説明

アルカンジオールのモノニトロ化方法

本明細書において、式:HO-A-ONO2 (I)[ここで、Aは、C2-C6アルキレン鎖である]で示される化合物の製造方法であって、「安定化」硝酸で対応するアルカンジオールをニトロ化することによる方法が開示される。該方法は、操作者にとってより安全であり、工業規模で有利な収率を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効率のよいアルカンジオールのモノニトロ化方法を提供し、該方法は、操作者にとって容易に制御することができ、安全である。さらに詳しくは、本発明は、式:
HO-A-ONO2 (I)
[ここで、Aは、直鎖または分枝鎖のC2-C6アルキレン鎖である]
で示される化合物の工業規模の製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
式(I)で示される化合物は、NO放出性非ステロイド性抗炎症薬(NO-NSAID)の合成のために有用な中間体である。NO-NSAIDの例は、NO-アセチルサリチル酸、NO-ジクロフェナク、NO-ナプロキセン、NO-ケトプロフェンおよびNO-イブプロフェンである。従来の非ステロイド性抗炎症薬と同じように、NO-NSAIDは解熱および抗炎症活性を有するが、低い胃腸毒性を示し、さらに有用な薬理学的特性が付与されている。WO 98/25918およびWO 01/10814が、NO-NSAIDの製造における式(I)で示される化合物の使用をさらに詳しく開示している。
ニトログリセリンが直面している問題と類似した製造、保管および輸送中の問題を含むので、ジニトロ化アルカンジオールの還元または加水分解による工業規模でのモノニトロ化アルカンジオールの製造は、選択性に乏しく、困難である。
【0003】
アルコール(たとえば、グリセリン)のモノニトロ化は、通常、必要に応じて硫酸および尿素の存在下、反応混合物から亜硝酸を除去するために濃硝酸を用いて行うことができることがよく知られている。しかし、この反応は、選択性に乏しく、動態をコントロールするのが容易でないという事実により、すぐにジニトロ化アルカンジオールが形成されることになる。さらに、単鎖アルカンジオールにおいて同じ反応を行うことにより、強い分解反応が容易に誘発される。WO 98/25918は、ニトロ化剤として硝酸銀または発煙硝酸、さらに詳しくは、濃硝酸および無水酢酸を用いるアルカンジオールモノニトロ化も開示している。上記方法による式(I)で示されるアルカンジオールのモノニトロ化は、工業規模において非常に選択性に乏しく、困難である。特に、強い酸化剤(硝酸)が非常に不安定な基質、特にAがC2-Cアルキレン鎖であるアルカンジオールに接触するので、危険な分解が容易におこる。
したがって、良好な収率で式(I)で示される化合物を得ることもできる、より選択性があり、より安全なジオール化合物のモノニトロ化の工業的方法を開発する必要がある。
【発明の詳細な記載】
【0004】
現在、「安定化」硝酸を用いて、高収率かつ容易に制御可能な条件下でアルカンジオールのモノニトロ化を選択的に行うことが可能であることが見出されている。
したがって、本発明の目的は、式:
HO-A-ONO2 (I)
[ここで、Aは、C2-C6アルキレン鎖である]
で示される化合物の製造方法であって、
「安定化」硝酸による、式:
HO-A-OH (II)
[ここで、Aは、前記と同意義である]
で示される化合物のニトロ化を含む。
本発明方法で得られる好ましい式(I)で示される化合物は、エタンジオール-モノニトレート;1,3-プロパンジオール・モノニトレート;1,4-ブタンジオール・モノニトレート;1,5-ペンタンジオール・モノニトレートまたは1,6-ヘキサンジオール・モノニトレート、より好ましくは1,4-ブタンジオール・モノニトレートである。
【0005】
本明細書で用いる用語「安定化硝酸」は、硝酸の特定の調製物を意味し、これは、本発明のさらなる目的である。この調製物は、水で約83〜85%、好ましくは約84.5〜約84.8%の範囲の濃度に希釈された硝酸からなり、実質的に亜硝酸および窒素酸化物を含まない。語句「実質的に亜硝酸および窒素酸化物を含まない」は、典型的には、亜硝酸および窒素酸化物の濃度が10 ppm以下、好ましくは5 ppm以下であることを意味する。
硝酸の安定化は、水による発煙硝酸の希釈ならびに亜硝酸および窒素酸化物を除去しうる作用剤(以下、「作用剤」と称する)による該希釈された硝酸の処理を含む方法によって達成することができる。発煙硝酸への該作用剤の水性溶液の添加によっても同じ結果が得られることが理解されよう。
作用剤の例は、尿素およびスルファミン酸であり、尿素が好ましい。
【0006】
作用剤と硝酸の接触時間およびそれらの量は、亜硝酸および窒素酸化物が硝酸を実質的に含まないようにするのに十分であるべきであるが、力価およびニトロ化力が低下するので、過剰量の硝酸を加塩すべきではない。「安定化硝酸」中に窒素酸化物および亜硝酸が無いことは、たとえば、目視検査(色)ならびに過マンガン酸滴定によって評価することができる。
