説明

アゾ化合物、インク組成物、記録方法及び着色体

【課題】水を主要成分とする媒体に対する溶解性が高く、高濃度水溶液及びインクを長期間保存した場合でも安定であり、印字された画像の濃度が非常に高く、高濃度溶液を印字した場合でもその画像にブロンジングを起こさず、印字された画像の堅牢性、特に耐光性と耐オゾンガス性が共に優れた黒色のプリント画像を与える黒色インク用色素化合物とそのインク組成物の提供。
【解決手段】遊離酸の形で下記式(1)で表されるアゾ化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアゾ化合物又はその塩、これらを含有するインク組成物およびそれによる着色体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のカラープリント方法の中でも代表的方法の一つであるインクジェットプリンタによるプリント方法は、インクの小滴を発生させこれを種々の被記録材料(紙、フィルム、布帛等)に付着させ記録を行うものである。この方法は、記録ヘッドと被記録材料とが直接接触しないため音の発生が少なく静かであり、また小型化、高速化が容易という特長の為近年急速に普及しつつあり、今後とも大きな伸長が期待されている。従来、万年筆、フェルトペン等及びインクジェットプリント用インクとしては、水溶性色素を水性媒体中に溶解した水性インクが使用されている。これらの水性インクにおいてはペン先やインク吐出ノズルでのインクの目詰まりを防止すべく一般に水溶性有機溶剤が添加されている。そしてこれらのインクにおいては、十分な濃度の記録画像を与えること、ペン先やノズルの目詰まりを生じないこと、被記録材上での乾燥性がよいこと、滲みが少ないこと、保存安定性に優れること等が要求される。また使用される水溶性色素には特に水への溶解度が高いこと、インクに添加される水溶性有機溶剤への溶解度が高いことが要求される。更に、形成される画像には耐水性、耐光性、耐ガス性、耐湿性等の画像堅牢性が求められている。
【0003】
これらのうちで、耐ガス性とは、空気中に存在する酸化作用を持つオゾンガスなどが記録紙上で色素に作用し、印刷(プリント)された画像を変退色させるという現象に対する耐性のことである。オゾンガスの他にも、この種の作用を持つ酸化性ガスとしては、NOx、SOx等が挙げられる。しかし、これらの酸化性ガスの中でもオゾンガスがインクジェットプリント画像の変退色現象を促進させる主原因物質とされており、特に耐オゾンガス性が重要視されている。写真画質インクジェット専用紙の表面に設けられるインク受容層には、インクの乾燥を早めまた高画質でのにじみを少なくする為に、多孔性白色無機物等の素材を用いているものが多い。このような記録紙上でオゾンガス等による変退色が顕著に見られる。この酸化性ガスによる変退色現象はインクジェット画像に特徴的なものであるため、耐ガス性の向上はインクジェットプリント方法における最も重要な課題の1つである。
【0004】
今後、インクを用いた印刷方法の使用分野を拡大すべく、インクジェットプリントに用いられるインク組成物及びそれによって着色された着色体には、耐光性、耐ガス性、耐湿性、耐水性等の更なる向上が強く求められている。
【0005】
種々の色相のインクが種々の色素から調製されているが、それらのうち黒色インクはモノカラーおよびフルカラー画像の両方に使用される重要なインクである。これら黒色インク用の色素として今日まで多くのものが提案されているが、市場の要求を充分に満足するものを提供するには至っていない。提案されている色素の多くはアゾ色素であり、そのうちC.I.Food Black2等のジスアゾ色素については、耐水性や耐湿性が不良である、耐光性および耐ガス性が十分でない、メタメリズムが不良である等の問題がある。共役系を延ばしたポリアゾ色素については、一般に水溶性が低く、プリント画像が部分的に金属光沢を有するブロンジング現象が発生しやすい、および耐光性および耐ガス性が十分でない等の問題がある。また、同様に数多く提案されているアゾ含金色素の場合、耐光性が良好なものもあるが、金属イオンを含むため生物への安全性や環境問題に対し好ましくない、および耐ガス性が極めて弱い等の問題がある。
【0006】
近年最も重要な課題となっている耐ガス性について改良されたインクジェットインク用の黒色化合物(黒色色素)としては、例えば特許文献1および2に記載の化合物が挙げられる。これらの化合物は耐ガス性が市場要求を十分に満たすものではなく、耐光性に関しても十分ではない。また、本発明の黒色色素の特徴の一つであるベンズイミダゾロピリドン骨格を有するアゾ化合物としては、特許文献3〜7等に記載がある。特許文献4及び5にはトリスアゾ化合物も開示されているが、これらのトリスアゾ化合物は、アゾ構造を含む連結基の両端に対して2つのベンズイミダゾロピリドン骨格をさらにアゾ構造で結合させた対称構造のものであり、本発明の非対称型アゾ化合物に類似するものは開示されておらず、テトラキスアゾ化合物の開示もされていない。特許文献7にはトリスアゾ化合物かつ水溶性のインクジェットインク用黒色化合物として使用する記載がある。これら化合物は高堅牢性であるが色相が黒色インクに使用するには彩度が高くなりやすい傾向があった。優れた耐オゾンガス性を有するインクジェットインク用黒色トリスアゾ化合物の例としては特許文献8に記載の化合物も挙げられるが、市場要求を十分に満たすものではない。
【0007】
【特許文献1】特開2003−183545号
【特許文献2】特開2003−201412号
【特許文献3】WO2004/050768号国際公開パンフレット
【特許文献4】ドイツ国特許2004488号
【特許文献5】ドイツ国特許2023295号
【特許文献6】特開平05−134435号
【特許文献7】WO2007/077931号国際公開パンフレット
【特許文献8】WO2005/054374号国際公開パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、特にインクジェットプリントに好適な黒色インクに用いられるアゾ化合物またはその塩と、その化合物を含有するインク組成物を提供する事を目的とする。以下、「本発明のアゾ化合物またはその塩」を含めて、「本発明のアゾ化合物」と簡略して記載する。本発明のアゾ化合物は黒色色素であり、水を主要成分とする媒体に対する溶解性が高く、高濃度水溶液及びインクを長期間保存した場合でも安定であり、プリントされた画像の濃度が非常に高く、写真画質インクジェット専用紙に高濃度溶液をプリントした場合でもその画像にブロンジングを起こさず、加えて彩度が低いため、黒色としてより好ましい色相を有する。さらに、プリントされた画像の耐光性、耐ガス性、耐湿性、耐水性等の各種堅牢性、特に耐光性と耐オゾンガス性が共に優れた黒色のプリント画像を与える。また、合成が容易でありかつ安価であるなどの特徴を有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記したような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のアゾ化合物が前記課題を解決するものであることを見出し、本発明を完成させたものである。即ち本発明は、
1)
下記式(1)で表されるアゾ化合物またはその塩、
【0010】
【化1】

【0011】
[式(1)中、
1は、非置換、またはカルボキシ置換C1−C4アルキル基;非置換、またはスルホ置換フェニル基;またはカルボキシ基;を表し、
2はシアノ基;カルバモイル基;またはカルボキシ基を表し、
3およびR4はそれぞれ独立して水素原子;メチル基;塩素原子;またはスルホ基;を表し、
5からR7はそれぞれ独立して水素原子;カルボキシ基;スルホ基;ヒドロキシ基;C1−C4アルキル基;非置換、またはヒドロキシ基、非置換C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルコキシ基;アセチルアミノ基;を表し、
8は非置換、またはヒドロキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキルチオ基を表し、
9およびR10はそれぞれ独立して水素原子;カルボキシ基;スルホ基;非置換、またはカルボキシ基で置換されたC1−C8アルキルカルボニルアミノ基;C1−C4アルキル基;非置換、またはヒドロキシ基、非置換C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルコキシ基;を表し、
11からR13はそれぞれ独立して水素原子;カルボキシ基;スルホ基;ヒドロキシ基;非置換、またはカルボキシ基で置換されたC1−C8アルキルカルボニルアミノ基;非置換、又はベンゼン環がスルホ基、カルボキシ基、塩素原子またはC1−C4アルキル基で置換されたベンゾイルアミノ基;ウレイド基;メタンスルホニルアミノ基;非置換、又はベンゼン環がメチル基、ニトロ基または塩素原子で置換されたベンゼンスルホニルアミノ基;C1−C4アルキル基;非置換、またはヒドロキシ基、非置換C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルコキシ基;を表し、
基Aは置換フェニル基または置換ナフチル基であり、カルボキシ基;スルホ基;ヒドロキシ基;非置換、又はベンゼン環がメチル基、ニトロ基または塩素原子で置換されたベンゼンスルホニルオキシ基;塩素原子;シアノ基;ニトロ基;スルファモイル基;C1−C4アルキル基;非置換、又はヒドロキシ基、C1−C4アルコキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルコキシ基;非置換、又はヒドロキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキルスルホニル基;非置換、またはヒドロキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C8アルキルアミノスルホニル基;非置換、又はカルボキシ置換C1−C8アルキルカルボニルアミノ基;非置換、又はベンゼン環がスルホ基、C1−C4アルキル基で置換されたベンゾイルアミノ基;および、非置換、又はベンゼン環がメチル基、ニトロ基または塩素原子で置換されたベンゼンスルホニルアミノ基;トリフルオロメチル基;アセチル基;ベンゾイル基;よりなる群から選択される置換基を有し、
5からR7が置換している環、R8からR10が置換している環、およびR11からR13が置換している環の3種類の環はいずれも、破線で表される環が存在しない場合にはベンゼン環;または破線で表される環が存在する場合にはナフタレン環;を表すが、該3種類の環の全てがベンゼン環であり、かつ基Aが置換フェニル基であるものは含まない。]、
2)
下記式(2)で表される上記1)に記載のアゾ化合物またはその塩、
【0012】
【化2】

