説明

アルコール含有わさび、わさび抽出液、及びわさび抽出物

【課題】採れたてのわさびの香りと辛味を長期間安定して保つことができるアルコール含有わさび、わさび抽出液、及びわさび抽出物を提供すること。
【解決手段】わさびにアルコールを含浸させてなるアルコール含有わさびである。アルコール含有わさびは、わさびと、アルコール又はアルコール水溶液とを接触させてわさび体内にアルコールを含浸させた後、温度5〜60℃で20分以上放置して得ることができる。また、わさび抽出液は、アルコール含有わさびを蒸留して得られる。また、わさび抽出物は、わさび抽出液をアルコール濃度が30wt%以下になるよう水で希釈して沈殿物を生じさせ、該沈殿物をろ過することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、わさびの採れたての香りと辛味を長期間安定して発揮できるアルコール含有わさび、わさび抽出液、及びわさび抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、本わさび等のわさびは、その特有の香りや辛味を生かして、おろして薬味にしたり、わさび漬けにしたりして、料理の香味料等として広く用いられている。ところが、わさびは、収穫後直ちにその鮮度が損なわれ始め、その香りや辛味が損なわれやすいという性質を有している。例えば冷蔵して保存しても一週問程度で鮮度が失われ、採れたてのわさびの香りや辛味が短期間で損なわれてしまう。
そこで、わさび特有の香りや辛味を長期間保持するために、わさびと添加物とを粉砕して得られるわさび加工品等が開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、わさびがその特有の香りや辛味を発現するためには、酵素反応を開始及び進行させる必要がある。即ち、辛みの素となる基質(シニグリン)とこれを辛味に変化させる酵素(ミロシナーゼ)とを反応させる。この基質と酵素はわさび内の別々の部位に存在する。そのため、わさび特有の香りや辛味を発現させる際には、通常はわさびをおろすことにより両者を混合接触させている。工業的には、上記のごとくわさびを機械的に粉砕することにより、上記基質と上記酵素との反応を開始及び進行させることができる。
【0004】
しかしながら、上記のごとくわさびは収穫直後からその鮮度が失われるため、従来のわさび加工品においては、わさびの香り及び辛味を最大限に発揮させるために、収穫されたわさびを直ちに加工処理し、さらにできるだけ細かくすることが必要であった。即ち、収穫から粉砕までの工程をできるだけ短時間で行う必要があり、このことがわさび加工品を工業的に生産する上での大きな障壁となっていた。また、上記従来のわさび加工品においては、わさびを粉砕してわさびを破壊する必要があるため、加工品の食材としての形態が制限されてしまうという問題があった。
【0005】
また、その他にも、わさびの加工品として、わさびの香りと辛味の主成分であるアリルイソチオシアネートの合成品や西洋わさび(ホースラディッシュ)の辛味抽出物が既に工業的に製造され市販されている。しかし、このような合成品や辛味抽出物は、本わさび(ワサビア・ジャポニカ)の香りと辛味には、ほど遠いものであった。
【0006】
【特許文献1】特開平3−67559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、採れたてのわさびの香り及び辛味を長期間安定して保つことができるアルコール含有わさび、わさび抽出液、及びわさび抽出物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、わさびにアルコールを含浸させてなることを特徴とするアルコール含有わさびにある(請求項1)。
【0009】
上記第1の発明のアルコール含有わさびは、上記のごとく、わさびにアルコールを含浸してなる。このようにアルコールを含浸させた上記アルコール含有わさびは、例えば室温で保存した場合においても、例えば10日以上という長期間に渡ってその鮮度を保持することができ、腐敗や異臭を発生することがない。また、上記アルコール含有わさびは、蓋付きの容器に入れ、冷蔵庫で保存すれば1ヶ月以上という長期にわたって香りや辛味を保持することができる。
【0010】
また、上記アルコール含有わさびは、おろしたり、粉砕したりしなくとも、わさび特有の香りと辛味を生じることができる。これは、上記アルコール含有わさび中のアルコールの作用により、わさびの辛味の素となる基質と酵素との反応が開始及び進行するためであると考えられる。また、上記アルコール含有わさびは、おろしたり、粉砕したりすることにより、より一層強い香り及び辛味を発現することができ、その香り及び辛味を長期間維持することができる。
