説明

アブラナ科植物病害の防除方法

【課題】アブラナ科植物病害である根こぶ病に対して防除効果が高く、環境汚染のないアブラナ科病害の防除方法を提供する。
【解決手段】バリオボラックス属細菌CGF4526菌株(Variovorax sp.CGF4526)を有効成分として含む剤、及び2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリドを有効成分として含む剤を用いる。これによれば、アブラナ科植物の根こぶ病の病害に対しての発病を、従来と比べて発病程度が高い場合でも強く抑制することができる。さらに現在使用されている化学薬剤のみならず、単独の菌株又は単独の剤と比べて格段に高い防除効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株(Variovorax sp.CGF4526)を有効成分として含む剤、及び2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリドを有効成分として含む剤をアブラナ科植物に接触させることを特徴とする、アブラナ科植物病害の防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アブラナ科植物病害の主要な土壌病害である根こぶ病(Plasmodiophorabrassicae Woronin)は、ハクサイ、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリーなどアブラナ科植物の多くの植物に発生する土壌糸状菌病害である。根こぶ病は、これらアブラナ科作物の安定した生産に支障をきたしている。病徴としては、植付け後20日位から根にこぶが生成し、初期から感染した場合にはハクサイやキャベツでは結球せず、後半以降に感染した場合でも収穫物が大きくならず、全く収穫が得られないことも見られる。
【0003】
従来、微生物を有効成分とした防除剤が開発されてきており、これまでにアブラナ科植物根こぶ病に対しての生物防除法として、バチルス属細菌(特許文献1)、アシドボラックス属細菌による報告例(特許文献2)がある。本発明に関連する報告例として、バリオボラックス属細菌による報告例(特許文献3)がある。
【0004】
一方、2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリド等のスルホンアミド誘導体は、古くから除草剤や農業用殺菌剤として知られている。スルホンアミド誘導体の除草剤としての従来技術は、特許文献4や特許文献5に畑作農園芸用の除草剤として、特許文献6や特許文献7に水田用除草剤として開示されている。
【0005】
2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリドを用いた従来例として、特許文献8にアブラナ科作物の根こぶ病やジャガイモそうか病等に対して優れた防除効果を示すことが開示されている。また、特許文献9に定植前の根に当該アニリドの水和剤等のかん注処理、浸漬処理を行うことによるアブラナ科植物の育苗方法が、特許文献10に当該アニリドと3−ヒドロキシ−5−メチル−イソオキサゾールを有効成分として含有する土壌病害防除剤が、そして特許文献11に当該アニリドとテトラクロロイソフタロニトリルを有効成分として含有する土壌病害防除剤が報告されている。
【0006】
一方、アリールスルホンアミド誘導体の殺虫剤としての使用について、特許文献12に報告がなされている。
【特許文献1】特開平11−335217号公報
【特許文献2】特開2003−342109号公報
【特許文献3】特開2005−137330号公報
【特許文献4】特開昭54−163814号公報
【特許文献5】特開昭58−026863号公報
【特許文献6】特開昭57−38706号公報
【特許文献7】特開昭57−167907号公報
【特許文献8】特開昭61−197553号公報
【特許文献9】特開平8−71号公報
【特許文献10】特開平8−198713号公報
【特許文献11】特開平11−292713号公報
【特許文献12】米国特許3034955明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、アブラナ科植物病害である根こぶ病に対して、安定かつ高い防除効果、安全性の高く、更には環境汚染のないアブラナ科植物病害の防除方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、アブラナ科であるハクサイ、キャベツ等のアブラナ科植物病害である根こぶ病に対し、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株を有効成分として含む剤、及び式[1]で表される2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリド
【0009】
【化3】

