説明

アニオン交換樹脂の製造方法、アニオン交換樹脂、混床樹脂および電子部品・材料洗浄用超純水の製造方法

【課題】溶出物が少なく、シリコンウエハ表面の平坦度を悪化させにくいアニオン交換樹脂を提供する。
【解決手段】アニオン性解離基を含有する水溶性高分子を接触させる工程を含むアニオン交換樹脂の製造方法であって、該水溶性高分子の接触量が、アニオン交換樹脂1リットルに対する水溶性高分子のアニオン性解離基量として0.01〜10mmol/Lであり、得られるアニオン交換樹脂について、シリコンウエハ試験により求めたウエハ表面平坦度がRmsで4Å以下であることを特徴とするアニオン交換樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶出物の少ないアニオン交換樹脂とおよびその製造方法と、該アニオン交換樹脂を用いた混床樹脂および電子部品・材料洗浄用超純水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からイオン交換樹脂は、水の浄化のみならず、医薬、食品、化学工業など広い産業分野で使用されている。一般に、イオン交換樹脂は、架橋した三次元の高分子基体に、アニオン交換基あるいはカチオン交換基を導入した化学構造を持っており、アニオン交換基としては、例えば1〜3級アミノ基、アンモニウム基などがよく知られている。
アニオン交換樹脂は、一般にモノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの共重合体にハロアルキル化剤を反応させて、ハロアルキル基を導入し、次いでアミン化合物と反応させて製造される。
【0003】
従来、架橋共重合体を基体としたイオン交換樹脂は、その使用時に有機物等の溶出が発生するという課題があった。こうした樹脂からの溶出物は、分離や精製の対象となる被処理液の着色・毒性化、樹脂の表面の汚染による脱塩阻害・臭気発生・処理量低下、樹脂の分解による水分の増加等を招く原因となる。特に、シリコンウエハの洗浄等に用いられる超純水にあっては、微量の溶出物であっても、かかる溶出物によりシリコンウエハをエッチングし、表面の平坦度に悪影響を与えるため、超純水製造用途においては、シリコンウエハをエッチングする物質の溶出の少ないアニオン交換樹脂が望まれていた。
【0004】
また、特許文献1には、正のゼータ電位を有する物質が半導体製造の不良率と大きくかかわっていて、正のゼータ電位を有する物質は強塩基性アニオン交換樹脂に由来する可能性が記されている。しかし、この特許文献1の評価では、シリコンウエハの汚染度を基準としており、シリコンウエハの平坦度の良否という厳密なレベルの評価に至るものではなかった。また、該特許文献1では、カチオン交換樹脂との混床とすることにより正のゼータ電位を有する物質を低減する方法が開示されているが、アニオン交換樹脂単独での溶出を低減する方法や、シリコンウエハをエッチングする物質の低減方法までは開示されていなかった。
すなわち、従来において、シリコンウエハ表面の平坦度への影響という厳密な観点から、超純水製造用に使用するイオン交換樹脂の改善を考える技術背景はなかった。
【0005】
樹脂からの溶出物の原因としては、まず、架橋共重合体の製造時に残存する不純物、例えば、未重合の単量体成分(モノマー)、重合不十分の低重合体成分(ダイマー、トリマー、オリゴマー)、遊離重合体成分(線状ポリマー、ポリマー微粒子)、重合反応による副生物等の存在が挙げられる。例えば、スチレン系樹脂の場合、未重合の単量体成分としてスチレンモノマー、ジビニルベンゼン、エチルビニルベンゼン等が、重合不十分の低重合体成分としてスチレンダイマー、スチレントリマー、スチレンオリゴマー等が、遊離重合体成分として線状ポリスチレン、ポリスチレン微粒子等が、重合反応による副生物としてホルムアルデヒドやベンズアルデヒド等が、それぞれ不純物として残留する。
しかしながら、このような不純物の残存を防ぐための有効な手段は知られておらず、従来はこのような不純物を除去するために、イオン交換樹脂や合成吸着剤の製造後や使用前に、蒸留水等でこれを洗浄する工程が必要となり、コストの高騰や工程の煩雑化を招いていた。
【0006】
