説明

アッセイの内部補正(normalization)方法及びシステム

内部標準濃度が、特徴的な試薬を有するシステム及び確定アッセイデバイスにおける緩衝液コンダクタンスの測定を通じて、独立したパラメータとして補正(normalized)される。新鮮な(fresh)の内部標準溶液の伝導率は、単独で、又は蒸発や結露などの一様な変動を受けやすいシステムの一部として、測定される。収集されたコンダクタンス測定値は、蛍光アッセイシグナル測定値のような流体チャネル寸法に左右されるアッセイシグナルを補正(normalize)するのに使用してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2006年12月28日に提出された米国特許出願No.60/882、514の優先権を主張し、参照によって本明細書に組み入れられる。
【0002】
[技術分野]
本発明は、アッセイの内部標準化(standardization)方法及びそのシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
蛍光標識されたDNAのような内部標準は、電気泳動アッセイ中のピークを揃える内部標準として、及び蛍光標識された検体ピークからのピークシグナルを補正する(ノーマライズ:normalize)定量的基準マーカーとしても使用できる。検体ピークの強度は、試験試料中の検体の濃度を定量化するために使用されたシグナルである。励起レーザー光強度、光焦点などにおける変動のように、導入試料の容量又は標識の検出感度に影響を与えるアッセイシステム中に変動が存在すると、検体用のシグナルが影響を受けて検体濃度の測定に誤差が生じる。内部標準に対してシグナルを補正する(ノーマライジング:normalizing)ことで、検出感度、試料容量の誤差、及びチップチャネル深度の変動による検出容量の変動のようなチップ変動におけるシステムの変動に対してシグナルをコントロールできる。
【0004】
内部標準に関わる問題は、内部標準が試料緩衝液又は他の試薬に含まれており、そして例えば、数日間、数週間、又は数月間にも亘る連続操作を対象としたシステムに保管する時、内部標準の濃度を上昇させる又は減少させる蒸発又は結露のために内部標準が変動を受けるであろうことである。毎日、試料緩衝液を取り換えることで解決されるであろうが、利用者にとっては不便でかつ費用がかかる。別の可能な解決策は、試料として実施される外部キャリブレータを具備することである。これを使用することでシステムを較正し、また濃度対応曲線(concentration response curve)を調整することができるが、個々のチップ変動又は個々のアッセイ変動に対して各試験をコントロールすることはない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本アッセイシステムは、マイクロ流体電気泳動アッセイシステムのようなシステムに対して内部標準を使用する問題に対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本システムを用いることで、蒸発、結露、又はプローブ洗浄液のプローブキャリーオーバーのような要因のための内部標準濃度の変動をコントロールできる。検体シグナルの内部標準による較正(calibration)を補正(correct)するために、試薬が新鮮(fresh)な時の緩衝液伝導率(conductivity)が本システムで使用され得る。緩衝塩は緩衝液伝導率(conductivity)に対する主要な寄与因子であり、これらの塩の蒸発(evaporation)による濃縮又は結露(condensation)による希釈又はプローブキャリーオーバーが緩衝液の伝導率を変化させる。したがって、アッセイに先駆けたチップにおけるこの緩衝伝導率の測定によって、試料緩衝液を含めた、チップを満たすために使用される試薬の蒸発レベルの測定を可能にする。チップチャネル内の電極配置のため、試料緩衝液の伝導率を直接測定できない場合は、試薬成分の内の1つの蒸発レベルを測定し、蒸発の影響を試料緩衝液及び内部標準に外挿することができる。
【0007】
コンダクタンス(conductance)の変化の測定は、チップ形状の測定としても使用できる。なぜならば、測定されたコンダクタンス(conductance)は緩衝液伝導率、チャネルの長さ及び断面積の関数であるためである。熱可塑性プラスチック材料のフォトリソグラフィー加工又は成形によって作製されたチップのチャネル形状の1つの主要な変数は、深度寸法にあるといえる。前記コンダクタンスを、機器上の基準チップに対する機器上の新しいチップの初期測定値に参照付けることによって、アッセイシグナルを補正して(normalize)、チップ形状のシグナル強度への影響を補正することが可能となり、このシグナル強度への影響は主にチップチャネルの深さと幅であり、そのうち深さは主要な変数となり得る。
【0008】
