説明

アルケンの製造方法

【課題】高屈折率及び耐熱性を備えた重合体の製造に供される単量体;塗料、接着剤、洗剤ビルダー等の各種化学製品の製造原料;抗癌剤、抗ウイルス剤等の医薬品の中間体等として広範囲に用いられるアルケンを効率よく製造する方法を提供するものである。
【解決手段】下記一般式(1);
【化1】


(式中、Xは、酸素原子、NR’又はNR’’R’’’を表す。R、R、R’、R’’及びR’’’は、同一若しくは異なって、水素原子又は有機基を表す。)で表される化合物と電子吸引性基を有するアルケンとから、第15族〜17族からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物を用いてアルケンを製造する方法であって、
該製造方法は、有機金属化合物を反応溶液中に共存させ、かつ、第15〜17族からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物が有する塩基点のモル数に対して有機金属化合物が有する酸点のモル数比が1未満であるアルケンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルケンの製造方法に関する。より詳しくは、電子吸引性基を有するアルケンにアルデヒド類等を付加させて、アルケンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルケンは、付加反応や重合反応等の化学反応性に富んでいること等から、各種用途に好適に用いられるものであるが、更に二重結合以外の官能基を有するようにするために、アルデヒド類等と電子吸引性基を有するアルケンとからアルケンを調製する方法が学術的レベルで研究されている。このようなアルケンの製造方法は有用であるが、実用化されていないのが現状である。アルケンに他の官能基を導入する場合、その官能基に起因する特性を発揮して、重合体を形成するために供される単量体;塗料、接着剤、洗剤ビルダー等の各種化学製品の製造原料;抗癌剤、抗ウイルス剤等の医薬品の中間体等として広範囲に用いることが期待されるところであり、工業的な実用化が待たれている。
【0003】
このようなアルケンの製造方法としては、例えば、α,β−不飽和カルボニル化合物等の電子吸引性基含有不飽和化合物とアルデヒドからα−ヒドロキシアルキル化されたアルケンを与える反応が、森田−Baylis−Hillman反応として広く知られている(例えば、特許文献1又は2参照。)。この反応は、3級アミン又はリン等の化合物の存在下で行われ、高い原子効率で有用な化合物を簡便に与える特徴をもつが、一般に反応速度が非常に遅いため、工業的にはその生産性の向上が課題となっている。なお、アルデヒドの代わりにイミンやイミニウムイオンを用いる反応はアザー森田−Baylis−Hillman反応と呼ばれ、反応機構やその問題点は前者と共通である。
【0004】
このような現状を踏まえ、森田−Baylis−Hillman反応における反応速度向上を目的として、La(OTf)・Sc(OTf)等の第3族トリフラートをルイス酸触媒として適用することが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、これらの触媒は、水が系中に存在する反応系に適用した場合には、容易に配位子交換を起こし、水酸化物として沈殿するため、目的のルイス酸触媒として作用しない等の不都合があった。
【0005】
一方、異種二金属触媒として、ボロン−リチウム−モノ(ビナフトキシド)が森田−Baylis−Hillman不斉反応に適用できることが開示されている(例えば、特許文献4参照。)。しかしながら、高価な異種二金属触媒の触媒量がトリブチルホスフィンよりも多く必要で、非常に長い反応時間が必要であることから、工業的に目的のアルケンを効率よく経済的に生産できる方法とする工夫の余地があった。
【非特許文献1】シガネク(Ciganek, E.)「オーガニックリアクション(Org. React.)」、(米国)、1997年、51巻、p201.
【非特許文献2】バサバイア(Basavaiah, D.)、 他2名、「ケミカルレビュー(Chem. Rev.)」、(米国)、2003年、103巻、p811.
【非特許文献3】アガーワル(Aggarwal, V. K.)他3名、「ジャーナルオブオーガニックケミストリー(J. Org. Chem.)」、(米国)、1998年、63巻、p7183.
