説明

アテローム硬化性疾患の予防又は治療のための細菌組成物

本発明は、腸内細菌叢の組成を変えること、例えば個体に細菌組成物を投与することによる脂質酸化アブザイムの阻害を介したアテローム硬化性疾患の治療法に関する。適切な細菌組成物は、例えばラクトバチルス属の菌種、ビフィドバクテリウム属の菌種、ストレプトコッカス属の菌種、及び大腸菌等の濃縮細菌を含み得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アテローム硬化性疾患の治療のための方法及び手段に関する。
【背景技術】
【0002】
アテローム硬化症は、動脈内のアテローム硬化性病変の形成によって特徴づけられる複合多因子性疾患である。アテローム硬化性病変は、一般に線維性被膜で覆われた単球及びマクロファージ(泡沫細胞)が充溢した脂質からなる。本病変は、動脈の狭窄及び硬化をもたらし、また様々な心臓血管系疾患を伴う。単球/マクロファージ、Tリンパ球、樹状細胞、内皮細胞、及び平滑筋細胞を含む様々な異なる細胞の相互作用が、アテローム硬化病変の発生に重要である。動脈壁における該病変発生のの他の重要な因子は、細胞外基質、そのプロテオグリカン(ビグリカン及びバーシカン)、及びコラーゲンである。抗LDL免疫複合体、酸化低比重リポタンパク(LDL)、レムナント様リポタンパク(β-VLDL)、リポタンパク(a) [Lp(a)]、アポリポタンパク apoA-I、apoB、及びapoEを含む種々の血清リポタンパクも、アテローム硬化と関係がある。
【0003】
脂質を酸化する抗体(アブザイム)は、アテローム硬化性疾患の重要な病原因子として同定された。また血清中の高レベルな該アブザイムの存在は、冠状動脈性心臓病等の心臓血管系疾患を含むアテローム硬化性疾患の発症を示すことが知られている(特許文献1〜3)。
【特許文献1】国際公開第03/019196号
【特許文献2】国際公開第03/017992号
【特許文献3】国際公開第03/019198号
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本願発明者は、アテローム硬化性疾患を伴う患者の腸内細菌叢が健康な個体のそれと異なること、及びこのことがアテローム硬化性疾患に寄与していることに気づいた。本明細書では細菌組成物がアブザイム活性を直接阻害することを示しており、また、そのような組成物が、例えば腸内細菌叢の組成を変えることで、アテローム硬化性疾患の患者を治療する、又は前記疾患の発症や再発を予防又は遅延する上で有用なことも示している。
【0005】
本発明の一の局面は、個体に細菌組成物を投与することを含む個体におけるアテローム硬化性疾患の治療方法を提供する。
【0006】
関連する局面は、個体におけるアテローム硬化性疾患の治療に使用するための細菌組成物、及びアテローム硬化性疾患の治療に用いる薬剤製造における細菌組成物の使用を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
適切な細菌組成物の一つは、投与後に個体の消化管内で成長及び分裂可能な、生きた若しくは生存力のある細菌細胞を含むことができる。適切な細菌細胞は、個体の腸内細菌叢の細菌バランスを改善し、回復させ、又は維持する、いわゆる「プロバイオティクス」を含む(Fuller R: Probiotics in Man and Animals, J Appl. Bacteriol 1989;66: 365-378、及びHavenaar R、Brink B、Huis In't Veld JHJ: Selection of Strains for Probiotic Use. In Scientific Basis of the Probiotic Use, R. Fuller編、Chapman and Hall, London UK, 1992参照)。
【0008】
好ましい細菌は、腸内細菌、すなわち健康な個体の腸内細菌叢の一部を成す細菌を含む。
【0009】
好ましくは、細菌組成物はアブザイム阻害活性を有する。すなわち、該組成物は、血清抗体の脂質酸化活性を阻害する。アブザイム活性の阻害は、既知の技術を用いて決定することができる(例えば、国際公開第03/019196号、国際公開第03/017992号、及び国際公開第03/019198号参照)。該技術については、以下でより詳細に記載する。
【0010】
