説明

アモルファス巻鉄心の製造方法

【目的】過締状態での焼鈍に起因するアモルファス巻鉄心の鉄心特性の劣化を排除する。
【構成】鉄心下端を保持する鉄心支持材14を設けた内側クランプ材7外側クランプ材6によってアモルファス磁性鉄心1を成形し、焼鈍する。鉄心支持材14の長さlは、所定占積率を得る鉄心積厚寸法とする。
【効果】鉄心支持材で鉄心下端を支持するため、所定占積率を得ることができるボルトの締付でも、鉄心がずれ落ちることはないので、焼鈍時巻鉄心を過締状態とする必要がない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アモルファス磁性材を用いた静止電気機器の巻鉄心に関し、特に、変圧器に用いられるアモルファス磁性材の巻鉄心に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のアモルファス磁性材を用いた巻鉄心に関する技術としては、公開特許公報昭58−112310号公報に記載されている技術が知られている。
【0003】この技術によれば、積層したアモルファス薄帯を、その内側と外側に鉄心クランプ板を取付けて巻き、図9に示すように巻鉄心を成形する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、アモルファス磁性材の巻鉄心(以下、「アモルファス巻鉄心」という)は、巻きに起因する応力の巻鉄心への影響を除去するために、巻鉄心に成形した状態で磁場中焼鈍を行う。この焼鈍は、作業の容易性や焼鈍装置の構成の簡略化等の観点より、図10に示すように、巻鉄心を水平に設置して行うことが望ましい。図中1012は、磁気焼鈍のための磁気を発生するための電極である。
【0005】しかし、前記従来の技術によって、大きな巻鉄心を成形する場合、前記クランプ板による締付力を増さないと、巻鉄心を水平に設置した場合、図11に示すように、鉄心自体の自重で積層中央部がたけのこ状に垂れ下がることになる。図11は、巻鉄心の一部を積層方向と垂直な方向に切断した断面を示したものである。
【0006】ところで、巻心を変圧器に用いる場合、焼鈍後、一度巻を開き、図12に示すようにコイル1201、1202を挿入し、再度巻いて巻鉄心とするが、焼鈍において積層中央部が前述したようにたけのこ状に垂れ下ってしまった場合、コイルの挿入が困難となったり、再度の巻きにおいて、薄帯の端がうまく重ならずに巻鉄心の特性が悪化したり、割れが生じ易くなったりする。
【0007】このような、積層中央部のたけのこ状の垂れ下がり自体は、積厚方向に前記クランプ材の締付力を増すようにすれば防ぐことができる。しかし、このように、過締状態で焼鈍すると、アモルファス薄帯間で焼付きが発生する。この焼き付きは、巻鉄心のうず電流損を著しく大とし、鉄損を増大させる。
【0008】そこで、本発明は、過締状態とすることなしに、積層中央部のたけのこ状の垂れ下がりを防ぐことのできるアモルファス巻鉄心の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】前記目的達成のために、本発明は、アモルファス材薄帯を多層に巻回したアモルファス巻鉄心の製造方法であって、巻回したアモルファス材薄帯側面より構成される、アモルファス材薄帯の巻回し軸に垂直な2つの面のうちの一方の面に、鉄心支持材を面に当てて取り付け、鉄心支持材を取付けた面を底面として巻鉄心を励磁焼鈍することを特徴とするアモルファス巻鉄心の製造方法を提供する。
【0010】
【作用】本発明に係るアモルファス巻鉄心の製造方法によれば、アモルファス薄帯落下防止用の鉄心支持材を取り付け、鉄心支持材を取付けた面を底面として巻鉄心を励磁焼鈍する。したがい、鉄心は、ゆるく締付られても垂下することなく形状を維持することができる。
【0011】
【実施例】本発明に係るアモルファス巻鉄心の製造方法の一実施例を説明する。
【0012】まず、巻鉄心の材料であるロ−ル状アモルファスシ−ト素材から設置から、巻鉄心の焼鈍までの製造工程の概要を説明する。