このようにして、コンダクタンス測定値は、マイクロ流体電気泳動アッセイで使用される時の有用なパラメータであり、またこれらのアッセイの精度と再現性を向上できる。
【0009】
本発明に従って、アッセイシステムの補正(ノーマライゼーション:normalization)方法が提示され、この補正(normalization)方法は、アッセイシステム内に内部標準溶液を含有する緩衝液を具備し;アッセイに先立って緩衝液の電気コンダクタンス(conductance)測定値を求め;電気コンダクタンス(conductance)測定値に基づいて緩衝液の濃度変化を求め;アッセイ結果を補正する(normalizing)ために緩衝液の濃度変化に基づいて内部標準溶液の濃度を決定する、ことを含む。
【0010】
本方法の緩衝液が内部標準のために用意され、複数の成分を含有してもよく、その成分の1つが内部標準溶液である。緩衝液の電気伝導率(conductivity)はこの複数の成分の総電気伝導率である。内部標準溶液の濃度は、緩衝液の濃度変化を外挿することによって求めてもよい。緩衝液の電気伝導率は、緩衝液中の塩又はイオンの濃度とほぼ比例する。
【0011】
アッセイに先立って電気伝導率測定値を求める前に、緩衝液の初期濃度及び緩衝液の対応する電気伝導率測定値を求めてもよい。
【0012】
本方法で述べられるシステムはマイクロ流体電気泳動アッセイシステムであってもよく、本アッセイシステムでは、アッセイ結果は蛍光内部標準シグナル及び内部標準溶液の濃度に基づいて補正(normalized)してもよい。
【0013】
さらに、本発明は、アッセイシステム内に複数の緩衝液成分を具備し、その成分の内の1つが内部標準溶液を含有し;アッセイに先立って複数の緩衝液成分の電気伝導率測定値を求め;伝導率測定値に基づいて複数の緩衝液成分内の塩又はイオンの濃度変化を求め;そして、アッセイ結果を補正する(normalizing)ために塩又はイオンの濃度変化に基づいて内部標準溶液の濃度を決定する工程を含む、アッセイシステムの補正(ノーマライゼーション:normalization)方法である。
【0014】
さらに、本発明は、緩衝液試薬を収容するウェルを有し、そのウェルの内の1つが内部標準溶液を収容するウェルを具備する基板;前記ウェルを連結するマイクロチャネル;緩衝液試薬を収容するウェル間で電気コンダクタンス(conductance)を測定するための回路部材;ウェル間で電気コンダクタンス(conductance)測定値から緩衝液試薬の塩濃度又はイオン濃度を測定するための制御部材;あらかじめ決められた情報を記憶及び取り出す記憶部材を含み;制御部材が記憶部材中のあらかじめ決められた情報に基づいて塩濃度又はイオン濃度から内部標準溶液の濃度を外挿する、アッセイシステムに関する。
【0015】
本アッセイシステムはマイクロ流体電気泳動アッセイシステムであってもよく、また制御部材は内部標準溶液の濃度に基づいて、又は記憶部材に記憶された蛍光内部標準シグナルを用いてアッセイ結果を補正する(normalize)ことができる。この制御部材は、電気コンダクタンス測定値を記憶部材に記憶された標準情報と比較することによって本システムの形状寸法の変動(geometric dimensional variations)に対してアッセイ結果を補正する(normalize)こともできる。
【0016】
あらかじめ決められた情報は、塩又はイオンの濃度情報を内部標準溶液の濃度と関連付けるデータであってもよい。
【0017】
さらに、本発明は、アッセイシステム内に内部標準溶液を含有する緩衝液を具備し;アッセイに先立って緩衝液の電気コンダクタンス(conductance)測定値を求め;そして、電気コンダクタンス(conductance)測定値に基づいてアッセイ結果を補正する(normalizing)こと、を含むアッセイシステムの補正(ノーマライゼーション:normalization)方法に関する。
【0018】
さらに、本方法は、電気コンダクタンス(conductance)測定値に基づいて緩衝液の濃度変化を求め;そしてアッセイ結果を補正する(normalizing)ために緩衝液の濃度変化に基づいて内部標準溶液の濃度を決定する工程を含んでもよい。
【0019】
さらに、本補正(ノーマライゼーション:normalization)方法は、電気コンダクタンス(conductance)測定値をあらかじめ決められたデータと比較する工程と;この比較に基づいてアッセイ結果を補正する(normalizing)工程を含んでもよい。
【0020】
前述の一般説明も以下の詳細な説明も例示的なものであり、かつ説明だけを目的とし、請求の範囲に記載されている本発明に制限されるものではない。
【0021】
添付図面は、本明細書に組み入れられ、その一部となるものであり、本発明の実施態様を示しており、明細書の記載とともに発明の原則を説明するためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は伝導率とNaCl濃度との関係の例である。
