説明

アルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースの製造方法

【課題】 高分子量物が少なく、分子量分布が狭いアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースの製造方法を提供する。
【解決手段】 カルボキシアルキルセルロース(A)を酵素(B)、炭素数1〜18のアルコール系溶媒、水酸基を有していてもよい炭素数4〜18のエーテル系溶媒及び炭素数3〜12のケトン系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒(C)並びに水の存在下で分解したカルボキシアルキルセルロースを、水溶性酸化剤(D)及び/又はアルカリ(E)で更に分解させて得られる低分子量化カルボキシアルキルセルロース(F)とアルキル化剤(G)とを、前記(E)及び前記(C)の存在下で反応させることを特徴とするアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースの製造方法に関する。更に詳しくは、高分子量物が少なく、分子量分布が狭いアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースは、pHの変動と共に水への溶解性が変動する性質やフィルム形成能を有しており、医薬品等の薬剤の添加剤として使用されている。
アルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースの製造方法としては、苛性ソーダ等の強アルカリの存在下、カルボキシアルキルセルロースにアルキルハロゲン化物を反応させる方法が知られている(例えば、特許文献1)。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、アルキルエーテル化と同時に進行するアルカリによるカルボキシアルキルセルロースの分解が、アルカリと反応しやすい低分子量のカルボキシアルキルセルロースで主に進むため、生成するアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースに高分子量物が多く存在することとなり、分子量分布が広くなる結果、各種溶剤への溶解性が高いものが得られにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第1286487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、高分子量物が少なく、分子量分布が狭いアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
即ち本発明は、カルボキシアルキルセルロース(A)を酵素(B)、炭素数1〜18のアルコール系溶媒、水酸基を有していてもよい炭素数4〜18のエーテル系溶媒及び炭素数3〜12のケトン系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒(C)並びに水の存在下で分解したカルボキシアルキルセルロースを、水溶性酸化剤(D)及び/又はアルカリ(E)で更に分解させて得られる低分子量化カルボキシアルキルセルロース(F)とアルキル化剤(G)とを、前記(E)及び前記(C)の存在下で反応させることを特徴とするアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースの製造方法並びに該製造方法により得られるゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるZ平均分子量(Mz)が70,000〜250,000、重量平均分子量(Mw)が20,000〜70,000でかつ前記Mzと前記Mwの比(Mz/Mw)が1.5〜4.0であるアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高分子量物が少なく、分子量分布が狭いカルボキシアルキルセルロースをエーテル化反応の出発物質とできるため、高分子量物が少なく、分子量分布が狭いアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明におけるカルボキシアルキルセルロース(A)としては例えば、カルボキシメチルセルロース及びカルボキシエチルセルロース等のアルキルの炭素数が1〜5のカルボキシアルキルセルロースが挙げられる。
これらの内、有機溶媒(C)及び水からなる混合溶媒との相溶性の観点から、カルボキシメチルセルロース及びカルボキシエチルセルロースが好ましく、特に好ましいのはカルボキシメチルセルロースである。
【0008】