【0010】
を有効成分として含む剤をアブラナ科植物に接触させることで、高い防除効果を有する防除方法を見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[発明1]−[発明6]に記載する、アブラナ科植物病害の防除方法を提供する。
[発明1]
アブラナ科植物病害の防除方法であって、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株(Variovorax sp.CGF4526)を有効成分として含む剤をアブラナ科植物に接触させる工程、及び式[1]で表される2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリドを有効成分として含む剤を、該アブラナ科植物を定植する土壌に接触させる工程を含む、アブラナ科植物病害の防除方法。
[発明2]
アブラナ科植物への接触が、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株を有効成分として含む剤を、播種時の育苗培土に混合もしくはかん注、又は定植前の苗に浸漬処理もしくはかん注することにより行うことを特徴とする、発明1に記載の方法。
[発明3]
土壌への接触が、式[1]で表される2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリドを有効成分として含む剤を、土壌表面に散布、又は土壌混和することにより行うことを特徴とする、発明1に記載の方法。
[発明4]
アブラナ科植物病害の防除方法であって、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株(Variovorax sp.CGF4526)を有効成分として含む剤を播種時の育苗培土に混合もしくはかん注した後、さらに定植前の苗に浸漬処理もしくはかん注する工程、及び式[1]で表される2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリドを有効成分として含む剤を、該アブラナ科植物を定植する土壌に散布、又は土壌混和する工程を含む、アブラナ科植物病害の防除方法。
[発明5]
アブラナ科植物病害が根こぶ病であることを特徴とする、発明1乃至4の何れかに記載の方法。
[発明6]
アブラナ科植物がハクサイ、キャベツ、ダイコン、カリフラワー、ブロッコリー、チンゲンサイ、又はコマツナである、発明1乃至5の何れかに記載の方法。
【0012】
先に述べたように、特許文献3に記載の方法では、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株を単独で用いた際、甚発病程度の場合には防除効果が弱いこともあった(比較例参照)。しかし、意外なことにバリオボラックス属細菌CGF4526菌株、及び2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリドを組み合わせることで、格段に防除効果が向上し、甚発生下でも高い防除効果が安定して得られることがわかった。なお、ここで言う「組み合わせる」とは、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株、及び2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリドを、混合せずに、それぞれ単独の剤を「併用する」ことを言う。
【0013】
例えば、後述の比較例に示すように、アブラナ科植物の根こぶ病に対し、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株、又は2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリドをそれぞれ単独で作用させた場合、防除効果は小さい。また、2つの剤を混合した場合、2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリド及びバリオボラックス属細菌CGF4526菌株、それぞれの防除剤としての機能が発生せず、防除効果は殆ど得られない。
【0014】
一方、特許文献9によれば、2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリドに相当する「スルフルファミド剤」を、育苗培土に混和処理していることが開示されているが、防除効果が殆どないことが開示されているが、本発明では上述の2つの剤を組み合わせることで、特異的な向上、すなわち、単に2つの剤を単独で施用したときに予想される効果を遥かに超える相乗効果があることがわかった。
【0015】
メカニズムについては、詳細は不明であるが、2つの剤が持つ根こぶ病菌に対する抗菌性が絡んでいることが予想される。
