説明

アルカリ吸着澱粉を用いた段ボール用接着剤

【課題】澱粉に高度な加工を加えずに安価な加工方法により膨潤反応性に優れ、省熱貼合ができ、従来熱に由来していた反り、バリツキなどの品質劣化を改善でき、かつ接着剤調製時における“ママコ”の発生及び粘度上昇の問題が改善された段ボール用澱粉系接着剤を提供する。
【解決手段】澱粉を水に分散させスラリーとし、アルカリ水溶液を添加して澱粉にアルカリ成分0.25〜11g/kg−絶乾澱粉量を吸着させた澱粉スラリー及び/又はそれを脱水、乾燥した澱粉を用いることを特徴とする段ボール用接着剤;前記段ボール用接着剤を用いて製造した段ボールシート;並びに澱粉を水に分散させスラリーとし、アルカリ水溶液を添加して澱粉にアルカリ成分0.25〜11g/kg−絶乾澱粉量を吸着させた澱粉スラリー及び/又はそれを脱水、乾燥した澱粉を用いることを特徴とする澱粉系接着剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段ボールシートの生産性、生産されたシート品質等にかかわる段ボール用接着剤に関する。更に詳しく述べれば、本発明は、貼合速度の向上と省熱貼合による生産性改善、シート反り改善等のシート品質改善に効果のある段ボール用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
段ボールは、ライナー原紙と波形に成形された中芯原紙とを澱粉系接着剤を用いて貼り合わせて作り、木箱等に代わって梱包資材としてなくてはならないものになっている。段ボールの接着剤に澱粉系接着剤が使われる理由としては、安価で、入手しやすく、天然物で安全性が高いことが挙げられる。そのほかにも、澱粉が水と熱の存在によって容易に膨潤・糊化して、“のり”となり強い接着能を示すことがその理由の一つで、段ボール用接着剤の調製法であるステインホール方式の発明に負うところが非常に大きい。
【0003】
ステインホール方式の接着剤は、アルカリ糊化させたキャリア部と澱粉を水に分散させスラリーにしたメイン部とを混合して調製されるが、キャリア部に含まれるアルカリ成分は、メイン部の澱粉(メイン澱粉)の糊化温度を調節する役割を担っている。
【0004】
ステインホール方式(ツータンクキャリア方式)のほかに接着剤の調製法として、一つのタンクに澱粉スラリーを調製しアルカリを加えて澱粉をアルカリ糊化した後、アルカリ糊液希釈のため水を加え、希釈されたアルカリ糊液にメイン澱粉(未糊化澱粉)を加えて混合するワンタンクキャリア方式;ステインホール方式のキャリア部に相当する澱粉を予めα化(糊化)して、メイン澱粉(未糊化澱粉)と混ぜ合わせた乾燥混合物を調製し、接着剤の調製に際してはこの混合物を水に懸濁し、アルカリを加える調製法のプレミックス方式;更に水に懸濁された澱粉にアルカリを加え、澱粉をアルカリ膨潤させると共に、強い攪拌により一部膨潤澱粉を破壊してキャリア部様とし、所定粘度が得られた段階で過剰なアルカリを中和する目的で硼酸を添加し、膨潤澱粉が崩壊したキャリア部様と膨潤澱粉(メイン部:未糊化澱粉)が共存する接着剤調製法のノーキャリア方式とがある。
【0005】
このように調製された接着剤は、波形に成形された中芯原紙段頂に塗布され、ライナー原紙を重ね合わせて原紙を介して熱が掛けられることによって、メイン澱粉(未糊化澱粉)が糊化して、水分の拡散・蒸散等の乾燥工程を経て接着がなされる。メイン澱粉として使われる澱粉は、未加工澱粉(生澱粉)が主体である。未加工澱粉は、熱を掛けたときの膨潤反応性が鈍く、初期接着力の発現に改善の余地があり、貼合速度(生産性)に与える影響が大きい。膨潤反応性を高めるためにアルカリ成分量を増やすなどの対策が採られるが、接着剤の安定性の面、製造コストの面からその量にも自ずと限界がある。一方、膨潤反応性を促進させるために貼合温度を高く設定して、熱量を補って生産性を挙げる対策も採られるが、貼合速度向上効果が認められるものの、原紙に多量の熱量が掛かり原紙の伸縮を起こしてシートの反りを誘発するほか、過乾燥による“バリツキ”といわれる接着強度の低下が見られる。また、シートの反りについては、生産現場において人力を費やして反り矯正の反転作業が行われ、問題化している。地球温暖化による二酸化炭素排出規制からも使用熱量を補強することは望ましいことではない。
【0006】