適切な細菌組成物は、1、2、3、4、又は5種以上の異なる細菌を含むことができる。例えば、適切な細菌組成物は、1以上の非病原性大腸菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacteria:ビフィズス菌)の菌種、ストレプトコッカス属(Streptococcal:連鎖球菌)の菌種、及びラクトバチルス属(Lactobacilli:乳酸桿菌)の菌種のような乳酸産生細菌を含んでいてもよい。
【0011】
適切なラクトバチルス属の菌種は、L.プランタルム(L. plantarum)、L.ロイテリ(L. reuteri)、L.ブルガリカス(L. bulgaricus)、ラクトバチルス GG (Lactobacillus GG)、L.アシドフィラス(L. acidophilus)、L.カゼイ(L. casei)、L.フェルメンタム(L. fermentum)、L.ガゼリ(L. gasseri)、L.ジョンソニ(L. johnsonii)、L.ラクティス(L. lactis)、L.パラカゼイ(L. paracasei)、L.プランタルム(L. plantarum)、L.ラムノーザ(L. rhamnosus)、L.サリバリウス(L. salivarius)、及び関連するラクトバチルス属の種を含む(Gilliland SE:Micro Rev. 1990; 87; 175-188、Gorbach SL:1990; 22-37-41)。
【0012】
適切なビフィドバクテリウム属の菌種は、B.ビフィダム(B. bifidum)、B.ブレーベ(B. breve)、B.ラクティス(B. lactis)、B.ロンガム(B. longum)、及びB.インファンティス(B. infantis)を含む。
【0013】
適切なストレプトコッカス属の菌種は、S.サーモフィルス(S. thermophilus)を含む。
【0014】
他の適切な細菌種の例については、表3に列記した。
【0015】
好ましくは、細菌組成物は1種以上のラクトバチルス属の菌種を含む。例えば、適切な細菌組成物の一つは、L.アシドフィラス、L.カゼイ カゼイ(L. casei casei)、及びL.カゼイ ラムノーザ(L. casei rhamnosus)を含んでいてもよい。
【0016】
本方法での使用に適切な細菌組成物については、選択種の細菌細胞を含む前培養物を糖質強化培地中に混合することにより調製することができる。前培養物は、生菌細胞を含んでいてもよい。前培養物と培地の混合物を、その後、管理状態下でインキュベートすることができる。インキュベーション中、培養の温度及びpHを当業者に周知の方法でモニターし、かつ管理することができる。
【0017】
異なる細菌種が所望の割合に達したとき及び所望の生物総濃度に達したときに、前記工程を停止することができる。
【0018】
いくつかの実施形態において、細菌を発酵後に投与用に直接包装することができる。他の実施形態において、培養培地中の細菌を包装前に一般的な方法を用いて濃縮し、かつ、その後凍結乾燥し、フリーズドライし又は空気乾燥することができる。
【0019】
濃縮及び凍結乾燥した後、細菌組成物を所望の投薬単位で包装することができる。包装投薬単位は、使い勝手の良いどのような形態であってもよい。例えば、パケット、カプセル、カプレット、又は錠剤が含まれる。いくつかの実施形態においては、濃縮及び凍結乾燥された細菌を、他の食材と混ぜ合わせることができる。
【0020】
本方法での使用に適切な細菌組成物は、治療効果を産むのに十分なあらゆる細菌細胞量を含むことができる。例えば、組成物は104から1010の細胞、例として105、106、107、108、又は109の細胞からなっていてもよい。
【0021】
細菌組成物は、液体、固体、又は半固体であってもよい。例えば、細菌組成物をゼラチンカプセル、圧縮錠剤若しくはジェルカプセルの形態で、又はペースト若しくは液体の形態で、ボーラスとして経口で投与することができる。
【0022】
細菌組成物を、香味増強剤、甘味料、増粘剤、及び他の食品添加物等の付加的な成分と混合することができる。付加的な成分は、トレハロース、グルコース、スクロース、フルクトース及びマルトースからなる群の一以上を含む糖質重合体、アルブミン及び/又は乳清等のタンパク質、並びにL-グルタミン及びN-アセチルグルコサミン等の他のサプリメントを包含することができる。前記食品添加物は、米粉等の従来の食品補完剤及び増量剤を包含できる。
