アルカリ電池とその製造法およびアルカリ電池を用いた応用製品
【構成】 最外層が亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属によりコーティングされた集電体を用い、さらに電解液または負極活物質中にインジウム化合物、酸化鉛、アルカリ土類金属の水酸化物、ポリオキシエチレンアルキルアミドから選ばれるインヒビターを添加することにより、水素ガス発生を押さえ、電池特性の劣化を防止することのできるアルカリ電池。
【効果】 本発明によると、電池特性を劣化させることなく水素の発生を抑制したアルカリ電池を作製することが出来る。特にガス発生に対し敏感で高性能の要求されるコイン型、ボタン型のアルカリ電池に対して有効である。また、本発明の集電体への亜鉛合金めっきを3μm以上とし、時計などの微小放電用に用いれば、こう化亜鉛を用いた電池同等もしくはそれ以上の容量が達成できる。さらに、本発明のアルカリ電池を搭載した時計が廃棄されても、公害物質である水銀を含まないため環境を汚染することはない。
【効果】 本発明によると、電池特性を劣化させることなく水素の発生を抑制したアルカリ電池を作製することが出来る。特にガス発生に対し敏感で高性能の要求されるコイン型、ボタン型のアルカリ電池に対して有効である。また、本発明の集電体への亜鉛合金めっきを3μm以上とし、時計などの微小放電用に用いれば、こう化亜鉛を用いた電池同等もしくはそれ以上の容量が達成できる。さらに、本発明のアルカリ電池を搭載した時計が廃棄されても、公害物質である水銀を含まないため環境を汚染することはない。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、無水銀亜鉛粉末を負極活物質とし、正極活物質として、酸化銀、二酸化マンガン、酸素等を用いるアルカリ電池およびアルカリ電池を用いた時計に関するものである。
【0002】
【従来の技術】アルカリ電池に用いられる亜鉛粉末は、アルカリである電解液により腐食溶解され、それに伴う水素ガス発生や電池性能における自己放電が大きいといった課題があった。また、亜鉛と接触する銅等の集電体により電池を形成しそこからも水素ガスが発生していた。従来、これを防ぐ対策として、亜鉛を水素過電圧の高い水銀でこう化したり、電解液に酸化亜鉛を飽和近くまで加えることが行われていた。
【0003】しかし、近年使用済みの乾電池からの水銀による環境汚染が懸念されるようになり、種々の低水銀、無水銀化のための研究が行われるようになってきた。亜鉛を合金化したり、集電体をめっきしたり、電解液に無機有機のインヒビターを加えたりすることがそれである。
【0004】亜鉛を合金化することは、かなり以前から行われておりビスマス、インジウム、鉛等の金属が検討されてきた。特許としても数多く出願されており、例えば、公25−27822、公33−3204、公63−3942、開1−10861等がある。
【0005】無機インヒビターとしては、インジウム化合物である酸化インジウム、水酸化インジウムが多く研究され、特許としても数多く出願されている。例えば、特公昭51−36450、特開昭49−93831、特開昭49−112125、特開昭59−186255、特開昭59−186256、特開平4−26061がそれである。アルカリ土類金属の化合物を用いものには開49−8727、開49−93831、開49−121926等がある。有機インヒビターとしては開2−86064、開−3−29270等がある。
【0006】一方、集電体においては表面を水素過電圧の高いインジウムやスズをめっきなどの方法でコーティングし、亜鉛との接触による電池の形成を阻止し水素発生を抑えることが行われていた。特許としては、開52−74834、開52−98929、開60−221958、公52−42211等がある。
【0007】従来、このように個々の技術として検討されてきたが、水銀という強力な防食剤があったため、それぞれの技術の特性を理解し組み合わせによる最適化ということあまり行われなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】亜鉛の腐食溶解を防ぐために加えられる水銀は、コスト的に高いばかりでなく、環境を汚染するという大きな問題を含んでいる。また、酸化亜鉛の添加も電解液の粘度を高め伝導率を低下させるという課題を含んでいる。
【0009】無機インヒビターとしての酸化インジウム、水酸化インジウムも多くの問題を含んでいる。酸化インジウムはかせいアルカリである電解液への溶解が極めて悪く、亜鉛粉末や集電体との接触により水素ガスを発生してしまう。これは、酸化インジウムの溶解性が悪く、亜鉛表面や集電体表面を十分に被覆するだけのインジウムイオンを供給できないことと、製造上の不可避不純物により導電性をもってしまった酸化インジウムが亜鉛や集電体と接触し局部電池を形成してしまったためと考えられる。
【0010】水酸化インジウムは酸化インジウムに比べると多少かせいアルカリの電解液に溶解し、その溶解性は、粒子の大きさや結晶性に関係するといわれるが、硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、塩化インジウム等のインジウム化合物に比べると極めて溶解しにくい。そのため、酸化インジウムと同様の課題を生じる。また、両性金属であるインジウムは、水酸化イオンとポリイオンを生じ(無機化学シリーズ7 配位立体化学 著者 新村陽一 発行所 株式会社倍風館 65〜66記述と類似のもの)電解液の粘度を増大するため、電解液の伝導度を落とし電池性能を低下させる。
【0011】電解液に溶解し易いインジウム化合物をインヒビターとして用いることは、従来の溶けにくいインヒビターを用いる場合よりかなりの効果が認められる。しかし、さらにインジウム化合物の特性を活かすには以下のような問題点も解決する必要がある。
【0012】亜鉛の電極電位は、インジウムの析出電位より低いため、インジウムイオンが電解液中に存在すると、亜鉛および亜鉛と接触している集電体上にインジウムが金属として析出する。しかし、インジウムの析出反応に伴い競争反応として水素発生を伴うため、アルカリ電池の液漏れや膨らみといった不良の発生原因となっていた。また、析出しなかったインジウムイオンが水酸化物として沈澱し電解液の導電率を低下させるという問題点があった。
【0013】インジウム化合物の他には、スズ、鉛といった水素過電圧の比較的高い金属の化合物がインヒビターとして用いられているが次のような課題点があった。これらの金属の金属化合物から電解液に供給される金属イオンは亜鉛や集電体表面で還元され金属として析出する。しかし、一種類の金属で表面を覆うと結晶粒が粗大化し、均一に表面を覆うことが出来ず効果が半減してしまう。単一の金属で水素発生を抑えて、しかも放電特性も向上させるということは困難である。また、インジウムなどの化合物は高価であるため、1種だけで使用するとコスト的に高価になる。
【0014】亜鉛の腐食溶解は、亜鉛自体がアルカリ液中の水や水酸基により侵される場合と、亜鉛より貴である集電体の銅や真鍮等の金属との接触により局部電池を形成し溶解してしまうことが考えられる。 そこで、亜鉛に水素過電圧の高い金属を添加し合金化し、腐食溶解を抑制しようという試みが最も多くなされてきた。特にインジウムを加えた場合はその効果が顕著に表れることが知られている。インジウムを例えば400ppm以上と比較的高濃度に加えた亜鉛を用いた場合は、集電体の銅等の接触によりインジウムや亜鉛の一部が一旦溶け出す。次に溶け出したインジウムイオンが集電体上に析出し、インジウムの膜を集電体上に形成するという機構により亜鉛の腐食溶解が抑制されることが考えられる。しかし、亜鉛と集電体の接触の初期においては、集電体上で還元されるインジウムイオンの量が極めて少ないため、水素が還元され水素ガスが発生してしまうという問題点があった。
【0015】亜鉛や集電体を亜鉛より貴な金属の化合物であるインヒビターにより腐食溶解を抑制しようという試みが最も多くなされてきた。しかし、従来の鉄などの不純物の多い亜鉛では、インヒビターを多く用いなければならず、例えば医薬用外劇物で公害物質に成り得る一酸化鉛などを多くいれなければ亜鉛の腐食溶解を抑制することができなかった。さらに、一酸化鉛やインジウム化合物を多くいれると針状結晶が析出し、セパレーターを突き破り短絡を起こしてしまう問題点もあった。
【0016】次に課題をアルカリ電池の中のコインまたはボタン型酸化銀電池に絞って考えると、コインまたはボタン型酸化銀電池は、汞化亜鉛を用いてきたため、水素ガス発生、自己放電等の課題を免れたといっても過言ではない。近年、亜鉛粉末への添加剤、セパレータ、シール剤の改良、ゲル化剤の変更等の努力により、筒型のアルカリ電池は無水銀化されてきた。しかし、構造的に水素ガスの逃げ場のないコインまたはボタン型酸化銀電池では、ガス圧により膨らみや液漏れが起こったり、自己放電等の課題がありの無水銀化は達成されていない。
【0017】ここまで、従来のインヒビターや電池の水分量におけるの問題を記してきた。これらの改良により、アルカリ電池特性はかなり改良できる。しかし、水銀を取り除いた穴を埋めるまでには至っていない。さらに、改善するための課題について以下に記す。
【0018】従来の無機インヒビターだけを用いた場合、実際の電池では電解液の量はかなり少ないため集電体上に均一にインヒビターが行き渡らず金属コーティングされなかったり、負極合剤と集電体の間に気泡があるとそこだけ全く金属コーティングがなされない場所もできてしまうという問題があった。
【0019】集電体をインジウムやスズなどの金属で作製することあるいは、これらの金属でめっきすることはかなり有効な手段である。しかし、スズを用いた場合は、銅の集電体を用いた場合よりは水素ガス発生を抑制できるが、水銀を用いた場合に匹敵するほどの効果は得られていない。
【0020】インジウムを用いた場合は、スズより確かに効果は大きいものの原料が高価でコストアップになってしまうという問題点があった。めっきのインジウムでは、つきまわりが悪く、均一な膜にならなかったり、表面に不純物が残ってしまい効果が薄れてしまうという問題点があった。
【0021】また、金属をコーティングした集電体だけでインヒビターを用いない場合は、放電途中で保存した場合の水素ガス発生への対策が不十分であるという問題があった。さらに、従来効果のあるとされている有機インヒビターであるフッ化炭素・ポリオキシエチレン系やポリオキシエチレンアルキルアミド等を用いても十分な自己放電低下阻止を確保することはできなかった。
【0022】つまり、従来のそれぞれの防食法では十分な効果が得られないという問題点があることがわかった。それぞれのインヒビターの役割を再考察した結果、亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属をコーティングした集電体と各種インヒビターと併用することによりさらによい効果が表れることを見いだした。
【0023】さらに高容量を目指すには、水銀がなくなったことによる電池容量の低下を補わなければならないという課題がある。筒型アルカリ乾電池においては、活物質である亜鉛粉末を増加することが行われているが、スペース的に余裕のないボタン型またはコイン型アルカリ電池ではそれがほとんど不可能であるという問題点があった。
【0024】一方、水銀を含むアルカリ電池を搭載した時計と言う視点でみると、電池交換においては水銀を含む電池は小売り店で回収されるが、時計本体が廃棄されると公害物質である水銀も捨てられるという問題点があった。特に、近年の時計の低価格化に伴い、電池の寿命切れで廃棄させる時計の数が増加する可能性がある。
【0025】
【課題を解決するための手段】電解液または負極活物質中に硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、塩化インジウム等のインジウム化合物をインヒビターとして添加し、インジウムイオンを亜鉛や集電体を覆うに十分な量を電解液中に存在させれば、インジウムを亜鉛および負極集電体にすみやかに析出させることが出来る。水素過電圧が大きいインジウムで亜鉛および集電体を覆うことにより、これらの腐食溶解を防ぐことが出来る。
【0026】さらに、これらのインヒビターを効果的に活用するために、予め電解液に錯化剤を添加し、インジウム化合物の溶解により生成するインジウムイオンを錯化することにより、インジウム析出時の水素発生や析出しなかったインジウムが水酸化物として沈澱し電解液の導電率を低下させるという課題を解決できる。
【0027】一種類の金属の化合物だけのインヒビターを用いることによる問題は、電解液または負極活物質中にインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる2種以上の化合物を添加し、これらの化合物に含まれる金属を合金として亜鉛および負極集電体に析出させるさせることにより解決できる。単一の金属被膜だけでは得られない特性を2種以上の金属を析出させることにより得られる。
【0028】インジウムを比較的高濃度に加えた亜鉛を用いた場合は、亜鉛から溶け出したインジウムイオンが集電体上に析出し、インジウムの膜を集電体上に形成するという機構により亜鉛や集電体の腐食溶解が抑制されることが考えられる。しかし、亜鉛と集電体の接触の初期においては、集電体上で還元されるインジウムイオンの量が極めて少ない。そのため、電解液または負極活物質中に亜鉛より貴なインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物をインヒビターとして添加し、金属イオンを亜鉛や集電体を覆うに十分な量を電解液中に存在させれば、鉛を亜鉛および負極集電体にすみやかに析出させることができ、水素発生を抑制することができる。この場合、亜鉛粉末中のインジウムの量にもよるがインヒビターの添加量は、亜鉛粉末に対し10〜1000ppm程度が好ましい。添加量が少ないと亜鉛や集電体を十分に被覆することができないし、添加量が多すぎる場合は、針状結晶がセパレーターを貫通し短絡を引き起こすという弊害がある。
【0029】鉄の含有率が亜鉛重量に対し4ppm以下である無水銀亜鉛粉末を用い、電解液または負極活物質中にインヒビターとして亜鉛より貴なインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物を添加し、イオンを亜鉛や集電体を覆うに十分な量を電解液中に存在させれば、亜鉛より貴な金属の被膜を亜鉛および負極集電体にすみやかに析出させることができ、亜鉛の腐食溶解およびそれに伴う水素発生を抑制することができる。この場合、インヒビターの添加量は、亜鉛粉末に対し10〜1000ppm程度が好ましい。添加量が少ないと亜鉛や集電体を十分に被覆することができないし、針状結晶がセパレーターを貫通し短絡を引き起こすという弊害がある。
【0030】負極活物質に水素過電圧を高める効果や粉末作製時に粒形を整える効果があるといわれるガリウム、インジウム、鉛、ビスマス、アルミニウム、カルシウム等の金属を少なくとも一種以上含む無水銀亜鉛を用い、水酸化カリウム系の電解液の場合は電池内の水の量が無水銀亜鉛重量1mgあたり0.31〜0.57mg(または、常温で0.31〜0.57μL)、水酸化ナトリウム系の電解液の場合は電池内の水の量が無水銀亜鉛重量1mgあたり0.32〜0.59mg(または、常温で0.32〜0.59μL)とすることにより、ガス発生量が0.03μL/g/day以下かつ自己放電率が4%/年以下であるコインまたはボタン型酸化銀電池を製造することができる。
【0031】さらに、水銀を含有する電池性能に近づけるためには、種々の技術を組み合わせて用いる必要がある。インジウム、鉛、ビスマス、カルシウム、アルミニウム等の金属を添加した無水銀亜鉛合金粉末と電池内の水分を保つためのゲル剤を負極合剤とし、最外層が亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属によりコーティングされた集電体を用い、さらに電解液または負極活物質中にインジウム化合物、酸化鉛、アルカリ土類金属の水酸化物、ポリオキシエチレン基を持つ界面活性剤から選ばれるインヒビターを添加することにより、水素ガス発生が少なく電気特性の良好な電池を得ることができる。
【0032】特に、集電体のコーティングにおいては、必須元素として亜鉛を含み、選択元素としてインジウム、鉛、スズから選ばれる1種以上を含む合金層を設けることにより、水素ガス発生を抑制でき、しかもコスト的に有利なアルカリ電池を提供することができる。
【0033】さらに、水銀をなくしたことで自己放電が増加し容量が低下するという問題があるが、ある程度集電体の亜鉛合金層を厚くすることにより、電池缶内のスペースをあまり変化させずに電池の容量を増加することができる。
【0034】
【作用】硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、塩化インジウム等のインジウム化合物は濃厚かせいアルカリ溶液で溶解し、めっきで言うカソード還元可能なアルカリ錯イオンを形成する。
【0035】インジウムのアルカリ錯イオンは、自己の還元電位より低い電位を示す亜鉛表面還元されインジウムが金属としてすみやかに析出する。また、銅等の集電体は亜鉛と接触しているため、亜鉛と同じ電位になり、インジウムが同様に析出する。初期的に亜鉛および集電体表面がインジウムで覆われると、表面は総てインジウムの電位となり電気化学的な駆動力が失われるため、それ以上インジウムは析出しなくなる。しかし、放電により新たに亜鉛面が露出すれば、アルカリ錯イオンとして存在するインジウムが速やかに還元され析出する。
【0036】インジウム化合物のインヒビターは錯化剤を加えることによりさらに効果的に機能する。インジウムのアルカリ錯イオンや水和したインジウムイオンは不安定であるため、錯化剤がないと沈澱して電解液に溶けなかったり、溶けても僅かな環境の変化により水酸化物として沈澱したり、ポリイオン(無機化学シリーズ7配位立体化学 著者 新村陽一 発行所 株式会社倍風館 65〜66記述と類似のもの)として粘凋溶液に変化しやすいためである。また、インジウムのアルカリ錯イオンや水和したインジウムイオンは、不安定で析出電位は低いが電位の範囲が広く析出時に水素ガス発生も誘起されてしまう。そのため、酒石酸塩やEDTAで錯化すれば、安定な錯イオンとなりインジウムの析出電位の範囲を狭くでき、しかも水素の析出電位から分離することができ、水素発生を伴わずインジウムだけを析出することが出来る。
【0037】インジウム以外に、スズや鉛も、亜鉛よりイオン化傾向が小さいため、電解液中にこれらの金属のイオンを存在させれば、亜鉛表面にこれらの金属を析出させることが出来る。また、集電体は亜鉛と接触しているため、亜鉛と同じ電位になり、前記の金属が析出する。インジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛等を混ぜることにより、腐食溶解がさらに抑えられることの作用は定かではないが次のようなことが考えられる。
【0038】ひとつは、これらの金属が亜鉛や集電体上に析出するさいに合金化が起こるのではないかということである。合金化は、析出金属の結晶を微細化し、均一な欠陥のない膜で亜鉛および集電体の表面を覆う。例えば、インジウム−スズの合金であれば、アトミック%で約50:50の共晶点付近の組成を狙えば結晶は微細化する。3元系の合金であれば結晶はさらに複雑化し、結晶粒が粗大化するのを阻止するため均一な膜が得られやすくなる。
【0039】もうひとつは、それぞれの金属の持つ特性が混ぜることにより同時に活かせることである。特に、鉛においては、単独に用いると針状結晶が析出し、亜鉛や集電体の表面を均一に覆うことが出来ず、効果がそれほどでない。しかし、電池組立時にインジウム化合物や4価のスズ含むスズ化合物含む電解液を先にいれ、次に酸化鉛を含む電解液をいれると、亜鉛や集電体は比較的均一な膜を形成するインジウムやスズ覆われ次に鉛の針状結晶を有する膜で覆われる。均一なインジウムやスズの膜は、亜鉛や集電体の腐食溶解を抑制し、針状結晶を有する鉛の膜は亜鉛や集電体の電気的なコンタクトを強め、耐衝撃性や放電特性を高める。
【0040】純亜鉛等の水素発生の大きい負極活物質では、表面での金属の析出と競争反応として起こる水素発生のため均一の膜ができにくく、析出金属の効果が少なくなる。そのため、亜鉛にインジウム、ビスマス、鉛、アルミニウム、カルシウム、ガリウム等を加え、ある程度水素発生を抑制した負極活物質を用いた法が効果的である。
【0041】亜鉛に水素過電圧の高い金属を添加し合金化し、腐食溶解を抑制しようという試みが最も多くなされてきた。特にインジウムを加えた場合はその効果が顕著に表れることが知られている。インジウムを例えば400ppm以上と比較的高濃度に加えた亜鉛を用いた場合は、集電体の銅等の接触によりインジウムや亜鉛の一部が一旦溶け出す。次に溶け出したインジウムイオンが集電体上に析出し、インジウムの膜を集電体上に形成するという機構により亜鉛の腐食溶解が抑制されることが考えられる。しかし、亜鉛と集電体の接触の初期においては、集電体上で還元されるインジウムイオンの量が極めて少ない。そのため、電解液または負極活物質中に亜鉛より貴なインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物をインヒビターとして添加し、金属イオンを亜鉛や集電体を覆うに十分な量を電解液中に存在させれば、鉛を亜鉛および負極集電体にすみやかに析出させることができ、水素発生を抑制することができる。
【0042】亜鉛中に鉄が多いと、亜鉛表面で鉄が露出しているところが多くなってしまう。表面の亜鉛と鉄は電解液中で局部電池を形成し、亜鉛が溶解し鉄からは水素が発生することになる。水素が発生している場所はインヒビターによる被膜が形成されにくく、インヒビターの効果が得られにくい。
【0043】鉄の含有率が亜鉛重量に対し4ppm以下である無水銀亜鉛粉末を用い、電解液または負極活物質中にインヒビターとして亜鉛より貴なインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物を添加し、イオンを亜鉛や集電体を覆うに十分な量を電解液中に存在させれば、亜鉛より貴な金属の被膜を亜鉛および負極集電体にすみやかに析出させることができ、亜鉛の腐食溶解およびそれに伴う水素発生を抑制することができる。
【0044】インヒビターの添加量は、亜鉛粉末に対し10〜1000ppm程度が好ましい。添加量が少ないと亜鉛や集電体を十分に被覆することができないし、針状結晶がセパレーターを貫通し短絡を引き起こすという弊害がある。一般にガリウム、インジウム、鉛、ビスマスは水素過電圧が高く、亜鉛に加えると水素ガス発生を抑制するといわれている。アルミニウム、カルシウムはアトマイズによる亜鉛粉末製造時に表面を滑らかにし、亜鉛粉末の表面積を減少させ、同様に水素ガス発生を抑制するといわれている。
【0045】また、作用は定かではないが電解液を液漏れの許す限り多くすることで、水素ガス発生および自己放電を抑制することができる。さらに電解液を増やすことにより、水素ガス発生および自己放電を抑制するために加えるインヒビターの絶対量を増やすことも可能となり、インヒビター効果も増加することが考えられる。
【0046】無水銀電池がこう化亜鉛の入った電池の性能に近づくためには、種々の技術の特徴を理解しそれらを組み合わせて用いなければならない。以下、個々の技術の作用について示す。亜鉛にインジウム、鉛、ビスマス、カルシウム、アルミニウム等の金属を添加するのは、大まかに言うと腐食溶解を防止し水素ガス発生を抑制するためである。しかし、各添加金属の役割はさまざまである。インジウム、鉛、ビスマス等の水素過電圧の高い金属は、亜鉛と合金化し水素過電圧を高め腐食溶解を防止する。一方、カルシウムやアルミニウムは、アトマイズによる作製時、合金表面を滑らかにする結果、電位分布を平均化し亜鉛粒子の表面積を低下させるため、腐食溶解防止に有効である。また、腐食溶解で亜鉛表面に水素が発生するとそこにインヒビターが供給されずインヒビターの効果も発揮できない。その意味でも本発明の金属添加による亜鉛の合金化は重要である。
【0047】ゲル剤として用いる架橋型ポリアクリル系の吸水性ポリマーは保水性が強く、電解液が、蒸発したり、必要以上にセパレーターや正極側に移動するのを防ぐ。そのため、インヒビターが隅々まで行き渡ったり、放電末期の液不足による内部抵抗の上昇を抑制したりすることができる。
【0048】集電体の最外層に亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の層を形成するのは、負極活物質である無水銀亜鉛粉末と集電体の銅が接触し電池を形成しそこからも水素ガスが発生するのを防ぐためである。また、集電体を含む負極缶のプレス加工後に、亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の層を形成すれば、加工時に集電体側に付着してしまった鉄等の不純物を遮蔽することができる。
【0049】特に、集電体表面に必須元素として亜鉛を含み、選択元素としてインジウム、鉛、スズから選ばれる1種以上を含む合金層を設けることは有効である。集電体表面と負極活物質である無水銀亜鉛表面の電位がほぼ等しくなるためである。そのため、集電体と負極活物質である無水銀亜鉛粉末が接触しても局部電池を形成しそこから水素ガスが発生することがなくなる。
【0050】集電体に亜鉛のみをめっきしても、電位差がなくなり効果が期待されそうであるが、めっき等で析出させた亜鉛は非常に活性で腐食され易いため水素ガス発生を抑制する効果は少ない。そのため、亜鉛中にインジウムや鉛を数10ppm以上加えた合金をめっきする必要がある。めっき処理においては、めっき液は一般の亜鉛めっき液に数10〜数1000ppmインジウム化合物や鉛化合物やスズ化合物を加えたものを用い、陽極は亜鉛合金を用いれば良い。例えば、硫酸亜鉛系のめっき液の場合は硫酸インジウムを、シアン系のめっき液の場合はシアン化インジウムを加えれば良い。
【0051】インヒビターには無機系と有機系がある。そのなかでも無機インヒビターは大別すると2種類ある。一つは亜鉛より貴で水素過電圧の高い金属の化合物である。例えば、前述の硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、塩化インジウム、水酸化インジウム等のインジウム化合物がそれであり、これらは濃厚かせいアルカリ溶液で溶解し、めっきで言うカソード還元可能なアルカリ錯イオンを形成する。インジウムのアルカリ錯イオンは、自己の還元電位より低い電位を示す亜鉛表面で還元されインジウムが金属としてすみやかに析出する。初期的に亜鉛がインジウムで覆われると、表面は総てインジウムの電位となり電気化学的な駆動力が失われるため、それ以上インジウムは析出しなくなる。しかし、放電により新たに亜鉛面が露出すれば、アルカリ錯イオンとして存在するインジウムが速やかに還元され析出する。そのため、放電を途中でやめ保存した場合でも水素ガス発生が少なく、自己放電率を小さくするという効果がある。
