説明

アルキド樹脂合成装置及びアルキド樹脂の合成方法

【課題】 アルキド樹脂合成装置の外部に設けた生成物回収部により水分を回収することによって、水分が合成装置内に逆流することによる急激な沸騰を防止することができるアルキド樹脂合成装置を提供する。
【解決手段】反応槽と攪拌部と不活性ガス供給部と排気部を少なくとも有し、脂肪酸等と多価アルコールとエステル交換触媒を配合したエステル交換物に対し、多塩基酸又は酸無水物等を配合して加熱し、脱水重合反応によりアルキド樹脂を合成するアルキド樹脂合成装置において、反応槽の脱水重合反応により生じた生成物である生成水と副生成物である酸性ガスを回収し、生成水と酸性ガスを分離して処理する生成物回収部を反応槽より下方の位置に設けたことを特徴とするアルキド樹脂合成装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インキ及び塗料等のワニス組成物であるアルキド樹脂を合成する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インキ及び塗料等に使用されるアルキド樹脂ワニスは、アルキド樹脂等を反応釜で加熱しながら反応させることにより製造されている。
【0003】
例えば、ワニスに使用するアルキド樹脂等を製造する装置としては、酸無水物とキシレン等を加熱して反応させる反応釜と、反応物から生じた水分とキシレンを凝縮して液化するコンデンサと、液化したキシレンと水をデカンタに貯留させてキシレンと水を分離し、キシレンのみを合成装置へ戻す還流装置から成るアルキド樹脂等の合成装置が知られている。
【0004】
その一例としては、酸無水物、多価アルコールを有機溶媒中で反応させることを特徴とするアルキド樹脂の合成方法であって、加熱装置、攪拌部、温度計、還流冷却管(コンデンサ)、窒素導入管、水分離機を備えた反応釜によりアルキド樹脂を製造する旨の記載がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、無水マレイン酸を配合させて得られるアルキド樹脂の発明であって、攪拌部、温度計、精留塔付脱水トラップ管及び窒素導入管を備えた反応釜によりアルキド樹脂を製造する記載がある。(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−280219号公報
【特許文献2】特許2522079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特開昭62−280219号公報は、合成時に生成する水分を除去するためにキシレンを使用しているため、人体及び環境へ悪影響を及ぼすおそれがあるという問題があった。
【0008】
また、特許2522079号公報は、キシレン等の脱水還流溶剤を使用していないものの小規模な合成を行っており、大規模な合成においては、発生した水分が冷却管に到達する前に凝縮し、合成装置内に逆流して急激な沸騰を引き起こすおそれがあるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、反応槽と攪拌部と不活性ガス供給部と排気部を少なくとも有し、脂肪酸等と多価アルコールとエステル交換触媒を配合したエステル交換物に対し、多塩基酸又は酸無水物等を配合して加熱し、脱水重合反応によりアルキド樹脂を合成するアルキド樹脂合成装置において、前述の反応槽より下方の位置に、反応槽の脱水重合反応により生じた生成物である生成水と副生成物である酸性ガスを回収し、生成水と酸性ガスを分離して処理する生成物回収部を更に設けたことを特徴とするアルキド樹脂合成装置である。
【0010】
本発明は、生成物回収部が、反応槽の天井部から鉛直方向に設けられた生成水と酸性ガスを回収する生成物回収管と、生成物回収管に接続されて生成水と酸性ガスを分離して回収し、かつ、生成水が反応槽に逆流することを防止する緩衝トラップと、緩衝トラップの天井に設けられ、緩衝トラップにより分離された酸性ガスを回収する臭気回収管と、天井部を臭気回収管と接続され、臭気回収管により回収された酸性ガスを中和して臭気を低減するためのアルカリ性溶液を内部に有する脱臭トラップと、脱臭トラップの天井部に設けられ、脱臭トラップにより臭気を低減された酸性ガスを排気部に送る排気管から成ることを特徴とするアルキド樹脂合成装置である。
