説明

アルギン酸含有酸性乳飲料

【課題】アルギン酸を含有した酸性乳飲料において、乳成分の凝集・沈殿を抑制し、外観、食感において好ましいアルギン酸含有酸性乳飲料を提供する。
【解決手段】次の成分(A)、(B)及び(C)、
(A)アルギン酸 0.3〜8質量%
(B)ハイメトキシペクチン 0.01〜1質量%
(C)カリウムイオン 0.06〜2質量%
を含有する酸性乳飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギン酸を含有する酸性乳飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
健康意識の高まる中、近年、機能性を有する食品素材に大きな関心が寄せられており、その中でも日本人に不足しがちな食物繊維を効果的に摂取する要望が高くなってきている。
多量の食物繊維を無理なく摂取するには飲料形態が望ましく、さらに、多量の食物繊維を配合しても飲みやすい食物繊維素材が望ましい。そのような食物繊維素材としては、水溶性酸性多糖類であるアルギン酸塩が挙げられる。アルギン酸及びその塩類を食物繊維として摂取する飲料として、例えば野菜搾汁飲料が報告されている(特許文献1)。
【0003】
一方、酸性乳飲料は、豆乳、牛乳等の乳成分を含有する栄養価の高い飲料であることから、広く飲用されている。しかしながら、酸性乳飲料には蛋白が凝固、凝集、沈殿しやすいという問題があり、このため高濃度のアルギン酸を添加することは困難であった。酸性乳飲料の安定化については、ペクチン、タマリンド種子多糖類、グアガム、等、特に高メトキシペクチンを安定化剤として添加する技術が開示されている(特許文献2)。しかし、高メトキシペクチンは茶褐色であり、また生じる沈殿も茶褐色となるために、使用量に制限があった。また、安定化剤としてアルギン酸を使用する技術も開示されているが(特許文献3)、pH4.5以下の範囲で溶解するアルギン酸に限定されたものであり、安定化剤として使用するため、配合量は0.2質量%程度であり、多いものではなかった。
【特許文献1】特開2006−271255号公報
【特許文献2】特開昭60−256372号公報
【特許文献3】特開平3−206838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、高濃度のアルギン酸を含有する酸性乳飲料を得るべく検討したが、アルギン酸塩として最も汎用されているナトリウム塩を0.3質量%以上配合した酸性乳飲料を調製したところ、乳成分が凝集し、沈殿が発生し、商品価値を著しく損なうといった問題があることがわかった。また、乳成分の凝集・沈殿を防止する方法として安定化剤として広く知られているペクチンなどを使用しても、凝集・沈殿抑制の効果は充分ではなかった。
従って、本発明の目的は、高濃度にアルギン酸を含有した酸性乳飲料において、乳成分の凝集・沈殿が抑制されたアルギン酸含有酸性乳飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、アルギン酸を高濃度に配合した安定な酸性乳飲料を得るべく、鋭意研究を重ねたところ、ハイメトキシペクチンに加えて、酸性乳飲料中に配合したカリウム濃度を調整することにより、高濃度のアルギン酸を含有しても、乳成分の凝集・沈殿の生じない酸性乳飲料が得られることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の成分(A)、(B)及び(C)、
(A)アルギン酸 0.3〜8質量%
(B)ハイメトキシペクチン 0.01〜1質量%
(C)カリウム 0.06〜2質量%
を含有する酸性乳飲料を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アルギン酸を高濃度含有していながら乳成分の凝集・沈殿が抑制されたアルギン酸含有酸性乳飲料が提供可能である。また、外観、食感において好ましいアルギン酸含有酸性乳飲料が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