【図2】図2は伝導率と内部標準濃度との関係の例である。
【図3】図3は伝導率対NaCl濃度に関するデータの例示的グラフを示す。
【図4】図4は伝導率対HiLyte IS濃度に関するデータの例示的グラフを示す。
【図5】図5はマイクロチャネルと連結されているウェルを具備するデバイスの例である。
【図6】図6は図5に示されたデバイスと同等の電気回路の例である。
【図7】図7はアッセイシステムの例である。
【図8】図8はTB−LB電流を使用する補正(normalization)の実施例のグラフである。
【図9】図9はHO−LB電流を使用する補正(normalization)の実施例のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の本実施態様を詳細に述べて、その実施例を添付図面に示す。可能な限り、同じ又は類似の部品を参照するため、図面全体を通じて同一の参照番号が使用されている。
【0024】
マイクロ流体デバイス中の蛍光プローブについて測定されたシグナルの補正(normalization)のための蛍光内部標準の使用は、内部標準(IS)シグナルの安定性不足に苦しんでいる。試料希釈緩衝液や抗体試薬のような試薬又は分離緩衝液が、内部標準を含有する場合、その標準の濃度は、内部標準を保管するために使用される保管容器内での蒸発又は結露の程度に応じて変化する。アッセイを行っている日の間中に、この容器の蓋が外されていた場合、室温での蒸発の程度はきわめて大きく、1ないし2週間の使用で10%から20%のオーダーである。これにより、補正(normalization)のためにこの内部標準を使用したアッセイ結果に偏りが生じる。
【0025】
電気伝導率の測定値又は電気伝導率と蛍光内部標準シグナルとの測定値の組み合せを用いることにより、機器及びチップの変動が試験結果に大きな偏りもたらさないようマイクロ流体アッセイからの蛍光シグナルを補正(normalized)できる。最初の測定値、つまり内部標準含有溶液の電気伝導率を、内部標準の変化を制御及び補正するために使用してもよい。
【0026】
蒸発又は結露による内部標準溶液の濃度変化は、内部標準溶液の電気伝導率変化と相関している場合もある。IS溶液電気伝導率は、NaCl又は他のイオン緩衝液などの溶液中の緩衝塩の濃度によって支配される。この電気伝導率はNaClの濃度と比例するため、初期電気伝導率が求まったら、安定電流計が、NaCl濃度変化の程度を測定するのに使用できる。NaCl濃度変化が分かっている場合、内部標準などの他の緩衝液成分での変化を外挿することが可能である。それによって、マイクロ流体システムの耐用年数の期間中、内部標準濃度を校正することができ、またこのISはアッセイシグナルを補正(normalize)するのに信頼して使用できる。
【0027】
図1は、この溶液の電気伝導率とNaCl濃度との関係の例を示す。Y1は測定された伝導率を示し、X1は測定された伝導率から求めたNaCl濃度を示す。図2は溶液の伝導率と内部標準の濃度との関係の例を示す。Y2は計算された伝導率を示し、X2は計算された伝導率から求めた内部標準濃度を示す。
【0028】
緩衝塩としてNaCl及び内部標準としてHiLyte蛍光色素を使用する実測値を、それぞれ図1及び図2に示す。相対蛍光単位(RFU)で測定された場合の様に、緩衝塩とIS濃度との間に伝導率の相関が存在する。緩衝液の最高濃度は、125mM NaClおよび8.75μM HiLyte色素を、非イオン界面活性剤であるTween−20を0.05%含有する水で希釈したものであった。陰性対照はNaCl及びHiLyte色素を含有していない、0.05%のTween−20を含有する脱イオン水であった。蛍光分光計及び電気伝導率電極によって測定を行った。当該アッセイ濃度時の塩のこれらの濃度における電気伝導率及び蛍光色素は、線形比例であることが示されている。
【0029】
いくつかの測定試薬の総伝導率を測定する場合、IS濃度の外挿は間接的となる可能性がある。例として、図5で示されるようなマイクロ流体デバイスを検討することができる。この図では、すべてのウェルは円で示されているが、点の印が付けられたそれぞれ3つのウェルだけが電極を含んでいる。このデバイスはトレーリング緩衝液(TB)ウェル、リーディング緩衝液(LB)ウェル、廃液ウェル(WA)1〜4、及び内部標準試料を収容するBウェルを含むA〜Cウェルを具備している。また、WA4ウェルとLBウェルとの間に配置されたハンドオフ(HO)ウェルが存在する。
【0030】
図6に示されたマイクロ流体デバイスの電気等価回路は、1つの共通内部ノードに3つの抵抗器が接続されている星形ネットワークの関係で表すことができる。電極を有する3つのウェルは、図6の電気等価回路中の各ノードに対応している。すなわち、ノード1はTBウェルに対応し、ノード2はHOウェルに対応し、ノード3はLBウェルに対応している。ノード1とノード2との間に電圧(V2−V1)を印加し、電流を測定することで、抵抗R1とR2の合計を測定できる。
【0031】