【0052】亜鉛と接触している銅等の集電体上でも自己の還元電位より低い電位を示すためインジウムのアルカリ錯イオンは還元されインジウムが金属としてすみやかに析出する。しかし、実際の電池では電解液の量はかなり少ないため集電体上に均一にインヒビターが行き渡らず金属コーティングされなかったり、負極合剤と集電体の間に気泡があるとそこだけ全く金属コーティングがなされない場所もできてしまい十分な効果が発揮できなかった。一酸化鉛や4価のスズ化合物もこの種の無機インヒビターである。
【0053】無機インヒビターのもう一つは亜鉛より卑な金属または非金属の酸化物や水酸化物である。作用は定かではないが、水素ガス発生の抑制と電気特性改善に効果があり、代表的なものにアルカリ土類金属の水酸化物である水酸化バリウムなどがある。しかし、最外層に亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の層を有さない集電体を用いた場合は、集電体と亜鉛の接触による水素ガス発生が大きすぎその効果がほとんど表れない。
【0054】有機系の界面活性剤は、親水基が亜鉛表面に吸着し疎水基が水や水酸基が表面に近づくのを抑えるため亜鉛の腐食溶解を抑制する。効果としては、アルカリ金属の水酸化物に類似しており、最外層に亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の層を有する集電体と併用することが望ましい。
【0055】また、作用は定かではないがポリオキシエチレンアルキルアミドと水酸化バリウム等のを併用すると著しい水素ガス発生抑制効果が得られる。ただし、有機界面活性剤はインジウム化合物や一酸化鉛との併用において亜鉛や集電体表面に過剰に吸着し、表面での還元を阻害する可能性があるため、添加量は効果のでる範囲で極力少なめにすることが望ましい。
【0056】亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の集電体へのコーティングは亜鉛と集電体の接触による水素ガス発生を抑え、インジウム化合物や一酸化鉛は部分放電後の自己放電を抑え、アルカリ土類の水酸化物は電気的な特性を改善するというそれぞれの役割があり、それらを併用したとき最大の効果が得られることを見いだした。すなわち、最外層に亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の層を有する集電体を用い、インヒビターとしてインジウム化合物、酸化鉛、アルカリ土類金属の水酸化物、ポリエチレンオキサイドを持つ界面活性剤から選ばれる1種以上の物質を添加し、アルカリ電池を作製すれば、未使用時および部分放電後の自己放電率が小さくしかも電気特性の良いものが得られる。
【0057】集電体に亜鉛合金をコーティングした場合、亜鉛合金はそのまま負極活物質となるため、集電体表面の亜鉛合金層を厚くすることにより、無水銀化で目減りした電池容量を補填することができる。例えば、直径6mmの集電体に10μmめっきすると、亜鉛の比重は7.13であるから負極活物質量は2mg増えることになる。亜鉛粉末としての負極活物質量が30mgとすると電池缶内のスペースをあまり変化させずに約6.7%容量を増加できることになる。ただし、粉末の負極活物質にに比べると表面積が小さいため大電流は期待できない。しかし、時計用電池のように微小放電を行う電池の容量向上には最適である。
【0058】また、亜鉛合金めっきを厚くすることは、電池缶の加工においても有利である。一般に負極集電体を有する負極缶はフープ材を打ち抜いてつくることが多い。この場合、フープ材の集電体となる側に厚めに亜鉛合金をめっきしておけば、加工において下地である例えば銅などの金属が露出する確立が減少することになる。
【0059】
【実施例】以下、実施例により本発明を説明する。実施例1〜3、比較例1により、本発明のインジウム化合物を用いた場合の効果について説明する<実施例1>容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したビスマス、インジウム、鉛をそれぞれ500ppm含む亜鉛粉末2gと面積0.6c、厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片を予め入れ、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。テストの繰り返し数は10回とし、結果はその平均値を用いた。電解液は、水酸化カリウム系の場合水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それにインジウム化合物を添加して調整した。
【0060】硫酸インジウムは日本化学産業株式会社製、スルファミン酸インジウムは同じく日本化学産業株式会社製の35%溶液、塩化インジウムは和光純薬株式会社製、シアン化インジウムは伊藤薬品株式会社製を用いた。ンジウム化合物の添加量は、電解液に対し1000ppmとした。結果を表1の水素発生量に示した。単位はμL/g/day。
【0061】<比較例1>実施例1と同様の試験で本発明のインジウム化合物をいれないもの、および酸化インジウムを電解液に対し1000ppm入れたものの測定を行った。酸化インジウムは関東化学株式会社製を用いた。結果を同じく表1の水素発生量に示した。単位はμL/g/day。
【0062】
【表1】
図1に水酸化カリウム系の電解液を用いたサンプルの試験日数に対する水素ガス発生量を示した。図中の1に示したインジウム化合物未添加のものは試験日数に対し、指数関数的に水素発生量が増加することがわかった。本発明のインジウム化合物である図中の2の硫酸インジウムを添加したものは、水素ガスの発生を抑えていることがわかる。図中の3の酸化インジウムを加えたものは、前半の水素ガス発生が多い。これは、酸化インジウムの溶解性が悪く、電解液へのインジウムイオンの供給が十分でなく、亜鉛および銅の表面を被覆するのに時間がかかるためと考えられる。
【0063】また、前半において未添加のものより悪い結果になっているのは、やはり酸化インジウムが亜鉛や集電体と接触し局部電池を形成してしまったためと考えられる。シアン化インジウムは特性的に良好な結果を示したが、新たなる公害問題を発生する可能性があるため使用しないことが望ましい。
【0064】<実施例2>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mg、インヒビター等を加え、電解液の残りを適下した後負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個ずつ作製した。実施例1と同じ亜鉛と表1の電解液を用い、電池サイズはSR621型とした。
【0065】ただし、インジウムの添加量は、亜鉛量に対して1000ppmとした。結果を表1の放電指数に示した。放電特性は、抵抗200Ωを用い、電解液が水酸化カリウム系の場合は直流法、水酸化ナトリウムの場合はパルス法で測定した。いずれの場合も、インヒビター無添加を放電指数100とした。結果からもわるように、本発明のインジウム化合物は、放電特性においても有効であることがわかった。
【0066】<実施例3>実施例2同様にして水素を透過させるために特別につくったポリプロピレンのガスケットを用いボタン型酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池10個を高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に目盛りのついた捕集管を取り付け、発生する水素ガスの量を測定した。この状態で約1年の期間に相当するといわれる60℃、20日間保ち、20日後の水素ガス発生量を調べた。インヒビターとしは、硫酸インジウムを用い亜鉛の重量に対し10ppm〜5%の濃度でテストをした。評価結果を図2に示した。図より100ppm〜1%でインヒビターが効果的に働くことがわかる。
【0067】ポリプロピレンのガスケットをナイロン製のものにもどし、ガス発生の少なかった硫酸インジウム濃度100ppm〜1%の範囲でボタン型酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池を同様に10個 25℃に保った高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に発生する水素ガスの捕集管を取り付けた。60℃、20日間後では、水素ガス発生、缶の膨らみ、液漏れは認められなかった。硫酸インジウムでは亜鉛に対して100ppm〜1%濃度で有効であったが他のインジウム化合物でもモル数を合わせ、濃度範囲を決定することにより同様の効果が認められた。
【0068】実際の電池試作では、実施例1の実験の水素ガス発生量より小さい値となっている。これは、実施例1で用いた銅片が実際の集電体の構造と違うことや発生した水素ガスの1部が酸化銀の還元によって消費されてしまったことなどが考えられる。実施例1の方法は水素ガス発生の量オーダーは違うが、実際の電池での水素発生を予測する代用特性を見る方法としては十分なものである。
【0069】実施例4〜7により、インジウム化合物と本発明の錯化剤を用いた場合の効果について説明する<実施例4>水酸化カリウム30重量%の電解液に作用極として1cm2 の白金極、対極として同様に1cm2 の白金極、参照極として東亜電波工業株式会社製比較電極HC−205Cを用いインジウム析出時の電流電位曲線を求めた。電位はプラス側からマイナス側へ100mV/秒の速さで走査した。各電位に対する電流は、電極での反応を示し、例えばインジウムが析出したり、水素ガスが発生したりなどの還元反応が起こればそれに起因する電流が流れる。
【0070】図3に結果を示した。図中の4は電解液にスルファミン酸インジウムを0.1mol/L加えた場合で、参照極に対し−1.1V付近から電流が流れ出し、水素発生を伴いインジウムが析出する。5は電解液に0.1mol/Lの酒石酸カリウムを加えた後、スルファミン酸インジウムを0.1mol/L加えた場合の電流電位曲線である。インジウムは−1.4V付近で析出し、水素は−2.0V付近以下で発生することがわかった。これは、電極表面に水素過電圧の高いインジウムが析出したため、水素発生の電位がマイナス側にシフトしたものと考えられる。
【0071】これにより、インジウムの析出と水素発生の電位を分離することが出来た。実際の電池でもインジウムが先に析出すれば水素ガス発生はさらに小さくなるものと考えられる。電解液にスルファミン酸インジウムと酒石酸カリウムを加える場合、スルファミン酸インジウムを先に加えると水酸化インジウムやポリイオンが生成し、白濁するが、酒石酸カリウムを先に入れると白濁しない。
【0072】図3の6に電解液にスルファミン酸インジウムを0.1mol/L加えた後、0.1mol/Lの酒石酸カリウムを加えた場合の電流電位曲線を示した。図中−1.4V付近で、多少インジウムと思われる小さなピークが観測されるが、インジウムは酒石酸カリウムを加えなかったときと同様参照極に対し−1.1V付近から水素発生を伴い析出し、錯化剤を加えた効果が少なくなる。これは他のインジウム化合物や錯化剤についてもいえることで、速やかにインジウムの錯イオンを形成させ、沈澱を防ぐるためには電解液に錯化剤を先に溶解しておく必要がある。
【0073】<実施例5>水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた電解液に作用極として1cm2 の白金極、対極として同様に1cm2 の白金極、参照極として東亜電波工業株式会社製比較電極HC−205Cを用いインジウム析出時の電流電位曲線を求めた。図4に結果を示した。図中の7は電解液にスルファミン酸インジウムを0.1mol/L加えた場合で、参照極に対し−1.56V付近から水素発生を伴い金属が析出した。この金属の析出電位は、酸化亜鉛を入れなかった場合より低いため亜鉛とインジウムの合金である可能性がある。
【0074】8は電解液に0.1mol/Lの酒石酸カリウムを加えた後、スルファミン酸インジウムを0.1mol/L加えた場合の電流電位曲線である。−1.5V付近にインジウムの析出と思われるピークがあり、その後、−1.56V付近から水素発生を伴い金属が析出した。−1.5V付近の析出物を確認するため電位を−1.5Vで30秒ホールドし析出させた金属を硝酸に浸漬した。亜鉛で有れば瞬時に溶解するが、難溶であったため析出物はインジウムまたはインジウムの多い合金であることが推測される。
【0075】亜鉛の電極電位は測定の結果、参照電極に対し−1.509Vであった。ちょうど錯化剤を含んだ溶液での、インジウムまたはインジウムの多い合金だけが析出する電位に相当する。つまり、インジウムまたはインジウムの多い合金が亜鉛や亜鉛と接触する集電体に析出し、亜鉛や集電体の腐食溶解を防止する。
【0076】<実施例6>容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したビスマス、インジウム、鉛をそれぞれ500ppm含む亜鉛粉末2gと面積0.6cm2 、厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片を予め入れ、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。テストは繰り返し数10とし、結果はその平均値を用いた。
【0077】電解液は、水酸化カリウム系の場合水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それに錯化剤、インジウム化合物を添加して調整した。
【0078】硫酸インジウムは日本化学産業株式会社製、スルファミン酸インジウムは同じく日本化学産業株式会社製の35%溶液、塩化インジウムは和光純薬株式会社製、シアン化インジウムは伊藤薬品株式会社製を用いた。インジウム化合物の添加量は、電解液に対し1000ppm、錯化剤の添加量はインジウムイオンのモル比で2倍過剰とした。
【0079】表2に錯化剤を加えずにインジウム化合物を添加したときの結果を示した。表3に錯化剤を添加した場合の水素発生量に示した。表3の水素発生指数は表2の錯化剤以外は同じ電解液を用いた試験の水素発生量を100とした値である。水素ガス発生量を見ると、電流電位曲線から推測されるように水素発生が抑制されていることがわかる。シアン系も効果が認められるがシアン系は新たな公害問題を導く可能性があるため用いない方が無難である。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
<実施例7>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mg、インヒビター等を加え、電解液の残りを適下した後負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個ずつ作製した。実施例6と同じ亜鉛と表2の電解液を用い、電池サイズはSR621型とした。
【0082】ただし、インジウムの添加量は、亜鉛量に対して1000ppmとし、錯化剤の添加量はインジウムイオンのモル比で2倍とした。放電特性は、抵抗200Ωを用い、電解液が水酸化カリウム系の場合は直流法、水酸化ナトリウムの場合はパルス法で測定した。いずれの場合も、錯化剤無添加を放電指数100とした。結果を表2の右の放電指数に示した。グリシンの効果は少なめであるが、試したすべての錯化剤について効果が認められた。
【0083】以上代表的なインジウム化合物および錯化剤について実施例をもとに説明したが、インジウム化合物、錯化剤の効果は、実施例4、5に示したと同様に電流電位曲線を求めれば簡単に推測できる。同様の効果を示す他のインジウム化合物、錯化剤であっても本発明に応用できることは言うまでもない。また、実施例4では銀電池につての例を記載したが、亜鉛を用いるアルカリマンガン電池、空気電池等でも同様の効果が期待できる。
【0084】また、純亜鉛等の水素発生の大きい負極活物質では、表面にインジウム析出と競争反応として起こる水素発生のため均一の膜ができにくく、インジウム析出の効果が少なくなる。そのため、亜鉛にインジウム、ビスマス、鉛、アルミニウム、ガリウム、カルシウム等を加え、ある程度水素発生を抑制した負極活物質を用いた方が効果的である。
【0085】実施例8〜11に、本発明のインヒビターとしてインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる2種以上を用いた場合の効果について説明する<実施例8>容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したビスマス、インジウム、鉛をそれぞれ500ppm含む亜鉛粉末2gと面積0.6cm2 、厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片を予め入れ、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。
【0086】テストは繰り返し数10とし、結果はその平均値を用いた。電解液は、水酸化カリウム系の場合は水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合は水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それに硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、スズ酸ナトリウム、酸化鉛から選ばれる化合物を添加して調整した。
【0087】硫酸インジウム、スズ酸ナトリウムは日本化学産業株式会社製、スルファミン酸インジウムは同じく日本化学産業株式会社製の35%溶液、酸化鉛は和光純薬株式会社製を用いた。化合物の添加量は、電解液に対し合計で1000ppmとした。結果を表4の水素発生量に示した。
【0088】
【表4】
比較のため、実施例8と同じ実験で銅板をいれない実験結果を表4の1〜4、16〜19に示した。また、化合物をいれない実験の結果を表4の31に示した。図5に表4の31とガス発生の少なかったスルファミン酸インジウムと酸化鉛の組み合わせである表4の12の試験日数に対する水素ガス発生量を示した。化合物未添加のもの9は試験日数に対し、指数関数的に水素発生量が増加することがわかり、スルファミン酸インジウムと酸化鉛を加えたもの10は、水素ガスの発生を抑制していることがわかる。
【0089】酸化鉛は表4の3、4のデータからわかるように水素発生量が比較的多い。これは、鉛が析出するとき、針状結晶を生じ亜鉛や集電体の表面を均一に覆うことができないためと考えられる。組み合わせでみるとインジウムの化合物と酸化鉛の組み合わせが特によく、水素発生を抑制し放電特性を向上させていることがわかる。
【0090】<実施例9>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータをのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mgをいれ、硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、スズ酸ナトリウム、酸化鉛から選ばれる化合物を加えた電解液の残りを適下した後、負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個ずつ作製した。
【0091】実施例8と同じ亜鉛と表4の電解液組成を用い、電池サイズはSR621型とした。ただし、化合物の添加量は、亜鉛量に対して1000ppmとした。結果を表4の放電指数に示した。放電特性は、抵抗200Ωを用い、電解液が水酸化カリウム系の場合は直流法、水酸化ナトリウムの場合はパルス法で測定した。いずれの場合も、インヒビター無添加を放電指数100とした。結果からもわるように、本発明は、放電特性においても有効であることがわかった。
【0092】特に酸化鉛を加えたものは針状結晶のによる電気的コンタクトの向上により放電指数は他のものよりよい。組み合わせでみるとインジウムの化合物と酸化鉛の組み合わせが特によく、水素発生を抑制し放電特性を向上させていることがわかる。インジウムが亜鉛や集電体からのガス発生を抑え、鉛が放電特性を向上させていることが想像できる。
【0093】<実施例10>実施例9同様にして水素を透過させるために特別につくったポリプロピレンのガスケットを用いボタン型酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池10個を高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に目盛りのついた捕集管を取り付け、発生する水素ガスの量を測定した。この状態で約1年の期間に相当するといわれる60℃、20日間保ち、20日後の水素ガス発生量を調べた。添加化合物としは、硫酸インジウム、酸化鉛を重量比で1:1で用い亜鉛の重量に対し合計で10ppm〜5%の濃度でテストをした。評価結果を図6に示した。図より50ppm〜1%で添加化合物が効果的に働くことがわかる。
【0094】ポリプロピレンのガスケットをナイロン製のものにもどし、ガス発生の少なかった硫酸インジウムと酸化鉛を用い濃度50ppm〜1%の範囲でボタン型酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池を同様に10個60℃に保った高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に発生する水素ガスの捕集管を取り付けた。60℃、20日間後では、水素ガス発生、缶の膨らみ、液漏れは認められなかった。
【0095】硫酸インジウムと酸化鉛では亜鉛に対して50ppm〜1%濃度で有効であったが他の化合物の組み合わせでもモル数を合わせ、濃度範囲を決定することにより同様の効果が認められた。実際の電池試作では、実施例8の実験の水素ガス発生量より小さい値となっている。これは、実施例8で用いた銅片が実際の集電体の構造と違うことや発生した水素ガスの1部が酸化銀の還元によって消費されてしまったことなどが考えられる。実施例8の方法は水素ガス発生の量オーダーは違うが、実際の電池での水素発生を予測する代用特性を見る方法としては十分なものである。
【0096】<実施例11>実施例9同様にして水素を透過させるために特別につくったポリプロピレンのガスケットを用いボタン型酸化銀電池を作製した。ただし、電解液は亜鉛に対し500ppmの硫酸インジウムと酸化鉛の2種類つくり、順番を変えて2度に分けて加えた。作製したボタン型酸化銀電池につて実施例9同様に60℃、20日間の試験を行った。硫酸インジウムを先に加えた方は、水素発生量が0.10μL/g/day、酸化鉛を先に加えた方は0.15μL/g/dayであった。結果からもわかるように水素ガス発生に対し、硫酸インジウムを先に加えた方が効果が大きい。
【0097】実施例12〜14により、インジウムを含む亜鉛に本発明のインヒビターとしてインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物を用いた場合の効果について説明する<実施例12>容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したインジウムを含む亜鉛粉末2gと面積0.6c 厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片を予め入れ、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。テストは繰り返し数10とし、結果はその平均値を用いた。電解液は、水酸化カリウム系の場合水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それに一酸化鉛等の本発明のインヒビターを添加して調整した。
【0098】表5にインジウムの亜鉛粉末への添加量、一酸化鉛の添加量に対する水素ガスの発生量を示した。一酸化鉛の添加量は、電解液に対しppmで示した。結果も表5の水素発生量に示した。
【0099】
【表5】
図7に水酸化カリウム系の電解液での水素ガス発生結果を示した。図中の11はインジウムを200ppm添加した亜鉛粉末を用いた場合で、一酸化鉛の添加量が100〜400ppm程度で水素発生を抑制する効果がある。12はインジウムを500ppm添加した亜鉛粉末を用いた場合で、一酸化鉛の添加量が10ppm以上で水素発生を抑制する効果がる。13はインジウムを1800ppm添加した亜鉛粉末を用いた場合で2と同等の濃度範囲で効果がある。特にこのようにインジウムを高濃度添加した場合、一酸化鉛の添加量100ppm以下の効果が顕著で、公害物質としての鉛の添加量を削減することができる。
【0100】<実施例13>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータをのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mg、インヒビター等を加え、電解液の残りを適下した後負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個づつ作製した。電池サイズはSR621型とした。一酸化鉛の添加量は、亜鉛量に対する量となるよう電解液をつくりなおした。これらを60℃、20日間保存し、自己放電率を測定した結果を表6に示した。
【0101】
【表6】
結果からもわるように、インジウムを500ppm添加した亜鉛粉末においては一酸化鉛を100〜1000ppm、インジウムを1800ppm添加した亜鉛粉末においては一酸化鉛を10〜1000ppm添加すれば電池容量減少が抑制されることがわかる。一酸化鉛の高濃度の添加で電池容量が下がるのは、過剰の添加により、鉛の針状結晶が成長し短絡が起こったためではないかと考えられる。
【0102】<実施例14>水素を透過させるために特別につくったポリプロピレンのガスケットを用いた以外は実施例13同様にしてボタン型酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池10個を高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に目盛りのついた捕集管を取り付け、発生する水素ガスの量を測定した。この状態で約1年の期間に相当するといわれる60℃、20日間保ち、20日後の水素ガス発生量を調べた。結果を表6に示した。
【0103】実施例からわかるように電解液では水酸化カリウム系に比べて水酸化ナトリウム系の方が、水素発生も穏やかで自己放電も少ない。また、亜鉛粉末中のインジウム含量が多いほど、良い結果が得られ一酸化鉛の添加量も小量で済む。実際の電池試作では、実施例12の実験の水素ガス発生量より小さい値となっている。これは、実施例12で用いた銅片が実際の集電体の構造と違うことや発生した水素ガスの1部が酸化銀の還元によって消費されてしまったことなどが考えられる。実施例12の方法は水素ガス発生の量オーダーは違うが、実際の電池での水素発生を予測する代用特性を見る方法としては十分なものである。