本発明の段ボール用接着剤は、メイン澱粉にアルカリ吸着澱粉を使うものであるが、特許文献1に「アルカリ処理澱粉の製造方法」がある。この方法は、アルカリ水溶液に澱粉を分散させ、そのスラリーpHを10〜14に維持し、かつ30〜80℃に加熱してアルカリ処理澱粉を製造すると説明されている。詳しくは、用いられる澱粉を「水」に溶解させないで、アルカリ水溶液に分散させてスラリーとし、加熱してアルカリ処理するとある。このアルカリ処理澱粉と本発明に用いるアルカリ吸着澱粉は、その製法において異なるものである。アルカリ処理澱粉のスラリーpH、加熱温度領域、更にアルカリ水溶液への澱粉分散等の手法を考慮すると、段ボール用接着剤の製法から考えると、澱粉に対するアルカリ処理がハードであるため、接着剤調製時に使うアルカリ成分でこのアルカリ処理澱粉は糊化して、メイン澱粉として使えない。
【0007】
特許文献2に、乾式法を用いて処理したアルカリ処理澱粉をメイン澱粉として用いた段ボール用接着剤が開示されている。澱粉粉体に直接アルカリ水溶液を噴霧して、均一に薬剤を、澱粉に作用させる湿式法と異なり、澱粉表面に不均一にアルカリ成分を作用させる方法であるが、この方法ではアルカリ成分が不均一に付着した部位が“糊化”を起こすため、溶解して接着剤を調製する段階で“ママコ”を発生し易い。更に、アルカリ成分が不均一に付着した“糊化”部位は、接着剤調製時に使用するアルカリ成分の作用を受けて、その部位から膨潤・糊化が優先的に起こり、接着剤の調製時に粘度上昇を起こし使用できないなどの問題がある。
【0008】
また、メイン澱粉の膨潤反応性を高める対応として、メイン澱粉に化工澱粉を使う方法がある。特許文献3には、酸化、酸処理、エーテル化、エステル化等の処理を付して糊化温度を下げ、膨潤反応性を高めた澱粉をメイン澱粉として使用する事例があるが、段ボール用接着剤に使われる澱粉の80%以上は、メイン澱粉で占められることから高価な化工澱粉をメイン澱粉に使うことはコスト高となることからほとんど使用されない。生産性の改善、製品品質向上、省エネなどエコロージーの観点からも、安価な加工法で膨潤反応性の高い澱粉の開発が望まれている。
【0009】
【特許文献1】特開平9−194501号公報
【特許文献2】特開2003−3138号公報
【特許文献3】特開昭58−141268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、澱粉に高度な加工を加えずに安価な加工方法により膨潤反応性に優れ、省熱貼合ができ、従来熱に由来していた反り、バリツキなどの品質劣化を改善でき、かつ接着剤調製時における“ママコ”の発生及び粘度上昇の問題が改善された段ボール用澱粉系接着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために種々検討した結果、メイン澱粉に使用する未糊化澱粉に予め、澱粉を水に分散させスラリーとし、澱粉スラリーにアルカリ水溶液を添加し、澱粉にアルカリ成分を吸着させることによって、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)澱粉を水に分散させスラリーとし、アルカリ水溶液を添加して澱粉にアルカリ成分0.25〜11g/kg−絶乾澱粉量を吸着させた澱粉スラリー及び/又はそれを脱水、乾燥した澱粉を用いることを特徴とする段ボール用接着剤。
(2)澱粉を水に分散させスラリーとし、アルカリ水溶液を添加して澱粉にアルカリ成分0.25〜11g/kg−絶乾澱粉量を吸着させた澱粉スラリー及び/又はそれを脱水、乾燥した澱粉をメイン澱粉として用いることを特徴とする段ボール用接着剤。
(3)接着剤の調製方法がワンタンクキャリア方式、ツータンクキャリア方式、プレミックス方式又はノーキャリア方式である前記(1)又は(2)に記載の段ボール用接着剤。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の段ボール用接着剤を用いて製造した段ボールシート。
(5)澱粉を水に分散させスラリーとし、アルカリ水溶液を添加して澱粉にアルカリ成分0.25〜11g/kg−絶乾澱粉量を吸着させた澱粉スラリー及び/又はそれを脱水、乾燥した澱粉を用いることを特徴とする澱粉系接着剤の製造方法。
(6)澱粉を水に分散させスラリーとし、アルカリ水溶液を添加して澱粉にアルカリ成分0.25〜11g/kg−絶乾澱粉量を吸着させた澱粉スラリー及び/又はそれを脱水、乾燥した澱粉をメイン澱粉として用いることを特徴とする澱粉系接着剤の製造方法。
