説明

アノード材料補給装置

【課題】作業者がめっき槽上に上ることなくアノード材料をアノードケースに補給するアノード材料の補給装置が求められているが、従来提案されているものは球形以外の形状のアノード材料を補給することができなかった。
【解決手段】本体フレーム4底面の各アノードケース3、3の真上となる位置にそれぞれ開口5、5を設け、本体フレーム4の底面上にアノードケース3、3と同数の上端及び下端を開放した筒状のアノード材料容器6、6をそれぞれ前後動自在に配置し、各アノード材料容器6、6がそれぞれアノードケース3、3の真上に位置する状態または全てのアノード材料容器6、6が本体フレーム4の手前側に集結して位置する状態のいずれかの状態にアノード材料容器6、6を位置決めする位置決め手段を設け、前記開口5、5を開閉する開閉手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気めっき装置のめっき槽内に設けられるアノードケースに、アノード材料を補給するアノード材料補給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの電気めっき装置では、アノードとしてチタン製の網で作られた袋状のアノードケース内にアノード材料を収容したものが使用されており、アノード材料が溶出してめっき液に金属イオンが供給される。このような場合、アノード材料はめっき処理の進行に伴って消耗することになり、めっきの処理量に応じてアノードケースにアノード材料を補給する必要がある。通常アノードケースはめっきの付き回りをよくするため、めっき槽を跨ぐように設けられたアノードバーに適当な間隔で複数個吊り下げられており、アノード材料の補給は作業者がめっき槽上に上って行っている。
【0003】
作業者がめっき槽上に上る際にはめっき槽上に渡し板を架け渡すなどして行うのであるが、一般的にめっき処理中は搬送装置がめっき槽上を移動しているためめっき槽上での作業は不可能であり、アノード材料の補給を行なうためにはめっき装置を停止させる必要があった。また、アノード材料が重いこともあって多くの手間と労力を要し、作業者がめっき槽へ落下する危険があり、アノード材料や異物をめっき槽内に落下させてめっき不良を発生させることもあった。このような問題を解決するために、例えば特許文献1や特許文献2に示されるような球形のアノード材料を傾斜したガイドレールあるいは案内通路を通してアノードケースに移送し、作業者がめっき槽上に上ることなくアノード材料の補給を行うことができる、アノード材料の補給装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2977310号公報
【特許文献2】特許第3349415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べたように、従来アノード材料の補給は作業者がめっき槽上に上がって行うのが普通であった。そのため、その間めっき装置を停止させる必要があり、多くの手間と労力を要するだけでなくめっき槽に落下する危険があるとか、アノード材料や異物をめっき槽内に落下させてめっき不良を発生させることがあるといった問題があった。それを解決するものとして例えば特許文献1や特許文献2に示されるようなアノード材料の補給装置が提案されているが、いずれも補給することができるのは球形のアノード材料だけであり、球形以外の形状のアノード材料を補給する補給装置は現在のところ実用化されておらず、そのような文献も見出すことができていない。
【0006】
本発明は上記の問題点を解決しようとするものであり、球形だけでなく球形以外の形状のアノード材料も作業者がめっき槽上に上ることなくアノードケースに補給することができ、アノード材料の補給時にめっき装置を停止させる必要のない、アノード材料補給装置を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明はめっき槽のアノードバーに吊り下げて設けられる複数のアノードケースの上方に設置されるアノード材料補給装置であって、上記目的を達成するために、本体フレーム底面の各アノードケースの真上となる位置にそれぞれ開口を設け、本体フレームの底面上にアノードケースと同数の上端及び下端を開放した筒状のアノード材料容器をそれぞれ前後動自在に配置し、各アノード材料容器がそれぞれアノードケースの真上に位置する状態または全てのアノード材料容器がめっき槽の作業スペース側となる本体フレームの手前側に集結して位置する状態のいずれかの状態にアノード材料容器を位置決めする位置決め手段を設け、前記開口を開閉する開閉手段を設けて構成したものである。