【0104】同様の実験を一酸化鉛の他に、インジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物およびこれらの混合物について行った。その結果は、ほぼ一酸化鉛の時と同じで、インジウムを500ppm添加した亜鉛粉末においてはインヒビターを100〜1000ppm、インジウムを1800ppm添加した亜鉛粉末においてはインヒビターを10〜1000ppm添加すれば電池容量減少が抑制されることがわかった。
【0105】実施例15〜17により、鉄が4ppm以下の亜鉛に本発明のインヒビターとしてインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物を用いた場合の効果について説明する。
<実施例15>亜鉛粉末は、アトマイズ法で作製したガリウム100ppm、インジウム200ppm、鉛500ppm、アルミニウムを450ppm含み、さらに鉄を5ppm含むものを用いた。亜鉛粉末中の鉄の濃度は磁石で除鉄する事により調整した。除鉄後の濃度は原子吸光法で確認した。
【0106】水素発生テストは、容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管に亜鉛粉末2gと面積0.6c 厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片を予め入れ、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定することにより行った。。テストは繰り返し数10とし、結果はその平均値を用いた。電解液は、水酸化カリウム系の場合水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それにインヒビターとして一酸化鉛等を添加して調整した。
【0107】表7に亜鉛粉末中の鉄の濃度、インヒビターの添加量に対する水素ガスの発生量を示した。インヒビターの添加量は、電解液に対しppmで示した。結果も表7の水素発生量に示した。
【0108】
【表7】
図8に水酸化カリウム系の電解液での水素ガス発生結果を示した。図中の14は鉄の濃度が5ppmの亜鉛粉末を用いた場合で、他の二つに比べ全体的に水素発生量が多い。15は鉄の濃度が4ppmの亜鉛粉末を用いた場合で、一酸化鉛の添加量が10ppm以上で水素発生を抑制する効果がる。16は鉄の濃度が2ppmの亜鉛粉末を用いた場合で2と同等の濃度範囲で効果がある。特に不純物としての鉄を4ppm以下とした場合、一酸化鉛の添加量100ppm以下の効果が顕著で、公害物質としての鉛の添加量を削減することができる。
【0109】本実施例では磁石により除鉄し、鉄の濃度を下げた実験について記したが、亜鉛粉末の製造工程での精製により除鉄した亜鉛についての実験でもほぼ同様の結果が得られた。
<実施例16>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータをのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mg、インヒビター等を加え、電解液の残りを適下した後負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個づつ作製した。電池サイズはSR621型とした。一酸化鉛の添加量は、亜鉛量に対する量となるよう電解液をつくりなおした。
【0110】これらを常温の1年間に相当するといわれる60℃、20日間保存し、自己放電率を測定した結果を表8に示した。
【0111】
【表8】
結果からもわるように、鉄が4ppm以下の亜鉛粉末用いた電池においては、一酸化鉛を10〜1000ppm添加すれば自己放電率を4%以下に抑制できることがわかる。一酸化鉛の高濃度の添加で電池容量が下がるのは、過剰の添加により、鉛の針状結晶が成長し短絡が起こったためではないかと考えられる。
【0112】<実施例17>水素を透過させるために特別につくったポリプロピレンのガスケットを用いた以外は実施例16同様にしてボタン型酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池10個を高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に目盛りのついた捕集管を取り付け、発生する水素ガスの量を測定した。この状態で約1年の期間に相当するといわれる60℃、20日間保ち、20日後の水素ガス発生量を調べた。結果を表8に示した。
【0113】実施例からわかるように電解液では水酸化カリウム系に比べて水酸化ナトリウム系の方が、水素発生も穏やかで自己放電も少ない。また、亜鉛粉末中の鉄含量が少ないほど、良い結果が得られ一酸化鉛の添加量も小量で済む。実際の電池試作では、実施例15の実験の水素ガス発生量より小さい値となっている。これは、実施例15で用いた銅片が実際の集電体の構造と違うことや発生した水素ガスの1部が酸化銀の還元によって消費されてしまったことなどが考えられる。
【0114】実施例15の方法は水素ガス発生の量オーダーは違うが、実際の電池での水素発生を予測する代用特性を見る方法としては十分なものである。同様の実験を一酸化鉛の他に、インジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物およびこれらの混合物について行った。その結果は、ほぼ一酸化鉛の時と同じで、インヒビター10〜1000ppm添加すれば自己放電率を4%以下に抑制できることがわかった。
【0115】本発明では、最も混入しやすく、水素発生の危険性の高い鉄について記したが、ニッケル、コバルトやアンチモン等の不純物も極力減らした法がよいことは言うまでもない。また、亜鉛等の水素発生の大きい負極活物質では、表面への鉛析出と競争反応として起こる水素発生のため均一の膜ができにくく、鉛析出の効果が少なくなる。そのため、亜鉛にインジウム、ビスマス、鉛、アルミニウム、ガリウム、カルシウム等を加え、ある程度水素発生を抑制した負極活物質を用いた法がさらに効果的である。
【0116】実施例18〜21により、電池中の水分をコントロールした場合の効果について説明する。
<実施例18>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータをのせる。
【0117】次に水素を透過させるために特別につくったポリプロピレンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末、インヒビター等を加え、電解液の残りを適下した後負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を作製した。電解液は、水酸化カリウム系の場合水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それに必要に応じてインヒビターを添加して調整した。インヒビターを加える場合は亜鉛重量に対し1000ppmの量とし、電解液中に溶かし込んだ。。
【0118】作製したコインまたはボタン酸化銀電池10個を高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に目盛りのついた捕集管を取り付け、発生する水素の量を測定した。この状態で約1年の期間に相当するといわれる60℃、20日間保ち、20日後の水素発生量と自己放電率を調べた。電池容量は25kΩの抵抗をつなぎ放電させることにより測定した。同種の電池の60℃、20日間保存前後の電池容量の変化により自己放電率は計算した。
【0119】作製評価した、コインまたはボタン酸化銀電池のサイズ、使用した亜鉛粉末中の金属の含有率、電解液、水分量、添加したインヒビターと60℃、20日間保存での水素発生量と自己放電率を表9および表10に示した。
【0120】
【表9】
【0121】
【表10】
この表9および表10中、添加金属組成は亜鉛に対する重量をppmで表した。水分量は亜鉛1mgに対して水が何mg入っているかを示した。水素発生量の単位はμL/g/dayで亜鉛量に対する1日の水素発生量を表の60℃20日間、常温1年の各欄の右に示し、自己放電率の単位は%で示した。硫酸Inは硫酸インジウム、スルファミン酸Inはスルファミン酸インジウム、PbOは酸化鉛を示す。水素発生量を常温での値に換算し直すと総て0.03μL/g/day以下に抑えられているわかる。また、自己放電率も4%/年以下にすることが出来た。
【0122】<実施例19>実施例18の60℃、20日間の保存が常温での1年間に相当するか実際に1年間のテストを行ってみた。実施例18で用いたポリプロピレンのガスケットを通常の酸化銀電池の製造で用いられているナイロン製のものにかえ同様にコインまたはボタン酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池を10個25℃に保った高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に発生する水素ガスの捕集管を取り付けた。この状態で1年間保ち、1年後の水素発生量と自己放電率を調べた。測定方法は実施例18と同様である。結果の水素発生量と自己放電率を表9および表10の右端に示した。
【0123】試験の結果どのサンプルにおいてもガス発生は、認められなかった。これは、電池内で発生した微量の水素が、酸化銀の還元によって消費されたためと考えられる。自己放電率は、60℃、20日間の保存とほぼ同等で全て4%以下の値となった。
【0124】<実施例20>電解液は水酸化カリウム系では、水酸化カリウムに酸化亜鉛を飽和近くまで加えたものを用いた。亜鉛1mgあたりに加える電解液の量を0.37〜0.96mg、水の量に直すと0.25〜0.65mgと変化させ、実施例18同様にインジウム、鉛、ビスマスをそれぞれ500ppm含む亜鉛とポリプロピレンのガスケットを用い、SR626サイズの酸化銀電池をつくり、60℃、20日間保存テストを行った。
【0125】図9に添加した水の量に対する水素発生量を示した。水素発生量は1日に亜鉛1gから発生する量を示し、単位はμL/g/dayである。結果より、水の量が0.31mg以上で水素発生量が0.54μL/g/day(常温での値に換算すると0.03μL/g/day)以下に下がることがわかる。また、水の量が0.57mg以上になると液漏れの発生が認められた。
【0126】同様に水酸化ナトリウム系の電解液を用い亜鉛1mgあたり加える電解液の量を0.36〜0.92mg、水の量に直すと0.25〜0.65mgと変化させ、60℃、20日間保存テストを行った。結果を図1010に示した。水の量が0.32mg以上で水素発生量が0.54μL/g/day以下に下がることがわかる。また、水の量が0.59mg以上になると液漏れの発生が認められた。
【0127】すなわち、亜鉛1mgあたり加える水の量は、電解液が水酸化カリウム系の場合0.31〜0.57mg、水酸化ナトリウムの場合0.32〜0.59mgであることが望ましい。
<実施例21>実施例20で水素発生が0.54μL/g/day以下で、液漏れがなかった水の量の範囲で、実際に問題がないか、実施例19の方法を用い常温1年間保存テストを行い試した。水酸化カリウム系では亜鉛1mgあたり加える水の量が0.31、0.44、0.57mgとなるように電解液を加えた。同様に水酸化ナトリウム系では水の量が0.32、0.45、0.59mgとなるように電解液を加えた。実施例20同様でガスケットをナイロンに変え酸化銀電池をそれぞれ10個作製した。作製した酸化銀電池の常温1年間保存テスト結果は、水素発生なし、自己放電率も全て4%以下であり実用上問題がないことがわかった。
【0128】実施例22〜24により、各技術を組み合わせた場合の効果について説明する。実際に電池で特性を調べる前に特製の試験管により、それぞれのインヒビターやめっきした銅板からどのくらい水素ガスが発生するか調べた。以下にその方法を記す。
【0129】容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したビスマス、インジウム、鉛をそれぞれ500ppm含む亜鉛粉末2gと面積0.6cm2 厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片を予め入れ、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。テストは繰り返し数10とし、結果はその平均値を用いた。電解液は、水酸化カリウム系の場合は水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合は水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それに必要に応じインヒビターを添加して調整した。
【0130】<実施例22>電気めっきおよび置換めっきによりコーティングした銅板とインヒビターの組み合わせにより亜鉛からの水素発生を測定した。めっき処理について以下に示す。
・インジウム(In)めっき方法 :電気めっきめっき浴 :25℃:硫酸インジウム60g/l:硫酸ナトリウム10g/lめっき膜厚:0.3μm・スズ(Sn)めっき方法 :電気めっきめっき浴 :70℃:スズ酸カリウム100g/l:水酸化カリウム15g/l:酢酸カリウム5g/lめっき膜厚:0.3μm・亜鉛インジウム(Zn・In)めっき方法 :置換めっき(60℃に加熱した下記めっき浴に銅板と亜鉛を入れ1時間放置)
めっき浴 :KOH30%:ZnO飽和:硫酸インジウム0.3%めっき膜厚:0.3μm表11にKOH系、表12にNaOH系の電解液を用いた場合の銅板へのめっきおよびインヒビターに対する水素ガス発生測定結果について示した。
【0131】
【表11】
【0132】
【表12】
インヒビターの濃度は電解液に対する値で示してある。フッ化炭素・ポリオキシエチエン(POE)系の界面活性剤はフッ化炭素の炭素数が10で、POEの重合度は50のものを用いた。通常はフッ化炭素の炭素数が4〜20で、POEの重合度は30〜100のものを用いれば同様の効果が得られる。
【0133】インヒビターを加えないものに対し、本発明のインヒビターを加えたものは水素ガス発生量が1/3から1/2程度に減少しており、水素ガス発生抑制に対し効果があることがわかる。めっきやインヒビターによる差はあまりでていない。また図11にインジウムめっき銅板を用いた場合の測定結果で試験日数に対する水素ガス発生量を示した。インジウム化合物については、硫酸インジウムについてのみ図に示した。
【0134】本実施例においてはめっき膜厚は0.3μmのものを用いた場合の結果を示したが、実際には0.1〜1μmの膜厚のものを用いた場合でも結果にほとんど差はなかった。
<比較例2>比較のため、実施例22と同じ要領でめっきしない銅板を用い実験を行った。実験結果を表13および図12に示した。
【0135】
【表13】
インヒビターを添加してないものおよび水酸化バリウム、フッ化炭素・ポリオキシエチレン系の界面活性剤を添加したものは試験日数に対し、指数関数的に水素ガス発生量が増加することがわかる。一方、硫酸インジウム、酸化鉛を加えたものは、水素ガスの発生を抑制していることがわかる。これは、インジウムや鉛の化合物は銅板をコーティングする作用があるが、水酸化バリウムや界面活性剤はその作用がないためである。
【0136】<実施例23>実施例22同様にめっきした銅板を用い、インヒビターを組み合わせて用いた場合の水素ガス発生をKOH系の電解液を用い測定した。結果を表14に示した。
【0137】
【表14】
表中のインヒビターの欄は電解液に添加したそれぞれのインヒビターの電解液に対する濃度を示している。水素ガス発生は実施例同様に低いレベルでインヒビターを複数用いてもあまり弊害はないことがわかる。
【0138】次に実際に電池を作製し、集電体へのめっきやインヒビターの効果を調べた。
<実施例24>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mgをいれ、必要に応じインヒビターを加えた電解液の残りを適下した後、負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個づつ作製した。
【0139】負極缶へのめっきの種類・膜厚、加えたインヒビターの種類・濃度、閉路電圧・自己放電率を表15、16に示した。
【0140】
【表15】
【0141】
【表16】
表中インヒビターの濃度は亜鉛重量に対する値を示している。自己放電率の測定は1年間に相当するといわれる60℃、20日間保った後行った。部分放電後の自己放電率は50%深度放電(部分放電)後60℃、20日間放置し測定した。閉路電圧は未放電時と部分放電後−10℃で測定した。
【0142】インヒビターを加えたものは加えないもの(表15の実施例No.54、69、84、表16の実施例No.100、115、130)に比べ、自己放電率が小さくなっている。部分放電については、硫酸インジウム、一酸化鉛といった集電体である負極缶の銅面をコーティングするタイプのものを加えたものが、自己放電率を改善している。閉路電圧については水酸化バリウムを加えたものが高くなっていることがわかる。コーティングするタイプのインヒビターと水酸化バリウムを加えると、未放電時の自己放電率、部分放電後の自己放電率、閉路電圧が改善されることが表よりわかる。今回の実験では、部分放電後の閉路電圧が未放電後の閉路電圧が未放電時より高くなるというこう化亜鉛を用いた場合と逆の挙動を示した。この原因については現在検討中である。
【0143】負極缶へのめっきは実施例22同様に行い、各膜厚が0.3μmの時の結果を示した。0.1〜1μmの膜厚のものを用いた場合でも結果にほとんど差はなかった。さらに、KOH系の電解液とインジウムめっきを施した負極缶を用いて作製した電池でインヒビター濃度に対する1年相当後の自己放電率と部分放電後の自己放電率を測定した。
【0144】結果を図13、14に示した。自己放電率3%程度以下を実用範囲とすると、亜鉛に対する濃度で硫酸インジウムは50〜5000ppm、一酸化鉛は20〜5000ppm、水酸化バリウムは50ppm以上、フッ化炭素・ポリオキシエチレン系の界面活性剤は100ppm以上で効果があることがわかった。50%深度放電後の自己放電率に対しては、硫酸インジウムは50〜5000ppm、一酸化鉛は20〜5000ppmで効果があった。水酸化バリウム、フッ化炭素・ポリオキシエチレン系の界面活性剤は部分放電後についてはあまり効果がない。インジウム化合物につては、硫酸インジウムでの結果を示したが他の化合物につてもほぼ同じ濃度範囲で効果かがあった。また、NaOH系の電解液や他の負極缶めっきを用いても効果を示すインヒビターの濃度範囲はほとんど同じであった。
【0145】実施例25〜29により、各技術を組み合わせた場合の効果について説明する。実施例22〜24とは界面活性剤を変えた組み合わせで評価を行った。電池の試作においては亜鉛の種類も変えて評価した。実際に電池で特性を調べる前に特製の試験管により、それぞれのインヒビターやめっきした銅板からどのくらい水素がすが発生するか調べた。以下にその方法を記す。
【0146】容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したビスマス、インジウム、鉛をそれぞれ500ppm含む亜鉛粉末2gと面積0.6ccm2 厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片を予め入れ、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。テストは繰り返し数10とし、結果はその平均値を用いた。電解液は、水酸化カリウム系の場合は水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合は水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それに必要に応じインヒビターを添加して調整した。
【0147】<実施例25>電気めっきおよび置換めっきによりコーティングした銅板とインヒビターの組み合わせにより亜鉛からの水素発生を測定した。めっき処理について以下に示す。
【0148】
・インジウム(In)めっき方法 :電気めっきめっき浴 :硫酸インジウム60g/l、硫酸ナトリウム10g/l、25℃めっき膜厚:0.3μm・スズ(Sn)めっき方法 :電気めっきめっき浴 :スズ酸カリウム100g/l、水酸化カリウム15g/l、酢酸カリウム5g/l、70℃めっき膜厚:0.3μm・亜鉛インジウム(Zn・In)めっき方法 :置換めっき;60℃に加熱した下記めっき浴に銅板と亜鉛を入れ1時間放置めっき浴 :KOH30%、ZnO飽和、硫酸インジウム0.3%めっき膜厚:0.3μm表17にKOH系、表18にNaOH系の電解液を用いた場合の銅板へのめっきおよびインヒビターに対する水素ガス発生測定結果について示した。インヒビターの濃度は電解液に対する値で示してある。
【0149】
【表17】
【0150】
【表18】
ポリオキシエチレンアルキルアミド(表および図ではPOERAで示す)はアルキル基にアミド結合を介し窒素にポリオキシエチレン(POE)が2つ結合したものである。ここではアルキル基の炭素数が11個、POEの重合度が15のものを用いた。通常はアルキル基の炭素数が3〜30で、POEの重合度は2〜50のものを用いれば同様の効果が得られる。
【0151】インヒビターを加えないものに対し、本発明のインヒビターを加えたものは水素ガス発生量が1/3から1/2程度に減少しており、水素ガス発生抑制に対し効果があることがわかる。めっきやインヒビターによる差はあまりでていない。また図15にインジウムめっき銅板を用いた場合の測定結果で試験日数に対する水素ガス発生量を示した。インジウム化合物については、硫酸インジウムについてのみ図に示した。
【0152】本実施例においてはめっき膜厚は0.3μmのものを用いた場合の結果を示したが、実際には0.1〜1μmの膜厚のものを用いた場合でも結果にほとんど差はなかった。
<比較例3>比較のため、実施例25と同じ要領でめっきしない銅板を用い実験を行った。実験結果を表19および図16に示した。
【0153】
【表19】
インヒビターを添加してないものおよび水酸化バリウム、フッ化炭素・ポリオキシエチレン系の界面活性剤を添加したものは試験日数に対し、指数関数的に水素ガス発生量が増加することがわかる。一方、硫酸インジウム、酸化鉛を加えたものは、水素ガスの発生を抑制していることがわかる。これは、インジウムや鉛の化合物は銅板をコーティングする作用があるが、水酸化バリウムや界面活性剤はその作用が少ないためである。
【0154】<実施例26>実施例25同様にめっきした銅板を用い、インヒビターを組み合わせて用いた場合の水素ガス発生をKOH系の電解液を用い測定した。結果を表20に示した。
【0155】
【表20】
表中のインヒビターの欄は電解液に添加したそれぞれのインヒビターの電解液に対する濃度を示している。水素ガス発生は実施例同様に低いレベルでインヒビターを複数用いてもあまり弊害はないことがわかる。特に、水酸化バリウムとポリオキシエチレンアルキルアミドを同時に加えたものの水素ガス発生は少ない次に実際に電池を作製し、集電体へのめっきやインヒビターの効果を調べた。
【0156】<実施例27>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mgをいれ、必要に応じインヒビターを加えた電解液の残りを適下した後、負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個づつ作製した。
【0157】亜鉛粉末は、アトマイズで作製したビスマス130ppm、インジウム500ppm、アルミニウム30ppm含むものを用いた。負極缶へのめっきの種類・膜厚、加えたインヒビターの種類・濃度、閉路電圧・自己放電率を表21、22に示した。
【0158】
【表21】
【0159】
【表22】
表中インヒビターの濃度は亜鉛重量に対する値を示している。自己放電率の測定は1年間に相当するといわれる60℃、20日間保った後行った。部分放電後の自己放電率は50%深度放電(部分放電)後60℃、20日間放置し測定した。閉路電圧は未放電時と部分放電後−10℃で測定した。
【0160】インヒビターを加えたものは加えないもの(表21の実施例No.54、69、84、表22の実施例No.100、115、130)に比べ、自己放電率が小さくなっている。部分放電については、硫酸インジウム、一酸化鉛といった集電体や亜鉛表面をコーティングするタイプのものを加えたものが、自己放電率を改善している。閉路電圧については水酸化バリウムを加えたものが高くなっていることがわかる。コーティングするタイプのインヒビターと水酸化バリウムを加えると、未放電時の自己放電率、部分放電後の自己放電率、閉路電圧が改善されることが表よりわかる。今回の実験では、部分放電後の閉路電圧が未放電時より高くなるというこう化亜鉛を用いた場合と逆の挙動を示した。この原因については現在検討中である。
【0161】負極缶へのめっきは実施例25同様に行い、各膜厚が0.3μmの時の結果を示した。0.1〜1μmの膜厚のものを用いた場合でも結果にほとんど差はなかった。
<実施例28>さらに、KOH系の電解液とインジウムめっきを施した負極缶を用いて作製した電池でインヒビター濃度に対する1年相当後の自己放電率と部分放電後の自己放電率を測定した。
【0162】結果を図17、18に示した。自己放電率3%程度以下を実用範囲とすると、図17より亜鉛に対する濃度で硫酸インジウムは50〜5000ppm、一酸化鉛は20〜5000ppm、水酸化バリウムは50ppm以上、ポリオキシエチレンアルキルアミドは5ppm以上で効果があることがわかった。
【0163】50%深度放電後の自己放電率に対しては、図18より硫酸インジウムは50〜5000ppm、一酸化鉛は20〜5000ppmで効果があった。水酸化バリウム、ポリオキシエチレンアルキルアミドは部分放電後についてはあまり効果がない。部分放電後の自己放電率を下げるには硫酸インジウムまたは一酸化鉛と水酸化バリウム・ポリオキシエチレンアルキルアミドを併用することが効果的であることがわかった。ただし、併用においてはポリオキシエチレンアルキルアミドを1000ppm以下にすることが望ましい。インジウム化合物につては、硫酸インジウムでの結果を示したが他の化合物につてもほぼ同じ濃度範囲で効果かがあった。また、NaOH系の電解液や他の負極缶めっきを用いても効果を示すインヒビターの濃度範囲はほとんど同じであった。
【0164】<実施例29>亜鉛組成を変えて、実施例27同様に電池を試作した。電解液はKOH系、負極缶へのめっきはインジウムのものを用い、インヒビターとしては、硫酸インジウム、一酸化鉛、水酸化バリウム、ポリオキシエチレンアルキルアミドを亜鉛に対して1000ppmづつ添加した。結果を表23に示した。
【0165】
【表23】
自己放電率は、請求範囲に示した添加物の組成において、実用範囲である3%以下に納まっていることがわかる。自己放電率を下げるには数種の合金にすることが望ましい。
