説明

アデノシン5’−トリホスファート(ATP)−γ−Sを用いてホスホリルトランスフェラーゼ活性を決定する方法

この発明は、タンパク質キナーゼ遺伝子ファミリーの幅広いメンバーに適用でき、かつ、キナーゼ阻害剤の検出及び評価に有用であるスクリーニングアッセイ方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(出願データ)
この出願は2005年4月20日に出願された米国出願第11/110,435号の優先権を主張する。
(発明の分野)
本発明は、一般にタンパク質キナーゼ遺伝子ファミリーの幅広いメンバーに適用でき、かつ、キナーゼ阻害剤の検出及び評価に有用である新規スクリーニングアッセイ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
タンパク質キナーゼは細胞調節の実際に全ての局面の調節に重要な役割を果たし、今日の医薬工業における研究の最も活発な領域の1つを構成している。ヒトゲノム中の522タンパク質キナーゼドメインは未治療疾患のための新しい薬物を開発するのに面倒な状況を与えることがあり、タンパク質キナーゼ阻害剤の開発が医薬工業について重要な焦点に次第になってきている。タンパク質キナーゼ阻害剤は、癌、炎症性疾患及び免疫疾患を含む多くの疾患の治療に有用であると報告されている。例えば、I.K. Mellinghoff及びC.L. Sawyers, Kinaze Inhibitor Therapy in Cancer, 14(12):1-11, 2000; J. Dumas著“成長因子受容体キナーゼ インヒビター:最近の進歩及び臨床上の影響”, Current Opinion in Drug Discovery & Development, 4(4):378-89, 2001; J. Dumas著“タンパク質キナーゼ インヒビター:出現する薬作用発生団”, 1997-2000, Expert Opinion on Therapeutic Patents. 11(3):405-429, 2001; D.H. Williams及びT. Mitchell著“薬物候補としてのタンパク質キナーゼ インヒビターの結晶学及び構造に基づく設計における最近の開発”, Current Opinion in Pharmacology, 2(5):567-73, 2002; S.B. Noonberg及びC.C. Benz著“表皮成長因子受容体サブファミリーを標的とするチロシンチロシンキナーゼ インヒビター:抗癌剤としての役割”, Drugs, 59(4):753-67, 2000; S. Brunelleschi, L. Penengo, M.M. Santoro及びG. Gaudino著“抗癌療法の標的としての受容体チロシンキナーゼ ”, Current Pharmaceutical Design. 8(22):1959-72, 2002; P.G. Goekjian及びM.R. Jirousek著“疾患の治療におけるタンパク質キナーゼ C:シグナル伝達経路、開発中のインヒビター、及び薬剤”, Current Medicinal Chemistry. 6(9):877-903, 1999; A. Gordon著“乳癌治療の増大する効力”, Clinical Oncology (Royal College of Radiologists), 9(5):338-42, 1997を参照のこと。
【0003】
この大きい遺伝子ファミリーは新しい薬物標的の豊富な源に相当するが、化合物アフィニティーを測定するのに使用されるアッセイの開発は高度に問題がある。現在のタンパク質キナーゼ阻害剤のためのハイスループットスクリーニングアッセイは、タンパク質又はペプチド基質へのホスファートのとり込みを測定する。タンパク質キナーゼ阻害剤をアッセイするための最も実証された方法は、ATPのガンマホスファートが32P又は33Pで標識される放射分析アッセイである。キナーゼがホスホリルトランスフェラーゼ反応中にガンマホスファートをタンパク質基質のヒドロキシルに導入する場合に、タンパク質が同位元素で共有結合標識されるようになる。タンパク質が標識されたATPから除去され、放射性タンパク質の量が測定される。このアッセイは依然として定量的タンパク質キナーゼアッセイの優れた標準である。ハイスループットフォーマットへのこのアッセイの採用は、労力を集中する分離工程及び使用される多量の放射能のために問題がある。