【非特許文献4】マツイ(K, Matsui.)、他2名、「テトラヘドロンレターズ(Tetrahedron Letters)」、(英国)、2005年、46巻、p1943.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、高屈折率及び耐熱性を備えた重合体の製造に供される単量体;塗料、接着剤、洗剤ビルダー等の各種化学製品の製造原料;抗癌剤、抗ウイルス剤等の医薬品の中間体等として広範囲に用いられるアルケンを効率よく製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、電子吸引性基を有するアルケンにアルデヒド類等を付加させて、アルケンを製造する方法について種々検討したところ、この反応の反応速度を向上させる方策として、ルイス酸を共存させることが有効であることに着目し、特定の元素を有する有機金属化合物をルイス酸として用いることにより、その触媒作用に加えて、一般にルイス酸性を失活させる化合物(例えばアミンや水)が含まれている場合においても、反応中間体である両性イオンを安定化(及び、α位が一旦プロトン化を受けた後の、アニオン部位の再発生効率が向上)し、アルデヒド類等を活性化(カルボニル基LUMO軌道の低下)することができ、その結果、森田−Baylis−Hillman反応の反応速度を向上させ、工業的に充分生産性の高い反応とすることができることを見いだした。また、このようなルイス酸として、特定の有機金属化合物を用いることにより、(1)窒素やリンよりも酸素の方が親和性が高い、より硬いルイス酸とすることができるだけでなく、(2)高い水配位子の交換速度定数を有するものとすることができ、水配位子の交換速度定数が大きく、中心原子に配位した水が頻繁に離れることができ、更に、(3)ルイス酸化合物分解副反応を最小に抑えることができるため、第15族〜17族より選ばれる少なくとも一つの化合物や、場合によっては水の存在下においても、ルイス酸性を発現し、効果的に機能することができ、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Xは、酸素原子、NR’又はNR’’R’’’を表す。R、R、R’、R’’及びR’’’は、同一若しくは異なって、水素原子又は有機基を表す。)で表される化合物と電子吸引性基を有するアルケンとから、第15族〜17族からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物を用いてアルケンを製造する方法であって、上記製造方法は、有機金属化合物を反応溶液中に共存させ、かつ、第15〜17族からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物が有する塩基点のモル数に対して有機金属化合物が有する酸点のモル数比が1未満であるアルケンの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明は、第15族〜17族からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物(以下、単に第15族〜17族の元素を含む化合物とも言う。)に、有機金属化合物を反応溶液中に共存させてアルケンを製造する方法である。このようなアルケンは、下記式(2);
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、X、R及びRは、上記式(1)中のX、R及びRに同じ。R、Rは、同一若しくは異なって、水素原子又は有機基を表す。EWGは、電子吸引性基を表す。)で表される反応により得ることができる。なお、EWG(electron withdrawing group)は、電子吸引性を有する基である限り特に限定されないが、エステル、ケトン、アミド、スルホナート、スルホキシド、ホスホナート、チオエステル、ニトリル等が好適である。上記式(2)により得られるアルケンは、上記一般式(1)で表される化合物が有する元素を、水酸基やアミンのような官能基として持つことになり、このようなアルケンを多官能基含有アルケンともいう。
上記第15族〜17族の元素を含む化合物としては、3級アミン化合物等の窒素元素を含む化合物、リン化合物、酸素化合物、硫黄化合物、セレン化合物、フッ素化合物、塩素化合物、臭素化合物、ヨウ素化合物が好適である。これらの中でも、窒素元素を含む化合物がより好ましい。
【0014】
上記窒素元素を含む化合物としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、ヘキサメチレンテトラミン、キヌクリジン、3−ヒドロキシキヌクリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)、キナアルカロイド類や、N,N−ジメチルエチルアミン、N,N−ジメチル−n−プロピルアミン、N,N−ジメチルイソプロピルアミン、N,N−ジメチル−n−ブチルアミン、N,N−ジメチルイソブチルアミン、N,N−ジメチル−tert−ブチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチル(トリメチルシリル)アミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジメチルアミンのポリエチレンオキサイドの付加物、N,N’−ジメチルピペラジン、N,N−ジメチルアミノピリジン等のジメチルアミン類;N−メチルジエチルアミン、N−メチルジ−n−プロピルアミン、N−メチルジイソプロピルアミン、N−メチルジ−n−ブチルアミン、N−メチルジイソブチルアミン、N−メチルジ−tert−ブチルアミン、N−メチルジシクロヘキシルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−メチルピペラジン、N−メチルピペリジン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン−2−メタノール、N−メチルピロリジン−2−メタノール、N−メチルピロリジン−2−エタノール等のメチルジアルキルアミン類の1種又は2種類以上が好適である。また、アミノ基を有する高分子化合物、イオン交換樹脂、マイクロカプセル、粘土化合物、ヘテロポリ酸、ゼオライト、オキシナイトライド等の固体化合物も使用できる。これらの中でも、トリメチルアミンのような少なくとも1つ以上のメチル基を有する3級アミン、ヘキサメチレンテトラミン、キヌクリジン、3−ヒドロキシキヌクリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)、アミノ基を有する高分子化合物、イオン交換樹脂、マイクロカプセルがより好ましく、トリメチルアミン、キヌクリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、N,N−ジメチルエチルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルピロリジンが更に好ましい。
