説明

アルコール代謝促進剤

【課題】胃粘膜の酵素で酸化される経路によるアルコール代謝を促進し、肝機能の亢進によるアルコールの代謝促進及び消化管からのアルコール吸収阻害のいずれでもないメカニズムの寄与を有する、新規なアルコール代謝促進剤を提供する。
【解決手段】α−ラクトアルブミン(ホエー蛋白質の約25重量%を占める分子量約1万4100の球状蛋白質)を有効成分として含有するアルコール代謝促進剤、α−ラクトアルブミンを有効成分として含有するアルデヒド脱水素酵素発現促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−ラクトアルブミンを有効成分として含有するアルコール代謝促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料の摂取は、適量であれば身体的、精神的に良い効果を奏し得るとも言われているが、アルコールには特有の嗜好性もあり、過度の摂取により、酩酊状態や、急性および慢性の中毒症状を呈する場合もある。
【0003】
このようなアルコールの摂取による好ましくない症状を予防または軽減するために、従来、アルコール摂取後の血中アルコール濃度上昇を抑える薬剤または飲食品が提案されている。例えば、ラクチュロース、マルチトール及びラクチトールからなる群より選択された1種以上を有効成分として含有するアルコール吸収抑制剤(特許文献1:特開2005−289933号公報)、グリセロールを有効成分とする血中アルコール濃度上昇阻害剤(特許文献2:特開平6−14751号公報)、オレアノール酸、プレセネゲニン、ヘデラゲニン、プロトエシゲニンをサポニゲンとする配糖体を少なくとも1種類を含有することを特徴とするアルコール吸収抑制剤(特許文献3:特開平7−53385号公報)、カフェインを有効成分とするアルコール吸収抑制剤(特許文献4:特開平8−277221号公報)、チクセツニンジンおよびキキョウから選ばれる生薬粉末またはエキス、および塩化カルニチンのいずれか1種以上を有効成分とするアルコール吸収抑制剤(特許文献5:特許第2891738号公報)、グリシル・グリシンを有効成分とするアルコール吸収抑制剤(特許文献6:特許第2905231号)が知られている。
【0004】
α−ラクトアルブミンは、ホエー蛋白質の約25%(重量。以下、特に断わりのない限り同じ。)を占める分子量約1万4100の球状蛋白質であり、乳糖合成に関与する蛋白質であることが知られている(非特許文献1:山内邦男、横山健吉編、「ミルク総合事典」、株式会社朝倉書店、第35ページ、1992年)。また、α−ラクトアルブミンは、ゲル化特性を有しており、卵白代替品、練製品等の他、マスキング効果、品質改良剤として食品に利用されていることが知られている(非特許文献2:「´94プロティン&ペプチドフーズの現状と将来展望」、株式会社シード・プランニング、第37ページ、1994年)。このα−ラクトアルブミンについては、α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する抗潰瘍剤(特許文献7:WO01/007077号)、α−ラクトアルブミンを有効成分として含有するムチン産生分泌促進剤(特許文献8:特開2002−255848号公報)、α−ラクトアルブミン、及びα−ラクトアルブミンの薬学的に許容される塩類からなる群より選択される1種又は2種以上の混合物を有効成分として含有する消化管運動調節剤(特許文献9:特開2004−231643号公報)等が知られている。
しかしながら、α−ラクトアルブミンが、アルコール代謝促進作用を有することは知られておらず、文献にも記載されていない。
【0005】
【特許文献1】特開2005−289933号公報
【特許文献2】特開平6−14751号公報
【特許文献3】特開平7−53385号公報
【特許文献4】特開平8−277221号公報
【特許文献5】特許第2891738号公報
【特許文献6】特許第2905231号公報
【特許文献7】WO01/007077号公報
【特許文献8】特開2002−255848号公報
【特許文献9】特開2004−231643号公報
【非特許文献1】山内邦男、横山健吉編、「ミルク総合事典」、株式会社朝倉書店、第35ページ、1992年
【非特許文献2】「´94プロティン&ペプチドフーズの現状と将来展望」、株式会社シード・プランニング、第37ページ、1994年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルコール摂取後の血中アルコール濃度上昇を抑えるために従来から提案されている上述のような薬剤及び飲食品は、肝機能を高めてアルコールの代謝促進を図ることによって血中アルコール濃度上昇を抑えようとするものと、消化管からのアルコールの吸収阻害を図ることによって血中アルコール濃度上昇を抑えようとするものとに、その役割を大別することができる。
【0007】
しかし、肝機能を高めて肝臓でのアルコール代謝促進を図る場合には、一般に摂取されるアルコール量と肝臓の代謝能力には大きな開きがあり、数時間から一晩かけて分解される現状を鑑みると、たとえ肝機能を高めても消化管から吸収され肝臓に運ばれたアルコールが瞬時に全量無毒化されることは期待できない。肝臓で分解されなかったアルコールは全身に回り、再び肝臓に戻って分解されるという循環が繰り返されるために、血液を介したアルコールの作用が全身に及ぶことになる。また、アルコール代謝産物であるアルデヒドも同様である。すなわち、この観点からは、消化管から血中へとアルコールが取り込まれないことが望ましい。
【0008】
これに対して、消化管からのアルコールの吸収阻害を図る場合には、消化管から血中へとアルコールが取り込まれることが阻害されるために、血液を介した全身へのアルコールの作用とアルデヒドの作用は低減されるが、消化管には未吸収のアルコールが残り、これらがいずれ代謝又は排出さるまでは消化管は未吸収のアルコールに曝されることになる。すなわち、消化管からの吸収を阻害された場合にも、未吸収のアルコールは活発に代謝されることが望ましい。
【0009】
従って、このような問題点を解決した、アルコール摂取後の血中アルコール濃度上昇を抑えるための新規なアルコール代謝促進剤が求められていた。
【0010】
すなわち、本発明の目的は、血中アルコール濃度上昇抑制効果、あるいは血中アルコール濃度低下促進効果を有する、新規なアルコール代謝促進剤を提供することにある。さらに本発明の目的は、肝機能の亢進によるアルコールの代謝促進及び消化管からのアルコール吸収阻害のいずれでもないメカニズムの寄与を有する、新規なアルコール代謝促進剤を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、経口摂取されたアルコールが、主として2つの経路で代謝されることに着目した。経路の1つは体内に吸収される前に胃粘膜の酵素で酸化される経路であり、もう1つは胃粘膜および小腸から吸収されて主に肝臓で酸化される経路である。そして、胃粘膜の酵素で酸化される経路によるアルコール代謝を促進することができれば、肝機能の亢進によるアルコールの代謝促進及び消化管からのアルコール吸収阻害のいずれでもないメカニズムの寄与を有する、新規なアルコール代謝促進剤を提供することができるとの着想を得た。