【0008】
前記位置決め手段は、全てのアノード材料容器が相互に接した状態となって共に手前側に移動して本体フレームの手前側に集結させた状態と、各アノード材料容器をそれぞれアノードケースの真上に位置させた状態の2態様で位置決めするものとすることができる。
【0009】
上記の課題解決手段による作用は次の通りである。すなわち、本体フレームに配置されたアノード材料容器は、各アノード材料容器がそれぞれアノードケースの真上に位置する状態または全てのアノード材料容器が本体フレームの手前側に集結して位置する状態のいずれかの状態に位置決めされるので、全てのアノード材料容器が本体フレームの手前側に集結して位置した状態として各アノード材料容器にアノード材料を投入し、各アノード材料容器を移動させて各アノード材料容器がそれぞれアノードケースの真上に位置する状態として開口を開放すれば各アノード容器に投入されていたアノード材料はアノードケースに落下して補給される。
【発明の効果】
【0010】
以上述べたように、本発明のアノード材料補給装置では、全てのアノード材料容器がめっき槽の作業スペース側となる本体フレームの手前側に集結した状態で各アノード材料容器にアノード材料を投入し、各アノード材料容器をそれぞれアノードケースの真上まで移動させることによりアノード材料の補給ができるので、アノード材料は任意の形状のものが使用でき、作業者は処理槽の上に上がることなく作業スペースで、アノード材料を補給することができる効果がある。また、作業者が処理槽の上に上がる必要がないので、安全に補給作業をすることができ、渡し板や養生などが不要となり、めっき槽に異物を落下、混入させることもなくなり、めっき装置を停止させる必要がない利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のアノード材料補給装置をめっき槽上に設置した状態を示す要部の縦断面図である。
【図2】図1のA−A部における断面図である。
【図3】本発明のアノード材料補給装置をめっき槽上に設置した状態を示す要部の平面図である。
【図4】アノード材料容器を移動させた状態を示す要部の平面図である。
【図5】シャッター板を移動させた状態を示す要部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0013】
図において1はめっき槽であって、該めっき槽1上には従来のめっき装置と同様にめっき槽1を跨いでアノードバー2が設けられており、アノードバー2には複数のアノードケース3、3が吊り下げられている。このアノードケース3、3は従来のめっき装置と同様チタン製の網を袋状に形成したものであり、上端がアノード材料を投入するための開口となっている。アノードケース3、3の上方にはアノード材料補給装置の本体フレーム4がアノードバー2と平行に設けられており、該本体フレーム4の底面には各アノードケース3、3の真上となる位置にそれぞれ開口5、5が設けられている。
【0014】
本体フレーム4の底面上にはアノードケース3、3と同数の、上端及び下端を開放した筒状のアノード材料容器6、6がそれぞれ前後動自在に配置されており、本体フレーム4とアノード材料容器6、6の下端との間にはシャッター板7が前後動自在に挿入されている。本体フレーム4の長手方向両側には断面逆L字状のガイド4a、4aが設けられており、アノード材料容器6、6及びシャッター板7はガイド4a、4aによりアノード材料容器6、6の下面とシャッター板7の上面、シャッター板7の下面と本体フレーム4の底面の上面がそれぞれ接触した状態でスムースに前後動できるように支持されている。シャッター板7には開口5、5と同一間隔で開口8、8が設けられており、シャッター板7を前後に移動させることにより開口5、5を開閉することができるようになっている。
【0015】
アノード材料容器6、6には位置決め機構が設けられており、各アノード材料容器6、6をそれぞれアノードケース3、3の真上に位置させることと、全てのアノード材料容器6、6を本体フレーム4の手前側に集結させることとができるようになっている。図示の構成ではアノード材料容器6、6相互の間がそれぞれワイヤ類9、9で連結され、めっき槽1の作業スペース側となる本体フレーム4の手前側には巻き取りプーリー10が、本体フレーム4の前方側には定荷重ばねを使用した巻き取り装置11が設けられている。上記のアノード材料容器6、6相互間のワイヤ類9、9は、アノード材料容器6、6を相互に引き離したとき、その間隔が開口5、5の間隔と同じになる長さとなっており、プーリー10は操作したとき以外は自由に回転できないものとなっている。