【0011】
したがって、上記アルコール含有わさびは、例えばおろしわさび、わさび漬け等の既存の各種わさび加工品に加工するまでの間貯蔵することができ、貯蔵してもわさび特有の香り及び辛味を保持することができる。そのため、上記アルコール含有わさびを用いることにより、採れたての香り及び辛味を保持するわさび加工品を製造することができる。
また、上記アルコール含有わさびにおいては、既に辛味が発現しているため、加工時に辛味を発現する酵素が失活しても問題がない。そのため、上記アルコール含有わさびは、酢漬けや高温での仕込み等のように、製造時に酵素が失活し易い処理を必要とする加工品にも対応できる。
【0012】
また、上記のごとく、上記アルコール含有わさびは、機械的な粉砕等を行わなくても香り及び辛味を発現することができる。そのため、上記アルコール含有わさびは粉砕物以外にも様々な形態に加工して利用することができる。
【0013】
以上のごとく、上記第1の発明によれば、採れたてのわさびの香り及び辛味を長期間安定して保つことができるアルコール含有わさびを提供することができる。
【0014】
第2の発明は、上記第1の発明のアルコール含有わさびを蒸留して得られるわさび抽出液にある(請求項6)。
【0015】
上記第2の発明のわさび抽出液は、収穫した状態のわさびに比べて、香り成分や辛味成分を豊富に含有する上記第1の発明のアルコール含有わさびを蒸留してなる。さらに、上記アルコール含有わさびは、上記アルコールを含有しているため、上記蒸留の際には、上記アルコール含有わさび中に豊富に含まれる香り成分及び辛味成分がアルコールと共に容易に上記抽出液中に抽出される。
【0016】
したがって、上記わさび抽出液は、わさびの香り及び辛味の素となる香り成分や辛味成分を高濃度で含有する。そのため、上記わさび抽出液は、長期間安定して採れたてのわさびの香りと辛味を保つことができる。
【0017】
第3の発明は、上記第2の発明のわさび抽出液をアルコール濃度が30wt%以下になるよう水で希釈して沈殿物を生じさせ、該沈殿物を回収することにより得られるわさび抽出物にある(請求項7)。
【0018】
上記のごとく、上記第2の発明のわさび抽出液は、わさびの香り成分及び辛味成分を高濃度で含有する。この香り成分及び辛味成分は、上記のごとく上記わさび抽出液水で希釈して上記抽出液のアルコール濃度を30wt%以下にすると、上記沈殿物として沈殿する。
したがって、該沈殿物を例えばろ過等によって回収することにより得られる上記抽出物は、わさびの香り成分及び辛味成分を豊富に含有する。そのため、上記抽出物は、長期間安定して採れたてのわさびの香りと辛味を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
本発明において、上記アルコール含有わさびは、わさびにアルコールを含浸させてなる。上記アルコール含有わさびは、例えばわさびとアルコール又はアルコール水溶液を接触させることにより簡単に製造することができる。
上記アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール等の親水性の低級一級アルコールを用いることができる。
【0020】
好ましくは、上記アルコールはエタノールであることがよい(請求項2)。
この場合には、食品添加物として認められたエタノールの高い安全性を生かして、上記アルコール含有わさび及び該アルコール含有わさびを用いて製造される加工食品の安全性を向上させることができる。
【0021】
また、上記わさびは、ワサビア・ジャポニカ(Wasabia
Japonica)に属するわさびであって、その全組織体、又は花、葉、茎、根茎、及び根から選ばれる1種以上の部位に分割された組織体であることが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記アルコール含有わさびは、ワサビア・ジャポニカ特有の優れた清涼感ある香り及び辛味を長期間安定して発揮することができる。
【0022】
また、上記アルコール又はアルコール水溶液と上記わさびとの接触は、スプレー、浸漬、混合撹拝等によって行うことができる。
接触の際のアルコール濃度及びアルコール使用量は、わさびに含有させるアルコール量から計算により適宜選択することができる。わさびとアルコール及びアルコール水溶液との接触は例えば1〜60分間行うことができる。この接触時問内で、アルコールがわさび体内に移行し、わさび中にアルコールを50wt%以上含浸させることができる。60分間以上接触させてもアルコールはわさびの体内に留まっている。
【0023】