【0011】
本発明は、アルカリ性溶液が、1〜5重量%の炭酸ナトリウム溶液であることを特徴とするアルキド樹脂合成装置である。
【0012】
本発明は、脂肪酸等と多価アルコールとエステル交換触媒とを配合してエステル交換物を合成するエステル交換物合成手段と、エステル交換物を不活性ガスの供給下において加熱し、エステル交換物のエステル交換を促進する手段と、加熱後のエステル交換物を冷却する手段と、冷却後のエステル交換物に多塩基酸又は酸無水物を配合する配合物合成手段と、配合物を不活性ガスの供給下において加熱し、脱水重合反応を促進させ、加熱温度を一定に保持してアルキド樹脂の酸価を調整する酸価調整手段と、酸価調整手段により生じた生成物である生成水と副生成物である酸性ガスを回収して処理する生成物回収手段と、を有することを特徴とするアルキド樹脂の合成方法である。
【0013】
本発明は、生成物回収手段が、生成水が混合物に逆流することを防止するために生成水と酸性ガスを分離し、生成水を回収して排出する生成水処理手段と、酸性ガスをアルカリ性溶液により中和して臭気を低減する臭気低減手段と、臭気を低減された酸性ガスを排出する臭気排出手段とから成ることを特徴とするアルキド樹脂の合成方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアルキド樹脂合成装置は、キシレン、トルエン等の共沸溶媒を使用しないアルキド樹脂の合成が可能であるため、人体への悪影響及び環境への負荷を大幅に軽減することができる。
【0015】
また、本発明のアルキド樹脂合成装置は、コンデンサを使用せず、合成装置の外部に設けた、副生成物回収部により水分を回収するため、水分が合成装置内に逆流することによる急激な沸騰を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下,図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明のアルキド樹脂合成装置の一例を示すブロック図である。図1に示すように、本発明のアルキド樹脂合成装置は、反応槽1と攪拌部2と不活性ガス供給部3と排気部5を少なくとも有し、点線の部分は、本発明の主要部である副生成物回収部4である。反応槽1は、脂肪酸等と多価アルコールとエステル交換触媒を配合してエステル交換物を合成し、加熱してエステル交換物のエステル交換を促進する。さらに、反応槽1は、エステル交換物に多塩基酸又は酸無水物の配合物を加熱して脱水重合反応を行って酸価を調整する。攪拌部2は、攪拌羽根等をモーター等により駆動して配合物を攪拌し、配合物が均一に加熱されるようにする。不活性ガス供給部3は、配合物の脱水重合反応を促進させるために反応槽1に窒素ガス等の不活性ガスを供給する。生成物回収部4は、反応槽1の配合物の脱水重合反応により生じた生成物である生成水と副生成物である酸性ガスを回収して処理する。排気部5は、生成物回収部4により中和されて臭気が低減されたガスを屋外へ放出する。次に、本発明の主要部である副生成物回収部4について、簡略に説明する。
【0018】
図1の点線の部分は、本発明の主要部である生成物回収部4の拡大図である。生成物回収部4は、反応槽1に接続された生成物回収管4aと、生成物回収管4aに接続された緩衝トラップ4bと、緩衝トラップ4bの天井部に設けられた臭気回収管4cと、臭気回収管4cに接続された脱臭トラップ4dと、排気部5に接続された脱臭トラップ4dの天井部に設けられた排出管4eから成っている。
【0019】
反応槽1に接続された生成物回収管4aは、反応槽1の脱水重合反応により生じた生成物である生成水と副生成物である酸性ガスを回収して緩衝トラップ4bに送る。緩衝トラップ4bは、生成物回収管4aにより回収された生成水が反応槽1に逆流することを防止するため、回収された生成水を留去する。臭気回収管4cは、反応槽1の脱水重合反応により生じた酸性ガスを脱臭トラップ4dに送る。脱臭トラップ4dは、内部のアルカリ性溶液により臭気回収管4cから送られた酸性ガスを中和して臭気を低減する。排出管4eは、脱臭トラップ4dにより中和されて臭気を低減された酸性ガスを排気部5に送り、排気部5により野外にガスを排出する。次に、本発明のアルキド樹脂合成装置について図面を用いて詳細に説明する。
