説明

アミロイドβの可溶性オリゴマーの製造及び検出方法

【課題】アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβタンパク質の可溶性オリゴマーを製造及び検出するための新規な方法を提供すること。
【解決手段】アミロイドβと超好熱性古細菌pyrococcus horikoshii 0T3由来のプレフォルディンとを混合してインキュベートし、アミロイドβの可溶性オリゴマーを製造する。当該プレフォルディンと、アミロイドβの可溶性オリゴマーを含有する試料とを接触させ、アミロイドβの可溶性オリゴマーに結合したプレフォルディンを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイドβの可溶性オリゴマーの製造及び検出方法に関する。より詳細には、本発明は、分子シャペロンの1種であるプレフォルディンを用いてアミロイドβの可溶性オリゴマーを製造及び検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は神経変性疾患であり、アミロイドβタンパク質(Aβ)の生成はアルツハイマー病の病因の一つと考えられている。Aβの形成過程においては、アミロイド前駆体タンパク質(APP)はβ−セクレターゼにより切断されて可溶性のNH2末端断片とCOOH末端断片(C99)が生成し、C99はさらにγ−セクレターゼによって切断されて、アミロイドβが生成する。
【0003】
これまでアミロイドβは、自己組織的に形成される繊維状の形態をとることで細胞毒性を示すものと考えられてきた。しかし、近年、繊維体よりも、可溶性オリゴマーとよばれる形成過程の中間体が最も高い細胞毒性を示すことが明らかとなっている。また、生体内でも、アミロイドβが形成する可溶性オリゴマーが組織壊死を引き起こしていることが示されており、アルツハイマー病の原因物質と考えられている(非特許文献1)。これまで、試験管内でアミロイドβの可溶性オリゴマーを作成する手法としては下記の2種類の方法が提案されているが、いずれも大きさに制限があった。即ち、試験管内でアミロイドβタンパク質のモノマー(4.5kDa)から可溶性オリゴマーと呼ばれる高分子量体を作製する第1の方法は、Clusterin (apolipoprotein J)とインキュベートする方法であり、第2の方法は、冷F12培地でインキュベートする方法である(非特許文献2)。しかし、これらの方法では、17kDa(3mer)、22 kDa(4mer)から65kDa程度までの可溶性オリゴマーは作製できるが、それ以上の大きさの可溶性オリゴマーを同時に作ることは難しかった。
【0004】
一方、アルツハイマー病患者からは、モノマーから100kDa以上のオリゴマーまでが検出されており(非特許文献1)、治療・検査などの標準試料としてはこれら様々な大きさのものが存在していることが望まれる。上記の通り、アルツハイマー病患者に含まれる可溶性オリゴマーは、モノマーから数十量体(>100 KDa)であるが、これらの大きさのもの全てを同時に作成する方法は存在しない。
【0005】
また、これまでアミロイドβ及びその会合体はアミロイドβ抗体でしか検出できなかった。例えば、可溶性オリゴマーを検出する抗体については、非特許文献3及び特許文献1に記載がある。しかしながら、アミロイドβ抗体の作製は、一般的には、動物の免疫などの作業が必要であり、煩雑かつ高価であった。
【0006】
【非特許文献1】Kuo YM, Emmerling MR, Vigo-Pelfrey C, Kasunic TC, Kirkpatrick JB, Murdoch GH, Ball MJ, Roher AE., "Water-soluble Abeta (N-40, N-42) oligomers in normal and Alzheimer disease brains.". J Biol Chem. 1996 Feb 23;271(8):4077-81.