【0016】
巻き取りプーリー10に一端が固定されたワイヤ類12、12の他端は最も前方側のアノード材料容器6に接続されており、巻き取り装置11により巻き取られるワイヤ類13、13の先端も最も前方側のアノード材料容器6に接続されている。また、最も手前側のアノード材料容器6はワイヤ類14により本体フレーム4の手前側に設けられたピン15に連結されている。この最も手前側のアノード材料容器6とピン15の間のワイヤ類14は、最も手前側のアノード材料容器6を前方に引いたときに、最も手前側のアノード材料容器6が最も手前側のアノードケース3の真上に位置するように位置決めする長さとなっている。図中16、16は開口5、5から落下するアノード材料をアノードケース3、3に誘導するガイド筒である。
【0017】
このように構成された本発明のアノード材料補給装置において、開口5、5がシャッター板7により閉ざされた状態とし、巻き取りプーリー10を回転させてワイヤ類12、12を巻き取っていくと、最も前方側のアノード材料容器6は手前側に引かれて移動し、最も前方側のアノード材料容器6と前方側から2番目のアノード材料容器6との間のワイヤ類9、9は適宜折り畳まれ、最も前方側のアノード材料容器6と前方側から2番目のアノード材料容器6とが接した状態になり、最も前方側のアノード材料容器6と前方側から2番目のアノード材料容器6が共に手前側に移動するようになる。
【0018】
さらにワイヤ類12、12を巻き取っていくと、前方側から2番目のアノード材料容器6と前方側から3番目のアノード材料容器6とが接した状態になり、最も前方側のアノード材料容器6と前方側から2番目及び3番目のアノード材料容器6が共に手前側に移動するようになる。このようにして全てのアノード材料容器6、6が相互に接した状態となって共に手前側に移動し、本体フレーム4の手前側に集結することになる。このとき、巻き取り装置11からはワイヤ類13、13が引き出され、最も前方側のアノード材料容器6を一定の力で前方に引くことになるが、巻き取りプーリー10が操作したとき以外は自由に回転できないのでワイヤ類12、12は巻き戻されず、全てのアノード材料容器6、6は本体フレーム4の手前側に集結した状態で保持される。
【0019】
ここで各アノード材料容器6、6にアノード材料を投入し、巻き取りプーリー10を逆方向に回転させると、巻き取りプーリー10に巻き取られたワイヤ類12、12は巻き戻されることになり、最も前方側のアノード材料容器6は巻き取り装置11により巻き取られるワイヤ類13、13により前方側に引かれてワイヤ類12、12が巻き戻された分だけ移動する。最も前方側のアノード材料容器6が移動して最も前方側のアノード材料容器6と前方側から2番目のアノード材料容器6との間の折り畳まれていたワイヤ類9、9が伸ばされると、前方側から2番目のアノード材料容器6も前方側に引かれて移動するようになる。
【0020】
さらにワイヤ類12、12を巻き戻していくと、前方側から2番目のアノード材料容器6と前方側から3番目のアノード材料容器6との間の折り畳まれていたワイヤ類9、9が伸ばされ、前方側から3番目のアノード材料容器6も前方側に移動するようになる。このようにして全てのアノード材料容器6、6相互の間のワイヤ類9、9が伸ばされると、全てのアノード材料容器6、6が前方側に移動し、最も手前側のアノード材料容器6はワイヤ類14により移動が制限されて最も手前側のアノードケース3の真上に位置することになる。
【0021】
このアノード材料容器6、6が移動する間、開口5、5はシャッター板7により閉ざされているので、アノード材料容器6、6に投入されたアノード材料が開口5、5から落下することはない。アノード材料容器6、6相互間のワイヤ類9、9は伸ばされた状態でアノード材料容器6、6の間隔が開口5、5の間隔と同じになる長さとなっているので、最も手前側のアノード材料容器6が最も手前側のアノードケース3の真上に位置することにより、全てのアノード材料容器6、6がそれぞれ開口5、5すなわちアノードケース3、3の真上に位置することになる。
【0022】
この状態でシャッター板7を移動させ、開口5、5を開放すると、アノード材料容器6、6に投入されたアノード材料は開口8、8及び開口5、5からガイド筒16、16を通ってアノードケース3、3に落下し、アノードケース3、3にアノード材料が補給されることになる。アノード材料容器6に投入されたアノード材料の落下後、シャッター板7を移動させて開口5、5を閉じ、巻き取りプーリー10を回転させてワイヤ類12、12を巻き取ることによりアノード材料容器6、6を本体フレーム4の手前側に集結させ、次回のアノード材料補給のための待機状態とすることができる。アノード材料容器6、6に投入されたアノード材料がガイド筒16、16、アノードケース3、3に入りきらなかった場合には、アノード材料が溶解してアノード材料容器6、6内のアノード材料が落下してから上記の待機状態とする操作を行えばよい。