【0166】実施例30〜31に、ゲル化剤との組み合わせを中心に評価した結果について示した。
<実施例30>実際に電池を作る前に、本発明の効果を水素ガス発生テストというかたちで確認した。テストは亜鉛粉末と本発明のゲル化剤、水酸化バリウム及び集電体と同じ材料の銅板との組合せにより行った。容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したビスマス、インジウム、鉛をそれぞれ500ppm含む亜鉛粉末2g、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。ゲル化剤は亜鉛に対して1.5%加えた。また電池の負極亜鉛重量と負極集電体表面積の比が同じになるよう亜鉛粉末2gと表面積0.6cm2 厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片5枚を一緒に用いて同様にガス発生を測定した。テストは繰り返し数6とし、結果はその平均値を用いた。
【0167】電解液は、水酸化カリウム系の場合は水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合は水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それに水酸化バリウムを添加して調整した。水酸化バリウムは和光純薬(株)製、CMCはダイセル化学工業(株)製の1260番と1380番、PASは和光純薬工業(株)製の試薬と日本純薬(株)製レオジック250Hを用いた。水酸化バリウムの添加量は、電解液に対し0〜50000ppmとした。結果を表24の水素発生量に示した。
【0168】
【表24】
単位はμl/g/dayである。表24の結果より、水酸化バリウムを添加しているものはゲル化剤種類、亜鉛粉末単体、亜鉛粉末+銅片での比較、電解液種類に係わらず水素発生量が少ない、またゲル化剤種類では架橋型アクリル系水溶性樹脂であるPASのガス発生が少ないことが判る。特に架橋型アクリル系水溶性樹脂であるPASと水酸化バリウムの組合せが良いことが判る。水酸化バリウム添加量500ppm以上では過飽和になったので白濁状態の電解液を用いた。また実施例30では水酸化バリウムを電解液に添加したが、粉末亜鉛中に全量添加した場合でも同様な結果が得られた。
【0169】<実施例31>SR621サイズのボタン形酸化銀電池を作成した。負極缶は集電体に0.1μmのスズめっきを施した物を用いた。亜鉛は実施例30で用いたもの、ゲル化剤は架橋型アクリル系水溶性樹脂であるレオジック250H、電解液はそれぞれ酸化亜鉛を飽和近くまで添加した水酸化カリウム30重量%液および水酸化ナトリウム25重量%液を用いた。ゲル化剤の添加量は亜鉛に対して1.5%、水酸化バリウムの添加量は亜鉛に対して0〜50000ppmとした。従来例としてゲル化剤にCMC1260#を用いて水酸化バリウムを添加しない電池を作製した。電気特性の評価結果を表25の放電指数に示した。
【0170】
【表25】
電気特性は、電解液が水酸化カリウム系の場合は負荷抵抗200Ω・直流法、水酸化ナトリウム系の場合は負荷抵抗2kΩ・パルス法で測定した。いづれの場合も、従来例を放電指数100とした。結果からもわかるように、本発明のゲル化剤に架橋型アクリル系水溶性樹脂を用い水酸化バリウムを添加したものは従来例に比べて放電性能が良い。
【0171】水素を透過させるために特別につくったポリプロピレン製のガスケットを用いて同様にしてボタン形酸化銀電池を作製した。ゲル化剤は架橋型アクリル系水溶性樹脂であるレオジック250Hを亜鉛に対して1.5%用いた。水酸化バリウムは亜鉛の重量に対し10ppm〜5%の濃度でテストをした。作製した酸化銀電池10個を高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に目盛りのついた捕集管を取り付け、発生する水素ガスの量を測定した。この状態で60℃、20日間保ち、20日後の水素ガス発生量を調べた。評価結果を表25の水素ガス発生量に、電解液に水酸化カリウム30重量%液を用いた場合の結果を図19に示した。図より100ppm〜1%で水酸化バリウムが効果的に働くことがわかる。
【0172】ポリプロピレン製のガスケットをナイロン製のものにもどし、ガス発生の少なかった水酸化バリウム濃度100ppm〜1%の範囲でボタン形酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池10個を同様に高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に発生する水素ガスの捕集管を取り付けた。60℃、20日間保存後では、水素ガス発生、電池缶の膨らみ、液漏れは認められなかった。
【0173】実際の電池での水素ガス発生量は、実施例30の実験の水素ガス発生量より小さい値となっている。これは、実施例30で用いた銅片が実際の集電体の構造と違うことや発生した水素ガスの一部が酸化銀の還元によって消費されてしまったことなどが考えられる。実施例30の方法は水素ガス発生の量オーダーは違うが、実際の電池での水素発生を予測する代用特性を見る方法としては十分なものである。
【0174】実施例32〜35により集電体に亜鉛合金層を設けた場合の効果と本発明のアルカリ電池を時計に用いた場合の評価結果について示した。実際に電池で特性を調べる前に特製の試験管により、めっきした銅片(集電体と同じ材料)からどのくらい水素ガスが発生するか調べた。以下にその方法を記す。
【0175】容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したビスマス、インジウム、鉛をそれぞれ500ppm含む亜鉛粉末2gとめっきした面積0.6cm2 厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片に本発明のめっきを施したものを予め入れ、そこに電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。テストは繰り返し数10とし、結果はその平均値を用いた。電解液は、水酸化カリウム系の場合は水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合は水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を用いた。
【0176】<実施例32>電気めっきおよび置換めっきによりコーティングした銅片と亜鉛からの水素発生を測定した。銅片へのめっき処理は4種類行った。条件については以下に示す。
【0177】
=置換めっき(亜鉛−インジウム)
方法 :置換めっき60℃に加熱した下記めっき液に銅片と亜鉛を入れ1時間放置めっき液 :KOH30%、ZnO飽和、硫酸インジウム0〜3000ppm温度 :60℃めっき膜厚:時間により調整した。厚さは、めっき前後の重量より求めた。
【0178】
=置換めっき(亜鉛−鉛)
方法 :置換めっき60℃に加熱した下記めっき浴に銅片と亜鉛を入れ1時間放置めっき液 :KOH30%、ZnO飽和、酸化鉛0〜3000ppm温度 :60℃めっき膜厚:時間により調整した。厚さは、めっき前後の重量より求めた。
【0179】
=電気めっき(シアン系)
方法 :銅製の網に銅片をはさみ通電し、めっきした。銅片を適度に移動させめっきされない部分ができないようにした。
めっき液 :シアン化亜鉛70g/l、シアン化ナトリウム50g/l、水酸化ナトリウム100g/l、シアン化インジウム0〜3000ppm温度 :25℃電流密度 :5A/dm2めっき膜厚:時間により調整した。厚さは、めっき前後の重量より求めた。
【0180】
=電気めっき(酸性)
方法 :銅製の網に銅片をはさみ通電し、めっきした。銅片を適度に移動させめっきされない部分ができないようにした。
めっき液 :硫酸亜鉛240g/l、硫酸ナトリウム30g/l、酢酸ナトリウム15g/l、硫酸インジウム0〜3000ppm温度 :25℃電流密度 :2A/dm2めっき膜厚:時間により調整した。厚さは、めっき前後の重量より求めた。
【0181】それぞれの処理を施した銅片、亜鉛粉末、電解液を特性の試験管に入れそこから発生する水素ガスの量を調べた。水素ガス発生が大きいほど実際の電池では自己放電が大きいことが予想される。
【0182】
【表26】
【0183】
【表27】
表26にインジウム化合物、酸化鉛の各濃度でめっきした銅片に対するKOH系電解液での水素ガス発生量を示した。表27には、NaOH系電解液での結果を示した。表26、27より、10ppm程度の僅かなインジウム化合物や酸化鉛をめっき液に添加し、めっき膜を合金化することにより、無添加のものに比べ大幅に水素ガス発生を抑制できることがわかる。ただし、高濃度の酸化鉛の添加においては、めっき膜に針状の鉛が析出し水素ガス発生は悪化する。
【0184】置換めっきした銅片をオージェ分光分析で定量測定したところ、めっき液への硫酸インジウムの添加量が1000ppmの場合めっき膜には約0.3%のインジウムが、100ppmの添加量の場合は約0.1%のインジウムが存在することがわかった。めっき液に硫酸インジウムを100ppm以下添加し作製しためっき膜では、検出限界以下でインジウムを測定することはできなかった。しかし、極微量のインジウムがめっき膜へ入ることにより水素ガス発生抑制効果が得られると考えられる。他の種類のめっきも同様に、亜鉛中にインジウムや鉛が析出し、亜鉛の水素過電圧を下げるため水素ガス発生抑制効果が得られると考えられる。
【0185】
【表28】
【0186】
【表29】
表28、29に1000ppm硫酸インジウムを添加した置換めっきでの膜厚にたいする水素ガス発生量を示した。表28、29より0.015μmとかなり薄さから効果があることがわかる。
【0187】<実施例33>次に、実際に電池を試作し負極缶へのめっきの効果を確かめた。正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mgをいれ、必要に応じインヒビターを加えた電解液の残りを適下した後、負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個づつ作製した。
【0188】亜鉛粉末は、アトマイズで作製したビスマス500ppm、インジウム500ppm、鉛500ppm含むものを用いた。負極缶へのめっきは実施例32同様に行った。負極缶へのめっきの種類に対する自己放電率を表30、31に示した。自己放電率の測定は1年間に相当するといわれる60℃、20日間保った後行った。
【0189】
【表30】
【0190】
【表31】
表30、31より、本発明のめっきした負極缶を用いることにより、めっきしない負極缶を用いたものより自己放電を抑制できることがわかる。ここでは、めっき液へのインジウム化合物の添加量は1000ppm、酸化鉛の添加量は100ppmで、各膜厚が0.1μmの時の結果を示した。0.01〜3μmの膜厚のものを用いた場合でも結果にほとんど差はなかった。また、めっき液へのインジウム化合物の添加量は10〜3000ppm、酸化鉛の添加量は10〜100ppm、の範囲で同等の効果が得られた。スズ酸カリウム、スズ酸ナトリウムについても同様の試験を行ったところ、添加量10〜3000ppmの範囲で同等の効果が得られた。また、これらの濃度範囲でインジウム化合物、酸化鉛、スズ酸カリウム、スズ酸ナトリウムを混合して添加しためっき液を用いても同等の効果が得られた。
【0191】<実施例34>めっき膜の不純物遮蔽効果についてテストを行った。プレス加工時に集電体表面に鉄系の異物が付着し、ガス発生不良が発生したSR521サイズの負極缶について、めっきを行った。ガス発生不良とは電池にすると膨れや破裂の原因となるもので、負極缶の集電体である銅側の凹面に電解液と100μm前後の亜鉛粉末を数個入れると瞬時にガスが発生することで確認できる。亜鉛がアノード、水素過電圧の低い鉄がカソードとなり水素が発生するためである。めっきは、バレルを用いた置換めっきで行った。以下条件を記す。
【0192】
=置換めっき(亜鉛−インジウム)
方法 :置換めっきバレルを用い、60℃に加熱した下記めっき液に負極缶と亜鉛片れ入れめっきした。
【0193】
負極缶 :SR521サイズ 約1000個亜鉛片 :3×3×0.1mm 約1500枚めっき液 :KOH30%、ZnO飽和、硫酸インジウム0〜3000ppm温度 :60℃時間 :5、15、30分めっき膜厚:厚さは、ダミーとして入れた銅片のめっき前後の重量より求めた。
【0194】時間に対する膜厚は、5分で0.041μm、15分で0.090μm、30分で0.148μmとなった。それぞれ、100個づづ抜き取りガス発生の確認を行った。その結果、5分のめっきでは100個中78個にガス発生が認められた。15、30分のめっきでは、ガス発生が認められなかった。このことより、0.1μm前後のめっき厚で不純物の遮蔽効果があることがわかった。
【0195】<実施例35>次に実施例33の様に直接負極缶めっきするのではなく、フープ材にめっきしてから負極缶の形に形成した場合の結果を示す。この場合、めっきを電気めっきにより厚くできるというメリットはあるが、機械的な加工により柔らかいめっき膜に欠陥ができ易いという問題がある。以下めっき条件を示す。
【0196】
・電気めっき(シアン系)
方法 :ニッケル、ステンレス、銅の三層クラッドのフープ材のニッケル側をマスキングし、銅側にめっきを行った。
めっき浴 :シアン化亜鉛70g/l、シアン化ナトリウム50g/l、水酸化ナトリウム100g/l、シアン化インジウム1000ppm浴温度 :25℃電流密度 :5A/dm2めっき膜厚:時間により調整した。(フープ材の送り速度の調整)厚さは、樹脂に埋め込み光学顕微鏡で写真撮影し求めた。
【0197】膜厚は1、2、3、4、7、10μmのものを作製した。それぞれの膜厚の亜鉛合金をめっきしたフープ材より、100個づつ負極缶を作製した。加工により銅面が露出した負極缶の個数を調べた。結果を表7に示した。結果より3μm以上で銅面は露出しなくなることがわかる。
【0198】各膜厚の負極缶を用いNaOH系電解液で実施例33同様に電池を100個づつ試作した。
【0199】
【表32】
初期の容量および2年後相当(60℃、40日保存後)の容量を表32に示した。比較のためこう化亜鉛を用いた場合の結果も表の右端に記した。表32より、2μm以下のめっきでは、めっき膜の加工による欠陥のため実施例33の負極缶に直接めっきしたときに比べ容量が小さい。膜厚が4μmのとき、2年後の容量がこう化亜鉛を用いた場合とほぼ同じになる。例えば、時計に電池を組み込んだ場合電池寿命は約二年である。二年間でこう化亜鉛を用いた電池同等以上の容量を期待するには、表32より4μm以上亜鉛合金をめっきする必要がある。電池設計において、亜鉛合金めっき厚は3μm以上で、2年間で目的の容量が得られるような厚さにすれば良い。
【0200】<実施例36>こう化率10%の亜鉛を用いた従来の電池と本発明の負極缶に4μm亜鉛−インジウム合金を実施例35と同様の方法で施し無水銀亜鉛を用いた電池とを実際に腕時計に装着し携帯テストを行い、時計の止まるまでの日数を測定した。テストは各10個づつ行った。
【0201】
【表33】
結果を表33に示した。時計が止まるまでの日数はほぼ同じで無水銀でも容量を下げずに済むことができた。実施例35に示した様に、加速試験で二年後の容量がこう化亜鉛を用いた電池と同じになるような膜厚を目安にすれば、実際の時計での使用においてもこう化亜鉛を用いたときと同等の容量が得られることがわかる。すなわち、電池設計において、亜鉛合金めっき厚は3μm以上で、2年間で目的の容量が得られるような厚さにすれば良い。例えば、目的とする容量のこう化亜鉛を用いた電池の亜鉛の重量(水銀分を除く)W0を自己放電率/年をSD0、設計する無水銀亜鉛を用いた電池の亜鉛の重量をW0(こう化亜鉛と同じ)、自己放電率をSD1とし、集電体の面積をS、亜鉛の比重を7.13とすると亜鉛合金の膜厚D1は D1=(W0×(1−2×SD0)/(1−2×SD1)−W0)
/7.13/Sとすれば良いことになる。
【0202】本実施例35、36では、クラッド材に3μm以上の亜鉛−インジウム合金をめっきすることについて述べたが、実施例32、33で示したように亜鉛合金は必須元素として亜鉛を含み、選択元素としてインジウム、鉛、スズから選ばれる1種以上を含む合金であればほとんど同様の効果が得られる。また、亜鉛合金層の形成法は他の方法であっても同様の効果が得られることは言うまでもない。例えは、亜鉛合金をもう一層クラッドしたり、乾式めっきや溶射を用いる方法等がそれにあたる。
【0203】また、インジウムまたは鉛等を含む亜鉛合金層にビスマス、ガリウム、アルミニウム、カルシウム等の亜鉛合金の水素過電圧を高める元素が存在しても本発明の効果が損なわれることはない。加え方によっては、さらなる自己放電抑制効果が期待できる。
【0204】
【発明の効果】以上実施例でも述べたように本発明によると、電池特性を劣化させることなく水素の発生を抑制したアルカリ電池を作製することが出来る。特にガス発生に対し敏感で高性能の要求されるコイン型、ボタン型のアルカリ電池に対して有効である。
【0205】また、本発明の集電体への亜鉛合金めっきにおいては、時計などの微小放電用に用いれば、こう化亜鉛を用いた電池同等もしくはそれ以上の容量が達成できる。さらに、本発明のアルカリ電池を搭載した時計が廃棄されても、公害物質である水銀を含まないため環境を汚染することはない。また、アルカリ電池を用いる応用製品であれば、その応用製品を廃棄したとしても、公害物質である水銀を含まないため環境を汚染することはない。
【図面の簡単な説明】
【図1】経過日数に対する水素ガスの発生量を示した。
【図2】硫酸インジウム濃度に対する水素ガス発生量を示した。
【図3】水酸化カリウム溶液中での常温における電流電位曲線である。
【図4】酸化亜鉛を飽和近くまで溶かした水酸化カリウム溶液中での常温における電流電位曲線である。
【図5】経過日数に対する水素ガスの発生量を示した。
【図6】硫酸インジウム濃度に対する水素ガス発生量を示した。
【図7】本発明の電解液への一酸化鉛添加量に対する水素ガスの発生量を示した図である。
【図8】電解液への一酸化鉛添加量に対する水素ガスの発生量を示した図である。
【図9】水酸化カリウム系の電解液を用いた場合の亜鉛1mgあたり加えた水の量に対する水素発生量を示した。
【図10】水酸化ナトリウム系の電解液を用いた場合の亜鉛1mgあたり加えた水の量に対する水素発生量を示した。
【図11】めっきした銅板に本発明のインヒビターを加えた場合の経過日数に対する水素ガスの発生量を示した。
【図12】めっきしていない銅板に本発明のインヒビターを加えた場合の経過日数に対する水素ガスの発生量を示した。
【図13】インヒビター濃度に対する自己放電率の変化を示した。
【図14】インヒビター濃度に対する50%深度放電後の自己放電率の変化を示した。
【図15】めっきした銅板に本発明のインヒビターを加えた場合の経過日数に対する水素ガスの発生量を示した。
【図16】めっきしていない銅板に本発明のインヒビターを加えた場合の経過日数に対する水素ガスの発生量を示した。
【図17】インヒビター濃度に対する自己放電率の変化を示した。
【図18】インヒビター濃度に対する50%深度放電後の自己放電率の変化を示した。
【図19】水酸化バリウムに対する水素ガス発生量を示した図である 。
【符号の説明】
1 電解液に亜鉛と銅板を加えた場合
2 電解液に亜鉛と銅板と本発明のインジウム化合物である硫酸インジウムを加えた場合
3 電解液に亜鉛と銅板と酸化インジウムを加えた場合
4 スルファミン酸インジウムのみ添加の場合の電流電位曲線
5 酒石酸カリウム添加後、スルファミン酸インジウムを添加の場合の電流電位曲線
6 スルファミン酸インジウム添加後、酒石酸カリウム添加の場合の電流電位曲線
7 スルファミン酸インジウムのみ添加の場合の電流電位曲線
8 酒石酸カリウム添加後、スルファミン酸インジウム添加の場合の電流電位曲線
9 本発明の化合物を加えない場合
10 本発明の化合物であるスルファミン酸インジウムと酸化鉛を加えた場合
11 インジウムを200ppm添加した亜鉛粉末を使用した場合
12 インジウムを500ppm添加した亜鉛粉末を使用した場合
13 インジウムを1800ppm添加した亜鉛粉末を使用した場合
14 鉄を5ppm含有する亜鉛粉末を使用した場合
15 鉄を4ppm含有する亜鉛粉末を使用した場合
16 鉄を2ppm含有する亜鉛粉末を使用した場合
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、無水銀亜鉛粉末を負極活物質とし、正極活物質として、酸化銀、二酸化マンガン、酸素等を用いるアルカリ電池およびアルカリ電池を用いた時計に関するものである。
【0002】
【従来の技術】アルカリ電池に用いられる亜鉛粉末は、アルカリである電解液により腐食溶解され、それに伴う水素ガス発生や電池性能における自己放電が大きいといった課題があった。また、亜鉛と接触する銅等の集電体により電池を形成しそこからも水素ガスが発生していた。従来、これを防ぐ対策として、亜鉛を水素過電圧の高い水銀でこう化したり、電解液に酸化亜鉛を飽和近くまで加えることが行われていた。
【0003】しかし、近年使用済みの乾電池からの水銀による環境汚染が懸念されるようになり、種々の低水銀、無水銀化のための研究が行われるようになってきた。亜鉛を合金化したり、集電体をめっきしたり、電解液に無機有機のインヒビターを加えたりすることがそれである。
【0004】亜鉛を合金化することは、かなり以前から行われておりビスマス、インジウム、鉛等の金属が検討されてきた。特許としても数多く出願されており、例えば、公25−27822、公33−3204、公63−3942、開1−10861等がある。
【0005】無機インヒビターとしては、インジウム化合物である酸化インジウム、水酸化インジウムが多く研究され、特許としても数多く出願されている。例えば、特公昭51−36450、特開昭49−93831、特開昭49−112125、特開昭59−186255、特開昭59−186256、特開平4−26061がそれである。アルカリ土類金属の化合物を用いものには開49−8727、開49−93831、開49−121926等がある。有機インヒビターとしては開2−86064、開−3−29270等がある。
【0006】一方、集電体においては表面を水素過電圧の高いインジウムやスズをめっきなどの方法でコーティングし、亜鉛との接触による電池の形成を阻止し水素発生を抑えることが行われていた。特許としては、開52−74834、開52−98929、開60−221958、公52−42211等がある。
【0007】従来、このように個々の技術として検討されてきたが、水銀という強力な防食剤があったため、それぞれの技術の特性を理解し組み合わせによる最適化ということあまり行われなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】亜鉛の腐食溶解を防ぐために加えられる水銀は、コスト的に高いばかりでなく、環境を汚染するという大きな問題を含んでいる。また、酸化亜鉛の添加も電解液の粘度を高め伝導率を低下させるという課題を含んでいる。
【0009】無機インヒビターとしての酸化インジウム、水酸化インジウムも多くの問題を含んでいる。酸化インジウムはかせいアルカリである電解液への溶解が極めて悪く、亜鉛粉末や集電体との接触により水素ガスを発生してしまう。これは、酸化インジウムの溶解性が悪く、亜鉛表面や集電体表面を十分に被覆するだけのインジウムイオンを供給できないことと、製造上の不可避不純物により導電性をもってしまった酸化インジウムが亜鉛や集電体と接触し局部電池を形成してしまったためと考えられる。
【0010】水酸化インジウムは酸化インジウムに比べると多少かせいアルカリの電解液に溶解し、その溶解性は、粒子の大きさや結晶性に関係するといわれるが、硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、塩化インジウム等のインジウム化合物に比べると極めて溶解しにくい。そのため、酸化インジウムと同様の課題を生じる。また、両性金属であるインジウムは、水酸化イオンとポリイオンを生じ(無機化学シリーズ7 配位立体化学 著者 新村陽一 発行所 株式会社倍風館 65〜66記述と類似のもの)電解液の粘度を増大するため、電解液の伝導度を落とし電池性能を低下させる。
【0011】電解液に溶解し易いインジウム化合物をインヒビターとして用いることは、従来の溶けにくいインヒビターを用いる場合よりかなりの効果が認められる。しかし、さらにインジウム化合物の特性を活かすには以下のような問題点も解決する必要がある。
【0012】亜鉛の電極電位は、インジウムの析出電位より低いため、インジウムイオンが電解液中に存在すると、亜鉛および亜鉛と接触している集電体上にインジウムが金属として析出する。しかし、インジウムの析出反応に伴い競争反応として水素発生を伴うため、アルカリ電池の液漏れや膨らみといった不良の発生原因となっていた。また、析出しなかったインジウムイオンが水酸化物として沈澱し電解液の導電率を低下させるという問題点があった。
【0013】インジウム化合物の他には、スズ、鉛といった水素過電圧の比較的高い金属の化合物がインヒビターとして用いられているが次のような課題点があった。これらの金属の金属化合物から電解液に供給される金属イオンは亜鉛や集電体表面で還元され金属として析出する。しかし、一種類の金属で表面を覆うと結晶粒が粗大化し、均一に表面を覆うことが出来ず効果が半減してしまう。単一の金属で水素発生を抑えて、しかも放電特性も向上させるということは困難である。また、インジウムなどの化合物は高価であるため、1種だけで使用するとコスト的に高価になる。
【0014】亜鉛の腐食溶解は、亜鉛自体がアルカリ液中の水や水酸基により侵される場合と、亜鉛より貴である集電体の銅や真鍮等の金属との接触により局部電池を形成し溶解してしまうことが考えられる。 そこで、亜鉛に水素過電圧の高い金属を添加し合金化し、腐食溶解を抑制しようという試みが最も多くなされてきた。特にインジウムを加えた場合はその効果が顕著に表れることが知られている。インジウムを例えば400ppm以上と比較的高濃度に加えた亜鉛を用いた場合は、集電体の銅等の接触によりインジウムや亜鉛の一部が一旦溶け出す。次に溶け出したインジウムイオンが集電体上に析出し、インジウムの膜を集電体上に形成するという機構により亜鉛の腐食溶解が抑制されることが考えられる。しかし、亜鉛と集電体の接触の初期においては、集電体上で還元されるインジウムイオンの量が極めて少ないため、水素が還元され水素ガスが発生してしまうという問題点があった。
【0015】亜鉛や集電体を亜鉛より貴な金属の化合物であるインヒビターにより腐食溶解を抑制しようという試みが最も多くなされてきた。しかし、従来の鉄などの不純物の多い亜鉛では、インヒビターを多く用いなければならず、例えば医薬用外劇物で公害物質に成り得る一酸化鉛などを多くいれなければ亜鉛の腐食溶解を抑制することができなかった。さらに、一酸化鉛やインジウム化合物を多くいれると針状結晶が析出し、セパレーターを突き破り短絡を起こしてしまう問題点もあった。