【0023】
付加的な成分は、例えば本明細書に記載したようなアブザイム阻害剤を含む治療薬も包含できる。
【0024】
細菌組成物は、好ましくは個体に有効性が現れるのに十分な「予防的有効量」又は「治療的有効量」で投与される(場合によっては、予防は治療と考えられるかもしれないが)。投与される細菌の実際量は、治療されているものの性質及び重症度に依存する。
【0025】
都合の良いことに、組成物をあらゆる適切な投与量、例えば1日当たり約100ミリグラムから約800ミリグラム(乾燥重量)の範囲の細菌投与量で、経口的に投与することができる。好ましくは、前記投与量は1日当たり約200ミリグラムから約400ミリグラムの範囲である。
【0026】
本明細書に記載したように、治療に適したアテローム硬化性疾患は、心臓血管系の血管内における脂肪性沈着物の形成及び蓄積を伴う、又はそのような形成と蓄積の結果である、あらゆる心臓血管系疾患を包含できる。
【0027】
アテローム硬化性疾患は、アテローム硬化症、すなわち虚血性(冠状動脈性)心疾患、心筋虚血(狭心症)及び心筋梗塞等の心疾患、並びに動脈瘤疾患、アテローム性末梢血管病疾患、大動脈腸骨動脈疾患、重症慢性下肢虚血、内臓虚血、腎動脈疾患、脳血管疾患、脳梗塞、アテローム性網膜症、血栓症、異常血液凝固及び高血圧等の他の心臓血管系疾患を含む。このような病気は、医学的又は獣医学的疾患状態であり得る。
【0028】
本明細書に記載したように、治療され得る個体はヒト及びヒト以外の動物を含む。本明細書で「ヒト」とは、文中別途断りのない限り、「ヒト以外の動物」を含むと解されるべきである。
【0029】
個体を、その個体の血清中アブザイムの存在又はそのレベルを測定することによって、本明細書に記載したように細菌組成物を用いた治療前、治療中、治療後にアテローム硬化性疾患について評価することができる。
【0030】
アブザイムは、脂質及びリポタンパクに結合してそれを酸化し、アテローム発生因子を生成する触媒抗体である。アブザイムは、抗クラミジアアブザイムであってもよい。すなわちアブザイムは、例えばクラミジア シッタシ(Chlamydia psittaci)、及びクラミジア ニューモニアエ(Chlamydia pneumoniae)等のクラミジア シッタシ群に属する菌種由来のクラミジア細胞と結合又は反応することができる。
【0031】
血清中のアブザイムの存在は、個体がアテローム硬化性疾患に罹患している、又はその危険に晒されていることを示している。
【0032】
いくつかの実施形態において、血清中アブザイム活性を細菌組成物の投与前に低減又は排除することができる。
【0033】
血清中アブザイムレベルを、例えば、アブザイム阻害剤の投与により低減又は排除することができる。
【0034】
アブザイム阻害剤は、アブザイムの脂質酸化活性を減じ、又は阻害する分子である。アブザイム阻害剤は、表2で示す例のような金属キレート剤を含み得る。特にアブザイムの触媒中心における一過性原子価の金属イオンは、前記キレート剤によるアブザイムの触媒活性を中和するための標的となる。アブザイムを阻害する金属キレート剤はアスピリンを含む。
【0035】
他の前記のような阻害剤としては、宿主の生体内でアブザイムとその標的エピトープとの結合を妨げる基質アンタゴニストがある。結合するアンタゴニストは、ペプチド、脂質、多糖類、又はアブザイムのエピトープを模倣した他のあらゆる合成若しくは天然物のいずれであってもよい。アンタゴニストは、例えば、宿主に存在し得る脂質抗原、すなわちヒト抗原、又は病原体抗原をモデルにすることができる。アブザイムの結合部位を遮断する阻害剤は、Fab/Fv、若しくは他の抗体断片及び誘導体を始めとする抗イディオタイプ抗体分子、又はアブザイムの標的抗原との結合を阻害できるであろうそれらの活性中心の相補的ループの断片を呈示する(すなわち、抗イディオタイプ抗体分子を模倣した)ペプチド分子を含む。適切な抗体分子は、ポリクローナル法又はモノクローナル法を使用することによって、又はファージディスプレイ法によって作製することができる。
【0036】
抗菌薬アジスロマイシンは、アブザイム活性を阻害することがすでに示されている。阻害剤として、アジスロマイシンに構造的に関連する分子と、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、オフロキサシン、クリナフロキサシン、シプロフロキサシン、クリンダマイシン、アジスロマイシン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン及びテトラサイクリン等の抗菌剤の双方を挙げることができる。