【0015】
上記リン化合物、酸素化合物、硫黄化合物、セレン化合物、フッ素化合物、塩素化合物、臭素化合物、ヨウ素化合物としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、テトラフルオロホウ酸で安定化されたトリ−n−ブチルホスフィン、トリイソブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、2’−ジフェニルホスファニル−[1,1’]ビナフタレニル−2−オール、N(CHCHNMe)P、N(CHCHN(i−Pr))P、N(CHCHN(i−Bu))P、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ジメチルスルフィド、ジチアン、N(CHCHNMe)PS、N(CHCHN(i−Pr))PS、N(CHCHN(i−Bu))PS、2,6−ジフェニル−チオピラン−4−オン、2,6−ジフェニル−チオピラン−4−チオン、トリメチルシリルフェニルスルフィド、リチウムチオフェノキシド、2,6−ジフェニル−セレノピラン−4−オン、2,6−ジフェニル−セレノピラン−4−セレノン、トリメチルシリルフェニルセレニド、リチウムセレノフェノキシド、フッ化ホウ素、塩化チタン、塩化ジルコニウム、塩化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化ジエチルアルミニウム、塩化エチルアルミニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化チタン、臭化ジルコニウム、臭化ホウ素、臭化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化ジエチルアルミニウム等が好ましい。これらは1種又は2種類以上で用いてもよい。場合によっては、上記化合物の一部が得られる生成物に残存する場合があるが、適切な処理によりアルケンへと導くことが可能である。
【0016】
上記第15族〜17族の元素を含む化合物は、固体状、液体状、ガス状等の種々の状態での使用が可能である。水溶液の状態として使用することにより、反応開始時及び反応時における取扱いが容易になると共に、反応終了後に該化合物を回収して再使用する場合における取扱い等も容易となる場合には、5〜80重量%水溶液として使用することも可能である。
上記第15族〜17族の元素を含む化合物の使用量としては、特に制限されるものでないが、該化合物/上記一般式(1)で表される化合物(モル比)は、0.05〜2であることが好ましい。0.05〜2のモル比とすることにより、反応速度を高く維持することができると共に、高い選択率で目的物とするアルケンを得ることができる。上記モル比が0.05未満又は2よりも大きい場合には、反応速度、及び、アルケンの選択率が低下するおそれがある。また、原料である電子吸引性基を有するアルケン、又は、生成物であるアルケンの加水分解反応が起こるおそれがあり、副反応物の生成が多くなるおそれがある。さらに、工業的に実施する場合には、第15族〜17族の元素を含む化合物の回収コストが高くなるおそれがある。上記使用量としてより好ましくは、0.05〜0.5であり、更に好ましくは、0.07〜0.45である。
なお、上記第15族〜17族の元素を含む化合物の反応系への添加方法は、特に限定されるものではない。
【0017】
本発明は、第15族〜17族の元素を含む化合物に、該化合物が有する塩基点モル数未満の酸点分量の有機金属化合物を、反応液中に共存させてアルケンを製造する方法である。有機金属化合物とは、金属や半金属元素にσ結合やπ結合の様式で、有機基の炭素と(半)金属との直接結合を少なくとも1つ有する化合物を指す。このように第15族〜17族の元素を含む化合物と、有機金属化合物とを共存させることにより、アクリル酸メチル(上記式(2)中、電子吸引性基を有するアルケンの一例)及びホルムアルデヒド(上記一般式(1)で表される化合物の一例)が、それぞれ下記式(3);
【0018】
【化3】

【0019】
(式中、Yは、第15〜17族からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を表す。Zは、有機金属化合物を表す。Meは、メチル基を表す。)で表されるように、安定化及び活性化されることになる。すなわち、アクリル酸メチルの両性イオンが安定化(及び、α位が一旦プロトン化を受けた後の、アニオン部位の再発生効率が向上)し、ホルムアルデヒドを活性化(カルボニル基LUMO軌道が低下する)することができるため、反応速度の向上をはかることができる。
【0020】
上記有機金属化合物は、このような作用効果を発揮するものである限り特に限定されず、水が系中に存在する反応系においてもルイス酸性を発現できるものであることが好ましい。従って、上記第15族〜17族の元素を含む化合物と有機金属化合物とは、反応系中において共存していればよいが、それぞれ異なる化合物として反応系に添加するのが簡便である。また、有機金属化合物が第15〜17族の元素を含む化合物を、配位等の形態や配位子骨格の一部として含む形態をとる化合物を予め調製した後、添加してもよい。つまり、有機金属化合物が、第15〜17族の元素や該元素を含む化合物を有していてもよい。このとき、有機金属化合物部位と第15〜17族の元素を含む化合物部位が反応液中で解離してもよいし、解離しなくてもよい。また、有機金属化合物が上記作用効果を発揮する限り、その形態は特に限定されず、例えば、反応系中で有機金属化合物の形態が変化しても、形態が変化した有機金属化合物が結果的に反応速度向上に寄与するものであればよい。
【0021】
上記有機金属化合物としては、第3族、4族、5族、13族及び14族からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含むものであることが好ましい。上記特定の元素を含むものとすることで、HSAB(Hard and Soft Acid and Base Principle)の原理に沿うものとなり、窒素やリンよりも酸素との親和性が高い、より硬いルイス酸とすることができる。すなわち、上記有機金属化合物は、水が系中に存在する反応系においてもルイス酸性を発現できる第3族、4族、5族、13族及び14族からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含むものであることが好ましい。
【0022】
