−CA”3、−(C=O)A”、−(C=O)NA”2、−BA”、−OA”、−SA”、−NA”2、−(P=O)A”2(A”は水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基もしくはアルキル基であり、1つの基に複数のA”が含まれる場合のA”はそれぞれ同じでも異なってもよい。)、または有機蛍光性基であり、その詳細は先にR1について説明した通りである。一般式(I)中、アゾ基を介して結合するAr1およびAr2は、少なくとも2つのRを有する。アゾ基を介して結合するAr1およびAr2が少なくとも2つの置換基Rを有することにより、集合体形成後の蛍光強度の安定性を高めることができる。これは、アゾベンゼン部位に置換基を導入することにより溶剤溶解性が高まり強固な集合体が形成されること、および置換基の作用により集合体形成後のシス体の安定性が高まりシス体からトランス体への異性化が抑制されることに起因すると考えられる。アゾ基を介して結合するAr1およびAr2の一方が2つ以上のRを有し、他方はRを有さないこともあり、Ar1、Ar2がそれぞれ1つ以上のRを有することもある。その詳細は一般式(II)について後述する通りである。なお、一般式(I)中、複数存在するRはそれぞれ同じでも異なってもよい。
【0022】
Xは、ヘテロ原子を含んでもよいアルキレン基を表し、含まれ得るヘテロ原子としては、B、N、O、P、Sを挙げることができる。Xの好ましい態様は、一般式(III)について後述する通りである。
【0023】
1は、−NH−、−O−、−S−、またはヘテロ原子もしくは連結基を含んでもよいアルキレン基を表す。X1で表されるアルキレン基の詳細は上記Xと同様であり、ヘテロ原子は好ましくはB、P、Sであり、連結基としては、−(C=O)−を挙げることができる。
【0024】
Yは、水素原子、−BA’、−CA’3、−OA’、−NA’2、−PA’2または−SA’(A’は水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基またはアルキル基であり、1つの基に複数のA’が含まれる場合のA’はそれぞれ同じでも異なってもよい。)を表す。A’で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。A’で表されるアルコキシ基としては、炭素数1〜28のアルコキシ基を挙げることができる。A’で表されるアルキル基としては、直鎖または分岐の炭素数1〜28のアルキル基を挙げることができる。Yは、水素原子、−BA’、−CA’3、−OA’、−NA’2であることが好ましく、−CA’3であることが更に好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0025】
aは、0、1または2のいずれであってもよい。
【0026】
mおよびnは、それぞれ独立に1〜8の範囲の整数を表す。粒子(集合体)形成の観点からは、nは2以上であることが好ましく、mは1または2であることが好ましい。なお、m、nが2以上の整数の場合に複数存在するAr1、Ar2はそれぞれ同じでも異なってもよい。]
【0027】
一般式(I)の好ましい態様としては、下記一般式(III)を挙げることができる。
【化4】

【0028】
一般式(III)中、pおよびqは、それぞれ独立に0〜28の範囲の整数である。pは1〜28の範囲の整数であることが好ましく、qは1〜28の範囲の整数であることが好ましい。
【0029】
2は、ヘテロ原子またはヘテロ原子を含むアルキレン基を表す。ヘテロ原子としては、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、ヨウ素原子)、B、N、O、P、Sを挙げることができる。bは0〜2の範囲の整数である。bが2以上の整数である場合に複数存在するX2は同じであっても異なってもよい。
【0030】
一般式(III)中、R1、X1、Ar1、Ar2、Y、a、m、nについては先に一般式(I)について述べた通りである。
【0031】
一般式(I)の好ましい態様としては、下記一般式(II)を挙げることもできる。
【0032】
【化5】

【0033】
一般式(II)中、R2〜R9は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基、シアノ基、エステル基、ケトン基、−CA”3、−(C=O)A”、−(C=O)NA”2、−BA”、−OA”、−SA”、−NA”2、−(P=O)A”2(A”は水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基もしくはアルキル基であり、1つの基に複数のA”が含まれる場合のA”はそれぞれ同じでも異なってもよい。)、または有機蛍光性基であり、その詳細は先に一般式(I)中のRについて説明した通りである。
【0034】
一般式(II)中、アゾ基を介して結合する2つのフェニレン環におけるR2〜R9の少なくとも2つは水素原子以外の置換基であり、シス体の安定性の観点からは、アゾ基を介して結合する2つのフェニレン環におけるR2〜R9の中で少なくともR4およびR5またはR6およびR7が水素原子以外の置換基であるか、またはR4とR5およびR6〜R9の少なくとも1つ(例えばR9)が水素以外の置換基であることが好ましい。
【0035】
前記の水素以外の置換基としては、電子供与能(electron-donating ability)のある置換基または電子吸引能(electron-withdrawing ability)のある置換基のいずれであってもよい。電子供与能を有する置換基(電子供与性基)および電子吸引能を有する置換基(電子吸引基)については、C. Hansch et al. Chem. Rev. 1991, 91, 165、Smith, M. B.; March, J. March's Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms, and Structure; 5th Ed.; Wiley-Interscience: John Wiley & Sons, Inc: 2001.に詳細に記載されている。具体的には、水素以外の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アミド基、アルデヒド基、シアノ基、エステル基、ケトン基、または複素環基が好ましい。原料の入手の容易さ等を考慮すると、前記アルキル基の場合、炭素数は1〜28であることが好ましく、前記アルコキシ基の炭素数は1〜28であることが好ましい。但し、後述するように所望の蛍光を発光する蛍光性粒子を得るためには、電子吸引性および電子供与性を考慮して導入する置換基を決定することが好ましい。
【0036】
一般式(II)中のR1、X、m、nは、それぞれ一般式(I)における定義と同義である。m、nが2以上の整数の場合の複数存在するR2〜R9はそれぞれ同じでも異なってもよい。
【0037】
以下に、本発明のアゾベンゼン誘導体の具体例を示す。また、より具体的な例としては実施例に示す化合物を挙げることができる。但し、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。また下記具体例は、R4、R5、R9部に置換基を有するが、後述するように、蛍光色の調整のためにフェニレン基の他の位置に電子吸引性基および/または電子供与性基を導入すること、フェニレン基を構成する炭素原子の1つ以上を、より電子吸引性および/または電子供与性の原子(例えば窒素原子)に置換することも可能である。
【化6】