一方、超純水の製造技術とは離れて、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂を混床で用いる場合、両者の間で生じる「からみ現象」のため、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂で形成される混床樹脂の体積が増加しすぎるため、ハンドリングの点で問題となっていたが、このからみ防止技術として、アニオン交換樹脂にアニオン性解離基を含有する水溶性高分子を処理させる方法が開示されている(特許文献2)。しかしながら、これはあくまでもからみ防止技術に関わるものであり、シリコンウエハ表面の平坦度への影響を抑えるイオン交換樹脂製造のための改善技術というものではなかった。
【特許文献1】特開2003−334550号公報
【特許文献2】特開平9−19964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の背景から、架橋共重合体を用いたアニオン交換樹脂について、シリコンウエハの平坦度への影響を抑制するための樹脂からの低溶出化技術が望まれていた。
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、その目的は、溶出物が少なく、シリコンウエハ表面の平坦度を悪化させにくいアニオン交換樹脂とその製造方法、並びに、該アニオン交換樹脂を用いた混床樹脂および電子部品・材料洗浄用超純水の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、従来、からみ防止剤として使用されていたアニオン性解離基を含有する水溶性高分子を製造工程に加えてアニオン交換樹脂を製造することにより、溶出物が少なく、シリコンウエハ表面の平坦度を悪化させにくいアニオン交換樹脂が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、下記〔1〕〜〔4〕に存する。
【0010】
〔1〕 アニオン性解離基を含有する水溶性高分子を接触させる工程を含むアニオン交換樹脂の製造方法であって、該水溶性高分子の接触量が、アニオン交換樹脂1リットルに対する水溶性高分子のアニオン性解離基量として0.01〜10mmol/Lであり得られるアニオン交換樹脂について、シリコンウエハ試験により求めたウエハ表面平坦度がRmsで4Å以下であることを特徴とするアニオン交換樹脂の製造方法。
【0011】
〔2〕 〔1〕に記載のアニオン交換樹脂の製造方法によって製造されたアニオン交換樹脂。
【0012】
〔3〕 〔2〕に記載のアニオン交換樹脂を用いて形成されることを特徴とする混床樹脂。
【0013】
〔4〕 〔2〕に記載のアニオン交換樹脂を用いることを特徴とする電子部品・材料洗浄用超純水の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、不純物の残存や分解物の発生が抑制され、溶出物が少なく、シリコンウエハ表面の平坦度を悪化させにくいアニオン交換樹脂を提供することができ、このアニオン交換樹脂をそのまま、またはこれを用いた混床樹脂により、高純度の超純水を製造することができる。
【0015】
本発明に従って、アニオン性解離基を含有する水溶性高分子でアニオン交換樹脂を処理するとシリコンウエハ表面の平坦度の悪化が抑制される理由は、アニオン性解離基を含有する水溶性高分子がアニオン交換樹脂からの溶出物を捕捉するためと考えられる。
即ち、アニオン交換樹脂からの溶出物は、アンモニウム基を有するポリスチレン化合物が主体であるので、それらは水溶性高分子のアニオン性解離基に吸着して捕捉されると考えられる。
また、前述の特許文献1で開示されているように、正のゼータ電位を有する物質がシリコンウエハを汚染すると考えられているが、アニオン性解離基を含有する水溶性高分子は、それらの正のゼータ電位を有する溶出物を捕捉する効果もあるため、シリコンウエハの汚染も防止されると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態につき詳細に説明する。尚、以下の記載は、本発明の実施態様の一例であって、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載に限定されるものではない。
【0017】
[1]アニオン交換樹脂の製造方法
本発明のアニオン交換樹脂の製造方法は、アニオン交換樹脂にアニオン性解離基を含有する水溶性高分子を接触させることにより、下記(A)シリコンウエハ試験におけるウエハ表面平坦度がRmsで4Å以下のアニオン交換樹脂を製造することを特徴とする。
【0018】
(A)シリコンウエハ試験