【0013】
[式(2)中、
1からR13、及び基Aは式(1)と同じ意味を表し、基Aが置換フェニル基である場合にはR5からR7が置換している環がナフタレン環であり、基Aが置換ナフチル基である場合にはR5からR7が置換している環は、ベンゼン環またはナフタレン環のいずれでもよい、
をそれぞれ表す。]、
3)
下記式(3)で表される上記1)又は2)に記載のアゾ化合物またはその塩、
【0014】
【化3】

【0015】
[式(3)中、
1からR13は式(1)と同じ意味を表し、
14からR17はそれぞれ独立して水素原子;カルボキシ基;スルホ基;ヒドロキシ基;非置換、又はベンゼン環がメチル基、ニトロ基または塩素原子で置換されたベンゼンスルホニルオキシ基;非置換、またはヒドロキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C8アルキルアミノスルホニル基;塩素原子;シアノ基;ニトロ基;スルファモイル基;C1−C4アルキル基;非置換、又はヒドロキシ基、C1−C4アルコキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルコキシ基;非置換、又はヒドロキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキルスルホニル基;非置換、又はカルボキシ置換C1−C4アルキルカルボニルアミノ基;非置換、又はベンゼン環がスルホ基、C1−C4アルキル基で置換されたベンゾイルアミノ基;および、非置換、又はベンゼン環がメチル基、ニトロ基または塩素原子で置換されたベンゼンスルホニルアミノ基;トリフルオロメチル基;アセチル基;ベンゾイル基;を表す。]、
4)
5がスルホプロポキシ基、R8がスルホプロピルチオ基、R11がスルホ基である上記1)乃至3)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩、
5)
1がメチル基、R2がシアノ基またはカルバモイル基、R3が水素原子、R4がスルホ基である上記1)乃至4)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩、
6)
6、R9およびR12が水素原子、R7がC1−C4アルキル基、R10およびR13がC1−C4アルキル基;C1−C4アルコキシ基;非置換、又はカルボキシ置換C1−C4アルキルカルボニルアミノ基;である上記1)乃至5)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩、
7)
14からR17の少なくとも2つがスルホ基である上記1)乃至6)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩、
8)
1がメチル基、R2がシアノ基またはカルバモイル基、R3が水素原子、R4がスルホ基、R5がスルホプロポキシ基、R6、R9およびR12が水素原子、R7がC1−C4アルキル基、R8がスルホプロピルチオ基、R10がC1−C4アルキル基;C1−C4アルコキシ基;非置換、又はカルボキシ置換C1−C4アルキルカルボニルアミノ基、R11がスルホ基、R13が水素原子;非置換、又はカルボキシ置換C1−C4アルキルカルボニルアミノ基;であり、R14からR17の少なくとも2つがスルホ基である上記1)乃至7)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩、
9)
1がメチル基、R2がシアノ基またはカルバモイル基、R3が水素原子、R4がスルホ基、R5がスルホプロポキシ基、R6、R9およびR12が水素原子、R7がメチル基、R8がスルホプロピルチオ基、R10がメチル基;メトキシ基;アセチルアミノ基、R11がスルホ基、R13が水素原子またはアセチルアミノ基であり、R14からR17の少なくとも3つがスルホ基である上記1)乃至8)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩、
10)
1がメチル基、R2がシアノ基またはカルバモイル基、R3が水素原子、R4がスルホ基、R5がスルホプロポキシ基、R6、R9およびR12が水素原子、R7がC1−C4アルキル基、R8がスルホプロピルチオ基、R10がC1−C4アルキル基;C1−C4アルコキシ基;非置換C1−C4アルキルカルボニルアミノ基、R11がスルホ基、R13が非置換、又はカルボキシ置換C1−C4アルキルカルボニルアミノ基であり、R14からR17の少なくとも2つがスルホ基である上記1)乃至9)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩、
11)
1がメチル基、R2がシアノ基、R3が水素原子、R4がスルホ基、R5がスルホプロポキシ基、R6、R9およびR12が水素原子、R7がメチル基、R8がスルホプロピルチオ基、R10がメチル基;メトキシ基;アセチルアミノ基、R11がスルホ基、R13がアセチルアミノ基であり、R14からR17の少なくとも3つがスルホ基である上記1)乃至10)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩、
12)
上記1)乃至11)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩を、色素として少なくとも1種含有することを特徴とするインク組成物、
13)
上記12)に記載のインク組成物をインクとして用い、該インク組成物のインク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材にプリントを行うインクジェットプリント方法、
14)
被記録材が情報伝達用シートである上記13)に記載のインクジェットプリント方法、
15)
情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有するインク受容層を有するシ−トである上記14)に記載のインクジェットプリント方法、
16)
上記15)に記載のインク組成物を含む容器を装填したインクジェットプリンタ、
17)
上記1)から11)のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩によって着色された着色体、
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアゾ化合物は水溶解性に優れるので、インク組成物製造過程でのメンブランフィルターによるろ過性が良好であり、これを含有するインク組成物の保存時の安定性や吐出安定性にも優れている。又、このアゾ化合物を含有する本発明のインク組成物は長期間保存後の固体析出、物性変化、色変化等もなく、貯蔵安定性が良好である。又、本発明のインク組成物は、本発明のアゾ化合物を少なくとも1種含有することを特徴とする。該インク組成物は、インクジェットプリント用、筆記用具用として好適に用いられ、普通紙及びインクジェット専用紙にプリントした場合、プリント画像の印字濃度が非常に高く、高濃度溶液を印字した場合でもその画像にブロンジングを起こさず、さらに耐光性、耐ガス性、耐湿性、耐水性等の各種堅牢性、特に耐光性と耐オゾンガス性が共に優れている。また、マゼンタ、シアン及びイエロー色素をそれぞれ含有するインク組成物と併用することにより、各種堅牢性に優れ、保存性の優れたフルカラーのインクジェットプリントが可能である。このように本発明のインク組成物はインクジェットプリント用ブラックインクとして極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
式(1)で表されるアゾ化合物は互変異性体を有し、この互変異性体としては、式(1)で表される化合物以外に下記式(4)および(5)などが考えられる。これらの化合物も本発明に含まれる。なお、式(4)および(5)中、R1〜R13および基Aは、上記式(1)におけるのと同じ意味を有する。
【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
式(1)におけるR1が非置換、またはカルボキシ置換C1−C4アルキル基としては、直鎖または分岐鎖のいずれでもよく、直鎖が好ましい。その具体例としては例えば、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル等の非置換直鎖のもの;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等の非置換分岐鎖のもの;カルボキシメチル、2−カルボキシエチル等のカルボキシ置換のもの;等が挙げられる。
【0021】
上記式(1)におけるR1が非置換、またはスルホ置換フェニル基としては、例えば、フェニル、3−スルホフェニル、4−スルホフェニル、2,4−ジスルホフェニル、3,5−ジスルホフェニル等が挙げられる。
【0022】
式(1)から(3)におけるR1以外の置換基がC1−C4アルキル基としては直鎖または分岐鎖のいずれでもよい。その具体例としては例えば、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル等の直鎖のもの;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等の分岐鎖のもの;等が挙げられる。なお、本明細書においては、特に断りのない限り、「C1−C4アルキル基」は非置換のものを意味する。
【0023】
式(1)から(3)における置換基が、非置換、またはヒドロキシ基、非置換C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルコキシ基の場合、該アルコキシ部分は直鎖または分岐鎖のいずれも好ましい。その具体例としては例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシ等の非置換直鎖のもの;イソプロポキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ等の非置換分岐鎖のもの;2−ヒドロキシエトキシ、2−ヒドロキシプロポキシ、3−ヒドロキシプロポキシ等のヒドロキシ置換のもの;メトキシエトキシ、エトキシエトキシ、n−プロポキシエトキシ、イソプロポキシエトキシ、n−ブトキシエトキシ、メトキシプロポキシ、エトキシプロポキシ、n−プロポキシプロポキシ、イソプロポキシブトキシ、n−プロポキシブトキシ等のアルコキシ置換のもの;2−ヒドロキシエトキシエトキシ等のヒドロキシC1−C4アルコキシ置換のもの;カルボキシメトキシ、2−カルボキシエトキシ、3−カルボキシプロポキシ等のカルボキシ置換のもの;3−スルホプロポキシ、4−スルホブトキシ等のスルホ置換のもの;等が挙げられる。
【0024】
式(1)から(3)における置換基が、非置換、またはヒドロキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキルチオ基である場合、該アルキル部分は直鎖または分岐鎖のいずれでもよいが、直鎖がより好ましい。その具体例としては例えば、メチルチオ、エチルチオ、n−プロピルチオ、n−ブチルチオ等の非置換直鎖のもの;イソプロピルチオ、イソブチルチオ、sec−ブチルチオ、t−ブチルチオ等の非置換分岐鎖のもの;2−ヒドロキシエチルチオ、2−ヒドロキシプロピルチオ、3−ヒドロキシプロピルチオ等のヒドロキシ置換のもの;2−スルホエチルチオ、3−スルホプロピルチオ等のスルホ置換のもの;2−カルボキシエチルチオ、3−カルボキシプロピルチオ、4−カルボキシブチルチオ等のカルボキシ置換のもの;等が挙げられる。
【0025】
式(1)から(3)における置換基が、非置換、またはカルボキシ基で置換されたC1−C8アルキルカルボニルアミノ基の場合、該アルキル部分は直鎖または分岐鎖のいずれでもよいが、直鎖がより好ましい。その具体例としては例えば、アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ブチリルアミノ、バレリルアミノ、ヘキサノイルアミノ、ヘプタノイルアミノ、オクタノイルアミノ、ノナノイルアミノ等の非置換直鎖のもの;イソブチリルアミノ、ピバロイルアミノ、イソバレリルアミノ、2−エチルヘキサノイルアミノ等の非置換分岐鎖のもの;3−カルボキシプロピオニルアミノ、4−カルボキシブチリルアミノ等のカルボキシ置換のもの;等が挙げられる。
【0026】