好ましくは、上記アルコール含有わさび中のアルコール含有量は30wt%以下がよい。アルコール含有量が30wt%を越える場合には、採れたてのわさびの香り及び辛味が低減するおそれがある。
【0024】
より好ましくは、上記アルコール含有わさびは、上記アルコールを1〜25wt%含有することがよい(請求項4)。
この場合には、上記アルコール含有わさびは、採れたてのわさびの香り及び辛味をより強く発揮することができる。
【0025】
また、含浸時に、わさびに含浸されるアルコール量を精密にコントロールする場合には、例えば酒精計を用いることができる。即ち、酒精計を用いて外液のアルコール量を測定することにより、わさびに取り込まれたアルコール量を求めることができる。これにより上記わさびと上記アルコールとの接触時間の終点を決めることができる。
【0026】
また、上記アルコールをわさびに含浸させる際の温度は、0℃〜65℃が好ましい。温度0℃未満の場合には、わさびにアルコールを充分に含浸させるまでの時間が過剰に長くなり、その結果製造コストが増大してしまうおそれがある。一方、65℃を越える場合には、アルコールの蒸発量が増加し、作業環境が悪化するおそれがある。より好ましくは0℃〜30℃がよい。
【0027】
また、上記アルコール含有わさびは、上記わさびと、上記アルコール又はアルコール水溶液とを接触させてわさび体内にアルコールを含浸させた後、温度5〜60℃で20分以上放置して得ることが好ましい(請求項5)。
この場合には、放置時に、上記アルコール含有わさび内で酵素反応を進行させることができるため、上記アルコール含有わさびの香りと辛味をより一層高めることができる。
【0028】
含浸後の放置温度が5℃未満の場合又は放置時間が20分未満の場合には、上記アルコール含有わさびの香り及び辛味を充分に向上させることができなくなるおそれがある。一方、60℃を越える場合には、酵素の失活が起こり、香り及び辛味の発現量が低下するおそれがある。
また、香りと辛味の発現量は温度と放置時間で制御される。5℃で放置した場合には、香りと辛味の発現量は約20時間で最高に達する。また、22℃では約2時聞、60℃では約20分で発現量は最高に達する。
【0029】
また、上記アルコール含有わさびを蒸留すると、蒸留液として、わさびの香りと辛味を有するわさび抽出液が得られる。
蒸留は、例えば蒸留釜に仕込まれた上記アルコール含有わさびに一定量の水を添加し、蒸気温度を93℃以上に設定して行うことができる。わさびの仕込み量、水の添加量は製造するわさび抽出液の組成を考慮して決定することができる。具体的には、例えばアルコール含有わさび10kgに対して水を1L〜10L添加して蒸留を行うことができる。
【0030】
上記わさび抽出液は例えばコンデンサー等で冷却され液体として回収することができる。また、上記わさび抽出液は、例えばアルコール含有量が85wt%以下でかつ水の含有量が10wt%以上の抽出液として得ることができる。わさびの香りと辛味の質は蒸留で得る溜分を分割して採取することで調節することができる。また、辛味の量は蒸留釜に仕込む上記アルコール含有わさびの量、該アルコール含有わさび中のアルコール含有量、採取する蒸留液の量等によって自由に調節することができる。
また、上記わさび抽出液は、香り及び辛味が均一な液体として得られるため、例えばわさびドレッシング等のわさび製品に添加して利用できる。
【0031】
また、上記わさび抽出液を緩やかに撹拝しながら水で希釈し、30wt%以下のアルコール溶液とすれば、わさびの抽出成分を沈殿させることができる。沈殿物をろ過するとアルコールと水が除去された上記わさび抽出物を得ることができる。
上記わさび抽出物は、食品のみならず抗菌シート等の化成品等にも利用できる。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
次に、本発明の実施例につき、説明する。
本例においては、わさびにアルコールを含浸させてなるアルコール含有わさびを作製する。
まず、ワサビア・ジャポニカ(Wasabia Japonica)に属するわさび(本わさび)の花、葉、茎、根茎、根を準備した。これら花、葉、茎、根茎、根の各部位をそれぞれ100gずつ秤量し、蓋付きの1L容器に入れ、95%エタノールを30ml添加して、温度22℃で1分間攪拌混合した。それを同温度で30分間放置した後、固液分離し、花、葉、茎、根茎、又は根からなる5種類のアルコール含有わさびを得た。
【0033】
次いで、上記のようにして作製した各アルコール含有わさびについて、アルコール(エタノール)の含有量を調べた。
具体的には、まず、各アルコール含有わさびの全量に水300mlを加えて蒸留し、100mlの蒸留液を得た。次いで、各蒸留液について、酒精計によりエタノール濃度を測定し、アルコール含有わさび中のエタノールの含有量を算出した。その結果を表1に示す。