本発明における酵素(B)としては、トリコデルマ属、アスペルギラス属、ペニシリウム属及びバチルス属等の微生物から生産されたセルラーゼ又はアルカリセルラーゼが挙げられる。酵素(B)は単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0009】
本発明における有機溶媒(C)としては、炭素数1〜18のアルコール系溶媒、水酸基を有していてもよい炭素数4〜18のエーテル系溶媒及び炭素数3〜12のケトン系溶媒が挙げられる。
【0010】
炭素数1〜18のアルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、2−エチルヘキシルアルコール、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール及びリノリルアルコール等が挙げられる。
【0011】
水酸基を有していてもよい炭素数4〜18のエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル及び一般式(1)で表される有機溶媒等が挙げられる。
1−O−(C24O)m−R2 (1)
[式中、R1及びR2はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基、mは1〜5の整数を表す。]
一般式(1)で表される有機溶媒の具体例としては、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル及びテトラエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0012】
炭素数3〜12のケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ−n−ブチルケトン及びシクロヘキサノン等が挙げられる。
【0013】
これらの有機溶媒の内、(A)の分解性及び分散性の観点から好ましいのは一般式(1)で表される有機溶媒である。
有機溶媒(C)は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0014】
(B)、(C)及び水の存在下で(A)を分解する際、分解反応及び分散体の色相に悪影響を及ぼさない範囲で有機溶媒(C)及び水以外に他の溶媒を共存させることができる。他の溶媒を共存させることにより反応系の粘度が低下するため、攪拌や温度調整が容易になる。
共存させる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン及びテトラリン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、n−ヘプタン、ミネラルスピリット及びシクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素系溶媒;塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、メチレンジクロライド、四塩化炭素、トリクロロエチレン及びパークロロエチレン等のハロゲン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート及びエチルセロソルブアセテート等のエステル系又はエステルエーテル系溶媒;ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;N−メチルピロリドン等の複素環式化合物系溶媒;並びにこれらの2種以上の混合溶媒が挙げられる。
【0015】
カルボキシアルキルセルロース(A)に対する酵素(B)の重量比[(B)/(A)]は、反応性の観点から、通常0.0001/1〜0.05/1、好ましくは0.0005/1〜0.03/1である。
【0016】
カルボキシアルキルセルロース(A)に対する有機溶媒(C)の重量比[(C)/(A)]は、反応性及び反応系の粘度の観点から、通常0.3/1〜10/1、好ましくは1/1〜4/1である。
【0017】
カルボキシアルキルセルロース(A)に対する水の重量比[水/(A)]は、反応性及び反応系の粘度の観点から、通常0.01/1〜0.3/1、好ましくは0.05/1〜0.2/1である。
【0018】
前記他の溶媒を共存させる場合、カルボキシアルキルセルロース(A)に対する重量比[他の溶媒/(A)]は、反応性及び反応系の粘度の観点から、通常0.05/1〜2/1、好ましくは0.2/1〜1/1である。
【0019】
(B)、(C)、水及び必要により他の溶媒の存在下で(A)を分解する際の温度は、通常20〜80℃であり、好ましくは30〜60℃である。また、好ましい反応時間は通常0.5〜40時間、好ましくは1〜5時間である。
【0020】