酸性乳飲料中の(A)アルギン酸の含有量は、酸性乳飲料中に0.3〜8質量%である。また、本発明の飲料中におけるアルギン酸は溶解状態であることが好ましい。この含有量の範囲は、アルギン酸を1回あたり4g摂取する場合に、容量に換算して約50mL〜約1330mLの容量に相当する。0.3重量%以上とすることで、十分な食物繊維の摂取が可能になる。また、8質量%以下とすることで、過剰な増粘を避けることができ、分離沈澱の十分な抑制とアルギン酸由来の風味・食感による嗜好性悪化を避けることができる。1回あたりの飲みやすい量と食感が得られるという観点より、0.5〜6質量%が好ましく、さらに0.7〜4質量%が好ましい。
【0009】
なお、アルギン酸は配合品中において塩として存在する場合があるが、本明細書においては遊離酸状態のアルギン酸とアルギン酸塩を区別せず、単にアルギン酸と表記することがある。また、アルギン酸又はアルギン酸塩の量は、後述するように全てナトリウム塩に変換して定量し、アルギン酸に換算した数値で表すものとする。
本発明における酸性乳飲料中の(A)アルギン酸の量とは、後述の(アルギン酸の平均分子量の測定ならびに定量法)で測定された量をいう。
【0010】
アルギン酸は、酸性乳飲料の粘度を低く飲みやすいものとするために、低分子化されたものが好ましい。GPC測定による重量平均分子量が0.5万〜20万、好ましくは2万〜10万、さらに好ましくは3万〜7万のものを用いるのが好ましい。
本発明における(A)アルギン酸の平均分子量は、後述の(アルギン酸の平均分子量の測定ならびに定量法)で測定することができる。
また、本発明におけるアルギン酸は、水溶性のものが好ましい。
【0011】
また、(A)アルギン酸は、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩や、アンモニウム塩といったアルギン酸塩由来のものでもよい。例えば、アルギン酸ナトリウムの例としては、低分子化したアルギン酸ナトリウムである、製品名:ソルギン((株)カイゲン)や製品名:キミカアルギンSKAT−ULV((株)キミカ)などが挙げられる(以後、これらを低分子化アルギン酸ナトリウムという)。また、アルギン酸カリウムの例としては、これら低分子化したアルギン酸ナトリウムをカリウム置換処理したものなどを用いることができる(以後、これらを低分子化アルギン酸カリウムと言う)。ただし、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムであれば、これらの例に限定されるものではない。
【0012】
(B)ハイメトキシペクチンは、主にメチル化ガラクチュロン酸及び/又はガラクチュロン酸によって構成される多糖類であり、全ガラクチュロン酸のうちメチル化ガラクチュロン酸の占める割合が50重量%以上のペクチンをいう。
かかるハイメトキシペクチンは商業的に入手可能であり、例えばゲニューペクチン製品のGENU pectin type JM−150−Jを挙げることができる。
【0013】
酸性乳飲料中の(B)ハイメトキシペクチンの含有量は、0.01〜1質量%であり、かかる範囲において酸性乳飲料の粘度が高くなりすぎず、且つ、凝集・沈殿の抑制効果を得ることができる。また、茶褐色の着色が目立たないものを得ることができる。かかる観点より0.01〜0.8質量%が好ましく、0.01〜0.6質量%がより好ましい。本発明における酸性乳飲料中の(B)ハイメトキシペクチンの量は、後述の(ハイメトキシペクチンの定量法)で測定することができる。
【0014】
酸性乳飲料中の(C)カリウムは、由来がアルギン酸塩のみならず、乳成分、調味料などの添加物のいずれであっても構わない。酸性乳飲料中のカリウムの含有量は、0.06〜2質量%である。0.06質量%以上で十分な凝集・沈殿の抑制効果が得られ、2質量%以下で酸性乳飲料としての風味バランスを得ることができる。かかる観点より0.06〜1.5質量%が好ましく、0.08〜1.2質量%がより好ましく、0.08〜0.7質量%がさらに好ましい。
【0015】