式(1)から(3)における置換基が、ベンゼン環が非置換、またはスルホ基、カルボキシ基、塩素原子またはC1−C4アルキル基で置換されたベンゾイルアミノ基である場合、その具体例としては例えば、ベンゾイルアミノ;2−スルホベンゾイルアミノ等のスルホ置換のもの;2−カルボキシベンゾイルアミノ、2,5−ジカルボキシベンゾイルアミノ等のカルボキシ置換のもの;2−クロロベンゾイルアミノ、3−クロロベンゾイルアミノ、4−クロロベンゾイルアミノ等の塩素原子置換のもの3−メチルベンゾイルアミノ、4−メチルベンゾイルアミノ、4−エチルベンゾイルアミノ、4−プロピルベンゾイルアミノ等のアルキル置換のもの;等が挙げられる。
【0027】
式(1)から(3)における置換基が、非置換、またはヒドロキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキルスルホニル基の場合、該アルキル部分は、直鎖または分岐鎖のいずれでもよいが、直鎖が好ましい。その具体例としては例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、ブチルスルホニル等の非置換のもの;ヒドロキシエチルスルホニル、2−ヒドロキシプロピルスルホニル等のヒドロキシ置換のもの;2−スルホエチルスルホニル、3−スルホプロピルスルホニル等のスルホ置換のもの;2−カルボキシエチルスルホニル、3−カルボキシプロピルスルホニル等のカルボキシ置換のもの;等が挙げられる。
【0028】
式(1)から(3)における置換基が、非置換、またはヒドロキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C8アルキルアミノスルホニル基の場合、該アルキル部分は、直鎖または分岐鎖のいずれでもよく、いずれも好ましい。その具体例としては例えば、メチルアミノスルホニル、エチルアミノスルホニル、プロピルアミノスルホニル、ブチルアミノスルホニル、ペンチルアミノスルホニル、ヘキシルアミノスルホニル、オクチルアミノスルホニル等の非置換のもの;ヒドロキシエチルアミノスルホニル、2−ヒドロキシプロピルアミノスルホニル等のヒドロキシ置換のもの;2−スルホエチルアミノスルホニル、3−スルホプロピルアミノスルホニル等のスルホ置換のもの;2−カルボキシエチルアミノスルホニル、3−カルボキシプロピルアミノスルホニル等のカルボキシ置換のもの;等が挙げられる。
【0029】
式(1)から(3)における置換基が、非置換、又はベンゼン環がメチル基、ニトロ基または塩素原子で置換されたベンゼンスルホニルアミノ基の場合、その具体例としては例えば、ベンゼンスルホニルアミノ;4−トルエンスルホニルアミノ等のアルキル置換のもの;4−ニトロベンゼンスルホニルアミノ等のニトロ置換のもの;4−クロロベンゼンスルホニルアミノ等の塩素原子が置換したもの;等が挙げられる。
【0030】
式(1)から(3)における置換基が、非置換、又はベンゼン環がメチル基、ニトロ基または塩素原子で置換されたベンゼンスルホニルオキシ基の場合、その具体例としては例えば、ベンゼンスルホニルオキシ;4−トルエンスルホニルオキシ等のメチル置換のもの;4−ニトロベンゼンスルホニルオキシ等のニトロ置換のもの;4−クロロベンゼンスルホニルオキシ等の塩素原子が置換したもの;等が挙げられる。
【0031】
式(1)における好ましいR1は、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル等の直鎖C1−C4アルキル基;t−ブチル等の分岐鎖C1−C4アルキル基;カルボキシメチル等のカルボキシ置換C1−C4アルキル基;フェニル、4−スルホフェニル等の非置換またはスルホ置換フェニル基;またはカルボキシ基であり、より好ましくは、メチル、n−プロピル、カルボキシメチル、4−スルホフェニルであり、さらに好ましくは、メチル、n−プロピルである。
【0032】
式(1)における好ましいR1とR2の組み合わせは、R1がメチルでR2がシアノ、またはR1がメチルでR2がカルバモイルである。前者がより好ましい。
【0033】
式(1)におけるより好ましいR3およびR4は、水素原子、メチル、またはスルホであり、好ましいR3とR4の組み合わせはR3が水素原子でR4がスルホ、またはR3がスルホでR4が水素原子である。
【0034】
式(1)におけるより好ましいR5からR7は、水素原子、カルボキシ、スルホ、メチル、メトキシ、エチル、エトキシ、2−ヒドロキシエトキシ、2−スルホエトキシ、3−スルホプロポキシ、4−スルホブトキシ、カルボキシメトキシ、2−カルボキシエトキシ、アセチルアミノ等であり、より好ましくは、水素原子、スルホ、メチル、メトキシ、2−ヒドロキシエトキシ、2−スルホエトキシ、3−スルホプロポキシ、4−スルホブトキシであり、さらに好ましくは、水素原子、スルホ、メチル、メトキシ、3−スルホプロポキシである。好ましいR5からR7の組み合わせは、R5からR7が置換している環がベンゼン環の場合、R5が3−スルホプロポキシ、R6が水素原子で、R7がメチルまたはメトキシであり、R5からR7が置換している環がナフタレン環の場合、R5が水素原子、R6がスルホで、R7が水素原子である。R5からR7が置換している環は、ナフタレン環よりベンゼン環がより好ましい。
【0035】
式(1)におけるより好ましいR8は、エチルチオ、n−プロピルチオ、n−ブチルチオ、イソプロピルチオ、イソブチルチオ、sec−ブチルチオ、t−ブチルチオ、2−ヒドロキシエチルチオ、2−ヒドロキシプロピルチオ、3−ヒドロキシプロピルチオ、2−スルホエチルチオ、3−スルホプロピルチオ、2−カルボキシエチルチオ、3−カルボキシプロピルチオ、4−カルボキシブチルチオ等である。より好ましくは、n−ブチルチオ、2−ヒドロキシエチルチオ、3−ヒドロキシプロピルチオ、3−スルホプロピルチオ、2−カルボキシエチルチオであり、さらに好ましくは、3−スルホプロピルチオ、2−カルボキシエチルチオである。
【0036】
式(1)における好ましいR9およびR10は、水素原子、スルホ、アセチルアミノ、メチル、エチル、メトキシ、t−ブチル、エトキシ、イソプロポキシ、t−ブトキシ、2−ヒドロキシエトキシ、2−スルホエトキシ、3−スルホプロポキシ、4−スルホブトキシ、カルボキシメトキシ、2−カルボキシエトキシ等であり、より好ましくは、水素原子、スルホ、アセチルアミノ、メチル、メトキシ、3−スルホプロポキシ、4−スルホブトキシ、カルボキシメトキシであり、さらに好ましくは、水素原子、スルホ、アセチルアミノ、メチル、メトキシ、3−スルホプロポキシである。
【0037】
好ましいR8からR10の組み合わせは、R8からR10が置換している環がベンゼン環の場合、R8が3−スルホプロピルチオ、R9が水素原子で、R10がメチル、メトキシまたはアセチルアミノである。R8からR10が置換している環がナフタレン環の場合、R8が3−スルホプロピルチオ、R9がスルホで、R10が水素原子である。R8からR10が置換している環は、ナフタレン環よりベンゼン環がより好ましい。
【0038】
式(1)における好ましいR11からR13は、水素原子、メチル、メトキシ、スルホ、アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ピバロイルアミノ、3−カルボキシプロピオニルアミノ、ベンゾイルアミノ、2−カルボキシベンゾイルアミノ、メタンスルホニルアミノ、トルエンスルホニルアミノ、等であり、より好ましくは、水素原子、メチル、メトキシ、スルホ、アセチルアミノ、3−カルボキシプロピオニルアミノ、ベンゾイルアミノ、であり、さらに好ましくは、水素原子、スルホ、アセチルアミノ、メチル、である。R11からR13が置換している環は、ナフタレン環よりベンゼン環がより好ましい。
【0039】
式(1)における好ましいR8およびR11の組み合わせは、R8が3−スルホプロピルチオでR11がスルホである。
【0040】
式(1)における好ましい基Aの置換基としては、カルボキシ、スルホ、スルファモイル、メチルスルホニル、4−トルエンスルホニルオキシ、2−ヒドロキシエチルスルホニル、3−スルホプロピルスルホニル、2−スルホエチルアミノスルホニル、2−カルボキシエチルアミノスルホニル、シアノ、塩素原子、ニトロ、メチル、メトキシ、エチル、エトキシ、2−ヒドロキシエトキシ、2−スルホエトキシ、3−スルホプロポキシ、4−スルホブトキシ、カルボキシメトキシ、2−カルボキシエトキシ、アセチルアミノ、3−カルボキシプロピオニルアミノ、ベンゾイルアミノ、2−スルホベンゾイルアミノ、2−カルボキシベンゾイルアミノ、4−トルエンスルホニルアミノ、トリフルオロメチル、アセチル、ベンゾイル等であり、より好ましくは、カルボキシ、メチル、スルホ、スルファモイル、メチルスルホニル、ヒドロキシエチルスルホニル、3−スルホプロピルスルホニル、2−スルホエチルアミノスルホニル、4−トルエンスルホニルオキシ、ニトロ、塩素原子、アセチルアミノであり、さらに好ましくは、カルボキシ、ニトロ、3−スルホプロピルスルホニル、2−スルホエチルアミノスルホニル、スルホプロピルスルホニル、スルホ、塩素原子である。基Aはこれらの置換基を1〜4個、好ましくは1〜3個有する。基Aがフェニル基の場合、該置換基数はより好ましくは1又は2個であり、同様にナフチル基の場合、より好ましくは3個である。
【0041】
上記式(1)で表される化合物の内、好ましいものが上記式(2)で表される化合物である。式(2)中、R1からR13、及び基Aは、上記の式(1)におけるのと、好ましいものや具体例等を含めて同じでよい。また、基Aが置換フェニル基である場合にはR5からR7が置換している環がナフタレン環であり、基Aが置換ナフチル基である場合にはR5からR7が置換している環は、ベンゼン環またはナフタレン環のいずれでもよい。
【0042】
上記式(2)で表される化合物の内、好ましいものが上記式(3)で表される化合物である。式(3)中、R1からR13は、上記の式(1)におけるのと、好ましいものや具体例等を含めて同じでよい。
【0043】
式(3)における好ましいR14からR17は、水素原子、スルホ、トルエンスルホニルオキシ、ニトロ、スルファモイル、2−スルホエチルアミノスルホニル、メトキシ、エトキシ、3−スルホプロポキシ、2−ヒドロキシエチルスルホニル、3−スルホプロピルスルホニル等であり、より好ましくは、水素原子、スルホ、トルエンスルホニルオキシ、メトキシ、3−スルホプロポキシであり、さらに好ましくは、水素原子、スルホ、トルエンスルホニルオキシであり、特に好ましくはスルホである。
【0044】
式(3)における好ましいR14からR17の組み合わせは、いずれか2つが水素原子で、残りの2つが上記の水素原子以外の基;又は、いずれか1つが水素原子で残りの3つが上記の水素原子以外の基である組合せであり、後者がより好ましい。
14からR17の置換位置については特に限定されないが、アゾ基の置換位置を2位とした場合に水素原子以外の基が、前者は6位及び8位、又は4位及び8位;後者は4位、6位及び8位;に、それぞれ置換するのが好ましい。
【0045】
上記式(1)から(3)の各種の置換基について記載した好ましい基同士を組み合わせた化合物はより好ましく、より好ましい基同士を組合わせたものさらに好ましい。さらに好ましい基同士等を組み合わせたものについても同様である。また、好ましい組合せを記載したものについては、その好ましい組合せ同士を組合わせた化合物についても同様である。
【0046】
前記式(1)で表されるアゾ化合物の塩は、無機又は有機の陽イオンの塩である。そのうち無機塩の具体例としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩が挙げられ、好ましい無機塩は、リチウム、ナトリウム、カリウムの塩およびアンモニウム塩であり、又、有機の陽イオンの塩としては例えば下記式(6)で表される4級アンモニウムイオンがあげられるがこれらに限定されるものではない。また、本発明のアゾ化合物の遊離酸、その互変異性体、およびそれらの各種の塩が混合物であってもよい。例えばナトリウム塩とアンモニウム塩の混合物、遊離酸とナトリウム塩の混合物、リチウム塩、ナトリウム塩およびアンモニウム塩の混合物など、いずれの組み合わせを用いても良い。塩の種類によって溶解性などの物性値が異なる場合も有り、必要に応じて適宜塩の種類を選択したり、複数の塩などを含む場合にはその比率を変化させることにより目的に適う物性を有する混合物を得ることもできる。
【0047】
【化6】