上記一般式(2)で表される反応においては、工業的な反応溶液としては通常水を含むことになる。また、基質である電子吸引性基を有するアルケンとしてアクリル酸エステルを用いた場合、重合副反応を抑制するために酸素を含むことが必須となる。したがって、このような場合においても、高い反応速度を保ち、効果的に機能する有機金属化合物を用いることが好ましい。すなわち、有機金属化合物は、水や酸素に耐え得る配位子を有する第3族、4族、5族、13族及び14族からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含むものであることが好ましい。水や酸素に耐え得る配位子を有するとは、水や酸素が共存する反応系においても、配位子の解離や分解反応が主反応に比べて遅いか、もしくは起こることがなく、上記一般式(1)で表される化合物と電子吸引性基を有するアルケンに配位して、一般式(1)で表される化合物を活性化し、電子吸引性基を有するアルケンのアニオンを安定化することにより、反応の活性を充分に向上することができる配位子を少なくとも一つ有することをいう。
【0023】
上記有機金属化合物は、また、3族、Mn、Fe、Cu、Zn、Cd及びPbからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含むものであることが好ましい。このような元素を含むものとすることで、高い水配位子の交換速度定数を有するものとすることができ、水配位子の交換速度定数が大きく、中心原子に配位した水が頻繁に離れることができるので、水の存在下においても、ルイス酸性を発現することができ、効果的に機能することができる。より好ましくは、3族、Cd、Pbであり、更に好ましくは、3族である。
【0024】
上記有機金属化合物としては、具体的には、スカンジウム、ランタン、セリウム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、イッテルビウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、錫、鉛からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含むものであることが好ましい。該化合物は高分子化合物、イオン交換樹脂、マイクロカプセル、粘土化合物、ヘテロポリ酸、ゼオライト等に担持したり、骨格内に組み込まれた形で使用することも可能である。
上記有機金属化合物は、含フッ素化合物(フッ素原子を含有する有機基)及びシクロペンタジエニル類化合物からなる群より選ばれる少なくとも一つを配位子として含有することが好ましい。すなわち、上記有機金属化合物としては、下記式(4);
【0025】
【化4】

【0026】
で表されるトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPB)や、ヒドロキシビス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、ジヒドロキシ(ペンタフルオロフェニル)ボラン、ジ(ペンタフルオロフェニル)ペンタフルオロフェノキシボラン、ジ(ペンタフルオロフェノキシ)ペンタフルオロフェニルボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウム、塩化トリ(パーフルオロブチル)錫等に代表される含フッ素原子を有する化合物や、塩化ビス(シクロペンタジエニル)スカンジウム、塩化ビス(シクロペンタジエニル)ランタン、塩化ビス(シクロペンタジエニル)サマリウム、塩化ビス(シクロペンタジエニル)チタン、塩化ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウム、塩化ビス(シクロペンタジエニル)ニオブ、塩化ビス(シクロペンタジエニル)タンタル、塩化ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)スカンジウム、塩化ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ランタン、塩化ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)サマリウム、塩化ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)チタン、塩化ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウム、塩化ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ニオブ、塩化ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)タンタル等に代表されるシクロペンタジエニルやペンタメチルシクロペンタジエニル配位子等を有する化合物(シクロペンタジエニル類化合物)が好ましい。これらの中でも、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランであることが特に好ましい。
なお、上記有機金属化合物としては、本発明の作用効果を発揮するものであれば上記のものに限定されず、例えば、上記以外の配位子を有する有機金属化合物であってもよい。
【0027】
上記有機金属化合物の含有量としては、第15族〜17族からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物が有する塩基点のモル数に対して、有機金属化合物の酸点のモル比が1未満であることが好ましい。本発明においては、第15〜17族の元素を含む化合物に加えて有機金属化合物を共存させることにより、アルケン生成反応の反応速度を向上させ、工業的に充分生産性の高い反応とすることができる。また、有機金属化合物の使用量を上記範囲とすることができるため、(1)高価な有機金属化合物の使用量を少量とすることができ、経済的・工業的に有利とできると共に、(2)ルイス酸点が15〜17族元素を含む化合物のルイス塩基点と結合することによる反応速度の低下を充分に低減でき、少量の有機金属化合物でルイス酸性を効果的に発現できるという効果を発揮することになる。
上記第15〜17族の元素を含む化合物が有する塩基点のモル数に対して有機金属化合物が有する酸点のモル数比としてより好ましくは、0.6未満であり、更に好ましくは、0.4未満であり、特に好ましくは、0.2未満である。
なお、上記塩基点とは、第15〜17族の元素を含む化合物内に存在する共有されていない孤立電子対(非共有電子対)部位を意味し、上記酸点とは、有機金属化合物内に存在する少なくとも一つの電子対を受け取ることのできる空の軌道部位(電子対受容部位)を意味する。
【0028】
本発明の好ましい形態としては、上記製造方法で用いられる第15族〜17族からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物は、窒素元素を含む化合物であるアルケンの製造方法が挙げられる。窒素元素を含む化合物は、比較的低価格で入手容易な上、酸素に対する耐酸化性も高く、また、有機金属化合物の使用量も少量となる。