【0016】
2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリド、及びバリオボラックス属細菌CGF4526菌株は、アブラナ科植物の根こぶ病に対する防除効果を持つことは、従来から広く知られている。しかしながら、甚発病程度の場合には防除効果が弱いこともあったバリオボラックス属細菌CGF4526菌株に対し、更に2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリドを組み合わせることにより、甚発病程度の場合でも格段と高い防除効果を持つことは知られていなかった。
【発明の効果】
【0017】
本発明におけるアブラナ科植物の根こぶ病の防除方法は、根こぶ病に対しての発病を、従来と比べて発病程度が高い場合でも強く抑制することができ、さらに、単独の菌株又は単独の剤と比べて格段に高い防除効果を有するという効果を奏する。
【0018】
また、本発明の防除方法は、環境汚染を引き起こすことはなく、またアブラナ科植物に対する薬害もなく、極めて有用な防除方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明の対象は、アブラナ科植物病害の防除方法であって、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株(Variovorax sp.CGF4526)を有効成分として含む剤、及び式[1]で表される2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリドを有効成分として含む剤(以下、本明細書において「化学薬剤N」と称する)をアブラナ科植物に接触させることを特徴とする、アブラナ科植物病害の防除方法である。
【0021】
まず、CGF4526菌株について説明する。
【0022】
CGF4526菌株は、イネや野菜から分離・収集した約7000菌株の細菌から、糸状菌であるトマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum)およびハクサイ黄化病菌(Verticillium daliae)に対する抗菌活性、さらにハクサイ苗を用いたポット検定試験による選抜の結果、得られた菌株である。該菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、以下の受託番号を得て、特許文献3に開示されている。
【0023】
バリオボラックス属細菌CGF4526菌株(Variovorax sp. CGF4526):FERM BP-10160
次に、化学薬剤Nについて説明する。化学薬剤Nは上記特許文献に挙げられたように、農業用殺菌剤として既に公知の物質である。化学薬剤Nは各種植物の病原菌に対して抗菌能力を有し、アブラナ科植物の根こぶ病、ジャガイモの粉状そうか病等に高い防除能を持つ。また、細菌等に対してはグラム陽性菌に対して抗菌活性を示す。
【0024】
化学薬剤Nに関して、例えば特許文献8−11に開示の方法で製造するか、または市販されているのを用いることが可能である。
【0025】
本発明における植物病害の対象とされる植物は、ハクサイ、キャベツ、ダイコン、カリフラワー、ブロッコリー、チンゲンサイ、コマツナ等のアブラナ科植物であるが、これらに限定されない。また、対象とするアブラナ科植物病害としては、根こぶ病であるが、これ以外にも、萎凋病、黄化病なども対象病害である。
【0026】
CGF4526菌株の菌の培養方法、固定化、製剤化、調製方法は特許文献3に開示している公知の手法で行うことができるが、以下に具体例をもって説明する。 培地としては、CGF4526菌株が増殖するものであれば特に制限はなく、生育に可能な炭素源、窒素源、無機物を適当に含有している培地であれば、天然培地、合成培地のいずれも用いることができる。培地としては802培地、ブイヨン培地、キングB培地、PS培地、PDB培地などが例示できる。以上のような培地で15〜42℃、好ましくは28℃〜35℃で10〜35時間培養し増殖させたのち、遠心分離機もしくは膜濃縮機により濃縮して集菌を行い、培地成分を取り除く。この操作によりそれぞれの菌体の濃度は通常1〜50×1010cfu/ml程度に濃縮される。ついで、湿菌体に糖類とグルタミン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム緩衝液からなる保護剤を加え、真空乾燥するものである。真空乾燥する前に保護剤と混合した菌体を予備凍結し、凍結したまま真空乾燥することが菌の生存率を維持するためには好ましい。なお、保護剤は水溶液の状態で菌体と混合してもよく、個体のまま混合してもよい。
【0027】