また、比較用として、アルコールを含浸させる前の生わさびの花、葉、茎、根茎、根についても、同様にしてアルコール含有量を測定した。その結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1より知られるごとく、生わさび中には、エタノールは検出されなかったが、本発明の実施例にかかるアルコール含有わさび中には、エタノールが含浸されていることがわかる。
【0036】
(実施例2)
本例は、実施例1よりもスケールアップを行ってアルコール含有わさびを作製する例である。
まず、本わさびの根1kgを蓋付き容器に取り、これに濃度40wt%のエタノール水溶液2Lを加えて30分間浸漬した。浸漬後、固液分離し、1kgのアルコール含有わさび(根)を得た。
【0037】
次いで、上記のようにして得られたアルコール含有わさび100gに水300mlを加えて蒸留し、100mlの蒸留液を得た。その後、この蒸留液について、実施例1と同様にして、酒精計によりアルコール(エタノール)濃度を測定し、本例のアルコール含有わさび中に含まれるエタノールの含有量を算出した。その結果、本例のアルコール含有わさびは、エタノールを16wt%含有していた。
【0038】
このように、本例によれば、1kgという大スケールのわさびを用いても、わさびをアルコール中に浸漬させることにより、簡単にわさびにアルコールを含浸させ、アルコール含有わさびを作製できることがわかる。
【0039】
(実施例3)
本例は、アルコールをわさびに含浸させる際の温度及び時間と、含浸後に得られるアルコール含有わさび中のアルコール量との関係を調べた例である。
【0040】
具体的には、まず、本わさびの茎100gを蓋付きの1Lの容器に入れ、5℃、22℃及び60℃という3種類の温度条件下でエタノールを10ml添加した。添加後、1分間攪拌混合し、さらに30分、60分、及び24時間静置した。このようにして、製造条件の異なる複数のアルコール含有わさびを作製した。
次いで、これらのアルコール含有わさび中のアルコール(エタノール)含有量を実施例1と同様にして調べた。その結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
(実施例4)
本例は、アルコール含有わさびを用いてわさび漬けを作製する例である。
まず、実施例1と同様にして、本わさびの根茎にエタノールを含浸させて、アルコール含有わさび(根茎)を作製した。
【0043】
次いで、このアルコール含有わさび500gを薄い輪切りにし、砂糖50gと塩を少々添加し、酒粕300gに2日間漬け込んだ。このようにしてわさび漬けを作製し、その香りと辛味を食することによって評価した。
また、比較用として、アルコールを含浸させる前の生わさび根茎を用いて、同様にしてわさび漬けを作製し、その香りと辛味を食することによって評価した。
【0044】
その結果、アルコール含有わさびを用いて作製したわさび漬けは、口に含むだけでわさびの香りと辛味とが感じられた。一方、生わさびを用いて作製したわさび漬けは、ロに含んだだけではわさびの香り及び辛味は感じられず、咀噛して初めてわさびの香りと辛味が感じられた。
【0045】
(実施例5)
本例においては、アルコール含有わさびについて、その香り及び辛味の長期安定性を調べた。
まず、実施例1と同様にして、本わさびの根茎にエタノールを含浸させて、アルコール含有わさび(根茎)を作製した。
【0046】
次いで、このアルコール含有わさび200gをおろし金ですりおろしておろしわさびを作製し、すりおろし直後の香り及び辛味を評価した。また、すりおろしわさびを蓋付き容器中に密閉し、温度22℃で24時間保管した後の香り及び辛味を評価した。その結果を表3に示す。
【0047】
また、比較用として、アルコールを含浸させる前の生わさび根茎200gを用いて、同様にしてすりおろしわさびを作製し、すりおろし直後及び温度22℃での24時間密閉保管後の香り及び辛味を評価した。その結果を表3に示す。
【0048】
なお、香り及び辛味の評価は、次のようにして行った。
即ち、まず、すりおろしわさび100gに水100mlを加えて蒸留し、100mlの蒸留液を採取した。次いで、この蒸留液を必要に応じて水で希釈し、その香り及び辛味の有無を口に含むことにより判定した(官能試験)。
【0049】
【表3】

【0050】
表3より知られるごとく、アルコール含有わさびについては、おろした直後には、水で60倍に希釈しても香り及び辛味を感じることができた。また、おろして24時間経過後においても、水で50倍に希釈しても香り及び辛味を感じることができた。