高速で処理することができる別の放射分析アッセイはSPA即ちシンチレーション近接アッセイ(アメーシャム・インターナショナル)である。このアッセイでは、標識された基質がビードに結合される場合に、シンチラント含浸ビードが光を放出する。このアッセイは、放射能のレベル及びペプチド基質の有効性により制限される。
【0004】
タンパク質キナーゼ活性又は阻害剤結合を測定するために蛍光偏光を使用する技術は標識された抗体又はペプチド基質に頼る。これらのアッセイでは、酵素がATPのガンマホスファートをタンパク質又はペプチド基質に導入する。この活性が抗体の如き手段によりリンペプチドを検出することにより監視される。リンペプチドへの抗体の結合は溶液中のペプチドの自由な回転を遅くし、それ故、触媒反応の生成物からの偏光シグナルが検出できる。例として、BurkeらのUS 2001/0004522 A1又はT.C. Turekら, Analytical Biochemistry, 2001, 299(1), 25-53が挙げられる。
上述の殆どの非放射性アッセイは、キナーゼ反応の生成物、即ちリンペプチドを認識する抗体を使用する。結合アッセイは酵素触媒ルミネセンスの読み取りで検出される抗体を使用する。これらの方法は、試薬入手可能性、ウェル被覆、並びに多くの洗浄工程及びインキュベーション工程により制限される。しかしながら、最も重要なことだが、セリン/トレオニンキナーゼのための抗体ベース技術は各キナーゼ基質のための特別な抗体を必要とする。これは、リン酸化部位が既知であり、抗体をその部位で生成できることを必要とする。これは、アッセイ生成の時間、リスク及び費用を上昇させる。さらに、タンパク質のただ1つのリン酸化部位を測定できるが、実際には標的タンパク質の複数の部位を単一のキナーゼによってリン酸化できる。
別の非放射性アッセイ方法は、市販のホタルのルシフェラーゼのATP-依存活性を利用する。例えば、米国特許第6,599,711号明細書には、生物発光を用いてタンパク質キナーゼ活性を測定して、タンパク質キナーゼ及びATPの存在下でのタンパク質キナーゼ基質のリン酸化後のATP濃度の変化を測定する方法が記載されている。ルシフェラーゼによって放射される光の量は、キナーゼ反応後の残留ATPに正比例する。このアプローチの極めて大きい利点は、単一の共通のフォーマットで用意されるスクリーニングパネル後に、それによって各キナーゼ用の特別な検出試薬を必要としないことである。
【0005】
我々(及び他人)は、多くのタンパク質キナーゼがタンパク質受容体基質の非存在下でもATP加水分解を示すことを示した(New Tools for Screening Kinases: A Comparative Study”, The Society for Biomolecular Screening 9th Annual Conference, 2003, Portland, Oregon, Sept. 21-25, 2003, Kashem, M.A., Yingling, J., Nelson, R.M. and Homon, C.A.)。この場合では、水は、もともとはホスホトランスフェラーゼ反応での場合であるようにアミノ酸のヒドロキシルよりは末端ホスファート受容体として作用する。このATPアーゼ活性は、「真性ATPアーゼ」と呼ばれる。ATP涸渇に基づくアッセイフォーマットはタンパク質及び水の両方へのホスホトランスフェラーゼ活性を測定する。このアプローチを妨げるものは、酵素調製への汚染物質として存在する場合がある非キナーゼATPアーゼがまたタンパク質キナーゼへ誤って割り当てられる活性を示すことである。別の潜在的な問題は、上流のキナーゼが下流のキナーゼをリン酸化及び活性化する酵素カスケードとして、多くのタンパク質キナーゼがアッセイされることである。複数のタンパク質キナーゼが存在する酵素反応では、合計ATP消費が興味のあるキナーゼと基質キナーゼの両方の活性の合計である。上流のキナーゼの特有の阻害は、興味のあるキナーゼに対して作用する誤った化合物を生じる基質キナーゼの活性によって不明瞭となっている可能性が高い。さらに、キナーゼがその基質依存ホスホリルトランスフェラーゼ活性と等しいか、又はそれより大きい真性ATPアーゼ活性を示す場合、ATP結合と競争しない阻害剤の同定は可能ではない。タンパク質キナーゼのATPアーゼ活性について発表されているのは極僅かである。いずれにせよ、ATPの定量化の問題を解決してキナーゼ活性を決定することは、誰もが試みる問題ではない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要約)