【0029】
本発明においては、上記製造方法で用いられる一般式(1)で表される化合物は、ホルムアルデヒドであり、電子吸引性基を有するアルケンは、アクリル酸エステルであることが好ましい。また、本発明の好ましい形態としては、上記製造方法で用いられる一般式(1)で表される化合物は、ホルムアルデヒドであり、電子吸引性基を有するアルケンは、アクリル酸エステルであり、第15族〜17族からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物は、窒素元素を含む化合物であるアルケンの製造方法も挙げられる。このように、特定の基質を用いる場合は、ルイス酸性を充分に発揮しながら、高価な有機金属化合物の使用量を更に少量とすることができる。
【0030】
上記一般式(1)で表される化合物としては、上記一般式(1)において、X、R、及びRは、上述のとおりである。なお、R、R、R’、R’’及びR’’’が、有機基である場合、炭素数が1〜12であることが好適である。
上記一般式(1)で表される化合物としては、反応系中で上記一般式(1)で表される化合物の構造を有するものであればよく、アルデヒド系化合物、イミン系化合物、イミニウムイオン系化合物が好ましい。
上記アルデヒド系化合物としては、アルデヒド基を含有する化合物;トリオキサン、メチルトリオキサン、パラアセトアルデヒド;及び下記一般式(5);
【0031】
【化5】

【0032】
(式中、Wは、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状又は枝分かれ鎖状のアルキル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を表す。lは、1〜100の整数である。)で表されるオキシメチレン化合物等が好適である。
上記アルデヒド基を含有する化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、エチルアルデヒド、プロピオンアルデヒド、イソプロピルアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ペンチルアルデヒド、ピバルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、オクチルアルデヒド、ノニルアルデヒド、デカニルアルデヒド、ウンデカニルアルデヒド、ドデカニルアルデヒド、ベンズアルデヒド、トルアルデヒド、ニトロベンズアルデヒド、メトキシベンズアルデヒド、フッ化ベンズアルデヒド、塩化ベンズアルデヒド、臭化ベンズアルデヒド、桂皮アルデヒド、フェニルプロパナール、ナフチルアルデヒド、フルフラール等が好適である。
上記オキシメチレン化合物としては、例えば、パラホルムアルデヒド、ホルムアルデヒドの20〜50重量%水溶液(水和ホルムアルデヒド)、ホルムアルデヒドの濃度が20〜50重量%であるメタノール水溶液等が好ましい。
【0033】
上記アルデヒド系化合物としては、特に、アセトアルデヒド、パラアセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ホルムアルデヒドの20重量%〜50重量%水溶液、及び、ホルムアルデヒドの濃度が20重量%〜50重量%であるメタノール水溶液が好ましい。より好ましくは、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドである。ここでいうパラホルムアルデヒドとはホルムアルデヒドの重合体(8〜100量体)であり、常温において粒状又は粉体などの性状を有する固体である。工業的に入手可能なパラホルムアルデヒドは通常水分を含有しており、水分が20重量%以下含有していてもよい。前記アルデヒド系化合物は、1種類のみを用いてもよく、また、本発明を工業的に実施する際は該アルデヒド系化合物の取扱いの容易さ等を考慮に入れて、2種類以上を適宜混合して用いてもよい。
【0034】
上記イミン系化合物は、前記アルデヒド系化合物と、炭素数0〜12のアンモニア、アルキルアミン、芳香族アミン等による反応より得られ、上記イミニウムイオン系化合物は、前記イオン系化合物のハロゲン化アルキル試薬等による四級化により得ることができる。アルデヒド系化合物、イミン系化合物、イミニウムイオン系化合物は1種類のみを用いてもよく、2種類以上適宜混合して用いてもよい。
【0035】
上記電子吸引性基を有するアルケンとしては、上述した電子吸引性基(EWG)、R及びRを適宜選択することにより適当なものとできる。EWGとしては、エステル、ケトン、アミド、スルホナート、スルホキシド、ホスホナート、チオエステル、ニトリル等が好適である。中でも、アミド基、ニトリル基、ケトン基、又は−COORで表されるエステル基(Rは、有機残基を表す。)である化合物であることが好ましい。より好ましくは、RもしくはRが水素原子であって、EGWが上記の基であるものである。すなわち、上記電子吸引性基を有するアルケンとしては、EWGがアミド基であるアクリルアミド等、ニトリル基であるアクリルニトリル等、ケトン基であるアルキルビニルケトンやシクロアルケノン等、エステル基であるアクリル酸エステル(アクリレート系化合物)等である。更に好ましくは、アクリル酸エステルである。
【0036】
上記Rで示される有機残基は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、アリール基、炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基、−(CHNR基、−(CH・M基、又は、−(CO)基を表す。上記R、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数1〜12の直鎖状又は枝分かれ鎖状のアルキル基を表す。mは、2〜5の整数である。Mで示される陰イオンは、Cl、Br、CHCOO、HCOO、SO2−又はPO3−を表す。Rは、炭素数1〜18の直鎖状又は枝分かれ鎖状のアルキル基を表す。nは、1〜80の整数である。
【0037】
上記のアルキルビニルケトンやシクロアルケノンとしては、例えば、メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、イソプロピルビニルケトン、ブチルビニルケトン、シクロヘキシルビニルケトン、フェニルビニルケトン、シクロペンテノン、シクロヘキセノン、シクロヘプテノン等の1種又は2種以上が好適である。これらアルキルビニルケトンのうち、メチルビニルケトン、及び、イソプロピルビニルケトン、シクロペンテノン、シクロヘキセノンが特に好ましい。
【0038】