【0032】
ノード1及び3並びにノード2及び3との間の抵抗R13及びR23は、それぞれ同じ方法で測定することができる。3つの抵抗の合計が分かっていれば、抵抗R1〜R3の個々の値は以下のように計算できる。
【0033】

【0034】
図5に示されたマイクロ流体デバイスに関しては、なんらかの電気試験を行う前に、デバイスは廃液ウェルWAを同時に陰圧印加して満たされる、この時、他のウェルは大気圧であるけれども試薬又は緩衝溶液で満たされる。これによって図5に示された注入パターンが作り出される。個々のチャネルセグメントは、1つだけを例外として、ウェルの1つだけを起源とする溶液で満たされる。この例外はスタッキングゾーンと呼ばれるセグメントであり、最後の廃液チャネル交点とハンドオフ交点との間に位置している。そのセグメントは、これら2つの分岐の流体力学伝導率に比例して、HOウェルから来る溶液とLBウェルから来る溶液との混合物で満たされる。
【0035】
各チャネルにおいては、形状(geometry)と、各セグメントを満たす溶液の由来が既知である。HOチャネル(HOウェルとスタッキングゾーンとの間)及びLBチャネル(LBウェルと分離ゾーンとの間)においては、これらチャネルの各々はチャネルの終端で個々のウェルから来る溶液で一杯に満たされる。上記の方法に基づいて、これらのチャネルの電気抵抗は以下によって求められる。
【0036】

【0037】
式中、Lはチャネル長、Aはチャネルの断面積、σは電気伝導率(conductivity)、Rは電気抵抗、及びGは電気コンダクタンス(conductance)である。チャネルの形状(geometry)が既知のため、HOウェル及びLBウェルから来る溶液の実際の伝導率を推定できる。したがって、この測定値は、緩衝液の調製における変動、保管中のエージング、大気中からの二酸化炭素の吸収、及び溶液がウェルにある間の水の蒸発を由来とする伝導率の変動と関連している。
【0038】
各々のウェルに由来する溶液がチャネルに存在するため、トレーリング緩衝液(TB)に連結されているチャネルの状況はさらに複雑である。スタッキングゾーンと呼ばれるHO交点に最も近いこのチャネルの断面を検討する。陰圧印加中は、スタッキングゾーンは、以下に示される比率でHOウェル溶液とLBウェル溶液の混合物で満たされている。
【0039】

【0040】
式中、
【0041】

【0042】
はHOチャネルの流体力学伝導率であり、また
【0043】

【0044】
はLBチャネルの流体力学伝導率である。電気伝導率は、図3で示すデータのように、溶液のイオン濃度とほぼ比例し、またこれらの濃度は以下の式を求めるべくこれらの注入比に従って混合され、
【0045】

【0046】
そして、スタッキングゾーンの既知の形状(geometry)に加えて、この伝導率と共に、スタッキングゾーンの抵抗が以下のように求められる。
【0047】