「安定化」硝酸は、83〜85% w/wの硝酸(通常、約0.06〜約0.12%の亜硝酸および窒素酸化物を含む)に約0.3〜約1% w/wの範囲の量の作用剤を添加することによって製造される。亜硝酸および窒素酸化物を完全に除去するために、硝酸との接触時間は、約80分〜約130分間の範囲である。
尿素の場合、その量は、典型的には、約0.6〜約1% w/w、好ましくは約0.7〜約1% w/wの範囲であり、接触時間は、好ましくは約95〜約120分間の範囲である。
本発明の「安定化」硝酸は、時間がたてば、相当量の亜硝酸および窒素酸化物が再度放出されるので、安定化から3時間以内に使用すべきである。
【0007】
「安定化」硝酸による式(II)で示される化合物のモノニトロ化は、水非混和性塩素系有機溶媒(以下、「塩素系溶媒」と称する)中で行うのが好ましい。塩素系溶媒の例は、モノ、ジ、トリおよびテトラクロロC1-C4アルキル炭化水素であり、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、トリクロロエタンおよびテトラクロロエタンが好ましく、ジクロロメタンが特に好ましい。
塩素系溶媒中の式(II)で示される化合物の溶液を、同じ溶媒に分散した「安定化」硝酸と接触させることによって反応を行うのが好ましい。式(II)で示される化合物の溶液は、可能な限り均質であるべきである。たとえば、約60〜約75%、好ましくは約65〜約70% w/wの範囲の濃度でジクロロメタン中の1,4-ブタンジオールの均質溶液を得ることができる。
【0008】
式(II)で示される化合物に対する「安定化」硝酸の重量比は、式(II)で示される化合物の特徴に応じて、約10:1〜約15:1の範囲である。
たとえば、もし、式(II)で示される化合物が1,4-ブタンジオールであるならば、1,4-ブタンジオールに対する「安定化」硝酸の重量比は、約11:1〜約14.5:1であるのが好ましい。したがって、ニトロ化混合物中の1,4-ブタンジオールの濃度は、約2.1〜約2.8% w/w、好ましくは約2.3〜約2.6% w/wの範囲である。
式(II)で示される化合物のモノニトロ化は、室温以下、好ましくは0℃以下、より好ましくは0℃の反応温度、約10〜約30分間、好ましくは約15〜約20分間の範囲の反応時間で行う。反応の進行は、従来の分析方法でモニターすることができ、したがって、最適反応時間を決定することができる。典型的には、冷水(約6℃以下、好ましくは約3℃以下に予冷したもの)を加えて反応を停止する。
【0009】
本発明方法により、工業的見地から有利な収率で式(I)で示される化合物が得られ、尿素の存在下、必要に応じて硫酸とともに濃硝酸を用いるニトロ化よりも確実に危険性が低い。
収率に関連する限り、本発明の1,4-ブタンジオールのモノニトロ化は、選択性をもって、約70〜75%に相当するパーセンテージ比1,4-ブタンジオール・モノニトレート/(1,4-ブタンジオール・モノニトレート+1,4-ブタンジオール・ジニトレート)として表される、約30%〜約40%の範囲のモル収率で1,4-ブタンジオール・モノニトレートを供給する。
【0010】
本発明のさらなる目的であるニトロ化混合物は、約2% w/wの量の式(I)で示される化合物、対応するジニトレート副産物、未反応の式(II)で示される化合物および未反応の硝酸、ならびに他の脱水および/または酸化に起因する副産物を含む有機塩素系溶媒に分散した粗混合物である。ニトロ化混合物をまず濃水酸化ナトリウム溶液で部分的に中和する。大部分の未反応の式(II)で示される化合物は、得られる水性硝酸ナトリウム溶液に抽出される。次いで、溶媒を蒸発させて有機相を濃縮し、希炭酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウム溶液で中和する。塩素系有機溶媒中の混合物は、一般に、約11%〜15% w/wの範囲の量の式(I)で示される化合物、約3〜4, 5% w/wの範囲の量の対応するジニトロ化副産物および約0.2〜0.8% w/wの範囲の量の対応する式(II)で示されるジオールを含む[式(I)で示される化合物と比較して]。総ニトロエステル濃度が15% w/w以上である混合物は、爆発性があり、操作者にとって潜在的に危険である。式(I)で示される化合物は、対応するジニトロ化副産物および痕跡量の対応する式(II)で示されるジオールから、公知の方法によって分離することができる。
以下の実施例によって本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0011】
実施例1−「安定化」硝酸の製造
冷却器および撹拌器を備えたステンレス鋼反応器に、亜硝酸含量0.09%の希硝酸(84.7%)約90 kgを入れ、675 gの尿素ビーズを攪拌しながら加える。約90分後、色の視察および過マンガン酸塩滴定の両方によって、亜硝酸および窒素酸化物の除去をコントロールする。必要ならば、さらなる尿素を少量ずつ加える。
【0012】
実施例2−1,4-ブタンジオール・モノニトレート
