説明

アリールピラゾール類の製造法

【課題】 従来製法より、収率よくアリールピラゾール類を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 カリウムをカチオン成分とする強塩基又は炭酸セシウムと銅触媒との共存下に極性溶媒中で、式(1):
【化1】


(式中、Xは炭素原子又は窒素原子を表し、R及びRは互いに同じか又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基等を表す。)で示されるヨウ化アリール類と式(2):
【化2】


(式中、R及びRは互いに同じか又は異なって、水素原子又はアルキル基を表す。)で示されるピラゾール類を反応させることを特徴とする式(3):
【化3】


(式中X、R、R、R及びRは前記と同じ。)で示されるアリールピラゾール類の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリールピラゾール類の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
アリールピラゾール類は医薬品、機能性材料等の中間体として有用であることから、その簡便な製造方法が求められている。従来の製造方法としては、銅触媒及び塩基の存在下にアセトニトリル中で、臭化アリール類とピラゾール類とのカップリング反応によって製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、従来製法は収率が65%程度であり、必ずしも工業的に優位な方法とはいえない。
【特許文献1】WO2005-023731
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来製法より、収率よくアリールピラゾール類を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カリウムをカチオン成分とする強塩基又は炭酸セシウム及び銅触媒の存在下に極性溶媒中で、ヨウ化アリール類とピラゾール類をカップリング反応させると収率よくアリールピラゾール類を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は、カリウムをカチオン成分とする強塩基又は炭酸セシウムと銅触媒との共存下に極性溶媒中で、式(1):
【0006】
【化1】

(式中、Xは炭素原子又は窒素原子を表し、R及びRは互いに同じか又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、ニトロ基、シアノ基、アシル基、アリール基又はアルキルオキシカルボニル基を表す。また、R及びRが環上の隣接炭素原子2個のそれぞれと結合しているとき、R及びRは互いに結合して2個の隣接炭素原子と共に環を形成してもよい。)で示されるヨウ化アリール類(以下、ヨウ化アリール類(1)という。)と式(2):
【0007】
【化2】

(式中、R及びRは互いに同じか又は異なって、水素原子又はアルキル基を表す。また、R及びRがピラゾール環の隣接炭素原子2個のそれぞれと結合しているとき、R及びRは互いに結合して2個の隣接炭素原子と共に環を形成してもよい。)で示されるピラゾール類(以下、ピラゾール類(2)という。)を反応させることを特徴とする式(3):
【0008】
【化3】

