説明

アノード及び金の電解精製方法

【課題】金の電解精製中にアノード本体の長さ方向中央部よりも下部分が脱落することがなく、又はその脱落する量を減少し、電解不良の発生を防止できるアノード、及び該アノードを用いた金の電解精製方法の提供。
【解決手段】金の電解精製に用いられるアノードであって、アノード本体1と、該アノード本体1の一端に設けられた取付部2とを有し、前記アノード本体1が、前記取付部2と対向する他端側に向かって厚みが減少するテーパー形状を有するアノードである。前記アノード本体の最大厚みDと、前記アノード本体の最小厚みDとの比(D/D)が2以上である態様などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金の電解精製に用いられるアノード及び該アノードを用いた金の電解精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金の電解精錬では、非鉄製錬工程又は金属リサイクル工程にて発生する金の品位が90質量%〜99質量%程度の粗金を溶解鋳造し、板状のアノード(陽極)とする。このアノードと不溶性のカソード(陰極)とを電解液中に浸漬し、アノードとカソード間に電流を通して金をカソードに電着させ、金品位99.99質量%以上の電気金が得られる。
このような金の電解精製方法及び装置として、例えば、特許文献1には、酸溶液の電解液、電解槽、陰極、陽極、電源、浄液設備、循環槽、及び制御装置を備えた金電解精製装置が提案されている。この提案によれば、前記電解液に酸化剤を添加することでプレーティングを抑制し、金電解精製装置の稼働率を向上させることにより、金の回収における生産性の向上を図れることが開示されている。
【0003】
また、金の電解精錬では、図1及び図2に示すアノード本体1と、取付部2とを有する平板状のアノード10が用いられており、アノード本体1は、均一な厚みに形成されている。
アノード10は、電解反応によって、アノード本体1の金が殆ど溶解されるため、通電の量、通電の方向、通電時間の調整が重要となる。しかし、通電時には、アノード及びカソードの表面、アノード内部の組成の微妙な変化が、通電に影響を与えることもある。このため、アノードの溶解状況、及びアノード本体の減肉形状を制御することは困難である。例えば、図1及び図2に示す均一な厚みのアノード本体1を有するアノード10においては、金の電解精製中にアノード本体1の溶解速度、及びアノード本体1の減肉が均一に進むとは限らない。金の電解精製中に、アノード本体1が不均一な溶解速度となると、アノード本体1の減肉形状を制御できず、図3及び図4に示すように、電解精製後のアノード10’は、アノード本体1の長さ方向中央部1aが他の部分よりも集中的に溶解してしまう。更に、アノード本体1の溶解が進むと、未だ、十分な量の金属(アノード)があっても、アノード本体1の長さ方向中央部1aよりも下部分が脱落してしまい、電解不良が発生、又は金の回収が不十分になってしてしまうという問題がある。また、アノード本体1の上部、及び取付部2を除いて最後まで溶解できず、残部が多く生じるので、アノードの鋳返し率が増加し、1つのアノード当りの金の収率が低下してしまうという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−222693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、金の電解精製中にアノード本体の長さ方向中央部よりも下部分が脱落することがなく、又はその脱落する量を減少し、電解不良の発生を防止できるアノード、及び該アノードを用いた金の電解精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、金の電解精製に用いられるアノード本体と、該アノード本体の一端に設けられた取付部とを有するアノードにおいて、前記アノード本体を、取付部と対向する他端側に向かって厚みが減少するテーパー形状とすることにより、電解精製中のアノード本体の溶解速度、及びアノード本体の減肉形状を制御でき、金の電解精製中にアノード本体の長さ方向中央部よりも下部分が脱落することがなく、又はその脱落する量を減少し、電解不良の発生を防止できることを知見した。
【0007】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 金の電解精製に用いられるアノードであって、
アノード本体と、該アノード本体の一端に設けられた取付部とを有し、
前記アノード本体が、前記取付部と対向する他端側に向かって厚みが減少するテーパー形状を有することを特徴とするアノードである。
<2> アノード本体が、取付部と対向する他端側に向かって厚みが漸次減少するテーパー形状を有する前記<1>に記載のアノードである。
<3> アノード本体の最大厚みDと、アノード本体の最小厚みDとの比(D/D)が2以上である前記<1>から<2>のいずれかに記載のアノードである。