【0020】
図2は、本発明のアルキド樹脂合成装置A1の概略図である。図2に示すように、本発明のアルキド樹脂合成装置A1は、反応槽1、攪拌部2、不活性ガス供給部3、排気部5、冷却液供給部6、ジャケット7、生成物回収部4を有している。本発明の主要部である生成物回収部4は、生成物回収管4aと、生成物回収管4aに接続された反応槽1に生成水が逆流することを防止する緩衝トラップ4bと、緩衝トラップ4bの天井部に設けられた臭気回収管4cと、臭気回収管4cに接続された反応槽1の脱水重合反応で生じた臭気を低減する脱臭トラップ4dと、排気部5に接続された脱臭トラップ4dの天井部に設けられた排出管4eから成っている。以下、各構成について説明する。
【0021】
反応槽1は、脱水重合反応を行うことができる容器であれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。反応槽1の形状は、多角型、円筒型等の公知のものを使用できるが、攪拌効率、取扱い性、汎用性等の点から円筒型が好ましい。また、反応槽1の加熱方式は外部ジャケットにスチーム等の熱媒を接触させることによって加熱するものであっても良いし、反応槽の内部にコイル等の伝熱装置を備えていて加熱するものであっても良い。なお、反応槽1の温度は、190℃から250℃であることが好ましく、より好ましいのは220℃である。190℃未満では、脱水重合反応が遅延し、250℃以上では合成されたアルキド樹脂が変色するからである。
【0022】
攪拌部2は、反応槽1の脱水重合反応を均一に効率よく行うものであれば特に限定されず、電動モーター等により駆動する公知のものを使用することができる。また、攪拌部の材質は、ステンレス鋼等の耐熱性及び耐腐食性を有する金属であれば特に制限されず、公知のものを使用することができる。また、攪拌部2の撹拌羽根の形状、大きさ等は、反応槽1内の反応液の温度及び濃度が均一化されるものであればよく、特に制限されるものではない。
【0023】
不活性ガス供給部3は、反応槽1へ供給する不活性ガスの流量を制御することができれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。また、供給する不活性ガスは、反応物に着色や変成、分解等の悪影響を及ぼさないガスが良く、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸価炭素等が好ましい。もちろん、不活性ガスにはこれらの混合ガスも含む。
【0024】
不活性ガス供給部3から供給される不活性ガスの量は、300ml/min〜1700ml/minとすることが好ましい。300ml/min未満では、脱水重合反応が遅延するからである。なお、不活性ガスの量を多くした場合は脱水重合反応が早くなるが、経済性を考慮するため1700ml/min以下であることが好ましい。次に、本発明の主要部である副生成物回収部4について詳細に説明する。
【0025】
生成物回収部4は、生成物回収管4a、緩衝トラップ4b、臭気回収管4c、脱臭トラップ4d、排気管4eから成り、反応槽1より下方の位置に配置されている。生成物回収部4は、コンデンサを使わずに生成水を回収することを特徴とするものである。また、反応槽1より下方に配置されているのは、脱水重合反応により生じた酸性ガスと生成水を効率良く回収し、生成水が反応槽1に逆流することを防止するためである。
【0026】
生成物回収管4aは、反応槽1の脱水重合反応により生じた生成物である生成水と副生成物である酸性ガスを速やかに緩衝トラップ4bに送る必要があるため、反応槽1の天井部に接続され、反応槽1の近傍、かつ鉛直方向に沿って設けられている。反応槽1の脱水重合反応により生じた酸性ガスを効率的に回収すると共に、反応槽1に生成水が滴下することを防止するためである。生成物回収管4aは、生成水と酸性ガスを速やかに緩衝トラップ4bに送ることが好ましく、反応槽1の天井部又は反応槽1の側面上部に設けることが好ましい。また、生成物回収管4aの形状は、生成水と酸性ガスを速やかに緩衝トラップ4bに送ることができればよく、例えばU字型の配管等を用いることができる。なお、生成物回収管4aは、耐熱性及び耐腐食性を有する金属であることが好ましい。