【0013】図7に、アモルファス巻鉄心の製造システムのうち、ロ−ル状アモルファス薄帯の設置から、巻鉄心の焼鈍までの製造工程を担う部位の概略を示したものである。
【0014】図中、704がロ−ル状アモルファスシ−ト素材、701はアンコイラ装置、702は切断装置、703は矩形成形装置、705、707は積層されたアモルファスシ−ト素材、708は膜厚測定器、709は押出し送り装置、710はカッタ、711は計量器、712は引張り送り装置、713は抑え金具、719は成形中の巻鉄心、720は矩形芯金、725は焼鈍装置、730は焼鈍中の巻鉄心である。
【0015】このような巻鉄心の製造システムにおいて、巻鉄心の製造は、図8に示す手順で行われる。
【0016】すなわち、ロ−ル状アモルファスシ−ト素材704をアンコイラ装置701のリ−ルにセットし(ステップ801)、積層したアモルファスシ−ト素材を押出し送り装置709にセットする。そして、送路や、たるみを検査し(ステップ802)、切断装置702をスタ−トさせる(ステップ803)。
【0017】切断装置702がスタ−トすると、押出し送り装置709と引張り送り装置712は、積層したアモルファスシ−ト素材をカッタ710へ送り(ステップ804、805)、カッタ710は積層したアモルファスシ−ト素材を所定の長さに切断する(ステップ806)。切断された積層アモルファス薄帯は、計量器711上の定位値に送られ計量される(ステップ808)。装置は以上の動作を所定回繰り返し(ステップ809)、アモルファスシ−ト薄帯を複数枚ごとに順次定位値に積層していく。所定量積層したアモルファスシ−ト薄帯は矩形成形装置703への受け渡し位置に送られる(ステップ811、802)。
【0018】矩形成形装置703は、切断装置702より受け取った、積層アモルファス薄帯を抑え金具713を用いて矩形芯金上に固定し(ステップ815)、後述するクランプ材と鉄心支持材を用いて巻鉄心を成形する(ステップ816、817)。
【0019】矩形成形装置703で成形された巻鉄心730は焼鈍装置725に送られ、クランプ材と鉄心支持材と共に磁気焼鈍される(ステップ821)。
【0020】そして焼鈍後、一度巻を開き、図11に示すようにコイルを挿入し、再度巻いて巻鉄心とすることにより変圧器を生成する、次に、前記矩形成形装置703における巻鉄心の成形について説明する。
【0021】図1は、成形した巻鉄心の正面図である。
【0022】図示するように、本実施例では、内側から外側へ積層されたアモルファス磁性薄帯1を所定の形状にアモルファス磁性鉄心1を成形するため、長辺方向のクランプ板2、3と短辺方向のクランプ板4、5を矩形形状に保持し、その外側にアモルファス磁性薄帯を巻付けている。
【0023】しかし、この状態では、アモルファス薄帯間に隙間ができるため、鉄心外側に長辺方向のクランプ板6、7と短辺方向のクランプ板8、9とでアモルファス鉄心1を締付る。そして、外側に取付けたクランプ材6、7、8、9のそれぞれを、対向する内側のクランプ材2、3、4、5との間で、ボルト10、11、12、13、および下部の4本を用いて締め付ける。
【0024】締付は、アモルファス鉄心1の所定占積率(80〜88%)が得られるように締付る。しかし、たとえば、定格75kVA変圧器用のアモルファス鉄心のように大きな巻鉄心を想定すると、重量が170kg〜200kg程度となるため、その程度の締付では、水平に設置した場合、アモルファス鉄心の自重によりアモルファス薄帯間の摩擦力による形状維持が困難となり、鉄心中央部が下の方へずり下がる。
【0025】そこで、本実施例では、これを防止するために、鉄心下端4直線部に鉄心支持材14、15、16、17を設ける。鉄心下端とは焼鈍時に下面となる鉄心端をいう。
【0026】なお、鉄心の大きさによって、鉄心支持材の形状や取り付け個所や個数は任意に調整するのがよい。すなわち、たとえば、短辺方向の支持材16、17を省略するようにしてもよい。