次に、固定化について説明する。固定化とは、前述の培養した菌に対し、保護剤を加えて真空乾燥する操作を言う。固定化についても特に制限はなく、固定化の際に用いる保護剤としては、サッカロース、フルクトース、グルコースおよびソルビトールの一種または二種以上からなる糖類を用い、菌体と混合し、真空乾燥もしくは凍結真空などの方法で乾燥することによって行うことができる。
【0028】
次に、製剤化について説明する。製剤化とは、前述の固定化した培養菌体に対し、担体を混合して製剤にする操作を言う。
【0029】
CGF4526菌株は、培養後の生菌をそのまま使用しても良いが、菌体を固定化後に固体(粉剤または粒剤、水和剤)、または液体の担体と混合し、製剤として調製しても良く、当業者が適宜調整できる。
【0030】
製剤の調製の際に用いる担体としては、タルク、クレー、炭酸カルシウム、ケイソウ土等の鉱物性粉末や、ピートモス、さらには、ポリビニルアルコールなどの高分子化合物、ザンサンゴムやアルギン酸などの天然高分子化合物などがある。
【0031】
次に、CGF4526菌株における具体的な菌濃度について説明する。菌濃度は、それ自身のアブラナ科植物への防除方法により変動する。例えば、そのまま播種時の育苗培土に接触する場合、菌濃度は、それぞれの菌株に対し、通常105cfu/g〜1011cfu/gであるが、好ましくは106cfu/g〜109cfu/g、より好ましくは107cfu/g〜109cfu/gである。
【0032】
また、CGF4526菌株をそのまま育苗培土に対し、水で希釈してかん注させることができる。この場合、菌濃度は、それぞれの菌株に対し、通常105cfu/ml〜1011cfu/mlであるが、好ましくは106cfu/ml〜109cfu/ml、より好ましくは107cfu/ml〜109cfu/mlである。
【0033】
一方、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株を前述した固体(粉剤または粒剤、水和剤)または液体の製剤にした後に、播種時の育苗培土に接触することもできる。この場合、菌濃度をそれぞれの細菌に対し、固体の製剤(粉剤または粒剤)の場合は、通常105cfu/g〜1011cfu/gであるが、好ましくは106cfu/g〜109cfu/g、より好ましくは107cfu/g〜109cfu/gである。
【0034】
また、固体の製剤(水和剤)の場合、通常107cfu/g〜1012cfu/gであるが、好ましくは108cfu/g〜1011cfu/g、より好ましくは109cfu/g〜1011cfu/gである。
【0035】
なお、液体の製剤を播種時の育苗培土に接触する場合に関しては、上記の固体の製剤(粉剤または粒剤)と同様の濃度範囲にて調整できる。
【0036】
また、CGF4526菌株を固体(水和剤、粉剤または粒剤)または液体の製剤にした後、播種時の育苗培土に対し水で希釈してかん注させる際、菌濃度は、固体の製剤(粉剤または粒剤)の場合、通常105cfu/ml〜1011cfu/mlであるが、好ましくは106cfu/ml〜109cfu/ml、より好ましくは107cfu/ml〜109cfu/mlである。
【0037】
また、固体の製剤(水和剤)の場合、通常、107cfu/ml〜1012cfu/mlであるが、好ましくは108cfu/ml〜1011cfu/ml、より好ましくは109cfu/ml〜1011cfu/mlである。
【0038】
なお、液体の製剤を播種時の育苗培土に対し水で希釈してかん注させる場合に関しては、上記の固体の製剤(粉剤または粒剤)と同様の濃度範囲にて調整できる。
【0039】
次に、CGF4526菌株の濃度の調整方法について説明する。
【0040】
まず、CGF4526菌株をそのまま播種時の育苗培土に接触させる場合、前述の濃度範囲になるように、育苗培土に接触させて調整する。
【0041】
次に、CGF4526菌株をそのまま播種時の育苗培土に水に希釈してかん注させる場合は、まず、CGF4526菌株の濃度を、前述の濃度範囲になるように水で希釈する。その後に、播種時の育苗培土にかん注する。
【0042】
一方、CGF4526菌株を固体または液体の製剤にする場合は、前述の濃度範囲になるように製剤を加えて調整した後に、播種時の育苗培土に接触させるか、もしくは水で希釈して播種時の育苗培土にかん注する。
【0043】
化学薬剤Nを施用する場合の、施用量について説明する。化学薬剤Nの施用量に関しては、対象病害の種類、土壌条件(水分、pH)、有機物含量、そして気象条件によって異なる。化学薬剤Nを土壌処理剤として施用する場合、通常、有効成分量として50g〜500g/10aで行い、好ましくは50g〜400g/10a、より好ましくは70g〜200g/10aである。
【0044】
