説明

アダプタ誘導型表示系

【課題】宿主細胞内で外因性ポリペプチドを発現し及び/又は遺伝子パッケージの外表面上で外因性ポリペプチドを表示するためのアダプタ誘導型表示系を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の系は、単量体及び多量体ポリペプチドの遺伝学的に多様なレパートリを表示するために特に有用である。本発明はまた、本発明の表示系の構成要素を含むキット、及び発現ベクターとヘルパーベクターの両方を提供する。同様に提供されるのは、特に問題の外因性ポリペプチドを表示する遺伝子パッケージである。さらに本発明により提供されるのは本発明の表示系の使用方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は係属中の2001年11月2日付け米国実用特許出願の一部継続出願であり、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は表示技術の分野にある。詳しくは、本発明は、遺伝子パッケージ上での外因性ポリペプチド表示のためのアダプタ誘導型表示系(adapter-directed display systems)の生成に関する。本発明で具現化される組成物及び方法は、膨大なポリペプチドのレパートリの中から所望の特性を示す個々の構成員を同定するために特に有用である。
【背景技術】
【0003】
遺伝子パッケージの表面上でのポリペプチドの表示は、実験室において分子の進化を行うための強力な方法となっている。膨大な分子多様性をもつライブラリを構築し望ましい特性をもつ分子を選択する能力により、この技術は広範囲の問題に適用できるものとなってきた。ファージ表示の起源は、George Smithがファージ外皮タンパク質に外因性配列を融合することによってバクテリオファージM13ウイルス粒子の表面上でタンパク質の外因性セグメントを初めて発現した1980年代中葉にさかのぼる(Science (1985) 228:1315-1317)。2つの画期的コンセプトが Smithの初期の実験から出現した。まず第1に、個々のファージ粒子が特有のポリペプチドを表示する、膨大で多様なポリペプチドのレパートリを構築することができる、ということが該実験から示唆された。第2に、表現型と遺伝子型との間の直接の物理的結付きが該実験から確認された。すなわち、所望のポリペプチドを表示するファージは同時にポリペプチドをコードするDNAをも保有しており、これはその後の分析のために容易に単離することができる。MaCafferty及びLadnerはこれらのコンセプトを拡張して、ファージ粒子の表面上で表示される1本鎖抗体といったポリペプチドのレパートリをスクリーニングした(米国特許第5,969,108号及び第5,837,500号)。そのとき以来、ファージ表示が、タンパク質工学に一般的に用いられる技術となった。
【0004】
George Smithの発見事実に基づいて、一連の表示系が開発されてきた。これらの系は、2つのカテゴリーに大きく分類することができる。第1世代の系は1ベクター系である。この系のベクターは、全ファージゲノムを含有し、その中に外皮タンパク質遺伝子とインフレーム(in frame)で外因性配列を挿入する。結果として得られたファージ粒子は、ファージゲノム全体を担持することから、これらは比較的不安定で感染性が低い。第2世代の系は、一般にファージミド系と呼ばれ、次の2つの構成要素:すなわち、ファージ外皮タンパク質に融合させられた外因性配列を担持するファージミドベクター及びファージ粒子内へのファージミドのパッケージングを可能にするためのファージ由来の複製起点;及び(2)ファージパッケージングのために必要とされる他の全ての配列を担持するヘルパーファージベクター、を有する。ヘルパーベクターは、Amersham Pharmacia Biotechにより製造されるM13K07ヘルパーベクター及び Stratagenにより生産されるその誘導体VCSM13といったように、一般的には複製欠損性のものである。ヘルパーファージによる細菌細胞の重複感染によって、ファージミドベクターを担持するとともに外因性配列を表示する新たにパッケージングされたファージが産生される。
【0005】
かくして、先行技術のファージミド系では、ファージ外表面配列(すなわち外皮配列)の少なくとも一部分に対する外因性配列の融合が必要とされる。最も一般的に用いられる融合部位または表示部位は、M13バクテリオファージの遺伝子III及び遺伝子VIII内にあるが、遺伝子VI、VII及びIX融合も報告されている。しかしながら、これらの融合系には、数多くの顕著な制限がある。まず第1に、外皮タンパク質の発現は宿主細胞に対して毒性であり、そのため外皮融合体の緊縮した調節を監視することが必要である。たとえそうであっても、不可避的なプロモータ漏出により、多様なライブラリの構成員の喪失が起こり得る。ライブラリの安定性を維持することは、少なくとも109 の複雑さをもつ(抗原結合単位といったような)膨大かつ多様な分子のレパートリを生成するために、特に重要である。第2に、遺伝子III産物(pIII)といったような或る種の外皮タンパク質の発現は、後代ファージ粒子の産生のために必要とされるヘルパーファージによる感染に対する耐性を宿主細胞に付与し得る。第3に、遺伝子III及び遺伝子VIIIファージ表示系を含め、その融合形式は挿入点を外表面配列の5’末端に制限している。そのため外因性ポリペプチドは外表面タンパク質のN末端に連結されなくてはならない。その結果、リーディングフレームの内部停止コドンによる頻繁な分断に起因して、これらの融合系により、全リーディングフレームのコーディング配列のフラグメントを含有するcDNAライブラリを完全に表示させることはできない。その上、融合系は、ヘルパーベクターにより一般に供給される野生型外表面タンパク質と融合体との間の組換えに起因して不安定である。さらに、ファージミドベクターが外表面配列の少なくとも一部分を含有することから、大きなベクターの形質転換効率の低さゆえ、大きな外因性配列が効率的に発現されないことがある。しかしながら、複雑さの高いライブラリの生成にとって、形質転換効率は重要な要因である。
【0006】
融合ファージミド系に対する様々な修飾が記載されてきた。WO91/17271は、外因性配列が「タグ」と「タグリガンド」との相互作用を介して表示されるファージ表示系の構築を提案している。この系は、タグ配列に連結された外因性配列を担持するファージゲノミックベクターを含有する。同ベクターは、外皮タンパク質遺伝子とインフレーム(in frame)で融合されたタグリガンド配列を担持する。該ベクターによる宿主細胞の感染によって、外因性配列を発現するファージ粒子が産生されることになる、ということが推測される。しかしながら、WO91/17271の開示は、その概念の実施を可能にする教示を提供していない。例えば、WO91/17271は「タグ」と「リガンド」の間の相互作用を介してファージ粒子の表面上にいずれかの配列が表示されたことを実証しておらず、又、タンパク質が発現された場合にそれが生物活性を保持するということも実証していない。その上、提案された系は、同ベクター内に全てのファージ外皮タンパク質遺伝子を担持するファージゲノミックベクターを利用することから、上述したような全ての制限及び欠点を不可避的に受け継いでいる。
【0007】
Crameri らは、ファージミドベクター上に表示されるべき外因性配列に隣接してFos腫瘍遺伝子が挿入され、同ベクター上の遺伝子IIIに隣接してJun腫瘍遺伝子が挿入された、cDNA産物を表示するための系を考案している(Crameri et al. (1993) Gene 137:69-75参照)。これら2つの融合配列は、2つの別々のプロモータの制御下に置かれている。Crameri の手法は、Fosタンパク質とJunタンパク質の間の好ましい相互作用を活用する。すなわち、Fos外因性ポリペプチドが発現されペリプラズム空間に分泌されるにつれて、それはpIII−Junと複合体を形成し、これが次にM13K07ヘルパーファージによる重複感染によってファージ粒子内にパッケージングされる。この系の外因性配列は外表面配列に直接には連結されないものの、同ベクターの別々のプロモータの下でのファージ外皮タンパク質pIIIの構成性発現は、依然として宿主細胞に対する実質的な毒性をひき起こす。
【0008】
Crameri 系に類似したもう1つの変異体は、WO01/05950に記載されている「システイン結合された」表示系である。外因性ポリペプチドの付着と表示は、外因性配列に含有されているシステイン残基及び外表面配列に挿入されているシステイン残基という2つのシステイン残基の間のジスルフィド結合の形成によって媒介される。WO01/05950に記載されている1ベクター系は、2つの別々のプロモータ制御された発現カセットを担持するファージミドベクターである。すなわちそのうちの1つは外因性配列を発現し、もう1つは外皮タンパク質pIIIを発現する。WO01/05950に記載されている2ベクター系は、外因性配列を担持するファージミドベクター及び外皮タンパク質pIIIを発現するプラスミドを含有する。2つのベクターは、 E. Coli細胞を同時トランスフェクションするために用いられる。ヘルパーファージM13K07による重複感染によって、結果として得られるファージ粒子内にファージミド及び/又はプラスミドがパッケージングされる。この系は外表面タンパク質に連結された外因性タンパク質を含む融合体の発現を回避するものの、ここでも1ベクター又は2ベクター系のいずれかにおいて外皮タンパク質PIIIが構成性に発現されるため、宿主細胞に対する外皮タンパク質の毒性を少なくおさえることができない。その上、WO01/05950に記載されている2ベクター系は、ヘルパーファージによる感染によって外表面配列を担持するが外因性遺伝子を担持しないミスパッケージングされたベクターを伴うファージ粒子を不可避的に産生する。ミスパッケージングは、2ベクター系に付随する周知の問題である。pIII−補足用プラスミドベクターがヘルパーファージ粒子内にミスパッケージングされることが示されている(Rondot et al. (2000) Nature 19:75-78)。
【0009】
最終的に、上述の先行技術のファージ表示系は、細菌表示系といったような他の表示系との両立性をもたない。同ファージ表示された外因性配列を細菌細胞上に直接に提示するためには、外因性配列をまず細菌表示ベクターにサブクローニングしなければならない。
【0010】
従って、遺伝子パッケージ上での外因性表示のための改善された組成物及び方法に対する相当の必要性がなおも存在している。理想的な系は以前に報告された系の欠点を回避するものとなるだろう。本発明は、これらの必要性を満たすとともに、関連する利点も提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、ペプチド結合により遺伝子パッケージのいずれの外表面配列にも連結されていないポリペプチドの表示を可能にする系の設計にある。該実験的設計はファージ粒子といったような遺伝子パッケージ上での所望の特性をもつタンパク質の提示及び/又は選択のための前例のない柔軟性を提供する。本発明のファージ表示系の技術的利点は、多種多様である。まず第1に本発明の系は、発現ベクターによる外表面タンパク質の発現に付随する全ての欠点を回避する。上述のように、これらの欠点としては、(1)外表面配列の構成性発現の結果としての宿主細胞に対する高い毒性;(2)後代ファージ粒子の産生に必要とされるヘルパーファージの感染に対する宿主細胞の耐性;(3)N末端融合産物の一方向表示に起因する、表示されるべきタンパク質の配向に対する制限;及び(4)ヘルパーベクターによって一般に提供される野生型外表面配列と融合外表面配列との間の組換えに起因する、融合産物の不安定性、が含まれる。第2に、本発明の系は、WO01/05950で記載されている2ベクター系で使用されているプラスミドのような、外表面配列を担持するが問題の遺伝子を担持しないプラスミドのミスパッケージングの可能性を無くする。先行技術の表示系が有するこれら及び他の固有の欠点を回避する一方で、本発明の系はさらに、1つの遺伝子パッケージにつきポリペプチドの単数のコピー(一価表示)又は複数のコピー(多価表示)を提示する柔軟性をも提供する。本発明の系は、特に問題の分子(molecules of particular interest)を結合する固有の能力に基づいて、膨大かつ多様なポリペプチドのレパートリ(すなわち抗原結合単位)を発現およびスクリーニングするために特に有用である。本発明の系によって表示されるポリペプチドは機能的である。
【0012】
従って、本発明は、遺伝子パッケージの外表面上に外因性ポリペプチドを表示するためのアダプタ誘導型表示系を提供する。本発明の系は、(a)第1のアダプタ配列にインフレーム(in frame)で融合された外因性ポリペプチドをコードするコーディング配列を含み、該遺伝子パッケージのいずれの機能的外表面タンパク質をコードする外表面配列もが欠如している、発現ベクターと、(b)該遺伝子パッケージをパッケージングするために必要な外表面タンパク質をコードする外表面配列を含み、該外表面タンパク質の少なくとも1つが第2のアダプタにインフレームで融合された、ヘルパーベクターとを含んで成り、前記第1のアダプタと第2のアダプタは、適切な宿主細胞内で該ポリペプチドが産生されるときに、第1アダプタと第2のアダプタとの間のペアワイズ相互作用(pairwise interaction)を介して該ポリペプチドの表示をひき起こすように作用する。
【0013】
利用される遺伝子パッケージは、ウイルス、細胞及び胞子であり得る。1つの実施形態において、本発明の系はファージ表示系である。外表面配列はファージの機能的外皮タンパク質をコードする。好ましい外表面配列は、繊維状ファージ等のファージの機能的外皮タンパク質をコードする。好ましい外表面配列は、繊維状ファージの遺伝子III、遺伝子VI、遺伝子VII、遺伝子VIII及び遺伝子IXから成る群より選択される。
【0014】
もう1つの実施形態において、本発明の系は細菌表示系である。発現ベクターでは除外されているものの細菌ヘルパーベクターに含まれている外表面配列が、細菌外表面タンパク質をコードする。好ましい外表面タンパク質は、Lpp−OmpA、TraT、Pal、Oprl、Inp及びAIDA−Iから成る群より選択される。
【0015】
本発明の表示系を構築するために、第1のアダプタと第2のアダプタは、ホモ二量体化配列又はヘテロ二量体化配列であり得る。好ましいホモ二量体化配列は、ジスルフィド結合を形成する能力をもつ2つの対合するシステイン残基である。好ましいヘテロ二量体化配列としては、ヘテロ二量体レセプタGABAB レセプタ1及び2に由来するもののような、生理緩衝液条件下及び/又は生理体温下でホモ二量体を形成する能力を基本的にもたないものが含まれる。他の好ましいアダプタは高次コイル二次構造を採用するものであってよい。
【0016】
本発明はまた、遺伝子パッケージの外表面上にポリペプチドを表示するためのヘルパーベクターを提供する。該ベクターは、該遺伝子パッケージをパッケージングするために必要な外表面配列を含み、該表面提示配列の少なくとも1つがアダプタにインフレーム(in frame)で融合され、前記アダプタは、適切な宿主細胞内で該ポリペプチドが産生されるときに、該ポリペプチドの表示をひき起こすように作用する。1つの態様において、本発明のヘルパーベクターは細菌ヘルパーベクターである(例えば図26参照)。もう1つの態様において、ヘルパーベクターはファージヘルパーベクターである(本明細書において「ウルトラヘルパー(UltraHelper)ファージベクター」ともいう)。好ましいファージヘルパーベクターとしては、限定されないが、図5Aに示されるGM−ウルトラヘルパーファージベクター、図13Aに示さるCM−ウルトラヘルパーファージベクター及び図19Aに示されるGMCT−ウルトラヘルパーファージベクターが含まれる。
【0017】
本発明はさらに、遺伝子パッケージの内部又はその外表面上でポリペプチドを産生するための発現ベクターを提供する。本発明の発現ベクターは、第1のアダプタにインフレーム(in frame)で融合された該ポリペプチドをコードするコーディング配列を含み、該ベクターは該遺伝子パッケージのいずれの機能的外表面タンパク質をコードする外表面配列もが欠如しており、該遺伝子パッケージの外表面上での該ポリペプチドの表示は第1のアダプタと第2のアダプタとの間の非共有結合性のペアワイズ相互作用を介して媒介され、第2のアダプタは外表面配列に融合されている。1つの態様において、発現ベクターはファージミドである。本ファージ表示系のファージミドの例としては、図9Aに示されるpABMX14、図15Aに示されるpABMX15、及び図25Aに示されるpAMBX22がある。
【0018】
同じく本発明に含まれるのは、本発明のアダプタ誘導型表示系を含んで成るキットであり、該系の個々の構成要素が発現ベクター及びヘルパーベクターを含む。本発明でさらに提供されるのは、本発明のベクターを含んで成る宿主細胞である。
【0019】
別の実施形態において、本発明は、その外表面上に融合ポリペプチドを表示する遺伝子パッケージを提供する。該融合ポリペプチドは、第1のアダプタとインフレーム(in frame)で融合された表示されるべきポリペプチド配列を含んで成り、前記第1のアダプタは、適切な宿主細胞内で融合ポリペプチドが産生されるときに、外表面タンパク質に連結された第2のアダプタと第1のアダプタとの間の非共有結合性のペアワイズ相互作用を介して融合ポリペプチドの表示をひき起こすように作用する。遺伝子パッケージは、ウイルス、細胞及び胞子であり得る。
【0020】
さらにもう1つの実施形態において、本発明は、少なくとも1つが上記の遺伝子パッケージである複数の遺伝子パッケージを含んで成る、選択可能ライブラリを提供する。
【0021】
さらにもう1つの実施形態において、本発明は、本発明のアダプタ誘導型表示系を適切な宿主細胞内で転写および翻訳させることにより、遺伝子パッケージの外表面上にポリペプチドを表示するための方法を提供する。この方法により生成する選択可能ライブラリも同じく本発明に包含される。
【0022】
本発明はさらに、遺伝子パッケージ上に表示される外因性ポリペプチドとテスト物質との間の特異的相互作用の存在を検出する方法を提供する。該方法は、(a)上記の方法に従って調製される外因性ポリペプチドを表示する遺伝子パッケージを提供する段階;(b)安定なポリペプチド−物質複合体を形成するのに適切な条件下でテスト物質と遺伝子パッケージを接触させる段階;及び(c)遺伝子パッケージ上の安定なポリペプチド−物質複合体の形成を検出し、それにより特異的相互作用の存在を検出する段階、を含んで成る。1つの態様において、外因性ポリペプチドは、抗原結合単位、細胞表面レセプタ、レセプタリガンド、細胞質ゾルタンパク質、分泌タンパク質及び核タンパク質から成る群より選択される。好ましい態様において、外因性ポリペプチドは抗原結合単位である。テスト物質は、タンパク質、炭水化物、脂質及びこれらの組合せから構成され得る。好ましいテスト物質は、抗原又はリガンドである。
【0023】
最後に本発明は、所望の特性をもったポリペプチドを取得する方法を提供する。該方法は(a)本発明の方法によって作成された選択可能ライブラリを提供する段階;及び(b)選択可能ライブラリをスクリーニングすることにより、所望の特性をもったポリペプチドを表示する少なくとも1つの遺伝子パッケージを取得する段階、を含んで成る。1つの態様において、所望の特性は、問題の物質に対する結合特異性である。もう1つの態様において、選択可能ライブラリをスクリーニングする段階は、所望の特性をもったポリペプチドを表示する遺伝子パッケージを単離する段階をさらに含む。かかる段階は、所望の特性をもつポリペプチドをコードする遺伝子パッケージからヌクレオチド配列を取得する段階をさらに含んでよい。所望の特性をもつポリペプチドは、以下のタイプのタンパク質:すなわち抗原結合単位、細胞表面レセプタ、レセプタリガンド、細胞質ゾルタンパク質、分泌タンパク質及び核タンパク質、の1つであり得る。
【0024】
本明細書で使用される略記の説明
1.Nsc:非1本鎖
2.Sc:1本鎖
3.Abu:抗原結合単位(単数)
4.Abus:抗原結合単位(複数)
5.L鎖:軽鎖
6.H鎖:重鎖
7.VL:軽鎖可変領域
8.VH:重鎖可変領域
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のアダプタ誘導型表示系の実験的設計の概略図である。描かれている表示系は、適切な宿主細胞内での可溶性外因性ポリペプチドの発現を可能にするばかりでなく、遺伝子パッケージの外表面上での外因性配列の表示をも可能にする。該系は、発現ベクター及びヘルパーベクターといった2つの構成要素を有する。 E. Coli細菌といったような宿主細胞内に発現ベクターを単独で導入することにより、アダプタ(「アダプタ1」と称する、図1の中央図を参照)とインフレームで融合された外因性ポリペプチドの発現および細菌ペリプラズムへの分泌が導かれる。第2のアダプタ(「アダプタ2」と称する、左図参照)とインフレームで融合されたファージ外表面配列を担持するヘルパーファージベクターによる細菌細胞の重複感染によって、第1のアダプタと第2のアダプタとの間のペアワイズ相互作用を介してファージ粒子上での外因性ポリペプチドの表示が可能となる。発現ライブラリを構築するために、この発現ベクター内に多様なDNA配列を挿入することができる。ヘルパーファージの重複感染によって、多様なファージ表示ライブラリが生じる。同様にして、第2のアダプタ(「アダプタ2」と称する、右図参照)とインフレームで融合された細菌外表面配列を担持するヘルパー細菌ベクターをパッケージングするファージミド粒子による細菌細胞の感染によって、第1のアダプタと第2のアダプタとの間のペアワイズ相互作用を介して細菌上での外因性ポリペプチドの表示が可能となる。同様にして、選択可能細菌表示ライブラリを構築することもできる。
【0026】
【図2】カナマイシン耐性KO7kpnヘルパーファージ陽性クローンについてのファージELISAスクリーンの結果を示す図である。48のクローンが、ファージ生成についてスクリーニングされた。C2、B3、B7、B9、A12が、KO7kpnヘルパーファージ陽性クローンを表わす。F1及びF2は、親M13KO7ファージの2つの正の対照を表わす。
【0027】
【図3A】KO7kpnヘルパーファージベクターの概略図である。
【図3B】ヘルパーファージベクター中に含まれる遺伝子IIIリーダー配列のヌクレオチド及びアミノ酸配列を描く図である。遺伝子IIIのコーディング領域を改変することなく、KpnI制限部位がリーダー配列の下流側に導入されている。
【0028】
【図4】ベクターpABMC6の概略図である。該ベクターは、遺伝子III配列の5’側に配置されたKpnI部位、部分的遺伝子IIIリーダー配列、GR2コーディング配列およびMyc−タグを含んでいる。
【0029】
【図5A】GM−ウルトラヘルパー ファージの概略図である。
【図5B】KpnI部位とBgIII部位にまたがるセグメントのヌクレオチド及びアミノ酸配列を描く図である。
【図5C】GR2−Mycドメイン内のトリプシン切断部位(Tryp)を描く図である。
【0030】
【図6】ファージ外皮タンパク質の抗Myc免疫ブロットの再現図である。これらの結果はGM−ウルトラヘルパーファージ粒子の組立てを示している。レーン1及び7は、kDaで表わした分子量マーカーを示す。レーン2−5は、GR2−Myc−pIII融合を発現するGM−ウルトラヘルパーファージの4つのクローンを示す。レーン6は、GR2−Myc−pIII融合配列を担持しないM13KO7ヘルパーファージの負の対照を示す。
【0031】
【図7】GM−ウルトラヘルパーファージ粒子に組立てられるGR2−Myc−pIII融合タンパク質を検出するために抗Myc抗体を用いたELISA検定の結果を描く図である。図6に示すファージクローン6、18及び20がテストされた。負の対照としてKO7ヘルパーファージが含まれた。
【0032】
【図8】増大する量のトリプシンを用いたウルトラヘルパーファージ由来のGR2−Mycドメインの良好な切断を実証するために抗Myc抗体を用いたELISA検定の結果を描く図である。M13KO7ヘルパーファージは負の対照としての役割をした。
【0033】