【0038】
上記式中、R4およびR5は先に定義した通りであり、好ましくは水素原子より立体障害のある置換基、より好ましくはアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アミド基、アルデヒド基、エステル基、ケトン基、シアノ基、または複素環基であり、R9は先に定義した通りであり、好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アミド基、アルデヒド基、エステル基、ケトン基、シアノ基、または複素環基であり、p’は、0〜28の範囲の整数であり、5〜28の範囲の整数であることが好ましい。
【0039】
本発明のアゾベンゼン誘導体は、公知の方法で合成することができる。合成方法の詳細については、例えばXu, Z-S.; Lemieux, R. P.; Natansohn, A.; Rochon, P.; Shashidhar, R. Liq. Cryst. 1999, 26, 351-359を参照することができる。
以下に、合成方法の一例を示すが、本発明のアゾベンゼン誘導体の合成方法は下記方法に限定されるものではない。なお、下記一般式(IV)〜(VIII)中のR1〜R9、n、p’については前述の通りであり、Zはハロゲン原子、−OH基、−COOH基、−NH2基、−NHR”基 (R”はアルキル基)等の置換基である。
【0040】
まず、一般式(IV)で表される原料化合物と一般式(V)で表される原料化合物をジアゾカップリングして一般式(VI)で表されるヒドロキシアゾベンゼン誘導体を得る。
【0041】
【化7】

【0042】
次いで、得られたヒドロキシアゾベンゼン誘導体(VI)にアルキル基を導入し、下記中間体(VII)を得る。
【0043】
【化8】

【0044】
その後、中間体(VII)のZ部に所定の置換基を導入することにより、目的物である下記アゾベンゼン誘導体(VIII)を得ることができる。得られたアゾベンゼン誘導体は、カラムクロマトグラフィー等の公知の方法で精製することもできる。得られた生成物の確認は、NMR、IR、Mass(質量分析)、元素分析等の公知の方法で行うことができる。なお、本発明のアゾベンゼン誘導体の合成のために使用される原料化合物は公知の方法で合成可能であり、また市販品として入手可能なものもある。
【0045】
【化9】

【0046】
[蛍光性粒子およびその製造方法]
本発明の蛍光性粒子は、本発明のアゾベンゼン誘導体の集合体からなるものである。この集合体は、本発明のアゾベンゼン誘導体が自己組織化により会合し形成されたものである。また、蛍光性粒子とは、励起光を照射することにより蛍光を発光する粒子をいうものとする。
【0047】
本発明の蛍光性粒子は、本発明のアゾベンゼン誘導体と有機溶媒を含む溶液に紫外光を照射することにより、前記アゾベンゼン誘導体の集合体を形成することによって得ることができる。使用する紫外光は通常使用される紫外光(例えば波長320〜400nm)であればよく、例えば365nmまたは366nmの波長の紫外光を用いることができる。溶媒を選択するにあたっては、粒子形成のために使用するアゾベンゼン誘導体に対して良溶媒であること、形成された粒子が長時間の光照射下でも分解せず安定であること、使用するアゾベンゼン誘導体の吸収波長と溶媒の吸収波長が重ならないこと、等の点を考慮することが好ましい。そのような溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、THF、DMF等を用いることができる。
溶液中のアゾベンゼン誘導体化合物の濃度は、適宜設定することができ、例えば、10-8M以上とすることができ、好ましくは10-6〜10-1Mとすることができる。
【0048】
アゾベンゼンは、シス体とトランス体があり、熱的に安定なものはトランス体である。トランス体に紫外光を照射すると、シス体への異性化が起こり、その後暗所に室温で放置すると、再びトランス体に変化することが知られている。本発明のアゾベンゼン誘導体も、例えば数分間紫外光を照射するとトランス体からシス体への異性化が起こる。更に、本発明のアゾベンゼン誘導体は、トランス体からシス体への異性化が生じた後も紫外光照射を続けると、自己組織化により会合して集合体(粒子)を形成する。更に、本発明のアゾベンゼン誘導体は、集合体(粒子)形成後、紫外光照射をやめて粒子を放置しても集合体の解離が生じないか生じたとしてもわずかであり、放置前後の吸収スペクトル、蛍光波長、蛍光強度の変化が少ないため、長期にわたり安定な蛍光を発光する蛍光性粒子を得ることができる。なお、吸収スペクトルの変化が少ないことは、集合体中でのシス体からトランス体への再異性化が抑制されていること、つまり集合体中でシス体が安定であることを示すものである。
【0049】
本発明において、粒子形成のための紫外光照射時間は、トランス体からシス体への異性化が起こる時間よりも長くすることが適当であり、例えば3分〜30時間とすることができ、好ましくは6〜30時間とすることができる。アゾベンゼン溶液が高濃度の場合は十分な粒子形成のために紫外光照射時間を長くすることが好ましい。なお、紫外光の強度によって粒子形成のために要する時間は変化し、短時間で粒子形成を行うためには高強度の紫外光を使用することが好ましい。紫外光の強度は、例えば0.1〜30mW/cm2程度とすることができる。
【0050】
本発明の粒子は、例えば球状粒子であることができ、その粒子径は、例えば数nm〜数百nm程度である。粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)によって得られた像から求めることができる。また、本発明の粒子の中には、TEM観察により結晶格子構造が観察されるものもある。
【0051】
本発明のアゾベンゼン誘導体は、集合体形成前はほとんど発光しないが、集合体(粒子)を形成すると、集合体形成前よりはるかに高強度の蛍光を発光する。しかも、集合体形成後も長期にわたり安定な蛍光を維持することができる。例えば、本発明のアゾベンゼン誘導体は、集合体形成後に光照射を止めても、6ヶ月以上もの長期にわたり安定な蛍光(例えばλmaxでの蛍光強度の変化率が約5%以下)を発光することができる。
【0052】
また、本発明のアゾベンゼン誘導体の集合体である蛍光性粒子は、後述する実施例で示すように、異なる励起光を照射することによって異なる波長の蛍光を発光することができる。この性質を利用することにより1種の蛍光性粒子から異なる波長(異なる色)の蛍光を得ることができる。
【0053】
更に、本発明のアゾベンゼン誘導体のアゾベンゼン骨格に導入する官能基の種類や数、環状構造を構成する原子の種類を変えることにより、蛍光性粒子の蛍光色を制御することも可能である。以下に、この点について説明する。
【0054】
蛍光性粒子を発光させるためには励起光を照射する必要がある。例えばあるアゾベンゼン誘導体に予め定められた波長の励起光を照射した場合、得られた蛍光が所望の色(波長)の蛍光ではなかった場合、所望の蛍光を発光する蛍光性粒子を得るために、新たなアゾベンゼン誘導体を使用することになる。本発明のアゾベンゼン誘導体は、後述の実施例で示すように、電子吸引能の高い置換基を導入するほど該誘導体から形成される蛍光性粒子の蛍光が短波長シフトし、電子供与能の高い置換基を導入するほど該誘導体から形成される蛍光性粒子の蛍光が長波長シフトするという性質を有する。またアゾベンゼン誘導体に含まれる環状構造(例えば一般式(I)中のAr1、Ar2)に含まれる原子を、より電子吸引能が高い原子に代えることにより該誘導体から形成される蛍光性粒子の蛍光が短波長シフトし、電子供与能の高い原子に代えることにより該誘導体から形成される蛍光性粒子の蛍光が長波長シフトする。上記性質を利用することにより、ある励起光を照射することにより所望の色(波長)の蛍光を発光する蛍光性粒子を分子構造(官能基や環構造を形成する原子)に基づき容易に設計することができる。
【0055】
即ち、本発明のアゾベンゼン誘導体を使用することにより、以下の工程により、予め定められた波長を有する励起光を照射することによって所望の蛍光を発光する蛍光性粒子を製造することができる。
本発明のアゾベンゼン誘導体であって前記蛍光性粒子を得るために使用するアゾベンゼン誘導体の候補となる候補誘導体を決定し、
候補誘導体と有機溶媒を含む溶液に紫外光を照射することにより、候補誘導体の集合体を形成し、
形成された集合体に前記波長の励起光を照射し、
上記励起光照射により発光された蛍光が、
(1)所望の蛍光である場合、候補誘導体を、前記蛍光性粒子を製造するために使用するアゾベンゼン誘導体として決定し、
(2)所望の蛍光より短波長光である場合、本発明のアゾベンゼン誘導体であって、候補誘導体のいずれか1つ以上の置換基に代えて該置換基より電子供与能の高い置換基を有するか、候補誘導体に1つ以上の電子供与性基を導入した構造を有するか、および/または、候補誘導体の環状構造に含まれる原子を該原子より電子供与能の高い原子に代えた構造を有するアゾベンゼン誘導体を、前記蛍光性粒子を製造するために使用するアゾベンゼン誘導体として決定し、
(3)所望の蛍光より長波長光である場合、本発明のアゾベンゼン誘導体であって、候補誘導体のいずれか1つ以上の置換基に代えて該置換基より電子吸引能の高い置換基を有するか、候補誘導体に1つ以上の電子吸引性基を導入した構造を有するか、および/または、候補誘導体の環状構造に含まれる原子を該原子より電子吸引能の高い原子に代えた構造を有するアゾベンゼン誘導体を、前記蛍光性粒子を製造するために使用するアゾベンゼン誘導体として決定し、
決定されたアゾベンゼン誘導体と有機溶媒を含む溶液に紫外光を照射することにより、前記アゾベンゼン誘導体の集合体を形成する。
【0056】
上記励起光の波長および所望の蛍光の波長(色)は、使用する光源や使用目的を考慮して定められるものである。例えば、候補誘導体が緑色の蛍光を発光した場合、所望の蛍光が青色(短波長光)であるときは上記(2)により蛍光性粒子を得るためのアゾベンゼン誘導体の構造を決定すればよく、所望の蛍光が赤色(長波長光)であるときは上記(3)により蛍光性粒子を得るためのアゾベンゼン誘導体の構造を決定すればよい。なお置換基および原子の電子供与能および電子吸引能の指標としては、例えばHammett constantを用いることができる。Hammett constantについては、例えばChem.Rev. 1991, 91, 165に記載されている。例えば、一例としては、CN−(0.66)、−CF3(0.54)、−COOMe(0.45)、−CF3O(0.35)、−H(0)、−CH3(−0.17)、−EtO(−0.24)、−MeO(−0.27)、BuO−(−0.32)、NMe2(−0.83)である(括弧内はHammett constant)。
上記の通り、蛍光波長をシフトさせるためには、(i)ある置換基を変える、(ii)新たな置換基を導入する、(iii)環状構造を構成する原子を変える、という方法を取り得る。(i)〜(iii)を任意に組み合わせることにより所望の色の蛍光を発光する蛍光性粒子を得ることができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0058】
1.アゾベンゼン誘導体の合成
下記方法にて、アゾベンゼン誘導体1を合成した。
(1)ヒドロキシアゾベンゼン誘導体(IX)の合成
【化10】