【0037】
アブザイム阻害剤の他の例は、メシル酸デフェロキサミン、ヘム誘導体、ペニシラミン、チオプロニン、二塩酸トリエンチン、ジエチルジチオカルバニン酸、エデト酸二ナトリウム/三ナトリウム、アセチルサリチル酸、エデト酸、ユニチオール、トコフェロール、マンニトール、シリジアニン、(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)、(-)-エピカテキンガレート(ECG)、(-)-エピガロカテキン(EGC)及び(-)-エピカテキン(EC)等のカテキン、又はアスコルビン酸を含む。
【0038】
血清中アブザイムレベルはまた、アブザイムの活性中心を改変してその触媒活性を不活化することによって引き下げることもできる。例えば、アブザイムの活性中心に、血漿/血清の身体外(UV)照射によって改変され得る光(UV)感受性基を包含させて、該分子の脂質過酸化活性を不活化することができる。
【0039】
血清中アブザイム活性を減じる又は除く処理の後、血清中アブザイム活性のレベルを、個体に対して、例えば個体から採取した血清サンプル中の抗体が有する脂質を酸化する能力をテストすることによって測定することができる。
【0040】
アブザイム活性は、サンプル由来の脂質、クラミジア細胞等の外来抗原由来の脂質、又は例えばアッセイ法の一部として添加され得る別ソース由来の脂質といった脂質の酸化を測定又は検出することによって(例えば、測定又は検出することによって)決定することができる。
【0041】
脂質酸化及び過酸化を測定する多くの方法が、当業分野で既知である。適切な方法は、例えば、CRC Handbook of Methods for Oxygen Radical Research, CRC Press, Boca Raton, Florida (1985);Oxygen Radicals in Biological Systems. Methods in Enzymology, v. 186, Academic Press, London (1990);Oxygen Radicals in Biological Systems. Methods in Enzymology, v. 234, Academic Press, San Diego, New York, Boston, London (1994);及びFree Radicals. A practical approach. IRL Press, Oxford, New York, Tokyo (1996)に記載されている。
【0042】
脂質酸化生成物又はその副産物の生成、又は蓄積(すなわち、その存在や量)を測定することにより酸化を決定することができる。酸化が始まった脂質の酸化生成物、及び/又は中間産物を測定することもできるし、又は酸化が拡がっている脂質の酸化生成物、及び/又は中間産物を測定することもできる。
【0043】
適切な脂質酸化生成物は、マロンジアルデヒド(MDA) 等のアルデヒド、(脂質)過酸化物、ジエン複合体、又は炭化水素ガスを含み得る。脂質酸化生成物は、適切ないかなる方法によって測定してもよい。例えば、脂質酸化生成物をHPLC法(Brown R.K.とKelly F.J In:Free Radicals. A practical approach. IRL Press, Oxford, New York, Tokyo (1996), 119-131)、UV分光法(Kinter M.:Quantitative analysis of 4-hydroxy-2-nonenal. Ibid. 133-145)又は、ガスクロマトグラフ質量分析法(Morrow J.D.とRoberts L.J.:F2-Isoprostanes: prostaglandin-like products of lipid peroxidation. Ibid. 147-157)を用いて測定してもよい。都合の良いことに、マロンジアルデヒド(MDA)の生成は、2-チオバルビツール酸(1mMが都合よい)を用いた反応の後、525nm等の適当な波長の吸光を測定することによって決定することができる。
【0044】