【0023】
以上説明したように、本発明のアノード材料補給装置では、全てのアノード材料容器6、6をめっき槽1の作業スペース側となる本体フレーム4の手前側に集結させた状態で各アノード材料容器6、6にアノード材料を投入し、各アノード材料容器6、6をそれぞれアノードケース3、3の真上まで移動させることによりアノード材料の補給ができるので、アノード材料の形状が球形に限られることはなく、作業者が処理槽の上に上がる必要がない。作業者が処理槽の上に上がる必要がないので、安全に補給作業をすることができ、渡し板や養生などが不要となり、めっき槽に異物を落下、混入させることもなくなり、めっき装置を停止させる必要がない利点がある。
【0024】
なお、以上の説明でワイヤ類というのは、線状で引っ張り強度があり、曲げ、巻き取りが可能なワイヤ、紐などを指し、特に材質は問わないものである。また、アノード材料容器6、6の位置決め機構は、アノード材料容器6、6相互をそれぞれ連結するワイヤ類9、9、その他のワイヤ類12、12、13、13、14、及び巻き取りプーリー10と巻き取り装置11で構成されているが、アノードケース3、3の間隔が一定でない場合には、アノード材料容器6、6相互間を連結するワイヤ類9、9をそれぞれその間隔に対応した長さとすることによって各アノード材料容器6、6を各アノードケース3、3の真上にそれぞれ位置決めすることが可能となる。
【0025】
前記巻き取りプーリー10は作業者が操作するものとしているが、これを電動にすることも可能である。また、本体フレーム4の前方側にプーリーを設けてワイヤ類13、13の引き方向を反転させ、本体フレーム4の手前側にプーリーを設けてそのプーリーによりワイヤ類13、13を巻き取ることで最も前方側のアノード材料容器6を前方側に移動させるようにすることも可能であり、ワイヤ類12、12とワイヤ類13、13を環状に接続して前方側の1個のプーリーにより最も前方側のアノード材料容器6を前後に移動させるようにすることも可能である。さらに、エアシリンダ等の直線運動をするアクチュエータにより最も前方側のアノード材料容器6を前後動させるようにすることも可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 めっき槽
2 アノードバー
3 アノードケース
4 本体フレーム
4a ガイド
5 開口
6 アノード材料容器
7 シャッター板
8 開口
9 ワイヤ類
10 巻き取りプーリー
11 巻き取り装置
12、13、14 ワイヤ類
15 ピン
16 ガイド筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき槽のアノードバーに吊り下げて設けられる複数のアノードケースの上方に設置されるアノード材料補給装置であって、本体フレーム底面の各アノードケースの真上となる位置にそれぞれ開口を設け、本体フレームの底面上にアノードケースと同数の上端及び下端を開放した筒状のアノード材料容器をそれぞれ前後動自在に配置し、各アノード材料容器がそれぞれアノードケースの真上に位置する状態または全てのアノード材料容器がめっき槽の作業スペース側となる本体フレームの手前側に集結して位置する状態のいずれかの状態にアノード材料容器を位置決めする位置決め手段を設け、前記開口を開閉する開閉手段を設けたことを特徴とするアノード材料補給装置。
【請求項2】
位置決め手段は、全てのアノード材料容器が相互に接した状態となって共に手前側に移動して本体フレームの手前側に集結させた状態と、各アノード材料容器をそれぞれアノードケースの真上に位置させた状態の2態様で位置決めするものである請求項1に記載のアノード材料補給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−246738(P2011−246738A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118131(P2010−118131)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000150202)株式会社中央製作所 (35)