【0048】
式(6)においてZ1、Z2、Z3、Z4は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基およびヒドロキシアルコキシアルキル基よりなる群から選択される基を表す。
式(6)におけるZ1、Z2、Z3、Z4のアルキル基の具体例としてはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどが挙げられ、ヒドロキシアルキル基の具体例としてはヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ−(C1−C4)アルキル基が挙げられ、ヒドロキシアルコキシアルキル基の例としては、ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、2−ヒドロキシエトキシプロピル、4−ヒドロキシエトキシブチル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等ヒドロキシ(C1−C4)アルコキシ−(C1−C4)アルキル基が挙げられ、これらのうちヒドロキシエトキシ−(C1−C4)アルキルが好ましい。特に好ましいものとしては水素原子;メチル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル、2−ヒドロキシプロピル、4−ヒドロキシブチル、3−ヒドロキシブチル、2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ−(C1−C4)アルキル基、ヒドロキシエトキシメチル、2−ヒドロキシエトキシエチル、3−ヒドロキシエトキシプロピル、2−ヒドロキシエトキシプロピル、4−ヒドロキシエトキシブチル、3−ヒドロキシエトキシブチル、2−ヒドロキシエトキシブチル等のヒドロキシエトキシ−(C1−C4)アルキル基が挙げられる。
【0049】
式(6)として好ましい化合物のZ1、Z2、Z3、及びZ4の組み合わせの具体例を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
上記式(1)で表されるアゾ化合物は、例えば次のような方法で合成することができる。なお、各工程における化合物の構造式は遊離酸の形で表すものとし、また下記式(7)乃至(19)において、R1からR17及び基Aは、それぞれ上記と同じ意味を有する。
下記式(7)で表される化合物を常法によりジアゾ化し、これと下記式(8)で表される化合物を常法によりカップリング反応させ下記式(9)で表される化合物を得る。
【0052】
【化7】

【0053】
【化8】

【0054】
【化9】

【0055】
得られた式(9)で表される化合物を常法によりジアゾ化した後、これと下記式(10)で表される化合物を常法によりカップリング反応させ下記式(11)で表される化合物を得る。
【0056】
【化10】

【0057】
【化11】

【0058】
得られた式(11)で表される化合物を常法によりジアゾ化した後、これと下記式(12)で表される化合物を常法によりカップリング反応させ下記式(13)で表される化合物を得る。
【0059】
【化12】

【0060】
【化13】

【0061】
得られた式(13)で表される化合物を常法によりジアゾ化した後、これと下記式(14)で表される化合物を常法によりカップリング反応させる事により式(1)で表される本発明のアゾ化合物を得ることができる。
【0062】
【化14】