【0048】
TBウェルに連結されたチャネルの総抵抗Rからこの抵抗を差し引くことにより残りの抵抗の合計が求められる。
【0049】

【0050】
式中、右側の抵抗は、それぞれ、TBウェル、DNA−Abウェル、試料ウェル、及び標識−Abウェルからの溶液で満たされたチャネルセグメントに対応する。
【0051】
より多くの電気的接触が欠如しているため、抵抗Rをさらに成分に細分することはできない。しかしながら、目指すことはチャネル形状(geometry)(特に深さ)による変動及びウェルにおける蒸発を補正することにある。これら両方の要因は、すべての試薬バイアル及びウェルにおいて同一と考えられる蒸発を含めて、チップ全体に共通しているが、その理由は、チップ全体は形状(geometry)が同一で、同一の外部条件に曝されるからである。補正(normalizing)要因として電気コンダクタンスG=1/Rを使用することによってこれはなしうる。
【0052】
以下の考察において、Gは試料プラグの実際のコンダクタンスによって最も影響を受けるものであるため、Gは補正(normalizing)コンダクタンスとしての使用が考えられる。しかしながら、蒸発はすべてのウェルで同様であり、また厚みの変動もデバイス全体を通じて同様であると仮定すると、いかなる測定コンダクタンスも使用可能であろう。たとえば、G23=1/R23は上記で確立された意味合いにおいて使用可能であり、これによって構造体のそれぞれのアームの個々のコンダクタンスを引用する必要がなくなる。個々の特定の状況によって何が最善の選択かが分かる。
【0053】
一般的に、蛍光光学的検出によって観測されるシグナルは、光学的検出容積中に存在する蛍光分子数に比例する。この数は検出容積を掛けた蛍光分子の濃度によって与えられるため、以下の式が得られる。
【0054】

【0055】
式中、Sはシグナル、f は関与する光ファクタ、入射光の強度、蛍光の効率などのすべてを考慮に入れている比例定数、Cは蛍光分子の濃度、及びVdetectは検出容量である。検出容量Vdetectはチャネルの深さDに比例するため、これは以下のように記述することもできる。
【0056】

【0057】
ウェル容量の画分εの蒸発であれば、すべての濃度はファクタ1/(1−ε)だけ増加し、この結果から以下の式が得られる。
【0058】

【0059】
式中、Cは蒸発前の蛍光分子の濃度である。上記のチャネル断面の電気コンダクタンスGはチャネルの深さと蒸発の程度に応じて変化することがある。断面の幅が異なったり、注入される溶液が異なったりするチャネルについては、一般的に以下の式が与えられる。
【0060】

【0061】
しかしながら、伝導率は蒸発が起こる時の1/(1−ε)のファクタが掛けられる濃度に比例するため、これは、蒸発が存在する時、以下のように記述することができ、ここで、電気伝導率
【0062】

【0063】
は蒸発が起こる前の値である。
【0064】

【0065】
上記で示されたSの式と共に、この式によって、両方の量はチャネルの深さDと蒸発の程度εの関数として同様に変化することが明らかとなる。したがって、以下の式から、
【0066】

【0067】
蒸発前の蛍光分子の濃度と比例し(比例定数f"で示す)、また蒸発の程度及びチャネルの深さとは無関係である量が求められる。この比例定数を更なる分析、較正、標準曲線の確立などに使用することで、精度の向上がもたらされ、また蒸発又はチャネルの深さ変動のような外部の変動要因に依存しなくなる。
【0068】
既知の検体濃度(C)を有する開封直後のキャリブレータを、蛍光シグナル及びGについて測定することでf"が求まる。次にf"は、測定された蛍光シグナル及び電気伝導率比から未知の試料の検体濃度(C)を計算するのに使用される。
【0069】