これに対し、生わさびについては、おろした直後には、20倍希釈ではわさびの香り及び辛味を感じることができたが、60倍希釈では香りも辛味も感じることができなかった。また、24時間後には、おろしわさびの原液から異臭が生じており、弱い辛味しか感じることができなかった。
したがって、本例によれば、アルコール含有わさびは、生わさびに比べて強い香り及び辛味を示すことができる共に、香り及び辛味の長期安定性に優れていることがわかる。
【0051】
(実施例6)
本例は、アルコール含有わさびの辛味成分量を測定する例である。
まず、実施例1と同様にして、5種類のアルコール含有わさび(花、葉、茎、根茎、及び根)を作製した。具体的には、本わさびの花、葉、茎、根茎、及び根に、95%エタノールを30ml添加して、温度22℃で1分間攪拌混合し、それを同温度で30分間放置した後、固液分離することによって作製した。
【0052】
次いで、上記のようにして作製した各アルコール含有わさびの全量に、水300mlを加えて蒸留し、100mlの蒸留液を得た。次に、この蒸留液について、アリルイソチオシアネートを標準物質として260nmの吸光度を測定し、辛味成分の生成量を算出した。また、実施例1と同様にして、酒精計を用いてアルコール含有わさび中のアルコール含有量を測定した。その結果を表4に示す。
【0053】
また、比較用として、アルコールを含浸させる前の生わさびの花、葉、茎、根茎、及び根についても、同様にして辛味成分の生成量及びアルコール含有量を測定した。その結果を表4に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
表4より知られるごとく、本例のアルコール含有わさび中にはエタノールが検出され、アルコール含有わさびはアルコール(エタノール)を含有していることがわかる。これに対し、生わさびは、花、葉、茎、根茎、根のいずれの部位においてもエタノールは検出されなかった。
また、アルコール含有わさびにおいては、辛味成分が検出された。特に根茎及び根からなるアルコール含有わさびは、100gあたりに0.25g以上という高濃度の辛味成分を含有していた。これに対し、生わさびにおいては、このような辛味成分は検出されなかった。
【0056】
(実施例7)
本例は、アルコール含有わさびを低温(5℃)で長期間保存したときの辛味成分量を評価した例である。
具体的には、まず、本わさびの花、葉、茎、根茎、及び根に、95%エタノールを30ml添加して、温度5℃で1分間攪拌混合した。それを同温度で30時間放置した後、固液分離し、花、葉、茎、根茎、又は根からなる5種類のアルコール含有わさびを得た。
【0057】
次いで、上記のようにして作製した5種類の各アルコール含有わさびをそれぞれ蓋付き容器に入れ、密閉状態で、温度5℃で10日間放置した。
その後、各アルコール含有わさびの全量に、水300mlを加えて蒸留し、100mlの蒸留液を得た。そして、この蒸留液について、実施例6と同様に、アリルイソチオシアネートを標準物質として260nmの吸光度を測定し、辛味成分の生成量を算出した。また、実施例1と同様にして、酒精計を用いてアルコール含有わさび中のアルコール含有量を測定した。その結果を表5に示す。
【0058】
また、比較用として、アルコールを含浸させる前の生わさびの花、葉、茎、根茎、根についても、同様にして温度5℃で10日間放置し、その後、辛味成分の生成量及びアルコール含有量を測定した。その結果を表5に示す。
【0059】
【表5】

【0060】
表5より知られるごとく、本例のアルコール含有わさびにおいては、10日間という長期間保管した場合においてもアルコール(エタノール)を含有しており、また、辛味成分が検出された。これに対し、生わさびにおいては、アルコールを含有しておらず、辛味成分も検出されなかった。
【0061】
(実施例8)
本例は、アルコール含有わさびを高温(60℃)で保存したときの辛味成分量を評価した例である。
具体的には、まず、本わさびの花、葉、茎、根茎、及び根に、95%エタノールを30ml添加して、温度60℃で1分間攪拌混合した。それを同温度で30時間放置した後、固液分離し、花、葉、茎、根茎、又は根からなる5種類のアルコール含有わさびを得た。
【0062】
次いで、上記のようにして作製した5種類の各アルコール含有わさびをそれぞれ蓋付き容器に入れ、密閉状態で、温度60℃で60分間放置した。
次に、各アルコール含有わさびの全量に、水300mlを加えて蒸留し、100mlの蒸留液を得た。そして、この蒸留液について、アリルイソチオシアネートを標準物質として260nmの吸光度を測定し、辛味成分の生成量を算出した。また、実施例1と同様にして、酒精計を用いてアルコール含有わさび中のアルコール含有量を測定した。その結果を表6に示す。