上記アクリレート系化合物としては、下記(a)〜(g)のアクリレートが好適である。
(a)置換基が炭素数1〜18のアルキル基であるアクリレート。例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート等。
(b)置換基が炭素数3〜12のシクロアルキル基であるシクロアルキルアクリレート。例えば、シクロペンチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメチルアクリレート等。
【0039】
(c)置換基がアリールであるアリールアクリレート。例えば、フェニルアクリレート、o−メトキシフェニルアクリレート、p−メトキシフェニルアクリレート、p−ニトロフェニルアクリレート、o−メチルフェニルアクリレート、p−メチルフェニルアクリレート、p−tert−ブチルフェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、ナフチルアクリレート等。
(d)置換基が炭素数3〜12のヒドロキシアルキル基のヒドロキシアルキルアクリレート。例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、糖鎖含有アクリレート等。
(e)置換基が−(CHNR基であるアルキルアミノアクリレート。例えば、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピルアクリレート、N,N−ジメチルアミノブチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノブチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノペンチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノネオペンチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノネオペンチルアクリレート等。
【0040】
(f)置換基が−(CH・M基であるアルキルアミノアクリレートの第四級アンモニウム化合物。例えば、N,N−ジアルキルアミノアクリレートの第四級アンモニウム化合物等。
(g)置換基が−(CO)基であるアクリレート類。例えば、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、ラウリルオキシトリオキシエチルアクリレート、nが1〜80、好ましくは1〜30のメトキシポリオキシエチレンアクリレート等。
【0041】
上記一般式(1)で表わされる化合物と電子吸引性基を有するアルケンの使用量としては、一般式(1)で表わされる化合物に対し電子吸引性基を有するアルケン(電子吸引性基を有するアルケン/一般式(1)で表わされる化合物)が、モル比で、0.5〜10であることが好ましい。モル比が0.5未満である場合には、反応速度が遅く、一般式(1)で表わされる化合物に由来する不純物の生成が多くなり高い選択率が得られず好ましくない。また、モル比が10を越える場合には、過剰の電子吸引性基を有するアルケンの回収に多大の労力が必要となり、工業的実施においては好ましくない。より好ましくは、0.8〜5であり、更に好ましくは、1〜4である。
【0042】
本発明においては、水を含む反応溶液中で反応させることが可能である。反応溶液中に存在する水の量としては、上記一般式(1)で表される化合物と電子吸引基を有するアルケンの合計重量に対し、0.001質量%以上60質量%以下にすることが好ましい。より好ましくは、0.005質量%以上50質量%以下であり、更に好ましくは、0.01質量%以上40質量%以下である。水は反応中であればいつ添加してもよいが、基質、触媒や溶媒に含まれる水以外に積極的に水を添加する場合、その方法としては、例えば、上記基質等からなる混合物に水を混合する方法;第15〜17族からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含む化合物に水を予め混合し、該化合物の水溶液を調製して添加する方法等の1種類又は2種類以上の方法が好適である。
上記水の使用量としては、例えば、電子吸引性基を有するアルケンとしてエチルアクリレートを用い、上記一般式(1)で表される化合物としてホルムアルデヒドを用い、第15族〜17族の元素を含む化合物としてトリメチルアミンを用いる場合には、エチルアクリレート及びホルムアルデヒドの合計量に対する水の量が0.01質量%〜40質量%となるように、水を添加することが好ましい。
【0043】
本発明においては、必要に応じて、有機相を形成するために水に不溶な溶媒を用いることができる。上記溶媒の種類は、反応に用いる基質及び触媒を溶解し、かつ、反応に対して不活性な化合物であれば、特に限定されるものではない。このような溶媒の使用量は、特に限定されるものではなく、例えば、電子吸引基を有するアルケン、一般式(1)で表される化合物、触媒の種類(性質)や組み合わせ、使用量;得られるアルケンの性質;反応温度等の反応条件等により、適宜設定すればよい。溶媒は、1種類のみを用いてもよく、また、2種類以上を適宜混合して用いてもよい。なお、電子吸引性基を有するアルケンを大過剰に使用し、該アルケン化合物を溶媒として使用することもできる。
【0044】
上記反応溶液は、極性溶媒を含むものであってもよい。この場合、使用する水の量は、添加する極性溶媒との組み合せの中で反応初期(好ましくは反応終了時においても)において均一系となる範囲とすることが好ましく、極性溶媒との組み合せ、又は、使用する電子吸引性基を有するアルケンの種類等により適宜設定することができる。
【0045】
上記極性溶媒としては、基質や触媒、及び、水を相溶化させる化合物であることが好ましく、このようなものである限り特に限定されるものでない。例えば、水、アセトニトリル、ピリジン、メチルピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン、N−メチルピロリジン、N−エチルピロリジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノエタン、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノプロパン等の3級アミン化合物;ポリエチレングリコール類;イオン性液体;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン等のアミド化合物が好適である。これらの中でも、水、アセトニトリル、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンがより好ましい。なお、蒸留して容易に回収が可能な常圧において沸点が30℃〜250℃のものも好適に用いることができる。
【0046】