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載のアノードを陽極として電解液中に金を溶解させ、陰極としてのカソードに金を析出させることを特徴とする金の電解精製方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、金の電解精製中にアノード本体の長さ方向中央部よりも下部分が脱落することがなく、又はその脱落する量を減少し、電解不良の発生を防止できるアノード、及び該アノードを用いた金の電解精製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、従来のアノードの一例を示す平面図である。
【図2】図2は、図1のA−A線での概略断面図である。
【図3】図3は、従来のアノードを用いて金の電解精製後のアノードの状態を示す摸式図である。
【図4】図4は、従来のアノードを用いて金の電解精製後のアノードの状態を示す側面摸式図である。
【図5】図5は、本発明のアノードの一例を示す平面図である。
【図6】図6は、図5のB−B線での概略断面図である。
【図7】図7は、本発明のアノードの別の一例を示す概略断面図である。
【図8】図8は、本発明のアノードの別の一例を示す概略断面図である。
【図9】図9は、本発明のアノードの別の一例を示す概略断面図である。
【図10】図10は、本発明のアノードの別の一例を示す平面図である。
【図11】図11は、本発明のアノードを用いて金の電解精製後のアノードの状態を示す平面摸式図である。
【図12】図12は、本発明のアノードを用いて金の電解精製後のアノードの状態を示す側面摸式図である。
【図13】図13は、本発明の金の電解精製方法に用いる金電解精製装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(アノード)
以下、本発明のアノードについて図面を参照して説明する。
図5は、本発明のアノードの一例を示す平面図、図6は、図5のB−B線での概略断面図である。
図5に示すように、本発明のアノード20は、アノード本体21と、該アノード本体21の一端に設けられた取付部22とを有している。図5では、アノード本体21の上端部の両端に2つの取付部22,22を有している。
【0011】
アノード本体21は、電解精製において溶解されるため、電解液中に配置してある。アノード本体21は、該アノード本体21の上端部から約5mmの位置に電解液の液面が位置するようにして電解液中に浸漬され、電解反応が行われる領域である。
アノード本体21の形状は、アノードと対面配置されるカソードの形状と相似していることが好ましい。例えば、カソードの形状が長方形であればアノード本体の形状を長方形とし、カソードの形状が矩形であればアノード本体の形状を矩形とする。
アノード本体21は、金品位が90質量%〜99.9質量%程度である粗金から形成されている。
前記粗金の原料としては、例えば、非鉄製錬工程で発生する粗金、金属リサイクル工程にて発生する粗金などが使用できる。金属の製錬段階で発生したものであれば、金属回収にもなり、精製等に適しているからである。なお、金の電解精製後に残ったアノード本体、アノード本体の上部、及び取付部を再溶解した材料なども用いることができる。
【0012】
図6に示すように、矩形状のアノード本体21は、取付部22と対向する他端側に向かって厚みが減少するテーパー形状を有している。
前記アノード本体21は、少なくとも一部がテーパー形状であることが必要であり、アノード本体の一部に均一な厚みの水平部を有していてもよいが、図6に示すように、アノード本体21の一方の面の全面がテーパー形状となっていることが好ましい。
これらの中でも、図6に示すように、アノード本体21が、取付部22と対向する他端側に向かって厚みが漸次減少するテーパー形状を有する態様が、より均一にアノード本体の溶解を図れる点から特に好ましい。
アノード本体21は、カソードと対面配置される面が表裏の両面ある。この表裏の両面ともテーパー形状としてもよいし、片方の面だけをテーパー形状としてもよい。アノード本体の片方の面だけをテーパー形状とした場合には、他方の面をカソード面と平行面とするのが好ましい。このようにアノード本体をテーパー面と平行面とし、カソードと対面する状況に差異を設けることで、アノード本体の長さ方向上部の局所的な溶解を避け、アノード本体の長さ方向下部の脱落を防止することができる。なお、前記アノード本体の平行面は、平行といっても多少の傾斜角度を有するものは許容される。
【0013】
図6に示すように、前記アノード本体21の最大厚みDと、前記アノード本体21の最小厚みDとの比(D/D)は2以上が好ましく、3以上がより好ましく、3〜5が更に好ましい。前記比(D/D)が、2未満であると、アノード本体をテーパー形状にした効果が得られなくなることがあり、5を超えると、アノード本体の長さ方向下部が集中的に溶解されるおそれがあり、アノード本体の長さ方向上部の溶解に悪影響を及ぼすことがある。