【0016】次に課題をアルカリ電池の中のコインまたはボタン型酸化銀電池に絞って考えると、コインまたはボタン型酸化銀電池は、汞化亜鉛を用いてきたため、水素ガス発生、自己放電等の課題を免れたといっても過言ではない。近年、亜鉛粉末への添加剤、セパレータ、シール剤の改良、ゲル化剤の変更等の努力により、筒型のアルカリ電池は無水銀化されてきた。しかし、構造的に水素ガスの逃げ場のないコインまたはボタン型酸化銀電池では、ガス圧により膨らみや液漏れが起こったり、自己放電等の課題がありの無水銀化は達成されていない。
【0017】ここまで、従来のインヒビターや電池の水分量におけるの問題を記してきた。これらの改良により、アルカリ電池特性はかなり改良できる。しかし、水銀を取り除いた穴を埋めるまでには至っていない。さらに、改善するための課題について以下に記す。
【0018】従来の無機インヒビターだけを用いた場合、実際の電池では電解液の量はかなり少ないため集電体上に均一にインヒビターが行き渡らず金属コーティングされなかったり、負極合剤と集電体の間に気泡があるとそこだけ全く金属コーティングがなされない場所もできてしまうという問題があった。
【0019】集電体をインジウムやスズなどの金属で作製することあるいは、これらの金属でめっきすることはかなり有効な手段である。しかし、スズを用いた場合は、銅の集電体を用いた場合よりは水素ガス発生を抑制できるが、水銀を用いた場合に匹敵するほどの効果は得られていない。
【0020】インジウムを用いた場合は、スズより確かに効果は大きいものの原料が高価でコストアップになってしまうという問題点があった。めっきのインジウムでは、つきまわりが悪く、均一な膜にならなかったり、表面に不純物が残ってしまい効果が薄れてしまうという問題点があった。
【0021】また、金属をコーティングした集電体だけでインヒビターを用いない場合は、放電途中で保存した場合の水素ガス発生への対策が不十分であるという問題があった。さらに、従来効果のあるとされている有機インヒビターであるフッ化炭素・ポリオキシエチレン系やポリオキシエチレンアルキルアミド等を用いても十分な自己放電低下阻止を確保することはできなかった。
【0022】つまり、従来のそれぞれの防食法では十分な効果が得られないという問題点があることがわかった。それぞれのインヒビターの役割を再考察した結果、亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属をコーティングした集電体と各種インヒビターと併用することによりさらによい効果が表れることを見いだした。
【0023】さらに高容量を目指すには、水銀がなくなったことによる電池容量の低下を補わなければならないという課題がある。筒型アルカリ乾電池においては、活物質である亜鉛粉末を増加することが行われているが、スペース的に余裕のないボタン型またはコイン型アルカリ電池ではそれがほとんど不可能であるという問題点があった。
【0024】一方、水銀を含むアルカリ電池を搭載した時計と言う視点でみると、電池交換においては水銀を含む電池は小売り店で回収されるが、時計本体が廃棄されると公害物質である水銀も捨てられるという問題点があった。特に、近年の時計の低価格化に伴い、電池の寿命切れで廃棄させる時計の数が増加する可能性がある。
【0025】
【課題を解決するための手段】電解液または負極活物質中に硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、塩化インジウム等のインジウム化合物をインヒビターとして添加し、インジウムイオンを亜鉛や集電体を覆うに十分な量を電解液中に存在させれば、インジウムを亜鉛および負極集電体にすみやかに析出させることが出来る。水素過電圧が大きいインジウムで亜鉛および集電体を覆うことにより、これらの腐食溶解を防ぐことが出来る。
【0026】さらに、これらのインヒビターを効果的に活用するために、予め電解液に錯化剤を添加し、インジウム化合物の溶解により生成するインジウムイオンを錯化することにより、インジウム析出時の水素発生や析出しなかったインジウムが水酸化物として沈澱し電解液の導電率を低下させるという課題を解決できる。
【0027】一種類の金属の化合物だけのインヒビターを用いることによる問題は、電解液または負極活物質中にインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる2種以上の化合物を添加し、これらの化合物に含まれる金属を合金として亜鉛および負極集電体に析出させるさせることにより解決できる。単一の金属被膜だけでは得られない特性を2種以上の金属を析出させることにより得られる。
【0028】インジウムを比較的高濃度に加えた亜鉛を用いた場合は、亜鉛から溶け出したインジウムイオンが集電体上に析出し、インジウムの膜を集電体上に形成するという機構により亜鉛や集電体の腐食溶解が抑制されることが考えられる。しかし、亜鉛と集電体の接触の初期においては、集電体上で還元されるインジウムイオンの量が極めて少ない。そのため、電解液または負極活物質中に亜鉛より貴なインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物をインヒビターとして添加し、金属イオンを亜鉛や集電体を覆うに十分な量を電解液中に存在させれば、鉛を亜鉛および負極集電体にすみやかに析出させることができ、水素発生を抑制することができる。この場合、亜鉛粉末中のインジウムの量にもよるがインヒビターの添加量は、亜鉛粉末に対し10〜1000ppm程度が好ましい。添加量が少ないと亜鉛や集電体を十分に被覆することができないし、添加量が多すぎる場合は、針状結晶がセパレーターを貫通し短絡を引き起こすという弊害がある。
【0029】鉄の含有率が亜鉛重量に対し4ppm以下である無水銀亜鉛粉末を用い、電解液または負極活物質中にインヒビターとして亜鉛より貴なインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物を添加し、イオンを亜鉛や集電体を覆うに十分な量を電解液中に存在させれば、亜鉛より貴な金属の被膜を亜鉛および負極集電体にすみやかに析出させることができ、亜鉛の腐食溶解およびそれに伴う水素発生を抑制することができる。この場合、インヒビターの添加量は、亜鉛粉末に対し10〜1000ppm程度が好ましい。添加量が少ないと亜鉛や集電体を十分に被覆することができないし、針状結晶がセパレーターを貫通し短絡を引き起こすという弊害がある。
【0030】負極活物質に水素過電圧を高める効果や粉末作製時に粒形を整える効果があるといわれるガリウム、インジウム、鉛、ビスマス、アルミニウム、カルシウム等の金属を少なくとも一種以上含む無水銀亜鉛を用い、水酸化カリウム系の電解液の場合は電池内の水の量が無水銀亜鉛重量1mgあたり0.31〜0.57mg(または、常温で0.31〜0.57μL)、水酸化ナトリウム系の電解液の場合は電池内の水の量が無水銀亜鉛重量1mgあたり0.32〜0.59mg(または、常温で0.32〜0.59μL)とすることにより、ガス発生量が0.03μL/g/day以下かつ自己放電率が4%/年以下であるコインまたはボタン型酸化銀電池を製造することができる。
【0031】さらに、水銀を含有する電池性能に近づけるためには、種々の技術を組み合わせて用いる必要がある。インジウム、鉛、ビスマス、カルシウム、アルミニウム等の金属を添加した無水銀亜鉛合金粉末と電池内の水分を保つためのゲル剤を負極合剤とし、最外層が亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属によりコーティングされた集電体を用い、さらに電解液または負極活物質中にインジウム化合物、酸化鉛、アルカリ土類金属の水酸化物、ポリオキシエチレン基を持つ界面活性剤から選ばれるインヒビターを添加することにより、水素ガス発生が少なく電気特性の良好な電池を得ることができる。
【0032】特に、集電体のコーティングにおいては、必須元素として亜鉛を含み、選択元素としてインジウム、鉛、スズから選ばれる1種以上を含む合金層を設けることにより、水素ガス発生を抑制でき、しかもコスト的に有利なアルカリ電池を提供することができる。
【0033】さらに、水銀をなくしたことで自己放電が増加し容量が低下するという問題があるが、ある程度集電体の亜鉛合金層を厚くすることにより、電池缶内のスペースをあまり変化させずに電池の容量を増加することができる。
【0034】
【作用】硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、塩化インジウム等のインジウム化合物は濃厚かせいアルカリ溶液で溶解し、めっきで言うカソード還元可能なアルカリ錯イオンを形成する。
【0035】インジウムのアルカリ錯イオンは、自己の還元電位より低い電位を示す亜鉛表面還元されインジウムが金属としてすみやかに析出する。また、銅等の集電体は亜鉛と接触しているため、亜鉛と同じ電位になり、インジウムが同様に析出する。初期的に亜鉛および集電体表面がインジウムで覆われると、表面は総てインジウムの電位となり電気化学的な駆動力が失われるため、それ以上インジウムは析出しなくなる。しかし、放電により新たに亜鉛面が露出すれば、アルカリ錯イオンとして存在するインジウムが速やかに還元され析出する。
【0036】インジウム化合物のインヒビターは錯化剤を加えることによりさらに効果的に機能する。インジウムのアルカリ錯イオンや水和したインジウムイオンは不安定であるため、錯化剤がないと沈澱して電解液に溶けなかったり、溶けても僅かな環境の変化により水酸化物として沈澱したり、ポリイオン(無機化学シリーズ7配位立体化学 著者 新村陽一 発行所 株式会社倍風館 65〜66記述と類似のもの)として粘凋溶液に変化しやすいためである。また、インジウムのアルカリ錯イオンや水和したインジウムイオンは、不安定で析出電位は低いが電位の範囲が広く析出時に水素ガス発生も誘起されてしまう。そのため、酒石酸塩やEDTAで錯化すれば、安定な錯イオンとなりインジウムの析出電位の範囲を狭くでき、しかも水素の析出電位から分離することができ、水素発生を伴わずインジウムだけを析出することが出来る。
【0037】インジウム以外に、スズや鉛も、亜鉛よりイオン化傾向が小さいため、電解液中にこれらの金属のイオンを存在させれば、亜鉛表面にこれらの金属を析出させることが出来る。また、集電体は亜鉛と接触しているため、亜鉛と同じ電位になり、前記の金属が析出する。インジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛等を混ぜることにより、腐食溶解がさらに抑えられることの作用は定かではないが次のようなことが考えられる。
【0038】ひとつは、これらの金属が亜鉛や集電体上に析出するさいに合金化が起こるのではないかということである。合金化は、析出金属の結晶を微細化し、均一な欠陥のない膜で亜鉛および集電体の表面を覆う。例えば、インジウム−スズの合金であれば、アトミック%で約50:50の共晶点付近の組成を狙えば結晶は微細化する。3元系の合金であれば結晶はさらに複雑化し、結晶粒が粗大化するのを阻止するため均一な膜が得られやすくなる。
【0039】もうひとつは、それぞれの金属の持つ特性が混ぜることにより同時に活かせることである。特に、鉛においては、単独に用いると針状結晶が析出し、亜鉛や集電体の表面を均一に覆うことが出来ず、効果がそれほどでない。しかし、電池組立時にインジウム化合物や4価のスズ含むスズ化合物含む電解液を先にいれ、次に酸化鉛を含む電解液をいれると、亜鉛や集電体は比較的均一な膜を形成するインジウムやスズ覆われ次に鉛の針状結晶を有する膜で覆われる。均一なインジウムやスズの膜は、亜鉛や集電体の腐食溶解を抑制し、針状結晶を有する鉛の膜は亜鉛や集電体の電気的なコンタクトを強め、耐衝撃性や放電特性を高める。
【0040】純亜鉛等の水素発生の大きい負極活物質では、表面での金属の析出と競争反応として起こる水素発生のため均一の膜ができにくく、析出金属の効果が少なくなる。そのため、亜鉛にインジウム、ビスマス、鉛、アルミニウム、カルシウム、ガリウム等を加え、ある程度水素発生を抑制した負極活物質を用いた法が効果的である。
【0041】亜鉛に水素過電圧の高い金属を添加し合金化し、腐食溶解を抑制しようという試みが最も多くなされてきた。特にインジウムを加えた場合はその効果が顕著に表れることが知られている。インジウムを例えば400ppm以上と比較的高濃度に加えた亜鉛を用いた場合は、集電体の銅等の接触によりインジウムや亜鉛の一部が一旦溶け出す。次に溶け出したインジウムイオンが集電体上に析出し、インジウムの膜を集電体上に形成するという機構により亜鉛の腐食溶解が抑制されることが考えられる。しかし、亜鉛と集電体の接触の初期においては、集電体上で還元されるインジウムイオンの量が極めて少ない。そのため、電解液または負極活物質中に亜鉛より貴なインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物をインヒビターとして添加し、金属イオンを亜鉛や集電体を覆うに十分な量を電解液中に存在させれば、鉛を亜鉛および負極集電体にすみやかに析出させることができ、水素発生を抑制することができる。
【0042】亜鉛中に鉄が多いと、亜鉛表面で鉄が露出しているところが多くなってしまう。表面の亜鉛と鉄は電解液中で局部電池を形成し、亜鉛が溶解し鉄からは水素が発生することになる。水素が発生している場所はインヒビターによる被膜が形成されにくく、インヒビターの効果が得られにくい。
【0043】鉄の含有率が亜鉛重量に対し4ppm以下である無水銀亜鉛粉末を用い、電解液または負極活物質中にインヒビターとして亜鉛より貴なインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物を添加し、イオンを亜鉛や集電体を覆うに十分な量を電解液中に存在させれば、亜鉛より貴な金属の被膜を亜鉛および負極集電体にすみやかに析出させることができ、亜鉛の腐食溶解およびそれに伴う水素発生を抑制することができる。
【0044】インヒビターの添加量は、亜鉛粉末に対し10〜1000ppm程度が好ましい。添加量が少ないと亜鉛や集電体を十分に被覆することができないし、針状結晶がセパレーターを貫通し短絡を引き起こすという弊害がある。一般にガリウム、インジウム、鉛、ビスマスは水素過電圧が高く、亜鉛に加えると水素ガス発生を抑制するといわれている。アルミニウム、カルシウムはアトマイズによる亜鉛粉末製造時に表面を滑らかにし、亜鉛粉末の表面積を減少させ、同様に水素ガス発生を抑制するといわれている。
【0045】また、作用は定かではないが電解液を液漏れの許す限り多くすることで、水素ガス発生および自己放電を抑制することができる。さらに電解液を増やすことにより、水素ガス発生および自己放電を抑制するために加えるインヒビターの絶対量を増やすことも可能となり、インヒビター効果も増加することが考えられる。
【0046】無水銀電池がこう化亜鉛の入った電池の性能に近づくためには、種々の技術の特徴を理解しそれらを組み合わせて用いなければならない。以下、個々の技術の作用について示す。亜鉛にインジウム、鉛、ビスマス、カルシウム、アルミニウム等の金属を添加するのは、大まかに言うと腐食溶解を防止し水素ガス発生を抑制するためである。しかし、各添加金属の役割はさまざまである。インジウム、鉛、ビスマス等の水素過電圧の高い金属は、亜鉛と合金化し水素過電圧を高め腐食溶解を防止する。一方、カルシウムやアルミニウムは、アトマイズによる作製時、合金表面を滑らかにする結果、電位分布を平均化し亜鉛粒子の表面積を低下させるため、腐食溶解防止に有効である。また、腐食溶解で亜鉛表面に水素が発生するとそこにインヒビターが供給されずインヒビターの効果も発揮できない。その意味でも本発明の金属添加による亜鉛の合金化は重要である。
【0047】ゲル剤として用いる架橋型ポリアクリル系の吸水性ポリマーは保水性が強く、電解液が、蒸発したり、必要以上にセパレーターや正極側に移動するのを防ぐ。そのため、インヒビターが隅々まで行き渡ったり、放電末期の液不足による内部抵抗の上昇を抑制したりすることができる。
【0048】集電体の最外層に亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の層を形成するのは、負極活物質である無水銀亜鉛粉末と集電体の銅が接触し電池を形成しそこからも水素ガスが発生するのを防ぐためである。また、集電体を含む負極缶のプレス加工後に、亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の層を形成すれば、加工時に集電体側に付着してしまった鉄等の不純物を遮蔽することができる。
【0049】特に、集電体表面に必須元素として亜鉛を含み、選択元素としてインジウム、鉛、スズから選ばれる1種以上を含む合金層を設けることは有効である。集電体表面と負極活物質である無水銀亜鉛表面の電位がほぼ等しくなるためである。そのため、集電体と負極活物質である無水銀亜鉛粉末が接触しても局部電池を形成しそこから水素ガスが発生することがなくなる。
【0050】集電体に亜鉛のみをめっきしても、電位差がなくなり効果が期待されそうであるが、めっき等で析出させた亜鉛は非常に活性で腐食され易いため水素ガス発生を抑制する効果は少ない。そのため、亜鉛中にインジウムや鉛を数10ppm以上加えた合金をめっきする必要がある。めっき処理においては、めっき液は一般の亜鉛めっき液に数10〜数1000ppmインジウム化合物や鉛化合物やスズ化合物を加えたものを用い、陽極は亜鉛合金を用いれば良い。例えば、硫酸亜鉛系のめっき液の場合は硫酸インジウムを、シアン系のめっき液の場合はシアン化インジウムを加えれば良い。
【0051】インヒビターには無機系と有機系がある。そのなかでも無機インヒビターは大別すると2種類ある。一つは亜鉛より貴で水素過電圧の高い金属の化合物である。例えば、前述の硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、塩化インジウム、水酸化インジウム等のインジウム化合物がそれであり、これらは濃厚かせいアルカリ溶液で溶解し、めっきで言うカソード還元可能なアルカリ錯イオンを形成する。インジウムのアルカリ錯イオンは、自己の還元電位より低い電位を示す亜鉛表面で還元されインジウムが金属としてすみやかに析出する。初期的に亜鉛がインジウムで覆われると、表面は総てインジウムの電位となり電気化学的な駆動力が失われるため、それ以上インジウムは析出しなくなる。しかし、放電により新たに亜鉛面が露出すれば、アルカリ錯イオンとして存在するインジウムが速やかに還元され析出する。そのため、放電を途中でやめ保存した場合でも水素ガス発生が少なく、自己放電率を小さくするという効果がある。
【0052】亜鉛と接触している銅等の集電体上でも自己の還元電位より低い電位を示すためインジウムのアルカリ錯イオンは還元されインジウムが金属としてすみやかに析出する。しかし、実際の電池では電解液の量はかなり少ないため集電体上に均一にインヒビターが行き渡らず金属コーティングされなかったり、負極合剤と集電体の間に気泡があるとそこだけ全く金属コーティングがなされない場所もできてしまい十分な効果が発揮できなかった。一酸化鉛や4価のスズ化合物もこの種の無機インヒビターである。
【0053】無機インヒビターのもう一つは亜鉛より卑な金属または非金属の酸化物や水酸化物である。作用は定かではないが、水素ガス発生の抑制と電気特性改善に効果があり、代表的なものにアルカリ土類金属の水酸化物である水酸化バリウムなどがある。しかし、最外層に亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の層を有さない集電体を用いた場合は、集電体と亜鉛の接触による水素ガス発生が大きすぎその効果がほとんど表れない。
【0054】有機系の界面活性剤は、親水基が亜鉛表面に吸着し疎水基が水や水酸基が表面に近づくのを抑えるため亜鉛の腐食溶解を抑制する。効果としては、アルカリ金属の水酸化物に類似しており、最外層に亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の層を有する集電体と併用することが望ましい。
【0055】また、作用は定かではないがポリオキシエチレンアルキルアミドと水酸化バリウム等のを併用すると著しい水素ガス発生抑制効果が得られる。ただし、有機界面活性剤はインジウム化合物や一酸化鉛との併用において亜鉛や集電体表面に過剰に吸着し、表面での還元を阻害する可能性があるため、添加量は効果のでる範囲で極力少なめにすることが望ましい。
【0056】亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の集電体へのコーティングは亜鉛と集電体の接触による水素ガス発生を抑え、インジウム化合物や一酸化鉛は部分放電後の自己放電を抑え、アルカリ土類の水酸化物は電気的な特性を改善するというそれぞれの役割があり、それらを併用したとき最大の効果が得られることを見いだした。すなわち、最外層に亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の層を有する集電体を用い、インヒビターとしてインジウム化合物、酸化鉛、アルカリ土類金属の水酸化物、ポリエチレンオキサイドを持つ界面活性剤から選ばれる1種以上の物質を添加し、アルカリ電池を作製すれば、未使用時および部分放電後の自己放電率が小さくしかも電気特性の良いものが得られる。
【0057】集電体に亜鉛合金をコーティングした場合、亜鉛合金はそのまま負極活物質となるため、集電体表面の亜鉛合金層を厚くすることにより、無水銀化で目減りした電池容量を補填することができる。例えば、直径6mmの集電体に10μmめっきすると、亜鉛の比重は7.13であるから負極活物質量は2mg増えることになる。亜鉛粉末としての負極活物質量が30mgとすると電池缶内のスペースをあまり変化させずに約6.7%容量を増加できることになる。ただし、粉末の負極活物質にに比べると表面積が小さいため大電流は期待できない。しかし、時計用電池のように微小放電を行う電池の容量向上には最適である。
【0058】また、亜鉛合金めっきを厚くすることは、電池缶の加工においても有利である。一般に負極集電体を有する負極缶はフープ材を打ち抜いてつくることが多い。この場合、フープ材の集電体となる側に厚めに亜鉛合金をめっきしておけば、加工において下地である例えば銅などの金属が露出する確立が減少することになる。
【0059】
【実施例】以下、実施例により本発明を説明する。実施例1〜3、比較例1により、本発明のインジウム化合物を用いた場合の効果について説明する<実施例1>容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したビスマス、インジウム、鉛をそれぞれ500ppm含む亜鉛粉末2gと面積0.6c、厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片を予め入れ、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。テストの繰り返し数は10回とし、結果はその平均値を用いた。電解液は、水酸化カリウム系の場合水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それにインジウム化合物を添加して調整した。
【0060】硫酸インジウムは日本化学産業株式会社製、スルファミン酸インジウムは同じく日本化学産業株式会社製の35%溶液、塩化インジウムは和光純薬株式会社製、シアン化インジウムは伊藤薬品株式会社製を用いた。ンジウム化合物の添加量は、電解液に対し1000ppmとした。結果を表1の水素発生量に示した。単位はμL/g/day。
【0061】<比較例1>実施例1と同様の試験で本発明のインジウム化合物をいれないもの、および酸化インジウムを電解液に対し1000ppm入れたものの測定を行った。酸化インジウムは関東化学株式会社製を用いた。結果を同じく表1の水素発生量に示した。単位はμL/g/day。
【0062】
【表1】
図1に水酸化カリウム系の電解液を用いたサンプルの試験日数に対する水素ガス発生量を示した。図中の1に示したインジウム化合物未添加のものは試験日数に対し、指数関数的に水素発生量が増加することがわかった。本発明のインジウム化合物である図中の2の硫酸インジウムを添加したものは、水素ガスの発生を抑えていることがわかる。図中の3の酸化インジウムを加えたものは、前半の水素ガス発生が多い。これは、酸化インジウムの溶解性が悪く、電解液へのインジウムイオンの供給が十分でなく、亜鉛および銅の表面を被覆するのに時間がかかるためと考えられる。
【0063】また、前半において未添加のものより悪い結果になっているのは、やはり酸化インジウムが亜鉛や集電体と接触し局部電池を形成してしまったためと考えられる。シアン化インジウムは特性的に良好な結果を示したが、新たなる公害問題を発生する可能性があるため使用しないことが望ましい。
【0064】<実施例2>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mg、インヒビター等を加え、電解液の残りを適下した後負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個ずつ作製した。実施例1と同じ亜鉛と表1の電解液を用い、電池サイズはSR621型とした。
【0065】ただし、インジウムの添加量は、亜鉛量に対して1000ppmとした。結果を表1の放電指数に示した。放電特性は、抵抗200Ωを用い、電解液が水酸化カリウム系の場合は直流法、水酸化ナトリウムの場合はパルス法で測定した。いずれの場合も、インヒビター無添加を放電指数100とした。結果からもわるように、本発明のインジウム化合物は、放電特性においても有効であることがわかった。
【0066】<実施例3>実施例2同様にして水素を透過させるために特別につくったポリプロピレンのガスケットを用いボタン型酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池10個を高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に目盛りのついた捕集管を取り付け、発生する水素ガスの量を測定した。この状態で約1年の期間に相当するといわれる60℃、20日間保ち、20日後の水素ガス発生量を調べた。インヒビターとしは、硫酸インジウムを用い亜鉛の重量に対し10ppm〜5%の濃度でテストをした。評価結果を図2に示した。図より100ppm〜1%でインヒビターが効果的に働くことがわかる。
【0067】ポリプロピレンのガスケットをナイロン製のものにもどし、ガス発生の少なかった硫酸インジウム濃度100ppm〜1%の範囲でボタン型酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池を同様に10個 25℃に保った高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に発生する水素ガスの捕集管を取り付けた。60℃、20日間後では、水素ガス発生、缶の膨らみ、液漏れは認められなかった。硫酸インジウムでは亜鉛に対して100ppm〜1%濃度で有効であったが他のインジウム化合物でもモル数を合わせ、濃度範囲を決定することにより同様の効果が認められた。