なお、ここで言う「有効成分量」とは、化学薬剤Nのうち、2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリドのみの成分量のことを指す。例えば、施用量は施用形態(製剤)により大きく異なる。その際は、上述の有効成分量の範囲になるように、当業者が適宜調整することができる。
【0045】
次に、アブラナ科植物病害への防除方法について説明する。
【0046】
一般に、ハクサイ等のアブラナ科植物の生産は育苗トレイに育苗培土を詰めて播種する。3〜5週間育苗した後に、圃場(畑)に定植を行う。ここでいう定植とは、植物を苗床から畑に移して、本式に植えることを言う。
【0047】
本発明の防除方法としては、以下の防除方法、
i)CGF4526菌株をアブラナ科植物に接触させる
ii)化学薬剤Nを、アブラナ科植物を定植する土壌に接触させる
が挙げられる。
【0048】
まず、i)について説明する。処理方法としては、CGF4526菌株を播種時の育苗培土に混合もしくはかん注を行ったり、播種前後の種子にかん注することで処理することができる。さらに水で希釈して定植前の苗の根をその希釈液に浸漬もしくはかん注したり、又は育苗中もしくは定植する直前の苗にかん注する方法も可能である。
【0049】
例えば、播種時及び定植前に処理を行う、すなわち、播種時の育苗培土に混合もしくはかん注、又は定植前の苗に浸漬処理もしくはかん注することは、根への本菌の定着がより効率的になるため、本発明の好ましい態様の一つである。
【0050】
ここで育苗培土への混合処理を行う場合は、土壌1Lあたり1g以上混合し、均一になるように攪拌すると良い。
【0051】
一方、CGF4526菌株を固体もしくは液体の製剤にした後に、上述した処理方法で処理することも可能である。
【0052】
次にii)の処理方法について説明する。化学薬剤Nを、i)の処理の後、定植の対象となる土壌(圃場など)に対して接触させる。すなわち、土壌表面に散布するか、又は土壌混和(全面土壌混和、作条土壌混和)することにより行うことができる。
【0053】
上記i)及びii)の処理方法については、処理の回数に大きな制限はないが、たとえば、i)の処理方法を複数回行うことは、防除効果をさらに高めることが可能となるから、好ましい処理方法の一つである。例えば、後述の実施例に示すように、CGF4526菌株を播種時の育苗培土にかん注した後、さらに定植前の苗にかん注することは、複数回処理を行うことで、根への本菌の定着がより効率的になることから、特に好ましい態様の一つとして挙げられる。
【0054】
このように、本発明では、CGF4526菌株を有効成分として含む剤及び化学薬剤Nを有効成分として含む剤を用いることにより、発病程度の高い土壌においても、高い防除効果を発揮することができる。
【0055】
次に実施例を示すが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0056】
なお、実施例に用いた培地の組成を次に示す。
ブイヨン培地:肉エキス 3g、ペプトン 10g、NaCl 15g、水1L、pH7.0
また、化学薬剤Nについては、一般に市販されているものを用いた。
【実施例1】
【0057】
ハクサイ根こぶ病への防除試験(ポット試験)
CGF4526菌株の製剤を用いて、ハクサイ根こぶ病に対する発病抑制効果について検討を行った。製剤の作成は、前述の方法で培養、乾燥した菌体を担体(増量剤)で適宜希釈し、菌濃度が2×1010cfu/gになるように調整したものを用いた。
【0058】
製剤を200倍に希釈し、ハクサイ種子(品種:錦秋)を播種した土壌(128穴育苗トレイ、60cm×30cm)にかん注した。その後、約3週間育苗した後、汚染土壌に植え付けた。一方、定植前日、すなわち定植前にも再び同様のかん注処理を行い、汚染土壌に植え付けた場合についても実施した。
【0059】
一方、化学薬剤Nは、ハクサイ定植直前に汚染土壌に30kg/10aの割合で混合した。
【0060】
汚染土壌は、ハクサイ根こぶ菌に罹病したハクサイ根(根こぶ付き)をホモジナイズし混和した畑土壌を使用した。28日間後に発病の有無を調査し、防除効果の判定を行った。その結果を表1に示す。
【0061】
根こぶ病の発病程度は根部の根こぶの状態から発病株率、発病度、そして防除価を算出し、評価した。
根部発病指数0;健全、1;根の支根にわずかに根こぶの付着を認める、2;支根に多くの根こぶの付着を認める、もしくは主根に根こぶの付着を認める、3;主根に大きな根こぶの付着を認めるもしくは枯死する。
発病株率(%)=100×{(発病した株数)÷(総調査株数)}
発病度=100×{Σ(指数の値)×(各指数に該当する個体数)}÷{3×(調査苗数)})
防除価=100×{(無処理区での発病度)−(処理区での発病度)}÷(無処理区での発病度)
【0062】
【表1】