【0027】
緩衝トラップ4bは、生成物回収管4aと接続され、回収された生成水を内部に蓄え、外部に排出する。反応槽1が突沸した場合において安全にアルキド樹脂等を受けると共に、反応槽1内の減圧による生成水の逆流を防止するためである。緩衝トラップ4bの材質は、ステンレス鋼等の耐熱性及び耐腐食性を有する金属であることが好ましく、内部に炭酸ナトリウム等のアルカリ溶液を使用することがより好ましい。反応槽1の合成により生じた酸性ガスを中和するためである。また、緩衝トラップ4bの容量は、反応物の全量以上であることが好ましい。なお、使用する溶液の濃度は、1〜5%であることが好ましい。1%の未満の場合は、酸性ガスを中和することが困難であり、5%以上の場合は経済性に欠けるからである。
【0028】
臭気回収管4cは、緩衝トラップ4bの天井部と脱臭トラップ4dの天井部又は側面部に接続され、反応槽1の脱水重合反応により生じた酸性ガスを脱臭トラップ4d内部の炭酸ナトリウム等のアルカリ溶液に効率よく送るものである。なお、臭気回収管4cは、脱臭トラップd内部に満たされた炭酸ナトリウム等のアルカリ溶液と接触するため耐熱性及び耐腐食性を有する金属であることが好ましい。
【0029】
脱臭トラップ4dは、反応槽1の脱水重合反応で生じた酸性ガスの臭気を低減させるものである。脱臭トラップ4dの材質は、ステンレス鋼等の耐腐食性を有する金属であることが好ましい。また、緩衝トラップ4bにおいて低減できなかった臭気を中和し、屋外へ安全に排出するため、脱臭トラップ4dの内部に使用するアルカリ溶液は、炭酸ナトリウム等を使用することが好ましい。なお、使用する炭酸ナトリウム等のアルカリ溶液の濃度は、1〜5%であることが好ましい。1%の未満の場合は、酸性ガスを中和することが困難であり、5%以上の場合は経済性に欠けるからである。
【0030】
排気管4eは、脱臭トラップ4dの天井部に設けられ、脱臭トラップ4dにより中和されて臭気を低減されたガスを排気部5に送る。また、排気管4eは、臭気が低減された酸性ガスを排気部5に送ることができれば特に限定されず、樹脂、金属等による配管を使用することができる。
【0031】
排気部5は、脱臭トラップ4bで中和されて臭気の低減されたガスを屋外へ排出することができれば特に限定されず、ドラフト等の局所排出装置等の公知のものを使用することができる。
【0032】
外部ジャケット7は、反応槽1本体の側面外周部に設けられていればよく、反応槽本体底面部にも設けられていれば、さらに好ましい。なお、外部ジャケット7に用いる熱媒には、スチーム、熱油等の公知のものを利用することができる。また、外部ジャケット7に用いる冷媒には、公知の冷却液供給部6により水、油等を使用することができる。
【0033】
次に、本発明のアルキド樹脂の合成方法の一例について説明する。
【0034】
図3は、本発明のアルキド樹脂の合成方法の一例を示すフローチャートである。上記方法により合成されるアルキド樹脂は、脂肪酸等、多価アルコール、エステル交換触媒を配合させてエステル交換を行ってエステル交換物を合成し、エステル交換物に対して多塩基酸又は酸無水物等を配合し、脱水重合反応を起させることにより得られるものである。本発明のアルキド樹脂の合成方法は、脂肪酸等(1)、多価アルコール(2)、エステル交換触媒(3)を配合してエステル交換物を合成するエステル交換物合成手段(S1)と、不活性ガスの存在下において加熱し、エステル交換物のエステル交換を促進する手段(S2)と、加熱後にエステル交換物を冷却する手段(S3)と、冷却後のエステル交換物に多塩基酸又は酸無水物(4)を配合する配合物作製手段(S4)と、不活性ガスの存在下において配合物を加熱して脱水重合反応を促進させ、加熱温度を一定に保持してアルキド樹脂の酸価を調整する酸価調整手段(S5)と、調整手段(S5)により生じた生成物である生成水と副生成物である酸性ガスを回収する生成物回収手段(S6)と、回収手段(S6)により回収された生成水と酸性ガスを分離して生成水を回収して排出する生成水処理手段(S7)と、酸性ガスを中和して臭気を低減する臭気低減手段(S8)、臭気を低減された酸性ガスを排出する臭気排出手段(S9)とから成っている。以下、合成方法について詳細に説明する。