酸性乳飲料におけるナトリウム/カリウム(質量比)は、酸性乳飲料に含まれるナトリウムの質量%濃度をカリウムの質量%濃度で除した値であり、ナトリウムとカリウムの由来はアルギン酸塩のみならず、乳成分、調味料などの添加物のいずれであっても構わない。ナトリウム含有量に対して十分な量のカリウムを含有することで凝集・沈殿の抑制効果を顕著に発現させることができ、ナトリウム/カリウム比は0〜5.2が好ましく、0〜5がより好ましく、0.1〜4.6がさらに好ましい。本発明におけるナトリウムとカリウムの量は、後述の(ナトリウムとカリウムの定量法)で測定することができる。
【0016】
本発明酸性乳飲料中のナトリウムの含有量は、酸性乳飲料としての風味バランスを良好とし、なおかつナトリウムの過剰摂取を予防するために0.6質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.45質量%以下がさらに好ましい。また、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましい。
【0017】
本発明の酸性乳飲料とは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)で定義される、乳又は乳製品を量の多少にかかわらず使用したものを言う。ここで乳及び乳製品には、牛乳、加工乳等の液状乳、クリーム、脱脂粉乳、全粉乳、はっ酵乳等が含まれる。また本発明の酸性乳飲料には発酵乳飲料及び非発酵乳飲料が含まれる。
さらに本発明の酸性乳飲料は、嗜好性の点から、無脂乳固形分を含むことが好ましく、その含有量は0.1〜12質量%が好ましく、0.4〜5質量%がより好ましく、1〜3質量%がさらに好ましい。
【0018】
本発明の酸性乳飲料のpHは3〜5が好ましく、3.3〜4.5がより好ましく、3.6〜4.4が特に好ましい。pHがこの範囲内であると、飲料の嗜好性の点で好ましい。
pHを調整するために、有機ならびに無機可食酸を使用しても良い。pHの調整のために使用する有機ならびに無機可食酸としては、一般に食品で使用されるものであればよいが、例えば、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酢酸、フマル酸、リン酸、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、リン酸水素カリウム又はナトリウム、リン酸二水素カリウム又はナトリウムや果汁等を使用することができる。特に酸味の質の点で乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酢酸が好ましい。
【0019】
本発明の酸性乳飲料の粘度は、20℃におけるB型粘度計による粘度が3〜700mPa・sであるのが好ましい。この範囲内であれば、乳成分の凝集・沈殿を抑制し、飲みやすい酸性乳飲料が調整できる。かかる観点より、10〜400mPa・sがより好ましく、20〜200mPa・sがさらに好ましい。
【0020】
また、本発明の酸性乳飲料には、糖質、色素類、酸化防止剤、香料、甘味料、乳化剤、保存料、調味料等を配合できる。
また、本発明の酸性乳飲料には、(D)水溶性中性多糖系食物繊維を配合することができる。水溶性中性多糖系食物繊維としては、例えばグアガム分解物、グアガム、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、プルラン、ヘミセルロース、低分子ヘミセルロース、ローカストビーンガム、コンニャクマンナン、ガードラン、アガロース、アラビアガム、イヌリン、カラギーナン、タマリンド種子多糖類等を挙げることができる。また、本発明の酸性乳飲料には、その他の食物繊維を配合することができる。その他の食物繊維としては、例えば大豆食物繊維、野菜汁、果汁等を挙げることができる。
【0021】
本発明酸性乳飲料の製造法については、特に制限はなく常法に従い製造される。
また、凝集・沈殿抑制効果を高めるために、ホモジナイザーなどの乳化機などを使用しても良い。
【0022】
本発明酸性乳飲料の殺菌条件は、食品衛生法に定める条件を満たしていれば良く、殺菌の手段も特に制限は無く、レトルト、UHT、HTSTの各種殺菌機を用いることができる。さらには、殺菌後の容器への充填方式も特に制限は無く、ホットパック充填(熱間充填)や無菌充填などを用いることができる。