本発明は、ATPの非加水分解性類似体のγ-リン酸塩であるATP-γ-Sのキナーゼ媒介ホスホリル転移(phosphoryltransfer)を特に測定する方法を記載する。これらの方法は、微量の汚染ATPアーゼに起因する干渉を効果的に排除する。さらに、これらの方法は、キナーゼが真性ATPアーゼ活性を示す場合でさえ、キナーゼ反応を完全な基質依存性にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(発明の詳細な説明)
タンパク質キナーゼ阻害剤についての薬剤発見のためのスクリーニングの試みで使用されるたいていの技術は、生成物と反応物の分離を必要とする。現在の市販のルシフェラーゼベース試薬はこの要求を排除している。しかしながら、これらの技術におけるATPの使用は、1)一部のタンパク質キナーゼの真性ATPアーゼ活性及び2)タンパク質調製における汚染ATPアーゼに関連した予期しない問題を示した。これらの効果は、タンパク質キナーゼの薬剤発見の試みで使用される従来の技術において察知されていなかった。
古典的には、タンパク質キナーゼは活性化カスケードの成分として存在し、別の上流タンパク質キナーゼによるあるタンパク質キナーゼのリン酸化はその活性化をもたらす。活性化されたタンパク質キナーゼは、また別のタンパク質キナーゼを活性化するかもしれない。興味のある一次酵素とその基質の両方がタンパク質キナーゼであるアッセイでは、様々な複雑な状況が生じるかもしれない。アッセイは、典型的には酵素に対して大過剰量の基質が存在するように(モル濃度で、1:100〜1:1000)設計されるので、基質タンパク質が適度の真性ATPアーゼ活性は、実に、一次酵素の完全な阻害に直面したときでさえ、総ATP消費活性の大部分が阻害されないで残っているようにする。酵素に対する基質の意図した過剰量に加えて、基質の活性化は、そのリン酸化の結果としてアッセイの際に生じ、基質の真性ATPアーゼ活性に寄与する部分ATP消費をさらに高める。これは、キナーゼ阻害剤を同定する可能性をさらに減じる。我々が開発した技術は、一次酵素のホスホリルトランスフェラーゼ活性のみを測定することができ、基質キナーゼの真性ATPアーゼ活性による干渉がない。
【0008】
ATPの減少によってタンパク質キナーゼを測定することに対する固有の問題は、アッセイ系を汚染する非キナーゼATPアーゼ活性の存在である。ATPアーゼは細胞抽出において広く一般的に使用されており、タンパク質キナーゼの精製の間中残っている。これらの場合に、ATPアーゼによる微量の汚染物質は、ATPレベルをモニターする現在の技術の使用を妨げる場合がある。これらの汚染物質を除去する大規模な精製は、高価であり、時間がかかり、大きな労力を必要とし、しばしば成功する場合でもスクリーニングを実施するには不十分である最終タンパク質収量となる。さらに、汚染ATPアーゼは酵素又は基質調製から生じた。典型的には、存在する酵素に対して高濃度の基質を与えるため、タンパク質基質調製を提供することは非常に困難であり、微量レベルのATPアーゼ活性もない。本発明は、汚染ATPアーゼのない酵素調製の必要性を排除する。すでに述べたように、本発明はキナーゼの固有の能力を利用してホスホリルトランスフェラーゼ反応においてATP-γ-Sを用いる。
本明細書に記載される本発明は、ATPアーゼの基質ではないATP-γ-S(アデノシン5'-[γ-チオ]トリホスファート)の使用により上述の問題を排除している。
既存の技術に対する本発明の第1の利点は、タンパク質キナーゼのホスホリルトランスフェラーゼ活性とタンパク質キナーゼ自身又は汚染ATPアーゼによって媒介されるATP加水分解とを分離するATP-γ-Sの能力にある。
【0009】
ある実施態様では、本発明は、タンパク質キナーゼ活性を測定する方法であって:(a)タンパク質キナーゼとATP-γ-Sとを含む第1溶液を調製し;(b)工程(a)の溶液と同じタンパク質キナーゼとATP-γ-Sと前記タンパク質キナーゼによってリン酸化可能な基質とを含む第2溶液を調製し;(c)各溶液をインキュベートしてリン酸化反応を起こさせ;(d)第1溶液中に残っているATP-γ-Sの量及び第2溶液中に残っているATP-γ-Sの量を測定し;(e)第1溶液中に残っているATP-γ-Sの量と第2溶液中に残っているATP-γ-Sの量を比較してタンパク質キナーゼ活性を決定することを含む前記方法に関するものである。
ある実施態様では、タンパク質キナーゼ活性を測定する方法の工程(a)及び(b)の各溶液は、最大8時間、好ましくは最大6時間、より好ましくは最大4時間の時間間隔でインキュベートすることができ、第1溶液及び第2溶液中に残っているATP-γ-Sの量は各時間間隔で決定される。
【0010】
