説明

アルコールの精製方法及び装置

【課題】イソプロピルアルコールなどのアルコールを精製する際に、精製前のアルコール中の水分、イオン性不純物、金属などの不純物を極微量にまで低減できるアルコールの精製方法及び装置を提供する。
【解決手段】アルコール含有液から精製アルコールを得るアルコール精製装置において、アルコール含有液に対してイオン交換処理を行う第1のイオン交換手段23と、第1のイオン交換手段23で処理された液を浸透気化あるいは蒸気透過によって脱水する脱水膜24と、脱水膜24により脱水された液に対してさらにイオン交換処理を行って精製アルコールを得る第2のイオン交換手段25と、を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールの精製方法及び装置に関し、特に、回収されたアルコールを精製してリサイクルすることに適した方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール類は、化学工業用の洗浄剤や溶剤、合成原料として多量に用いられている。特に、半導体デバイスの製造工程では、洗浄及び乾燥等の用途で多量のIPAが使用されている。例えば、半導体デバイスに対して純水洗浄を行った後にその水分除去を行うためのIPA蒸発乾燥法は、水分除去を行う工程として効果的であるが、その反面、揮発性が高く高純度のIPAを使用することが求められるため、結果として半導体デバイスの製造原価が高くなる、という問題点を有する。したがって、半導体デバイス製造工程で使用した廃IPAを回収し再利用することが、経費節減及び環境負荷の改善の面で望まれている。半導体デバイスの製造工程で排出されるIPA中には、製造工程や材料、装置に由来する不純物が含まれており、IPAを回収して再利用するためには、これらの不純物を高度に除去し、半導体デバイス製造工程用として購入したときと同程度にまでIPAを精製する必要がある。不純物の成分としては、主に、水分、イオン性不純物、金属、微粒子が挙げられる。市販のIPAではその用途(例えば、半導体デバイス製造工程用)などに応じてグレードが設定されており、グレードごとに、各不純物についての規格値が定められている。
【0003】
IPAを半導体デバイス製造における例えば洗浄及び乾燥の工程に用いる場合、そのIPA中の水分濃度は0.1%以下とされ、また、金属成分の濃度は0.1ppb以下、好ましくは0.01ppb以下とされる。
【0004】
汚染され不純物を含むようになったアルコールの精製方法としては、蒸留法が知られている。しかしながら、蒸留法のみを使用してアルコールを所定の純度まで精製しようとすると大がかりな蒸留設備が必要となって設備費や設置面積が大きくなり、多大なエネルギーも必要としてエネルギーコストも上昇し、経済面で好ましくない。
【0005】
アルコールに含まれる可能性がある不純物ごとに、以下に示すように、アルコールからそれらの不純物を除去する方法が提案されている。
【0006】
例えば、アルコール中の水分を効率的に除去する方法としては、特許文献1には、浸透気化法を用いてアルコール中の水分濃度を一定レベル以下とした上で、ゼオライトなどの吸着剤を用いて水分を吸着除去する方法が示されている。特許文献2には、陰イオン交換膜を蒸気透過(Vapor permeation:VP)法での分離膜として用いてアルコールから水分を分離し、さらに蒸留によってアルコールを精製することが示されている。
【0007】
浸透気化(Pervaporation:PV)法は、分離処理の対象となる成分(例えば水分)と親和性のある分離膜を用い、対象成分を含む混合液(例えば不純物としての水分を含むアルコール)を分離膜の供給側に流し、分離膜の透過側を減圧にしたり不活性ガスを流すことで、分離膜における各成分の透過速度差により分離を行うものである。浸透気化法において分離膜の透過側を減圧条件とするものを特に蒸気透過法と呼んでいる。特許文献1では分離膜としてポリイミド系分離膜あるいはセルロース系分離膜が用いられているが、アルコールからの脱水用の分離膜としては、ゼオライト膜も広く用いられている。ゼオライト膜は、きわめて強い吸湿性を有し、水分子などの極性分子の吸着に関してはその分子種の分圧がきわめて低い場合においても分離性能が高く、また、目的物であるアルコールのロスが少ない、という特徴を有する。
【0008】