[Z= -Br, R4=R5= -CH2CH3, R9= -CH(CH3)CH2CH3, R2=R3=R6=R7= R8=-H]
NaNO2 (1.035 g)を水20mLに溶かし、0〜5℃の4-ブロモ-2,6-ジエチルアニリン(3 g)、HCl (8 mL)および水(100 mL)の混合溶液にゆっくりと滴下し30分間攪拌した。 この溶液に2-sec-ブチルフェノール(2.25 g)、NaOH(1.04 g)、Na2CO3 (2.75 g)および水の混合液を加え2時間攪拌した。酢酸エチルを加え攪拌し、有機層を集め、ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒(10:1)を展開溶媒にし、カラムクロマトグラフ法で分離を行い、3.6 gのヒドロキシアゾベンゼン誘導体(IX)を得た。
1H NMR (270 MHz, CDCl3) d 0.8-1.8 (m, 14, CH3 and CH2), 2.59 (q, 4H, CH2CH3), 2.94 (m, 1H, CH), 6.69-7.74 (m, 5H, Ar-H)
【0059】
(2)中間体(X)の合成
【化11】

[Z= -Br, R4=R5= -CH2CH3, R9= -CH(CH3)CH2CH3, R2=R3=R6=R7= R8=-H, p'=15]
K2CO3 (2.13 g)、テトラエチルアンモニウムブロマイド(触媒量)、1-ブロモヘキサデカン(7.06 g)、アセトン(100 mL)の混合溶液をN2雰囲気下の60℃で30分攪拌した。この混合溶液に、上記(1)で合成したヒドロキシアゾベンゼン誘導体(IV)(3.0 g)のアセトン溶液をゆっくりと加え、そのまま60℃で13時間攪拌した。アセトンを取り除き、水で3回洗った後、酢酸エチルを加え攪拌し、有機層を集めた。ヘキサンを展開溶媒にし、カラムクロマトグラフ法で分離を行い、3.3 gの中間体(X)を得た。
1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.85 (m, 6H, CH3), 1.0-1.8 (m, 19H, CH2 and CH3), 2.57 (q, 4H, Ar-CH2CH3), 3.12 (m, 1H, CH), 4.02 (t, 2H, ArOCH2), 6.70-7.72 (m, 5H, Ar-H)
【0060】
(3)アゾベンゼン誘導体1の合成
【化12】