【0023】
本発明の容器詰酸性乳飲料は適宜殺菌が施され、例えば、金属缶のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で製造される。またPETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用される。その際、無菌下で容器に充填してもよい。また無菌下で充填された容器に別の成分を無菌下で後から充填してもよい。さらに、中性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを酸性に戻す等の操作も可能である。
【実施例】
【0024】
以下の記載においては、特に断らない限り、%は質量百分率を表す。
(アルギン酸の平均分子量の測定ならびに定量法)
1 前処理
1−1 アルギン酸カルシウム沈殿の生成
ビーカーに、ホールピペットで試料2mLを加えた。さらに共洗いに使用した水35mLを加えて均一になるように軽く攪拌した。適宜攪拌しながら、2mol/L塩化カルシウム水溶液1.5mLを徐々に滴下した。壁面に付着した析出物を流し落としながら水約5mLを加え、その後pHが11以上となるように1mol/L水酸化ナトリウム溶液を加えた。ビーカー内の溶液をよく分散させて容量50mLのメスフラスコに移しかえ、ビーカー内に付着した析出物を水で流し落として全量50mLに定容した。共栓をした後、この溶液を20秒程度攪拌し、その後20分程度室温に放置した(溶液A)。
【0025】
1−2 アルギン酸カルシウム沈殿の回収
直径25mmのメンブランフィルターをメンブランフィルターカートリッジ(孔径0.22μm)に装着し、さらに5mLのシリンジを接続した。このシリンジ内に、よく分散させた溶液A 5mLをホールピペットで入れた。装着したシリンジのピストンを押し、内溶液をメンブランフィルターでろ過した。その後、水酸化ナトリウムでpH11.3とした40mmol/L塩化カルシウム水溶液適量で、ホールピペットとシリンジ内の付着物を同一シリンジ内へ流し落とし、メンブランフィルターでろ過した。
【0026】
1−3 アルギン酸ナトリウムへの塩交換と回収
上記操作で得られたメンブランフィルタカートリッジを解体し、メンブランフィルタとパッキンをとり出し、ビーカーに入れた。水4.8mLでメンブランフィルタカートリッジの残りの部品を洗浄しながらビーカーに加えた。この溶液に1.5mol/L炭酸ナトリウム水溶液を200μL加えて、溶液が均一になるよう軽く攪拌する(全量約5mL)。途中、数回しんとうさせながら1時間〜2時間室温に置いた。再度攪拌し、メスフラスコ(容量10mL)に溶液を全量移した。適量の水でビーカー内に残った部品を洗浄し、その液をメスフラスコに加えた後全量を10mLに定容した。これらの操作により、アルギン酸をアルギン酸ナトリウムとして回収した。この溶液を直径25mmのメンブランフィルタ(GLクロマトディスク 0.45μm)でろ過したものをHPLC用分析試料とした。
【0027】
2 アルギン酸量の定量
HPLC用分析試料100μLを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した。純度既知のアルギン酸ナトリウム標準試料を0.1%の溶液を同様にHPLCで測定し、得られたクロマトグラムの面積の比較から試料中のアルギン酸ナトリウムを定量した。試料中のアルギン酸ナトリウム量に定数0.9を掛けることにより、単位容積あたりのアルギン酸量を算出した。この値を被験飲料の比重で除することにより、単位重量あたりのアルギン酸量を定量した。なお、HPLC操作条件は以下の通りである。
HPLC操作条件
カラム:Super AW−L(ガードカラム)(東ソー(株)製)
TSK−GEL Super AW4000(長さ15cm,内径6mm)(東ソー(株)製)
TSK−GEL Super AW2500(長さ15cm,内径6mm)(東ソー(株)製)
※上記カラムはAW−L,AW4000,AW2500の順で連結する。