【0035】
エステル交換物合成手段(S1)は、反応槽1に脂肪酸等(1)、多価アルコール(2)、エステル交換触媒(3)を配合する手段である。エステル交換促進手段(S2)は、反応槽1に対して不活性ガス供給部3により窒素ガスを供給し、200〜250℃まで昇温して加熱してエステル交換物のエステル交換を促進する手段である。冷却手段(S3)は、エステル交換物を250℃において30分から1時間加熱して保持した後に、エステル交換物を常温において保持し、常温まで冷却する手段である。多塩基酸又は酸無水物(4)を配合する手段(S4)は、常温まで冷却されたエステル交換物に対して脱水重合反応に必要な多塩基酸又は酸無水物等を配合する手段である。酸価調整手段(S5)は、反応槽1に対して不活性ガス供給部3により窒素ガスを300ml/min〜1700ml/minを供給し、多塩基酸又は酸無水物(4)を加えた配合物を190〜230℃に加熱して、220℃の温度下において3時間から5時間程度保持してアルキド樹脂の酸価を調整する手段である。
【0036】
生成物回収手段(S6)は、反応槽1の脱水重合反応により生じた生成物である生成水と副生成物である酸性ガスを生成物回収管4aにより回収し、生成水と酸性ガスを生成水処理手段(S7)に送る。生成水処理手段(S7)は、緩衝トラップ4bにより生成物回収手段(S6)から送られた生成水と酸性ガスを分離して生成水を留去・排出し、酸性ガスを臭気回収管により臭気低減手段(S8)に送る。臭気低減手段(S8)は、生成水処理手段(S7)から送られた酸性ガスを炭酸ナトリウム等のアルカリ溶液により中和して臭気を低減する。臭気排出手段は(S9)、臭気低減手段(S8)により臭気を低減された酸性ガスを排気管により局所排気装置等(ドラフト等)に送り、屋外へ排出する。次に、本発明の合成装置又は合成方法に用いられるアルキド樹脂の原料である脂肪酸等、多価アルコール、エステル交換触媒、多塩基酸又は酸無水物について説明する。
【0037】
上記脂肪酸等としては、乾性油(半乾性油も含む)脂肪酸(ヨウ素価約100以上)、不乾性油脂肪酸(ヨウ素価約100未満)及びこれらの油脂等が使用できる。乾性油脂肪酸としては、例えば、サフラワー油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、ダイズ油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、ケシ油脂肪酸、エノ油脂肪酸、麻実油脂肪酸、ブドウ核脂肪酸、トウモロコシ油脂肪酸、トール油脂肪酸、ヒマワリ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、クルミ油脂肪酸、桐油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、米ヌカ油脂肪酸及びこれらのダイマー酸等があげられ、不乾性油脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸等を使用することができる。
【0038】
上記多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−、1,3−、2,3−、1,4−ブチレングリコール、ペンタジオール、2,3−ジメチルプロパンジオール、1,6−、2,5−ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、シクロヘキサンジメタノール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ジグリセリン、ジペンタエリスリトール、ソルビトール等があり、これらから選ばれた一種又は二種以上を使用することができる。
【0039】
上記エステル交換触媒としては、水酸価リチウム、水酸価ナトリウム、水酸価カリウム等の公知のものを使用することができる。
【0040】