上記(2)で合成した中間体(X)(2.46 g)を、N2雰囲気下で50 mLのDMFに溶かし、Pd(PPh3)4(触媒量)を加え、10分間攪拌した。この混合液に4-エトキシフェニルボロン酸(ethoxyphenylboronic acid)(1 g)、蒸留水(30 mL)に溶かしたNaHCO3 (1.68 g)とトルエン(20 mL)を加え、100℃で28時間攪拌した。その後、室温に戻し、水と酢酸エチルを加え攪拌し、有機層を集め、ヘキサンとジクロロメタンの混合溶媒(6:1)を展開溶媒にし、カラムクロマトグラフ法で分離を行った。 生成物(アゾベンゼン誘導体1)はオレンジ色の結晶で、収量は0.39 gであった。
1H NMR (270 MHz, CD2Cl2) δ 0.88 (tt, 6H, CH3), 1.16-1.87 (m, 42H, CH2 and CH3), 2.74 (q, 4H, ArCH2CH3), 3.18 (m, 1H, ArOCH(CH3)CH2CH3), 4.04-4.12 (tq, 4H, ArOCH2CH3 and ArOCH2), 6.96-7.00 (dd, 3H, Ar-H), 7.33 (s, 2H, Ar-H), 7.59 (d, 2H, Ar-H), 7.71-7.77 (m, 3H, Ar-H).
Anal. Calcd: C, 80.68; H, 10.16; N, 4.28. Found: C, 80.65; H, 10.14; N, 4.22.
【0061】
上記方法における原料化合物等を変更し、下記アゾベンゼン誘導体2〜7を合成した。生成物の分析結果を以下に示す。
【化13】

【0062】
アゾベンゼン誘導体2:
1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.86 (tt, 6H, CH3), 1.16-1.87 (m, 42H, CH2 and CH3), 2.74 (q, 4H, ArCH2CH3), 3.17 (m, 1H, ArOCH(CH3)CH2CH3), 4.01-4.11 (tq, 4H, ArOCH2CH3 and ArOCH2), 6.93-6.99 (m, 3H, Ar-H), 7.38 (s, 2H, Ar-H), 7.54-7.77 (m, 8H, Ar-H).
Anal. Calcd: C, 82.14; H, 9.65; N, 3.69. Found: C, 81.95; H, 9.77; N, 3.69.
【0063】
アゾベンゼン誘導体3:
1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.81 (t, 3H, CH3), 1.08-1.78 (m, 37H, CH2 and CH3), 2.67 (q, 4H, ArCH2CH3), 3.94-4.05 (tq, 4H, ArOCH2CH3 and ArOCH2), 6.87-6.95 (m, 4H, Ar-H), 7.17-7.82 (m, 6H, Ar-H).
【0064】
アゾベンゼン誘導体4:
1H NMR (270 MHz, CD2Cl2) δ 0.88 (tt, 6H, CH3), 1.14-1.86 (m, 39H, CH2 and CH3), 2.70 (q, 4H, ArCH2CH3), 3.16 (m, 1H, ArOCH(CH3)CH2CH3), 4.04 (t, 2H, ArOCH2CH3), 6.96 (d, 1H, Ar-H), 7.33 (s, 2H, Ar-H), 7.71-7.78 (m, 6H, Ar-H)
Anal. Calcd: C, 81.21; H, 9.67; N, 6.61. Found: C, 81.19; H, 9.64; N, 6.45.
【0065】
アゾベンゼン誘導体5:
1H NMR (270 MHz, CD2Cl2) δ 0.87 (t, 3H, CH3), 0.98 (t, 3H, CH3), 1.24-1.87 (m, 33H, CH2 and CH3), 2.66 (t, 2H, ArCH2CH2CH3), 4.01-4.11 (tq, 4H, ArOCH2), 6.90-6.99 (m, 3H, Ar-H), 7.55-7.81 (m, 10H, Ar-H), 7.93 (d, 2H, Ar-H)
Anal. Calcd: C, 81.77; H, 9.15; N, 4.24. Found: C, 81.75; H, 9.23; N, 4.22.
【0066】
アゾベンゼン誘導体6:
1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.87 (t, 3H, CH3), 1.28-1.54 (m, 29H, CH2 and ArOCH2CH3), 1.80 (m, 2H, ArOCH2CH2), 4.01 (t, 2H, ArOCH2), 4.09 (q, 2H, ArOCH2), 6.97 (d, 4H, Ar-H), 7.84 (d, 4H, Ar-H).
Anal. Calcd: C, 77.21; H, 9.93; N, 6.00. Found: C, 77.15; H, 9.86; N, 5.95.
【0067】
アゾベンゼン誘導体7:
1H NMR (270 MHz, CD2Cl2) δ 0.88 (t, 3H, CH3), 1.28-1.52 (m, 17H, CH2 and CH3), 1.81 (m, 2H, CH2), 4.02-4.12 (tq, 4H, ArOCH2), 6.97-7.04 (m, 4H, Ar-H), 7.62 (d, 2H, Ar-H), 7.69 (d. 2H, Ar-H), 7.89-7.94 (m, 4H, Ar-H).
【0068】
2.粒子の形成
上記1.で合成した各アゾベンゼン誘導体を4×10-5Mの濃度でジクロロメタンに溶解した。この溶液に、波長365nmの紫外光(強度2〜4mW/cm2)を蛍光の増加が飽和に達するまで(約300分〜800分間)照射した。紫外光照射後の溶液を走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、アゾベンゼン誘導体1〜7を含む溶液中では粒子径数nm〜数百nm程度の集合体(粒子)が観察された。更に結晶格子構造も観察された。図1に、アゾベンゼン誘導体1を含む溶液のSEM写真およびTEM写真を示す。
【0069】
3.シス安定性の確認
上記1.で合成したアゾベンゼン誘導体1の紫外光(波長365nm)照射前、照射20時間後(集合体)、紫外光照射後2週間室温放置後、1ヶ月放置後の1H−NMR(in CD2Cl2)スペクトルを図2に示す。図2のスペクトル中、矢印で示すピークはシス体由来のピークである。図2に示すように、紫外光照射20時間後のスペクトル中にはシス体由来のピークが出現していることにより、紫外光照射によってトランス体からシス体への異性化が起こったことが確認された。また、室温放置2週間後および1ヶ月後のスペクトル中にもシス体由来のピークが維持されていることから、アゾベンゼン誘導体1は集合体中のシス安定性が高いことがわかる。
一方、アゾベンゼン誘導体7について、紫外光(波長365nm)照射前、照射13時間後(集合体)、紫外光照射後1日室温暗室放置後に測定した1H−NMR(in CD2Cl2)スペクトルを図10に示す。図10から、アゾベンゼン誘導体7は紫外光照射後に1日暗室に放置すると、すべてのシス体がトランス体へ異性化することがNMRデータから確認された。これにより所定の位置に置換基を導入することによりシス安定性の高いアゾベンゼン誘導体が得られることが示された。
【0070】
4.吸収スペクトル、蛍光スペクトルの観察
上記2.と同様の方法でアゾベンゼン誘導体1を含む溶液に紫外光(波長365nm)を780分間照射し、その後暗所に室温で1ヶ月間放置した。アゾベンゼン誘導体1を含む溶液の紫外光照射開始前、照射3分後、780分後、室温放置2週間後、1ヶ月後の吸収スペクトルを図3(a)に、得られた蛍光スペクトルを図3(b)に示す。
また、上記2.と同様の方法でアゾベンゼン誘導体2〜7を含む溶液に紫外光(波長365nm)を蛍光の増加が飽和に達するまで(約300分〜800分間)照射し、その後暗所に室温で放置した。各溶液について、紫外光照射開始前、照射中、室温放置後の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを、それぞれ図4〜9に示す。
また、各溶液について、(i)紫外光照射後および(ii)紫外光照射後室温放置後の蛍光スペクトルのλmaxおよび蛍光強度の変化を下記表1に示す。
なお、上記蛍光スペクトルは、照射した紫外光(波長365nm)が励起光となり発光された蛍光のスペクトルである。
【0071】
【表1】