【0012】
この着想に基づいて、そのような作用を有する物質の探索研究を鋭意続けてきたところ、α−ラクトアルブミンが胃粘膜の酵素で酸化される経路によるアルコール代謝を促進する特性を有することを発見した。このアルコール代謝促進は、胃粘膜におけるアルデヒド脱水素酵素発現促進に基づいて行われるものであった。本発明は、これらの発見に基づいて完成されたものである。
【0013】
従って、本発明は以下の[1]及び[2]にある。
[1] α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する、アルコール代謝促進剤。
[2]α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する、アルデヒド脱水素酵素発現促進剤。
また、本発明は以下の[3]〜[8]にもある。
[3] [1]のアルコール代謝促進剤を含有してなる、血中アルコール濃度上昇抑制剤。
[4] [1]のアルコール代謝促進剤を含有してなる、血中アルコール濃度低下促進剤。
[5] [1]のアルコール代謝促進剤を含有してなる、血液中へのアルコール吸収抑制剤。
[6] [1]のアルコール代謝促進剤を含有してなる、胃粘膜におけるアルコール代謝促進剤。
[7] [2]のアルデヒド脱水素酵素発現促進剤を含有してなる、胃粘膜におけるアルデヒド脱水素酵素発現促進剤。
[8] [2]のアルデヒド脱水素酵素発現促進剤を含有してなる胃粘膜におけるアルコール代謝促進剤。
【0014】
すなわち、本発明のアルコール代謝促進剤は、その好適な態様において、血中アルコール濃度上昇抑制剤、血中アルコール濃度低下促進剤、血中へのアルコール吸収抑制剤、及び/又は胃粘膜におけるアルコール代謝促進剤として、使用することができる。また、本発明のアルデヒド脱水素酵素発現促進剤は、その好適な態様において、胃粘膜におけるアルデヒド脱水素酵素発現促進剤、及び/又は胃粘膜におけるアルコール代謝促進剤として、使用することができる。
【0015】
これらの本発明に係る、血中アルコール濃度上昇抑制剤、血中アルコール濃度低下促進剤、血液中へのアルコール吸収抑制剤、アルコール代謝促進剤、胃粘膜におけるアルコール代謝促進剤、アルデヒド脱水素酵素発現促進剤、及び胃粘膜におけるアルデヒド脱水素酵素発現促進剤をまとめて、本発明に係るアルコール代謝促進剤等(又はアルコール代謝促進剤等)という。また、本発明によるこのような、血中アルコール濃度上昇抑制、血中アルコール濃度低下促進、血液中へのアルコール吸収抑制、アルコール代謝促進、胃粘膜におけるアルコール代謝促進、アルデヒド脱水素酵素発現促進、及び胃粘膜におけるアルデヒド脱水素酵素発現促進の作用をまとめて、本発明に係るアルコール代謝促進等(又はアルコール代謝促進等)の作用という。
【0016】
さらに、本発明は以下の[9]〜[16]にもある。
[9] 有効成分としてのα−ラクトアルブミン、及び薬学的に許容される担体を含有してなる、アルコール代謝促進剤。
[10] α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する、アルコール代謝促進のための飲食品。
[11] 飲食品が健康食品、機能性食品、特別用途食品、栄養機能食品、又は特定保健用食品の形態である[10]に記載の飲食品。
[12] アルコール代謝促進剤を製造するためのα−ラクトアルブミンの使用。
[13] アルコール代謝促進のための飲食品を製造するためのα−ラクトアルブミンの使用。
[14] α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する、アルコール代謝促進のための食品添加剤。
[15] α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する、アルコール代謝促進のための飼料。
[16] 有効成分としてのα−ラクトアルブミン、及び薬学的に許容される担体を含有してなるアルコール代謝促進剤を投与することにより、ほ乳類のアルコール代謝促進を行う方法。
【0017】
さらに、本発明は以下の[17]〜[24]にもある。
[17] 有効成分としてのα−ラクトアルブミン、及び薬学的に許容される担体を含有してなる、アルデヒド脱水素酵素発現促進剤。
[18] α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する、アルデヒド脱水素酵素発現促進のための飲食品。
[19] 飲食品が健康食品、機能性食品、特別用途食品、栄養機能食品、又は特定保健用食品の形態である[18]に記載の飲食品。
[20] アルデヒド脱水素酵素発現促進剤を製造するためのα−ラクトアルブミンの使用。
[21] アルデヒド脱水素酵素発現促進のための飲食品を製造するためのα−ラクトアルブミンの使用。
[22] α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する、アルデヒド脱水素酵素発現促進のための食品添加剤。
[23] α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する、アルデヒド脱水素酵素発現促進のための飼料。
[24] 有効成分としてのα−ラクトアルブミン、及び薬学的に許容される担体を含有してなるアルデヒド脱水素酵素発現促進剤を投与することにより、ほ乳類の血中アルコール濃度低下促進を行う方法。
【0018】
さらに、本発明は、以下の[25]〜[32]にもある。
[25] 有効成分としてのα−ラクトアルブミン、及び薬学的に許容される担体を含有してなる、アルコール代謝促進剤等。
[26] α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する、アルコール代謝促進等のための飲食品。
[27] 飲食品が健康食品、機能性食品、特別用途食品、栄養機能食品、又は特定保健用食品の形態である[26]に記載の飲食品。
[28] アルコール代謝促進剤等を製造するためのα−ラクトアルブミンの使用。
[29] アルコール代謝促進等のための飲食品を製造するためのα−ラクトアルブミンの使用。
[30] α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する、アルコール代謝促進等のための食品添加剤。