【非特許文献2】Lambert MP, Barlow AK, Chromy BA, Edwards C, Freed R, Liosatos M, Morgan TE, Rozovsky I, Trommer B, Viola KL, Wals P, Zhang C, Finch CE, Krafft GA, Klein WL., "Diffusible, nonfibrillar ligands derived from Abeta1-42 are potent central nervous system neurotoxins." Proc Natl Acad Sci U S A. 1998 May 26;95(11):6448-53
【非特許文献3】Lambert MP, Viola KL, Chromy BA, Chang L, Morgan TE, Yu J, Venton DL, Krafft GA, Finch CE, Klein WL." Vaccination with soluble Abeta oligomers generates toxicity-neutralizing antibodies." J Neurochem. 2001 Nov;79(3):595-605
【特許文献1】国際公開WO/2003/104437号公報、KLEIN, William, L. , KRAFFT, Grant, A., LAMBERT, Mary, P., VIOLA, Kirsten, L., CHROMY, Brett, A. GONG, Yue, Song, CHANG, Lei, MORGAN, Todd, E., ROZOFSKY, Irina, FINCH, Caleb, E. "ANTI-ADDL ANTIBODIES AND USES THEREOF"
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβタンパク質の可溶性オリゴマーを製造及び検出するための新規な方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、分子シャペロンの一つであるプレフォルディンをアミロイドβと混合してインキュベートすることによって、アミロイドβの幅広い重合度の可溶性オリゴマーを製造できることを見出した。さらに、本発明者らは、プレフォルディンがアミロイドβの幅広い重合度の可溶性オリゴマーと結合することを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
即ち、本発明によれば、アミロイドβ、及びプレフォルディンを少なくとも含む、アミロイドβの可溶性オリゴマーを製造するためのキットが提供される。
さらに本発明によれば、アミロイドβとプレフォルディンとを混合することによって得られる、アミロイドβの可溶性オリゴマーを含有する組成物が提供される。
【0010】
さらに本発明によれば、プレフォルディンを含む、アミロイドβの可溶性オリゴマー調製試薬が提供される。
さらに本発明によれば、アミロイドβとプレフォルディンとを混合してインキュベートすることを含む、アミロイドβの可溶性オリゴマーを製造する方法が提供される。
【0011】
さらに本発明によれば、プレフォルディンを含む、アミロイドβの可溶性オリゴマーの検出試薬が提供される。
さらに本発明によれば、プレフォルディンと、アミロイドβの可溶性オリゴマーを含有する試料とを接触させ、アミロイドβの可溶性オリゴマーに結合したプレフォルディンを検出することを含む、アミロイドβの可溶性オリゴマーの検出方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、分子シャペロンの一つであるプレフォルディンがアミロイドβの幅広い重合度の可溶性オリゴマーを作る本発明者らの発見を利用し、幅広い重合度の可溶性オリゴマーを作成する手法を提案するものである.アミロイドβとプレフォルディンを混合し、インキュベートすることで、17kDa(3mer)から250kDa程度の可溶性オリゴマーを同時に作成することができる。これにより、アルツハイマー病の治療・検査において有用な標準試料を供給することが可能になる。また、本発明によれば、アミロイドβの可溶性オリゴマーを検出できる新たな物質としてプレフォルディンが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
(1)プレフォルディンを用いたアミロイドβの可溶性オリゴマーの製造
本発明においては、プレフォルディンをアミロイドβと混合してインキュベートすることによって、アミロイドβの幅広い重合度の可溶性オリゴマーを製造できることが判明した。従って、本発明によれば、アミロイドβとプレフォルディンを少なくとも含む、アミロイドβの可溶性オリゴマーを製造するためのキットが提供される。本発明のキットにおいては、アミロイドβとプレフォルディンとは、別の容器に収納した状態で供給され、使用時に両者を混合、インキュベートすることによって、アミロイドβの可溶性オリゴマーを製造することができる。また、本発明によれば、アミロイドβとプレフォルディンとを混合することによって得られる、アミロイドβの可溶性オリゴマーを含有する組成物が提供される。当該組成物は、アミロイドβとプレフォルディンとを容器中で混合した状態で供給することができる。さらに、本発明においては、プレフォルディンを単独で、アミロイドβの可溶性オリゴマー調製試薬として供給することもできる。上記した本発明のキット、組成物または試薬を用いて、アミロイドβとプレフォルディンとを混合してインキュベートすることによってアミロイドβの可溶性オリゴマーを製造することができる。本発明のキットに含まれるアミロイドβ、並びにアミロイドβの可溶性オリゴマーを製造するためにプレフォルディンと混合されるアミロイドβは、アミロイドβモノマーを意味するが、この中には、アミロイドβのオリゴマーが混在していてもよい。