【0070】
要約すると、蒸発することで増分だけ塩及び電気伝導率が高くなる場合は、蒸発の割合が、個々の容器とウェルとの間で一定であることが予測される。つまり、測定可能な電気抵抗値又はコンダクタンス値のいずれかが補正(normalization)目的に使用できるということである。これは、実際に試料を含有しないデバイスのセグメントのコンダクタンス値を含む。
【0071】
本発明で記述された方法は、電流を測定するために電極を用いるマイクロ流体電気泳動アッセイ又は他のアッセイの補正(normalization)に使用してもよい。電流測定値は、蒸発を補正(correct)する目的で内部標準を標準化(standardize)又は補正(mormalize)するために使用できるだけでなく、この電流はチャネルの寸法(dimension)、深さ、及び幅の変動を補正(correct)するためにも使用できる。形状(geometry)におけるマイクロ流体デバイスの変動は、チャネルの深さと幅の変動によって主に起こる。微細加工はしばしば、チャネルを直接形成するためにガラス又はシリコンマスターをエッチングするか、又は熱可塑性高分子(プラスチック)基板にチャネルを生成するのに使用されるモールドを形成するという、シリコン加工技術を含む。これらの技術ではチャネルの形状(geometry)に微妙な変動が生じることもある。
【0072】
付与されたマイクロ流体チャネルデザインの伝導率は、緩衝液電気伝導率及びチャネルの断面積の関数である。したがって、チャネルの深さ/形状(geometry)と緩衝液が満たされたチャネルネットワークのコンダクタンスとの間にきわめて直接的な関係が存在する。公称断面/伝導率が特定されている場合、その公称値からの偏差はコンダクタンスの測定によって計算することができる。その上、蛍光アッセイのようなチャネル断面に依存しているアッセイからのアッセイシグナルは、開封直後のボトルについて標準電気伝導率を有する標準化アッセイ緩衝液を用いて、チャネルのコンダクタンスを測定することによって補正(normalized)することができる。
【0073】
本方法では、良く特徴付けられた試薬を含有するシステム及び明確なマイクロ流体デバイスにおける独立したパラメータ、緩衝液コンダクタンスを測定することにより内部標準を補正する(normalize)手段について説明する。新鮮な(fresh)内部標準溶液の伝導率は独自に、又は蒸発のような試薬濃度の均一な変動を受けるシステムの一部として測定してもよい。収集されたコンダクタンス測定値は、蛍光アッセイシグナル測定値のようなマイクロ流体チャネル寸法(dimension)に依存するアッセイシグナルを補正(normalize)するのに使用してもよい。
【0074】
上記の例示的方法は、図7で概略的に示すようなアッセイシステム100において実施することができる。例示的なアッセイシステムは、緩衝試薬を収容するためのウェル(その内の1つは内部標準溶液を収容するためのもの)及びこれらのウェルを連結するマイクロチャネルを有する基板110;緩衝試薬を含有するウェル間の電気コンダクタンスを測定するためのデバイスなどの回路部材120;ウェル間の電気コンダクタンス測定値から緩衝試薬の塩濃度又はイオン濃度を求めるためのCPUなどの制御部材130;あらかじめ決められた情報を記憶及び取り出すためのRAM及びハードディスクなどの記憶部材140とを含む。制御部材130は、記憶部材140のあらかじめ決められた情報に基づいて塩濃度又はイオン濃度から内部標準溶液の濃度を外挿する。
【0075】
本アッセイシステム100はマイクロ流体電気泳動システムであってもよく、また制御システム130は、内部標準溶液の濃度に基づいて、又は記憶部材に記憶された蛍光内部標準シグナルを用いてアッセイ結果を補正(normalize)してもよい。また、制御部材130は、電気コンダクタンス測定値を記憶部材に記憶された標準情報と比較することによって本システムの形状寸法の変動(geometric dimensional variations)についてアッセイ結果を補正(normalize)してもよい。
あらかじめ決められた情報は、塩濃度又はイオン濃度の情報を内部標準溶液の濃度と関連付けるためのデータとしてもよい。
【実施例】
【0076】
実施例
αフェトプロテイン(AFP)アッセイを、国際公開公報WO2007/027495号の実施例1の記載に準じて、図5で示すマイクロ流体デバイスを使用することにより実施した。以下の実施例では、表1に示した組成の各アッセイ用緩衝液組成物を100%緩衝濃度として用いた。蛍光末端標識2kb DNAを内部標準(IS)として用いた。
【0077】
表1:緩衝液組成物