表面平坦度(Rms)は下記(1)〜(4)の操作により測定された値である。
(1)直径40mm、長さ500mmのカラムにアニオン交換樹脂500mLを充填した後、室温条件下、抵抗率=18.2MΩ・cm以上、水温25℃、TOC=0.5μg/Lの超純水をSV=60hr−1で通水する。
(2)通水3時間後にベアシリコンウエハに1時間通水接触させる。その時使用するウエハ保持具は、内部に1枚のウエハが収納でき、外気の影響を受けず、超純水の接触のみによるウエハへの影響をみることができる容器を使用する(例えば、特開2001−208748号公報に開示された保持具)。
(3)ベアシリコンウエハに1時間通水後、クリーンルーム内で、ウエハを保持具から取り出し、スピン乾燥にて該ウエハを乾燥させる。
(4)乾燥後に原子間力顕微鏡(AFM)によりシリコンウエハ表面平坦度を測定する。
【0019】
上記シリコンウエハ試験において、ウエハ表面平坦度が、Rmsで4Åを超えるものでは、溶出物が多く、シリコンウエハ表面へ影響がある。このウエハ表面平坦度は小さい程好ましく、より好ましくはRmsで3Å以下、特に好ましくはRmsで2.5Å以下である。ウエハ表面平坦度の下限には特に制限はないが、通常1Å以上である。
【0020】
アニオン交換樹脂の処理に用いるアニオン性解離基を含有する水溶性高分子(以下、「アニオン性水溶性高分子」と称す場合がある。)としては、例えば、特開平10−202118号公報や特開2002−102719号公報に記載の公知のアニオン性水溶性高分子を用いることができる。
【0021】
アニオン交換樹脂の処理に用いるアニオン性水溶性高分子としては、特に制限されないが、カルボン酸基、スルホン酸基などの酸基を分子内に多数有する線状高分子物質などが好ましく使用される。具体的には、通常、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメチルメタアクリル酸、ポリマレイン酸、前記の重合体を構成するモノマーの2種類以上より得られる共重合体などが挙げられる。各重合体は塩の形態であってもよい。これらの中では、ポリスチレンスルホン酸が好ましい。官能基の対イオンとしては、通常、H、Na、NH等が挙げられるが、これらの中では、Hが好ましい。
【0022】
上記のアニオン性水溶性高分子の分子量としては、重量平均分子量500〜200万、好ましくは5000〜50万である。この分子量が低いと十分なからみ防止効果が発揮しにくく、また分子量が高すぎると該水溶性高分子の操作性、溶解性が劣る傾向にある。
【0023】
上記の水溶性高分子の付着割合(接触量)は、通常、アニオン交換樹脂1リットルあたり、0.01mmol/L以上、好ましくは0.1mmol/L以上、また、通常10mmol/L以下、好ましくは2mmol/L以下である。この量が0.01mmol/L未満では十分な処理効果が得られず、10mmol/Lを超えるとアニオン交換樹脂の脱塩性能が低下する悪影響がある。
【0024】
アニオン性水溶性高分子によるアニオン交換樹脂の処理方法について説明する。
この処理方法は、アニオン交換樹脂を破砕せずにアニオン性水溶性高分子を付着させる方法であれば何れの方法であってもよいが、アニオン交換樹脂にアニオン性水溶性高分子を水の存在下で付着させる方法が好適に使用される。具体的には、アニオン交換樹脂にアニオン性水溶性高分子の水溶液をスプレイして付着させる方法、アニオン性水溶性高分子の水溶液にアニオン交換樹脂を混合して付着させる方法、アニオン交換樹脂の水溶液にアニオン性水溶性高分子電解質を混合して付着させる方法、スラリー状のアニオン交換樹脂をバブリング等で流動させた状態にアニオン性水溶性高分子水溶液を注入して付着させる方法などが挙げられる。処理時間は、通常10分〜3時間、好ましくは30分〜1時間の範囲とされる。ここで、アニオン性水溶性高分子の付着は、部分付着または全面付着の何れであってもよいが、全面付着が好ましい。
【0025】
アニオン性水溶性高分子による処理後のアニオン交換樹脂は、メタノール、エタノール、プロパノール、メチラール等のアルコール系溶媒または水溶性溶媒で洗浄した後、超純水で洗浄して、使用に供することができる。
【0026】
このような本発明のアニオン性水溶性高分子による処理を適用するアニオン交換樹脂の形状は特に限定されず、一般的に用いられているビーズ状のものの他、繊維状、粉状、板状、膜状のような各種形状としたものにも有効に適用することができる。
【0027】