【0063】
また、比較用として、アルコールを含浸させる前の生わさびの花、葉、茎、根茎、根についても、同様にして温度60℃で60分間放置した後、辛味成分の生成量及びアルコール含有量を測定した。その結果を表6に示す。
【0064】
【表6】

【0065】
表6より知られるごとく、本例のアルコール含有わさびにおいては、60℃という高温で保存した場合においてもアルコール(エタノール)を含有しており、また、辛味成分が検出された。これに対し、同条件で保存した生わさびにおいては、辛味成分は検出されなかった。
【0066】
(実施例9)
本例は、アルコール含有わさびを蒸留してわさび抽出液を作製する例である。
具体的には、まず、生わさびの根茎10kgを蓋付き容器に入れ、これに95%エタノールを2L加えて、温度22℃で3分間攪拌混合した。それを同温度で30分間放置した後、固液分離し、アルコール含有わさび(根茎)を得た。
【0067】
次いで、得られたアルコール含有わさびを温度22℃で3日間放置し、香りと辛味とを発現させた。その後、アルコール含有わさびを20L容蒸留釜に入れ、水2Lを添加し蒸留し、蒸留液(わさび抽出液)1Lを得た。このわさび抽出液は、無色透明な液体であった。
【0068】
次に、上記のようにして得られたわさび抽出液について、実施例1と同様の方法によりエタノール含有量を測定し、また実施例6と同様の方法により辛味成分含有量を測定した。
その結果、本例のわさび抽出液は、エタノール85wt%、辛味成分5wt%、水10wt%からなることがわかった。
【0069】
(実施例10)
本例は、アルコール含有わさびからわさび抽出液を作製し、さらに該わさび抽出液からわさび抽出物を作製する例である。
具体的には、まず、実施例9と同様にして、アルコール含有わさび(根茎)10kgを作製した。
【0070】
次いで、得られたアルコール含有わさびを温度22℃で2日間放置し、香りと辛味とを発現させた。その後、実施例9と同様に、アルコール含有わさびを20L容蒸留釜に入れ、水2Lを添加し蒸留し、蒸留液(わさび抽出液)1Lを得た。このわさび抽出液は、無色透明な液体であった。
【0071】
次に、上記のようにして得られたわさび抽出液について、実施例1と同様の方法によりエタノール含有量を測定し、また実施例6と同様の方法により辛味成分含有量を測定した。
その結果、本例のわさび抽出液は、エタノール71wt%、辛味成分15wt%、水14wt%からなることがわかった。
【0072】
次いで、上記抽出液1Lに水を加え、抽出液中のエタノールの濃度を30wt%に調整した。これを室温で緩やかに攪拌し、沈殿物を生成させた。30分後、ろ紙を用いてろ過を行い、ろ紙上の沈殿物(わさび抽出物)105gを回収した。
【0073】
次に、上記のようにして得られたわさび抽出物2gを100mlの95%エタノールに加えて溶解させた。この溶液について、実施例6と同様にして、アリルイソチオシアネートを標準物質として辛味成分の含有量を測定した。
その結果、本例の抽出物は、辛味成分を80wt%含有することがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
わさびにアルコールを含浸させてなることを特徴とするアルコール含有わさび。
【請求項2】
請求項1において、上記アルコールはエタノールであることを特徴とするアルコール含有わさび。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記わさびは、ワサビア・ジャポニカに属するわさびであって、その全組織体、又は花、葉、茎、根茎、及び根から選ばれる1種以上の部位に分割された組織体であることを特徴とするアルコール含有わさび。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記アルコール含有わさびは、上記アルコールを1〜25wt%含有することを特徴とするアルコール含有わさび。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記アルコール含有わさびは、上記わさびと、上記アルコール又はアルコール水溶液とを接触させてわさび体内にアルコールを含浸させた後、温度5〜60℃で20分以上放置して得られることを特徴とするアルコール含有わさび。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のアルコール含有わさびを蒸留して得られるわさび抽出液。
【請求項7】
請求項6に記載のわさび抽出液をアルコール濃度が30wt%以下になるよう水で希釈して沈殿物を生じさせ、該沈殿物を回収することにより得られるわさび抽出物。