蛍光強度変化=[(ii)の蛍光強度−(i)の蛍光強度]/(i)の蛍光強度
【0072】
図3〜6に示すように、アゾベンゼン誘導体1〜4を含む溶液では、紫外光照射前後の吸収スペクトル、蛍光波長および蛍光強度の変化はほとんど見られなかった。これにより、アゾベンゼン誘導体1〜4はシス安定性に優れるとともに長期にわたり安定に蛍光を発光することがわかる。なお、各スペクトル中、紫外光照射前と紫外光照射3分後のスペクトル変化は、トランス体からシス体への変化に起因するものであり、紫外光照射3分後と長時間照射(約300分〜800分間)後のスペクトル変化は、集合体形成に起因するものである。
それに対し、アゾベンゼン誘導体5〜7を含む溶液は、紫外光照射後暗所に室温で放置すると、吸収スペクトルが大きく変化した。これは集合体中でシス体からトランス体への異性化が生じたことに起因するものである。また、これらの溶液では紫外光照射前後で蛍光強度が大きく変化し、またアゾベンゼン誘導体5を含む溶液は蛍光波長の変化も大きかった。
また、表1に示すλmaxの値が異なることからわかるように、アゾベンゼン誘導体1〜4を含む溶液は異なる色の蛍光を発光した。このように、本発明のアゾベンゼン誘導体では、アゾベンゼン骨格に導入する置換基を種類や数を変えることにより、蛍光色を変化させることができる。
【0073】
5.励起光の違いによる蛍光色変化
(1)アゾベンゼン誘導体1の蛍光色の確認
上記2.と同様の方法でアゾベンゼン誘導体1を含む溶液に紫外光(波長365nm)を780分間照射した。その後、励起光として波長365nm、435nm、500nmの光を照射して
得られた蛍光スペクトルを図11に示す。図11上図は、図11下図のスペクトルの強度を標準化したものである。
図11に示すように、波長365nmの光で励起した場合および波長435nmの光で励起した場合は黄緑色、波長500nmの光で励起した場合は赤色の蛍光が得られた。
【0074】
(2)アゾベンゼン誘導体8、9の蛍光色の確認
アゾベンゼン誘導体1の合成方法における原料化合物等を変更し、アゾベンゼン誘導体8、9合成した。
【0075】
アゾベンゼン誘導体8:
1H NMR (270 MHz, CD2Cl2) δ 0.81 (m, 6H, CH3), 1.19-1.79 (m, 36H, CH2 and CH3), 2.30 (s, 3H, ArCH3), 3.06 (m, 1H, ArOCH(CH3)CH2CH3), 4.01 (m, 4H, ArOCH2CH3), 6.85-7.74 (m, 10H, Ar-H)
アゾベンゼン誘導体9:
1H NMR (270 MHz, CD2Cl2) δ 0.85 (t, 3H, CH3), 1.07-1.86 (m, 26H, CH2 and CH3), 2.19 (s, 3H, MHCOCH3), 2.72(t, 4H, ArCH2CH3), 3.34 (m, 1H, ArOCH(CH3)CH2CH3), 4.05 (m, 4H, ArOCH2CH3), 6.92-7.82 (m, 9H, Ar-H)
【0076】
得られたアゾベンゼン誘導体8、9および前述の方法で得られたアゾベンゼン誘導体4について上記と同様の方法で励起光を変化させて蛍光色の変化を確認した。得られた蛍光スペクトルを図12〜図14に示す。
図12に示すように、アゾベンゼン誘導体4は、波長365nmの光で励起した場合は青色、波長435nmの光で励起した場合は緑色、波長500nmの光で励起した場合は赤色の蛍光が得られた。
図13に示すように、アゾベンゼン誘導体8は、波長365nmの光で励起した場合、波長435nmの光で励起した場合、および波長500nmの光で励起した場合、すべて黄色の蛍光が得られた。
図14に示すように、アゾベンゼン誘導体9は、波長365nmの光で励起した場合および波長435nmの光で励起した場合は黄緑色、波長500nmの光で励起した場合は赤色の蛍光が得られた。
【化14】

【0077】
(3)アゾベンゼン誘導体10〜16の蛍光色の確認
アゾベンゼン誘導体1の合成方法における原料化合物等を変更し、アゾベンゼン誘導体10〜16を合成した。合成スキームを以下に示す。以下に示すスキーム中、「X」は対応するアゾベンゼン誘導体におけるR1部の置換基を示す。また原料化合物等を変更しアゾベンゼン誘導体16を合成した。
【0078】
【化15】