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折計
移動相:0.2mol/L硝酸ナトリウム水溶液
流速:0.6mL/min
注入量:100μL
【0028】
3 アルギン酸の平均分子量の測定(重量平均分子量測定法)
アルギン酸の重量平均分子量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定した。HPLC操作条件は、(アルギン酸量の定量)と同様の条件とした。分子量算出用の検量線には、標準プルラン(昭和電工(株)製 Shodex STANDARD P−82)を用いた。HPLC用分析試料をHPLCに100μL注入し、得られたクロマトチャートより、試料中のアルギン酸ナトリウムの重量平均分子量を算出した。試料中のアルギン酸ナトリウムの重量平均分子量に定数0.9を掛けることにより、アルギン酸の重量平均分子量を定量した。
【0029】
(ハイメトキシペクチン量とエステル化度の測定法)
1 前処理
1−1 アルギン酸の除去
ビーカーに、試料100gをはかり取り、さらに水400mLを加え、均一になるように軽く攪拌した。適宜攪拌しながら、2mol/L塩化カルシウム水溶液150mLを5〜10分かけて徐々に滴下した。壁面に付着した析出物を流し落としながら水約10mLを加え、その後pHが約8となるように1mol/L水酸化ナトリウム溶液を加えた。この溶液を攪拌し、その後60分室温に放置しアルギン酸をアルギン酸カルシウムとして析出させた。この溶液をガラスろ過器で吸引ろ過し、ろ液を回収した。回収したろ液を凍結乾燥し乾燥固形物を得た(固形試料A)。
【0030】
1−2 AIS(アルコール不溶性固形物)の調整
ビーカーに固形試料Aを全量入れ、さらに水を加えて全量を約30mLとする。25%塩酸を数滴加え、pH1.5とし96%エタノール80mLを添加して、ペクチン質を沈殿させた。室温にて数時間放置後、溶液を吸引ろ過する。残渣を70%エタノールで塩素イオンがなくなるまで洗浄したのち、ろ過物を凍結乾燥し乾燥固形物を得た(固形試料B) 。このとき固形試料Bの重量を測定した。
【0031】
2 ハイメトキシペクチン量とエステル化度
2−1 ガラクツロン酸の定量
密栓可能なガラス容器に固形試料B10mgと72%硫酸125μLを加え、完全に分散させた。これを25℃高温槽で40分間放置後、蒸留水1.35mLを加え、さらに沸騰水中で2時間加熱した。冷却後濃アンモニア水320μLを加え、得られた溶液を一定量とし検液を得た。検液中のガラクツロン酸を有機酸分析カラムを用いてHPLC分析で定量した。この値と固形試料Bの重量から、試料100gあたりの無水ガラクツロン酸量を算出し、ペクチン量(PK(mg/100g))とした。
【0032】
2−2 メチルガラクツロン酸の定量
固形試料B50mgに蒸留水50mLを加え、直接蒸留し留液20mLを得た。これを25mLに定容し、GC分析によりメチルアルコールを定量した。この値と固形試料Bの重量から、試料100gあたりのメタノール量を算出した(ME(mg/100g))。メチル化された無水ガラクツロン酸量はME×5.94(mg/100g)であり、ペクチンのエステル化度は(ME×5.94)/PKとなる。エステル化度が50%以上の場合は、ペクチン量(PK(mg/100g))をハイメトキシペクチン量とした。
【0033】
(無脂乳固形分量の測定)
無脂乳固形分量は乳等省令乳等の成分規格の試験法に従い測定した。具体的には、試料約50gを精密にはかり、フェノールフタレイン溶液数滴を加え、これをかき混ぜながら10%水酸化ナトリウム溶液を徐徐に加えて微アルカリ性とし、メスフラスコに入れ水を加えて100mLに定容し、その5mLを正確に150mLのケルダール分解フラスコに採った。これに硫酸カリ9g及び硫酸銅1gの混合粉末0.2gを加え、さらにフラスコの内璧を伝わらせて硫酸10mLを加えた。次に、このフラスコを石綿網上で徐々に加熱し、亜硫酸ガスの白煙が生じたとき少し火力を強め、泡末の大部分が消失した後強熱し、中の液が透明な淡青色を呈し、かつ、フラスコの内璧に炭化物を認めなくなったとき加熱を止め、放冷後注意しながら水30mLを加え、再び冷却した後フラスコを蒸留装置に連結した。