[31] α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する、アルコール代謝促進等のための飼料。
[32] 有効成分としてのα−ラクトアルブミン、及び薬学的に許容される担体を含有してなるアルコール代謝促進剤等を投与することにより、ほ乳類のアルコール代謝促進等を行う方法。
【0019】
上記のα−ラクトアルブミンは、天然物から単離されたα−ラクトアルブミンを使用することができ、また人工的に合成されたα−ラクトアルブミンを使用することもできる。好ましくは天然物から単離されたα−ラクトアルブミンが使用される。また、α−ラクトアルブミンとして、α−ラクトアルブミン、α−ラクトアルブミンの薬学的に許容される溶媒和物、及びα−ラクトアルブミンの薬学的に許容される塩類からなる群より選択される1種又は2種以上の混合物を、使用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、新規なアルコール代謝促進剤を提供する。本発明のアルコール代謝促進剤は、肝機能の亢進によるアルコールの代謝促進及び消化管からのアルコール吸収阻害のいずれでもないメカニズムの寄与を有するものである。すなわち、胃粘膜の酵素で酸化される経路によるアルコール代謝を促進するメカニズムの寄与を有するものである。
【0021】
従って、本発明によるアルコール代謝促進では、単に肝機能を高めて肝臓でのアルコール代謝促進を図る場合とは異なって、アルコールが消化管から血中へと取り込まれる以前に代謝されるように促進されるために、肝臓への負荷を軽減するものであると同時に、血液を介したアルコールの作用が全身に及ぶことを低減することができる。アルコールの代謝産物であるアルデヒドについても同様に、その作用が全身に及ぶことを低減することができる。
【0022】
さらに、本発明によるアルコール代謝促進では、単に消化管からのアルコールの吸収阻害を図る場合とは異なって、未吸収のアルコールの代謝が促進されるために、消化管に未吸収のアルコールが残ったままとなって、消化管が未吸収のアルコールに曝され続けることを低減することができる。
【0023】
さらに、本発明によるアルコール代謝促進は、胃粘膜におけるアルデヒド脱水素酵素発現促進に基づいて行われるために、胃粘膜におけるアルデヒド脱水素酵素の作用の亢進によって、毒性成分とされるアルデヒドが血中に移行することなく分解促進され、いわゆる悪酔い等の飲酒の悪い作用をさらに低減することが可能になる。
【0024】
さらに、本発明によるアルコール代謝促進は、上述したように独特のメカニズムの寄与を有するものであるために、肝機能を高めて肝臓でのアルコール代謝促進を図る代謝促進剤の有効成分及び/又は消化管からのアルコールの吸収阻害を図る吸収阻害剤の有効成分と組みあわせることによって、より強力な効果を期待できるものである。
【0025】
本発明に係るアルコール代謝促進剤等は、α−ラクトアルブミンを有効成分として含有してなるものである。このために、本発明に係るアルコール代謝促進剤等は、ヒトおよび動物に対する安全性が高く、副作用の心配なく長期間に渡って継続して日常的に摂取することができる。さらに、本発明の有効成分であるα−ラクトアルブミンは、耐熱性があり、水溶性であり、水溶液中でも安定であるために、本発明に係るアルコール代謝促進剤等は、薬剤や飲食品として安定である。さらに、本発明に係るアルコール代謝促進剤等は、経口投与が可能であるために、簡便で汎用性が高い。さらに、本発明に係るアルコール代謝促進剤等は、生体材料として比較的安価な乳およびホエー等の原料から安定して大量に製造することができる。さらに、本発明の有効成分であるα−ラクトアルブミンは、従来から知られている生薬やアミノ酸等と比較して、風味が良好であるために、嗜好品とともに好適に経口摂取可能なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0027】
本発明に係るアルコール代謝促進剤等は、有効成分としてのα−ラクトアルブミンと、薬学的に許容される担体とを含有させて、公知の方法によって製剤化することにより製造することができる。製剤化においては、薬学的に許容される賦形剤、その他任意の添加剤を使用することができる。この製剤化について、以下にさらに詳細に説明する。
【0028】
本発明に係るアルコール代謝促進剤等における有効成分として用いられるα−ラクトアルブミンは、ヒト又は哺乳動物由来に由来するものを好適に使用可能である。これらのα−ラクトアルブミンのアミノ酸配列としては、ヨーロピアン・モレキュラー・バイオロジー・ラボラトリー(EMBL)のデーターベースに登録されたEMBL-Accession No. P00709(ヒト由来α−ラクトアルブミン)、EMBL-Accession No. P00711(ウシ由来α−ラクトアルブミン)等に記載されたアミノ酸配列を例示することができる。
【0029】
本発明に使用されるα−ラクトアルブミンは、ほ乳類の乳に由来するものを好適に使用可能である。ヒトのための医薬組成物、飲食品に使用する場合には、その乳が伝統的に飲食用に用いられている牛、羊、山羊などの乳に由来するα−ラクトアルブミンが好ましく、特に牛乳由来のものが好ましい。これらは歴史的な年月の間、ヒトの飲食に使用されていたために、ヒトに対する安全性が極めて高い水準で担保されているからである。また、牛乳由来のホエーは、乳製品製造の副産物として安定して大量に得ることができるために、本発明に使用するα−ラクトアルブミンの原料として、特に好適である。
【0030】
哺乳類の乳由来のα−ラクトアルブミンは、常法(例えば、祐川金次郎著、「最新改稿乳業技術便覧」、酪農技術普及協会、第120〜122ページ、1975年)の硫酸アンモニウム沈殿法により製造することができるが、その他に、塩化鉄法[ジャーナル・オブ・フード・サイエンス(Journal of Food Science)、第50巻、第1531〜1536ページ、1985年]、限外濾過法(特開平5−268879号公報)、イオン交換法(特許第2916047号公報)等により製造することもできる。また、より簡便には、市販のα−ラクトアルブミン(例えば、シグマ社、又はダビスコフーズ社製等。)を使用することができる。さらに、遺伝子操作によって微生物、動物細胞、トランスジェニック動物等が生産する組換えα−ラクトアルブミンを使用してもよい。
【0031】