【0079】
【化16】

【0080】
アゾベンゼン誘導体10〜16の同定結果を以下に示す。
アゾベンゼン誘導体10:1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.81 (t, 3H, CH3), 1.09-1.49 (m, 26H, CH2 and CH3), 1.79 (m, 2H, CH2), 2.65 (q, 4H, ArCH2CH3), 3.28 (m, 1H, ArOCH(CH3)2), 4.00 (t, 2H, ArOCH2), 6.87 (d, 1H, Ar-H), 7.18-7.77 (m, 8H, Ar-H).
アゾベンゼン誘導体11:1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.85 (t, 3H, CH3), 1.03-1.55 (m, 26H, CH2 and CH3), 1.84 (m, 2H, CH2), 2.69 (q, 4H, ArCH2CH3), 3.37 (m, 1H, ArOCH(CH3)2), 3.93 (s, 3H, COOCH3), 4.05 (t, 2H, ArOCH2), 6.96 (d, 1H, Ar-H), 7.37 (s, 2H, Ar-H), 7.67-7.83 (m, 4H, Ar-H), 8.07 (d, 2H, Ar-H).
アゾベンゼン誘導体12:1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.81 (t, 3H, CH3), 0.98-1.49 (m, 26H, CH2 and CH3), 1.78 (m, 2H, CH2), 2.65 (q, 4H, ArCH2CH3), 3.28 (m, 1H, ArOCH(CH3)2), 3.99 (t, 2H, ArOCH2), 6.86 (d, 1H, Ar-H), 7.16-7.76 (m, 8H, Ar-H).
Anal. Calcd: C, 72.45; H, 7.94; N, 4.69; F, 9.55. Found: C, 72.55; H, 7.97; N, 9.53; F, 4.68
アゾベンゼン誘導体13:1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.82 (t, 3H, CH3), 1.02-1.48 (m, 26H, CH2 and CH3), 1.78 (m, 2H, CH2), 2.65 (q, 4H, ArCH2CH3), 3.31 (m, 1H, ArOCH(CH3)2), 3.99 (t, 2H, ArOCH2), 6.87 (d, 1H, Ar-H), 7.18-7.77 (m, 9H, Ar-H).
アゾベンゼン誘導体14:1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.85 (t, 3H, CH3), 1.07-1.54 (m, 26H, CH2 and CH3), 1.81 (m, 2H, CH2), 2.38 (s, 3H, Ar-CH3), 2.70 (q, 4H, ArCH2CH3), 3.36 (m, 1H, ArOCH(CH3)2), 4.05 (t, 2H, ArOCH2), 6.92 (d, 1H, Ar-H), 7.22-7.82 (m, 8H, Ar-H).
アゾベンゼン誘導体15:1H NMR (270 MHz, CDCl2) δ 0.88 (t, 3H, CH3), 0.99 (t, 3H, CH3), 1.05-1.61 (m, 28H, CH2 and CH3), 1.82 (m, 4H, CH2), 2.74 (q, 4H, ArCH2CH3), 3.38 (m, 1H, ArOCH(CH3)CH2CH3), 4.04 (m, 4H, ArOCH2), 6.92-7.83 (m, 9H, Ar-H).
Anal. Calcd: C, 80.09; H, 9.65; N, 4.79. Found: C, 80.03; H, 9.75; N, 4.72.
アゾベンゼン誘導体16:1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.80 (m, 6H, CH3), 0.90 (t, 3H, CH3), 1.17-1.78 (m, 37H, CH2 and CH3), 2.30 (s, 3H, ArCH3), 3.10 (m, 1H, ArOCH(CH3)(CH2CH3)), 3.94 (t, 2H, ArOCH2), 6.84-7.75 (m, 10H, Ar-H).
【0081】
アゾベンゼン誘導体10〜16について上記と同様の方法で励起光を変化させて蛍光色の変化を確認した。得られた蛍光スペクトルを図15に示す。いずれのアゾベンゼン誘導体でも複数の励起波長で蛍光が発光された。また励起光を変えることにより異なる波長(色)の蛍光が得られたものもあった。
【0082】
以上示したように、本発明のアゾベンゼン誘導体から形成された蛍光性粒子は、複数の励起波長を有する。更に、励起光を変えることにより異なる波長(色)の蛍光を発光させることができるものもある。この性質を利用すれば、1種の蛍光性粒子から異なる色の蛍光を得ることが可能となる。
【0083】
6.置換基等の違いによる蛍光波長シフト
(1)アゾベンゼン誘導体17の合成
上記合成方法において原料化合物等を変更し、アゾベンゼン誘導体17を合成した。
【0084】
【化17】

【0085】
同定結果を以下に示す。
アゾベンゼン誘導体17: 1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.86 (t, 3H, CH3), 1.04-1.54 (m, 26H, CH2 and CH3), 1.81 (m, 2H, CH2), 2.70 (q, 4H, ArCH2CH3), 3.33 (m, 1H, ArOCH(CH3)2), 3.85 (s, 3H, CH3O-), 4.04 (t, 2H, ArOCH2), 6.92-7.82 (m, 9H, Ar-H).
【0086】
(2)蛍光スペクトルの観察
アゾベンゼン誘導体10、11、12、13、14、15、17は末端置換基以外が同じ構造を有する。末端置換基のHammett constantと励起光(波長365nm)を照射して得られた蛍光のλmaxの関係を図16に示す。
図16に示すように末端置換基のHammett constantとλmaxとの間には直線的な関係があることが確認された。この結果を利用すれば予め置換基のHammett constantから得られる蛍光色を予想することが可能になると考えられる。
【0087】
(3)アゾベンゼン誘導体18〜21の合成
アゾベンゼン誘導体1の合成方法において原料化合物等を変更しアゾベンゼン誘導体18〜21を合成した。同定結果を以下に示す。
アゾベンゼン誘導体18: 1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.85 (t, 3H, CH3), 1.07-1.54 (m, 26H, CH2 and CH3), 1.81 (m, 2H, CH2), 2.19 (s, 3H, NHCOCH3), 2.69 (q, 4H, ArCH2CH3), 3.36 (m, 1H, ArOCH(CH3)2), 4.05 (t, 2H, ArOCH2), 6.92 (d, 1H, Ar-H), 7.17-7.82 (m, 8H, Ar-H).
アゾベンゼン誘導体19: 1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.85 (t, 3H, CH3), 1.07-1.54 (m, 26H, CH2 and CH3), 1.81 (m, 2H, CH2), 2.66 (q, 4H, ArCH2CH3), 3.33 (m, 1H, ArOCH(CH3)2), 3.94 (s, 3H, CH3O-), 4.02 (t, 2H, ArOCH2), 6.7-8.3 (m, 8H, Ar-H).
アゾベンゼン誘導体20:1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.85 (t, 3H, CH3), 1.05-1.54 (m, 26H, CH2 and CH3), 1.81 (m, 2H, CH2), 2.66 (q, 4H, ArCH2CH3), 3.34 (m, 1H, ArOCH(CH3)2), 3.89 (s, 3H, CH3O-), 4.05 (t, 2H, ArOCH2), 6.93 (d, 1H, Ar-H), 7.04-7.84 (m, 7H, Ar-H).
アゾベンゼン誘導体21:1H NMR (270 MHz, CDCl3) δ 0.84 (t, 3H, CH3), 1.02-1.52 (m, 26H, CH2 and CH3), 1.81 (m, 2H, CH2), 2.69 (q, 4H, ArCH2CH3), 3.35 (m, 1H, ArOCH(CH3)2), 3.78 (s, 3H, CH3O-), 3.82 (s, 3H, CH3O-), 4.03 (t, 2H, ArOCH2), 6.53-7.80 (m, 8H, Ar-H).
【0088】
【化18】