他の実施形態において、脂質の酸化を非改変脂質等の基質、若しくは酸素等の補基質の消失、又は消費を測定することによって決定することができる。
【0045】
個体から得た血清抗体の脂質酸化の能力をテストすることに加えて、該抗体がクラミジア細胞に結合する能力をテストすることもできる。抗体結合は、様々な一般的技術のうちのいずれか一つを用いて測定すればよい。
【0046】
血清中アブザイムレベルが低い又は検出不能(すなわち、アブザイム陰性)と同定された個体は、本明細書に記載したように処理して、アテローム硬化性疾患の発症を予防し、又は遅延することができる。
【0047】
本発明の別の局面は、個体に細菌組成物を投与することを含む、個体におけるアテローム硬化性疾患の再発リスクを防止し、遅延させ又は減らす方法を提供することである。
【0048】
関連する局面は、個体におけるアテローム硬化性疾患の発症リスクを防止し、遅延させ又は減らす細菌組成物、及び個体においてのアテローム硬化性疾患の再発リスクを防止し、遅延させ又は減らすための薬剤製造における細菌組成物の使用を提供することである。
【0049】
個体がアテローム硬化性疾患の病歴、及び/又は血清中アブザイム歴(すなわち、過去アブザイム陽性であった病歴)を有していてもよい。
【0050】
個体は、既にアテローム硬化性疾患の治療を受けたことがあってもよい。例えば、例として上述したように細菌組成物を投与する前に治療行為によってアブザイムを血清から排除又は低減したことがあってもよい。
【0051】
個体の血清中アブザイムの活性を、本明細書に記載したように細菌組成物を投与する前に測定することができる。いくつかの好ましい実施形態では、前記組成物が投与される際に個体が血清中アブザイム活性を有していない(すなわち、アブザイム陰性である)。
【0052】
細菌組成物は、単回投与で投与してもよく、あるいは長期にわたって周期的に、例えば毎週、毎月、3ヶ月毎に又は年1回で、投与してもよい。投与の割合と時間的経過は病気の性質及び重症度に依るであろうし、また医師によって決定され得る。
【0053】
アブザイムレベルを個体で定期的にモニターして、治療の効果を確認することができる。
【0054】
コントロール実験は、本明細書に記載した方法で必要に応じて実行すればよい。適切なコントロールの実施は、当業者の力量と能力の範囲で十分である。
【0055】
本明細書で言及する全ての文献の開示は、参照により本明細書に援用する。
【0056】
本発明のさらなる様々な局面と実施形態は、本開示に照らして当業者に明らかであろう。
【0057】
本発明のいくつかの局面と実施形態を、以下に記載する実施例及び表を参照して例証する。
【0058】
表1は、抗クラミジアアブザイムの脂質酸化活性に対するプロバイオティクス腸内細菌の効果を示している。
【0059】
表2は、アブザイム阻害剤を例示している。
【0060】
表3は、プロバイオティクス細菌の例を示している。
【0061】
表4は、CHD患者の腸内叢(腸内フローラ)のスペクトルを示している。
【0062】
表5は、フェーズIIaでの冠状動脈性心臓病(CHD)を伴う患者に対するアジスロマイシンとラクトバチルス培養物の結合療法による8週間処理後の臨床効果を示している。
【0063】
表6は、CHD患者におけるアジスロマイシンとラクトバチルス培養物の結合療法の凝固時間の規格化を示している。
【0064】
表7は、アジスロマイシンとラクトバチルス培養物の結合療法後のCHD患者の1年後追跡調査を示している。
【実施例】
【0065】
(アブザイム活性のアッセイ法)
血清サンプル中のアブザイム活性を測定するために、該サンプルを0.05M酢酸バッファpH4.0で1:1希釈して、サンプルの最終pHを5.6〜5.8間にした。
【0066】
990μlの希釈した血清サンプルを10μlの市販のヒツジクラミジア生ワクチンと混合し、該サンプルを37℃で一晩(12〜16時間)インキュベートした。
【0067】
その後、250μlの40%トリクロロ酢酸と250μlの1mM 2-チオバルビツール酸を各サンプルに加え、該サンプルをウォーターバスに浸漬して30分間煮沸した。
【0068】
その後、サンプルを冷却して3,000Gで10分間遠心した後、上清を回収した。上清の吸光度をλ525nmで測定し、脂質過酸化産物であるマロンジアルデヒド(MDA)の濃度を決定した。
【0069】
(腸内細菌)
腸内細菌のサンプルは、45〜60歳のCHD患者、臨床的に健康な対応年齢のコントロール被験者、及び健康な20〜25歳の被験者から採取された。