【0014】
本発明で用いるアミロイドβは、公知であり、アミロイドβのアミノ酸配列は、例えば、文献(Jarrett JT, Berger EP, Lansbury PT Jr. "The carboxy terminus of the beta amyloid protein is critical for the seeding of amyloid formation: implications for the pathogenesis of Alzheimer's disease". Biochemistry. 1993, 32, 4693-7 PMID: 849001)やシグマ社総合カタログ(catalog#A9810 Amyloid β Protein Fragment 1-42)に記載されている。アミロイドβは、市販品として入手することもでき、例えば、和光純薬社のもの(WAKO catalog#016-181771 Abeta(1-42))、シグマ社のもの(SIGMA catalog#A9810 Amyloid β Protein Fragment 1-42)、アナスペック社のもの(AnaSpec catalog#20276 β-Amyloid (1-42))などを用いることもできる。
【0015】
本発明で用いるプレフォルディンの由来は特に限定されない。プレフォルディン(Prefoldin, PFD)は、真核生物、古細菌に幅広く存在する分子シャペロンであり、GimCとも呼ばれる。プレフォルディンは、GroupII型シャペロニンと協調して機能を発揮する分子シャペロンである。酵母でγ−チューブリンやβ−アクチンに結合するタンパク質として発見された。プレフォルディンは真核生物では14〜23kDaのサブユニットのへテロ6量体構造である。真核生物のほか、多くの古細菌、および超好熱性バクテリアにもプレフォルディンホモログが存在していることが判明している。これらの場合はαタイプのサブユニット2つとβタイプのサブユニット4つの6量体をとる。また近年、大腸菌にもホモログタンパク質が発見された。以下に代表的なプレフォルディンとアミノ酸配列(Swiss-Prot ID)を示す。本発明では、以下にあげるプレフォルディンを使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
(1)哺乳類
ヒト(homo sapience) :
O60925 (Subunit 1), Q9UHV9 (Subunit 2), P61758 (Subunit 3), Q9NQP4 (Subunit 4), Q99471 (Subunit 5), O15212 (Subunit 6)
Ref:Vainberg,I.E., Lewis,S.A., Rommelaere,H., Ampe,C., Vandekerckhove,J., Klein,H.L. and Cowan,N.J. "Prefoldin, a chaperone that delivers unfolded proteins to cytosolic Chaperonin" Cell 93 (5), 863-873 (1998)
マウス (Mus musculus (Mouse)):
Q9CWM4 (Subunit 1), O70591 (Subunit 2), P61759 (Subunit 3), Q6P0X1 (Subunit 4), Q9WU28 (Subunit 5), Q03958 (Subunit 6)
【0017】
(2)酵母
Saccharomyces cerevisiae:
P46988 (Subunit 1), P40005 (Subunit 2), P48363 (Subunit 3), P53900 (Subunit 4), Q04493 (Subunit 5), P52553 (Subunit 6)
Ref: Geissler,S., Siegers,K. and Schiebel,E. " A novel protein complex promoting formation of functional alpha-and gamma-tubulin" EMBO J. 17 (4), 952-966 (1998)
【0018】
(3)線虫
Caenorhabditis elegans:
Q17827 (Subunit 1), Q9N5M2 (Subunit 2), O18054 (Subunit 3), Q17435 (Subunit 4), Q21993 (Subunit 5), P52554 (Subunit 6)
Ref:C. elegans Sequencing Consortium"Genome sequence of the nematode C. elegans: a platform for investigating biology" Science 282 (5396), 2012-2018 (1998)
【0019】
(3)古細菌
Pyrococcus horikoshii:
O58263 (Alpha Subunit), O58268 (Beta Subunit)
Ref: Kawarabayasi,Y., Sawada,M., Horikawa,H., Haikawa,Y., Hino,Y., Yamamoto,S., Sekine,M., Baba,S.-I., Kosugi,H., Hosoyama,A., Nagai,Y., Sakai,M., Ogura,K., Otsuka,R., Nakazawa,H., Takamiya,M., Ohfuku,Y., Funahashi,T., Tanaka,T., Kudoh,Y., Yamazaki,J.,Kushida,N., Oguchi,A., Aoki,K.-I., Yoshizawa,T., Nakamura,Y., Robb,F.T., Horikoshi,K., Masuchi,Y., Shizuya,H. and Kikuchi,H.