【0068】実際の電池試作では、実施例1の実験の水素ガス発生量より小さい値となっている。これは、実施例1で用いた銅片が実際の集電体の構造と違うことや発生した水素ガスの1部が酸化銀の還元によって消費されてしまったことなどが考えられる。実施例1の方法は水素ガス発生の量オーダーは違うが、実際の電池での水素発生を予測する代用特性を見る方法としては十分なものである。
【0069】実施例4〜7により、インジウム化合物と本発明の錯化剤を用いた場合の効果について説明する<実施例4>水酸化カリウム30重量%の電解液に作用極として1cm2 の白金極、対極として同様に1cm2 の白金極、参照極として東亜電波工業株式会社製比較電極HC−205Cを用いインジウム析出時の電流電位曲線を求めた。電位はプラス側からマイナス側へ100mV/秒の速さで走査した。各電位に対する電流は、電極での反応を示し、例えばインジウムが析出したり、水素ガスが発生したりなどの還元反応が起こればそれに起因する電流が流れる。
【0070】図3に結果を示した。図中の4は電解液にスルファミン酸インジウムを0.1mol/L加えた場合で、参照極に対し−1.1V付近から電流が流れ出し、水素発生を伴いインジウムが析出する。5は電解液に0.1mol/Lの酒石酸カリウムを加えた後、スルファミン酸インジウムを0.1mol/L加えた場合の電流電位曲線である。インジウムは−1.4V付近で析出し、水素は−2.0V付近以下で発生することがわかった。これは、電極表面に水素過電圧の高いインジウムが析出したため、水素発生の電位がマイナス側にシフトしたものと考えられる。
【0071】これにより、インジウムの析出と水素発生の電位を分離することが出来た。実際の電池でもインジウムが先に析出すれば水素ガス発生はさらに小さくなるものと考えられる。電解液にスルファミン酸インジウムと酒石酸カリウムを加える場合、スルファミン酸インジウムを先に加えると水酸化インジウムやポリイオンが生成し、白濁するが、酒石酸カリウムを先に入れると白濁しない。
【0072】図3の6に電解液にスルファミン酸インジウムを0.1mol/L加えた後、0.1mol/Lの酒石酸カリウムを加えた場合の電流電位曲線を示した。図中−1.4V付近で、多少インジウムと思われる小さなピークが観測されるが、インジウムは酒石酸カリウムを加えなかったときと同様参照極に対し−1.1V付近から水素発生を伴い析出し、錯化剤を加えた効果が少なくなる。これは他のインジウム化合物や錯化剤についてもいえることで、速やかにインジウムの錯イオンを形成させ、沈澱を防ぐるためには電解液に錯化剤を先に溶解しておく必要がある。
【0073】<実施例5>水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた電解液に作用極として1cm2 の白金極、対極として同様に1cm2 の白金極、参照極として東亜電波工業株式会社製比較電極HC−205Cを用いインジウム析出時の電流電位曲線を求めた。図4に結果を示した。図中の7は電解液にスルファミン酸インジウムを0.1mol/L加えた場合で、参照極に対し−1.56V付近から水素発生を伴い金属が析出した。この金属の析出電位は、酸化亜鉛を入れなかった場合より低いため亜鉛とインジウムの合金である可能性がある。
【0074】8は電解液に0.1mol/Lの酒石酸カリウムを加えた後、スルファミン酸インジウムを0.1mol/L加えた場合の電流電位曲線である。−1.5V付近にインジウムの析出と思われるピークがあり、その後、−1.56V付近から水素発生を伴い金属が析出した。−1.5V付近の析出物を確認するため電位を−1.5Vで30秒ホールドし析出させた金属を硝酸に浸漬した。亜鉛で有れば瞬時に溶解するが、難溶であったため析出物はインジウムまたはインジウムの多い合金であることが推測される。
【0075】亜鉛の電極電位は測定の結果、参照電極に対し−1.509Vであった。ちょうど錯化剤を含んだ溶液での、インジウムまたはインジウムの多い合金だけが析出する電位に相当する。つまり、インジウムまたはインジウムの多い合金が亜鉛や亜鉛と接触する集電体に析出し、亜鉛や集電体の腐食溶解を防止する。
【0076】<実施例6>容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したビスマス、インジウム、鉛をそれぞれ500ppm含む亜鉛粉末2gと面積0.6cm2 、厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片を予め入れ、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。テストは繰り返し数10とし、結果はその平均値を用いた。
【0077】電解液は、水酸化カリウム系の場合水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それに錯化剤、インジウム化合物を添加して調整した。
【0078】硫酸インジウムは日本化学産業株式会社製、スルファミン酸インジウムは同じく日本化学産業株式会社製の35%溶液、塩化インジウムは和光純薬株式会社製、シアン化インジウムは伊藤薬品株式会社製を用いた。インジウム化合物の添加量は、電解液に対し1000ppm、錯化剤の添加量はインジウムイオンのモル比で2倍過剰とした。
【0079】表2に錯化剤を加えずにインジウム化合物を添加したときの結果を示した。表3に錯化剤を添加した場合の水素発生量に示した。表3の水素発生指数は表2の錯化剤以外は同じ電解液を用いた試験の水素発生量を100とした値である。水素ガス発生量を見ると、電流電位曲線から推測されるように水素発生が抑制されていることがわかる。シアン系も効果が認められるがシアン系は新たな公害問題を導く可能性があるため用いない方が無難である。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
<実施例7>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mg、インヒビター等を加え、電解液の残りを適下した後負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個ずつ作製した。実施例6と同じ亜鉛と表2の電解液を用い、電池サイズはSR621型とした。
【0082】ただし、インジウムの添加量は、亜鉛量に対して1000ppmとし、錯化剤の添加量はインジウムイオンのモル比で2倍とした。放電特性は、抵抗200Ωを用い、電解液が水酸化カリウム系の場合は直流法、水酸化ナトリウムの場合はパルス法で測定した。いずれの場合も、錯化剤無添加を放電指数100とした。結果を表2の右の放電指数に示した。グリシンの効果は少なめであるが、試したすべての錯化剤について効果が認められた。
【0083】以上代表的なインジウム化合物および錯化剤について実施例をもとに説明したが、インジウム化合物、錯化剤の効果は、実施例4、5に示したと同様に電流電位曲線を求めれば簡単に推測できる。同様の効果を示す他のインジウム化合物、錯化剤であっても本発明に応用できることは言うまでもない。また、実施例4では銀電池につての例を記載したが、亜鉛を用いるアルカリマンガン電池、空気電池等でも同様の効果が期待できる。
【0084】また、純亜鉛等の水素発生の大きい負極活物質では、表面にインジウム析出と競争反応として起こる水素発生のため均一の膜ができにくく、インジウム析出の効果が少なくなる。そのため、亜鉛にインジウム、ビスマス、鉛、アルミニウム、ガリウム、カルシウム等を加え、ある程度水素発生を抑制した負極活物質を用いた方が効果的である。
【0085】実施例8〜11に、本発明のインヒビターとしてインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる2種以上を用いた場合の効果について説明する<実施例8>容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したビスマス、インジウム、鉛をそれぞれ500ppm含む亜鉛粉末2gと面積0.6cm2 、厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片を予め入れ、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。
【0086】テストは繰り返し数10とし、結果はその平均値を用いた。電解液は、水酸化カリウム系の場合は水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合は水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それに硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、スズ酸ナトリウム、酸化鉛から選ばれる化合物を添加して調整した。
【0087】硫酸インジウム、スズ酸ナトリウムは日本化学産業株式会社製、スルファミン酸インジウムは同じく日本化学産業株式会社製の35%溶液、酸化鉛は和光純薬株式会社製を用いた。化合物の添加量は、電解液に対し合計で1000ppmとした。結果を表4の水素発生量に示した。
【0088】
【表4】
比較のため、実施例8と同じ実験で銅板をいれない実験結果を表4の1〜4、16〜19に示した。また、化合物をいれない実験の結果を表4の31に示した。図5に表4の31とガス発生の少なかったスルファミン酸インジウムと酸化鉛の組み合わせである表4の12の試験日数に対する水素ガス発生量を示した。化合物未添加のもの9は試験日数に対し、指数関数的に水素発生量が増加することがわかり、スルファミン酸インジウムと酸化鉛を加えたもの10は、水素ガスの発生を抑制していることがわかる。
【0089】酸化鉛は表4の3、4のデータからわかるように水素発生量が比較的多い。これは、鉛が析出するとき、針状結晶を生じ亜鉛や集電体の表面を均一に覆うことができないためと考えられる。組み合わせでみるとインジウムの化合物と酸化鉛の組み合わせが特によく、水素発生を抑制し放電特性を向上させていることがわかる。
【0090】<実施例9>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータをのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mgをいれ、硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、スズ酸ナトリウム、酸化鉛から選ばれる化合物を加えた電解液の残りを適下した後、負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個ずつ作製した。
【0091】実施例8と同じ亜鉛と表4の電解液組成を用い、電池サイズはSR621型とした。ただし、化合物の添加量は、亜鉛量に対して1000ppmとした。結果を表4の放電指数に示した。放電特性は、抵抗200Ωを用い、電解液が水酸化カリウム系の場合は直流法、水酸化ナトリウムの場合はパルス法で測定した。いずれの場合も、インヒビター無添加を放電指数100とした。結果からもわるように、本発明は、放電特性においても有効であることがわかった。
【0092】特に酸化鉛を加えたものは針状結晶のによる電気的コンタクトの向上により放電指数は他のものよりよい。組み合わせでみるとインジウムの化合物と酸化鉛の組み合わせが特によく、水素発生を抑制し放電特性を向上させていることがわかる。インジウムが亜鉛や集電体からのガス発生を抑え、鉛が放電特性を向上させていることが想像できる。
【0093】<実施例10>実施例9同様にして水素を透過させるために特別につくったポリプロピレンのガスケットを用いボタン型酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池10個を高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に目盛りのついた捕集管を取り付け、発生する水素ガスの量を測定した。この状態で約1年の期間に相当するといわれる60℃、20日間保ち、20日後の水素ガス発生量を調べた。添加化合物としは、硫酸インジウム、酸化鉛を重量比で1:1で用い亜鉛の重量に対し合計で10ppm〜5%の濃度でテストをした。評価結果を図6に示した。図より50ppm〜1%で添加化合物が効果的に働くことがわかる。
【0094】ポリプロピレンのガスケットをナイロン製のものにもどし、ガス発生の少なかった硫酸インジウムと酸化鉛を用い濃度50ppm〜1%の範囲でボタン型酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池を同様に10個60℃に保った高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に発生する水素ガスの捕集管を取り付けた。60℃、20日間後では、水素ガス発生、缶の膨らみ、液漏れは認められなかった。
【0095】硫酸インジウムと酸化鉛では亜鉛に対して50ppm〜1%濃度で有効であったが他の化合物の組み合わせでもモル数を合わせ、濃度範囲を決定することにより同様の効果が認められた。実際の電池試作では、実施例8の実験の水素ガス発生量より小さい値となっている。これは、実施例8で用いた銅片が実際の集電体の構造と違うことや発生した水素ガスの1部が酸化銀の還元によって消費されてしまったことなどが考えられる。実施例8の方法は水素ガス発生の量オーダーは違うが、実際の電池での水素発生を予測する代用特性を見る方法としては十分なものである。
【0096】<実施例11>実施例9同様にして水素を透過させるために特別につくったポリプロピレンのガスケットを用いボタン型酸化銀電池を作製した。ただし、電解液は亜鉛に対し500ppmの硫酸インジウムと酸化鉛の2種類つくり、順番を変えて2度に分けて加えた。作製したボタン型酸化銀電池につて実施例9同様に60℃、20日間の試験を行った。硫酸インジウムを先に加えた方は、水素発生量が0.10μL/g/day、酸化鉛を先に加えた方は0.15μL/g/dayであった。結果からもわかるように水素ガス発生に対し、硫酸インジウムを先に加えた方が効果が大きい。
【0097】実施例12〜14により、インジウムを含む亜鉛に本発明のインヒビターとしてインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物を用いた場合の効果について説明する<実施例12>容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したインジウムを含む亜鉛粉末2gと面積0.6c 厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片を予め入れ、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。テストは繰り返し数10とし、結果はその平均値を用いた。電解液は、水酸化カリウム系の場合水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それに一酸化鉛等の本発明のインヒビターを添加して調整した。
【0098】表5にインジウムの亜鉛粉末への添加量、一酸化鉛の添加量に対する水素ガスの発生量を示した。一酸化鉛の添加量は、電解液に対しppmで示した。結果も表5の水素発生量に示した。
【0099】
【表5】
図7に水酸化カリウム系の電解液での水素ガス発生結果を示した。図中の11はインジウムを200ppm添加した亜鉛粉末を用いた場合で、一酸化鉛の添加量が100〜400ppm程度で水素発生を抑制する効果がある。12はインジウムを500ppm添加した亜鉛粉末を用いた場合で、一酸化鉛の添加量が10ppm以上で水素発生を抑制する効果がる。13はインジウムを1800ppm添加した亜鉛粉末を用いた場合で2と同等の濃度範囲で効果がある。特にこのようにインジウムを高濃度添加した場合、一酸化鉛の添加量100ppm以下の効果が顕著で、公害物質としての鉛の添加量を削減することができる。
【0100】<実施例13>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータをのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mg、インヒビター等を加え、電解液の残りを適下した後負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個づつ作製した。電池サイズはSR621型とした。一酸化鉛の添加量は、亜鉛量に対する量となるよう電解液をつくりなおした。これらを60℃、20日間保存し、自己放電率を測定した結果を表6に示した。
【0101】
【表6】
結果からもわるように、インジウムを500ppm添加した亜鉛粉末においては一酸化鉛を100〜1000ppm、インジウムを1800ppm添加した亜鉛粉末においては一酸化鉛を10〜1000ppm添加すれば電池容量減少が抑制されることがわかる。一酸化鉛の高濃度の添加で電池容量が下がるのは、過剰の添加により、鉛の針状結晶が成長し短絡が起こったためではないかと考えられる。
【0102】<実施例14>水素を透過させるために特別につくったポリプロピレンのガスケットを用いた以外は実施例13同様にしてボタン型酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池10個を高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に目盛りのついた捕集管を取り付け、発生する水素ガスの量を測定した。この状態で約1年の期間に相当するといわれる60℃、20日間保ち、20日後の水素ガス発生量を調べた。結果を表6に示した。
【0103】実施例からわかるように電解液では水酸化カリウム系に比べて水酸化ナトリウム系の方が、水素発生も穏やかで自己放電も少ない。また、亜鉛粉末中のインジウム含量が多いほど、良い結果が得られ一酸化鉛の添加量も小量で済む。実際の電池試作では、実施例12の実験の水素ガス発生量より小さい値となっている。これは、実施例12で用いた銅片が実際の集電体の構造と違うことや発生した水素ガスの1部が酸化銀の還元によって消費されてしまったことなどが考えられる。実施例12の方法は水素ガス発生の量オーダーは違うが、実際の電池での水素発生を予測する代用特性を見る方法としては十分なものである。
【0104】同様の実験を一酸化鉛の他に、インジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物およびこれらの混合物について行った。その結果は、ほぼ一酸化鉛の時と同じで、インジウムを500ppm添加した亜鉛粉末においてはインヒビターを100〜1000ppm、インジウムを1800ppm添加した亜鉛粉末においてはインヒビターを10〜1000ppm添加すれば電池容量減少が抑制されることがわかった。
【0105】実施例15〜17により、鉄が4ppm以下の亜鉛に本発明のインヒビターとしてインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物を用いた場合の効果について説明する。
<実施例15>亜鉛粉末は、アトマイズ法で作製したガリウム100ppm、インジウム200ppm、鉛500ppm、アルミニウムを450ppm含み、さらに鉄を5ppm含むものを用いた。亜鉛粉末中の鉄の濃度は磁石で除鉄する事により調整した。除鉄後の濃度は原子吸光法で確認した。
【0106】水素発生テストは、容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管に亜鉛粉末2gと面積0.6c 厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片を予め入れ、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定することにより行った。。テストは繰り返し数10とし、結果はその平均値を用いた。電解液は、水酸化カリウム系の場合水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それにインヒビターとして一酸化鉛等を添加して調整した。
【0107】表7に亜鉛粉末中の鉄の濃度、インヒビターの添加量に対する水素ガスの発生量を示した。インヒビターの添加量は、電解液に対しppmで示した。結果も表7の水素発生量に示した。
【0108】
【表7】
図8に水酸化カリウム系の電解液での水素ガス発生結果を示した。図中の14は鉄の濃度が5ppmの亜鉛粉末を用いた場合で、他の二つに比べ全体的に水素発生量が多い。15は鉄の濃度が4ppmの亜鉛粉末を用いた場合で、一酸化鉛の添加量が10ppm以上で水素発生を抑制する効果がる。16は鉄の濃度が2ppmの亜鉛粉末を用いた場合で2と同等の濃度範囲で効果がある。特に不純物としての鉄を4ppm以下とした場合、一酸化鉛の添加量100ppm以下の効果が顕著で、公害物質としての鉛の添加量を削減することができる。
【0109】本実施例では磁石により除鉄し、鉄の濃度を下げた実験について記したが、亜鉛粉末の製造工程での精製により除鉄した亜鉛についての実験でもほぼ同様の結果が得られた。
<実施例16>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータをのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mg、インヒビター等を加え、電解液の残りを適下した後負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個づつ作製した。電池サイズはSR621型とした。一酸化鉛の添加量は、亜鉛量に対する量となるよう電解液をつくりなおした。
【0110】これらを常温の1年間に相当するといわれる60℃、20日間保存し、自己放電率を測定した結果を表8に示した。
【0111】
【表8】
結果からもわるように、鉄が4ppm以下の亜鉛粉末用いた電池においては、一酸化鉛を10〜1000ppm添加すれば自己放電率を4%以下に抑制できることがわかる。一酸化鉛の高濃度の添加で電池容量が下がるのは、過剰の添加により、鉛の針状結晶が成長し短絡が起こったためではないかと考えられる。
【0112】<実施例17>水素を透過させるために特別につくったポリプロピレンのガスケットを用いた以外は実施例16同様にしてボタン型酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池10個を高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に目盛りのついた捕集管を取り付け、発生する水素ガスの量を測定した。この状態で約1年の期間に相当するといわれる60℃、20日間保ち、20日後の水素ガス発生量を調べた。結果を表8に示した。
【0113】実施例からわかるように電解液では水酸化カリウム系に比べて水酸化ナトリウム系の方が、水素発生も穏やかで自己放電も少ない。また、亜鉛粉末中の鉄含量が少ないほど、良い結果が得られ一酸化鉛の添加量も小量で済む。実際の電池試作では、実施例15の実験の水素ガス発生量より小さい値となっている。これは、実施例15で用いた銅片が実際の集電体の構造と違うことや発生した水素ガスの1部が酸化銀の還元によって消費されてしまったことなどが考えられる。
【0114】実施例15の方法は水素ガス発生の量オーダーは違うが、実際の電池での水素発生を予測する代用特性を見る方法としては十分なものである。同様の実験を一酸化鉛の他に、インジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物およびこれらの混合物について行った。その結果は、ほぼ一酸化鉛の時と同じで、インヒビター10〜1000ppm添加すれば自己放電率を4%以下に抑制できることがわかった。
【0115】本発明では、最も混入しやすく、水素発生の危険性の高い鉄について記したが、ニッケル、コバルトやアンチモン等の不純物も極力減らした法がよいことは言うまでもない。また、亜鉛等の水素発生の大きい負極活物質では、表面への鉛析出と競争反応として起こる水素発生のため均一の膜ができにくく、鉛析出の効果が少なくなる。そのため、亜鉛にインジウム、ビスマス、鉛、アルミニウム、ガリウム、カルシウム等を加え、ある程度水素発生を抑制した負極活物質を用いた法がさらに効果的である。
【0116】実施例18〜21により、電池中の水分をコントロールした場合の効果について説明する。
<実施例18>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータをのせる。
【0117】次に水素を透過させるために特別につくったポリプロピレンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末、インヒビター等を加え、電解液の残りを適下した後負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を作製した。電解液は、水酸化カリウム系の場合水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それに必要に応じてインヒビターを添加して調整した。インヒビターを加える場合は亜鉛重量に対し1000ppmの量とし、電解液中に溶かし込んだ。。
【0118】作製したコインまたはボタン酸化銀電池10個を高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に目盛りのついた捕集管を取り付け、発生する水素の量を測定した。この状態で約1年の期間に相当するといわれる60℃、20日間保ち、20日後の水素発生量と自己放電率を調べた。電池容量は25kΩの抵抗をつなぎ放電させることにより測定した。同種の電池の60℃、20日間保存前後の電池容量の変化により自己放電率は計算した。
【0119】作製評価した、コインまたはボタン酸化銀電池のサイズ、使用した亜鉛粉末中の金属の含有率、電解液、水分量、添加したインヒビターと60℃、20日間保存での水素発生量と自己放電率を表9および表10に示した。
【0120】
【表9】
【0121】
【表10】
この表9および表10中、添加金属組成は亜鉛に対する重量をppmで表した。水分量は亜鉛1mgに対して水が何mg入っているかを示した。水素発生量の単位はμL/g/dayで亜鉛量に対する1日の水素発生量を表の60℃20日間、常温1年の各欄の右に示し、自己放電率の単位は%で示した。硫酸Inは硫酸インジウム、スルファミン酸Inはスルファミン酸インジウム、PbOは酸化鉛を示す。水素発生量を常温での値に換算し直すと総て0.03μL/g/day以下に抑えられているわかる。また、自己放電率も4%/年以下にすることが出来た。