【0063】
上記式(14)で表される化合物は、特許文献4に記載の方法に準じて合成することができる。また、上記式(7)で表される化合物は、常法により合成することもできるし、市販品として入手することもできる。
【0064】
式(1)で表される本発明のアゾ化合物の好適な具体例として、特に限定されるものではないが、下記表2乃至4に挙げた構造式で示される化合物などが挙げられる。
各表においてスルホ基及びカルボキシ基などの官能基は、便宜上、遊離酸の形で記載するものとする。
【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
上記式(7)で表される化合物のジアゾ化はそれ自体公知の方法で実施される。たとえば無機酸媒質中、例えば−5〜30℃、好ましくは0〜15℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(7)で表される化合物のジアゾ化物と式(8)で表される化合物とのカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水又は水性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは5〜25℃の温度ならびに酸性から中性のpH値、たとえばpH1〜6で行うことが有利である。ジアゾ化反応液が酸性であるため、またカップリング反応の進行により反応系内は更に酸性化してしまうため、上記のpH値への調整を塩基の添加によって行うのが好ましい。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウム等の酢酸塩、アンモニア又は有機アミン等が使用できる。式(7)で表される化合物と式(8)で表される化合物とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0069】
上記式(9)で表される化合物のジアゾ化はそれ自体公知の方法で実施される。たとえば無機酸媒質中、例えば−5〜30℃、好ましくは5〜25℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(9)で表される化合物のジアゾ化物と式(10)で表される化合物とのカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水又は水性有機媒体中、例えば−5〜30℃、好ましくは5〜25℃の温度ならびに酸性から中性のpH値、たとえばpH1〜7で行うことが有利である。ジアゾ化反応液が酸性であるため、またカップリング反応の進行により反応系内は更に酸性化してしまうため、上記のpH値への調整を塩基の添加によって行うのが好ましい。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウム等の酢酸塩、アンモニア又は有機アミン等が使用できる。式(9)で表される化合物と式(10)で表される化合物とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0070】
上記式(11)で表される化合物のジアゾ化はそれ自体公知の方法で実施される。たとえば無機酸媒質中、例えば0〜40℃、好ましくは10〜30℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(11)で表される化合物のジアゾ化物と式(12)で表される化合物とのカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水又は水性有機媒体中、例えば0〜40℃、好ましくは10〜30℃の温度ならびに酸性から中性のpH値、たとえばpH1〜7で行うことが有利である。ジアゾ化反応液が酸性であるため、またカップリング反応の進行により反応系内は更に酸性化してしまうため、上記のpH値への調整を塩基の添加によって行うのが好ましい。塩基としては、たとえば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、酢酸ナトリウム等の酢酸塩、アンモニア又は有機アミン等が使用できる。式(11)で表される化合物と式(12)で表される化合物とは、ほぼ化学量論量で用いる。
【0071】
式(13)で表される化合物のジアゾ化もそれ自体公知の方法で実施される。たとえば無機酸媒質中例えば0〜40℃、好ましくは10〜30℃の温度で亜硝酸塩、たとえば亜硝酸ナトリウムのごとき亜硝酸アルカリ金属塩を使用して実施される。式(13)で表される化合物のジアゾ化物と式(14)で表される化合物とのカップリングもそれ自体公知の条件で実施される。水又は水性有機媒体中、例えば0〜50℃、好ましくは10〜30℃の温度ならびに弱酸性からアルカリ性のpH値で行うことが有利である。好ましくは弱酸性から弱アルカリ性のpH値、たとえばpH5〜10で実施され、pH値の調整は塩基の添加によって実施される。塩基としては、上記と同じものが使用できる。式(13)と(14)で表される化合物は、ほぼ化学量論量で用いる。
【0072】
本発明の式(1)で表されるアゾ化合物を所望の塩とするには、カップリング反応後、所望の無機塩または有機の陽イオンの塩を反応液に添加することにより塩析するか、或いは塩酸など鉱酸の添加により遊離酸の形で単離し、これを水、酸性の水または水性有機媒体などを必要に応じ用いて洗浄することにより無機塩を除去後、水性の媒体中で所望の無機又は有機の塩基により中和することで対応する塩の溶液とすることが出来る。ここで酸性の水とは、例えば硫酸、塩酸などの鉱酸や酢酸などの有機酸を水に溶解し、酸性にしたものをいう。また水性有機媒体とは、水を含有する水と混和可能な有機物質および水と混和可能ないわゆる有機溶剤などをいい、具体例としては後述する水溶性有機溶剤などが挙げられる。無機塩の例としては塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等アルカリ金属塩、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム等のアンモニウム塩が挙げられ、有機の陽イオンの塩の例としては、前記した式(6)で表される4級アンモニウムイオンのハロゲン塩等が挙げられる。無機の塩基の例としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム(アンモニア水)、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などが挙げられ、有機の塩基の例としては、有機アミン、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの前記した式(6)で表される4級アンモニウム類等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0073】
本発明のインク組成物について説明する。本発明の前記式(1)で表されるアゾ化合物を含む水性組成物は、セルロースからなる材料を染色することが可能である。また、その他カルボンアミド結合を有する材料にも染色が可能で、皮革、織物、紙の染色に幅広く用いることができる。一方、本発明の化合物の代表的な使用法としては、液体の媒体に溶解してなるインク組成物が挙げられる。
【0074】
前記式(1)で表される本発明のアゾ化合物を含む反応液、例えば後述する実施例1(6)における反応液などは、インク組成物の製造に直接使用する事が出来る。しかし、まずこれを乾燥、例えばスプレー乾燥させて単離するか、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム等の無機塩類を添加することによって塩析するか、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸を添加刷ることによって酸析するか、あるいは前記した塩析と酸析を組み合わせた酸塩析することによって本発明のアゾ化合物を取り出し、次にこれを用いてインク組成物を調製することもできる。
【0075】
本発明のインク組成物は、本発明の式(1)で表されるアゾ化合物を色素として、通常0.1〜20質量%、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜8質量%含有し、残部は水を主要な媒体とする組成物である。本発明のインク組成物には、インクの粘度の調整;インクの乾燥性の調整;印刷後の被記録材(インク受容層を設けたものを含む)への浸透性の調整;などの目的で、さらに水溶性有機溶剤を例えば0〜30質量%、インク調製剤を例えば0〜10質量%含有していても良い。なお、インク組成物のpHは、保存安定性を向上させる点で、pH5〜11が好ましく、pH7〜10がより好ましい。また、インク組成物の表面張力としては、25〜70mN/mが好ましく、25〜60mN/mがより好ましい。さらに、インク組成物の粘度としては、30mPa・s以下が好ましく、20mPa・s以下がより好ましい。本発明のインク組成物のpH、表面張力は後記するようなpH調整剤、界面活性剤で適宜調整することが可能である。
【0076】
本発明のインク組成物は、前記の式(1)で表されるアゾ化合物を、必要に応じて他の調色用等の色素と共に、水又は水溶性有機溶剤(水と混和可能な有機溶剤)に溶解し、必要に応じインク調製剤を添加したものである。色味のないニュートラルな黒色インク組成物を調整する目的などにより、本発明のアゾ化合物に、他の調色用色素などを適宜加えてもよい。調色用色素としては、イエロー(例えばC.I.ダイレクトイエロー34、C.I.ダイレクトイエロー58、C.I.ダイレクトイエロー86、C.I.ダイレクトイエロー132、C.I.ダイレクトイエロー161など)、オレンジ(例えばC.I.ダイレクトオレンジ17、C.I.ダイレクトオレンジ26、C.I.ダイレクトオレンジ29、C.I.ダイレクトオレンジ39、C.I.ダイレクトオレンジ49など)、ブラウン、スカーレット(例えばC.I.ダイレクトレッド89など)、レッド(例えばC.I.ダイレクトレッド62、C.I.ダイレクトレッド75、C.I.ダイレクトレッド79、C.I.ダイレクトレッド80、C.I.ダイレクトレッド84、C.I.ダイレクトレッド225、C.I.ダイレクトレッド226など)、マゼンタ(例えばC.I.ダイレクトレッド227など)、バイオレット、ブルー、ネイビー、シアン(例えばC.I.ダイレクトブルー199、C.I.アシッドブルー249など)、グリーン、ブラックなど種々の色相を有する他の色素を用いることができる。この場合であっても、インク組成物中に含有する色素の総量は上記の範囲でよい。このインク組成物をインクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合、本発明のアゾ化合物としては、金属陽イオンの塩化物、硫酸塩等の無機物の含有量が少ないものを用いるのが好ましい。その無機物含有量の目安は、おおよそ色素の総重量に対して1質量%以下程度である。無機物の少ない本発明のアゾ化合物を製造するには、例えば逆浸透膜による通常の方法又は本発明のアゾ化合物の乾燥品あるいはウェットケーキをメタノール等のアルコール及び水の混合溶媒中で撹拌し、析出物を濾過分離して、乾燥するなどの方法で脱塩処理すればよい。
【0077】
前記インク組成物の調製において用いうる水溶性有機溶剤の具体例としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、第二ブタノールまたは第三ブタノール等のC1−C4アルカノール;N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド;2−ピロリドン、ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンまたはN−メチルピロリジン−2−オン等のラクタム;1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オンまたは1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の環式尿素類;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトンまたはケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコールまたはジチオジグリコール等のC2−C6アルキレン単位を有するモノ−、オリゴ−またはポリ−アルキレングリコールまたはチオグリコール;トリメチロールプロパン、グリセリンまたはヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)トリエチレングリコールモノメチルエーテルまたはトリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのC1−C4アルキルエーテル;γ−ブチロラクトンまたはジメチルスルホキシド等があげられる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
なお、上記の水溶性有機溶剤にはトリメチロールプロパン等のように、常温で固体の物質も含まれているが、これらは固体であっても水溶性を示し、水に溶解させた場合には水溶性有機溶剤と同じ目的で使用することができるため、便宜上、本明細書においては水溶性有機溶剤の範疇に記載する。
【0078】
前記インク組成物の調製において適宜用いられるインク調整剤は、例えば防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、色素溶解剤、酸化防止剤および/または界面活性剤などがあげられる。以下にこれらの薬剤について説明する。
【0079】
防黴剤の具体例としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩等が挙げられる。これらはインク組成物中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
【0080】
防腐剤の例としては、例えば有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系または無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物の具体例としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオキシド系化合物の具体例としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウムが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤の具体例として、無水酢酸ソーダ、ソルビン酸ソーダまたは安息香酸ナトリウム等があげられる。
【0081】
pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずに、インクのpHを例えば5〜11の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。その具体例としては、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミンなどのアルカノールアミン;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水酸化アンモニウム(アンモニア水);あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;ケイ酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム等の無機塩基などが挙げられる。
【0082】
キレート試薬の具体例としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウムまたはウラシル二酢酸ナトリウムなどがあげられる。
【0083】
防錆剤の具体例としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグルコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトールまたはジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどがあげられる。
【0084】
水溶性紫外線吸収剤の例としては、例えばスルホン化したベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ−ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物またはトリアジン系化合物が挙げられる。
【0085】
水溶性高分子化合物の具体例としては、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミンまたはポリイミン等があげられる。
【0086】
色素溶解剤の具体例としては、例えばε−カプロラクタム、エチレンカーボネートまたは尿素などが挙げられる。
酸化防止剤の例としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。前記有機系の褪色防止剤の例としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類または複素環類等が挙げられる。
【0087】
界面活性剤の例としては、例えばアニオン系、カチオン系、ノニオン系などの公知の界面活性剤が挙げられる。
アニオン界面活性剤の例としてはアルキルスルホン酸塩、アルキルカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸およびその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩またはジオクチルスルホ琥珀酸塩などが挙げられる。
カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体またはポリ4−ビニルピリジン誘導体などがある。
両性界面活性剤の具体例としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、またはイミダゾリン誘導体などがある。
ノニオン界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどのアセチレングリコール(アルコール)系(例えば、日信化学社製、商品名サーフィノール104、105、82、465、オルフィンSTGなど)、ポリグリコールエーテル系(例えばSIGMA−ALDRICH社製のTergitol 15−S−7など)などが挙げられる。
これらのインク調整剤は、単独もしくは混合して用いられる。
【0088】
本発明のインク組成物は前記各成分を任意の順序で混合、撹拌することによって得られる。得られたインク組成物は、所望により、狭雑物を除く為にメンブランフィルター等で精密濾過を行ってもよく、インクジェットプリントに用いる場合には、該濾過を行うのが好ましい。精密濾過を行うフィルターの孔径は通常1〜0.1ミクロン、好ましくは、0.8〜0.1ミクロンである。
【0089】
本発明のインク組成物は、各種分野において使用することができるが、筆記用水性インク、水性印刷インク、情報記録インク等に好適であり、インクジェット用インクとして用いることが特に好ましく、後述する本発明のインクジェットプリント方法において好適に使用される。
【0090】
次に、本発明のインクジェットプリント方法について説明する。本発明のインクジェットプリント方法は、前記本発明のインク組成物をインクとして用い、該インク組成物のインク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材にプリントを行うものである。。本発明のインクジェットプリント方法は、前記インク組成物を含有するインクジェット用インクを用いて受像材料(被記録材)にプリントを行うが、その際に使用するインクノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
このプリント方法は、公知の方法、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式;ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式);電気信号を音響ビームに変えインクに照射し、その放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式;インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式;等を使用することができる。
なお、前記インクジェットプリント方法には、フォトインクと称する、インク中の色素濃度(色素含有量)の低いインクを、小さい体積で多数射出する方式;実質的に同じ色相でインク中の色素濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式;および無色透明のインクを用いる方式なども含まれる。
【0091】
本発明の着色体は前記式(1)で表される本発明のアゾ化合物又はこれを含有するインク組成物により着色されたものであり、より好ましくはインクジェットプリンタを用いるインクジェットプリント方法により、本発明の上記式(1)で表される化合物を含有するインク組成物によって着色されたものである。
着色されうるものとして特に制限はないが、例えば紙、フィルム等の情報伝達用シート、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、皮革、カラーフィルター用基材等が挙げられ、中でも情報伝達用シートが好ましい。
この情報伝達用シートとしては、表面処理されたもの、具体的には紙、合成紙、フィルム等の基材にインク受容層を設けたものが好ましい。インク受容層は、例えば上記基材にカチオン系ポリマーを含浸あるいは塗工すること;または多孔質シリカ、アルミナゾルや特殊セラミックスなどのインク中の色素を吸収し得る多孔性白色無機物を、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーと共に上記基材表面に塗工すること;などにより設けられる。
このようなインク受容層を設けた情報伝達用シートは、通常インクジェット専用紙(フィルム)、光沢紙(フィルム)等と呼ばれる。その具体例としては、キヤノン株式会社製、商品名 プロフェッショナルフォトペーパー、スーパーフォトペーパーまたはマットフォトペーパー;セイコーエプソン株式会社製、商品名 写真用紙(光沢)、PMマット紙、クリスピア;日本ヒューレット・パッカード株式会社製、商品名 アドバンスフォトペーパー、プレミアムプラスフォト用紙、プレミアム光沢フィルムまたはフォト用紙;等として市販品が入手可能である。なお、普通紙も当然に使用できる。
【0092】
上記の情報伝達用シートのうち、特に多孔性白色無機物を表面に塗工したシートにプリントした画像は、オゾンガスによって変退色が大きくなることが知られている。しかし本発明のインク組成物は耐ガス性が優れているため、このような被記録材へインクジェットプリントした際に、特に大きな効果を発揮する。
【0093】
本発明のインクジェットプリント方法で情報伝達用シート等の被記録材にプリントするには、例えば上記のインク組成物を含有する容器をインクジェットプリンタの所定の位置にセットし、通常の方法で被記録材にプリントすればよい。
本発明のインクジェットプリント方法は、本発明の黒色インク組成物と、例えば上記したような公知のマゼンタ、シアン、イエロー、及び必要に応じて、グリーン、ブルー(又はバイオレット)及びレッド(又はオレンジ)などの各色のインク組成物とを併用することもできる。
各色のインク組成物は、それぞれの容器に注入され、その各容器を本発明の黒色インク組成物を含有する容器と同様にインクジェットプリンタの所定の位置にセットしてインクジェットプリントに使用される。
【0094】
本発明のアゾ化合物は水溶解性に優れ、またこの色素を含有する本発明のインク組成物は長期間保存しても固体の析出、物性の変化、および色相の変化等も生じないため、貯蔵安定性が良好である。
又、本発明の色素を含有するインク組成物は、インクジェットプリント用、筆記具用として用いることが可能である。
さらに情報記録用シート、特にインクジェット専用紙にプリントした場合、そのプリント画像の印字濃度が高く、加えてプリント画像の各種耐久性、特に耐オゾンガス性及び耐光性が優れている。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
本文中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準である。
又、下記の各式において、スルホおよびカルボキシなどの官能基は遊離酸の形で表記する。
また以下に記載するpH値および反応温度は、いずれも反応系内における測定値を示す。
また合成した化合物の最大吸収波長(λmax)はpH7〜8の水溶液中で測定し、測定した化合物については実施例中に測定値を記載した。
なお合成した本発明のアゾ化合物は、いずれも100g/L以上の溶解度を示した。
【0096】
実施例1
(1)
撹拌下、水50部に7−アミノナフタレン−1,3,5−トリスルホン酸11.5部と水酸化ナトリウムを添加し、pH6.0〜7.0の水溶液を得た。35%塩酸7.2部添加後、氷浴で0〜5℃に冷却し、次いで同温度で40%亜硝酸ナトリウム水溶液5.3部を添加し同温度で20分間撹拌することによりジアゾ反応液を得た。
一方、水40部に5−アセチルアミノアニリン−2−スルホン酸6.8部、次いで水酸化ナトリウムを加えて撹拌下、pH4.5〜5.5とすることにより水溶液を得た。
上記のジアゾ反応液にスルファミン酸0.2部を添加して約5分間撹拌し、次いで先に得られた5−アセチルアミノアニリン−2−スルホン酸を含有する水溶液を、反応温度10〜20℃、約10分間で滴下した。
滴下終了後、炭酸ナトリウムを添加して反応溶液をpH1.0〜2.0にて、3時間攪拌した。撹拌後、析出した固体を濾取することにより、下記式(15)で表されるモノアゾ化合物を含むウェットケーキを得た。
【0097】
【化15】