(7)澱粉系接着剤が段ボール用接着剤である前記(5)又は(6)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、段ボールシートの生産性及び品質を改善することができ、省エネによる地球温暖化防止効果も期待でき、更に、製造手段が簡単で安価な接着剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明のアルカリ吸着澱粉を用いた段ボール用接着剤は、澱粉を水に分散させスラリーとし、このスラリーにアルカリ水溶液を添加して、澱粉にアルカリ成分を吸着させた澱粉スラリー及び/又はそれを脱水、乾燥した澱粉を使用して、前述したワンタンクキャリア方式、ツータンクキャリア方式(ステインホール方式)、プレミックス方式、ノーキャリア方式等で調製する。
【0016】
このように調製されたアルカリ吸着澱粉を用いる本発明の段ボール用接着剤は、メイン澱粉(未糊化澱粉)として未加工澱粉(生澱粉)を使用したときと比べて、膨潤反応性が敏感となり生産性を十分に上げることができるほか、これまで生産性を上げるために過剰に補ってきた熱量を減じて貼合することができる。熱量を減らして貼合できるので、これまで過剰に加えた熱量に起因する原紙の伸縮により生じる“反り”、“バリツキ”を大幅に減少させることができる。
【0017】
本発明に使用する澱粉は、コーンスターチ、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、米澱粉、サゴ澱粉等の生澱粉、それらをエーテル化、エステル化、カチオン化、架橋化、酸化もしくは酸処理した加工澱粉、又はこれらの澱粉の混合物を用いることができるが、本発明に使用するアルカリ吸着澱粉は、接着剤中の澱粉の80%以上を使うメイン澱粉に使用することから、接着剤のコストアップを考えると生澱粉を使用することが好ましい。
【0018】
アルカリ吸着澱粉は、これら澱粉を好ましくは15〜50重量%濃度、更に好ましくは25〜40重量%濃度のスラリーに調製し、好ましくは1〜25重量%濃度、更に好ましくは3〜15重量%濃度のアルカリ水溶液を所定量、攪拌しながらゆっくりと“糊玉”等を発生しないように注意深く澱粉スラリーに添加して、アルカリ成分を吸着させ調製される。澱粉スラリーにアルカリ水溶液を添加する際、スラリー温度を通常25〜50℃、好ましくは40℃前後に保持すると、高いアルカリ吸着効率が得られる。スラリー温度が高すぎるとアルカリ水溶液を添加する間に澱粉が糊化するので好ましくない。このように調製したアルカリ吸着澱粉は、脱水し、乾燥して製造される。また、アルカリ吸着澱粉スラリーを接着剤調製時に調製し、使用することができる。
【0019】
本発明は澱粉の結晶構造を適度に緩めて、メイン澱粉の膨潤反応性を高めて、生産性の向上を図ろうとするものである。アルカリ水溶液を添加して澱粉にアルカリ成分を吸着させると、アルカリ成分は澱粉の結晶構造の中へ浸透し、結晶構造を押し広げ、構造を形成する水素結合を緩める作用をする。結晶構造が緩みすぎた状態が糊化状態であり、糊化した状態になるとメイン澱粉としての機能が低減してしまい使えず、メイン澱粉の機能を十分に発現させるためにも適正アルカリ成分吸着量が存在する。アルカリ成分の吸着量は0.25〜11g/kg−絶乾澱粉量が好ましい。吸着量が0.25g/kg−絶乾澱粉未満であると、メイン澱粉の膨潤反応性に効果なく、11g/kg−絶乾澱粉を超えると澱粉が糊化してしまい好ましくない。澱粉のアルカリ成分吸着量の算出は、澱粉スラリーに添加したアルカリ成分の添加量とアルカリ吸着澱粉スラリーを脱水した濾液中の未吸着アルカリ成分量とから決めることができる。例えば、脱水濾液中の未吸着アルカリ成分を中和滴定で定量する方法がある。本発明においてアルカリ水溶液のために用いられるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属の水酸化物、アンモニア等の水に溶解して水酸基を遊離するものが挙げられるが、工業的にも最も容易に、安価に入手できる水酸化ナトリウムが好ましい。
【0020】