本発明の別の実施態様は、タンパク質キナーゼ活性を調節する化合物を同定する方法であって:(a)タンパク質キナーゼとATP-γ-Sと前記タンパク質キナーゼによってリン酸化可能な基質と試験化合物とを含む第1溶液を調製し;(b)タンパク質キナーゼとATP-γ-Sと前記タンパク質キナーゼによってリン酸化可能な基質とを含む第2溶液を調製し;(c)ATP-γ-Sと前記タンパク質キナーゼによってリン酸化可能な基質と試験化合物とを含む第3溶液を調製し;(d)工程(a)、(b)及び(c)の各溶液をインキュベートし;(e)第1、第2及び第3溶液中に残っているATP-γ-Sの量を比較して前記化合物がタンパク質キナーゼ活性を調節するかどうかを決定することを含む前記方法に関するものである。
ある実施態様では、タンパク質キナーゼ活性を調節する化合物を同定する方法の工程(a)、(b)及び(c)の各溶液は、10分〜6時間、好ましくは20分〜4時間、より好ましくは30分〜2時間インキュベートされる。
本発明の方法の工程(b)では、基質は、工程(a)のタンパク質キナーゼ以外のタンパク質キナーゼであってもよい。
ATP-γ-Sの濃度は、これに限定されないが生物発光反応又は放射分析アッセイなどの技術的に公知の方法によって決定してもよい。生物発光反応は、例えばルシフェリンとルシフェラーゼを含むことができ、ルシフェリンはルシフェラーゼ及びATP-γ-Sの存在下で光を発する。
タンパク質キナーゼ活性を調節する化合物は、活性を抑制してもよく、又は活性を高めても良い。
【0011】
本発明は、本明細書に記載される具体的な実施態様によってその範囲を限定することを意図せず、本発明の個々の態様の1つの説明であることを意図し、機能的に等しい方法及び成分は、本発明の範囲内である。実際に、本明細書に示され、記載されるものに加えて、本発明の種々の変更は、上記の記載及び添付の図面から当業者にとって明らかとなるであろう。そのような変更は、特許請求の範囲の範囲内であることを意図する。
本明細書において、種々の特許出願及び刊行物を引用し、その開示は参照によってそっくりそのまま本明細書に組み込まれるものとする。
【実施例】
【0012】
(実施例)
ルシフェラーゼのKm(ATP-γ-S)の決定
ATP-γ-Sがルシフェラーゼの基質であることは報告されている(B. Ortiz et al., Eur. J. Biochem, 1993, 212, 263-270)。これを確認するために、1mM〜238pMの範囲にわたる23の濃度のATP-γ-S(濃度差は2倍希釈)をKinase-Glo(商標)試薬(パッケージ説明書に従って再構成された)に添加し、次いでアッセイへ1:6(最終)に希釈した。アッセイバッファは50mMのHEPES(pH 7.5)、50mMのKCl、10mMのMgCl2、100μMのオルトバナジン酸ナトリウム、0.01%のCHAPS及び0.5mMのDTTからなるものであった。アッセイプレートとして、Greiner Lumitrac 200を使用した。15分間のインキュベーション後、LJL Analystのルミネッセンスモードを用いてデータを定量化した。
図1に示す結果は、ATP-γ-Sがルシフェラーゼの基質であることを確認し、ルシフェラーゼのATP-γ-SのKmを図示する。
【0013】
受容体基質の非存在下でのATP消費
図2は、p38(受容体基質)の非存在下で、MKK3によるATP消費の初期観察を図示する。この時点では、活性がMKK3の真性ATPアーゼ活性によるものか、又は汚染ATPアーゼによるものかは明らかではなかった。この実験は、Km(ATP-γ-S)と同じバッファを用いる同じアッセイプレートで行い、データを同様に定量化した。MKK3(10nM)を示した時間で300nMのATPに加え、反応をKinase-Glo(商標)試薬の添加により終わらせ、パッケージ説明書に従って再構成及び使用した。p38(150nM)の存在下での反応も示す。明らかに、消費の大部分はMKK3の真性ATPアーゼ活性又は汚染ATPアーゼによるものであり、MKK3のホスホリルトランスフェラーゼ活性によるものではない。
【0014】
ATP消費の排除
図3は、p38(受容体基質)の非存在下で、ATP消費(MKK3に固有であるか、又は汚染物質由来であるか)の排除を図示する。ATPの代わりに300nMのATP-γ-Sを用いることを除いて、図2で用いた方法に従って、この実験を行った。
ATP消費は、p38の存在下でのMKK3、MKK3単独、p38単独及びMKK3もp38も存在しないもの(コントロール)について図3に示される。図3に示されるように、ATPは、MKK3及びその基質p38が存在し、ホスホリルトランスフェラーゼが生じたときにのみ消費された。MKK3単独又はp38単独では、ATPの消費は無く(コントロールと比較して)、反応がATP-γ-Sの存在下で行われた場合でも、真性ATPアーゼ活性は検出されなかった。