また、本発明において、前記の化学的又は遺伝子工学的方法により得られたα−ラクトアルブミンの薬学的に許容される塩類も使用することが可能であり、酸付加塩、カルボン酸塩等を例示することができる。前記の化学的又は遺伝子工学的方法により、得られたα−ラクトアルブミンの薬学的に許容される溶媒和物を使用することもできる。α−ラクトアルブミン、α−ラクトアルブミンの薬学的に許容される溶媒和物、及びα−ラクトアルブミンの薬学的に許容される塩類は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明に係るアルコール代謝促進剤等の有効成分として、α−ラクトアルブミンを加水分解酵素で加水分解することによって得られるα−ラクトアルブミン加水分解物を用いることができる。本明細書におけるα−ラクトアルブミン加水分解物には、α−ラクトアルブミン加水分解物由来のペプチドも含まれる。
【0033】
α−ラクトアルブミン加水分解物と、上述のα−ラクトアルブミンα−ラクトアルブミンの薬学的に許容される溶媒和物、及び/またはα−ラクトアルブミンの薬学的に許容される塩類とを併用してもよい。
【0034】
α−ラクトアルブミン加水分解物は、例えば後記する方法によって製造することが可能である。以下、具体的にα−ラクトアルブミンを加水分解酵素で加水分解する方法を説明する。
【0035】
まず、α−ラクトアルブミンを水又は温湯に分散し、溶解する。原料のα−ラクトアルブミンは、好ましくはヒト又は哺乳動物由来のα−ラクトアルブミンが用いられ、上記に挙げたものを好適に用いることができる。
【0036】
こうして得られるα−ラクトアルブミン溶液の濃度は格別の制限はないが、通常、蛋白質換算で5〜15%前後の濃度範囲にするのが効率性及び操作性の点から望ましい。また、該α−ラクトアルブミン溶液を70〜90℃で10分間〜15秒間程度加熱殺菌することが、雑菌汚染による変敗防止の点から望ましい。
【0037】
次いで、前記α−ラクトアルブミン溶液にアルカリ剤又は酸剤を添加し、該溶液のpHを、使用する加水分解酵素の至適pH又はその付近に調整することが好ましい。ここで使用するアルカリ剤又は酸剤は、食品又は医薬品に許容されるものであれば如何なるアルカリ剤又は酸剤であってもよい。具体的には、アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等を、酸剤としては、塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸等を例示することができる。
【0038】
次いで、前記α−ラクトアルブミン溶液に加水分解酵素溶液を添加する。加水分解酵素は蛋白質を加水分解する酵素であれば特に制限されず、動物由来(例えば、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン、パンクレアチン等)、植物由来(例えば、パパイン等)、又は微生物由来(例えば、乳酸菌、酵母、カビ、枯草菌、放線菌等)のプロテアーゼ又はペプチダーゼなどを例示することができ、エンドペプチダーゼであることが好ましい。中でも、豚由来のペプシンを使用することが好ましい。加水分解酵素は1種でもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の酵素を用いる場合は、それぞれの酵素反応は同時に行ってもよく、別々に行ってもよい。
【0039】
そして、加水分解酵素を添加した溶液を、酵素の種類に応じて適当な温度、例えば30〜60℃、望ましくは45〜55℃に保持してα−ラクトアルブミンの加水分解を開始する。加水分解反応時間は、酵素反応の分解率をモニターしながら、好ましい分解率に達する時間とする。本発明においては、該分解率が6〜80%が好ましく、中でも10〜70%が特に好ましい。α−ラクトアルブミンの加水分解物がアルコール代謝促進等の作用を発揮するためには、少なくとも分解率が上記範囲の上限値以下であることが好ましい。該上限値を超えると、α−ラクトアルブミン加水分解物を飲食物に添加させて摂取する場合に、風味の低下を引き起こすおそれがある。また上記範囲の下限値より低い場合は、分解が殆ど進んでいない状態にあるが、一定の条件でかかる状態の分解を行うことは実質的に困難であると考えられるので、分解率は6%以上であることが好ましい。
【0040】
本明細書における蛋白質(ここではα−ラクトアルブミン)の分解率の算出方法は、ケルダール法(日本食品工業学会編、「食品分析法」、第102頁、株式会社光琳、昭和59年)により試料の全窒素量を測定し、ホルモール滴定法(満田他編、「食品工学実験書」、上巻、第547ページ、養賢堂、1970年)により試料のホルモール態窒素量を測定し、これらの測定値から分解率を次式により算出する方法である。
分解率(%)=(ホルモール態窒素量/全窒素量)×100
【0041】
酵素反応の停止は、加水分解液中の酵素の失活により行われ、常法による加熱失活処理により実施することができる。加熱失活処理の加熱温度と保持時間は、使用した酵素の熱安定性を考慮し、十分に失活できる条件を適宜設定する。例えば、80〜130℃の温度範囲で30分間〜2秒間の保持時間で行うことができる。
【0042】
そして酵素反応の停止後に得られる反応液のpHを、酸やアルカリの添加により中性付近に調整することが好ましい。
【0043】
このようにして得られるα−ラクトアルブミン加水分解物を含有する溶液は、そのまま使用することも可能であり、また、必要に応じて、この溶液を公知の方法により濃縮した濃縮液として使用することもでき、更には、この濃縮液を公知の方法により乾燥した粉末として使用することもできる。
【0044】
本発明に係るアルコール代謝促進剤等の投与形態は、アルコールの摂取前、又はアルコールの摂取時、摂取後のいずれであっても投与することができる。本発明による作用のメカニズムを考慮した場合、胃粘膜への到達が容易であって簡便な投与形態である経口投与が最も好適な投与形態である。しかし、経口投与に限らずに、経腸投与等の非経口投与等の各種形態を適用することも可能である。尚、アルコール摂取前、特に30分前〜1時間前に、本発明のアルコール代謝促進剤等を投与すれば、アルコール摂取後の血中アルコール濃度の上昇を初期段階から効果的に抑制することが可能であり、本発明によるアルコール代謝促進等の効果を最大限享受することができる。
【0045】
また、本発明のアルコール代謝促進剤等は、有効量を一度に投与しても良く、間隔を置いて数回に分けて投与することもできる。数回に分けて投与する場合は、一日の合計量が有効量となればよい。
【0046】
本発明のアルコール代謝促進剤等におけるα−ラクトアルブミンの含有量(有効量)は、一日に投与されるアルコール代謝促進剤等に含まれているα−ラクトアルブミンの合計量が、100mg以上、好ましくは500mg以上となるように調製されることが好ましい。また、日常の飲食品に本発明のアルコール代謝促進剤等を添加して摂取する形態を想定した場合、本発明のアルコール代謝促進剤等に含まれるα−ラクトアルブミンの含有量(有効量)は、日常の飲食品に含まれるα−ラクトアルブミンの含有量を考慮して適宜設定することができ、この場合、少なくとも10mg以上となるように調製することが好ましい。