本発明の段ボール用接着剤を使うと、貼合適性が改善でき、高速で貼合することが可能となり生産性を大幅に改善できるほか、地球温暖化の防止の観点に立った省熱貼合も行うことができる。熱量を抑える、すなわち貼合温度を下げて貼合することで熱による原紙の伸縮により”反り”、“バリツキ”による接着強度の低下、貼合不良を大幅に減らせ、製品の品質を改善できる。
【0021】
本発明の段ボールシートは、本発明の段ボール用接着剤を用いて製造されたものであり、波形に成形された中芯と、段ボール用接着剤によって前記中芯の片面又は両面に貼合されたライナーとを有し、前記中芯及びライナーの貼合に、前述した本発明の段ボール用接着剤が用いられていることを特徴とする。
【0022】
本発明の段ボールシートは、段ボールシートの製造で通常使用されるコルゲーターを用いて製造することができる。すなわち、本発明の段ボールシートは、糊ロール及び糊ロールに段ボール用接着剤を付着させる手段を少なくとも有するコルゲーターを用い、波形に成形された中芯の頂縁と糊ロールとを当接させて段頂に段ボール用接着剤を塗布する工程と、中芯の、段ボール用接着剤が塗布された面側にライナーを貼り合わせる工程とを含む段ボールシートの製造方法において、前述した本発明の段ボール用接着剤を用いることにより製造することができる。
【0023】
本発明の段ボールシートは、中芯及びライナーの貼合に本発明の段ボール用接着剤を用いるものであれば特に制限はなく、片面段ボール、両面段ボール、複両面段ボール、複複両面段ボールのいずれをも包含する。
【0024】
本発明の澱粉系接着剤の製造方法は、澱粉を水に分散させスラリーとし、アルカリ水溶液を添加して澱粉にアルカリ成分0.25〜11g/kg−絶乾澱粉量を吸着させた澱粉スラリー及び/又はそれを脱水、乾燥した澱粉を、好ましくはメイン澱粉として、用いることを特徴とするものであり、本発明の製造方法により製造された澱粉系接着剤は、段ボール用接着剤の他、板紙等の層間用接着剤、製紙用接着剤、繊維用接着剤、壁紙用接着剤、ラベル用接着剤等にも使用できる。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、フォードカップ粘度(以下「FCV」という。)、B型粘度、糊化温度、初期接着強度、アルカリアミロ及びアルカリ成分吸着量の測定は以下の方法で行った。
【0026】
(FCVの測定)
FCVは、東洋テスター工業(株)製のフォードカップ(水10秒)により測定した。
(B型粘度の測定)
B型粘度は、東京計器(株)製の回転粘度計(型式:BM型)を用いて60rpmで測定した。
(糊化温度の測定)
糊化温度は、ブラベンダーアミログラフを用いて測定した。すなわち、試料500gをブラベンダーカップに取り、カートリッジ750cm−g、回転数100rpm、昇温速度1.5℃/分の条件で測定し、測定中の最低粘度から、粘度が500BU上昇した時の温度を糊化温度とした。
【0027】
(初期接着強度の測定)
初期接着強度は、5×8.5cmの大きさに裁断した片面段ボール(原紙構成:ライナー王子NRK−280/中芯北陽MM−180)に、ロールコーターで絶乾5g/mになるように段ボール用接着剤を均一に塗布し、それをロードセルのついたピンアタッチメントにセットして、その上から5×8.5cmの大きさのライナー(王子NRK−280)を重ね合わせ、135℃に加熱した熱板(大きさ:42.5cm、自重:1.5kg)を乗せて5秒間圧着後、直ちにライナーと片面段ボールを剥がし、その時の剥離強度を初期接着強度とした。
【0028】
(アルカリアミロの測定)
アルカリアミロの測定は、500ml容のビーカーに澱粉125g絶乾量を取り、これに蒸留水を加え全量300gとする。別に蒸留水180gに25重量%水酸化ナトリウム水溶液10mlを取りよく分散させた。先のビーカー内の澱粉スラリーを撹拌しながら、その中へ希釈した水酸化ナトリウム水溶液を加えた。ブラベンダーカップにこのスラリーを移し全内重量を500gとした。これをブラベンダー粘度計にセットして、25℃より1.5℃/分の昇温速度で44℃まで加熱し、44℃に到達したら500BUの粘度が発現するまでアルカリアミログラムを描かせた。その時の25℃より20BU粘度発現までの時間を測定してアルカリアミロとした。
【0029】
(アルカリ成分吸着量の測定)
澱粉スラリーに水酸化ナトリウム水溶液を添加し、アルカリ成分を吸着させた後、澱粉スラリーを脱水して濾液量、澱粉量(含水量を求めておく)を測定した。濾液を5〜50mlサンプリングして、0.1N塩酸で中和して濾液中の水酸化ナトリウム量をもとめた。澱粉スラリーの添加した水酸化ナトリウム量、脱水濾液量、澱粉量をもとに吸着量を求めた。