ATPの代わりのATP-γ-Sの使用は、ATPが一次基質又は必要な補助因子として消費されるタンパク質の別の種類によるルシフェラーゼアッセイに適用できた。これらは、Na+-K+ATPアーゼのような膜ベースATPアーゼ、ピルビン酸キナーゼのような代謝酵素又はT4ポリヌクレオチドキナーゼのような核酸変性酵素を含むことができた。例えば、アデノシン5'-トリホスファターゼ(ATPアーゼ)は、ATPをADPに分ける極めて効果的な酵素である。
【0015】
ホスホリルトランスフェラーゼ活性の阻害
図4は、ATP-γ-Sを用い、キナーゼ(MKK3)のホスホリルトランスフェラーゼ活性の試験化合物による阻害を測定するアッセイの結果を図示する。
以下の例により、キナーゼ(MKK3)のホスホリルトランスフェラーゼ活性の試験化合物による阻害を測定するアッセイを説明する。アッセイにおいてリン酸化された基質はp38である。前記活性を、ホタルのルシフェラーゼ活性への影響によりATP-γ-S消費を測定するKinase-Glo技術(Cambrex # V6714)を用いて測定した。Greiner Lumitrac 200マイクロタイタープレート(#781075)を用いて、データを得た。アッセイバッファは、50mMのHEPES(pH 7.5)、50mMのKCl、10mMのMgCl2、100μMのオルトバナジン酸ナトリウム、0.01%のCHAPS及び0.5mMのDTTからなるものであった。アッセイアセンブリは以下の通りであった:20μLの20nMのMKK3を空のLumitrac 200プレートに加えた。10μLの2.4%DMSO中12μg/mLの化合物を添加し、次いで10μLの600nMのp38及び1.2μMのATP-γ-Sを含む溶液を加えた。反応(最終濃度:10nMのMKK3;0.6%DMSO中3μg/mLの化合物;150nMのp38及び300nMのATP-γ-S)を90分間インキュベートした。MKK3を含まない同じ反応混合物で、及びMKK3を含むが試験化合物を含まない同じ反応混合物で測定した活性によりコントロールを決定した。インキュベーション後、40μLのKinase-Glo試薬(パッケージ説明書に従って再構成し、次いでMKK3完全アッセイバッファで1:5に希釈した)を添加した。LJL Analystを用いてルミネッセンスモードで定量化する前に、プレートをさらに15分間インキュベートした。データ整理のために、Activity Base Softwareを用いた。
使用した試験化合物の各濃度についてホスホリルトランスフェラーゼ活性のコントロールに対する割合(%)としてデータを表わし、以下の通りに計算した:
コントロールに対する割合(%)=(RT−Rb)/(Rc−Rb)×100
Rtは、MKK3の存在下で与えられた濃度での試験化合物との反応についてのルミネッセンス読み出しである。
Rbは、試験化合物は存在するが、MKK3のない反応についてのルミネッセンス読み出しである(ブランク)。
Rcは、MKK3は存在するが、試験化合物のない反応についてのルミネッセンス読み出しである(コントロール)。
図4に示すように、IC50(50%抑制濃度)は330nMであった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ルシフェラーゼのKm(ATP-γ-S)の決定を図示する。ATP-γ-S(1mM〜238pMの範囲にわたる23の濃度)をKinase-Glo(商標)に加えた。15分間のインキュベーション後、LJL Analystのルミネッセンスモードを用いてデータを定量化した。RLUは相対的な光の単位である。+は測定値である。−は予測値である。
【図2】p38(受容体基質)の非存在下で、MKK3によるATP消費の初期観察を図示する。MKK3(10nM)を示した時間でATP(300nM)に加え、反応をKinase-Glo(商標)試薬の添加により終わらせた。15分間のインキュベーション後、LJL Analystのルミネッセンスモードを用いてデータを定量化した。基質の存在下(150nMのp38)での反応も示す。RLUは相対的な光の単位である。−■−はMKK3単独である。−◆−はp38の存在下でのMKK3である。