"Complete sequence and gene organization of the genome of a hyper-thermophilic archaebacterium, Pyrococcus horikoshii OT3"DNA Res. 5 (2), 55-76 (1998)

Methanosarcina mazei:
Q8PYQ1 (Alpha Subunit), Q8PZ21 (Beta Subunit)
Ref:Deppenmeier,U., Johann,A., Hartsch,T., Merkl,R., Schmitz,R.A., Martinez-Arias,R., Henne,A., Wiezer,A., Baumer,S., Jacobi,C., Bruggemann,H., Lienard,T., Christmann,A., Bomeke,M., Steckel,S., Bhattacharyya,A., Lykidis,A., Overbeek,R., Klenk,H.P., Gunsalus,R.P., Fritz,H.J. and Gottschalk,G."The genome of Methanosarcina mazei: evidence for lateral gene transfer between bacteria and archaea" J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 4 (4), 453-461 (2002)
【0020】
(4)バクテリア
Aquifex aeolicus:
O66961 (alpha Subunit) O66956 (beta subunit)
Ref:Deckert,G., Warren,P.V., Gaasterland,T., Young,W.G., Lenox,A.L., Graham,D.E., Overbeek,R., Snead,M.A., Keller,M., Aujay,M., Huber,R., Feldman,R.A., Short,J.M., Olson,G.J. and Swanson,R.V."The complete genome of the hyperthermophilic bacterium Aquifex aeolicus" Nature 392 (6674), 353-358 (1998)

Escherichia ColiでのPFDホモログ:
P0AEU7
Ref:Walton,T.A. and Sousa,M.C."Crystal structure of Skp, a prefoldin-like chaperone that protects soluble and membrane proteins from aggregation" Mol. Cell 15 (3), 367-374 (2004)
【0021】
また、Leroux MR, Fandrich M, Klunker D, Siegers K, Lupas AN, Brown JR, Schiebel E, Dobson CM, Hartl FU. "MtGimC, a novel archaeal chaperone related to the eukaryotic chaperonin cofactor GimC/prefoldin" EMBO J. 1999 Dec 1;18(23):6730-43には、様々な種の生物にプレフォルディンがあることが記載されている(Fig.1)。
【0022】
さらに、ヒトの脳よりプレフォルディンが見つかっているという報告もある(Zhang J, Liu L, Zhang X, Jin F, Chen J, Ji C, Gu S, Xie Y, Mao Y. Cloning and Characterization of a Novel Human Prefoldin and SPEC Domain Protein Gene (PFD6L) From the Fetal Brain. Biochem Genet. 2006 Feb;44(1-2):66-71. Epub 2006 May 19. PMID: 16710767)。
【0023】
アミロイドβとプレフォルディンとを混合してインキュベートすることによってアミロイドβの可溶性オリゴマーを製造することができる。例えば、アミロイドβを含む溶液と、プレフォルディンを含む溶液をそれぞれ調製し、両溶液を混合してインキュベートすればよい。アミロイドβとプレフォルディンとの混合液中のプレフォルディンの濃度は特に限定されないが、例えば、10μMから200μM、好ましくは10μMから100μMとすることができる。また、アミロイドβとプレフォルディンとの混合液中のアミロイドβの濃度は特に限定されないが、例えば、10μMから200μM、好ましくは10μMから100μMとすることができる。混合液のインキュベーション温度は、例えば、10℃から70℃程度であり、好ましくは20℃から60℃程度である。インキュベーション時間は限定されないが、例えば1時間から24時間程度とすることができる。
【0024】
(2)プレフォルディンを用いたアミロイドβの可溶性オリゴマーの検出