【図9A】ベクターpABMX14の概略図である。
【図9B】pABMX14の完全ヌクレオチド配列を示す図である。該ベクターは、抗生物質選択用のアンピシリン耐性遺伝子(AMP)、プラスミド複製起点(ColE1 ori)、flファージ複製起点(fl ori)、および下流側配列plac―RBS―pelB―GR1−DH(HA及び6×His tag )の発現を駆動するlacプロモータ/lacO1を含有する。細菌細胞での可溶性タンパク質の表示または産生のための外因性配列を挿入するために、NcoI/XbaIまたはNcoI/NotIまたはXbaI/NotI制限部位を使用することができる。
【0034】
【図10】GM−ウルトラヘルパーファージ又はM13KO7ヘルパーファージのいずれかによる細菌TG1細胞の重複感染によってファージ粒子が生成された、ファージ結合検定の結果を描く図である。細菌TG1細胞は、scFv−アダプタ1融合体の発現のためのpABMX14−AM1ファージミドベクターを保有している。それぞれの抗原に対する用量依存性ファージ結合が、GM−ウルトラヘルパーファージの感染によってのみ観察され、負の対照M13KO7ファージによっては観察されなかった。これらの結果は、pABMX14ファージミド及びGM−ウルトラヘルパーファージベクターを用いたファージ粒子上での機能的scFv表示を実証する。
【0035】
【図11】図11の左図は、ファージ外皮タンパク質の抗Myc免疫ブロットの再現図である。レーン1は、M13KO7ヘルパーファージによる重複感染を受けたファージミドベクターpABMX14−AM1を保有するTG1細胞内でファージ粒子が生成された負の対照を表わす。レーン2は、ファージミドpABMX14−AM1ベクター及びGM−ウルトラヘルパーファージベクターにより生成されたファージ粒子を表わす。外因性配列scFvが検出された。レーン3は、GM−ウルトラヘルパーファージを単独で用いた負の対照を表わす。抗Myc抗体は、レーン2においてのみ、GR1とGR2とのペアワイズ相互作用を介して形成されたscFv−GR1−DH/GR2−Myc−pIII複合体に対応するバンドを検出する。レーン2内の遊離GR2−Myc−pIIIと比べた場合、約2倍ものscFv−GR1−DH/GR2−Myc−pIII複合体が表示された。これは、各ファージ粒子が平均して1よりも多くのscFv−GR1融合体のコピーを担持しているということを表わす。pIII−Myc−GR2二量体に対応するバンドがレーン3内で検出された。pIII−Myc−GR2二量体の形成は、GABAB レセプタ2アダプタ配列の下流側で導入されたシステイン残基対に起因していた。GABAB レセプタ2のアダプタ配列はそれ自体、生理体温の条件下で及び/又は生理緩衝液の条件下でホモ二量体を形成する傾向をもたない(Kammerer et al. (1999) Biochemistry 38:13263-13269)。 同じブロットを抗HA抗体により再プローブ探査した場合(図11の右図参照)、レーン2内で抗HA抗体によりscFv−GR1−DH/GR2−Myc−pIII複合体に対応するバンドが検出された。これは、GM−ウルトラヘルパーファージの重複感染によるscFv−GR1−DH融合体の表示を確認するものである。
【0036】
【図12】ベクターpABMC13の概略図である。該ベクターは、遺伝子IIIの5’側に配置されたKpnI部位を有する部分的gIIIリーダー配列、Ala−Cys−Gly−Glyコーディング配列、及びMyc−タグを含む、DNAフラグメントを含有している。
【0037】
【図13A】CM−ウルトラヘルパーファージベクターの概略図である。
【図13B】KpnI部位とBgIII部位にまたがるセグメントのヌクレオチド及びアミノ酸配列を描く図である。該ベクターは、遺伝子III配列の5’側に配置されたMyc−タグと融合されたAla−Cys−Gly−Glyをコードするヌクレオチド配列を含有している。さらに、該ベクターは、遺伝子IIIリーダー配列とCys−Mycコーディング領域によりフランキングされた(flanked)アンバー停止コドンを含む。アンバーコドンの導入は、サプレッサー細菌菌株内のみでファージ産生を可能にする。
【0038】
【図14】CM−ウルトラヘルパーファージ粒子に組立てられるCys−Myc−pIII融合体を検出するために抗Myc抗体を用いたELISA検定の結果を描く図である。レーン1は、負の対照であるM13KO7ヘルパーファージを表わす。レーン2−6は、CM−ウルトラヘルパーファージの5つのクローンを表わす。レーン7は、正の対照であるGM−ウルトラヘルパーファージを表わす。
【0039】
【図15A】ベクターpABMX15の概略図である。
【図15B】pABMX15の完全ヌクレオチド配列を示す図である。該ベクターは、抗生物質選択用のアンピシリン耐性遺伝子(AMP)、プラスミド複製起点(ColE1 ori)、flファージ複製起点(fl ori)、及び下流側配列plac−RBS−pelB−HA−Cysの発現を駆動するlacプロモータ/lacO1を含有する。細菌細胞での可溶性タンパク質の表示または産生のための外因性配列を挿入するために、NcoI/XbaIまたはNcoI/NotI又はXbaI/NotI制限部位を使用することができる。
【0040】
【図16】CM−ウルトラヘルパーファージ又はM13KO7(「KO7」とも表記される)ヘルパーファージのいずれかによる細菌TG1細胞の重複感染によってファージ粒子が生成された、ファージ結合検定の結果を描く図である。細菌TG1細胞は、scFv−HA−Cys融合体の発現のためpABMX15−AM1ファージミドベクターを保有している。これらの結果は、pABMX15ファージミド及びCM−ウルトラヘルパーファージベクターを用いたファージ粒子上での機能的scFv表示を実証する。ライン3−6に示される感染多重度(MIO)1〜100の範囲でscFv表示レベルにおける大きな変化は無かった。ライン1及び2は、KO7ヘルパーファージの2つの負の対照を表わす。レーン2により示されるように、負の対照であるM13KO7ヘルパーファージを用いた場合、scFv−HA−Cysが全く検出されなかった。
【0041】
【図17】図17の左図は、ファージ外皮タンパク質の抗Myc免疫ブロットの再現図である。レーン1は、KO7ファージを単独で用いた負の対照を表わす。レーン2は、CM−ウルトラヘルパーファージベクターを単独で用いた負の対照を表わす。レーン3は、ファージミドpABMX15により発現されたscFv−HA−Cys融合体がKO7ファージによる重複感染によって検出されなかった負の対照を表わしている。レーン4は、ファージミドpABMX15により発現されたscFv−HA−Cys融合体がCM−ウルトラヘルパーファージベクターによる重複感染によって良好に表示されたファージクローンを表わす。抗Myc抗体は、レーン4においてのみ、対合するシステインのペアワイズ相互作用を介して形成されたscFv−HA−S−S−Myc−pIII複合体に対応するバンドを検出する。この結果は、ファージミドが、M13KO7ヘルパーファージによってではなくCM−ウルトラヘルパーファージによってレスキュー(rescue)された場合にのみscFv−HA−Cysの表示が生じることを示す。pIII配列の5’末端で導入された2つのシステイン残基の間で確立されたジスルフィド結合に起因して、ライン2及びライン4でpIII−Myc二量体が検出された。 同じブロットを抗HA抗体により再プローブ探査した場合(図17の右図参照)、対照レーン1−3内ではなくレーン4内で抗HA抗体によりscFv−HA−S−S−Myc−pIII複合体に対応するバンドが検出された。これは、GM−ウルトラヘルパーファージのレスキューによるscFv−HA−S融合体の表示を確認するものである。
【0042】
【図18】ベクターpABMC12の概略図である。ベクターpABMC6のヌクレオチド配列に加えて、ベクターpABMC12は、GR2−Mycコーディング配列に融合された遺伝子IIIのC末端部分についてのコーディング配列、及び遺伝子III配列に融合されたリボソーム結合配列(RBS)−OmpAリーダー配列を含む、DNAフラグメントを含有している。
【0043】
【図19A】GMCT−ウルトラヘルパーファージベクターの概略図である。
【図19B】KpnI部位とBgIII部位にまたがるセグメントのヌクレオチド及びアミノ酸を描く図である。該ベクターは、KO7kpnファージベクター内のMyc−タグ及びアダプタGR2に融合された改変遺伝子IIIの追加的コピーをコードするヌクレオチド配列、及びKO7遺伝子III配列に隣接するリボソーム結合配列−OmpAリーダー配列を含有している。
【0044】
【図20】GMCT−ウルトラヘルパーファージ又は対照M13KO7ヘルパーファージのいずれかによる細菌TG1細胞の重複感染によってファージ粒子が生成された、ファージ結合検定の結果を描く図である。TG1細胞は、scFv−GR1−DH融合体の発現のためpABMX14−AM1ファージミドベクターを保有している。これらの結果は、pABMX14ファージミド及びGMCT−ウルトラヘルパーファージベクターを用いたファージ粒子上での機能的scFvの表示を実証する(レーン2−5)。感染多重度(MIO)1〜100の範囲でscFv表示レベルにおける大きな変化は無かった。ライン1は、KO7ヘルパーファージの重複感染によりscFvが表示されなかった負の対照を表わす。
【0045】
【図21】図21の左図は、ファージ外皮タンパク質の抗Myc免疫ブロットの再現図である。レーン1は、pABMX14ファージミドをレスキューするためにKO7ファージを用いた負の対照を表わす。レーン2は、ファージミドpABMX14により発現されたscFv抗体がGMCT−ウルトラヘルパーファージによる重複感染によって良好に表示されたファージクローンを表わす。レーン3は、GMCT−ウルトラヘルパーファージを単独で用いたもう1つの負の対照を表わす。抗Myc抗体は、レーン2においてのみ、GR1とGR2とのペアワイズ相互作用を介して形成されたscFv−GR1/GR2−Myc−CT(III)複合体に対応するバンドを検出する。この結果は、KO7ヘルパーファージによってではなくGMCT−ウルトラヘルパーファージによってファージミドがレスキューされた場合にのみscFv−GR1の表示が生じることを示す。 同じブロットを抗HA抗体により再プローブ探査した場合(図21の右図参照)、対照レーン1又は3内ではなくレーン2内で抗HA抗体によりscFv−GR1/GR2−Myc−CT(III)複合体に対応するバンドが検出された。これは、GMCT−ウルトラヘルパーファージのレスキューによるscFv−HA−S融合体の表示を確認するものである。
【0046】
【図22A】ベクターpABMD1及びpABMD2の概略図である。
【図22B】lacプロモータ/lacO1部位とSalI部位にまたがるヌクレオチド及びアミノ酸配列を描く図である。
【0047】
【図23】GABAB レセプタ1及び2のC末端配列を描く図である。該配列のC末端に「ValGlyGlyCys」スペーサを付加することにより、外因性システイン残基が導入されている。
【0048】
【図24】様々な抗原結合単位を描く概略図である。
【0049】
【図25A】細菌発現ベクターpABMX22の概略図である。
【図25B】pABMX22の完全ヌクレオチド配列を描く図である。該ベクターは、抗生物質選択用のアンピシリン耐性遺伝子(AMP)、プラスミド複製起点(ColE1 ori)、flファージ複製起点(fl ori)、及び下流側配列plac−RBS−p8L−GR1−HAの発現を駆動するlacプロモータ/lacO1を含有する。細菌細胞上での表示のための外因性配列を挿入するために、MluI/XbaIまたはMluI/NotIまたはXbaI/NotI制限部位を使用することができる。
【0050】
【図26A】細菌ヘルパーベクターpABMbd−1の概略図である。
【図26B】pABMbd−1の完全ヌクレオチド配列を描く図である。該ベクターは、抗生物質選択用のクロラムフェニコール耐性遺伝子(Cam)、プラスミド複製起点(ColE1 ori)及びflファージ複製起点(fl ori)、及び下流側配列plac−RBS−pelB−Lpp−OmpA−GR2の発現を駆動するlacプロモータ/lacO1を含有する。
【0051】
【図27】最終パニングから無作為にピックアップされた個々のクローンからのAM3ファージELISA結果を描く図である。各々の棒線は、特定のAM3変異体のOD405での読取り値を表わしている。位置A13及びA14は、それぞれ負の対照及び正の対照である。
【0052】
【図28】Ni−NTAカラムからの AM3 scFv精製結果を描く図である。溶出画分のアリコート25μlを10%SDS−PAGEゲル上で分析し、その後クーマシーブルー染色を行なった。M:タンパク質マーカー; 1:WTクローン#1の画分#2; 2:WTクローン#1の画分3; 3:WTクローン#2の画分#2; 4:WTクローン#2の画分#3。
【0053】
【図29】ゲルろ過クロマトグラフィを用いた AM3 scFv抗体の精製の結果を描く図である。Ni−NTA精製されたscFv抗体を、Superdex75カラムを用いたクロマトグラフィにかけた。図に示されているように、単量体scFvが、混合物中のタンパク質の残留物から分離された。
【0054】
【図30】図30は、BiaCoreを用いた野生型AM2との比較におけるAM3変異体の結合動態分析を描く図である。センサーグラムは、野生型に比べて著しく低い解離速度およびより高い結合親和力をもったの全4つのAM3変異体を示した。曲線の勾配は、選択された抗体がどれほど速く抗原と会合し(初期)抗原から解離したか(終期)を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本開示全体を通して、様々な刊行物、特許及び公示済み特許明細書は、識別のための引用により言及されている。これらの刊行物、特許及び公示済み特許明細書の開示は、ここで、本開示中に参考として内含される。
【0056】
一般的技術:
本発明の実施は、特に示さない限り、当該分野の技術の範囲内にある免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノミクス及び組換えDNAの従来の技術を利用する。例えば、「ペプチド及びタンパク質のファージ表示」(B.K. Kay et al., 1996);「ファージ表示、実験室マニュアル」(C.F. Barbas III et al., 2001) Sambrook, Fritsch及びManiatis,「分子クローニング:実験室マニュアル」、第2版 (1989);「分子生物学の現行プロトコル」(F.M. Ausubel, et al. eds., (1987));「酵素学方法」シリーズ (Academic Press, Inc.):「PCR2:実践的アプローチ」(M.J. MacPherson, B.D. Hames 及び G.R. Taylor eds. (1995)), Harlow 及び Lane, eds. (1988),「抗体、実験室マニュアル」及び「動物細胞培養」(R.I. Freshney, ed. (1987))を参照のこと。
【0057】
明細書及び特許請求の範囲で使用される単数形態「a」「an」及び「the」には、前後関係から明らかに反しない限り、複数の言及も含まれる。例えば「細胞」という語には、その混合物も含め、複数の細胞が含まれる。
【0058】
定義:
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という語は、本明細書では、いずれの長さのアミノ酸の重合体にも言及するべく、互換可能に使用される。重合体は、線状、環状又は分岐状のいずれでもよく、また修飾されたアミノ酸を含んでもよく、また非アミノ酸によって中断されてもよい。この語はまた、例えば、硫酸化、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、ヨウ素化、メチル化、酸化、タンパク質分解処理、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、アルギニル化のようなタンパク質に対するアミノ酸のトランスファRNAにより媒介される付加、ユビキチン化、又は標識成分との結合のような他の操作により、修飾されたアミノ酸重合体をも包含する。本明細書で使用される「アミノ酸」という語は、グリシン及びD又はLの両方の光学異性体を包含する天然の及び/又は非天然の又は合成のアミノ酸、及びアミノ酸類似体、及びペプチド模倣体(peptidomimetics)をいう。
【0059】
ある指定されたタンパク質「に由来する」ポリペプチド又はアミノ酸配列というのは、そのポリペプチドの起源を意味する。好ましくは、ポリペプチドは、配列中でコードされたポリペプチド又はその部分(なおここで該部分は少なくとも10〜20個のアミノ酸、好ましくは少なくとも20〜30個のアミノ酸、より好ましくは少なくとも30〜50個のアミノ酸から成る)のアミノ酸配列と基本的に同一であるか、又は配列中にコードされたポリペプチドにより免疫学的に同定可能である、アミノ酸配列を有する。この用語には、ある指定された核酸配列から発現されたポリペプチドも含まれる。
【0060】
「キメラ」タンパク質は、天然に発生するものとは異なる配列中の位置にある領域を含む少なくとも1つの融合ポリペプチドを含有する。この領域は、別のタンパク質に通常存在して融合ポリペプチド中で一緒になってもよく、或いは同じタンパク質内に存在はするものの融合ポリペプチド中で新たな配置に置かれていてもよい。キメラタンパク質は、例えば、化学合成によって又は、ペプチド領域が所望の関係でコードされているポリヌクレオチドを作製および翻訳することによって生成し得る。
【0061】
本明細書で使用されている「多量体タンパク質」という語は、in vitro又は in vivoで単一の球状タンパク質を形成するべく互いに会合した複数の別々のポリペプチド又はタンパク質鎖を含む球状タンパク質を意味する。多量体タンパク質は、「ホモ多量体」を形成するように同じ種類の複数のポリペプチドで構成され得る。あるいは、多量体タンパク質は、「ヘテロ多量体」を形成するように異なる配列の複数のポリペプチドで構成され得る。かくして、「ヘテロ多量体」は、少なくとも第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドを含む分子であり、ここで第2のポリペプチドは、少なくとも1つのアミノ酸残基により第1のポリペプチドとアミノ酸配列が異なっている。ヘテロ多量体は、第1及び第2のポリペプチドによって形成された「ヘテロ二量体」を含むことができ、或いは2つ以上のポリペプチドが存在する高次三次構造を形成することができる。ヘテロ多量体のための構造例としては、ヘテロ二量体(例えばFv及びFabフラグメント、二重特異性抗体(diabody)、GABAB レセプタ1及び2複合体)、三量体G−タンパク質、ヘテロ四量体(例えばF(ab’)2 フラグメント)及びさらなるオリゴマー構造が含まれる。
【0062】
「リガンド」とは、レセプタのリガンド結合ドメインによって結合される能力をもつ分子を意味する。この分子は、化学的に合成されるものでも又は天然に発生するものでもよい。
【0063】
「アゴニスト」とは、例えばレセプタといったシグナル伝達分子の生物活性を刺激する能力をもつ分子である。
【0064】
「アンタゴニスト」とは、レセプタの生物活性を阻害する能力をもつ分子である。
【0065】
「ペアワイズ相互作用」(pairwise interaction)とは、2つのアダプタが安定な複合体を形成するように互いに相互作用し互いに結合することができることを意味する。安定な複合体は、遺伝子パッケージの外表面上にポリペプチドをパッケージングできるようにするため充分に長く存続するものでなくてはならない。複合体又は二量体は、形成時点と表示されたポリペプチドの検出時点の間に存在するか又は導入されるあらゆる条件に耐えることができなくてはならず、これらの条件は、実行される反応又は検定の関数である。
【0066】
「一価表示」とは、遺伝子パッケージあたり単一コピーの外因性ポリペプチドの発現を意味する。一価のファージ表示系において、ファージ粒子の集まりは、ファージ粒子あたり平均してゼロ〜1つの外因性ポリペプチドを担持する。これとは対照的に「多価表示」とは、遺伝子パッケージあたり1コピーよりも多くの外因性ポリペプチドの発現を意味する。かくして多価ファージ表示系において、ファージ粒子の集まりは、平均して1コピーよりも多くの外因性ポリペプチドを担持する。
【0067】
本明細書で用いられる「抗体」という語は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち、抗原と特異的に結合する(「免疫反応する」)抗原結合部位を含有する分子を意味する。構造的には、最も単純な天然に発生する抗体(例えばIgG)は、4つのポリペプチド鎖、すなわち、ジスルフィド結合により相互に連結された2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含んで成る。免疫グロブリンは、IgD、IgG、IgA、IgM及びIgEといったような幾つかのタイプの分子を包含する大きな分子ファミリーを表わす。「免疫グロブリン分子」という語は、例えば、ハイブリッド抗体、又は改変された抗体、及びそのフラグメントを包含する。天然に発生する抗体のフラグメントにより抗体の抗原結合機能が行われ得るということが示されている。これらのフラグメントは、「抗原結合単位」(「Abus」)と総称される。Abusは、その分子構造に基づいて「1本鎖」(「Sc」)タイプと「非1本鎖」(「Nsc」)タイプとに広く分けられる。
【0068】
同様に「抗体」及び「Abus」という語の中に包含されるのは、無脊椎動物及び脊椎動物を含む様々な種の起源の免疫グロブリン分子である。抗体又はAbuに適用される「ヒト」という語は、ヒト遺伝子又はそのフラグメントにより発現された免疫グロブリン分子を意味する。非ヒト(例えばゲッ歯類又は霊長類)抗体に適用される「ヒト化」という語は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限配列を含有するハイブリッド免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖又はそのフラグメントである。大部分について、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)からの残基が、所望の特異性、親和力及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ又は霊長類といったような非ヒト種(ドナー抗体)のCDRからの残基によって置換されている、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。一部の場合においては、ヒト免疫グロブリンのFv枠組領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基によって置換されている。さらにヒト化抗体は、レシピエント抗体内にも、あるいは移入されたCDRまたは枠組配列内にも見出されない残基を含んでいる可能性がある。これらの修飾は、抗体の性能をさらに洗練しヒトの体内に導入されるときの免疫原性を最小限におさえるために行なわれる。一般に、ヒト化抗体は、CDR領域の全て又は実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのものに対応しかつFR領域の全て又は実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも1つ、一般には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むことになる。ヒト化抗体はまた、免疫グロブリンの定常領域(Fc)の少なくとも一部分、一般にはヒト免疫グロブリンのものを含み得る。
【0069】