(B)、(C)、水及び必要により他の溶媒の存在下で(A)を分解して得られるカルボキシアルキルセルロースを、水溶性酸化剤(D)及び/又はアルカリ(E)で更に分解させることで、分子量分布が狭い低分子量化カルボキシアルキルセルロース(F)が得られる。
酵素で分解できるのは未置換のグルコース間の結合であることから、(A)の置換度が高いと、(B)、(C)、水及び必要により他の溶媒の存在下での分解のみでは、低分子量化が十分には進行しない。
【0021】
水溶性酸化剤(D)としては、過マンガン酸塩(過マンガン酸カリウム等)、亜ハロゲン酸塩(亜塩素酸ナトリウム等)、次亜ハロゲン酸塩(次亜塩素酸ナトリウム及び次亜塩素酸カルシウム等)及び過酸化水素系酸化剤(過酸化水素、過ホウ酸ナトリウム及び過炭酸ナトリウム等)等が挙げられる。これらの内、着色及び製品中への金属の残存をもたらさず、取扱いが容易である過ホウ酸ナトリウム及び過炭酸ナトリウムが好ましい。
本発明において水溶性とは、25℃の水100gに溶質が5g以上溶解することをいう。
【0022】
アルカリ(E)としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物等が挙げられ、(A)の分解性及びアルキルエーテル化の反応性の観点から好ましいのは水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムであり、更に好ましいのは水酸化ナトリウムである。これらのアルカリは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
アルカリ(E)の使用時の形態は、粒状、フレーク状、粉状又は水溶液の何れでもよいが、(A)の分解性及びアルキルエーテル化の反応性の観点から粒状であることが好ましい。また、アルカリ(E)が固体の場合、その大きさは、特に限定されないが、粒状物は直径1〜5mm、フレーク状物は0.5〜3cm角、粉状物は粒径30〜100μmであることが好ましい。
【0023】
(B)、(C)、水及び必要により他の溶媒の存在下で(A)を分解して得られるカルボキシアルキルセルロースの水溶性酸化剤(D)又はアルカリ(E)での分解反応は、(B)による(A)の分解後、引き続き行ってもよいし、(A)を(B)で分解後、固液分離して乾燥する等の操作により得られたカルボキシアルキルセルロースを(C)、水及び必要により他の溶媒の混合溶媒に分散させた後に(D)又は(E)を添加して、行ってもよい。
【0024】
カルボキシアルキルセルロースと水溶性酸化剤(D)の仕込み比率は、(A)を(B)で分解後引き続き(D)で分解する場合、(D)/(A)の重量比として、また、(A)を(B)で分解後固液分離して乾燥したものを(D)で分解する場合、(D)/[(B)で分解後のカルボキシアルキルセルロース]の重量比として、通常0.001/1〜0.15/1、カルボキシアルキルセルロースの分解性及び非着色性の観点から、好ましくは0.005/1〜0.1/1である。
【0025】
カルボキシアルキルセルロースとアルカリ(E)の仕込み比率は、(A)を(B)で分解後引き続き(E)で分解する場合、(A)の水酸基/(E)の当量比として、また、(A)を(B)で分解後固液分離して乾燥したものを(E)で分解する場合、(B)で分解後のカルボキシアルキルセルロースの水酸基/(E)の当量比として、通常1/0.8〜1/10、好ましくは1/1〜1/8である。
尚、(D)と(E)を併用する場合のそれぞれの仕込み量は、まず(D)と(E)の使用比率を設定して、単独で用いる場合の使用量に使用比率を乗じて求めることができる。
【0026】
(B)、(C)、水及び必要により他の溶媒の存在下で(A)を分解して得られるカルボキシアルキルセルロースを(D)を用いて更に分解する際の温度は、通常10〜90℃、好ましくは30〜70℃であり、時間は通常0.2〜10時間、好ましくは0.5〜4時間である。
また、分解する際のpHは、分解性の観点から通常7〜14、好ましくは2〜13である。
【0027】
(B)、(C)、水及び必要により他の溶媒の存在下で(A)を分解して得られるカルボキシアルキルセルロースを(E)を用いて更に分解する際の温度は、通常40〜130℃、好ましくは70〜100℃であり、時間は通常1〜20時間、好ましくは2〜10時間である。
また、(D)及び/又は(E)による分解は、窒素等の不活性ガス雰囲気下(酸素濃度が好ましくは100ppm以下)で行うことが好ましい。
尚、(D)と(E)を併用する場合、通常20〜130℃、好ましくは40〜100℃であり、時間は通常0.5〜20時間、好ましくは1〜10時間である。
【0028】