前記アノード本体21の最大厚みDは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10mm〜20mmが好ましい。
前記アノード本体21の最小厚みDは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3mm〜10mmが好ましい。
【0014】
前記取付部22は、前記アノード20を電解槽内に懸垂するためにアノード本体21の上端部に形成されたものである。なお、前記取付部22を介してアノード本体21に外部電源から電流が供給されるように形成することもできる。
前記取付部22は、アノード本体21と同じ材料を用いて一体に形成されることが好ましいが、異なる材料を用いて別体に形成することもできる。
前記取付部22の形状が正方形である場合には、1辺の長さW1は、10mm〜30mmが好ましい。
【0015】
図7は、本発明の別のアノードの概略断面図を示し、アノード本体21の長さ方向上部に厚みが均一な水平部21aを有し、該水平部21aの長さ方向下端から、アノード本体21が取付部22と対向する他端側に向かって厚みが減少するテーパー形状を有している。
図8は、本発明の別のアノードの概略断面図を示し、アノード本体21の長さ方向上部にアノード本体21が取付部22と対向する他端側に向かって厚みが減少するテーパー形状を有し、アノード本体21の長さ方向中央部には厚みが均一な水平部21aを有し、アノード本体21の長さ方向下部にはアノード本体21が取付部22と対向する他端側に向かって厚みが減少するテーパー形状を有している。
図9は、本発明の別のアノードの概略断面図を示し、アノード本体21の表裏の両面が、いずれもアノード本体21の取付部22と対向する他端側に向かって厚みが減少するテーパー形状を有している。
図10は、本発明のアノードの別の平面図を示し、アノード本体21の上端部の中央に取付部23を1つ有している。
【0016】
本発明のアノードの製造方法としては、例えば、粗金を鋳造する方法、切削加工などが挙げられる。これらの中でも、鋳造法は型を用いるため、形状及び寸法のばらつきが少なく、切削加工に比べて材料ロスが少ない点から好ましい。
【0017】
前記アノードは、金の電解精製中は、収納バック内に収納されて用いられることが好ましい。これにより、金電解時に発生するアノードスライムを収納バック内に貯留し、電解槽に流出することを防止できる。
前記収納バックは上端部が開口し、底部が閉鎖された袋状とされ、該底部は、金電解時に発生するアノードスライムを溜めることができるようになっている。
【0018】
本発明のアノードは、金の電解精製に用いられるが、金の電解精製以外にも、銅電解精製、亜鉛電解精製などに使用可能であり、他の電解精製が可能な金属元素にも用いることができる。
【0019】
(金の電解精製方法)
本発明の金の電解精製方法は、本発明の前記アノードを陽極として電解液中に金を溶解させ、陰極としてのカソードに金を析出させることを特徴とする。
【0020】
金の電解精製は、電解反応によって金品位が90質量%〜99.9質量%程度である粗金から純金(金品位が99.99質量%以上)を得るものである。
前記金の電解精製方法に用いる金電解精製装置は、電解槽、アノード、カソード、電解のための電源制御装置、電解液、電解液の温度制御、液性調整装置を備えており、更に必要に応じてその他の部材を有してなる。
本発明の金の電解精製方法は、前記金電解精製装置を用い、金であれば酸性溶液を電解液として、本発明の前記アノードの不純物量や金の回収量などに応じて、通電電流量、通電時間を設定すればよい。
【0021】
本発明の金の電解精製方法について、図面を参照して説明する。図13は、金の電解精製方法に用いられる金電解精製装置100の一例を示す概略図である。
この金電解精製装置100は、アノード20と、カソード31とを有し、電解液32を収容する電解槽30と、外部電源33とを有している。
アノード20としては、本発明の前記アノードが用いられている。
カソード31としては、不溶性極板(例えば、チタン製)が用いられている。
電解液32としては、塩化金酸溶液又は塩化金溶液が用いられている。
【0022】
外部電源33の陰極にカソード31が接続され、外部電源33の陽極にアノード20が接続されている。
電解槽30内には、外部電源33に接続した4本のカソード31と、3本のアノード20とが等間隔交互に平行配置されている。アノード20はカソード31で挟まれており、カソード31から見ると、アノード20は、平行面とテーパー面を有している。カソードの面とアノード本体21の平行面とが平行になるように配置されている。アノード本体21のテーパー面は、対面するカソード面に対しても非平行で鋭角となる。