イオン性不純物を除去する方法としては、特許文献3や非特許文献1に示されるように、イオン交換樹脂を用いた方法が知られている。イオン交換樹脂による処理は、蒸留装置を用いるよりもエネルギーや設備費が小さくて簡便であり、かつ純度の高いアルコールを得ることができる。イオン交換樹脂を用いる方法ではアルコール含有液をイオン交換樹脂の層に通液するが、特許文献4では、イオン交換樹脂の代わりにイオン交換膜を用いることとして、フィルタとイオン交換膜とを組み合わせ、金属イオンなどのカチオン性不純物と微粒子とを除去する方法が提案されている。
【0009】
特許文献5は、浸透気化法によって水分を除去されたアルコールに対し、さらに、蒸留を行って金属を除去し、精密濾過膜を通過させて不溶性の微粒子を除去することを開示している。
【0010】
そして特許文献6には、上述したような各種の方法を組み合わせ、半導体デバイス製造工程から回収したIPAを精製して再び半導体デバイス製造工程に供給するようにした再生システムと、そのような再生システムにおける精製方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−276801号公報
【特許文献2】特開平6−69175号公報
【特許文献3】特開2009−57286号公報
【特許文献4】特開2005−263729号公報
【特許文献5】特開平9−57069号公報
【特許文献6】特開平11−57304号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Partha V. Buragohain, William N. Gill, and Steven M. Cramer; "Novel Resin-Based Ultrapurification System for Reprocessing IPA in the Semiconductor Industry," Ind. Eng. Chem. Res., 1996, 35(9), pp. 3149-3154
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、IPAなどのアルコールを精製する方法として各種の方法が知られている。このうち、特許文献1に示すような浸透気化膜と吸着剤を組み合わせた方法では、アルコール中の水分を低減することはできるものの、吸着剤の再生に関わるエネルギー消費量が非常に大きくなり、コスト増につながったり、吸着剤からの溶出物により後段の蒸留装置に負荷がかかるおそれがある。特許文献2に示すような陰イオン交換膜による蒸気透過と蒸留とを組み合わせた方法では、IPAに対する水の分離係数が160程度であってゼオライト膜を用いた場合の分離係数の1000程度と比較して非常に低く、脱水効率が悪いため、装置規模が大きくなる。また、蒸留を行う場合には、蒸留装置を構成する部材に由来するパーティクル(例えば金属微粒子)が精製アルコールに混入するおそれもある。
【0014】
特許文献3に代表されるようにイオン交換樹脂を用いるアルコール精製方法が提案されているが、アルコールは水に比べ、イオン交換樹脂内での拡散速度が小さく、イオン交換樹脂でのイオン交換反応の反応速度も小さいため、アルコール中のイオン性不純物の除去を行う場合には、水溶液中のイオン性不純物を除去する場合に比べ、イオン交換樹脂に対する通液速度を小さく設定する必要がある。さらに、一般的なイオン交換樹脂は、40〜60%程度の水分をイオン交換樹脂自体の内部に保持している。アルコールの精製にイオン交換樹脂を使用した場合、イオン交換樹脂が既に保持している水分がアルコール中に溶出してくる可能性がある。アルコールの精製に用いる前に、あらかじめイオン交換樹脂に対してアルコールを通液し、イオン交換樹脂内部の水分をアルコールに置換しておくことも可能であるが、この置換を実行するためには長時間を要するという問題点がある。
【0015】
さらに、特許文献4に示すようなフィルタとイオン交換膜とを組み合わせた方法では、この方法単独では水分やアニオン性不純物を除去することができない。
【0016】
さらに、本発明者らは、脱水膜通過後の液の金属濃度が上昇していること、及びこれらの金属を蒸留操作では極微量(0.01ppb未満)まで低減できないことを実験で確認した。すなわち、特許文献6に示すIPAの再生システム及び精製方法では、アルコール精製液中の金属濃度を0.01ppb未満にできないという問題点がある。