本発明においては、プレフォルディンがアミロイドβの幅広い重合度の可溶性オリゴマーと結合することが判明した。従って、本発明によれば、プレフォルディンを含む、アミロイドβの可溶性オリゴマーの検出試薬が提供される。また、プレフォルディンと、アミロイドβの可溶性オリゴマーを含有する試料とを接触させ、アミロイドβの可溶性オリゴマーに結合したプレフォルディンを検出することによって、アミロイドβの可溶性オリゴマーを検出することができる。
【0025】
アミロイドβの可溶性オリゴマーを検出する際に使用できるプレフォルディンとしては、本明細書中上記したものが挙げられる。
なお、本明細書の実施例で使用した超好熱性古細菌Pyrococcus horikoshii OT3由来のプレフォルディン(PhPFD)は、アミロイドβの可溶性オリゴマー以外に、変性したタンパク質、細胞内で作られたばかりのフォールドしていないペプチド鎖にも結合するため、ヒトサンプルのアミロイドβの可溶性オリゴマーを検出する際のバックグラウンドが高くなる可能性がある。このため、ヒトサンプル中の可溶性オリゴマーを検出する際には、アミロイドβの可溶性オリゴマーのみにするか、PhPFDも結合する可能性のあるタンパク質を除去するために、以下の(1)から(4)に記載するような前処理を行うことが有効であると考えられる。
【0026】
(1)アミロイドβ抗体によりサンプルからアミロイドβの可溶性オリゴマーのみを得てからPhPFDで検出する。
(2)GroELやDnaK, DnaJなど、変性タンパク質を結合する他の分子シャペロンで変性タンパク質、新生ペプチドを除いてからPhPFDによりアミロイドβの可溶性オリゴマーを検出する。
(3)プロテアーゼ処理をする。タンパク質はトリプシンなどのプロテアーゼにより分解できるが、アミロイドβのオリゴマーは分解されない。なお、アミロイドβのオリゴマーがプロテアーゼ耐性を持つことは、Nordstedt C, Naslund J, Tjernberg LO, Karlstrom AR, Thyberg J, Terenius L., "The Alzheimer A beta peptide develops protease resistance in association with its polymerization into fibrils." J Biol Chem. 1994 Dec 9;269(49):30773-6に記載されている。
(4)アミロイドβモノマーの分子量は4.5 kDaであるので、例えば5 kDa MWCOの透析膜を用いることでモノマーを取り除く。
【0027】
アミロイドβの可溶性オリゴマーを含有する試料としては、生体由来の試料でもよいし、細胞由来の試料でもよいし、人為的に調製したアミロイドβの可溶性オリゴマーを含有する試料でもよい。
【0028】
プレフォルディンと、アミロイドβの可溶性オリゴマーを含有する試料とを接触させ、アミロイドβの可溶性オリゴマーに結合したプレフォルディンを検出するためには、プレフォルディンに予め標識をつけておくことが望ましい。例えば、ビオチン又はMycなどでプレフォルディンを予め標識しておくことができる。このように標識されたプレフォルディンと、アミロイドβの可溶性オリゴマーを含有する試料とを接触させた後に、該標識に特異的に結合する物質であって検出のための標識を有する物質を反応させ、その後に、検出のための標識を利用して検出を行うことができる。例えば、プレフォルディンを予めビオチンで標識した場合には、該標識に特異的に結合する物質であって検出のための標識を有する物質としては、検出のための標識を有するアビジン、又は検出のための標識を有するストレプトアビジンを使用することができる。また、プレフォルディンを予めMycで標識した場合には、該標識に特異的に結合する物質であって検出のための標識を有する物質としては、検出のための標識を有する抗Myc抗体を使用することができる。
【0029】
検出のための標識の種類は特に限定されず、酵素、蛍光色素、放射性同位体などを使用することができる。
【0030】
酵素を使用する場合には、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、炭酸アンヒドラーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、リゾチーム、マレートデヒドロゲナーゼ、グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ等を標識として使用することができる。検出のための標識として酵素を使用する場合は、上記の酵素の基質を作用させて発色等で反応を測定することによって酵素で標識した物質(酵素標識アビジン、酵素標識ストレプトアビジン、酵素標識抗Myc抗体など)を検出することができる。例えば、ペルオキシダーゼで標識される場合には、基質として過酸化水素、発色試薬としてジアミノベンジジンまたはO−フェニレンジアミンと組み合わさって褐色または黄色を生じる。グルコースオキシダーゼで標識される場合には、基質として、たとえば2,2’−アシド−ジ−(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸(ABTS)等を用いることができる。
【0031】
標識として蛍光色素を使用する場合には、例えば、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)又はTRITC(テトラメチルローダミンBイソチオシアネート)等の蛍光色素を使用することができる。また、放射性同位体としては、例えば、125I等を使用することができる。