前記低分子量化カルボキシアルキルセルロース(F)とアルキル化剤(G)とを、アルカリ(E)及び有機溶媒(C)の存在下でアルキルエーテル化反応させることにより、分子量分布の狭いアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースを製造することができる。
【0029】
アルキルエーテル化反応は、前記分解反応後、引き続き行ってもよいし、分解反応後、固液分離して乾燥する等の操作により得られた低分子量化カルボキシアルキルセルロースを(C)に分散させた後に行ってもよい。副反応防止の観点から、水及び前記他の溶剤を含まない後者の方法が好ましい。
【0030】
アルキル化剤(G)としては、炭素数1〜8のアルキルクロライド(メチルクロライド、エチルクロライド、プロピルクロライド、ブチルクロライド及びイソプロピルクロライド等)、炭素数1〜8のアルキルブロマイド(メチルブロマイド、エチルブロマイド、プロピルブロマイド、イソプロピルブロマイド及びブチルブロマイド等)並びにアルキルの炭素数が1〜8のジアルキル硫酸(ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、ジプロピル硫酸、ジイソプロピル硫酸及びジブチル硫酸等)等が挙げられる。
これらの内、反応時の安全性及び反応性の観点から好ましいのは、炭素数1〜8のアルキルクロライドであり、特に好ましいのは、メチルクロライド及びエチルクロライドである。
【0031】
また、アルキルエーテル化反応時に、反応効率を上げる目的で必要により、相関移動触媒を用いることができる。
相関移動触媒としては、例えば、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩及び第4級アルソニウム塩等が挙げられ、これらの内好ましいのは第4級アンモニウム塩である。第4級アンモニウム塩としては、例えばテトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、トリメチルヘキサデシルアンモニウムクロライド、メチルジエチルドデシルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムハイドロサルフェート、トリオクチルアンモニウムクロライド及びn−ラウリルピリジニウムクロライドが挙げられる。
【0032】
低分子量化カルボキシアルキルセルロース(F)とアルキル化剤(G)の仕込み比率は、(F)の水酸基/アルキル化剤(G)の当量比として、通常1/0.8〜1/10、好ましくは1/1〜1/8である。
【0033】
低分子量化カルボキシアルキルセルロース(F)とアルカリ(E)の仕込み比率は、(F)の水酸基/アルカリ(E)の当量比として、通常1/1〜1/10、好ましくは1/1〜1/8である。
(A)を(B)及び(E)で分解後アルキルエーテル化する場合、分解反応で使用した(E)の量も考慮して、アルキルエーテル化反応時の(F)の水酸基/(E)の当量比が上記範囲となるように(E)の量を調整する。
【0034】
低分子量化カルボキシアルキルセルロース(F)に対する有機溶媒(C)の重量比[(C)/(F)]は、反応性及び反応系の粘度の観点から、通常0.3/1〜10/1、好ましくは1/1〜4/1である。
【0035】
相間移動触媒を本発明の反応系に添加する場合の添加量は、低分子量化カルボキシアルキルセルロース(F)に対して、好ましくは1〜20重量%、更に好ましくは2〜15重量%である。
【0036】
尚、アルキルエーテル化反応を、(A)の分解から一連の工程で行う場合は、前記仕込み比率、重量比、添加量の基準となる「低分子量化カルボキシアルキルセルロース(F)」は「カルボキシアルキルセルロース(A)」に置き換えるものとする。
また、(A)を(B)で分解後、固液分離して乾燥する等の操作により得られたカルボキシアルキルセルロースの分解反応に引き続きアルキルエーテル化反応を行う場合は、前記仕込み比率、重量比、添加量の基準となる「低分子量化カルボキシアルキルセルロース(F)」は「(B)で分解後のカルボキシアルキルセルロース」に置き換えるものとする。
【0037】
アルキルエーテル化反応の反応温度は通常40〜180℃であり、好ましくは60〜160℃、更に好ましくは80〜140℃である。40℃未満であると反応の進行が非常に遅く効率的でなく、180℃を超えると、容器の材質が耐久性の良いSUS316Lであっても腐食を起こす可能性がある。また、反応時間は通常4〜30時間、好ましくは6〜15時間である。
【0038】
アルキルエーテル化反応は、窒素等の不活性ガス雰囲気下(酸素濃度が好ましくは100ppm以下)でアルキル化剤(G)を滴下する方法で行うことが好ましい。
【0039】