【0089】
(4)吸収スペクトル、蛍光スペクトルの観察
上記2.と同様の方法でアゾベンゼン誘導体17〜21を含む溶液に紫外光(波長365nm)を蛍光の増加が飽和するまで照射した。その後室温暗所で12日放置した。
アゾベンゼン誘導体17、18、20、21の溶液について、紫外光照射開始前、照射後、室温放置後の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを、図17に示す。
また、アゾベンゼン誘導体17、18、20、21の溶液について、(i)紫外光照射後および(ii)紫外光照射後室温放置後の蛍光スペクトルのλmaxおよび蛍光強度の変化を下記表2に示す。
なお、上記蛍光スペクトルは、照射した紫外光(波長365nm)が励起光となり発光された蛍光のスペクトルである。
【0090】
【表2】

蛍光強度変化=[(ii)の蛍光強度−(i)の蛍光強度]/(i)の蛍光強度
【0091】
図17および表2に示すように、アゾベンゼン誘導体18だけが紫外光照射後に室温暗室に放置すると吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルが顕著に変化した。これは紫外光照射後室温暗室に放置するとシス→トランスの異性化が進むためと考えられる。これに対し、アゾベンゼン誘導体17、20および21は所定の位置に置換基を有するため分子構造由来の高いシス安定性を有し、これにより安定な吸収スペクトルおよび安定な蛍光強度を維持することができる。またアゾベンゼン誘導体19も同様に安定な吸収スペクトルおよび安定な蛍光強度を維持することができた。
【0092】
図18に、アゾベンゼン誘導体17〜21の蛍光スペクトルを重ね合わせた図を示す。アゾベンゼン誘導体17を基準として見ると、アゾベンゼン誘導体17のフェニル基がピリジニル基に置換された構造を有するアゾベンゼン誘導体19は蛍光波長が短波長シフトした。これはフェニル基と比べてピリジニル基は電子吸引能が高いことに起因すると考えられる。また、アゾベンゼン誘導体17に電子吸引性基であるCF3基を導入した構造を有するアゾベンゼン誘導体20も、アゾベンゼン誘導体17と比べて蛍光波長が短波長シフトした。
一方、アゾベンゼン誘導体17に電子供与性基である−OMe基を導入したアゾベンゼン誘導体21は、アゾベンゼン誘導体17と比べて蛍光波長が長波長シフトした。
【0093】
(5)アゾベンゼン誘導体15、16の蛍光スペクトルの観察
【化19】

【0094】
上記2.と同様の方法でアゾベンゼン誘導体15、16を含む溶液に紫外光(波長365nm)を蛍光の増加が飽和するまで照射した。得られた蛍光スペクトルを、図19に示す。なお、上記蛍光スペクトルは、照射した紫外光(波長365nm)が励起光となり発光された蛍光のスペクトルである。
図19に示すように、アゾベンゼン誘導体15から得られた蛍光性粒子の蛍光スペクトルと比べてアゾベンゼン誘導体16から得られた蛍光性粒子の蛍光スペクトルは長波長シフトした。
【0095】
以上の結果から、アゾベンゼン誘導体に含まれる環状構造の構成原子および置換基の電気的性質(電子吸引能、電子供与能)を変えることにより蛍光波長を短波長側または長波長側にシフトさせることができることが示された。この性質を利用すれば、例えば紫色、青色、緑色、黄色、オレンジ色、赤色等の所望の蛍光を発光する蛍光性粒子の設計を容易に行うことができる。また分子構造とその官能基から事前に蛍光色を予想することも可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のアゾベンゼン誘導体は、集合体を形成することにより高強度の蛍光を発光するとともに、長期にわたり安定な蛍光を発光することができる。このように集合体中で高強度の蛍光を安定に発光することは、薄膜などの固体状態で使用する蛍光性材料として好ましく、各種デバイスへの応用が期待される。
また、本発明によれば、分子構造とその官能基から所望の蛍光を発光する蛍光体を容易に設計することが可能となる。更に、励起光を変えることにより、1種の蛍光性粒子により異なる色の蛍光を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】アゾベンゼン誘導体1を含む溶液のSEM写真およびTEM写真である。
【図2】アゾベンゼン誘導体1の紫外光照射前、照射20時間後、紫外光照射後2週間室温放置後、1ヶ月放置後の1H−NMR(in CD2Cl2)スペクトルを示す。
【図3】アゾベンゼン誘導体1を含む溶液の紫外光照射開始前、照射3分後、780分後、室温放置2週間後、1ヶ月後の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを示す。
【図4】アゾベンゼン誘導体2を含む溶液の紫外光照射開始前、照射中、室温放置後の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを示す。
【図5】アゾベンゼン誘導体3を含む溶液の紫外光照射開始前、照射中、室温放置後の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを示す。
【図6】アゾベンゼン誘導体4を含む溶液の紫外光照射開始前、照射中、室温放置後の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを示す。
【図7】アゾベンゼン誘導体5を含む溶液の紫外光照射開始前、照射中、室温放置後の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを示す。
【図8】アゾベンゼン誘導体6を含む溶液の紫外光照射開始前、照射中、室温放置後の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを示す。
【図9】アゾベンゼン誘導体7を含む溶液の紫外光照射開始前、照射中、室温放置後の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを示す。
【図10】アゾベンゼン誘導体7の紫外光照射前、照射13時間後、紫外光照射後1日室温暗室放置後に測定した1H−NMR(in CD2Cl2)スペクトルを示す。
【図11】アゾベンゼン誘導体1から形成された蛍光性粒子の蛍光スペクトルを示す。
【図12】アゾベンゼン誘導体4から形成された蛍光性粒子の蛍光スペクトルを示す。
【図13】アゾベンゼン誘導体8から形成された蛍光性粒子の蛍光スペクトルを示す。
【図14】アゾベンゼン誘導体9から形成された蛍光性粒子の蛍光スペクトルを示す。
【図15】アゾベンゼン誘導体10〜16から形成された蛍光性粒子の蛍光スペクトルを示す。
【図16】アゾベンゼン誘導体10、11、12、13、14、15、17の末端置換基のHammett constantと励起光を照射して得られた蛍光のλmaxの関係を示す。
【図17】アゾベンゼン誘導体17、18、20、21から形成された蛍光性粒子の蛍光スペクトルを示す。
【図18】アゾベンゼン誘導体17〜21の蛍光スペクトルを重ね合わせた図である。
【図19】アゾベンゼン誘導体15、16から形成された蛍光性粒子の蛍光スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるアゾベンゼン誘導体。
【化1】