【0098】
(2)
4−クロロ−3−ニトロトルエン8.6部、3−メルカプトプロパンスルホン酸ナトリウム11.0部及びジメチルスルホキシド30部の混合物を撹拌しながら60℃に加熱し、ここに炭酸ナトリウム5.6部を添加した。添加後120〜130℃に加熱し、同温度で6時間撹拌した。室温まで冷却し、反応液を2−プロパノール170部中に撹拌しながら添加した。析出した固体を濾取し、2−プロパノール50部で洗浄した。得られた固体を水140部に添加後、35%塩酸にてpH値を7.0〜7.5とし、塩化ナトリウムの添加により塩析し、析出物を濾取して下記式(16)で表される化合物を含むウェットケーキを得た。
【0099】
【化16】

【0100】
(3)
鉄粉8.3部、水60部および35%塩酸1.6部を撹拌しながら90℃に加熱した。40分撹拌後、この溶液に上記式(16)で表される化合物を含むウェットケーキを水30部に懸濁させた溶液を約15分かけて滴下した。滴下後、85〜90℃で2時間撹拌し、室温まで冷却した。不溶物をろ別した後、35%塩酸を添加して酸析し、析出物を濾取し、乾燥して、下記式(17)で表される化合物8.4部を得た。
【0101】
【化17】

【0102】
(4)
撹拌下、水80部に実施例1(1)で得られた式(15)のモノアゾ化合物を含むウェットケーキの1/2量を加え、水酸化ナトリウムの添加によりpH値を5.0〜6.0として溶液とした。この溶液に35%塩酸5.9部の添加後、10〜25℃で40%亜硝酸ナトリウム水溶液2.7部を添加し、同温度で1時間撹拌してジアゾ反応液を得た。
一方、水40部に実施例1(3)で得られた式(17)で表される化合物3.4部、次いで水酸化ナトリウムを加えて撹拌下、pH4.0〜5.0とすることにより水溶液を得た。
上記のジアゾ反応液にスルファミン酸0.3部を添加して約5分間撹拌し、次いで先に得られた式(17)で表される化合物を含有する水溶液に、反応温度15〜25℃で約30分かけ滴下した。滴下中は炭酸ナトリウムの添加により溶液のpH値を3.0〜4.0に保持した。その後3時間攪拌し、塩化ナトリウムの添加により塩析し、析出物を濾別した。濾液にメタノール200部を添加し、析出した固体を濾取して下記式(18)で表されるジスアゾ化合物を含むウェットケーキを得た。
【0103】
【化18】

【0104】
(5)
実施例1(4)で得られた式(18)のジスアゾ化合物を含むウェットケーキを水30部に溶解し、35%塩酸2.1部の添加後、20〜30℃で40%亜硝酸ナトリウム水溶液1.0部を添加することによりジアゾ反応液を得た。
一方、水25部に撹拌下、特開2004−083492に記載の方法で得られる下記式(19)で表される化合物1.3部および水酸化ナトリウムを添加しpH4.5〜5.5として水溶液を得た。
上記のようにして得られたジアゾ反応液にスルファミン酸0.1部を添加して約5分間撹拌し、次いで先に得られた式(19)で表される化合物を含有する水溶液を15〜25℃で約5分で添加した。滴下後、炭酸ナトリウムの添加により溶液のpH値を2.0〜3.0に保持しながら、同温度で2時間攪拌した。炭酸ナトリウムの添加によりpH5.5〜6.5とした後、メタノール200部の添加により析出した固体を濾取して、下記式(20)のトリスアゾ化合物を含むウェットケーキを得た。
【0105】
【化19】