アルキルエーテル化反応後、反応物に、水と酸(硫酸、塩酸及び燐酸等)を加え、析出物をろ過又は遠心分離機で脱水し、乾燥することによって、粒状のアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースを得ることができる。
【0040】
本発明の製造方法で得られるアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースの分子量分布の指標であるゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるZ平均分子量(以下、Mzと略記)と重量平均分子量(以下、Mwと略記)の比(Mz/Mw)は、溶剤への溶解性の観点から、好ましくは1.5〜4.0であり、更に好ましくは1.8〜3.8、特に好ましくは2.0〜3.5である。
【0041】
本発明の方法で得られるアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースのMz及びMwの好ましい範囲は用途によって異なるが、各種溶剤への溶解性の観点から、Mzは、好ましくは70,000〜250,000、更に好ましくは80,000〜200,000、特に好ましくは90,000〜18,000であり、Mwは、好ましくは20,000〜70,000、更に好ましくは30,000〜65,000、特に好ましくは40,000〜60,000である。
尚、本発明におけるMz及びMwは、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0042】
本発明の製造方法により得られたアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースは、アルキルエーテル化置換度が70〜100%と高く、好適な製造条件を設定することにより、アルキルエーテル化置換度が80%〜100%の物を得ることもできる。
【0043】
本発明において、アルキルエーテル化置換度とは、アルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースのグルコース環単位(繰り返し構成単位)当りの水酸基の内、置換されていない水酸基とアルキルエーテル化された水酸基の数の和に対するアルキルエーテル化された水酸基の数の割合の平均値を百分率で表わした値をいう。
例えば、グルコース環単位当り0.5個がカルボキシメチル基で置換されたカルボキシアルキルセルロース(A)を原料とし、残りの2.5個の内2.1個が更にアルキルエーテル化された場合のアルキルエーテル化置換度は、84%である。
尚、本発明におけるアルキルエーテル化置換度は、後述の実施例に記載の方法で算出される。
【0044】
本発明によって得られるアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースの用途は特に限定されないが、例えば本品のpH変化による水への溶解性が変化する性質や溶剤への溶解性、フィルム形成能が好適に用いられる用途(医薬品等の薬剤の添加剤、特に腸溶性のコーティング剤、苦みマスキング剤及び頭髪用セット剤等)に使用できる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、特に規定しない限り、「部」は「重量部」、%は重量%を意味する。
尚、実施例におけるアルキルエーテル化置換度、Z平均分子量(Mz)、重量平均分子量(Mw)、粘度及び溶液濁度の測定法は以下の通りである。
【0046】
<アルキルエーテル化置換度>
(1)試料約15mgを精秤し、ヨウ化水素酸6mLを分解フラスコに入れた後、窒素を通じて、150℃で1時間加熱する。生成するヨウ化アルキルを気相に追い出し、この後1%の赤リン懸濁液で洗浄し、吸収管に送る。吸収管には、酢酸カリウム15gを酢酸/無水酢酸混液(重量比:9/1)150mLに溶解し、その溶液145mLを量り、臭素5mLを加えておく。
(2)酢酸ナトリウム三水和物溶液が入った共栓三角フラスコに、吸収管の内容物を加える。吸着管の内壁に付着した内容物は、水を加えることで流し出す。次に、振り混ぜながら臭素の赤色が消えるまで、ギ酸を加える。
(3)共栓三角フラスコにヨウ化カリウム3gと希硫酸15mLを加え、栓をして軽く振り混ぜ、5分間放置する。遊離したヨウ素を0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム液で滴定する。
(4)下式からまずアルコキシ基含量(CE)を算出する。
アルコキシ基含量(CE)(%)=(滴定量)(mL)×アルコキシ基分子量/60/試料量(mg)×100
(5)上記アルコキシ基含量(CE)を用いて、下式によりアルキルエーテル化置換度(CR)を算出する。