【0047】
経口投与に適用されるアルコール代謝促進剤等(特に、経口アルコール代謝促進剤等と記載することがある)の例としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等が挙げられる。また、固体状に限らず、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤等の各種液剤とすることもできる。
【0048】
非経口投与に適用されるアルコール代謝促進剤等(特に、非経口アルコール代謝促進剤等と記載することがある)の例としては、注射剤、坐剤等が挙げられる。
【0049】
経口アルコール代謝促進剤等の場合、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等の賦形剤を用いて常法に従って製造することができる。また前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、矯臭剤、着色剤、香料等を含有させることができる。
【0050】
具体的には、結合剤として、デンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が例示される。
【0051】
崩壊剤としては、デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等が例示される。
【0052】
界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80等が例示される。
【0053】
滑沢剤としては、タルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等が例示される。
【0054】
流動性促進剤としては、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が例示される。
【0055】
本発明によるアルコール代謝促進等の作用は、上述したような製剤化を経て、医薬組成物として製造されたアルコール代謝促進剤等によって発揮されるのみならず、有効成分としてα−ラクトアルブミンを含有した、アルコール代謝促進等のための飲食品、食品添加剤及び飼料によっても発揮されるものである。上述したような製剤化によって、アルコール代謝促進等のための飲食品、食品添加剤及び飼料を製造することも可能である。しかし、飲食品、食品添加剤及び飼料の態様とする場合には、以下の説明のように製造することが好ましい。
【0056】
本発明のアルコール代謝促進等のための飲食品は、各種飲食品を製造する際に、α−ラクトアルブミンを含有させることによって製造することができる。α−ラクトアルブミンとしては、上述したアルコール代謝促進剤等の製造に用いられるα−ラクトアルブミンと同様のものを用いることができる。
【0057】
本発明のアルコール代謝促進等のための飲食品の摂取形態は、アルコールの摂取前、又はアルコールの摂取時、摂取後のいずれであっても摂取することができる。尚、アルコール摂取前、特に30分前〜1時間前に、本発明のアルコール代謝促進等のための飲食品を摂取すれば、アルコール摂取後の血中アルコール濃度の上昇を初期段階から効果的に抑制することが可能であり、本発明によるアルコール代謝促進等の効果を最大限享受することができる。
【0058】
また、本発明のアルコール代謝促進等のための飲食品は、有効量を一度に摂取しても良く、間隔を置いて数回に分けて摂取することもできる。数回に分けて摂取する場合は、一日の合計量が有効量となればよい。
【0059】
本発明のアルコール代謝促進等のための飲食品におけるα−ラクトアルブミンの含有量(有効量)は、一日に投与されるアルコール代謝促進等のための飲食品に含まれているα−ラクトアルブミンの合計量が、100mg以上、好ましくは500mg以上となるように調製されることが好ましい。また、日常の飲食品とともに摂取する形態を想定した場合、本発明のアルコール代謝促進等のための飲食品に含まれるα−ラクトアルブミンの含有量(有効量)は、日常の飲食品に含まれるα−ラクトアルブミンの含有量を考慮して適宜設定すればよく、この場合、少なくとも10mg以上となるように調製されることが好ましい。
【0060】
本発明のアルコール代謝促進等のための飲食品には、有効成分である前記α−ラクトアルブミンの他に、例えば、ラクチュロース、マルチトール、及びラクチトール等のアルコール吸収抑制性の糖類、およびそれ以外の糖類、例えばデキストリン、デンプン等;ゼラチン、大豆タンパク、トウモロコシタンパク等のタンパク質;アラニン、グルタミン、イソロイシン等のアミノ酸類;セルロース、アラビアゴム等の多糖類;大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂類等を含有させることができる。
【0061】
アルコール代謝促進等のための飲食品の具体例としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸菌飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調製用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;惣菜、パン類;経腸栄養食品、特定保健用食品、健康補助食品等の機能性食品等が挙げられる。
【0062】
機能性食品の形態としては、顆粒状、タブレット状又は液状のサプリメントであることが、有効成分の摂取量を把握し易いという点で好ましい。
【0063】
本発明のアルコール代謝促進等のための飲食品は、アルコール代謝促進用、血中アルコール濃度上昇抑制用、血中アルコール濃度低下促進用、血液中へのアルコール吸収抑制用、又は胃粘膜におけるアルコール代謝促進用といった用途が表示された飲食品、例えば、「アルコール代謝促進用と表示された、α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する飲食品」として販売することが好ましい。
【0064】
前記「表示」の行為(表示行為)には、需要者に対して上記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、上記用途を想起・類推させうるような表示であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、すべて本発明の「表示」の行為に該当する。しかしながら、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により表示することが好ましい。具体的には、本発明の飲食品に係る商品又は商品の包装に上記用途を記載する行為を表示行為として挙げることができ、さらに商品又は商品の包装に上記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為、等を例示できる。