「非1本鎖抗原結合単位」(「NscAbus」)は、軽鎖ポリペプチド及び重鎖ポリペプチドを含むヘテロ多量体である。NscAbusの例としては、(1)本明細書で開示されているヘテロ二量体化配列により安定化されたccFvフラグメント(図24);(2)本明細書に記載されているような少なくとも1つのccFvフラグメントを含む他のいずれかの1価及び多価分子;(3)VL、VH、CL及びCH1ドメインから成るFabフラグメント;(4)VH及びCH1ドメインから成るFdフラグメント;(5)抗体の単一アームのVL及びVHドメインから成るFvフラグメント;(6)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメントを含む2価フラグメントであるF(ab’)2 フラグメント;(7)二重特異性抗体(diabody)及び(8)Littleら(2000)「今日の免疫学」に記載されている他のいずれかのNscAbusが含まれるが、これらに制限されるわけではない。
【0070】
上述のように、NscAbusは、「一価」でも「多価」でもあり得る。前者は、抗原結合単位あたり1つの結合部位を有する一方、後者は、同じ種類又は異なる種類の1つよりも多くの複数の抗原に結合する能力をもつ多数の結合部位を含む。結合部位の数に応じて、NscAbusは、2価(2つの抗原結合部位をもつ)、3価(3つの抗原結合部位をもつ)、4価(4つの抗原結合部位をもつ)等々であり得る。
【0071】
多価のNscAbusはさらに、その結合特異性に基づいて分類され得る。「単一特異性」NscAbuは、同じ種類の1以上の抗原に結合する能力をもつ分子である。「多重特異性」NscAbuは、少なくとも2種類の異なる抗原に対する結合特異性をもつ分子である。かかる分子は通常2種類の異なる抗原のみと結合する(すなわち二重特異性Abus)ことになるものの、三重特異性抗体といったような追加的特異性をもつ抗体が本明細書で用いられる場合には、それらもこの表現に包含される。二重特異性抗原結合単位の例としては、一方のアームが腫瘍細胞抗原に対して特異的であり、もう一方のアームが細胞毒性トリガー分子に対して特異的であるもの、例えば抗FcγRI/抗CD15、抗pl85HER2/FcγRIII(CD16)、抗CD3/抗悪性B細胞(ID10)、抗CD3/抗p185HER2、抗CD3/抗p97、抗CD3/抗腎細胞癌腫、抗CD3/抗OVCAR−3、抗CD3/L−D1(抗結腸癌腫)、抗CD3/抗メラニン細胞刺激性ホルモン類似体、抗EGFレセプタ/抗CD3、抗CD3/抗CAMA1、抗CD3/抗CD19、抗CD3/MoV18、抗神経細胞接着分子(NCAM)/抗CD3、抗葉酸結合タンパク質(FBP)/抗CD3、抗汎癌腫関連抗原(AMOC−31)/抗CD3等;腫瘍抗原に特異的に結合する1本のアームと毒素に結合する1本のアームをもつ二重特異性Abus、例えば抗サポリン/抗Id−1、抗CD22/抗サポリン、抗CD7/抗サポリン、抗CD38/抗サポリン、抗CEA/抗リシンA鎖、抗インタフェロン−α(IFN−α)/抗ハイブリドーマ・イディオタイプ、抗CEA/抗−ビンカアルカロイド;酵素活性化プロドラッグを変換するためのBsAbs、例えば(リン酸マイトマイシンのマイトマイシンアルコールへの変換の触媒として作用する)抗CD30/抗アルカリホスファターゼ等;線維素溶解薬として使用可能な二重特異性Abus、例えば抗フィブリン/抗組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、抗フィブリン/抗ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)等;細胞表面レセプタに対し免疫複合体をターゲティングするための二重特異性抗原結合単位、例えば抗低密度リポタンパク(LDL)/抗Fcレセプタ(例えばFcγRI、FcγRII又はFcrRIII)等;感染性疾患の治療に使用するための二重特異性Abus、例えば抗CD3/抗単純ヘルペスウイルス(HSV)、抗T細胞レセプタ:CD3複合体/抗インフルエンザ、抗FcγR/抗HIV等;in vitro又はin vivo での腫瘍検出のための二重特異性Abus、例えば抗CEA/抗−EOTUBE、抗CEA/抗DPTA、抗p185HER2/抗ハプテン等;ワクチンアジュバントとしてのBsAbs;及び、診断手段としての二重特異性Abus、例えば抗ウサギIgG/抗フェリチン、抗ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)/抗ホルモン、抗ソマトスタチン/抗物質P、抗HRP/抗FITC、抗CEA/抗β−ガラクトシダーゼ等が含まれる。三重特異性抗体の例としては、抗CD3/抗CD4/抗CD37、抗CD3/抗CD5/抗CD37及び抗CD3/抗CD8/抗CD37が含まれている。
【0072】
「1本鎖抗原結合単位」(「ScAbu」)とは、単量体Abuを意味する。Fvフラグメントの2つのドメインは別々の遺伝子によってコードされるが、組換え方法によりそれらを単一タンパク質鎖(すなわちBird et al. (1988) Science 242:423-426及びHuston et al. (1988) PNAS 85:5879-5883)に記載されているような1本鎖Fv(「scFv」)として作ることができるようにする合成リンカーを作ることが可能である。
【0073】
「抗原結合単位のレパートリ」とは、複数の抗原結合単位であってその少なくとも2つが異なる結合特異性を示すものを意味する。抗原結合単位の遺伝的に多様なレパートリとは、複数の抗原結合単位であってその全てではないとしても大部分が相互に特有の結合特異性を示すものを意味する。遺伝的に多様なレパートリは、一般には、少なくとも106 〜1013、好ましくは107 〜109 、より好ましくは108 〜1010、さらに一層好ましくは108 〜1011の異なる抗原結合単位という複雑さを有する。
【0074】
抗体またはAbuは、それがポリペプチドまたは他の物質を含む他の基準抗原に結合するよりも大きい親和力(affinity)または結合力(avidity)で結合する場合に、抗原「に特異的に結合する」又は抗原「と免疫反応性をもつ」。
【0075】
Abuが宿主細胞の外表面に提示されるときに、Abuが「宿主細胞の表面上に」表示される。表示されたAbuは、宿主細胞の外表面に直接付着されてもよいし、そうでなければファージ粒子といったような宿主細胞に結合された遺伝子パッケージにより宿主細胞に間接的に付着されてもよい。
【0076】
本明細書で使用される「外表面配列」とは、遺伝子パッケージの「外表面タンパク質」をコードするヌクレオチド配列を意味する。これらのタンパク質は、遺伝子パッケージのゲノムを被包するタンパク様の外皮を形成する。一般的には、外表面タンパク質は、例えばファージ又は細菌といったような遺伝子パッケージの外表面上に表示されるべきポリペプチドを組立てるように該パッケージを誘導する。
【0077】
遺伝子またはタンパク質に適用される「野生型」という語は、「天然に発生する」、「未改変の」遺伝子又はタンパク質を意味する。これらの語には、細胞又は遺伝子パッケージ内に天然に見出される全長のプロセッシングされたポリヌクレオチド及びポリペプチドが含まれる。「野生型外表面タンパク質」という語は、ウイルス、細胞又は胞子のいずれであるかにかかわらず、天然に発生する遺伝子パッケージの外皮を形成するようなタンパク質を意味する。繊維状バクテリオファージの場合、野生型タンパク質は、遺伝子IIIタンパク質(pIII)、遺伝子VIタンパク質(pVI)、遺伝子VIIタンパク質(pVII)、遺伝子VIIIタンパク質(pVIII)及び遺伝子IXタンパク質(pIX)である。
【0078】
本明細書で使用される「抗原」とは、抗体により特異的に認識され結合される物質を意味する。抗原には、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、多糖類及び脂質;それらの部分及び組合せが含まれうる。
【0079】
本明細書で使用される「表面抗原」という語は、細胞の原形質膜構成要素を意味する。これは、原形質膜を構成する内在性及び表在性膜タンパク質、糖タンパク質、多糖類及び脂質を包含する。「内在性膜タンパク質」というのは、細胞の原形質膜の脂質二重層を横断して延在する膜貫通タンパク質である。典型的な内在性膜タンパク質は、疎水性アミノ酸残基を一般に含んで成る少なくとも1つの「膜貫通セグメント」で構成されている。表在性タンパク質は、脂質二重層の疎水性内部には延在せず、他の膜タンパク質との非共有結合性相互作用により膜表面に結合される。
【0080】
細胞タンパク質に対し適用される「膜」、「細胞質ゾル」、「核」及び「分泌」といった語は、細胞タンパク質が大部分として、優勢に又は優先的に局在化される細胞外及び/又は細胞内の場所を特定する。
【0081】
「細胞表面レセプタ」は、そのそれぞれのリガンドに結合する能力をもつ膜タンパク質のサブセットを表わす。細胞表面レセプタは、細胞原形質膜上に固定(anchor)されるか又は細胞原形質膜の中に挿入された分子である。これらは、原形質膜の構造構成要素としての役割のみならず、調節要素すなわち様々な生物学的機能を調節するシグナル伝達分子としての役割もする、タンパク質、糖タンパク質、多糖類及び脂質の大きなファミリーを構成する。
【0082】
「ヘテロ二量体レセプタ」は、リガンドに対する結合親和力を示す2つのタンパク様サブユニットを含んで成る細胞タンパク質を包含する。2つのタンパク様サブユニットは、少なくとも1つのアミノ酸残基によりアミノ酸配列が異なる別異の分子である。ヘテロ二量体レセプタの非限定的な例としては、増殖因子(例えばヘレグリン)、神経伝達物質(例えばγ−アミノ酪酸)及び他の有機又は無機の小分子(例えば、鉱質コルチコイド、糖質コルチコイド)に結合するものがある。好ましいヘテロ二量体レセプタは、核ホルモンレセプタ(Belshaw et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 93(10):4604-4607)、erbB3及びerbB2レセプタ複合体、及び限定されることなくオピオイドを含むGタンパク質結合レセプタ(Gomes et al. (2000) J. Neuroscience 20(22):RC110); Jordan et al. (1999) Nature 399:697-700)、ムスカリン、ドーパミン、セロトニン、アデノシン/ドーパミン、及びGABAB レセプタファミリーである。
【0083】
「ドメイン」とは、タンパク質又はペプチドの他の部分から物理的又は機能的に区別されるタンパク質の部分を意味する。物理的に定義づけされるドメインとしては、膜関連又は細胞質関連の配列といったような例外的に疎水性又は親水性のアミノ酸配列が含まれる。ドメインはまた、例えば遺伝子重複から発生する内部相同性によっても定義づけされうる。機能的に定義づけされるドメインは、異なる生物学的機能を有する。例えば、レセプタのリガンド結合ドメインは、リガンドと結合するドメインである。抗原結合ドメインは、抗原に結合する抗体又は抗原結合単位の部分を意味する。機能的に定義づけされるドメインは、接近するアミノ酸配列によりコードされる必要が無い。機能的に定義づけされるドメインは、1以上の物理的に定義づけされるドメインを含みうる。例えば、レセプタは一般に、細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内エフェクタドメインに分けられる。「膜アンカードメイン」というのは、膜会合を媒介するタンパク質の部分を意味する。一般に、膜アンカードメインは、疎水性アミノ酸残基で構成されている。あるいは、膜アンカードメインは、修飾アミノ酸、例えば、該タンパク質を膜に固定させる脂肪酸鎖に付着されたアミノ酸を含みうる。
【0084】
「宿主細胞」には、本発明のベクターのレシピエントでありうるか又はレシピエントであった個々の細胞又は細胞培養物が含まれる。宿主細胞には、単一の宿主細胞の後代が含まれる。後代は、天然の、偶発的な又は意図的な突然変異に起因して、もとの親細胞と必ずしも完全に同一(形態学又は合計DNA補体のゲノミクスに関して)でなくてもよい。宿主細胞には、本発明のベクターによる in vivoのトランスフェクションを受けた細胞が含まれる。
【0085】
「細胞系統」又は「細胞培養物」は、in vitroで増殖または維持された、細菌、植物、昆虫又は高等真核生物の細胞を表わす。ある細胞の子孫は親細胞と(形態学、遺伝子型、又は表現型のいずれかに関して)完全に同一でないことがある。
【0086】
「ディファインド培地」とは、培地の成分がわかるように培地中の細胞の生存及び/又は増殖に必要な栄養及びホルモンの要求量を含む培地を意味する。従来、ディファインド培地は、増殖及び/又は生存にとって必要な栄養及び成長ホルモンの添加によって配合されてきた。典型的には、ディファインド培地は、以下のカテゴリーの1種以上からの少なくとも1種の成分を提供する:a)全ての必須アミノ酸、通常は20種のアミノ酸+システインという基本セット;b)通常はグルコースといったような炭水化物の形をしている、エネルギー源;c)低濃度で必要とされるビタミン及び/又は他の有機化合物;d)遊離脂肪酸;及びe)微量元素(なおここで微量元素は、通常はマイクロモル範囲内の、非常に低い濃度で一般的に要求される天然に発生する元素又は無機化合物として定義づけされる)。ディファインド培地は、同様に、以下のカテゴリーのいずれかからの1種以上の成分で任意に補足されてもよい:a)1種以上の有糸分裂誘発剤;b)例えばカルシウム、マグネシウム及びリン酸塩といった塩及び緩衝液;c)例えばアデノシン及びチミジン、ヒポキサンチンといったようなヌクレオシド及び塩基、及びd)タンパク質及び組織加水分解産物。
【0087】
本明細書で使用される「単離された」という語は、ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体又はそれらのフラグメントが通常自然状態で結び合わされている細胞及びその他の形の成分から分離されることを意味している。当業者にとっては明らかであるように、天然に発生しないポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体又はそれらのフラグメントは、それをその天然に発生する対応物と区別するために「単離」を必要としない。さらに、「濃縮された」、「分離された」又は「希釈された」ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体又はそれらのフラグメントは、体積あたりの分子数又は濃度がその天然に発生する対応物に比べて「濃縮された」ものの方が大きいか又は「分離された」ものの方が小さいという点で、その天然に発生する対応物と区別することができる。
【0088】
富化は、溶液の体積あたり重量といった絶対基準で測定することもできるし、又は、供給源混合物中に存在する第2の潜在的に干渉性の物質との関係において測定することもできる。本発明の実施形態の富化は、その程度が増大すればするほど好ましい。かくして、例えば2倍の富化が好ましく、10倍の富化はさらに好ましく、100倍の富化はさらに好ましく、1000倍の富化はより一層好ましい。化学的合成又は組換え型発現といったような人工的組立てプロセスにより、単離された状態で物質を提供することも可能である。
【0089】
「連結された」及び「融合された」又は「融合」は、本明細書中で互換可能に使用される。これらの語は、化学的結合又は組換え手段を含むあらゆる手段による、2つ以上の化学的要素又は構成要素の連結を意味する。「インフレーム融合」(in frame fusion)とは、もとのオープンリーディングフレームの正しいリーディングフレームを維持する形でより長い連続OFRを形成するための2つ以上のオープンリーディングフレーム(OFR)の連結を意味する。かくして、結果として得られた組換え型融合タンパク質は、もとのOFRによりコードされたポリペプチドに対応する2つ以上のセグメント(これらのセグメントは通常は自然状態でこのように連結されていない)を含有する単一のタンパク質である。リーディングフレームはかくして、融合されたセグメント全体を通して連続した状態にされているが、セグメントは、例えば、インフレームリンカー配列(例えば「フレクソン」)により物理的又は空間的に分離され得る。
【0090】
本明細書で用いられる「フレクソン」というのは、典型的には小さい側鎖をもつアミノ酸(例えばグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びセリン)を含む可とう性ポリペプチドリンカー(又はかかるポリペプチドをコードする核酸配列)を意味する。本発明の融合体の1以上の部位の間にフレクソンを取込むことにより、互いに比較的独立した立体配座をとることができるようにして機能性を促進することが可能である。
【0091】
ポリペプチドに関して、「線状配列」又は「配列」は、その配列内で互いに隣接し合う残基がポリペプチドの一次構造において連続しているアミノからカルボキシ末端方向へのポリペプチドのアミノ酸の順序である。「部分配列」というのは、一方又は両方の方向に付加的な残基を含むものとして知られているポリペプチドの部分の線状配列である。
【0092】
「非相同」(heterologous)とは、それが比較される実体の残りとは遺伝子型が異なる実体に由来することを意味する。例えば、その未改変コーディング配列から除去されてその未改変配列以外のコーディング配列に作動的に連結されたプロモータが、非相同プロモータである。ポリヌクレオチド、ポリペプチドに適用される「非相同」という語は、該ポリヌクレオチド又はポリペプチドが、比較される実体の残りとは遺伝子型が異なる実体に由来することを意味している。例えば、非相同ポリヌクレオチド又は抗原は、異なる種の起源、異なる細胞型、及び異なる個体の同じ細胞型に由来し得る。
【0093】
「ポリヌクレオチド」、「核酸」、「ヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」という語は、互換可能に使用される。これらは、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド又はそれらの類似体のいずれかの任意の長さを有するヌクレオチドの重合体形態を意味する。ポリヌクレオチドは、任意の3次元構造をもっていてよく、既知又は未知の任意の機能を行うことができる。以下に記すのは、ポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子又は遺伝子フラグメントのコーディング又は非コーディング領域、連鎖分析から規定された遺伝子座、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換え型ポリヌクレオチド、分岐状ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、核酸プローブ、及びプライマー。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体といったような修飾ヌクレオチドを含み得る。ヌクレオチド構造に対する修飾が存在する場合、それは、重合体の組立ての前後いずれでも付与できる。ヌクレオチド配列は、非ヌクレオチド構成要素により中断され得る。ポリヌクレオチドを、標識構成要素との結合などによって、重合後にさらに修飾することが可能である。
【0094】
ポリヌクレオチドに適用される「組換え型」という語は、そのポリヌクレオチドが、クローニング、制限及び/又は連結の段階、及び天然に見出されるポリヌクレオチドとは異なる構成体を結果としてもたらすその他の手順の様々な組合せの産物であることを意味している。
【0095】
「遺伝子」又は「遺伝子フラグメント」という語は、ここでは互換可能に使用されている。これらは、転写及び翻訳後に特定のタンパク質をコードする能力をもつ少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含有するポリヌクレオチドを意味する。遺伝子又は遺伝子フラグメントは、そのポリヌクレオチドが、コーディング領域全体又はそのセグメントを網羅しうる少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含んでいるかぎりにおいて、ゲノム又はcDNAであり得る。
【0096】
「作動可能な形で連結された」又は「作動的に連結された」という語は、このように記述される構成要素がその意図される形で機能できるようにする関係にある並置を意味する。例えば、プロモータ配列は、それがコーディング配列の転写を促進する場合に、コーディング配列に作動可能な形で連結されていることになる。
【0097】
「融合遺伝子」というのは、一緒に連結されている少なくとも2つの非相同ポリヌクレオチドを含んで成る遺伝子である。
【0098】
遺伝子「データベース」というのは、生物学的参照材料の集まりを表わすヌクレオチド及びペプチド配列を包含する配列の集まりを表わす、保存されたデータ組を意味する。
【0099】
本明細書で使用される「発現」という語は、ポリヌクレオチドをmRNAに転写するプロセス及び/又は転写されたmRNA(「転写物」とも呼ばれる)をその後ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質へと翻訳するプロセスを意味する。転写物及びコードされたポリペプチドは遺伝子産物と総称される。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現は真核細胞内のmRNAのスプライシングを含み得る。
【0100】
「ベクター」とは、挿入される核酸分子を宿主細胞内に及び/又は宿主細胞間で移入する核酸分子、好ましくは自己複製性核酸分子である。この用語は、細胞内へのDNA又はRNAの挿入のために主として機能するベクター、DNA又はRNAの複製のために主として機能する複製ベクター、及びDNA又はRNAの転写及び/又は翻訳のために機能する発現ベクターを含む。同様に含まれるのは、上述の機能のうちの複数のものを提供するベクターである。
【0101】
「発現ベクター」は、適切な宿主細胞内に導入されたときにポリペプチドに転写され翻訳され得るポリヌクレオチドである。「発現系」とは通常、所望の発現産物を生成するべく機能しうる発現ベクターを含んで成る適切な宿主細胞を意味する。
【0102】
「レプリコン」というのは、適切な宿主細胞内でのポリヌクレオチドの複製を可能にする複製起点(一般にはori配列と呼ばれる)を含むポリヌクレオチドを意味する。レプリコンの例には、エピソーム(例えばプラスミド)、ならびに染色体(例えば核又はミトコンドリア染色体)が含まれる。
【0103】
「シグナル伝達」というのは、刺激性又は阻害性シグナルが細胞内へ及び細胞内で伝達されて細胞内応答を惹起するプロセスである。「シグナル伝達経路のモジュレータ」とは、同じ特異的シグナル伝達経路に位置付けられた1以上の細胞タンパク質の活性を調節する化合物を意味する。モジュレータは、シグナル伝達分子の活性を増大又は抑制しうる。
【0104】
本発明のアダプタ誘導型表示系
本発明の中心的態様は、ペプチド結合によりいずれの機能的外表面配列にも連結されていない無作為の又は予め定められたポリペプチドのライブラリ又は外因性ポリペプチドの遺伝子パッケージ上での表示を可能にする表示系の設計にある。本発明の系は、発現ベクターによる外表面タンパク質の発現に付随する全ての欠点を回避する。実験的設計は、ウイルス、細胞及び胞子といったような遺伝子パッケージにより提示される所望の特性をもつタンパク質を提示しかつ/又は選択するために特に有用である。
【0105】
本発明の表示系は、2つの構成要素を含んで成る。すなわち(1)遺伝子パッケージの外表面上に表示されるべきポリペプチドをコードする問題の外因性遺伝子を担持する発現ベクター、及び(2)特に問題のポリペプチドの表示を促進するヘルパーベクターである。以前に報告された表示系と異なり、本発明の系は以下の特有の特長を有する。まず第1に、発現ベクターは、第1のアダプタとインフレームで融合された表示されるべき外因性ポリペプチドをコードするコーディング配列を含む。第2に、発現ベクターは、遺伝子パッケージのいずれの機能的外表面タンパク質をコードする外表面配列もが欠如している。第3に、ヘルパーベクターは、遺伝子パッケージをパッケージングするのに必要な全ての外表面配列を含み、その外表面配列の少なくとも1つが第2のアダプタ配列にインフレームで融合され、ここで外因性ポリペプチドの表示は第1アダプタと第2のアダプタとの間のペアワイズ相互作用によって媒介される。
【0106】