【0030】
実施例1
40重量%濃度のコーンスターチスラリーを5L容のポリバケツに3kg取り、撹拌機(新東科学工業製スリーワンモーター)で撹拌しながら40℃に保温し、このスラリーに3重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液21.4gを滴下し、1時間攪拌した。このときのpHを測定したところ5.9であった。直ちに吸引濾過し、得られた脱水ケーキを熱風乾燥して、アルカリ吸着澱粉を得た。濾液中の水酸化ナトリウム量を中和滴定してアルカリ吸着を算出すると0.54g/kg−絶乾澱粉であった。このアルカリ吸着澱粉のアルカリアミロを測定したところ、18.0分であった。そして、このアルカリ吸着澱粉を用いて、ワンタンクキャリア方式で接着剤を調製した。3L容のステンレスジョッキに35℃の水624gを取り、径40mmのディスパー羽根を持った撹拌機(特殊機化工業(株)製T.Kロボミックス)で、4500rpmの回転数で撹拌しながら、コーンスターチ60.5gを分散させ、これに25重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液48gを添加し15分間撹拌しキャリア糊調製後、35℃の水990gを加え、続いてメイン澱粉としてこのアルカリ吸着澱粉489.5gを加え、更に硼砂11.0gを加えて15分間撹拌を続け、ワンタンクキャリア方式の段ボール用接着剤を調製した。調製した接着剤についてFCV、B型粘度、糊化温度、初期接着強度を測定し、その結果を表1に示した。
【0031】
比較例1
実施例1のコーンスターチスラリーに3重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を添加しないほかは実施例1と同様に操作して比較用のコーンスターチを得た。このコーンスターチスラリーのpHを測定したところ4.4であった。この比較用のコーンスターチのアルカリアミロを測定したところ、22.2分であった。更に、実施例1と同様にこの比較用のコーンスターチをメイン澱粉に使ってワンタンクキャリア方式の段ボール用接着剤を調製した。そのFCV、B型粘度、糊化温度、初期接着強度を測定し、その結果を表1に示した。
【0032】
実施例2
実施例1の3重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液の滴下量34.3gにしてアルカリ吸着澱粉を製造した以外は、実施例1と同様に操作した。このとき得られたアルカリ吸着澱粉のアルカリ吸着量は、0.86g/kg−絶乾澱粉であった。また、水酸化ナトリウム水溶液の滴下後のpHを測定したところ7.1であった。更に、このアルカリ吸着澱粉のアルカリアミロの測定したところ17.3分であった。このアルカリ吸着澱粉をメイン澱粉に用い調製したワンタンクキャリア方式の段ボール用接着剤のFCV、B型粘度、糊化温度、初期接着強度を測定し、その結果を表1に示した。
【0033】
実施例3
実施例1の3重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液の滴下量48.2gにしてアルカリ吸着澱粉を製造した以外は、実施例1と同様に操作した。このとき得られたアルカリ吸着澱粉のアルカリ吸着量は、1.21g/kg−絶乾澱粉であった。また、水酸化ナトリウム水溶液の滴下後のpHを測定したところ8.1であった。更に、このアルカリ吸着澱粉のアルカリアミロの測定したところ16.2分であった。このアルカリ吸着澱粉をメイン澱粉に用い調製したワンタンクキャリア方式の段ボール用接着剤のFCV、B型粘度、糊化温度、初期接着強度を測定し、その結果を表1に示した。
【0034】
実施例4
実施例1の3重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液の滴下量67.8gにしてアルカリ吸着澱粉を製造した以外は、実施例1と同様に操作した。このとき得られたアルカリ吸着澱粉のアルカリ吸着量は、1.69g/kg−絶乾澱粉であった。また、水酸化ナトリウム水溶液の滴下後のpHを測定したところ8.7であった。更に、このアルカリ吸着澱粉のアルカリアミロの測定したところ15.5分であった。このアルカリ吸着澱粉をメイン澱粉に用い調製したワンタンクキャリア方式の段ボール用接着剤のFCV、B型粘度、糊化温度、初期接着強度を測定し、その結果を表1に示した。