[一般式(I)中、
1は、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基、シアノ基、エステル基、ケトン基、−CA3、−(C=O)A、−(C=O)NA2、−BA、−OA、−SA、−NA2、−(P=O)A2(Aは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基もしくはアルキル基であり、1つの基に複数のAが含まれる場合のAはそれぞれ同じでも異なってもよい。)、または有機蛍光性基を表し、
Ar1およびAr2は、それぞれ独立に、置換基Rを有し得るアリーレン基または芳香族複素環を表し、
Rは、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基、シアノ基、エステル基、ケトン基、−CA”3、−(C=O)A”、−(C=O)NA”2、−BA”、−OA”、−SA”、−NA”2、−(P=O)A”2(A”は水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基もしくはアルキル基であり、1つの基に複数のA”が含まれる場合のA”はそれぞれ同じでも異なってもよい。)、または有機蛍光性基であり、アゾ基を介して結合するAr1およびAr2は、少なくとも2つのRを有し、複数存在するRはそれぞれ同じでも異なってもよく、
Xは、ヘテロ原子を含んでもよいアルキレン基を表し、
1は、−NH−、−O−、−S−、またはヘテロ原子もしくは連結基を含んでもよいアルキレン基を表し、
Yは、水素原子、−BA’、−CA’3、−OA’、−NA’2、−PA’2または−SA’(A’は水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基またはアルキル基であり、1つの基に複数のA’が含まれる場合のA’はそれぞれ同じでも異なってもよい。)を表し、
aは、0〜2の範囲の整数を表し、
mおよびnは、それぞれ独立に1〜8の範囲の整数を表し、m、nが2以上の整数の場合に複数存在するAr1、Ar2はそれぞれ同じでも異なってもよい。]
【請求項2】
下記一般式(II)で表される請求項1に記載のアゾベンゼン誘導体。
【化2】

[一般式(II)中、R2〜R9は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、複素環基、シアノ基、エステル基、ケトン基、−CA”3、−(C=O)A”、−(C=O)NA”2、−BA”、−OA”、−SA”、−NA”2、−(P=O)A”2(A”は水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基もしくはアルキル基であり、1つの基に複数のA”が含まれる場合のA”はそれぞれ同じでも異なってもよい。)、または有機蛍光性基であり、アゾ基を介して結合する2つのフェニレン環におけるR2〜R9の少なくとも2つは水素原子以外の置換基であり、R1、X、m、nは、それぞれ一般式(I)における定義と同義であり、m、nが2以上の整数の場合の複数存在するR2〜R9はそれぞれ同じでも異なってもよい。]
【請求項3】
一般式(II)中、アゾ基を介して結合する2つのフェニレン環において、少なくともR4およびR5またはR6およびR7は水素原子以外の置換基である請求項2に記載のアゾベンゼン誘導体。
【請求項4】
一般式(II)中、アゾ基を介して結合する2つのフェニレン環におけるR4およびR5は、それぞれ独立に、炭素数1〜28のアルキル基またはアルコキシ基である請求項3に記載のアゾベンゼン誘導体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアゾベンゼン誘導体の集合体からなる蛍光性粒子。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアゾベンゼン誘導体と有機溶媒を含む溶液に紫外光を照射することにより、前記アゾベンゼン誘導体の集合体を形成することを特徴とする請求項5に記載の蛍光性粒子の製造方法。
【請求項7】
予め定められた波長を有する励起光を照射することによって所望の蛍光を発光する蛍光性粒子を製造する方法であって、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアゾベンゼン誘導体であって前記蛍光性粒子を得るために使用するアゾベンゼン誘導体の候補となる候補誘導体を決定し、
候補誘導体と有機溶媒を含む溶液に紫外光を照射することにより、候補誘導体の集合体を形成し、
形成された集合体に前記波長の励起光を照射し、
上記励起光照射により発光された蛍光が、
(1)所望の蛍光である場合、候補誘導体を、前記蛍光性粒子を製造するために使用するアゾベンゼン誘導体として決定し、
(2)所望の蛍光より短波長光である場合、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアゾベンゼン誘導体であって、候補誘導体のいずれか1つ以上の置換基に代えて該置換基より電子供与能の高い置換基を有するか、候補誘導体に1つ以上の電子供与性基を導入した構造を有するか、および/または、候補誘導体の環状構造に含まれる原子を該原子より電子供与能の高い原子に代えた構造を有するアゾベンゼン誘導体を、前記蛍光性粒子を製造するために使用するアゾベンゼン誘導体として決定し、
(3)所望の蛍光より長波長光である場合、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアゾベンゼン誘導体であって、候補誘導体のいずれか1つ以上の置換基に代えて該置換基より電子吸引能の高い置換基を有するか、候補誘導体に1つ以上の電子吸引性基を導入した構造を有するか、および/または、候補誘導体の環状構造に含まれる原子を該原子より電子吸引能の高い原子に代えた構造を有するアゾベンゼン誘導体を、前記蛍光性粒子を製造するために使用するアゾベンゼン誘導体として決定し、
決定されたアゾベンゼン誘導体と有機溶媒を含む溶液に紫外光を照射することにより、前記アゾベンゼン誘導体の集合体を形成することを特徴とする、前記製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2007−326846(P2007−326846A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64211(P2007−64211)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】