1つの実施形態において、本発明は、上述の特徴をもつファージヘルパーベクター及びファージミド発現ベクターを含んでなるファージ表示系を提供する。もう1つの実施形態において、本発明は、細菌発現ベクター及び細菌ヘルパーベクターが上記の特長を示す細菌表示系を提供する。該ファージ表示系及び細菌表示系の実験的設計は、哺乳動物細胞表示系といったような真核生物発現系の構築に拡張することができる。
【0107】
本発明のファージ表示系:
上述のように、以前に報告されたファージ表示系には、数多くの顕著な欠点があった。例えば、一般に利用される遺伝子III系及び遺伝子VIII系は、いくつかの固有の欠点をもつ。なかでも挙げられるのは、(1)遺伝子パッケージの或る種の外表面タンパク質との融合体として外因性ポリペプチドを発現する結果としての、宿主細胞に対する毒性;(2)遺伝子パッケージ上に外因性ポリペプチドをパッケージングするのに外表面タンパク質の或る領域が必要とされることを理由とする、表示すべき外因性ポリペプチドのサイズ及び配向に対する厳密な制限;及び(3)ヘルパーベクターによって一般的に提供される野生型外表面タンパク質と上記融合体との間の組換えに起因する、融合産物の不安定性。最近報告された「システインカップリングされた」表示系(WO01/05950)は、ペプチド結合を介した外表面タンパク質融合の発現を回避するものの、宿主細胞に対するこれらのタンパク質の毒性を最低限におさえることはなおもできていない。その上、1つの特定の設計、すなわちWO01/05950に記載された2ベクター系は、ヘルパーファージの感染により、不可避的にミスパッケージングされたベクターを産生する。ミスパッケージングされたベクターは、外表面配列を含むものの外因性遺伝子を含まない。本発明のファージ表示系は、これらの欠点を回避し、その他の関連する利点を提供する。
【0108】
本発明の設計の中心的態様は、ファージパッケージングに必要とされる外表面タンパク質からの外因性ポリペプチドの分離である。かくして、外因性ポリペプチドを担持するファージミドベクター(発現ベクター)は、機能的外表面タンパク質をコードする配列を全く含有しない。ファージ粒子表面上への外因性ポリペプチドの提示は、2つのアダプタのペアワイズ相互作用によって媒介される。アダプタの一方は、ファージミドベクターによりコードされた外因性ポリペプチドとインフレームで融合され、もう一方は、ヘルパーベクターによりコードされた少なくとも1つの外表面タンパク質とインフレームで融合される。ファージミドベクターを担持する宿主細胞がヘルパーファージによる感染を受けた時に、コードされた外因性ポリペプチドは、それぞれのアダプタの間でのペアワイズ相互作用を介して外表面タンパク質との複合体を形成する。この複合体はこのとき、ファージの表面尾鞘内にパッケージングされ、外因性ポリペプチドをその外表面上に露出された状態に残す。
【0109】
本発明のファージミドベクターの一般的特徴:
いくつかの因子が、本発明のファージ表示系の構築に適用される。まず第1に、ファージミドベクターは、ポリペプチドが表示されるべき遺伝子パッケージのいずれの機能的外表面タンパク質をコードする配列も含まない。「機能的」というのは、遺伝子パッケージが問題のポリペプチドをその外表面上に組立てるのを促進するか又は誘導する能力を、コードされた外表面タンパク質が保持していることを意味する。発現ベクターから除外されるべき精確な外因性配列は、ファージパッケージの選択によって左右される。
【0110】
本明細書で使用される「ファージ」という語は、ウイルス複製に必要とされるウイルスゲノムが中に被包されているタンパク質外皮を含んで成るウイルスを包含する。ウイルスゲノムは、1本鎖又は2本鎖、線状又は環状のDNA又はRNAで構成されうる。ファージは、制限的な意味なく細菌細胞といったような原核生物を含む、広範囲の宿主細胞を感染させることができる。繊維状又は非線維状の数多くのファージのゲノムが配列決定されている。代表的な繊維状ファージとしては、M13、fl、fd、Ifl、Ike、Xf、Pf1及びPf3が含まれる。繊維状ファージのクラスの中では、M13が最も良く特徴づけされた種である。その3次元構造は既知であり、その外皮タンパク質の機能は充分に理解されている。具体的には、M13ゲノムは、5つの外皮タンパク質、すなわちpIII、VIII、VI、VII及びIXをコードする。本発明ファージ表示系のM13ベースの発現ベクターを構築するためには、全ての外皮コーディング配列を欠失させるか又は改変させて、コードされたタンパク質産物がファージ粒子の外表面上での外因性ポリペプチドの提示をもたらすことができないようにしなければならない。機能的外表面タンパク質に対する適切な修飾は、次のような結果をもたらし得る:(1)シグナルペプチドが次に切断されて離れることになる細菌細胞のペリプラズムへの外表面タンパク質の細胞内移行を誘導する機能的シグナルペプチドの喪失;(2)細菌細胞膜及び/又はファージ外皮に成熟ポリペプチドを固定(anchor)する外皮タンパク質ドメインの機能の喪失;(3)ファージレセプタ、宿主細菌のF−線毛に特異的に結合する外皮タンパク質の機能の喪失;及び/又は(4)いかなる機能的外皮タンパク質の発現をも防ぐための内部停止コドンの導入。pIIIといったような複数の外皮タンパク質内のこれらの及びその他のドメインは、すでに記述されてきた(例えば、米国特許第5,969,108号参照)。fl及びfdの繊維状ファージといったようなその他の密に関連する構成員の外表面タンパク質も同様に、当該技術分野において充分知られている(例えばKay et al. (1996)、ペプチド及びタンパク質のファージ表示:実験室マニュアル、Academic Press., Inc. San Diego)。好ましくは、M13ベースの発現ベクター内で提示される唯一のファージ配列は、ファージミド複製及びパッケージのために必要とされるfl起点を含んでいる。M13ベースの発現ベクターの構築についての段階的な例示は、例1〜4に詳述される。かくして、当業者であれば、過度の実験無く、請求の範囲に記載の特長をもつ発現ベクターを容易に構築することができる。
【0111】
他の繊維状ファージを用いて類似の構築を行うことも可能である。Pf3は、IncP−1プラスミドを包含するシュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aerugenosa)細胞を感染させるもう1つの周知の繊維状ファージである。Pf3の全ゲノムが配列決定され、複製及び組立てに関与する遺伝子シグナルが特徴づけされてきた(Luiten et al. (1985) J. Virology 56(1):268-276)。Pf3の主要な外皮タンパク質は、その分泌を導くためのいかなるシグナルペプチドももたないという点で、普通ではない。配列は、露出されているアミノ末端と一貫性ある荷電残基ASP7 、ARG37、LYS40及びPHE44−COO- を有する。Pf3ファージのための139bpのDNAのウイルスストランド複製起点も同様に同定された(Luiten et al. (199) J. Bacteriol 173(13):4007〜4012)。Pf3ベースの発現ベクターを構築するためには、いかなる機能的主要外皮タンパク質もコードされないような形でPf3外皮コーディング配列を欠失又は改変させなくてはならない。好ましい発現ベクターは、その複製及びパッケージングのためのPf3ファージ複製起点しか含まない。
【0112】
同じアプローチは、非繊維状ファージから誘導されたファージミドベクターの構築にもあてはまる。このクラスのファージの非限定的で代表的な構成員は、バクテリオファージφX174、λ、T4及びT7である。バクテリオファージφX174は、遺伝学、生化学及び電子顕微鏡法により徹底的に研究された非常に小さい二十面体ウイルスである。φX174の3つの遺伝子産物、すなわちF(カプシド)、G(主要スパイクタンパク質、1ビリオンあたり60コピー)、及びH(非主要スパイクタンパク質、1ビリオンあたり12コピー)が、成熟ビリオンの外側に存在する。タンパク質Gは、175個のアミノ酸を含む一方、Hは328個のアミノ酸を含む。タンパク質Fは、ウイルスの1本鎖DNAと相互作用する。タンパク質F、G及びHは、ウイルス感染を受けた細胞内で単一のmRNAから翻訳される。かくして、このクラスの非繊維状ファージに基づく発現ベクター例には、F、G及びHタンパク質のいずれのコーディング配列もが欠如している。他の代替的な発現ベクターは、機能的なタンパク質F、G及びHを生じない改変されたF、G又はHコーディング配列を含む。
【0113】
本発明のヘルパーファージベクターの一般的特徴:
本発明のファージ表示系の第2の構成要素は、いかなる機能的外表面配列もが欠如した発現ベクターを相補するべく機能するヘルパーベクターである。必要な外皮タンパク質コーディング配列の1つが欠如しているか又は遺伝子パッケージの欠損外皮タンパク質をコードする配列を含有する以前に記載されているヘルパーベクター(米国特許第5,969,108号)とは異なり、本発明のヘルパーベクターは、遺伝子パッケージをパッケージングするのに必要とされる外表面配列の全てを提供する。利用される精確な外表面配列は、ここでもファージパッケージの選択によって左右される。
【0114】
上述のとおり、様々なファージについての豊富な構造的及び生化学的情報が、当該技術分野において利用可能である。数多くのタイプの遺伝子パッケージを複製しパッケージングするのに必要とされる構造的タンパク質及び酵素をコードする遺伝子配列が同定され、以前の表示系を構築するために広く用いられている(米国特許第6248516号、第5969108号、第5885793号、第5837500号、第5571698号、第5223409号、第5514548号、WO9005144、EP0368684、WO09201047、WO09311236及びWO09708320)。これらの配列は一般に、付加的な独特の特長を示す本発明のヘルパーベクターを構築するために一般に応用可能である。
【0115】
具体的には、本発明のヘルパーファージベクターは一般に、ヘルパーファージ及びファージミドベクターの両方を被包する役割を担う全ての外表面配列を含んで成る。1つの態様において、ヘルパーファージベクターは、M13、fl、fd、Ifl、Ike、Xf、Pf1及びPf3のうちの1つの繊維状ファージの全ての外皮タンパク質をコードする外表面配列を含んで成る。M13ベースのヘルパーファージベクターの好ましい外皮コーディング配列は、gIII、gVIII、gVI、gVII、gIX又はその機能的等価物である。もう1つの態様において、ヘルパーファージベクターは、バクテリオファージφX174、λ、T4及びT7から成るグループの中から選択された非繊維状ファージの外皮コーディング配列を含む。これらの構造的タンパク質に加えて、ヘルパーファージベクターは一般的に、ファージミドベクターの複製及びパッケージングを「助ける」ようにファージミドベクター及びヘルパーファージの両方の上に担持されたファージ複製起点に対してトランスに作用する他のファージ由来の酵素もコードする。本発明の好ましいM13ヘルパーベクターは、ファージミドベクターの好ましいパッケージングを確保するべく複製欠損性である。好ましくは、パッケージングされたベクターの90%以上がファージミドベクターである。さらに一層好ましくは、パッケージングされたベクターの99%以上がファージミドベクターである。好ましいM13ヘルパーファージベクターはさらに、タンパク質I、II、IV、V、X又は機能的等価物をコードする配列を含む。本明細書で使用されているように、外表面タンパク質の機能的等価物には、野生型外表面タンパク質の機能性を保持する修飾された外表面タンパク質についてコードするものが含まれる。機能的に等価である外表面タンパク質には、対応する野生型タンパク質の特性を増強、減少させるか又はそれに対しわずかに影響を与えるものが含まれている。これらの等価物は、保存的アミノ酸置換をもつポリペプチドや、融合体及び突然変異体を含む類似体でありうる。好ましいM13ヘルパーベクターは、干渉耐性を有している。干渉耐性ヘルパーベクターの例としては、M13KO7(American Pharmacia Biotech)及びVCSM13(Stratagene)といったようなその誘導体である。これら2つの干渉耐性ヘルパーベクターは、ファージ粒子をパッケージングするために必要なファージ配列を提供する。
【0116】
本発明のヘルパーファージベクターは、ファージパッケージングに必要な外表面配列の全てが存在するかぎりにおいて、ある一定の外表面配列の1又はそれ以上のコピーを含むことができる。各々の必要な外表面配列の1コピーの使用は、一般的に、「多価」ファージ表示系を生じる。これとは対照的に、ある一定の外表面配列及びその機能的等価物の1よりも多くのコピーの取込みは、「1価」ファージ表示系を生み出す。1価表示は、中庸の親和力及び高い親和力で標的と結合する表示されるポリペプチドを互いに区別することを可能にする。1価表示はまた、低親和力の抗原の1よりも多くのコピーを発現するファージがより高い親和力の抗体の1コピーを発現するファージと同じ見かけの親和力を有することになる「結合力」(avidity)効果を回避することによって、親和力に基づき抗体などのポリペプチドの選択を助ける。しかしながら、多価表示は代替的な利点を提供する。多価表示は特に、結合ポリペプチドの選択の初期段階において特に有用である。スクリーニングの初期段階においては、単一の高親和力の候補を同定するよりも、潜在的なリードとして広範囲のスペクトルのポリペプチドを蓄積することが好ましいことが多い。初期スクリーニングを通して得られたポリペプチドは、次に、一価表示又は他の方法を用いてその親和力に関して順序づけされうる。本発明は、多価表示系のヘルパーファージベクター例(図5A)を提供する。得られるヘルパーファージを細菌細胞に感染させることによって、パッケージングされたファージミド粒子は、遊離pIIIよりも約2倍多い外因性ポリペプチド/pIII複合体を示し、これは、パッケージングされたファージが1コピーよりも多くの結合価を有することを表わしている(例2、図11を参照のこと)。さらに本発明で提供されるのは、KO7遺伝子III外表面配列のコピー及び遺伝子IIIのC末端部分のコピーを担持するM13ヘルパーファージである(図19A及び例4)。後者の配列は、パッケージングのために野生型pIIIと競合する能力をもつ機能的等価物をコードする。得られるヘルパーファージは、一価の表示系を生じるものと予想されている。
【0117】
特に好ましいヘルパーベクターは、一価及び多価の両方の表示を支持する。かかるヘルパーベクターは、例えばM13ファージの遺伝子IIIといった外表面配列の第1及び第2のコピーの間に抑制可能な翻訳停止コドンを取込むことによって構築可能である。抑制可能なコドンは、抑制条件下でコドン(例えば遺伝子III)の下流側のヌクレオチド配列の翻訳を可能にするが、非抑制条件下では翻訳は該コドンで終わる。ヘルパーファージを抑制条件下、例えばサプレッサー細菌菌株内で増殖させるときに、パッケージングのために第1のコピーと競合する外表面タンパク質の第2のコピーが発現される:すなわち一価のファージ表示が起こる。しかしながら、同じヘルパーファージを非抑制細菌菌株内で増殖させるときに、外表面配列の第2のコピーは発現されず、かくして多価表示系が生じる。かくして、抑制可能コドンは、2つの異なる条件に置かれるときにいずれかの表示形態を抑制する便利な「スイッチ」として機能する。抑制可能な翻訳停止コドンの例としては、アンバー、オーカー、及びオパールコドンがある。
【0118】
本発明のアダプタの一般的特徴:
ファージ表示系を構築する上でのさらなる考慮事項は、ペアワイズ相互作用の能力をもつ2つのアダプタをコードする一対のアダプタ配列を選択することである。アダプタ配列の一方はファージミドベクターにより担持された外因性配列とインフレームで挿入されるものであり、もう一方はヘルパーファージベクターの外表面タンパク質の少なくとも1つとインフレームで融合される。「ペアワイズ相互作用」というのは、2つのアダプタが互いに相互作用し結合して安定な複合体を形成できるということを意味する。安定な複合体は、遺伝子パッケージの外表面上でのポリペプチドのパッケージングを可能にするべく充分長く存続しなくてはならない。この複合体又は二量体は、形成時点と表示されたポリペプチドの検出時点との間に存在するか又は導入される条件がいかなるものであっても、それに耐えることができなくてはならず、これらの条件は実行される反応又は検定の関数である。ペリプラズムで組立てられるファージ(例えばM13)については、複合体又は二量体は、それがファージゲノムと共にパッケージングされる細菌ペリプラズム内に常駐する場合充分に安定でなければならない。安定な複合体又は二量体は、それがこの定義のその他の必要条件を満たすかぎり、不可逆的であっても可逆的であってもよい。かくして、過渡的な複合体又は二量体が反応混合物内で形成しうるが、それが自発的に解離して遺伝子パッケージの外表面上に表示される検出可能なポリペプチドを全く生成しない場合には安定な複合体を構成しない。
【0119】
第1のアダプタと第2のアダプタとの間のペアワイズ相互作用は、共有結合性相互作用であっても非共有結合性相互作用であってもよい。非共有結合性相互作用は、共有結合の形成を結果として生じない全ての既存の安定な結合を包含する。非共有結合性相互作用の非限定的な例としては、静電的結合、水素結合、ファンデルワールス力、両親媒性ペプチドの立体嵌合がある。これとは対照的に、共有結合性相互作用は、限定されないが、2つのシステイン残基間のジスルフィド結合、2つの炭素含有分子間のC−C結合、炭素と酸素又は水素とを含有する分子間のC−O又はC−H、及び酸素とリン酸を含有する分子間のO−P結合を包含する、共有結合の形成を結果として生じる。
【0120】
本発明の表示系の発現ベクター及びヘルパーベクターを構築するために適用可能なアダプタ配列は、様々な供給源に由来することができる。一般的に、安定な多量体の形成に関与するあらゆるタンパク質配列が、アダプタ配列の候補である。かくして、これらの配列は、任意のホモ多量体又はヘテロ多量体のタンパク質複合体に由来し得る。代表的なホモ多量体タンパク質は、ホモ二量体レセプタ(例えば血小板由来の増殖因子ホモ二量体BB(PDGF))、ホモ二量体転写因子(例えばMaxホモ二量体、NF−κBp65(RelA)ホモ二量体)及び増殖因子(例えばニューロトロフィンホモ二量体)である。ヘテロ多量体タンパク質の非限定的な例は、プロテインキナーゼとSH2ドメイン含有タンパク質の複合体(Cantley et al. (1993) Cell 72:767-778; Cantley et al. (1995) J. Biol. Chem. 270(44): 26029-26032)、ヘテロ二量体転写因子、及びヘテロ二量体レセプタである。
【0121】
好ましいヘテロ二量体転写因子は、a−Pal/Max複合体及びHox/Pbx複合体である。Hoxは、胚形成中の前−後軸のパターン化に関与する転写因子の大ファミリーを表わす。Hoxタンパク質は、保存された3つのαらせんホメオドメインをもつDNAと結合する。特異的DNA配列に結合するために、Hoxタンパク質は、Pbxホメオドメインといったようなヘテロ因子の存在を必要とする。Wolberger et al.は、Hox−Pbx複合体の形成がどのようにして発生し、この複合体がDNAにどのように結合するかを理解するため、HoxB1−Pbx1−DNA三元複合体の2.35Åの結晶構造を解いた。この構造は、各タンパク質のホメオドメインがDNAの相対する側で隣接する認識配列に結合することを示している。ヘテロ二量体化は、HoxB1のホメオドメインに対する6アミノ酸ヘキサペプチドN末端と、らせん3とらせん1及び2の間に形成されたPbx1内のポケットとの間で形成される接触を通して起こる。Pbx1ホメオドメインのC末端伸長部は、さらに大きな4らせんホメオドメインを形成すべく、らせん1に対してパッキングするαらせんを形成する(Wolberger et al. (1999) Cell 96:587-597; Wolberger et al. J Mol Biol. 291:521-530)。
【0122】
多大な数のヘテロ二量体レセプタも同定されている。これらには、増殖因子(例えばヘレグリン)、神経伝達物質(例えばγ−アミノ酪酸)及び他の有機又は無機の小分子(例えば鉱質コルチコイド、糖質コルチコイド)に結合するものが含まれるが、それらに制限されるわけではない。好ましいヘテロ二量体レセプタは、限定されることなくオピオイド(Gomes et al. (2000) J. Neuroscience 20(22): RC110); Jordan et al. (1999) Nature 399:697-700)、ムスカリン、ドーパミン、セロトニン、アデノシン/ドーパミン及びGABAB レセプタファミリーを包含する、核ホルモンレセプタ(Belshaw et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 93(10): 4604-4607)、erbB3及びerbB2レセプタ複合体、及びG−タンパク質結合レセプタである。既知のヘテロ二量体レセプタの大部分について、それらのC末端配列がヘテロ二量体形成を媒介することが見出されている。
【0123】
本発明の表示系の構築のためのアダプタとして、L及びH鎖の二量体化に関与する抗体鎖の配列を使用することもできる。これらの配列には、L鎖又はH鎖の定常領域配列が含まれるが、それらに制限されるわけではない。さらには、アダプタ配列は、抗原結合部位配列及びその結合抗原に由来することができる。このような場合に、対の一方のアダプタは、対応する抗原残基を含むもう一方のアダプタにより認識される(すなわちもう一方のアダプタと安定な形で会合できる)抗原結合部位アミノ酸残基を含有する。
【0124】
膨大な遺伝子ファミリーについての豊富な遺伝子及び生化学データに基づいて、当業者は、過度の実験無く、本発明の表示系を構築するために適切なアダプタ配列を選択し取得することができるだろう。
【0125】
望ましい場合、新規のヘテロ多量体タンパク質からの配列をアダプタとして利用することができる。かかる状況においては、ヘテロ多量体の形成に関与する配列候補の同定は、過度の実験無くあらゆる遺伝子又は生化学検定により見極めることができる。さらに、コンピュータモデリング及び探索技術により、関連する及び関連しない遺伝子内に現われた共通のドメインの配列相同性に基づいてヘテロ多量体配列の検出が容易になる。相同性探索を可能にするプログラムの非限定的な例は、Blast (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/), Fasta (Genetics Computing Group package, Madison, Wisconsin), DNA Star, Clustlaw, TOFFEE, COBLATH, Genthreader、及びMegAlignである。標的レセプタ又はそのセグメントに対応するDNA配列を含むあらゆる配列データベースを、配列分析のために使用することができる。一般に利用されているデータベースにはGenBank、EMBL、DDBJ、PDB、SWISS−PROT、EST、STS、GSS、及びHTGSが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0126】