【0027】図2は、成形した巻鉄心の側面図である。
【0028】本実施例では、鉄心支持材14、15、16、17を、始めから外側クランプ材6、7、8、9と一体としている。すなわち、たとえば、図2において、外側クランプ材7と鉄心支持材15、外側クランプ材6と鉄心支持材14とは一体であり、外側クランプ材と鉄心支持材とでL時形を構成している。
【0029】図3は、成形した巻鉄心の下部断面を示す。
【0030】図示するように、鉄心支持材14の径方向の長さは所定の占積率(80〜88%)を得ることのできる長さlとなっている。なお、図3において、外側クランプ材6と鉄心支持材14は溶接等により一体とされている。
【0031】ところで、図4に、第2の実施例として示すように、鉄心支持材18を、外側クランプ材21と内側クランプ材22の間に、はめ込むものとしてもよい。図4(a)は成形した巻鉄心の下部断面を示し、図4(b)は成形した巻鉄心の下部側面を示す。
【0032】また、図5に第3の実施例として示すように、外側クランプ材23と内側クランプ材24を締め付ける締付ボルト14が鉄心1を支える構造としてもよい。図5は成形した巻鉄心の下部断面を示している。
【0033】また、図6に第4の実施例として示すように、ボルトのネジ部分の凹凸の影響を避けるために、外側クランプ材25と内側クランプ材26を締め付ける締付ボルト19の周囲に管状材20を入れて鉄心支持材としてもよい。図6は成形した巻鉄心の下部断面を示している。
【0034】さて、前述したように、このようにして形成した鉄心を焼鈍炉で300〜400℃の所定温度で磁場焼鈍を行う。このようにしてできた巻鉄心は、アモルファス薄帯間で焼付きを起こすことなく、優れた鉄損特性を示すが、鉄心支持材がなく鉄心がずれないように締付た場合(占積率90%以上)と鉄心支持材を設けたクランプ材で締付けた場合(占積率86%)の焼鈍後の鉄損は、10〜15%程度改善される。なお、占積率とは、アモルファス薄帯間のすきまも含めた巻鉄心の容積に対する、アモルファス薄帯の容積の比率をいう。
【0035】また、クランプ材による締付量は、鉄心支持材14で決まるため、締めすぎはなくなる。また、図4に示した構造によれば、クランプと鉄心支持材がそれぞれ平板となるため、保管に場所を取らない。同様に図5R>5に示した構造でもクランプと鉄心支持材がそれぞれ平板となるため、保管に場所を取らない効果が得られる。
【0036】
【発明の効果】以上、本発明によれば、過締状態とすることなしに、積層中央部のたけのこ状の垂れ下がりを防ぐことのできるアモルファス巻鉄心の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係るアモルファス巻鉄心の製造方法によって、成形されたアモルファス巻鉄心の平面図である。
【図2】本発明の一実施例に係るアモルファス巻鉄心の製造方法によって、成形されたアモルファス巻鉄心の正面図である。
【図3】本発明の一実施例に係るアモルファス巻鉄心の製造方法によって、成形されたアモルファス巻鉄心の下部断面図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係るアモルファス巻鉄心の製造方法によって、成形されたアモルファス巻鉄心の下部断面図である。
【図5】本発明の第3の実施例に係るアモルファス巻鉄心の製造方法によって、成形されたアモルファス巻鉄心の下部断面図である。
【図6】本発明の第4の実施例に係るアモルファス巻鉄心の製造方法によって、成形されたアモルファス巻鉄心の下部断面図である。
【図7】アモルファス巻鉄心の製造システムの概略を示した説明図である。
【図8】アモルファス巻鉄心の製造手順を示したフロ−チャ−トである。
【図9】アモルファス巻鉄心の正面図である。
【図10】焼鈍中のアモルファス巻鉄心を示す説明図である。
【図11】従来の製造方法によるアモルファス巻鉄心の下部断面図である。
【図12】アモルファス巻鉄心を用いた変圧器を示す説明図である。
【符号の説明】