また、本発明は、再生前のCl形のアニオン交換樹脂の処理にも適用することができ、また公知の再生方法で再生してOH形としたアニオン交換樹脂にも適用することができる。例えば、特開2002−102719記載の方法が好適に使用できる。
【0028】
また、本発明は、公知の溶出低減方法を行なった超純水用のアニオン交換樹脂に対しても適用することができる。例えば、特開2002−102719記載の方法で処理されたアニオン交換樹脂が好適に使用できる。具体的には、アルカリ溶液存在下で加熱洗浄する方法や、カラムで熱水洗浄する方法、溶媒で洗浄する方法で精製されたアニオン交換樹脂が好適に適用できる。また、必要に応じ、公知の金属含有量の低減方法で処理されたアニオン交換樹脂にも適用することができる。
【0029】
本発明は、均一粒径のアニオン交換樹脂も好適に適用することができる。
また、I形のアニオン交換樹脂のみならず、II形のアニオン交換樹脂にも好適に適用することができる。
【0030】
[2]アニオン交換樹脂
本発明のアニオン交換樹脂は、本発明のアニオン交換樹脂の製造方法に従って、前述のアニオン性水溶性高分子による処理を行って、前記(A)シリコンウエハ試験によるウエハ表面平坦度がRmsで4Å以下となるようにされたものであるが、更に、次のような物性ないし特性を有することが好ましい。
【0031】
なお、本発明のアニオン交換樹脂の形状や構造には特に限定されず、例えば形状としては、一般的に用いられているビーズ状のものの他、繊維状、粉状、板状、膜状のような各種形状としたものも含まれる。
また、本発明のアニオン交換樹脂の水分含有率としては、通常25重量%以上75重量%以下であるが、実用的には30重量%以上60重量%以下の範囲とするのが好ましい。
【0032】
[2−1]水分含有率および交換容量
[2−1−1]Cl形で測定するときの水分含有率と単位体積あたりの交換容量
本発明のアニオン交換樹脂について、Cl形で測定するときの水分含有率WCl(重量%)と単位体積あたりの交換容量QCl(meq/mL−樹脂)とは、下記式(1)〜(5)のいずれかで表されることが好ましい。
【0033】
Cl≦1.25(但し、WCl<38) …(1)
Cl≦1.36(但し、38≦WCl<42) …(2)
Cl≦1.2 (但し、42≦WCl<48) …(3)
Cl≦1.1 (但し、48≦WCl<55) …(4)
Cl≦0.8 (但し、55≦WCl) …(5)
【0034】
このアニオン交換樹脂の水分含有率WCl(重量%)と単位重量あたりの交換容量QCl(meq/mL−樹脂)は、より好ましくは、下記式(1')〜(5')のいずれかで表される。
【0035】
Cl≦1.23(但し、WCl<38) …(1')
Cl≦1.36(但し、38≦WCl<42) …(2')
Cl≦1.2 (但し、42≦WCl<48) …(3')
Cl≦1.1 (但し、48≦WCl<55) …(4')
Cl≦0.8 (但し、55≦WCl) …(5')
【0036】
一般のアニオン交換樹脂は、水分含有率が多く、かつ交換容量が大きいという傾向がある。
本発明のCl形アニオン交換樹脂は、前記式(1)〜(5)、好ましくは(1')〜(5')で規定されるように、同程度の水分含有率をもつ従来のアニオン交換樹脂と比較して、交換容量が小さいことが好ましい。
【0037】
このように、同程度の水分含有率をもつ従来のアニオン交換樹脂と比較して、交換容量が小さいCl形アニオン交換樹脂が、従来樹脂と比べて、不純物の残存や分解物の発生を防ぎ、使用時における溶出物の発生を抑制している理由としては、以下の通り推定される。
【0038】
(i)多重官能基化不純物の低減
アニオン交換樹脂は、一般に、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて得られる架橋共重合体をハロアルキル化した後、アミン化合物と反応させて得られるが、このようなアニオン交換樹脂の製造工程のうち、ハロアルキル化反応では架橋共重合体のモノマーユニット1個に対し複数のハロアルキル基の導入も起こっている。このような不純物が存在すると、有機溶媒に対する溶解度が低いため、有機溶媒で除去しようにも多大な負荷がかかっていた。また、アミノ化時の立体障害が大きい為、複数個のハロアルキル基全てがアミノ化されずに残る可能性があり、その結果、水洗性の低い不純物(以下「多重官能基化不純物」と称する。)が最終製品に残留して、使用時の溶出物の発生原因となっていると推定される。