(式中X、R、R、R及びRは前記と同じ。)で示されるアリールピラゾール類(以下、アリールピラゾール類(3)という。)の製造法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、従来製法より、アリールピラゾール類(3)が収率よく製造できるので、本発明は工業的に有益な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
式(1)及び式(3)中、R及びRで表されるハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素が挙げられる。アルキル基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖状又は分枝鎖状の脂肪族アルキル基、または炭素数4〜6の脂環式アルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等を例示できる。アリール基としては、例えば、置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、ピリジル基、キノリル基及びイソキノリル基等が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、上記アルキル基が有する水素原子を上記アリール基に置換した基が挙げられ、具体的には、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ジフェニルメチル基等を例示できる。アシル基としては、アルキルカルボニル基及びアリールカルボニル基が挙げられる。アルキルカルボニル基が有するアルキル基としては上記アルキル基と同様のものを例示できる。アルキルカルボニル基の具体例としては、例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ブチルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、ヘキシルカルボニル基等を例示できる。また、アリールカルボニル基が有するアリール基は、上記アリール基と同様のものを例示でき、好ましいアリールカルボニル基は、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基並びにこれらが芳香環にアルキル基及びアラルキル基等の置換基を1又は2個有するものが挙げられる。
【0011】
アルキルオキシカルボニル基としては、カルボキシル基が有する水酸基の水素原子を、上記のアルキル基、好ましくは炭素数1〜6の直鎖又は分枝鎖状の脂肪族アルキル基、特に好ましくは炭素数1〜4の直鎖又は分枝鎖状の脂肪族アルキル基に置換したアルキルオキシカルボニル基が挙げられ、具体的には、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、プロピルオキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、tert−ブチルオキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基等を例示できる。
【0012】
また、R及びRが環上の隣接炭素原子2個のそれぞれと結合しているときであって、R及びRは互いに結合して2個の隣接炭素原子と共に環を形成するとき、当該形成される環は、通常4〜7員環、好ましくは5〜6員環であり、芳香族環であってもよい。
【0013】
ヨウ化アリール類(1)の具体例としては、ヨードベンゼン、2−ヨードトルエン、3−ヨードトルエン、4−ヨードトルエン、1−ヨード−2−ニトロベンゼン、1−ヨード−3−ニトロベンゼン、1−ヨード−4−ニトロベンゼン、2−ヨードベンゾニトリル、3−ヨードベンゾニトリル、4−ヨードベンゾニトリル、2−ヨードベンゾトリフルオライド、3−ヨードベンゾトリフルオライド、4−ヨードベンゾトリフルオライド、1−ヨード−2,4−ジニトロベンゼン、1−ヨード−3,5−ジニトロベンゼン、4−ヨードビフェニル、2−ヨードビフェニル、1−ヨードナフタレン、2−ヨードピリジン、3−ヨードピリジン等が挙げられる。
【0014】
式(2)及び式(3)中、R及びRで示されるアルキル基は、上述のアルキル基と同様である。また、R及びRがピラゾール環の隣接炭素原子2個のそれぞれと結合しているときであって、R及びRは互いに結合して2個の隣接炭素原子と共に環を形成するとき、当該形成される環は、通常4〜7員環、好ましくは5〜6員環であり、芳香族環であってもよい。
【0015】
ピラゾール類(2)の具体例としては、ピラゾール、3−メチルピラゾール、4−メチルピラゾール、3−エチルピラゾール、4−エチルピラゾール、3−プロピルピラゾール、4−プロピルピラゾール、3−ブチルピラゾール、4−ブチルピラゾール、3,4−ジメチルピラゾール、3,4−ジエチルピラゾール、3,4−ジプロピルピラゾール、3,4−ジブチルピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3,5−ジエチルピラゾール、3,5−ジプロピルピラゾール、3,5−ジブチルピラゾール、3−メチル−4−エチルピラゾール、3−メチル−4−プロピルピラゾール、3−メチル−4−ブチルピラゾール、3−エチル−4−メチルピラゾール、3−プロピル−4−メチルピラゾール、3−ブチル−4−メチルピラゾール、3−エチル−5−メチルピラゾール、3−メチル−5−プロピルピラゾール、3−ブチル−5−メチルピラゾール、インダゾール等が挙げられる。
【0016】
アリールピラゾール類(3)の具体例としては、1−フェニルピラゾール、1−(o−トリル)−1−ピラゾール、1−(m−トリル)−1−ピラゾール、1−(p−トリル)−1−ピラゾール、1−(2−ニトロフェニル)−1−ピラゾール、1−(3−ニトロフェニル)−1−ピラゾール、1−(4−ニトロフェニル)−1−ピラゾール、2−(ピラゾール−1−イル)ベンゾニトリル、3−(ピラゾール−1−イル)ベンゾニトリル、4−(ピラゾール−1−イル)ベンゾニトリル、2−(ピラゾール−1−イル)−ベンゾトリフルオライド、3−(ピラゾール−1−イル)ベンゾトリフルオライド、4−(ピラゾール−1−イル)ベンゾトリフルオライド、1−(ビフェニル−2−イル)ピラゾール、1−(ビフェニル−4−イル)ピラゾール、1−(2、4−ジニトロフェニル)ピラゾール、1−(3、5−ジニトロフェニル)ピラゾール、1−(ナフタレン−2−イル)ピラゾール、2−(ピラゾール−1−イル)ピリジン、3−(ピラゾール−1−イル)ピリジン、1−フェニル−1−インダゾール等が挙げられる。