【0035】
実施例5
実施例1の3重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液の滴下量91.0gにしてアルカリ吸着澱粉を製造した以外は、実施例1と同様に操作した。このとき得られたアルカリ吸着澱粉のアルカリ吸着量は、2.27g/kg−絶乾澱粉であった。また、水酸化ナトリウム水溶液の滴下後のpHを測定したところ9.7であった。更に、このアルカリ吸着澱粉のアルカリアミロの測定したところ13.2分であった。このアルカリ吸着澱粉をメイン澱粉に用い調製したワンタンクキャリア方式の段ボール用接着剤のFCV、B型粘度、糊化温度、初期接着強度を測定し、その結果を表1に示した。
【0036】
実施例6
実施例1の3重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液の滴下量153gにしてアルカリ吸着澱粉を製造した以外は、実施例1と同様に操作した。このとき得られたアルカリ吸着澱粉のアルカリ吸着量は、3.82g/kg−絶乾澱粉であった。また、水酸化ナトリウム水溶液の滴下後のpHを測定したところ10.5であった。更に、このアルカリ吸着澱粉のアルカリアミロの測定したところ12.2分であった。このアルカリ吸着澱粉をメイン澱粉に用い調製したワンタンクキャリア方式の段ボール用接着剤のFCV、B型粘度、糊化温度、初期接着強度を測定し、その結果を表1に示した。
【0037】
実施例7
実施例1の3重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液の滴下量238gにしてアルカリ吸着澱粉を製造した以外は、実施例1と同様に操作した。このとき得られたアルカリ吸着澱粉のアルカリ吸着量は、10.5g/kg−絶乾澱粉であった。また、水酸化ナトリウム水溶液の滴下後のpHを測定したところ11.1であった。更に、このアルカリ吸着澱粉のアルカリアミロの測定したところ10.8分であった。このアルカリ吸着澱粉をメイン澱粉に用い調製したワンタンクキャリア方式の段ボール用接着剤のFCV、B型粘度、糊化温度、初期接着強度を測定し、その結果を表1に示した。
【0038】
比較例2
実施例1の3重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液の滴下量470gにしてアルカリ吸着澱粉を製造した以外は、実施例1と同様に操作した。このとき得られたアルカリ吸着澱粉のアルカリ吸着量は、13.8g/kg−絶乾澱粉であった。また、水酸化ナトリウム水溶液の滴下後のpHを測定したところ11.5であった。更に、このアルカリ吸着澱粉のアルカリアミロの測定したところ8.5分であった。しかし、このアルカリ吸着澱粉をメイン澱粉に用いワンタンクキャリア方式の段ボール用接着剤を調製したが、正常な接着剤が得られなかった。
【0039】
実施例8
実施例2で製造したアルカリ吸着澱粉205g、α澱粉(王子コーンスターチ(株)製)40g、硼砂5gを予め混合し、プレミックス澱粉を調製した。1L容のステンレスジョッキに35℃の水716gをとり、撹拌しながら先に調製したプレミックス澱粉をα澱粉の“ママコ”が発生しないように注意深く分散させ、撹拌回転数を600rpmにしてから15重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液40.2gを、15分時間をかけて投入し、投入終了から15分更に撹拌してプレミックス方式の接着剤を調製した。プレミックス方式の段ボール用接着剤のFCV、B型粘度、糊化温度、初期接着強度を測定し、その結果を表1に示した。
【0040】
比較例3
比較例1で製造した比較用のコーンスターチを実施例8に使用したアルカリ吸着澱粉の代わりに使用した以外は、実施例8と同様にプレミックス澱粉を調製し、更にプレミックス方式の接着剤を調製し、評価した。プレミックス方式の段ボール用接着剤のFCV、B型粘度、糊化温度、初期接着強度を測定し、その結果を表1に示した。
【0041】
実施例9