一方、従来樹脂と比べて過剰な交換基を持たないアニオン交換樹脂は、多重官能基化不純物の量が少なくなっていると考えられる。
【0039】
(ii)交換基そのものを減らすことによる溶出量の低減
アニオン交換樹脂からの溶出物の一つとして、トリメチルアミンなどのアミン類が知られている。このアミン類の溶出は、交換基の脱落が原因とされている。
一方、従来樹脂に比べて交換基の量が少ないアニオン交換樹脂は、交換基の脱落由来の溶出が減少すると考えられる。
【0040】
(iii)選択的ハロアルキル化による交換基脱落抑制
通常のアニオン交換樹脂は、モノマーユニット1個に対して複数個の交換基を有する場合があり、これによる立体障害により交換基の脱落が起こりやすくなっていると考えられる。従って、かかる交換基の脱離を抑制するには、モノマーユニット1個に対して1個ずつ交換基が入るようにすべきである。
従来樹脂と比べて交換容量が少ないアニオン交換樹脂は、モノマーユニット1個あたりに複数個の交換基を持つことが少ない。これにより、交換基同士の立体障害が少なくなるため、交換基の脱落が少なくなり、使用時において交換基の脱落由来の溶出が減少すると考えられる。
【0041】
(iv)ハロアルキル化時の炭素−炭素結合開裂の抑制
ハロアルキル化の工程では、通常ルイス酸を加えてフリーデルクラフツ反応(炭素−炭素結合の生成)を行なっている。この反応では、逆反応により炭素−炭素結合の開裂も起こるので、架橋共重合体の主鎖の開裂を併発し、低分子オリゴマーや高分子の線状ポリマーの溶出物を発生させている。
一方、交換基の少ないアニオン交換樹脂は、このような炭素−炭素結合の開裂や、主鎖開裂が少なくなっているので、溶出物も少なくなっていると考えられる。
【0042】
なお、本発明に係るCl形アニオン交換樹脂の交換容量QClおよび水分含有率WClは、以下の方法で分析、測定される。
【0043】
〔交換容量QClおよび水分含有率WClの測定方法〕
アニオン交換樹脂をカラムに詰め、これに樹脂容量の25倍量の5重量%NaCl水溶液を通液し、アニオン型をCl型に変換する。この樹脂を10ml採り、カラムに詰め、2NのNaOH水溶液を樹脂の75倍量通液してアニオン型をOH型に変換する。洗浄濾液が中性になるまで十分に脱塩水で洗浄し、その後、5重量%NaCl水溶液を樹脂の25倍量通液し、流出液を全て捕集する。この流出液を塩酸で滴定することにより、交換容量QCl(meq/mL−樹脂)を算出する。
【0044】
また、アニオン型をCl型に変換した樹脂を遠心分離して付着した水分を除去した後、重量を測定する。その後、105±2℃の恒温乾燥器中で約4時間乾燥する。デシケーター中で放冷した後、重量を測定し、水分含有率WCl(重量%)を算出する。
【0045】
本発明に係るアニオン交換樹脂において、交換容量QClおよび水分含有率WClを上記式(1)〜(5)を満足させる方法としては、例えば、モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとを共重合させて得られる架橋共重合体をハロアルキル化した後、アミン化合物と反応させて得られるアニオン交換樹脂の場合は、
(a)ハロアルキル化の段階でハロアルキル基導入率を従来よりも少なくする方法
(b)該ハロアルキル化の段階を、抑制された反応条件、例えば触媒量の低減、反応溶媒の増量、触媒濃度の低減などの反応条件で実施する方法
(c)モノビニル芳香族モノマーと架橋性芳香族モノマーとの架橋共重合体の段階で特定の溶出性化合物の含有量を一定値以下に抑制する方法
等が挙げられる。
【0046】
[2−1−2]OH形で測定するときの水分含有率と単位体積あたりの交換容量
本発明のアニオン交換樹脂は、OH形で測定するときの水分含有率WOH(重量%)と単位体積あたりの交換容量QOH(meq/mL−樹脂)とが、下記式(6)または(7)で表されることが好ましい。
【0047】
OH≦1.1(但し、WOH<66) …(6)
OH≦0.9(但し、66≦WOH) …(7)
【0048】
前述の様に、従来のアニオン交換樹脂は、水分含有率が多く、かつ交換容量が大きいという傾向がある。
本発明のOH形アニオン交換樹脂は、前記数式(6),(7)で規定されるように、同程度の水分含有率をもつ従来のアニオン交換樹脂と比較して、交換容量が小さいことが好ましい。
【0049】
このように、同程度の水分含有率をもつ従来のアニオン交換樹脂と比較して、交換容量が小さいOH形アニオン交換樹脂が、従来樹脂と比べて、不純物の残存や分解物の発生を防ぎ、使用時における溶出物の発生を抑制している理由は、Cl形アニオン交換樹脂の説明において前述した通りである。