【0065】
一方、表示される内容(表示内容)としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示)であることが好ましく、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【0066】
また、例えば、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、医薬用部外品等としての表示を例示することができる。特に、厚生労働省によって認可される表示、例えば、特定保健用食品制度、これに類似する制度にて認可される表示を例示できる。後者の例としては、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク低減表示等を例示することができ、詳細にいえば、健康増進法施行規則(平成15年4月30日日本国厚生労働省令第86号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)、及びこれに類する表示が、典型的な例として列挙することが可能である。
【0067】
以上のような用途の表示を行うために使用する文言は、「アルコール代謝促進用」、「血中アルコール濃度上昇抑制用」、「血中アルコール濃度低下促進用」、「血液中へのアルコール吸収抑制用」、又は「胃粘膜におけるアルコール代謝促進用」という文言に限られるものでなく、それ以外の文言であっても、上記のアルコール代謝促進等の効果を表現する文言であれば、本発明の範囲に包含されることは言うまでもない。
【0068】
本発明のアルコール代謝促進等のための食品添加剤は、各種食品添加剤を製造する際に、α−ラクトアルブミンを含有させることによって製造することができる。α−ラクトアルブミンとしては、上述したアルコール代謝促進剤等の製造に用いられるα−ラクトアルブミンと同様のものを用いることができる。
【0069】
食品添加剤には、有効成分としてのα−ラクトアルブミンの他に、通常使用される賦形剤等の添加剤を所望により含有させることができる。また、食品添加剤として公知の他の成分を所望により含有させることもできる。食品添加剤の形態には特に制限はなく、粉末、顆粒、タブレット、液体等、食品添加剤の通常の形態をとることができる。
【0070】
本発明のアルコール代謝促進等のための食品添加剤は、アルコール代謝促進等のための飲食品を製造するために添加することができる。従って、有効成分としてのα−ラクトアルブミンを含み、且つアルコール代謝促進等のための飲食品を製造するために添加することができるものであれば、本発明のアルコール代謝促進等のための食品添加剤の範囲に含有されるものである。
【0071】
尚、本発明のアルコール代謝促進等のための飼料は、アルコール代謝促進用、血中アルコール濃度上昇抑制用、血中アルコール濃度低下促進用、血液中へのアルコール吸収抑制用、又は胃粘膜におけるアルコール代謝促進用といった用途が表示された飼料、例えば、「アルコール代謝促進用と表示された、α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する飼料」として販売することが好ましい。
【0072】
表示の行為については、飲食品について上述した通りである。以上のような用途の表示を行うために使用する文言は、「アルコール代謝促進用」、「血中アルコール濃度上昇抑制用」、「血中アルコール濃度低下促進用」、「血液中へのアルコール吸収抑制用」、又は「胃粘膜におけるアルコール代謝促進用」という文言に限られるものでなく、それ以外の文言であっても、上記のアルコール代謝促進等の効果を表現する文言であれば、本発明の範囲に包含されることは言うまでもない。
【0073】
本発明のアルコール代謝促進等のための飼料は、各種飼料を製造する際に、有効成分としてα−ラクトアルブミンを含有させることによって製造することができる。α−ラクトアルブミンとしては、上述したアルコール代謝促進剤等の製造に用いられるα−ラクトアルブミンと同様のものを用いることができる。
【0074】
本発明の飼料には、本発明にかかる有効成分の他に、例えば、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦、マイロ等の穀類;大豆油粕、ナタネ油粕、ヤシ油粕、アマニ油粕等の植物性油粕類;フスマ、麦糠、米糠、脱脂米糠等の糠類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の製造粕類;魚粉、脱脂粉乳、ホエー、イエローグリース、タロー等の動物性飼料類;トラル酵母、ビール酵母等の酵母類;第三リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の鉱物質飼料;油脂類;単体アミノ酸;糖類等を含有させることができる。飼料の具体例としては、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が挙げられる。
【0075】
飼料の形態には特に制限はないが、顆粒状、タブレット状又は液状のサプリメントであることが、有効成分の摂取量を把握し易いという点で好ましい。
【0076】
尚、本発明のアルコール代謝促進等のための飼料は、アルコール代謝促進用、血中アルコール濃度上昇抑制用、血中アルコール濃度低下促進用、血液中へのアルコール吸収抑制用、又は胃粘膜におけるアルコール代謝促進用といった用途が表示された飼料、例えば、「アルコール代謝促進用と表示された、α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する飼料」として販売することが好ましい。
【0077】
表示の行為については、飲食品について上述した通りである。以上のような用途の表示を行うために使用する文言は、「アルコール代謝促進用」、「血中アルコール濃度上昇抑制用」、「血中アルコール濃度低下促進用」、「血液中へのアルコール吸収抑制用」、又は「胃粘膜におけるアルコール代謝促進用」という文言に限られるものでなく、それ以外の文言であっても、上記のアルコール代謝促進等の効果を表現する文言であれば、本発明の範囲に包含されることは言うまでもない。
【0078】