【0070】
サンプル中に存在する異なる細菌種の量を一般的な微生物学技術を用いて測定した。その結果を表4に示す。
【0071】
健康な被験者と年齢コントロール被験者間の違いは、腸内の細菌叢が加齢と共に変化することを示している。特に、ラクトバチルス属等の「有用な」細菌のレベルは、中高年者では若者よりも100〜1,000倍低い。CHD患者の腸内細菌叢は、関連する年齢コントロールのそれとはかなり異なる組成を有するようである。特にCHD患者では、S.アウレウス(S.aureus)及びカンジダ等の病原菌の増加、並びに大腸菌(E.coli)及びラクトバチルス属の菌種等の非病原菌の減少が見られる。
【0072】
(インビトロアブザイム阻害)
アブザイム陽性のヒト血清が、冠状動脈性心臓病(CHD)を伴う患者から採取された。アブザイムの存在を上記のように確認した。
【0073】
凍結乾燥した生菌培養物をPBSに再懸濁した。異なる濃度の細菌濾過溶液をアブザイム陽性のヒト血清に加えた。
【0074】
アブザイム活性に対するこれらの溶液の効果をコントロールサンプルと比較した。その結果を表1に示す。
【0075】
ラクトバチルス属の菌種は、血清サンプル中で脂質酸化性アブザイムを直接阻害することが観察された。
【0076】
(インビボアブザイム阻害)
フェーズIIa試験を、冠状動脈性心臓病CHD患者に対するアジスロマイシンとラクトバチルス属の培養物とを組み合わせた治療法の効果について行った。
【0077】
CHDを伴った30人のグループを実験治療用に選択し(治療グループ)、被験者の血清中の抗クラミジアアブザイムの活性を減らした/除いた。試験は、サラトフ心臓血管センター(Saratov Cardiological Centre)(ロシア連邦)で2002年6月から8月まで行われた。
【0078】
前記治療グループは、平均年齢55±1.1歳の23人の男性と7人の女性からなる。各患者は、試験参加について書面による同意をしている。
【0079】
全患者が、カナダ心臓血管協会(CCS)分類のII〜IIIクラスの狭心症を伴っていた。治療グループのうち15人の患者は、過去、心筋梗塞の病歴を持っていた。最初のグループの他の15人の患者に関するCHDの診断は、動脈狭窄の70%以上を検出する冠動脈造影法で確認された。
【0080】
患者の病態の経過は、トレッドミル運動負荷心電図検査の改変型Bruceプロトコルの使用、及びRose-Blackburnアンケート(Cardiovascular Survey Methods. WHO, Geneva, 1968)で、モニターされた。
【0081】
患者に、500mgのアジスロマイシン、並びにL.アシドフィラス、L. カゼイ カゼイ、及びL. カゼイ ラムノーザを含む36mgのラクトバチルス属培養物(約2×109細胞を提供する)を毎日投与した。
【0082】
8週間後、アジスロマイシンとラクトバチルス属培養物の結合療法の臨床効果を、CHD患者で健康なコントロールと比較して観察し(表5)、また凝固時間を規格化した(表6)。
【0083】
8週間の処理により、アブザイムを3〜6月間阻害することが観察され、1年後にも明らかな臨床的有用性がまだ残されていた(表7)。
【0084】
観察された臨床的な改善により、治療グループの6人の患者でバイパス術が可能になった。コントロールグループでは1人の患者しか本手術を実施することができなかった。
【0085】
結合療法は、致命的及び非致命的心筋梗塞数の双方を軽減し、また狭心症の症状を緩和した(Rose G.、Blackburn H.アンケートに基づいた臨床スコア)。患者のうち7人については、観察期間中、はっきりした徴候はあらわれなかった。
【0086】
上記結果は、前記アジスロマイシンとラクトバチルス属培養物の結合療法が、CHD患者に対して、以前に報告されたアジスロマイシンだけを用いた治療よりも有効であることを示している。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体に細菌組成物を投与することを含む、個体におけるアテローム硬化性疾患を治療する方法。
【請求項2】