ヘテロ二量体化配列に由来する本発明のアダプタは、その物理的特性に基づいてさらに特徴づけすることができる。好ましいヘテロ二量体化配列は、ペアワイズ親和力を示し、ホモ二量体の実質的排除に至るまでのヘテロ二量体の優勢な形成を結果としてもたらす。好ましくは、この優勢な形成により、生理緩衝液条件及び/又は生理体温下で形成できる少なくとも60%のヘテロ二量体、より好ましくは少なくとも80%のヘテロ二量体、より好ましくは85〜90%のヘテロ二量体、さらに好ましくは90〜95%のヘテロ二量体、さらに一層好ましくは96〜99%のヘテロ二量体を含有するヘテロ多量体プールが生じる。本発明の或る種の実施形態においては、アダプタ対のヘテロ二量体化配列の少なくとも1つは、生理緩衝液及び/又は生理体温下でホモ二量体を形成する能力を基本的にもたない。「能力を基本的にもたない」というのは、選択されたヘテロ二量体化配列を単独でテストした場合に、Kammerer et al. (1999) Biochemistry 38:13263-13269)に詳述されている通りのin vitro沈降実験又はin vivo 2ハイブリッド酵母分析(例えばWhite et al. Nature (1998) 396:679-682参照)において、検出可能な量のホモ二量体が生成されないことを意味する。さらに、個々のヘテロ二量体化配列を宿主細胞内で発現させることができ、宿主細胞内のホモ二量体の不在は、限定されることなくSDS−PAGE、ウェスタンブロット及び免疫沈降法を包含する様々なタンパク質分析によって実証可能である。In vitro検定は、生理緩衝液条件及び/又は好ましくは生理体温下で行なわれなくてはならない。一般に、生理緩衝液は、生理濃度の塩を含有し、約6.5〜約7.8、好ましくは約7.0〜約7.5の範囲内の中性pHに調整されている。様々な生理緩衝液がSambrook et al. (1989)(前出)の中で列挙されており、従って本明細書では詳述しない。好ましい生理的条件は、Kammerer et al.(前出)の中で記載されている。
【0127】
前述の物理的特性を示すアダプタ対の例は、GABAB−R1/GABAB−R2レセプタである。これら2つのレセプタは、生理的条件下(例えば in vivo)及び生理体温下でホモ二量体を形成する能力を基本的にもたない。Kuner et al. 及び white et al. (Science (1999) 283:74-77); Nature (1998) 396:679-682))の研究により、 in vivoでのGABAB −R1及びGABAB −R2のヘテロ二量体化の特異性が実証されている。実際、White et al.は、このヘテロ二量体レセプタ対の排他的な特異性に基づいて酵母細胞からGABAB −R2をクローニングすることができた。Kammerer et al. (前出)によるIn vitro研究は、GABAB −R1又はGABAB −R2のC末端配列のいずれも、生理体温下で検定した場合に生理緩衝液条件下でホモ二量体を形成する能力をもたないことを示している。具体的には、Kammerer et al. の沈降実験による実証によれば、GABAB レセプタ1及び2のヘテロ二量体化配列は、単独でテストされた場合には、生理的条件下で及び生理体温(例えば37℃)下で単量体の分子質量で沈降する。等モル量で混合された場合には、GABAB レセプタ1及び2のヘテロ二量体化配列は、2つの配列のヘテロ二量体に対応する分子質量で沈降する(Kammerer et al.の表1参照)。しかしながら、GABAB −R1及びGABAB −R2のC末端配列がシステイン残基に連結された場合、ジスルフィド結合の形成によりホモ二量体が生成し得る。
【0128】
アダプタはさらに、その二次構造に基づいて特徴づけ可能である。好ましいアダプタは、高次コイルらせん構造を採用する両親媒性ペプチドを含んで成る。この高次コイルらせんは、タンパク質中の主要サブユニットのオリゴマー化配列の1つである。一次配列分析により、全てのタンパク質残基の約2〜3%が高次コイルを形成することが明らかになっている(Wolf et al. (1997) Protein Sci. 6:1179-1189)。充分に特徴づけされた高次コイル含有タンパク質としては、細胞骨格タンパク質ファミリー(例えばα−ケラチン、ビメンチン)、細胞骨格モータータンパク質ファミリー(例えばミオシン、キネシン、及びダイニン)、ウイルス膜タンパク質(例えばエボラウイルス又はHIVの膜タンパク質)、DNA結合タンパク質及び細胞表面レセプタ(例えばGABAB レセプタ1及び2)の構成員が含まれる。本発明の高次コイルアダプタは、2つの群すなわち左巻き及び右巻き高次コイルに大きく分類できる。左巻き高次コイルは、「abcdefg」と表記されるヘプタッド反復により特徴づけられ、第1(a)位及び第4(d)位に優先的に位置される無極性残基の存在を伴う。これら2つの位置にある残基は一般的に、もう1つの鎖のものとインタロックする「ノブと穴」のジグザグパターンを構成して、ぴったりとフィットする疎水性コアを形成する。これとは対照的に、高次コイルの周辺を覆う第2(b)位、第3(c)位及び第6(f)の位置は、好ましくは荷電残基である。荷電アミノ酸の例としては、限定されることなく、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性残基、及びアスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン及びグルタミンといった酸性残基が含まれる。ヘテロ二量体高次コイルを設計するのに適している無荷電又は無極性アミノ酸としては、限定されることなく、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン及びトレオニンが含まれる。無電荷残基は一般的に疎水性コアを形成するものの、コア位置においてでさえ電荷残基を含むらせん間及びらせん内の塩架橋を用いて、全体的らせん高次コイル構造を安定化させることがある(Burkhard et al. (2000) J. Biol. Chem. 275: 11672-11677)。様々な長さの高次コイルを用いてよいが、本発明の高次コイルアダプタは、好ましくは2〜10個のヘプタッド反復を含有する。より好ましくは、アダプタは3〜8個のヘプタッド反復、さらに一層好ましくは4〜5個のヘプタッド反復を含有する。
【0129】
最適な高次コイルアダプタを設計する上では、ペプチドの二次構造を予測する様々な既存のコンピュータソフトウェアプログラムを使用することができる。1つの例示的コンピュータ分析では、アミノ酸配列を既知の2本鎖高次コイルのデータベース内の配列と比較し高確率の高次コイル鎖を予測するCOILSアルゴリズムが用いられる(Kammerer et al. (1999) Biochemistry 38:13263-13269)。
【0130】
多量体形成に関与する様々な高次コイルを、本発明の表示系内でアダプタとして利用することができる。好ましい高次コイルは、ヘテロ二量体レセプタに由来する。従って、本発明は、GABAB レセプタ1及び2に由来する高次コイルアダプタを包含する。1つの態様において、本発明の高次コイルは、GABAB レセプタ1とGABAB レセプタ2のC末端配列を含む。もう1つの態様において、本発明のアダプタは、少なくとも30個のアミノ酸残基の異なる2つのポリペプチドで構成されており、そのうちの一方は、図23(GR1)で描かれている比較可能な長さの線状配列と基本的に同一であり、もう一方は、図23(GR1)で描かれている匹敵する長さの線状ペプチド配列と基本的に同一である。
【0131】
好ましい高次コイルアダプタのもう1つのクラスは、ロイシンジッパーである。ロイシンジッパーは、6個のアミノ酸によって互いから分離された4〜5個のロイシン残基を含有する約35個のアミノ酸の鎖として、当該技術分野では定義づけされている(Maniatis 及び Abel, (1989) Nature 341:24)、ロイシンジッパーは、GCN4、C/EBP、c−fos遺伝子産物(Fos)、c−jun遺伝子産物(Jun)及びc−Myc遺伝子産物といったような様々な真核生物DNA結合タンパク質の中で存在することが発見されている。これらのタンパク質において、ロイシンジッパーは、それを含有するタンパク質が安定なホモ二量体及び/又はヘテロ二量体を形成しうる二量体化境界部をつくる。2つの癌原遺伝子、c−fos及びc−junによってコードされるタンパク質産物の分子分析により、このような優先的ヘテロ二量体形成のケースが明らかにされている(Gentz et al., (1989) Science 243:1695; Nakabeppu et al., (1988) Cell 55:907; Cohen et al., (1989) Genes Dev. 3:173)。Fos及びJunのロイシンジッパー領域を含む合成ペプチドはヘテロ二量体形成を媒介することも示されてきており、この合成ペプチドのアミノ末端が各々分子間ジスルフィド結合を可能にするためのシステイン残基を含む場合に、ホモ二量体化を実質的に排除するまでヘテロ二量体形成が起こる。
【0132】
本発明のロイシンジッパーアダプタは、ヘプタッド反復(ロイシン−X1−X2−X3−X4−X5−X6nとして知られている一般構造式を有し、ここで、Xは従来の20個のアミノ酸のうちのいずれかであり得るが、例えばアラニン、バリン、アスパラギン酸、グルタミン酸及びリジンといったαらせん形成能をもつアミノ酸である確率が最も高く、nは2以上であるが、一般的には3〜10、好ましくは4〜8、より好ましくは4〜5である。好ましい配列はFos又はJunロイシンジッパーである。
【0133】
本明細書で使用されているペプチドの線状配列は、両方の配列が実質的なアミノ酸又はヌクレオチド配列相同性を示す場合に、他方の線状配列と「基本的に同一である」。一般に、基本的に同一である配列は、相同性領域のアライメント後、互いに少なくとも約60%同一である。好ましくは、該配列は少なくとも約70%同一であり、より好ましくは少なくとも約80%同一であり、より好ましくは少なくとも約90%同一であり、より好ましくは少なくとも約95%同一であり、さらに一層好ましくは100%同一である。
【0134】
ポリペプチド配列が基本的に同一であるか否かを決定するにあたっては、比較されるポリペプチドの機能性を保存している配列が特に好ましい。機能性は、対合するアダプタと安定な複合体を形能する能力や、アダプタとインフレームで融合されたポリペプチドの表示を促進する能力といったような異なる基準によって実証することができる。
【0135】
本発明のアダプタは、本明細書で例示されているポリペプチド配列と機能的に等価である修飾されたロイシンジッパー及びGABAB ヘテロ二量体化配列を包含する。対合するアダプタに対する改善された安定性及び/又は表示効率を提供する修飾されたポリペプチドが好ましい。修飾されたポリペプチドの例としては、アミノ酸残基の保存的置換、及びヘテロ二量体化特異性を著しく悪く改変することのないアミノ酸の1以上の欠失又は付加を伴うポリペプチドが含まれる。置換は、ペアワイズ相互作用が維持されるかぎりにおいて、1以上のアミノ酸残基の変更又は修飾から、1つの領域の完全な再設計にまで至る可能性がある。アミノ酸置換が存在する場合、それは、好ましくはペプチドのフォールディング又は機能的特性に悪影響を及ぼすことのない保存的置換である。その範囲内で保存的置換を行うことのできる機能関連アミノ酸の群は、グリシン/アラニン;バリン/イソロイシン/ロイシン;アスパラギン/グルタミン;アスパラギン酸/グルタミン酸;セリン/トレオニン/メチオニン;リジン/アルギニン;及びフェニルアラニン/チロシン/トリプトファンである。本発明のポリペプチドは、グリコシル化又は非グリコシル化形態をとることができ、翻訳後修飾(例えばアセチル化及びリン酸化)により、又は合成(例えば標識基の結合)により修飾され得る。
【0136】
本発明のアダプタ配列は、従来の組換えクローニング方法を用いて及び/又は化学合成により得ることができる。充分確立された制限及び連結技術を用いて、適切なアダプタ配列を様々なDNA供給源から切除し、外因性遺伝子配列及び外表面配列とインフレームで組込んでそれぞれ発現及びヘルパーベクターを生成することができる。
【0137】
好ましくは、第1のアダプタ配列は、結果としてもたらされる外因性融合ポリペプチド上に構造的干渉がある場合にそれを最小限におさえるような形で、発現ベクター内に挿入される。第1のアダプタは外因性遺伝子配列の5’側又は3’側に融合され得るが、図9Aでは、アダプタ配列(すなわちGABAB レセプタ1に由来するヘテロ二量体化配列)が外因性遺伝子配列の3’末端にインフレームで融合されている好ましいファージミドベクターが描かれている。
【0138】
同様にして、第2のアダプタ配列は、発現されたファージ外皮の無欠性が損われないような位置でヘルパーベクター中に挿入される。アダプタ配列は、コーディング領域を分断することなく、外表面配列の5’又は3’末端に融合可能である。図5及び図19は、アダプタ配列(すなわちGABAB レセプタ2に由来するヘテロ二量体化配列)が外表面配列、遺伝子III又はその機能的部分の5’末端にインフレームで配置されている2つの好ましいヘルパーファージベクターを描いている。
【0139】
本発明の細菌表示系:
本発明は同様に、以下の2つの構成要素を含む細菌表示系をも提供する:すなわち、(1)細菌細胞又は細菌胞子の外表面上に表示されるべき外因性ポリペプチドをコードする問題の外因性遺伝子を担持する細菌発現ベクター、及び(2)特に問題のポリペプチドの表示を促進するヘルパーベクターである。外因性ポリペプチドが細菌外表面タンパク質との融合体として発現されるような以前に記載されている細菌系とは異なり、本発明の細菌系は以下の特有の特長を有する。まず第1に、細菌発現ベクターは、第1のアダプタとインフレームで融合された表示されるべき外因性ポリペプチドをコードするコーディング配列を含む。第2に、細菌発現ベクターは、細菌又は細菌胞子の機能的外表面タンパク質をコードする外表面配列が欠如している。第3に、ヘルパーベクターは、遺伝子パッケージをパッケージングするのに必要な全ての外表面配列を含み、その外表面配列の少なくとも1つが第2のアダプタ配列にインフレームで融合され、ここで外因性ポリペプチドの表示は第1のアダプタと第2のアダプタとの間のペアワイズ相互作用によって媒介される。
【0140】
本発明のファージ表示系を構築するための以上で概略説明した一般的原則及び実験的設計は、本発明の細菌表示系を生成するためにも同様に適用可能である。細菌発現ベクターは、いずれの機能的外表面タンパク質をコードする配列もが欠如している一方、ヘルパー細菌ベクターはその欠損を補うのに必要な外表面配列を含んでいる。
【0141】
ヘルパー細菌ベクターは一般的には、以下の2つのドメインをもつ外表面タンパク質をコードする外表面配列を含んで成る:すなわち(1)分泌されるべきタンパク質を脂質二層を通してペリプラズムまで誘導するシグナルペプチド;及び(2)外表面タンパク質を細菌細胞の外表面上に配置する能力をもつ膜移行ドメイン。発現された外表面タンパク質は最初にペリプラズムまで輸送され、ここでリーダーペプチドが切断されて離れる。外表面タンパク質がアダプタを含む融合体として発現される場合には、このアダプタは、外因性ポリペプチドに含まれる対合アダプタに結合することによって、ペリプラズムに同じく存在する外因性ポリペプチドが細菌外表面上に移行するのを促進する。
【0142】
これまでの研究により、ヘルパー細菌発現ベクターを構築するために使用することのできる多数の細菌表面タンパク質コーディング配列が明らかになっている。細菌表面タンパク質の非限定的な例としては、LamB(Bremer et al. Proc. Natl. Acad. Sci U.S.A. (1984) 81:3830-34; Gene (1987) 52:165-73);OmpA(Prog Biophys Molec Biol (1987) 49:89-115);OmpC(Misra et al. (1988) J. Bacteriol 170:528-33;OmpF(Pages et al. Biochemimie (1990) 72:169-76);PhoE(van der Ley et al. J. Biol. Chem. 261:12222-5);ピリン(So et al. Curr Top in Microbiol & Immunol (1985) 118:13-28);pldA(de Geus et al. EMBO J. (1984) 3(8):1799-1802);BtuB、FepA、FhuA、IutA、FecA、及びFhuE(Gudmundsdottir et al., (1989) J. Bacteriol 171(12):6526-33);GIP−アンカー型タンパク質INP(Kim et al. (1999) Lett Appl Microbiol 29(5):292-297)及びβ−自己輸送体タンパク質AIDA(Veiga et al. (1999) Mol Microbiol 33:1232-1243)、及びTratT、Pal、Oprl、OsmB、NlpB及びBlaZ、といったようなその他の外膜リポタンパク質がある。細菌胞子の表面上に常駐する数多くの外皮タンパク質も同定されている。その後対応するその遺伝子配列が単離されている。例えば、Donovan et al.は、Bacillus subtilis胞子外皮CotD及びCotC遺伝子の同定について報告した(Donovan et al. (1987) J. Mol. Biol. 196:1-10)。これらの及びその他の表面タンパク質の特徴づけは、Pierre Cornelis et al. (2000) Curr. Opin. Biotech. 11(5):450-454; Lang et al. (2000) Int. J. Med. Microbiol. 290:579-585; Daugherty et al. (1999) Protein Engineering 12(7): 613-621; 米国特許第5,837,500及び第5,348,867号ならびにその中で引用されている参考文献の中で詳述されている。
【0143】
シグナルペプチド及びこれらの及び他の細菌外表面タンパク質の膜移行ドメインは、当該技術分野において周知である。シグナルペプチドは、一般にタンパク質の最初の5〜30個のN末端アミノ酸から成る。膜移行ドメインは一般的に、コンピュータ支援型の従来の配列分析により容易に同定可能である1以上の膜貫通セグメントを含んで成る。当業者であれば、従来の合成及び組換え技術を用いて、適切なポリペプチド及びヌクレオチド配列を容易に得ることができる。望ましい場合、1つの外表面タンパク質のシグナルペプチドを、もう1つの外表面タンパク質の膜移行ドメインに対しインフレームで結合させることができ、或いはその逆もあり得る。かかるキメラは細菌外表面上で発現させることができる、ということが示されている(米国特許第5,837,500号)。かくして、上述の細菌外表面タンパク質のうちのいずれか1つのシグナルペプチドリーダーペプチドを、いずれかの未改変細菌外表面タンパク質の適当な長さの膜移行ドメインに対し、インフレームで連結させることが可能である。同様にして、上述の外表面タンパク質のいずれか1つの移行ドメインを、融合体を細菌ペリプラズムに誘導する能力をもつものとして知られている細菌又は他の起源のいずれかのタンパク質のシグナルペプチドに対し、インフレームで融合させることができる。
【0144】
本発明の細菌発現ベクターは、いずれの機能的細菌外表面タンパク質をコードする配列もが欠如している。上述の配列のいずれもが、本発明の発現ベクターを構築する間に排除されるべき配列の候補である。本明細書で使用されている「機能的」という語は、遺伝子パッケージがその外表面上に問題のポリペプチドを組立てるように、コードされた外表面タンパク質が促進するか又は誘導する能力を保持しているということを意味している。「機能」の喪失は、(1)シグナルペプチドが次に切断されて離れることになる細菌細胞の〔ペリプラズム〕への外表面タンパク質の細胞内移行を誘導する機能的シグナルペプチドの喪失;(2)細菌細胞膜上に成熟ポリペプチドを移行させる膜移行ドメインの機能の喪失;及び/又は(3)いかなる機能的外表面タンパク質の発現をも防ぐための内部停止コドンの導入、を結果としてもたらす修飾に起因しうる。
【0145】
発現ベクター及びヘルパーベクターに連結される該2つのアダプタ配列は、本発明のファージ表示系で利用されるものと同じ構造的及び機能的特徴を有する。ファージ表示系を構築するために適用可能ないずれのアダプタ配列も、細菌表示系を生成するために同様に適している。従って、対合アダプタを選択し調製するための基準及び手順については、この節で繰り返さない。
【0146】
適切な細菌遺伝子パッケージとしては、培養で増殖させることができ、そしてその外表面上で外因性ポリペプチドを表示するように改変することができ、そして親和力選択(affinity selection)に適合した全ての細菌菌株が含まれる。好ましい遺伝子パッケージはグラム陰性菌である。好ましい種の非限定的な例としては、サルモネラ・タイフィムリウム(Salmonella typhimurium)、バシラス・サブティラス(Bacillus subtilis)、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、ビブリオ・コレレ(Vibrio cholerae)、クレブシェラ・ニューモニア(Klebsiella pneumonia)、ナイセリア・ゴノレエ(Neisseria gonorrhoeae)、ナイセリア・メニングチデス(Neisseria meningitides)、バクテロイデス・ノドスス(Bacteroides nodosus)、モラクセラ・ボビス(Moraxella bovis)、そして特にエシャリキア・コリ(Escherichia coli)が含まれる。
【0147】
細菌胞子は、遺伝子パッケージとして望ましい特性を有する。胞子は、化学的及び物理的作用物質に対し、植物細菌細胞よりもはるかに大きな耐性を有する。例えば、バシラス属の細菌は、熱、放射線、乾燥及び毒性化学物質による損傷に対する耐性がきわめて高い内生胞子を形成する(Losick et al. Ann. Rev. Genet. (1986) 20:625-669により再考されている)。さらに、バシラス(Bacillus)属の胞子は、その表面上のタンパク質を活発に代謝又は改変することがない。この現象は、外皮タンパク質の広範な分子間架橋のせいである。遺伝子パッケージとして有用なその他の胞子は、ストレプトマイセス(Streptomyces)の胞子といったような外生胞子である。
【0148】
本発明のファージ及び細菌表示系を構築するためのその他の考慮事項:
本発明のベクターは一般に、外因性ポリペプチドを発現するために必要とされる転写又は翻訳制御配列を含む。適切な転写又は翻訳制御配列としては、限定されることなく、複製起点、プロモータ、エンハンサー、リプレッサー結合領域、転写開始部位、リボソーム結合部位、翻訳開始部位、並びに転写及び翻訳のための終結部位が含まれる。
【0149】
複製起点(一般にori配列と呼ばれる)は、適切な宿主細胞内でのベクターの複製を可能にする。oriの選択は、宿主細胞のタイプ及び/又は利用される遺伝子パッケージにより左右されることになる。宿主細胞が原核生物であり、遺伝子パッケージがファージ粒子である場合、発現ベクターは一般的には2つのori配列を含み、1つは原核細胞内のベクターの自律的複製を導くものであり、もう一方のoriは、ファージ粒子のパッケージングを支持するものである。好ましい原核性oriは、細菌細胞内でのベクター複製を導く能力をもつ。このクラスのoriの非限定的な例としては、pMB1、pUCならびにその他のE. Coli起源が含まれる。ファージ粒子のパッケージングを支持する好ましいoriには、flori、Pf3ファージ複製oriが含まれるが、これらに制限されるわけではない。
【0150】
本明細書で使用される「プロモータ」とは、RNAポリメラーゼを結合し、プロモータから下流側(3’方向に)にあるコーディング領域の転写を開始させる能力を或る種の条件下で有するDNA領域である。これは構成性のものであっても誘導性のものであってもよい。一般に、プロモータ配列はその3’末端において転写開始部位に結合し、上流側(5’方向)に、基準より高い検出可能レベルで転写を開始するのに必要な最少限の数の塩基又は要素を含むようになっている。プロモータ配列内には、転写開始部位ならびに、RNAポリメラーゼの結合を担うタンパク質結合ドメインがある。真核性プロモータは、常にではないが往々にして「TATA」ボックス及び「CAT」ボックスを含んでいる。
【0151】
プロモータの選択は、ベクターが導入される宿主細胞により大きく左右されることになる。原核細胞については、当該技術分野において多様で強力なプロモータが既知である。好ましいプロモータは、lacプロモータ、Trcプロモータ、T7プロモータ及びpBADプロモータである。
【0152】