【0017】
本発明の目的は、IPAに代表されるアルコールを回収して精製するのに適した方法及び装置であって、精製アルコールにおける含有金属量を極微量にまで低減できるアルコール精製方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記問題を解決するために研究を重ねた結果、回収アルコールなどのアルコール含有液に対してイオン交換を行ってイオン成分を除去した後に脱水膜に通液し、さらに脱水膜の後段で再度のイオン交換を行うことにより、含有金属を極微量まで低減されたアルコールを得ることが可能であることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち本発明のアルコールの精製方法は、アルコール含有液に対してイオン交換処理を行う第1のイオン交換工程と、第1のイオン交換工程で処理された液に対し脱水膜を用いて脱水処理を行う工程と、脱水処理された液に対してさらにイオン交換処理を行って精製アルコールを得る第2のイオン交換工程と、を有する。
【0020】
本発明のアルコール精製装置は、アルコール含有液に対してイオン交換処理を行う第1のイオン交換手段と、第1のイオン交換手段で処理された液を浸透気化あるいは蒸気透過によって脱水する脱水膜と、脱水膜により脱水された液に対してさらにイオン交換処理を行って精製アルコールを得る第2のイオン交換手段と、を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、脱水膜による脱水処理と、脱水処理前の第1のイオン交換工程と、脱水処理後の第2のイオン交換処理とを組み合わせることにより、アルコールに含まれる金属成分などの不純物量を極微量にまで低減でき、しかも、高効率でアルコールを精製できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態のアルコール精製装置の構成を示す図である。
【図2】精密濾過膜を備えるアルコール精製装置の構成を示す図である。
【図3】イオン交換樹脂出口及びイオン吸着膜出口での水分濃度の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に示す本発明の第1の実施形態のアルコール精製装置20は、例えば半導体デバイス製造工程などの各種の工程から排出されて不純物を含んでいるアルコールを回収して精製するために好ましく用いられるものである。図1に示した例では、精製対象のアルコールがIPA(イソプロピルアルコール)であり、半導体デバイス製造装置12で使用されて不純物を含むようになったIPAが回収されており、アルコール精製装置20は、回収されたIPAを精製し、精製したIPAを供給タンク11を介して再び半導体デバイス製造装置12に供給する。供給タンク11には、運転開始時に必要となったり運転中に不足した分を補うために、補充用アルコールが供給されるようになっている。
【0024】
アルコール精製装置20では、半導体デバイス製造装置12から回収したIPAをアルコール含有液として一時的に保持する回収タンク21と、回収タンク21の出口に設けられてアルコール含有液を送液するポンプ22とが設けられ、このポンプ22の出口に対し、第1のイオン交換手段23と脱水膜24と第2のイオン交換手段25とがこの順で直列に接続し、精製されたアルコールが第2のイオン交換手段25から得られる。第2のイオン交換手段25からの精製アルコールは、半導体デバイス製造装置12において再度使用するために、配管を介して供給タンク11に戻される。
【0025】
第1のイオン交換手段23は、ポンプ22から流入するアルコール含有液に対してイオン交換処理を行うものであり、イオン交換樹脂を用いてアルコール含有液中のイオン成分を除去する。第1のイオン交換手段23としては、イオン交換作用を有するものであれば特に限定されることなく使用することができるが、回収したアルコールの精製過程における第1段階の部分であることを考慮すると、交換容量が大きいイオン交換樹脂を用いることが好ましい。イオン交換樹脂は、例えば細粒状のものであって例えば塔状の容器内に充填されている。イオン交換処理を行う際には、アルコール含有液を容器内に流して、アルコール含有液がイオン交換樹脂の層を通過するようにする。