【0078】
緩衝液組成物の蒸発及び結露の状態をシミュレートするため、各ウェルの緩衝液組成物の濃度を、10%きざみで80%から120%まで変化させた。実際のアッセイでは、緩衝液濃度は蒸発又は結露によって変化することもあるが、検体試料溶液は使用直前に供給されるため、AFP濃度自体は変化しないであろう。したがって、この実験については、AFP抗体試料を最終的に100pMの一定濃度となるように試料緩衝液と混合した。図5を参照すると、個々の実験では、ISを含有する緩衝液組成物を「DNA−Ab」ウェルに注入し、AFP−L1を含有する緩衝液組成物を「試料」ウェルに注入し、蛍光標識第2抗AFP抗体を含有する緩衝液組成物を「標識−Ab」ウェルに注入し、TBウェル用の緩衝液組成物を「TB」ウェルに注入し、HO及びLBウェル用の緩衝液組成物を「HO」ウェル及び「LB」ウェルに注入し;そしてWA1、WA2、WA3及びWA4から陰圧を印加することにより各緩衝液をチャネルに導入した。個々の実験では、緩衝液をキャピラリーチャネルに注入した後、キャピラリー電気泳動(CE)を実施した。
電気泳動中にキャピラリーチャネルで抗原−抗体反応と分離が起こる。キャピラリーチャネル(分離ゾーン)の特定ポイントで、分離されたISシグナル及び抗原−抗体複合体シグナルが検出された。電気泳動中は、TBウェル−LBウェル間の電流シグナル及びHOウェル−LBウェル間の電流シグナルをモニタリングし、それらをISピークを補正(normalize)するのに用いた。
ISピークを以下の式によって補正(normalized)した。
【0079】

【0080】
式中、ISSampleは結露又は蒸発が起こっていたと想定されるISピークシグナルを表している。ASampleは結露又は蒸発が起こっていた電流を表している。AReferenceは結露または蒸発が起こっていない電流を表している。ISNormalizedは測定された電流で補正(normalized)されたISシグナルを表わしている。
【0081】
AFPシグナルを以下の式によって補正した。
【0082】

【0083】
式中、AFPSampleは結露又は蒸発が起こっていたと想定されるAFPピークシグナルを表している。ISReferenceは結露又は蒸発が起こっていないISシグナルを表している。AFPNormalizedはAFPの補正(normalized)シグナルを表している。
【0084】
様々な測定シグナル及びTB−LB電流及びHO−LB電流を使用した補正(normalization)の結果を、以下の表2及び表3に示す。
【0085】
表2:TB-LB電流による補正(normalization)

【0086】
表3:HO-LB電流による補正(normalization)