本発明においては、用いる基質(特に、電子吸引性基を有するアルケン)、及び、生成物であるアルケンが、重合しやすい性質を有している場合には、共に重合し易い性質を有していることから、反応時の重合を抑制するために、反応系に重合防止剤(又は重合禁止剤)や分子状酸素を添加することが好ましい。
【0047】
前記重合防止剤としては、重合防止剤としての作用を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、tert−ブチルヒドロキノン、2,4−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、2,4−ジメチルヒドロキノン等のキノン類;フェノチアジン等のアミン化合物;2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、p−メトキシフェノール等のフェノール類;p−tert−ブチルカテコール等の置換カテコール類;置換レゾルシン類;テトラメチルピペリジン−N−オキシド等の安定遊離基含有化合物等の1種又は2種類以上を好適に用いることができる。
【0048】
上記重合防止剤の添加量は、特に限定されるものでないが、例えば、電子吸引性基を有するアルケンに対する割合が、0.01〜1重量%の範囲内となるようにすればよい。分子状酸素としては、例えば、空気又は分子状酸素と窒素との混合ガスを用いることができる。この場合、反応溶液に分子状酸素を含有するガスを吹き込むようにすればよい。そして、上記重合を充分に抑制するために、重合防止剤と分子状酸素とを併用することが好ましい。
【0049】
本発明の反応おいて、反応温度は、反応が進行する範囲であれば特に限定されるものでないが、上記重合を抑制するために、30〜150℃の範囲内が好ましい。反応温度が30℃よりも低い場合には、反応速度が小さく反応時間が長くなり過ぎ、目的生成物を工業的に製造するに際しては好ましくない。また、反応温度が150℃を越える場合には、前記した重合を抑制することが困難となる。より好ましくは、60〜80℃の範囲内である。
【0050】
上記反応の反応圧力は、反応が好適に進行するものである限り特に限定されず、常圧(大気圧)、減圧、加圧のいずれであってもよい。反応時間は、他の反応条件等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されるものでないが、一般的には、1〜48時間程度でよい。
【0051】
本発明の反応においては、反応の更なる促進を目的として、添加剤を反応液に添加することができる。添加剤としては、反応に悪影響を及ぼさない限り特に限定されないが、例えばブレンステッド酸や、アルカリ金属及び/又はアリカリ土類金属を含む化合物、有機ハロゲン化物塩、水酸基含有化合物、エーテル化合物等が好ましい。より好ましくは、ブレンステッド酸としては、鉱酸類、カルボン酸類、フェノール、ナフトール、ビナフトール等の芳香環に結合した水酸基含有化合物;尿素、チオ尿素及びその誘導体;シリカゲル、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカアルミナ等の無機固体類等であり、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む化合物としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化セシウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化バリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化バリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、フェノール類アルカリ金属塩、フェノール類アルカリ土類金属塩、ナフトール類アルカリ金属塩、ナフトール類アルカリ土類金属塩、ビナフトール類アルカリ金属塩、ドデシル硫酸ナトリウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラヘキシルアンモニウム、塩化テトラオクチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ピリジニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラヘキシルアンモニウム、臭化テトラオクチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ピリジニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウテトラヘキシルアンモニウム、ヨウ化テトラオクチルアンモニウム、ヨウ化セチルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ピリジニウム、メタノール、エタノール、エチレングリコール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ポリエチレングリコール、トリエタノールアミン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、クラウンエーテル、ポリエチレングリコールエーテル等である。場合によっては、上記第15〜17族の元素を含む化合物及び/又は上記有機金属化合物の化合物骨格に、上記ブレンステッド酸部位やアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む部位、有機ハロゲン化物塩部位、水酸基部位、エーテル部位が含まれていてもよい。
【0052】
反応終了後は、必要に応じて、蒸留、ろ過、抽出、遠心分離、再結晶、乾燥等の工程を経て分離・精製することにより、目的のアルケン生成物を得ることができる。このような分離・精製工程としては、反応溶液が有機相と水相とを含む場合、分液等の所定の操作を行い、反応溶液を有機相と水相とに分離し、有機相を常圧蒸留(精留)又は減圧蒸留(精留)等することにより、生成物であるアルケンを単離・精製することができ、同時に、未反応のアルケン又は溶媒を容易に分離・回収することができる。未反応のアルケン及び溶媒は、高純度で回収されるので、反応に再度使用することができる。また、第15〜17族の元素を含む化合物や有機金属化合物は、有機層や水層の蒸留や抽出を適宜行うことにより回収することができる。
【0053】
上記反応条件の下において一般式(2)で表される反応が進行することにより、アルケンが得られることになるが、このようなアルケンとしては、上記一般式(1)で表される化合物と、上記電子吸引性基を有するアルケンとを適宜選択することにより好適なものを選択できることになる。