【図3】p38(受容体基質)の非存在下で、ATP消費(MKK3に固有であるか、又は汚染物質由来であるか)の排除を図示する。ATPの代わりに300nMのATP-γ-Sを用いることを除いて、図2で用いた方法に従って、この実験を行った。−■−はp38の存在下でのMKK3である。−▲−はMKK3単独である。−●−はp38単独である。−▼−はMKK3もp38も含まないコントロールである。
【図4】ATP-γ-Sを用い、キナーゼ(MKK3)のホスホリルトランスフェラーゼ活性の試験化合物による阻害を測定するアッセイの結果を図示する。IC50(50%抑制濃度)は330nMであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質キナーゼ活性を測定する方法であって、
(a)タンパク質キナーゼとATP-γ-Sとを含む第1溶液を調製し、
(b)工程(a)の溶液と同じタンパク質キナーゼとATP-γ-Sと前記タンパク質キナーゼによってリン酸化可能な基質とを含む第2溶液を調製し、
(c)各溶液をインキュベートしてリン酸化反応を起こさせ、
(d)第1溶液中に残っているATP-γ-Sの量及び第2溶液中に残っているATP-γ-Sの量を測定し、
(e)第1溶液中に残っているATP-γ-Sの量と第2溶液中に残っているATP-γ-Sの量を比較してタンパク質キナーゼの活性を決定することを含む前記方法。
【請求項2】
ATP-γ-Sの濃度が生物発光反応を用いて決定される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ATP-γ-Sの濃度が放射分析アッセイを用いて決定される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
生物発光反応がルシフェリン及びルシフェラーゼを用いて行われ、前記ルシフェリンがルシフェラーゼとATP-γ-Sの存在下で光を発する、請求項2記載の方法。
【請求項5】
リン酸化される基質が別のタンパク質キナーゼである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
第1溶液及び第2溶液が最大4時間の時間間隔でインキュベートされ、第1溶液及び第2溶液中に残っているATP-γ-Sの量が各時間間隔で決定される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
タンパク質キナーゼ活性を調節する化合物を同定する方法であって、
(a)タンパク質キナーゼとATP-γ-Sと前記タンパク質キナーゼによってリン酸化可能な基質と試験化合物とを含む第1溶液を調製し、
(b)タンパク質キナーゼとATP-γ-Sと前記タンパク質キナーゼによってリン酸化可能な基質とを含む第2溶液を調製し、
(c)ATP-γ-Sと前記タンパク質キナーゼによってリン酸化可能な基質と試験化合物とを含む第3溶液を調製し、
(d)工程(a)、(b)及び(c)の各溶液をインキュベートしてリン酸化反応を起こさせ、
(e)第1、第2及び第3溶液中に残っているATP-γ-Sの量を比較して前記化合物がタンパク質キナーゼ活性を調節するかどうかを決定することを含む前記方法。
【請求項8】
ATP-γ-Sの濃度が生物発光反応を用いて決定される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
ATP-γ-Sの濃度が放射分析アッセイを用いて決定される、請求項7記載の方法。
【請求項10】
生物発光反応がルシフェリン及びルシフェラーゼを用いて行われ、前記ルシフェリンがルシフェラーゼとATP-γ-Sの存在下で光を発する、請求項8記載の方法。
【請求項11】
リン酸化される基質が別のタンパク質キナーゼである、請求項7記載の方法。
【請求項12】
工程(a)、(b)及び(c)の各溶液が30〜120分間インキュベートされる、請求項7記載の方法。
【請求項13】
タンパク質キナーゼ活性を調節する化合物が前記活性の阻害剤である、請求項7記載の方法。
【請求項14】
タンパク質キナーゼ活性を調節する化合物が前記活性を高める、請求項7記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−536522(P2008−536522A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507864(P2008−507864)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際出願番号】PCT/US2006/014860
【国際公開番号】WO2006/113862
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】