上記多塩基酸又は酸無水物は、1分子中に二個以上のカルボキシル基をもつ多価カルボン酸価合物からなり、当該化合物としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデシニルコハク酸及びこれらの無水物等の脂肪族飽和二塩基酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びこれらの無水物等の脂肪族不飽和二塩基酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの無水物等の芳香族多塩基酸、テトラヒドロフタル酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、ハイミック酸、ヘット酸、テトラクロロフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチルヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロトリメリット酸及びこれらの無水物等の脂環族多塩基酸等があげられ、これらから選ばれた一種又は二種以上を使用できる。
【0041】
なお、上記方法により合成されるアルキド樹脂の酸価は、15〜30になるように調整することが好ましい。酸価が大きすぎると、乾燥性が劣るからである。また、酸価が小さすぎると、他の樹脂との相溶性が低下するからである。
【0042】
また、上記方法により合成されたアルキド樹脂には、必要に応じて、顔料、その他の添加剤を添加するこができる。
〔実施例〕
【0043】
以下、本発明のアルキド樹脂合成装置について具体的な実施例を挙げ、詳細に説明する。
【0044】
本発明の反応装置A1を用いて合成するアルキド樹脂は、一例として、脂肪酸等(1)には、植物油である大豆油、多価アルコール(2)としては、エチレングリコール、エステル交換触媒(3)としては、水酸価リチウム、多塩基酸又は酸無水物(4)としては、ヘキサヒドロ無水フタル酸を使用し、各種材料の配合量は、以下の表1に示した。
【0045】
【表1】

【0046】
反応槽1は、容量30lの低周波誘導加熱式反応槽を使用した。攪拌部2の回転数を150rpmにして攪拌した。不活性ガス供給部3により供給するガスは、窒素ガスを使用した。緩衝トラップ4bには、容量18lのステンレス製の容器を使用し、5%の炭酸ナトリウム溶液を使用した。脱臭トラップ4dには、容量5lのステンレス製の容器を使用し、5%の炭酸ナトリウム溶液を使用した。導入部の配管は、脱臭トラップ4dの底部に近いことが好ましい。排気部5には、局所排気部を使用した。冷却には、鉱物油を冷却液供給部6により循環して冷却した。ジャケット7は、誘導コイルにより加熱した。
【0047】
反応槽1に、表1に示した材料である大豆油とエチレングリコールと水酸価リチウムを仕込み、窒素ガスを供給しながら加熱を開始し、250℃まで昇温して30分間保持した後、室温まで冷却した。その後、ヘキサヒドロ無水フタル酸を加えた。
【0048】
ヘキサヒドロ無水フタル酸を加えた後、表2の実施例1から実施例6に示すように窒素ガスの流量を変化させて置換し、220℃にして加熱して反応物酸価の値を25以下になるように反応時間を調整した。
【0049】
【表2】

【0050】
実施例1〜6では、反応槽1の合成により生じた生成水を生成物回収部4の緩衝トラップ4bから効率的に留去することができ(図示せず)、目的とする酸価のアルキド樹脂を18kg得ることができた。また、緩衝トラップ4bにより急激な沸騰による反応物の反応槽外への流出は無かった。さらに、脱臭トラップ4dにより酸性ガスの臭気を低減することができた。
【0051】
次に、本発明のアルキド樹脂合成装置A1と従来例を比較するため、図4の従来のアルキド樹脂合成装置A2により上記表1の配合例によりアルキド樹脂を合成した。なお、反応温度、窒素流量等は、表2の実施例1から実施例6と同様にして行った。
【0052】
(比較例)
図4は、従来例のアルキド樹脂合成装置A2の概略図である。図4に示すように、アルキド樹脂合成装置A2は、反応槽1、攪拌部2、不活性ガス供給部3、排気部5、冷却液供給部6、ジャッケット7、コンデンサ8により構成されている。
【0053】