【0017】
本発明の製造方法を実施するには、銅触媒及び特定の塩基の存在下に極性溶媒中で、ヨウ化アリール類(1)とピラゾール類(2)とを反応させればよい。このようにすれば、容易にアリールピラゾール類(3)を製造することができる。
【0018】
ヨウ化アリール類(1)及びピラゾール類(2)は市販品を用いることができる。
【0019】
ピラゾール類(2)の使用量は、ヨウ化アリール類(1)1モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは0.8〜5.0モル、好ましくは1.0〜2.0モルである。但し、R及びRのどちらか一つ以上がハロゲン原子の場合は、ヨウ化アリール類(1)1モルに対して、通常0.8〜1.5モル、好ましくは1.0〜1.3モルである。
【0020】
銅触媒としては、例えば臭化銅(I)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(I)、ヨウ化銅(II)、塩化銅(I)、硝酸銅(I)、硝酸銅(II)、硫酸銅(I)、硫酸銅(II)、亜硝酸銅(I)、酸化銅(I)、酢酸銅(I)、酢酸銅(I)、トリフルオロメチルスルホン酸銅(II)、水酸化銅(I)等が挙げられ、好ましくはヨウ化銅(I)である。かかる銅触媒の使用量は、ヨウ化アリール類1モルに対して、通常0.001〜1000ミリモル、好ましくは0.01〜100ミリモルである。
【0021】
特定の塩基としては、カリウムをカチオン成分とする強塩基又は炭酸セシウムが挙げられ、カリウムをカチオン成分とする強塩基の具体例としては、例えば水酸化カリウム、tert−ブトキシカリウム等が例示できる。これらは単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。かかる塩基の使用量は、ヨウ化アリール類(1)1モルに対して、通常0.1〜10モル、好ましくは1〜5モルである。
【0022】
極性溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等の硫黄系溶媒、ニトロベンゼン等の窒素官能基含有芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピコリン等の含窒素複素環系溶媒等が挙げられ、好ましくはアミド系溶媒及び硫黄系溶媒である。ニトリル系溶媒を用いる場合は、塩基としてカリウムをカチオン成分とする強塩基を用いることがより好ましい。かかる溶媒の使用量は特に限定されないが、ヨウ化アリール類1重量部に対して、通常0.1〜1000重量部、好ましくは2〜15重量部である。
【0023】
反応温度は使用する溶媒によって異なるが、通常20〜200℃、好ましくは50〜120℃である。この温度範囲で反応を行えば、通常12時間以内に反応が終了する。
【0024】
本発明の製造方法は、通常窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行われる。
【0025】
反応終了後、得られた反応混合物から、抽出、濃縮、蒸留、再結晶等の所望の分離操作によってアリールピラゾール類(3)を得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。尚、収率はガスクロマトグラフィー分析により算出した。
【0027】
実施例1
アルゴン雰囲気下で、ピラゾール81.7mg(1.2mmol)、水酸化カリウム67.3mg(1.2mmol)及びヨウ化銅(I)19.1mg(0.1mmol)の混合物にヨードベンゼン204.0mg(1mmol)及びジメチルスルホキシド1mLを加え、120℃で12時間反応した。反応終了後、室温まで冷却し、水2mL及び酢酸エチル2mLを加えた後、分液して1−フェニルピラゾールを主成分とする有機層を得た(収率93.4%)。かかる有機層をエバポレーターで濃縮後、クーゲル蒸留を行い、1−フェニルピラゾール118.0mgを得た。
【0028】
実施例2〜7
塩基として実施例1の水酸化カリウムを、極性溶媒として実施例1のジメチルスルホキシドを、並びに反応温度を表1に示すとおりに代えた以外は実施例1と同様にして反応を行い、1−フェニルピラゾールを主成分とする有機層を得た。その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
実施例8
アルゴン雰囲気下で、1H−インダゾール141.7mg(1.2mmol)、水酸化カリウム67.3mg(1.2mmol)及びヨウ化銅(I)19.1mg(0.1mmol)の混合物にヨードベンゼン204.0mg(1mmol)及び無水ジメチルスルホキシド1mLを加え、120℃で12時間反応した。反応終了後、室温まで冷却し、水2mL及び酢酸エチル2mLを加えた後、分液して1−フェニル−1−インダゾールを主成分とする有機層を得た(収率84.5%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリウムをカチオン成分とする強塩基又は炭酸セシウムと銅触媒との共存下に極性溶媒中で、式(1):
【化1】

(式中、Xは炭素原子又は窒素原子を表し、R及びRは互いに同じか又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、ニトロ基、シアノ基、アシル基、アリール基又はアルキルオキシカルボニル基を表す。また、R及びRがベンゼン環の隣接炭素原子2個のそれぞれと結合しているとき、R及びRは互いに結合して2個の隣接炭素原子と共に環を形成してもよい。)で示されるヨウ化アリール類と式(2):
【化2】

(式中、R及びRは互いに同じか又は異なって、水素原子又はアルキル基を表す。また、R及びRがピラゾール環の隣接炭素原子2個のそれぞれと結合しているとき、R及びRは互いに結合して2個の隣接炭素原子と共に環を形成してもよい。)で示されるピラゾール類を反応させることを特徴とする式(3):
【化3】

(式中X、R、R、R及びRは前記と同じ。)で示されるアリールピラゾール類の製造法。
【請求項2】
極性溶媒がアミド系溶媒又は硫黄系溶媒である請求項1に記載の製造法。