【0063】
結果、発病程度が激しい区において、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株、及び化学薬剤Nを組み合わせて用いた場合、後述する比較例1及び比較例2と比べて高い防除価が得られた。
[比較例1]ハクサイ根こぶ病への防除試験(ポット試験)
バリオボラックス属細菌CGF4526菌株を単独で用いた他は、実施例1と同様に行った。懸濁液の菌濃度も同様に、1×108cfu/mlで行った。
【0064】
根こぶ病の発病程度は実施例1と同様、根部の根こぶの状態から発病株率、発病度、そして防除価を算出し、評価した。
【0065】
【表2】

【0066】
[比較例2]ハクサイ根こぶ病への防除試験(ポット試験)
化学薬剤Nを単独で用いた例を示した。汚染土壌へ施用した割合も同様に30kg/10aで行った。
【0067】
根こぶ病の発病程度は実施例1と同様、根部の根こぶの状態から発病株率、発病度、そして防除価を算出し、評価した。
【0068】
【表3】

【0069】
以上、表2、及び表3に示すとおり、それぞれCGF4526菌株及び化学薬剤Nを単独で用いた場合、実施例1と比べて防除効果が弱いことがわかる。
【実施例2】
【0070】
ハクサイ根こぶ病への防除試験(ポット試験)
CGF4526菌株の製剤を用いて、ハクサイ根こぶ病に対する発病抑制効果について検討を行った。製剤の作成は、前述の方法で培養、乾燥した菌体を担体(増量剤)で適宜希釈し、菌濃度が2×1010cfu/gになるように調整したものを用いた。製剤は、200倍に希釈し、ハクサイ種子(品種:錦秋)を播種した土壌にかん注した。その後、約3週間育苗した後、汚染土壌に植え付けた。また、定植前日、すなわち定植前にも同様のかん注処理を行い、汚染土壌に植え付けた場合も実施した。汚染土壌は、ハクサイ根こぶ菌に罹病したハクサイ根(根こぶ付き)をホモジナイズし、混和した畑土壌を使用した。一方、化学薬剤Nは、ハクサイ定植直前に汚染土壌に30kg/10aの割合で混合した。27日間後に発病の有無を調査し、防除効果の判定を行った。その結果を表4に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
根こぶ病の発病程度は実施例1と同様、根部の根こぶの状態から発病株率、発病度、そして防除価を算出し、評価した。
【0073】
結果、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株及び、化学薬剤Nを組み合わせて接種した場合、後述する比較例3及び比較例4と比べ、極めて高い防除価が得られた。
[比較例3]ハクサイ根こぶ病への防除試験(ポット試験)
バリオボラックス属細菌CGF4526株を単独で用いた他は、実施例2と同様に行った。バリオボラックス属細菌CGF4526菌株の懸濁液の菌濃度も同様に、1×108cfu/mlで行った。
【0074】
根こぶ病の発病程度は実施例1と同様、根部の根こぶの状態から発病株率、発病度、そして防除価を算出し、評価した。
【0075】
【表5】