【0050】
なお、本発明に係るOH形アニオン交換樹脂の交換容量QOHと水分含有率WOHは、以下の方法で分析、測定される。
【0051】
〔交換容量QOHおよび水分含有率WOHの測定方法〕
OH形のアニオン交換樹脂を10ml採り、カラムに詰め、5重量%NaCl水溶液を樹脂の25倍量通液し、流出液を全て捕集する。この流出液を塩酸で滴定することにより、交換容量QOH(meq/mL−樹脂)を算出する。
【0052】
また、水分含有量WOHは、OH形アニオン交換樹脂を遠心分離して付着した水分を除去した後、カールフィッシャー法によりデジタル式自動滴定装置(例えば三菱化学社製「カールフィッシャーKF07型」相当のものなど)を用いて以下の手順で測定する。
試料約5gを20mLの秤量瓶に正確に測り、その中からスプーンで約0.1gを速やかにとり、それをカールフィッシャー試薬にて水分を「0」にしたメタノール約30mLの中に投入する。次に、攪拌しながらカールフィッシャー試薬を滴下し、最後の1滴を加えてから30秒間電流計の指示がストップしている点を終点とし、水分含有率WOH(重量%)を算出する。
【0053】
本発明に係るOH形アニオン交換樹脂において、交換容量QOHおよび水分含有率WOHを上記式(6),(7)を満足させる方法は、前述した、本発明に係るCl形アニオン交換樹脂の交換容量QClおよび水分含有率WClを前記式(1)〜(5)を満足させる方法と同様である。
【0054】
[2−2]超純水通水試験におけるΔTOC
本発明のアニオン交換樹脂は、下記(B)の超純水通水試験におけるΔTOCが0.5ppb以下であることが好ましく、0.2ppb以下であることが更に好ましい。
【0055】
(B)超純水通水試験
(1)直径30mm、長さ1000mmの空の測定カラムに、室温条件下、比抵抗が18MΩ・cm以上、水温20〜40℃の超純水を満たし、該超純水をSV=30hr−1で通水し、測定カラム出口水のTOC濃度(TOC)を測定する。
(2)前記アニオン交換樹脂500mLを前記測定カラムに流し込み充填した後、室温条件下、前記超純水をカラムにSV=30hr−1で通水し、20時間後の測定カラム出口水のTOC濃度(TOC)を測定する。
(3)下記式によってΔTOCを算出する。
ΔTOC(ppb)=TOC−TOC
【0056】
上記(B)超純水通水試験における比抵抗、およびTOC濃度の測定装置は、本発明の技術的意義を失わない程度に市販の測定機器が用いられるが、電子部品・材料洗浄用超純水の製造に用いられるアニオン交換樹脂の場合は精度の高いものが望ましい。
比抵抗測定器としては、例えばDKK社製「AQ−11」を挙げることができる。また、TOC測定器としては、例えばアナテル社製「A−1000XP型」、「A−1000型」、「A−100SE」、「S20P」、シーバス社製「500RL型」を挙げることができる。
【0057】
上述の(A)超純水通水試験におけるΔTOCが0.5ppbを超えるものでは、超純水、特に半導体等の電子部品・材料洗浄用超純水を製造するためのアニオン交換樹脂としては、溶出物による純度低下の問題があり、好ましくない。
【0058】
[2−3]体積増加率
本発明のアニオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂と混合した場合における体積増加率が混合前の150%以下、好ましくは130%以下、さらに好ましくは10%以下とすることが好適である。この体積増加率が大き過ぎると、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とで形成される混床樹脂の体積が増加しすぎるため、ハンドリングの点で問題となる。
【0059】
なお、アニオン交換樹脂の体積増加率は以下の方法で測定される。
<体積増加率測定法>
1)アニオン交換樹脂1部を水中スラリー状態でメスシリンダーに量り取る。
2)カチオン交換樹脂1部を水中スラリー状態でメスシリンダーに量り取る。
3)アニオン交換樹脂にカチオン交換樹脂を流し込み、上下に10回振ったあと、得られ
た混床樹脂の体積を測定する。
4)次式により体積増加率を決定する。
(体積増加率)% = (混床樹脂体積)/(アニオン交換樹脂体積
+カチオン交換樹脂体積)×100
【0060】
[2−4]押し潰し強度