ステンレス鋼反応器に931 gのジクロロメタンおよび385 gの「安定化」硝酸を連続して入れる。分散物を攪拌しながら約0℃に冷却し、次いで、ジクロロメタン中の1,4-ブタンジオール(70/30)50 gを一度に加える。反応混合物を約−2℃〜2℃の範囲の温度に攪拌しながら維持する。反応中の混合物のサンプルを採取することによってニトロ化動態をモニターする。20分後、氷/水(385 g)混合物に注ぎ入れることによって反応を停止し、次いで、温度を15℃以下に維持しながら433 gの40% NaOHで中和する。次いで、1,4-ブタンジオール・モノニトレート(19.2 g)、1,4-ブタンジオール・ジニトレート(6.4 g)および1,4-ブタンジオール(0.1 g)を含む有機相(980 g)を分離し、15%に濃縮する。粗溶液中の1,4-ブタンジオール・モノニトレートのモル収率は、36.6%である。次いで、溶液を次の精製に付す。同じ操作を通じて、次の化合物を得ることができる:エタンジオール・モノニトレート、1,3-プロパンジオール・モノニトレート、1,5-ペンタンジオール・モノニトレートおよび1,6-ヘキサンジオール・モノニトレート。
【0013】
実施例3−1,4-ブタンジオール・モノニトレート
実施例2に記載した手順に続いて、21.78 kgのジクロロメタンおよび9 kgの「安定化」硝酸を反応器に入れる。混合物を−5〜0℃に冷却し、次いで、ジクロロメタン(0.441 kg)中の1,4-ブタンジオール(0.819 kg)の混合物1.26 kgを激しく攪拌しながら一度に加える。18分後、2℃に予冷した水(9 kg)を加えて反応を停止する。次いで、40% 水酸化ナトリウム(9 kg)で溶液を中和する。1,4-ブタンジオール・モノニトレート(0.46 kg)、1,4-ブタンジオール・ジニトレート(0.155 kg)および1,4-ブタンジオール(0.002 kg)を含む有機相(23 kg)を分離し、15%に濃縮する。粗溶液中の1,4-ブタンジオール・モノニトレートのモル収率は、37.4%である。次いで、溶液を次の精製に付す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:
HO-A-ONO2 (I)
[ここで、Aは、C2-C6アルキレン鎖である]
で示される化合物の製造方法であって、
「安定化」硝酸による、式:
HO-A-OH (II)
[ここで、Aは、前記と同意義である]
で示される化合物のニトロ化を含む方法。
【請求項2】
式(I)で示される化合物が、エタンジオール-モノニトレート、1,3-プロパンジオール・モノニトレート、1,4-ブタンジオール・モノニトレート、1,5-ペンタンジオール・モノニトレートまたは1,6-ヘキサンジオール・モノニトレートである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
「安定化」硝酸が、83〜85%の範囲の濃度であり、亜硝酸および窒素酸化物を実質的に含まない請求項1または2のいずれか1つに記載の方法。
【請求項4】
反応が、水非混和性塩素系有機溶媒中で行われる請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
塩素系有機溶媒が、モノ、ジ、トリおよびテトラクロロC1-C4アルキル炭化水素である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
式(II)で示される化合物に対する「安定化」硝酸の重量比が、10:1〜15:1の範囲である請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
ニトロ化が、10〜30分間の範囲の時間行われる請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
式(II)で示される化合物が、1,4-ブタンジオールであり、1,4-ブタンジオールに対する「安定化」硝酸の重量比が、11:1〜14.5:1の範囲である請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法によって得られる式(I)で示される化合物を含む、水非混和性有機塩素系溶媒中のニトロ化混合物。
【請求項10】
83〜85%の範囲の濃度を有し、亜硝酸および窒素酸化物を実質的に含まないことを特徴とする「安定化」硝酸。
【請求項11】
発煙硝酸を水で約83〜85%の濃度に希釈し、0.3〜1% w/wの範囲の量の尿素またはスルファミン酸で80〜130分間処理することを含む「安定化」硝酸の製造方法。

【公表番号】特表2006−506418(P2006−506418A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−550944(P2004−550944)
【出願日】平成15年11月6日(2003.11.6)
【国際出願番号】PCT/EP2003/012376
【国際公開番号】WO2004/043898
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(504348563)ディファルマ・ソシエタ・ペル・アチオニ (6)
【氏名又は名称原語表記】DIPHARMA S.p.A.
【Fターム(参考)】