第1のイオン交換手段23でイオン交換処理を行うことにより、後段の脱水膜24の劣化要因となる酸やイオン性金属などのイオン負荷を低減し、脱水膜24の高寿命化を図ることができる。第1のイオン交換手段23は、例えば、塔状の容器内にイオン交換樹脂を充填し、液がイオン交換樹脂の層を通過するように構成される。イオン交換樹脂のうちカチオン交換樹脂は、Naイオン、Caイオン等の陽イオンを吸着除去し、アニオン交換樹脂はClイオン等の陰イオンを吸着除去する。第1のイオン交換手段23内に充填されるカチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂の仕様や装置構成は、アルコール含有液として第1のイオン交換手段23に供給されるIPAの性状や、このアルコール精製装置20から送出される精製アルコールにおける要求品質に応じて決定されるが、吸着性能や低溶出の観点から、H(水素イオン)形の強酸性カチオン交換樹脂(SACER)、OH(水酸化物イオン)形の強塩基性アニオン交換樹脂(SBAER)を使用することが望ましい。
【0026】
イオン交換樹脂としては、カチオン交換樹脂またはアニオン交換樹脂を単床で設けたもの、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを複床で設けたもの、あるいは、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを混床で設けたものいずれであってもよいが、後段の脱水膜24の劣化要因となる酸やイオン性金属などのイオン負荷を低減させるためには、混床であることが好ましい。最終的な精製アルコールにおける水分濃度を低くすることが要求される場合や、イオン交換樹脂の交換直後にイオン交換樹脂からの水分溶出を低減させたい場合には、イオン交換樹脂として、水分を含まない乾燥樹脂を使用することが好ましい。
【0027】
本発明に基づくアルコール精製方法では、第1のイオン交換手段23から流出する液に対して脱水処理を行って、水分を除去する。水分を除去するための方法としては、浸透気化(PV)あるいは蒸気透過(VP)による膜脱水処理を行うことが好ましい。そこで、図1に示したアルコール精製装置では、脱水膜24を用い、第1のイオン交換手段23で処理された液に対して浸透気化(PV)あるいは蒸気透過(VP)による膜脱水を行ってアルコールを濃縮している。脱水膜24は、例えば、透水性膜モジュールとして構成されるものであり、膜としてはポリイミド系、セルロース系、ポリビニルアルコール系等の高分子系もしくはゼオライト等の無機系の素材からなる膜を用いることができる。また、脱水膜24の出口において、アルコール中の水分濃度が0.1%以下であるようにすることが好ましい。
【0028】
脱水膜24の後段に設けられている第2のイオン交換手段25は、脱水膜や配管等の部材から溶出するイオンを低減・除去することができる。第2のイオン交換手段25においてイオン性不純物を低減・除去することによって、より高純度なアルコールを得ることができる。特許文献6に記載のシステムでは、イオン性不純物を除去した後、蒸留操作による金属除去を行い、次いで、脱水膜による水分除去が行われる。本発明者らは、脱水膜通過後の液の金属濃度が上昇していること、及びこれらの金属が蒸留操作では極微量(0.01ppb未満)まで低減できないことを発見した。したがって、本発明におけるアルコール精製方法では、第1のイオン交換手段に通液し、脱水膜で水分を除去した後に金属除去をイオン交換(第2のイオン交換手段)により行う。
【0029】
金属を極微量まで低減することを目的とした第2のイオン交換手段25としては、イオン交換樹脂あるいはイオン吸着膜を用いることができるが、本発明の最終目的である高純度のアルコール精製としては、イオン吸着膜を用いることが好ましい。本発明者らは、イオン吸着膜がイオン交換樹脂に比べて母体に保有する水分とアルコールとの置換を、目的とする水分濃度まで急速に行うことができ、かつ、イオン交換の反応速度にも優れていることを発見した。よって、第2のイオン交換手段としてイオン吸着膜を採用することにより、極微量まで金属を除去するだけでなく、アルコール中の水分濃度を上昇させないことから、より高純度のアルコール精製が可能となる。イオン吸着膜は、多孔性の膜素材を有してイオン交換機能を有するものである。このようなイオン吸着膜としては、例えば、100μm以下の孔径を有し、かつイオン交換機能を有するものであればよく、その材質や型式などに特に制限はないが、例えば、精密濾過膜などの膜素材の表面に、イオン交換能を有する官能基を導入したものなどを使用することができる。膜素材の形状としては、プリーツ型や平膜型、中空糸型、特開2003−112060号公報の記載にあるような多孔質体などのものが挙げられる。膜素材に導入されるイオン交換基としては、カチオン交換基、キレート交換基、アニオン交換基のいずれか、もしくは溶出してくる成分に応じてこれらの少なくとも2つを組み合わせたものを使用することができる。