アルキルエーテル化置換度(CR)(%)=[原料カルボキシアルキルセルロースの繰り返し構成単位の分子量×100/(100−CE)]×CE/アルコキシ基分子量/[3 −原料カルボキシアルキルセルロースの繰り返し構成単位におけるカルボキシアルキル基数]
【0047】
<Z平均分子量(Mz)及び重量平均分子量(Mw)>
Z平均分子量(Mz)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下の条件で測定した。
GPC装置:東ソー製 HLC−8120
測定標準物質:ポリエチレングリコール(東ソー製 TSK STANDARDPOLYETHYLENE OXIDE)
カラム :東ソー製 TSK gel G5000pwXLTSK gel G3000pwXL
カラム温度:40℃
検出器 :RI
溶 媒 :水/メタノール(体積比70/30)
流 速 :1.0ml/分
試料濃度 :0.25%
注入量 :200μl
【0048】
<粘度>
200mLのサンプル管に、循風乾燥器中で105℃で1時間乾燥後室温まで冷却した試料10.00gを精秤し、メタノールとジクロロメタンをそれぞれ重量比で50%となるように混合した液90.0gを加え、栓をして40分間絶えず振り混ぜて溶かし、20±0.1℃でウベローデ型粘度計にて粘度測定を行った。
【0049】
<溶液濁度>
循風乾燥器中で105℃で1時間乾燥後室温まで冷却した試料をメタノール(試薬特級)、ジクロロメタン(試薬特級)混液(重量比1/1)を溶媒として調製した10%溶液について、下式により算出される濁度を積分球式濁度計を用いて測定した。
濁度(%)=Td/Tt×100
上記式においてTtは、測定試料の全透過光量、Tdは測定試料の散乱透過光量である。
尚、溶液濁度の値が小さいほど高分子量物が少なく、溶剤への溶解性が高いことを示す。
【0050】
<実施例1>
耐圧反応容器にテトラエチレングリコールジメチルエーテル992部及び水43部を仕込み、カルボキシメチルセルロース(カルボキシメチル化置換度18.3%、グルコース環単位当りのカルボキシメチル基の置換基数0.5、重量平均分子量220,000、Z平均分子量2,100,000)563部を分散させた。40℃に昇温した後、酵素としてセルラーゼ[ナガセケムテックス(株)製、セルラーゼSS]11部を仕込み、同温度で1時間分解反応を行った。反応後のスラリーは良好な分散状態を示していた。このスラリーに過炭酸ナトリウム5.6部を加え、窒素気流下に、40℃で4時間分解反応を行った。水酸化ナトリウム256部及びトリメチルヘキサデシルアンモニウムクロライド22部を仕込み、窒素置換後130℃とし、圧力を0.3〜1.0MPaに制御しながらエチルクロライド413部を徐々に加え、20時間反応させた。反応終了後、反応物をグラス容器に移し、水2,500部と硫酸80部を加え、析出した粒子を遠心分離機で脱水し、更に水を加えて遠心分離する水洗操作を2回繰り返した後、90℃で減圧乾燥して、カルボキシメチルエチルセルロースを得た。
【0051】
<実施例2>
耐圧反応容器にテトラエチレングリコールジメチルエーテル992部及び水43部を仕込み、カルボキシメチルセルロース(カルボキシメチル化置換度18.3%、グルコース環単位当りのカルボキシメチル基の置換基数0.5、重量平均分子量220,000、Z平均分子量2,100,000)563部を分散させた。40℃に昇温した後、酵素としてセルラーゼ[ナガセケムテックス(株)製、セルラーゼSS]11部を仕込み、同温度で1時間分解反応を行った。反応後のスラリーは良好な分散状態を示していた。窒素置換後、水酸化ナトリウム256部を加え、100℃まで昇温した後、更に4時間分解反応を行った。トリメチルヘキサデシルアンモニウムクロライド22部を加えた後、更に130℃まで加熱し、圧力を0.3〜1.0MPaに制御しながらエチルクロライド413部を徐々に加え、20時間反応させた。反応終了後、反応物をグラス容器に移し、水2,500部と硫酸80部を加え、析出した粒子を遠心分離機で脱水し、更に水を加えて遠心分離する水洗操作を2回繰り返した後、90℃で減圧乾燥して、カルボキシメチルエチルセルロースを得た。
【0052】
<比較例1>
耐圧反応容器にテトラエチレングリコールジメチルエーテル992部及び水43部を仕込み、カルボキシメチルセルロース(カルボキシメチル化置換度18.3%、グルコース環単位当りのカルボキシメチル基の置換基数0.5、重量平均分子量220,000、Z平均分子量2,100,000)563部、水酸化ナトリウム256部及びトリメチルヘキサデシルアンモニウムクロライド22部を仕込み、窒素置換後、130℃で圧力を0.3〜1.0MPaに制御しながらエチルクロライド413部を徐々に加え、20時間反応させた。反応終了後、反応物をグラス容器に移し、水2,500部と硫酸80部を加え、析出した粒子を遠心分離機で脱水し、更に水を加えて遠心分離する水洗操作を2回繰り返した後、90℃で減圧乾燥して、カルボキシメチルエチルセルロースを得た。