この場合、200mLの吸収フラスコ中には0.05mol/L硫酸30mL及びメチルレッド溶液数滴を入れ、冷却器の下端が液中につかるようにした。次に、ケルダール蒸留装置の漏斗から30%水酸化ナトリウム溶液40mLを入れ、水10mLで洗い込み、ピンチコックを閉じ、直ちに蒸留をはじめた。留出液が80mLから100mLまでの量に達したとき冷却器の下端を液面から離し、さらに留出液数mLを採った。蒸留終了後、冷却器の液に浸った部分を少量の水で洗い、その洗液を吸収フラスコ中の液に合し、これを0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液で滴定した。
【0034】
無脂乳固形分は、次式によって計算した。
0.0014×(A−B)/試料の採取量(g)×6.38×2.82×100(%)
A:0.05mol/L硫酸30mLを中和するのに要する0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の所要量(mL)
B:滴定に要した0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の所要量(mL)
【0035】
(凝集・沈殿の評価方法と判断基準)
本発明の実施例及び比較例の酸性乳飲料を100mLの透明ガラス製スクリュー管に50mL封入し、よく振り混ぜて5℃環境下に正立状態で静置した。24時間経過後、乳飲料を封入したスクリュー管を10秒かけて135度傾け静置し、容器の底面の状態を専門パネル1名が目視により観察した。以下に凝集・沈殿の評価の判断基準を示す。
○:容器の底に粒状の凝集・沈殿物を確認することができない
×:容器の底に凝集・沈殿物を目視で確認できる
【0036】
(pH測定法)
pHは、(株)堀場製作所製pHメーター(F−22)を使用し品温20℃の条件にて測定した。
【0037】
(粘度の測定法)
粘度は、(株)トキメック製B8L型粘度計を使用して測定した(回転子:No.1、回転速度:60回転/分、品温:20℃)。
【0038】
(カリウム及びナトリウムの測定法)
カリウム及びナトリウムは、「分析実務者が書いた五訂日本食品標準成分表分析マニュアルの解説」(財団法人日本食品分析センター編集、中央法規出版株式会社発行所、2001年7月10日発行)のp90−91及びp99−103に従い測定した。具体的には、試料2〜5gを抽出容器にはかり取り、1%塩酸溶液200mLを加え、室温下で30分振とう抽出した。抽出液を遠心管に移し、遠心分離後の上澄み液を原子吸光用試験溶液とした。原子吸光光度計の測定波長を589.0nmに設定し、ナトリウムを測定した。予め作成した検量線を用いて試料中のナトリウム量を定量した。同様に原子吸光光度計の測定波長を766.5nmに設定し、カリウムの測定と定量を行った。
【0039】
実施例1〜17及び比較例1〜6
表1及び表2に示す組成で酸性乳飲料を製造した。得られた乳飲料についてpH、粘度、カリウム量、ナトリウム量を測定し、さらに凝集、沈殿の評価を行った。その結果も表1及び表2に併せて示す。
尚、酸性乳飲料の製造には以下の製品を使用した。
・アルギン酸カリウム(A):キミカ社製、キミカアルギンSKAT−K−ULV
・アルギン酸カリウム(B):キミカ社製、キミカアルギンSKAT−K
・アルギン酸ナトリウム :カイゲン社製、ソルギン
・ハイメトキシペクチン:CP Kelco Japan社製、GENU pectin
type JM−150−J(メチル化率90%)
・グアガム分解物 : 扶桑化学工業社製、精製クエン酸(重量平均分子量:20000)
・甘味料 :三栄源FFI社製、スクラロース
・香料 :長谷川香料社製、ヨーグルトフレーバーFH−2265
・乳成分 : 明治乳業社製の明治おいしい牛乳とよつば乳業社製の脱脂粉乳をブレンドし、調整した。ブレンド質量比率は以下の通りである。
実施例16(飲料中乳成分12gの飲料):牛乳/脱脂粉乳=8/4の質量比率で調整。
実施例16を除く、飲料中乳成分12gの飲料:牛乳/脱脂粉乳=11/1の質量比率で調整。