本発明のアニオン交換樹脂は、1粒子あたりの押し潰し強度が7.5N以上、好ましくは、9N以上、さらに好ましくは10N以上であり、通常50N以下、好ましくは30N以下であることが好ましい。
【0061】
このように、通常のアニオン交換樹脂に比べて、押し潰し強度が高い本発明のアニオン交換樹脂は、溶出物が少ないものとなる。
押し潰し強度の高いアニオン交換樹脂が溶出物が少ない理由は、以下のように推定される。
交換基の全く入っていないアニオン交換樹脂(つまりモノビニル芳香族モノマーとポリビニル芳香族モノマーとの架橋共重合体)の一例として、スチレンとジビニルベンゼンの架橋共重合体は、通常20N以上の硬い粒子であり、かつΔTOCは、水溶性の溶出物を全く含まないのでゼロに近いものである。
従って、本発明のように、従来樹脂よりも交換容量の低いアニオン交換樹脂の場合、押し潰し強度は高く、かつ前述の(A)超純水通水試験におけるΔTOCは低いものが得られると考えられる。
【0062】
なお、本発明において、アニオン交換樹脂の押し潰し強度は以下のように測定される。
<押し潰し強度測定法>
(1)球形のアニオン交換樹脂のうち850μmのフルイを通過し600μmのフルイに残
るものを数100個採取し、測定まで脱塩水中に保管する。
(2)サンプルをランダムに最低60個選び、シャチロンテスター又は同等品にて強度測定
を行う。
(3)全ての粒子についての強度の平均値を算出する。
【0063】
[3]混床樹脂、超純水の製造方法
本発明の混床樹脂は、本発明のアニオン交換樹脂と任意のカチオン交換樹脂とを用いて、例えば、特開2002−102719号公報などの公知の方法により製造することができる。
また、本発明のアニオン交換樹脂を用いた混床樹脂により、例えば、特開2002−102719号公報などの公知の方法により、樹脂からの溶出物の少ない、高純度の超純水を製造することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
[実施例1]
スチレン(工業グレード、出光社製)621g、ジビニルベンゼン(工業グレード、純度63重量%、ダウ社製)54g、過酸化ジベンゾイル(純度75重量%、wet品。日本油脂製)0.9g、t−ブチルパーオキシベンゾエート(純度99重量%、日本油脂製)0.7gを混合し、0.1%ポリビニルアルコール(工業用、日本合成化学社製、グレードGH−20)水溶液2025gに懸濁させた。該懸濁液を攪拌しながら80℃で5時間保持、その後120℃で4時間反応させ、架橋共重合体を得た。
【0066】
上記架橋共重合体150gを丸底4つ口フラスコに入れ、クロロメチルメチルエーテル(和光純薬製試薬)900gを加え、架橋共重合体を十分膨潤させた。その後、フリーデル・クラフツ反応触媒として塩化亜鉛56g(阪和興業製)を添加し、浴の温度を50℃にして攪拌しながら8時間反応させ、クロロメチル化架橋共重合体を得た。
【0067】
上記クロロメチル化架橋共重合体をメタノール(日本アルコール販売製)とトルエン(和光純薬製、試薬)でバッチ洗浄したあと、30重量%トリメチルアミン水溶液(和光純薬製試薬)を添加し、50℃で攪拌しながら8時間反応させてI型4級アンモニウム型アニオン交換樹脂(Cl形)を得た。
【0068】
この得られたCl形アニオン交換樹脂の交換容量と水分量を[2−1−1]で前述した交換容量QClおよび水分含有率WClの測定方法〕を用いて測定し、結果を表1に示した。
【0069】
上記で得られたI型4級アンモニウム型アニオン交換樹脂を反応容器に入れ、1N−NaOH(和光純薬製)水溶液中、100℃で8時間攪拌した後、樹脂を取り出し、カラムに充填して水洗し、その後、重曹水溶液(和光純薬製試薬)とNaOH(和光純薬製試薬)水溶液とを通液して再生を行ない、OH形のアニオン交換樹脂に変換した。
【0070】
再生後、樹脂をビーカーに入れ、平均分子量1×10のポリスチレンスルホン酸水溶液(ポリスチレンスルホン酸濃度0.2mmol/L)をアニオン交換樹脂と同体積量添加して30分撹拌した。アニオン交換樹脂1リットルあたりのスルホン酸基の量は、0.2mmol/L−樹脂とした。このスラリーをカラムに移し、特級メタノールを室温で通液し、最後に超純水で水洗し、超純水用のアニオン交換樹脂とした。
得られたアニオン交換樹脂について、前述の(A)シリコンウエハ試験を行い、ウエハ表面平坦度を調べ、結果を表1に示した。
【0071】
[実施例2]