その他の真核細胞のための適切なプロモータ配列には、3−ホスホグリセリン酸キナーゼ又は他の解糖系酵素、例えば、エノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、及びグルコキナーゼ等が含まれる。成長条件により転写が制御されるという付加的な利点を有する他のプロモータは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロームC、酸ホスファターゼ、窒素代謝と関連する分解酵素、及び前述のグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、並びにマルトース及びガラクトースの利用を担当する酵素のためのプロモータ領域である。
【0153】
本発明のベクターを構築する際には、mRNA及び/又は転写終結シグナルのポリアデニル化を与えるように転写されることが望まれる配列の3’末端に、当該外因性配列と会合した終結配列も挿入される。ターミネータ配列は好ましくは、1以上の転写終結配列(例えばポリアデニル化配列)を含み、転写読み過しをさらに分断するべく、付加的なDNA配列を含むことによっても延長されうる。本発明の好ましいターミネータ配列(又は終結部位)は、それ自身の終結配列又は非相同終結配列のいずれかである転写終結配列が後に続く遺伝子を有する。かかる終結配列の例には、広く入手可能であり以下で例示される、当該技術分野において既知の様々なポリアデニル化配列に連結された停止コドンが含まれる。該ターミネータに遺伝子を含む場合には、検出可能な又は選択可能なマーカーをコードする遺伝子を使用することが有利となり、それにより、ターミネータ配列の存在及び/又は不在(ひいては転写単位の対応する不活性化及び/又は活性化)を検出及び/又は選択することのできる手段が提供される。
【0154】
上述の要素に加えて、ベクターは選択可能なマーカー(例えば、ベクターで形質転換された宿主細胞の生存又は増殖にとって必要なタンパク質をコードする遺伝子)を含有することができるが、かかるマーカー遺伝子は、宿主細胞内に同時導入される他のポリヌクレオチド配列上に担持され得る。選択可能な遺伝子が中に導入された宿主細胞のみが、選択的条件下で存続及び/又は成長することになる。典型的な選択遺伝子は、(a)例えばアンピシリン、カナマイシン、ネオマイシン、G418、メトトレキサートなどといった抗生物質又はその他の毒素に対する耐性を付与する;(b)栄養素要求性欠損を補足する;又は(c)複合培地から入手可能でない重要な栄養素を供給するタンパク質をコードする。適切なマーカー遺伝子の選択は、宿主細胞により左右されることになり、異なる宿主のための適切な遺伝子が当該技術分野において知られている。
【0155】
好ましい実施形態において、ベクターは、少なくとも2つの関連性のない発現系の中で複製する能力をもつシャトルベクターである。かかる複製を促進するため、ベクターは一般に、各々の発現系において1つずつ有効な少なくとも2つの複製起源を含んでいる。標準的には、シャトルベクターは、真核生物発現系及び原核生物発現系において複製する能力をもつ。これにより、真核生物宿主内でのタンパク質の発現(発現細胞型)及び原核生物宿主内でのベクターの増幅(増幅細胞型)の検出が可能になる。好ましくは、1つの複製起点はSV40に由来し1つはpBR322に由来するが、ベクターの複製を導くことを条件として当該技術分野において既知の適切ないずれの起点も使用することができる。ベクターがシャトルベクターである場合、そのベクターは好ましくは少なくとも2つの選択マーカーを含み、うち1つは発現細胞型用であり、1つは増幅細胞型用である。当該技術分野において既知のいずれの選択マーカー又は本明細書中で記載されているものも、利用されている発現系内でそれが機能することを条件として、使用することができる。
【0156】
本発明において具現化されるベクターは、組換えクローニング方法を用いて及び/又は化学合成により得ることができる。PCR、制限エンドヌクレアーゼ消化及び連結といったような多数の組換えクローニング技術が当該技術分野において周知であり、ここで詳細に記載する必要はない。当業者であれば、同様に、当該技術分野において利用可能なあらゆる合成手段により所望のベクターを得るため、本明細書に提供されている配列データ又は公共の又は独自のデータベースを使用することもできる。付加的には、周知の制限及び連結技術を用いて、適切な配列を様々なDNA供給源から切除し、本発明に従って発現されるべき外因性配列と共に作動できるような関係で組込むことができる。
【0157】
本発明の表示系により発現される外因性配列は、任意の長さの非相同配列でありうる。「非相同」というのは、比較される実体の残りとは遺伝的に異なる実体に由来することを意味する。例えば、非相同配列は、遺伝子パッケージ(例えば細菌細胞又はファージ粒子)の中で通常発現されない遺伝子でありうる。あるいは、非相同配列は、遺伝子パッケージに対し未改変であるがその遺伝子が天然に作動可能に連結された未改変配列以外のコーディング配列に連結されている遺伝子でありうる。さらに、非相同配列は、無作為の又は予め定められたポリペプチドでありうる。
【0158】
本発明の系により発現される外因性配列はまた、以下の特徴のうちの1つ以上のものに基づいて特徴づけされ得る:種の起源、発生上の起源、一次構造類似性、特定の生物学的プロセスへの関与、特定の疾病又は疾病期との関連性又はそれに対する耐性、組織、下位組織又は細胞特異的発現パターン及び発現された遺伝子産物の細胞内位置。
【0159】
1つの態様において、外因性配列は、植物細胞、動物細胞又は酵母細胞といったような遺伝子パッケージ以外の実体の中で発現されるいずれの配列であってもよい。
【0160】
もう1つの態様において、外因性配列は、多細胞動物体内での外胚葉、中胚葉又は内胚葉の形成中、又は葉、塊茎、植物の芽の発生中に、胚又は成体生物の中で発現されるものといったような、特異的発生起源をもつものである。
【0161】
さらにもう1つの態様において、外因性配列は、一次構造類似性を共有する遺伝子ファミリー又は遺伝子サブファミリーに属する。構造的類似性は、上述のコンピュータソフトウェアの支援により、見分けることができる。遺伝子ファミリーの非限定的な例には、プロティナーゼ、プロティナーゼ阻害物質、細胞表面レセプタ、プロテインキナーゼ(例えばチロシン、セリン/トレオニン又はヒスチジンキナーゼ)、三量体G−タンパク質、サイトカイン、PH−、SH2−、SH3−、PDZ−ドメイン含有タンパク質をコードするもの、及びthe Institute for Genomic Research (TIGR)、Incyte Pharmaceuticals、Inc.、Human Genome Sciences Inc.、Monsanto及びCeleraにより公表された遺伝子ファミリーのいずれかが含まれる。
【0162】
さらにもう1つの態様において、外因性配列は、限定されることなく細胞周期調節、細胞分化、走化性、アポトーシス、細胞運動性、細胞骨格再配列を包含する、特定の生物学的プロセスに関与する。さらにもう1つの態様において、本発明で具現化される外因性配列は、特定の疾病又は特定の疾病期と関連する。かかる配列には、自己免疫疾患、肥満、高血圧、糖尿病、神経及び/又は筋肉の退化性疾患、心臓病、内分泌障害、それらのいずれかの組合せに関連するものが含まれるが、それらに制限されるわけではない。
【0163】
さらにもう1つの態様において、外因性配列は、制限された発現パターンを示すものを包含する。このクラスの遺伝子転写物の非限定的な例には、遍在的に発現されるのではなく、むしろ葉、種、塊茎、葉柄、根及び芽を包含する1種以上の植物組織において分化して発現されるもの;あるいは、嚢胞性線維症又は多発性嚢胞腎を患う、種々のタイプの(悪性又は非転移性)癌に侵された選択された組織の中で及び心臓、肝臓、前立腺、肺、腎臓、骨髄、血液、皮膚、膀胱、脳、筋肉、神経を包含する動物体組織の中で発現されるものが含まれる。非遍在的に発現される配列の追加の例は、或る種の細胞内位置、すなわち、細胞外マトリックス、核、細胞質、細胞骨格、血漿、及び/又は、限定されることなく被覆小窩、ゴルジ体、小胞体、エンドソーム、リソソーム及びミトコンドリアを包含する細胞内膜構造に、そのタンパク質産物が局在化されるような配列である。
【0164】
本発明の表示系は、遺伝子パッケージの選択可能なライブラリを含み得る。パッケージは同じ又は異なる外因性配列を発現し得る。1つの態様においては、遺伝子パッケージのライブラリは、無作為の又は予め定められたポリペプチドの集団をコードする。もう1つの態様においては、ライブラリは、特定の宿主起源、組織起源、発生段階又は特定の疾病状態の細胞に由来するcDNAの集団をコードする。
【0165】
特に好ましいライブラリは、抗原結合単位をコードする。抗原結合単位は単量体又は多量体でありうる。単量体抗原結合単位は一般に、1本鎖抗原結合単位(Sc Abus)と呼ばれる一方、多量体抗原結合単位はここでは非1本鎖抗原結合単位(Nsc Abus)と呼ばれる。
【0166】
本発明の系により表示され得るNscAbusは、「一価」又は「多価」のいずれかでありうる。表示された多価Abusはさらに「単一特異性」又は「多重特異性」Abusとして特徴づけされ得る。多量体Abusを表示するためには、軽鎖(L)可変領域を含むものと重鎖(H)可変領域を含むものという2組の発現ベクターセットが利用されなくてはならない。発現された抗体領域は、好ましくは抗体領域とインフレームで融合されたヘテロ二量体化配列により二量体化するが、発現された抗体領域の1つはさらに、ヘルパーベクターにより提供される他のアダプタとペアワイズ相互作用する能力をもつアダプタを含んでいなくてはならない。
【0167】
既存の抗体のL鎖又はH鎖の様々な領域に対応するヌクレオチド配列は、限定されることなくハイブリダイゼーション、PCR及びDNA配列決定を包含する従来の技術を用いて容易に取得及び配列決定できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、抗体ヌクレオチド配列の好ましい供給源として役割をする。モノクローナル抗体のアレイを産生する莫大な数のハイブリドーマ細胞を、公共の又は私設のレポジトリから得ることができる。最大の寄託機関は、充分に特徴づけされたハイブリドーマ細胞系統の様々な収集物を提供する米国標準培養収集機構(American Type Culture Collection)(http://www.atcc.org)である。代替的には、抗体ヌクレオチドは、免疫化した又は免疫化していないゲッ歯類又はヒトから、そして脾臓及び末梢血リンパ球といった器官からも得ることができる。抗体ヌクレオチドを抽出し合成するために適用可能な特定の技術は、Orlandi et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 86:3833-3837; Larrick et al. (1989) Biochem. Biophys. Res. Commun. 160:1250-1255; Sastry et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A. 86:5728-5732;及び米国特許第5,969,108号に記載されている。
【0168】
抗体ヌクレオチド配列はまた、例えば、相同性非ヒト配列の代わりにヒト重鎖及び軽鎖定常領域のコーディング配列を置換することによって又はその逆によって修飾することもできる。この要領で、もとの抗体の結合特異性を保持するキメラ抗体が調製される。
【0169】
望ましい場合に、外因性配列は、タンパク質産物の発現及び精製の検出を容易にする部分をコードする配列を含んでよい。かかる部分の例は、当該技術分野において既知であり、例えばβ−ガラクトシダーゼ、β−ラクタマーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)及びそれらの誘導体といったようなリポータタンパク質をコードするものが含まれる。精製を容易にする他の配列は、Myc、(インフルエンザウイルスヘマグルチニンから誘導された)HA、His−6、FLAG、又は免疫グロブリンのFc部分、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)及びマルトース結合タンパク質(MBP)といったようなエピトープをコードし得る。
【0170】
本発明の宿主細胞:
本発明は、上述の発現ベクター及び/又はヘルパーベクターを含む宿主細胞を提供する。発現ベクターは、電気穿孔、微粒子銃;リポフェクション、感染(ベクターは感染性作用物質に結合される)、塩化カルシウム、塩化ルビジウム、リン酸カルシウム、DEAE−デキストラン又はその他の物質を利用したトランスフェクションを含めた数多くの適切な手段のいずれかにより、適切な原核性又は真核性宿主細胞内に導入することができる。宿主細胞の特長に応じて、当業者は、当該技術分野において充分確立されている適切な手段の1種以上を容易に実施することができる。
【0171】
ひとたび適切な宿主細胞内に導入されると、外因性配列の発現は、当該技術分野において既知のいずれかの核酸又はタンパク質検定を用いて決定できる。例えば、外因性配列の転写されたmRNAの存在は、外因性配列のいずれかの領域に相補的なプローブを用いて、従来のハイブリダイゼーション検定(例えばノーザンブロット分析)、増幅手順(例えばRT−PCR)、SAGE(米国特許第5,695,937号)及びアレイに基づく技術(例えば米国特許第5,405,783号、5,412,087号及び5,445,934号)により検出及び/又は定量化可能である。
【0172】
外因性配列の発現は、発現されたタンパク質産物を検査することによっても決定可能である。タンパク質分析のためには、様々な技術が利用可能である。これらには、放射性免疫検定法、ELISA(酵素結合免疫放射線測定法)、「サンドイッチ」免疫検定、免疫放射線測定法、in situ 免疫検定(例えばコロイド含、酵素又は放射性同位元素標識を用いる)、ウェスタンブロット分析、免疫沈降検定、免疫蛍光検定及びPAGE−SDSが含まれるが、それらに制限されるわけではない。
【0173】
本発明の宿主細胞は、なかんづく、本発明の外因性配列のレポジトリとして、ベクターとして又は、その結合特異性に基づきAbusといったような所望のポリペプチドを産生しスクリーニングするためのビヒクルとして使用可能である。
【0174】
本発明のアダプタ誘導型表示系の使用:
本発明のアダプタ誘導型表示系には、いくつかの特異的用途がある。まず第1に、該系は、適切な宿主細胞内での可溶性単量体及び多量体外因性ポリペプチドの産生を可能にする。第2に、該系は、選択された遺伝子パッケージ上の単量体及び多量体ポリペプチドの表示を可能にする。本発明の表示系は同様に、様々な目的のため無作為の又は予め定められたポリペプチド、全長タンパク質及びタンパク質ドメインのライブラリを作成するために使用可能である。例えば、エピトープ及びミモトープをマッピングするため、様々な標的タンパク質のアンタゴニスト及びアゴニストを同定するため、抗体を改変するため、抗体特異性を最適化するため、そして新規の結合活性を作り出すために、表示されたライブラリを利用することが可能である。
【0175】
従って、本発明は、遺伝子パッケージ上に表示される外因性ポリペプチドとテスト物質との間の特異的相互作用の存在を検出する方法を提供する。該方法は、(a)外因性ポリペプチドを提示する本発明の表示系の遺伝子パッケージを提供する段階;(b)安定なポリペプチド−物質複合体を産生するのに適切な条件下でテスト物質と遺伝子パッケージを接触する段階;及び(c)遺伝子パッケージ上の安定なポリペプチド−作用物質複合体の形成を検出し、それにより特異的相互作用の存在を検出する段階を含む。
【0176】
本発明の目的のために「テスト物質」とは、限定されることなく、単純な又は複雑な有機又は無機分子、タンパク質、炭水化物、脂質、ポリヌクレオチド又はそれらの組合せといったような生物学的又は化学的化合物を含むように意図されている。例えばオリゴペプチド及びオリゴヌクレオチドといったようなオリゴマー、及び様々なコア構造に基づく合成有機化合物など、ありとあらゆる化合物を合成することができ、これらも同じく「物質」の語に含まれる。さらに、様々な天然供給源が、植物又は動物抽出物といったようにスクリーニング用の化合物を提供することができる。つねに明示的に述べられているわけではないものの、該物質は、本発明のスクリーニングにより同定される物質と同じ又は異なる生物活性をもつ他の物質と組合せた形で又は単独で使用されるということを理解すべきである。好ましい物質は、細胞のシグナル伝達経路を調節する能力をもつものといったような診断薬及び/又は治療薬の候補である。
【0177】
別の実施形態において、本発明は、所望の特性をもつポリペプチドを取得する方法を提供する。該方法は、(a)本発明の表示系の選択可能なライブラリを提供する段階、及び(b)選択可能なライブラリをスクリーニングすることにより、所望の特性をもつポリペプチドを表示する少なくとも1つの遺伝子パッケージを取得する段階、を含んで成る。該方法はさらに、所望の特性をもつポリペプチドを表示する遺伝子パッケージを単離する段階を含むことができる。このような遺伝子パッケージの単離には、所望のポリペプチドをコードする遺伝子パッケージからヌクレオチド配列を取得することを伴い得る。所望の特性には、問題の物質に対し特異的に結合するポリペプチドの能力が包含される。所望の特性をもつ選択されたポリペプチドは、以下の分子、すなわち、抗原結合単位、細胞表面レセプタ、レセプタリガンド、細胞質ゾルタンパク質、分泌タンパク質、核タンパク質及びそれらの機能的モチーフといった分子の1つ以上のクラスに該当し得る。テストされるべき特異的物質及び表示されるべき外因性ポリペプチドのライブラリの選択は、スクリーニング検定の意図された目的により左右されることになる。
【0178】
所望の結合特異性又は親和性を示す抗体の単離:
ファージ及び細菌表示の最も強力な利用分野の1つは、抗体工学の分野におけるものである。scFv抗原結合単位は、結合特異性及び親和力を見かけ上全く失なうことなく、ファージ粒子及び細菌細胞の両方の表面上で発現され得る、ということが示されている(MaCafferty et al. (1990) Nature 348:552-554; Daugherty et al. (1999) Protein Engineering 12(7):613-621)。また、Fabフラグメントといったような機能的NscAbusがファージ表面上で発現され得る、ということも実証されている。今日、多種多様な抗原に対する抗体が、ファージ表示技術を用いて良好に単離されている。
【0179】
本発明のファージ表示系は、Abusの多種多様なレパートリの提示を可能にすることから、この利用分野に特に適している。数多くの点で、本発明のファージ表示系は、天然の免疫系を模倣している。Abuの抗原により駆動される刺激は、Abusのファージ表示ライブラリから高親和性結合剤についての選択を行うことによって達成できる。分化しつつあるB細胞におけるH鎖及びL鎖遺伝子の組換え時に発生する多数の鎖置換は、DNAとしてのクローニングされたH鎖及びL鎖及びタンパク質をシャフリングすることによって及び部位特異的組換えを使用することによって、模倣することができる(Geoffory et al. (1994) Gene 151:109-113)。ファージ表示されたAbusのCDR領域への突然変異導入によって体細胞突然変異を適合させることもができる。
【0180】
所望の結合特異性又は親和力をもつAbuは、「パニング」(panning)として知られる親和力選択の一形態を用いて同定可能である(Parmley and Smith (1988) Gene 73:305-318)。Abusライブラリは、まず第1に問題の抗原でインキュベートされ、次に結合したファージを伴う抗原が捕捉される。このようにして回収されたファージは次に増幅され、抗原に対する結合について再び選択され、かくして問題の抗原を結合するファージについて富化することができる。通常、一週間で3〜4回の選択を達成でき、1〜100の結合ファージの単離を導く。かくして、所望のAbuを発現する希少なファージを、1回の実験において108 個以上の異なる個体から容易に選択できる。結合するAbuの一次構造は、このとき、個々のファージクローンのヌクレオチド配列により推論される。表示されたAbuにヒトVH 及びびVL 領域が利用される場合、本発明の表示系は、非ヒトAbuを更に操作すること無く、ヒト抗体の選択を可能にする。
【0181】
改善された結合特異性又は親和力をもったAbuを含む新規タンパク質の生成:
本発明の表示系を用いて、標的タンパク質に対する高い親和力及び特異性をもつ、Abuといったような、ポリペプチドを表示する複製可能な遺伝子パッケージを得ることできる。かかるパッケージは、結合産物をコードするポリヌクレオチド及び結合ポリペプチドのアミノ酸の両方を担持している。ポリヌクレオチドの存在は、結合タンパク質の組換え型発現及びその後の操作を容易にする。例えば、親ポリヌクレオチドに類似する改変された配列の洗練されたレパートリを生成するようにするシャッフリング、カセット突然変異誘発又は変異性PCRにより、結合タンパク質についてコードするポリヌクレオチドの突然変異誘発を行うことができる。新規結合タンパク質の洗練されたレパートリをスクリーニングすることにより、改善された結合特異性又は親和性を示す新規結合タンパク質を同定することができる。
【0182】
抗原エピトープのマッピング:
従来、抗原のエピトープマッピングは、物理化学的分析に依存するところが大きかった。これらのアプローチには、(1)精製された抗原を様々なプロテアーゼでフラグメント化し、反応性フラグメントを同定し、それらを配列決定すること;(2)抗原結合単位との残基相互作用が修飾から保護されている化学的修飾実験;(3)抗原の一次構造に対応する一連のペプチドの合成;及び(4)NMR又はX線結晶構造解析を用いた直接的な物理的特徴づけ、が含まれる。これらの方法は全て労働集約的であり、一般にハイスループット分析に適していない。ファージ表示又は細菌表示は、抗原エピトープを局在化させるための高効率で強力な代替案を提供する。抗原の一部分をコードするDNAのフラグメントは、本発明の発現ベクターにより外因性ポリペプチドとして発現することができる。このとき、どの表示されたフラグメントが抗体と反応するかを決定するために、遺伝子パッケージ(例えばファージ、細菌細胞又は胞子)を抗体とテストすることができる。表示技術のこの適用は、当該技術分野において広く用いられ、様々な分子の抗原エピトープを決定するために功を奏するものであることが示されてきた。
【0183】
モノクローナル及びポリクローナルAbusの結合エピトープのマッピング:
本発明の表示系は同様に、抗原結合部位の特異性をマッピングするために無作為ペプチドライブラリを提示するためにも使用することができる。無作為ペプチドライブラリは、そこからエピトープ及びミモトープを機能的に確定させることができる配列の供給源である。このようなライブラリを用いて、抗原−抗体相互作用のための競争的ペプチドを同定および取得し、かくして数多くのAbusのアクセス可能及び/又は機能的な部位をマッピングすることができる。
【0184】
レセプタのリガンドおよび他のシグナル伝達経路のモジュレータの同定:
本発明の表示系は同様に、レセプタに対するリガンドを同定するために利用することができる。このプロセスは一般に、テストリガンドを発現する遺伝子パッケージの集団をレセプタに適用し、次に該レセプタに結合されたパッケージを同定することで進められる。代替的には、レセプタが遺伝子パッケージに提示されてもよい。テストリガンドに結合したものが次に単離される。ペプチドリガンドの同定のためには、無作為ペプチドライブラリが、検定を行うための好ましい出発材料である。同アプローチは、細胞シグナル伝達経路の他のモジュレータを同定するために適用することができる。
【0185】