飲料中の乳成分が9gの飲料:牛乳/脱脂粉乳=8/1の質量比率で調整。
飲料中の乳成分が27gの飲料:牛乳/脱脂粉乳=18/9の質量比率で調整。
飲料中の乳成分が4gの飲料:牛乳/脱脂粉乳=3/1の質量比率で調整。
飲料中の乳成分が2gの飲料:牛乳/脱脂粉乳=1.5/0.5の質量比率で調整。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
実施例1〜3と比較例1は、アルギン酸カリウムとアルギン酸ナトリウムの合計量がほぼ同等でハイメトキシペクチン量が0.1質量%かつ、ナトリウム/カリウムの値が実施例1〜3では0.01〜0.74で、比較例1では5.23となる乳飲料である。実施例1〜3は乳飲料中に凝集・沈殿物は確認されなかった。一方、比較例1は凝集・沈殿物が生じた。
【0043】
実施例4、5及び比較例2は、アルギン酸カリウムとアルギン酸ナトリウムの合計量がほぼ同等でハイメトキシペクチン量が0.3質量%かつ、ナトリウム/カリウムの値が実施例4、5では0.15、2.05で比較例2では5.23となる乳飲料である。実施例4、5は乳飲料中に凝集・沈殿物は確認されなかった。一方、比較例2は凝集・沈殿物が生じた。
【0044】
実施例6、7は、ハイメトキシペクチンの下限量について検討したものであり、ハイメトキシペクチン量が0.01質量%の乳飲料である。乳飲料中に凝集・沈殿物は確認されなかった。比較例6は、実施例1においてハイメトキシペクチンを添加しなかったものである。凝集・沈澱物の抑制のためにハイメトキシペクチンが必須であることが示される。
【0045】
実施例8〜11、比較例3〜5は、ナトリウム/カリウムの上限値について検討したものである。ナトリウム/カリウムの値が4.6以下の乳飲料中に凝集・沈殿物は確認されなかった。
【0046】
また、実施例12、13はアルギン酸量を0.8及び0.7質量%とした乳飲料である。実施例12、13は乳飲料中に凝集・沈殿物は確認されなかった。
【0047】
実施例14〜17はアルギン酸量、ハイメトキシペクチン量及びナトリウム/カリウム量がほぼ同等で、乳成分の量が異なる乳飲料である。実施例14〜17は乳飲料中に凝集・沈殿物は確認されなかった。
【0048】
これらの結果から、アルギン酸、ハイメトキシペクチン、及びカリウムを、それぞれ特定範囲で含有する酸性乳飲料は、凝集、沈殿が生じないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)、(B)及び(C)、
(A)アルギン酸 0.3〜8質量%、
(B)ハイメトキシペクチン 0.01〜1質量%
(C)カリウム 0.06〜2質量%
を含有する酸性乳飲料。
【請求項2】
ナトリウム/カリウム(質量比)が0〜5.2である、請求項1記載の酸性乳飲料。
【請求項3】
アルギン酸の重量平均分子量が0.5万〜20万である、請求項1又は2記載の酸性乳飲料。
【請求項4】
さらに(D)水溶性中性多糖系食物繊維を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸性乳飲料。
【請求項5】
pHが3〜5である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸性乳飲料。
【請求項6】
乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸及び酢酸からなる群より選択される1種又は2種以上の酸味料によりpHが調整されてなる、請求項5記載の酸性乳飲料。
【請求項7】
20℃におけるB型粘度計による粘度が3〜700mPa・sである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸性乳飲料。

【公開番号】特開2009−159819(P2009−159819A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338964(P2007−338964)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】