3L容ステンレスジョッキに35℃の水1461gをとり、径77mmのタービン型翼を2枚(間隔5cm)を持った撹拌機で、600rpmの回転数で撹拌しながら、実施例2で製造したアルカリ吸着澱粉を分散させ、これにノークロス粘度計を設置して、25重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液52gを1分間で滴下し、ノークロス粘度計の設定粘度5秒まで粘度発現するのを待って、設定粘度5秒に達したと同時に硼酸7.0gを加え、その後15分間撹拌を続け、ノーキャリア方式の段ボール用接着剤を調製した。ノーキャリア方式の段ボール用接着剤のFCV、B型粘度、糊化温度、初期接着強度を測定し、その結果を表1に示した。
【0042】
比較例4
実施例9で使用したアルカリ吸着澱粉の代わりに比較例1で製造した比較用のコーンスターチを用いた以外は、実施例9と同様にノーキャリア方式の段ボール用接着剤を調製し、評価した。ノーキャリア方式の段ボール用接着剤のFCV、B型粘度、糊化温度、初期接着強度を測定し、その結果を表1に示した。
【0043】
実施例10
実施例2で調製したワンタンクキャリア方式の接着剤を用いて、貼合温度105℃で接着強度評価を実施した。初期接着強度の測定結果を表2に示した。
【0044】
比較例5
比較例1で調製したワンタンクキャリア方式の接着剤を用いて、貼合温度105℃で接着強度評価を実施した。初期接着強度の測定結果を表2に示した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から、本発明の段ボール用接着剤を使うと初期接着力が改善されて、生産性改善の指標となる接着指数も良好であることがわかる。
【0047】
【表2】

【0048】
表2は、本発明の段ボール用接着剤が、接着機能を発現するにあたり、熱に対する反応が敏感であることを示している。
【0049】
比較例6
未加工コーンスターチ7kgをレディゲミキサーに入れ、撹拌しながら25重量%の水酸化ナトリウム水溶液を350g(アルカリ成分として87.5g)噴霧し、噴霧後、70℃で30分間乾燥してアルカリ処理澱粉を得た。手で触れると粉以外に小さな粒粒が存在していた。この澱粉を実施例8のアルカリ吸着澱粉の替わり使い、実施例8と全く同様にプレミックス方式の接着剤を調製したが、調製中に“ママコ”の発生が見られ、接着剤粘度も上昇し測定不能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉を水に分散させスラリーとし、アルカリ水溶液を添加して澱粉にアルカリ成分0.25〜11g/kg−絶乾澱粉量を吸着させた澱粉スラリー及び/又はそれを脱水、乾燥した澱粉を用いることを特徴とする段ボール用接着剤。
【請求項2】
澱粉を水に分散させスラリーとし、アルカリ水溶液を添加して澱粉にアルカリ成分0.25〜11g/kg−絶乾澱粉量を吸着させた澱粉スラリー及び/又はそれを脱水、乾燥した澱粉をメイン澱粉として用いることを特徴とする段ボール用接着剤。
【請求項3】
接着剤の調製方法がワンタンクキャリア方式、ツータンクキャリア方式、プレミックス方式又はノーキャリア方式である請求項1又は2記載の段ボール用接着剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の段ボール用接着剤を用いて製造した段ボールシート。
【請求項5】
澱粉を水に分散させスラリーとし、アルカリ水溶液を添加して澱粉にアルカリ成分0.25〜11g/kg−絶乾澱粉量を吸着させた澱粉スラリー及び/又はそれを脱水、乾燥した澱粉を用いることを特徴とする澱粉系接着剤の製造方法。
【請求項6】
澱粉を水に分散させスラリーとし、アルカリ水溶液を添加して澱粉にアルカリ成分0.25〜11g/kg−絶乾澱粉量を吸着させた澱粉スラリー及び/又はそれを脱水、乾燥した澱粉をメイン澱粉として用いることを特徴とする澱粉系接着剤の製造方法。
【請求項7】
澱粉系接着剤が段ボール用接着剤である請求項5又は6記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−284562(P2007−284562A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113431(P2006−113431)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000122243)王子コーンスターチ株式会社 (17)
【Fターム(参考)】