【0106】
【化20】

【0107】
(6)
撹拌下、実施例1(5)で得られた式(20)で表される化合物を含むウェットケーキを水25部に溶解した。ここに35%塩酸1.5部の添加後、15〜30℃で40%亜硝酸ナトリウム水溶液0.7部を添加し、同温度で30分間撹拌する事で、ジアゾ反応液を得た。
一方、撹拌下、水20部に特許文献7記載の方法で得られた下記式(21)で表される化合物0.9部及び水酸化ナトリウムを添加することによりpH8.0〜9.0の水溶液を得た。
上記ジアゾ反応液にスルファミン酸0.1部を添加して約5分間撹拌し、次いで先に得られた式(21)で表される化合物を含有する水溶液を15〜30℃で約5分で添加した。滴下後、炭酸ナトリウムの添加により溶液のpH値を7.0〜8.0に保持しながら、同温度で4時間攪拌した。得られた液に塩化ナトリウムを添加して塩析し、析出した固体を濾取することにより、ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを水30部に溶解し、メタノール30部を添加して晶析し、析出した固体を濾取することによりウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを再度、水30部に溶解し、メタノール50部を添加して晶析し、析出した固体を濾取し、乾燥することにより本発明の下記式(22)で表される化合物(表2におけるNo.5の化合物)3.2部をナトリウム塩として得た。
λmax:578nm。
【0108】
【化21】

【化22】

【0109】
実施例2
実施例1(2)において、4−クロロ−3−ニトロトルエン8.6部を使用する代わりに4−クロロ−3−ニトロアニソール9.4部を使用する以外は実施例1と同様にして、本発明の下記式(23)で表される化合物(表2におけるNo.6の化合物)3.3部をナトリウム塩として得た。
λmax:587nm。
【0110】
【化23】

【0111】
実施例3
(1)
撹拌下、N−メチル−2−ピロリドン20部に4−クロロ−3−ニトロアニリン8.6部を添加し、ここに15〜30℃で無水酢酸6.1部を約5分間で滴下した。滴下後、同温度で3時間撹拌し、次に水120部を添加し、1時間撹拌した。析出物を濾取し、乾燥して下記式(24)で表される化合物10.1部を得た。
【0112】
【化24】

【0113】
(2)
実施例1(2)において、4−クロロ−3−ニトロトルエン8.6部を使用する代わりに実施例3(1)で得られた式(24)で表される化合物10.1部を使用する以外は実施例1と同様にして、本発明の下記式(25)で表される化合物(表3におけるNo.9の化合物)3.0部をナトリウム塩として得た。
λmax:582nm。
【0114】
【化25】

【0115】
実施例4〜6
(A)インクの調製
下記表6に記載の各成分を混合することにより黒色の本発明のインク組成物を得た後、0.45μmのメンブランフィルターで夾雑物を濾別することにより、実施例1で得られた化合物を含有するインクを調製した。このインクの調製を実施例4とする。
表6中の水はイオン交換水を使用した。又、インク調製時において、インクのpHは水酸化ナトリウムにてpH7〜9に調整し、イオン交換水を加えることにより総量100部とした。
【0116】
表6
実施例1で得られた化合物 3.5部
グリセリン 5.0部
尿素 5.0部
N−メチル−2−ピロリドン 4.0部
イソプロピルアルコール 3.0部
ブチルカルビトール 2.0部
界面活性剤 0.1部
(商品名サーフィノール104 日信化学社製)
水+水酸化ナトリウム 77.4部
計 100.0部
【0117】
表6中の実施例1で得られた化合物の代わりに、実施例2又は3で得られた各化合物を用いる以外は実施例4と同様にして実施例2又は3で得られた各化合物を含有する各インクを調製した。前者のインクの調製を実施例5、後者を同様に実施例6とする。本発明の各水性黒色インク組成物、及びこれを精密濾過して得た各インクは、貯蔵中、沈殿分離を生じることなく、また長期間の保存後においても物性の変化は生じなかった。
【0118】
比較例1
実施例1で得られた化合物の代わりに、特許文献8の実施例1−2に開示された下記式(26)の色素を用いる以外は実施例4と同様にして、比較用のインクを調製した。この比較用インクの調製を比較例1とする。
【0119】
【化26】

【0120】
比較例2
実施例1で得られた化合物の代わりに、特許文献7の実施例2−6に開示された下記式(27)の色素を用いる以外は、実施例4と同様にして比較用のインクを調製した。このインクの調製を比較例2とする。
【0121】
【化27】

【0122】
(B)インクジェットプリント
上記で得られたインクを使用し、Canon社製インクジェットプリンタ、商品名 PIXUS iP4100により、光沢紙1(EPSON社製、商品名:写真用紙クリスピア<高光沢>)、及び光沢紙2(EPSON社製、商品名:写真用紙<光沢>)の2種の情報記録シート(インクジェット専用紙)にインクジェットプリントを行った。
プリントの際は、反射濃度が数段階の階調で得られるように画像パターンを作り、黒色の印字物を得た。
【0123】
(C)プリント画像の評価
実施例4〜6、及び比較例1及び2のインクを用いて得た各プリント画像は、色の評価及び、耐光性と耐オゾンガス性のそれぞれに対する試験前後の画像の色差ΔEについての評価を行った。
色の評価は、高濃度部分での評価と中間階調部分での評価の2種類を行い、CIEのa*、b*の値から彩度C*を算出し、その値に基づいて判定を行った。
プリント画像の色差ΔEは、GRETAG−MACBETH社製の測色機、商品名:SpectroEyeを用い、試験前のプリント画像のブラック反射濃度Dk値が1.2〜1.6の範囲にある階調部分を測色することにより測定した。該反射濃度は、濃度基準としてDINを用い、視野角を2度として測定した。
尚、それぞれの評価は光沢紙1及び2について行い、試験結果を下記表7にまとめて示した。
具体的な試験方法は下記の通りである。
【0124】
1)色の評価
高濃度部分については、上記の反射濃度の階調のうち、最も高いDk値が1.9以上の部分について、又、中間階調部分については同様にDk値が1.2〜1.6の範囲にある階調部分について、それぞれCIEのa*値及びb*値を測定した。得られたa*値及びb*値から、下記計算式を用いて彩度C*値を算出した。尚、a*値及びb*値の測定の際には、光源としてD65を用い、視野角は2度とした。

C*=(a*2+b*21/2

色の評価は以下の基準で行った。黒色インクとしては、彩度が0に近い方が優れる。
(1)高濃度部分
○:C*が20未満
△:C*が20以上30未満
×:C*が30以上
(2)中間階調部分
○:C*が25未満
△:C*が25以上50未満
×:C*が50以上
【0125】
2)耐光性試験
スガ試験機(株)社製、商品名 低温キセノンウェザオメーターXL75を用い、10万Lux照度、湿度60%RH、温度24℃の条件で上記の各プリント画像に対して96時間照射を行った。キセノン光の暴露前と暴露後のそれぞれのプリント画像について、CIEのL*値、a*値、b*値を測定し、下記式を用いて色差ΔEを算出した。尚、測定の際の光源、及び視野角は上記と同じである。また上記の各数値は、試験前のプリント画像のブラック反射濃度Dk値が1.2〜1.6の範囲にある階調部分を測色することにより測定した。

ΔE=[(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)21/2

上記式において、ΔL*、Δa*、及びΔb*は、以下の値を意味する。
ΔL*:暴露前後のL*値の差
Δa*:暴露前後のa*値の差
Δb*:暴露前後のb*値の差

試験結果は、以下の基準で評価した。
○ ΔE:15未満
△ ΔE:15以上30未満
× ΔE:30以上
【0126】
3)耐オゾンガス性試験
スガ試験機社製、商品名 オゾンウェザオメーターを用いてオゾン濃度を40ppm、湿度60%RH、温度24℃の条件下で各プリント画像を8時間放置した。オゾン暴露前と暴露後のそれぞれのプリント画像について、CIEのL*値、a*値、b*値を測定し、下記式を用いて色差ΔEを算出した。尚、測定の際の光源、及び視野角は、上記と同じであり、ΔEの計算式も上記2)耐光性試験の場合と同じである。また上記の各数値は、試験前のプリント画像のブラック反射濃度Dk値が1.2〜1.6の範囲にある階調部分を測色することにより測定した。