本発明のアルコール代謝促進剤等、並びにアルコール代謝促進等のための飲食品、食品添加剤及び飼料は、飲用アルコールの摂取前に投与または摂取しておくことにより、アルコール摂取後において、血中アルコール濃度の上昇を効果的に抑制することができ、血中アルコール濃度の低下を効果的に促進することができる。これはアルコール代謝の促進、特に胃粘膜におけるアルコール代謝の促進がなされたためと考えられ、結果として消化管からの血液中へのアルコール吸収の抑制もまた生じている。このアルコール代謝の促進はさらに、有効成分であるα−ラクトアルブミンによって、アルデヒド脱水素酵素発現の促進、特に胃粘膜におけるアルデヒド脱水素酵素発現の促進がなされたためと考えられる。したがって、本発明のアルコール代謝促進剤等、並びにアルコール代謝促進等のための飲食品、食品添加剤及び飼料は、アルコールの摂取による酩酊の予防、酔い覚まし促進、アルコール中毒の予防等に有効である。
【0079】
本発明によるアルコール代謝促進は、上述したように有効成分であるα−ラクトアルブミンによって、胃粘膜におけるアルコール代謝の促進等の作用を示すという独特のメカニズムの寄与を有するものである。従って、有効成分であるα−ラクトアルブミンに加えて、従来から知られているような、肝機能を高めて肝臓でのアルコール代謝促進を図る代謝促進剤の有効成分、及び/又は消化管からのアルコールの吸収阻害を図る吸収阻害剤の有効成分と組みあわせることによって、より強力な効果を期待できるものである。すなわち、本発明のアルコール代謝促進剤等、並びにアルコール代謝促進等のための飲食品、食品添加剤及び飼料は、有効成分であるα−ラクトアルブミンの他に、肝機能を高めて肝臓でのアルコール代謝促進を図る公知のアルコール代謝促進剤の有効成分、及び/又は消化管からのアルコールの吸収阻害を図る公知のアルコール吸収阻害剤の有効成分を、所望により含有させることができる。これによって、より強力な効果を有する、アルコール代謝促進剤等、並びにアルコール代謝促進等のための飲食品、食品添加剤及び飼料とすることができる。
【0080】
このような目的で、α−ラクトアルブミンの他に添加可能な公知の有効成分としては、例えば、特許文献1:特開2005−289933号公報、特許文献2:特開平6−14751号公報、特許文献3:特開平7−53385号公報、特許文献4:特開平8−277221号公報、特許文献5:特許第2891738号公報、及び特許文献6:特許第2905231号等に開示された成分を挙げることができ、具体的には、ラクチュロース、マルチトール及びラクチトールからなる群より選択された1種以上、オレアノール酸、プレセネゲニン、ヘデラゲニン、プロトエシゲニンをサポニゲンとする配糖体の1種類以上、カフェイン、チクセツニンジンおよびキキョウから選ばれる生薬粉末またはエキス、および塩化カルニチンのいずれか1種以上、及びグリシル・グリシン等を挙げることができる。
【0081】
実施例
以下に試験例及び実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の試験例及び実施例に限定されるものではない。
【0082】
[試験例1]
[方法]
24時間絶食、更に被験物質投与開始3時間前には給水を停止した11週齢Wistarラットに、試験物質を経口投与、30分後に100mM塩酸で胃液とpHをそろえた60%エタノールを5mL/kg経口投与した。さらに60分後胃全体を摘出し、胃組織をRNA-Bee(TEL-TEST社)により溶解変性させた。溶解物からトータルRNAを抽出し、RNeasy(QUIAGEN社)により精製した。DNAチップはAffymetrix社製ラットゲノムアレイ2.0を使用した。精製RNA5μgからアフィメトリックス社のキットを使用してcRNAを作成し、DNAチップと45℃で16時間反応させた。反応後洗浄を行い、スキャナーで読み取りを行った。得られたデータはGene spring 7(Silicon Genetics社)による解析を行い、アルデヒド脱水素酵素1a4及び2の遺伝子発現を調べた。
試験物質は水、α−LA(α−ラクトアルブミン)(ダビスコフーズ社製)、OVA(卵白アルブミン)(シグマ社製)とした。水の投与量は5mL/kg、α-LAおよびOVAの投与量はラット体重当り500mg/kgとした。各群3匹で行い、各個体の相対的な遺伝子発現を比較した。
【0083】
[結果]
図1及び図2に試験結果のグラフを示す。アルデヒド脱水素酵素1a4の発現(図1)、アルデヒド脱水素酵素2の発現(図2)はいずれも、α−LA(α−ラクトアルブミン)が前投与された群が最も高く、次にOVA(卵白アルブミン)が前投与された群であり、水が前投与された群では最も低かった。
すなわち、アルコールを投与したラット胃組織のジーンチップ解析の結果、α−LA(α−ラクトアルブミン)の投与によって、アルデヒド脱水素酵素遺伝子の発現が促進されることがわかった。これはラット胃組織でのアルコール代謝の促進が生じていることを示すものである。
【0084】
[試験例2]
[方法]
24時間絶食、更に被験物質投与開始3時間前には給水を停止した11週齢Wistarラットに、試験物質を経口投与、30分後に100mM塩酸で胃液とpHをそろえた60%エタノールを5mL/kg経口投与した。エタノール投与から15〜240分後に経時的に採血し、血中エタノール濃度を測定した。
試験物質として、水及びα−LAを投与し、その投与量は水5mL/kg、α−LAラット体重当り200mg/kgとした。
【0085】
[結果]
図3に試験結果のグラフを示す。図3から、水投与群に比較して、α−LA投与群では、血中エタノール濃度が低いことが確認された。
すなわち、アルコールを投与したラットでの実験の結果、α−LA(α−ラクトアルブミン)の投与によって、血中アルコール濃度の上昇が抑制されることがわかった。これはラットにおいてアルコール代謝の促進が生じていることを示すものである。
【0086】
[試験例3]
[方法]
健康な男性24人を8人ずつ3グループに分けた。グループ1は水、グループ2はα-LA0.5gを含む水溶液、グループ3にはα-LA5gを含む水溶液を100mL摂取させた。その30分後にウィスキー60mLを飲ませ、1時間毎に経時的に採血し、血中アルコール濃度を測定した。
【0087】
[結果]
図4に試験結果のグラフを示す。表1は図4のグラフの元となる試験数値を示す表であり、α−LA摂取によるヒトの血中エタノール濃度の低下促進を示す数値データの表である。図4のグラフから、α−LA摂取群では、水摂取群と比較して、速やかな血中アルコール濃度の低下が認められた。また、α-LA5g摂取群は、α−LA0.5g摂取群よりもこの血中アルコール濃度の低下はより速やかであった。
すなわち、アルコールを投与したヒトでの実験の結果、α−LA(α−ラクトアルブミン)の投与によって、血中アルコール濃度の低下が促進されることがわかった。これはヒトにおいてアルコール代謝の促進が生じていることを示すものである。