【0087】
これらの表の結果がそれぞれ図8及び図9にプロットされている。いずれの場合でも、その対応するISSampleシグナルによる補正(normalization)後のAFPシグナルは、緩衝液のISSample濃度がますます濃縮されるため、緩衝液濃度の上昇に伴って減少する。しかしながら、各緩衝液濃度について、それに対応するISNormalizedシグナルによる補正(normalization)後のAFPシグナルは、100%緩衝液濃度時のAFPシグナルに近い値である(濃縮又は結露は起こらない)。すなわち、対応する補正(normalized)ISシグナルによって補正(normalized)されるAFPシグナルは平面曲線(flat curve)を与える。実施例は、ISが組み入れられている緩衝液濃度が、たとえば蒸発又は結露などによってたとえ変化しても、このISピークシグナルを適切に補正(normalized)できることを示している。
【0088】
本発明の他の実施態様は、ここに開示された本発明の明細書及び実施慣行を考察するれば当業者には明らかであろう。この明細書及び実施例は、例示的としてのみを考えたものを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を有するアッセイシステムの補正(normalization)方法、
アッセイシステム内に内部標準溶液を含有する緩衝液を具備し;
アッセイに先立って前記緩衝液の電気伝導率測定値を求め;
前記電気伝導率測定値に基づいて前記緩衝液の濃度変化を求め;
アッセイ結果を基準化するために前記緩衝液の前記濃度変化に基づいて前記内部標準溶液の濃度を決定する。
【請求項2】
前記緩衝液が内部標準のために用意される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記緩衝液は複数の成分を含み、その成分の内の1つが内部標準溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記緩衝液は複数の成分を含み、その成分の内の1つが前記内部標準溶液であり;そして前記緩衝液の電気伝導率測定値は前記複数の成分の総電気伝導率である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記内部標準溶液の濃度は前記緩衝液の前記濃度変化を外挿することによって求められる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記緩衝液の前記電気伝導率は前記緩衝液の塩又はイオンの濃度とほぼ比例する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
さらに、アッセイに先立って前記電気伝導率測定値を求める前に、前記緩衝液の初期濃度及び対応する前記緩衝液の電気伝導率測定値を求めることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記システムがマイクロ流体電気泳動アッセイシステムである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記アッセイ結果は、蛍光内部標準シグナル及び前記内部標準溶液の濃度に基づいて補正される(normalized)、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
以下の構成を有するアッセイシステムの補正(normalization)方法、
アッセイシステム内に複数の緩衝液成分を具備し、その成分の内の1つが内部標準溶液を含有し;
アッセイに先立って前記複数の緩衝液成分の電気伝導率測定値を求め;
前記電気伝導率測定値に基づいて前記複数の緩衝液成分内の塩又はイオンの濃度変化を求め;
アッセイ結果を補正する(normalizing)ために塩又はイオンの前記濃度変化に基づいて前記内部標準溶液の濃度を決定する。
【請求項11】
前記緩衝液成分の前記電気伝導率測定値は、前記緩衝液成分の総電気伝導率測定値である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記内部標準溶液の濃度は、前記複数の緩衝液成分内の塩又はイオンの前記濃度変化を外挿することによって求められる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記緩衝液の電気伝導率は前記緩衝液の塩又はイオンの濃度とほぼ比例する、請求項10記載の方法。
【請求項14】
さらに、アッセイに先立って前記電気伝導率測定値を求める前に、前記緩衝液成分の初期濃度及び前記緩衝液成分の対応する電気伝導率測定値をあらかじめ決めることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記システムがマイクロ流体電気泳動アッセイシステムである、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記アッセイ結果は蛍光内部標準シグナル及び内部標準溶液の濃度に基づいて補正される(normalized)、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
以下の構成を有するアッセイシステム、
緩衝液試薬を収容するウェルを有し、そのウェルの内の1つが内部標準溶液を収容するウェルを具備する基板;
前記緩衝液試薬を収容する前記ウェル間で電気伝導率を測定するための回路部材;
前記ウェル間で電気伝導率測定値から前記緩衝液試薬の塩濃度又はイオン濃度を測定するための制御部材;
あらかじめ決められた情報を記憶する記憶部材を含み;
前記制御部材が前記記憶部材中のあらかじめ決められた情報に基づいて前記塩濃度又はイオン濃度から前記内部標準溶液の濃度を外挿する。
【請求項18】
前記システムがマイクロ流体電気泳動アッセイシステムである、請求項17に記載のアッセイシステム。
【請求項19】
前記制御部材は前記内部標準溶液の濃度に基づいてアッセイ結果を補正する(normalize)、請求項17に記載のアッセイシステム。
【請求項20】
前記制御部材は前記内部標準溶液の濃度及び前記記憶部材に記憶された蛍光内部標準シグナルに基づいてアッセイ結果を補正する(normalize)、請求項17に記載のアッセイシステム。
【請求項21】
あらかじめ決められた情報は、塩濃度情報又はイオン濃度情報を前記内部標準溶液の濃度と関連付けるデータである、請求項17に記載のアッセイシステム。
【請求項22】
前記制御部材は、電気伝導率測定値を前記記憶部材に記憶された標準情報と比較することによって前記システムの形状寸法の変動に対してアッセイ結果を補正する(normalize)、請求項17に記載のアッセイシステム。
【請求項23】
以下の構成を有するアッセイシステムの補正(normalization)方法、
前記アッセイシステム内に内部標準溶液を含有する緩衝液を具備し;
アッセイに先立って前記緩衝液の電気伝導率測定値を求め;そして、
前記電気伝導率測定値に基づいてアッセイ結果を補正する(normalizing)。
【請求項24】
さらに、前記電気伝導率測定値に基づいて前記緩衝液の濃度変化を求め;
前記アッセイ結果を補正する(normalizing)ために前記緩衝液の濃度変化に基づいて前記内部標準溶液の濃度を決定すること、を含む請求項23に記載の補正(normalization)方法。
【請求項25】
さらに、前記電気伝導率測定値をあらかじめ決められたデータと比較し;そして、
その比較に基づいて前記アッセイ結果を補正する(normalizing)ことを、含む請求項23に記載の補正(normalization)方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−515053(P2010−515053A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544124(P2009−544124)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/026523
【国際公開番号】WO2008/082670
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000252300)和光純薬工業株式会社 (105)