細胞の活性は、細胞内事象を刺激するか又は阻害する外部シグナルによって調節される。細胞内応答を惹起するため細胞に及び細胞内で刺激又は阻害シグナルを伝達するプロセスは、シグナル伝達と呼ばれる。適切な細胞機能のためには、適切なシグナル伝達が不可欠である。過去数十年にわたり、数多くの細胞シグナル伝達分子が同定され、クローニングされ特徴づけされてきた。シグナル伝達タンパク質の非限定的な例としては、細胞表面レセプタ、プロテインキナーゼ(例えばチロシン、セリン/トレオニン又はヒスチジンキナーゼ)、三量体G−タンパク質、サイトカイン、SH2−、SH3−、PH−、PDZ−、デス−ドメイン含有タンパク質、Human Genome Sciences Inc.,Celera,the Institute for Genomic Research (TIGR) 及びIncyte Pharmaceuticals, Inc.により公表された遺伝子又はタンパク質ファミリーのいずれもが含まれる。増大し続けるシグナル伝達タンパク質ファミリーにより媒介されるシグナル伝達事象のカスケードが解明され、様々な生物学的応答において中心的役割を果たすことがわかっている。その中に入るものとしては細胞周期調節、細胞分化、アポトーシス、走化性、細胞運動性及び細胞骨格再配置がある(Cantley et al. (1991) Cell 64:281-302); Liscovitch et al. (1994) Cell 77:329-334)。シグナル伝達経路の様々な構成要素の欠陥が、数多くの形態の癌、血管系疾患及び神経系疾患を含め、莫大な数の疾患を説明するということもわかっている。実際、シグナル伝達経路を調節する能力をもつ作用物質(すなわちシグナル伝達経路モジュレータ)が長い間、潜在的な診断用物質及び/又は治療用物質として認められてきた。
【0186】
本発明のモジュレータは、該モジュレータの(1)本発明の遺伝子パッケージ上に提示された細胞内シグナル伝達タンパク質に結合する能力、又は(2)シグナル伝達タンパク質と通常関連する細胞タンパク質の存在下で、表示されたシグナル伝達タンパク質との結合のために競合する能力によって特徴づけされる。該モジュレータは、標的シグナルタンパク質のアゴニスト又はアンタゴニストであり得る。
【0187】
cDNAライブラリの発現:
本発明の表示系は、cDNAライブラリの発現に特に適している。上述のように、遺伝子III及び遺伝子VIIIファージ表示系を含む以前に報告された融合系では、挿入点が外表面配列の5’末端に制限される。このため外因性ポリペプチドは、外表面タンパク質のN末端に連結されなくてはならない。結果として、内部停止コドンによるリーディングフレームの分断に起因して、全てのリーディングフレームのコーディング配列のフラグメントを含むcDNAライブラリをこれらの融合系により完全に発現させることができない。しかしながら、本発明の系では、外因性配列が外表面配列とインフレームで融合されていないことから、この一方向クローニングの欠点を被ることはない。
【0188】
cDNA表示は、タンパク質−タンパク質相互作用を確定するための有用な技術となり得る。cDNAライブラリの発現及びスクリーニングは、特に問題の既知のタンパク質を結合する該発現された産物の能力に基づいて新規遺伝子の同定を大幅に容易化する。cDNAでコードされるタンパク質を本発明の遺伝子パッケージの表面上で発現させることができ、これを次に、特定の固定化された標的に対しin vitroで以上に詳述したようなバイオパニング富化によりテストすることができる。
【0189】
表示された外因性ポリペプチド又は無作為又は予め定められたポリペプチドのライブラリがテスト物質に特異的に結合する能力は、当該技術分野において充分に確立された様々な手順によりテストすることができる。一般に、選択は、好ましくはアフィニティクロマトグラフィを用いて実施される。この方法は、一般的にはテスト物質をコーティングしたプレート、カラムマトリックス、細胞、又は溶液中のビオチン標識された物質に、遺伝子パッケージを結合させ、次に捕獲することで進められる。固相に結合された遺伝子パッケージは、洗浄され、その後、可溶性ハプテン、酸又はアルカリにより溶出させられる。代替的には、増大するテスト物質の濃度を用いて、アフィニティマトリックスから遺伝子パッケージも解離させることができる。テスト抗原に対して極めて高い親和力又は結合力をもつ或る種のAbusについては、WO92/01047で記載されているように効率の良い溶出のために高いpH又は穏やかな還元性の溶液が必要となることがある。
【0190】
所望の結合特異性をもつ結合されたポリペプチドを回収する上での潜在的困難性を回避するためには、アダプタと外因性ポリペプチドの間にプロテアーゼ切断部位を導入することができる。この目的で適用可能な切断部位としては、X因子、トリプシン及びトロンビン認識部位が含まれるが、これらに制限されるわけではない。親和性マトリックスに遺伝子パッケージを結合させ非特異的パッケージを洗浄した後に、切断部位での消化に適した条件下でプロテアーゼを伴う抗原親和性マトリックスを洗浄することにより、所望の親和力をもつ外因性ポリペプチドを表示する残りのパッケージを収集することができる。かかる消化は、ファージ粒子といったような遺伝子パッケージから外因性ポリペプチドを放出させることになる。
【0191】
上記手順に対する代替的手順は、強く結合されたファージ又は細菌粒子を保持した親和性マトリックスを取り出し、そして例えばSDS溶液を沸とうさせることなどにより、その核酸を抽出することである。抽出された核酸は、E. Coli 宿主細胞を直接形質転換するために使用することができ、あるいは代替的に、適切なプライマを用いたPCRにより外因性配列を増幅させることもできる。
【0192】
選択効率は、洗浄時の解離動態を含めた複数の要因の組合せ、及び単一ファージ又は細菌上の外因性ポリペプチドの多重コピーが固体支持体上のテスト物質に同時に結合しうるか否かによって左右されやすい。例えば、短時間の洗浄、多価表示及び固体支持体における高い抗原コーティング密度の使用をすることにより、速い解離動態(及び弱い結合親和性)をもつ抗体が保持されるはずである。逆に、長時間の洗浄、1価ファージ及び低い抗原コーティング密度を用いることにより、低い解離動態(及び優れた結合親和力)を伴うAbusの選択が有利になるはずである。
【0193】
代替的には、細胞選別(sorting)により、一定の与えられた物質に対する特異的結合を評価することが可能である。この技術には、選別されるべき宿主細胞に付着したファージ粒子などの遺伝子パッケージ上に外因性ポリペプチドを提示し、次に検出可能部分に結合されたテスト物質で標的細胞を標識化し、次に、細胞選別機中で非標識化細胞から標識化細胞を分離することを伴う。最新式の細胞分離方法が、蛍光活性化細胞選別法(FACS)である。細流の形で単一ファイル内を移動する細胞を、レーザービーム中に通過させ、られ、蛍光標識により結合された各々の細胞の蛍光を次に測定する。
【0194】
望ましい場合には、外因性ポリペプチドのレパートリを無関係のテスト物質に対し予備選択して、望ましくないポリペプチドを対抗選択することが可能である。例えば、Abusレパートリを無関係の抗原に対し対抗選択することができる。例えば抗イディタイプAbusなどを単離するために、関係するテスト物質に対しレパートリを予備選択することもできる。本発明の表示系は、望ましい特異性をもつAbusの急速な単離を可能にする。単離されるAbusの多くは、従来のハイブリドーマ又はトランスジェニック動物技術を通して取得することが困難又は不可能であると予想されるものである。
【0195】
溶出したAbusのその後の分析は、L鎖及びH鎖のアミノ酸配列を記述するためのタンパク質配列決定を伴うことがある。推論されたアミノ酸配列に基づき、次に、PCRライブラリスクリーニング、既存の核酸データベースにおける相同性探索又はそれらの任意の組合せを含めた組換えクローニング方法により、抗体ポリペプチドをコードするcDNAを得ることができる。一般に利用されるデータベースには、Gen Bank、EMBL、DDBJ、PDB、SWISS−PROT、EST、STS、GSS、及びHTGSが含まれるが、これらに制限されるわけではない。
【0196】
本発明のベクターを含むキット
本発明はまた、適切な包装(packaging)内に本発明の発現ベクター及びヘルパーベクターを含むキットを包含する。
【0197】
各々のキットには、宿主細胞内へのベクターの送達を可能にする試薬が必ず含む。ベクターの送達を促進する試薬の選択は、使用される特定のトランスフェクション又は感染方法に応じて異なりうる。キットはまた、外因性配列及びタンパク質産物の検出のための標識化されたポリヌクレオチドプローブ又はタンパク様プローブを生成するために有用である試薬を含んでもよい。各々の試薬は、在庫保管のため、及びその後、実験が行われる時に反応媒体に追加又は交換するために適した緩衝液中に溶解/懸濁させられているか、又は固体形態で供給され得る。適切な包装が提供される。キットは、当該手順に有用な追加的な構成要素を任意的に提供してよい。これらの任意の構成要素としては、緩衝液、捕捉試薬、現像試薬、標識、反応表面、検出手段、対照サンプル、使用説明書及び解釈情報が含まれるが、これらに制限されるわけではない。
【0198】
本発明の表示系、宿主細胞及び遺伝子パッケージの開発及び使用についてのさらなる例示が、以下の「実施例」の欄で示されている。実施例は、当該技術分野において通常の技術をもった実施者に対する指針として提供されるものであって、いかなる形であれ制限的意味をもつものではない。
【実施例】
【0199】
例1:KO7kpnヘルパーファージの調製と使用
A. KO7kpnベクターの構築:
充分に特徴づけされたベクターすなわちM13KO7(Amersham Pharmaciaより入手)を以下で詳述する手順に従って修飾することによって、KO7kpnベクターを構築した。結果として得られたベクターは、遺伝子IIIコーディング領域を分断することなく遺伝子IIIリーダー配列にユニークなKpnI制限部位が挿入されたという点を除いて、KO7と同一である(図3A及び図3Bを参照のこと)。
【0200】
PCRベースの部位特異的突然変異誘発によりKO7ヘルパーファージベクターの遺伝子IIIリーダー配列にKpnI部位を導入した。KpnI部位を含む以下のプライマを用いて、PCRによりKO7ゲノムを増幅した:p3KN1:5’−TTTAGTGGTACCTTTCTATTCTCACTCCGCTG−3’及びp3KN2:5’−TAGAAAGGTACCACTAAAGGAATTGCGAATAA−3’。これらのプライマは、遺伝子IIIリーダー配列に対する部分配列相同性を共有している。
【0201】
PCRは、100ngのKO7ベクターDNA、各々20pmolのプライマ、250μMのdNTP及び1×pfu緩衝液とpfuDNAポリメラーゼ(Stragagene)を含む100μlの反応混合物の形で実施した。反応混合物を最初約96℃でインキュベートし、次に以下の要領でサーモサイクラー内において15サイクルのPCRにかけた:
変性 96℃、30秒
アニーリング 55℃、30秒
伸長 72℃、10分
【0202】
増幅後、産物をゲル精製し、KpnIで切断し連結して、電気穿孔法によりTG1細菌細胞を形質転換した。この細菌細胞をカナマイシン耐性について選択した。具体的には、70μg/mlのカナマイシンを伴う2×YT培地の中で96ウェルのマイクロタイタープレート内でカナマイシン耐性(KanR )コロニーを増殖させ、上清を用いてファージELISA検定によるファージスクリーニングを行うことにより、PCRエラーによりひき起こされた機能喪失突然変異体を排除した。簡単に言うと、ファージELISAを、以下のように行った。すなわち、ファージ粒子を含有する上清100μlを用いて、4℃でELISAプレートのウェルに一晩コーティングした。室温で30分間PBS緩衝液中の5%の牛乳で遮断した後、ELISAプレート上に結合したファージ粒子を、100μlのHRP結合型抗M13抗体(Amersham Pharmacia)と共にさらに室温で1時間インキュベートした。遊離の抗M13抗体を、0.05%のTween20を含有するPBSにより洗い流した。次に、基質ABTS〔2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)〕を添加した。405nmでの吸光度により、HRP活性を決定した。図2は、カナマイシン耐性、ファージ陽性クローンのためのファージELISAスクリーンの結果を示している。ファージ生成のために、48のクローンをスクリーニングした。クローンC2、B3、B7、B9、A12は、ファージ陽性であった。クローンB7、B9及びA12から抽出したDNAを、TG1培養物から調製した。Acc65I(KpnIのアイソシゾマー)及びBamHIでのベクターDNAの二重消化は、600bpのDNAフラグメントを示し、これは、3つのKO7kpnベクタークローン全てにおけるKpnI部位の存在を確認するものである。
【0203】
B. KO7kpnファージの生成:
B9クローンから生成されたKO7kpnヘルパーファージを含有するKanR TG1上清を、2×YT寒天プレート上に線条接種した。0.5mlのTG1培養物(OD600=0.5)と混合した4mlの軟寒天をプレート上に注ぎ込んだ。37℃で一晩インキュベートした後、ファージプラークが形成された。単一のファージプラークをピックアップし、70μg/mlのカナマイシンを伴う10mlの2×YT培養物に接種するために使用した。250rpmで常時振とうさせながら2時間37℃でインキュベートした後、培養物を、70μg/mlのカナマイシンを伴う500mlの2×YTの入った2リットル入りフラスコに移した。常時振とうさせながら培養物を一晩インキュベートした。上清中のファージを次に、ポリエチレングリコール(PEG)/NaClを用いて沈降させ、リン酸緩衝液(PBS)中で再懸濁させた。ファージ濃度をOD268 測定によって決定した。一般に、OD268における1単位の読取値は、その上清が、およそ5×1012 ファージ/mlを含有することを示している。KO7kpnヘルパーファージについての記録されたファージ収量は約1〜2×1012/mlであり、これはM13KO7ヘルパーファージのものときわめて類似していた。
【0204】
C. ファージ表示のためのKO7Kpnヘルパーファージの使用:
scFv抗体AM2のコーディング配列を、scFv−pIII融合体を発現するファージ表示ベクターpABMD1(図22)にサブクローニングした。この表示ベクターを保有するTG1細胞をOD600=0.6まで増殖させ、MOI=10でKO7kpnヘルパーファージにより重複感染させた。感染したTG1細胞を30℃で2×YT/Amp/Kan中で一晩増殖させた。培養上清からPEG/NaClによりファージミド粒子を2回沈降させ、PBS中で再懸濁させた。ファージ上で表示されたscFv−pIII融合体は、ファージELISA検定により検出した。簡単に言うと、0.2μgのAM2−抗原をまず4℃で96ウェルELISAプレート上に一晩コーティングした。5%の牛乳/PBSでの遮断の後、2%の牛乳/PBS中のファージ溶液を1時間ELISAプレート上に置いた。抗原に結合したファージをHRP結合型抗M13抗体とのインキュベーションにより検出した。HRP活性の測定のために、基質ABTS〔2,2’アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)〕を使用した。pABMD1−AM2/KO7kpnベクターを保有するTG1細胞から生成されたファージミドは、非常に強い抗原結合活性を示し、これはKO7kpnヘルパーファージによるscFv抗体AM2の機能的表示を表わしていた。この一連の実験は、本発明の表示系を構築および使用するために利用される試薬のための正の対照としての役割をする。
【0205】
例2:GM−ウルトラヘルパーファージベクターを含むアダプタ誘導型表示系の調製
A. GM−ウルトラヘルパーファージベクターの構築
ベクターpABMD1(図22A)のXbaI部位とBgIII部位の間の配列を、Myc−タグ(図4)及びGR2ドメイン(ヒトGABAB レセプタ2の高次コイルドメイン)のコーディング配列、及びKpnI部位を含む部分遺伝子IIIリーダー配列をコードする合成DNAフラグメントで置換することによって、pABMC6ベクターを構築した。GR2−Mcyドメインのための配列は、pABMD1ベクター内でpIIIコーディング配列と直接融合され、DNA配列決定により確認された。
【0206】
KO7Kpnヘルパーベクター中の部分pIIIリーダー(アミノ酸残基11−19)及び部分pIIIタンパク質(アミノ酸残基1−197)をコードするKpnI/BamHIフラグメントを、pABMC6ベクターからのアダプタ2−pIII融合タンパク質及び部分pIIIリーダーをコードする対応フラグメントで置換することによって、GM−ウルトラヘルパー(UltraHelper)ファージベクターを構築した。結果として得られたGM−ウルトラヘルパーファージベクター(図5)は、GR2ドメイン及びMyc−タグ配列(改変pIIIタンパク質の検出用)が遺伝子IIIとインフレームで融合された改変された遺伝子III融合体(図5B)を含む。
【0207】
GM−ウルトラヘルパーファージベクターを構築するために、B9 KO7kpnヘルパーファージクローン(例1参照)を使用した。改変された遺伝子IIIフラグメントをKO7kpnファージベクターにサブクローニングした後、70μg/mlのカナマイシンを伴う2×YT培地中、96ウェルのマイクロタイタープレート内で、20のカナマイシン耐性コロニーを増殖させた。上清を使用して、例1に記載されているようなELISA検定によるファージスクリーニングを行った。19のクローンがファージ粒子を生成することができた。
【0208】
GM−ウルトラヘルパーファージがGR2−Myc−pIII融合タンパク質と共にパッケージングされたことを確認するために、改変pIII融合を検出するべく、抗Myc抗体(BD Pharmingen からの9E10)を用いたウェスタンブロットを行った。簡単に言うと、4つのクローン(クローン6、9、18及び20)から1〜4×1011のファージ粒子を10分間SDSサンプル緩衝液(2%のSDS、5%のβ−メルカプトエタノール、10%のグリセロール、0.67MのTrice−HCl、pH6.8)中で加熱した。変性サンプルをSDS−PAGEにかけた。SDSゲル中のタンパク質を次にPVDF膜に移し、この膜を次に5%の牛乳/PBS中の2μg/mlの9E10抗体でプローブ探査した。抗マウス抗体−APコンジュゲート及びBCIP/NBT AP基質(Sigma)により、Myc−タグ付きタンパク質を検出した。図6に示されているように、抗Myc抗体により4つのクローン全ての中で単一のタンパク質バンドを検出した。負の対照であるM13KO7ヘルパーファージ中では、Mycを含有するバンドは全く検出されなかった。この実験は、GR2−Myc−pIII融合タンパク質がウルトラヘルパーファージ粒子内に組立てられたことを実証している。GR2−Myc−pIII融合の組立ては、ELISA検定によってさらに確認された(図7参照)。
【0209】
M13ファージがトリプシンに対する耐性をもつことは周知であった。プロテアーゼ切断部位についてのスクリーニングにより、GM−ウルトラヘルパーファージのGR2−Mycドメイン内には7つのトリプシン切断部位が存在することが明らかになった(図5C)。GR2−Mycドメインがトリプシンによりファージ表面から切断され得るか否かをテストするため、クローン18からのGM−ウルトラヘルパーファージを37℃で30分間、異なる濃度のトリプシンにさらし、その後反応を停止するべくトリプシン阻害物質を添加した。図8は、5μg/mlのトリプシンによりMyc−タグを完全に除去できたことを示している。M13KO7ヘルパーファージは、負の対照としての役割をした。
【0210】
B.GM−ウルトラヘルパーファージの生成:
上述のGM−ウルトラヘルパーファージ粒子を含有する上清を用いて、ファージプラーク検定を行った。単一のファージプラークをピックアップし、70μg/mlのカナマイシンを伴う10mlの2×YT培養物に接種するために使用した。250rpmで常時振とうさせながら37℃で2時間インキュベートした後、培養物をファージ粒子の大規模生産のため、70μg/mlのカナマイシンを伴う500mlの2×YTの入った2リットル入りフラスコに移した。上清中のファージを次に、ポリエチレングリコール(PEG)/NaClを用いて沈降させ、リン酸緩衝液(PBS)中で再懸濁させた。OD268 を測定することによってファージ濃度を決定した。OD268 測定は、培養物が約2×1011/mlのGM−ウルトラヘルパーヘルパーファージ粒子を含むことを表わしている。トリプシンによりファージ表面からGR2−Mycドメインを除去することで、ファージ感染力を1〜3倍増大させることができた。
【0211】
C.抗原結合単位を表示するためのGM−ウルトラヘルパーファージの使用:
本発明のアダプタ誘導型表示系においては、問題の外因性ポリペプチドは、外表面タンパク質とインフレームで融合される対合アダプタ(「アダプタ2」と呼ばれる)と相互作用するアダプタ(アダプタ1と呼ばれる)との融合として発現される。2つのアダプタ間のペアワイズ相互作用は、外因性ポリペプチドの表示を促進する。ファージミドベクターpABMX14は、アダプタ1とインフレームで融合された外因性ポリペプチドを発現する発現ベクターの1つである。このベクターpABMX14(図9A及び図9B)はpBluescript細胞(+)に由来した。1組のプライマ(pBS−Ska:5’−GGAATTGTGAGCGGATAACAATTTACCGGTCACACAGGAAACAGCTATGACCATG−3’及びpBS−SKb:5’−CATGGTCATAGCTGTTTCCTGTGTGACCGGTAAATTGTTATCCGCTCACAATTCC−3’)を用いて、PCRベースの部位特異的突然変異誘発により、lacプロモータの直後にユニークなAgeI制限部位を導入し、XhoI部位及びKpnI部位を、切断と平滑末端連結により欠失させた。リボソーム結合配列RBSと、pelBリーダーと、GABAB レセプタ1(GR1、アダプタ1として)及びHA−(His)6−タグ(DH−タグと称する)に由来するアダプタのコーディング配列とを含む、5’でAgeIにより、3’でSalI部位によりフランキングされた合成DNAフラグメントを、改変されたpBluescript細胞(+)にクローニングした。lacZプロモータは、GR1融合の発現を駆動し、したがって細菌細胞で発現される可溶性外因性ポリペプチドの産生を可能にする。
【0212】
本発明を用いて、機能的タンパク質を表示できるということを実証するため、1本鎖抗体AM1をpABMX14ベクターにサブクローニングした。結果として得られたpABMX14−AM1ベクターでTG1細胞を形質転換させ、この細胞を4又は40又は100という感染多重度(MOI)でGM−ウルトラヘルパーファージにより重複感染させた。ファージ粒子を例1に記載されているように生成させ精製した。ファージ表面上で表示された1本鎖抗体を、AM1−抗原でコーティングされたプレートを用いてファージELISAにより検出した。二次抗体は、HRP結合型抗M13抗体であった。ELISAの結果により、3つのMOI感染全てから生成されたファージ粒子が対応するAM1−抗原に対する結合特異性を示すことが明らかになり、これは1本鎖抗体がファージ表面上で機能的に表示されたということを表わしていた(図10)。用量依存性結合が観察された。結合は、ファージ濃度が1012/molに達した時点で飽和した。pABMX14−AM1/M13KO7ベクターを担持するTG1から生成された対照ファージミドは、1013/mlといったような高い濃度でさえAM−1抗原に結合しなかった。ファージ粒子を同様に、抗Myc及び抗HA抗体を用いてウェスタンブロット法によって分析した。非還元性性条件下(例えばβ−メルカプトエタノール無し)で、SDSサンプル緩衝液の中での加熱によりファージ粒子を変性させた。図11は、scFv抗体がGM−ウルトラヘルパーファージによる感染によってのみ表示され、対照のM13KO7ヘルパーファージでは表示されなかったということを示している。抗Mycブロットにより、ライン2内で、遊離GR2−Myc−pIIIに比べほぼ2倍のscFv−GR1−DH/GR2−Myc−pIII複合体がファージ粒子中に組立てられたということも明らかにした。各ファージ粒子は、5コピーのpIII外皮タンパク質を含む。このことは、各ファージ粒子が平均して1コピーより多くのscFv−GR1融合体を担持していることを表わしている。
【0213】
例3:CM−ウルトラヘルパーファージベクターを含むアダプタ誘導型表示系の調製
A.CM−ウルトラヘルパーファージベクターの構築:
ベクターpABMD1(図22A)のXbaI部位とBgIII部位の間の配列を、5’から3’までの遺伝子IIIリーダー配列、KpnI部位、Ala−Cys−Gly−Glyのコーディング配列及びMyc−タグを含む合成DNAフラグメント(図12)で置換することによって、pABMC13ベクターを構築した。この合成配列は、pABMD1ベクター内で遺伝子IIIとインフレームで連結された。
【0214】
KO7Kpnヘルパーベクター内の(アミノ酸残基11−19)及び部分pIIIタンパク質(アミノ酸残基1−197)をコードするKpnI/Bam HIフラグメントを、pABMC13ベクターからのアダプタ2−pIII融合タンパク質及び部分pIIIリーダーをコードする対応フラグメントで置換することによって、CM−ウルトラヘルパーファージベクターを構築した。結果として得られたCM−ウルトラヘルパーファージベクター(図13A)は、pIIIのN末端に配置されたCys−mycドメインと融合された改変pIIIカプシドをコードする。さらに、アンバー停止コドンTAGがCys−Mycコーディング配列と遺伝子IIIとの間に配置されている。かかる停止コドンは、サプレッサー細菌菌株内でファージ粒子全体の増殖を可能にするが、非サプレッサー菌株内ではこれを可能にしない。
【0215】
CM−ウルトラヘルパーファージベクターを構築するために、B9 KO7kpnヘルパーファージクローンを使用した。改変された遺伝子IIIフラグメントをKO7kpnファージベクターにサブクローニングした後、70μg/mlのカナマイシンを伴う2×YT培地中、96ウェルのマイクロタイタープレート内で、24のカナマイシン耐性コロニーを増殖させ、上清を使用して、例1に記載されているようにELISA検定によるファージスクリーニングを行った。23のクローンがファージ粒子を生成することがわかった。
【0216】
CM−ウルトラヘルパーファージが、発現されたCys−Mys−pIII融合体をファージ粒子内にパッケージングできるということを確認するため、抗Myc抗体を用いたELISA検定を行った。選択された5つのクローン由来のCM−ウルトラヘルパーファージは全て、その表面上にMyc−タグを表示した。かかるMyc−タグは、負の対照のKO7ヘルパーファージでは検出できなかった(図14)。
【0217】
B.CM−ウルトラヘルパーファージの生成:
上述の手順に従ってCM−ウルトラヘルパーファージ粒子を含有する上清を用いて、ファージプラーク形成を行った。簡単に言うと、単一のファージプラークをピックアップし、70μg/mlのカナマイシンを伴う10mlの2×YT培養物に接種するために使用した。250rpmで常時振とうさせながら37℃で2時間インキュベートした後、培養物を70μg/mlのカナマイシンを伴う500mlの2×YTの入った2リットル入りフラスコに加えて一晩インキュベートした。ポリエチレングリコール(PEG)/NaClを用いて、TG1上清中のファージを沈降させ、リン酸緩衝液(PBS)中で再懸濁させた。OD268 を測定することによってファージ濃度を決定した。CM−ウルトラヘルパー ヘルパーファージについてのファージ収量は培養1mlあたり約1〜2×1012 であり、これは、M13KO7及びKO7kpnヘルパーファージのものときわめて類似している。トリプシンによりファージ表面からMyc−タグを除去することができる。改変された遺伝子III内に配置されたアンバー停止コドンのために、非サプレッサー細菌菌株TOP10F’内では有意な量のCM−ウルトラヘルパーファージ粒子を生成することができない。
【0218】
C.抗原結合単位を表示するためのCM−ウルトラヘルパーファージの使用
ファージミドベクターpABMX15は、アダプタとインフレームで融合された外因性ポリペプチド(1本鎖抗体AM1)を発現するもう1つの例示的な発現ベクターである。(NotI部位及びSalI部位を用いて)pABMD2のfd遺伝子IIIフラグメントを、HA−タグ及びGly−Gly−Cysをコードする合成DNAフラグメントで置換することにより、pABMD2(図22)からベクターpABMX15(図15A及び図15B)を構築した。
【0219】
CM−ウルトラヘルパーファージベクターを用いて、機能的タンパク質を表示できるということを実証するため、1本鎖抗体AM1をpABMX15ベクターにサブクローニングした。結果として得られたpABMX15−AM1でTG1細胞を形質転換させ、その細胞を1又は10又は50又は100という感染多重度(MOI)でCM−ウルトラヘルパーファージにより重複感染させた。例1に記載されているようにファージ粒子を生成させ精製した。ファージ表面上で表示された1本鎖抗体を、AM1抗原でコーティングされたプレートを用いてファージELISAにより検出した。2×1012のファージを各ウェルについて添加した。二次抗体は、HRP結合型抗M13抗体であった。ELISAの結果から、4つのMOI感染の全てから生成されたファージミド粒子がAM1抗原に対して特異的に結合する能力をもつことを明らかになり、これは機能的1本鎖抗体がファージ表面上で表示されたということを表わしていた(図16)。pABMX15−AM1/M13KO7ベクターを担持するTG1から生成された対照ファージミドは、AM1抗原に結合しなかった。ファージ粒子をウェスタンブロット法のためにも使用した。非還元性条件下(例えばβ−メルカプトエタノール無し)で、SDSサンプル緩衝液の中での加熱によりファージ粒子を変性させた。図17に示されているように、scFv抗体は、CM−ウルトラヘルパーファージによってのみ表示され、M13KO7ヘルパーファージでは表示されなかった。
【0220】
図17はまた、AM1 scFvよりも多くの遊離pIIIがファージ粒子上に表示されていることを表わしている(左図のレーン4を参照)。これは1価表示を表わすものである。これとは対照的に、例2で記載されているGM−ウルトラヘルパーファージ表示系は、遊離pIIIよりも多くのAM1 scFvを生成する(図11、左図のレーン2を参照)。scFv配列中にGABAB レセプタ1のアダプタ配列を含むこと及びGM−ウルトラヘルパーベクター内にアダプタ配列GABAB レセプタ2を取込むことは、ペアワイズ相互作用を増強する。
【0221】
例4:GMCT−ウルトラヘルパーファージベクターを含むアダプタ誘導型表示系の調製
A.GMCT−ウルトラヘルパーファージベクターの構築:
Not1−Bg/IIフラグメントを、Myc−タグのコーディング配列、遺伝子IIIのCTドメイン(アミノ酸217−405)、リボソーム結合部位(RBS)及びOmpAリーダー配列(図22A及び図22B)を含む合成DNAフラグメントで置換することにより、ベクターpABMC6からpABMC12ベクターを構築した。
【0222】
KO7kpnヘルパーベクター内のKpnI/BamHIフラグメントを、pABMC12ベクターからの対応フラグメントで置換することにより、GMCT−ウルトラヘルパーファージベクターを構築した。結果として得られたGMCT−ウルトラヘルパーファージベクター(図19A)は改変されたpIIIカプシドの追加的なコピーをコードし、これはGR2ドメイン、myc−タグ配列(改変pIIIタンパク質の検出用)及びpIIIのCTドメインを含む。改変された遺伝子IIIの下流側では、リボソーム結合配列(RBS)及び細菌タンパク質OmpA由来のリーダー配列が、pAMBD1に由来する遺伝子III配列に融合された。遺伝子III含有配列のこれら2つのコピーが(図19Bに示されている)もとの遺伝子IIIプロモータの制御下に配置されている。例1に記載されたようにファージELISA検定を行ってファージ陽性クローンをスクリーニングした。10クローンのうちの3つが、ファージ粒子を生成することがわかった。大規模ファージ調製のためにクローン3を使用した。
【0223】
B. GMCT−ウルトラヘルパーファージの生成:
上述の手順に従って、ファージプラーク形成検定を実施した。GM−ウルトラヘルパーヘルパーファージについてのファージ収量は、培養1mlあたり約8×1011であり、これは、M13K07及びKO7kpnヘルパーファージのものと類似していた。トリプシンによりファージ表面からGR2−Mycドメインを除去することができる。
【0224】
C.抗原結合単位を発現するためのGMCT−ウルトラヘルパーファージの使用:
GMCTウルトラヘルパーヘルパーファージと組合せた形でのファージ表示のために、プラスミドベクターpABMX14を使用した。1本鎖抗体AM1をpABMX14ベクターにサブクローニングした(pABMX14−AM1と称する)。PABMX14−AM1でTG1細胞を形質転換させ、その細胞を1または10又は50又は100という感染多重度(MOI)でGM−ウルトラヘルパーファージと重複感染させた。例1に記載されているようにファージ粒子を生成させ精製した。AM1抗原でコーティングされたプレートを用いてファージELISAにより、ファージ表面上で表示された1本鎖抗体を検出した。二次抗体は、HRP結合型抗M13抗体であった。ELISAの結果により、4つのMOI感染の全てから生成されたファージミド粒子がAM1抗原に対して類似の結合活性を有することが実証され、これは機能的1本鎖抗体がファージ表面上で表示されたということを表わしていた(図20)。pABMX14−AM1/M13KO7ベクターを担持するTG1から生成された対照ファージミドは、AM1抗原に対して検出可能な結合親和性を全く示さなかった。ファージ粒子をウェスタンブロット分析のためにも使用した。図21に示されているように、scFv抗体は、GMTC−ウルトラヘルパーファージによる感染によって表示されたが、対照M13K07ヘルパーファージでは表示されなかった。
【0225】
例5:パニングによる所望のポリペプチドを表示するファージの富化
可溶性ポリペプチドを産生させるために、様々なDNA配列をpABMX14又はpABMX15ベクターのいずれかの中でクローニングすることができる。この発現ライブラリは、本発明のウルトラヘルパーファージによる感染によって、コードされたポリペプチドを表示するために使用することができる(pABMX14についてはGM及びGMCT、pABMX15についてはCM)。ファージ上に表示された特異的タンパク質又はペプチドは、様々なライブラリから数回のパニングにより富化することができる。パニングプロセスは、以下のように記載される。簡単に言うと、96ウェルのプレートに、4℃で1〜10μg/mlの濃度の特異的抗原を一晩コーティングする。PBSで洗浄し、5%の牛乳/PBSでの遮断の後、1011-12 個のファージを添加し、2時間室温でインキュベートする。本発明のウルトラヘルパーファージは全てpIIIタンパク質に融合された切断可能なMyc−タグを有することから、PBST及びPBSで数回洗浄した後、結合したファージを10μg/mlのトリプシンで30分間溶出させる。トリプシン溶出は、本発明者の実験においては(通常従来のファージパニングで使用される)100mMのトリエチルアミンよりも高い効率を示す。上記プロセスを数回反復することにより、所望のポリペプチドを表示するファージを富化させることができる。
【0226】
例6:細菌ヘルパーベクターの調製及び使用
A. 発現ベクター及び細菌ヘルパーベクターの構築:
ベクターpABMD1(図22A)のHindIII部位とSalI部位間の配列を、GR1アダプタ及びHA−タグをコードする合成DNAフラグメントで置換することによって、発現ベクターpABMX22を構築する。図25Aに示されているように、該ベクターは、抗生物質選択用アンピシリン耐性遺伝子(AMP)、プラスミド複製起点(ColE1 ori)、flファージ複製起点(fl ori)及び、下流側配列plac−RBS−p8L−GR1−HA−タグの発現を駆動するlacプロモータ/lacO1を含んでいる。細菌細胞中での可溶性タンパク質の表示又は産生のための外因性配列を挿入するためにMluI/XbaIまたはMluI/NotIまたはXbaI/NotI制限部位を使用することができる。図25Bには完全ベクター配列が示されている。
【0227】
細菌ヘルパーベクターpABMbd−1(ベクターマップについては図26A、完全ベクター配列については図26B)は、StratageneからのpBC−KS(+)ベクターに由来する。pBC−KS(+)内の2つのBssHII部位間のマルチクローニングサイトの配列は、リボソーム結合配列RBS、pelBリーダー配列、E. coli主要外膜リポタンパク質(Lpp)の最初の9アミノ酸と外膜タンパク質OpmAのアミノ酸46−159とから成るキメラ外膜配列のコーディング配列、及びアダプタGR2配列を含有する、5’でのMluI部位(BssHIIに対して適合した付着末端を伴う)により又3’でのBssHII部位によりフランキングされている(flanked)合成DNAフラグメントによって置換されている。lacZプロモータは、細菌細胞のペリプラスミドに分泌されることになるLpp−OmpA−GR2融合体の発現を駆動する。pABMbd−1ベクターは、抗生物質選択用のクロラムフェニコール耐性遺伝子(Cam)、プラスミド複製用 ColE1 ori起点、及びファージミドパッケージ用flファージ複製起点(fl ori)を含有する。
【0228】
B.細菌ヘルパーベクターを担持するファージミド粒子の生成
pABMbd−1ヘルパーベクターで細菌TG1細胞を形質転換させる。単一のpABbd−1コロニーをピックアップし、50μg/mlのクロラムフェニコールを伴う15mlの2×YT培養物に接種するために使用する。OD600 が0.8に達した後、細菌細胞を37℃で1時間、MOI10でKO7Kpnヘルパーファージにより感染させる。感染したTG1細胞を、クロラムフェニコール及びカナマイシンを伴う500mlの2×YTの入った2リットル入りフラスコの中で一晩培養させる。その後、ポリエチレングリコール(PEG)/NaClを用いて上清中のファージミド粒子を沈降させ、リン酸緩衝液中で再懸濁させた。OD268 を測定することにより、ファージミド濃度を決定する。pABMbd−1ヘルパーベクターをパッケージングするファージミド粒子を次にアダプタ誘導型細菌表示のために使用する。
【0229】
C.抗原結合単位を表示するための細菌発現及びヘルパーベクターの使用
scFv抗体遺伝子AM2をpABMXベクターにクローニングさせる。この発現ベクターを含有するTG1細菌細胞をOD600 =0.8まで増殖させ、細菌ヘルパーベクターpABMbd−1をパッケージングするファージミド粒子で感染させる。発現ベクター及びヘルパーベクターを保有するTG1細胞を、30℃でアンピシリン/Camを伴う2×YTの中で一晩増殖させ、収獲してPBSで洗浄する。表示されたタンパク質はHA−タグでタグ付けされていることから、細菌表面上で表示されたタンパク質を検出するために抗HAタグ抗体を使用することができる。FACS分析実験のため、PBS中で再懸濁した細胞をまずは抗HAタグ抗体と共にインキュベートし、次にフルオレセインFITC標識化抗マウス抗体と共にインキュベートする。PBSでの洗浄後、3〜5×107 /mlのPBS中に再懸濁した細胞を、FACSソータを用いてフルオレジン強度に基づいて計数する。細菌表面上に表示されたタンパク質を検出するために、ELISA検定も使用される。まず第1に、ELISAプレート上に4℃でAM2抗原で一晩コーティングさせる。2時間抗原と共にインキュベートした後、ELISAプレートに結合した細胞を、上述の通り、抗HA抗体及びHRP結合型抗マウス抗体で検出する。
【0230】
可溶性抗体フラグメントの産生のために、様々な抗体配列をpABMX22ベクターにクローニングすることができる。この発現ライブラリは、細菌ヘルパーベクターpABMbd−1をパッケージングするファージミド粒子による感染によって、選択可能細菌表示ライブラリを生成するために使用することができる。抗体を表示する細菌細胞をFITC標識化抗体と共にインキュベートし、FACSソータを用いてフルオレシン強度に基づいてソーティングする。ソーティング後、選択された細胞を、AMPを伴う2×YT培養液中で一晩増殖させる。その後、細胞を新鮮な培地中で継代培養し、表示のため細菌ヘルパーベクターに感染させる。表示された細胞は、次にFACSソーティング選択を再度行うために使用される。
【0231】
例7:改善された親和力をもつAbusの生成及び同定
上述のように、本発明の表示系は、改善された親和力又は特異性をもったAbusの生成及び選択のために特に適している。開示された様々な系の中でも、アダプタ誘導型ファージ表示系は、改善された親和力をもつAbusをスクリーニングするための強力なプラットフォームを提供する。
【0232】
本発明者は、その配列及び対応する抗原が以前に記述されているAM3 scFv抗体という名称の既存のAbuを改変することを選択した。このプロセス(以下「抗体親和力成熟」(antibody affinity maturation)と称する)は、GMCTベクターのフォーマットでAM3 ScFv抗体のライブラリを生成することで開始される。AM3 scFv抗体の枠組構造はVH及びVL領域から成るが、その各々を記載されている通りベクターpABMX14の対応する位置にサブクローニングした(図9A参照)。AM3抗体結合親和力を改善するために、多数の位置でアミノ酸残基の様々な置換を含むライブラリとしてVHのCDR3を構築した。該ライブラリは、PCR増幅及び制限消化の後にAM3 scFv遺伝子のその位置へのサブクローニングをもたらすべく両末端で制限部位をフランキングする変性DNAオリゴの標準的有機合成を通して調製された。該ライブラリは、およそ107 の多様性を有する(すなわち、約107 種のAM3抗体変異体を含む)。DNA連結の後、該ライブラリをTG1コンピテント細胞内に電気穿孔させた。その後、形質転換体を収獲し、GMCTウルトラヘルパーファージによりレスキュー(rescue)した。その後、以上の例で記載した通り、ファージ粒子を収集した。
【0233】
このように構築されたアダプタ表示ライブラリをスクリーニング又は「パニング」するために、本発明者は最初に、4℃で0.05MのNaHCO3 pH9.6緩衝液中でNunc Maxisorb 96ウェルプレート上に組換え型抗原を一晩固定化した。2%の牛乳を伴うPBS緩衝液中で希釈された1012個のファージ粒子を含有するライブラリファージのアリコートを、上記抗原でコーティングされたウェルに添加した。2時間37℃での結合後、ウェルを洗浄し、本明細書で記載した方法に従ってファージを溶出させた。溶出したファージを用いてTG1細胞に感染させ、次にGMCTウルトラヘルパーファージでレスキューした。30℃で一晩培養した後、ファージをTG1細胞内で増幅させ、ファージは次回のパニングのために直ぐに収獲できる状態となった。GMCTファージライブラリパニングを通して高親和性結合剤を選択するために、このライブラリを用いて、異なる解離条件で全体で多数連続回のパニングを行った。
【0234】
最終パニングの後、個々のクローンを無作為にピックアップし、同じ組換え型抗原を用いてELISAによりさらに分析した。以上で記載した手順により96ウェルのマイクロタイタープレートのフォーマットでELISAを行った。図27に示されているように、選択されたクローンは全て、抗原と陽性反応(すなわち抗原に結合)した。
【0235】
上述のELISAで陽性反応性を示したクローンを次に配列決定のために無作為にピックアップし、VHのCDR3上の残基をマッピングし、ここから一定数の代表的クローンをタンパク質の発現のために処理した。AM3抗体の場合、Invitrogen Life Technologiesにより記載されているように、Pichia発現系により全てのscFvが発現された。Pichia培養物上清由来の可溶性のHis−タグ付けされたscFvsを、Qiagenのマニュアルブックに従って、Ni−NTAアガロースカラム(2ml)により直接精製した。Ni−NTAカラムから溶出された画分のアリコートを、SDS−PAGE及びクーマシーブルー染色により分析した。図28に示されているように、画分#2及び#3の両方の中で、主要タンパク質バンドとしての30KDのscFvが検出された。scFv及び他のあらゆるホモ二量体を除去するため、画分#2及び#3を組合せ、さらにゲルろ過クロマトグラフィ(HiLoad 16/60 Superdex 75カラム、Amersham-pharmacia biotech)にかけた。
【0236】
図29は、3OKDの単量体scFvタンパク質が、ゲルろ過クロマトグラフィによりホモ二量体scFv及びその他から充分分離されたことを示している。その後、精製された単量体scFvタンパク質を用いて、固定化されたタンパク質抗原に対するAM3抗体の結合動態を BiaCore(表面プラスモン共鳴)により分析した。図30に示されているように、ライブラリから選択された4つのAM3変異体(X107、X110−112)は全て、野生型に比べ有意に低い解離速度(Koff)とより高い結合親和力を示した。例えば、X112についてのKoffは2.88×10-4-1であり、野生型についてのKoffは2.77×10-3-1である。X112抗体は、野生型抗体よりもほぼ10倍低い解離速度を有する。これらの結果はさらに、抗体工学における本発明のファージアダプタ誘導型表示系の利用可能性及び技術的優位性を実証している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のファージ粒子を含んで成り、その少なくとも1つが、その外表面上に融合ポリペプチドを表示するファージ粒子であって、前記融合ポリペプチドは、第1のアダプタとインフレームで融合された表示される外因性ポリペプチド配列を含んで成り、前記第1のアダプタは、適切な宿主細胞内で融合ポリペプチドが産生されるときに、外表面タンパク質に連結された第2のアダプタと該第1のアダプタとの間の非共有結合性のペアワイズ相互作用を介して融合ポリペプチドの表示をひき起こすように作用するファージ粒子である、選択可能ライブラリ。
【請求項2】
複数のファージ粒子を含んで成り、前記複数のうちの少なくとも1つの構成員が、アダプタ誘導型表示体を単一の宿主細胞内で転写および翻訳させる段階を含んで成る、ファージ粒子の外表面上にポリペプチドを表示するための方法に従ってその外表面上にポリペプチドを表示し、ここで、前記アダプタ誘導型表示体は、
(a)第1のアダプタ配列にインフレームで融合された外因性ポリペプチドをコードするコーディング配列を含み、該ファージ粒子の機能的外表面タンパク質をコードする外表面配列が欠如している、発現ベクターと、
(b)該ファージ粒子をパッケージングするために必要な外表面タンパク質をコードする外表面配列を含み、該外表面タンパク質の少なくとも1つがインフレームで第2のアダプタに融合された、ヘルパーベクターとを含んで成り、
前記第1のアダプタと第2のアダプタは、適切な宿主細胞内で該ポリペプチドが産生されるときに、第1のアダプタと第2のアダプタとの間のペアワイズ相互作用を介して該ポリペプチドの表示をひき起こすべく作用する、選択可能ライブラリ。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23】
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【図24】
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【図25A】
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【図25B】
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【図26A】
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【図26B】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2011−74078(P2011−74078A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255231(P2010−255231)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【分割の表示】特願2003−560152(P2003−560152)の分割
【原出願日】平成14年11月1日(2002.11.1)
【出願人】(504041309)アブマクシス,インコーポレイティド (3)
【Fターム(参考)】