【0088】
【表1】

【0089】
血中アルコール濃度は消化管からの吸収量と肝臓における処理量の双方を反映する値である。高い血中アルコール濃度が維持される場合は、アルコールの消化管からの吸収量が肝臓における処理量を上回っていると解釈でき、血中アルコール濃度が速やかに低下することは、アルコールの消化管からの吸収量が肝臓における処理量を下回っていると解釈できる。
【0090】
すなわち、試験例1〜3の結果は、α−LA摂取により胃粘膜におけるアルコール代謝が促進された結果、消化管から血中へ吸収されるアルコールが減少し、血中アルコール濃度の上昇が抑制され、また血中アルコール濃度の減少が促進されたものと理解される。
【実施例1】
【0091】
1000ml容量の乳鉢(中島製作所社製)に結晶セルロース(和光純薬工業社製)20gを採取し、水20mlを添加して混和し、次いで予め48メッシュのふるい(和科盛社製)で篩い分けした乳糖(メグレ社製)25gを添加し、α−ラクトアルブミン(ダビスコフーズ社製)55gを添加し、混和した。得られた湿塊をステンレス製20メッシュふるい(和科盛社製)上に取り、乾燥用ステンレス板の上に手で押し出して顆粒を形成し、手早く均等に分布させ、乾燥機に入れ、25℃で2日間乾燥し、微細な顆粒とした。該顆粒を、ポリエチレン製20メッシュふるい(和科盛社製)で篩い分けし、ふるいを通過した顆粒を広い紙上に広げ、予め48メッシュで篩い分けしたステアリン酸マグネシウム(関東化学社製)2gを添加し、手で混ぜて均質にした。これを打錠機(木村製作所社製、KT−2型)により、直径11mmのR杵を使用して打錠数を10、錠剤重量0.5g、及びモンサント硬度9.5〜11.5kgの条件で圧縮圧力を設定して、打錠し、α−ラクトアルブミン約50%を含有する錠剤180個を得た。これはアルコール代謝を促進する作用を有するものであった。
【実施例2】
【0092】
ホエー蛋白酵素分解物(森永乳業社製)10.8kg、デキストリン(昭和産業社製)36kg、及び少量の水溶性ビタミンとミネラルを水200kgに溶解し、水相をタンク内に調製した。これとは別に、大豆サラダ油(太陽油脂社製)3kg、パーム油(太陽油脂社製)8.5kg、サフラワー油(太陽油脂社製)2.5kg、レシチン(味の素社製)0.2kg、脂肪酸モノグリセリド(花王社製)0.2kg、及び少量の脂溶性ビタミンを混合溶解し、油相を調製した。タンク内の水相に油相を添加し、攪拌して混合した後、70℃に加温し、更に、ホモゲナイザーにより14.7MPaの圧力で均質化した。次いで、90℃で10分間殺菌した後、濃縮し、噴霧乾燥して、中間製品粉末約59kgを調製した。この中間製品粉末50kgに、蔗糖(ホクレン社製)6.8kg、アミノ酸混合粉末(味の素社製)167g、及びα−ラクトアルブミン(ダビスコフーズ社製)1.2kgを添加し、均一に混合して、α−ラクトアルブミンを含有する経腸栄養食粉末約57kgを製造した。これはアルコール代謝を促進する作用を有するものであった。
【実施例3】
【0093】
脱脂粉乳(森永乳業社製)90gを50℃の温湯800mlに溶解し、砂糖(日新製糖社製)30g、インスタントコーヒー粉末(ネスレ社製)14g、カラメル(昭和化工社製)2g、及びコーヒーフレーバー(三栄化学社製)0.01gを攪拌しながら順次添加して溶解し、10℃に冷却し、α−ラクトアルブミン(ダビスコフーズ社製)10gを添加し、α−ラクトアルブミン約1%を含む乳飲料を調製した。これはアルコール代謝を促進する作用を有するものであった。
【実施例4】
【0094】
次の組成のスポーツ用ドリンクを常法により調製した。
α−ラクトアルブミン(ダビスコフーズ社製) 0.500(質量%)
砂糖(日新製糖社製) 2.000
果糖ぶどう糖液(日新製糖社製) 4.000
クエン酸(三栄源FFI社製) 0.100
塩化ナトリウム(関東化学社製) 0.040
ビタミンC(三栄源FFI社製) 0.015
塩化カリウム(関東化学社製) 0.040
水 93.305
これはアルコール代謝を促進する作用を有するものであった。
【実施例5】
【0095】
1回分の組成として次に示す各成分の配合量のスポーツ用粉末飲料を常法により調製した。
α−ラクトアルブミン加水分解物(上述したように製造したもの) 2.0(g)
サンスウィート(ステビア・ソーマチン混合物:三栄源FFI社製) 0.1
アスパルテーム(味の素社製) 0.06
クエン酸(三栄源FFI社製) 1.51
リンゴ酸(理研化学社製) 0.49
グルコン酸(藤沢薬品工業社製) 1.02
シトラスフレーバー(三栄源FFI社製) 0.3
グレープフルーツフレーバー(三栄源FFI社製) 0.5
大豆レシチン(太陽化学社製) 0.003
尚、前記スポーツ用粉末飲料を、水200mlに溶解し、α−ラクトアルブミン加水分解物をα−ラクトアルブミン換算で約1.0質量%を含むスポーツ飲料として調製したところ、該スポーツ飲料はアルコール代謝を促進する作用を有するものであった。
【実施例6】
【0096】
1回分の組成として次に示す各成分の配合量の競走馬用粉末飲料を常法により調製した。
α−ラクトアルブミン加水分解物(参考例と同様に製造したもの) 40.0(g)
乳糖(森永乳業社製) 6.0
クエン酸(三栄源FFI社製) 5.0
アスコルビン酸(三栄源FFI社製) 2.0
デキストリン(松谷化学社製) 8.0
尚、前記競走馬用粉末飲料は、α−ラクトアルブミン加水分解物の最終濃度がα−ラクトアルブミン換算で約2質量%となるように水道水2000mlに溶解し、競走馬用飲料として調製した。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1はα−LAの前投与によるアルデヒド脱水素酵素1a4遺伝子の発現変化を示す図である
【図2】図2はα−LAの前投与によるアルデヒド脱水素酵素2遺伝子の発現変化を示す図である
【図3】図3はα−LAの前投与によるラットの血中アルコール濃度の上昇抑制を示す図である
【図4】図4はα−LA摂取によるヒトの血中エタノール濃度の低下促進を示す図である

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する、アルコール代謝促進剤。
【請求項2】
α−ラクトアルブミンを有効成分として含有する、アルデヒド脱水素酵素発現促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−143861(P2008−143861A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334480(P2006−334480)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】