【0122】<実施例19>実施例18の60℃、20日間の保存が常温での1年間に相当するか実際に1年間のテストを行ってみた。実施例18で用いたポリプロピレンのガスケットを通常の酸化銀電池の製造で用いられているナイロン製のものにかえ同様にコインまたはボタン酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池を10個25℃に保った高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に発生する水素ガスの捕集管を取り付けた。この状態で1年間保ち、1年後の水素発生量と自己放電率を調べた。測定方法は実施例18と同様である。結果の水素発生量と自己放電率を表9および表10の右端に示した。
【0123】試験の結果どのサンプルにおいてもガス発生は、認められなかった。これは、電池内で発生した微量の水素が、酸化銀の還元によって消費されたためと考えられる。自己放電率は、60℃、20日間の保存とほぼ同等で全て4%以下の値となった。
【0124】<実施例20>電解液は水酸化カリウム系では、水酸化カリウムに酸化亜鉛を飽和近くまで加えたものを用いた。亜鉛1mgあたりに加える電解液の量を0.37〜0.96mg、水の量に直すと0.25〜0.65mgと変化させ、実施例18同様にインジウム、鉛、ビスマスをそれぞれ500ppm含む亜鉛とポリプロピレンのガスケットを用い、SR626サイズの酸化銀電池をつくり、60℃、20日間保存テストを行った。
【0125】図9に添加した水の量に対する水素発生量を示した。水素発生量は1日に亜鉛1gから発生する量を示し、単位はμL/g/dayである。結果より、水の量が0.31mg以上で水素発生量が0.54μL/g/day(常温での値に換算すると0.03μL/g/day)以下に下がることがわかる。また、水の量が0.57mg以上になると液漏れの発生が認められた。
【0126】同様に水酸化ナトリウム系の電解液を用い亜鉛1mgあたり加える電解液の量を0.36〜0.92mg、水の量に直すと0.25〜0.65mgと変化させ、60℃、20日間保存テストを行った。結果を図1010に示した。水の量が0.32mg以上で水素発生量が0.54μL/g/day以下に下がることがわかる。また、水の量が0.59mg以上になると液漏れの発生が認められた。
【0127】すなわち、亜鉛1mgあたり加える水の量は、電解液が水酸化カリウム系の場合0.31〜0.57mg、水酸化ナトリウムの場合0.32〜0.59mgであることが望ましい。
<実施例21>実施例20で水素発生が0.54μL/g/day以下で、液漏れがなかった水の量の範囲で、実際に問題がないか、実施例19の方法を用い常温1年間保存テストを行い試した。水酸化カリウム系では亜鉛1mgあたり加える水の量が0.31、0.44、0.57mgとなるように電解液を加えた。同様に水酸化ナトリウム系では水の量が0.32、0.45、0.59mgとなるように電解液を加えた。実施例20同様でガスケットをナイロンに変え酸化銀電池をそれぞれ10個作製した。作製した酸化銀電池の常温1年間保存テスト結果は、水素発生なし、自己放電率も全て4%以下であり実用上問題がないことがわかった。
【0128】実施例22〜24により、各技術を組み合わせた場合の効果について説明する。実際に電池で特性を調べる前に特製の試験管により、それぞれのインヒビターやめっきした銅板からどのくらい水素ガスが発生するか調べた。以下にその方法を記す。
【0129】容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したビスマス、インジウム、鉛をそれぞれ500ppm含む亜鉛粉末2gと面積0.6cm2 厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片を予め入れ、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。テストは繰り返し数10とし、結果はその平均値を用いた。電解液は、水酸化カリウム系の場合は水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合は水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それに必要に応じインヒビターを添加して調整した。
【0130】<実施例22>電気めっきおよび置換めっきによりコーティングした銅板とインヒビターの組み合わせにより亜鉛からの水素発生を測定した。めっき処理について以下に示す。
・インジウム(In)めっき方法 :電気めっきめっき浴 :25℃:硫酸インジウム60g/l:硫酸ナトリウム10g/lめっき膜厚:0.3μm・スズ(Sn)めっき方法 :電気めっきめっき浴 :70℃:スズ酸カリウム100g/l:水酸化カリウム15g/l:酢酸カリウム5g/lめっき膜厚:0.3μm・亜鉛インジウム(Zn・In)めっき方法 :置換めっき(60℃に加熱した下記めっき浴に銅板と亜鉛を入れ1時間放置)
めっき浴 :KOH30%:ZnO飽和:硫酸インジウム0.3%めっき膜厚:0.3μm表11にKOH系、表12にNaOH系の電解液を用いた場合の銅板へのめっきおよびインヒビターに対する水素ガス発生測定結果について示した。
【0131】
【表11】
【0132】
【表12】
インヒビターの濃度は電解液に対する値で示してある。フッ化炭素・ポリオキシエチエン(POE)系の界面活性剤はフッ化炭素の炭素数が10で、POEの重合度は50のものを用いた。通常はフッ化炭素の炭素数が4〜20で、POEの重合度は30〜100のものを用いれば同様の効果が得られる。
【0133】インヒビターを加えないものに対し、本発明のインヒビターを加えたものは水素ガス発生量が1/3から1/2程度に減少しており、水素ガス発生抑制に対し効果があることがわかる。めっきやインヒビターによる差はあまりでていない。また図11にインジウムめっき銅板を用いた場合の測定結果で試験日数に対する水素ガス発生量を示した。インジウム化合物については、硫酸インジウムについてのみ図に示した。
【0134】本実施例においてはめっき膜厚は0.3μmのものを用いた場合の結果を示したが、実際には0.1〜1μmの膜厚のものを用いた場合でも結果にほとんど差はなかった。
<比較例2>比較のため、実施例22と同じ要領でめっきしない銅板を用い実験を行った。実験結果を表13および図12に示した。
【0135】
【表13】
インヒビターを添加してないものおよび水酸化バリウム、フッ化炭素・ポリオキシエチレン系の界面活性剤を添加したものは試験日数に対し、指数関数的に水素ガス発生量が増加することがわかる。一方、硫酸インジウム、酸化鉛を加えたものは、水素ガスの発生を抑制していることがわかる。これは、インジウムや鉛の化合物は銅板をコーティングする作用があるが、水酸化バリウムや界面活性剤はその作用がないためである。
【0136】<実施例23>実施例22同様にめっきした銅板を用い、インヒビターを組み合わせて用いた場合の水素ガス発生をKOH系の電解液を用い測定した。結果を表14に示した。
【0137】
【表14】
表中のインヒビターの欄は電解液に添加したそれぞれのインヒビターの電解液に対する濃度を示している。水素ガス発生は実施例同様に低いレベルでインヒビターを複数用いてもあまり弊害はないことがわかる。
【0138】次に実際に電池を作製し、集電体へのめっきやインヒビターの効果を調べた。
<実施例24>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mgをいれ、必要に応じインヒビターを加えた電解液の残りを適下した後、負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個づつ作製した。
【0139】負極缶へのめっきの種類・膜厚、加えたインヒビターの種類・濃度、閉路電圧・自己放電率を表15、16に示した。
【0140】
【表15】
【0141】
【表16】
表中インヒビターの濃度は亜鉛重量に対する値を示している。自己放電率の測定は1年間に相当するといわれる60℃、20日間保った後行った。部分放電後の自己放電率は50%深度放電(部分放電)後60℃、20日間放置し測定した。閉路電圧は未放電時と部分放電後−10℃で測定した。
【0142】インヒビターを加えたものは加えないもの(表15の実施例No.54、69、84、表16の実施例No.100、115、130)に比べ、自己放電率が小さくなっている。部分放電については、硫酸インジウム、一酸化鉛といった集電体である負極缶の銅面をコーティングするタイプのものを加えたものが、自己放電率を改善している。閉路電圧については水酸化バリウムを加えたものが高くなっていることがわかる。コーティングするタイプのインヒビターと水酸化バリウムを加えると、未放電時の自己放電率、部分放電後の自己放電率、閉路電圧が改善されることが表よりわかる。今回の実験では、部分放電後の閉路電圧が未放電後の閉路電圧が未放電時より高くなるというこう化亜鉛を用いた場合と逆の挙動を示した。この原因については現在検討中である。
【0143】負極缶へのめっきは実施例22同様に行い、各膜厚が0.3μmの時の結果を示した。0.1〜1μmの膜厚のものを用いた場合でも結果にほとんど差はなかった。さらに、KOH系の電解液とインジウムめっきを施した負極缶を用いて作製した電池でインヒビター濃度に対する1年相当後の自己放電率と部分放電後の自己放電率を測定した。
【0144】結果を図13、14に示した。自己放電率3%程度以下を実用範囲とすると、亜鉛に対する濃度で硫酸インジウムは50〜5000ppm、一酸化鉛は20〜5000ppm、水酸化バリウムは50ppm以上、フッ化炭素・ポリオキシエチレン系の界面活性剤は100ppm以上で効果があることがわかった。50%深度放電後の自己放電率に対しては、硫酸インジウムは50〜5000ppm、一酸化鉛は20〜5000ppmで効果があった。水酸化バリウム、フッ化炭素・ポリオキシエチレン系の界面活性剤は部分放電後についてはあまり効果がない。インジウム化合物につては、硫酸インジウムでの結果を示したが他の化合物につてもほぼ同じ濃度範囲で効果かがあった。また、NaOH系の電解液や他の負極缶めっきを用いても効果を示すインヒビターの濃度範囲はほとんど同じであった。
【0145】実施例25〜29により、各技術を組み合わせた場合の効果について説明する。実施例22〜24とは界面活性剤を変えた組み合わせで評価を行った。電池の試作においては亜鉛の種類も変えて評価した。実際に電池で特性を調べる前に特製の試験管により、それぞれのインヒビターやめっきした銅板からどのくらい水素がすが発生するか調べた。以下にその方法を記す。
【0146】容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したビスマス、インジウム、鉛をそれぞれ500ppm含む亜鉛粉末2gと面積0.6ccm2 厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片を予め入れ、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。テストは繰り返し数10とし、結果はその平均値を用いた。電解液は、水酸化カリウム系の場合は水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合は水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それに必要に応じインヒビターを添加して調整した。
【0147】<実施例25>電気めっきおよび置換めっきによりコーティングした銅板とインヒビターの組み合わせにより亜鉛からの水素発生を測定した。めっき処理について以下に示す。
【0148】
・インジウム(In)めっき方法 :電気めっきめっき浴 :硫酸インジウム60g/l、硫酸ナトリウム10g/l、25℃めっき膜厚:0.3μm・スズ(Sn)めっき方法 :電気めっきめっき浴 :スズ酸カリウム100g/l、水酸化カリウム15g/l、酢酸カリウム5g/l、70℃めっき膜厚:0.3μm・亜鉛インジウム(Zn・In)めっき方法 :置換めっき;60℃に加熱した下記めっき浴に銅板と亜鉛を入れ1時間放置めっき浴 :KOH30%、ZnO飽和、硫酸インジウム0.3%めっき膜厚:0.3μm表17にKOH系、表18にNaOH系の電解液を用いた場合の銅板へのめっきおよびインヒビターに対する水素ガス発生測定結果について示した。インヒビターの濃度は電解液に対する値で示してある。
【0149】
【表17】
【0150】
【表18】
ポリオキシエチレンアルキルアミド(表および図ではPOERAで示す)はアルキル基にアミド結合を介し窒素にポリオキシエチレン(POE)が2つ結合したものである。ここではアルキル基の炭素数が11個、POEの重合度が15のものを用いた。通常はアルキル基の炭素数が3〜30で、POEの重合度は2〜50のものを用いれば同様の効果が得られる。
【0151】インヒビターを加えないものに対し、本発明のインヒビターを加えたものは水素ガス発生量が1/3から1/2程度に減少しており、水素ガス発生抑制に対し効果があることがわかる。めっきやインヒビターによる差はあまりでていない。また図15にインジウムめっき銅板を用いた場合の測定結果で試験日数に対する水素ガス発生量を示した。インジウム化合物については、硫酸インジウムについてのみ図に示した。
【0152】本実施例においてはめっき膜厚は0.3μmのものを用いた場合の結果を示したが、実際には0.1〜1μmの膜厚のものを用いた場合でも結果にほとんど差はなかった。
<比較例3>比較のため、実施例25と同じ要領でめっきしない銅板を用い実験を行った。実験結果を表19および図16に示した。
【0153】
【表19】
インヒビターを添加してないものおよび水酸化バリウム、フッ化炭素・ポリオキシエチレン系の界面活性剤を添加したものは試験日数に対し、指数関数的に水素ガス発生量が増加することがわかる。一方、硫酸インジウム、酸化鉛を加えたものは、水素ガスの発生を抑制していることがわかる。これは、インジウムや鉛の化合物は銅板をコーティングする作用があるが、水酸化バリウムや界面活性剤はその作用が少ないためである。
【0154】<実施例26>実施例25同様にめっきした銅板を用い、インヒビターを組み合わせて用いた場合の水素ガス発生をKOH系の電解液を用い測定した。結果を表20に示した。
【0155】
【表20】
表中のインヒビターの欄は電解液に添加したそれぞれのインヒビターの電解液に対する濃度を示している。水素ガス発生は実施例同様に低いレベルでインヒビターを複数用いてもあまり弊害はないことがわかる。特に、水酸化バリウムとポリオキシエチレンアルキルアミドを同時に加えたものの水素ガス発生は少ない次に実際に電池を作製し、集電体へのめっきやインヒビターの効果を調べた。
【0156】<実施例27>正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mgをいれ、必要に応じインヒビターを加えた電解液の残りを適下した後、負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個づつ作製した。
【0157】亜鉛粉末は、アトマイズで作製したビスマス130ppm、インジウム500ppm、アルミニウム30ppm含むものを用いた。負極缶へのめっきの種類・膜厚、加えたインヒビターの種類・濃度、閉路電圧・自己放電率を表21、22に示した。
【0158】
【表21】
【0159】
【表22】
表中インヒビターの濃度は亜鉛重量に対する値を示している。自己放電率の測定は1年間に相当するといわれる60℃、20日間保った後行った。部分放電後の自己放電率は50%深度放電(部分放電)後60℃、20日間放置し測定した。閉路電圧は未放電時と部分放電後−10℃で測定した。
【0160】インヒビターを加えたものは加えないもの(表21の実施例No.54、69、84、表22の実施例No.100、115、130)に比べ、自己放電率が小さくなっている。部分放電については、硫酸インジウム、一酸化鉛といった集電体や亜鉛表面をコーティングするタイプのものを加えたものが、自己放電率を改善している。閉路電圧については水酸化バリウムを加えたものが高くなっていることがわかる。コーティングするタイプのインヒビターと水酸化バリウムを加えると、未放電時の自己放電率、部分放電後の自己放電率、閉路電圧が改善されることが表よりわかる。今回の実験では、部分放電後の閉路電圧が未放電時より高くなるというこう化亜鉛を用いた場合と逆の挙動を示した。この原因については現在検討中である。
【0161】負極缶へのめっきは実施例25同様に行い、各膜厚が0.3μmの時の結果を示した。0.1〜1μmの膜厚のものを用いた場合でも結果にほとんど差はなかった。
<実施例28>さらに、KOH系の電解液とインジウムめっきを施した負極缶を用いて作製した電池でインヒビター濃度に対する1年相当後の自己放電率と部分放電後の自己放電率を測定した。
【0162】結果を図17、18に示した。自己放電率3%程度以下を実用範囲とすると、図17より亜鉛に対する濃度で硫酸インジウムは50〜5000ppm、一酸化鉛は20〜5000ppm、水酸化バリウムは50ppm以上、ポリオキシエチレンアルキルアミドは5ppm以上で効果があることがわかった。
【0163】50%深度放電後の自己放電率に対しては、図18より硫酸インジウムは50〜5000ppm、一酸化鉛は20〜5000ppmで効果があった。水酸化バリウム、ポリオキシエチレンアルキルアミドは部分放電後についてはあまり効果がない。部分放電後の自己放電率を下げるには硫酸インジウムまたは一酸化鉛と水酸化バリウム・ポリオキシエチレンアルキルアミドを併用することが効果的であることがわかった。ただし、併用においてはポリオキシエチレンアルキルアミドを1000ppm以下にすることが望ましい。インジウム化合物につては、硫酸インジウムでの結果を示したが他の化合物につてもほぼ同じ濃度範囲で効果かがあった。また、NaOH系の電解液や他の負極缶めっきを用いても効果を示すインヒビターの濃度範囲はほとんど同じであった。
【0164】<実施例29>亜鉛組成を変えて、実施例27同様に電池を試作した。電解液はKOH系、負極缶へのめっきはインジウムのものを用い、インヒビターとしては、硫酸インジウム、一酸化鉛、水酸化バリウム、ポリオキシエチレンアルキルアミドを亜鉛に対して1000ppmづつ添加した。結果を表23に示した。
【0165】
【表23】
自己放電率は、請求範囲に示した添加物の組成において、実用範囲である3%以下に納まっていることがわかる。自己放電率を下げるには数種の合金にすることが望ましい。
【0166】実施例30〜31に、ゲル化剤との組み合わせを中心に評価した結果について示した。
<実施例30>実際に電池を作る前に、本発明の効果を水素ガス発生テストというかたちで確認した。テストは亜鉛粉末と本発明のゲル化剤、水酸化バリウム及び集電体と同じ材料の銅板との組合せにより行った。容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したビスマス、インジウム、鉛をそれぞれ500ppm含む亜鉛粉末2g、そこにテストする電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。ゲル化剤は亜鉛に対して1.5%加えた。また電池の負極亜鉛重量と負極集電体表面積の比が同じになるよう亜鉛粉末2gと表面積0.6cm2 厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片5枚を一緒に用いて同様にガス発生を測定した。テストは繰り返し数6とし、結果はその平均値を用いた。
【0167】電解液は、水酸化カリウム系の場合は水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合は水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液をベースにし、それに水酸化バリウムを添加して調整した。水酸化バリウムは和光純薬(株)製、CMCはダイセル化学工業(株)製の1260番と1380番、PASは和光純薬工業(株)製の試薬と日本純薬(株)製レオジック250Hを用いた。水酸化バリウムの添加量は、電解液に対し0〜50000ppmとした。結果を表24の水素発生量に示した。
【0168】
【表24】
単位はμl/g/dayである。表24の結果より、水酸化バリウムを添加しているものはゲル化剤種類、亜鉛粉末単体、亜鉛粉末+銅片での比較、電解液種類に係わらず水素発生量が少ない、またゲル化剤種類では架橋型アクリル系水溶性樹脂であるPASのガス発生が少ないことが判る。特に架橋型アクリル系水溶性樹脂であるPASと水酸化バリウムの組合せが良いことが判る。水酸化バリウム添加量500ppm以上では過飽和になったので白濁状態の電解液を用いた。また実施例30では水酸化バリウムを電解液に添加したが、粉末亜鉛中に全量添加した場合でも同様な結果が得られた。
【0169】<実施例31>SR621サイズのボタン形酸化銀電池を作成した。負極缶は集電体に0.1μmのスズめっきを施した物を用いた。亜鉛は実施例30で用いたもの、ゲル化剤は架橋型アクリル系水溶性樹脂であるレオジック250H、電解液はそれぞれ酸化亜鉛を飽和近くまで添加した水酸化カリウム30重量%液および水酸化ナトリウム25重量%液を用いた。ゲル化剤の添加量は亜鉛に対して1.5%、水酸化バリウムの添加量は亜鉛に対して0〜50000ppmとした。従来例としてゲル化剤にCMC1260#を用いて水酸化バリウムを添加しない電池を作製した。電気特性の評価結果を表25の放電指数に示した。
【0170】
【表25】
電気特性は、電解液が水酸化カリウム系の場合は負荷抵抗200Ω・直流法、水酸化ナトリウム系の場合は負荷抵抗2kΩ・パルス法で測定した。いづれの場合も、従来例を放電指数100とした。結果からもわかるように、本発明のゲル化剤に架橋型アクリル系水溶性樹脂を用い水酸化バリウムを添加したものは従来例に比べて放電性能が良い。
【0171】水素を透過させるために特別につくったポリプロピレン製のガスケットを用いて同様にしてボタン形酸化銀電池を作製した。ゲル化剤は架橋型アクリル系水溶性樹脂であるレオジック250Hを亜鉛に対して1.5%用いた。水酸化バリウムは亜鉛の重量に対し10ppm〜5%の濃度でテストをした。作製した酸化銀電池10個を高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に目盛りのついた捕集管を取り付け、発生する水素ガスの量を測定した。この状態で60℃、20日間保ち、20日後の水素ガス発生量を調べた。評価結果を表25の水素ガス発生量に、電解液に水酸化カリウム30重量%液を用いた場合の結果を図19に示した。図より100ppm〜1%で水酸化バリウムが効果的に働くことがわかる。
【0172】ポリプロピレン製のガスケットをナイロン製のものにもどし、ガス発生の少なかった水酸化バリウム濃度100ppm〜1%の範囲でボタン形酸化銀電池を作製した。作製した酸化銀電池10個を同様に高温漕中の流動パラフィンで満たしたガラスの容器にいれ、上部に発生する水素ガスの捕集管を取り付けた。60℃、20日間保存後では、水素ガス発生、電池缶の膨らみ、液漏れは認められなかった。
【0173】実際の電池での水素ガス発生量は、実施例30の実験の水素ガス発生量より小さい値となっている。これは、実施例30で用いた銅片が実際の集電体の構造と違うことや発生した水素ガスの一部が酸化銀の還元によって消費されてしまったことなどが考えられる。実施例30の方法は水素ガス発生の量オーダーは違うが、実際の電池での水素発生を予測する代用特性を見る方法としては十分なものである。
【0174】実施例32〜35により集電体に亜鉛合金層を設けた場合の効果と本発明のアルカリ電池を時計に用いた場合の評価結果について示した。実際に電池で特性を調べる前に特製の試験管により、めっきした銅片(集電体と同じ材料)からどのくらい水素ガスが発生するか調べた。以下にその方法を記す。
【0175】容量25mlでガス発生量がわかるように目盛りのついた特製の試験管にアトマイズ法で作製したビスマス、インジウム、鉛をそれぞれ500ppm含む亜鉛粉末2gとめっきした面積0.6cm2 厚さ0.1mmの集電体と同じ材料である銅片に本発明のめっきを施したものを予め入れ、そこに電解液を加え、60℃に加温し、発生する水素ガスの容積を7日間測定した。テストは繰り返し数10とし、結果はその平均値を用いた。電解液は、水酸化カリウム系の場合は水酸化カリウム30重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を、水酸化ナトリウム系の場合は水酸化ナトリウム25重量%で酸化亜鉛を飽和近くまでいれた液を用いた。
【0176】<実施例32>電気めっきおよび置換めっきによりコーティングした銅片と亜鉛からの水素発生を測定した。銅片へのめっき処理は4種類行った。条件については以下に示す。
【0177】
=置換めっき(亜鉛−インジウム)
方法 :置換めっき60℃に加熱した下記めっき液に銅片と亜鉛を入れ1時間放置めっき液 :KOH30%、ZnO飽和、硫酸インジウム0〜3000ppm温度 :60℃めっき膜厚:時間により調整した。厚さは、めっき前後の重量より求めた。
【0178】
=置換めっき(亜鉛−鉛)
方法 :置換めっき60℃に加熱した下記めっき浴に銅片と亜鉛を入れ1時間放置めっき液 :KOH30%、ZnO飽和、酸化鉛0〜3000ppm温度 :60℃めっき膜厚:時間により調整した。厚さは、めっき前後の重量より求めた。
【0179】
=電気めっき(シアン系)
方法 :銅製の網に銅片をはさみ通電し、めっきした。銅片を適度に移動させめっきされない部分ができないようにした。
めっき液 :シアン化亜鉛70g/l、シアン化ナトリウム50g/l、水酸化ナトリウム100g/l、シアン化インジウム0〜3000ppm温度 :25℃電流密度 :5A/dm2めっき膜厚:時間により調整した。厚さは、めっき前後の重量より求めた。
【0180】
=電気めっき(酸性)
方法 :銅製の網に銅片をはさみ通電し、めっきした。銅片を適度に移動させめっきされない部分ができないようにした。
めっき液 :硫酸亜鉛240g/l、硫酸ナトリウム30g/l、酢酸ナトリウム15g/l、硫酸インジウム0〜3000ppm温度 :25℃電流密度 :2A/dm2めっき膜厚:時間により調整した。厚さは、めっき前後の重量より求めた。
【0181】それぞれの処理を施した銅片、亜鉛粉末、電解液を特性の試験管に入れそこから発生する水素ガスの量を調べた。水素ガス発生が大きいほど実際の電池では自己放電が大きいことが予想される。
【0182】
【表26】
【0183】
【表27】