上記アルケンとしては、具体的には、メチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、エチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、n−ブチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、tert−ブチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、2−エチルヘキシル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、シクロヘキシル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート等のアルキル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート類;メチル 2−(1−ヒドロキシエチル)アクリレート、エチル 2−(1−ヒドロキシエチル)アクリレート、n−ブチル 2−(1−ヒドロキシエチル)アクリレート、メチル 2−(1−ヒドロキシブチル)アクリレート、エチル2−(1−ヒドロキシブチル)アクリレート、n−ブチル 2−(1−ヒドロキシブチル)アクリレート、メチル 2−(1−ヒドロキシベンジル)アクリレート、エチル 2−(1−ヒドロキシベンジル)アクリレート、n−ブチル 2−(1−ヒドロキシベンジル)アクリレート等のアルキル 2−(1−ヒドロキシ−1−アルキルメチル)アクリレート類等が好適に得ることができる。中でも、メチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、エチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、n−ブチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、tert−ブチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、2−エチルヘキシル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレート、シクロヘキシル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレートをより好ましく得ることができる。
【発明の効果】
【0054】
本発明のアルケンの製造方法は、上述の構成よりなり、高屈折率及び耐熱性を備えた重合体の製造に供される単量体;塗料、接着剤、洗剤ビルダー等の各種化学製品の製造原料;抗癌剤、抗ウイルス剤等の医薬品の中間体等として広範囲に用いられるアルケンを森田−Baylis−Hillman反応を用いて効率よく製造する方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「mol%」を意味するものとする。
【0056】
実施例1〜3
蓋付き試験管にアクリル酸メチル(10mmol)、92重量%パラホルムアルデヒド(5mmol)、第15〜17族の元素を含む化合物(触媒)として1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)(20mol%)、有機金属化合物としてトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPB)(0.8mol%)、添加溶媒(水及び/又はアセトニトリル(MeCN))を加え、70℃で4時間攪拌して反応させた。得られたメチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレートの収率(%)を表1に示した。収率は、パラホルムアルデヒドに対するメチル 2−(ヒドロキシメチル)アクリレートの収率を、ガスクロマトグラフィー測定により求めた。
【0057】
使用ガスクロマトグラフィー;HEWLETT PACKARD HP−6890
使用カラム;TC−WAX
分析条件;カラム温度35℃で10分保持、20℃/分で昇温、200℃で10分保持
【0058】
比較例1〜3
有機金属化合物と添加溶媒とを表1に示すものを用いる以外は実施例1と同様にして反応させた。結果を表1に示した。なお、Sc(OTf)は、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムを指す。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例4〜6及び比較例4〜5
第15族〜17族の元素を含む化合物(触媒)として30%トリメチルアミン水溶液(MeN)を用い、アクリル酸メチルの添加量を表2に示すように10又は20mmolとし、有機金属化合物と添加溶媒とを表2に示すものを用いる以外は実施例1と同様にして反応させた。なお、トリメチルアミン水溶液を触媒として使用する場合、同伴する水(トリメチルアミン水溶液に含まれる水)は、添加溶媒のmL数には加えていない。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】

(式中、Xは、酸素原子、NR’又はNR’’R’’’を表す。R、R、R’、R’’及びR’’’は、同一若しくは異なって、水素原子又は有機基を表す。)で表される化合物と電子吸引性基を有するアルケンとから、第15族〜17族からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物を用いてアルケンを製造する方法であって、
該製造方法は、有機金属化合物を反応溶液中に共存させ、かつ、第15〜17族からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物が有する塩基点のモル数に対して有機金属化合物が有する酸点のモル数比が1未満であることを特徴とするアルケンの製造方法。
【請求項2】
前記製造方法で用いられる第15族〜17族からなる群より選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物は、窒素元素を含む化合物であることを特徴とする請求項1記載のアルケンの製造方法。
【請求項3】
前記製造方法で用いられる一般式(1)で表される化合物は、ホルムアルデヒドであり、
電子吸引性基を有するアルケンは、アクリル酸エステルであることを特徴とする請求項1又は2記載のアルケンの製造方法。

【公開番号】特開2006−298795(P2006−298795A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120120(P2005−120120)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】