アノード20の上端部には、アノード本体21と一体に取付部22が2つ設けられている。
アノード20は、アノード本体21が、取付部22と対向する他端側に向かって厚みが減少するテーパー形状を有している。このアノード20は、金の品位が90質量%〜99.9質量%程度の粗金を溶解鋳造し、金品位95質量%〜99.9質量%の矩形状に形成されている。
【0023】
<実験>
ここで、図5及び図6に示す本発明のアノード20を用い、このアノード20を図13に示す金電解精製装置100に装着して金の電解精製を行った。
アノード20は、矩形状のアノード本体21と、該アノード本体21の一端に設けられた取付部22とを有している。
アノード20は、粗金から鋳造され、金品位99.9質量%である。
アノード本体21の長さL1が138mm、アノード本体21の幅L2が100mmであった。
アノード本体21の最大厚みDが17mm、アノード本体21の最小厚みDが5mmであり、アノード本体21が、取付部22と対向する他端側に向かって厚みが漸次減少するテーパー形状を有しており、比(D/D)は、17mm/5mm=3.4であった。
アノード20は、アノード本体21の上端部から5mmの位置に電解液の液面が位置するようにして電解液中に浸漬されている。
カソード31としては、不溶性極板(チタン製)を用いた。
取付部22は、正方形状であり、1辺の長さW1は20mmであった。
電解液32としては、塩化金酸溶液を用いた。
金の電解精製条件としては、電流密度(Dk)100A/mで電解精製を行った。その結果、図11及び図12に示すように、金の電解精製終了後のアノード20’は、アノード本体の上部21b、及び取付部22のみを残して溶解されており、アノード本体21の長さ方向中央部よりも下部分が脱落することなく、金品位99.99質量%以上の高純度の電気金が得られた。
金の電解精製終了後、溶解しなかったアノード本体21、アノード本体の上部21b、及び取付部22は、再度溶解鋳造してアノードとされ、再使用される。
【0024】
本発明においては、金の電解精製に用いるアノードのアノード本体が、取付部と対向する他端側に向かって厚みが減少するテーパー形状を有しているので、従来のアノード本体の厚みが均一なアノードに比べて、金の電解精製中にアノード本体の長さ方向中央部よりも下部分が脱落することがなく、又はその脱落する量を減少し、電解不良の発生を防止できる。また、アノードの取付部及びアノード本体の上部を除いて残部が少ない状態で溶解できるので、アノードの鋳返し率が低くなり、1つのアノード当りの金の収率が増加する。
【0025】
以上、本発明のアノード及び該アノードを用いた金の電解精製方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更しても差支えない。
【符号の説明】
【0026】
1 アノード本体
1a 中央部
2 取付部
10 アノード
10’ 電解精製後のアノード
20 アノード
20’ 電解精製後のアノード
21 アノード本体
21a 水平部
21b 上部
22、23 取付部
30 電解槽
31 カソード
32 電解液
33 外部電源
100 金電解精製装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金の電解精製に用いられるアノードであって、
アノード本体と、該アノード本体の一端に設けられた取付部とを有し、
前記アノード本体が、前記取付部と対向する他端側に向かって厚みが減少するテーパー形状を有することを特徴とするアノード。
【請求項2】
アノード本体が、取付部と対向する他端側に向かって厚みが漸次減少するテーパー形状を有する請求項1に記載のアノード。
【請求項3】
アノード本体の最大厚みDと、アノード本体の最小厚みDとの比(D/D)が2以上である請求項1から2のいずれかに記載のアノード。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のアノードを陽極として電解液中に金を溶解させ、陰極としてのカソードに金を析出させることを特徴とする金の電解精製方法。

【図3】
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【図4】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−112870(P2013−112870A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261458(P2011−261458)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(506347517)DOWAエコシステム株式会社 (83)
【出願人】(508093056)エコシステムリサイクリング株式会社 (12)
【Fターム(参考)】