細菌組成物を投与する前に前記個体の心臓血管系におけるアブザイム活性のレベルを低減することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アブザイム活性のレベルはアブザイム阻害剤の投与によって低減される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アブザイム阻害剤はメシル酸デスフェリオキサミン、ヘム誘導体、ペニシラミン、チオプロニン、二塩酸トリエンチン、ジエチルジチオカルバミン酸、エデト酸2ナトリウム/3ナトリウム、アセチルサリチル酸、エデト酸、ユニチオール、トコフェロール、カテキン、マンニトール、アジスロマイシン、シリジアニン、又はアスコルビン酸である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記細菌組成物の投与前に前記個体の脈管系におけるアブザイム活性を測定することを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記細菌組成物は1以上の腸内細菌を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記細菌組成物は1以上のラクトバチルス属(Lactobacilli:乳酸桿菌)の菌種、大腸菌(E. coli)、及びビフィドバクテリウム属(Bifidobacteria:ビフィズス菌)の菌種、並びにストレプトコッカス属(Streptococcal:連鎖球菌)の菌種を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記細菌組成物はL.プランタルム(L. plantarum)、L.ロイテリ(L. reuteri)、L.ブルガリカス(L. bulgaricus)、ラクトバチルス GG (Lactobacillus GG)、L.アシドフィラス(L. acidophilus)、L.カゼイ(L. casei)、L.フェルメンタム(L. fermentum)、L.ガゼリ(L. gasseri)、L.ジョンソニ(L. johnsonii)、L.ラクティス(L. lactis)、L.パラカゼイ(L. paracasei)、L.プランタルム(L. plantarum)、L.ラムノーザ(L. rhamnosus)、及びL.サリバリウス(L. salivarius)のうち1以上を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記細菌組成物はL.アシドフィラス、L.カゼイ カゼイ(L. casei casei)、及びL. カゼイ ラムノーザ(L. casei rhamnosus)を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細菌組成物はB.ビフィダム(B. bifidum)、B.ブレーベ(B. breve)、B.ラクティス(B. lactis)、B.ロンガム(B. longum)、及びB.インファンティス(B. infantis)のうち1以上を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記細菌組成物はS.サーモフィルス(S. thermophilus)を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記細菌組成物は106〜1010個の細菌細胞を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
個体に細菌組成物を投与することを含む、個体におけるアテローム硬化性疾患の発症リスクを予防し、遅延させ、あるいは低減する方法。
【請求項14】
前記個体はアテローム硬化性疾患の病歴を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記個体は高レベルの血清中アブザイム歴を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記個体はアテローム硬化性疾患の治療を受けたことがある、請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