図4に記載のアルキド樹脂合成装置A2では、反応槽1の合成により生じた生成水をコンデンサ8から効率的に留去することが困難であるため(図示せず)反応が遅く、コンデンサ8からの水滴により反応槽1に急激な沸騰が起こった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のアルキド樹脂合成装置のブロック図である。
【図2】本発明のアルキド樹脂合成装置の概略図である。
【図3】本発明のアルキド樹脂合成装置によるアルキド樹脂の合成方法を示すフローチャートである。
【図4】従来のアルキド樹脂合成装置の概略図である。
【符号の説明】
【0055】
A1 本発明のアルキド樹脂合成装置
A2 従来のアルキド樹脂合成装置
1 反応槽
2 攪拌部
3 不活性ガス供給部
4 生成物回収部
4a 生成物回収管
4b 緩衝トラップ
4c 臭気回収管
4d 脱臭トラップ
4e 排気管
5 排気部
6 冷却液供給部
7 ジャケット
9 コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応槽と攪拌部と不活性ガス供給部と排気部を少なくとも有し、脂肪酸等と多価アルコールとエステル交換触媒を配合したエステル交換物に対し、多塩基酸又は酸無水物等を配合して加熱し、脱水重合反応によりアルキド樹脂を合成するアルキド樹脂合成装置において、前記反応槽より下方の位置に、前記反応槽の脱水重合反応により生じた生成物である生成水と副生成物である酸性ガスを回収し、前記生成水と前記酸性ガスを分離して処理する生成物回収部を更に設けたことを特徴とするアルキド樹脂合成装置。
【請求項2】
前記生成物回収部は、前記反応槽の天井部から鉛直方向に設けられた前記生成水と前記酸性ガスを回収する生成物回収管と、前記生成物回収管に接続されて前記生成水と前記酸性ガスを分離して回収し、かつ、前記生成水が前記反応槽に逆流することを防止する緩衝トラップと、
前記緩衝トラップの天井に設けられ、前記緩衝トラップにより分離された前記酸性ガスを回収する臭気回収管と、
天井部を前記臭気回収管と接続され、前記臭気回収管により回収された前記酸性ガスを中和して臭気を低減するためのアルカリ性溶液を内部に有する脱臭トラップと、
前記脱臭トラップの天井部に設けられ、前記脱臭トラップにより臭気を低減された前記酸性ガスを前記排気部に送る排気管から成ることを特徴とする請求項1に記載のアルキド樹脂合成装置。
【請求項3】
前記アルカリ性溶液は、1〜5重量%の炭酸ナトリウム溶液であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のアルキド樹脂合成装置。
【請求項4】
脂肪酸等と多価アルコールとエステル交換触媒とを配合してエステル交換物を合成するエステル交換物合成手段と、
前記エステル交換物を不活性ガスの供給下において加熱し、前記エステル交換物のエステル交換を促進する手段と、
前記加熱後の前記エステル交換物を冷却する手段と、
冷却後の前記エステル交換物に多塩基酸又は酸無水物を配合する配合物合成手段と、
前記配合物を不活性ガスの供給下において加熱し、脱水重合反応を促進させ、加熱温度を一定に保持してアルキド樹脂の酸価を調整する酸価調整手段と、
前記酸価調整手段により生じた生成物である生成水と副生成物である酸性ガスを回収して処理する生成物回収手段と、
を有することを特徴とするアルキド樹脂の合成方法。
【請求項5】
前記生成物回収手段は、前記生成水が前記混合物に逆流することを防止するために前記生成水と前記酸性ガスを分離し、前記生成水を回収して排出する生成水処理手段と、
前記酸性ガスをアルカリ性溶液により中和して臭気を低減する臭気低減手段と、
前記臭気を低減された前記酸性ガスを排出する臭気排出手段と、から成ることを特徴とする請求項4に記載のアルキド樹脂の合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−263452(P2009−263452A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112751(P2008−112751)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】