【0030】
図1に示したものでは、第2のイオン交換手段25から流出する液が精製アルコールとして供給タンク11に循環しているが、第2のイオン交換手段25の後段に微粒子除去用のフィルターを設け、このフィルターを通過した液を精製アルコールとして供給タンク11に循環させるようにしてもよい。必要な透過流速を得るために、フィルターとしては、精密濾過膜を使用することが好ましい。図2は、図1に示したアルコール精製装置20において、第2のイオン交換手段25の後段に精密濾過膜26を設け、精密濾過膜26を通液したものが精製アルコールとして供給タンク11に循環するようにした構成を示している。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。ただし本発明は、下記の実施例により限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
図1に示した構成のうち、アルコール精製装置20の部分を組み立てた。第1のイオン交換手段23として、オルガノ株式会社製のゲル形イオン交換樹脂(強酸性カチオン交換樹脂と強塩基性アニオン交換樹脂との混床のイオン交換樹脂)ESG−2を充填したものを用いた。脱水膜24としては、A型ゼオライトを素材とする膜を使用し、蒸気透過法による脱水処理を行った。第2のイオン交換手段25としては、旭化成株式会社製のイオン吸着膜モジュールを用いた。
【0033】
回収タンク21に、IPA中の水分濃度が5%であるアルコール含有液を供給し、ポンプ22により通液速度を2kg/時間として、第1のイオン交換手段23、脱水膜24及び第2のイオン交換手段25の順でアルコール含有液を通液し、回収タンク21、第1のイオン交換手段(イオン交換樹脂)23、脱水膜24及び第2のイオン交換手段(イオン吸着膜)25の各々の出口における水分濃度及び金属濃度を測定した。水分濃度の測定にはカールフィッシャー水分濃度計(平沼産業株式会社製)を用い、金属濃度の測定には、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)を用いた。金属濃度測定の対象は、ナトリウム(Na)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、クロム(Cr)及びニッケル(Ni)の各イオンとした。金属濃度測定における各金属イオンの分析下限値は0.01ppbであった。水分濃度測定の結果を表1に示し、金属濃度測定の結果を表2に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
表1に示すように、脱水膜24以降では液中の水分濃度は安定し、0.1%以下であった。表2に示すように、金属濃度に関しては、イオン交換樹脂からなる第1のイオン交換手段23に通液することで大幅に金属濃度が減少することが観察されたものの、脱水膜24の出口においては、構成部材由来と考えられる金属の溶出によって、一部の金属に関して濃度が上昇した。しかしながら、イオン吸着膜からなる第2のイオン交換手段25の出口においては、全ての金属成分に関してその濃度が分析下限値を下回る水準まで除去されることが確認された。
【0037】
[比較例1]
実施例1のアルコール精製装置においてイオン吸着膜からなる第2のイオン交換手段25の代わりに蒸留装置を設けたアルコール精製装置を組み立て、実施例1と同様にアルコール含有液を通液して、回収タンク21、第1のイオン交換手段(イオン交換樹脂)23、脱水膜24及び蒸留装置の各々の出口における水分濃度及び金属濃度を測定した。水分濃度についての結果を表3に示し、金属濃度についての結果を表4に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