試験結果は、以下の基準で評価を行った。
○ ΔE:30未満
△ ΔE:30以上50未満
× ΔE:50以上

なお、表7中に記載した式番号は、試験に用いたインクに色素として含有される各化合物の式番号を表す。
【0127】
表7
耐オゾンガス性 耐光性 色(高濃度) 色(中間階調)
実施例5 (式(22))
光沢紙1 ○ ○ ○ ○
光沢紙2 ○ ○ ○ ○
実施例6 (式(23))
光沢紙1 ○ ○ ○ ○
光沢紙2 ○ ○ ○ ○
実施例7 (式(25))
光沢紙1 ○ ○ ○ ○
光沢紙2 ○ ○ ○ ○
比較例1 (式(26))
光沢紙1 × × △ ○
光沢紙2 × × ○ ○
比較例2 (式(43))
光沢紙1 ○ ○ × ×
光沢紙2 ○ ○ × ×
【0128】
表7の結果より明らかなように、耐オゾンガス性及び耐光性において、各実施例は、比較例1より極めて優れる結果を示した。
また、色の評価において、高濃度及び中間階調のいずれの部分においても各実施例は、比較例2よりも彩度が0に近く、比較例2よりもニュートラルに近い良好な黒色を示すことが明らかとなった。
以上の結果から、本発明のアゾ化合物を含有するインクにより得られたプリント画像の堅牢度は、比較例1に用いた従来のトリスアゾ化合物の画像と比較しても極めて優れる。また、比較例2に用いたトリスアゾ化合物の画像は本発明のアゾ化合物と同じ水準の堅牢性を有するが、本発明のアゾ化合物の方が、より優れた黒色のプリント画像色を有する。従って、本発明のアゾ化合物を含有するインクにより得られたプリント画像は、特にインクジェットプリント画像に要求される耐オゾンガス性と耐光性に優れ、かつ、高濃度から中間階調領域の幅広い濃度領域において黒色としてより好ましい色相を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明のアゾ化合物を含有するインク組成物はインクジェットプリント用、筆記用具用ブラックインク液として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアゾ化合物またはその塩、
【化1】

[式(1)中、
1は、非置換、またはカルボキシ置換C1−C4アルキル基;非置換、またはスルホ置換フェニル基;またはカルボキシ基;を表し、
2はシアノ基;カルバモイル基;またはカルボキシ基を表し、
3およびR4はそれぞれ独立して水素原子;メチル基;塩素原子;またはスルホ基;を表し、
5からR7はそれぞれ独立して水素原子;カルボキシ基;スルホ基;ヒドロキシ基;C1−C4アルキル基;非置換、またはヒドロキシ基、非置換C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルコキシ基;アセチルアミノ基;を表し、
8は非置換、またはヒドロキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキルチオ基を表し、
9およびR10はそれぞれ独立して水素原子;カルボキシ基;スルホ基;非置換、またはカルボキシ基で置換されたC1−C8アルキルカルボニルアミノ基;C1−C4アルキル基;非置換、またはヒドロキシ基、非置換C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルコキシ基;を表し、
11からR13はそれぞれ独立して水素原子;カルボキシ基;スルホ基;ヒドロキシ基;非置換、またはカルボキシ基で置換されたC1−C8アルキルカルボニルアミノ基;非置換、又はベンゼン環がスルホ基、カルボキシ基、塩素原子またはC1−C4アルキル基で置換されたベンゾイルアミノ基;ウレイド基;メタンスルホニルアミノ基;非置換、又はベンゼン環がメチル基、ニトロ基または塩素原子で置換されたベンゼンスルホニルアミノ基;C1−C4アルキル基;非置換、またはヒドロキシ基、非置換C1−C4アルコキシ基、ヒドロキシC1−C4アルコキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルコキシ基;を表し、
基Aは置換フェニル基または置換ナフチル基であり、カルボキシ基;スルホ基;ヒドロキシ基;非置換、又はベンゼン環がメチル基、ニトロ基または塩素原子で置換されたベンゼンスルホニルオキシ基;塩素原子;シアノ基;ニトロ基;スルファモイル基;C1−C4アルキル基;非置換、又はヒドロキシ基、C1−C4アルコキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルコキシ基;非置換、又はヒドロキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキルスルホニル基;非置換、またはヒドロキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C8アルキルアミノスルホニル基;非置換、又はカルボキシ置換C1−C8アルキルカルボニルアミノ基;非置換、又はベンゼン環がスルホ基、C1−C4アルキル基で置換されたベンゾイルアミノ基;および、非置換、又はベンゼン環がメチル基、ニトロ基または塩素原子で置換されたベンゼンスルホニルアミノ基;トリフルオロメチル基;アセチル基;ベンゾイル基;よりなる群から選択される置換基を有し、
5からR7が置換している環、R8からR10が置換している環、およびR11からR13が置換している環の3種類の環はいずれも、破線で表される環が存在しない場合にはベンゼン環;または破線で表される環が存在する場合にはナフタレン環;を表すが、該3種類の環の全てがベンゼン環であり、かつ基Aが置換フェニル基であるものは含まない。]。
【請求項2】
下記式(2)で表される請求項1に記載のアゾ化合物またはその塩、
【化2】

[式(2)中、
1からR13、及び基Aは式(1)と同じ意味を表し、基Aが置換フェニル基である場合にはR5からR7が置換している環がナフタレン環であり、基Aが置換ナフチル基である場合にはR5からR7が置換している環は、ベンゼン環またはナフタレン環のいずれでもよい、
をそれぞれ表す。]。
【請求項3】
下記式(3)で表される請求項1又は2に記載のアゾ化合物またはその塩、
【化3】

[式(3)中、
1からR13は式(1)と同じ意味を表し、
14からR17はそれぞれ独立して水素原子;カルボキシ基;スルホ基;ヒドロキシ基;非置換、又はベンゼン環がメチル基、ニトロ基または塩素原子で置換されたベンゼンスルホニルオキシ基;非置換、またはヒドロキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C8アルキルアミノスルホニル基;塩素原子;シアノ基;ニトロ基;スルファモイル基;C1−C4アルキル基;非置換、又はヒドロキシ基、C1−C4アルコキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルコキシ基;非置換、又はヒドロキシ基、スルホ基またはカルボキシ基で置換されたC1−C4アルキルスルホニル基;非置換、又はカルボキシ置換C1−C4アルキルカルボニルアミノ基;非置換、又はベンゼン環がスルホ基、C1−C4アルキル基で置換されたベンゾイルアミノ基;および、非置換、又はベンゼン環がメチル基、ニトロ基または塩素原子で置換されたベンゼンスルホニルアミノ基;トリフルオロメチル基;アセチル基;ベンゾイル基;を表す。]。
【請求項4】
5がスルホプロポキシ基、R8がスルホプロピルチオ基、R11がスルホ基である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩。
【請求項5】
1がメチル基、R2がシアノ基またはカルバモイル基、R3が水素原子、R4がスルホ基である請求項1乃至4のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩、。
【請求項6】
6、R9およびR12が水素原子、R7がC1−C4アルキル基、R10およびR13がC1−C4アルキル基;C1−C4アルコキシ基;非置換、又はカルボキシ置換C1−C4アルキルカルボニルアミノ基;である請求項1乃至5のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩。
【請求項7】
14からR17の少なくとも2つがスルホ基である請求項1乃至6のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩。
【請求項8】
1がメチル基、R2がシアノ基またはカルバモイル基、R3が水素原子、R4がスルホ基、R5がスルホプロポキシ基、R6、R9およびR12が水素原子、R7がC1−C4アルキル基、R8がスルホプロピルチオ基、R10がC1−C4アルキル基;C1−C4アルコキシ基;非置換、又はカルボキシ置換C1−C4アルキルカルボニルアミノ基、R11がスルホ基、R13が水素原子;非置換、又はカルボキシ置換C1−C4アルキルカルボニルアミノ基;であり、R14からR17の少なくとも2つがスルホ基である請求項1乃至7のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩。
【請求項9】
1がメチル基、R2がシアノ基またはカルバモイル基、R3が水素原子、R4がスルホ基、R5がスルホプロポキシ基、R6、R9およびR12が水素原子、R7がメチル基、R8がスルホプロピルチオ基、R10がメチル基;メトキシ基;アセチルアミノ基、R11がスルホ基、R13が水素原子またはアセチルアミノ基であり、R14からR17の少なくとも3つがスルホ基である請求項1乃至8のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩。
【請求項10】
1がメチル基、R2がシアノ基またはカルバモイル基、R3が水素原子、R4がスルホ基、R5がスルホプロポキシ基、R6、R9およびR12が水素原子、R7がC1−C4アルキル基、R8がスルホプロピルチオ基、R10がC1−C4アルキル基;C1−C4アルコキシ基;非置換C1−C4アルキルカルボニルアミノ基、R11がスルホ基、R13が非置換、又はカルボキシ置換C1−C4アルキルカルボニルアミノ基であり、R14からR17の少なくとも2つがスルホ基である請求項1乃至9のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩。
【請求項11】
1がメチル基、R2がシアノ基、R3が水素原子、R4がスルホ基、R5がスルホプロポキシ基、R6、R9およびR12が水素原子、R7がメチル基、R8がスルホプロピルチオ基、R10がメチル基;メトキシ基;アセチルアミノ基、R11がスルホ基、R13がアセチルアミノ基であり、R14からR17の少なくとも3つがスルホ基である請求項1乃至10のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩を、色素として少なくとも1種含有することを特徴とするインク組成物。
【請求項13】
請求項12に記載のインク組成物をインクとして用い、該インク組成物のインク滴を記録信号に応じて吐出させて被記録材にプリントを行うインクジェットプリント方法。
【請求項14】
被記録材が情報伝達用シートである請求項13に記載のインクジェットプリント方法。
【請求項15】
情報伝達用シートが多孔性白色無機物を含有するインク受容層を有するシ−トである請求項14に記載のインクジェットプリント方法。
【請求項16】
請求項15に記載のインク組成物を含む容器を装填したインクジェットプリンタ。
【請求項17】
請求項1から11のいずれか一項に記載のアゾ化合物またはその塩によって着色された着色体。

【公開番号】特開2009−263513(P2009−263513A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115381(P2008−115381)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】