【0032】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
(1)サンプル調製
アミロイドβは和光純薬社のもの(WAKO catalog#016-181771 Abeta(1-42))のものを使用した。1,1,1,3,3,3-hexafluoro-2-propanol(HFIP)に2 mg/mlとなるように添加し、一昼夜室温でインキュベートした。30分間のスピンバキュームにより、アミロイドβフラグメントストック溶液(21.7 μL)よりHFIPを完全に蒸発除去した。これに、10μLの蒸留水を添加し、さらに十分にボルテックスをかけることにより再溶解した(この時、アミロイドβ溶液の濃度が1 mMとなるように水を添加した)。
【0034】
プレフォルディンは超好熱性古細菌Pyrococcus horikoshii OT3由来のプレフォルディン(以下PhPFD)を大腸菌で発現・精製したものを使用した。PhPFDの発現・精製方法は文献(Okochi M, Yoshida T, Maruyama T, Kawarabayasi Y, Kikuchi H, Yohda M. "Pyrococcus prefoldin stabilizes protein-folding intermediates and transfers them to chaperonins for correct folding." Biochem Biophys Res Commun. 2002 Mar 8;291(4):769-74)に従った。
【0035】
終濃度50μMのPhPFDを含むPBS緩衝液(19μL)に、アミロイドβフラグメントを含む水溶液(1μL)を添加した(アミロイドβ終濃度=50 μM、PhPFD終濃度=50μM)。添加した時間をゼロとして、50℃で8時間のインキュベートを行った。PhPFDを添加した場合と添加しない場合のそれぞれについて、インキュベーション時間は0時間、3時間、5時間、及び8時間のサンプルを用意した。
【0036】
(2)ウェスタンブロッティング
上記(1)で得られたサンプルをSDS-PAGE後、抗アミロイドβ抗体(abcam社, mouse monoclonal [6E10] to beta amyloid (ab10146))を用いて以下の通りウェスタンブロッティングを行い、作成した可溶性オリゴマーのサイズを確認した。
【0037】
サンプル(10μl)をSDS-PAGE(10-20%グラジエントゲル 和光純薬#198-12981)を用いて分離した(400V,20mA,定電流)。セミドライブロッティング装置を用いてゲルをPVDFメンブレンに転写し(10V,200mA,定電流)、PVDFメンブレンをブロッキング溶液(5%スキムミルク−PBS溶液)に一晩4℃で浸した。ブロッキング終了後のメンブレンを、0.1%BSAを含むTBST溶液で2000倍希釈した一次抗体溶液に40分浸した(一次抗体:abcam社 mouse monoclonal [6E10] to beta amyloid (ab10146))。メンブレンをTBST溶液で30分間洗浄後、0.1%BSAを含むTBST溶液で2000倍希釈した二次抗体溶液に40分浸した(二次抗体:R&Dsystems社 Anti-mouse IgG-HRP Antibody (HAF007))。メンブレンをTBST溶液で30分間洗浄後、ECLによりアミロイドβバンドを検出した(Amersham Bioscience社 ECL plus western blotting detection system (RPN2132))。結果を図1に示す。
【0038】
図1の結果から分かるように、PhPFDを添加したサンプルでは、3時間、5時間、及び8時間のインキュベーションのサンプルにおいて、17kDaから250kDa程度のアミロイドβの可溶性オリゴマーが検出されたのに対し、PhPFDを添加していないサンプルではいずれも、アミロイドβの可溶性オリゴマーは検出されなかった。
【0039】
(3)透過型電子顕微鏡
上記(1)で得られたサンプル(インキュベーション時間:8時間)を超純水で10倍希釈し、2%の酢酸ウラニル溶液でネガティブ染色し、carbon-coated formvar film (JEOL DATUM)上で観察を行った.透過型電子顕微鏡はJEM-1011 (JEOL), 100 kVを用い、対物レンズ倍率は25,000倍のものを用いた。結果を図2に示す。PhPFDを添加していないサンプルでは繊維ができているのに対し、PhPFDを添加したサンプルでは繊維は観察されず、可溶性オリゴマーの生成を示す粒子状物体が観察された。
【0040】
(4)PhPFDにより作成されたアミロイドβの可溶性オリゴマーの細胞毒性評価
PC12細胞(ラット副腎褐色細胞(American Type Culture Collection #CRL-1721))をシャーレ上で一定数まで生育した後、96穴プレートに5x104 cell/100μLとなるように添加した。24時間の細胞のインキュベートの後、PhPFDとアミロイドβを混合することによって得られる上記サンプル(±PhPFD)をアミロイドβ濃度が0.01μM〜10μMになるように20μLずつ添加した。一定時間放置後、MTT分析(Cell Proliferation Kit I (MTT) (Roche, Cat. No. 1465007))により生細胞数を測定した。生細胞の脱水素酵素がMTTより生産するFormazanの生成量を550nmでの吸収を吸光光度計により測定し細胞の生存率を求めた。結果を図3に示す。