水分濃度については、脱水膜24以降では液中の水分濃度が安定し、0.1%以下であったが、金属濃度に関しては、脱水膜24を通過したことによって上昇した金属濃度を蒸留装置において充分に低減することができず、いくつかの元素について、金属イオン濃度を0.01ppb以下にすることができなかった。
【0041】
[実施例2]
イオン交換樹脂とイオン吸着膜について、アルコール置換の容易さを検討した。超純水で洗浄したイオン吸着膜モジュール(旭化成株式会社製)と、超純水で洗浄したイオン交換樹脂(オルガノ株式会社製)を充填したカラムとを用意し、各々に高純度IPA(株式会社トクヤマ製)を通液し、所定の水分濃度(0.1%)以下になるまで各々の出口での液の水分濃度をカールフィッシャー水分濃度計(平沼産業株式会社製)を用いて測定した。通液時間とそのときの水分量との関係を図3に示す。図3に示されるように、イオン吸着膜では、通液開始から20分以内で出口の水分濃度が0.1%以下となった。これに対し、イオン交換樹脂では、通液開始から1時間以上を経過しても出口の水分濃度が0.1%以上であった。この結果より、イオン交換樹脂に比べてイオン吸着膜の方が、含有水分を急速にアルコールに置換できることが分かる。したがって、脱水膜24の後段に設けられる第2のイオン交換手段25としては、イオン交換樹脂よりもイオン吸着膜を用いた方が好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0042】
11 供給タンク
12 半導体デバイス製造装置
20 アルコール精製装置
21 回収タンク
22 ポンプ
23 第1のイオン交換手段
24 脱水膜
25 第2のイオン交換手段
26 精密濾過膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール含有液に対してイオン交換処理を行う第1のイオン交換工程と、
前記第1のイオン交換工程で処理された液に対し脱水処理を行う工程と、
前記脱水処理された液に対してさらにイオン交換処理を行って精製アルコールを得る第2のイオン交換工程と、
を有するアルコールの精製方法。
【請求項2】
前記第2のイオン交換工程は、イオン吸着膜に通液する工程である、請求項1に記載のアルコールの精製方法。
【請求項3】
前記第1のイオン交換工程は、イオン交換樹脂に通液する工程である、請求項1または2に記載のアルコールの精製方法。
【請求項4】
前記イオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを混床としたイオン交換樹脂である、請求項3に記載のアルコールの精製方法。
【請求項5】
前記アルコール含有液は、イソプロピルアルコールを含む液であって、イソプロピルアルコールの精製を行う、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアルコールの精製方法。
【請求項6】
アルコール含有液に対してイオン交換処理を行う第1のイオン交換手段と、
前記第1のイオン交換手段で処理された液を浸透気化あるいは蒸気透過によって脱水する脱水膜と、
前記脱水膜により脱水された液に対してさらにイオン交換処理を行って精製アルコールを得る第2のイオン交換手段と、
を有するアルコール精製装置。
【請求項7】
前記第2のイオン交換手段はイオン吸着膜からなる、請求項6に記載のアルコール精製装置。
【請求項8】
前記第1のイオン交換手段はイオン交換樹脂からなる、請求項6または7に記載のアルコール精製装置。
【請求項9】
前記イオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを混床としたイオン交換樹脂である、請求項8に記載のアルコール精製装置。
【請求項10】
前記アルコール含有液は、イソプロピルアルコールを含む液であって、イソプロピルアルコールの精製を行う、請求項6乃至9のいずれか1項に記載のアルコール精製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−23442(P2013−23442A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156325(P2011−156325)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】