【0076】
[比較例4]ハクサイ根こぶ病への防除試験(ポット試験)
化学薬剤Nを単独で用いた他は、実施例2と同様に行った。汚染土壌へ施用した割合も同様に30kg/10aで行った。
【0077】
根こぶ病の発病程度は実施例1と同様、根部の根こぶの状態から発病株率、発病度、そして防除価を算出し、評価した。
【0078】
【表6】

【0079】
以上、表5、及び表6に示すとおり、それぞれ単独で用いた場合は実施例2と比べて防除効果が弱いことがわかる。
【実施例3】
【0080】
ハクサイ根こぶ病への防除試験(圃場試験)
CGF4526菌株の製剤を用いて、ハクサイ根こぶ病に対する発病抑制効果について検討を行った。製剤の作成は、前述の方法で培養、乾燥した菌体を担体(増量剤)で適宜希釈し、菌濃度が2×1010cfu/gになるように調整したものを用いた。製剤は、200倍に希釈し、ハクサイ種子(品種:錦秋)を播種した土壌にかん注した。その後、約3週間育苗した後、ハクサイ根こぶ菌に罹病したハクサイ根(根こぶ付き)をホモジナイズし、混和した畑に移植した。また、定植前日、すなわち定植前にも同様のかん注処理を行ってから、汚染圃場に植え付けた場合も実施した。一方、化学薬剤Nは、ハクサイ定植直前に汚染土壌に30kg/10aの割合で混合した。70日間後に発病の有無を調査し、防除効果の判定を行った。その結果を表7に示す。
【0081】
【表7】

【0082】
根こぶ病の発病程度は実施例1と同様、根部の根こぶの状態から発病株率、発病度、そして防除価を算出し、評価した。
【0083】
結果、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株、及び化学薬剤Nを組み合わせて接種した場合、後述する比較例5及び比較例6と比べ、高い防除価が得られた。
[比較例5]ハクサイ根こぶ病への防除試験(圃場試験)
バリオボラックス属細菌CGF4526株を単独で用いた他は、実施例2と同様に行った。バリオボラックス属細菌CGF4526菌株の懸濁液の菌濃度も同様に、1×108cfu/mlで行った。70日間後に発病の有無を調査し、防除効果の判定を行った。その結果を表8に示す。
【0084】
根こぶ病の発病程度は実施例1と同様、根部の根こぶの状態から発病株率、発病度、そして防除価を算出し、評価した。
【0085】
【表8】

【0086】
[比較例6]ハクサイ根こぶ病への防除試験(圃場試験)
化学薬剤Nを単独で用いた他は、実施例2と同様に行った。汚染土壌へ施用した割合も同様に30kg/10aで行った。70日間後に発病の有無を調査し、防除効果の判定を行った。その結果を表9に示す。
【0087】
根こぶ病の発病程度は実施例1と同様、根部の根こぶの状態から発病株率、発病度、そして防除価を算出し、評価した。
【0088】
【表9】

【0089】
以上、表8および9に示すとおり、それぞれ単独で用いた場合は実施例3と比べて防除効果が弱いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、実施例、比較例における防除価を比較したものである。ここで、Aはバリオボラックス属細菌CGF4526菌株を、Bは化学薬剤Nを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アブラナ科植物病害の防除方法であって、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株(Variovorax sp.CGF4526)を有効成分として含む剤をアブラナ科植物に接触させる工程、及び式[1]で表される2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリド
【化1】

を有効成分として含む剤を、該アブラナ科植物を定植する土壌に接触させる工程を含む、アブラナ科植物病害の防除方法。
【請求項2】
アブラナ科植物への接触が、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株を有効成分として含む剤を、播種時の育苗培土に混合もしくはかん注、又は定植前の苗に浸漬処理もしくはかん注することにより行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
土壌への接触が、式[1]で表される2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリドを有効成分として含む剤を、土壌表面に散布、又は土壌混和することにより行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アブラナ科植物病害の防除方法であって、バリオボラックス属細菌CGF4526菌株(Variovorax sp.CGF4526)を有効成分として含む剤を播種時の育苗培土に混合もしくはかん注した後、さらに定植前の苗に浸漬処理もしくはかん注する工程、及び式[1]で表される2',4−ジクロロ−α,α,α−トリフルオロ−4'−ニトロ−m−トルエンスルホンアニリド
【化2】

を有効成分として含む剤を、該アブラナ科植物を定植する土壌に散布、又は土壌混和する工程を含む、アブラナ科植物病害の防除方法。
【請求項5】
アブラナ科植物病害が根こぶ病であることを特徴とする、請求項1乃至4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
アブラナ科植物がハクサイ、キャベツ、ダイコン、カリフラワー、ブロッコリー、チンゲンサイ、又はコマツナである、請求項1乃至5の何れかに記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−126470(P2010−126470A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301794(P2008−301794)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】