スチレン(工業グレード、出光社製)590g、ジビニルベンゼン(工業グレード、純度63重量%、ダウ社製)85g、過酸化ジベンゾイル(純度75重量%、wet品。日本油脂製)1.8g、t−ブチルパーオキシベンゾエート(純度99重量%、日本油脂製)1.4gを混合し、0.1%ポリビニルアルコール(工業用、日本合成化学社製、グレードGH−20)水溶液2025gに懸濁させた。該懸濁液を攪拌しながら80℃で5時間保持、その後120℃で4時間反応させ、架橋共重合体を得た。
【0072】
上記共重合体150gを丸底4つ口フラスコに入れ、クロロメチルメチルエーテル(和光純薬製試薬)490gを加え、共重合体を十分膨潤させた。その後、フリーデル・クラフツ反応触媒として塩化亜鉛(阪和工業製)45gを添加し、浴の温度を40℃にして攪拌しながら8時間反応させ、クロロメチル化架橋共重合体を得た。
【0073】
上記クロロメチル化架橋共重合体10gをメタノール(日本アルコール販売社製)とトルエン(和光純薬製、試薬)でバッチ洗浄した後、30重量%トリメチルアミン水溶液(和光純薬製試薬)を添加し、30℃で攪拌しながら8時間反応させてI型4級アンモニウム型アニオン交換樹脂(Cl形)を得た。
【0074】
この得られたCl形アニオン交換樹脂の交換容量と水分量を[2−1−1]で前述した交換容量QClおよび水分含有率WClの測定方法〕を用いて測定し、結果を表1に示した。
【0075】
上記で得られたI型4級アンモニウム型アニオン交換樹脂を反応容器に入れ、1N−NaOH(和光純薬製)水溶液中100℃で8時間攪拌した後、樹脂を取り出し、カラムに充填して水洗した後、重曹水溶液(和光純薬製試薬)とNaOH(和光純薬製試薬)水溶液とを通液して再生を行ない、OH形のアニオン交換樹脂に変換した。
【0076】
再生後、樹脂をビーカーに入れ、平均分子量1×10のポリスチレンスルホン酸溶液を攪拌しながら添加した。アニオン交換樹脂に対するスルホン酸基の量は0.2meq/L−樹脂とした。このスラリーをカラムに移し、特級メタノールを室温で通液し、最後に超純水で水洗し、超純水用のアニオン交換樹脂とした。
このOH形アニオン交換樹脂の交換容量と水分量を[2−1−2]で前述した〔交換容量QOHおよび水分含有率WOHの測定方法〕を用いて測定し、結果を表1に示した。
また、得られたアニオン交換樹脂について、前述の(B)超純水通水試験により、ΔTOCを求めると共に、前述の(A)シリコンウエハ試験を行い、ウエハ表面平坦度を調べ、結果を表1に示した。
なお、このアニオン交換樹脂については、前述の[2−4]の押し潰し強度の測定と[2−3]の体積増加率の測定も行い、結果を表1に併記した。
【0077】
[比較例1]
ポリスチレンスルホン酸溶液による処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして超純水用のアニオン交換樹脂を調製した。
得られたアニオン交換樹脂について、前述の(A)シリコンウエハ試験を行い、ウエハ表面平坦度を調べ、結果を表1に示した。
【0078】
【表1】

【0079】
表1より、本発明により、溶出物が少なく、シリコンウエハの平坦度悪化を起こしにくいアニオン交換樹脂が得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性解離基を含有する水溶性高分子を接触させる工程を含むアニオン交換樹脂の製造方法であって、該水溶性高分子の接触量が、アニオン交換樹脂1リットルに対する水溶性高分子のアニオン性解離基量として0.01〜10mmol/Lであり、得られるアニオン交換樹脂について、シリコンウエハ試験により求めたウエハ表面平坦度がRmsで4Å以下であることを特徴とするアニオン交換樹脂の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアニオン交換樹脂の製造方法によって製造されたアニオン交換樹脂。
【請求項3】
請求項2に記載のアニオン交換樹脂を用いて形成されることを特徴とする混床樹脂。
【請求項4】
請求項2に記載のアニオン交換樹脂を用いることを特徴とする電子部品・材料洗浄用超純水の製造方法。

【公開番号】特開2008−264670(P2008−264670A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110654(P2007−110654)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】