1 アモルファス磁性鉄心
2、3、4、5 内側クランプ板
6、7、8、9 外側クランプ板
14、15 鉄心支持材
16、17 鉄心支持材
10、11、12 ボルト
13、19、27、28 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】アモルファス材薄帯を多層に巻回したアモルファス巻鉄心の製造方法であって、巻回したアモルファス材薄帯側面より構成される、アモルファス材薄帯の巻回し軸に垂直な2つの面のうちの一方の面に、鉄心支持材を面に当てて取り付け、鉄心支持材を取付けた面を底面として巻鉄心を励磁焼鈍することを特徴とするアモルファス巻鉄心の製造方法
【請求項2】アモルファス材薄帯を多層に巻回したアモルファス巻鉄心の製造方法であって、巻鉄心の内側に内側クランプ材を取り付け、巻鉄心の外側に外側クランプ材を取り付け、巻回したアモルファス材薄帯側面より構成される、アモルファス材薄帯の巻回し軸に垂直な2つの面のうちの一方の面に、鉄心支持材を面に当てて取り付け、前記内側クランプ材と外側クランプ材間を締め付けることにより巻鉄心を成形し、成形した巻鉄心を励磁焼鈍することを特徴とするアモルファス巻鉄心の製造方法。
【請求項3】請求項記載のアモルファス巻鉄心の製造方法において、前記鉄心支持材は、前記内側クランプ材と外側クランプ材間に、内側クランプ材と外側クランプ材間の距離として所定のアモルファス材薄帯積圧長を確保するように取付けられることを特徴とするアモルファス巻鉄心の製造方法。
【請求項4】請求項1、2または3記載のアモルファス巻鉄心の製造方法において、前記鉄心支持材は、少なくとも巻鉄心脚部に1箇所、取り付けられることを特徴とするアモルファス巻鉄心の製造方法。
【請求項5】請求項2または3記載のアモルファス巻鉄心の製造方法であって、前記鉄心支持材は、前記内側クランプ材もしくは外側クランプ材と一体であって、前記内側クランプ材もしくは外側クランプ材の取り付けと共に取付けられることを特徴とするアモルファス巻鉄心の製造方法。
【請求項6】請求項2または3記載のアモルファス巻鉄心の製造方法において、前記内側クランプ材および外側クランプ材は巻鉄心の取り付け時に対向する嵌合孔を有し、前記鉄心支持材は前記嵌合孔に嵌入して、前記内側クランプ材と外側クランプ材とに架設する部材であることを特徴とするアモルファス巻鉄心の製造方法。
【請求項7】請求項2または3記載のアモルファス巻鉄心の製造方法において、前記鉄心支持材は、前記内側クランプ材と外側クランプ材間を広狭するボルトであって、前記内側クランプ材と外側クランプ材間を締め付けは、前記ボルトを用いて行われることを特徴とするアモルファス巻鉄心の製造方法。
【請求項8】請求項2または3記載のアモルファス巻鉄心の製造方法において、前記鉄心支持材は、前記内側クランプ材と外側クランプ材間を広狭するボルトに差し込まれる管状の部材であって、前記内側クランプ材と外側クランプ材間を締め付けは、前記ボルトを用いて行われることを特徴とするアモルファス巻鉄心の製造方法。
【請求項9】所定長のアモルファス材薄帯を多層に重ねる工程と、多層に重ねたアモルファス材薄帯を巻回しアモルファス巻鉄心を形成する工程と、形成したアモルファス巻鉄心のアモルファス材薄帯側面より構成される、アモルファス材薄帯の巻回し軸に垂直な2つの面のうちの一方の面に、鉄心支持材を面に当てて取り付ける工程と、鉄心支持材を取付けた面を底面として巻鉄心を励磁焼鈍する工程とを含むことを特徴とするアモルファス巻鉄心の製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開平5−217775
【公開日】平成5年(1993)8月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−22368
【出願日】平成4年(1992)2月7日
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)