【0041】
図3の結果より、アミロイドβにプレフォルディンを添加しないサンプルの場合よりも、プレフォルディンを添加して得られたサンプルの方が、アミロイドβ濃度の増大に伴って細胞の生存率の低下が大きくなることが分かる。この結果から、PhPFDにより作成されたアミロイドβの可溶性オリゴマーが高い細胞毒性を示すことが実証された。
【0042】
(5)磁気ビーズを用いたPhPFDと可溶性オリゴマーの相互作用の分析
PhPFDは69番目のリジン残基をシステイン残基に変異を入れたものを用いた(PhPFD_K69C)。大腸菌を用いての発現・精製は上記の文献(Okochi M, Yoshida T, Maruyama T, Kawarabayasi Y, Kikuchi H, Yohda M. "Pyrococcus prefoldin stabilizes protein-folding intermediates and transfers them to chaperonins for correct folding." Biochem Biophys Res Commun. 2002 Mar 8;291(4):769-74)に準じて行った。PhPFDは他にシステイン残基を持たないため、これにより部位特異的な修飾が可能である。PhPFD_K69Cをビオチン修飾した(bio-PhPFD)。6.3μM PhPFD_K69Cに対し20μM Biotin-PEAC5-maleimide (DOJINDO #344-06391)を加え、4℃で2時間インキュベートした。未反応のビオチンはNap5カラム(GE Healthcare #17-0853-01)で取り除いた。4μM bio-PhPFD 130μlと40μl ストレプトアビジン化磁気ビーズ(4 mg/ml in water)(New England BioLabs #S1420)を混合させ、室温で4時間インキュベートしてbio-PhPFDを磁気ビーズに固定化した。
【0043】
PBSバッファーで洗浄後、30μlのPBSバッファーで磁気ビーズを再懸濁し、PhPFD固定化磁気ビーズを回収した。固定化PhPFD濃度は未固定化PhPFD濃度より10 μMと算出された。10μM PhPFD固定化磁気ビーズ溶液 30μlにアミロイドβを10μMとなるように添加し、50℃で8時間インキュベートした。磁気ビーズを回収したのち、上清と2xSDS−PAGEサンプルバッファー(0.5M Tris-HCl (pH 6.8) 1 ml、10%SDS 2ml、βメルカプトエタノール 0.6 ml、グリセロール 1 ml、蒸留水 5.4 ml、1% BPB 数滴)を混合し上清サンプルとした。また、回収した磁性粒子を、1xSDS−PAGEサンプルバッファー30μlに懸濁し、5分間熱処理した。その後、磁気ビーズを除去した溶液の上清を磁気ビーズ結合サンプルとして回収した。
【0044】
以下、上記(2)と同様にSDS-PAGE後、アミロイドβ抗体を用いてウェスタンブロッティングを行った。結果を図4に示す。磁気ビーズに固定化したPhPFDにアミロイドβの可溶性オリゴマーが結合しているのに対して(レーン1)、磁気ビーズを回収したときの上清にはアミロイドβの可溶性オリゴマーは観察されなかった(レーン2)ことから、プレフォルディンは、アミロイドβの可溶性オリゴマーに結合することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、アミロイドβとプレフォルディンを混合して得たサンプルと抗Abeta抗体を用いたウェスタンブロッティングの結果を示す。
【図2】図2は、アミロイドβとプレフォルディンを混合して得たサンプルを透過型電子顕微鏡で観察した結果を示す。
【図3】図3は、プレフォルディンにより作成されたアミロイドβの可溶性オリゴマーの細胞毒性を評価した結果を示す。
【図4】図4は、プレフォルディンとアミロイドβの可溶性オリゴマーとの結合性を磁気ビーズを用いて測定した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロイドβ、及びプレフォルディンを少なくとも含む、アミロイドβの可溶性オリゴマーを製造するためのキット。
【請求項2】
アミロイドβとプレフォルディンとを混合することによって得られる、アミロイドβの可溶性オリゴマーを含有する組成物。
【請求項3】
プレフォルディンを含む、アミロイドβの可溶性オリゴマー調製試薬。
【請求項4】
アミロイドβとプレフォルディンとを混合してインキュベートすることを含む、アミロイドβの可溶性オリゴマーを製造する方法。
【請求項5】
プレフォルディンを含む、アミロイドβの可溶性オリゴマーの検出試薬。
【請求項6】
プレフォルディンと、アミロイドβの可溶性オリゴマーを含有する試料とを接触させ、アミロイドβの可溶性オリゴマーに結合したプレフォルディンを検出することを含む、アミロイドβの可溶性オリゴマーの検出方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−31099(P2008−31099A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−206553(P2006−206553)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】