【0053】
<比較例2>
耐圧反応容器にテトラエチレングリコールジメチルエーテル992部及び水43部を仕込み、カルボキシメチルセルロース(カルボキシメチル化置換度18.3%、グルコース環単位当りのカルボキシメチル基の置換基数0.5、重量平均分子量220,000、Z平均分子量2,100,000)563部を分散させた。このスラリーに過炭酸ナトリウム5.6部を加え、窒素気流下に、40℃で4時間分解反応を行った。水酸化ナトリウム256部及びトリメチルヘキサデシルアンモニウムクロライド22部を仕込み、窒素置換後130℃とし、圧力を0.3〜1.0MPaに制御しながらエチルクロライド413部を徐々に加え、20時間反応させた。反応終了後、反応物をグラス容器に移し、水2,500部と硫酸80部を加え、析出した粒子を遠心分離機で脱水し、更に水を加えて遠心分離する水洗操作を2回繰り返した後、90℃で減圧乾燥して、カルボキシメチルエチルセルロースを得た。
【0054】
得られたカルボキシメチルエチルセルロースのアルキルエーテル化置換度、Z平均分子量(Mz)、重量平均分子量(Mw)、Mz/Mw、粘度及び溶液濁度の値を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
以上の結果から明らかな通り、本発明の製造方法により、高分子量物が少なく、分子量分布の狭いアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によって得られる高分子量物が少ないアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースは、pH変化による水への溶解性が変化する性質や溶剤への溶解性、フィルム形成能が用いられる用途に使用される。通常、医薬品等の薬剤の添加剤、特に腸溶性のコーティング剤、苦みマスキング剤、あるいは頭髪用セット剤として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシアルキルセルロース(A)を酵素(B)、炭素数1〜18のアルコール系溶媒、水酸基を有していてもよい炭素数4〜18のエーテル系溶媒及び炭素数3〜12のケトン系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒(C)並びに水の存在下で分解したカルボキシアルキルセルロースを、水溶性酸化剤(D)及び/又はアルカリ(E)で更に分解させて得られる低分子量化カルボキシアルキルセルロース(F)とアルキル化剤(G)とを、前記(E)及び前記(C)の存在下で反応させることを特徴とするアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースの製造方法。
【請求項2】
前記アルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロースのゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるZ平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が1.5〜4.0である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記(C)が、一般式(1)で表される有機溶媒である請求項1又は2記載の製造方法。
1−O−(C24O)m−R2 (1)
[式中、R1及びR2はそれぞれ独立にメチル基又はエチル基、mは1〜5の整数を表す。]
【請求項4】
前記(A)が、カルボキシメチルセルロースまたはカルボキシエチルセルロースである請求項1〜3のいずれか記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の製造方法で得られ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるZ平均分子量(Mz)が70,000〜250,000、重量平均分子量(Mw)が20,000〜70,000でかつ前記Mzと前記Mwの比(Mz/Mw)が1.5〜4.0であるアルキルエーテル化カルボキシアルキルセルロース。

【公開番号】特開2010−222428(P2010−222428A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69501(P2009−69501)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】