細菌組成物の投与前に前記個体の脈管系におけるアブザイム活性を測定することを含む、請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記個体は通常の血清中アブザイムレベルを有する、請求項13〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記細菌組成物は1以上のラクトバチルス属の菌種、大腸菌、及びビフィドバクテリウム属の菌種、並びにストレプトコッカス属の菌種を含む、請求項13〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記細菌組成物はL.プランタルム、L.ロイテリ、L.ブルガリカス、ラクトバチルス GG、L.アシドフィラス、L.カゼイ、L.フェルメンタム、L.ガゼリ、L.ジョンソニ、L.ラクティス、L.パラカゼイ、L.プランタルム、L.ラムノーザ、及びL.サリバリウスのうち1以上を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記細菌組成物はL.アシドフィラス、L.カゼイ カゼイ、及びL. カゼイ ラムノーザを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記細菌組成物はB.ビフィダム、B.ブレーベ、B.ラクティス、B.ロンガム、及びB.インファンティスのうち1以上を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記細菌組成物はS.サーモフィルスを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記細菌組成物は106〜1010個の細胞を含む、請求項13〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
個体におけるアテローム硬化性疾患の再発リスクを予防し、遅延させ、又は低減するための薬剤の製造における細菌組成物の使用。
【請求項26】
個体におけるアテローム硬化性疾患の治療薬の製造における細菌組成物の使用。
【請求項27】
前記個体はアテローム硬化性疾患の病歴を有する、請求項25又は26に記載の使用。
【請求項28】
前記個体は以前にアテローム硬化性疾患の治療を受けたことがある、請求項25〜27のいずれか1項に記載の使用。
【請求項29】
前記個体はアテローム硬化性疾患の治癒した個体である、請求項25〜28のいずれか1項に記載の使用。
【請求項30】
前記個体は高レベルの血清中アブザイム歴を有する、請求項25〜29のいずれか1項に記載の使用。
【請求項31】
前記個体は高レベルの血清中アブザイムを有する、請求項25〜30のいずれか1項に記載の使用。
【請求項32】
前記個体は通常の血清中アブザイムレベルを有する、請求項25〜31のいずれか1項に記載の使用。
【請求項33】
前記細菌組成物は1以上のラクトバチルス属の菌種、大腸菌、及びビフィドバクテリウム属の菌種、並びにストレプトコッカス属の菌種を含む、請求項25〜32のいずれか1項に記載の使用。
【請求項34】
前記細菌組成物はL.プランタルム、L.ロイテリ、L.ブルガリカス、ラクトバチルス GG、L.アシドフィラス、L.カゼイ、L.フェルメンタム、L.ガゼリ、L.ジョンソニ、L.ラクティス、L.パラカゼイ、L.プランタルム、L.ラムノーザ、及びL.サリバリウスのうち1以上を含む、請求項33に記載の使用。
【請求項35】
前記細菌組成物はL.アシドフィラス、L.カゼイ カゼイ、及びL. カゼイ ラムノーザを含む、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
前記細菌組成物はB.ビフィダム、B.ブレーベ、B.ラクティス、B.ロンガム、及びB.インファンティスのうち1以上を含む、請求項33に記載の使用。
【請求項37】
前記細菌組成物はS.サーモフィルスを含む、請求項33に記載の使用。
【請求項38】
前記細菌組成物は106〜1010個の細胞を含む、請求項25〜37のいずれか1項に記載の使用。

【公表番号】特表2008−519018(P2008−519018A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539628(P2007−539628)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【国際出願番号】PCT/GB2005/004215
【国際公開番号】WO2006/048628
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(504066715)ケンブリッジ セラノスティックス リミテッド (3)
【Fターム(参考)】