表26にインジウム化合物、酸化鉛の各濃度でめっきした銅片に対するKOH系電解液での水素ガス発生量を示した。表27には、NaOH系電解液での結果を示した。表26、27より、10ppm程度の僅かなインジウム化合物や酸化鉛をめっき液に添加し、めっき膜を合金化することにより、無添加のものに比べ大幅に水素ガス発生を抑制できることがわかる。ただし、高濃度の酸化鉛の添加においては、めっき膜に針状の鉛が析出し水素ガス発生は悪化する。
【0184】置換めっきした銅片をオージェ分光分析で定量測定したところ、めっき液への硫酸インジウムの添加量が1000ppmの場合めっき膜には約0.3%のインジウムが、100ppmの添加量の場合は約0.1%のインジウムが存在することがわかった。めっき液に硫酸インジウムを100ppm以下添加し作製しためっき膜では、検出限界以下でインジウムを測定することはできなかった。しかし、極微量のインジウムがめっき膜へ入ることにより水素ガス発生抑制効果が得られると考えられる。他の種類のめっきも同様に、亜鉛中にインジウムや鉛が析出し、亜鉛の水素過電圧を下げるため水素ガス発生抑制効果が得られると考えられる。
【0185】
【表28】
【0186】
【表29】
表28、29に1000ppm硫酸インジウムを添加した置換めっきでの膜厚にたいする水素ガス発生量を示した。表28、29より0.015μmとかなり薄さから効果があることがわかる。
【0187】<実施例33>次に、実際に電池を試作し負極缶へのめっきの効果を確かめた。正極缶に電解液の一部と酸化銀に合剤をいれて成形したペレット116mg(酸化銀含有率98%)をいれ、ポリエチレンのセパレータ、セロファンのセパレータのせる。次にナイロンのガスケットを正極缶に押し込め、含浸材、ゲル化剤、亜鉛粉末30mgをいれ、必要に応じインヒビターを加えた電解液の残りを適下した後、負極缶をのせて封口しボタン型酸化銀電池を各種類100個づつ作製した。
【0188】亜鉛粉末は、アトマイズで作製したビスマス500ppm、インジウム500ppm、鉛500ppm含むものを用いた。負極缶へのめっきは実施例32同様に行った。負極缶へのめっきの種類に対する自己放電率を表30、31に示した。自己放電率の測定は1年間に相当するといわれる60℃、20日間保った後行った。
【0189】
【表30】
【0190】
【表31】
表30、31より、本発明のめっきした負極缶を用いることにより、めっきしない負極缶を用いたものより自己放電を抑制できることがわかる。ここでは、めっき液へのインジウム化合物の添加量は1000ppm、酸化鉛の添加量は100ppmで、各膜厚が0.1μmの時の結果を示した。0.01〜3μmの膜厚のものを用いた場合でも結果にほとんど差はなかった。また、めっき液へのインジウム化合物の添加量は10〜3000ppm、酸化鉛の添加量は10〜100ppm、の範囲で同等の効果が得られた。スズ酸カリウム、スズ酸ナトリウムについても同様の試験を行ったところ、添加量10〜3000ppmの範囲で同等の効果が得られた。また、これらの濃度範囲でインジウム化合物、酸化鉛、スズ酸カリウム、スズ酸ナトリウムを混合して添加しためっき液を用いても同等の効果が得られた。
【0191】<実施例34>めっき膜の不純物遮蔽効果についてテストを行った。プレス加工時に集電体表面に鉄系の異物が付着し、ガス発生不良が発生したSR521サイズの負極缶について、めっきを行った。ガス発生不良とは電池にすると膨れや破裂の原因となるもので、負極缶の集電体である銅側の凹面に電解液と100μm前後の亜鉛粉末を数個入れると瞬時にガスが発生することで確認できる。亜鉛がアノード、水素過電圧の低い鉄がカソードとなり水素が発生するためである。めっきは、バレルを用いた置換めっきで行った。以下条件を記す。
【0192】
=置換めっき(亜鉛−インジウム)
方法 :置換めっきバレルを用い、60℃に加熱した下記めっき液に負極缶と亜鉛片れ入れめっきした。
【0193】
負極缶 :SR521サイズ 約1000個亜鉛片 :3×3×0.1mm 約1500枚めっき液 :KOH30%、ZnO飽和、硫酸インジウム0〜3000ppm温度 :60℃時間 :5、15、30分めっき膜厚:厚さは、ダミーとして入れた銅片のめっき前後の重量より求めた。
【0194】時間に対する膜厚は、5分で0.041μm、15分で0.090μm、30分で0.148μmとなった。それぞれ、100個づづ抜き取りガス発生の確認を行った。その結果、5分のめっきでは100個中78個にガス発生が認められた。15、30分のめっきでは、ガス発生が認められなかった。このことより、0.1μm前後のめっき厚で不純物の遮蔽効果があることがわかった。
【0195】<実施例35>次に実施例33の様に直接負極缶めっきするのではなく、フープ材にめっきしてから負極缶の形に形成した場合の結果を示す。この場合、めっきを電気めっきにより厚くできるというメリットはあるが、機械的な加工により柔らかいめっき膜に欠陥ができ易いという問題がある。以下めっき条件を示す。
【0196】
・電気めっき(シアン系)
方法 :ニッケル、ステンレス、銅の三層クラッドのフープ材のニッケル側をマスキングし、銅側にめっきを行った。
めっき浴 :シアン化亜鉛70g/l、シアン化ナトリウム50g/l、水酸化ナトリウム100g/l、シアン化インジウム1000ppm浴温度 :25℃電流密度 :5A/dm2めっき膜厚:時間により調整した。(フープ材の送り速度の調整)厚さは、樹脂に埋め込み光学顕微鏡で写真撮影し求めた。
【0197】膜厚は1、2、3、4、7、10μmのものを作製した。それぞれの膜厚の亜鉛合金をめっきしたフープ材より、100個づつ負極缶を作製した。加工により銅面が露出した負極缶の個数を調べた。結果を表7に示した。結果より3μm以上で銅面は露出しなくなることがわかる。
【0198】各膜厚の負極缶を用いNaOH系電解液で実施例33同様に電池を100個づつ試作した。
【0199】
【表32】
初期の容量および2年後相当(60℃、40日保存後)の容量を表32に示した。比較のためこう化亜鉛を用いた場合の結果も表の右端に記した。表32より、2μm以下のめっきでは、めっき膜の加工による欠陥のため実施例33の負極缶に直接めっきしたときに比べ容量が小さい。膜厚が4μmのとき、2年後の容量がこう化亜鉛を用いた場合とほぼ同じになる。例えば、時計に電池を組み込んだ場合電池寿命は約二年である。二年間でこう化亜鉛を用いた電池同等以上の容量を期待するには、表32より4μm以上亜鉛合金をめっきする必要がある。電池設計において、亜鉛合金めっき厚は3μm以上で、2年間で目的の容量が得られるような厚さにすれば良い。
【0200】<実施例36>こう化率10%の亜鉛を用いた従来の電池と本発明の負極缶に4μm亜鉛−インジウム合金を実施例35と同様の方法で施し無水銀亜鉛を用いた電池とを実際に腕時計に装着し携帯テストを行い、時計の止まるまでの日数を測定した。テストは各10個づつ行った。
【0201】
【表33】
結果を表33に示した。時計が止まるまでの日数はほぼ同じで無水銀でも容量を下げずに済むことができた。実施例35に示した様に、加速試験で二年後の容量がこう化亜鉛を用いた電池と同じになるような膜厚を目安にすれば、実際の時計での使用においてもこう化亜鉛を用いたときと同等の容量が得られることがわかる。すなわち、電池設計において、亜鉛合金めっき厚は3μm以上で、2年間で目的の容量が得られるような厚さにすれば良い。例えば、目的とする容量のこう化亜鉛を用いた電池の亜鉛の重量(水銀分を除く)W0を自己放電率/年をSD0、設計する無水銀亜鉛を用いた電池の亜鉛の重量をW0(こう化亜鉛と同じ)、自己放電率をSD1とし、集電体の面積をS、亜鉛の比重を7.13とすると亜鉛合金の膜厚D1は D1=(W0×(1−2×SD0)/(1−2×SD1)−W0)
/7.13/Sとすれば良いことになる。
【0202】本実施例35、36では、クラッド材に3μm以上の亜鉛−インジウム合金をめっきすることについて述べたが、実施例32、33で示したように亜鉛合金は必須元素として亜鉛を含み、選択元素としてインジウム、鉛、スズから選ばれる1種以上を含む合金であればほとんど同様の効果が得られる。また、亜鉛合金層の形成法は他の方法であっても同様の効果が得られることは言うまでもない。例えは、亜鉛合金をもう一層クラッドしたり、乾式めっきや溶射を用いる方法等がそれにあたる。
【0203】また、インジウムまたは鉛等を含む亜鉛合金層にビスマス、ガリウム、アルミニウム、カルシウム等の亜鉛合金の水素過電圧を高める元素が存在しても本発明の効果が損なわれることはない。加え方によっては、さらなる自己放電抑制効果が期待できる。
【0204】
【発明の効果】以上実施例でも述べたように本発明によると、電池特性を劣化させることなく水素の発生を抑制したアルカリ電池を作製することが出来る。特にガス発生に対し敏感で高性能の要求されるコイン型、ボタン型のアルカリ電池に対して有効である。
【0205】また、本発明の集電体への亜鉛合金めっきにおいては、時計などの微小放電用に用いれば、こう化亜鉛を用いた電池同等もしくはそれ以上の容量が達成できる。さらに、本発明のアルカリ電池を搭載した時計が廃棄されても、公害物質である水銀を含まないため環境を汚染することはない。また、アルカリ電池を用いる応用製品であれば、その応用製品を廃棄したとしても、公害物質である水銀を含まないため環境を汚染することはない。
【図面の簡単な説明】
【図1】経過日数に対する水素ガスの発生量を示した。
【図2】硫酸インジウム濃度に対する水素ガス発生量を示した。
【図3】水酸化カリウム溶液中での常温における電流電位曲線である。
【図4】酸化亜鉛を飽和近くまで溶かした水酸化カリウム溶液中での常温における電流電位曲線である。
【図5】経過日数に対する水素ガスの発生量を示した。
【図6】硫酸インジウム濃度に対する水素ガス発生量を示した。
【図7】本発明の電解液への一酸化鉛添加量に対する水素ガスの発生量を示した図である。
【図8】電解液への一酸化鉛添加量に対する水素ガスの発生量を示した図である。
【図9】水酸化カリウム系の電解液を用いた場合の亜鉛1mgあたり加えた水の量に対する水素発生量を示した。
【図10】水酸化ナトリウム系の電解液を用いた場合の亜鉛1mgあたり加えた水の量に対する水素発生量を示した。
【図11】めっきした銅板に本発明のインヒビターを加えた場合の経過日数に対する水素ガスの発生量を示した。
【図12】めっきしていない銅板に本発明のインヒビターを加えた場合の経過日数に対する水素ガスの発生量を示した。
【図13】インヒビター濃度に対する自己放電率の変化を示した。
【図14】インヒビター濃度に対する50%深度放電後の自己放電率の変化を示した。
【図15】めっきした銅板に本発明のインヒビターを加えた場合の経過日数に対する水素ガスの発生量を示した。
【図16】めっきしていない銅板に本発明のインヒビターを加えた場合の経過日数に対する水素ガスの発生量を示した。
【図17】インヒビター濃度に対する自己放電率の変化を示した。
【図18】インヒビター濃度に対する50%深度放電後の自己放電率の変化を示した。
【図19】水酸化バリウムに対する水素ガス発生量を示した図である 。
【符号の説明】
1 電解液に亜鉛と銅板を加えた場合
2 電解液に亜鉛と銅板と本発明のインジウム化合物である硫酸インジウムを加えた場合
3 電解液に亜鉛と銅板と酸化インジウムを加えた場合
4 スルファミン酸インジウムのみ添加の場合の電流電位曲線
5 酒石酸カリウム添加後、スルファミン酸インジウムを添加の場合の電流電位曲線
6 スルファミン酸インジウム添加後、酒石酸カリウム添加の場合の電流電位曲線
7 スルファミン酸インジウムのみ添加の場合の電流電位曲線
8 酒石酸カリウム添加後、スルファミン酸インジウム添加の場合の電流電位曲線
9 本発明の化合物を加えない場合
10 本発明の化合物であるスルファミン酸インジウムと酸化鉛を加えた場合
11 インジウムを200ppm添加した亜鉛粉末を使用した場合
12 インジウムを500ppm添加した亜鉛粉末を使用した場合
13 インジウムを1800ppm添加した亜鉛粉末を使用した場合
14 鉄を5ppm含有する亜鉛粉末を使用した場合
15 鉄を4ppm含有する亜鉛粉末を使用した場合
16 鉄を2ppm含有する亜鉛粉末を使用した場合
【特許請求の範囲】
【請求項1】 無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、電解液または負極活物質中に硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、塩化インジウムから選ばれる何れか1種を添加したことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項2】 無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、電解液または負極活物質中にインジウム化合物および錯化剤を添加したことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項3】 前記錯化剤が酒石酸塩、EDTA、シアン塩から選ばれる何れか1種である請求項2記載のアルカリ電池。
【請求項4】 請求項2記載のアルカリ電池製造において、インジウム化合物より先に錯化剤を電解液に溶かすことを特徴とするアルカリ電池の製造方法。
【請求項5】 無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、電解液または負極活物質中にインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる2種以上の化合物を添加したことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項6】 前記インジウム化合物が硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、塩化インジウム、水酸化インジウムである請求項5記載のアルカリ電池。
【請求項7】 前記4価のスズ化合物がスズ酸カリウム、スズ酸ナトリウム等のスズ酸塩または酸化第2スズである請求項5記載のアルカリ電池。
【請求項8】 インジウムを含む無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、電解液または負極活物質中にインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物を添加したことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項9】 鉄の濃度が亜鉛に対して4ppm以下である無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、電解液または負極活物質中にインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物を添加したことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項10】 ガリウム0.001〜0.5重量%、インジウム0.005〜0.5重量%、鉛0.0001〜0.5重量%、ビスマス0.005〜0.5重量%、アルミニウム0.001〜0.5重量%、カルシウム0.001〜0.5重量%からなる群より選ばれた少なくても1種の金属を含み、残部が亜鉛および不可避的不純物からなる無水銀亜鉛を負極活物質とし、電池内の水の量が無水銀亜鉛重量1mgあたり0.31〜0.57mgであり、電解質が水酸化カリウムであることを特徴とする酸化銀電池。
【請求項11】 ガリウム0.001〜0.5重量%、インジウム0.005〜0.5重量%、鉛0.0001〜0.5重量%、ビスマス0.005〜0.5重量%、アルミニウム0.001〜0.5重量%、カルシウム0.001〜0.5重量%からなる群より選ばれた少なくても1種の金属を含み、残部が亜鉛および不可避的不純物からなる無水銀亜鉛を負極活物質とし、電池内の水の量が無水銀亜鉛重量1mgあたり0.32〜0.59mgであり、電解質が水酸化ナトリウムであることを特徴とする酸化銀電池。
【請求項12】 ゲル化剤を含む無水銀亜鉛粉末を負極活物質とし、集電体の最外層が亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の層からなるアルカリ電池において、電解液または負極活物質中にインジウム化合物、酸化鉛、アルカリ土類金属の水酸化物、ポリエチレンオキサイドを持つ界面活性剤から選ばれる1種以上の物質を添加したことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項13】 前記亜鉛ゲル化剤が、架橋型ポリアクリル系の吸水性ポリマーの単独あるいは他のゲル化剤との併用物であることを特徴とする請求項12記載のアルカリ電池。
【請求項14】 前記無水銀亜鉛粉末が、ガリウム0.001〜0.5重量%、インジウム0.005〜0.5重量%、鉛0.0001〜0.5重量%、ビスマス0.005〜0.5重量%、アルミニウム0.001〜0.5重量%、カルシウム0.001〜0.5重量%の群のうち少なくとも1種以上を含む無水銀亜鉛粉末である請求項12記載のアルカリ電池。
【請求項15】 前記亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の層が、亜鉛、インジウム、スズ、鉛の中から選ばれる1種以上の金属または合金である請求項12記載のアルカリ電池。
【請求項16】 前記インジウム化合物が硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、塩化インジウム、水酸化インジウムである請求項12記載のアルカリ電池。
【請求項17】 前記アルカリ土類金属の水酸化物が水酸化バリウムである請求項12記載のアルカリ電池。
【請求項18】 前記ポリエチレンオキサイドを持つ界面活性剤が、疎水部にフッ化炭素、親水部にポリエチレンオキサイドを持つ界面活性剤、またはポリオキシエチレンアルキルアミドから選ばれる1種以上の物質を添加したことを特徴とする請求項12記載のアルカリ電池。
【請求項19】 無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、集電体の最外層が必須元素として亜鉛を含み、選択元素としてインジウム、鉛、スズから選ばれる1種以上を含む合金層からなることを特徴とするアルカリ電池。
【請求項20】 前記合金層の形成方法がめっきであることを特徴とする請求項19記載のアルカリ電池。
【請求項21】 無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、集電体の最外層が必須元素として亜鉛を含み、選択元素としてインジウム、鉛、スズから選ばれる1種以上を含む合金層からなりその合金層が3μm以上であることを特徴とするアルカリ電池。
【請求項22】 無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、集電体の最外層が必須元素として亜鉛を含み、選択元素としてインジウム、鉛から選ばれる1種以上を含む合金層からなりその合金層が3μm以上であるアルカリ電池を用いたことを特徴とする応用製品。
【請求項23】 請求項1〜3、5〜20のいづれか1項記載のアルカリ電池を用いたことを特徴とする応用製品。
【請求項1】 無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、電解液または負極活物質中に硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、塩化インジウムから選ばれる何れか1種を添加したことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項2】 無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、電解液または負極活物質中にインジウム化合物および錯化剤を添加したことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項3】 前記錯化剤が酒石酸塩、EDTA、シアン塩から選ばれる何れか1種である請求項2記載のアルカリ電池。
【請求項4】 請求項2記載のアルカリ電池製造において、インジウム化合物より先に錯化剤を電解液に溶かすことを特徴とするアルカリ電池の製造方法。
【請求項5】 無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、電解液または負極活物質中にインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる2種以上の化合物を添加したことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項6】 前記インジウム化合物が硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、塩化インジウム、水酸化インジウムである請求項5記載のアルカリ電池。
【請求項7】 前記4価のスズ化合物がスズ酸カリウム、スズ酸ナトリウム等のスズ酸塩または酸化第2スズである請求項5記載のアルカリ電池。
【請求項8】 インジウムを含む無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、電解液または負極活物質中にインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物を添加したことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項9】 鉄の濃度が亜鉛に対して4ppm以下である無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、電解液または負極活物質中にインジウム化合物、4価のスズを含むスズ化合物、酸化鉛から選ばれる1種以上の化合物を添加したことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項10】 ガリウム0.001〜0.5重量%、インジウム0.005〜0.5重量%、鉛0.0001〜0.5重量%、ビスマス0.005〜0.5重量%、アルミニウム0.001〜0.5重量%、カルシウム0.001〜0.5重量%からなる群より選ばれた少なくても1種の金属を含み、残部が亜鉛および不可避的不純物からなる無水銀亜鉛を負極活物質とし、電池内の水の量が無水銀亜鉛重量1mgあたり0.31〜0.57mgであり、電解質が水酸化カリウムであることを特徴とする酸化銀電池。
【請求項11】 ガリウム0.001〜0.5重量%、インジウム0.005〜0.5重量%、鉛0.0001〜0.5重量%、ビスマス0.005〜0.5重量%、アルミニウム0.001〜0.5重量%、カルシウム0.001〜0.5重量%からなる群より選ばれた少なくても1種の金属を含み、残部が亜鉛および不可避的不純物からなる無水銀亜鉛を負極活物質とし、電池内の水の量が無水銀亜鉛重量1mgあたり0.32〜0.59mgであり、電解質が水酸化ナトリウムであることを特徴とする酸化銀電池。
【請求項12】 ゲル化剤を含む無水銀亜鉛粉末を負極活物質とし、集電体の最外層が亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の層からなるアルカリ電池において、電解液または負極活物質中にインジウム化合物、酸化鉛、アルカリ土類金属の水酸化物、ポリエチレンオキサイドを持つ界面活性剤から選ばれる1種以上の物質を添加したことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項13】 前記亜鉛ゲル化剤が、架橋型ポリアクリル系の吸水性ポリマーの単独あるいは他のゲル化剤との併用物であることを特徴とする請求項12記載のアルカリ電池。
【請求項14】 前記無水銀亜鉛粉末が、ガリウム0.001〜0.5重量%、インジウム0.005〜0.5重量%、鉛0.0001〜0.5重量%、ビスマス0.005〜0.5重量%、アルミニウム0.001〜0.5重量%、カルシウム0.001〜0.5重量%の群のうち少なくとも1種以上を含む無水銀亜鉛粉末である請求項12記載のアルカリ電池。
【請求項15】 前記亜鉛または亜鉛より水素過電圧の高い金属の層が、亜鉛、インジウム、スズ、鉛の中から選ばれる1種以上の金属または合金である請求項12記載のアルカリ電池。
【請求項16】 前記インジウム化合物が硫酸インジウム、スルファミン酸インジウム、塩化インジウム、水酸化インジウムである請求項12記載のアルカリ電池。
【請求項17】 前記アルカリ土類金属の水酸化物が水酸化バリウムである請求項12記載のアルカリ電池。
【請求項18】 前記ポリエチレンオキサイドを持つ界面活性剤が、疎水部にフッ化炭素、親水部にポリエチレンオキサイドを持つ界面活性剤、またはポリオキシエチレンアルキルアミドから選ばれる1種以上の物質を添加したことを特徴とする請求項12記載のアルカリ電池。
【請求項19】 無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、集電体の最外層が必須元素として亜鉛を含み、選択元素としてインジウム、鉛、スズから選ばれる1種以上を含む合金層からなることを特徴とするアルカリ電池。
【請求項20】 前記合金層の形成方法がめっきであることを特徴とする請求項19記載のアルカリ電池。
【請求項21】 無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、集電体の最外層が必須元素として亜鉛を含み、選択元素としてインジウム、鉛、スズから選ばれる1種以上を含む合金層からなりその合金層が3μm以上であることを特徴とするアルカリ電池。
【請求項22】 無水銀亜鉛粉末を負極活物質とするアルカリ電池において、集電体の最外層が必須元素として亜鉛を含み、選択元素としてインジウム、鉛から選ばれる1種以上を含む合金層からなりその合金層が3μm以上であるアルカリ電池を用いたことを特徴とする応用製品。
【請求項23】 請求項1〜3、5〜20のいづれか1項記載のアルカリ電池を用いたことを特徴とする応用製品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開平7−6759
【公開日】平成7年(1995)1月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−162964
【出願日】平成5年(1993)6月30日
【出願人】(000002325)セイコー電子工業株式会社 (3,629)
【出願人】(000108007)セイコー電子部品株式会社 (3)
【公開日】平成7年(1995)1月10日
【国際特許分類】
【出願日】平成5年(1993)6月30日
【出願人】(000002325)セイコー電子工業株式会社 (3,629)
【出願人】(000108007)セイコー電子部品株式会社 (3)
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